説明

カルベンリガンドを持った触媒錯体

【課題】オレフィン複分解反応に用いるカルベンリガンドを持った触媒コンプレックスの提供。
【解決手段】アニオンリガンドを有する金属原子、少なくとも1種の求核性のカルベンリガンド及びアルキリデン、ビニリデン及び又はアレニリデンリガンドを含む触媒コンプレックス。その触媒コンプレックスは、空気、水分及び熱劣化に対し高度に安定である。その触媒コンプレックスは、オレフィン複分解反応を効果的に実施するために設計されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の参照
本出願は、1998年9月10日出願の米国仮出願番号60/099,722号と1999年1月8日出願の米国仮出願番号60/115,358号の優先権を主張する。
【0002】
連邦政府支援研究に関する陳述
本発明は、全米科学基金(National Science Foundation)により許可番号CHE−963611号として認められ政府により支援されなされたものである。本発明において政府はある種の権利を有する。
【0003】
発明の背景
本発明は、金属カルベン複合体に関する。さらに詳しくは、金属カルベン複合体を含む触媒系に関する。
【背景技術】
【0004】
この技術分野において既に公知の触媒は、たとえば、Grubbsらの米国特許5,312,940号に記載されている。これらの触媒には、費用のかかるホスフィン(PR3)リガンドの使用を含むビス(ホスフィン)複合体が含まれる。たとえば高い温度でのP−C結合の分解によって測定されるように、このような系の安定性は限られている。また、ビス(ホスフィン)触媒が特定の反応を行う速度も限られる。したがって、規模の大きな合成が含まれる工業的な適用へは、そのままの効率性にはない。
【0005】
従来用いられてきた触媒系もまた高度に置換された閉環メタセシス(RCM)生成物を製造する能力に限界がある。このように、ビス(ホスフィン)触媒は信頼性よくジエン類を閉じて3置換環状アルキレン類を製造することはできず、4置換環状アルキレン類は全くできず、できてもわずかである。シュロック(Schrock)触媒はこの種の反応に利用することができるが、この系は非常に不安定である。
【0006】
したがって、この技術分野において一般的に空気−および湿分−不安定触媒系をRCM反応を効率よくかつ信頼性よく、そしてまた過剰な熱不安定性なしに行う需要が存在する。
【発明の概要】
【0007】
発明の要約
本発明は、化学合成反応に有用な金属カルベン複合体を含む触媒を提供する。この触媒は、金属中心に配位した少なくとも1つの大きい求核カルベンを含む。このような触媒を製造する方法、およびこのような触媒に有用なリガンドもまた、本発明により提供される。
【0008】
本発明の触媒複合体は、熱的に安定で、高い反応速度を有し、空気−および湿分−安定性がある。本発明の触媒は求核カルベンリガンドの入手可能性のために、合成しやすく、高い触媒活性を有し、比較的安価である。この触媒は、製薬産業における応用、ファインケミカルの合成、およびポリマーの合成を含む、化学反応の簡易化において有用である。
特に規定しない限り、本明細書で使用される技術的および科学的用語は、本発明が属する技術分野の当業者により共通して理解されるものと同一の意味を有する。本明細書に記載されたものと同一あるいは均等な方法および材料を本発明の実施あるいは試験で用いることができるが、好適な方法および材料を以下に記述する。疑義ある場合、本明細書が定義も含めて参照される。さらに、材料、方法および例は例示であってこれらに限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1Aは、第1配位パターンをもつ触媒複合体の第1具体例の一般構造である。図1Bは、第2配位パターンをもつ触媒複合体の第1具体例の一般構造である。図1Cは、第3配位パターンをもつ触媒複合体の第1具体例の一般構造である。
【図2】図2Aは、本発明のある具体例で利用できる求核カルベンリガンドの一例である。図2Bは、本発明のある具体例で利用できる求核カルベンリガンドの具体例である。図2Cは、本発明のある具体例で利用できる求核カルベンリガンドの具体例である。
【図3】図3Aは、第1配位パターンをもつ触媒複合体の第2具体例の一般構造である。図3Bは、第2配位パターンをもつ触媒複合体の第2具体例の一般構造である。図3Cは、第3配位パターンをもつ触媒複合体の第2具体例の一般構造である。
【図4】Cp*Ru(IMes)Clの結晶構造のORTEPダイヤグラムである。
【図5】Cp*Ru(PCy3)Clの結晶構造のORTEPダイヤグラムである。
【図6】Cl2Ru(PCy3)(IMes)(=CHPh)の結晶構造のORTEPダイヤグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の他の態様および有利な点は、以下の詳細な説明および特許請求の範囲により明らかになる。
図1A第1配位パターンをもつ触媒複合体の第1具体例の一般構造である。
図1B第2配位パターンをもつ触媒複合体の第1具体例の一般構造である。
図1C第3配位パターンをもつ触媒複合体の第1具体例の一般構造である。
図2A本発明のある具体例で利用できる求核カルベンリガンドの一例である。
図2B本発明のある具体例で利用できる求核カルベンリガンドの具体例である。
図2C本発明のある具体例で利用できる求核カルベンリガンドの具体例である。
図3A第1配位パターンをもつ触媒複合体の第2具体例の一般構造である。
図3B第2配位パターンをもつ触媒複合体の第2具体例の一般構造である。
図3C第3配位パターンをもつ触媒複合体の第2具体例の一般構造である。
図4Cp*Ru(IMes)Clの結晶構造のORTEPダイヤグラムである。
図5Cp*Ru(PCy3)Clの結晶構造のORTEPダイヤグラムである。
図6Cl2Ru(PCy3)(IMes)(=CHPh)の結晶構造のORTEPダイヤグラムである。
【0011】
詳細な説明
本発明は、化学反応を行うための触媒複合体を含む。本複合体には、金属原子および種々のリガンドを含む。触媒複合体の具体例を、図1A、1Bおよび1Cに示す。
【0012】
図1Aによれば、金属原子Mは一般に14〜18の電子数をもつ遷移金属がよい。本発明において有用であることが判明したと記載した特定の金属には、ルテニウムとオスミウムが含まれる。
【0013】
多くのリガンドは金属原子Mと配位する。これらのリガンドのうち少なくとも1つはカルベンリガンドであり、部分的にオレフィンメタセシス活性部分であって、さらに2つの他の基に結合してもよい炭素原子C1を有する。金属原子Mから炭素原子C1への結合は、CottonとWilkinsonのAdvanced Inorganic Chemistry, 5th Edition, John Wiley & Sons, New York(1980), pp 1139−1140に詳述されているように、他の標準的な式を明らかに含むが二重結合で式M=C1と表すことができる。
【0014】
注記したように、炭素原子C1はさらに2つまでの他の基RおよびR1に結合してもよく、この場合オレフィンメタセシス活性部分をアルキリデンと呼ぶ。これらのRとR1基は独立して多くの原子および置換基から選択される。これらには、水素、(メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基および同類のような)1〜20の炭素原子をもつアルキル基が含まれる。R又はR1の何れかが、2〜20の炭素原子を有するアルケニル又はアルキニル置換基であることもできる。基R及びR1は、また、2〜20の炭素原子を有するアルコキシカルボニル置換基、アリール置換基、1〜20の炭素原子を有するカルボキシレート置換基、1〜20の炭素原子を有するアルコキシ置換基、2〜20の炭素原子を有するアルケニルオキシ又はアルキニルオキシ置換基、並びにアリールオキシ置換基を包含することもできる。また、1〜20の炭素原子を有するアルキルチオ、アルキルスルホニル及びアルキルスルフィニル置換基も包含される。上記の種類のR及びR1置換基のそれぞれは、更に場合によってはハロゲン、或いは1〜10の炭素原子を有するアルキル又はアルコキシ基、或いはアリール基によって置換されていてもよい。R及びR1の更なる置換基としては、ヒドロキシル、チオール、チオエーテル、ケトン、アルデヒド、エステル、アミド、アミン、イミン、ニトロ、カルボン酸、ジスルフィド、カーボネート、イソシアネート、カルボジイミド、カルボアルコキシ、カルバメート及びハロゲンの官能基を挙げることができる。
