説明

カルボジイミド基および/またはウレトンイミン基含有ポリイソシアネートの製造方法

本発明は、マイクロ波照射によるカルボジイミド変性および/またはウレトンイミン変性ポリイソシアネートの製造方法、並びに発泡および非発泡ポリウレタン材料を合成するための該ポリイソシアネートの使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ波照射により促進された合成によるカルボジイミド(CD)基および/またはウレトンイミン(UI)基含有ポリイソシアネートの製造方法、および該ポリイソシアネートの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイソシアネートは、ポリウレタン化学にとって価値ある必須の原料であり、発泡および非発泡ポリウレタン(PU)材料の製造におけるハードセグメント単位として、工業規模で使用されている。
【0003】
PU材料特性の最適化のため、ポリイソシアネート側においても多くの変性が行われており、工業的に実施されている。しかしながら、変性の更なる理由は、ポリイソシアネート自体の特性であり得、その特性の最適化が必要とされている。一例として、ポリイソシアネートの溶融特性を典型的に挙げることができる。例えば、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(4,4’−MDI)は、約42℃の融点を有するが、これは、室温で液体状である別のポリイソシアネートと比較して、工程中、より高い経費がかかることを意味する。この欠点を回避する可能性の1つは、下記式:
【化1】

で示されるような、4,4’−MDIのNCO基のカルボジイミド基への部分転化である。カルボジイミド基は、過剰なイソシアネート基と更に反応してウレトンイミンを形成できる。
【0004】
このように変性されたポリイソシアネートは、NCO基がカルボジイミド/ウレトンイミン基に部分的にしか転化されなかった事実を説明するために、「部分カルボジイミド化」ポリイソシアネートとも称される。カルボジイミドを形成するこのような反応は、特に反応条件、とりわけ使用する触媒の性質および量に依存する。
【0005】
例えば1−メチルホスホリンオキシドが触媒として適していることが知られており、不活性溶媒を用いて、芳香族ポリイソシアネートから、少なくとも単官能性イソシアネートを連鎖停止剤として併用する場合、熱成形によって加工することもできる高分子量ポリカルボジイミドを得ることもできる(H. Ulrich, Chemistry and Technology of Isocyanates, John Wiley and Sons, 1996, 第411頁)。単官能性イソシアネート由来のカルボジイミドは更に、ポリエステル、ポリエステルベースポリウレタンおよびポリエーテルベースポリ(ウレタン−ウレア)において、安定剤として、酸化防止剤と組み合わせて使用される。
【0006】
同様に、脂肪族ポリイソシアネートを、ホスホリンオキシドによって反応させることができる。この反応では、例えば、20〜50℃の反応温度で、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)を形成された二酸化炭素から分離せず、直接異性体に組み込む(H. Ulrich, Chemistry and Technology of Isocyanates, John Wiley and Sons, 1996, 第411頁)。
【0007】
従来技術に従って、CD/UI基含有ポリイソシアネート混合物は、US-A 2,853,473およびEP-A 515 933またはUS-A 6,120,699に記載の方法によって、ホスホリン系、特にホスホリンオキシド系の高活性触媒を用いて製造され得る。芳香族ポリイソシアネートから製造されたこのようなCD/UI基含有ポリイソシアネート混合物は、先に記載したポリカルボジイミドと比べると、比較的低い変性度を有する。従来技術に従って使用され得る更なる触媒は、US-A 6,120,699、EP-A 0989116およびEP-A 0193787に記載されている。
【0008】
ホスホリン触媒、特にホスホリンオキシド触媒を使用する場合、その高い触媒活性故に、反応終了時、その触媒作用を停止しなければならない。
【0009】
適当な停止剤は、例えば、EP-A 515 933、EP-A 609 698およびUS-A 6,120,699に記載されており、例えば、酸、酸塩化物、クロロホルメート、および例えばトリメチルシリルトリフルオロメタンスルホン酸エステルのようなシリル化酸、または例えばトリフルオロメタンスルホン酸アルキルエステルのようなアルキル化剤を包含する。
【0010】
