説明

カード用シート及びカード

【課題】耐熱性、耐候性、剛性、打ち抜き加工性、エンボス適性の全てに優れ、植物原料樹脂を用いたカード用シート及びカードを提供する。
【解決手段】下記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含有し、ガラス転移温度が130℃未満であるポリカーボネート樹脂を主成分とする樹脂組成物からなる層を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カード用シート、及びそれを用いて作製されるカードに関し、より詳細には植物由来原料を主成分とする樹脂(「植物原料樹脂」とも言う)を主原料とする環境対応型のカード用シート及びそれを用いて作製されるカードに関する。
【背景技術】
【0002】
磁気ストライプカードや、非接触ICカード等のプラスチックカードの素材としては、従来、ポリ塩化ビニル系樹脂(以下、「PVC」という。)が使用されている。磁気ストライプカードは、一般に、印刷を施した白色のコアシートに、磁気テープを仮貼りした透明のオーバーシートを重ねて、熱プレスでシート間を熱融着(以下、「ラミネート」という。)した後、打ち抜き刃でカード形状に切断し、最後にエンボッサーで文字刻印(以下、「エンボス」という。)を施して製造される。また、非接触式ICカードなどでは、ICチップとアンテナを備えたインレットシートを2枚のコアシート間に挟んで積層し、各コアシートの表裏両面にオーバーシートを積層して形成することも行われている。PVCシートはカレンダー法で大量に生産でき、印刷適性、ラミネート適性、エンボス適性に優れた、カード用に好適な素材である。
【0003】
最近、世の中のエコロジーブームにのって、PVC以外の素材からなるカード用シートのニーズが高まっており、例えば、ポリスチレン系およびポリエステル系の材料が提案されている。しかし、非PVC系カード用素材である各種の耐衝撃性スチレンやアクリロニトリル/ブタジエン/スチレン共重合体は、カード形状に打ち抜いた時の切断面のバリ(以下「抜きバリ」という)が大きく、さらに、カードにエンボス刻印を行った後、カードの反り(以下「エンボスカール」という)も大きくなるという問題があった。
【0004】
また、非PVC系カード用素材であるポリエステル系の材料としては、例えば、テレフタル酸とエチレングリコ−ルとシクロヘキサンジメタノ−ルの脱水縮合体である非結晶性のポリエステル樹脂からなるシートが提案されている。この材料は、PVCシートに近いカードへの加工適性を持ち、PVCシートと同じ設備を用いてカード化できるため、PVCに替わるシート素材の本命と言われているが、PVCと同じ条件でエンボスすると、エンボスカールが大きくなるという問題があった。エンボスカールが大きいとカードの見栄えが悪いばかりでなく、リーダーライターに挿入しにくくなったりすることがあるため、PVCと同じ条件でエンボスしてもエンボスカールが小さくなるようなシートが望まれていた。
【0005】
そこで特許文献1には、実質的に非結晶性のポリエステル系樹脂を主成分とし、ポリカーボネート樹脂またはポリアリレート樹脂、あるいはこれらの混合物を添加した組成物からなるカード用オーバーシートが開示されている。
【0006】
また、特許文献2には、ポリエチレンテレフタレートの構成成分であるエチレングリコールの一部を1,4−シクロヘキサンジメタノールで置換してなる実質的に非結晶性のポリエステル系樹脂を主成分とし、板状無機フィラーとポリブチレンテレフタレート又はその共重合体を含有するカード用シートが開示されている。
【0007】
一方、各種カードに用いられているプラスチックはその大半が使用後に焼却廃棄されていた。近年、京都議定書の議決を契機として二酸化炭素の排出量削減や循環型材料導入の機運が高まり、石油由来原料から作られた製品の焼却処理量を軽減したり、枯渇性資源である石油の消費量を軽減したりすることは、今後のあらゆる製品開発の重要な課題となっ
ている。情報記録カードの製造分野においても、カードを製造するための原料を、石油由来の樹脂から再生可能資源物質に転換することが重要な開発テーマの一つとなっている。
【0008】
現在、このような課題の解決策として最も注目されているのが、植物から得られた澱粉を発酵させて得た乳酸を原料とする乳酸系重合体などの植物原料樹脂の利用である。植物原料樹脂の利用量が増えれば、二酸化炭素排出量の削減に貢献できるだけでなく、枯渇性資源の利用量を軽減でき、資源のリサイクル活用にも大きく貢献することができる。乳酸系重合体は、透明性や剛性等に優れており、しかも既に発酵・合成の技術が確立しているため工業的に量産可能であるから、ポリエチレンテレフタレートやポリ塩化ビニルの代替原料として注目されており、情報記録カードの製造分野においても、このような乳酸系重合体を原料として用いる旨の提案が為されている。
【0009】
例えば特許文献3には、ポリ乳酸およびガラス転移温度が0℃以下である生分解性脂肪族ポリエステルからなる組成物を主成分とするコア層とオーバー層を積層してなる生分解性カードが開示されている。
【0010】
また、特許文献4には、乳酸系重合体と非晶性芳香族ポリエステル系樹脂と熱可塑性エラストマーとを含むカード用樹脂組成物およびこれを用いたカード用シートが開示されている。
【0011】
一方、車載用ETCカードや地上デジタル放送受信用B−CASカードなど、特段の耐熱性が要求される用途のカードには、耐熱性の高い熱可塑性樹脂からなるシートを少なくとも一層用いる手法が取られている。
【0012】
例えば特許文献5には、実質的に非結晶性の芳香族ポリエステル系樹脂組成物からなる層と、ポリカーボネート樹脂を組成に用いた耐熱性の高い熱可塑性樹脂からなる層を積層してなるカード用シートおよびこれを用いたカードが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2002−36765号公報
【特許文献2】特開2002−249652号公報
【特許文献3】特開2000−141955号公報
【特許文献4】特開2009−235172号公報
【特許文献5】特開2009−40052号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかし、特許文献1や特許文献2に記載のカード用シートを用いてカードを作製する場合、剛性が上がりエンボスカールは改善するものの、耐熱性や耐候性が不足しており、改良の余地が残されていた。さらに、特許文献1や特許文献2に記載のカード用シートには、植物原料プラスチックは全く使用されていない。
【0015】
また、特許文献3や特許文献4に記載の様に乳酸系重合体を主原料としてカードを製造する提案が多数為されているが、特にオーバーシートに関しては、透明性のほか、印刷性、接着性、融着性、エンボス文字打刻に耐えられる耐久性など、乳酸系重合体を主成分として用いたのでは達成することが難しい特性が要求される。このため、現段階で工業製品化を検討すると、コアシートは乳酸系重合体を主原料として形成する一方、オーバーシートは、一般的にオーバーシート形成用として使用されている樹脂、例えば芳香族ポリエステル系樹脂を用いて形成せざるを得ない。
【0016】
さらに特段の耐熱性が要求されるカード用の、耐熱性を付与するための手段としては、現段階においては特許文献5に記載の様にポリカーボネート樹脂等の耐熱性のある樹脂を組成に用いることが専ら行われている。
このように従来の技術においては、カード用途に植物原料樹脂を用いる比率を高めることが十分にできていなかった。
【0017】
そこで本発明の目的は、耐熱性、耐候性、剛性、打ち抜き加工性、エンボス適性の全てに優れ、植物原料樹脂を用いたカード用シート及びカードを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは鋭意検討を続けた結果、特定のジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含有し、ガラス転移温度が130℃未満であるポリカーボネート樹脂を主成分とする樹脂組成物を用いたカード用シート、及びそれを用いて作製されたカードが前記の課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明は以下の通りである。
【0019】
[1]下記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位(a)を含有し、ガラス転移温度が130℃未満であるポリカーボネート樹脂(A)を主成分とする樹脂組成物(X)からなる層を有するカード用シート。
