説明

カルボキシアルキルスルホン酸を含む薬学的組成物および方法

カルボキシアルキルスルホン酸、およびその薬学的に許容できる溶媒和物を用いる薬学的組成物および方法が記載される。本発明の化合物は、神経保護剤として、ならびに、アルツハイマー病を含むAβアミロイド関連疾患の予防および/または処置のために、特に有用である。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
関連出願
本出願は、2005年9月30日提出の米国仮出願第60/722,891号に対する優先権を主張するものであり、その全内容は参照により本明細書に組み入れられる。
【0002】
発明の背景
Aβペプチドはニューロンに対して非常に有毒になると、いくつかのグループによって示されている。アミロイド斑(amyloid plaques)は反応性神経膠症(reactive gliosis)、異栄養性神経突起(dystrophic neurites)、およびアポトーシスを起こした細胞と直接関連しており、神経変性を誘導することが示唆されている。インビトロでは、Aβは胎仔ラット由来の初期の海馬培養、およびプレ分化型ヒトニューロタイプSH-SY5Y細胞株においてアポトーシスを誘導するが、ラットPC-12細胞においては壊死誘導性であることが示されている(Li et al. (1996) Brain Research 738:196-204(非特許文献1))。
【0003】
数々のレポートは、線維性Aβが神経変性を誘導し得、また非線維性Aβもニューロンに対して有毒になることが示されていることを示している。La Ferlaらは、可溶性Aβに対してインビトロで曝露された神経細胞(neuronal cells)はアポトーシスを起こし得ることを示した((1997) J.Clin.Invest. 100(2):310-320(非特許文献2))。いったん内在化すると、Aβペプチドは安定性を獲得し、アポトーシスの特徴であるDNA断片化を誘導する。アルツハイマー病では、進行性の神経細胞の喪失は、老人斑(senile plaques)におけるAβアミロイド線維の沈着を伴なう。
【0004】
生物は、プログラムされた細胞死もしくはアポトーシスとして知られる過程によって、不要な細胞を排除する。そのような細胞死は、組織におけるホメオスタシスおよび老化と同様に、動物の発達の正常な様相として生じる(Glucksmann, A., Biol. Rev. Cambridge Philos. Soc. 26:59-86 (1951)(非特許文献3); Glucksmann, A., Archives de Biologie 76:419-437 (1965)(非特許文献4); Ellis et al., Dev. 112:591-603 (1991)(非特許文献5); Vaux et al., Cell 76:777-779 (1994)(非特許文献6))。アポトーシスは細胞の数を調節し、形態形成を容易にし、有害あるいは他の異常な細胞を取り除き、かつそれらの機能が既に果たされた細胞を削除する。さらに、アポトーシスは、低酸素症(hypoxia)もしくは虚血(ischemia)のような、様々な生理学的ストレスに反応して生じる(PCT published application WO96/20721(特許文献1))。
【0005】
形質膜および核膜のブレブ形成(blebbing)、細胞縮み(cell shrinkage)(核質および細胞質の凝縮)、細胞小器官の再局在化および圧縮、クロマチン凝縮ならびにアポトーシス小体の生成(細胞内物質を含む粒子を囲む膜)など、プログラムされた細胞死を経験する細胞によって共有される形態学的な変化が多数存在する(Orrenius, S., J. Internal Medicine 237:529-536 (1995)(非特許文献7))。
【0006】
【特許文献1】PCT published application WO96/20721
【非特許文献1】Li et al. Brain Research 738:196-204 (1996)
【非特許文献2】La Ferla et al. J.Clin.Invest. 100(2):310-320 (1997)
【非特許文献3】Glucksmann, A., Biol. Rev. Cambridge Philos. Soc. 26:59-86 (1951)
【非特許文献4】Glucksmann, A., Archives de Biologie 76:419-437 (1965)
【非特許文献5】Ellis et al., Dev. 112:591-603 (1991)
【非特許文献6】Vaux et al., Cell 76:777-779 (1994)
【非特許文献7】Orrenius, S., J. Internal Medicine 237:529-536 (1995)
【発明の開示】
【0007】
発明の概要
一つの態様において、本発明は少なくとも一部、式(I)の化合物もしくはその薬学的に許容できる溶媒和物を含む薬学的組成物に関する:

式中
Xは各々独立して選択されるカチオン性基またはエステル形成基であり;かつ
nは0、1、2、3、4、5、6、7、または8である。
【0008】
さらなる態様において、本発明はまた、少なくとも一部、Aβアミロイド関連疾患が被験者において処置されるように、式(I)の化合物もしくはその薬学的に許容される溶媒和物を含む薬学的組成物の有効な量を、必要とする被験者に投与する段階を含む、被験者におけるAβアミロイド関連疾患を処置するための方法に関する。
【0009】
他の態様において、本発明はまた、少なくとも一部、被験者におけるカルボキシアルキルスルホン酸反応状態(carboxyalkyl sulfonic acid responsive state)を処置するための方法に関する。その方法は、カルボキシアルキルスルホン酸反応状態が被験者において処置されるように、式(I)の化合物もしくはその薬学的に許容される溶媒和物を含む薬学的組成物の有効な量を必要とする被験者に投与する段階を含む。
【0010】
発明の詳細な説明
本発明は、3-スルホ-1-プロパン酸、その塩、ならびに関連したカルボキシアルキルスルホン酸およびそれらの塩に関する。本発明はまた、神経防護剤としての、ならびにAβアミロイド関連疾患を予防および/または処置するための、これらの化合物の利用に関する。
【0011】
用語「カルボキシアルキルスルホン酸(carboxyalkyl sulfonic acid)」は、直鎖アルキル基およびそれらの塩によって結合された、カルボン酸塩ならびにスルホン酸基を含む化合物を含む。さらなる態様において、カルボキシアルキルスルホン酸は式(I)のものである:

式中、
Xは、各々独立して選択されるカチオン性基またはエステル形成基であり;かつ
nは0、1、2、3、4、5、6、7、または8である。
【0012】
用語「カチオン性基」は、正電荷の基および水素原子を含む。カチオン性基の例は、無機および有機塩基付加塩、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、およびアルミニウムのようなアルカリまたはアルカリ土類金属のイオン等を含む。好ましくは、塩は、比較的非毒性であり、薬学的に許容されるものである。さらなる態様において、カチオン性基はHまたはNaである。
【0013】
カチオン性基を持つこれらの化合物は、該化合物の最後の単離および精製の間にインサイチューで、または精製された化合物をその遊離酸の形態で、薬学的に許容される金属カチオンの水酸化物、炭酸塩、もしくは重炭酸塩のような適切な塩基、アンモニア、または薬学的に許容される有機第一級、第二級もしくは第三級アミンと別々に反応させることによって、製造され得る。カチオン性基として有用な代表的な有機アミンは、エチルアミン、ジエチルアミン、エチレンジアミン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、ピペラジン等を含む。
【0014】
他のさらなる態様において、nは0または1である。
【0015】
用語「エステル形成基」は、カルボン酸もしくはスルホン酸とエステルを形成することができるアルキルもしくはアリル基を意味する。エステル形成基の例には、メチル、エチル、プロピル、もしくはフェニルが含まれる。
【0016】
本発明は、式(I)の化合物の塩型および酸型の両方に関する。例えば、本発明は、本明細書において示される3-スルホ-1-プロパン酸の特定のジナトリウム塩形態だけに関するものでなく、該化合物の他の薬学的に許容される塩、および酸形態も含む。本発明はまた、本明細書において示される化合物の全ての塩形態に関する。
【0017】
好ましい態様において、該化合物は、3-スルホ-1-プロパン酸ジナトリウム塩である。他の態様において、該化合物は3-スルホ-1-プロパン酸ジリチウム塩;3-スルホ-1-プロパン酸ジカリウム塩;3-スルホ-1-プロパン酸カルシウム塩;3-スルホ-1-プロパン酸マグネシウム塩;3-スルホ-1-プロパン酸アルミニウム塩;3-スルホ-1-プロパン酸エチルアミン塩;3-スルホ-1-プロパン酸ジエチルアミン塩;3-スルホ-1-プロパン酸エチレンジアミン塩;3-スルホ-1-プロパン酸エタノールアミン塩;3-スルホ-1-プロパン酸ジエタノールアミン塩;および3-スルホ-1-プロパン酸ピペラジン塩である。別の態様において、本発明による組成物および/または方法における利用のための該化合物は、薬学的に許容される塩または3-スルホ-1-プロパン酸である。