【0015】
上記R及びR1置換基の任意のものは、種々の構造異性体(n−、イソ、sec−及びtert−)、環式又は多環式異性体、及び多重不飽和変異体を包含することもできる。
【0016】
特に有用なR及びR1置換基は、ビニル、フェニル、水素であり、ビニル及びフェニル置換基は、場合によっては、C1〜C5アルキル、C1〜C5アルコキシ、フェニル、又は塩化物、臭化物、ヨウ化物、フッ化物、ニトロ又はジメチルアミンのような官能基から選択される1以上の基によって置換されている。
【0017】
炭素原子C1は、二つの基R及びR1に直接結合していない場合には、他の炭素原子C2に更に結合しており、これが次に上記記載の置換基R及びR1に結合しており、オレフィンメタセシス活性カルベンリガンドはビニリデンと称される。これは図1Bに示される。この配位は、一般に、C1からC2への二重結合によって行われる。
【0018】
また、図1Cに示されるように、C2は他の炭素C3に更に結合することができる。このタイプのオレフィンメタセシス活性カルベンリガンドはアレニリデンと称される。C3は、更に上記記載の置換基R及びR1に結合する。炭素C1、C2及びC3は、それぞれ、sp2混成炭素であり、図1Cのアレニリデン構造においてかかる炭素の1つ又は2つが存在しない場合には、それぞれ図1B又は1Aのビニリデン又はアルキリデンを与える。
【0019】
R又はR1がアリールの場合には、アレニリデンリガンドが転位を受けて、環がC1とR又はR1のアリール炭素との間に形成されている異なる構造を形成することが分かった。例えば、C1=C2=C3Ph2がここに記載の系において金属Mに配位している場合には、オレフィンメタセシス活性カルベンリガンドは、アレニリデンではなく、環化ビニルカルベン、即ち「インデニリデン(この場合にはフェニルインデニリデン)」である。
【0020】
図1A、1B及び1Cに示されているアニオンリガンドであるリガンドX及びX1もまた、金属原子Mに配位する。かかるアニオンリガンドとしては、ハロゲン、ベンゾエート、C1〜C5カルボキシレート、C1〜C5アルコキシ、フェノキシ、及びC1〜C5アルキルチオ基から独立して選択されるものが挙げられる。他の特定の態様においては、X及びX1は、それぞれ、ハライド、CF3CO2、CH3CO2、CFH2CO2、(CH33CO、(CF32(CH3)CO、(CF3)(CH32CO、PhO、MeO、EtO、トシレート、メシレート、ブロシレート、又はトリフルオロメタンスルホネートである。他の特定の態様においては、X及びX1の両方は塩素である。リガンドX及びX1は、更に、互いに結合して、二座アニオンリガンドを形成することができる。例としては、ジカルボキシレート塩のような二酸塩が挙げられる。上述したように、かかる基は、更に固体相、例えばポリマー支持体に結合してもよい。
【0021】
リガンドL及びL1もまた金属原子Mに配位する。これらのリガンドは、多くの異なる化学種から選択される。
リガンドL又はL1のこれらの種類の一つは、求核性カルベン種である。本発明の触媒錯体においては、リガンドL又はL1の少なくとも一方はこの種類のものである。求核性カルベンは、孤立電子対を有する炭素原子を有する分子であり、望ましくはまた、孤立電子対を有する炭素と電子的に連絡しているか、又はこれと結合している原子又は置換基において現れる電子求引特性を更に有する分子を含む分子である。かかる電子求引性原子又は置換基としては、炭素よりも電気陰性度の大きな原子、例えば窒素、酸素、及び硫黄を挙げることができる。これらの原子は、カルベン炭素と直接結合しているか、或いはこの炭素に対して共役又は超共役位置に存在する。電子求引特性を有する置換基としては、窒素、ハロゲン、スルホネート、カーボネート、スルフィド、チオエーテル、シアノ、及び当該技術において公知の他の基が挙げられる。
【0022】
特定の態様においては、リガンドL及びL1の両方が求核性カルベンである態様もまた実施可能であるが、リガンドL及びL1の両方共が求核性カルベンではないことが望ましいことが分かった。
【0023】
孤立電子対を有する炭素の周りの立体混雑性を増大させる置換基で置換されている求核性カルベンリガンドが特に望ましい。これらの基は、嵩高基が、カルベンと反応してそれを破壊して、したがって触媒錯体を全体として失活させる性質を有する薬剤の接近を抑止することができる限りにおいて、カルベン炭素に直接、カルベン炭素の数原子以内で、或いはカルベン炭素から離隔して結合することができる。而して、求核性カルベンリガンド及び触媒それ自体の安定性は、反応から求核性カルベンを保護することのできる嵩高基の存在によって促進される。オレフィンメタセシス活性カルベンフラグメントは、嵩高な求核性カルベンリガンドによって与えられる大きな立体保護基によって、二分子分解から立体的に保護されていることに注意すべきである。
【0024】
本発明は、如何なる特定のメカニズム理論にも制限されるものではないが、このような置換基配置によって、熱誘導分解をはじめとするカルベン分解経路からの立体保護が与えられると考えられる。上記のような求核性リガンドの立体嵩高性により、より熱的に安定な触媒を得ることができる。このような嵩高又は立体障害基としては、分枝鎖アルキル基、アリール基、及び特にアリール環のオルト位に分枝鎖アリール置換基を有するアリール基が挙げられる。例えば、tert−ブチル、イソプロピルのような嵩高のアルキル基、或いはカルベンと相互作用している2,4,6−トリアルキルフェニル又は2,6−ジアルキルフェニルのような嵩高アルキル基を有するアリール基を有する求核性カルベンリガンドを、本発明において用いることができる。基L及びL1は、また、更に互いに結合して、L及びL1の一方又は両方が求核性カルベンリガンドである二座リガンドを形成することもできる。
【0025】
環式求核性カルベンリガンドもまた意図されている。これらは、環中に、又は環に結合したヘテロ原子を有することができる。このタイプの求核性カルベンリガンドの特に望ましい例は、ヘテロ原子の間にカルベン炭素を有するリガンドである。例としては、イミダゾールのような二窒素環、1,3−ジチオランのような二硫黄環、及び2H,4H−1,3−ジオキシンのような二酸素環が挙げられる。芳香族、非芳香族、飽和、又は不飽和の類縁体も同様に用いることができる。
【0026】
図2Aは、本発明のある種の態様に使用できる、求核カルベンリガンドの例を示す。ここには、置換基Y及びY1、Z及びZ1を有するイミダゾール−2−イリデーンが示されている。各置換基は、炭素含有基及び水素から、それぞれ独立に選択される。Y、Y1、Z及びZ1 を含んでいても良い炭素含有基は、1〜20の炭素原子を有するアルキル基(例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソ−プロピル、n−ブチル、イソ−ブチル、sec−ブチル及びそれらの類似物)を含む。更に、2〜20の炭素原子を有するアルケニル又はアルキニル置換基である。この炭素含有基は、2〜20の炭素原子を有するアルコキシカルボニル置換基、アリール基、1〜20の炭素原子を有するアルコキシ置換基、2〜20の炭素原子を有するアルケニルオキシ置換基又はアルキニルオキシ置換基、更にアリールオキシ置換基であっても良い。上記の群の置換基のそれぞれは、任意に、ハロゲン又は1〜5の炭素原子を有するアルキル基又はアルコキシ基で置換されていても良い。
【0027】