【0020】
【化1】

【0021】
[2]前記ポリカーボネート樹脂(A)がさらに、シクロヘキサンジメタノールに由来する構造単位(b)を含有する、[1]に記載のカード用シート。
【0022】
[3]前記ポリカーボネート樹脂(A)が、前記構造単位(b)を全ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位中45モル%以上、65モル%以下の比率で含有する、[2]に記載のカード用シート。
【0023】
[4]前記ポリカーボネート樹脂(A)が、前記構造単位(a)を全ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位中80モル%以上、99モル%以下の比率で含有し、ガラス転移温度が90℃以上、130℃未満である、[1]に記載のカード用シート。
【0024】
[5]前記ポリカーボネート樹脂(A)が、質量平均分子量が1000以下のポリアルキレングリコールに由来する構造単位(c)を、全ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位中1モル%以上、20モル%以下の比率で含有する、[4]に記載のカード用シート。
【0025】
[6]前記樹脂組成物(X)がさらに紫外線吸収剤を含有する、[1]から[5]のいずれか1項に記載のカード用シート。
【0026】
[7]前記樹脂組成物(X)がさらに無機充填剤を含有する、[1]から[6]のいずれか1項に記載のカード用シート。
【0027】
[8]カード用オーバーシートであって、少なくとも一方の表面に10点平均粗さが3μ
m以上、30μm以下であるマット加工が施されている、[1]から[7]のいずれか1項に記載のカード用シート。
【0028】
[9]カード用コアシートであって、前記樹脂組成物(X)が着色剤を含有する、[1]から[7]のいずれか1項に記載のカード用シート。
【0029】
[10]曲げ弾性率が2200MPa以上、3000MPa以下である、[1]から[9]のいずれか1項に記載のカード用シート。
【0030】
[11][1]から[10]のいずれか1項に記載のカード用シートを用いて作製されるカード。
【0031】
[12]さらに磁気テープを用いて作製される磁気ストライプカードである、[11]に記載のカード。
【0032】
[13]さらにICチップを用いて作製されるICカードである、[11]に記載のカード。
【0033】
[14]前記カードに23℃にてエンボス加工を施した際に生じるエンボスカールが2.5mm以下である、[11]から[13]のいずれか1項に記載のカード。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、耐熱性、耐候性、剛性、打ち抜き加工性、エンボス適性の全てに優れ、植物原料樹脂を用いたカード用シート及びカードを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明の実施形態の例について説明する。但し、本発明の範囲が以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0036】
なお、本発明において「主成分とする」とは、当該組成物における対象成分の比率が50質量%以上、好ましくは75質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上(100質量%を含む)であることをいう。
【0037】
<ポリカーボネート樹脂(A)>
本発明に用いるポリカーボネート樹脂(A)としては、下記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位(a)を含み、ガラス転移温度が130℃未満であるポリカーボネート樹脂が用いられる。
【0038】
【化2】

【0039】
前記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物は生物起源物質を原料として糖質から製造可能なエーテルジオールであって、具体的には立体異性体の関係にあるイソソルビド、イソマンニド、イソイデット等が挙げられる。これらは単独で用いても良く、2種以上を組み合わせて用いても良い。なかでも、イソソルビドは澱粉から得られるD−グルコースを
水添してから脱水することにより安価に製造可能であって、資源として豊富に入手することが可能である。これら事情により、イソソルビドを主たる構成成分とすることが最適である。
【0040】
本発明のカード用シートの第一の態様として、前記ポリカーボネート樹脂(A)の耐衝撃性を向上するために、前記構造単位(a)以外の構造単位として、シクロヘキサンジメタノールに由来する構造単位(b)を含むことが好ましい。この時、前記ポリカーボネート樹脂(A)の全ヒドロキシ化合物に由来する構造単位中に占める構造単位(b)の含有比率が45モル%以上、65モル%以下であることが好ましい。構造単位(b)の比率の下限としては、より好ましくは48モル%以上であり、さらに好ましくは50モル%以上である。一方、構造単位(b)の比率の上限としては、より好ましくは62モル%以下であり、さらに好ましくは60モル%以下である。構造単位(b)の含有比率をかかる範囲内とすることで、カード用シートの耐熱性を損なうことなく、実用上十分な耐衝撃性や、カードを作製する際の優れた層間接着性を付与することができる。
尚、シクロヘキサンジメタノールの中でも、工業的に入手が容易である、1,4−シクロヘキサンジメタノールが好ましい。
【0041】
前記ポリカーボネート樹脂(A)のジヒドロキシ化合物に由来する構造単位は、前記構造単位(a)と、前記構造単位(b)とからなることが好ましいが、本発明の効果を損なわない範囲で、その他のジヒドロキシ化合物に由来する構造単位が含まれていてもよい。
【0042】
前記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物と前記シクロヘキサンジメタノール以外の、その他のジヒドロキシ化合物としては、例えば、国際公開第2004/111106号に記載の脂肪族ジヒドロキシ化合物や、国際公開第2007/148604号に記載の脂環式ジヒドロキシ化合物を挙げることができる。
【0043】
脂肪族ジヒドロキシ化合物については、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオールから選択するのが好ましい。これらを共重合することで、前記ポリカーボネート樹脂(A)に柔軟さや耐衝撃性を付与でき、また耐熱温度を容易に変化させられることから別種のシートと熱融着させたり、エンボス加工したりするときの、加工条件を調節しやすい利点がある。
【0044】
脂環式ジヒドロキシ化合物については、5員環構造又は6員環構造を含むものであることが好ましい。6員環構造は共有結合によって椅子形又は舟形に固定されていてもよい。脂環式ジヒドロキシ化合物が5員環構造又は6員環構造であることにより、得られるポリカーボネートに柔軟さや耐衝撃性を付与しながら、過度に耐熱温度を下げるおそれがないため、主に耐熱性を要求される商品設計をする際に好適である。脂環式ジヒドロキシ化合物に含まれる炭素原子数は通常70以下であり、好ましくは50以下、さらに好ましくは30以下である。
【0045】
前記5員環構造又は6員環構造を含む脂環式ジヒドロキシ化合物としては、上述の国際公開第2007/148604号に記載のものを挙げることができ、中でも、トリシクロデカンジメタノール、アダマンタンジオール及びペンタシクロペンタデカンジメタノールを好適に例示することができ、中でもトリシクロデカンジメタノールが経済性や耐熱性などから最も好ましい。又、これらは1種又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0046】
また、例えばビスフェノール−A等に代表される芳香族ジヒドロキシ化合物を一部共重合することを妨げない。一般にこれらの成分を含むと耐熱性や剛性を効率良く上げることができる。
【0047】
一方、本発明のカード用シートの第二の態様として、前記ポリカーボネート樹脂(A)の全ヒドロキシ化合物に由来する構造単位中において、前記構造単位(a)の含有比率が80モル%以上であることが好ましく、85モル%以上がより好ましく、90モル%以上が特に好ましい。当該含有比率が係る範囲にあることによって、植物原料の比率がより高まる上、耐熱性に優れ、その他の各種要求特性も満足することから、本発明のカード用シートに好適に利用することが出来る。
