説明

カルボスチリル化合物の製造法

【課題】 本発明は医薬として有用な式(1)のカルボスチリル化合物またはその塩をより安全に効率よく製造できる改善された方法を提供する。
【解決手段】 本発明は、式(4)の化合物を塩酸中、高沸点溶剤を添加して加熱還流させることにより、安全に式(5)の化合物を製造し、次いで、該化合物(5)をアシル化して、カルボスチリル化合物(1)を得るカルボスチリル化合物の改良製法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件は、胃潰瘍等の治療剤として有用な下記のカルボスチリル化合物をより安全にかつ効率よく製造するカルボスチリル化合物の改良製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明のカルボスチリル化合物は、下記式(1)で示されるカルボスチリル化合物(化学名:2−(4−クロロベンゾイルアミノ)−3−[2(1H)−キノリノン−4−イル]プロピオン酸)であって、胃潰瘍、急性胃炎、または慢性胃炎の急性悪化期に現れる胃粘膜病変に対する優れた治療効果を示す薬剤である。
【0003】
【化1】

【0004】
本発明の式(1)で示されるカルボスチリル化合物の製造方法としては、例えば下記反応式1に示す方法が知られている(特許文献1)。すなわち、式(2)の化合物をナトリウムエトキシド等の塩基の存在下に式(3)の化合物と反応させて式(4)の化合物を得、この化合物を塩酸等の鉱酸で加水分解及び脱炭酸させて式(5)の化合物を製造した後、式(6)の4−クロロベンゾイルクロリドでアシル化させて目的とする式(1)の化合物を製造する。
【0005】
【化2】

