説明

カンチレバーを用いた検出対象物質の検出方法及びカンチレバーセンサシステム

【課題】 検体中の検出対象物質を短時間で検出する。
【解決手段】 検体に接触させた場合に検体中に検出対象物質が存在すればたわみを生じるカンチレバー3Aに検体を接触させ、カンチレバー3Aに検体を接触させた時点より後で、検体に検出対象物質が含まれていた場合にカンチレバー3Aがたわみきるために要する時間が経過する時点よりも前の、第1時点と第2時点とにおいて、カンチレバー3Aの変位量を測定し、第1時点で測定したカンチレバー3Aの変位量と第2時点で測定したカンチレバー3Aの変位量とを比較する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カンチレバーを用いた検出対象物質の検出方法、及び、それに用いるカンチレバーセンサシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
カンチレバーを用いたセンサ(以下適宜、「カンチレバーセンサ」という)について、近年様々な開発が行なわれている。このカンチレバーセンサの動作原理は、検出対象とカンチレバー表面との相互作用により生じる表面応力の変化を、カンチレバーのたわみ量(変位量)により検出するというものである。
【0003】
このようなカンチレバーセンサの例としては、DNAハイブリダイゼーション検出センサ(非特許文献1)、抗原抗体反応検出センサ(非特許文献2)、マイクロカンチレバー・バイオセンサ(特許文献1)などが挙げられる。これらカンチレバーセンサを用いた測定では、カンチレバーを検体に接触させる前後において、カンチレバーの変位量がどれだけ変化したのかを測定することによって、検出対象物質の検出が行なわれている。
【0004】
但し、検体とカンチレバーとが接触することによって生じるカンチレバーの変位量の変化には、ある一定の反応時間を要する。したがって、具体的な測定は、検体とカンチレバーとが接触することによって生じたカンチレバーの変位量の変化が一定時間経過後に止まり、カンチレバーの変位量が一定値を示すようになったところで、この変位量を測定し、当該変位量と、検体と接触する前のカンチレバーの変位量とを比較することによって、検出対象物質の検出が行なわれることとなる。
【0005】
【特許文献1】国際公開第WO98/50773号パンフレット
【非特許文献1】Science, Vol.288(2000), pp.316-318
【非特許文献2】Sensors and Actuators B, Vol.79(2001),pp.115-126
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1や非特許文献1,2に記載されたような従来の測定方法では、カンチレバーを検体に接触させた後、検体とカンチレバーとの相互作用によるカンチレバーの変位量の変化が一定時間経過後に止まり、カンチレバーの変位量が一定値を示すようになるまで測定を終えることができないという課題があった。特に、検体と接触させた後、カンチレバーの変位量の変化が止まるまでの時間が長い場合(例えば数時間、数十時間)、この測定方法では測定終了までに要する時間が長くなりすぎ、実用的ではない。
【0007】
本発明は上記の課題に鑑みて創案されたもので、従来よりも短時間で検出対象物質の検出を行なうことを可能にした、カンチレバーを用いた検出対象物質の検出方法及びカンチレバーセンサシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の発明者らは、上記課題を解決するべく鋭意検討した結果、検体をカンチレバーに接触させた後カンチレバーがたわみきる前の時間範囲(以下適宜、「特定時間範囲」という)の2つの時点においてカンチレバーの変位量がどれだけ変化するかが、検体中の検出対象物質とカンチレバーとの相互作用と密接に関連しているとの知見を得た。即ち、相互作用が小さい場合はカンチレバーの変位量の変化は小さくなり、相互作用が大きい場合はカンチレバーの変位量の変化は大きくなるが、この関係は、特定時間範囲においてカンチレバーの変位量が変化を続けている間でも成立する。
【0009】
さらに、上記特定時間範囲において、検出対象物質とカンチレバーとの相互作用によるカンチレバー変位量の変化が続いている場合には、変位量の経時的変化は直線、多項式、指数関数等で近似でき、また、当該直線の傾きや多項式及び指数関数の係数は検出対象物質とカンチレバーとの相互作用と密接に関連しているとの知見も得た。即ち、上記の直線の傾きや多項式及び指数関数の係数の絶対値は、相互作用が小さい場合は小さくなり、相互作用が大きい場合は大きくなるのである。
【0010】
なお、ここで、特定時間範囲とは、カンチレバーに検体を接触させた時点よりも後で、検体に検出対象物質が含まれていた場合にカンチレバーがたわみきるために要する時間、即ち、カンチレバーを検体に接触させた後に検体とカンチレバーとの相互作用によるカンチレバーの変位量の変化が止まりカンチレバーの変位量が一定値を示すようになるまでの時間が経過する時点よりも前の時間範囲を指す。
【0011】
上記の知見を基に、本発明の発明者らは、従来のように検体をカンチレバーに接触させる時点の前後でカンチレバー変位量を比較するのではなく、接触させた後の特定時間範囲内で、カンチレバーの変位量がどれだけ変化したかを測定することにより、カンチレバーの変位量の変化が遅い場合であっても、短時間で正確な検出を行なうことが可能であることを見出し、本発明を完成させた。
【0012】
即ち、本発明の要旨は、検体に接触させた場合に上記検体中に検出対象物質が存在すればたわみを生じるカンチレバーを用いた、検出対象物質の検出方法であって、上記カンチレバーに検体を接触させ、上記カンチレバーに上記検体を接触させた時点より後、上記検体に検出対象物質が含まれていた場合に上記カンチレバーがたわみきるために要する時間が経過する時点よりも前の、第1時点と第2時点とにおいて、上記カンチレバーの変位量を測定し、上記第1時点で測定した上記カンチレバーの変位量と上記第2時点で測定した上記カンチレバーの変位量とを比較して検出対象物質を検出することを特徴とする、カンチレバーを用いた検出対象物質の検出方法に存する(請求項1)。これにより、従来よりも短時間で正確な検出を行なうことが可能となる。これは、特定時間範囲内において、検体とカンチレバーとの相互作用によるカンチレバーの変位量の変化が止まる前に、検出対象物質の検出が行なえるからである。さらに、従来は、検出に要する時間が長くなるために、変位量の測定に用いる測定装置の出力が長時間に渡って安定することが要求され、高価な測定装置が必要になっていたが、上記検出方法を用いれば、そのようなコスト増を招く虞はなくなる。
【0013】
また、本発明の別の要旨は、検体に接触させた場合に、上記検体中に検出対象物質が存在すればたわみを生じるカンチレバーと、上記検体中の上記検出対象物質の有無によらないたわみを生じる補正用カンチレバーとを用いた、検出対象物質の検出方法であって、上記カンチレバー及び上記補正用カンチレバーに検体を接触させ、上記カンチレバーに上記検体を接触させた時点より後、上記検体に検出対象物質が含まれていた場合に上記カンチレバーがたわみきるために要する時間が経過する時点よりも前の、第1時点と第2時点とにおいて、上記カンチレバー及び上記補正用カンチレバーのそれぞれの変位量を測定し、上記カンチレバーの変位量を上記補正用カンチレバーの変位量で補正し、補正後の、上記第1時点で測定した上記カンチレバーの変位量と上記第2時点で測定した上記カンチレバーの変位量とを比較して検出対象物質を検出することを特徴とする、カンチレバーを用いた検出対象物質の検出方法に存する(請求項2)。これによっても、従来よりも短時間で正確な測定を行なうことが可能となり、また、従来のような高価な測定装置を用いず検出を行なうことが可能となる。さらに、補正用カンチレバーは検出対象物質との相互作用はなく、温度変化等の環境変化による変位を出力する為、カンチレバーの変位量と補正用カンチレバーの変位量との差を計算する補正を行なうことで、測定結果への環境変化の影響を低減し、より正確な検出を行なうことが可能となる。
【0014】
また、本発明の更に別の要旨は、検体に接触させた場合に上記検体中に検出対象物質が存在すればたわみを生じるカンチレバーを用いた、検出対象物質の検出方法であって、上記カンチレバーに検体を接触させ、上記カンチレバーに上記検体を接触させた時点より後、上記検体に検出対象物質が含まれていた場合に上記カンチレバーがたわみきるために要する時間が経過する時点よりも前の、第1時点から第2時点までの間において、上記カンチレバーの変位量を測定し、上記カンチレバーの変位量を時間に対して直線近似し、上記直線近似により得られた直線の傾きにより検出対象物質を検出することを特徴とする、カンチレバーを用いた検出対象物質の検出方法に存する(請求項3)。これによっても、従来よりも短時間で正確な測定を行なうことが可能となり、また、従来のような高価な測定装置を用いず検出を行なうことが可能となる。
【0015】
また、本発明の更に別の要旨は、検体に接触させた場合に上記検体中に検出対象物質が存在すればたわみを生じるカンチレバーと、上記検体中の上記検出対象物質の有無によらないたわみを生じる補正用カンチレバーとを用いた、検出対象物質の検出方法であって、上記カンチレバー及び上記補正用カンチレバーに検体を接触させ、上記カンチレバーに検体を接触させた時点より後、上記検体に検出対象物質が含まれていた場合に上記カンチレバーがたわみきるために要する時間が経過する時点よりも前の、第1時点から第2時点までの間において、上記カンチレバー及び上記補正用カンチレバーのそれぞれの変位量を測定し、上記カンチレバーの変位量を上記補正用カンチレバーの変位量で補正し、補正後の、上記カンチレバーの変位量を時間に対して直線近似し、上記直線近似により得られた直線の傾きにより検出対象物質を検出することを特徴とする、カンチレバーを用いた検出対象物質の検出方法に存する(請求項4)。これによっても、従来よりも短時間で正確な測定を行なうことが可能となり、また、従来のような高価な測定装置を用いず検出を行なうことが可能となる。さらに、補正用カンチレバーで補正を行なうことで、測定結果への環境変化の影響を低減し、より正確な検出を行なうことが可能となる。
【0016】
さらに、本発明の更に別の要旨は、検体に接触させた場合に上記検体中に検出対象物質が存在すればたわみを生じるカンチレバーを用いた、検出対象物質の検出方法であって、上記カンチレバーに検体を接触させ、上記カンチレバーに上記検体を接触させた時点より後、上記検体に検出対象物質が含まれていた場合に上記カンチレバーがたわみきるために要する時間が経過する時点よりも前の、第1時点から第2時点までの間において、上記カンチレバーの変位量を測定し、上記カンチレバーの変位量を時間に対して多項式で近似し、上記近似により得られた多項式の係数により検出対象物質を検出することを特徴とする、カンチレバーを用いた検出対象物質の検出方法に存する(請求項5)。これによっても、従来よりも短時間で正確な測定を行なうことが可能となり、また、従来のような高価な測定装置を用いず検出を行なうことが可能となる。
【0017】
また、本発明の更に別の要旨は、検体に接触させた場合に上記検体中に検出対象物質が存在すればたわみを生じるカンチレバーと、上記検体中の上記検出対象物質の有無によらないたわみを生じる補正用カンチレバーとを用いた、検出対象物質の検出方法であって、上記カンチレバー及び上記補正用カンチレバーに検体を接触させ、上記カンチレバーに上記検体を接触させた時点より後、上記検体に検出対象物質が含まれていた場合に上記カンチレバーがたわみきるために要する時間が経過する時点よりも前の、第1時点から第2時点までの間において、上記カンチレバー及び上記補正用カンチレバーのそれぞれの変位量を測定し、上記カンチレバーの変位量を上記補正用カンチレバーの変位量で補正し、補正後の、上記カンチレバーの変位量を時間に対して多項式で近似し、上記近似により得られた多項式の係数により検出対象物質を検出することを特徴とする、カンチレバーを用いた検出対象物質の検出方法に存する(請求項6)。これによっても、従来よりも短時間で正確な測定を行なうことが可能となり、また、従来のような高価な測定装置を用いず検出を行なうことが可能となる。さらに、補正用カンチレバーで補正を行なうことで、測定結果への環境変化の影響を低減し、より正確な検出を行なうことが可能となる。
【0018】
さらに、本発明の更に別の要旨は、検体に接触させた場合に上記検体中に検出対象物質が存在すればたわみを生じるカンチレバーを用いた、検出対象物質の検出方法であって、上記カンチレバーに検体を接触させ、上記カンチレバーに上記検体を接触させた時点より後、上記検体に検出対象物質が含まれていた場合に上記カンチレバーがたわみきるために要する時間が経過する時点よりも前の、第1時点から第2時点までの間において、上記カンチレバーの変位量を測定し、上記カンチレバーの変位量を時間に対して指数関数で近似し、上記近似により得られた指数関数の係数により検出対象物質を検出することを特徴とする、カンチレバーを用いた検出対象物質の検出方法に存する(請求項7)。これによっても、従来よりも短時間で正確な測定を行なうことが可能となり、また、従来のような高価な測定装置を用いず検出を行なうことが可能となる。
【0019】
また、本発明の更に別の要旨は、検体に接触させた場合に上記検体中に検出対象物質が存在すればたわみを生じるカンチレバーと、上記検体中の上記検出対象物質の有無によらないたわみを生じる補正用カンチレバーとを用いた、検出対象物質の検出方法であって、上記カンチレバー及び上記補正用カンチレバーに検体を接触させ、上記カンチレバーに上記検体を接触させた時点より後、上記検体に検出対象物質が含まれていた場合に上記カンチレバーがたわみきるために要する時間が経過する時点よりも前の、第1時点から第2時点までの間において、上記カンチレバー及び上記補正用カンチレバーのそれぞれの変位量を測定し、上記カンチレバーの変位量を上記補正用カンチレバーの変位量で補正し、補正後の、上記カンチレバーの変位量を時間に対して指数関数で近似し、上記近似により得られた指数関数の係数により検出対象物質を検出することを特徴とする、カンチレバーを用いた検出対象物質の検出方法に存する(請求項8)。これによっても、従来よりも短時間で正確な測定を行なうことが可能となり、また、従来のような高価な測定装置を用いず検出を行なうことが可能となる。さらに、補正用カンチレバーで補正を行なうことで、測定結果への環境変化の影響を低減し、より正確な検出を行なうことが可能となる。
【0020】
さらに、上記カンチレバーの表面には、上記検出対象物質と相互作用しうる特定物質が固定化されていることが好ましい(請求項9)。
また、上記特定物質としては、糖鎖を用いることが好ましい(請求項10)。
さらに、上記検出対象物質としては、ウィルス及び細菌の少なくともいずれかを検出するようにすることが好ましい(請求項11)。
【0021】
また、本発明の更に別の要旨は、検体に接触させた場合に上記検体中に検出対象物質が存在すればたわみを生じるカンチレバーと、該カンチレバーに上記検体を接触させる検体接触部と、該カンチレバーの変位量を、該カンチレバーに検体を接触させた時点より後、上記検体に上記検出対象物質が含まれていた場合に該カンチレバーがたわみきるために要する時間が経過する時点よりも前の、第1時点と第2時点とにおいて、該カンチレバーの変位量を測定する変位量測定部と、上記第1時点で測定した該カンチレバーの変位量と上記第2時点で測定した該カンチレバーの変位量とを比較する変位量比較部とを有することを特徴とする、カンチレバーセンサシステムに存する(請求項12)。これによっても、従来よりも短時間で正確な測定を行なうことが可能となり、また、従来のような高価な測定装置を用いず検出を行なうことが可能となる。
【0022】
また、本発明の更に別の要旨は、検体に接触させた場合に上記検体中に検出対象物質が存在すればたわみを生じるカンチレバーと、該カンチレバーに上記検体を接触させる検体接触部と、該カンチレバーに上記検体を接触させた時点より後、上記検体に上記検出対象物質が含まれていた場合に該カンチレバーがたわみきるために要する時間が経過する時点よりも前の、第1時点から第2時点までの間において、該カンチレバーの変位量を測定する変位量測定部と、該カンチレバーの変位量を時間に対して直線近似する変位量近似部と、上記直線近似により得られた直線の傾きを出力する傾き出力部とを備えることを特徴とする、カンチレバーセンサシステムに存する(請求項13)。これによっても、従来よりも短時間で正確な測定を行なうことが可能となり、また、従来のような高価な測定装置を用いず検出を行なうことが可能となる。
【0023】
さらに、本発明の更に別の要旨は、検体に接触させた場合に上記検体中に検出対象物質が存在すればたわみを生じるカンチレバーと、該カンチレバーに上記検体を接触させる検体接触部と、該カンチレバーに上記検体を接触させた時点より後、上記検体に上記検出対象物質が含まれていた場合に該カンチレバーがたわみきるために要する時間が経過する時点よりも前の、第1時点から第2時点までの間において、該カンチレバーの変位量を測定する変位量測定部と、該カンチレバーの変位量を時間に対して多項式で近似する変位量近似部と、上記直線近似により得られた多項式の係数を出力する係数出力部とを備えることを特徴とする、カンチレバーセンサシステムに存する(請求項14)。これによっても、従来よりも短時間で正確な測定を行なうことが可能となり、また、従来のような高価な測定装置を用いず検出を行なうことが可能となる。
【0024】
また、本発明の更に別の要旨は、検体に接触させた場合に上記検体中に検出対象物質が存在すればたわみを生じるカンチレバーと、該カンチレバーに上記検体を接触させる検体接触部と、該カンチレバーに上記検体を接触させた時点より後、上記検体に上記検出対象物質が含まれていた場合に該カンチレバーがたわみきるために要する時間が経過する時点よりも前の、第1時点から第2時点までの間において、該カンチレバーの変位量を測定する変位量測定部と、該カンチレバーの変位量を時間に対して指数関数で近似する変位量近似部と、上記直線近似により得られた指数関数の係数を出力する係数出力部とを備えることを特徴とする、カンチレバーセンサシステムに存する(請求項15)。これによっても、従来よりも短時間で正確な測定を行なうことが可能となり、また、従来のような高価な測定装置を用いず検出を行なうことが可能となる。
【発明の効果】
【0025】
本発明のカンチレバーを用いた検出対象物質の検出方法、及び、カンチレバーセンサシステムによれば、従来よりも短時間で検出対象物質の検出を行なうことが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変形して実施することができる。
【0027】
[1.検出対象物質]
まず、本発明のカンチレバーを用いた検出対象物質の検出方法(以下適宜、単に「本発明の検出方法」という)を用いて検出しようとする検出対象物質について説明する。
検出対象物質は、その種類や状態に特に制限は無いが、通常は、検体中に溶解又は分散した状態で検出に用いられる。また、検出対象物質は、1種を単独で検出するようにしてもよいし、2種以上を任意の組み合わせで検出するようにしても良い。なお、ここでいう検体とは、検出対象物質を含んでいるかどうかを分析する対象であり、通常は、気体や液体の状態で分析に供される。以下の実施形態においては、検体が液体状態の検体液である場合について説明するが、検体が気体状態である場合についても同様に実施可能である。
【0028】
検出対象物質は、通常、生体物質等の何らかの物質(以下適宜、「特定物質」という)と特異的に相互作用する物質(以下適宜、「作用物質」という)である。ここで、特定物質と作用物質との「相互作用」とは、特に限定されるものではないが、通常は、共有結合、疎水結合、水素結合、ファンデルワールス結合、及び静電力による結合のうち少なくとも1つから生じる物質間に働く力による作用を示す。ただし、本明細書に言う「相互作用」との用語は最も広義に解釈すべきであり、いかなる意味においても限定的に解釈してはならない。共有結合としては、配位結合を含有する。また静電力による結合とは、静電結合の他、電気的反発も含有する。また、上記作用の結果生じる結合反応、合成反応、分解反応も相互作用に含有される。
【0029】
相互作用の具体例としては、抗原と抗体との間の結合及び解離、タンパク質レセプターとリガンドとの間の結合及び解離、接着分子と相手方分子との間の結合及び解離、酵素と基質との間の結合及び解離、アポ酵素と補酵素との間の結合及び解離、核酸とそれに結合する核酸又はタンパク質との間の結合及び解離、情報伝達系におけるタンパク質同士の間の結合及び解離、糖タンパク質とタンパク質との間の結合及び解離、糖鎖とタンパク質、ウィルス、細菌等の微生物との間の結合及び解離などが挙げられるが、この範囲に限定されるものではない。
【0030】
さらに、検出対象物質の例としては、イムノグロブリンやその派生物であるF(ab′)2、Fab′、Fab、レセプターや酵素とその派生物、核酸、天然あるいは人工のペプチド、人工ポリマー、糖質、脂質、無機物質あるいは有機配位子、ウィルス、細胞、薬物等が挙げられる。