また、後述する共重合成分により、前記ポリカーボネート樹脂(A)のガラス転移温度を、本発明のカードを作製するのに好ましい範囲とする必要があることから、前記構造単位(a)の含有比率は99モル%以下であることが好ましく、98モル%以下がより好ましく、97モル%以下が特に好ましい。
【0048】
前記ポリカーボネート樹脂(A)はさらに、全ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位中、質量平均分子量が1000以下のポリアルキレングリコールに由来する構造単位(c)を1モル%以上、20モル%以下の比率で含んでなることが好ましい。
【0049】
前記ポリアルキレングリコールの具体例としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリトリメチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリヘキサメチレングリコール、ポリブチレングリコール、ポリペンテングリコール、ポリヘキセングリコール、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドのブロック又はランダム共重合体などが挙げられる。このうち、ポリエチレングリコールが特に好ましく用いられる。
【0050】
前記ポリアルキレングリコールの質量平均分子量は、前述の通り1000以下であることが好ましく、800以下であることがより好ましく、600以下であることが特に好ましい。質量平均分子量が係る範囲にあることによって、前記ポリカーボネート樹脂(A)中の前記ポリアルキレングリコールが占める質量比率が過剰に大きくならず、耐熱性や剛性等のカード用シートに必要な物性を損なうことがない。
【0051】
また、前記ポリカーボネート樹脂(A)の全ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位中における前記構造単位(c)の含有比率の下限は1モル%以上であることが好ましく、3モル%以上であることがより好ましく、5モル%以上であることが特に好ましい。
また、前記構造単位(c)の含有比率の上限は20モル%以下であることが好ましく、15モル%以下であることがより好ましく、10モル%以下であることが特に好ましい。係る含有比率であることによって、本発明のカード用シートに好適な、耐熱性と耐衝撃性を両立することができる。
【0052】
前記ポリカーボネート樹脂(A)のジヒドロキシ化合物に由来する構造単位は、前記構造単位(a)と、前記構造単位(c)とからなることが好ましいが、本発明の目的を損なわない範囲で、その他のジヒドロキシ化合物に由来する構造単位が含まれていてもよい。
【0053】
前記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物と前記ポリアルキレングリコール以外の、その他のジヒドロキシ化合物としては、例えば、国際公開第2004/111106号に記載の脂肪族ジヒドロキシ化合物や、国際公開第2007/148604号に記載の脂環式ジヒドロキシ化合物を挙げることができる。
【0054】
脂肪族ジヒドロキシ化合物については、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオールから選択するのが好ましい。これらを共重合することで、前記ポリカーボネート樹脂(A)に柔軟さや耐衝撃性を付与でき、また耐熱温度を容易に変化させられることから別種のシ
ートと熱融着させたり、エンボス加工したりするときの、加工条件を調節しやすい利点がある。
【0055】
脂環式ジヒドロキシ化合物については、5員環構造又は6員環構造を含むものであることが好ましい。6員環構造は共有結合によって椅子形又は舟形に固定されていてもよい。脂環式ジヒドロキシ化合物が5員環構造又は6員環構造であることにより、得られるポリカーボネートに柔軟さや耐衝撃性を付与しながら、過度に耐熱温度を下げるおそれがないため、主に耐熱性を要求される商品設計をする際に好適である。脂環式ジヒドロキシ化合物に含まれる炭素原子数は通常70以下であり、好ましくは50以下、さらに好ましくは30以下である。
【0056】
前記5員環構造又は6員環構造を含む脂環式ジヒドロキシ化合物としては、上述の国際公開第2007/148604号に記載のものを挙げることができ、中でも、シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノール、アダマンタンジオール及びペンタシクロペンタデカンジメタノールを好適に例示することができ、中でもシクロヘキサンジメタノール又はトリシクロデカンジメタノールが経済性や耐熱性などから最も好ましく、これらは1種又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。シクロヘキサンジメタノールについては、工業的に入手が容易である1,4−シクロヘキサンジメタノールが特に好ましい。
【0057】
また、例えばビスフェノール−A等に代表される芳香族ジヒドロキシ化合物を一部共重合することを妨げない。一般にこれらの成分を含むと耐熱性や剛性を効率良く上げることができる。
【0058】
前記ポリカーボネート樹脂(A)の分子量の指標である還元粘度は、前記第一の態様と前記第二の態様のいずれにおいても、通常、0.20dl/g以上1.0dl/g以下で、好ましくは0.30dl/g以上0.80dl/g以下の範囲内である。なお、還元粘度は、溶媒として塩化メチレンを用い、ポリカーボネート濃度を0.60g/dlに精密に調整し、温度20.0℃±0.1℃で測定される。
【0059】
前記ポリカーボネート樹脂(A)の還元粘度が過度に低いと、カード用シートに成形した際の機械的強度が低下する傾向がある。また、前記ポリカーボネート樹脂(A)の還元粘度が過度に高いと、成形する際の流動性が低下し、生産性が低下するだけでなく、流れムラ等の外観不良を生じやすい易い傾向がある。
【0060】
前記ポリカーボネート樹脂(A)のガラス転移温度は、歪み0.1%、周波数10Hz、昇温速度3℃/分の条件下での動的粘弾性の温度分散測定(JIS−K7198A法(1991年)の動的粘弾性測定)により測定され、前記第一の態様と前記第二の態様のいずれにおいても、130℃未満であることが必須であり、129℃以下であることがより好ましく、128℃以下であることが特に好ましい。また、80℃以上であることが好ましく、90℃以上であることがより好ましく、95℃以上であることがさらに好ましく、100℃以上であることが特に好ましい。尚、通常は単一のガラス転移温度を有する。
【0061】
ガラス転移温度が130℃以上であると、カードを作製する際のオーバーシートとコアシートの層間接着性が不足するほか、カード用シートやカードが硬く脆くなり、エンボス加工時や曲げ変形時に容易に割れてしまうため好ましくない。
一方、ガラス転移温度を80℃以上とすることによって、カード用シートは耐熱性に優れ、搬送時、保管時、使用時などで想定される熱環境に十分耐えることができる。また、熱融着時にカード用シートが潰れたり流れたりすることもなく、製品としてのカードも剛性に優れたものとなる。
【0062】
ガラス転移温度を係る範囲とするためには、前記ポリカーボネート樹脂(A)における前記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位(a)の含有比率や、シクロヘキサンジメタノールに由来する構造単位(b)の含有比率、ポリアルキレングリコールに由来する構造単位(c)の含有比率、さらにその他のジヒドロキシ化合物に由来する構造単位の含有比率・種類を、本明細書に記載の範囲において、本発明の効果を損なわない程度に適宜調整する方法などを採用することが可能である。
【0063】
前記ポリカーボネート樹脂(A)は、一般に用いられる重合方法で製造することができ、ホスゲン法、炭酸ジエステルと反応させるエステル交換法のいずれでもよい。なかでも、重合触媒の存在下に、前記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物と、シクロヘキサンジメタノール又は前記ポリアルキレングリコールと、必要に応じて用いられるその他のジヒドロキシ化合物と、炭酸ジエステルとを反応させるエステル交換法が好ましい。エステル交換法は、前記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物と、シクロヘキサンジメタノールと又は前記ポリアルキレングリコールと、必要に応じて用いられるその他のジヒドロキシ化合物と、炭酸ジエステルとを塩基性触媒、さらにはこの塩基性触媒を中和する酸性物質を添加し、エステル交換反応を行う製造方法である。