例えばリン酸トリエチルのような、EP-A 0193787に従ったリン酸エステルは、適当な触媒の別の群を表し、該触媒は、これらを用いて製造されるCD/UI基含有ポリイソシアネート混合物の反応を停止する必要がないことを特徴とする。それにも拘わらず、高温、例えば200℃以上で反応を実施しなければならず、反応生成物は高温に曝されて望ましくない暗色になり、更に、二量体を形成する望ましくない副反応を制限するために、反応実施後、極めて迅速に100℃未満の低温まで反応生成物を冷却する必要がある。
【0011】
上記した高活性のホスホリンおよびホスホリンオキシド触媒の群は、上記の欠点を有さない。なぜなら、ホスホリンおよびホスホリンオキシドで触媒される反応は、約60〜100℃の温度で実施することができ、望ましくない二量体化を回避できるからである。それにも拘わらず、この方法で触媒された反応の従来の反応時間は約8〜10時間であるので、経済面から反応の促進が望ましい。
【0012】
反応を促進するために、例えば120〜150℃まで反応温度を上昇させることは不可能である。なぜなら、この方法により、カルボジイミド基および/またはウレトンイミン基含有イソシアネートへの所望の変性が促進されるだけでなく、イソシアネート二量体も形成されるからである。これらの二量体の欠点は、溶けにくく、望ましくない曇りを招くことである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
従って、本発明の目的は、可能な限り低い反応温度でのカルボジイミド(CD)基および/またはウレトンイミン(UI)基含有ポリイソシアネートの製造において空時収率を上昇させ、同時に、望ましくない副生物の形成を回避し、曇りのない澄明な生成物を得ることである。
更に、停止剤の量を少なく保つことができるように、触媒量は減らすべきである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
意外にも、上記の目的は、マイクロ波を用いてカルボジイミド変性/ウレトンイミン変性を実施することによって、有利に達成できることが見出された。
【0015】
本発明は、カルボジイミド基/ウレトンイミン基含有ポリイソシアネート(A)の製造方法であって、
a)カルボジイミド基/ウレトンイミン基を含有する変性ポリイソシアネート(A)のNCO値より大きいNCO値を有するポリイソシアネート(B)を触媒と混合し、
b)該混合物にマイクロ波を照射する
ことを特徴とする方法を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
これに関連して、マイクロ波は、300MHz〜300GHzの周波数域、または1m〜1mmの波長域を意味すると理解される(Roempp, Chemie Lexikon, Thieme Verlag, 第9臨時増刊号および改訂版、1995, 第2785頁)。
【0017】
文献は、実験室規模でのマイクロ波照射による溶媒中での低分子量化合物の合成方法を記載しているにすぎない(B. L. Hayes, Microwave Synthesis, Chemistry at the Speed of Light, CEM Publishing, Matthews, NC 28105, 第77〜第156頁)。溶媒中での合成は、産業施設では好ましくない。
【0018】
意外にも、マイクロ波がポリイソシアネートのカルボジイミド化を有意に促進し、澄明な反応生成物が得られることが見出された。
【0019】
典型的な実験用装置として、例えば、商業的に入手可能な単一モードマイクロ波装置であるドイツ国カンプリントフォルト在CEM社製「Discover」(周波数2.45GHz)を使用できる。後により詳細に記載する実験では、100ml容の反応容器を使用した。CEM製装置は、とりわけ、マイクロ波装置としては比較的高いエネルギー密度を発生でき、更に、同時冷却の可能性によって、その密度を比較的長時間維持できることを特徴とする。更に、反応混合物の熱への暴露も、極めて低く維持できる。
【0020】
200W/L超のエネルギー密度が好ましい。更に、反応混合物の同時冷却を伴ったマイクロ波エネルギー照射も含まれるので、高エネルギー供給にも拘わらず、比較的低い反応温度にしか達しない。冷却には圧縮空気を好ましくは使用する。しかしながら、他の冷却システムも使用でき、特に、液状冷却媒体による冷却システムを使用できる。
【0021】
もちろん、マイクロ波装置の使用は単一モード装置に限定されず、マルチモード装置も、それ自体類似している方法で使用できる。マルチモード装置は、一般的に知られている家庭用電気機器に相当し、不均一なマイクロ波場を有する。即ち、この不整なマイクロ波分布故に、いわゆるホットスポットおよびコールドスポットがマイクロ波室内で生じ、この不均一さはマイクロ波プレートの回転によって概ね相殺される。
【0022】
一方、単一モード装置は、均一なマイクロ波場を有し、特定の室設計の結果、ホットスポットもコールドスポットも存在しない。
【0023】
