説明

カルボキシメチル化ペプチドに対する抗体

【課題】カルボキシメチル化アミノ酸に対する抗体の提供。
【解決手段】側鎖のアミノ基がカルボキシメチル化されたアミノ酸と反応する抗体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンパク質又はペプチド中に存在する、カルボキシメチル化されたアミノ酸と反応する抗体、該抗体を用いた糖尿病合併症及び老化の進行度の評価方法、及び前記抗体の用途に関する。
【背景技術】
【0002】
生体中のタンパク質は還元糖と非酵素的に反応して糖化される。この反応は、一般的にメイラード反応と呼ばれており、前期段階及び後期段階の反応から構成される。
メイラード反応の前期段階は、タンパク質を構成するアミノ酸の側鎖アミノ基やN末端アミノ基が糖のカルボニル基と反応し、シッフ塩基を経由してアマドリ転位生成物を生成するというものである。この反応の生成物として、ヘモグロビンA1Cや糖化アルブミンが知られており、該生成物は糖尿病の臨床マーカーとして広く用いられている。基本的には、現在では生体内のすべてのタンパク質が糖化されると考えられており、その結果としてのタンパク質の機能障害が数多く報告されている。
【0003】
メイラード反応の後期段階は、前期段階により生成したアマドリ転位生成物が、脱水、酸化、縮合といった複雑な不可逆的反応を経て、蛍光性、褐色変化あるいは分子内・分子間架橋形成を特徴とするメイラード反応の最終生成物を生じる段階である。そして、後期段階の最終生成物はAGE(Advanced Glycation End products)と呼ばれる。
【0004】
AGEは、複数の構造体の集合であると考えられており、その定量は蛍光強度の測定、機器分析、抗原抗体反応などにより行われている。現在までにAGEの構造体として、ピラリン、ペントシジン、クロスリン、カルボキシメチルリシン(CML)などが提唱されている(Biochemistry vol.35, No.24, 8075-8083, 1996他)が、反応経路や構造体の存在意義に関しては未だに詳細になっていない。
【0005】
上記物理化学的な特色に加え、AGEはマクロファージの細胞膜レセプターによって特異的に認識されるという生物学的な特色を持ち、大いに注目されている。さらに、糖尿病や老化現象にみられる細小血管障害(腎症、網膜症、末梢神経障害など)、動脈硬化、白内障、皮膚・血管・関節の結合組織の硬化・肥厚など種々の組織障害部位にAGEの存在が確認されている(Horiuchi S. et al., Nephrol. Dial. Transplant. 11(5)(1996))。従って、AGEはこれらの組織障害の発症に深く関与していると考えられ、AGEに関し、医学研究や臨床検査の分野での重要性が増している。
【0006】
ところで、ブドウ糖由来アマドリ転位生成物の酸化的開裂による代表的な生成物であるカルボキシメチルリシン(CML)は、1986年に同定されて以来(Ahmed MU et al.,J. Biol. Chem.261, 4889-94(1986))、上述したような糖尿病や老化現象との関連で注目を集めてきた。ヒト皮膚コラーゲン中のCML濃度が、糖尿病患者で有意に高いとの報告(Dyer DG.et al.,J. Clin. Invest,91(6),2463-9(1993))をはじめとし、組織中のCML濃度が糖尿病の進行や加齢により有意に増加するという報告が多くなされてきた。また、AGEに対する抗体のエピトープに関する研究により、CMLはAGEの主要な構造体であることが明らかにされてきた(Ikeda K.et al., Biochem. 35, 8075-8083 (1996))。
【0007】
一方、近年、AGEの新たな構造体として、CMLに酷似した構造のカルボキシエチルリシン(CEL)が見出され、ガスクロマトグラフィー/質量分析法によりヒトのレンズ蛋白質中の濃度が加齢に伴い増加することが明らかとなった(Ahmed MU.et al.,Biochem Journal,324, 565-570(1997))。CELは、タンパク質中のリシンの側鎖がメチルグリオキサール(MGO)によりカルボキシエチル化(CE化)されると考えられている。MGOは、解糖系におけるトリオースリン酸の分解産物やアセトールの代謝産物として存在し、糖尿病患者の血液中で増加しているという報告がある(Mclellan AC et al., Clinical Science 87, 21-29 (1994))。また、invitroでも、高濃度の糖を含む培地で赤血球を培養すると細胞中のMGO濃度が上昇することが知られている。
上述したように、CMLおよびCELは、AGE構造体として重要であることが示されつつある。そこで、本発明者らは、AGE構造体として重要であるCMLと反応し、CELとは反応しない抗体を得ることができた(特開2000-219700号公報を参照。)。
【0008】
しかしながら、上記公報に開示された抗体は、カルボキシメチル化されたタンパク質と特異的に反応することでカルボキシメチル化タンパク質とカルボキシエチル化タンパク質とを識別することができるが、カルボキシメチル化タンパク質の検出感度としては十分ではなく、また、例えば数個のアミノ酸からなるカルボキシメチル化されたペプチド並びにカルボキシメチル化された遊離アミノ酸に対しては殆ど反応しなかった。したがって、上記公報に開示された抗体では、酵素処理や酸で加水分解した後のカルボキシメチル化ペプチド及びカルボキシメチル化アミノ酸を検出することができなかった。
【0009】
【非特許文献1】Biochemistry vol.35, No.24, 8075-8083, 1996
【非特許文献2】Ahmed MU et al.,J. Biol. Chem.261, 4889-94(1986)
【非特許文献3】Dyer DG.et al.,J. Clin. Invest,91(6),2463-9(1993)