上記の置換基のどれもは、構造異性体(n−,イソ−、sec−,tert−)、環式又は多環式異性体、又は多不飽和変異体の全てを含んでいても良い。イミダゾール環中の二重結合の存在は、本発明の触媒活性に必要とされるものではないことを理解されるべきである。ある種の態様において、イミダゾリジン−2−イリデンは求核カルベンリガンド(L又はL1)として使用できる。
【0028】
図2Bにおける構造は,Y及びY1の両方が2,4,6−トリメチルフェニルであり、Z及びZ1の両方が水素である、有用な求核カルベンリガンドの具体例である。この具体的リガンドは1,3−ビス(2,4,6−トリメチルフェニル)イミダゾール−2−イリデン(IMes)である。有用な求核カルベンのその他の例は、図2Cに示され、これは、Y及びY1の両方が1,3−ビス(2,6−ジイソプロピルフェニル)イミダゾール−2−イリデン(IPr)である。
【0029】
L及びL1であることのできるその他の群のリガンドはフォスフィン類である。特に有用なものは、トリメチルフォスフィン、トリフェニルフォスフィン、トリイソプロピルフォスフィン、及びこれらと同様なフォスフィン類のような、トリアルキル−又はトリアリール−フォスフィンである。トリシクロヘキシルフォスフィン及びトリシクロペンチルフォスフィンのようなフォスフィン類もまた有用であり、これらを集合的にPCyと言う。
【0030】
L及びL1として作用できる他の群のリガンドは、スルホン化フォスフィン、フォスファイト、フォスフィナイト、フォスホナイト、アルシン、スチビン、イミン、エーテル、アミン、アミド、スルホオキシド、カルボニル、カルボキシ、ニトロシル、ピリジン及びチオエーテルである。
【0031】
本発明で有用な触媒錯体の他の具体例は、図3A(アルキリデン)、図3B(ビニリデン)及び図3C(アレニリデン)に示され、ここで図1A、図1B、図1Cのシリーズと同族体は、オレフィンメタシス活性カルベンリガンド、即ち、アイデン、ビニリデン及びアレニリデンにそれぞれ基づいている。構成成分であるX,C1,C2,C3,R及びR1は、本発明の触媒錯体の最初に説明した態様において説明した通りである。第2の具体的態様において、リガンドLは、前述のように求核カルベンリガンドである。さらに、図3A,図3B,及び図3Cに記載された具体例は全て陽イオン性錯体であるから、アニオンA-が必要である。このアニオンは、どのような無機アニオンでもよく、また、ある種の有機アニオンであっても良い。かくして、A-は、例えば、ハロゲンイオン、SbF6-,PF6-,BF4-,AsCl4-,O3SONO-,SO2-,NSO3-,アジド、亜硝酸残基、硝酸残基、酢酸残基及びその他の当業者に公知の多くのものがある。
【0032】
本態様では、金属Mのその他のリガンドはAr(η6−結合系を含む芳香族環系である)。記号ηは、金属に結合する全ての芳香族環を示すのに使用される。この系は、C66環系、及び種々のアルキルで置換されたC66環系を含む。複素環アレン環は、適切なものであり、これらにはη6−C55N及びそのアルキル置換誘導体が含まれる。これらの環は、1〜20の炭素原子を有するアルキル基(例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソ−プロピル、n−ブチル、イソ−ブチル、sec−ブチル及びそれらの類似物)のような広範囲の基から選択される置換基を持っていても良い。さらに、2〜20個の炭素原子を有するアルケニル置換基又はアルキニル置換基であっても良い。この炭素含有基は、2〜20の炭素原子を有するアルコキシカルボニル置換基、アリール基、1〜20の炭素原子を有するカルボキシレート置換基、2〜20の炭素原子を有するアルケニルオキシ置換基又はアルキニルオキシ置換基、更にアリールオキシ置換基であっても良い。上記の群の置換基のそれぞれは、任意に、ハロゲン又は1〜5の炭素原子を有するアルキル基又はアルコキシ基で置換されていても良い。例えば、有用なη6−結合L又はL1リガンドは、p−シメン、フローレン及びインデンである。
【0033】
本発明の触媒錯体は、均質触媒として使用でき、又は不均質触媒として同様に適している。後者の態様は、重合体支持体のような適切な固体相に対して触媒錯体を結合させることにより実現できる。固体相は、開裂可能に又は非開裂可能に触媒錯体と結合できる。固体相は、ワング(Wang)樹脂のような固相樹脂、又は非架橋性クロロメチル化ポリスチレン(NCPS)のような可溶性樹脂いずれの重合体であっても良い。このポリマーはテトラハイドロフラン(THF)、ジクロロメタン、クロロホルム、及び酢酸エチルに対する、低温度(−78℃)における溶解度、のような優れた特性を示す。NCPS水及びメタノールに対して可溶性である。これらの特徴により、溶媒抽出、メタノール沈殿のような伝統的有機化学手法が可能である。好適なポリマーとしては、ワング樹脂又はポリ(エチレングリコール)のような水酸基含有ポリマーがある。
【0034】
固体相と触媒錯体との結合方法は、好ましくは求核リガンドであるL又はL1リガンドに対する結合を形成することによることができる。触媒錯体は、最初に、求核カルベンではないリガンド、例えば、フォスフィンリガンドを遊離することにより操作されると信じられるから、このような手順が好ましい。このようにして、フォスフィンリガンドに対する結合は、触媒作用時に、固体相−触媒錯体相互作用の損失を生じる。また、アニオンリガンドX及び/又はX1を介しての、触媒錯体の固体相に対する結合が好ましいと考えられる。したがって、前述のアニオンリガンドとして作用する基を含むどのような結合も、固体支持体に対して触媒錯体を結合するのに使用できる。例えば、カルボキシレート樹脂もこの目的に使用できる。
【0035】
本発明の触媒錯体は、空気−安定性及び水分−安定性だから、大気条件下で、かつ水性の環境においてさえ使用可能である。触媒基質及び生成物の安定性も、そのような条件下での使用の限定的要素となるであろう。本発明の触媒錯体は、典型的な有機溶媒、例えば、テトラハイドロフラン(THF)、ベンゼン、トルエン、キシレン、ジエチルエーテル、ジオキサン、アルコール類、アセトニトリル、ジメチルスルホオキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、及び同様な溶剤に可溶性であるが、水又はメタノールには特に可溶性ではない。
【0036】
前記触媒錯体は、重合開始剤または共触媒のいずれかの存在下で使用する必要がないが、ホスフィンスポンジのような物質を場合により使用できる。当業者はこの種の構成物が前記触媒錯体と本質的に同じものと認識するが、これらの構成物には塩化銅および一般的にルイス酸類といわれるもの等があり、濃度は化学量論の濃度までである。
【0037】
閉環メタセシス(RCM)における触媒錯体の使用
前記触媒錯体を閉環メタセシスに使用できる。この反応は、2個の−Ca=Cb基(そのうちのCa原子は一緒に結合して−Ca=Ca−結合をもつ環状化合物を形成できる。)を有する二末端ジエン化合物を環状アルケンに変換する(副産物としてH2b=Cb2を形成する)。一定の場合には、二末端ジエン(すなわち、α、ωジエン)は1,3−水素位置転位を受け(α、ω−1ジエンを与え)る可能性があり、得られる生成物は環中に1個メチレン基の少ない環状アルケンであり、副産物としてプロペンを得る。
【0038】
本触媒錯体の反応性の顕著な溶媒依存性が認められた。スキーム1にしたがう結果から分かるように、トルエン中の(IMes)(Pcy3)Cl2Ru(=CHPh)の反応速度は、CH2Cl2(置換基Eは−CO2Etである)の反応速度よりも実質的に速い。したがって、スキーム1の四置換シクロヘキセン誘導体は、トルエン中で反応が実施される場合、わずか15分後に本質的に定量的に形成される。CH2Cl2中では反応が完了するのに2〜3時間必要である。反応媒体のこの影響は、それらのイミダゾール−2−イリデンリガンド上のN−メシチル置換基を有するルーテニウムカルベン錯体について観察された。しかし、N−シクロヘキシルまたはN−イソプロピル基をもつ関連錯体はこの効果を示さない。
【0039】
スキーム1:錯体(IMes)(Pcy3)Cl2Ru(=CHPh)の反応性の溶媒依存性
【0040】
【化1】