本発明の方法は、バッチ式だけでなく、ポンプおよび適当な管型反応器を用いることによって連続式でも実施することができる。幾つかのマイクロ波装置を直列または並列に接続することもできる。
【0024】
もちろん、工程を加圧下または減圧下で行うこともできる。芳香族ポリイソシアネートの場合、反応生成物としての二酸化炭素を反応空間から除去しなければならないので、減圧下で行う方が有利である。二酸化炭素の除去はもちろん、該反応自体が終了した後に第2反応工程で行ってもよい。マイクロ波場にまだ存在する一部の二酸化炭素と、それ自体終了した反応生成物の後処理によって分離されたその他の二酸化炭素の組合せが、更に考えられる。
【0025】
例えば、技術的事情故にマイクロ波場における二酸化炭素排出の可能性がない場合、従って、例えば管型反応器内の二酸化炭素気泡故に、該反応器終端において、所定の反応容積の一定照射時間でポリイソシアネートの流速が低下する場合、加圧下で工程を実施することが考えられる。
【0026】
好ましくは、溶媒を使用せずに工程を実施する。しかしながら、特定の場合、例えば高粘度のポリイソシアネートの場合、溶媒を所望により併用できる。
【0027】
好ましいポリイソシアネートは、有機のジイソシアネートまたはポリイソシアネート或いはポリイソシアネートプレポリマーである。可能なジイソシアネートまたはポリイソシアネートは、Justus Liebigs Annalen der Chemie 562, (1949) 75に記載されているような、脂肪族、脂環式、芳香脂肪族、芳香族および複素環式ポリイソシアネートであり、その例は、式:
Q(NCO)
[式中、nは2〜4の整数、好ましくは2を表し、
Qは、2〜18個、好ましくは6〜10個の炭素原子を有する脂肪族炭化水素基、4〜15個、好ましくは5〜10個の炭素原子を有する脂環式炭化水素基、6〜15個、好ましくは6〜13個の炭素原子を有する芳香族炭化水素基、または7〜15個、好ましくは7〜13個の炭素原子を有する芳香脂肪族炭化水素基を表す。]
で示されるものである。
【0028】
DE-A 28 32 253に記載されているようなポリイソシアネートが好ましい。工業的に入手しやすいポリイソシアネートが一般に特に好ましく使用され、その例は、2,4−および2,6−トルイレンジイソシアネート(”TDI”)並びにそれらの異性体の所望の混合物、アニリン−ホルムアルデヒド縮合および続くホスゲン化によって調製されるようなポリフェニレンポリメチレンポリイソシアネート(”粗MDI”)、およびそれらから分離された単量体ジイソシアネート、例えば4,4’−および/または2,4’−および/または2,2’−ジフェニルメタンジイソシアネート、並びにそれらの混合物である。
【0029】
マイクロ波照射により促進された合成によって本発明の方法で製造されたカルボジイミド(CD)基および/またはウレトンイミン(UI)基含有ポリイソシアネートは、当業者に既知の方法で使用され得る。例を記載すると、未変性ポリイソシアネートとの混合物への使用、或いはポリオールとの反応によるNCOプレポリマーまたはOHプレポリマーの調製への使用である。本発明の方法によって得られた生成物は更に、全タイプのPU材料の製造のために使用できる。
【0030】
以下の実施例を用いて、本発明を更に詳細に説明する。
【実施例】
【0031】
比較例
最初に、1,000gの4,4’−MDI(Bayer MaterialScience AG製Desmodur 44M(登録商標))を、窒素雰囲気下、60℃で反応容器に導入し、2.5mg(=2.5ppm)の1−メチルホスホリンオキシドを添加した。混合物を90℃まで加熱し、8.7lのCOが分離されるまで、この温度で約8時間撹拌した。次いで、2倍モル量のトリフルオロメタンスルホン酸トリメチルシリルエステル(TMST)を反応混合物に添加し、混合物を冷却した。
澄明な生成物が得られた。そのNCO含有量は29.5重量%であり、粘度は35mPas(25℃)であった。
【0032】
実施例1(本発明に従う)
ホスホリンオキシド触媒を用いた、マイクロ波照射により促進された合成による、カルボジイミド(CD)基および/またはウレトンイミン(UI)基含有ポリイソシアネートの製造
1,294.8gの4,4’−MDI(Bayer MaterialScience AG製Desmodur 44M(登録商標))およびXppm(例えば3.25mg(2.5ppm))のホスホリンオキシドを撹拌しながら混合した。照射実施のため(表1参照)、各々の場合に80gの混合物を100ml容のガラス製フラスコに移し、次いで、CEM社製単一モードマイクロ波装置(Discover)でマイクロ波を照射した。以下の反応パラメータを変化させた。
反応時間:5〜60分、一定マイクロ波エネルギー供給量:圧縮空気による連続冷却下200〜300W
【0033】