【0018】
記載された化合物の全ての酸、塩、ならびに他のイオンおよび非イオン形態は本発明の化合物に含まれる。例えば、化合物が本明細書において酸として示されている場合、該化合物の塩形態も含まれる。同様に、化合物が塩として示されている場合、酸形態も含まれる。
【0019】
化合物は、エノール型、ケト型、およびそれらの混在型を含む、いくつかの互変異性型において存在する場合がある。従って本明細書において表現される化学構造は、図示された化合物の全ての考えられる互変異性型を含む。
【0020】
開示された化合物はまた、最も豊富に天然に見られる原子質量と異なる原子質量を有する1もしくはそれ以上の原子である、同位体標識された化合物を含む。同位体の例は、本発明の化合物に組み込まれ、2H (D), 3H (T), 11C, 13C, 14C, 15N, 18O, 17O,等を含むが、それらに限定されない。
【0021】
本発明による特定の化合物は、複結晶性もしくは非晶性の形状で存在しうる。本発明の化合物は、多形を示す場合がある。本発明による化合物の多形は、異なる条件下での結晶化によって作成されうる。例えば、再結晶化のための異なる溶媒もしくは異なる溶媒混合物の利用;異なる温度での結晶化;結晶化の間の、非常に速い〜非常に遅い冷却速度の範囲の様々な状態。多形の存在は、固体プローブNMR分光法、IR分光法、ディファレンシャルスキャニング熱量測定法、粉末X線回析、あるいは他の同様の技術によって測定されうる。一般的に、全ての物理的な形状は、本明細書において意図される利用に相当し、本発明の範囲内にあることを意味する。
【0022】
本発明の化合物はまた、例えば水和物、エタノラート、n-プロパノラート、イソ-プロパノラート、1-ブタノラート、2-ブタノラートおよびInternational Conference on Harmonization (ICH), Guidance for Industry, Q3C Impurities: Residual Solvents (1997)において記載されたクラス3溶媒のような他の物理学的に許容される溶媒の溶媒和物、の形状において存在しうる。本発明は各溶媒和物およびそれらの混合物を含む。一つの態様において、本発明は、Aβアミロイド関連疾患が被験者において処置されるような、式(I)の化合物、もしくはそれらの薬学的に許容される溶媒和物を含む薬学的組成物の有効量を、それらを必要とする、被検者に投与することによって、被験者におけるAβアミロイド関連疾患を処置するための方法に関する。
【0023】
用語「アミロイド」は、可溶性(例えば、モノマーもしくはオリゴマー)または不溶性(例えば、線維性構造を有する、もしくはアミロイド斑における)である、アミロイド生成性のタンパク質、ペプチド、もしくはそれらの断片を意味する。例えば、MP Lambertら、Proc. Nat'l Acad. Sci. USA 95, 6448-53 (1998)参照。「アミロイドーシス」もしくは「アミロイド疾患」もしくは「アミロイド関連疾患」は、アミロイド線維の存在によって特徴づけられる病態を意味する。「アミロイド」は、いくつかの異なる疾患で見られる、多様であるが特定のタンパク質の沈着物群(細胞内もしくは細胞外)を意味する一般用語である。それら各々の多様性に関わらず、全てのアミロイド沈着物は、特定の色素(例えばコンゴレッド)で染色され、染色後に偏光下で特徴的な赤色−緑色の複屈折の外観を呈する、共通の形態学的な特徴を有する。それらはまた、共通する超微細構造特徴、ならびに共通のX線回析および赤外スペクトルを有する。
【0024】
用語「Aβアミロイド関連疾患」あるいは「アミロイドβ疾患」は、Aβアミロイドーシスに関連する、またはアミロイドβの望ましくない形成および/もしくは沈着に関する疾患あるいは障害を意味する。Aβアミロイド関連疾患は、それらの疾患、障害、状態、病状、および原因物質がアミロイドβである脳の構成要素を含む脳の構造もしくは機能の他の異常を含む。アミロイドβの局所沈着は脳でよく起こり、特に高齢者によく起こる。アミロイドβ疾患に冒された脳の領域は、脈管構造を含む間質、または機能的もしくは解剖学的領域を含む実質、またはそれらのニューロンである可能性がある。脳においてアミロイドの最も多い型は、例えばアルツハイマー病と関連する認知症をもたらす、主としてAβペプチド原線維から構成される。被験体は具体的に認められたアミロイド関連疾患の明確な診断を受けている必要はない。
【0025】
アミロイドβペプチド(Aβ)は、ベータアミロイド前駆タンパク質(Beta Amyloid Precursor Protein)(“βAPP”)として知られる大きなタンパク質からタンパク質分解によって得られる39〜43アミノ酸ペプチドである。βAPPにおける突然変異は、Aβ原線維および他の成分からなる斑の脳への沈着によって特徴づけられる、家族性アルツハイマー病、ダウン症候群、脳アミロイド血管障害(例えば、遺伝性の脳出血)、ならびに老年性認知症を引き起こし、これらについては以下に詳細に記載する。アルツハイマー病に関連するAPPにおける公知の突然変異は、βもしくはγセクレターゼの切断部位の近く、またはAβの内部で生じる。例えば、717位はAPPがAβへと処理されるγセクレターゼ切断の部位の近くであり、670/671位はβセクレターゼ切断部位の近くである。これら残基の任意の部位における突然変異は、おそらくAPPから生じたAβの42/43アミノ酸型の量の増加によって、アルツハイマー病を引き起こすと考えられる。家族性アルツハイマー病は、被験者集団の10%にすぎない。実際に、散発性アルツハイマー病の発生は、遺伝性と示される型を非常に上回る。それにも関わらず、斑を形成する原線維ペプチドは、両方の型において非常に類似している。
【0026】
様々な長さのAβペプチドの構造および配列が、当技術分野において周知である。そのようなペプチドは当技術分野において公知の方法により作成することができ、もしくは公知の方法により脳から抽出することができる(例えば、Glenner and Wong, Biochem. Biophys. Res. Comm. 129, 885-90 (1984);Glenner and Wong, Biochem. Biophys. Res. Comm. 122, 1131-35 (1984))。さらに、様々な型のペプチドが市販されている。
【0027】
「βアミロイド」、「アミロイドβ」などの用語は、特に指示が無い限り、アミロイドβタンパク質もしくはペプチド、アミロイドβ前駆体タンパク質もしくはペプチド、中間体、ならびにそれらの改変体および断片を意味する。特に、「Aβ」はAPP遺伝子産物のタンパク質分解処理によって生じる任意のペプチド、特にAβ1-39、Aβ1-40、Aβ1-41、Aβ1-42、Aβ1-43、Aβ3-40、Aβ3-42、Aβ3-43、Aβ3(pG)-40、Aβ3(pG)-42、およびAβ3(pG)-43を含む、アミロイドの病理に関連するペプチドを意味する。命名の便宜上、「Aβ1-42」は、本明細書において「Aβ(1-42)」または単に「Aβ42」もしくは「Aβ42」とする場合がある(本明細書で論じられる任意の他のアミロイドペプチドに対しても同様)。本明細書において用いられるように、「βアミロイド」、「アミロイドβ」、および「Aβ」は同義である。特定されない限り、用語「アミロイド」は、可溶性(例えばモノマーもしくはオリゴマー)または不溶性(例えば原線維構造を有する、もしくはアミロイド斑における)でありうる、アミロイド生成性タンパク質、ペプチド、もしくはそれらの断片を意味する。例えば、MP Lambert, et al., Proc. Nat'l Acad. Sci. USA 95, 6448-53 (1998)参照。
【0028】
本発明の特定の態様に従って、アミロイドβは39〜43アミノ酸を有するペプチドであるか、もしくはアミロイドβはβAPPから生成されるアミロイド生成性ペプチドである。本発明の対象であるAβアミロイド関連疾患には、加齢性認識衰退、軽度認識障害(「MCI」)において見られるような初期アルツハイマー病、血管性認知症、または散発性(非遺伝性)アルツハイマー病もしくは家族性(遺伝性)アルツハイマー病であるアルツハイマー病(「AD」)が含まれるが、それらに限定されるわけではない。Aβアミロイド関連疾患はまた、脳アミロイド血管症(「CAA」)、もしくは遺伝性の脳出血であってもよい。Aβアミロイド関連疾患は、老年性認知症、ダウン症候群、封入体筋炎(「IBM」)、もしくは加齢性黄斑変性症(「ARMD」)であることもある。
【0029】