【非特許文献4】Ikeda K.et al., Biochem. 35, 8075-8083 (1996)
【特許文献1】特開2000-219700号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、本発明は、カルボキシメチル化タンパク質を酵素処理や酸で加水分解した後の側鎖のアミノ基がカルボキシメチル化されたアミノ酸及び当該アミノ酸を含むペプチドと反応できる抗体、該抗体を用いた糖尿病合併症及び老化の進行度の評価方法、及び前記抗体の用途を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意研究行った結果、アミノ酸側鎖のアミノ基がカルボキシメチル化されたタンパク質又はペプチドを抗原として用い、カルボキシメチル化されたタンパク質又はペプチドをスクリーニングに用いることにより、タンパク質又はペプチド中に存在する、側鎖のアミノ基がカルボキシメチル化されたアミノ酸またはペプチドと反応する抗体の作製に成功し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、側鎖のアミノ基がカルボキシメチル化されたアミノ酸またはペプチドと反応する抗体である。
【0012】
カルボキシメチル化されたアミノ酸としては、例えばN-ε-カルボキシメチルリシンが挙げられる。また、ペプチドとしては、2個以上のアミノ酸からなるものを挙げることができる。さらに、前記抗体はポリクローナル抗体でもモノクローナル抗体でもよい。モノクローナル抗体としては、例えば受託番号がFERM P-18589であるハイブリドーマにより産生されるものが挙げられる。
【0013】
さらに、本発明は、前記抗体と、側鎖のアミノ基がカルボキシメチル化されたアミノ酸とを反応させることを特徴とするタンパク質中のカルボキシメチル化アミノ酸の測定方法である。
さらに、本発明は、前記抗体と、前記アミノ酸とを反応させることを特徴とする糖尿病合併症の評価方法である。糖尿病合併症としては、糖尿病性腎症、網膜症、神経障害などの糖尿病性細血管合併症、あるいは動脈硬化症に代表される糖尿病大血管合併症等が挙げられる。
【0014】
さらに、本発明は、前記抗体と、前記アミノ酸とを反応させることを特徴とする老化の進行度の評価方法である。
さらに、本発明は、前記抗体を含む、側鎖のアミノ基がカルボキシメチル化されたアミノ酸の検出用試薬である。
さらに、本発明は、前記抗体を含む、糖尿病合併症評価用試薬、老化の進行度評価試薬又は免疫組織染色用試薬である。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、CM化タンパク質、CM化ペプチド、CM化アミノ酸に特異的に反応するモノクローナル抗体が提供される。また、本発明により、糖尿病の検出方法、及び前記抗体の用途が提供される。
CM化タンパク質、CM化ペプチド、CM化アミノ酸は、糖尿病合併症にみられる組織障害の発症と進展に深く関連していることから、医学研究や臨床検査の領域で、糖尿病合併症などの臨床マーカーとして使用可能である。
【0016】
また、本発明の抗体の使用により、CM化タンパク質におけるCM化アミノ酸量を好感度に測定することができる。これにより、試料中に含まれるCM化タンパク質におけるCML量を定量的に検出することができ、糖尿病又は老化現象とCM化タンパク質等との関連について、より詳細に検討することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0018】
本発明は、側鎖のアミノ基がカルボキシメチル化されたアミノ酸(以下、「カルボキシメチル化アミノ酸」又は「CM化アミノ酸」という)、カルボキシメチル化アミノ酸を含むペプチド(以下、「カルボキシメチル化ペプチド」又は「CM化ペプチド」という)及びカルボキシメチル化されたアミノ酸を含むタンパク質(以下、「カルボキシメチル化タンパク質」又は「CM化タンパク質」という)と反応する抗体を提供する。
【0019】
本抗体が反応するCM化アミノ酸及びCM化ペプチドは、例えば、CM化タンパク質をプロテアーゼによる酵素処理や酸で加水分解することによって得られたものを挙げることができる。
ここで、CM化タンパク質は、糖尿病や老化現象にみられる細小血管障害(腎症、網膜症、末梢神経障害など)、動脈硬化、白内障、皮膚・血管・関節の結合組織の硬化・肥厚など種々の組織障害部位に存在するAGE構造体(Horiuchi S. etal., Nephrol. Dial. Transplant. 11(5) (1996))の一つである。従って、CM化タンパク質を上記各種組織から定量的に検出すれば上記組織障害の進行状況を把握することができる。すなわち、医学研究や臨床検査の分野において、上記各種組織におけるCM化タンパク質を定量的に検出する重要性が増している。
【0020】
ところが、CM化タンパク質におけるカルボキシメチル化部位は、タンパク質の種類及び構造によって一定ではない。したがって、従来の抗体では、CM化タンパク質の種類によっては反応することができず、上記各種組織に含まれるCM化タンパク質を定量することは困難であった。これに対して、本発明にかかる抗体は、例えばCM化タンパク質をプロテアーゼ処理や酸などで得られるCM化アミノ酸及びCM化ペプチドと反応するため、上記各種組織に含まれるCM化タンパク質におけるカルボキシメチル化部位全てと反応することとなり、上記各種組織中に含まれるCM化タンパク質を定量することができる。
【0021】
また、CM化タンパク質とは異なる他のAGE構造体の一つとして、側鎖のアミノ基がカルボキシエチル化(CE化)されたアミノ酸が挙げられる。CM化アミノ酸とCE化されたアミノ酸との構造は非常に酷似している。本発明にかかる抗体は、CM化されたアミノ酸残基のみと反応し、CE化されたアミノ酸残基とは反応しない。したがって、本発明にかかる抗体を用いることによって、上記各種組織に含まれるCE化タンパク質とCM化タンパク質とを分別又は識別し、CM化タンパク質のみを定量することができる。