【0064】
炭酸ジエステルの代表例としては、ジフェニルカーボネート、ジトリールカーボネート、ビス(クロロフェニル)カーボネート、m−クレジルカーボネート、ジナフチルカーネート、ビス(ビフェニル)カーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジブチルカーボネート、ジシクロヘキシルカーボネートなどが挙げられる。これらのうち、特にジフェニルカーボネートが好ましく用いられる。
【0065】
<樹脂組成物(X)>
本発明における樹脂組成物(X)は、前記ポリカーボネート樹脂(A)を主成分とする樹脂組成物である。
【0066】
<ポリカーボネート樹脂以外の樹脂>
成形加工性や諸物性のさらなる向上・調整を目的として、本発明のカード用シートを構成する樹脂組成物(X)に対して、前記ポリカーボネート樹脂(A)以外の樹脂や、樹脂以外の添加剤を配合することも出来る。例えば、ポリエステル系樹脂、ポリエーテル、ポリアミド、ポリオレフィン、ポリメチルメタクリレート等の樹脂やコア−シェル型、グラフト型又は線状のランダム及びブロック共重合体のようなゴム状改質剤などが挙げられる。前記ポリカーボネート樹脂(A)以外の樹脂、あるいは、添加剤の配合量としては、本発明の効果を損なわない範囲で、本発明のカード用シートを構成する樹脂組成物(X)に対して、1質量%以上、30質量%以下の割合で配合することが好ましく、3質量%以上、20質量%以下の割合で配合することがより好ましく、5質量%以上、10質量%以下の割合で配合することがさらに好ましい。
【0067】
<熱安定剤>
本発明のカード用シートを構成する樹脂組成物(X)には、成形時における分子量の低下や色相の悪化を防止するために熱安定剤を配合することができる。かかる熱安定剤としては、亜リン酸、リン酸、亜ホスホン酸、ホスホン酸およびこれらのエステル等が挙げられ、具体的には、トリフェニルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、トリデシルホスファイト、トリオクチルホスファイト、トリオクタデシルホスファイト、ジデシルモノフェニルホスファイト、ジオクチルモノフェニルホスファイト、ジイソプロピルモノフェニルホスファイト、モノブチルジフェニルホスファイト、モノデシルジフェニルホスファイト、モノオクチルジフェニルホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチル
フェニル) ペンタエリスリトールジホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル) オクチルホスファイト、ビス(ノニルフェニル) ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、トリブチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリメチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、ジフェニルモノオルソキセニルホスフェート、ジブチルホスフェート、ジオクチルホスフェート、ジイソプロピルホスフェート、4,4’−ビフェニレンジホスフィン酸テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)、ベンゼンホスホン酸ジメチル、ベンゼンホスホン酸ジエチル、ベンゼンホスホン酸ジプロピル等が挙げられる。なかでも、トリスノニルフェニルホスファイト、トリメチルホスフェート、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、およびベンゼンホスホン酸ジメチルが好ましく使用される。
【0068】
これらの熱安定剤は、1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。前記熱安定剤の配合量は、本発明のカード用シートを構成する樹脂組成物(X)に対して、0.0001質量%以上、1質量%以下の割合で配合することが好ましく、0.0005質量%以上、0.5質量%以下の割合で配合することがより好ましく、0.001質量%以上、0.2質量%以下の割合で配合することがさらに好ましい。かかる範囲で熱安定剤を配合することにより、添加剤のブリード等を生じることなくカード用シートを構成する樹脂組成物(X)の分子量低下や変色を防止することができる。
【0069】
<酸化防止剤>
また、本発明のカード用シートを構成する樹脂組成物(X)には、酸化防止の目的で通常知られた酸化防止剤を配合することができる。かかる酸化防止剤としては、例えばペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)、グリセロール−3−ステアリルチオプロピオネート、トリエチレングリコール−ビス[3−(3−tert−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,6−ヘキサンジオール−ビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ペンタエリスリトール−テトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、N,N−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマイド)、3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−ベンジルホスホネート−ジエチルエステル、トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、4,4’−ビフェニレンジホスフィン酸テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)、3,9−ビス{1,1−ジメチル−2−[β−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ]エチル}−2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカン等の1種又は2種以上が挙げられる。
【0070】
前記酸化防止剤の配合量は、本発明のカード用シートを構成する樹脂組成物(X)に対して、0.0001質量%以上、1質量%以下の割合で配合することが好ましく、0.0005質量%以上、0.5質量%以下の割合で配合することがより好ましく、0.001質量%以上、0.2質量%以下の割合で配合することがさらに好ましい。かかる範囲で酸化防止剤を配合することにより、酸化防止剤のブリード、カード用シートの機械特性低下を生じることなく、樹脂の酸化劣化を防止することができる。
【0071】
<滑剤>
また、本発明のカード用シートを構成する樹脂組成物(X)に対して表面滑性の付与を目的として、滑剤を配合することができる。前記滑剤としては、一価または多価アルコールの高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸、パラフィンワックス、蜜蝋、オレフィン系ワックス、カルボキシル基および/ またはカルボン酸無水物基を含有するオレフィン系ワックス、シリコーンオイル、オルガノポリシロキサン等が挙げられる。
【0072】
前記高級脂肪酸エステルとしては、炭素原子数1〜20の一価または多価アルコールと炭素原子数10〜30の飽和脂肪酸との部分エステルまたは全エステルが好ましい。かかる一価または多価アルコールと飽和脂肪酸との部分エステルまたは全エステルとしては、ステアリン酸モノグリセリド、ステアリン酸ジグリセリド、ステアリン酸トリグリセリド、ステアリン酸モノソルビテート、ステアリン酸ステアリル、ベヘニン酸モノグリセリド、ベヘニン酸ベヘニル、ペンタエリスリトールモノステアレート、ペンタエリスリトールテトラステアレート、ペンタエリスリトールテトラペラルゴネート、プロピレングリコールモノステアレート、ステアリルステアレート、パルミチルパルミテート、ブチルステアレート、メチルラウレート、イソプロピルパルミテート、ビフェニルビフェネート、ソルビタンモノステアレート、2−エチルヘキシルステアレート等が挙げられる。中でも、ステアリン酸モノグリセリド、ステアリン酸トリグリセリド、ペンタエリスリトールテトラステアレート、ベヘニン酸ベヘニルが好ましく用いられる。高級脂肪酸としては、炭素原子数10〜30の飽和脂肪酸が好ましい。かかる脂肪酸としては、ミリスチン酸、ラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸などが挙げられる。これらの滑剤は、1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。