【0031】
中でも、ウィルス及び細菌は、本発明の検出方法による検出に適している。一般に、ウィルスや細菌の表面には、感染する細胞表面の糖鎖と結合するタンパク質(以下適宜、「結合タンパク質」という)が存在していて、この結合タンパク質が細胞表面の糖鎖と結合することにより、細胞がウィルスや細菌に感染する。したがって、この感染のメカニズムを利用してカンチレバーによる検出を行なうようにすれば、これらのウィルスや細胞を高感度に検出することができる。
【0032】
本発明の検出方法により検出することができる細菌の具体例としては、大腸菌、コレラ菌、ブドウ球菌、炭疽菌、淋菌、ペスト菌、レジオネラ菌、赤痢菌、チフス菌、ピロリ菌、結核菌、ボツリヌス菌、破傷風菌、ジフテリア菌などが挙げられる。
【0033】
また、本発明の検出方法により検出することができるウィルスの具体例としては、B型肝炎ウィルス、C型肝炎ウィルス、レオウィルス、脳心筋炎ウィルス、エイズウィルス、ロタウィルス、コロナウィルス、パルボウィルス、センダイウィルス、ニューカッスル病ウィルス、ヘルペス1型ウィルス、テングウィルス、インフルエンザウィルスなどが挙げられる。なお、インフルエンザウィルスとしては、ヒトインフルエンザウィルス、トリインフルエンザウィルスなどが挙げられる。
【0034】
[2.カンチレバー]
次に、本発明の検出方法において用いるカンチレバーについて説明する。
本発明の検出方法では、検出対象物質を検出する為のセンサ(カンチレバーセンサ)として機能する検出用のカンチレバー(以下適宜、「検出用カンチレバー」という)を用いる。また、適宜、検出用カンチレバーによる検出精度を高めるため、補正用カンチレバーを用いる。
【0035】
[2−1.検出用カンチレバー]
検出用カンチレバーは、検体中に検出対象物質が存在する場合に上記検体に接触することによりたわみを生じるものであればその具体的な構成に制限は無く任意であるが、通常は、検出対象物質と相互作用しうる特定物質を表面に固定化されたものを用いる。この検出用カンチレバーは、特定物質に対応した検出対象物質を含む検体が検出用カンチレバーに接触した場合、上記の検出対象物質と特定物質とが相互作用して、検出用カンチレバーの表面に表面応力の変化が生じ、検出用カンチレバーがたわむようになっている。したがって、このたわみの大きさ(以下適宜、「変位量」という)を測定すれば、検出対象物質の量、濃度、種類などを検出することができるのである。
【0036】
以下、検出用カンチレバーの構成について、図を用いて説明する。
図19は検出用カンチレバーの一例について要部を表わす模式的な斜視図であり、図20は検出用カンチレバーの一例について表面近傍を拡大して模式的に示す断面図である。図19や図20に示すように、検出用カンチレバー100は、通常、カンチレバー本体101と、カンチレバー本体101の表面に固定化された特定物質102を有している。特定物質102は、カンチレバー本体101に対して直接固定化されていてもよく、間接的に固定化されていてもよい。通常は、図20に示すように、カンチレバー本体101の表面に成膜された金属膜103と、該金属膜103上に固定化された有機分子104とを介して、有機分子104上に固定化されることによって特定物質102は間接的にカンチレバー本体101に固定化される。なお、図19においては特定物質102の図示は省略してある。また、図19においては、検出用カンチレバー100の図中上面に特定物質102が固定化された部分(以下適宜、「相互作用部」という)105が形成されているものとする。
【0037】
検出用カンチレバー100に用いるカンチレバー本体101に制限はなく、公知のカンチレバーを任意に用いることができる。
例えば、カンチレバー本体101の材料に制限は無く、任意の材料を用いることができるが、通常は、可撓性を有するものを用いる。カンチレバー本体101の材料の具体例としては、例えば、シリコン、窒化シリコンなどが挙げられる。
【0038】
また、カンチレバー本体101の形状にも制限は無いが、通常は、カンチレバー本体101は自由端と固定端とを有する直方体形状の部材として形成される。また、他の例としては、三角形の一辺を固定端とした形状や、更にその三角形の内側を打ち抜いた形状も可能である。なお、特定物質102や、適宜用いられる金属膜103及び有機分子104などは非常に薄い膜として形成されるため、カンチレバー本体101の形状を検出用カンチレバー100自体の形状とみなすことができる。本実施形態においては、カンチレバー本体101は、図19に示したように、支持部材106から直方体形状に延在して形成された部材であるとして説明する。
【0039】
さらに、カンチレバー本体101の寸法にも制限は無いが、通常は、長さL(即ち、自由端から固定端までの距離)が、検出用カンチレバー100表面と検出対象物質との相互作用により生じるたわみを確実に測定できるだけ充分に長く形成されていることが好ましい。寸法の一例を挙げれば、カンチレバー本体101を直方体形状に形成した場合、通常、長さLは10μm〜1000μm、幅Wは5μm〜500μm、厚さTは0.1μm〜5μmの範囲にそれぞれ設定することが好ましい。
【0040】
また、カンチレバー本体101の作製方法にも制限はなく、公知の方法を任意に用いることができる。例えば、既存の半導体プロセスなどにより、AFM(原子間力顕微鏡)中で使用されるようなカンチレバーと同様にして作製することができる。
ところで、半導体形成プロセスを利用してカンチレバー本体101を作製した場合、同一条件で作製した場合であっても、作製ロット間、ウエファ間、さらには同一ウエファ内の場所間で、膜厚や材質に差異が生じてしまうことがある。これには、半導体形成プロセス以外の技術においても生じうる。
【0041】
上記の膜厚や材質の差異は、同一製造ロット同士であれば小さくなり、さらに同一ウエファ内から取り出したもの同士であればより小さくなる。さらに、同一ウエファ内でも、取り出した場所が近いところであればあるほど、その違いはさらに小さくなる。これを利用して、同一測定で用いられる複数の検出用カンチレバー100のカンチレバー本体101は、同一のウエファから作製されることが好ましく、ウエファ上でも隣り合った位置で作製されることがより好ましい。
【0042】
また、同一測定で用いられる複数の検出用カンチレバー100は互いに切り離さずに一体のまま用いることも好ましい。切り離さないことによって、これら複数の検出用カンチレバー100を組み合わせて測定を行なうことが明示されるとともに、複数のカンチレバーの取り付け作業も簡易化される。
【0043】
なお、検出用カンチレバー100やカンチレバー本体101は非常に小さいため、通常は、何らかの支持部材106に支持されるようになっている。この支持部材106はカンチレバー本体101と別に用意して後から検出用カンチレバー100やカンチレバー本体101を固定するようにしてもよい。しかし、上記のように半導体形成プロセスを利用してカンチレバー本体101を作製する場合には、同一ウエファのカンチレバー本体101を形成した部分が検出用カンチレバー100やカンチレバー本体101となり、ウエファのその他の部分が支持部材106となるようになっている。したがって、上記のように同一ウエファ上で形成した検出用カンチレバー100を切り離さずに使用する場合、それらの検出用カンチレバー100は共通の支持部材106に支持されることになる。
また、支持部材106は検出用カンチレバー100やカンチレバー本体101より大きく強度も強いため、通常は、この支持部材106を支持具で固定して、検出用カンチレバー100を分析装置に装着するようになっている。
【0044】
また、検出用カンチレバー100の表面には、相互作用部105に凹凸が形成されるよう、図19に示すように凹凸パターン107を形成することが好ましい。これにより、検出対象物質を検出する際の検出感度を高めることができる。なお、検出用カンチレバー100の表面に凹凸パターン107を形成する場合には、カンチレバー本体101表面を凹凸形状に形成してもよく、カンチレバー本体101上に形成される金属層103を凹凸形状に形成してもよく、他の手法によってもよい。
【0045】
さらに、検出用カンチレバー100は、通常、前述のように検出対象物質と特定物質とが相互作用することによって検出用カンチレバー100にたわみが生じるよう、相互作用部105において特定物質を有している。
特定物質は、その目的に応じて、任意の物質を用いることができる。具体例を挙げれば、酵素、抗体、レクチン、レセプター、プロテインA、プロテインG、プロテインA/G、アビジン、ストレプトアビジン、ニュートラアビジン、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ、糖タンパク質等のタンパク質、ペプチド、アミノ酸、ホルモン、核酸、糖、オリゴ糖、多糖、シアル酸誘導体、シアル化糖鎖等の糖鎖、脂質、低分子化合物、上述以外の高分子有機物質、無機物質、若しくはこれらの融合体、または、ウィルス、若しくは細胞を構成する分子などの生体分子が挙げられる。また、このほか、例えば細胞等の生体分子以外の物質を特定物質として用いることもできる。なお、これら特定物質は、検体中の検出対象物質と特定物質との相互作用(結合性等)を測定する際の標的物質となる。
【0046】
また、上記の特定物質の例の中でも、タンパク質としては、タンパク質の全長であっても、結合活性部位を含む部分ペプチドであってもよい。また、アミノ酸配列、及びその機能が既知のタンパク質でも、未知のタンパク質でもよい。これらは、合成されたペプチド鎖、生体より精製されたタンパク質、あるいはcDNAライブラリー等から適当な翻訳系を用いて翻訳し、精製したタンパク質等でも標的物質として用いることができる。合成されたペプチド鎖は、これに糖鎖が結合した糖タンパク質であってもよい。これらのうち好ましくは、精製されたタンパク質である。
【0047】
さらに、核酸としては、特に制限はなく、DNA、RNAの他、アプタマー等の核酸塩基、PNA等のペプチド核酸を用いることもできる。また、塩基配列あるいは機能が、既知の核酸でも、未知の核酸でもよい。好ましくは、タンパク質に結合能力を有する、核酸としての機能及び塩基配列が既知のものか、あるいは、ゲノムライブラリー等から制限酵素等を用いて切断単離してきたものを用いることができる。
【0048】
また、糖鎖としては、その糖配列あるいは機能が、既知の糖鎖でも未知の糖鎖でもよい。好ましくは、既に分離解析され、糖配列あるいは機能が既知の糖鎖が用いられる。
さらに、低分子化合物としては、相互作用する能力を有する限り、特に制限はない。機能が未知のものでも、あるいはタンパク質に結合する能力が既に知られているものでも用いることができるが、医薬候補化合物等が好適に用いられる。
【0049】
上述した特定物質の中でも、特に、糖鎖を用いると、ウィルスや細菌等の、他の方法では検出しにくい検出対象物質を高感度に検出することが可能となるため、好ましい。
糖鎖は、例えば、グルコース、ガラクトース、マンノース、フコース、キシロース、N−アセチルグルコサミン、N−アセチルガラクトサミン、シアル酸などの単糖及びその誘導体により構成される。この際、糖鎖を構成する少なくとも1つの単糖の中に、シアル酸又は置換シアル酸が含まれることが好ましい。置換シアル酸の例としてはフッ素化シアル酸が挙げられ、具体例としては3−フルオロシアル酸が挙げられる。これにより、検体中に含まれる酵素などによる糖鎖の分解が起き難くなるという利点がある。
【0050】
また、糖鎖のグルコシド結合部が、酸素原子の代わりに、窒素原子、炭素原子、硫黄原子のいずれかであることが好ましい。これにより、検体中に含まれる酵素などによる糖鎖の分解が起き難くなるという利点がある。
【0051】
糖鎖の具体例としては、[NeuAcα2−6(3)Galβ1−4(3)GlcNAcβ1−]構造を有するシアリルラクト系I型及びII型糖鎖、[NeuAcα2−6(3)Galβ1−4(3)GalNAcβ1−]構造を有するシアリルガングリオ系糖鎖、[NeuAcα2−6(3)Galβ1−4(3)Glcβ1−]構造を有するシアリルラクトース糖鎖などがを挙げることができるが、これらに限定はされない。通常、糖鎖は、人工的に合成することが可能である為に、目的とする検出対象物質への選択性の高い構造を設計、合成することが可能である。
なお、特定物質は、1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
【0052】
さらに、検出用カンチレバー100の相互作用部105は、通常、検出対象物質と相互作用することによって検出用カンチレバー100にたわみが生じればよいので、検出対象物質と相互作用する合成化学物質が固定化されていてもよいし、場合によっては、検出用カンチレバー100は特に物質が固定化されていない状態であっても構わない。
【0053】
カンチレバー本体101の表面に特定物質を固定して相互作用部105を形成する手法に制限は無いが、例えば、以下の固定化手法により固定化を行なうことができる。
カンチレバー本体101表面に特定物質を固定化して検出用カンチレバー100を作製する場合、図20に示すように、カンチレバー本体101表面に金属膜103を成膜し、成膜した金属膜103上に有機分子104を固定して、この有機分子104上に特定物質102を固定化することができる。これにより、相互作用部105は、カンチレバー本体101の表面に成膜された金属膜103と、金属膜103上に固定された有機分子104と、有機分子104上に固定化された特定物質105とを有する部分として形成される。なお、図20において、有機分子104は説明のため、有機分子104を個々に描くのではなく有機分子104が集合した層として描いてある。
【0054】
金属膜103は、その表面に有機分子104を固定することができれば他に制限は無く、任意の材料で形成することができる。
また、金属膜103は1層のみを単独で形成した単層構造の膜としてもよく、2以上の層を任意の組み合わせ及び厚みで積層した構造の膜としても良い。
ただし、金属膜103の最外層は、金で形成されていることが好ましい。即ち、金属膜103が単層構造を有している場合は金属膜103自体を金で形成し、積層構造を有している場合は有機分子104が固定される最も外側の層が金で形成されることが好ましい。これにより、金属膜103に有機分子を容易に固定することができる。
【0055】
さらに、金属膜103が積層構造を有している場合は、金属膜103は、カンチレバー本体101の表面と金属膜103の最外層との間にクロムからなる層を有していることが好ましい。これにより、金属膜103とカンチレバー本体101の表面との接着力が向上するという利点が得られる。
【0056】
また、金属膜103の膜厚に制限は無く任意であるが、通常1nm以上、好ましくは10nm以上、また、通常10μm以下、好ましくは5μm以下である。この範囲の下限を下回ると有機分子104の固定が不十分になってしまう虞があり、上限を上回ると良好な金属膜103を成膜できなくなる虞があるためである。
【0057】
さらに、上記の金属膜103の形成方法に制限は無く、公知の方法を任意に用いることができるが、通常は、スパッタリング、蒸着などにより形成する。
なお、カンチレバー本体101自体が金属により形成されている場合、カンチレバー本体101の表面を金属膜103として利用することも可能である。
【0058】
上記の金属膜103上には、有機分子104が固定される。この有機分子104は、金属膜103に対して固定することができ、また、この有機分子104上に特定物質102を固定化することができるものであればその種類に制限は無く、公知の有機分子104から固定化する特定物質102の種類等に応じて適当なものを任意に用いることができる。
【0059】
ただし、上記の有機分子104は、その末端にメルカプト基(−SH基)を有していることが好ましい。この場合、有機分子104は金属膜103に対して、安定な「硫黄原子−金属結合」で固定されるため、有機分子104を金属膜103に強固に固定することが可能となる。
【0060】
有機分子104の具体例を挙げると、16−メルカプトヘキサデカン酸などが挙げられる。
なお、有機分子104は1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
さらに、有機分子104の固定量は任意であるが、通常は高密度に固定することが好ましい。これにより、固定化されている有機分子104の層の膜厚が均一化することができるという利点がある。
【0061】
また、有機分子104は金属膜103の表面に2次元的に固定してもよいが、3次元的に積層して構成するようにしても良い。さらに、有機分子104を層として形成する場合、単層構造であっても積層構造であっても良い。ただし、通常は単層構造とすることが望ましい。複数層であるよりも、単層構造である方が、有機分子104の層の膜厚を制御することが容易であるためである。なお、図20においては有機分子104が単層に形成されたものを例として示した。
さらに、有機分子104の固定方法に制限は無く、公知の方法を任意に用いることができるが、通常は、「硫黄原子−金属結合」により固定化される。
【0062】
また、上記の有機分子104上には特定物質102が固定化され、これにより、金属膜103及び有機分子104を介して特定物質102がカンチレバー本体101表面に固定化されて、相互作用部105に特定物質102を有する検出用カンチレバー100が形成されている。
【0063】
ここで、特定物質102はどのような結合により有機分子104に固定化されていてもよいが、通常は、共有結合によって固定化されていることが望ましい。これにより、特定物質102を有機分子104に強固に固定化することができる。このような場合、特定物質102は、例えばエステル結合、アミド結合、−C=N−結合、エーテル結合、チオエーテル結合、炭素原子による結合などを介して固定化されていることが望ましい。なお、特定物質102は1種の結合により固定化されていても良く、任意の2種以上の結合により固定化されていても良い。
【0064】
また、特定物質102には、固定化するための官能基が結合していても良い。
さらに、有機分子104上に特定物質102を固定化する場合、その具体的な操作は任意である。通常は、特定物質102の溶液を有機分子104に接触させることにより、有機分子104上に特定物質102を固定化する。この場合に特定物質102を希釈させる溶媒や分散媒は、特定物質102の活性や構造の安定性等を考慮して調整することが好ましい。
【0065】
また、本発明の検出方法においては、検出用カンチレバー100の変位量を測定することになるが、この場合、変位量の測定方式により、検出用カンチレバー100には適宜、変位量測定用の部材を設けるようにする。
例えば、検出用カンチレバー100の変位量を光学式で測定する場合、通常、検出用カンチレバー100には、反射面108を形成する。この場合、反射面108には、変位量の測定に用いる光を効果的に反射できるように、表面処理が施される。具体的な表面処理は任意であるが、例えば、反射面108に金属膜を形成する等の処理が施される。この際、検出用カンチレバー100に特定物質102を固定化するために設けた金属膜103を、上記反射のための金属膜として利用することも可能である。なお、図19の構成では、検出用カンチレバー100の相互作用部105と反対側の面に反射面108が設けられているものとする。
【0066】
さらに、例えば、検出用カンチレバー100のたわみ量を電気式で測定する場合、通常は、検出用カンチレバー100の表面(通常は片面)に圧電抵抗素子(図示省略)をパターニングする。圧電抵抗素子部の材料、パターン形状、寸法などに制限は無く、公知のものを任意に用いることができる。
【0067】
[2−2.補正用カンチレバー]
検出用カンチレバーを用いて検出対象物質の検出を行なう際、複数のカンチレバーを同時に用いて検出を行なうことも可能である。各々検出用カンチレバーを複数用いることも可能であるが、補正用カンチレバーを少なくとも1つ用いることによって、検出用カンチレバーの検出精度を向上させることができるようになる。
【0068】
補正用カンチレバーは、環境変化等によるたわみを影響を排除するべく、検出用カンチレバーの変位量に補正を加えるための補正値を測定する目的で使用するカンチレバーである。即ち、検出用カンチレバーや補正用カンチレバーを含め、カンチレバーは、検出対象物質と特定物質とが相互作用することにより生じる表面応力の変化以外にも、温度や圧力等の環境の変化によっても、その変位量が変動する。したがって、変位量の測定を行なう場合、環境変化によるたわみの影響を排除して、目的とする検出対象物質と特定物質とが相互作用したことにより生じた変位量のみを測定することが望ましい。補正用カンチレバーは、上記の環境変化による変位量を排除するために用いられる。
【0069】
補正用カンチレバーは、相互作用によるたわみは生じず、環境変化などの相互作用以外の要因によるたわみは生じるように形成することが望ましい。したがって、これを実現するため、補正用カンチレバーには、通常、特定物質を固定化しない。即ち、補正用カンチレバーの全表面は、特定物質を固定化されていない非固定化部として形成するようにする。
【0070】
