説明

カードの製造方法

【課題】カード基材に絵柄や文字等を印刷した層と、オーバーコート層とを熱ラミネートして作製するカードの製造方法において、オーバーコート層の下に気泡が発生してオーバーコート層に亀裂が生じたり剥がれたり、または、絵柄印刷層に亀裂が入るという不具合を発生させない製造方法を提供する。
【解決手段】印刷層を設けたカード基材に、オーバーコート層を転写、ラミネートする工程を有するカードの製造方法であって、カード基材上に、ラミネート温度と同等以下の沸点を有する主溶剤と、ラミネート温度より高い沸点を有する副溶剤との混合溶剤を含むインキを用いて印刷層を設ける工程、カード基材の印刷層上にオーバーコート層を転写する工程、印刷層を設けたカード基材とオーバーコート層とをラミネートする工程、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カード基材に磁気テープやICモジュールを搭載して情報を保持するためのカードの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、クレジットカード、IDカード、キャッシュカード等に、非視覚情報を磁気テープやICモジュールに書き込んで搭載する形態のものが多く使用され、情報記録容量やセキュリティーのレベルに応じて、各種の仕様のカードが開発されている。
【0003】
一方、前記各種の仕様のカードにおいて、絵柄、文字等の視覚情報を欠陥無く正確に表現することも、使用する人が安心して便利に使用する上では欠かせない。これらの視覚情報を保持する層は印刷パターン形成体として、上記カードを製造する工程で、前記磁気テープやICモジュール等の非視覚情報を保持するキャリアと共に、ラミネート方式で積層化されたり、射出成形で一体化されて、カードが製造される(特許文献1参照)。
【0004】
前記カードの製造方法において、加熱を伴うラミネート工程を含む場合に、以下のような問題点がある。カードの構成は、一般に、合成樹脂材料のカード基材(コアシート)の一面、または両面に、磁気テープ等の非視覚情報保持キャリアを含むオーバーシート、絵柄印刷層を含むオーバープリント層、最表面保護のためのオーバーコート層が積層されて成る場合が多い。最終のオーバーコート層を熱ラミネートする温度がカード製造における積層工程中の最高温度である。その熱ラミネート工程の際に、オーバーコート層と絵柄印刷層を含むオーバープリント層との間で気泡が発生し、オーバーコート層が剥がれたり、オーバープリント層内の絵柄印刷層に亀裂が入ることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−6671号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記の問題点に鑑みて提案するものであり、本発明が解決しようとする課題は、カード基材に絵柄や文字等を印刷した層と、オーバーコート層とをラミネートして作製するカードの製造方法において、オーバーコート層の下に気泡が発生してオーバーコート層に亀裂が生じたり剥がれたり、または、絵柄印刷層に亀裂が入るという不具合を発生させない製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するための手段として、請求項1に記載の発明は、印刷層を設けたカード基材に、オーバーコート層を転写、ラミネートする工程を有するカードの製造方法であって、カード基材上に、ラミネート温度と同等以下の沸点を有する主溶剤と、ラミネート温度より高い沸点を有する副溶剤との混合溶剤を含むインキを用いて印刷層を設ける工程、カード基材の印刷層上にオーバーコート層を転写する工程、印刷層を設けたカード基材とオーバーコート層とをラミネートする工程、を有するカードの製造方法である。
【0008】
また、請求項2に記載の発明は、前記印刷層が2層からなり、カード基材に近い側の印刷層を形成するインキに、前記ラミネート温度より高い沸点を有する副溶剤を使用することを特徴とする請求項1に記載のカードの製造方法である。
【0009】
また、請求項3に記載の発明は、前記ラミネート温度より高い沸点を有する副溶剤がγ−ブチロラクトンとイソホロンとを含む混合物であることを特徴とする請求項1または2に記載のカードの製造方法である。
【0010】
また、請求項4に記載の発明は、前記ラミネート温度より高い沸点を有する副溶剤がγ−ブチロラクトンであることを特徴とする請求項1または2に記載のカードの製造方法である。
【0011】
また、請求項5に記載の発明は、前記γ−ブチロラクトンのインキ中の含有率が10〜15wt.%であることを特徴とする請求項4に記載のカードの製造方法である。
【発明の効果】
【0012】
請求項1によれば、印刷層に用いるインキの溶剤に沸点の異なる溶剤を混合させ、オーバーコート層とのラミネート工程のラミネート温度での溶剤の揮発量を調整できるので、カードの製造方法において、オーバーコート層の下に気泡が発生してオーバーコート層に亀裂が生じたり剥がれたり、または、絵柄印刷層に亀裂が入るという不具合を発生させない製造方法を提供することができる。
【0013】