【0006】
上記の方法において、式(4)の化合物から式(5)の化合物を製造する工程は、化合物(4)を、例えば20%塩酸中で加熱還流させる必要があるが、この反応工程では、反応の進行に伴いエタノール、炭酸ガス、酢酸、及び酢酸エチルが副生する。そのため、発生する炭酸ガスにより反応界面が激しく泡立ち、しかもこの泡はすぐには消失しない。特に化合物(4)に対する塩酸の量が少ない場合には、この泡による界面の急激な上昇が認められ、還流を継続して行うことがしばしば困難となる。しかも、そのような泡による界面の急激な上昇は突沸の危険を伴うため、目的物のカルボスチリル化合物(1)を大量に製造する場合、安全性が大きな問題となる。また、かかる発泡を避けるには加熱を抑える必要があり、その反応を促進するために必要な熱を充分にかけられない。さらに上記反応工程で副生するエタノール、酢酸エチル等により還流温度が低下し、反応速度の遅延誘因となる問題が生じる。したがって、この化合物(4)から化合物(5)に導く工程をいかに安全にかつ効率よく行うことが本発明の式(1)で示されるカルボスチリル化合物の工業的製造上重要な要素となっている。
【特許文献1】特開昭60−19767号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかして、上記従来法における式(4)の化合物またはその塩から式(5)の化合物またはその塩を製造する工程において、発泡による界面の上昇を抑え、大量合成する場合でも安全に効率よく製造できる方法を見出すべく種々検討した結果、その反応に際して、特定の物質を反応系に添加することによって発泡を抑え、より安全に有用な化合物(5)またはその塩を効率よく製造でき、ついでその化合物(5)またはその塩をアシル化に付すことにより所望の式(1)のカルボスチリル化合物またはその塩が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明の目的は、医薬として有用な式(1)のカルボスチリル化合物またはその塩をより安全に効率よく製造できる改善された方法を提供することである。
また本発明の製造法において中間体として製造される式(5)の化合物またはその塩は、所望の式(1)のカルボスチリル化合物またはその塩を製造するための中間体物質として、反応系からの結晶の取り出しがより容易かつ簡便に行えることが望まれる。また、所望の式(1)のカルボスチリル化合物またはその塩を製造するための中間体物質として、保存に好適であるためには、その乾燥がより容易に効率よく行えることが望まれる。
【0009】
本発明の他の目的は、式(2)の化合物またはその塩からの目的の式(1)のカルボスチリル化合物またはその塩を製造する一連の工程中、式(4)の化合物またはその塩から式(5)の化合物またはその塩を製造する工程において、本工程に適した高沸点溶剤存在中に加熱することにより、反応途中に発生する泡によって引き起こされる急激な界面の上昇およびこれに伴う突沸を抑制し、もって、目的とするカルボスチリル化合物(式(1))またはその塩をより安全に製造する方法を提供するものである。
本発明のもう一つの目的は、上記の突沸予防の問題を改善しつつ、必要に応じて反応工程におけるエタノール、酢酸エチル等の副生物を除去しながら還流温度を維持することにより、式(5)の化合物またはその塩をより効率よく製造する方法をも提供するものである。
さらに本発明の目的は、上記所望の中間体として式(5)の化合物の二塩酸塩二水和物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、酸性条件下、高沸点溶剤存在中、式(4)の化合物またはその塩を加熱させることにより、安全に式(5)の化合物またはその塩を製造することができ、必要に応じて反応工程におけるエタノール、酢酸エチル等の副生物を除去しながら加熱温度、特に還流温度を維持することにより、式(5)の化合物またはその塩をさらに効率よく製造することができる。次いで、その化合物(5)またはその塩を式(6)の4−クロロベンゾイルクロリドでアシル化させることにより、目的とする式(1)のカルボスチリル化合物またはその塩を得ることができる。
【0011】
すなわち、本発明によれば、式(4)の化合物またはその塩を酸性条件下に加熱させて式(5)の化合物またはその塩を導くに際し、特定の高沸点溶剤と共に反応を行うことにより、高沸点溶剤が消泡剤として機能し、望ましくない発泡を抑え、充分な加熱を加えて反応を促進することができる。
【0012】
この式(4)の化合物またはその塩から式(5)の化合物またはその塩に導く反応では、また、反応の進行に伴い、エタノール、酢酸エチル等の比較的低沸点の物質が副生するため、そのまま、反応を継続すると加熱温度、特に還流温度が下がり、充分な熱が加えられないため反応が遅延する原因となる。したがって、かかる副生する低沸点物質を反応系外に抜き取り反応効率を維持する必要がある。本発明によれば、加熱温度、特に還流温度を維持し反応効率を高めるために発泡の問題を改善しつつ、必要に応じて反応工程における副生物を除去しながら該温度を維持することにより、式(5)の化合物またはその塩をより効率よく製造する方法を提供することができる。