さらに、補正用カンチレバーは、特定物質を固定化しないこと以外は、補正対象である検出用カンチレバーと可能な限り同様に形成することがより好ましい。具体的には、寸法及び材質等ができるだけ等しいことが好ましい。これにより、検出用カンチレバー及び補正用カンチレバーそれぞれに同様の環境変化が加わったとき、両者には環境変化によるたわみが同じ変位量だけ生じるようにすることができる。したがって、検出用カンチレバーのたわみ量は相互作用による変位量と環境変化による変位量との和となり、一方、補正用カンチレバーの変位量は環境変化によるたわみ量のみとなるため、両者の差を算出することによって相互作用による変位量を正確に測定することが可能となる。
【0071】
なお、補正用カンチレバーの用途に応じて、補正用カンチレバーの表面に、金属層、有機分子、または、検出用カンチレバーに固定した特定物質とは検出対象物質に対する相互作用の大きさが異なる別の補正用の物質(以下適宜、「参照物質」という)などを固定化するようにしてもよい。この場合でも、補正用カンチレバーを用いた、さらに適切な補正を行なうことが可能となる場合がある。なお、参照物質の例としては、特定物質と同様のものが挙げられる。
【0072】
中でも、補正用カンチレバーに参照物質を固定化することが好ましい。また、この場合、検出用カンチレバーに特定物質を固定化するために金属層や有機分子を用いている場合には、補正用カンチレバーに参照物質を固定化するために検出用カンチレバーと同様の金属層や有機分子を用いるようにすることがより好ましい。これらによって、検出の精度をより高めることが可能となるためである。
【0073】
即ち、例えば検出対象物質と全く相互作用を生じない適切な参照物質を補正用カンチレバーに固定化した場合には、検出用カンチレバーに生じる環境変化によるたわみに非常に近いたわみを補正用カンチレバーに生じさせ、検出用カンチレバーに生じる相互作用によるたわみ量をより正確に測定することが可能となるのである。
【0074】
また、補正用カンチレバーのたわみ量を測定するため、補正用カンチレバーには、検出用カンチレバーと同様に、反射面や圧電抵抗素子などの、変位量測定用の部材を形成することが望ましい。この際、補正用カンチレバーにも反射面を形成するのであれば、この補正用カンチレバーの反射面にも検出用カンチレバーの反射面と同様に表面処理を施すことが好ましい。
【0075】
ただし、この際、補正用カンチレバーの反射膜として特定物質を固定化しにくい金属、具体的には、アルミニウム、銅、銀等の金属が最外層となるように金属膜を成膜することがより好ましい。通常、金以外の金属を用いた場合、有機分子と金属との結合力は、金を用いた場合に比べて弱くなるため、補正用カンチレバーが特定物質を固定化する能力は、検出用カンチレバーが特定物質を固定化する能力よりも小さくなる。したがって、検出用カンチレバーに特定物質を固定する際に補正用カンチレバーが検出用カンチレバーの近傍にあったとしても、補正用カンチレバーには特定物質が固定化されず、検出用カンチレバー及び補正用カンチレバーを簡単に作製することができる。
【0076】
[2−3.その他の構成]
上記のように、本発明の検出方法においては、使用するカンチレバーの数に制限は無い。したがって、検出用カンチレバー及び補正用カンチレバーは、それぞれ1個を単独で用いてもよく、2個以上を用いてもよい。
【0077】
また、通常は、検出用カンチレバーを2個以上用いる場合には、各検出用カンチレバーにはそれぞれ異なる特定物質を固定化し、一度の分析操作でより多くの検出対象物質の検出を行なうことができるように構成することが望ましい。即ち、異なる特定物質を固定化した複数の検出用カンチレバーを用いることにより、複数種の特定物質に対する反応を比較することによって、複数の検出対象物質を一度の分析操作により検出することができるという利点が得られるのである。なお、このような場合、用いるカンチレバーの数は検出対象物質の数により適宜選択することができるが、装置の小型化及び検体の少量化の観点から、例えば5〜10個である。
【0078】
[3.第1実施形態]
以下、図面を用いて本発明の第1実施形態について説明する。
図1〜図4は本発明の第1実施形態について説明するもので、図1は、本発明の第1実施形態にかかるカンチレバーセンサシステムの概要を模式的に示す斜視図である。また、図2は本発明の一実施形態について説明するもので、図2(a)は特定物質と検出対象物質とが相互作用する前の検出用カンチレバーの様子を模式的に示す図であり、図2(b)は特定物質と検出対象物質とが相互作用することによってたわみを生じた際の検出用カンチレバーの様子を模式的に示す図である。さらに、図3は本発明の第1実施形態にかかるカンチレバーセンサシステムの要部を模式的に示す断面図である。また、図4は、検出用カンチレバー3Aがたわみを生じる場合の時間と変位量との関係の一例を模式的に示すグラフである。
【0079】
本実施形態の検出方法で用いるカンチレバーセンサシステムは、光学式にて検出用カンチレバーの変位量を測定するもので、図1に示すように、光源1と、集光手段2と、検出用カンチレバー3Aと、受光素子4と、変位量測定部51と、変位量比較部52とを備えている。なお、変位量測定部51及び変位量比較部52は、ハードウェア的にはコンピュータ5に、コンピュータ5を変位量測定部51及び変位量比較部52として機能させるためのプログラムを読み込ませて構成したものである。さらに、本実施形態のカンチレバーセンサシステムでは、検出用カンチレバー3Aは検体接触部としての透明容器6に装着されているものとする。なお、図1において、符号Iで示すものは検出に用いる光を表わす。
【0080】
[3−1.光源]
光源1は、検出用カンチレバー3Aに向けて光を照射するものである。本発明の効果を著しく損なわない限り任意の光源を用いることができるが、通常は、レーザー光照射装置を用いることが好ましい。
また、レーザー照射装置は、レーザー光を発光できるものであれば特に制限はない。例えば、ガスレーザー照射装置、半導体レーザー照射装置などが用いられるが、より安価であることから、半導体レーザー照射装置を用いることが好ましい。本実施形態においても、光源1として半導体レーザー照射装置を用いているものとする。
【0081】
[3−2.集光手段]
光源1から検出用カンチレバー3Aへと照射される光は、検出用カンチレバー3Aの表面(具体的には、反射面)において集光させるようにすることが望ましい。したがって、光学式のカンチレバーセンサシステムにおいては、光源1から発せられた光を集光する集光手段2を設けることが望ましい。
【0082】
集光手段2に制限は無いが、例えば、ロッドレンズ21及びシリンドリカルレンズ22,23を組み合わせて構成することができる。即ち、図1に示すように、光源1から発せらた光を、まずロッドレンズ21で所定方向に広げ、広げられた光をシリンドリカルレンズ22により平行光にする。この平行光は、所定方向に対していずれの位置においても平行に(即ち、同じの方向に)進行する光となる。そして、平行光をシリンドリカルレンズ23によって集光する。集光された光は、検出用カンチレバー3Aの表面に集まるように集光される。
【0083】
また、例えば、集光手段2としては、上記にて例示した構成においてシリンドリカルレンズ22,23の代わりに円筒凹面ミラーを用いることもできる。他にも、例えば、ロッドレンズ21の代わりに、円筒凸面ミラーを用いることもできる。ただし、光源1から発せられる光のスポット光サイズが、所望の検出精度を得るのに十分大きい場合には、適宜、ロッドレンズ21等を用いることなく光源1からの光を1つのシリンドリカルレンズ23で集光するだけで検出用カンチレバー3Aに照射することも可能である。
【0084】
本実施形態では、ロッドレンズ21及びシリンドリカルレンズ22,23を組み合わせた集光手段2により、光源1から発せられた光は検出用カンチレバー3Aに直線状に集光されて、透明容器6を介して検出用カンチレバー3Aに照射されるようになっているものとする。
【0085】
[3−3.検出用カンチレバー]
本実施形態のカンチレバーセンサシステムには、検出用カンチレバー3Aが設けられていて、この検出用カンチレバー3Aには、光源1が発した光を照射され、さらに、照射された光を反射できるようになっている。
また、本実施形態にかかる検出用カンチレバー3Aは支持部材31Aから延在した直方体形状のカンチレバーとして形成されている。
【0086】
さらに、この検出用カンチレバー3Aにおいては、図中下側の面に金属層(図1では図示省略)及び有機分子(図1では図示省略)を介して特定物質(図1では図示省略)が固定化されている。また、図中上側の面32Aには照射された光が効果的に反射しうるように表面処理が施されていて、これらの面は反射面として機能するようになっている。なお、以下適宜、この面32Aを反射面と呼ぶ。
【0087】
したがって、図2(a),(b)に示すように、本実施形態にかかる検出用カンチレバー3Aは、検出用カンチレバー3Aに固定化された特定物質Tと相互作用しうる検出対象物質Sが検体に含有されていた場合には、特定物質Tと検出対象物質Sとの相互作用によるたわみが検出用カンチレバー3Aに生じるようになっている。即ち、相互作用が生じる前には図2(a)のようにたわみが生じていない検出用カンチレバー3Aであっても、特定物質Tと検出対象物質Sとが相互作用(図2では、結合)することによって、図2(b)に示すようにたわみが生じるようになっているのである。
【0088】
ところで、上述したように光源1から発せられた光は集光手段2によって集光されて、検出用カンチレバー3Aに照射される光は直線状となる。ここで、光源1から発せられた光のうち、検出用カンチレバー3Aが存在しない位置に照射された光は反射されないため、検出用カンチレバー3Aに対応した光のみが、受光素子4に向けて反射するようになっている。
【0089】
[3−4.透明容器]
本実施形態においては、検出用カンチレバー3Aは透明容器6内に装着されて用いるようになっていて、これにより、検出用カンチレバー3Aは、カンチレバーセンサシステムに対して着脱可能に設けられている。具体的には、光源1が光を照射する部位には、図3に示すような検体を入れる透明容器6が設けられていて、この透明容器6に形成された支持具(カンチレバー装着部)61に検出用カンチレバー3Aの支持部材31Aを固定することによって、検出用カンチレバー3Aを透明容器6内に保持し、カンチレバーセンサシステムに装着することができるようになっている。
【0090】
本実施形態では、透明容器6は光源1が発する光を透過しうるようになっている。したがって、集光手段2により集光された入射光、及び、検出用カンチレバー3Aで反射した反射光は、透明容器6によってその進行を妨げられることは無いようになっている。
さらに、透明容器6内には、透明容器6に形成された孔62,63を通じて検体を注入・排出できるようになっている。したがって、上記の孔62,63から検体を注入して透明容器6内を検体で満たすことで、検出用カンチレバー3Aに検体を接触させることができるようになっている。
【0091】
また、本実施形態では、支持具61は透明容器6の天井面64に形成され、この支持具61と天井面64との間に支持部材31Aを挟み込むことで、検出用カンチレバー3Aを装着するようになっているものとする。
なお、図1においては透明容器6は二点鎖線で示してある。また、図3において矢印は光を示す。
【0092】
[3−5.受光素子]
受光素子4は、検出用カンチレバー3Aで反射された光を受光するものである。また、この受光素子4は、その受光した位置(以下適宜、「受光位置」という)の情報を、コンピュータ5の変位量測定部51に送るようになっている。なお、受光素子4上の受光している部位を、以下適宜、受光部位41Aとよぶ。
【0093】
受光素子4の種類に制限は無く、例えば、PSD(位置検出素子)、CCD(電荷結合素子)、CMOS受光素子等が用いられる。なお、これらの受光素子4は1つを単独で用いてもよく、2個以上を組み合わせて用いてもよい。本実施形態においては、CCDを受光素子4として用いているものとする。
【0094】
[3−6.変位量測定部]
変位量測定部51は、受光素子4の受光位置の情報を受け取って、検出用カンチレバー3Aに対応した光の受光位置の移動量を検知し、検知した受光位置の移動量から、検出用カンチレバー3Aの変位量を測定するものである。即ち、検出用カンチレバー3Aにたわみが生じていれば受光素子4の受光位置が移動することになるため、この移動距離の情報を用いることで、変位量測定部51は検出用カンチレバー3Aに生じるたわみの大きさを演算することができるようになっているのである。なお、変位量の測定に用いる受光位置として、受光素子4の受光部位41Aのどの位置を採用するかは適宜定めればよいが、例えば、受光部位41Aの中心の位置を受光位置として採用することができる。
【0095】
また、変位量測定部51は、少なくとも、検出用カンチレバー3Aに検体を接触させた時点より後、検体に検出対象物質が含まれていた場合に検出用カンチレバー3Aがたわみきるために要する時間が経過する時点よりも前の時間範囲(以下適宜、「特定時間範囲」という)内の、第1時点と第2時点とにおいて、検出用カンチレバー3Aの変位量を測定するようになっていればよい。
【0096】
例を挙げて説明する。図4は、検出用カンチレバー3Aがたわみを生じる場合の時間と変位量との関係の一例を模式的に示すグラフである。
なお、図4において、上記の検出用カンチレバー3Aに検体を接触させた時点は記号「T1」で表わす。通常、この時点T1以前においては、検出対象物質を含まない標準液が透明容器6内を満たしており、相互作用は生じず、変位量は変化しない。この時点T1において、透明容器6内の標準液が排出され、検体液が注入される。
また、図4において、検体に検出対象物質が含まれていた場合に検出用カンチレバー3Aがたわみきるために要する時間は記号「T0」で表わす。ただし、この時間T0は、予め、試験や文献などにより知っているものとする。なお、時間T0が未知であれば、適宜、予測値を用いることも可能である。
【0097】
さらに、図4において、検体に検出対象物質が含まれていた場合に検出用カンチレバー3Aがたわみきるために要する時間T0が経過する時点は記号「T2」で表わす。この時点T2では、特定物質と検出対象物質との相互作用が完全に進行してしまうため、時点T2以後は検出用カンチレバー3Aはそれ以上たわまず、相互作用による検出用カンチレバー3Aの変位量の変化は停止する。
【0098】
したがって、この図4の例においては、時点T1より後で時点T2よりも前の時間範囲が、特定時間範囲となる。また、この特定時間範囲は、時点T1よりも後で、時点T1から時間T0が経過するよりも前の時間範囲、ということもできる。
このような場合においては、変位量測定部51は、少なくとも、時点T1より後で時点T2より前の2つの時点、即ち、第1時点t1と第2時点t2とにおいて、検出用カンチレバー3Aの変位量を測定するようになっていればよいのである。これはつまり、特定時間範囲内の所定の時間範囲(以下適宜、「所定時間範囲」という)の始点(即ち、第1時点t1)と終点(即ち、第2時点t2)とにおいて、変位量を測定することを表わす。なお、第1時点t1のほうが第2時点t2よりも以前であるとする。
【0099】
ただし、検体と検出用カンチレバー3Aとを接触させた直後は検出用カンチレバー3A自体が安定しないことが多い為、第1時点t1としては、時点T1の以後に、通常0分より大きく、好ましくは5分以上、また、通常30分以下、好ましくは20分以下の時間が経過した時間範囲内であることが望ましい。一方、第2時点t2としては、時点T1の以後に、通常10分以上、好ましくは20分以上、また、通常120分以下、好ましくは60分以下の時間が経過した時間範囲内であることが望ましい。
【0100】
本実施形態においては、変位量測定部51は、常時、検出用カンチレバー3Aの変位量を測定しており、したがって、検出用カンチレバー3Aに検体を接触させた時点T1以前から、第1時点t1を経て、第2時点t2まで、検出用カンチレバー3Aの変位量を測定するようになっているものとする。また、第1時点t1及び第2時点t2は、キーボード等のインターフェース(図示省略)によってオペレータがコンピュータ5に指示することにより、その指示内容を変位量測定部51及び変位量比較部52が読み込むことで、設定されるようになっているものとする。さらに、測定された変位量は、変位量比較部52に送られるようになっている。
【0101】
[3−7.変位量比較部]
変位量比較部52は、変位量測定部51が測定した変位量のうち、第1時点t1で測定された検出用カンチレバー3Aの変位量と、第2時点t2で測定された検出用カンチレバー3Aの変位量とを比較するものである。
【0102】
具体的には、第1時点t1で測定された変位量と第2時点t2で測定された変位量との差を算出し、差が生じている場合(即ち、差の絶対値が0より大きい場合)検体中に検出対象物質が存在しているものと判定し、差が生じていない場合(即ち、差の絶対値が0の場合)には検体中に検出対象物質が存在していないものと判定する。上記の差は、所定時間範囲において生じた変位量の変化を表わすものであり、このような変化が現れた場合には、上記の検出対象物質と特定物質との相互作用が生じており、したがって、検体中に検出対象物質が存在しているものと判定することができるのである。
【0103】
また、所定の閾値を予め設定しておき、上記の差の絶対値が、上記閾値以上であれば検出対象物質が存在していると判定し、閾値未満なら検出対象物質が存在していないと判定するようにしてもよい。これは、変位量測定時のノイズによる誤検出を防止するためである。なお、この閾値は、測定装置の測定精度や検体の種類等に応じて、適切な値を任意に設定するものとする。
【0104】
さらに、上記の差の絶対値の大きさは、検体中の検出対象物質の量や濃度等に関する情報も含んでいる。即ち、一般に検体中の検出対象物質の量や濃度が大きいほど検出用カンチレバー3Aのたわみも大きくなるため、差の絶対値が大きいほど検出対象物質の量や濃度が大きいと判断することができる。したがって、上記の差により上記の量や濃度を測定することも可能である。なお、この場合、予め上記の差と検出対象物質の濃度等との対応を示す表などの情報をコンピュータ5内の記録部(図示省略)に記録させ、その情報を基に上記の差から濃度等の情報を出力する演算部(図示省略)をコンピュータ5に設けてもよい。
【0105】
本実施形態においては、変位量比較部52は、上記変位量の差の絶対値が所定の閾値以上であるか否かの判定を行なうことにより、検出対象物質の検出が行なわれるようになっているものとする。
また、比較の結果、即ち、検出対象物質の有無及び差の値は、図示しない出力装置に出力されるようになっている。また、出力された差を基に、オペレータが検体中の検出対象物質の濃度等の情報を認識するようになっているものとする。
【0106】
[3−8.検出方法]
上述したカンチレバーセンサシステムを用いて、本実施形態の検出方法により検体中の検出対象物質の検出する場合には、まず、支持具61に検出用カンチレバー3Aを装着した状態で、光源1から検出用カンチレバー3Aに光を照射しながら検出用カンチレバー3Aに検体を接触させる。そして、少なくとも上記の第1時点t1と第2時点t2とにおいて検出用カンチレバー3Aの変位量を測定する。その後、上記第1時点t1で測定した検出用カンチレバー3Aの変位量と上記第2時点t2で測定した検出用カンチレバー3Aの変位量とを比較することにより、検出対象物質の検出を行なう。
以下、詳しく説明する。
【0107】
まず、支持具61と透明容器6の天井面64で支持部材31Aを挟み込むようにして、支持具61に検出用カンチレバー3Aを装着する。また、検出に用いる条件として、第1時点t1及び第2時点t2の情報、並びに、変位量比較部52が用いる閾値の情報を、予め変位量測定部51及び変位量比較部52に入力しておく。
【0108】
そして、検出対象物質を含まない標準液を透明容器6に満たした後、光源1から検出用カンチレバー3Aに光を照射する。照射された光は、検出用カンチレバー3Aの反射面32Aで反射し、受光素子4に向けて照射される。なお、この際、検出用カンチレバー3Aで反射した光が受光素子4で受光されない場合には、検出用カンチレバー3Aや受光素子4の位置や傾きを調節し、上記のように確実に受光されるように初期調整を行なうようにする。標準液は、この初期調整のためのものである。
受光素子4に照射された光は、受光素子4の受光部位41Aにて受光される。また、受光素子4は、受光位置の情報を、変位量測定部51に送る。
【0109】
本実施形態では、このような状態で、透明容器6内の標準液を排出した後、透明容器6内に検体を注入し、検出用カンチレバー3Aと検体とを接触させる。なお、この時点が、時点T1である。
検出用カンチレバー3Aと検体とが接触すると、検出用カンチレバー3Aに固定化された特定物質と相互作用しうる検出対象物質が検体に含有されていた場合には、特定物質と検出対象物質との相互作用によるたわみが検出用カンチレバー3Aに生じる。
【0110】
