説明

カルバミン酸エステル化合物

【課題】カルバミン酸エステル化合物の熱分解によってイソシアネート化合物が製造される際、上述の諸問題を解決可能なカルバミン酸エステル化合物、および該カルバミン酸エステル化合物を使用したイソシアネート化合物の製造方法を提供する。
【解決手段】下記式(1)で表されるカルバミン酸エステル化合物、および該カルバミン酸エステル化合物の熱分解によるイソシアネート化合物の製造方法:


(式中: R1は直鎖状または分岐状の炭素数1〜12のアルキル基を表し、Q1及びQ2は、置換基を有する芳香族基を含むエーテル基であって、該基に各々水素原子が付加した構造を有する芳香族ヒドロキシ化合物の標準沸点が250℃以上である。)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なカルバミン酸エステル化合物、および該カルバミン酸エステル化合物を用いたイソシアネート化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
イソシアネート化合物は、ポリウレタンフォーム、塗料、接着剤等の製造原料として有用であり、その主な工業的製造法はアミン類とホスゲンとの反応である(ホスゲン法)。しかしながら、当該製造法は極めて毒性の強いホスゲンを使用し、かつ腐食性の高い塩化水素を大量に副生する上、ホスゲン法により製造されたイソシアネート化合物には多くの場合加水分解性塩素が含有されることから、該イソシアネート化合物を使用したポリウレタン製品の耐候性、耐熱性に悪影響を及ぼすことが多いという問題があった。このような背景から、近年、ホスゲンを使用しないイソシアネート化合物の製造方法の一つとして、カルバミン酸エステル化合物の熱分解による方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
カルバミン酸エステル化合物の熱分解によってイソシアネートとヒドロキシル化合物が得られることは古くから知られている(例えば、非特許文献1参照)。しかしながら、カルバミン酸エステルの熱分解反応は可逆的であり、その平衡は、高温ではイソシアネートとヒドロキシル化合物側が有利であるが、低温ではカルバミン酸エステル側に偏っている。したがって、カルバミン酸エステル化合物の熱分解によるイソシアネートの製造方法においては、生成したイソシアネートとヒドロキシル成分の逆反応によりカルバミン酸エステルを生成するため、イソシアネートの収率や選択率が低下するのみならず、ポリマー状固形物の析出により反応器が閉塞するなど長期操業が困難となる場合があった。
【特許文献1】特許第3382289号公報
【非特許文献1】Berchte der Deutechen Chemischen Gesellschaft,第3巻,653頁,1870年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、カルバミン酸エステル化合物の熱分解によってイソシアネート化合物が製造される際、上述の諸問題を解決可能なカルバミン酸エステル化合物、および該カルバミン酸エステル化合物を使用したイソシアネート化合物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は上記課題に対し鋭意検討を重ねた結果、特定の構造を有するカルバミン酸エステル化合物によって解決できることを見出し、本発明を完成させた。
【0006】
すなわち、本発明の第一の態様では、
[1] 下記式(1)で示されるカルバミン酸エステル化合物:
【化3】

(式中:
1は直鎖状または分岐状の炭素数1〜12のアルキル基を表し、Q1及びQ2は、
【化4】

式(2)、(3)で示される置換基を有する芳香族基を含む基であって、該基を構成するAr1−O−及びAr2−O−に各々水素原子が付加した構造を有する芳香族ヒドロキシ化合物Ar1OH及びAr2OHの標準沸点が250℃以上である。)、
[2] Q1及びQ2を構成するAr1−O−及びAr2−O−に各々水素原子が付加した構造を有する芳香族ヒドロキシ化合物Ar1OH及びAr2OHが、1価の芳香族ヒドロキシ化合物であることを特徴とする[1]記載のカルバミン酸エステル化合物、
[3] 一般式(1)におけるR1が、直鎖状の炭素数6のアルキル基であることを特徴とする[1]又は[2]に記載のカルバミン酸エステル化合物、
を提供する。
【0007】
また、本発明の第二の態様では、
[4] 一般式(1)のカルバミン酸エステル化合物の熱分解を行うことを特徴とするイソシアネート化合物の製造方法、
を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、カルバミン酸エステル化合物の熱分解によってイソシアネート化合物が製造される際、イソシアネート化合物の収率を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下の実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明をこの実施形態にのみ限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨を逸脱しない限り、さまざまな形態で実施することができる。
【0010】
本発明のカルバミン酸エステル化合物は下記式(1)で表されるカルバミン酸エステルである。
【化5】