【0022】
ここで、「カルボキシメチル化アミノ酸」又は「CM化アミノ酸」とは、側鎖にアミノ基を有するアミノ酸において、当該アミノ基がカルボキシメチル化されたアミノ酸を意味する。側鎖にアミノ基を有するアミノ酸の種類は、特に限定されるものではなく、例えばリシン、アルギニン、アスパラギン、グルタミンが挙げられるが、リシン(例えばN-ε-カルボキシメチルリシン)が好ましい。
【0023】
「カルボキシメチル化ペプチド」又は「CM化ペプチド」とは、上記CM化アミノ酸と、その他のアミノ酸とがペプチド結合してなり、複数のアミノ酸を含む構造体のことを意味する。その他のアミノ酸としては、特に限定されずいかなるアミノ酸及びその誘導体並びに修飾体を含む意味である。また、「カルボキシメチル化ペプチド」又は「CM化ペプチド」としては、複数のCM化アミノ酸を隣接し又は離間した状態で含むものであってもよい。また、「カルボキシメチル化ペプチド」又は「CM化ペプチド」としては、少なくとも1個以上のCM化アミノ酸を含んでいればよく、側鎖のアミノ基がCM化されていない他のアミノ酸を含んでいても良い。さらに、「カルボキシメチル化ペプチド」又は「CM化ペプチド」としては、少なくとも1個以上のCM化アミノ酸を含んでいればよく、CE化されたアミノ酸を含んでいても良い。尚、「CE化ペプチド」とは、少なくとも一部の側鎖のアミノ基がカルボキシエチル化されているアミノ酸を含むペプチドであって、カルボキシメチル化されたアミノ酸を含まないペプチドをいう(「カルボキシエチル化ペプチド」ともいう)。
【0024】
また、「カルボキシメチル化ペプチド」又は「CM化ペプチド」は、2個以上のアミノ酸を含めばよいが、タンパク質分子1つ当たり複数のCM化アミノ酸がある場合は、加水分解後に本抗体を使用することにより、高い検出感度で測定ができる。
この場合、本発明にかかる抗体は当該ペプチド中に存在するアミノ酸のうち、側鎖のアミノ基がCM化されたアミノ酸と反応することができる。
【0025】
1.CM化タンパク質、CM化ペプチド及びCM化アミノ酸の調製
CM化する対象となるタンパク質は特に限定されるものではなく、複合タンパク質、単純タンパク質、糖タンパク質、リポタンパク質などいずれのものでもよい。これらのタンパク質としては、例えばアルブミン(BSA等)、ヘモグロビン、キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)、ヒト血清アルブミン(HSA)、リボヌクレアーゼ(RNase)、β2マイクログロブリン、ヒストン、コラーゲン、血球膜タンパク質、又は低密度若しくは高密度リポタンパク質などが挙げられる。また、タンパク質に限らずペプチド、例えばオリゴペプチドでもポリペプチドでも良く、タンパク質から修飾や分解を受けて合成されたものも使用可能である。
【0026】
これらのタンパク質又はペプチドをCM化するには、BSAなどのタンパク質数十mg/ml(例えば5〜50mg/ml)と数十mg/ml(例えば10〜100 mg/ml)のグリオキシル酸をリン酸緩衝液中(グリオキシル酸の5倍のモル量のNaCNBH3を含む、pH 7.4)で、室温で24時間程度反応させる方法などが採用される。
上記方法によって得られたCM化タンパク質は、透析、液体カラムクロマトグラフィーなどによって精製された後、ポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体の作製に供される。
【0027】
CM化ペプチド及びCM化アミノ酸は、上述したように得られたCM化タンパク質をトリプシン、ペプシン、パパイン、アプロチニン、ロイペプチン等のプロテアーゼ又は、塩酸、硫酸などの酸による加水分解処理で得ることができる。例えば、数十mg/ml(例えば5〜70mg/ml)の上記CM化タンパク質数十μL(例えば10〜50μL)と数十mg/ml(例えば10〜80mg/ml)のトリプシン溶液数十μL(例えば20〜50μL)とを混合し、37℃水浴中で3時間反応させる。5mMのAEBSFで反応を停止させ、これにより、上記CM化タンパク質を酵素処理することができ、CM化ペプチド及びCM化アミノ酸を得ることができる。なお、上記混合溶液にトリプシン阻害剤(例えば4-(2-Aminoethyl)benzenesulfonylfluoride,HCL(AEBSF))を添加することによって、トリプシンによる加水分解反応を停止させることができる。
【0028】
2.CM化タンパク質に対する抗体
本発明において「抗体」とは、抗原である前記CM化タンパク質、前記CM化ペプチド及びCM化アミノ酸に結合し得る抗体分子全体またはその断片(例えば、Fab又はF(ab')2断片)を意味し、ポリクローナル抗体であってもモノクローナル抗体であってもよい。
抗体(ポリクローナル抗体及びモノクローナル抗体)は、種々の方法のいずれかによって製造することができる。このような抗体の製造法は当該分野で周知である[例えばSambrook, J et al., Molecular Cloning, Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989)を参照]。
【0029】
(1) CM化タンパク質に対するモノクローナル抗体の作製
(i) 抗体産生細胞の採取
前記のようにして作製したCM化タンパク質又はCM化ペプチドを抗原として、哺乳動物、例えばラット、マウス、ウサギなどに投与する。抗原の動物1匹当たりの投与量は、アジュバントを用いないときは0.1〜100mgであり、アジュバントを用いるときは1〜100μgである。アジュバントとしては、フロイント完全アジュバント(FCA)、フロイント不完全アジュバント(FIA)、水酸化アルミニウムアジュバント等が挙げられる。免疫は、主として静脈内、皮下、腹腔内に注入することにより行われる。また、免疫の間隔は特に限定されず、数日から数週間間隔、好ましくは2〜5週間間隔で、1〜10回、好ましくは2〜5回免疫を行う。そして、最終の免疫日から1〜60日後、好ましくは1〜14日後に抗体産生細胞を採集する。抗体産生細胞としては、脾臓細胞、リンパ節細胞、末梢血細胞等が挙げられるが、脾臓細胞又は局所リンパ節細胞が好ましい。