【0041】
CH2Cl2 40℃ 60分 54%
トルエン 80℃ 15分 98%
トルエン中の(IMes)(Pcy3)Cl2Ru(=CHPh)の反応性は、基質の二重結合の異性化を促進する反応種の傾向により損なわれる。したがって、スキーム2では、1.2モル%程度の低い(IMes)(Pcy3)Cl2Ru(=CHPh)を有する図示したジエンはトルエン中で45分内で出発物質の完全な消費をもたらすが、目的の21員環ラクトンに加えて有意量の20員環を形成する。いずれの特定の理論によっても束縛されることを望まないが、シス−環状アルケンは出発物質中の二重結合のうちの1つの最初の異性化からもたらされ、次いで、閉環中にエチレンの代わりにプロペンが脱離すると思われる。環縮小についてのこの固有の偏向は反応温度を下げることによって抑制されなかった。しかし、はっきりと異なり、反応をCH2Cl2中で行う場合、シス−アルケンの極わずかな量しか検出されない。
スキーム2. 立体化学
【0042】
【化2】

【0043】
表1にまとめた結果から見られるとおり、CHCl 中での(IMes)(Pcy)ClRu(=CHPh)および(IMes)(Pcy)ClRu(フェニルインデニリデン)の反応性は十分に高く、良好ないし優秀な収率でジ−、トリ−およびさらにテトラ−置換シクロアルケン類の調製を可能にする。中型環およびマクロ環を含めて全ての環サイズに適用可能である。示した収率データは、単離収率である。上付のbを付した収率データの反応(エントリー1−4)は、トルエン中80℃で行った。化合物3aは(IMes)(Pcy)ClRu(=CHPh)であり、3bは(IMes)(PCy)ClRu(フェニルインデニリデン)である。Eは−COEtである。

表1 CHCl中において、(IMes)(Pcy)ClRu(=CHPh)及び(IMes)(Pcy)ClRu(フェニルインデニリデン)を触媒として使用して行ったRCM
【0044】
【表1】

【0045】
これら環化反応の大部分は、もしビス(ホスフィン)錯体(PCyClRu(=CHPh)を触媒として用いた場合には、行うことが出来ないことに注意すべきである。このことは、全てのテトラ置換体のケース(エントリー1−4および7)、エントリー10のトリ置換8員環、並びにエントリー5および6の環形成反応に関して正しい。マクロ環状生成物(エントリー11−13)は(PCyClRu(=CHPh)を用いても得られるが、(IMes)(PCy)ClRu(=CHPh)の使用は反応時間をより短かくし、および使用する触媒負荷を小さくする。この観点は、特にペンタデク−10−エノライド(エントリー11)に関して重要で、これは単純な水素化により、貴重な麝香の香りの香水成分EXALTOLIDE(登録商標)(=ペンタデカノライド)に変換される。
【0046】
表1の結果から演繹できるように、ベンジリデンカルベン部分を有する錯体(IMes)(Pcy)ClRu(=CHPh)およびフェニルインデニリデン単位を有する錯体(IMes)(PCy)ClRu(フェニルインデニリデン)は、実質的に等しい効力をもった前触媒である。
【0047】
触媒錯体の製造法
本発明の触媒錯体は、下記の一般的な合成手順(公知の手順に改良を加えたもの)に従って製造することができる。
【0048】
本発明の第1の実施態様に従って触媒錯体を合成するためには、ジホスフィン連結のルテニウム触媒またはオスミウム触媒の2つのホスフィンリガンドの一方を求核性のカルベンリガンドで交換する。例えば、出発物質であるジホスフィン連結錯体(PCy3)Cl2Ru(=CHPh)と(PPh3)Cl2Ru(=CHPh)は、幾つかの一般手順〔例えば、Schwabらによる“Angew
. Chem. Intl. Ed. Engl., (1995) 34, 2039−41”に記載の手順〕に従って合成することができる。
【0049】
リガンド交換反応は、適切な溶媒(例えば、THFやトルエンなど)中にて、前述のようにジホスフィン連結錯体を求核性のカルベンリガンドにさらすことによって行う。反応は一般に、約0℃〜約50℃の温度にて約15分〜数時間行う。引き続き不活性溶媒中で再結晶することにより、錯体が高収率および高純度で得られる。
【0050】
本発明による求核性カルベンリガンドは、下記の一般的な合成手順に従って合成する。ヘテロ原子を含有する出発物質(例えば、アニリン、置換アニリン、フェノール、置換フェノール、ベンゼンチオール、置換ベンゼンチオール、第一アミン、第二アミン、アルコール、およびチオール等)の溶液は、テトラヒドロフラン(THF)、ベンゼン、トルエン、キシレン、ジエチルエーテル、ジオキサン、アルコール、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、水、およびこれらに類似した溶媒等の溶媒中にて不活性雰囲気下で調製することができる。上記の群に対する置換基としては、1〜20個の炭素原子を有するアルキル基(例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、およびsec−ブチル等)がある。2〜20個の炭素原子を有するアルケニル置換基やアルキニル置換基も可能である。これらの置換基はさらに、2〜20個の炭素原子を有するアルコキシカルボニル置換基、アリール基、1〜20個の炭素原子を有するカルボキシレート置換基、1〜20個の炭素原子を有するアルコキシ置換基、2〜20個の炭素原子を有するアルケニルオキシ置換基、2〜20個の炭素原子を有するアルキニルオキシ置換基、およびアリールオキシ置換基を含んでよい。上記種類の置換基のそれぞれが、ハロゲンあるいは1〜5個の炭素原子を有するアルキル基もしくはアルコキシ基でさらに置換されていてもよい。特に有用なのは、メチル、エチル、プロピル、およびブチル(枝分かれ異性体を含む)等の置換基、ならびにオルト位またはジオルト位が置換されたアリール置換基(例えば、ベンジル環に対しては2−置換または2,6−置換)である。
【0051】
次いで溶液を、等モル量の約1/2(ヘテロ原子含有出発物質に対して)のパラホルムアルデヒドと接触させる。加熱してパラホルムアルデヒドを溶解した後、フラスコの内容物を等モル量の約1/2(ヘテロ原子含有出発物質に対して)の無機酸(例えば、塩酸や硝酸)で酸性化する。
【0052】
窒素含有出発物質(アニリン誘導体または第一アミン誘導体)が使用される場合は、この段階において、等モル量の約1/2(ヘテロ原子含有出発物質に対して)のジアルコキシアセトアルデヒドを数分の撹拌後に滴下する。ジアルコキシアセトアルデヒドのアルコキシ基は、ジメトキシ−、ジエトキシ−、ジプロポキシ−、ジブトキシ−、またはジフェノキシ−のいずれであってもよく、あるいはこのようなアルコキシ置換基の多くの組合わせ(例えば、メトキシエトキシやメトキシフェノキシ)のいずれであってもよい。以下に手順の説明を続ける。
【0053】
一方、酸素またはイオウヘテロ原子を含有する出発物質が使用される場合は上記のパラグラフに従わず、こうした点から適用する手順は全ての出発物質に共通してるわけではない。反応フラスコにディーン−シュタルク・トラップ又は類似の装置を取り付けた後、混合物を約80℃〜約180℃(好ましくは約100℃〜約150℃)の温度で数時間(約5〜約30時間)加熱する。この時間中に沈殿物が生成し、副生物である水とメタノールならびに幾らかの溶媒が除去される。反応混合物を室温で約20分〜約4時間(好ましくは1〜3時間)撹拌する。この時間中に沈殿物の生成が完了する。
【0054】
沈殿物を濾過し、適切な溶媒(例えばTHF)で洗浄して、求核性のカルベン生成物を塩の形態で得る。例えばアニリンまたは置換アニリンが使用される場合、生成物は1,3−ジアリールイミダゾール塩である。出発物質が第一アミンである場合、生成物は1,3−ジアルキルイミダゾール塩である。これら生成物のいずれも、従来の水素化法(例えば、炭素−パラジウム触媒または炭素−白金触媒上でH2に曝露する)によって飽和複素環式誘導体(イミダゾリジン)に転化することができる。このような方法は、当業者にとって公知である。出発物質がフェノール誘導体またはチオベンゼン誘導体の場合、生成物はジベンゾキシメタン化合物またはジベンズチオメタン化合物である。出発物質がアルコールまたはチオールである場合、生成物は1,1−ビス(アルコキシ)メタン化合物または1,1−ビス(アルキルチオ)メタン化合物である。
【0055】
本発明の第2の実施態様の触媒錯体は、触媒錯体の前駆体化学種とアセチレンとを結合させてアレニリデンタイプの触媒錯体を得ることによって容易に製造できる(図3C)。触媒錯体の前駆体化学種の1つの例を下記に示す。
【0056】
【化3】