軽度認識障害(「MCI」)は、思考力における軽度であるが測定可能な機能的障害の状態によって特徴づけられる疾患であり、認知症と関連している必要はない。MCIはしばしばアルツハイマー病に先行するが、そうである必要はない。これは軽度の記憶上の問題に最も頻繁に関連付けられている診断であるが、言語もしくは計画力のような、他の思考力における軽度の機能的障害によって特徴づけられることもある。しかし、一般的に、MCIの者は、同じ年齢もしくは教育的背景の誰かに期待されるよりも、より著しい記憶喪失を有するようになる。疾患が進行するにつれて、医師は、当技術分野において周知のとおり、診断を「経度から、中等度の認識障害」へと変更する場合がある。
【0030】
脳アミロイド血管症(「CAA」)は、軟髄膜および皮質の動脈、細動脈および毛細血管ならびに静脈の壁におけるアミロイド原線維の特異的沈着を意味する。それは一般的に、アルツハイマー病、ダウン症候群、ならびに卒中および認知症に関連する様々な家族性疾患と同様に、正常な加齢に関連する(Frangione, et al., Amyloid: J. Protein Folding Disord. 8, Suppl. 1, 36-42 (2001)参照)。CAAは散発的にもしくは遺伝的に発症しえる。AβもしくはAPP遺伝子のいずれかにおける複数の突然変異部位が同定されており、認知症もしくは脳出血のいずれかと臨床的に関連がある。典型的なCAA障害は、アイスランド型のアミロイドーシスを伴う遺伝性脳出血(HCHWA-I);HCHWAのオランダ型(HCHWA-D; Aβにおける突然変異);Aβのフランドル型突然変異;Aβの北極型突然変異;Aβのイタリア型突然変異;Aβのアイオワ型突然変異;家族性英国型認知症;および家族性デンマーク型認知症を含むが、これらに限定されない。脳アミロイド血管症は脳出血(もしくは出血性卒中)と関連していることが知られている。
【0031】
さらに、筋線維におけるAPPおよびアミロイドβタンパク質の異常な蓄積は、散発性の封入体筋炎(「IBM」)の病理に関わりがあるとされている(Askanas, et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 93, 1314-19 (1996); Askanas, et al., Current Opinion in Rheumatology 7, 486-96 (1995))。従って、本発明の化合物は、化合物の筋線維への送達によるIBMの処置のような、アミロイドβタンパク質が非神経部位で異常に沈着した障害の処置において、予防的もしくは治療的に用いることができる。
【0032】
さらに、Aβは、加齢性黄斑変性症(ARMD)の者における網膜色素上皮の基底面に沿って蓄積する、ドルーゼとして知られる異常な細胞外沈着物に関連することが示されている。ARMDは高齢者における不可逆的な失明の原因である。Aβ沈着は、網膜色素上皮の委縮、ドルーゼ生合成、およびARMDの病因に寄与する、局所的な炎症事象の重要な要素でありうると考えられている(Johnson, et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 99(18), 11830-5 (2002))。従って本発明はまた、加齢性黄斑変性症の処置に関する。
【0033】
APPはほとんどの細胞において発現され、構成的に異化される。主要な異化経路は、APPとして知られる可溶性細胞外ドメイン断片の放出を導く、αセクレターゼ酵素によるAβ配列内のAPPの切断であるようである。この非アミロイド生成経路とは対照的に、APPは、AβのNおよびC末端でβおよびγセクレターゼとして知られる酵素によって切断され、続いて細胞外空間にAβを放出することもできる。今日まで、BACEはβセクレターゼとして同定されており(Vasser, et al., Science 286:735-741, 1999)、プレセニリンはγセクレターゼ活性に関係するとされている(De Strooper, et al., Nature 391, 387-90 (1998))。
【0034】
βおよびγセクレターゼによって、アミロイド前駆体タンパク質(APP)の連続的なタンパク質分解切断によって、39〜43アミノ酸のAβペプチドが生成される。Aβ40が生成される主要な型であるが、全Aβのうち5〜7%はAβ42として存在する(Cappai et al., Int. J. Biochem. Cell Biol. 31. 885-89 (1999))。Aβペプチドの長さは、その生化学的/生物物理学的な性質を劇的に変えると思われる。具体的には、Aβ42のC末端にある付加的な2つのアミノ酸は、非常に疎水性が高く、恐らくAβ42の凝集の性向を高める。例えばJarrettらは、Aβ42がAβ40と比べてインビトロで非常に早く凝集することを示し、Aβのより長い型はアルツハイマー病における老人斑の初期の播種に関連する重要な病的タンパク質である可能性を示唆している(Jarrett, et al., Biochemistry 32, 4693-97 (1993); Jarrett, et al., Ann. N.Y. Acad. Sci. 695, 144-48 (1993))。
【0035】
この仮説は、さらに、遺伝性家族性アルツハイマー病(「FAD」)の症例におけるAβの特定の型の寄与に関する最近の分析によって実証されている。例えば、FADに関連づけられたAPPの「ロンドン」突然変異型(APPV717I)は、Aβ40に対しAβ42/43の産生を選択的に増加させるが(Suzuki, et al., Science 264, 1336-40 (1994))、APPの「スウェーデン」突然変異型(APPK670N/M671L)はAβ40およびAβ42/43の両方のレベルを増加させる(Citron, et al., Nature 360, 672-674 (1992); Cai, et al., Science 259, 514-16, (1993))。また、プレセニリン-1(「PS1」)もしくはプレセニリン-2(「PS2」)遺伝子におけるFAD関連突然変異は、Aβ42/43産生における選択的増加を導くが、Aβ40は導かないことが観察されている(Borchelt, et al., Neuron 17, 1005-13 (1996))。この知見は、脳Aβ42における選択的増加を示すPS突然変異を発現するトランスジェニックマウスモデルにおいて裏付けられた(Borchelt, op cit.; Duff, et al., Neurodegeneration 5(4), 293-98 (1996))。従って、アルツハイマー病の病因に対する有力な仮説は、Aβ42脳濃度における増加は、Aβ42の産生および放出増加、またはクリアランス(分解もしくは脳クリアランス)における低下が原因であって、疾患の病理学における原因事象である、というものである。
【0036】
AβもしくはAPP遺伝子のいずれかにおける複数の突然変異部位が特定されており、認知症もしくは脳出血のいずれかと臨床的に関連している。上述のFAD突然変異に加えて、典型的なCAA障害は、アイスランド型のアミロイドーシスを伴う遺伝性脳出血(HCHWA-I);HCHWAのオランダ型突然変異(HCHWA-D;Aβにおける突然変異);Aβのフランドル型突然変異;Aβの北極型突然変異;Aβのイタリア型突然変異;Aβのアイオワ型突然変異;家族性英国型認知症;および家族性デンマーク型認知症を含むが、これらに限定されない。CAAは散発性である場合もある。
【0037】
用語「処置する」は、疾患もしくは状態、疾患もしくは状態の症状、または疾患もしくは状態のリスク(もしくは感受性)を治癒する、回復する、軽減する、緩和する、変える、矯正する、改良する、予防する、向上する、もしくは影響を及ぼすことを目的として、本発明の組成物の被験者への適用もしくは投与、または本発明の組成物の被験者からの細胞もしくは組織への適用もしくは投与を含み、被験者はAβアミロイド関連疾患もしくは状態を有する、そのような疾患もしくは状態の症状を有する、またはそのような疾患もしくは状態のリスクがある(もしくは感受性がある)。用語「処置する」は、軽減;寛解;症状の低減または傷害、病状もしくは状態を被験者に対しより耐容できるようにすること;変性もしくは衰退の速度を遅らせること;変性の最終点の衰弱を抑えること;被験者の身体的もしくは精神的幸福を改善すること;または、いくつかの状況では、認知症の発症を予防することのような、任意の客観的もしくは主観的パラメーターを含む、傷害、病状もしくは状態の処置または改良における成功の任意のしるしを意味する。処置は、治療もしくは予防である。症状の処置もしくは改良は、身体検査、精神医学的評価、もしくはCDR、MMSE、ADAS-Cog、もしく当技術分野において公知の他の試験などの認識力テストの結果を含む、客観的または主観的パラメーターに基づくことができる。例えば、本発明の方法は、認知機能低下の速度を遅らせる、もしくは程度を下げることによって被験者の認知症をうまく処置する。
【0038】