また、請求項2によれば、印刷層が2層の場合に、特にカード基材側の印刷層の気泡発生を防ぐことによって、加熱を伴うラミネート工程での不具合の発生を避けることができる。
【0014】
また、請求項3によれば、前記ラミネート温度より高い沸点を有する副溶剤を具体的に限定することによって、前記ラミネート工程における気泡の発生を避けることができる例を提供する。
【0015】
また、請求項4によれば、前記ラミネート温度より高い沸点を有する副溶剤を具体的にさらに限定することによって、前記ラミネート工程における絵柄印刷層に亀裂が入る不具合を無くする例を提供する。
【0016】
また、請求項5によれば、前記ラミネート温度より高い沸点を有する副溶剤を具体的に含有率も含めてさらに限定することによって、前記ラミネート工程における絵柄印刷層に亀裂が入る不具合をさらに確実に無くする例を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明により製造されるカードの一例を説明するための模式断面図
【図2】従来のカードに発生する欠陥の一例を説明するための模式断面図
【図3】本発明の工程の一例を説明するための工程図
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施形態を、図面に従って、以下に説明する。
【0019】
図1は、本発明により製造されるカードの一例を説明するための模式断面図である。基材1にオーバーシート2を介して磁気テープ3を埋め込んだ磁気カードの積層基材上に絵柄や文字の印刷を含むスクリーン印刷層4およびオフセット印刷層5を重ねた、いわゆるオーバープリント(隠蔽印刷)の形態の例であり、最上層にはオーバーコート層6を設けてカード表面を保護する。
【0020】
前記オーバーコート層6を印刷層4および5の上に設ける方法として、加熱を伴うラミ
ネート方式を利用することが一般的であるが、図2に示すような欠陥が発生することが問題であった。図2は、従来のカードに発生する欠陥の一例を説明するための模式断面図である。図1に示すものと同様の構造を有するカードを従来の方法で製造すると、ラミネート工程で、図2に示すように、絵柄印刷層として形成したスクリーン印刷層4からその上層に連なる亀裂7を生じることがある。
【0021】
前記スクリーン印刷層4からの亀裂7以外にも、ラミネート工程で、気泡(図示せず)が発生してオフセット印刷層5とオーバーコート層6との層間に溜まり、オーバーコート層6のみが亀裂や剥離を生じることもある。
【0022】
一方、本発明のカードの製造方法において、オーバーコート層の下に気泡が発生してオーバーコート層に亀裂が生じたり剥がれたり、または、絵柄印刷層として形成したスクリーン印刷層に亀裂が入るという不具合を発生させない製造方法を、図3を用いて工程順に説明する。図3は、本発明の工程の一例を説明するための工程図である。
【0023】
図3において、予め、磁気テープ(J2)と、それを直接保持するためのオーバーシート(J1)と、を準備し、両者を仮貼りしておく(S1)。別にカードの基材(J3)を準備しておき、前述の磁気テープを仮貼りしたオーバーシートを該基材に仮貼りする(S2)。この状態で、軽度の熱プレス等による積層処理を行い、磁気テープのオーバーシートへの埋め込みを充分なものにすると共に、印刷前の下地の状態を整える(S3)。次に、スクリーン印刷およびオフセット印刷を重ねて、印刷層を形成する(S4)。その後、予め準備したオーバーコート転写箔(J4)を印刷層の上に転写してラミネート処理を加熱しながら行う(S5)。最後に、カードの外形加工を行って(S6)、カードが完成する。
【0024】
上述の説明をさらに補足すると、カードの基材1(J3)とオーバーシート2(J1)としては、塩ビや耐熱塩ビを用いる。また、本例では磁気テープを埋め込む形態を説明したが、ICモジュールや他の非視覚情報を保持するキャリアを設けることもできる。磁気テープのオーバーシートへの仮貼り(S1)とオーバーシートの基材への仮貼り(S2)は、熱転写において行う。その後の積層処理(S3)は、熱ラミネートにより行う。
【0025】
印刷は、2層の場合で説明すると、先ず、スクリーン印刷で絵柄の下地印刷を行い、乾燥後、オフセット印刷で詳細な絵柄を印刷する(S4)。印刷後の乾燥処理(図3では省略)も含めて、ここまでの各工程の処理温度は、例えば、基材に貼り合わせるオーバーシートとして塩ビシートを使う場合には、塩ビのガラス転移点である60〜70℃を超えない。但し、後述のオーバーコート転写箔の積層・ラミネート処理(S5)では、基材とオーバーシート、転写箔の接着を熱融着により行う場合、より高温の処理も可能になる。
【0026】
オーバーコート転写箔(J4)は、転写保護層付きフィルムであって、オーバーコート層となるべき樹脂層を剥離性のよいフィルム上に形成したタイプのものを準備しておき、オーバーコート層6を110〜165℃、10秒程度の加熱によるラミネート処理を行うことでオフセット印刷層5の上に転写する(S5)。
【0027】
印刷に用いるインキは、特に、後工程のオーバーコート転写箔の積層・ラミネート処理(S5)との関連において、下層のスクリーン印刷による絵柄印刷に用いるインキ組成が不具合発生を防止する上で重要であるという知見を得たので、本発明では、以下のように設定する。