【0057】
上記構造において、金属M、ならびにリガンドX、X1、L、およびArは前記にて定義した通りであり、Lは求核性のカルベンである。前駆体化学種は一般にはダイマー[ArRuCl22の形で得られる。このダイマーを適切な溶媒(例えば、THF、ヘキサン、および他の非プロトン性溶媒)中にて求核性カルベンに曝露すると、前駆体化学種に転化される。例えばダイマー[(p−シメン)−RuCl22は、マサチューセッツ州ニューベリーポートのストレム・ケミカルズ(Strem Chemicals)社から市販されている。
【0058】
本発明の触媒錯体の前駆体化学種が結合して本発明の第2の実施態様の触媒錯体を形成するアセチレンは末端アセチレンであって、Y位がアルキル基またはアリール基で置換されていてもよく、あるいはさらに、ハロゲン、1〜10個の炭素原子を有するアルキル基もしくはアルコキシ基、またはアリール基で置換されていてもよい。さらなる置換は、ヒドロキシル、チオール、チオエーテル、ケトン、アルデヒド、エステル、アミド、アミン、イミン、ニトロ、カルボン酸、ジスルフィド、カーボネート、イソシアネート、カルボジイミド、カルボアルコキシ、カルバメート、およびハロゲンの官能を含んでよい。特に有用な置換基は、ビニル、フェニル、または水素であり、このときビニル置換基とフェニル置換基は、C2−C5アルキル、C1−C5アルコキシ、フェニル、あるいは官能基(例えば、塩化物、臭化物、ヨウ化物、フッ化物、またはジメチルアミン)から選ばれる1つ以上の基で置換されていてもよい。
【0059】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明がこれらの実施例によって限定されることはない。
実施例
以下、実施例を掲げて、本発明の触媒錯体のある種の態様を作る方法、ならびにそれらの特性を説明する。
【0060】
実施例1:IMes−HClの合成
2,4,6−トリメチルアニリン(10g,74ミリモル)、トルエン(50mL)、及びパラホルムアルデヒド(1.11g,37ミリモル)を300mLシュレンクフラスコの中に入れ、アルゴン雰囲気下で、110℃まで加熱し、すべてのパラホルムアルデヒドを溶解させた。そのフラスコを40℃まで冷却し、反応混合物に対してHCl(6.17mL,6N,37ミリモル)を滴下して加えた。次に、その混合物を40℃で10分間撹拌し、ジメトキシアセトアルデヒド(6.442g,水中60重量%,37ミリモル)を滴下して加えた。フラスコにディーン・スタークトラップを取り付け、15時間120℃で加熱した。その間に、ディーン・スタークトラップにより副生物(H2O及びメタノール)及びいくらかの溶媒を除去することによって、大量の薄黒い沈殿が形成され成長した。その反応混合物を室温まで冷却し、その温度で2時間撹拌した。シュレンクフリットによって沈殿を濾過し、テトラヒドロフランで洗浄し(それぞれ20mLで3回洗浄)、乾燥させると、60%の収率で白色固体が得られた。分光分析によると、その白色固体の特性は純粋なIMes−HClであった。1H NMR:δ=2.12(s,12H,o−CH3),2.30(s,6H,p−CH3),6.97(s,4H,メシチル),7.67(s,2H,NCHCHN),10.68(s,1H,HCl)。
【0061】
実施例2:IMesの合成
グローブボックスにおいて、撹拌俸付きのシュレンクフラスコの中にIMes−HClを20.0g(58.7ミリモル)及び乾燥テトラヒドロフランを120mL入れた。得られた懸濁液を10分間撹拌し、次に室温で、その懸濁液に対して固体カリウムt−ブトキシド6.80g(60.7ミリモル)を一度に加えた。直後に暗灰色の溶液が得られた。グローブボックスからシュレンクフラスコを取り出し、シュレンクラインに接続した。前記溶液を20分間撹拌した後、すべての揮発成分を真空下で除去した。温トルエン(120mL+60mL+20mL)中に残留物を抽出し、中程度の気孔度を有するフリットで濾過し(濾過はゆっくりと行った)、真空下で溶媒を除去して、IMesの結晶を得た。得られた生成物は90%の収率で回収され、色は薄黒いが、更なる合成に用いるには充分に純粋であった。更なる精製はトルエン又はヘキサンから再結晶させて行い、無色の結晶が得られた。
【0062】
関連のカルベンである1,3−ビス(4−メチルフェニル)イミダゾール−2−イリデン(ITol)及び1,3−ビス(4−クロロフェニル)イミダゾール−2−イリデン(IpCl)の合成を同じやり方で行った。
【0063】
実施例3:(IMes)(PCy3)(Cl)2Ru(=CHCH=CMe2)の合成
精製し乾燥させたアルゴン雰囲気下で、乾燥させガス抜きした溶媒を用いて合成手順を行った。IMes(2.1990g,7.221ミリモル)をヘキサン250mL中に懸濁させ、その中に、(Cl)2(PCy32Ru(=CHCH=CMe2)を(5.0718g,7.092ミリモル)を一度に加えた。その混合物を60℃において撹拌しながら2.5時間加熱した。その間、オレンジ・褐色の沈殿が観察された。真空中でその懸濁液の体積を50mLまで減少させ、−78℃まで冷却した。次に濾過し、残留物を冷ペンタンで洗浄すると(それぞれ20mLで2度洗浄した)、生成物が褐色オレンジ色の微晶質材料として収率72%(3.97g)で単離された。
【0064】
実施例4:(IMes)(PCy3)Cl2Ru(=CHPh)の合成
(Cl)2(PCy32Ru(=CHPh)を用いた以外は、実施例3の手順を繰返した。この錯体は、炭化水素、テトラヒドロフラン、アセトン、メチレン、塩化物、及びジエチルエーテルを含む様々な有機溶媒中に可溶性であった。錯体の識別は、X線構造解析によって確認した。他の態様は、IMesリガンドを他の求核性カルベンリガンドで置換することによって容易に合成される。
【0065】
実施例5:熱力学的研究
室温におけるテトラヒドロフラン(THF)中下記反応の熱力学を研究した。
[Cp*RuCl]4 + 4IMes → 4 Cp*Ru(IMes)Cl
式中、Cp*はη5−C5Me5である。 反応は、反応溶液において深い青色が急速に発色することによって示されるように迅速に進行する。深い青色の結晶質固体が収率86%で単離された。その青色固体の核磁気共鳴データから、ユニークなCp*及び単一カルベンリガンドを有する単一種が単離されたことが分かった。X線結晶構造解析では、Cp*Ru(IMes)Clの形成が確認された。カルベン4当量がテトラマー[Cp*RuCl]4 の1当量と反応するとき、30℃のTHF中における無気溶液熱量測定による反応のエンタルピーは−62.6±0.2kcal/molであった。表2では、IMesを他の基で置換した場合の同様な反応のエンタルピーを比較している。
【0066】
【表2】