【0030】
(ii) 細胞融合
ハイブリドーマを得るため、抗体産生細胞とミエローマ細胞との細胞融合を行う。抗体産生細胞と融合させるミエローマ細胞として、マウスなどの動物の一般に入手可能な株化細胞を使用することができる。使用する細胞株としては、薬剤選択性を有し、未融合の状態ではHAT選択培地(ヒポキサンチン、アミノプテリン、チミジンを含む)で生存できず、抗体産生細胞と融合した状態でのみ生存できる性質を有するものが好ましい。ミエローマ細胞としては、例えば P3X63-Ag.8.U1(P3U1)、NS-Iなどのマウスミエローマ細胞株が挙げられる。
【0031】
次に、上記ミエローマ細胞と抗体産生細胞とを細胞融合させる。細胞融合は、血清を含まないDMEM、RPMI-1640培地などの動物細胞培養用培地中で、1×106〜1×107個/mlの抗体産生細胞と2×105〜2×106個/mlのミエローマ細胞とを混合し(抗体産生細胞とミエローマ細胞との細胞比5:1が好ましい)、細胞融合促進剤存在のもとで融合反応を行う。細胞融合促進剤として、平均分子量1000〜6000ダルトンのポリエチレングリコール等を使用することができる。また、電気刺激(例えばエレクトロポレーション)を利用した市販の細胞融合装置を用いて抗体産生細胞とミエローマ細胞とを融合させることもできる。
【0032】
(iii) ハイブリドーマの選別及びクローニング
細胞融合処理後の細胞から目的とするハイブリドーマを選別する。その方法として、細胞懸濁液を例えばウシ胎児血清含有RPMI-1640培地などで適当に希釈後、マイクロタイタープレート上に3×105個/well程度まき、各ウエルに選択培地を加え、以後適当に選択培地を交換して培養を行う。その結果、選択培地で培養開始後、14日前後から生育してくる細胞をハイブリドーマとして得ることができる。
【0033】
次に、増殖してきたハイブリドーマの培養上清中に、CM化タンパク質に反応する抗体が存在するか否かをスクリーニングする。ハイブリドーマのスクリーニングは、通常の方法に従えばよく、特に限定されるものではない。例えば、ハイブリドーマとして生育したウエルに含まれる培養上清の一部を採集し、酵素免疫測定法、放射性免疫測定法等によってスクリーニングすることができる。
【0034】
具体的には、ELISA法などにより複数種のCM化されているタンパク質に反応し、複数種のCM化されていないタンパク質を抗原として、前者に反応し後者に反応しないモノクローナル抗体を産生する細胞であるハイブリドーマを樹立する。
融合細胞のクローニングは、限界希釈法等により行う。そして、最終的に、複数種のCM化タンパク質とは反応するがCM化されていないタンパク質に反応しないモノクローナル抗体を産生する細胞であるハイブリドーマを樹立する。
【0035】
なお、本発明において、上記モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマNF-1G(「Mouse-Mouse hybridoma NF-1G」と称する)が得られた。このMouse-Mouse hybridoma NF-1Gは、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(茨城県つくば市東1丁目1番1号)に、平成13年11月6日付でFERM P-18589として寄託されている。
【0036】
(iv) モノクローナル抗体の採取
樹立したハイブリドーマからモノクローナル抗体を採取する方法として、通常の細胞培養法又は腹水形成法等を採用することができる。
細胞培養法においては、得られたハイブリドーマを10%ウシ胎児血清含有RPMI-1640培地、MEM培地又は無血清培地等の動物細胞培養培地中で、通常の培養条件(例えば37℃、5% CO2濃度)で7〜14日間培養し、その培養上清から抗体を取得する。
【0037】
腹水形成法の場合は、ミエローマ細胞由来の哺乳動物と同種系動物の腹腔内にハイブリドーマを約1×107個投与し、ハイブリドーマを大量に増殖させる。そして、1〜2週間後に腹水を採集する。
上記抗体の採取方法において抗体の精製が必要とされる場合は、硫安塩析法、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過、アフィニティークロマトグラフィーなどの公知の方法を適宜選択して、又はこれらを組み合わせることにより精製することができる。
【0038】
(2) CM化タンパク質に対するポリクローナル抗体の作製
前記CM化タンパク質又はCM化ペプチドを抗原として、これを哺乳動物、例えばラット、マウス、ウサギなどに投与する。抗原の動物1匹当たりの投与量は、アジュバントを用いないときは0.1〜100mgであり、アジュバントを用いるときは1〜100μgである。アジュバントとしては、フロイント完全アジュバント(FCA)、フロイント不完全アジュバント(FIA)、水酸化アルミニウムアジュバント等が挙げられる。免疫は、主として静脈内、皮下、腹腔内等に注入することにより行われる。また、免疫の間隔は特に限定されず、数日から数週間間隔、好ましくは2〜5週間間隔で、1〜10回、好ましくは2〜5回免疫を行う。そして、最終の免疫日から6〜60日後に、酵素免疫測定法(ELISA(enzyme-linked immunosorbent assay)又は EIA(enzyme immunoassay))、放射性免疫測定法(RIA;radioimmuno assay)等で抗体価を測定し、最大の抗体価を示した日に採血し、抗血清を得る。
【0039】