検出用カンチレバー3Aにたわみが生じると、検出用カンチレバー3Aで反射した光の進行方向は、検出用カンチレバー3Aの変位量に応じて変動する。そうすると、受光素子4への光の進行方向も変動し、これにより、受光素子4上における受光部位41Aも移動し、したがって、受光位置も移動することになる。
【0111】
検出用カンチレバー3Aに対応した光の受光位置の情報は変位量測定部51に送られる。そして、変位量測定部51は、受光素子4の受光位置の情報を受け取って、受光位置の移動量を検知し、検知した受光位置の移動量から、検出用カンチレバー3Aの変位量を測定する。
【0112】
ここで、本実施形態においては、変位量測定部51は、常時、変位量を測定しているため、第1時点t1になればその第1時点t1における変位量を測定し、第2時点t2になればその第2時点t2における変位量を測定することになる。そして、これらの第1時点t1及び第2時点t2での測定結果を含め、測定された検出用カンチレバー3Aの変位量は、変位量比較部52に送られる。
【0113】
変位量比較部52では、変位量測定部51から送られてきた変位量から、オペレータにより与えられた条件に従って、第1時点t1で測定された検出用カンチレバー3Aの変位量と、第2時点t2で測定された検出用カンチレバー3Aの変位量とを比較し、両変位量の差が閾値以上か否かを判定することにより、検体中の検出対象物質を検出する。
そして、変位量比較部52の結果として、検出対象物質の有無及び差の値は、出力装置(図示省略)に出力される。また、出力された差の値を基に、オペレータが検体中の検出対象物質の有無及び濃度を検出する。
【0114】
[3−9.効果]
本実施形態の検出方法を用いた場合、上記のようにして検体中の検出対象物質の検出を行なうことができる。さらに、この際、従来よりも短時間で正確な検出を行なうことが可能である。特に、従来公知の多くのセンサでは検出に要する時間が比較的短かったために検出に要する時間を短くすることは注目されていなかったが、カンチレバーセンサによる検出方法では検出に要する時間が長く、効率面において改善すべき点があった。これに対して、本実施形態のように、検出用カンチレバー3Aがたわみきるのを待つことなく(即ち、時点T2になる前に)短時間で正確な検出を可能としたことにより、検出の効率化を実現することができる。さらに、高価な測定装置が不要であるため、検出に要するコストを低減することも可能となる。
【0115】
また、検出用カンチレバー3Aの表面に特定物質を固定化したため、その特定物質と相互作用しうる検出対象物質が検体中に含まれていれば、その検出対象物質を確実に検出することができる。例えば、特定物質として糖鎖を用いると、従来は検出が困難であったウィルスや細菌などを検出することができる。
【0116】
[4.第2実施形態]
次に、図面を用いて本発明の第2実施形態について説明する。
図5は、本発明の第2実施形態にかかるカンチレバーセンサシステムの概要を模式的に示す斜視図である。なお、図5において、図1〜図4と同様の部位には、図1〜図4と同様の符号を付して示す。
【0117】
本実施形態にかかるカンチレバーセンサシステムは、第1実施形態と同様に光学式にて検出用カンチレバーの変位量を測定するものである。ただし、本実施形態においては、補正用カンチレバー3Bを用いて検出用カンチレバーの変位量を補正するようになっていて、そのために、第1実施形態の構成に加えて、補正変位量測定部53と、変位量補正部54とを備えている。
【0118】
即ち、本実施形態の検出方法で用いるカンチレバーセンサシステムは、図5に示すように、光源1と、集光手段2と、検出用カンチレバー3Aと、補正用カンチレバー3Bと、受光素子4と、変位量測定部51と、補正変位量測定部53と、変位量補正部54と、変位量比較部52とを備えている。なお、変位量測定部51、補正変位量測定部53、変位量補正部54及び変位量比較部52は、ハードウェア的にはコンピュータ5に、コンピュータ5を変位量測定部51、補正変位量測定部53、変位量補正部54及び変位量比較部52として機能させるためのプログラムを読み込ませて構成したものである。さらに、本実施形態のカンチレバーセンサシステムでも、検出用カンチレバー3A及び補正用カンチレバー3Bは検体接触部としての透明容器6に装着されているものとする。
【0119】
[4−1.光源]
光源1としては、第1実施形態と同様のものを用いることができる。
また、本実施形態においては、光源1は、検出用カンチレバー3Aだけでなく、補正用カンチレバー3Bにも光を照射することになる。したがって、光源1としては、検出用カンチレバー3A及び補正用カンチレバー3B毎に別々の光源1を用いるようにしてもよい。ただし、検出用カンチレバー3A及び補正用カンチレバー3Bの変位量をより正確に比較する観点からは、検出用カンチレバー3A及び補正用カンチレバー3Bに共通の光源1を用いるようにすることが好ましい。
本実施形態においても、光源1として、検出用カンチレバー3A及び補正用カンチレバー3Bに共通の半導体レーザー照射装置を用いているものとする。
【0120】
[4−2.集光手段]
光源1から検出用カンチレバー3A及び補正用カンチレバー3Bへと照射される光は、第1実施形態と同様に、検出用カンチレバー3A及び補正用カンチレバー3Bの表面(具体的には、反射面)において集光させるようにすることが望ましい。この際に用いる集光手段2としては、第1実施形態と同様のものを用いることができる。
【0121】
ただし、本実施形態においては、集光手段2は、検出用カンチレバー3A及び補正用カンチレバー3Bの両方の表面で光を集光させるようにすべきであり、したがって、検出用カンチレバー3A及び補正用カンチレバー3Bの設置位置は、集光手段2の構成に応じて適切に設定すべきである。
【0122】
本実施形態では、シリンドリカルレンズ23は光源1が発した光を所定方向に沿って直線状に集光するようになっているものとする。そして、検出用カンチレバー3A及び補正用カンチレバー3Bを所定方向に一列に並べて並置することにより、検出用カンチレバー3A及び補正用カンチレバー3Bに均一に光を照射できるようになっているものとする。
【0123】
[4−3.検出用カンチレバー]
本実施形態において、検出用カンチレバー3Aは、第1実施形態と同様である。
【0124】
[4−4.補正用カンチレバー]
本実施形態のカンチレバーセンサシステムには、補正用カンチレバー3Bが設けられている。この補正用カンチレバー3Bは、特定物質の代わりに参照物質が固定化されている他は、検出用カンチレバー3Aと同様に構成されている。
【0125】
即ち、補正用カンチレバー3Bは、検出用カンチレバー3Aと同様に、光源1が発した光を照射され、さらに、照射された光を反射できるようになっている。したがって、補正用カンチレバー3Bの、光によって照射される部位(即ち、被照射部位)33Bの形状は線分上となるが、その被照射部位33Aから反射する光は、受光素子4に受光された場合にはスポット状となるようになっている。
また、本実施形態にかかる補正用カンチレバー3Bは支持部材31Bから延在した直方体形状のカンチレバーとして形成されている。
【0126】
さらに、この補正用カンチレバー3Bにおいては、図中下側の面に金属層(図5では図示省略)及び有機分子(図5では図示省略)を介して参照物質(図5では図示省略)が固定化されている。また、図中上側の面32Bには照射された光が効果的に反射しうるように表面処理が施されていて、これらの面は反射面として機能するようになっている。なお、以下適宜、この面32Bを反射面と呼ぶ。
【0127】
したがって、本実施形態の補正用カンチレバー3Bは、検体に接触しても相互作用によるたわみを生じることは無いが、例えば環境変化等に起因する検体中の検出対象物質の有無によらないたわみを検出用カンチレバー3Aと同じ大きさだけ生じるようになっている。
【0128】
[4−5.透明容器]
本実施形態においても、カンチレバーセンサシステムには透明容器6が設けられている。この透明容器6は、図3に示すように、検出用カンチレバー3Aに加えて補正用カンチレバー3Bをも装着できるようになっている他は、第1実施形態と同様である。なお、補正用カンチレバー3Bは、検出用カンチレバー3Aと同様にして、この透明容器6に装着し、検体と接触させ、透明容器6を透過した光によって変位量を測定できるようになっている。
なお、図5においては透明容器6は二点鎖線で示してある。
【0129】
[4−6.受光素子]
本実施形態で用いる受光素子4は、検出用カンチレバー3Aに加え、補正用カンチレバー3Bで反射された光を受光し、その受光位置の情報を、コンピュータ5の変位量測定部51に送るようになっている他は、第1実施形態と同様である。なお、以下適宜、補正用カンチレバー3Bで反射された光を受光する受光素子4上の部位は、受光部位41Bという。
【0130】
[4−7.変位量測定部]
本実施形態にかかる変位量測定部51は、測定した検出用カンチレバー3Aの変位量を、変位量補正部54に送るようになっている他は、第1実施形態と同様である。したがって、変位量測定部51は常時検出用カンチレバー3Aの変位量を測定しているため、第1時点t1及び第2時点t2になれば、それぞれの時点t1,t2における変位量を測定するようになっている。
【0131】
なお、本実施形態においても第1実施形態と同様に、上記の第1時点t1及び第2時点t2の情報、並びに、変位量比較部52が用いる閾値の情報は、キーボード等のインターフェース(図示省略)によってオペレータがコンピュータ5に指示することにより、その指示内容を変位量測定部51、補正変位量測定部53、変位量補正部54及び変位量比較部52が読み込むことで、設定されるようになっているものとする。
【0132】
[4−8.補正変位量測定部]
補正変位量測定部53は、変位量測定部51と同様にして、受光素子4の受光位置の情報を受け取って、補正用カンチレバー3Bに対応した光の受光位置の移動量を検知し、検知した受光位置の移動量から、補正用カンチレバー3Bの変位量を測定するものである。
【0133】
したがって、本実施形態において、補正変位量測定部53は、常時、補正用カンチレバー3Bの変位量を測定しており、このため、検出用カンチレバー3Aに検体を接触させた時点T1以前から、第1時点t1を経て、第2時点t2まで、補正用カンチレバー3Bの変位量を測定するようになっているものとする。
さらに、測定された補正用カンチレバー3Bの変位量は、変位量補正部54に送られるようになっている。
【0134】
[4−9.変位量補正部]
変位量補正部54は、検出用カンチレバー3Aの変位量を補正用カンチレバー3Bの変位量で補正し、特定物質と検出対象物質との相互作用以外の要因による変位量を除去するものである。本実施形態では、変位量補正部54は、第1時点t1及び第2時点t2のそれぞれについて、変位量測定部51が測定した検出用カンチレバー3Aの変位量から補正変位量測定部53が測定した補正用カンチレバー3Bの変位量を引き、補正後の検出用カンチレバー3Aの変位量を変位量比較部52に送るようになっている。
【0135】
即ち、変位量測定部51で測定された検出用カンチレバー3Aの変位量は、相互作用によるたわみと相互作用以外によるたわみとを含むものである。一方、補正変位量測定部53で測定された補正用カンチレバー3Bの変位量は、相互作用以外によるたわみのみを含むものである。したがって、変位量測定部51で測定された検出用カンチレバー3Aの変位量から補正変位量測定部53で測定された補正用カンチレバー3Bの変位量を引算すれば、相互作用により生じた変位量を、より正確に得ることができるのである。
【0136】
[4−10.変位量比較部]
本実施形態において、変位量比較部52は、変位量補正部54から送られる補正後の検出用カンチレバー3Aの変位量を用いて、第1時点t1で測定した検出用カンチレバー3Aの変位量と第2時点t2で測定した検出用カンチレバー3Aの変位量とを比較するものである。変位量測定部51が測定した変位量の代わりに、変位量補正部54が補正した検出用カンチレバー3Aの変位量を用いる他は、第1実施形態と同様になっている。
なお、本実施形態においても、判定の結果、即ち、検出対象物質の有無及び差の値は、図示しない出力装置に出力されるようになっている。また、出力された差を基に、オペレータが検体中の検出対象物質の濃度等の情報を認識するようになっているものとする。
【0137】
[4−11.検出方法]
上述したカンチレバーセンサシステムを用いて、本実施形態の検出方法により検体中の検出対象物質の検出する場合には、まず、支持具61に検出用カンチレバー3A及び補正用カンチレバー3Bを装着した状態で、光源1から検出用カンチレバー3A及び補正用カンチレバー3Bに光を照射しながら検出用カンチレバー3A及び補正用カンチレバー3Bに検体を接触させる。そして、少なくとも上記の第1時点t1と第2時点t2とにおいて検出用カンチレバー3A及び補正用カンチレバー3Bの変位量を測定する。次いで、少なくとも上記第1時点t1及び第2時点t2それぞれにおいて、補正用カンチレバー3Bの変位量を用いて検出用カンチレバー3Aの変位量の補正を行なう。その後、上記第1時点t1での検出用カンチレバー3Aの補正後の変位量と、上記第2時点t2で測定した検出用カンチレバー3Aの補正後の変位量とを比較することにより、検出対象物質の検出を行なう。
以下、詳しく説明する。
【0138】
まず、支持具61と透明容器6の天井面64で支持部材31A及び支持部材31Bを挟み込むようにして、支持具61に検出用カンチレバー3A及び補正用カンチレバー3Bを装着する。この際、補正をより正確に行なうため、検出用カンチレバー3A及び補正用カンチレバー3Bはできるだけ近い位置に設置するようにする。また、変位量の測定に用いる光を均一に照射するため、検出用カンチレバー3A及び補正用カンチレバー3Bは、集光手段7により直線状に集光された光に沿って上記所定方向に一列に並置し、さらに、互いに平行で同じ向きに延在するように並置する。
【0139】
また、検出に用いる条件として、第1時点t1及び第2時点t2の情報、並びに、変位量比較部52が用いる閾値の情報を、予め変位量測定部51、補正変位量測定部53、変位量補正部54及び変位量比較部52に入力しておく。
そして、検出対象物質を含まない標準液を透明容器6に満たした後、光源1から検出用カンチレバー3A及び補正用カンチレバー3Bに光を照射する。照射された光は、検出用カンチレバー3Aの反射面32A及び補正用カンチレバー3Bの反射面32Bでそれぞれ反射し、受光素子4に向けて照射される。
【0140】
この際、上記のように、検出用カンチレバー3A及び補正用カンチレバー3Bは、上記所定方向に一列に並置されており、さらに、互いに平行で同じ向きに延在するように並置されている。したがって、集光手段7によって集光された光は検出用カンチレバー3A及び補正用カンチレバー3Bに照射される際には直線状となっているが、このように直線状に集光された光であっても、検出用カンチレバー3A及び補正用カンチレバー3B上の各反射面32A,32Bに均一に照射し、これらの反射面32A,32Bで反射させることが可能となる。即ち、本実施形態のような簡単な構成の光学系を用いて検出用カンチレバー3A及び補正用カンチレバー3Bへの光の照射を行なうことが可能となる。
【0141】
受光素子4に照射された光は、受光素子4の受光部位41A,41Bにて受光される。なお、第1実施形態と同様に、検出用カンチレバー3Aや補正用カンチレバー3Bで反射した光が受光素子4で受光されない場合には、検出用カンチレバー3A、補正用カンチレバー3B、受光素子4等の位置や傾きを調節し、上記のように確実に受光されるように初期調整を行なうようにする。また、受光素子4は、受光位置の情報を、変位量測定部51及び補正変位量測定部53それぞれに送る。
【0142】
本実施形態では、このような状態で、透明容器6内の標準液を排出した後、透明容器6内に検体を注入し、検出用カンチレバー3A及び補正用カンチレバー3Bと検体とをそれぞれ接触させる。なお、この時点が、時点T1である。
検出用カンチレバー3Aと検体とが接触すると、検出用カンチレバー3Aに固定化された特定物質と相互作用しうる検出対象物質が検体に含有されていた場合には、第1実施形態で説明したのと同様に、検出用カンチレバー3Aにはたわみが生じ、この変位量は、受光素子4を用いて変位量測定部51により測定される。また、ここで測定された検出用カンチレバー3Aの変位量には、相互作用以外の要因によるものも含まれる。
【0143】
一方、補正用カンチレバー3Bと検体とが接触すると、相互作用以外の要因によって検出用カンチレバー3Aに生じるたわみと同じ大きさのたわみが、補正用カンチレバー3Bにも生じる。このたわみの変位用は、検出用カンチレバー3Aの場合と同様にして、受光素子4を用いて補正用変位量測定部53により測定される。また、ここで測定された補正用カンチレバー3Bの変位量は、相互作用以外の要因によるものである。
【0144】
変位量測定部51で測定された検出用カンチレバー3Aの変位量、及び、補正変位量測定部53で測定された補正用カンチレバー3Bの変位量は、変位量補正部54に送られる。そして、変位量補正部54において、検出用カンチレバー3Aの変位量から補正用カンチレバー3Bの変位量を引き算することにより、相互作用以外の要因による変位量を検出用カンチレバー3Aの変位量から除去する補正が行なわれる。また、補正後の検出用カンチレバー3Aの補正量は、変位量比較部52に送られる。
【0145】
変位量比較部52では、変位量補正部53から送られてきた、補正後の検出用カンチレバー3Aの変位量について、オペレータにより与えられた条件に従って、第1時点t1で測定された検出用カンチレバー3Aの変位量と、第2時点t2で測定された検出用カンチレバー3Aの変位量とを比較し、両変位量の差が閾値以上か否かを判定することにより、検体中の検出対象物質を検出する。
そして、変位量測定部52の結果として、検出対象物質の有無及び差の値は、出力装置(図示省略)に出力される。また、出力された差の値を基に、オペレータが検体中の検出対象物質の有無及び濃度を検出する。
【0146】
[4−12.効果]
本実施形態の検出方法を用いた場合、上記のようにして検体中の検出対象物質の検出を行なうことができる。さらに、この際、従来よりも短時間で正確な検出を行なうことが可能である。
【0147】
また、本実施形態の検出方法によれば、補正用カンチレバー3Bの変位量を用いて検出用カンチレバー3Aの変位量を補正するようにしたため、特定物質と検出対象物質との相互作用以外の要因によるたわみの影響を排除し、より正確な検出を行なうことが可能となる。
さらに、第1実施形態と同様の利点を得ることもできる。
【0148】
[5.第3実施形態]
以下、図面を用いて本発明の第3実施形態について説明する。
図6は、本発明の第3実施形態にかかるカンチレバーセンサシステムの概要を模式的に示す斜視図である。また、図7は、検出用カンチレバー3Aがたわみを生じる場合の時間と変位量との関係の一例を模式的に示すグラフである。なお、図6,図7において、図1〜図5と同様の部位には、図1〜図5と同様の符号を付して示す。
【0149】
本実施形態にかかるカンチレバーセンサシステムは、第1実施形態と同様に光学式にて検出用カンチレバーの変位量を測定するものである。ただし、本実施形態においては、検出用カンチレバー3Aの変位量を時間に対して直線近似し、上記直線近似により得られた直線の傾きにより検出対象物質の検出を行なうようになっている。したがって、変位量比較部52に代えて変位量直線近似部(変位量近似部)55及び傾き出力部56を備えている。
【0150】
即ち、本実施形態の検出方法で用いるカンチレバーセンサシステムは、図6に示すように、光源1と、集光手段2と、検出用カンチレバー3Aと、受光素子4と、変位量測定部51と、変位量直線近似部55と、傾き出力部56とを備えている。なお、変位量測定部51、変位量直線近似部55及び傾き出力部56は、ハードウェア的にはコンピュータ5に、コンピュータ5を変位量測定部51、変位量直線近似部55及び傾き出力部56として機能させるためのプログラムを読み込ませて構成したものである。さらに、本実施形態のカンチレバーセンサシステムでも、検出用カンチレバー3Aは検体接触部としての透明容器6に装着されているものとする。
【0151】
[5−1.光源]
本実施形態において、光源1は、第1実施形態と同様である。
【0152】
[5−2.集光手段]
本実施形態において、集光手段2も、第1実施形態と同様である。
【0153】
[5−3.検出用カンチレバー]
本実施形態において、検出用カンチレバー3Aも、第1,第2実施形態と同様である。
【0154】
[5−4.透明容器]
本実施形態において、透明容器6も、第1実施形態と同様である。
なお、図6においては透明容器6は二点鎖線で示してある。
【0155】
[5−5.受光素子]
本実施形態において、受光素子4も、第1実施形態と同様である。
【0156】
[5−6.変位量測定部]
本実施形態にかかる変位量測定部51は、第1実施形態と同様に、受光素子4の受光位置の情報を受け取って、検出用カンチレバー3Aの変位量を測定するものである。
ただし、本実施形態においては、少なくとも、変位量測定部51は、第1時点t1から第2時点t2までの間の所定時間範囲内を通じて、検出用カンチレバー3Aの変位量を測定するようになっている。
【0157】