【0013】
本発明によれば、式(4)の化合物またはその塩を加熱して、式(5)の化合物またはその塩を得る工程が水中で行われ、および/または、式(5)の化合物またはその塩をアシル化させることにより目的とする式(1)のカルボスチリル化合物またはその塩を得る反応工程が、水中もしくは有機溶媒中またはその混合液中で行われる前記式(5)の化合物またはその塩、または式(1)のカルボスチリル化合物またはその塩の製造法を提供することができる。
【0014】
さらに本発明によれば、式(4)の化合物またはその塩を加熱して、式(5)の化合物またはその塩を得る工程において、塩酸の存在中で加熱反応が行われる式(5)の化合物またはその塩の製造法を提供することができる。
【0015】
また、本発明によれば、式(4)の化合物またはその塩を加熱して、式(5)の化合物またはその塩を得る工程に用いられる高沸点溶剤がノルマルオクタノールおよび/またはアセトフェノンである式(5)の化合物またはその塩の製造法が提供できる。
【0016】
本発明によれば、本発明の上記製造法によって得られる式(5)の化合物またはその塩が、式(5)で示される化合物の二塩酸塩二水和物であることを特徴とする新規物質を提供することができる。
【0017】
本発明で用いられる高沸点溶剤としては、上記のような操作を支障なく行うことのできる物質であればよい。
しかして本発明者らによる工業的レベルの物質製造法の研究によれば、該溶剤としては上記炭酸ガスの発生に起因する発泡による界面の上昇を抑制し得る物質であって、且つその反応に用いられる酸を加えた溶媒と共沸し、酸を加えた溶媒よりも比重が小さく、酸を加えた溶媒と混じり合わずに分離し、酸を加えた溶媒より高沸点であることがその目的に適していることを見出した。
【0018】
本発明者らは、特に後記実施例において示されるように本発明の製造法において用いられる酸としては、塩酸が好ましく例示でき、対応する高沸点溶剤としては、例えば塩酸よりも比重が小さく、塩酸と混じり合わない高沸点物質であるノルマルオクタノールおよび/またはアセトフェノンがよりその目的に適していることを見出した。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明において、式(4)の化合物またはその塩を酸加水分解して式(5)の化合物またはその塩に導く反応は、加水分解触媒の存在下、高沸点溶剤を添加して行われる。加水分解触媒としては、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸などのハロゲン化水素酸、硫酸、リン酸などの鉱酸類、ギ酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、p−トルエンスルホン酸等の有機酸を例示でき、特に好ましい触媒としては、塩酸を例示できる。
これらの触媒は、1種単独でまたは2種以上混合して用いることもできる。また該反応の溶媒を上記の酸を溶解している水等の溶媒で兼ねてもよく、塩酸に含まれている水が該反応の溶媒として特に好ましい。
触媒としての酸の使用量は、特に限定はされないが、例えば酸として塩酸を使用する場合においては、該反応の溶媒を兼ねてこれを使用することができ、通常、濃度が12〜36%、好ましくは18〜22%の塩酸を、式(4)の化合物またはその塩1重量部に対して、通常6容量部以上、好ましくは8容量部以上用いるとよい。
【0020】
本発明において使用され得る高沸点溶剤としては、上記式(4)の化合物またはその塩を酸性条件下で加熱反応する工程において副生する炭酸ガスの発生に起因する発泡による界面の上昇を抑制し得る(消泡効果を有する)物質として存在する(添加されることを含む)ものであって、酸を加えた溶媒と混じり合わず、かつその反応に用いられる酸を加えた溶媒と共沸し、酸を加えた溶媒よりも高沸点であることおよび低比重であることを満足する物理化学的特性を有する物質であれば、特に限定されない。高沸点溶剤としてより具体的には、例えばノルマルペンタノール、2−ペンタノール、3−ペンタノール、3−メチル−1−ブタノール、ノルマルヘキサノール、2−メチル−1−ペンタノール、2−エチル−1−ブタノール、3−ヘプタノール、ノルマルオクタノール、ノルマルノナノール、3,5,5−トリメチル−1−ヘキサノール、ノルマルデカノール、ノルマルウンデカノール、ノルマルドデカノールなどの炭素数5〜12のアルコール、アセトフェノン、オクチル酸、テトラリン、クメンなどが挙げられ、例えば、塩酸を該反応の酸触媒および溶媒を兼ねて使用する場合には、前記の条件を満足する物理化学的特性を有する、ノルマルオクタノールおよびアセトフェノンをより好適な高沸点溶剤として用いることができる。
高沸点溶剤の使用量は特に限定はされず、発泡の程度、反応缶の形状などに応じて好適な使用量は変動するが、式(4)の化合物またはその塩1重量部に対して、通常、0.1〜3容量部程度、好ましくは0.15〜1容量部程度の範囲から選ばれる。
上記反応は、通常80℃から反応溶媒の還流温度に加熱、好ましくは100℃から反応溶媒の還流温度に加熱して行い、通常6〜24時間程度で完了する。
【0021】