その後は、CM化およびCE化タンパク質(BSAなど)を用い、これらタンパク質に対する抗血清中のポリクローナル抗体の反応性をELISA法などで測定する。そして、ある種のCM化タンパク質に反応し、CM化されていないタンパク質に反応しない画分を集めることで、CM化されたタンパク質のみに反応するポリクローナル抗体を得ることができる。
【0040】
3. CM化アミノ酸等の測定方法
本発明においては、前記抗体を用いてCM化アミノ酸、CM化ペプチド及びCM化タンパク質を測定若しくは定量することができる。例えば、本発明のモノクローナル抗体又はポリクローナル抗体とCM化アミノ酸、CM化ペプチド及びCM化タンパク質とを反応させ、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)などで標識した抗マウスIgG抗体を用いることにより、CM化アミノ酸、CM化ペプチド及びCM化タンパク質を定量することが可能である。
【0041】
4.糖尿病合併症及び老化の進行度を評価方法
本発明の抗体を生体試料中のCM化アミノ酸、CM化ペプチド及びCM化タンパク質と反応させることにより、糖尿病合併症及び老化の進行度を評価することができる。糖尿病合併症としては、糖尿病性腎症、網膜症、神経障害などの糖尿病性細血管合併症、あるいは動脈硬化症に代表される糖尿病大血管合併症等が挙げられる。本発明において、これらの合併症の検出となる疾患は、1種類でもよく2種類以上が併発したものでもよい。
【0042】
糖尿病合併症患者、例えば糖尿病性腎症、糖尿病性網膜症などであると疑われる患者から血液、尿、組織等を採取し、適切な前処理を施して測定試料を調製する。なお、測定試料は、糖尿病の臨床マーカーとして利用することができる。次いで、前記測定試料と前記抗体とを反応させる。反応後、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)などで標識した抗マウスIgG抗体を用いて常法によりCM化アミノ酸、CM化ペプチド及びCM化タンパク質を検出、定量する。
検出結果が陽性である場合又は定量値が高い場合には、糖尿病合併症の有無及び老化の進行度を評価するための判断資料とすることができる。
【0043】
なお、上記前処理としては、プロテアーゼ等による酵素処理及び酸などによる加水分解処理を挙げることができる。酵素処理及び加水分解処理を施すことによって、CM化タンパク質をCM化アミノ酸及びCM化ペプチドにまで分解することができる。本抗体は、特に、CM化アミノ酸及びCM化ペプチドに対する優れた反応性を有するため、上記前処理として酵素処理及び加水分解処理を行うことによって、測定試料中に含まれるCM化タンパク質におけるCM化部位を定量的に測定することができる。したがって、本抗体を用いることによって、糖尿病合併症及び老化の進行度を詳細に評価することができる。
【0044】
5.本発明の抗体を含む試薬
本発明においては、CM化アミノ酸、CM化ペプチド及びCM化タンパク質に対する抗体を、各種試薬として使用することができる。例えば、CM化ペプチド及びCM化アミノ酸検出用試薬として使用する場合は、前記3.に記載の測定方法を用いて検出が行われ、糖尿病検出用試薬として使用する場合は、前記4.に記載の方法により検出が行われる。
【0045】
また、本発明の抗体を免疫組織染色用試薬として用いる場合は、通常の免疫組織染色法に従って検出が行われる。
例えば、糖尿病患者のバイオプシーから得られる種々の組織切片を常法により調製し、本発明の抗体を結合させる。西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)標識した抗マウスIgG抗体を二次抗体として本発明の抗体に結合させ、3,3'-ジアミノベンジジン(3,3'-diaminobenzidine)処理を施して染色する。染色後顕微鏡観察を行い、褐色に染色された領域がCM化を受けたものと判断することができる。
【実施例】
【0046】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明はこれら実施例にその技術的範囲が限定されるものではない。
【0047】
〔実施例1〕モノクローナル抗体の調製
(1) 抗原の調製
(i) カルボキシメチル化タンパク質
本実施例においては、カルボキシメチル化タンパク質としてカルボキシメチル化ヒト血清アルブミン (以下「CM化HSA」という)を用いた。
5mgのタンパク質(HSA)を、1,100mM グリオキシル酸及び0.45 Mの NaCNBH3を含む0.2 Mリン酸緩衝液(pH7.8)中、37℃で24時間反応させた後、PBSにて透析し、CM化タンパク質を得た (Reddy S et al., Biochemistry 1995, 34, 10872-10878)。生成したCM化タンパク質について、アミノ酸分析を行った結果よりCM化HSAであることを確認した。
(ii) カルボキシエチル化タンパク質
5mgのタンパク質(HSA)を、0.2 M ピルビン酸及び0.3 M NaCNBH3を含むPBS中で24時間反応させた後、PBSにて透析し、CE化タンパク質を得た(Ahmed MU et al., Biochem J 1997, 324, 565-570)。生成したCE化タンパク質についてアミノ酸分析を行った結果より、CE化HSAであることを確認した(「CE化HSA」という)。
【0048】
(2) 動物の免疫
1mg/mlの抗原(CM化HSA)を、等量のフロイントアジュバントと混合してエマルジョンを作製したのち、200μl/匹ずつ、BALB/cマウスの背中皮内に免疫した。2週間おきに追加免疫を行い、初回免疫から4回免疫した後に尾静脈より採血を行い、抗体価の確認を行った。
【0049】
(3) 抗体価の測定