【0067】
IMesリガンドは、PCy3に比べて5kcal/molだけ、Cp*RuClに対してより強く結合することが分かる。カルベンリガンドは、かなり良い結合剤であるが、例えばホスファイトのような更に良いドナーリガンドを用いる場合には、置換され得る。ホスファイト反応は、スキーム3に示すように、熱量測定データの内的整合性を裏付ける熱化学的サイクルの構築を考慮に入れている。
【0068】
【化4】

【0069】
熱化学的結果の更なる検証は、以下の仮説反応を試験することによって成される。
【0070】
【化5】

【0071】
この反応は、5kcal/molだけ発熱反応であると計算され、エントロピー障壁が無いことは明らかであるので、反応は記載したように容易に進行すべきである。実際、Campion ら によるJ. Chem. Soc. Chem. Commun., (1988) 278−280 で観察されているように、THF−d3中で試薬を混合するとき、Cp*Ru(PCy3)Clの特徴的な31Pシグナルが消え(11.3ppmにおいて)、遊離PCy3のシグナルが現れる(40.4ppm)。
実施例6: 構造研究
触媒システムに固有な立体的ファクターを判定するため、Cp*Ru(IMes)Cl(図4),Cp*Ru(PCy3)Cl(図5)、(IMes)(PCy3)Cl2Ru(=CHPh)(図6)について構造研究を行った。錯体Cp*Ru(PiPr3)Cl中の他の立体的要求リガンドについて比較する。次の結晶データが得られた。Cp*Ru(IMes)Cl: 単斜晶系、空間群 P21/c、暗青色柱、0.35 x 0.25 x 0.20, a= 10.6715 (2), b= 14.3501 (3), c= 19.2313 (4), b− 103.2670 (10) deg, Z= 4, Rf= 0.0294, GOF= 0.888。 Cp*Ru(Pcy3)Cl: 斜方晶系、空間群 Pcba、暗青色柱、0.45 x 0.35 x 0.25, a= 18.9915 (6), b= 15.6835 (5), c= 19.0354 (6), Z= 8, Rf= 0.0392, GOF= 1.132。 (IMes)(PCy3)Cl2Ru(=CHPh):空間群 P2111、黄オレンジ柱、a= 12.718 (1), b= 14.549 (1), c= 26.392 (2), Rf=0.0616, Z= 4, GOF= 1.038。Cp*Ru(PiPr3)Cl (Campion et al., J. Chem. Soc. Chem.Commun., (1988) 278−280)の物質データは、比較のため使用できる:Ru−P, 2.383 (1)A; Ru−Cl, 2.378 (1)A; Ru−Cp*(c),1.771 (1)A; Cl−Ru−P, 91.2 (1)°; Cl−Ru−Cp*(c),129.9 (1)°; C(1)−Ru−Cp*(c), 139.9 (1)°。
その3つのCp*RuCl(L)構造は、同様に、Ru−Lの距離の変化とともに、唯一の際だった特徴であるが、これは、P及びCの間の共有原子の半径の相違によって説明できる。ほんの僅かな角度のひずみが、Cp*Ru(IMes)Cl中に観察され、おそらく、IMesの嵩に対応する。そのIMesリガンドは、N(2)に結合したアレン環とイミダゾール環との間で、ねじれ角78.46(4)°、イミダゾール環とN(1)に結合したアレン環との間で78.78(5)°を有する同じ平面にない環を表示する。2つのアレン環は、相互にずらした配置をとっている。
【0072】
IMes及びPCy3によって示される立体的特性の直接の比較により、IMesリゲーションにより提供された重要な立体的密集について洞察する。PiPr3及びPcy3で報告されたコーンアングルは、それぞれ160°及び170°である(Tolman, Chem.Rev. (1977) 77, 313−348)。そのようなコーンアングル測定は本発明のシステムでは、確実なものではない。そのかわりに、結晶学的なデータはCp*Ru(IMes)Cl 及び Cp*Ru(PCy3)Cl中の非水素原子を含む最も近い接触角を測定するのに使用することができる。Ru−PCy3断片に対して、一番大きい角を規定する隣接のシクロヘキシル環上のシクロヘキシルメチレン炭素を使用して96.3°の角度を測定する。Cp*Ru(PiPr3)Cl 中のRu−PiPr3断片については、95.8°と同様な角度が得られる。IMes断片については、2つのパラメータが得られる。4−Me−Ru−4'−Me及び6−Me−Ru−2'−Me角度について、150.7°及び115.3°の角度をそれぞれ測定する。IMesリガンドの立体的保護は、錐体というよりはむしろ柵と考えることができる。PCy3に比較したIMes リガンドによって提供される立体的密集の増加は、イミダゾール窒素上の嵩高な置換基の存在、及び、全体のIMesリガンドを金属の中心に近づける、相当に短い金属−炭素結合距離に由来する。後者の金属−炭素結合距離のほうが、その影響の程度は大きい。
【0073】
図6に示される、 (IMes)(PCy3)Cl2Ru(=CHPh)の構造分析では、殆ど直線のCl(1)−Ru−Cl(2)角(168.62°)を有するひずんだ四角錐配位を明らかにする。カルベン単位は、C(1)−Ru−P平面に垂直であり、カルベンアリール部位は、C(1)−Ru−Cl(2)−C(40)平面からほんの少しねじれている。Ru−C(40)結合距離(1.841(11)Å)は、RuCl2(=CH−p−C64Cl)(PCy32(1.838(3) Å)のそれと同一であり、(PCy32RuCl2(=CHCH=CPh2)(1.851(21)Å)のそれよりも短い。2つの(通常は)カルベン断片は、(IMes)(PCy3)Cl2Ru(=CHPh)中に存在するが、それらは、異なったRu−C距離(Ru−C(40)=1.841(11)とRu−C(1)=2.069(11) Å)を表示する。これらの重要な計量のパラメータは、2つの金属−カルベン相互作用を明確に区別する:金属ベンジリデン断片とフォルマル金属で炭素二重結合、金属イミダゾリウムカルベンとフォルマル金属炭素で単結合。図6からIMesリガンドが、PCy3より立体的に要求性がある。
実施例7: 熱安定性の研究
触媒試験の課程で、本発明の触媒錯体の顕著な空気安定性が観察された。溶液中のこれらのカルベン錯体の強い性質を測定するため、不活性の雰囲気下で、その熱安定性を60℃で試験した。見いだされた安定性の相対的順序は(IMes)(PCy3)Cl2Ru(=CHPh) >> (IMes)(PPh3)Cl2Ru(=CHPh) > (PCy32Cl2Ru (=CHPh)であった。(IMes)(PCy3)Cl2Ru(=CHPh)のトルエン溶液の14日の60℃への連続加熱の後、分解は検出されなかった(1H及び31P NMRの両方でモニターした。)。対照的に、(PCy32Cl2Ru (=CHPh)の溶液は、同じ条件下で1時間後、分解の兆候を示した。
【0074】
触媒(IMes)(PCy3)Cl2Ru(=CHPh)は、分解を示す前には、36時間、100℃で安定であった。塩化メチレン、ジクロロメタン、トルエン、ベンゼン及びジグライムの還流下に、同様の熱分解の研究が行われ、同様の結果を得た。
【0075】
他の具体例
本発明は、その詳細な説明に関連して記載されたが、その記載は例示であり、特許請求の範囲記載の発明の範囲を限定するものではないと理解される。他の面、利点及び修正点は、請求項の範囲内にある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)ルテニウム又はオスミウムからなる群から選ばれた金属原子、
(b)前記金属に連結された少なくとも1種のアニオンリガンド、
(c)前記金属に連結された少なくとも1種の求核性のカルベンリガンド、
(d)前記金属に連結された別のリガンド及び
(e)前記金属に連結された炭素含有リガンド
を含み、前記炭素含有リガンドは、アルキリデン、ベンジリデン、インデニリデン、ビニリデン及びアレニリデンからなる群から選ばれる、触媒錯体。
【請求項2】
前記アニオンリガンドは、ハライド、カルボキシレート、アルコキシ、アリールオキシ及びアルキルスルフォネートからなる群から選ばれる請求項1に記載された触媒錯体。
【請求項3】
前記アニオンリガンドは、クロリドである請求項2に記載された触媒錯体。
【請求項4】
前記求核性のカルベンリガンドは、炭素の電気陰性度より大きな電気陰性度を有する2つのヘテロ原子にさらに結合されたカルベン炭素を含み、
前記ヘテロ原子は、独立に窒素、酸素及び硫黄からなる群から選ばれる、請求項1に記載された触媒錯体。
【請求項5】
前記求核性のカルベンリガンドは、置換又は置換されていない、飽和又は不飽和の1,3−ジヘテロ原子環状化合物を含む、請求項4に記載された触媒錯体。
【請求項6】
前記錯体は、前記アニオンリガンドと固体支持体との間の結合により、前記固体支持体に結合されている請求項1に記載された触媒錯体。
【請求項7】
前記錯体は、前記求核性のカルベンと固体支持体との間の結合により、前記固体支持体に結合されている請求項1に記載された触媒錯体。
【請求項8】
アルキリデン、ビニリデン及びアレニリデンからなる群から選ばれる前記炭素含有リガンドは、さらに水素、C1−C20アルキル、C2−C20アルケニル、C2−C20アルキニル、C2−C20アルコキシカルボニル、アリール、C1−C20カルボキシレート、C1−C20アルコキシ、C2−C20アルケニルオキシ、C2−C20アルキニルオキシ、及びアリールオキシからなる群から選ばれた置換基でさらに置換され、そして任意にC1−C5アルキル、ハロゲン、C1−C6アルコキシで、又はハロゲン、C1−C5アルキル又はC1−C5アルコキシで置換されたフェニルで置換されている請求項1に記載された触媒錯体。
【請求項9】
一般式
【化1】