本発明の製造法に用いられる高沸点溶剤は、酸性条件下において式(4)の化合物またはその塩を加熱反応させる工程において、反応液界面の上昇を抑制する効果があり、安全に式(5)の化合物またはその塩を製造することができるうえ、反応缶の容積効率も格段に高めることができるので、式(5)の化合物またはその塩の大量合成に好適に使用できる。本発明において、式(4)の化合物またはその塩から、式(5)の化合物またはその塩に導く反応は、必要に応じて反応工程における副生物を除去しながら加熱温度、特に還流温度を維持することにより、式(5)の化合物またはその塩をさらに効率よく製造することができる。
該反応を、例えばディーン・スターク装置を使用して行えば、上記の2つの条件は同時に満たすことができ、工業的製造方法として好適に使用できる。
即ち、具体的には、還流温度において、共沸した水と高沸点溶剤の凝縮液は、該装置内で二層に分離し、本発明の製造法に用いられる高沸点溶剤は上層に、副生する低沸点物質は下層(水層;例えば塩酸)に分配される。したがって、下層のみを少量ずつ抜き取ることにより、低沸点物質は反応系外へ除かれ、必要な高い還流温度が維持されて反応遅延が避けられると共に、上層の高沸点溶剤のみを反応槽に循環して用いることができ、発泡による界面の上昇を継続して抑制することができる。
なお、反応が終了したのちは、高沸点溶剤を反応槽に循環させずに、凝縮液を反応系外へ抜き取り、これを分液することによって、高沸点溶剤と水(酸を含む)をそれぞれ回収することができる。また、この回収品はそのまま、あるいは適当な処理を行ったのちに再使用することができる。
【0022】
本発明において、式(4)の化合物またはその塩から、式(5)の化合物またはその塩に導く製造法を用いて得られた式(5)の化合物の塩は、従来知られていない新規物質である式(5)の化合物の二塩酸塩二水和物であると判明した。
本発明の式(5)の化合物の二塩酸塩二水和物は、他の公知の式(5)の化合物の一塩酸塩と比べると濾過性が良く、遠心分離機等による結晶の取り出しが容易となる。また、式(5)の化合物の二塩酸塩二水和物は、濾過性が良いことから含液率の低い湿体として得ることができるため、不純物が濾液側に除去され易くより高純度で得ることができ、さらには乾燥が容易となることから、より効率的な大量製造を行うことができ、目的化合物の中間体としてより保存に好適な新規物質である。
【0023】
また、式(4)の化合物またはその塩から、式(5)の化合物またはその塩に導く別の製造法として、式(4)の化合物またはその塩を、塩酸および酢酸の混合液中で加熱して式(5)の化合物に導く場合、これらの使用割合によっては、高沸点溶剤を添加せずとも、発泡による界面上昇は、工業的な大量製造において許容できる程度まで抑えられ、また比較的短時間に反応を完結させることができることを見出した。具体的には、式(4)の化合物またはその塩1重量部に対して、塩酸を5〜9容量部、好ましくは8〜9容量部、酢酸を2〜5容量部、好ましくは2.5〜3.5容量部とし、さらに、塩酸と酢酸の合計量を10〜12容量部程度とすればよい。尚、この時使用する塩酸の濃度は、通常12%〜36%、好ましくは18〜22%である。該反応は、通常100℃以上に加熱して、好ましくは還流温度に加熱して行う。以上の特定条件を用いて該反応を行えば、短時間の反応で、収率をほとんど低下させることなく、所望の式(5)の化合物を得ることができる。
また、本発明の目的は、式(4)の化合物またはその塩から、式(5)の化合物またはその塩を製造する工程において、式(4)の化合物またはその塩を、塩酸および酢酸の混合液中で加熱して式(5)の化合物に導く場合の、工業的大量生産に適した、効率的な製造方法を提供するものである。
【0024】
さらに本発明において、式(4)の化合物またはその塩を加熱して、式(5)の化合物またはその塩に誘導した後、式(5)の化合物またはその塩を式(6)の4−クロロベンゾイルクロリドと反応させて所望の式(1)のカルボスチリル化合物を得る。この反応は常法のアミド結合生成反応によって容易に行うことができる。また、用いる溶媒を適当に選択することによって、反応終了後、反応液を冷却し、また、必要に応じて反応液を中和し、析出する結晶を濾取することによりカルボスチリル化合物(1)またはその塩を簡単に分離採取することができる。
したがって、本発明方法は、式(1)のカルボスチリル化合物を安全かつ大量に製造することができ、工業的なカルボスチリル化合物(1)の製法として優れている。