抗体価はELISA法を用いて測定した。すなわち、抗原としてCM化HSAを5μg/mlの濃度で50μl/wellずつ、一晩4℃でプレートにコーティングした。0.05% Tween 20を含むPBS(PBS-T)で3回洗浄後、0.5% ゼラチンを含むリン酸緩衝液 (pH7.4)で1時間ブロッキングした。洗浄後、PBS-Tで段階希釈したマウス血清を50μl/wellずつ入れて1時間静置した。洗浄後、PBS-Tで2500倍に希釈した2次抗体(西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)標識 抗マウスIgG )を50μl/wellずつ入れて1時間静置した。洗浄後、0.5mg/mlのOPD 1,2-フェニレンジアミン ジヒドロクロライド(1,2-phenylenediamine dihydrochloride,OPD)を含むクエン酸緩衝液 (pH5.0)を100μl/wellずつ入れ、10分間反応させた。反応後、2N硫酸を添加して反応を止め、490nmの吸光度を測定した。その結果、抗血清の1万倍希釈溶液において、抗原と有意な反応性を示した。
【0050】
(4) 細胞融合および抗体産生ハイブリドーマのクローニング
抗体価の上昇が確認されたマウスの脾臓細胞とミエローマ細胞P3U1とを、5:1の割合でポリエチレングリコール法により細胞融合し、HAT選択培地で、ハイブリドーマの選択培養を行った。細胞融合10日目にハイブリドーマ培養上清を回収し、抗体価の測定を行った手法(前記(3)参照)と同様の手法でELISAを行い、CM化HSA及びCM化KLHとの反応性が陽性であり、且つ、HSAに対する反応性が陰性である株のスクリーニングを行った。
【0051】
なお、抗体価の上昇が確認されたマウスの脾臓細胞は、ストレプトアビジンが結合した磁気ビーズ(PIERCE社製)によって回収した。すなわち、ストレプトアビジンで標識した磁気ビーズとビオチンで標識したCM化HSAとを当該脾臓細胞懸濁液中に混合し、その後、磁石を作用させることによって当該磁気ビーズを回収する。回収された磁気ビーズに結合したストレプトアビジンには、CM化HSAのビオチンが結合することとなり、その結果、CM化HSAと抗原抗体反応により結合した脾臓細胞が磁気ビーズに捕捉されることとなる。
【0052】
上記スクリーニングで陽性となったハイブリドーマの細胞数を測定後、2×105個/wellとなるように96ウェルプレートにまきこみ(サブクローニング)、10日後にシングルコロニーのウェルのみ再度スクリーニングを行った。同様にして、スクリーニングで陽性となったハイブリドーマについて再度サブクローニングを行い、性質が100%一致するまでスクリーニング操作を続けた。
【0053】
その結果、CM化HSA及びCM化KLHとの反応性が陽性であり、且つ、HSAと反応しないモノクローナル抗体の産生細胞株(NF-1G)を得た。
なお、ハイブリドーマNF-1G(名称:「Mouse-Mouse hybridoma NF-1G」)は、独立行政法人 産業技術総合研究所 特許寄託センター(茨城県つくば市東1丁目1番1号)に、平成13年11月6日付でFERM P-18589として寄託されている。
【0054】
〔実施例2〕本発明のモノクローナル抗体の性質(CML及びCELの識別性)の検討1
本実施例では、CMLに特異的なモノクローナル抗体産生細胞株NF-1Gに関してCML及びCELに対する反応性の差を検討した。
1分子あたりのCML含有量の異なる抗原の作製を行った。すなわち、1,100mMのグリオキシル酸を3倍ずつ、6段階の希釈系列を調製し、それぞれの濃度100μlに5mg/mlのHSAを1mlずつ加えた。2時間室温で静置し、NaCNBH3を50μl加えて混和し、室温で一晩静置した後、PBSで透析をし、CM化タンパク質を得た。生成したCM化タンパク質について、アミノ酸分析を行った結果、CM化HSAであることを確認した。CEL含有量の異なる抗原の作製についても、グリオキシル酸の代わりにピルビン酸を用い、同様の方法で作製した。
【0055】
モノクローナル抗体産生細胞株NF-1Gに関してCMLとCELに対する反応性の相違を以下の方法で検討した。すなわち、上述の方法で作製したCM化HSA及びCE化HSAをそれぞれ5μg/mlの濃度でリン酸緩衝液(pH 7.4)に溶解し、50μl/wellずつELISAプレートにコーティングした。その後、炭酸緩衝液(pH 9.5)に溶解した0.5%ゼラチン(200μl/well)でブロッキングした。1μg/ml のNF-1G精製抗体を50μl/well添加して1時間反応させたのち、HRP標識抗マウスIgG抗体を50μl/well添加して1時間反応させた。次に、1,2-フェニレンジアミン ジヒドロクロライド(1,2-phenylenediamine dihydrochloride,OPD)を添加して発色反応を行い、490nmの吸光度をELISAリーダーによって測定した。
【0056】
この際、対照として、既存の抗CMLモノクローナル抗体である6D12((株)トランスジェニック社製)、CMS-10((株)トランスジェニック社製)、抗CELモノクローナル抗体であるKNH-30(熊本大学より供与)の精製抗体を用いた。
その結果、本発明のモノクローナル抗体(NF-1G)は、CM化HSAとは反応するが、CE化HSAとは反応性を示さないことを確認した。また、6D12は、CM化HSAおよびCE化HSAとほぼ同等に反応し、両者を区別できないことが明らかとなった。さらに、KNH-30は、CE化HSAとは反応するが、CM化HSAとは反応しないことを確認した。一方、CMS-10は、CM化HSAに対して特異的に反応するが、NF-1Gと比較してCM化HSAに対する反応性が低いことを確認した。
【0057】
更に、CMLの個数にしたがって反応性が高くなっていることから、CMLに反応していることがわかる。
従って、本発明のモノクローナル抗体(NF-1G)は、明らかに既存の抗AGEモノクローナル抗体とは異なり、CMLに対して特異的に優れた反応性を示し、CELとは反応しないことが分かった(図1)。
なお、本発明のモノクローナル抗体のサブタイプは、市販のタイピングキットによりIgG2aであることを確認した。
【0058】