用語「被験者」は、Aβアミロイドーシスが発生し得る、もしくはAβアミロイド疾患、例えばアルツハイマー病等に感受性の生物を含む。被験者の例には、ヒト、ニワトリ、アヒル、北京ダック、ガチョウ、サル、シカ、ウシ、ウサギ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ネコ、マウス、ラット、およびそれらのトランスジェニック種が含まれる。用語「被験者」は好ましくは、例えば哺乳動物、例えばヒト、の神経細胞死によって特徴づけられる状態に感受性の動物を含む。動物は、障害に対する動物モデル、例えばアルツハイマー型神経病理学でのトランスジェニックマウス、でありえる。好ましい態様において、被験者は、アルツハイマー病、パーキンソン病等のような神経変性疾患に悩むヒトである。処置される被験者への本発明の組成物の投与は、公知の手段を用いて、本明細書においてさらに記載されるように、例えば被験者におけるアミロイド凝集もしくはアミロイド誘導性の毒性を調節するために、または被験者における認知低下を安定させるために、Aβアミロイド関連疾患、例えばアルツハイマー病、を処置もしくは予防するために有効な用量または期間で実施することができる。
【0039】
本発明の特定の態様において、被験者は、本発明の方法によって処置を必要とし、またこの必要に基づいて処置のために選択される。処置の必要のある被験者は、当技術分野において認められており、Aβアミロイド沈着もしくはアミロイドーシスに関連する疾患もしくは障害を有するとして同定されている、そのような疾患もしくは障害の症状を有し、またはそのような疾患もしくは障害のリスクがあり、かつ診断、例えば医学的診断に基づいて処置から利益(例えば、疾患もしくは障害、疾患もしくは障害の症状、または疾患もしくは障害のリスクを治癒する、回復する、予防する、緩和する、軽減する、変える、矯正する、改良する、改善する、または影響を及ぼす)を受けると思われる被験者を含む。
【0040】
さらなる態様において、被験者は、臨床認知症尺度(「CDR」)、アルツハイマー病評価尺度-認知機能評価(「ADAS-Cog」)、またはミニメンタルステート検査(「MMSE」)のような認知機能試験によって、潜在的に危険な状態にあることが示されている。被験者は、同様の年齢および教育的背景の歴史的対象と比較して、認知機能試験で平均より悪い点数を示すことがある。被験者はまた、同じもしくは同様の認知機能試験で、被験者の前回の点数と比較して点数が悪い場合がある。
【0041】
CDRの測定において、被験者は典型的には、6つの認知および行動カテゴリーの各々において評価されランク付けされる:記憶、見当識、判断および問題解決、社会事柄、家庭および趣味、ならびに身の回りの世話。評価は、被験者、もしくは好ましくは被験者をよく知るコラボレーターによって提供される歴史的情報を含んでいてよい。被験者は、これらの領域各々において評価され、ランク付けされ、総合評価法、(0、0.5、1.0、2.0または3.0)を測定される。0の評価が正常とみなされる。1.0の評価は軽度の認知症に相当するとみなされる。0.5のCDRの被験者は軽度の一貫した健忘症、事象の部分的な回想および「良性の」健忘症によって特徴づけられる。一つの態様において、被験者はCDRで0より上、約0.5より上、約1.0より上、約1.5より上、約2.0より上、約2.5より上、もしくは約3.0、と評価される。
【0042】
他の試験は、Folstein "Mini-mental state. A practical method for grading the cognitive state of patients for the clinician." J. Psychiatr. Res. 12:189-198, 1975によって記載されている、ミニ-メンタルステート検査(MMSE)である。MMSEは包括的な知能低下の存在を評価する。Folstein "Differential diagnosis of dementia. The clinical process." Psychiatr Clin North Am. 20:45-57, 1997も参照のこと。MMSEは、アルツハイマー病および多発梗塞性認知症において見られるような、認知症の発症および包括的な知能低下の存在を評価するための手段である。MMSEは1〜30点までで採点される。MMSEは、例えばいわゆるIQテストのような基本的な認知潜在能力を評価するものではない。代わりに、MMSEは知的技能をテストする。「正常」な知力の者はMMSE客観的試験で「30点」を得点するだろう(しかし、30点のMMSE得点の者が、IQテストで「正常」をはるかに下回る得点を示す場合もある)。例えば、Kaufer, J. Neuropsychiatry Clin. Neurosci. 10:55-63, 1998; Becke, Alzheimer Dis Assoc Disord. 12:54-57, 1998; Ellis, Arch. Neurol. 55:360-365, 1998; Magni, Int. Psychogeriatr. 8:127-134, 1996; Monsch, Acta Neurol. Scand. 92:145-150, 1995参照。一つの態様において、被験者はMMSEで少なくとも1回は30点未満を得点する。他の態様において、被験者は約28点未満、約26点未満、約24点未満、約22点未満、約20点未満、約18点未満、約16点未満、約14点未満、約12点未満、約10点未満、約8点未満、約6点未満、約4点未満、約2点未満、あるいは約1点未満を得点する。
【0043】
認識力、特にアルツハイマー病を評価するための他の手段には、アルツハイマー病評価尺度(ADAS-Cog)、もしくは標準化アルツハイマー病評価尺度(SADAS)と呼ばれるバリエーションがある。これは、認識衰退によって特徴づけられるアルツハイマー病および関連障害の臨床薬物試験における有効性尺度として一般的に用いられる。SADASおよびADAS-Cogはアルツハイマー病を診断するために設計されたものではない;これらは認知症の症状の特徴づけにおいて有用であり、認知症進行の比較的感度の良い指標である(例えば、Doraiswamy, Neurology 48:1511-1517, 1997; および Standish, J. Am. Geriatr. Soc. 44:712-716, 1996.参照)。未処置のアルツハイマー病患者における毎年の悪化は、1年あたり約8点である(例えば、Raskind, M Prim. Care Companion J Clin Psychiatry 2000 Aug; 2(4):134-138参照)。
【0044】
ADAS-cogは、アンケートを利用して、ADにおいて見られるような認識衰退の進行および重症度を、70点の尺度で評価するように設計されている。ADAS-cog尺度は、誤った回答の数を計る。従って、該尺度における高得点は、認識衰退のより重度の症例を示す。一つの態様において、被験者は0点よりも高い、約5点よりも高い、約10点よりも高い、約15点よりも高い、約20点よりも高い、約25点よりも高い、約30点よりも高い、約35点よりも高い、約40点よりも高い、約45点よりも高い、約50点よりも高い、約55点よりも高い、約60点よりも高い、約65点よりも高い、約68点よりも高い、もしくは約70点の得点を示す。
【0045】
他の態様において、被験者はアルツハイマー病の症状を全く示さない。他の態様において、被験者は少なくとも40歳で、アルツハイマー病の症状を全く示さないヒトである。他の態様において、被験者は少なくとも40歳で、アルツハイマー病の一つもしくは複数の症状を示すヒトである。
【0046】
他の態様において、被験者は軽度認識障害を有する。さらなる態様において、被験者は約0.5のCDR評点を有する。他の態様において、被験者は初期アルツハイマー病を有する。他の態様において、被験者は脳アミロイド血管症を有する。
【0047】
他の態様において、本発明の化合物は、被験者の血漿もしくは脳脊髄液(CSF)におけるアミロイドβペプチドのレベルを、処置前のレベルから約10〜約100パーセント、または約50〜約100パーセント減らすために十分な、処置に有効な用量で投与される。
【0048】
被検者の脳、CSF、血液、もしくは血漿中のアミロイドβペプチドの量は、Zhang, et al., J. Biol. Chem. 274, 8966-72 (1999) および Zhang, et al., Biochemistry 40, 5049-55 (2001)によって開示されているように、当業者には周知である酵素結合免疫吸着検定法(「ELISA」)または定量的免疫ブロット試験法または定量的SELDI-TOFによって評価することができる。A.K.Vehmas, et al., DNA Cell Biol. 20(11), 713-21 (2001), P.Lewczuk, et al., Rapid Commun. Mass Spectrom. 17(12), 1291-96 (2003); B.M.Austen, et al., J. Peptide Sci. 6, 459-69 (2000); および H.Davies, et al., BioTechniques 27, 1258-62 (1999)も参照。これらの試験は、当業者に周知の様式で調製された脳もしくは血液の試料に対して行われる。アミロイドβペプチドのレベルを測定するための有用な方法の他の例は、ユーロピウム免疫アッセイ(EIA)によるものである。例えば国際公開公報第 99/38498 号の p.11を参照。