即ち、検出用カンチレバー3Aに検体を接触させた時点T1より後、検体に検出対象物質が含まれていた場合に検出用カンチレバー3Aがたわみきるために要する時間T0が経過する時点T2よりも前の特定時間範囲内の、第1時点t1から第2時点t2まで所定時間範囲の間において、検出用カンチレバー3Aの変位量を測定するようになっている。なお、上記の第1時点t1から第2時点t2まで所定時間範囲の間において、通常は常時変位量を測定しておくことが望ましいが、所望の検出精度が得られる頻度で変位量を測定できるのであれば、必ずしも常時測定しておくことを要しない。
【0158】
本実施形態では、第1実施形態と同様に、変位量測定部51は常時検出用カンチレバー3Aの変位量を測定しているため、第1時点t1から第2時点t2までの間において、常に、各時点における検出用カンチレバー3Aの変位量を測定するようになっている。
【0159】
また、本実施形態においても第1実施形態と同様に、上記の第1時点t1及び第2時点t2は、キーボード等のインターフェース(図示省略)によってオペレータがコンピュータ5に指示することにより、その指示内容を変位量測定部51、変位量直線近似部55及び傾き出力部56が読み込むことで、設定されるようになっているものとする。さらに、測定された検出用カンチレバー3Aの変位量は、変位量直線近似部55に送られるようになっている。
【0160】
[5−7.変位量直線近似部]
本実施形態にかかる変位量直線近似部55は、検出用カンチレバー3Aの変位量を時間に対して直線近似するものである。具体的には、変位量測定部51から送られてきた、第1時点t1から第2時点t2までの所定時間範囲における検出用カンチレバー3Aの変位量を受け取り、それを近似して、時間に対する一次関数として変位量を表わす関数を求めるものである。
【0161】
例えば、図7において二点鎖線で示すような変位量の推移が変位量測定部51で測定された場合、変位量直線近似部55は、第1時点t1から第2時点t2までの所定時間範囲に測定された変位量を直線近似して、上記所定時間範囲における変位量の変化を表わす近似直線VIIを求める。本発明者らの推察するところでは、この近似直線VIIは、検出用カンチレバー3Aのたわみが進行している全時間範囲中の一部の時間範囲(即ち、所定時間範囲)における変位量の経時変化を表わすものである。即ち、カンチレバーセンサにおける検出用カンチレバー3Aの変位量の経時的に測定したデータは、それを時間に対して直線近似したとしても、十分に高い検出精度を得ることができる程度に正確に、上記変位量の経時変化を表わしうるものである。
【0162】
この際、具体的な近似方法に制限は無く、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、例えば、最小二乗法等を用いることができる。なお、最小二乗法については、「Standard Mathematical Tables and Formulae(30th edition), pp.680-682, CRC Press, Inc., 1996」等を参照できる。
本実施形態においては、変位量直線近似部55は、最小二乗法を用いて直線近似を行なっているものとする。
また、得られた近似直線についての情報は、傾き出力部56に送られるようになっている。
【0163】
[5−8.傾き出力部]
本実施形態にかかる傾き出力部56は、変位量直線近似部55の直線近似で得られた近似直線の傾きを出力するものである。具体的には、変位量直線近似部55から送られてきた近似直線の情報を取り込んで、その近似直線の傾きを図示しない出力装置に出力するものである。
【0164】
上記の変位量直線近似部55で得られた近似直線は、上述したように、検出用カンチレバー3Aのたわみが進行している全時間範囲中の一部の時間範囲(即ち、所定時間範囲)における変位量の経時変化を表わすものである。しかし、本発明者らが推察するところでは、その近似直線の傾きは、検出用カンチレバー3Aのたわみが進行している全時間範囲における変位量の変化の情報を含んでいる。即ち、上記近似直線の傾きは、検出対象物質と検出用カンチレバー3Aとの相互作用と密接に関連しており、相互作用が小さい場合は近似直線の傾きの絶対値は小さくなり、相互作用が大きい場合は近似直線の傾きの絶対値は大きくなるため、これを利用すれば、検出用カンチレバー3Aのたわみが進行している全時間範囲において変位量を測定した場合と同様に検体中の検出対象物質を検出することが可能である。
【0165】
したがって、傾き出力部56が出力した近似直線の傾きの絶対値が0の場合には検出用カンチレバー3Aの変位量は変化しておらず、したがって、検体中に検出対象物質が存在していないものと判定することができる。一方、上記の傾きの絶対値が0よりも大きい場合には、検出用カンチレバー3Aには変位量の変化が生じており、このような変化が現れた場合には、上記の検出対象物質と特定物質との相互作用が生じており、したがって、検体中に検出対象物質が存在しているものと判定することができるのである。
【0166】
また、所定の閾値を予め設定しておき、上記の傾きの絶対値が、上記閾値以上であれば検出対象物質が存在していると判定し、閾値未満なら検出対象物質が存在していないと判定するようにしてもよい。これは、変位量測定時のノイズによる誤検出を防止するためである。なお、この閾値は、測定装置の測定精度や検体の種類等に応じて、適切な値を任意に設定するものとする。
【0167】
さらに、上記の傾きの大きさは、検体中の検出対象物質の量や濃度等に関する情報も含んでいる。即ち、一般に検体中の検出対象物質の量や濃度が大きいほど検出用カンチレバー3Aのたわみも大きくなるため、傾きの絶対値が大きいほど検出対象物質の量や濃度が大きいと判断することができる。したがって、傾きにより上記の量や濃度を測定することも可能である。なお、この場合、予め近似直線の傾きと検出対象物質の濃度等との対応を示す表などの情報をコンピュータ5内の記録部(図示省略)に記録させ、その情報を基に上記の傾きから濃度等の情報を出力する演算部(図示省略)をコンピュータ5に設けてもよい。
【0168】
本実施形態においては、傾き出力部56が出力する傾きの値は、図示しない出力装置に出力されるようになっている。また、この傾きを基に、オペレータが検体中の検出対象物質の有無及び濃度等の情報を認識するようになっているものとする。
【0169】
[5−9.検出方法]
上述したカンチレバーセンサシステムを用いて、本実施形態の検出方法により検体中の検出対象物質の検出する場合には、まず、支持具61に検出用カンチレバー3Aを装着した状態で、光源1から検出用カンチレバー3Aに光を照射しながら検出用カンチレバー3Aに検体を接触させる。そして、少なくとも上記の時点t1から第2時点t2までの間において、検出用カンチレバー3Aの変位量を測定する。その後、検出用カンチレバー3Aの変位量を時間に対して直線近似し、上記直線近似により得られた直線の傾きにより、検出対象物質を検出する。
以下、詳しく説明する。
【0170】
まず、第1実施形態と同様に、支持具61と透明容器6の天井面64とで支持部材31Aを挟み込むようにして、支持具61に検出用カンチレバー3Aを装着する。また、検出に用いる条件として、第1時点t1及び第2時点t2の情報を、予め変位量測定部51及び変位量直線近似部55に入力しておく。
【0171】
そして、検出対象物質を含まない標準液を透明容器6に満たした後、光源1から検出用カンチレバー3Aに光を照射する。照射された光は、検出用カンチレバー3Aの反射面32Aで反射し、受光素子4に向けて照射され、受光素子4の受光部位41Aにて受光される。なお、この際、検出用カンチレバー3Aで反射した光が受光素子4で受光されない場合には、検出用カンチレバー3Aや受光素子4の位置や傾きを調節し、上記のように確実に受光されるように初期調整を行なうようにする。そして、受光位置の情報を基に、第1実施形態と同様にして、変位量測定部51が検出用カンチレバー3Aの変位量を測定する。
【0172】
本実施形態では、このような状態で、透明容器6内の標準液を排出した後、透明容器6内に検体を注入し、検出用カンチレバー3Aと検体とを接触させる。なお、この時点が、時点T1である。
検出用カンチレバー3Aと検体とが接触すると、検出用カンチレバー3Aに固定化された特定物質と相互作用しうる検出対象物質が検体に含有されていた場合には、特定物質と検出対象物質との相互作用によるたわみが検出用カンチレバー3Aに生じる。この変位量は、上記のようにして変位量測定部51に測定される。
【0173】
ここで、本実施形態においては、変位量測定部51は、常時、変位量を測定しているため、第1時点t1から第2時点t2までの変位量も測定することになる。したがって、こうして測定された第1時点t1から第2時点t2までの測定結果を含め、測定された検出用カンチレバー3Aの変位量は、変位量直線近似部55に送られる。
【0174】
変位量直線近似部55では、変位量測定部51から送られてきた変位量から、オペレータにより与えられた条件に従って、第1時点t1から第2時点t2までの所定時間範囲で測定された検出用カンチレバー3Aの変位量を直線近似し、時間に対する変位量の経時変化を表わす近似直線を求める。
【0175】
そして、この近似直線の情報は傾き出力部56に送られ、この傾き出力部56において近似直線の傾きの情報が取り込まれる。傾き出力部56が取り込んだ傾きの値は、出力装置(図示省略)に出力され、出力された値を基に、オペレータが検体中の検出対象物質の有無及びその濃度を検出する。
【0176】
[5−10.効果]
本実施形態の検出方法を用いた場合、上記のようにして検体中の検出対象物質の検出を行なうことができる。さらに、この際、従来よりも短時間で正確な検出を行なうことが可能である。
また、近似直線の傾きの大きさから、検出対象物質の量や濃度などを測定することも可能である。
さらに、変位量の差の比較によるもの以外は、第1実施形態と同様の利点を得ることもできる。
【0177】
[6.第4実施形態]
次に、図面を用いて本発明の第4実施形態について説明する。
図8は、本発明の第4実施形態にかかるカンチレバーセンサシステムの概要を模式的に示す斜視図である。なお、図8において、図1〜図7と同様の部位には、図1〜図7と同様の符号を付して示す。
【0178】
本実施形態にかかるカンチレバーセンサシステムは、第3実施形態と同様に光学式にて検出用カンチレバーの変位量を測定するものである。ただし、本実施形態においては、第2実施形態と同様に補正用カンチレバー3Bを用いて検出用カンチレバーの変位量を補正するようになっていて、そのために、第3実施形態の構成に加えて、補正用カンチレバー3Bと、補正変位量測定部53と、変位量補正部54とを備えている。
【0179】
即ち、本実施形態の検出方法で用いるカンチレバーセンサシステムは、図8に示すように、光源1と、集光手段2と、検出用カンチレバー3Aと、補正用カンチレバー3Bと、受光素子4と、変位量測定部51と、補正変位量測定部53と、変位量補正部54と、変位量直線近似部55と、傾き出力部56とを備えている。なお、変位量測定部51、補正変位量測定部53、変位量補正部54、変位量直線近似部55及び傾き出力部56は、ハードウェア的にはコンピュータ5に、コンピュータ5を変位量測定部51、補正変位量測定部53、変位量補正部54、変位量直線近似部55及び傾き出力部56として機能させるためのプログラムを読み込ませて構成したものである。さらに、本実施形態のカンチレバーセンサシステムでも、検出用カンチレバー3A及び補正用カンチレバー3Bは検体接触部としての透明容器6に装着されているものとする。
【0180】
[6−1.光源]
本実施形態において、光源1は、第2実施形態と同様である。
【0181】
[6−2.集光手段]
本実施形態において、集光手段2は、第2実施形態と同様である。
【0182】
[6−3.検出用カンチレバー]
本実施形態において、検出用カンチレバー3Aは、第1〜第3実施形態と同様である。
【0183】
[6−4.補正用カンチレバー]
本実施形態において、補正用カンチレバー3Bは、第2実施形態と同様である。
【0184】
[6−5.透明容器]
本実施形態において、透明容器6は、第2実施形態と同様である。
なお、図8においては透明容器6は二点鎖線で示してある。
【0185】
[6−6.受光素子]
本実施形態において、受光素子4は、第2実施形態と同様である。
【0186】
[6−7.変位量測定部]
本実施形態にかかる変位量測定部51は、測定した検出用カンチレバー3Aの変位量を、変位量補正部54に送るようになっている他は、第3実施形態と同様である。したがって、変位量測定部51は常時検出用カンチレバー3Aの変位量を測定しているため、少なくとも第1時点t1から第2時点t2までの所定時間範囲における検出用カンチレバー3Aの変位量を測定するようになっている。
【0187】
なお、本実施形態においても第3実施形態と同様に、上記の第1時点t1及び第2時点t2は、キーボード等のインターフェース(図示省略)によってオペレータがコンピュータ5に指示することにより、その指示内容を変位量測定部51、補正変位量測定部53、変位量補正部54、変位量直線近似部55及び傾き出力部56が読み込むことで、設定されるようになっているものとする。
【0188】
[6−8.補正変位量測定部]
本実施形態において、補正変位量測定部53は、少なくとも第1時点t1から第2時点t2までの所定時間範囲内において補正用カンチレバー3Bの変位量を測定するものであり、第2実施形態と同様に構成されている。
【0189】
したがって、本実施形態において、補正変位量測定部53は、常時、補正用カンチレバー3Bの変位量を測定しており、このため、検出用カンチレバー3Aに検体を接触させた時点T1以前から、第1時点t1を経て、第2時点t2まで、補正用カンチレバー3Bの変位量を測定するようになっているものとする。
さらに、測定された補正用カンチレバー3Bの変位量は、変位量補正部54に送られるようになっている。
【0190】
[6−9.変位量補正部]
本実施形態において、変位量補正部54は、少なくとも第1時点t1から第2時点t2までの所定時間範囲内において検出用カンチレバー3Aの変位量の補正を行なう点、及び、補正後の検出用カンチレバー3Aの変位量を変位量直線近似部55に送るようになっている点の他は、第2実施形態と同様である。
【0191】
即ち、本実施形態では、変位量補正部54は、第1時点t1から第2時点t2までの所定時間範囲において、各時点について変位量測定部51が測定した検出用カンチレバー3Aの変位量から補正変位量測定部53が測定した補正用カンチレバー3Bの変位量を引き、補正後の検出用カンチレバー3Aの変位量を変位量直線近似部55に送るようになっている。これにより、相互作用以外によるたわみの影響を排除して、検出用カンチレバー3Aに生じた相互作用により生じた変位量を、より正確に得ることができる。
【0192】
[6−10.変位量直線近似部]
本実施形態において、変位量直線近似部55は、変位量補正部54から送られる補正後の検出用カンチレバー3Aの変位量を用いて、第1時点t1から第2時点t2までの所定時間範囲までの検出用カンチレバー3Aの変位量を時間に対して直線近似するものである。変位量測定部51が測定した変位量の代わりに、変位量補正部54が補正した検出用カンチレバー3Aの変位量を用いる他は、第3実施形態と同様になっている。
【0193】
[6−11.傾き出力部]
本実施形態において、傾き出力部56は直線近似により得られた直線の傾きを出力するものであり、第3実施形態と同様である。
したがって、第3実施形態と同様に、傾き出力部56が取り込んだ傾きの値は、図示しない出力装置に出力されるようになっていて、この傾きを基に、オペレータが検体中の検出対象物質の有無及び濃度等の情報を認識するようになっているものとする。
【0194】
[6−12.検出方法]
上述したカンチレバーセンサシステムを用いて、本実施形態の検出方法により検体中の検出対象物質の検出する場合には、まず、支持具61に検出用カンチレバー3A及び補正用カンチレバー3Bを装着した状態で、光源1から検出用カンチレバー3A及び補正用カンチレバー3Bに光を照射しながら検出用カンチレバー3A及び補正用カンチレバー3Bに検体を接触させる。そして、少なくとも上記の第1時点t1から第2時点t2までの所定時間範囲において検出用カンチレバー3A及び補正用カンチレバー3Bそれぞれの変位量を測定する。次いで、少なくとも上記第1時点t1から第2時点t2までの所定時間範囲において、補正用カンチレバー3Bの変位量を用いて検出用カンチレバー3Aの変位量の補正を行なう。その後、補正後の検出用カンチレバー3Aの変位量を時間に対して直線近似し、上記直線近似により得られた直線の傾きにより、検出対象物質を検出する。
以下、詳しく説明する。
【0195】
まず、支持具61と透明容器6の天井面64とで支持部材31A及び支持部材31Bを挟み込むようにして、支持具61に検出用カンチレバー3A及び補正用カンチレバー3Bを装着する。この際、第2実施形態と同様に、補正をより正確に行なうため、検出用カンチレバー3A及び補正用カンチレバー3Bはできるだけ近い位置に設置するようにする。また、変位量の測定に用いる光を均一に照射するため、検出用カンチレバー3A及び補正用カンチレバー3Bは、集光手段7により直線状に集光された光に沿って上記所定方向に一列に並置し、さらに、互いに平行で同じ向きに延在するように並置する。
【0196】
また、検出に用いる条件として、第1時点t1及び第2時点t2の情報を、予め変位量測定部51、補正変位量測定部53、変位量補正部54、変位量直線近似部55及び傾き出力部56に入力しておく。
そして、検出対象物質を含まない標準液を透明容器6に満たした後、光源1から検出用カンチレバー3A及び補正用カンチレバー3Bに光を照射する。照射された光は、第2実施形態と同様に、検出用カンチレバー3Aの反射面32A及び補正用カンチレバー3Bの反射面32Bでそれぞれ反射し、受光素子4に向けて照射され、受光素子4の受光部位41Aにて受光される。なお、この際、検出用カンチレバー3Aや補正用カンチレバー3Bで反射した光が受光素子4で受光されない場合には、検出用カンチレバー3A、補正用カンチレバー3B、受光素子4等の位置や傾きを調節し、上記のように確実に受光されるように初期調整を行なうようにする。そして、受光位置の情報を基に、変位量測定部51及び補正変位量測定部53が、検出用カンチレバー3A及び補正用カンチレバー3Bそれぞれの変位量を測定する。
【0197】
本実施形態では、このような状態で、透明容器6内の標準液を排出した後、透明容器6内に検体を注入し、検出用カンチレバー3A及び補正用カンチレバー3Bと検体とを接触させる。なお、この時点が、時点T1である。
検出用カンチレバー3Aと検体とが接触すると、検出用カンチレバー3Aに固定化された特定物質と相互作用しうる検出対象物質が検体に含有されていた場合には、第1実施形態で説明したのと同様に、検出用カンチレバー3Aにはたわみが生じ、その変位量は、受光素子4を用いて変位量測定部51により測定される。
【0198】
一方、補正用カンチレバー3Bと検体とが接触すると、相互作用以外の要因によって検出用カンチレバー3Aに生じるたわみと同じ大きさのたわみが、補正用カンチレバー3Bにも生じる。このたわみの変位用は、検出用カンチレバー3Aの場合と同様にして、受光素子4を用いて補正用変位量測定部53により測定される。
【0199】
ここで、本実施形態においては、変位量測定部51及び補正変位量測定部53は、常時、変位量を測定しているため、第1時点t1から第2時点t2までの変位量も測定することになる。したがって、こうして測定された第1時点t1から第2時点t2までの測定結果を含め、測定された検出用カンチレバー3A及び補正用カンチレバー3Bの変位量は、変位量補正部54に送られる。
【0200】
変位量補正部54においては、第2実施形態と同様に、検出用カンチレバー3Aの変位量から補正用カンチレバー3Bの変位量を引き算することにより、相互作用以外の要因による変位量を検出用カンチレバー3Aの変位量から除去する補正が行なわれる。また、補正後の検出用カンチレバー3Aの補正量は、変位量直線近似部55に送られる。
【0201】
変位量直線近似部55では、変位量補正部54から送られてきた、検出用カンチレバー3Aの補正後の変位量を用いる他は、第3実施形態と同様にして、検出用カンチレバー3Aの変位量を直線近似し、時間に対する変位量の経時変化を表わす近似直線を求める。
そして、この近似直線の情報は傾き出力部56に送られ、第3実施形態と同様に、傾き出力部56において近似直線の傾きの情報が取り込まれる。傾き出力部56が取り込んだ傾きの値は、出力装置(図示省略)に出力され、出力された値を基に、オペレータが検体中の検出対象物質の有無及びその濃度を検出する。
【0202】
[6−13.効果]
本実施形態の検出方法を用いた場合、上記のようにして検体中の検出対象物質の検出を行なうことができる。さらに、この際、従来よりも短時間で正確な検出を行なうことが可能である。
また、本実施形態の検出方法によれば、補正用カンチレバー3Bの変位量を用いて検出用カンチレバー3Aの変位量を補正するようにしたため、特定物質と検出対象物質との相互作用以外の要因によるたわみの影響を排除し、より正確な検出を行なうことが可能となる。