〔実施例3〕本発明のモノクローナル抗体の性質(CML遊離体の識別性)の検討2
本実施例では、実施例1においてCM化HSAに対する反応性が認められた6D12、CMS-10及びNF-1Gについて、CML遊離体の識別性を検討した。CML遊離体は、化学的な方法により合成した。
【0059】
CMLHSAを固相化抗原として競合法ELISAを行い、6D12、CMS-10及びNF-1GそれぞれについてCML遊離体に対する反応性を検討した。競合法ELISAに際しては、抗原としてCML-HSAを2.5μg/mlの濃度で50μl/wellずつ、一晩4℃でプレートにコーティングした。0.05%Tween20を含むPBS(PBS-T)で3回洗浄後、0.5%ゼラチンを含むリン酸緩衝液(pH7.4)で1時間ブロッキングした。洗浄後、予めCML遊離体と0.1μg/mlの6D12、CMS-10及びNF-1Gを室温で1時間反応させたものを50μl/wellずつ入れて1時間静置した。洗浄後、2500倍に希釈した2次抗体(西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)標識抗マウスIgG(γ))を50μl/wellずつ入れて1時間静置した。洗浄後、0.5mg/mlの1,2-フェニレンジアミン ジヒドロクロライド(1,2-phenylenediamine dihydrochloride,OPD)を含むクエン酸緩衝液(pH5.0)を100μl/wellずつ入れ、10分間反応させた。反応後、2N硫酸を添加して反応を止め、490nmの吸光度を測定した。
【0060】
また、同様に化学的に合成したCEL遊離体を抗原とした競合法ELISAを行った。その結果を図2(a)、(b)及び(c)に示す。図2(a)より6D12は、CML遊離体及びCEL遊離体ともに反応性を示さないことが確認された。また、図2(b)よりCMS-10もまた、CML遊離体及びCEL遊離体ともに反応性を示さないことが確認された。これらに対して、図2(c)よりNF-1Gは、CML遊離体に対して反応性を示し、CEL遊離体に対して反応性を示さないことが確認された。
【0061】
従って本実施例によって、本発明のモノクローナル抗体(NF-1G)は、明らかに既存の抗AGEモノクローナル抗体とは異なり、CML遊離体と特異的に反応できるものであることが判った。
また、NF-1Gを用いた競合法ELISAにおいて、CML遊離体の濃度を調節して測定感度を検討した。結果を図3に示す。図3より、NF-1Gを用いた競合法ELISAでは、CML遊離体が10μM程度の低濃度であっても試料に含まれるCML遊離体を検出できることが解った。なお、高速液体クロマトグラフィーによるCML遊離体の検出感度が1〜100μMであることから、NF-1Gを用いた競合法ELISAと高速液体クロマトグラフィーとの間に、検出感度の差がないと言うことができる。
【0062】
〔実施例4〕本発明のモノクローナル抗体の性質(抗凝固剤の影響)の検討3
本実施例では、実施例1においてCM化HSAに対する反応性が認められた6D12、CMS-10及びNF-1Gについて、EDTAによる反応性の影響を検討した。本実施例では、実施例1と同様にして調製したCM化HSAを固相化抗原とし、各種抗体との反応性に及ぼすEDTAの影響を検討した。
【0063】
測定は、CM化HSAを固相化抗原とするELISA法にて行った。すなわち、抗原としてCML-HSAを2.5μg/mlの濃度で50μl/wellずつ、一晩4℃でプレートにコーティングした。0.05%Tween20を含むPBS(PBS-T)で3回洗浄後、0.5%ゼラチンを含む炭酸緩衝液(pH9.5)で1時間ブロッキングした。洗浄後、10,5,2.5,1.25,0.625,0.3125mMのEDTAを含む抗体溶液50μlを添加して室温で1時間反応させた後、プレートに入れ、1時間反応させた。洗浄後、2500倍に希釈した2次抗体(西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)標識抗マウスIgG(γ))を50μl/wellずつ入れて1時間静置した。洗浄後、0.5mg/mlの1,2-フェニレンジアミン ジヒドロクロライド(1,2-phenylenediamine dihydrochloride,OPD)を含むクエン酸緩衝液(pH5.0)を100μl/wellずつ入れ、10分間反応させた。反応後、2N硫酸を添加して反応を止め、490nmの吸光度を測定した。
【0064】
結果を図4(a)、(b)及び(c)に示す。図4(b)に示すように、CMLHSAと特異的に反応するCMS-10においては、EDTA濃度が高くなるに連れてCML-HSAとの反応性が低下した。これに対して、図4(a)及び(c)に示すように、6D12及びNF-1Gにおいては、EDTA濃度に拘わらずCML-HSAに対する反応性は一定であった。
従って本実施例によって、本発明のモノクローナル抗体(NF-1G)は、例えば、サンプル中に含まれるCML-HSAを検出又は定量する際に、当該サンプルに含まれるEDTAの影響を受けずに正確に検出又は定量することができる。
【0065】
〔実施例5〕本発明のモノクローナル抗体を用いた臨床検体測定
本実施例では、本発明のモノクローナル抗体(NF-1G)を用いて、臨床検体に含まれるCML量を測定することで、NF-1Gについて臨床検体測定に関する利用可能性を検討した。
【0066】
本例では、CM化HSAをトリプシンで処理して得られるCM化ペプチドを用いて図5に示すような標準曲線を作成した。CM化ペプチドは、実施例1で調製したCML-HSAを含む溶液40μLに、70mg/mlのトリプシン溶液40μLを加え、37℃の水浴中で1時間反応させ、5mMのAEBSFを80μL添加することで反応を停止させて得られた。この操作により、CM化HSAは、リシン残基とアルギニン残基のC末端で切断されることとなり、N末端がリシン或いはアルギニンである複数のCM化ペプチドとなる。
【0067】