【0049】
他の態様において、被験者は例えばアルツハイマー病、認知症、血管性認知症、もしくは老年性認知症、軽度認知障害、もしくは初期アルツハイマー病を有する(または進行しやすい、もしくは疑いがある、もしくはリスクがある)場合もある。アルツハイマー病に加えて、被験者は、脳アミロイド血管障害のような例えば他のAβアミロイド関連疾患を有していることもあり、または被験者はアミロイド沈着物、特に脳におけるアミロイドβアミロイド沈着物を有していることもある。さらなる態様において、被験者は脳画像診断技術、例えば脳の活性、斑沈着、もしくは脳の委縮を測定する技術、によってリスクがあることを示される。
【0050】
他の態様において、本発明はAβアミロイド関連疾患を患っている被験者において認知を改善するための方法に関する。この方法は、被験者の認知が安定化され改善されるような、本発明の化合物の有効量を投与する段階を含む。被験者の認知は、臨床認知症尺度(「CDR」)、ミニメンタルステート検査(「MMSE」)、およびアルツハイマー病評価尺度認知機能評価(「ADAS-Cog」)のような、当技術分野において公知の方法を用いて試験することができる。
【0051】
一つの態様において、本発明の化合物は、被験者のCDRのベースライン評点もしくは0点でCDR評点を維持するために十分な、処置に有効な用量で投与される。他の態様において、本発明の化合物は、被験者のCDR評点を、約0.25以上、約0.5以上、約1.0以上、約1.5以上、約2.0以上、約2.5以上、もしくは約3.0以上、低下させる(すなわち、改善させる)ために十分な、処置に有効な用量で投与される。他の態様において、本発明の化合物は、歴史的対照と比較して、被験者のCDR評点の増加速度を低下させるために十分な、処置に有効な用量で投与される。他の態様において、本発明の化合物は、歴史的もしくは未処置の対照の増加の、約5%以上、約10%以上、約20%以上、約25%以上、約30%以上、約40%以上、約50%以上、約60%以上、約70%以上、約80%以上、約90%以上、もしくは約100%ほど、被験者のCDR評点の増加速度を低下させるために十分な、処置に有効な用量で投与される。
【0052】
他の態様において、本発明の化合物は、被験者のMMSEの得点を維持するために十分な、処置に有効な用量で投与される。本発明の化合物は、被験者のMMSEの得点が、約1、約2、約3、約4、約5、約7.5、約10、約12.5、約15、約17.5、約20、もしくは約25点増加するために十分な、処置に有効な用量で投与される。他の態様において、本発明の化合物は、歴史的対照と比較して被験者のMMSE得点の低下速度を減らすために十分な、処置に有効な用量で投与される。他の態様において、本発明の化合物は、被験者のMMSE得点の低下速度を、歴史的もしくは未処置の対象の低下の、約5%以上、約10%以上、約20%以上、約25%以上、約30%以上、約40%以上、約50%以上、約60%以上、約70%以上、約80%以上、約90%以上、もしくは約100%以上だけ減らすために十分な、処置に有効な用量で投与される。
【0053】
さらに他の態様において、本発明の化合物は、被験者のADAS-Cogの得点を維持するために十分な、処置に有効な用量で投与される。他の態様において、本発明の化合物は、被験者のADAS-Cogの得点を、約1点以上、約2点以上、約3点以上、約4点以上、約5点以上、約7.5点以上、約10点以上、約12.5点以上、約15点以上、約17.5点以上、約20点以上、もしくは約25点以上、減らすために十分な、処置に有効な用量で投与される。本発明の化合物はまた、被験者のADAS-Cog得点の増加速度を歴史的対照と比較して減らすために十分な、処置に有効な用量で投与される。他の態様において、本発明の化合物は、被験者のADAS-Cog得点の増加速度が、歴史的もしくは未処置対象と比較して、約5%以上、約10%以上、約20%以上、約25%以上、約30%以上、約40%以上、約50%以上、約60%以上、約70%以上、約80%以上、約90%以上、もしくは約100%低下するために十分な、処置に有効な用量で投与される。さらなる態様において、本発明の化合物は、ADAS-Cogによって計測されるような被験者の認知が一年を通して一定であるように、認知と関連するAβアミロイド関連疾患を処置、減速もしくは停止するため、処置に有効な用量で投与される。「一定」とは、2点以下のゆらぎを含む。残りの一定は、いずれかの方向において、2点もしくはそれ未満のゆらぎを含む。
【0054】
他の態様において、本発明はまた、被験者におけるカルボキシアルキルスルホン酸反応状態を処置するための方法に、少なくとも一部関する。この方法はカルボキシアルキルスルホン酸反応状態が、被験者において処置されるように、式(I)の化合物を含む薬学的組成物の有効量を、必要な被験者に投与する段階を含む。
【0055】
用語「カルボキシアルキルスルホン酸反応状態(carboxyalkylsulfonic acid responsive states)」は、本発明の化合物の有効量の投与によって処置され得る状態を含む。カルボキシアルキルスルホン酸反応状態の例は、例えば、Aβアミロイド関連疾患、神経毒性に関する状態、および神経細胞死に関する状態を含む。神経毒性および神経細胞死は、例えば、神経系の正常な活動を変える、天然もしくは人工の毒性物質に起因する場合がある。神経毒性は、神経を最終的に崩壊もしくは死滅させる場合さえある。神経毒性および神経細胞死は、鉛および水銀のような重金属への曝露と同様に、化学療法、放射線治療、薬剤治療、および臓器移植において用いられる物質への曝露、特定の食品および食品添加物、農薬、工業用および/もしくは洗浄用溶剤、化粧品、ならびにアミロイドのようないくつかの天然に生じる物質に起因する。神経細胞死は、損傷、例えば虚血に起因し、または例えば神経変性疾患に関する、神経変性に起因する。
【0056】
本発明の他の態様は、神経保護が提供されるように、被験者に式(I)の化合物を投与する段階を含む、被験者に神経保護を提供する方法に関する。
【0057】
他の態様において、例えばアポトーシス、壊死等の神経細胞死を阻害する方法が提供される。他の態様において、例えば式(I)の化合物の有効量を投与することによって、Aβ誘導性神経細胞死を阻害する方法が提供される。
【0058】
他の態様において、例えば、式(I)の化合物の有効量を投与することによって、被験者における神経細胞死によって特徴づけられる疾患状態を処置する方法が提供される。さらに他の態様において、例えば式(I)の化合物の有効量を投与することによって、Aβ誘導性神経細胞死によって特徴づけられる疾患状態を処置する方法が提供される。
【0059】
用語「神経保護」は、細胞骨格の不安定化;DNA断片化;ホスホリパーゼA2などの加水分解酵素の活性化;カスパーゼ、カルシウム活性化プロテアーゼおよび/もしくはカルシウム活性化エンドヌクレアーゼの活性化;マクロファージによって仲介される炎症;カルシウムの細胞への流入;細胞内の膜電位の変化;細胞-細胞情報交換の低下もしくは欠如につながる細胞間結合の崩壊;ならびに細胞死に関与する遺伝子の発現の活性化、などのプロセスの開始を引き起こしうる細胞死から被検者の神経細胞の保護を含むが、これらに限定されない。
【0060】
「神経細胞死関連状態」は、例えばAβ誘導性神経細胞死のような神経細胞死によって特徴づけられる障害、疾患もしくは状態を含む。そのような障害の例には、アルツハイマー病、Aβアミロイド関連疾患、アルツハイマー病に関連する認知症(例えばピック病など)、パーキンソンおよび他のびまん性Lewy小体病、多発性硬化症、筋萎縮性側索硬化症、進行性核上麻痺、ならびに海綿状脳炎が含まれる。
【0061】
さらなる態様において、本発明は、上述のように、式(I)の化合物を含む薬学的組成物に関する。薬学的組成物は、さらに薬学的に許容される担体を含む。さらなる態様において、本発明の化合物は、例えばアルツハイマー病、CAA等のようなAβアミロイド関連疾患を処置するための有効量において提供される。他のさらなる態様において、有効量はカルボキシアルキルスルホン酸反応状態を処置するために有効である。
【0062】
本発明は、さらに式(I)の化合物および/もしくはそれらの溶媒和物を含む薬学的組成物に関する。本明細書で用いられるように、用語「溶媒和物」は、有機もしくは無機で、一つもしくはそれ以上の溶媒分子と本発明の化合物との物理的結合を意味する。この物理的結合は水素結合を含む。場合によっては、溶媒和物は、例えば一つもしくはそれ以上の溶媒分子が結晶性固体の結晶格子内に組み込まれる場合、単離の能力がある。「溶媒和物」は、液相のおよび単離可能な溶媒和物の両方を包含する。典型的な溶媒和物には、水和物、エタノラート、メタノラート、ヘミエタノラート等が含まれる。
【0063】
本発明の化合物を含む薬学的組成物は、例えば不活性希釈剤もしくは同化食用担体と共に、経口投与することができる。本発明の化合物および他の材料はまた、ゼラチン硬もしくは軟カプセルに封入する、錠剤に圧縮する、または被験者の食事に直接組みこむことができる。経口の治療的投与のために、該化合物は賦形剤と共に組み込まれ、かつ摂取可能な錠剤、口腔錠、トローチ、カプセル、ウエハー等の形状にて用いられる。組成物および製剤中の該化合物のパーセンテージは、当然のことながら、変動しうる。そのような処置上有用な組成物における本発明の化合物の量は、適切な用量が得られるようなものである。