さらに、第3実施形態と同様の利点を得ることもできる。
【0203】
[7.第5実施形態]
以下、図面を用いて本発明の第5実施形態について説明する。
図9は、本発明の第5実施形態にかかるカンチレバーセンサシステムの概要を模式的に示す斜視図である。また、図10は、検出用カンチレバー3Aがたわみを生じる場合の時間と変位量との関係の一例を模式的に示すグラフである。なお、図9,10において、図1〜図8と同様の部位には、図1〜図8と同様の符号を付して示す。
【0204】
本実施形態にかかるカンチレバーセンサシステムは、第3実施形態と同様に光学式にて検出用カンチレバーの変位量を測定するものである。ただし、本実施形態においては、検出用カンチレバー3Aの変位量を時間に対して多項式で近似し、上記近似(多項式近似)により得られた多項式の係数により検出対象物質の検出を行なうようになっている。したがって、変位量直線近似部55及び傾き出力部56に代えて変位量多項式近似部(変位量近似部)57及び係数出力部58を備えている。
【0205】
即ち、本実施形態の検出方法で用いるカンチレバーセンサシステムは、図9に示すように、光源1と、集光手段2と、検出用カンチレバー3Aと、受光素子4と、変位量測定部51と、変位量多項式近似部57と、係数出力部58とを備えている。なお、変位量測定部51、変位量多項式近似部57及び係数出力部58は、ハードウェア的にはコンピュータ5に、コンピュータ5を変位量測定部51、変位量多項式近似部57及び係数出力部58として機能させるためのプログラムを読み込ませて構成したものである。さらに、本実施形態のカンチレバーセンサシステムでも、検出用カンチレバー3Aは検体接触部としての透明容器6に装着されているものとする。
【0206】
[7−1.光源]
本実施形態において、光源1は、第1,第3実施形態と同様である。
【0207】
[7−2.集光手段]
本実施形態において、集光手段2も、第1,第3実施形態と同様である。
【0208】
[7−3.検出用カンチレバー]
本実施形態において、検出用カンチレバー3Aも、第1〜第4実施形態と同様である。
【0209】
[7−4.透明容器]
本実施形態において、透明容器6も、第1,第3実施形態と同様である。
なお、図9においては透明容器6は二点鎖線で示してある。
【0210】
[7−5.受光素子]
本実施形態において、受光素子4も、第1,第3実施形態と同様である。
【0211】
[7−6.変位量測定部]
変位量測定部51は、受光素子4の受光位置の情報を受け取って、少なくとも第1時点t1から第2時点t2までの間の所定時間範囲内において検出用カンチレバー3Aの変位量を測定するものである。
本実施形態では、変位量測定部51は、測定された検出用カンチレバー3Aの変位量が変位量多項式近似部57に送られるようになっているほかは、第3実施形態と同様に構成されている。
【0212】
なお、上記の第1時点t1及び第2時点t2は、キーボード等のインターフェース(図示省略)によってオペレータがコンピュータ5に指示することにより、その指示内容を変位量測定部51、変位量多項式近似部57及び係数出力部58が読み込むことで、設定されるようになっているものとする。
【0213】
[7−7.変位量多項式近似部]
本実施形態にかかる変位量多項式近似部57は、検出用カンチレバー3Aの変位量を時間に対して多項式で近似するものである。具体的には、変位量測定部51から送られてきた、第1時点t1から第2時点t2までの所定時間範囲における検出用カンチレバー3Aの変位量を受け取り、それを近似して、時間に対する多項式として変位量を表す関数を求めるものである。
【0214】
例えば、図10において二点鎖線で示すような変位量の推移が変位量測定部51で測定された場合、変位量多項式近似部57は、第1時点t1から第2時点t2までの所定時間範囲に測定された変位量を多項式で近似して、上記所定時間範囲における変位量の変化を表わす近似曲線Xを求める。ここで、多項式の次数については、予め設定しておくものとする。本発明者らの推察するところでは、この近似曲線Xも、検出用カンチレバー3Aのたわみが進行している全時間範囲中の一部の時間範囲(即ち、所定時間範囲)における変位量の経時変化ををあらわすものである。即ち、カンチレバーセンサにおける検出用カンチレバー3Aの変位量の経時的に測定したデータは、それを時間に対して多項式で近似したとしても、十分に高い検出精度を得ることができる程度に正確に、上記変位量の経時変化を表わしうるものである。
【0215】
この際、具体的な近似方法に制限は無く、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、例えば、上述した最小二乗法等を用いることができる。
本実施形態においては、変位量多項式近似部57は、最小二乗法を用いて多項式近似を行なっているものとする。
また、得られた多項式(近似多項式)についての情報は、係数出力部58に送られるようになっている。
【0216】
[7−8.係数出力部]
本実施形態にかかる係数出力部58は、変位量多項式近似部57の多項式近似で得られた多項式の係数を出力するものである。具体的には、変位量多項式近似部57から送られてきた近似多項式の情報を取り込んで、その各係数を出力するものである。
【0217】
上記の変位量多項式近似部57で得られた近似多項式は、上述したように、検出用カンチレバー3Aのたわみが進行している全時間範囲中の一部の時間範囲(即ち、所定時間範囲)における変位量の経時変化を表わすものである。しかし、本発明者らが推察するところでは、その近似多項式の各係数は、検出用カンチレバー3Aのたわみが進行している全時間範囲における変位量の変化の情報を含んでいる。即ち、上記近似多項式の各係数は、検出対象物質と検出用カンチレバー3Aとの相互作用に密接に関連しており、相互作用が小さい場合は例えば近似多項式の最高次数の係数の絶対値は小さくなり、相互作用が大きい場合は例えば近似多項式の最高次数の係数の絶対値は大きくなるため、これを利用すれば、検出用カンチレバー3Aのたわみが進行している全時間範囲において変位量を測定した場合と同様に検体液中の検出対象物質を検出することが可能である。さらに、近似多項式の最高次数以外の次数の係数についても考慮することによって、より詳細なデータの解析が可能となる。
【0218】
したがって、係数出力部58が近似多項式の各係数を出力し、例えばその多項式の最高次数の係数の絶対値が0の場合には検出用カンチレバー3Aの変位量は変化しておらず、したがって、検体中に検出対象物質が存在していないものと判定することができる。一方、上記の係数の絶対値が0よりも大きい場合には、検出用カンチレバー3Aには変位量の変化が生じており、このような変化が現われた場合には、上記の検出対象物質と特定物質との相互作用が生じており、したがって、検体中に検出対象物質が存在しているものと判定することができるのである。
【0219】
また、所定の閾値を予め設定しておき、上記の係数の絶対値が、上記閾値以上であれば検出対象物質が存在していると判定し、閾値未満なら検出対象物質が存在していないと判定するようにしてもよい。これは、変位量測定時のノイズによる誤検出を防止するためである。なお、この閾値は、測定装置の測定精度や検体の種類等に応じて、適切な値を任意に設定するものとする。
【0220】
さらに、上記の係数の大きさは、検体中の検出対象物質の量や濃度等に関する情報も含んでいる。したがって、係数により上記の量や濃度を測定することも可能である。なお、この場合にも、第3実施形態と同様に、予め近似多項式の係数と検出対象物質の濃度等との対応を示す表などの情報をコンピュータ5内の記録部(図示省略)に記録させ、その情報を基に上記の係数から濃度等の情報を出力する演算部(図示省略)をコンピュータ5に設けてもよい。
【0221】
本実施形態においては、係数出力部58が出力する係数の値は、図示しない出力装置に出力されるようになっている。また、この係数の値を基に、オペレータが検体中の検出対象物質の有無及び濃度等の情報を認識するようになっているものとする。
【0222】
[7−9.検出方法]
上述したカンチレバーセンサシステムを用いて、本実施形態の検出方法により検体中の検出対象物質の検出する場合には、まず、支持具61に検出用カンチレバー3Aを装着した状態で、光源1から検出用カンチレバー3Aに光を照射しながら検出用カンチレバー3Aに検体を接触させる。そして、少なくとも上記の時点t1から第2時点t2までの間において、検出用カンチレバー3Aの変位量を測定する。その後、検出用カンチレバー3Aの変位量を時間に対して多項式で近似し、上記多項式近似により得られた多項式の係数により、検出対象物質を検出する。
以下、詳しく説明する。
【0223】
第1時点t1及び第2時点t2の情報を変位量測定部51及び変位量多項式近似部57に入力しておくようにする他は、第3実施形態と同様にして、検体と検出用カンチレバー3Aとを接触させて、その際の検出用カンチレバー3Aの変位量を測定する。測定された第1時点t1から第2時点t2までの検出用カンチレバー3Aの変位量は変位量多項式近似部57に送られる。
【0224】
変位量多項式近似部57では、変位量測定部51から送られてきた変位量から、オペレータにより与えられた条件に従って、第1時点t1から第2時点t2までの所定時間範囲で測定された検出用カンチレバー3Aの変位量を多項式で近似し、時間に対する変位量の経時変化を表わす近似多項式を求める。
【0225】
この近似多項式の情報は係数出力部58に送られ、この係数出力部58において近似多項式の係数の情報が取り込まれる。そして、係数近似部58が取り込んだ係数の値は、出力装置(図示省略)に出力され、出力装置に出力された値を基に、オペレータが検体中の検出対象物質の有無及びその濃度を検出する。
【0226】
[7−10.効果]
本実施形態の検出方法を用いた場合、上記のようにして検体中の検出対象物質の検出を行なうことができる。さらに、この際、従来よりも短時間で正確な検出を行なうことが可能である。
また、近似多項式の係数から、検出対象物質の量や濃度などを測定することも可能である。
さらに、第1,第3実施形態と同様の利点を得ることもできる。
【0227】
[8.第6実施形態]
次に、図面を用いて本発明の第6実施形態について説明する。
図11は、本発明の第6実施形態にかかるカンチレバーセンサシステムの概要を模式的に示す斜視図である。なお、図11において、図1〜図10と同様の部位には、図1〜図10と同様の符号を付して示す。
【0228】
本実施形態にかかるカンチレバーセンサシステムは、第5実施形態と同様に光学式にて検出用カンチレバーの変位量を測定するものである。ただし、本実施形態においては、第2,第4実施形態と同様に補正用カンチレバー3Bを用いて検出用カンチレバーの変位量を補正するようになっていて、そのために、第5実施形態の構成に加えて、補正用カンチレバー3Bと、補正変位量測定部53と、変位量補正部54とを備えている。
【0229】
即ち、本実施形態の検出方法で用いるカンチレバーセンサシステムは、図11に示すように、光源1と、集光手段2と、検出用カンチレバー3Aと、補正用カンチレバー3Bと、受光素子4と、変位量測定部51と、補正変位量測定部53と、変位量補正部54と、変位量多項式近似部57と、係数出力部58とを備えている。なお、変位量測定部51、補正変位量測定部53、変位量補正部54、変位量多項式近似部57及び係数出力部58は、ハードウェア的にはコンピュータ5に、コンピュータ5を変位量測定部51、補正変位量測定部53、変位量補正部54、変位量多項式近似部57及び係数出力部58として機能させるためのプログラムを読み込ませて構成したものである。さらに、本実施形態のカンチレバーセンサシステムでも、検出用カンチレバー3A及び補正用カンチレバー3Bは検体接触部としての透明容器6に装着されているものとする。
【0230】
[8−1.光源]
本実施形態において、光源1は、第2,第4実施形態と同様である。
【0231】
[8−2.集光手段]
本実施形態において、集光手段2は、第2,第4実施形態と同様である。
【0232】
[8−3.検出用カンチレバー]
本実施形態において、検出用カンチレバー3Aは、第1〜第5実施形態と同様である。
【0233】
[8−4.補正用カンチレバー]
本実施形態において、補正用カンチレバー3Bは、第2,第4実施形態と同様である。
【0234】
[8−5.透明容器]
本実施形態において、透明容器6は、第2,第4実施形態と同様である。
なお、図11においては透明容器6は1点鎖線で示してある。
【0235】
[8−6.受光素子]
本実施形態において、受光素子4は、第2,第4実施形態と同様である。
【0236】
[8−7.変位量測定部]
本実施形態にかかる変位量測定部51は、測定した検出用カンチレバー3Aの変位量を、変位量補正部54に送るようになっている他は、第5実施形態と同様である。したがって、変位量測定部51は常時検出用カンチレバー3Aの変位量を測定しているため、第1時点t1から第2時点t2までの所定時間範囲における検出用カンチレバー3Aの変位量を測定するようになっている。
【0237】
なお、本実施形態においても第5実施形態と同様に、上記の第1時点t1及び第2時点t2は、キーボード等のインターフェース(図示省略)によってオペレータがコンピュータ5に指示することにより、その指示内容を変位量測定部51、補正変位量測定部53、変位量補正部54、変位量多項式近似部57及び係数出力部58が読み込むことで、設定されるようになっているものとする。
【0238】
[8−8.補正変位量測定部]
補正変位量測定部53は、少なくとも第1時点t1から第2時点t2までの所定時間範囲内において補正用カンチレバー3Bの変位量を測定するものである。
本実施形態では、補正変位量測定部53は、第4実施形態と同様に構成されている。
【0239】
[8−9.変位量補正部]
変位量補正部54は、少なくとも、第1時点t1から第2時点t2までの所定時間範囲において、変位量測定部51が測定した検出用カンチレバー3Aの変位量から補正変位量測定部53が測定した補正用カンチレバー3Bの変位量を引き、補正後の検出用カンチレバー3Aの変位量を算出して、変位量多項式近似部57に送るものである。これにより、相互作用以外によるたわみの影響を排除して、検出用カンチレバー3Aに生じた相互作用により生じた変位量を、より正確に得ることができるようになっている。
本実施形態において、変位量補正部54は、補正後の検出用カンチレバー3Aの変位量を変位量多項式近似部57に送るようになっている他は、第2,第4実施形態と同様である。
【0240】
[8−10.変位量多項式近似部]
変位量多項式近似部57は、変位量補正部54から送られる補正後の検出用カンチレバー3Aの変位量を用いて、第1時点t1から第2時点t2までの所定時間範囲までの検出用カンチレバー3Aの変位量を時間に対して多項式で近似するものである。本実施形態では、変位量測定部51が測定した変位量の代わりに、変位量補正部54が補正した検出用カンチレバー3Aの変位量を用いる他は、第5実施形態と同様になっている。
【0241】
[8−11.係数出力部]
係数出力部58は多項式近似により得られた多項式の各係数を出力するものであり、本実施形態では、係数出力部58は第5実施形態と同様に構成されている。
したがって、第5実施形態と同様に、係数出力部58が出力する係数の値は、図示しない出力装置に出力されるようになっていて、この係数を基に、オペレータが検体中の検出対象物質の有無及び濃度等の情報を認識するようになっているものとする。
【0242】
[8−12.検出方法]
上述したカンチレバーセンサシステムを用いて、本実施形態の検出方法により検体中の検出対象物質の検出する場合には、まず、支持具61に検出用カンチレバー3A及び補正用カンチレバー3Bを装着した状態で、光源1から検出用カンチレバー3A及び補正用カンチレバー3Bに光を照射しながら検出用カンチレバー3A及び補正用カンチレバー3Bに検体を接触させる。そして、少なくとも上記の第1時点t1から第2時点t2までの所定時間範囲において検出用カンチレバー3A及び補正用カンチレバー3Bそれぞれの変位量を測定する。次いで、少なくとも上記第1時点t1から第2時点t2までの所定時間範囲において、補正用カンチレバー3Bの変位量を用いて検出用カンチレバー3Aの変位量の補正を行なう。その後、補正後の検出用カンチレバー3Aの変位量を時間に対して多項式で近似し、上記多項式近似により得られた多項式の係数により、検出対象物質の検出を行なう。
以下、詳しく説明する。
【0243】
第1時点t1及び第2時点t2の情報を変位量測定部51、補正変位量測定部53、変位量補正部54、変位量多項式近似部57及び係数出力部58に入力しておくようにする他は、第2,第4実施形態と同様にして、検体と検出用カンチレバー3A及び補正用カンチレバー3Bとを接触させて、その際の検出用カンチレバー3A及び補正用カンチレバー3Bの変位量を測定する。測定した第1時点t1から第2時点t2までの検出用カンチレバー3A及び補正用カンチレバー3Bの変位量は、変位量補正部54に送られる。
【0244】
変位量補正部54においては、第2,第4実施形態と同様に、検出用カンチレバー3Aの変位量から補正用カンチレバー3Bの変位量を引き算することにより、相互作用以外の要因による変位量を検出用カンチレバー3Aの変位量から除去する補正が行なわれる。また、補正後の検出用カンチレバー3Aの補正量は、変位量多項式近似部57に送られる。
【0245】
変位量多項式近似部57では、変位量補正部54から送られてきた、検出用カンチレバー3Aの補正後の変位量を用いる他は、第5実施形態と同様にして、検出用カンチレバー3Aの変位量を多項式で近似し、時間に対する変位量の経時変化を表わす近似多項式を求める。
この近似多項式の情報は係数出力部58に送られ、この係数出力部58において近似多項式の係数の情報が取り込まれる。そして、係数近似部58が取り込んだ係数の値は、出力装置(図示省略)に出力され、出力装置に出力された値を基に、オペレータが検体中の検出対象物質の有無及びその濃度を検出する。
【0246】
[8−13.効果]
本実施形態の検出方法を用いた場合、上記のようにして検体中の検出対象物質の検出を行なうことができる。さらに、この際、従来よりも短時間で正確な検出を行なうことが可能である。
また、本実施形態の検出方法によれば、補正用カンチレバー3Bの変位量を用いて検出用カンチレバー3Aの変位量を補正するようにしたため、特定物質と検出対象物質との相互作用以外の要因によるたわみの影響を排除し、より正確な検出を行なうことが可能となる。
さらに、第5実施形態と同様の利点を得ることもできる。
【0247】
[9.第7実施形態]
以下、図面を用いて本発明の第7実施形態について説明する。
図12は、本発明の第7実施形態にかかるカンチレバーセンサシステムの概要を模式的に示す斜視図である。また、図13は、検出用カンチレバー3Aがたわみを生じる場合の時間と変位量との関係の一例を模式的に示すグラフである。なお、図12,図13において、図1〜図11と同様の部位には、図1〜図11と同様の符号を付して示す。
【0248】
本実施形態にかかるカンチレバーセンサシステムは、第3実施形態と同様に光学式にて検出用カンチレバーの変位量を測定するものである。ただし、本実施形態においては、検出用カンチレバー3Aの変位量を時間に対して指数関数で近似し、上記近似(指数関数近似)により得られた指数関数の係数により検出対象物質の検出を行なうようになっている。したがって、変位量直線近似部55及び傾き出力部56に代えて変位量指数関数近似部(変位量近似部)59及び係数出力部58を備えている。
【0249】
即ち、本実施形態の検出方法で用いるカンチレバーセンサシステムは、図12に示すように、光源1と、集光手段2と、検出用カンチレバー3Aと、受光素子4と、変位量測定部51と、変位量指数関数近似部59と、係数出力部58とを備えている。なお、変位量測定部51、変位量指数関数近似部59及び係数出力部58は、ハードウェア的にはコンピュータ5に、コンピュータ5を変位量測定部51、変位量指数関数近似部59及び係数出力部58として機能させるためのプログラムを読み込ませて構成したものである。さらに、本実施形態のカンチレバーセンサシステムでも、検出用カンチレバー3Aは検体接触部としての透明容器6に装着されているものとする。
【0250】
[9−1.光源]
本実施形態において、光源1は、第1,第3,第5実施形態と同様である。
【0251】
[9−2.集光手段]
本実施形態において、集光手段2も、第1,第3,第5実施形態と同様である。
【0252】
[9−3.検出用カンチレバー]
本実施形態において、検出用カンチレバー3Aも、第1〜第6実施形態と同様である。
【0253】
[9−4.透明容器]
本実施形態において、透明容器6も、第1,第3,第5実施形態と同様である。
なお、図12においては透明容器6は1点鎖線で示してある。
【0254】
[9−5.受光素子]
本実施形態において、受光素子4も、第1,第3,第5実施形態と同様である。
【0255】
[9−6.変位量測定部]
変位量測定部51は、受光素子4の受光位置の情報を受け取って、少なくとも第1時点t1から第2時点t2までの間の所定時間範囲内において検出用カンチレバー3Aの変位量を測定するものである。
