説明

カルボニル化合物の製法

【課題】好収率でケトン化合物製造する方法を提供すること。
【解決手段】 パラジウム触媒、式[XM'n−(式中、XはP、Si、Sから選ばれる何れかの元素を表し、aは1又は2の整数を表し、M及びM'はMo、W、V、Ta、Nbから選ばれる何れかの元素を表し、b、cは0以上の整数を表し、dは1以上の整数を表し、nは1以上の整数を表す。)で表されるヘテロポリアニオンを有するヘテロポリ酸及びバナジウム化合物を添加した含水液相中、オレフィンを分子状酸素と反応させることを特徴とするオレフィンに対応するカルボニル化合物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルボニル化合物の製法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
オレフィン類の直接酸化によるカルボニル化合物の製造方法としては、古くからPdCl−CuCl触媒によるワッカー法が知られている。しかし、このワッカー法においては、塩素による装置の腐食や塩素化合物の副生などの問題がある。そのうえ、原料オレフィンの炭素数が増加するにつれて反応速度が著しく低下することや内部オレフィンの反応性が低いなどの問題があり、工業的にはアセトアルデヒドやアセトン等の低級カルボニル化合物の製造以外には用いられていない。このような問題を解決する方法として、特許文献1ではパラジウム及びヘテロポリ酸の存在下、レドックス金属を添加して反応を行う方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許出願公表昭63−500923号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、この方法ではPd単位量あたりの活性が低く、生産性の観点から満足できるものではなかった。本発明は、Pd単位量あたりの活性が良好で、優れた生産性を示すカルボニル化合物の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち、本発明は、パラジウム触媒、式[XM'n−(式中、XはP、Si、Sから選ばれる何れかの元素を表し、aは1又は2の整数を表し、M及びM'はMo、W、V、Ta、Nbから選ばれる何れかの元素を表し、b、cは0以上の整数を表し、dは1以上の整数を表し、nは1以上の整数を表す。)で表されるヘテロポリアニオンを有するヘテロポリ酸及びバナジウム化合物を添加した含水液相中、オレフィンを分子状酸素と反応させることを特徴とするオレフィンに対応するカルボニル化合物の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、好収率でケトン化合物等のカルボニル化合物を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
式[XM'n−(式中、XはP、Si、Sから選ばれる何れかの元素を表し、aは1又は2の整数を表し、M及びM'はMo、W、V、Ta、Nbから選ばれる何れかの元素を表し、b、cは0以上の整数を表し、dは1以上の整数を表し、nは1以上の整数を表す。)で表されるヘテロポリアニオンを有するヘテロポリ酸について先ず説明する。
【0008】
nの上限は、特に限定されないが、通常、20であり、好ましくは10である。このような式で表されるヘテロポリアニオンのうち、XとしてはPが、MおよびM’としては、V,Mo及びWが特に好ましい。
【0009】
また、典型的なヘテロポリアニオンの組成としては、XMM'12−x40、XMM'12−x42(式中、xは、不等式:0≦x≦12を満たす整数を表す。)、XMM’10−y34(式中、yは、不等式:0≦y≦10を満たす整数を表す。)、XMM’11−z39(式中、zは、不等式:0≦z≦11を満たす整数を表す。)、XuM’18−u62(式中、uは不等式:0≦u≦18を満たす整数を表す。)で表されるものが挙げられる。このようなヘテロポリ酸としては、具体的には、HPVMo1140、HPVMo1040、HPMo1240、HPW1240、HPMo12−x40(式中、xは、不等式:0<x<11を満たす整数を表す。)、HMo1862などが挙げられる。
【0010】