【0064】
投与を容易にし、また用量を均一にするために、非経口の組成物を、用量単位形状に製剤化することは特に有益である。本明細書において用いられる用量単位形状とは、処置される被験者のための単位用量として適した、物理的に分離した単位を意味し;各単位は、所望の治療効果を生じるように計算された化合物の予め決められた量を、必要な薬学的媒体と共に含む。本発明の用量単位形状の明細は、(a)化合物の特有の性質および達成される特定の治療効果、ならびに(b)被験者におけるアミロイド沈着の処置のための、そのような化合物を配合する当技術分野に固有の制限によって規定され、直接依存する。
【0065】
本発明は、従って、経口および非経口投与のための、薬学的に許容される媒体において、本発明の化合物を含む薬学的製剤を含む。本発明に従って、本発明の化合物は、固体として経口的にもしくは吸入により投与される。
【0066】
薬学的組成物は、標準的な方法によって、典型的にpHもしくは時間依存性コーティングで、対象の薬剤が所望の局所適用の近辺における胃腸管において、もしくは所望の作用を延長するために様々な時点で、放出されるようにコーティングされてもよい。そのような用量形状は典型的には、酢酸フタル酸セルロース、酢酸フタル酸ポリビニル、フタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース、エチルセルロース、ワックス、およびシェラックの一つもしくは複数を含むが、これらに限定されない。
【0067】
対象の薬剤の全身性送達を達成するために有用な他の組成物には、舌下、口腔内および鼻内用量形状が含まれる。そのような組成物は典型的に、例えばスクロース、ソルビトール、およびマンニトール等の可溶性充填物質;ならびに例えばアカシア、微結晶性セルロース、カルボキシメチルセルロース、およびヒドロキシプロピルメチルセルロース等の結合剤、の一つもしくは複数を含む。当業者において周知である滑沢剤、潤滑剤、甘味料、着色料、抗酸化剤、および着香剤も含まれていてよい。
【0068】
一つの態様において、本発明の化合物は、被験者におけるAβアミロイド沈着を阻害する、および/もしくは被験者におけるAβアミロイド関連疾患を処置するのに十分な処置上有効な用量で投与される。「有効な」用量は、例えば、未処置の被験者と比較して、少なくとも約20%、もしくは少なくとも約40%、もしくはさらに少なくとも約60%、もしくは約80%Aβアミロイド沈着を阻害する。他の態様において、「処置上有効」な用量は、例えばアルツハイマー病、CAA等を有する被験者の、被験者において認知機能を安定化させ、もしくは認知機能におけるさらなる低下を予防する(即ち、疾患進行を予防、減速、もしくは停止する)。
【0069】
さらに化合物は、例えばAβ40もしくはAβ42のアミロイドタンパク質の被験者における沈着を減少させるために、処置上有効な用量で投与されてもよい。処置上有効な用量は、例えば未処置の被験者と比較して、少なくとも約15%、もしくは少なくとも約40%、もしくはさらに少なくとも約60%、もしくは少なくとも約80%アミロイド沈着を減少させる。
【0070】
適当な用量は、通常の技能を有する医師、獣医師、もしくは研究者の知識範囲内のいくつかの因子に依存することが理解される。化合物の用量は、例えば処置中の被験者もしくは試料の同一性、大きさ、および状態に依存し、さらに適用可能な場合、化合物が投与される経路、および化合物が被験者に対して有することを施術者が望む効果、に依存し変動する。例示的用量は、被験者もしくは試料重量1キログラムあたりのミリグラムもしくはマイクログラム量の化合物(例えば、1キログラムあたり約50マイクログラムから1キログラムあたり約500ミリグラム、1キログラムあたり約1ミリグラムから1キログラムあたり約100ミリグラム、1キログラムあたり約1ミリグラムから1キログラムあたり約50ミリグラム、1キログラムあたり約1ミリグラムから1キログラムあたり約10ミリグラム、または1キログラムあたり約3ミリグラムから1キログラムあたり約5ミリグラム)を含む。さらなる例示的用量は、約5から約500 mg、もしくは約25から約300 mg、もしくは約25から約200 mg、好ましくは約50 mgから約150 mg、より好ましくは約50、約100、約150 mg、約200 mg、もしくは約250 mg、ならびに好ましくは毎日もしくは1日2回、またはより低いもしくはより高い量の用量を含む。
【0071】
適切な用量は、効能に依存することがさらに理解される。そのような適切な用量は、本明細書に記載されるアッセイを用いて決定することができる。これらの化合物の一つもしくは複数が動物(例えばヒト)に投与される場合、医師、獣医師、もしくは研究者は例えば、最初は比較的低い用量を処方し、その後適切な反応が得られるまで用量を増やしてもよい。さらに、任意の特定の動物被験体に対する特定の用量レベルは、利用された特定の薬剤の活性、被験者の年齢、体重、全般的健康、性別、および食事、投与の時間、投与経路、排出速度、ならびに任意の併用薬剤を含む様々な因子に依存することが理解される。
【0072】
本発明の化合物の試験のための標準的方法
本発明による化合物は、神経保護を提供および/もしくは神経細胞死を予防するそれら能力を確認するために、インビトロアッセイ、またはインビボアッセイの変化を利用して、さらに分析、試験または検証されうる。そのような指標の例は、細胞増殖、遺伝子もしくはタンパク質発現解析による毒物分析に対する細胞経路の活性化の測定、DNA断片化、細胞膜の組成における変化、膜透過性、致死受容体もしくはシグナル経路下流の要素の活性化(例えばカスパーゼ)、一般的なストレス反応、マイトジェンに対するNFκB活性化ならびに反応を含むが、これらに限定されない。関連アッセイが、cGMP形成およびNO形成を含む、アポトーシス(細胞死のプログラムされたプロセス)および壊死のためのアッセイに用いられる。以下は、化合物が神経損傷もしくは疾患に対して、保護効果を有するかどうか評価するために実施できる生物学的なアッセイの型の事例である。
【0073】
A. 形態学的変化
多くの細胞型におけるアポトーシスは、変化した形態学的な外観と関連している。そのような変化の例には、血漿膜ブレブ形成、細胞形状の変化、基質接着特性の欠失などが含まれるが、これらに限定されない。そのような変化は、光学顕微鏡で簡単に検出されうる。アポトーシスが行われている細胞は、また断片化および染色体の崩壊によって検出できる。これらの変化は光学顕微鏡および/またはDNAもしくはクロマチン特異的色素を用いて検出できる。
【0074】
B. 変化した膜透過性
アポトーシスが行われている細胞の膜はしばしば、次第に透過性になる。膜特性におけるこの変化は、生体染色色素(例えば、プロピジウムヨウ化物およびトリパンブルー)を用いて検出できる。色素は壊死細胞の存在を検出するために用いられる。例えば、Molecular Probesから入手可能なgreen-fluorescent LIVE/DEAD Cytotoxicity Kit #2を利用した特定の方法。色素は細胞のアミン基に特異的に反応する。壊死細胞においては、全ての遊離アミン在中物が色素との反応に利用され、従って極めて強い蛍光染色となる。対照的に、生存細胞では細胞表面のアミンだけが色素と反応するために利用できる。従って生存細胞に対する蛍光強度は、壊死細胞に比較して有意に減少する(例えばHaugland, 1996 Handbook of Fluorescent Probes and Research Chemicals, 6th ed., Molecular Probes, OR参照)。
【0075】
C. ミトコンドリア膜電位の機能不全
ミトコンドリアは、高等生物の細胞における主なエネルギー源として、様々な細胞のプロセスの直接的および非直接的な生化学的調節を提供する。これらのプロセスは、アデノシン三リン酸(すなわちATP)の形状において、代謝エネルギーを産生するために酸化的リン酸反応を促進する、電子伝達系活性を含む。変化したもしくは障害のあるミトコンドリア活性は、「透過性遷移」もしくはミトコンドリア透過性遷移と呼ばれるミトコンドリア崩壊をもたらすことがある。適切なミトコンドリアの機能は、膜を超えて確立された膜電位の維持に必要である。膜電位の消失は、ATP合成を妨げ、従って生命維持に必要な生化学的エネルギー源の産生が停止もしくは制限される。
【0076】