本実施形態では、変位量測定部51は、測定された検出用カンチレバー3Aの変位量が変位量指数関数近似部59に送られるようになっているほかは、第3,第5実施形態と同様に構成されている。
【0256】
なお、上記の第1時点t1及び第2時点t2は、キーボード等のインターフェース(図示省略)によってオペレータがコンピュータ5に指示することにより、その指示内容を変位量測定部51、変位量指数関数近似部59及び係数出力部58が読み込むことで、設定されるようになっているものとする。
【0257】
[9−7.変位量指数関数近似部]
本実施形態にかかる変位量指数関数近似部59は、検出用カンチレバー3Aの変位量を時間に対して指数関数で近似するものである。具体的には、変位量測定部51から送られてきた、第1時点t1から第2時点t2までの所定時間範囲における検出用カンチレバー3Aの変位量を受け取り、それを近似して、時間に対する指数関数として変位量を表わす指数関数を求めるものである。
【0258】
例えば、図13において二点鎖線で示すような変位量の推移が変位量測定部51で測定された場合、変位量指数関数近似部59は、第1時点t1から第2時点t2までの所定時間範囲に測定された変位量を指数関数で近似して、上記所定時間範囲における変位量の変化を表わす近似曲線XIIIを求める。本発明者らの推察するところでは、この近似曲線XIIIは、検出用カンチレバー3Aのたわみが進行している全時間範囲中の一部の時間範囲(即ち、所定時間範囲)における変位量の経時変化ををあらわすものである。即ち、カンチレバーセンサにおける検出用カンチレバー3Aの変位量の経時的に測定したデータは、それを時間に対して指数関数近似したとしても、十分に高い検出精度を得ることができる程度に正確に、上記変位量の経時変化を表しうるものである。
【0259】
この際、具体的な近似方法に制限は無く、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、例えば、上述した最小二乗法等を用いることができる。
本実施形態においては、変位量指数関数近似部59は、最小二乗法を用いて指数関数近似を行なっているものとする。
また、得られた指数関数(近似指数関数)についての情報は、係数出力部58に送られるようになっている。
【0260】
[9−8.係数出力部]
本実施形態にかかる係数出力部58は、変位量指数関数近似部59の指数関数近似で得られた指数関数の係数を出力するものである。具体的には、変位量指数関数近似部59から送られてきた近似指数関数の情報を取り込んで、その各係数を出力するものである。
【0261】
上記の変位量指数関数近似部59で得られた近似指数関数は、上述したように、検出用カンチレバー3Aのたわみが進行している全時間範囲中の一部の時間範囲(即ち、所定時間範囲)における変位量の経時変化を表すものである。しかし、本発明者らが推察するところでは、その近似指数関数の各係数は、検出用カンチレバー3Aのたわみが進行している全時間範囲における変位量の変化の情報を含んでいる。即ち、上記近似指数関数の各係数は、検出対象物質と検出用カンチレバー3Aとの相互作用に密接に関連している。
【0262】
例えば、下式の指数関数で近似を行なう場合を例に挙げて説明する。
【数1】

なお、この式において、A1及びA2はこの指数関数の係数を表わし、eは自然対数の底を表わし、tは時間を表わす。この場合、相互作用が小さい場合は係数A2は小さくなり、相互作用が大きい場合は係数A2は大きくなるため、これを利用すれば、検出用カンチレバー3Aのたわみが進行している全時間範囲において変位量を測定した場合と同様に検体液中の検出対象物質を検出することが可能である。
【0263】
したがって、係数出力部58が近似指数関数の各係数を出力し、例えばその指数関数が上記の式であり、その係数A2の絶対値が0の場合には検出用カンチレバー3Aの変位量は変化しておらず、したがって、検体中に検出対象物質が存在していないものと判定することができる。一方、上記の係数A2の絶対値が0よりも大きい場合には、検出用カンチレバー3Aには変位量の変化が生じており、このような変化が現われた場合には、上記の検出対象物質と特定物質との相互作用が生じており、したがって、検体中に検出対象物質が存在しているものと判定することができるのである。
【0264】
また、所定の閾値を予め設定しておき、上記の係数の絶対値が、上記閾値以上であれば検出対象物質が存在していると判定し、閾値未満なら検出対象物質が存在していないと判定するようにしてもよい。これは、変位量測定時のノイズによる誤検出を防止するためである。なお、この閾値は、測定装置の測定精度や検体の種類等に応じて、適切な値を任意に設定するものとする。
【0265】
さらに、上記の係数の大きさは、検体中の検出対象物質の量や濃度等に関する情報も含んでいる。したがって、係数により上記の量や濃度を測定することも可能である。なお、この場合にも、第3実施形態と同様に、予め近似指数関数の係数と検出対象物質の濃度等との対応を示す表などの情報をコンピュータ5内の記録部(図示省略)に記録させ、その情報を基に上記の係数から濃度等の情報を出力する演算部(図示省略)をコンピュータ5に設けてもよい。
【0266】
本実施形態においては、係数出力部58が出力する係数の値は、図示しない出力装置に出力されるようになっている。また、この係数の値を基に、オペレータが検体中の検出対象物質の有無及び濃度等の情報を認識するようになっているものとする。
【0267】
[9−9.検出方法]
上述したカンチレバーセンサシステムを用いて、本実施形態の検出方法により検体中の検出対象物質の検出をする場合には、まず、支持具61に検出用カンチレバー3Aを装着した状態で、光源1から検出用カンチレバー3Aに光を照射しながら検出用カンチレバー3Aに検体を接触させる。そして、少なくとも上記の時点t1から第2時点t2までの間において、検出用カンチレバー3Aの変位量を測定する。その後、検出用カンチレバー3Aの変位量を時間に対して指数関数で近似し、上記指数関数近似により得られた指数関数の係数により、検出対象物質を検出する。
以下、詳しく説明する。
【0268】
第1時点t1及び第2時点t2の情報を変位量測定部51及び変位量指数関数近似部59に入力しておくようにする他は、第3実施形態と同様にして、検体と検出用カンチレバー3Aとを接触させて、その際の検出用カンチレバー3Aの変位量を測定する。測定された第1時点t1から第2時点t2までの検出用カンチレバー3Aの変位量は変位量指数関数近似部59に送られる。
【0269】
変位量指数関数近似部59では、変位量測定部51から送られてきた変位量から、オペレータにより与えられた条件に従って、第1時点t1から第2時点t2までの所定時間範囲で測定された検出用カンチレバー3Aの変位量を指数関数で近似し、時間に対する変位量の経時変化を表わす近似指数関数を求める。
【0270】
この近似指数関数の情報は係数出力部58に送られ、この係数出力部58において近似指数関数の係数が取り込まれる。そして、係数近似部58が取り込んだ係数の値は、出力装置(図示省略)に出力され、出力装置に出力された値を基に、オペレータが検体中の検出対象物質の有無及びその濃度を検出する。
【0271】
[9−10.効果]
本実施形態の検出方法を用いた場合、上記のようにして検体中の検出対象物質の検出を行なうことができる。さらに、この際、従来よりも短時間で正確な検出を行なうことが可能である。
また、近似指数関数の係数から、検出対象物質の量や濃度などを測定することも可能である。
さらに、第1,第3,第5実施形態と同様の利点を得ることもできる。
【0272】
[10.第8実施形態]
次に、図面を用いて本発明の第8実施形態について説明する。
図14は、本発明の第8実施形態にかかるカンチレバーセンサシステムの概要を模式的に示す斜視図である。なお、図14において、図1〜図13と同様の部位には、図1〜図13と同様の符号を付して示す。
【0273】
本実施形態にかかるカンチレバーセンサシステムは、第7実施形態と同様に光学式にて検出用カンチレバーの変位量を測定するものである。ただし、本実施形態においては、第2,第4,第6実施形態と同様に補正用カンチレバー3Bを用いて検出用カンチレバーの変位量を補正するようになっていて、そのために、第7実施形態の構成に加えて、補正用カンチレバー3Bと、補正変位量測定部53と、変位量補正部54とを備えている。
【0274】
即ち、本実施形態の検出方法で用いるカンチレバーセンサシステムは、図14に示すように、光源1と、集光手段2と、検出用カンチレバー3Aと、補正用カンチレバー3Bと、受光素子4と、変位量測定部51と、補正変位量測定部53と、変位量補正部54と、変位量指数関数近似部59と、係数出力部58とを備えている。なお、変位量測定部51、補正変位量測定部53、変位量補正部54、変位量指数関数近似部59及び係数出力部58は、ハードウェア的にはコンピュータ5に、コンピュータ5を変位量測定部51、補正変位量測定部53、変位量補正部54、変位量指数関数近似部59及び係数出力部58として機能させるためのプログラムを読み込ませて構成したものである。さらに、本実施形態のカンチレバーセンサシステムでも、検出用カンチレバー3A及び補正用カンチレバー3Bは検体接触部としての透明容器6に装着されているものとする。
【0275】
[10−1.光源]
本実施形態において、光源1は、第2,第4,第6実施形態と同様である。
【0276】
[10−2.集光手段]
本実施形態において、集光手段2は、第2,第4,第6実施形態と同様である。
【0277】
[10−3.検出用カンチレバー]
本実施形態において、検出用カンチレバー3Aは、第1〜第7実施形態と同様である。
【0278】
[10−4.補正用カンチレバー]
本実施形態において、補正用カンチレバー3Bは、第2,第4,第6実施形態と同様である。
【0279】
[10−5.透明容器]
本実施形態において、透明容器6は、第2,第4,第6実施形態と同様である。
なお、図14においては透明容器6は二点鎖線で示してある。
【0280】
[10−6.受光素子]
本実施形態において、受光素子4は、第2,第4,第6実施形態と同様である。
【0281】
[10−7.変位量測定部]
本実施形態にかかる変位量測定部51は、測定した検出用カンチレバー3Aの変位量を、変位量補正部54に送るようになっている他は、第7実施形態と同様である。したがって、変位量測定部51は常時検出用カンチレバー3Aの変位量を測定しているため、第1時点t1から第2時点t2までの所定時間範囲における検出用カンチレバー3Aの変位量を測定するようになっている。
【0282】
なお、本実施形態においても第7実施形態と同様に、上記の第1時点t1及び第2時点t2は、キーボード等のインターフェース(図示省略)によってオペレータがコンピュータ5に指示することにより、その指示内容を変位量測定部51、補正変位量測定部53、変位量補正部54、変位量指数関数近似部59及び係数出力部58が読み込むことで、設定されるようになっているものとする。
【0283】
[10−8.補正変位量測定部]
補正変位量測定部53は、少なくとも第1時点t1から第2時点t2までの所定時間範囲内において補正用カンチレバー3Bの変位量を測定するものである。
本実施形態では、補正変位量測定部53は、第4実施形態と同様に構成されている。
【0284】
[10−9.変位量補正部]
変位量補正部54は、少なくとも、第1時点t1から第2時点t2までの所定時間範囲において、変位量測定部51が測定した検出用カンチレバー3Aの変位量から補正変位量測定部53が測定した補正用カンチレバー3Bの変位量を引き、補正後の検出用カンチレバー3Aの変位量を算出して、変位量指数関数近似部59に送るものである。これにより、相互作用以外によるたわみの影響を排除して、検出用カンチレバー3Aに生じた相互作用により生じた変位量を、より正確に得ることができるようになっている。
本実施形態において、変位量補正部54は、補正後の検出用カンチレバー3Aの変位量を変位量指数関数近似部59に送るようになっている他は、第2,第4,第6実施形態と同様である。
【0285】
[10−10.変位量指数関数近似部]
変位量指数関数近似部59は、変位量補正部54から送られる補正後の検出用カンチレバー3Aの変位量を用いて、第1時点t1から第2時点t2までの所定時間範囲までの検出用カンチレバー3Aの変位量を時間に対して指数関数で近似するものである。本実施形態では、変位量測定部51が測定した変位量の代わりに、変位量補正部54が補正した検出用カンチレバー3Aの変位量を用いる他は、第7実施形態と同様になっている。
【0286】
[10−11.係数出力部]
係数出力部58は指数関数近似により得られた指数関数の各係数を出力するものであり、本実施形態では、係数出力部58は第7実施形態と同様に構成されている。
したがって、第7実施形態と同様に、係数出力部58が出力する係数の値は、図示しない出力装置に出力されるようになっていて、この係数を基に、オペレータが検体中の検出対象物質の有無及び濃度等の情報を認識するようになっているものとする。
【0287】
[10−12.検出方法]
上述したカンチレバーセンサシステムを用いて、本実施形態の検出方法により検体中の検出対象物質の検出する場合には、まず、支持具61に検出用カンチレバー3A及び補正用カンチレバー3Bを装着した状態で、光源1から検出用カンチレバー3A及び補正用カンチレバー3Bに光を照射しながら検出用カンチレバー3A及び補正用カンチレバー3Bに検体を接触させる。そして、少なくとも上記の第1時点t1から第2時点t2までの所定時間範囲において検出用カンチレバー3A及び補正用カンチレバー3Bそれぞれの変位量を測定する。次いで、少なくとも上記第1時点t1から第2時点t2までの所定時間範囲において、補正用カンチレバー3Bの変位量を用いて検出用カンチレバー3Aの変位量の補正を行なう。その後、補正後の検出用カンチレバー3Aの変位量を時間に対して指数関数で近似し、上記指数関数近似により得られた指数関数の係数により、検出対象物質を検出する。
以下、詳しく説明する。
【0288】
第1時点t1及び第2時点t2の情報を変位量測定部51、補正変位量測定部53、変位量補正部54、変位量指数関数近似部59及び係数出力部58に入力しておくようにする他は、第2実施形態と同様にして、検体と検出用カンチレバー3A及び補正用カンチレバー3Bとを接触させて、その際の検出用カンチレバー3A及び補正用カンチレバー3Bの変位量を測定する。測定された第1時点t1から第2時点t2までの検出用カンチレバー3A及び補正用カンチレバー3Bの変位量は変位量補正部54に送られる。
【0289】
変位量補正部54においては、第2,第4,第6実施形態と同様に、検出用カンチレバー3Aの変位量から補正用カンチレバー3Bの変位量を引き算することにより、相互作用以外の要因による変位量を検出用カンチレバー3Aの変位量から除去する補正が行なわれる。また、補正後の検出用カンチレバー3Aの補正量は、変位量指数関数近似部59に送られる。
【0290】
変位量指数関数近似部59では、変位量補正部54から送られてきた、検出用カンチレバー3Aの補正後の変位量を用いる他は、第7実施形態と同様にして、検出用カンチレバー3Aの変位量を指数関数で近似し、時間に対する変位量の経時変化を表わす近似指数関数を求める。
この近似指数関数の情報は係数出力部58に送られ、この係数出力部58において近似指数関数の係数が取り込まれる。そして、係数近似部58が取り込んだ係数の値は、出力装置(図示省略)に出力され、出力装置に出力された値を基に、オペレータが検体中の検出対象物質の有無及びその濃度を検出する。
【0291】
[10−13.効果]
本実施形態の検出方法を用いた場合、上記のようにして検体中の検出対象物質の検出を行なうことができる。さらに、この際、従来よりも短時間で正確な検出を行なうことが可能である。
また、本実施形態の検出方法によれば、補正用カンチレバー3Bの変位量を用いて検出用カンチレバー3Aの変位量を補正するようにしたため、特定物質と検出対象物質との相互作用以外の要因によるたわみの影響を排除し、より正確な検出を行なうことが可能となる。
さらに、第7実施形態と同様の利点を得ることもできる。
【0292】
[11.その他]
ところで、上記実施形態のように検出用カンチレバー3Aや補正用カンチレバー3Bを着脱可能に設ける場合、上記のカンチレバーセンサシステムに用いる分析装置は、通常は、検出用カンチレバー3Aや補正用カンチレバー3Bを除くその他の構成部材で構成されたものとなる。具体的には、例えば、検出用カンチレバー3Aや補正用カンチレバー3Bを装着する支持部(カンチレバー装着部)61と、検出用カンチレバー3Aや補正用カンチレバー3Bに検体を接触させる透明容器(検体接触部)6と、変位量測定部51、変位量比較部52、補正変位量測定部53、変位量補正部54、変位量直線近似部55、傾き出力部56、変位量多項式近似部57、係数出力部58、変位量指数関数近似部59等のうちの適宜用いる機能を実現するためのコンピュータ(機能部)5とを備えた分析装置を用いることになる。このような分析装置も、本発明の範囲に含まれるものとする。
【0293】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施することができる。
例えば、第1実施形態や第2実施形態では変位量の比較をコンピュータにより行なわせるようしたが、変位量をそのまま出力するようにして、オペレータがその変位量を比較して、検出対象物質の検出を行なうようにしても良い。
また、第3〜第8実施形態において、近似や傾きの算出などをオペレータが行なうようにしても良い。
【0294】
また、例えば、第1,第2実施形態においては、変位量は常時測定する以外にも、少なくとも第1時点t1及び第2時点t2において測定すればよい。第2実施形態においては、補正についても同様である。
さらに、例えば、第3〜第8実施形態においては、変位量は常時測定する以外にも、少なくとも第1時点t1から第2時点t2までの所定時間範囲おいて測定すればよい。第4,第6,第8実施形態においては、補正についても同様である。
【0295】
また、上記の各実施形態では、説明を分かりやすくするためにノイズの存在を無視して説明を行なったが、変位量の測定においてノイズがある場合においても同様にして、検体中の検出対象物質の検出を行なうことが可能である。
さらに、例えば、検体接触部である透明容器6の構成は流路状に形成し、フロー中で検出用カンチレバーや補正用カンチレバーに検体を接触させるようにしてもよい。
【0296】
また、例えば、複数の測定結果を比較して、複数種の検体や検出対象物質の分析結果を比較することも可能である。ただし、その場合には、上記の第1時点t1及び第2時点t2の条件を同じにすることが好ましい。
【0297】
さらに、例えば、光源1から発光される光のスポット光サイズが、分析に用いる検出用カンチレバー3A及び補正用カンチレバー3Bすべてに光を照射できる程度に大きい場合には、ロッドレンズ21等を用いることなく光源2からの光を1つのシリンドリカルレンズ23で集光するだけで、検出用カンチレバー3A及び補正用カンチレバー3Bに照射することも可能である。
【0298】
また、例えば、一つの支持部材に2以上のカンチレバー(検出用カンチレバー3A及び補正用カンチレバー3Bを含む)を支持させるようにしてもよい。
さらに、例えば、検出用カンチレバー3A及び補正用カンチレバー3Bは、適宜、一列に並置する以外に、2列以上にしてもよく、無規則に配置してもかまわない。
【0299】
また、変位量比較部52が出力する差の値、傾き出力部56が出力する傾きの値、係数出力部58が出力する係数の値などは、上記実施形態のように出力装置などに出力する他、演算部等に向けて出力し、その演算部等が当該差、傾き、係数などの値を取り込んで、検出対象物質の有無の判断や濃度の計算等を行なうようにしても良い。
【0300】
さらに、例えば、上記実施形態において説明しなかった他の部材についても、適宜、カンチレバーセンサシステムに組み合わせて用いることができる。
また、上述した第1〜第8実施形態の構成は、本発明の効果を著しく損なわない限り、それぞれ任意に組み合わせて実施することが可能である。
【実施例】
【0301】
以下、本発明について実施例を示して更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施することができる。なお、以下の実施例及び比較例において濃度を表わす「%」は、特に断らない限り「重量%」を表わすものとする。また、図面を参照して説明を行なう説明部において、カッコ「〔〕」内の符号は、参照する図面で用いている符号に対応している。
【0302】
[実施例1]
インフルエンザA型(H3N2)/Fukuoka/C29/85を用いて、ウィルス(検出対象物質)を以下の手順で培養した。
まず、フラスコでイヌ腎臓由来細胞株(MDCK細胞)を37℃で3日間培養した後、細胞増殖培地を除去した。次に、ウィルスをMDCK細胞に接種して、室温で1時間吸着させた後、ウィルスを除去し、ウシ血清アルブミン(BSA)を0.3%の濃度で含有するインフルエンザ培地を加え37℃で3日間培養した。細胞変性効果(CPE)3〜4+を示した感染細胞と培養上清とを回収し、「4℃、3000rpm」で10分間遠心処理をした。上清をウィルス液として2.5mlずつ小分け分注した。ウィルス力価を測定したところ、4×107[TCID/ml]であった。