【0073】
前記滑剤の配合量は、本発明のカード用シートを構成する樹脂組成物(X)に対して、0.0001質量%以上、1質量%以下の割合で配合することが好ましく、0.0005質量%以上、0.5質量%以下の割合で配合することがより好ましく、0.001質量%以上、0.2質量%以下の割合で配合することがさらに好ましい。かかる範囲で滑剤を配合することにより、滑剤のブリード、カード用シートの機械特性低下を生じることなく、カード用シートに表面滑性を付与することができる。
【0074】
<紫外線吸収剤>
前記ポリカーボネート樹脂(A)は、可視光〜近紫外波長領域での光吸収が殆ど無いため、特段の紫外線吸収剤を配合しなくても経時的な黄変劣化が起こらない利点がある。しかし本発明のカード用シートをオーバーシートとして用いて本発明のカードを作製するとき、当該オーバーシートを透過した紫外線がコアシートで吸収されて、コアシートが黄変劣化することを抑制するために、本発明における樹脂組成物(X)に必要最低限の紫外線吸収剤を配合することができる。
【0075】
前記紫外線吸収剤としては、公知のもの、例えば各種市販のものを特に制限なく使用できる。中でも、公知の芳香族ポリカーボネート樹脂への添加に通常用いられるものを好適に用いることができる。例えば、2−(2’−ヒドロキシ−5’−tert−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(3−tert−ブチル−5−メチル−2−ヒドロキシフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(5−メチル−2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2−[2−ヒドロキシ−3,5−ビス(α,α−ジメチルベンジル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2,2’−メチレンビス(4−クミル−6−ベンゾトリアゾールフェニル)等のベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤;2,2’−p−フェニレンビス(1,3−ベンゾオキサジン−4−オン)等のベンゾオキサジン系紫外線吸収剤;2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−(ヘキシル)オキシ−フェノール等のヒドロキシフェニルトリアジン系紫外線吸収剤、を挙げることができる。紫外線吸収剤の融点としては、特に120℃〜250℃の範囲にあ
るものが好ましい。融点が120℃以上の紫外線吸収剤を使用することにより、紫外線吸収剤が時間経過とともに成形品表面に凝集するブリードアウト現象により成形体表面が汚れたり、口金や金属ロールを用いて成形する場合には、ブリードアウトによりそれらが汚れたりすることを防止し、成形品表面の曇りを減少させ改善することが容易になる。
【0076】
より具体的には、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−tert−ブチル−5’−メチルフェニル) −5−クロロベンゾトリアゾール、2−[2’−ヒドロキシ−3’−(3’’,4’’,5’’,6’’−テトラヒドロフタルイミドメチル)−5’−メチルフェニル]ベンゾトリアゾール、2,2−メチレンビス[4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)]フェノール、2−(2−ヒドロキシ−3,5−ジクミルフェニル)ベンゾトリアゾール等のベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤や、2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−(ヘキシル)オキシ−フェノール等のヒドロキシフェニルトリアジン系紫外線吸収剤を好ましく使用でき、これらの中でも、2−(2−ヒドロキシ−3,5−ジクミルフェニル)ベンゾトリアゾール、2,2−メチレンビス[4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)]フェノール、2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−(ヘキシル)オキシ−フェノールが特に好ましい。これらの紫外線吸収剤は、1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。
【0077】
前記紫外線吸収剤の配合量は、本発明のカード用シートを構成する樹脂組成物(X)に対して、0.0001質量%以上、1質量%以下の割合で配合することが好ましく、0.0005質量%以上、0.5質量%以下の割合で配合することがより好ましく、0.001質量%以上、0.2質量%以下の割合で配合することがさらに好ましい。かかる範囲で紫外線吸収剤を配合することにより、カード用シート表面への紫外線吸収剤のブリードや、カード用シートの機械特性低下を生じることなく、耐候性を向上することができる。
【0078】
<エポキシ系化合物>
さらに、本発明のカード用シートを構成する樹脂組成物(X)の耐加水分解性をさらに向上するため、エポキシ系化合物を配合することができる。エポキシ系化合物の具体例としては、エポキシ化大豆油、エポキシ化アマニ油、フェニルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、t−ブチルフェニルグリシジルエーテル、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキシルカルボキシレート、3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチル−3’,4’−エポキシ−6’−メチルシクロヘキシルカルボキシレート、2,3−エポキシシクロヘキシルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキシルカルボキシレート、4−(3,4−エポキシ−5−メチルシクロヘキシル) ブチル−3’,4’−エポキシシクロヘキシルカルボキシレート、3,4−エポキシシクロヘキシルエチレンオキシド、シクロヘキシルメチルー3,4−エポキシシクロヘキシルカルボキシレート、3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチル−6’−メチルシロヘキシルカルボキシレート、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、テトラブロモビスフェノールAグリシジルエーテル、フタル酸のジグリシジルエステル、ヘキサヒドロフタル酸のジグリシジルエステル、ビス−エポキシジシクロペンタジエニルエーテル、ビス−エポキシエチレングリコール、ビス−エポキシシクロヘキシルアジペート、ブタジエンジエポキシド、テトラフェニルエチレンエポキシド、オクチルエポキシタレート、エポキシ化ポリブタジエン、3,4−ジメチル−1,2−エポキシシクロヘキサン、3,5−ジメチル−1,2−エポキシシクロヘキサン、3−メチル−5−t−ブチル−1,2−エポキシシクロヘキサン、オクタデシル−2,2−ジメチル−3,4−エポキシシクロヘキシルカルボキシレート、N−ブチル−2,2−ジメチル−3,4−エポキシシクロヘキシルカルボキシレート、シクロヘキシル−2−メチル−3,4−エポキシシクロヘキシルカルボキシレート、N−ブチル−2−イソプロピル−3,4−エポキシ−5−メチル