従って、毒性および細胞死を評価するために設計された種々のアッセイは、ミトコンドリア膜電位もしくはミトコンドリア透過性遷移における試験薬剤の効果を測定することを含む。一つのアプローチは、蛍光標識の利用である(例えば、Haugland, 1996 Handbook of Fluorescent Probes and Research Chemicals, 6th ed., Molecular Probes, OR, pp. 266-274 and 589- 594参照)。様々な非蛍光プローブも利用できる(例えば、Kamo et al. (1979) J. Membrane Biol. 49:105参照)。ミトコンドリア膜電位はまた、ミトコンドリア膜透過性から間接的に計測することができる(例えばQuinn (1976) The Molecular Biology of Cell Membranes, University Park Press, Baltimore, Md., pp. 200-217参照)。そのようなアッセイを実施するための方法のさらなる手引きは、Dykens らへのPCT国際公報第00/19200号中に提供されている。
【0077】
D. カスパーゼ活性化
アポトーシスは、プログラム化された細胞死のプロセスであり、細胞がもはや必要とされない、もしくは深刻なダメージを受けた際の、遺伝的プログラムの活性化を含む。アポトーシスは生化学的な事象のカスケードを含み、異なる多数の遺伝子の調節の下にある。遺伝子のある群はアポトーシスのエフェクターとして作動し、遺伝子のインターロイキン1β変換酵素(ICE)ファミリーと称される。これらの遺伝子は、アポトーシスにおいて活性が増大する、システインプロテアーゼのファミリーをコードする。プロテアーゼのICE遺伝子は、一般的にカスパーゼ酵素と称される。「カスパーゼ」はアスパラギン酸残基の後ろで切断するこれらの酵素の能力を参照するが、この名前における「C」は、該酵素がシステインプロテアーゼである事実を反映する。
【0078】
従って、アポトーシスに対するいくつかのアッセイは、カスパーゼがアポトーシスの間誘導される観察に基づいている。これらの酵素の誘導は、これらの酵素に対して特異的に認識される基質の切断を測定することによって検出できる。天然および人工のタンパク質基質の多くが公知である(例えば、Ellerby et al. (1997) J. Neurosci. 17:6165; Kluck, et al. (1997) Science 275:1132; Nicholson et al. (1995) Nature 376:37; および Rosen and Casciola- Rosen (1997) J. Cell Biochem. 64:50参照)。これらのアッセイにおいて用いられる異なる基質の多くを準備するための方法は、米国特許第5,976,822号に記載されている。この特許はまた、ここに記載されたマイクロ流体素子のいくつかに適用できる全細胞を用いて行われ得るアッセイについても記載している。FRET技術を用いる他の方法は、Mahajan, et al. (1999) Chem. Biol. 6:401-9; and Xu, et al. (1998) Nucl. Acids. Res. 26:2034-5において論じられている。
【0079】
E. チトクロームC放出
健康な細胞では、内部のミトコンドリアの膜は、高分子に対して不浸透性である。従って、細胞アポトーシスの一つの指標は、ミトコンドリアからのチトクロームCの放出もしくは漏出である。チトクロームCの検出は、タンパク質の特有の吸収性質のために、分光法を用いて行われる。従って、本発明のデバイスによる一つの検出オプションは、ホールディングスペースの中に細胞を置き、チトクロームCに対する特有の吸収波長での吸光度を計測することである。または、タンパク質は、チトクロームCに特異的に結合する抗体による標準的な免疫学的方法(例えばELISAアッセイ)を用いて検出できる(例えばLiu et al. (1996) Cell 86:147参照)。
【0080】
F. 細胞溶解に対するアッセイ
細胞死の最後の段階は、通常、細胞の溶解である。細胞が死ぬと、それらは通常、ヌクレオチドおよび様々な他の物質(例えば、タンパク質および炭水化物)を含む化学物質の混合物を、それらの周囲に放出する。放出された物質のいくつかは、ADPおよびATP、ならびに酵素アデニル酸シクラーゼ(これは過剰なADPの存在においてADPからATPへの変換を触媒する)を含む。従って、特定のアッセイは、ATPの生成に向かう平衡を促進するために、アッセイ培地中に十分なADPを提供することを伴う。このATPは、多くの異なる手段を通して後に検出できる。一つのそのようなやり方は、当業者に周知であるルシフェリン/ルシフェラーゼ系を利用することである。この方法では、酵素ルシフェラーゼがATPと基質ルシフェリンを利用して、測光法で検出可能なシグナルを生成する。実行可能な特定の細胞溶解アッセイに関するさらなる詳細は、PCT公報国際公開公報第00/70082号に記述されている。
【0081】
G. 虚血モデルシステム
化合物が虚血および卒中に対して神経保護効果を与えることができるかどうかアッセイするための方法は、Aartsらによって論じられている(Science 298:846-850, 2002)。通常、このアッセイは、比較的短時間(例えば約90分)、中大脳動脈閉塞(MCAO)をラットに起こさせることを含む。MCAOは、腔内縫合方法を含む様々な方法を用いて誘導できる(例えばLonga, E. Z. et al. (1989) Stroke 20:84; およびBelayev, L., et al. (1996) Stroke 27:1616参照)。推定される阻害剤を含む組成物が、従来の方法(例えば静脈注射)を用いてラットに導入される。組成物の予防効果を評価するためには、MCAOを行う前に組成物が投与される。もし化合物が既に発生した虚血事象を軽減するその能力について評価される場合には、その化合物の組成物はMCAOが開始された後に導入される。脳梗塞の範囲は、それから神経機能の様々な測定を用いて評価される。そのような計測の例には、姿勢反射試験(Bederson, J. B. et al. (1986) Stroke 17:472)、前肢置き試験(De Ryck, M. et al. (1989) Stroke 20:1383)が含まれる。方法は、また、Aarts et al.にも記載されており、インビトロアッセイを用いてNMDA誘導性興奮毒性の効果が評価されている。
【0082】
H. MTT細胞毒性アッセイ
MTTアッセイは神経細胞における細胞毒性を評価するために広く用いられているもう一つの方法である。細胞の毒性は、製造業者の推奨に従って、3-(4,5-ジメチルチアゾル-2-イル)-2,5-ジフェニルテトラゾリウムブロマイド(MTT)アッセイ(Trevigen, Gaithersburg, Md.)を用いて評価することができる。
【0083】
I. トリパンブルー細胞生存能力測定
細胞生存能力は、我々が先に記載したように、トリパンブルー排除方法を用いて計測できる。Yaoら著、「イチョウ抽出物EGb 761が、βアミロイド生成性拡散性神経毒性リガンドの形成を阻害することによって、PC12神経細胞をβアミロイド誘導性細胞死から救う」(Brain Res., 889, 181-190 (2001))。
【0084】
J. 細胞のATPレベルの測定
細胞のATPレベルは細胞の生存能力の指標となる。細胞のATP濃度は、ATPLite-M(登録商標) luminescence assay(Packard BioSciences Co.)を用いて計測することができる。例えば、このアッセイにおいて、細胞は通常、製造業者の推奨に従って、黒色96穴ViewPlate(登録商標)上で培養され、ATP濃度はTopCount NXT(登録商標) counter (Packard BioSciences Co.)で計測される。
【0085】
K. 動物モデル
様々な動物モデルが、本発明による化合物の有効性および/もしくは効力のために用いられる。例えば、特定のトランスジェニック動物モデルは、例えば米国特許番号第5,877,399号、第5,612,486号、第5,387,742号、第5,720,936号、第5,850,003号、第5,877,015号、および第5,811,633号において、ならびにGanes et al., 1995, Nature 373:523において記載されている。望ましいのは、ADの病態生理に関連した特徴を示す動物である。本明細書において記載されたトランスジェニックマウスへの本発明の化合物阻害剤の投与は、化合物の阻害活性を明示するための代わりの方法を提供する。適切な処置量で標的組織に達する、薬学的に有用な担体および投与経路における化合物の投与も望ましい。
【0086】
当業者であれば、日常的実験だけを用いて、本明細書に記載の特定の方法、態様、特許請求の範囲、および実施例に対する多くの等価物を理解する、または確認することができるであろう。そのような等価物は本発明の範囲内であり、添付の特許請求の範囲の対象であると考えられる。本出願の全体を通して引用される、すべての参考文献、発行された特許、および公開された特許出願の内容は、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。本発明を、以下の実施例によってさらに詳しく例示するが、これらはさらなる制限と解釈すべきではない。
【0087】
実施例
実施例1:初期ラットニューロンおよび神経細胞腫SH-SY5Yにおけるヘキスト(Hoechst)染色
【0088】
初期ラットニューロンの準備