式中Mは、Os又はRuであり、C1,C2及びC3は、SP2ー混成炭素であり、C1又はC2の一方又は両方は、任意に存在しなくてもよく、R及びR1は、独立に水素、C1−C20アルキル、C2−C20アルケニル、C2−C20アルキニル、C2−C20アルコキシカルボニル、アリール、C1−C20カルボキシレート、C1−C20アルコキシ、C2−C20アルケニルオキシ、C2−C20アルキニルオキシ、及びアリールオキシからなる群から選ばれ、R及びR1の各々は、任意に、C1−C5アルキル、ハロゲン、C1−C6アルコキシで、又はハロゲン、C1−C5アルキル又はC1−C5アルコキシで置換されたフェニル基で置換されており、X及びX1は、独立にアニオンリガンドからなる群から選ばれ、L及びL1は、求核性のカルベン、ホスフィン、スルホン化ホスフィン、ホスファイト、ホスフィナイト、ホスフォナイト、エーテル、アミン、アミド、スルフォキシド、カルボニル、ニトロシル、ピリジン及びチオエーテルからなる群から選ばれ、L及びL1の少なくとも1つは、求核性のカルベンである、請求項1に記載された触媒錯体。
【請求項10】
L及びL1の1つのみが、求核性のカルベンである、請求項9に記載された触媒錯体。
【請求項11】
L及びL1の1つが、ホスフィンである、請求項10に記載された触媒錯体。
【請求項12】
X、X1、L及びL1の少なくとも2つが、一緒に結合され、多座リガンドを形成する請求項9に記載された触媒錯体。
【請求項13】
前記求核性のカルベンは、一般式
【化2】

式中Y及びY1は、独立に水素、C1−C20アルキル、C2−C20アルケニル、C2−C20アルキニル、C2−C20アルコキシカルボニル、アリール、C1−C20カルボキシレート、C1−C20アルコキシ、C2−C20アルケニルオキシ、C2−C20アルキニルオキシ、及びアリールオキシからなる群から選ばれ、各Y及びY1は、任意にC1−C5アルキル、ハロゲン、C1−C6アルコキシで、又はハロゲン、C1−C5アルキル又はC1−C5アルコキシで置換されたフェニルで置換されており、Z及びZ1は、独立に水素、C1−C20アルキル、C2−C20アルケニル、C2−C20アルキニル、C2−C20アルコキシカルボニル、アリール、C1−C20カルボキシレート、C1−C20アルコキシ、C2−C20アルケニルオキシ、C2−C20アルキニルオキシ、及びアリールオキシからなる群から選ばれ、各Z及びZ1は、任意にC1−C5アルキル、ハロゲン、C1−C6アルコキシで、又はハロゲン、C1−C5アルキル又はC1−C5アルコキシで置換されたフェニルで置換されており、その環は、その環にさらに二重結合の導入により芳香族であってもよい、請求項9に記載された触媒錯体。
【請求項14】
一般式
【化3】

式中C1、C2及びC3は、SP2ー混成炭素であり、C1又はC2の一方又は両方は、任意に存在しなくてもよく、Mは、Os又はRuであり、R及びR1は、独立に水素、C1−C20アルキル、C2−C20アルケニル、C2−C20アルキニル、C2−C20アルコキシカルボニル、アリール、C1−C20カルボキシレート、C1−C20アルコキシ、C2−C20アルケニルオキシ、C2−C20アルキニルオキシ、及びアリールオキシからなる群から選ばれ、R及びR1は、任意に、C1−C5アルキル、ハロゲン、C1−C6アルコキシで、又はハロゲン、C1−C5アルキル又はC1−C5アルコキシで置換されたフェニルで置換されており、Xは、アニオンリガンドであり、Lは、求核性のカルベンでありそしてArは、η6結合によりMに結合されたアリール置換基である、触媒錯体。
【請求項15】
L及びL1の1つが、ホスフィンである、請求項13に記載された触媒錯体。
【請求項16】
X、X1、L及びL1の少なくとも2つが、一緒に結合され、多座リガンドを形成する請求項13に記載された触媒錯体。
【請求項17】
求核性カルベンが次式:
【化4】