シクロヘキシルカルボキシレート、オクタデシル−3,4−エポキシシクロヘキシルカルボキシレート、2−エチルヘキシル−3’,4’−エポキシシクロヘキシルカルボキシレート、4,6−ジメチル−2,3−エポキシシクロヘキシル−3’,4’−エポキシシクロヘキシルカルボキシレート、4,5−エポキシ無水テトラヒドロフタル酸、3−t−ブチル−4,5−エポキシ無水テトラヒドロフタル酸、ジエチル−4,5−エポキシ−シス−1,2−シクロヘキシルジカルボキシレート、ジ−N−ブチル−3−t−ブチル−4,5−エポキシ−シス−1,2−シクロヘキシルジカルボキシレートなどが挙げられる。ビスフェノールAジグリシジルエーテルが相溶性などの点から好ましい。
【0079】
前記エポキシ系化合物の配合量としては、本発明のカード用シートを構成する樹脂組成物(X)に対して、0.0001質量%以上、5質量%以下の割合で配合することが好ましく、0.001質量%以上、1質量%以下の割合で配合することがより好ましく、0.005質量%以上、0.5質量%以下の割合で配合することがさらに好ましい。かかる範囲でエポキシ系化合物を配合することにより、エポキシ系化合物のブリード、カード用シートの機械特性低下を生じることなく、耐加水分解性を向上することができる。
【0080】
<無機充填剤>
本発明における樹脂組成物(X)は、さらに無機充填剤を含むことが好ましい。このうち、本発明のカード用シートをオーバーシートとして用いる場合には、耐衝撃性や打ち抜き加工性を向上する目的で、本発明における樹脂組成物(X)に可視光透過性を有する無機充填剤を添加することが好ましい。なお、ここでいう「可視光透過性を有する」とは、該無機充填剤を本発明のカード用シートに含有させた場合でも、シートの一方の面から対面側が十分視認可能となるような状態であって、具体的にはJIS−K7105(1981年)に基づいて、厚み0.2mm(200μm)で測定された当該シートの全光線透過率が80%以上である状態を指す。
【0081】
カード用オーバーシートに添加する前記の可視光透過性を有する無機充填剤としては、従来公知のものを用いることができるが、中でもケイ酸、マグネシウムシリケート、ガラスフレーク等を好適に利用することが出来る。この時、前記無機充填剤の平均粒径は、5μm以下であることが好ましく、4μm以下であることがさらに好ましい。
【0082】
また、カード用オーバーシート中における前記無機充填剤の含有量は、樹脂組成物(X)100質量%に対して、0.5質量%以上であることが好ましく、1.0質量%以上であることがさらに好ましい。また、5.0質量%以下であることが好ましく、4.0質量%以下であることがさらに好ましい。
【0083】
カード用オーバーシートに添加する前記無機充填剤の平均粒径や、含有量をかかる範囲とすることによって、本発明のカード用オーバーシートを用いて作製したカードについて、透明性が確保され、さらに耐衝撃性が向上してエンボス部分の割れが生じず、かつ、打ち抜き加工性が向上してフラットな打ち抜き断面が得られるため好ましい。
【0084】
一方、本発明のカード用シートをコアシートとして用いる場合には、剛性を向上しエンボスカールを抑制する目的で、本発明における樹脂組成物(X)に無機充填剤を添加することが好ましい。
【0085】
カード用コアシートに添加する前記無機充填剤としては、従来公知のものを用いることができるが、中でもタルク、マグネシウムシリケート、炭酸カルシウム、シリカ、マイカなどを好適に用いることができる。これらは単独で用いても良く、2種類以上を混合して用いても構わない。この時、前記無機充填剤の平均粒径は、好ましくは3μm以上、より好ましくは5μm以上であって、かつ好ましくは10μm以下であり、より好ましくは8
μm以下である。
【0086】
また、カード用コアシートにおける前記無機充填剤の含有量は、樹脂組成物(X)100質量%に対して、2質量%以上であることが好ましく、4質量%以上であることがさらに好ましい。また、10質量%以下であることが好ましく、8質量%以下であることがさらに好ましい。
【0087】
カード用コアシートに添加する前記無機充填剤の平均粒径や、含有量をかかる範囲とすることによって、本発明のカード用コアシートを用いて作製したカードについて、剛性が向上してエンボス加工時に生じるエンボスカールを抑制することができ、さらに耐衝撃性が向上してエンボス部分の割れが生じることがないため好ましい。
【0088】
<着色剤>
本発明のカード用シートをコアシートとして用いる場合、本発明における樹脂組成物(X)には着色剤を含有させることが好ましく、例えば有機顔料や無機顔料などを挙げることができる。中でも、屈折率が2以上である無機顔料、例えば酸化チタン、チタン酸鉛、チタン酸カリウム、酸化ジルコン、硫化亜鉛、酸化アンチモン、酸化亜鉛などが好ましく、その中でも、屈折率が高い酸化チタンが特に好ましい。
酸化チタンなどの屈折率が高い顔料を含有させることにより、コアシートを不透明な白色シートとすることができ、例えば後述するインレットシートをコアシート間で挟むように積層すれば、インレットシートのアンテナ基盤等が見えないように隠蔽することができる。
【0089】
酸化チタンには、アナターゼ型、ルチル型、ブルッカイト型があるが、屈折率が大きなルチル型を用いるのが好ましい。なお、塩素法プロセスで製造された酸化チタン、硫酸法プロセスで製造された酸化チタンのいずれも使用可能である。
【0090】
また、酸化チタンは、その表面が、シリカ、アルミナ、及びジルコニアの中から選ばれた少なくとも1種類の不活性無機酸化物で被覆処理されたものが好ましい。不活性無機酸化物で被覆処理することにより、酸化チタンの光触媒作用を抑制できるため、製造時及び使用時において、酸化チタンの光触媒作用によって前記ポリカーボネート樹脂(A)が解重合されるのを防ぐことができる。
【0091】
さらに、ベース樹脂への分散性を向上させるため、酸化チタンの表面がシロキサン化合物、シランカップリング剤等から選ばれた少なくとも1種類の無機化合物や、ポリオール、ポリエチレングリコールから選ばれた少なくとも1種類の有機化合物で表面処理された酸化チタンを用いるのがより一層好ましい。
【0092】
酸化チタンの平均粒径の範囲は、0.1μm以上、1μm以下であることが好ましく、0.2μm以上、0.5μm以下であることがさらに好ましい。酸化チタンの平均粒径がかかる範囲であれば、本発明のカードの機械物性を低下させることなく、優れた隠蔽性を付与することができる。
【0093】
本発明のカード用コアシート中における着色剤の含有量は、樹脂組成物(X)100質量%に対して、1質量%以上、20質量%以下であるのが好ましい。下限値としては、3質量%以上が好ましく、5質量%以上がさらに好ましい。また上限値としては15質量%以下がより好ましく、10質量%以下がさらに好ましい。かかる範囲で着色剤を配合することにより、本発明のカードの機械強度を低下させることなく、カード内部の露出を防止し、優れた外観を有するカードとすることができる。
【0094】
本発明のカード用シートを構成する樹脂組成物(X)には、前記以外にも、光安定剤、可塑剤等の添加剤をさらに配合することもできる。
【0095】
<カード用シート>
本発明のカード用シートは、前記樹脂組成物(X)からなる層を有することを特徴とする。この時、前記樹脂組成物(X)からなる層の単層のみでカード用シートとしても良いが、前記樹脂組成物(X)において前記ポリカーボネート樹脂(A)の組成比や、前記樹脂組成物(X)を構成する各成分の含有比率が異なる層を各1層以上積層してカード用シートとしても良い。
【0096】
また、前記樹脂組成物(X)からなる層に、(X)とは異なる樹脂組成物からなる層を1層以上積層してカード用シートとすることもできる。
前記樹脂組成物(X)とは異なる樹脂組成物は、前記ポリカーボネート樹脂(A)以外の樹脂を主成分とする樹脂組成物であって、本発明の特徴を損なうことがなければ特に限定されるものではない。主成分とすることができる樹脂としては、前記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含まないポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、脂環式ポリオレフィン系樹脂、スチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂及びエポキシ樹脂等を例示することができる。
【0097】
次に、本発明のカード用シートの製造方法について説明するが、製造方法がこれらに限定されるものではない。
【0098】