初期ラットニューロンは、標準的な文献技術に基づいて単離され、培養された。
【0089】
ヒト未分化神経細胞腫SH-SY5Yの維持
材料

【0090】
手順
SH-SY5Y細胞は、ATCCのアドバイスに基づき、培養され、継代培養された。つまり細胞を、イーグル最小必須培地およびハムF12培地の1:1混合物において、10%ウシ胎仔血清(FBS)、1倍の非必須アミノ酸を含む培養培地において生長させた。
【0091】
継代のために、細胞は0.25%(w/vol)トリプシン/エチレンジアミン四酢酸(EDTA)で5分間37℃でトリプシン処理され、その後300 x g(GS-6RTMベックマン遠心分離機)で5分間遠心分離された。ペレットは培養培地中に再懸濁され、細胞密度が調整された。
【0092】
3 Aβおよび試験化合物の準備
1-42の準備
合成のAβ1-42は、アメリカンペプチドカンパニー、サニーベール、カリフォルニアから購入された。Aβ1-42原液は、標準的な文献手順BCM-6012-02に基づいて調製された。
【0093】
可溶性Aβ1-42溶液は、HFIPを取り除くために蒸発処理され、最終濃度120μMで、0.04 M Tris-HCl、0.3 M NaCl、pH 7.4を含むバッファー中に再懸濁された。この溶液は後日使用するために冷凍保存された。
【0094】
試験化合物の準備

【0095】
試験化合物は、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)(カルシウムおよびマグネシウムを含まない)、1 % ジメチルスルホキシド(DMSO)、pH 7.4に溶解させ、0.22μmシリンジフィルターを通してろ過され、等分され、使用するまで-80℃で保存された。
【0096】
4 細胞処理
初期ラットニューロン
単離に続いて、初期ラットニューロンは、24ウェルプレートにおいて、105 細胞/ウェルの密度で、ポリ-L-リジン(Sigma, cat. # P-7890)でコートされたガラスカバースリップ(Fisher, cat. # 12-545-82)上に播かれた。処理は4日齢培養物について実施された。細胞は、100μM試験化合物の存在下または非存在下において、120μMの原液から(Neurobasal培地において)希釈された5μMのAβ1-42(1:20のAβ:薬剤比)と共に72時間インキュベートされた。
【0097】
SH-SY5Y
SH-SY5Y細胞は、3 x 105細胞/ウェルの密度で24ウェルプレートにおいてガラスカバースリップ上に播かれた。処理は次の日に行われた。細胞は、200μM試験化合物の存在下または非存在下で120μMの原液から(培養培地において)希釈された10μMのAβ1-42(1:20のAβ:薬剤比)と共に24時間インキュベートされた。
【0098】
5 ヘキスト染色
材料

【0099】
手順
ヘキスト33342の原液は、水で100μg/mlに希釈され、2〜8℃で保存された。初期ラットニューロンまたは神経細胞腫SH-SY5Y細胞は、培養培地において最終濃度2μg/mlで、ヘキスト溶液500μlと共に10〜60分の間インキュベートされた。細胞はPBSで3回洗浄された。初期ラットニューロンは、室温で5分間、氷冷メタノール中で固定され、SH-SY5Y細胞は、室温で30分間、4% PFA中で固定された。PBSで3回洗浄後、カバースリップがプロロング褪色防止剤を用いてガラススライド上に載せられた。
【0100】
カウント方法およびデータ解析
核形態は、Olympus(商標)カメラ(20倍オブジェクティフおよび帯域通過フィルター(Ex/Em: 355 nm/465 nm))が装着されたOlympus(商標)蛍光顕微鏡IX50(商標)を用いて観察された。生細胞および形態学的にアポトーシスと考えられた細胞がカウントされた。初期ラットニューロンのアポトーシス核は、(明るい青として視覚化される)断片化および凝縮化の両方を示し、一方でアポトーシス性の未分化SH-SY5Yは、より頻繁に凝縮化を示し、ほんの時々断片化を示す。
【0101】
ブラインド法により、5つのランダムなフィールドが各条件から得られた。各フィールドにおけるアポトーシス性および正常な核は、人力による調査によって定量化された。
【0102】
データは、総細胞(アポトーシス+非アポトーシス細胞)数で割ったアポトーシス細胞の数に対応し、毒性のパーセンテージとして表わされる。各条件においてカウントされた細胞の総数は、初期ラットニューロンについては30〜180細胞(図1)、およびSH-SY5Yについては60〜550の範囲であった(図2)。
【0103】
データはSigmaPlot(商標)ソフトウェアで解析された。スチューデントt-検定(Excelソフトウェア)は、全試験から得られた平均値を用いて、化合物存在下におけるAβ処理とAβ処理単独における毒性%の比較に用いられた。t-検定ではP<0.05の有意水準が考慮された。
【0104】
これらの条件下で、2種の試験化合物である3-アミノ-1-プロパンスルホン酸(化合物A)および3-スルホ-1-プロパン酸ジナトリウム塩(化合物B)が、両方の解析において神経防護作用を呈することが観察された。
【図面の簡単な説明】
【0105】
【図1】初期ラットニューロンにおける、Aβ1-42誘導性アポトーシスについて、試験化合物の効果を示すバーグラフである。
【図2】神経細胞腫SH-SY5YにおけるAβ1-42誘導性アポトーシスについて、試験化合物の効果を示すバーグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)の化合物またはその薬学的に許容される溶媒和物、および薬学的に許容される担体を含む薬学的組成物:

式中
Xは各々独立して選択されるカチオン性基またはエステル形成基であり;かつ
nは0、1、2、3、4、5、6、7、または8である。
【請求項2】
Xが各々水素である、請求項1記載の薬学的組成物。
【請求項3】
Xが各々Na+である、請求項1記載の薬学的組成物。
【請求項4】
nが0である、請求項1〜3のいずれか1項記載の薬学的組成物。
【請求項5】
前記化合物が3-スルホ-1-プロパン酸ジナトリウム塩である、請求項1記載の薬学的組成物。
【請求項6】
Aβアミロイド関連疾患を処置するために有効な量の前記化合物を含む、請求項1〜5のいずれか1項記載の薬学的組成物。
【請求項7】
Aβアミロイド関連疾患がアルツハイマー病である、請求項6記載の薬学的組成物。
【請求項8】
Aβアミロイド関連疾患がCAAである、請求項7記載の薬学的組成物。
【請求項9】
カルボキシアルキルスルホン酸反応状態を処置するために有効な量の前記化合物を含む、請求項1〜5のいずれか1項記載の薬学的組成物。
【請求項10】
カルボキシアルキルスルホン酸反応状態が神経毒性に関連する、請求項9記載の薬学的組成物。
【請求項11】
式Iの化合物またはその薬学的に許容される溶媒和物の有効量を必要とする被験者に投与する段階を含む、被験者におけるAβアミロイド関連疾患を処置するための方法:

式中
Xは各々独立して選択されるカチオン性基またはエステル形成基であり;かつ
nは0、1、2、3、4、5、6、7または8である。
【請求項12】
Xが各々水素である、請求項11記載の方法。
【請求項13】
Xが各々Na+である、請求項11記載の方法。
【請求項14】
nが0である、請求項11〜13のいずれか1項記載の方法。
【請求項15】
前記化合物が3-スルホ-1-プロパン酸ジナトリウム塩である、請求項11〜14のいずれか1項記載の方法。
【請求項16】
被験者がヒトである、請求項11〜15のいずれか1項記載の方法。
【請求項17】
Aβアミロイド関連疾患がアルツハイマー病である、請求項11〜16のいずれか1項記載の方法。
【請求項18】
Aβアミロイド関連疾患がCAAである、請求項11〜16のいずれか1項記載の方法。
【請求項19】
式Iの化合物またはその薬学的に許容できる溶媒和物の有効量を必要とする被験者に投与する段階を含む、被験者におけるカルボキシアルキルスルホン酸反応状態を処置するための方法:

式中
Xは各々独立して選択されるカチオン性基またはエステル形成基であり;かつ
nは0、1、2、3、4、5、6、7または8である。
【請求項20】
カルボキシアルキルスルホン酸反応状態が神経毒性に関連する、請求項19記載の方法。
【請求項21】
前記化合物が3-スルホ-1-プロパン酸ジナトリウム塩である、請求項19または20記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2009−510050(P2009−510050A)
【公表日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−532908(P2008−532908)
【出願日】平成18年10月2日(2006.10.2)
【国際出願番号】PCT/IB2006/004011
【国際公開番号】WO2007/063428
【国際公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【出願人】(506365038)ベルス ヘルス (インターナショナル) リミティッド (4)
【Fターム(参考)】