上記反応は、通常、慣用の塩基を用いて行う。塩基としては例えば炭酸水素アルカリ金属(例えば、炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等)、アルカリ金属水酸化物(例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウム等)、炭酸アルカリ金属(例えば、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム等)、アルカリ金属低級アルコキシド(例えば、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムtert−ブトキシド、ナトリウムtert−ブトキシド、ナトリウムtert−ペントキシド等)、アルカリ金属水素化合物(例えば、水素化ナトリウム、水素化カリウム等)、アルカリ金属の酢酸塩(例えば、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム等)、トリアルキルアミン[例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、N−エチルジイソプロピルアミン等]、ピリジン、キノリン、ピペリジン、イミダゾール、ピコリン、ジメチルアミノピリジン、ジメチルアニリン、N−メチルモルホリン、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノン−5−エン(DBN)、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン−5−エン(DABCO)、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン(DBU)等が例示できる。これらの塩基は、1種単独または2種以上混合して使用することもできる。
上記反応において、式(5)の化合物またはその塩と式(6)の4−クロロベンゾイルクロリドの使用割合は、前者に対して、後者を少なくとも等モル、好ましくは等モル〜2倍モルとする。また、塩基の使用割合は、式(6)の4−クロロベンゾイルクロリドに対して、少なくとも等モル以上を用いる。
上記反応に用いられる溶媒としては、慣用の溶媒を用いることができ、水、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、アセトン、アセトニトリル、酢酸エチルなどが例示でき、1種単独または2種以上混合して使用することもできる。
上記反応は、通常−10〜100℃程度、好ましくは0〜36℃程度で行い、通常5分〜15時間程度で完了し、所望の式(1)のカルボスチリル化合物を得ることができる。
【0025】
本発明において反応式1における原料化合物(2)〜(5)は適当な塩であってもよく、また適当な反応性誘導体であってもよい。
本発明の式(1)で示されるカルボスチリル化合物またはその塩は、立体異性体、光学異性体及び溶媒和物(水和物、エタノレート等)を包含する。
本発明の式(1)で示されるカルボスチリル化合物は、医薬的に許容される酸を作用させることにより容易に酸付加塩とすることができ、本発明はこの酸付加塩をも包含する。上記において、酸としては、例えば塩酸、硫酸、リン酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硝酸等の無機酸、酢酸、シュウ酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、マロン酸、メタンスルホン酸、安息香酸、トリフルオロ酢酸、ベンゼンスルホン酸、ギ酸、トルエンスルホン酸等の有機酸、またはアミノ酸(たとえばアルギニン、アスパラギン酸、グルタミン酸など)等を挙げることができる。
【0026】
また本発明の式(1)で示されるカルボスチリル化合物は、医薬的に許容される塩基性化合物を作用させることにより容易に塩を形成させることができる。それらの塩としては、例えば、アルカリ金属塩(たとえばナトリウム塩、カリウム塩など)およびアルカリ土類金属塩(たとえばカルシウム塩、マグネシウム塩など)などの金属塩;アンモニウム塩;有機塩基塩(たとえば トリメチルアミン塩、トリエチルアミン塩、ピリジン塩、ピコリン塩、ジシクロヘキシルアミン塩、N、N’−ジベンジルエチレンジアミン塩など)等を挙げることができる。該塩基性化合物としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素カリウム等を挙げることができる。
【0027】
また本発明の式(1)で示されるカルボスチリル化合物は、通常の粉砕機(例えばアトマイザー)によって粒子径を小さくすることにより、生体内への吸収をより効率よく行うことができる。当該カルボスチリル化合物の粒子径を微細化した粉末を製造する方法は、当業者が良く知っている公知の方法により容易に粒子径を微細化することができる。該方法は例えばミルの回転比、或いはカルボスチリル化合物(1)の供給比などの適当な条件下にセラミックミルによって微細化することができる。また本発明の式(1)で示されるカルボスチリル化合物の適当な供給比や回転比で回転させながら、適当な供給空気圧でエア−ジェットミルを通過させることによっても微細化することができる。当該方法により製剤化に適した平均粒子径0.5〜5μm、90%積算粒子径10μm以下の本発明の式(1)で示されるカルボスチリル化合物粉砕品を得ることができる。
【実施例】
【0028】
以下に実施例を挙げて、本発明を更に詳細に説明する。
【0029】
実施例1