形成されたCO量をガスメーターで測ることによって、反応過程をモニターした。各々の場合に705mlのCOを分離した時点で、5ppmのトリメチルシリルトリフルオロメタンスルホン酸メチルエステル(TMST)を添加することによって、反応を停止した。澄明な反応生成物が得られた。NCO含有量および粘度を測定した。
【0034】
【表1】

【0035】
表1の実施例は、本発明の方法による澄明なカルボジイミド(CD)基および/またはウレトンイミン(UI)基含有ポリイソシアネートを製造するための反応を、かなり短時間で実施でき、その空時収率が比較例より明らかに高いことを、はっきりと示している。
【0036】
実施例2(本発明に従う)
リン酸トリエチル触媒を用いた、マイクロ波照射により促進された合成による、カルボジイミド(CD)基および/またはウレトンイミン(UI)基含有ポリイソシアネートの製造
81.2gの4,4’−MDIを、100ml容のガラス製フラスコ内で、1.65g(2重量%、表2の実験2−1)または0.82g(1重量%、表2の実験2−2)のリン酸トリエチル(TEP)と共に撹拌した。次いで、これらの混合物に、CEM社製単一モードマイクロ波装置(Discover)でマイクロ波を照射し、表2に記載した反応条件を維持した。300Wのマイクロ波エネルギー供給量は一定であり、冷却は実施しなかった。形成されたCO量をガスメーターで測ることによって、反応過程をモニターした。710mlのCOを分離した時点で、反応を停止した。温度を低下させることによって反応を停止した。反応生成物のNCO含有量、粘度および外観を測定した(表2)。
【0037】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボジイミド基および/またはウレトンイミン基含有ポリイソシアネート(A)の製造方法であって、
a)カルボジイミド基および/またはウレトンイミン基含有ポリイソシアネート(A)のNCO値より大きいNCO値を有するポリイソシアネート(B)を触媒と混合し、
b)該混合物にマイクロ波を照射する
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
均一なマイクロ波照射場を有する単一モードマイクロ波照射を用いることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
不均一なマイクロ波照射場を有するマルチモードマイクロ波照射を用いることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、ポリフェニレンポリメチレンポリイソシアネートおよびトルイレンジイソシアネート(TDI)、特に好ましくは4,4’−MDI、2,4’−MDI、2,2’−MDIおよびそれらの混合物、並びに2,4−TDI、2,6−TDIおよびそれらの混合物からなる群から選択されるポリイソシアネートを使用することを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
得られたポリイソシアネート(A)が20〜46重量%、特に好ましくは22〜30重量%のNCO値を有することを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
ホスホリン触媒、ホスホリンオキシド触媒およびリン酸エステルを触媒として使用することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の方法によって製造された変性ポリイソシアネートの、イソシアネート混合物を製造するための使用。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれかに記載の方法によって製造された変性ポリイソシアネートの、イソシアネートプレポリマーを製造するための使用。
【請求項9】
請求項1〜6のいずれかに記載の方法によって製造された変性ポリイソシアネートの、ヒドロキシル基末端プレポリマーを製造するための使用。
【請求項10】
請求項1〜6のいずれかに記載の方法によって製造された変性ポリイソシアネートの、発泡および非発泡ポリウレタン材料を製造するための使用。

【公表番号】特表2009−518473(P2009−518473A)
【公表日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−543695(P2008−543695)
【出願日】平成18年11月27日(2006.11.27)
【国際出願番号】PCT/EP2006/011336
【国際公開番号】WO2007/065578
【国際公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【出願人】(504037346)バイエル・マテリアルサイエンス・アクチェンゲゼルシャフト (728)
【氏名又は名称原語表記】Bayer MaterialScience AG
【Fターム(参考)】