なお、上記のヘテロポリ酸は、市販のものをそのまま使用しても良いし、公知の方法に従って合成しても良い。また、ヘテロポリ酸はプロトン型を使用することもできるし、ヘテロポリ酸のプロトンの一部をNaやKなどのアルカリ金属や、アンモニウム塩に置換した酸性塩を使用することもできる。また、これらのヘテロポリアニオンは単独の種類のものを用いても良いし、複数種の混合物として使用しても良い。
【0011】
好適なヘテロポリ酸の添加量はヘテロポリ酸の種類等によってことなるが、多くの場合、含水液相中の濃度が、0.1 mmol/L〜100 mmol/Lとなる量が望ましく、更に好ましくは1mmol/L〜50mmol/Lの範囲である。また、パラジウム1モルに対して50〜0.1モル、好ましくは20〜0.5モル、更に好ましくは1〜10モルである。
【0012】
本発明では、バナジウム化合物は反応溶液に可溶であれば特に限定されないが、例えばVO2+やVO3-, VO43-, VO2+などバナジウム-酸素結合を含むものが挙げられ、好ましくは一般式AVO3又はVO(B)m (式中、Aは1価のカチオンを表し、Bはアニオンを表し、mは1以上の整数を表す。) で表される化合物が用いられる。Bで表されるアニオンとしては、アセチルアセトナートのような有機アニオンや、硫酸イオンのような無機アニオンが挙げられ、具体的な例としては、NHVO、NaVO、VOSO、(CHCOCHCOCHVOが挙げられる。
【0013】
バナジウム化合物の添加量は、使用するヘテロポリ酸やバナジウム源の種類によっても異なるが、好ましくは、ヘテロポリ酸1モルに対してバナジウム原子として0.5〜20グラム原子である。
【0014】
本発明において使用できるパラジウム源としては、例えば、パラジウム金属、パラジウム化合物及びそれらの混合物が挙げられる。
【0015】
パラジウム化合物の例としては、例えば、パラジウムの有機酸塩、パラジウムの酸素酸塩、酸化パラジウム、硫化パラジウムが挙げられる。また、これらの塩や酸化物、硫化物の有機錯体又は無機錯体、ならびにこれらの混合物などが挙げられる。
【0016】
パラジウムの有機酸塩の例としては、例えば、酢酸パラジウムやシアン化パラジウムが挙げられる。パラジウムの酸素酸塩の例としては、例えば、硝酸パラジウムや硫酸パラジウムが挙げられる。これらの塩、酸化物、及び硫化物の有機錯体又は無機錯体の例としては、例えば、硝酸テトラアミンパラジウム(II)、ビス(アセチルアセトナート)パラジウムなどが挙げられる。これらのうち、パラジウムの有機酸塩又はパラジウムの酸素酸塩が好ましく、酢酸パラジウムが、より好ましい。
【0017】
本発明の含水液相としては、水、および水に適当な有機溶媒を添加して得られる含水液相が用いられ、かかる有機溶媒としてはニトリル化合物が好ましく、なかでもアセトニトリルが好ましい。
【0018】
有機溶媒の添加量は、使用するオレフィンの種類によって異なるため一概に規定することはできないが、例えばオレフィンとしてシクロヘキセンを使用する際の好ましいアセトニトリル/水の重量比は4.8〜0.01、好ましくは3〜0.2である。
【0019】
本発明においては、パラジウム、ヘテロポリ酸、バナジウム化合物に加えて更に1種類以上の添加物を加えて反応を行うことができ、特に好ましい添加物として鉄化合物が例示される。鉄化合物としては公知のものを使用することができるが、例えば、硫酸鉄、ミョウバン鉄(硫酸アンモニウム鉄)、硝酸鉄、リン酸鉄などの無機塩や、クエン酸鉄、酢酸鉄などの有機酸塩、フタロシアニン鉄、アセチルアセトナート鉄などの錯体、及び酸化鉄などを挙げることができる。なかでも無機塩が好適に用いられ、硫酸鉄やミョウバン鉄が好ましい。好適な鉄化合物の濃度としては、ヘテロポリ酸1モルに対して0.01〜100モル、より好ましくは0.1〜50モルである。
【0020】
本発明において用いられるオレフィンは制限されないが、特に環状オレフィンを酸化して効率的に環状ケトンを得ることができる。環状オレフィンの例としては、炭素数4〜20個の環状オレフィンが挙げられる。例えば、シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテン、シクロデセン、シクロドデセン、シクロオクタデセンなどが挙げられる。より好適に使用されるシクロオレフィンはシクロヘキセンであり、シクロヘキセンからシクロヘキサノンが効率的に製造される。
【0021】