2−アセトアミド−2−エトキシカルボニル−3−[2(1H)−キノリノン−4−イル]プロピオン酸エチル(式(4)の化合物)40gに、20%塩酸400ml、及びノルマルオクタノール12mlを加え、ディーン・スターク装置を用いて、装置内で分離した凝縮液のうちノルマルオクタノールを含む上層は反応缶に循環し、下層のみを1時間当たり10〜20ml程度留去しながら6時間還流した。還流6時間後にノルマルオクタノールを留去した後、更に1時間当たり10〜20ml程度留去しながら2時間還流した。20℃以下に冷却後、析出した結晶を濾取した。得られた結晶をアセトンで洗浄し、約60℃で温風乾燥して、35.4g(収率97.1%)の2−アミノ−3−[2(1H)−キノリノン−4−イル]プロピオン酸二塩酸塩二水和物(式(5)の化合物の二塩酸塩二水和物)を得た。
融点;295℃(分解)
1H-NMR (DMSO-d6, δ ppm)
11.81 (brs, 1H), 8.67 (brs, 3H)、7.85 (d, J=8.3 Hz, 1H), 7.54 (t, J=7.6Hz, 1H), 7.38(d, J=8.3Hz, 1H), 7.24 (t, J=7.6 Hz, 1H), 6.51 (s, 1H), 4.53-4.13 (m, 1H), 3.37 (d, J=7.3 Hz, 2H)
水分;10.6%(理論値:10.6%)
塩酸含量;21.0%(理論値:21.4%)
元素分析;測定値 C:41.98%, H:5.04%, N:8.07%
計算値 C:42.24%, H:5.31%, N:8.21% (C12H18N2Cl2O5)
【0030】
実施例2
式(4)の化合物80.0gに水360ml、濃塩酸360ml、及びアセトフェノン60mlを加え、ディーン・スターク装置を用いて、装置内で分離した凝縮液のうちアセトフェノンを含む上層は反応缶に循環し、下層はその一部を留去しながら還流温度(103〜106℃)で10時間反応した。反応後、濃縮留去して、アセトフェノンを回収した。20℃以下に冷却後、析出した結晶を濾取した。得られた結晶をアセトンで洗浄した後、約60℃で温風乾燥して、二塩酸塩二水和物として所望の式(5)の化合物を得た(収率:95.6%)。
【0031】
実施例3
2−アミノ−3−[2(1H)−キノリノン−4−イル]プロピオン酸二塩酸塩二水和物(式(5)の化合物の二塩酸塩二水和物)30gに、水600ml及び25%の水酸化ナトリウム水溶液60mlを加えて溶解した。次に、4−クロロベンゾイルクロリド23g(式(6)の化合物)のアセトン90ml溶液を氷冷下で滴下した。滴下終了後、塩酸酸性とし、析出した結晶を濾取した。得られた結晶を水及びアセトンで洗浄し、約80℃で温風乾燥して、31.6g(収率96.9%)の式(1)のカルボスチリル化合物を得た。
【0032】
実施例4
式(4)の化合物20gに水90ml、濃塩酸90ml、酢酸60mlを加えて加熱し、6時間還流して反応させた。125mlを濃縮留去し、20℃以下に冷却後、析出した結晶を濾取した。得られた結晶をアセトンで洗浄し、約60℃で温風乾燥して、式(5)の化合物を得た(収率:96.2%)。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明の方法によれば、高沸点溶剤の使用により突沸の危険を回避できるので、所望の式(1)のカルボスチリル化合物またはその塩を安全に製造することができ、また、反応缶の容積効率も格段に高めることができるので、大量合成に極めて有効である。
【0034】
本発明の方法によれば、使用した高沸点溶剤は、反応途中に留去した後、分液するか、また反応終了後に留去液から分液することにより容易に回収することができ、また、固液分離後の酸(塩酸)濾液からは、単純な蒸留操作を行うことにより、初期の留分を除いた大半の留分を廃棄することなく再使用可能な酸(塩酸)として回収可能であるため、環境に対する悪影響を軽減できる。
【0035】
本発明の方法によれば、反応終了後の後処理は、冷却後に結晶濾取という簡単な操作により、高収率で式(5)の化合物またはその塩を得ることができるので、式(1)のカルボスチリル化合物またはその塩の大量合成に有効である。
【0036】
本発明の式(5)の化合物の二塩酸塩二水和物は、他の公知の式(5)の化合物の一塩酸塩と比べると濾過性が良く、遠心分離機等による結晶の取り出しが容易となる。また、式(5)の化合物の二塩酸塩二水和物は、濾過性が良いことから含液率の低い湿体として得ることができるため、不純物が濾液側に除去され易くより高純度で得ることができ、さらには乾燥が容易となることから、より効率的な大量製造を行うことができ、目的化合物の中間体としてより保存に好適な新規物質である。
【0037】
また本明細書に記載の方法によれば、式(4)の化合物またはその塩から、式(5)の化合物またはその塩に導く別の製造法として、式(4)の化合物またはその塩を、一定の使用割合の塩酸および酢酸の混合液中で加熱することで、高沸点溶剤を添加せずとも、発泡による界面上昇は、工業的な大量製造において許容できる程度まで抑えられ、また比較的短時間に反応を完結させることもできる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(4)の化合物またはその塩を、以下の(a)、または(a)および(b)の工程に付すことを特徴とする式(5)の化合物またはその塩の製造法:
(a)酸性条件下、高沸点溶剤存在中、式(4)の化合物またはその塩を加熱する工程、
(b)(a)の工程において、反応副生物を留去する工程。
【化1】