(式中:
1は直鎖状または分岐状の炭素数1〜12のアルキル基を表し、Q1及びQ2は、
【化6】

式(2)、(3)で示される置換基を有する芳香族基を含む基であって、該基を構成するAr1−O−及びAr2−O−に各々水素原子が付加した構造を有する芳香族ヒドロキシ化合物Ar1OH及びAr2OHの標準沸点が250℃以上である。)
【0011】
上記式(1)におけるQ1及びQ2としては、Q1及びQ2を構成するAr1−O−及びAr2−O−に各々水素原子が付加した構造を有する芳香族ヒドロキシ化合物Ar1OH及びAr2OHが1価の芳香族ヒドロキシ化合物ものが好適である。そのようなAr1OH及びAr2OHとしては、例えば、オクチルフェノール(各異性体)、ノニルフェノール(各異性体)、デシルフェノール(各異性体)、ウンデシルフェノール(各異性体)、ドデシルフェノール(各異性体)、ジブチルフェノール(各異性体)、ジペンチルフェノール(各異性体)、ジヘキシルフェノール(各異性体)、ジヘプチルフェノール(各異性体)、ジオクチルフェノール(各異性体)、ジブチルメチルフェノール(各異性体)、ジメチルメトキシフェノール(各異性体)、ナフトール(各異性体)、フェニルフェノール(各異性体)、フェノキシフェノール(各異性体)等を挙げることができる。
【0012】
本発明のカルバミン酸エステル化合物の製造方法は、特に限定されないが、好ましい例としては、下記式(4)で表されるカルバミン酸エステル化合物Aを、上述のAr1OH及び/またはAr2OHを含有する化合物中で加熱することにより製造する方法を挙げることできる。以下、該方法について説明する。
【化7】