分子状酸素としては純酸素又は空気を使用することができ、これらのガスを、窒素又はヘリウムなどの不活性ガスで希釈することによって分子状酸素を含有するガスとして使用してもよい。使用する酸素量は、通常、反応系内に導入される酸素含有ガスの圧力によって調整され、酸素分圧として、好ましくはゲージ圧として0.01〜10MPa、さらに好ましくは0.05〜5MPaの範囲に設定する。この反応ガスは、全量を反応前に導入しておいても良いし、反応中に系内に吹き込むなどして、連続的に供給しながら反応を行っても良い。
【0022】
本発明の反応は、通常、酸性条件下において行われ、溶液の酸性度はヘテロポリ酸の添加量によって調節されることが望ましい。しかしながら、特にヘテロポリ酸の酸性塩を使用した場合などは、別のプロトン酸を少量添加して酸性度を制御することで、より好ましい反応結果が得られることもある。
【0023】
ヘテロポリ酸とは別のプロトン酸としては、無機酸、有機酸、又は固体酸等が例示され、無機酸としては、塩酸、フッ化水素酸のような二元酸(水素酸)と、硫酸、硝酸のようなオキソ酸(酸素酸)が例示される。有機酸の例としては、例えば、ギ酸、脂肪族カルボン酸(例えば酢酸)、脂環式カルボン酸(例えばシクロヘキサンカルボン酸)、芳香族カルボン酸(例えば安息香酸)、スルホン酸などが挙げられる。スルホン酸としては、例えば、アルキルスルホン酸(例えばメタンスルホン酸又はエタンスルホン酸)、アリールスルホン酸(例えばベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸又はナフタレンスルホン酸)などが挙げられる。固体プロトン酸の例としては、例えば、イオン交換樹脂(例えば、スルホン酸型イオン交換樹脂など)、酸性ゼオライトなど、及び硫酸化ジルコニアが挙げられる。
【0024】
ヘテロポリ酸とは別のプロトン酸の添加量としては、その解離可能なプロトンの全量がヘテロポリ酸に含まれるプロトンよりも少なくなるように調整する必要があり、好ましくは1/2以下、更に好適には1/10以下とすることが望ましい。
【0025】
反応は、通常は、0〜200℃、好ましくは10〜150℃、さらに好ましくは30〜100℃の温度範囲で行なわれる。反応は、通常は、0.01〜10MPa(絶対圧)、好ましくは0.05〜7MPa(絶対圧)、さらに好ましくは0.1〜5MPa(絶対圧)の圧力範囲内で行なわれる。反応は、回分式、半回分式、連続法、又はそれらの組合せにおいて行なうことができる。触媒は、反応器内に予め仕込んでから反応を開始しても良いし、連続的に供給しながら反応しても良い。
【0026】
生成物を含有する反応溶液、又は反応ガスは捕集され所望のケトン等のカルボニル化合物を単離する。生成したケトン化合物は、通常は、蒸留、相分離などによって分離することができる。
【実施例】
【0027】
以下、本発明を実施例によって更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0028】
実施例1
下記の混合物を120mlオートクレーブに入れ、空気2MPa、窒素3MPa(酸素分圧0.42MPa、窒素分圧4.58MPa)下、撹拌子で混合物を撹拌しながら323Kで2時間反応させた。得られた反応マスをガスクロマトグラフィーで分析した。結果を表1に示す。
(混合物)
シクロヘキセン:1.6g(20mmol)、
溶媒:アセトニトリル/水(3.0ml/2.0ml)、
PVMo1140(日本無機化学工業製):92mg(0.04mmol)、
VOSO・nHO(関東化学):59mg、
Pd(OAc):4mg。
【0029】
実施例2
ミョウバン鉄(FeNH(SO・12HO、関東化学)58mgを加えた以外は実施例1と同様にして反応を行った。結果を表1に示す。
【0030】
実施例3
硫酸鉄(FeSO・nHO、ナカライ)33mgを加えた以外は実施例1と同様にして反応を行った。結果を表1に示す。
【0031】
実施例4
溶媒としてアセトニトリル/水(1.5ml/1.0ml)、VOSO・nHO(関東化学)30mgとした以外は実施例3と同様に反応を行った。結果を表1に示す。
【0032】
実施例5
溶媒としてアセトニトリル/水(2.0ml/3.0ml)を用いた以外は実施例2と同様にして反応を行った。結果を表1に示す。
【0033】
実施例6
VOSO・nHOのかわりにNaVO(ナカライ)11mgを使用した以外は実施例2と同様に反応を行った。結果を表1に示す。
【0034】