本発明のカード用シートは、前記ポリカーボネート樹脂(A)、及び、必要に応じて紫外線吸収剤、無機充填剤や着色剤、その他の樹脂、添加剤等の原料を直接混合し、押出機に投入して成形するか、または、前記原料を二軸押出機を用いて溶融混合し、ストランド形状に押出してペレットを作製した後、このペレットを押出機に投入して成形する方法を挙げることができる。いずれの方法においても、前記ポリカーボネート樹脂(A)の加水分解による分子量の低下を考慮する必要があり、均一に混合させるためには後者を選択するのが好ましい。そこで、以下後者の製造方法について説明する。
【0099】
まず前記ポリカーボネート樹脂(A)と必要に応じ配合する他の原料を十分に乾燥して水分を除去し、リボンブレンダー、タンブラー、ヘンシェルミキサー等で混合した後、二軸押出機を用いて溶融混練し、ストランド形状に押出してペレットを作製する。あるいは、前記ポリカーボネート樹脂(A)を溶融混練している押出機内に、必要に応じ配合する他の原料を別途フィーダから連続又は逐次供給して、ペレットを作製してもよい。この際、樹脂が可塑化するときの剪断発熱や、各原料の組成比や配合割合による粘度変化等を考慮して、溶融混練温度が過度に上昇しないよう適宜調節することが好ましい。具体的には、成形温度は200℃以上、260℃以下が好ましく、210℃以上、250℃以下がより好ましく、220℃以上、240℃以下がさらに好ましい。
【0100】
この時、前記ペレットは、本発明を構成する樹脂組成物(X)となるように作製しても良いし、必要に応じ配合する他の原料の高濃度マスターバッチとして作製しておき、本発明のカード用シートを製造する際に希釈用の前記ポリカーボネート樹脂(A)やその他の樹脂と適宜ブレンドして、目的とする組成比の樹脂組成物(X)からなるカード用シートを得てもよい。
【0101】
本発明のカード用シートは、Tダイキャスト押出法、カレンダー法などの公知の方法によって成形することが可能であるが、中でもTダイキャスト押出法による成形が好適である。具体的には、例えば前記ペレットを十分乾燥した後、押出機内で加熱溶融させ、Tダイスリットから押し出し、キャストロールから冷却ロールへと経て製膜することができる
。分解劣化や着色を抑制するために、押出温度は200℃以上、260℃以下の範囲で適宜設定することが好ましい。また、必要に応じて、マルチマニホールドダイやフィードブロックなどを用いて各々異なる樹脂組成物を共押出しして、積層シートとすることもできる。
また、キャストロールの温度は、樹脂の種類及び組成によって調整するのが好ましいが、十分なロール面転写のために50℃以上が好ましく、ロール巻き付きを防ぐために130℃以下が好ましく、120℃以下がより好ましく、110℃以下が特に好ましい。
【0102】
本発明のカード用シートをカード用オーバーシートとして用いる場合、シートの少なくとも一方の表面の10点平均粗さが3μm以上、30μm以下の範囲であることが好ましい。10点平均粗さの下限値としては、10μm以上がさらに好ましい。また10点平均粗さの上限値としては20μm以下がさらに好ましい。10点平均粗さが3μm以上であることによって、カード用シートを他のシートに積層してプレス融着する際に、シート同士の間やシートとプレス用金属板の間の空気の抜けが十分で、カード表面に変形が生じることがない。また、シート表面の滑り性が維持されるため、カード用シートのハンドリング性が低下することがないため好適である。また、10点平均粗さが30μm以下であれば、シート間の密着性が良好であり、他のシートとの接着性を維持することができるため好適である。カード用オーバーシートの表面に、例えばマット加工を施すことにより、かかる範囲の表面の10点平均粗さを実現することができる。
【0103】
マット加工の方法の例としては、まず鏡面のシートを形成してから、マットロール等を用いて表面に加工を施しても良いし、あるいはシートの押出し成形の際にキャストロールをマットロール等に変更して押出成形を行うことにより、表面に加工を施しても良い。例えば、口金から押し出されたシートを、表面に微小な凹凸の付いた金属マットロールと表面に微小な凹凸の付いたゴムロール(以下「マット形成用ロール」と記載する)の間に挟み込んで、圧力等を適宜与えつつ、マット形成用ロールを回転させてシートを通過させ、マット形成用ロール表面の凹凸をシート表面に転写することにより、シートの表裏面にマット加工が施されたカード用シートを得ることができる。なお、マット加工を施す方法は、ここで記載された方法に限定されるものではない。
【0104】
本発明のカード用シートには、少なくとも一方の表面に印刷層を設けることができる。印刷層は、グラビア印刷、オフセット印刷、スクリーン印刷他公知の印刷の方法で設けられる。印刷層の絵柄は石目調、木目調、又は幾何学模様、抽象模様等任意である。部分印刷でも全面ベタ印刷でも良く、部分印刷層とベタ印刷層の両方が設けられていても良い。
【0105】
印刷層に用いられる印刷用インクに含有される顔料や溶剤は特に限定されること無く、一般的に利用されるものを適用することができる。特に、アクリル系樹脂やウレタン系樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体などを含むものは、印刷層を設けた場合においても、本発明のカードを層間剥離等の支障なく作製することが可能となることから好適である。
【0106】
本発明のカード用シートをオーバーシートとして用いる場合は、厚さに特段の制限は無いが、通常20μm以上150μm以下であることが好ましい。前記範囲より過度に薄いと、剛性が不足したり、エンボス刻印時に割れが生じたり、表面硬度が不足したりする不具合が生じることがある。また前記範囲より過度に厚いと、製品肉厚が厚くなりすぎたり、エンボス刻印が不明瞭になったりする不具合が生じることがある。
【0107】
また、本発明のカード用シートをコアシートとして用いる場合は、厚さに特段の制限は無いが、通常薄物で25μm以上250μm以下、厚物で250μm以上800μm以下であることが好ましい。或いは前記薄物シートを複数積層して厚物シートとしてもよく、
内部にICチップやアンテナ回路を有するインレットシートを配置する場合等においては、こうした積層コアシートを構成することが多い。前記範囲より過度に薄いと、剛性が不足したり、耐衝撃性が不足したりする不具合が生じることがある。また前記範囲より過度に厚いと、製品肉厚が厚くなりすぎたり、エンボス刻印が不明瞭になったりする不具合が生じることがある。
【0108】
本発明のカード用シートは、剛性及び耐衝撃性に優れたシートである。本発明のカード用シートにおいて剛性及び耐衝撃性の指標となる曲げ弾性率の値は、好ましくは2200MPa以上、より好ましくは2300MPa以上であり、また、好ましくは3000MPa以下、より好ましくは2900MPa以下であればよい。
【0109】
曲げ弾性率が2200MPa以上であることによって、本発明のカードにエンボス加工を施す時のエンボスカールを抑制することができ、また3000MPa以下であることによって、本発明のカードにエンボス加工を施す時のエンボス部分の割れを防止することができるため好適である。
【0110】
曲げ弾性率をかかる範囲とするためには、例えば本発明におけるポリカーボネート樹脂(A)における各構造単位の含有比や、樹脂組成物(X)に添加する無機充填剤の平均粒径や添加量などを本明細書に記載の範囲で調整することにより、達成することができる。
【0111】
本発明のカード用シートは耐候性、特に耐UV変色性に優れている。その指標であるUV50時間照射後の色差ΔYIは、1.0以下であることが好ましく、0.9以下であることがより好ましく、0.8以下であることがさらに好ましい。色差ΔYIがかかる範囲にあることによって、長時間の屋外での使用や、UVが照射される環境においても黄変することなく、色調が維持されたカード用シートを提供することができる。例えば、本発明における樹脂組成物(X)の組成や、本発明のカード用シートの厚みなどを本明細書に記載の好ましい範囲で調整することによって、色差ΔYIをかかる範囲とすることができる。
【0112】
本発明のカード用シートは、表面硬度に優れており、その指標である鉛筆硬度は、F以上であることが好ましく、H以上であることがさらに好ましい。鉛筆硬度が係る範囲にあることで、耐擦傷性に優れるカードを提供することができる。例えば、シートの厚さや、前記ポリカーボネート樹脂(A)の組成を、本明細書に記載の好ましい範囲で調整することによって、鉛筆硬度を係る範囲とすることができる。
【0113】
<カード>
本発明のカードは、本発明のカード用シートを用いて作製されることを特徴とする。本発明のカードにおいては、本発明のカード用シートをオーバーシートとしてのみ適用しても、またコアシートとしてのみ適用してもよく、オーバーシートとコアシートの両方に適用してもよい。このうち、特に本発明のカード用シートを少なくともオーバーシートに適用することが好ましい。