【0028】
前記スクリーン印刷用インキは、絵柄のための着色顔料、樹脂、溶剤からなる。該樹脂として、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、アクリル、または、それらの共重合体を用い
る。また、該溶剤として、芳香族系炭化水素、ケトン系化合物、エステル系化合物、または、それらの混合物を用いる。混合物とする場合の例として、インキ中の含有率を重量比で、それぞれ、芳香族系炭化水素10〜15%、ケトン系化合物25〜35%、エステル系化合物10〜15%、を標準とする。
【0029】
前記溶剤の混合物の例として、各溶剤の沸点を基準に分類し、後述のラミネート温度の上限値である165℃を境にして、ラミネート温度と同等以下の沸点を有する主溶剤と、ラミネート温度より高い沸点を有する副溶剤の混合物とすることができる。本実施形態において、主溶剤として、沸点164℃のナフサ(C9を中心とした芳香族系炭化水素)と沸点156℃のシクロヘキサノン(ケトン系化合物)を用い、副溶剤として、沸点215℃のイソホロン(環状ケトン)と沸点198℃のγ−ブチロラクトン(エステル系化合物)を用いると、主溶剤のみを溶剤として用いた場合とは異なり、前記ラミネート処理の加熱条件で、印刷インキの残留溶剤による気化・沸騰が一定程度抑制されるので、オーバーコート層の下に発生する気泡が減り、オーバーコート層に亀裂が生じたり剥がれたりする現象を防ぐことができる。
【0030】
さらに、副溶剤として用いたイソホロンを全てγ−ブチロラクトンに置き換えることで、絵柄割れのない外観品質に優れたカードを製造することができる。イソホロンより分子量が小さく、沸点も低いγ−ブチロラクトンの濃度が増加し、飽和蒸気圧も上昇するため、主溶剤のナフサとシクロヘキサノンの気化・沸騰を抑制でき、ラミネート処理における欠陥防止効果が高くなったと考えられる。
【0031】
なお、本発明によれば、印刷後の乾燥で表面しか乾燥できないので、溶剤がオーバーシート2や基材1に一時残留し、また、高沸点溶剤は、カード製造後にも内部に残留し続けるが、製造後のカードの信頼性保証温度110℃で、全く問題ない。
【0032】
前記主溶剤および副溶剤の使用例を、下記の表1に、その物性値と前記2種類の使用例の含有率とともに整理して記載する。溶剤希釈前の対象インキ例は、東洋インキ製造(株)製のSS−8シリーズ、または、帝国インキ製造(株)製のCADシリーズである。
【0033】
【表1】

【0034】
なお、上記説明は、磁気テープやICモジュール等の非視覚情報を保持するキャリアを有するカードについて述べたが、これらの非視覚情報を保持するキャリアを有しないカードの場合であっても、本発明の視覚情報を欠陥無く正確に表現するカードの製造方法は有効であって、印刷層とオーバーコート層とのラミネート処理を行って高品質のカードを提供するものである。
【符号の説明】
【0035】
1・・・基材
2・・・オーバーシート
3・・・磁気テープ
4・・・スクリーン印刷層
5・・・オフセット印刷層
6・・・オーバーコート層
7・・・亀裂
J1・・・オーバーシート
J2・・・磁気テープ
J3・・・基材
J4・・・オーバーコート転写箔
S1・・・磁気テープ仮貼り
S2・・・オーバーシート仮貼り
S3・・・積層処理(印刷前処理)
S4・・・印刷
S5・・・積層処理(ラミネート処理)
S6・・・カード外形加工

【特許請求の範囲】
【請求項1】
印刷層を設けたカード基材に、オーバーコート層を転写、ラミネートする工程を有するカードの製造方法であって、カード基材上に、ラミネート温度と同等以下の沸点を有する主溶剤と、ラミネート温度より高い沸点を有する副溶剤との混合溶剤を含むインキを用いて印刷層を設ける工程、カード基材の印刷層上にオーバーコート層を転写する工程、印刷層を設けたカード基材とオーバーコート層とをラミネートする工程、を有するカードの製造方法。
【請求項2】
前記印刷層が2層からなり、カード基材に近い側の印刷層を形成するインキに、前記ラミネート温度より高い沸点を有する副溶剤を使用することを特徴とする請求項1に記載のカードの製造方法。
【請求項3】
前記ラミネート温度より高い沸点を有する副溶剤がγ−ブチロラクトンとイソホロンとを含む混合物であることを特徴とする請求項1または2に記載のカードの製造方法。
【請求項4】
前記ラミネート温度より高い沸点を有する副溶剤がγ−ブチロラクトンであることを特徴とする請求項1または2に記載のカードの製造方法。
【請求項5】
前記γ−ブチロラクトンのインキ中の含有率が10〜15wt.%であることを特徴とする請求項4に記載のカードの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−201808(P2010−201808A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−50419(P2009−50419)
【出願日】平成21年3月4日(2009.3.4)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】