【0303】
次に、特定物質である糖化合物(1)を、図15の反応式に示す手順で合成した。なお、Tsはトシル基を表わし、DMFはN,N−ジメチルホルムアミドを表わし、Bnはベンジル基を表わし、Meはメチル基を表わし、Acはアセチル基を表わし、TMSはトリメチルシリル基を表し、r.t.は室温を表す。
【0304】
即ち、まず、市販の化合物(2)とNaN3とをDMF中で50℃において1.5時間反応させ、後処理及び精製の後、化合物(3)を得た。この化合物(3)とNaIとをアセトン中で還流下1時間反応させ、後処理及び精製の後、化合物(4)を得た。
次にシアル酸誘導体(5)と前記化合物(4)とを、CsFの存在下にDMF中で−10℃〜0℃で15時間反応させてカップリングさせ、後処理及び精製後に化合物(6)を得た。その後この化合物(6)をMeOH中にて、水及びLiOHを用いて0℃〜室温で3日間加水分解反応させ、後処理及び精製後に化合物(7)を得た。この化合物(7)を、先ずMeOH中と1N塩酸との混合溶媒中で水素雰囲気下にて5%−Pd/carbonにより処理し、還元反応を行なった後にろ過を行ない、さらにNaOAcにて室温で30分間中和反応し、精製後に糖化合物(1)を得た。Pd/Cによる還元反応以外は窒素雰囲気下にて反応を実施した。化合物(3)〜(7)の精製はシリカゲルクロマトグラフィーにより行ない、糖化合物(1)の精製はゲルろ過により行なった。化合物(2)からの化合物(1)の総収率は8.3%であった。
【0305】
また、測定に用いるカンチレバーとして、厚さ0.8μm、長さ200μm、幅40μmの窒化シリコン製カンチレバー(オリンパス株式会社製)を2つ用意した。該カンチレバーには、片面のみに金がコートされている。
2つのカンチレバーのうち1つを検出用カンチレバーとし、以下のプロセスにより表面の修飾を行なった。
まず、オゾンクリーナ((株)レーザーテクノ社製UVオゾンクリーナ)により5分間清浄化を行なった。そして、16−メルカプトヘキサデカン酸の10mMエタノール溶液中に室温で12時間浸し、エタノールで洗浄した後、十分に乾燥させた。
【0306】
次に、N−hydroxysuccinimide及び、1−Ethyl−3−(3−dimethylaminopropyl)−carbodiimide hydrochlorideが、それぞれ5.0mM及び20.0mMの濃度となるように調整した水溶液中に室温で20分間浸し、水で洗浄した後、十分に乾燥させた。そして、該糖化合物(1)の6.5mMメタノール溶液中に室温にて19時間浸し、メタノールで洗浄した後、十分に乾燥させた。これにより、糖化合物(1)を糖鎖として検出用カンチレバーに固定化した。さらに、1.0Mのエタノールアミン水溶液に30分間浸し、水で洗った後、十分に乾燥させた。最後に、0.3%BSA(ウシ血清アルブミン)水溶液に24時間浸し、水で洗浄した後、十分に乾燥させた。
一方、残り1つのカンチレバーを補正用カンチレバーとし、0.3%BSA水溶液に24時間浸し、水で洗浄した後、十分に乾燥させた。
【0307】
該検出用カンチレバー及び該補正用カンチレバーの2つを、両者が平行でかつ同じ向きになるように、測定用セル(検体接触部)にセットした。この際、2つのカンチレバー間の距離は2mmとなるようにした。
測定用セルは、テフロン(登録商標)製のベース部をガラス基板で蓋をした構造になっており、該ガラス基板を介して検出用カンチレバー及び補正用カンチレバーにレーザー光を照射し、検出用カンチレバー及び補正用カンチレバーからの反射光を取り出すことができる。また、該測定用セルには、液体の注入口が設けられており、そこから測定用セル内の液体を入れ替えを行なうようになっている。
【0308】
次に、図5に示したような装置を構成し、He−Neレーザー〔1〕からの出力光を、ロッドレンズ〔21〕と、2つのシリンドリカルレンズ〔22,23〕により、幅50μm、長さ1cmの直線状になるように集光し、測定用セル〔6〕にセットした検出用カンチレバー〔3A〕及び補正用カンチレバー〔3B〕それぞれの先端部に同時に照射した。検出用カンチレバー〔3A〕及び補正用カンチレバー〔3B〕からの2つの反射光は、1つのCCDカメラ(受光素子)〔4〕で同時に観察した。CCDカメラ〔4〕の出力画像をパソコン〔5〕に取り込み、画像処理を行なうことによって、2つの反射光の中心位置を求め、検出用カンチレバー〔3A〕及び補正用カンチレバー〔3B〕のたわみ量の時間変化を測定した。なお、ここでは、検出用カンチレバー〔3A〕及び補正用カンチレバー〔3B〕のたわみ量として、検出用カンチレバー〔3A〕及び補正用カンチレバー〔3B〕それぞれの先端部の角度変化を測定した。
【0309】
測定用セルに、該ウィルス液を満たした状態で変位量の測定を行なった結果を図16に示す。ここで、図16に示す変位量の出力は、検出用カンチレバーの変位量から、補正用カンチレバーの変位量を差し引いた値を用いた。また、測定はウィルス液を満たしてから5分後(第1時点)に開始し、測定開始後30分経過したところ(第2時点)で終了した。
図16から、インフルエンザウィルスと糖鎖との相互作用により、検出用カンチレバーのたわみ量に変化が生じていることが、測定結果から分かる。
また、この補正後の変位量について、最小二乗法により変化を直線近似し、その傾きを求めたところ、傾きは−0.3であった。
【0310】
[実施例2]
実施例1で用いたウィルス液を、ウィルスを含まないインフルエンザ培地により1/3の濃度に希釈した。この希釈したウィルス液を用い、実施例1と同様にして、検出用カンチレバーの変位量の測定を行なった。結果を図17に示す。なお、図17において、変位量の出力は、検出用カンチレバーの変位量から、補正用カンチレバーの変位量を差し引いた値を用いた。
【0311】
図17から、濃度を希釈した場合においても、インフルエンザウィルスと糖鎖との相互作用により、検出用カンチレバーのたわみ量に変化が生じていることが分かる。
また、この補正後の変位量について、最小二乗法により変化を直線近似し、その傾きを求めたところ、傾きは−0.1であった。
【0312】
以上のように、実施例1で求めた近似直線の傾きが−0.3であるのに対して、それと同様の検体の濃度を1/3に希釈した実施例2で求めた近似直線の傾きは−0.1であった。即ち、検体の濃度に応じて近似直線の傾きの大きさが比例して変わった。このことから、上記の直線近似により得られた近似直線の傾きにウィルス濃度依存性があることが分かる。
【0313】
[比較例1]
ウィルス液の代わりに、BSAを0.3%の濃度で含有するインフルエンザ培地を滅菌処理して検体として用いた以外は、実施例1と同様に測定を行なった。結果を図18に示す。なお、図18において、変位量の出力は、検出用カンチレバーの変位量から、補正用カンチレバーの変位量を差し引いた値を用いた。
【0314】
検体には検出対象物質であるインフルエンザウィルスが含まれておらず、その場合には、検出用カンチレバーのたわみ量に変化が生じないことが、測定結果から分かる。
また、この補正後の変位量について、最小二乗法により変化を直線近似し、その傾きを求めたところ、傾きは0であった。
【産業上の利用可能性】
【0315】
本発明のカンチレバーを用いた検出対象物質の検出方法及びカンチレバーセンサシステムは産業上の任意の分野で用いることが可能であるが、例えば、医療、食品分析、生体分析などの分野に用いて好適である。
【図面の簡単な説明】
【0316】
【図1】本発明の第1実施形態にかかるカンチレバーセンサシステムの概要を模式的に示す斜視図である。
【図2】本発明の一実施形態について説明するもので、図2(a)は特定物質と検出対象物質とが相互作用する前の検出用カンチレバーの様子を模式的に示す図であり、図2(b)は特定物質と検出対象物質とが相互作用することによってたわみを生じた際の検出用カンチレバーの様子を模式的に示す図である。
【図3】本発明の第1実施形態にかかるカンチレバーセンサシステムの要部を模式的に示す断面図である。
【図4】本発明の第1実施形態について説明するもので、検出用カンチレバーがたわみを生じる場合の時間と変位量との関係の一例を模式的に示すグラフである。
【図5】本発明の第2実施形態にかかるカンチレバーセンサシステムの概要を模式的に示す斜視図である。
【図6】本発明の第3実施形態にかかるカンチレバーセンサシステムの概要を模式的に示す斜視図である。
【図7】本発明の第3実施形態について説明するもので、検出用カンチレバーがたわみを生じる場合の時間と変位量との関係の一例を模式的に示すグラフである。
【図8】本発明の第4実施形態にかかるカンチレバーセンサシステムの概要を模式的に示す斜視図である。
【図9】本発明の第5実施形態にかかるカンチレバーセンサシステムの概要を模式的に示す斜視図である。
【図10】本発明の第5実施形態について説明するもので、検出用カンチレバーがたわみを生じる場合の時間と変位量との関係の一例を模式的に示すグラフである。
【図11】本発明の第6実施形態にかかるカンチレバーセンサシステムの概要を模式的に示す斜視図である。
【図12】本発明の第7実施形態にかかるカンチレバーセンサシステムの概要を模式的に示す斜視図である。
【図13】本発明の第7実施形態について説明するもので、検出用カンチレバーがたわみを生じる場合の時間と変位量との関係の一例を模式的に示すグラフである。
【図14】本発明の第8実施形態にかかるカンチレバーセンサシステムの概要を模式的に示す斜視図である。
【図15】本発明の実施例1で用いる糖鎖を合成するための手順を示す反応式である。
【図16】本発明の実施例1の結果を示すグラフである。
【図17】本発明の実施例2の結果を示すグラフである。
【図18】比較例1の結果を示すグラフである。
【図19】検出用カンチレバーの一例について要部を表わす模式的な斜視図である。
【図20】検出用カンチレバーの一例について表面近傍を拡大して模式的に示す断面図である。
【符号の説明】
【0317】
1 光源
2 集光手段
3A 検出用カンチレバー(カンチレバー)
3B 補正用カンチレバー
4 受光素子
5 コンピュータ
6 透明容器
21 ロッドレンズ
22,23 シリンドリカルレンズ
31A,31B 指示部材
32A,32B 反射面
33A,33B 被照射部位
41A,41B 受光部位
51 変位量測定部
52 変位量比較部
53 補正変位量測定部
54 変位量補正部
55 変位量直線近似部(変位量近似部)
56 傾き出力部
57 変位量多項式近似部(変位量近似部)
58 係数出力部
59 変位量指数関数近似部(変位量近似部)
61 支持具
62,63 孔
64 天井面
100 検出用カンチレバー
101 カンチレバー本体
102 特定物質
103 金属膜
104 有機分子
105 相互作用部
106 支持部材
107 凹凸パターン
S 検出対象物質
T 特定物質

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検体に接触させた場合に上記検体中に検出対象物質が存在すればたわみを生じるカンチレバーを用いた、検出対象物質の検出方法であって、
上記カンチレバーに検体を接触させ、
上記カンチレバーに上記検体を接触させた時点より後、上記検体に検出対象物質が含まれていた場合に上記カンチレバーがたわみきるために要する時間が経過する時点よりも前の、第1時点と第2時点とにおいて、上記カンチレバーの変位量を測定し、
上記第1時点で測定した上記カンチレバーの変位量と上記第2時点で測定した上記カンチレバーの変位量とを比較して検出対象物質を検出する
ことを特徴とする、カンチレバーを用いた検出対象物質の検出方法。
【請求項2】
検体に接触させた場合に、上記検体中に検出対象物質が存在すればたわみを生じるカンチレバーと、上記検体中の上記検出対象物質の有無によらないたわみを生じる補正用カンチレバーとを用いた、検出対象物質の検出方法であって、
上記カンチレバー及び上記補正用カンチレバーに検体を接触させ、
上記カンチレバーに上記検体を接触させた時点より後、上記検体に検出対象物質が含まれていた場合に上記カンチレバーがたわみきるために要する時間が経過する時点よりも前の、第1時点と第2時点とにおいて、上記カンチレバー及び上記補正用カンチレバーのそれぞれの変位量を測定し、
上記カンチレバーの変位量を上記補正用カンチレバーの変位量で補正し、
補正後の、上記第1時点で測定した上記カンチレバーの変位量と上記第2時点で測定した上記カンチレバーの変位量とを比較して検出対象物質を検出する
ことを特徴とする、カンチレバーを用いた検出対象物質の検出方法。
【請求項3】
検体に接触させた場合に上記検体中に検出対象物質が存在すればたわみを生じるカンチレバーを用いた、検出対象物質の検出方法であって、
上記カンチレバーに検体を接触させ、
上記カンチレバーに上記検体を接触させた時点より後、上記検体に検出対象物質が含まれていた場合に上記カンチレバーがたわみきるために要する時間が経過する時点よりも前の、第1時点から第2時点までの間において、上記カンチレバーの変位量を測定し、
上記カンチレバーの変位量を時間に対して直線近似し、
上記直線近似により得られた直線の傾きにより検出対象物質を検出する
ことを特徴とする、カンチレバーを用いた検出対象物質の検出方法。
【請求項4】
検体に接触させた場合に上記検体中に検出対象物質が存在すればたわみを生じるカンチレバーと、上記検体中の上記検出対象物質の有無によらないたわみを生じる補正用カンチレバーとを用いた、検出対象物質の検出方法であって、
上記カンチレバー及び上記補正用カンチレバーに検体を接触させ、
上記カンチレバーに上記検体を接触させた時点より後、上記検体に検出対象物質が含まれていた場合に上記カンチレバーがたわみきるために要する時間が経過する時点よりも前の、第1時点から第2時点までの間において、上記カンチレバー及び上記補正用カンチレバーのそれぞれの変位量を測定し、
上記カンチレバーの変位量を上記補正用カンチレバーの変位量で補正し、
補正後の、上記カンチレバーの変位量を時間に対して直線近似し、
上記直線近似により得られた直線の傾きにより検出対象物質を検出する
ことを特徴とする、カンチレバーを用いた検出対象物質の検出方法。
【請求項5】
検体に接触させた場合に上記検体中に検出対象物質が存在すればたわみを生じるカンチレバーを用いた、検出対象物質の検出方法であって、
上記カンチレバーに検体を接触させ、
上記カンチレバーに上記検体を接触させた時点より後、上記検体に検出対象物質が含まれていた場合に上記カンチレバーがたわみきるために要する時間が経過する時点よりも前の、第1時点から第2時点までの間において、上記カンチレバーの変位量を測定し、
上記カンチレバーの変位量を時間に対して多項式で近似し、
上記近似により得られた多項式の係数により検出対象物質を検出する
ことを特徴とする、カンチレバーを用いた検出対象物質の検出方法。
【請求項6】
検体に接触させた場合に上記検体中に検出対象物質が存在すればたわみを生じるカンチレバーと、上記検体中の上記検出対象物質の有無によらないたわみを生じる補正用カンチレバーとを用いた、検出対象物質の検出方法であって、
上記カンチレバー及び上記補正用カンチレバーに検体を接触させ、
上記カンチレバーに上記検体を接触させた時点より後、上記検体に検出対象物質が含まれていた場合に上記カンチレバーがたわみきるために要する時間が経過する時点よりも前の、第1時点から第2時点までの間において、上記カンチレバー及び上記補正用カンチレバーのそれぞれの変位量を測定し、
上記カンチレバーの変位量を上記補正用カンチレバーの変位量で補正し、
補正後の、上記カンチレバーの変位量を時間に対して多項式で近似し、
上記近似により得られた多項式の係数により検出対象物質を検出する
ことを特徴とする、カンチレバーを用いた検出対象物質の検出方法。
【請求項7】
検体に接触させた場合に上記検体中に検出対象物質が存在すればたわみを生じるカンチレバーを用いた、検出対象物質の検出方法であって、
上記カンチレバーに検体を接触させ、
上記カンチレバーに上記検体を接触させた時点より後、上記検体に検出対象物質が含まれていた場合に上記カンチレバーがたわみきるために要する時間が経過する時点よりも前の、第1時点から第2時点までの間において、上記カンチレバーの変位量を測定し、
上記カンチレバーの変位量を時間に対して指数関数で近似し、
上記近似により得られた指数関数の係数により検出対象物質を検出する
ことを特徴とする、カンチレバーを用いた検出対象物質の検出方法。
【請求項8】
検体に接触させた場合に上記検体中に検出対象物質が存在すればたわみを生じるカンチレバーと、上記検体中の上記検出対象物質の有無によらないたわみを生じる補正用カンチレバーとを用いた、検出対象物質の検出方法であって、
上記カンチレバー及び上記補正用カンチレバーに検体を接触させ、
上記カンチレバーに上記検体を接触させた時点より後、上記検体に検出対象物質が含まれていた場合に上記カンチレバーがたわみきるために要する時間が経過する時点よりも前の、第1時点から第2時点までの間において、上記カンチレバー及び上記補正用カンチレバーのそれぞれの変位量を測定し、
上記カンチレバーの変位量を上記補正用カンチレバーの変位量で補正し、
補正後の、上記カンチレバーの変位量を時間に対して指数関数で近似し、
上記近似により得られた指数関数の係数により検出対象物質を検出する
ことを特徴とする、カンチレバーを用いた検出対象物質の検出方法。
【請求項9】
上記カンチレバーの表面に、上記検出対象物質と相互作用しうる特定物質が固定化されている
ことを特徴とする、請求項1〜8のいずれか1項に記載のカンチレバーを用いた検出対象物質の検出方法。
【請求項10】
上記特定物質が糖鎖である
ことを特徴とする、請求項9記載のカンチレバーを用いた検出対象物質の検出方法。
【請求項11】
上記検出対象物質が、ウィルス及び細菌の少なくともいずれかである
ことを特徴とする、請求項1〜10のいずれか1項に記載のカンチレバーを用いた検出対象物質の検出方法。
【請求項12】
検体に接触させた場合に上記検体中に検出対象物質が存在すればたわみを生じるカンチレバーと、
該カンチレバーに上記検体を接触させる検体接触部と、
該カンチレバーのたわみの変位量を、該カンチレバーに上記検体を接触させた時点より後、上記検体に上記検出対象物質が含まれていた場合に該カンチレバーがたわみきるために要する時間が経過する時点よりも前の、第1時点と第2時点とにおいて、該カンチレバーの変位量を測定する変位量測定部と、
上記第1時点で測定した該カンチレバーの変位量と上記第2時点で測定した該カンチレバーの変位量とを比較する変位量比較部とを有する
ことを特徴とする、カンチレバーセンサシステム。
【請求項13】
検体に接触させた場合に上記検体中に検出対象物質が存在すればたわみを生じるカンチレバーと、
該カンチレバーに上記検体を接触させる検体接触部と、
該カンチレバーに上記検体を接触させた時点より後、上記検体に上記検出対象物質が含まれていた場合に該カンチレバーがたわみきるために要する時間が経過する時点よりも前の、第1時点から第2時点までの間において、該カンチレバーの変位量を測定する変位量測定部と、
該カンチレバーの変位量を時間に対して直線近似する変位量近似部と、
上記直線近似により得られた直線の傾きを出力する傾き出力部とを備える
ことを特徴とする、カンチレバーセンサシステム。
【請求項14】
検体に接触させた場合に上記検体中に検出対象物質が存在すればたわみを生じるカンチレバーと、
該カンチレバーに上記検体を接触させる検体接触部と、
該カンチレバーに上記検体を接触させた時点より後、上記検体に上記検出対象物質が含まれていた場合に該カンチレバーがたわみきるために要する時間が経過する時点よりも前の、第1時点から第2時点までの間において、該カンチレバーの変位量を測定する変位量測定部と、
該カンチレバーの変位量を時間に対して多項式で近似する変位量近似部と、
上記近似により得られた多項式の係数を出力する係数出力部とを備える
ことを特徴とする、カンチレバーセンサシステム。
【請求項15】
検体に接触させた場合に上記検体中に検出対象物質が存在すればたわみを生じるカンチレバーと、
該カンチレバーに上記検体を接触させる検体接触部と、
該カンチレバーに上記検体を接触させた時点より後、上記検体に上記検出対象物質が含まれていた場合に該カンチレバーがたわみきるために要する時間が経過する時点よりも前の、第1時点から第2時点までの間において、該カンチレバーの変位量を測定する変位量測定部と、
該カンチレバーの変位量を時間に対して指数関数で近似する変位量近似部と、
上記近似により得られた指数関数の係数を出力する係数出力部とを備える
ことを特徴とする、カンチレバーセンサシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2007−3234(P2007−3234A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−181006(P2005−181006)
【出願日】平成17年6月21日(2005.6.21)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】