(式中:
2、R3は、各々独立に、直鎖状又は分岐状の炭素数1〜16のアルキル基、炭素数5〜12のシクロアルキル基、直鎖状又は分岐状の炭素数2〜12のアルケニル基、無置換若しくは置換された炭素数6〜19のアリールと、直鎖状又は分岐状の炭素数2〜14のアルキル基及び炭素数5〜14のシクロアルキル基からなる群から選ばれるアルキルとからなる炭素数7〜20のアラルキル基、又は無置換若しくは置換された炭素数6〜20のアリール基を示す。)
【0013】
上記式(4)で表されるカルバミン酸エステル化合物Aの例としては、N,N’−ヘキサンジイル−ビス−カルバミン酸ジメチルエステル、N,N’−ヘキサンジイル−ビス−カルバミン酸ジメチルエステル、N,N’−ヘキサンジイル−ビス−カルバミン酸ジメチルエステル、N,N’−ヘキサンジイル−ビス−カルバミン酸ジエチルエステル、N,N’−ヘキサンジイル−ビス−カルバミン酸ジプロピルエステル(各異性体)、N,N’−ヘキサンジイル−ビス−カルバミン酸ジブチルエステル(各異性体)、N,N’−ヘキサンジイル−ビス−カルバミン酸ジペンチルエステル(各異性体)、N,N’−ヘキサンジイル−ビス−カルバミン酸ジヘキシルエステル(各異性体)、N,N’−ヘキサンジイル−ビス−カルバミン酸ジヘプチルエステル(各異性体)、N,N’−ヘキサンジイル−ビス−カルバミン酸ジオクチルエステル(各異性体)、N,N’−ヘキサンジイル−ビス−カルバミン酸ジノニルエステル(各異性体)、N,N’−ヘキサンジイル−ビス−カルバミン酸ジデシルエステル(各異性体)、N,N’−ヘキサンジイル−ビス−カルバミン酸ジウンデシルエステル(各異性体)、N,N’−ヘキサンジイル−ビス−カルバミン酸ジドデシルエステル(各異性体)、N,N’−ヘキサンジイル−ビス−カルバミン酸ジシクロペンチルエステル、N,N’−ヘキサンジイル−ビス−カルバミン酸ジシクロヘキシルエステル、N,N’−ヘキサンジイル−ビス−カルバミン酸ジシクロオクチルエステル、N,N’−ヘキサンジイル−ビス−カルバミン酸ジシクロヘプチルエステルなどが挙げられる。
【0014】
上記式(4)で表されるカルバミン酸エステル化合物Aを、上述のAr1OH及び/又はAr2OHを含有する化合物中で加熱することにより製造する方法において、上記式(4)で表されるカルバミン酸エステル化合物Aに対する上述のAr1OH及び/又はAr2OHを含有する化合物中の使用量は、化学量論比で1〜500倍が好ましく、2〜100倍がより好ましく、3〜50倍が更に好ましい。また、該反応の実施される温度は、100℃〜250℃が好ましく、150℃〜230℃が更に好ましい。
【0015】
該反応においては、反応を促進するために公知の触媒を用いることができる。該触媒は上記式(4)で表されるカルバミン酸エステル化合物Aの重量に対して0.01〜30重量%、好ましくは0.5〜20重量%で使用される、該触媒としては、例えば、ジラウリン酸ジブチルスズ、オクチル酸鉛、スタナスオクトエートなどの有機金属触媒、1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン、トリエチレンジアミン、トリエチルアミンなどのアミン類が使用に適し、中でも、ジラウリン酸ジブチルスズ、オクチル酸鉛、スタナオクトエートなどの有機金属触媒が好適である。これらの化合物は単独でも二種類以上の混合物として使用してもよい。
【0016】
本発明のカルバミン酸エステル化合物は、該カルバミン酸エステル化合物の熱分解によるイソシアネート化合物の製造に好適な化合物であるが、その実施方法について説明する。本発明のカルバミン酸エステル化合物の熱分解反応が実施される温度は100℃〜350℃が好ましく、150℃〜300℃がより好ましい。350℃を超える高温では副反応によりイソシアネートの収率が低下する場合が見られる。反応は大気圧下でも減圧下でも行われるが、熱分解により生成するイソシアネートを速やかに回収する観点から減圧下で実施されることが好ましい。熱分解反応を促進するための触媒は特に必要としないが、触媒を使用することもできる。触媒を使用する場合の好適な使用条件はカルバミン酸エステル化合物の重量に対して0.01〜30重量%、好ましくは0.5〜20重量%で使用される。触媒としては、例えば、ジラウリン酸ジブチルスズ、オクチル酸鉛、スタナスオクトエートなどの有機金属触媒、1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン、トリエチレンジアミン、トリエチルアミンなどのアミン類が使用に適し、中でも、ジラウリン酸ジブチルスズ、オクチル酸鉛、スタナオクトエートなどの有機金属触媒が好適である。これらの化合物は単独でも二種類以上の混合物として使用してもよい。
【0017】