【化2】

【請求項2】
式(4)の化合物またはその塩を、以下の(a)、または(a)および(b)の工程に付すことにより式(5)の化合物またはその塩を得る工程、さらに(c)の工程に付すことを特徴とする式(1)の化合物またはその塩の製造法:
(a)酸性条件下、高沸点溶剤存在中、式(4)の化合物またはその塩を加熱する工程、
(b)(a)の工程において、反応副生物を留去する工程、
(c)塩基性条件下、式(5)の化合物またはその塩を4−クロロベンゾイルクロリドと反応させる工程。
【化3】

【化4】

【化5】

【請求項3】
(a)の工程が水中で行われ、および/または、(c)の工程が水中もしくは有機溶媒中またはその混合液中で行われることを特徴とする請求項1または2に記載の製造法。
【請求項4】
(a)の工程における酸性条件が、塩酸酸性であることを特徴とする請求項1から3に記載の製造法。
【請求項5】
高沸点溶剤がノルマルオクタノールおよび/またはアセトフェノンであることを特徴とする請求項1から4に記載の製造法。
【請求項6】
式(5)示される化合物の二塩酸塩二水和物。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(4)の化合物またはその塩を、以下の(a)、または(a)および(b)の工程に付すことを特徴とする式(5)の化合物またはその塩の製造法:
(a)酸性条件下、ノルマルオクタノールおよび/またはアセトフェノン存在中、式(4)の化合物またはその塩を加熱する工程、
(b)(a)の工程において、反応副生物を留去する工程。
【化1】

【化2】

【請求項2】
式(4)の化合物またはその塩を、以下の(a)、または(a)および(b)の工程に付すことにより式(5)の化合物またはその塩を得る工程、さらに(c)の工程に付すことを特徴とする式(1)の化合物またはその塩の製造法:
(a)酸性条件下、ノルマルオクタノールおよび/またはアセトフェノン存在中、式(4)の化合物またはその塩を加熱する工程、
(b)(a)の工程において、反応副生物を留去する工程、
(c)塩基性条件下、式(5)の化合物またはその塩を4−クロロベンゾイルクロリドと反応させる工程。
【化3】

【化4】

【化5】

【請求項3】
(a)の工程が水中で行われ、および/または、(c)の工程が水中もしくは有機溶媒中またはその混合液中で行われることを特徴とする請求項1または2に記載の製造法。
【請求項4】
(a)の工程における酸性条件が、塩酸酸性であることを特徴とする請求項1から3に記載の製造法。