(式中、YおよびYは独立して、水素、C−C20アルキル、C−C20アルケニル、C−C20アルキニル、C−C20アルコキシカルボニル、アリール、C−C20カルボキシレート、C−C20アルコキシ、C−C20アルケニルオキシ、C−C20アルキニルオキシ、およびアリールオキシからなる群から選択され、YおよびYの各々は場合によりC−Cアルキル、ハロゲン、C−Cアルコキシにより、またはハロゲン、C−Cアルキル、またはC−Cアルコキシにより置換されたフェニル基によって、置換されていて良く;そして
ZおよびZは独立して、水素、C−C20アルキル、C−C20アルケニル、C−C20アルキニル、C−C20アルコキシカルボニル、アリール、C−C20カルボキシレート、C−C20アルコキシ、C−C20アルケニルオキシ、C−C20アルキニルオキシ、およびアリールオキシからなる群から選択され、ZおよびZの各々は場合によりC−Cアルキル、ハロゲン、C−Cアルコキシにより、またはハロゲン、C−Cアルキル、またはC−Cアルコキシにより置換されたフェニル基によって、置換されていて良く、そして
該環は場合により、その中へのさらなる二重結合の導入により、芳香性であってもよい)
で表される、請求項13の触媒性錯体。
【請求項18】
求核性カルベンの製造方法であって、
a)置換若しくは非置換アニリンを約2分の1等モル量のパラホルムアルデヒドと不活性雰囲気下で接触させて第1の反応混合物を製造し、
b)前記パラホルムアルデヒドが溶解するまで前記第1の反応混合物を加熱し、
c)約2分の1等モル量のジアルコキシアセトアルデヒドを追加して第2の反応混合物を製造し;そして
d)求核性カルベンを製造するのに十分な時間および条件下で前記第2の反応混合物を加熱する、
ことを含む前記方法。
【請求項19】
前記アニリンが2,4,6−トリメチルアニリンである、請求項18記載の方法。
【請求項20】
前記アニリンが2,6−ジイソプロピルアニリンである、請求項18記載の方法。
【請求項21】
求核性カルベンを水素化して非芳香族求核性カルベンを製造するという工程を更に含む、請求項18記載の方法。
【請求項22】
閉環メタセシスを実施する方法であって、該方法は環状アルケンを製造するのに適切な条件下でかつ環状アルケンを製造するのに十分な時間をかけて、二末端性ジエンを触媒錯体と接触させることを含み、当該触媒錯体は、
a)ルテニウムまたはオスミウムから選択される金属原子;
b)該金属に結合された少なくとも1つのアニオンリガンド;
c)該金属に結合された少なくとも1つ求核性カルベンリガンド;
d)該金属に結合された更にもう1つのリガンド;および
e)該金属に結合された炭素含有リガンド
を含み、当該炭素含有リガンドはアルキリデン、ベンジリデン、インデニリデン、ビニリデンおよびアレニリデンからなる群より選択される、前記方法。
【請求項23】
触媒錯体が次式:
【化5】

(式中、MはOsまたはRuである;
1、C2およびC3はsp2−混成炭素であって、C1およびC2のいずれか一方または双方が場合により不存在であってもよく;
RおよびR1は、水素、C1−C20アルキル、C2−C20アルケニル、C2−C20アルキニル、C2−C20アルコキシカルボニル、アリール、C1−C20カルボキシレート、C1−C20アルコキシ、C2−C20アルケニルオキシ、C2−C20アルキニルオキシ、またはアリールオキシからなる群より独立して選択され、各RおよびR1は、C1−C5アルキル、ハロゲン、C1−C6アルコキシで或いはハロゲン、C1−C5アルキルまたはC1−C5アルコキシで置換されたフェニル基で必要に応じて置換されていてもよく;
X及びX1は、アニオンリガンドからなる群から独立して選択され;そして
LおよびL1は、求核性カルベン、ホスフィン、スルホン化ホスフィン、ホスファイト、ホスフィナイト、ホスフォナイト、エーテル、アミン、アミド、スルフォキシド、カルボニル、ニトロシル、ピリジンおよびチオエーテルからなる群より選択される)
を有し、LおよびL1の少なくとも1つは求核性のカルベンである、請求項22記載の方法。
【請求項24】
求核性カルベンが次式:
【化6】

(式中、
YおよびY1は、水素、C1−C20アルキル、C2−C20アルケニル、C2−C20アルキニル、C2−C20アルコキシカルボニル、アリール、C1−C20カルボキシレート、C1−C20アルコキシ、C2−C20アルケニルオキシ、C2−C20アルキニルオキシ、またはアリールオキシからなる群より独立して選択され、各YおよびY1は、C1−C5アルキル、ハロゲン、C1−C6アルコキシで或いはハロゲン、C1−C5アルキルまたはC1−C5アルコキシで置換されたフェニル基で必要に応じて置換されていてもよく、そして;
ZおよびZ1は、水素、C1−C20アルキル、C2−C20アルケニル、C2−C20アルキニル、C2−C20アルコキシカルボニル、アリール、C1−C20カルボキシレート、C1−C20アルコキシ、C2−C20アルケニルオキシ、C2−C20アルキニルオキシ、またはアリールオキシからなる群より独立して選択され、各ZおよびZ1は、C1−C5アルキル、ハロゲン、C1−C6アルコキシで或いはハロゲン、C1−C5アルキルまたはC1−C5アルコキシで置換されたフェニル基で必要に応じて置換されていてもよい)
を有し、そしてここにおいて、上記環は該環に更に二重結合を導入することによって必要に応じて芳香族であってもよい、請求項23記載の方法。
【請求項25】
触媒錯体が次式:
【化7】

(式中、C1、C2およびC3はsp2−混成炭素であって、C1およびC2のいずれか一方または双方が場合により不存在であってもよく;
MはOsまたはRuからなる群より選択され;
RおよびR1は、水素、C1−C20アルキル、C2−C20アルケニル、C2−C20アルキニル、C2−C20アルコキシカルボニル、アリール、C1−C20カルボキシレート、C1−C20アルコキシ、C2−C20アルケニルオキシ、C2−C20アルキニルオキシ、またはアリールオキシからなる群より独立して選択され、各RおよびR1は、C1−C5アルキル、ハロゲン、C1−C6アルコキシで或いはハロゲン、C1−C5アルキルまたはC1−C5アルコキシで置換されたフェニル基で必要に応じて置換されていてもよく;
Xは、アニオンリガンドであり;そして
Lは、求核性カルベンであり;そして
Arは、η6結合によりMに結合されたアリール置換基である)
を有する、請求項22記載の方法。
【請求項26】
求核性カルベンが次式:
【化8】

(式中、
YおよびY1は、水素、C1−C20アルキル、C2−C20アルケニル、C2−C20アルキニル、C2−C20アルコキシカルボニル、アリール、C1−C20カルボキシレート、C1−C20アルコキシ、C2−C20アルケニルオキシ、C2−C20アルキニルオキシ、またはアリールオキシからなる群より独立して選択され、各YおよびY1は、C1−C5アルキル、ハロゲン、C1−C6アルコキシで或いはハロゲン、C1−C5アルキルまたはC1−C5アルコキシで置換されたフェニル基で必要に応じて置換されていてもよく、そして;
ZおよびZ1は、水素、C1−C20アルキル、C2−C20アルケニル、C2−C20アルキニル、C2−C20アルコキシカルボニル、アリール、C1−C20カルボキシレート、C1−C20アルコキシ、C2−C20アルケニルオキシ、C2−C20アルキニルオキシ、またはアリールオキシからなる群より独立して選択され、各ZおよびZ1は、C1−C5アルキル、ハロゲン、C1−C6アルコキシで或いはハロゲン、C1−C5アルキルまたはC1−C5アルコキシで置換されたフェニル基で必要に応じて置換されていてもよい)
を有し、そしてここにおいて、上記環は該環に更に二重結合を導入することによって必要に応じて芳香族であってもよい、請求項25記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−99739(P2013−99739A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−264339(P2012−264339)
【出願日】平成24年12月3日(2012.12.3)
【分割の表示】特願2010−51468(P2010−51468)の分割
【原出願日】平成11年9月9日(1999.9.9)
【出願人】(512147233)ユニバーシティ・オブ・ニュー・オーリンズ・リサーチ・アンド・テクノロジー・ファウンデーション・インコーポレーテッド (1)
【Fターム(参考)】