また、熱分解反応に際し溶媒を使用する必要はないが、反応操作を容易にする等の目的で溶媒を使用することもできる。好ましい溶媒としては、例えば、ヘキサン(各異性体)、ヘプタン(各異性体)、オクタン(各異性体)、ノナン(各異性体)、デカン(各異性体)などのアルカン類、ベンゼン、トルエン、キシレン(各異性体)、エチルベンゼン、ジイソプロピルベンゼン(各異性体)、ジブチルベンゼン(各異性体)、ナフタレン等の芳香族炭化水素及びアルキル置換芳香族炭化水素類、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン(各異性体)、ブロモベンゼン、ジブロモベンゼン(各異性体)、クロロナフタレン、ブロモナフタレン、ニトロベンゼン、ニトロナフタレン等のハロゲン若しくはニトロ基によって置換された芳香族化合物類、ジフェニル、置換ジフェニル、ジフェニルメタン、ターフェニル、アントラセン、ジベンジルトルエン(各異性体)等の多環炭化水素化合物類、シクロヘキサン、シクロペンタン、シクロオクタン、エチルシクロヘキサン等の脂肪族炭化水素類、メチルエチルケトン、アセトフェノン等のケトン類、ジブチルフタレート、ジヘキシルフタレート、ジオクチルフタレート、ベンジルブチルフタレート等のエステル類、ジフェニルエーテル、ジフェニルスルフィド等のエーテル及びチオエーテル類、ジメチルスルホキシド、ジフェニルスルホキシド等のスルホキシド類、シリコーン油などが挙げられる。これらの溶媒は単独でも2種類以上の混合物として使用することもできる。
【0018】
本発明のカルバミン酸エステル化合物の熱分解反応が実施される反応容器は、特に制限がなく、公知の反応器が使用できる。例えば攪拌槽、加圧式攪拌槽、減圧式攪拌槽、塔型反応器、蒸留塔、充填塔、薄膜蒸留器など、従来公知の反応器を適宜組み合わせて使用できる。反応器の材質にも特に制限はなく、公知の材質が使用できる。例えばガラス製、ステンレス製、炭素鋼製、ハステロイ製や、基材にグラスライニングを施したものや、テフロン(登録商標)コーティングをおこなったものも使用できる。
【0019】
実施例
以下、本発明を実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0020】
<分析方法>
1)NMR分析方法
装置:日本電子(株)社製JNM−A400 FT−NMRシステム
1H及び13C−NMR分析サンプルの調製:
サンプル溶液を0.3g秤量し、重クロロホルム(アルドリッチ社製、99.8%)約0.7gを加えて均一に混合した溶液をNMR分析サンプルとする。
【0021】
[参考例1]
N,N’−ヘキサンジイル−ビス−カルバミン酸ジエチルエステルの製造
内容積5000mLの4つ口フラスコに炭酸ジエチル(アルドリッチ社製)1888g(16mol)及び攪拌子を入れ、ジムロート冷却器、三方コック及びジャケット付滴下ロートを2個取り付けた。片方の滴下ロートにヘキサメチレンジアミン(アルドリッチ社製)228g(2mol)を入れ、滴下ロートのジャケットに約60℃に加熱した温水を流通させ滴下ロートを加熱した。もう片方の滴下ロートにはナトリウムメトキシド(和光純薬工業社製、28%メタノール溶液)38.6gを入れ、該滴下ロートは加熱しなかった。系内を窒素置換した後、4つ口フラスコを70℃に加熱したオイルバス(増田理化工業社製、OBH−24)に浸漬し、約5時間掛けてヘキサメチレンジアミン及びナトリウムメトキシドを滴下した。滴下終了後さらに2時間加熱を行った。得られた溶液を水で洗浄し、温度調節器のついたオイルバス(増田理科工業社製、OBH−24)と真空ポンプ(ULVAC社製、G−50A)と真空コントローラー(岡野製作所社製、VC−10S)を接続したロータリーエバポレーター(柴田科学社製、R−144)に取り付け、オイルバス温度を80℃として5kPaで蒸留を行った。得られた固体をヘキサンで洗浄し、426gの白色固体を得た。1H及び13C−NMR分析の結果、得られた固体はN,N’−ヘキサンジイル−ビス−カルバミン酸ジエチルエステルであった。
【0022】
[実施例1]
N,N’−ヘキサンジイル−ビス−カルバミン酸ジ(ノニルフェニル)エステルの製造
容積1000mLのナス型フラスコに参考例1で得られたN,N’−ヘキサンジイル−ビス−カルバミン酸ジエチルエステル28.6g(0.11モル)とノニルフェノール(ワコーケミカル社製、異性体混合物)397g(1.8モル)とジラウリン酸ジブチルスズ(和光純薬工業社製、化学用)3.5g(5.5ミリモル)を入れ、三方コック、ヘリパックNo.3を充填した蒸留カラム及び留出液受器と連結した還流冷却器付分留頭および温度計を取り付け、系内を窒素置換した。該フラスコを240℃に加熱したオイルバスに浸漬し、大気圧窒素下で加熱を行った。約70分間加熱を行ったところ、留出液が6.2g回収された。1H及び13C−NMR分析の結果、留出物はエタノールであった。オイルバスの温度を130℃に下げ、真空ポンプ及び真空コントローラーを取り付け1Torrで過剰のノニルフェノールを減圧留去した。該フラスコには65gの固体が得られ、1H及び13C−NMR分析の結果、N,N’−ヘキサンジイル−ビス−カルバミン酸ジ(ノニルフェニル)エステルであった。