実施例7
ヘテロポリ酸としてHPMo1240(日本無機化学工業製)を用い、VOSO・nHOを143mg用いた以外は、実施例2と同様に反応を行った。結果を表1に示す。
【0035】
実施例8
ミョウバン鉄のかわりに硫酸鉄(FeSO・nHO、ナカライ)33mgを加え、アセトニトリル/水(1.5ml/1.0ml)とした以外は実施例6と同様に反応を行った。結果を表1に示す。
【0036】
比較例1
VOSO・nHOを加えなかった以外は、実施例2と同様に反応を行った。結果を表1に示す。
【0037】
比較例2
特許文献1開示の方法に従ってKPMoMo40を次のようにして調製した。すなわち、蒸留水38mlにメタバナジン酸ナトリウム7.32gを溶解させ、90℃にした。またこれとは別に蒸留水12mlにモリブデン酸ナトリウム8.07gを加え90℃に加熱し、先に調製したメタバナジン酸ナトリウム水溶液を加えた。この混合液に85%リン酸5mlを添加した。冷却後、硝酸カリウム8gを加えて撹拌した後、固形物をろ過した。その固体を0.25M HSOから再結晶し、KPMo40を得た。
【0038】
アセトニトリル/水(1.3ml/3.8ml)にPd(NO 8mg、調製したKPMo40 160mg(0.09mmol)及びCu(NO・3HO 120mgを加え、更に硫酸7.7mg(0.08mmol)を添加した。ここにシクロヘキセン210mg(2.6mmol)を加えて、120mlオートクレーブに入れ、撹拌子で撹拌しながら空気2MPa、窒素3MPa(酸素分圧0.42MPa、窒素分圧4.58MPa)下、323Kで2時間反応させた。得られた反応マスをガスクロマトグラフィーで分析した結果を表1に示す。
【0039】
【表1】

【0040】
表1において、転化率はシクロヘキセンの転化率を表し、TOF(h−1)は(シクロヘキサノンの生成モル数)/(Pdのモル数)/(反応時間)を意味する。アセトアミド/シクロヘキサノン(モル%)は生成したシクロヘキサノンとアセトアミドとの比率を表す。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は、シクロヘキサノン等のカルボニル化合物の有用な製法となり得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パラジウム触媒、式[XM'n−(式中、XはP、Si、Sから選ばれる何れかの元素を表し、aは1又は2の整数を表し、M及びM'はMo、W、V、Ta、Nbから選ばれる何れかの元素を表し、b、cは0以上の整数を表し、dは1以上の整数を表し、nは1以上の整数を表す。)で表されるヘテロポリアニオンを有するヘテロポリ酸及びバナジウム化合物を添加した含水液相中、オレフィンを分子状酸素と反応させることを特徴とするオレフィンに対応するカルボニル化合物の製造方法。
【請求項2】
バナジウム化合物が式AVO又はVO(B)(式中、Aは1価のカチオンを表し、Bはアニオンを表し、mは1以上の整数を表す。)で表されるバナジウム化合物である請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
含水液相が、有機溶媒を含む含水液相である請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
含水液相が、アセトニトリルを含む含水液相である請求項1〜3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
オレフィンが環状オレフィンであり、カルボニル化合物が環状ケトンである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
オレフィンがシクロヘキセンであり、カルボニル化合物がシクロヘキサノンである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
さらに鉄化合物の存在下に反応を行う請求項1〜6のいずれか一項に記載の製造方法。

【公開番号】特開2010−241690(P2010−241690A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−67799(P2009−67799)
【出願日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】