臨床検体は、糖尿病患者の肘静脈から血液を採取し、室温に20〜30分放置した後、3,000rpmで10〜15分間遠心して血清を分離した。このようにして得た患者血清40μlに70mg/mlのトリプシン溶液40μlを加え、37℃の水浴中で1時間反応させ、5mMのABESFを80μl添加することで反応を停止させて得た。
【0068】
このように調製した臨床検体に含まれるCML量を以下のようにして測定した。
STANDARDとしてトリプシンで処理したCML-HSAを用い、80μMから2倍ずつの段階希釈で計8濃度を調製し、競合法ELISAで検量線を作成した。上述のように前処理した検体を2倍、4倍、8倍に希釈し、作成した検量線より、CML測定値を求めた。
結果を表1に示す。
【0069】
【表1】

【0070】
表1から判るように、本発明のモノクローナル抗体NF-1Gを用いた場合には、測定感度に優れるため、臨床検体に含まれるCML量を十分に測定することができた。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】各種モノクローナル抗体とCM化HSA及びCE化HSAとの反応性を示すELISA法による特性図であり、(a)はモノクローナル抗体6D12のCM化HSAに対する反応性を示し、(b)はモノクローナル抗体CMS-10のCM化HSAに対する反応性を示し、(c)はモノクローナル抗体KNH-30のCM化HSAに対する反応性を示し、(d)はモノクローナル抗体NF-1GのCM化HSAに対する反応性を示し、(e)はモノクローナル抗体6D12のCE化HSAに対する反応性を示し、(f)はモノクローナル抗体CMS-10のCE化HSAに対する反応性を示し、(g)はモノクローナル抗体KNH-30のCE化HSAに対する反応性を示し、(h)はモノクローナル抗体NF-1GのCE化HSAに対する反応性を示している。
【図2】各種モノクローナル抗体とCML遊離体及びCEL遊離体との反応性を示す競合ELISA法による特性図であり、(a)はモノクローナル抗体6D12、(b)はモノクローナル抗体CMS-10また(c)はモノクローナル抗体NF-1Gを用いた場合を示している。
【図3】モノクローナル抗体NF-1Gを用いた競合法ELISAにおいて検出感度を検討した結果を示す特性図である。
【図4】各種モノクローナル抗体とCML-HSAとの反応性に対するEDTAの影響をELISA法で検討した結果を示す特性図であり、(a)はモノクローナル抗体6D12、(b)はモノクローナル抗体CMS-10また(c)はモノクローナル抗体NF-1Gを用いた場合を示している。
【図5】モノクローナル抗体NF-1Gを用いた臨床検体に含まれるCML量を測定する際に用いた標準曲線を示す特性図である。標準物質として、酵素処理したCM化HSAを用いた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
側鎖のアミノ基がカルボキシメチル化されたリシン、アルギニン、アスパラギン及びグルタミンからなる群から選ばれる少なくとも1種のカルボキシメチル化アミノ酸の遊離体と反応する抗体。
【請求項2】
ペプチド中に存在する上記カルボキシメチル化アミノ酸に対しても反応することを特徴とする請求項1記載の抗体。
【請求項3】
上記ペプチドは、2個以上のアミノ酸からなることを特徴とする請求項2記載の抗体。
【請求項4】
上記カルボキシメチル化アミノ酸がN-ε-カルボキシメチルリシンである請求項1記載の抗体。
【請求項5】
抗体がポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体である請求項1〜4のいずれか一項記載の抗体。
【請求項6】
側鎖のアミノ基がカルボキシエチル化されたカルボキシエチル化アミノ酸の遊離体、当該カルボキシエチル化アミノ酸を有するペプチド並びにタンパク質とは反応しないことを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項記載の抗体。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項記載の抗体と、カルボキシメチル化されたアミノ酸とを反応させることを特徴とするアミノ酸の測定方法。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれか一項記載の抗体と、カルボキシメチル化されたアミノ酸とを反応させることを特徴とする糖尿病合併症の評価方法。
【請求項9】
糖尿病合併症が糖尿病性細血管合併症及び/又は糖尿病大血管合併症である請求項8記載の評価方法。
【請求項10】
請求項1〜6のいずれか一項記載の抗体と、カルボキシメチル化されたアミノ酸とを反応させることを特徴とする老化の進行度の評価方法。
【請求項11】
請求項1〜6のいずれか一項記載の抗体を含む、カルボキシメチル化されたアミノ酸の検出用試薬。
【請求項12】
請求項1〜6のいずれか一項記載の抗体を含む、糖尿病合併症の評価用試薬。
【請求項13】
糖尿病合併症が糖尿病性細血管合併症及び/又は糖尿病大血管合併症である請求項12記載の試薬。
【請求項14】
請求項1〜6のいずれか一項記載の抗体を含む、老化の進行度の評価用試薬。
【請求項15】
請求項1〜6のいずれか一項記載の抗体を含む、免疫組織染色用試薬。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−326870(P2007−326870A)
【公開日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−197427(P2007−197427)
【出願日】平成19年7月30日(2007.7.30)
【分割の表示】特願2001−357491(P2001−357491)の分割
【原出願日】平成13年11月22日(2001.11.22)
【出願人】(598081621)株式会社トランスジェニック (15)
【Fターム(参考)】