【0023】
[実施例2]
N,N’−ヘキサンジイル−ビス−カルバミン酸ジ(ノニルフェニル)エステルの熱分解によるヘキサメチレンジイソシアネートの製造
オイル循環によるジャケット式の加熱部を有する分子蒸留装置(柴田科学社製、MS−300型)に真空ポンプ及び真空コントローラーを取り付け、真空コントローラーのパージラインを窒素ガスラインに接続した。分子蒸留装置内を窒素置換し、加熱部を200℃に加熱した。実施例1で製造されたN,N’−ヘキサンジイル−ビス−カルバミン酸ジ(ノニルフェニル)エステル62.0g(0.10モル)をフタル酸ベンジルブチル(和光純薬工業社製、一級)250gと混合した。分子蒸留装置内を1.3kPaに減圧し、分子蒸留装置のワイパーを約300回転/分で回転させながら、該スラリー液を分子蒸留装置内に約5g/分の速度で投入し、N,N’−ヘキサンジイル−ビス−カルバミン酸ジ(ノニルフェニル)エステルの熱分解を行った。試料受器に熱分解生成物が16.4g得られ、低沸点用トラップには何も回収されなかった。1H及び13C−NMR分析の結果、試料受器に回収されたものはヘキサメチレンジイソシアネートであった。N,N’−ヘキサンジイル−ビス−カルバミン酸ジエチルエステルに対する収率は88%であった。
【0024】
[比較例1]
N,N’−ヘキサンジイル−ビス−カルバミン酸ジエチルエステルの熱分解によるヘキサメチレンジイソシアネートの製造
N,N’−ヘキサンジイル−ビス−カルバミン酸ジエチルエステル30g(0.12モル)にフタル酸ベンジルブチル200gおよびジラウリン酸ジブチルスズ3.8gを加えてスラリー状とし、予め200℃に加熱し内部を1.3kPaに減圧しておいた分子蒸留装置に送液ポンプを用いて約5g/分の速度で導入した。試料受器に液体が2.4g得られ、1H及び13C−NMR分析の結果、この液体はヘキサメチレンジイソシアネートであった。収率は12%であった。反応終了後、分子蒸留装置内部を観察したところ、加熱部分に茶色の付着物が見られた。
【0025】
以上のように、実施例1の方法により製造されるカルバミン酸エステルの熱分解を行った実施例2ではヘキサメチレンジイソシアネートが高収率で得られたのに対して、実施例1で製造されるカルバミン酸エステルを使用しない比較例1ではヘキサメチレンジイソシアネートの収率は低く、また、比較例1では反応器内部に汚染が見られた。これらの結果から本発明の効果は明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明により、カルバミン酸エステル化合物の熱分解によってイソシアネート化合物が製造される際、イソシアネート化合物の収率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施例1で製造されたカルバミン酸エステル化合物のNMR分析(1H−NMR)図である。
【図2】本発明の実施例1で製造されたカルバミン酸エステル化合物のNMR分析(13C−NMR)図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で示されるカルバミン酸エステル化合物:
【化1】

(式中:
1は直鎖状または分岐状の炭素数1〜12のアルキル基を表し、Q1及びQ2は、
【化2】

式(2)、(3)で示される置換基を有する芳香族基を含む基であって、該基を構成するAr1−O−及びAr2−O−に各々水素原子が付加した構造を有する芳香族ヒドロキシ化合物Ar1OH及びAr2OHの標準沸点が250℃以上である。)。
【請求項2】
1及びQ2を構成するAr1−O−及びAr2−O−に各々水素原子が付加した構造を有する芳香族ヒドロキシ化合物Ar1OH及びAr2OHが、1価の芳香族ヒドロキシ化合物であることを特徴とする請求項1記載のカルバミン酸エステル化合物。
【請求項3】
一般式(1)におけるR1が、直鎖状の炭素数6のアルキル基であることを特徴とする請求項1又は2に記載のカルバミン酸エステル化合物。
【請求項4】
一般式(1)のカルバミン酸エステル化合物の熱分解を行うことを特徴とするイソシアネート化合物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−127293(P2008−127293A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−311053(P2006−311053)
【出願日】平成18年11月17日(2006.11.17)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】