【0114】
本発明のカード用シートを、オーバーシートとしてのみ、またはコアシートとしてのみ本発明のカードに適用する場合、各々本発明のカード用シートに積層するコアシート、またはオーバーシートを構成する樹脂は、本発明の特徴を妨げないものであれば特に制限されるものではなく、前記ポリカーボネート樹脂(A)以外のポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、脂環式ポリオレフィン系樹脂、スチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、乳酸系重合体、フェノール樹脂、メラミン樹脂及びエポキシ樹脂等の公知の樹脂を用いることができる。
【0115】
このうち、特に乳酸系重合体は、前記ポリカーボネート樹脂(A)と同様に植物原料由来の樹脂であって、本発明のカード用シートをオーバーシートとして適用する場合、コアシートを構成する樹脂として乳酸系重合体樹脂を用いることによって、本発明のカードの植物由来原料の比率を高め、より環境負荷を低減することが可能であるという観点から好ましい。
【0116】
乳酸系重合体は、乳酸を主成分とするモノマーを縮重合してなる重合体であり、具体的には、構造単位がL−乳酸であるポリ(L−乳酸)、構造単位がD−乳酸であるポリ(D−乳酸)、構造単位がL−乳酸及びD−乳酸の両方からなるポリ(DL−乳酸)、或いはこれら二種類以上の組合せからなる混合物が好ましく用いられる。
【0117】
乳酸には、2種類の光学異性体のL−乳酸およびD−乳酸があり、これら2種の構造単位の割合で乳酸系重合体の結晶性が異なるようになる。例えば、L−乳酸とD−乳酸の割合がおおよそ90:10〜10:90のランダム共重合体では結晶性が無く、ガラス転移温度60℃付近で軟化する完全非結晶性ポリマーとなる。これに対し、L−乳酸とD−乳酸の割合がおおよそ100:0〜90:10、又は10:90〜0:100のランダム共重合体は、前者と同様にガラス転移温度は60℃程度であるが、結晶性を有する結晶性ポリマー若しくは半結晶性ポリマーとなり、その結晶化度は、上記のL−乳酸とD−乳酸の割合によって定まり、溶融押出した後、ただちに急冷することで透明性の優れた非晶性の材料になり、ゆっくり冷却することにより、結晶性の材料となる。ちなみに、L−乳酸のみ、または、D−乳酸のみからなる単独重合体は、180℃以上の融点を有する半結晶性ポリマーとなる。
【0118】
本発明において用いられる乳酸系重合体としては、上記の中でも乳酸系重合体中のL−乳酸とD−乳酸の割合が、99:1〜92:8或いは1:99〜8:92、特に98:2〜94:6或いは2:98〜6:94、中でも特に97:3〜95:5或いは3:97〜5:95であるものが好ましい。その理由は次のとおりである。
【0119】
乳酸系重合体を主成分とする乳酸系重合体系シートを数枚(数層)重ねて加熱しながらプレスして互いに融着させる場合、結晶性が高い乳酸系重合体では、熱プレスのときに結晶化してしまい、融着が困難になるか、或いは、乳酸系重合体が完全に融けきる状態近傍まで加熱温度を設定した場合には、乳酸系重合体は熱プレス時に溶融流動し、カードとして外観の良好なものが得難くなるかのいずれかであるため、結晶性が高い乳酸系重合体は好ましいとは言えない。また熱プレス機が、従来専ら用いられてきた塩化ビニル樹脂の融着に適するように製作されており、通常使用温度域が通常100〜170℃、好ましくは120〜150℃程度の範囲であるため、前記温度域で十分に融着できる乳酸系重合体であることが好ましい。こうした点を考慮して、前記割合の範囲が好ましいのである。
【0120】
このL−乳酸とD−乳酸の割合は、この割合で得られる乳酸系重合体樹脂単独で用いてもよいし、割合が異なる乳酸系重合体を複数種混合し、混合物の質量平均分率による割合が前記範囲内になるよう調整して混合してもよい。
【0121】
乳酸系重合体として、乳酸と他のヒドロキシカルボン酸との共重合体を用いることもできる。例えば、乳酸の光学異性体、グリコール酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、2−ヒドロキシ−n−酪酸、2−ヒドロキシ−3,3−ジメチル酪酸、2−ヒドロキシ−3−メチル酪酸、2−メチル乳酸、2−ヒドロキシカプロン酸等の2官能脂肪族ヒドロキシカルボン酸やカプロラクトン、ブチロラクトン、バレロラクトン等のラクトン類などが挙げられる。
【0122】
更に必要に応じ、少量共重合成分として、テレフタル酸のような非脂肪族カルボン酸、
ビスフェノール−Aやそのエチレンオキシド付加体のような非脂肪族ジオール、または乳酸以外のヒドロキシカルボン酸を含んでもよい。少量の鎖延長剤残基を含んでもよい。
【0123】
乳酸系重合体の重合法は、縮重合法、開環重合法、その他の公知の重合法を採用することができる。例えば、縮重合法では、L−乳酸またはD−乳酸或いはこれらの混合物を直接脱水縮重合して所望組成のポリ乳酸を得ることができる。また、開環重合法(ラクチド法)では、乳酸の環状2量体であるラクチドを、必用に応じて重合調節剤等を用いながら、選ばれた触媒を使用してポリ乳酸を得ることができる。
【0124】
乳酸系重合体は、市販品を用いることができ、例えば、三井化学社製「レイシア」シリーズ、Nature Works社製「Ingeo」シリーズなどが挙げられる。
【0125】
本発明におけるカードのコアシートに乳酸系重合体を用いる場合は、特許文献4に開示されている非晶性芳香族ポリエステル系樹脂や熱可塑性エラストマーを配合してもよい。こうすることで芳香族ポリエステル系樹脂シートや印刷層などを設けた場合に密着性が改善することがある。
【0126】
もちろん、本発明のカード用シートを、本発明のカードのオーバーシートとコアシートの両方に適用することによっても、本発明のカードの植物由来原料の比率を高め、より環境負荷を低減することが可能である上、オーバーシートとコアシートの密着性がより向上するという観点から好ましい。
【0127】
本発明のカードは、さらに発明の本質を損なわない限りで他の層を積層してもよい。例えば、前記印刷層のほか、ICチップやアンテナ回路を有するインレットシート、接着層等が挙げられる。
【0128】
以下に、本発明のカードの製造方法の一例を挙げて説明するが、製造方法がこれに限定されるものではない。
【0129】
本発明のカードは、例えば、コアシート、オーバーシート、必要に応じて後述するインレットシートを所定の積層順に重ね、プレス機にて加熱下で圧力をかけて熱融着させてシート間を貼り合わせ、室温まで冷却後、カード状に打ち抜くことによって製造することができる。
【0130】
本発明のカードの構成としては、例えば、コアシートの表裏両側にオーバーシートを重ねる構成や、コアシート間にインレットシートを挟みこみ、さらにその表裏両側にオーバーシートを重ねる構成など、オーバーシートが最表層にあれば、その他は任意の構成を取ることが出来る。
【0131】
また、本発明のカードの製造方法としては、前記のような加熱プレス法のほか、ドライラミネーション法、ウェットラミネーション法などの公知の積層方法を採用することもできる。
【0132】
前記インレットシートは、例えば樹脂からなる支持体にアンテナ回路を形成し、これにICチップやコンデンサ等の電子部品を実装して構成することが出来る。
【0133】
インレットシートの支持体としては、例えば本発明におけるポリカーボネート樹脂(A)の他、本明細書中に記載のような公知の樹脂を用いることができる。特にコアシートと同一の樹脂を用いることによって、コアシートとの熱融着性が良好となるため好ましい。
【0134】
本発明のカードは、文字などのエンボス加工を施した際に、エンボスカールが小さく、またエンボス適性に優れたカードである。
本発明のカードに、23℃においてエンボスエンコーダーDC9000(日本データカード株式会社製)を用いて7Bフォントの文字を3行、各行19文字エンボスを施した後に生じるエンボスカールは、好ましくは2.5mm以下であり、より好ましくは2.2mm以下であり、さらに好ましくは2.0mm以下であればよい。
【0135】
また、エンボス適性は施したエンボスの文字の高さ(以下、「エンボス高さ」という)によって評価することが可能であり、エンボス高さの下限値としては、好ましくは0.40mm、より好ましくは0.42mmである。また、エンボス高さの上限値は特に制限されないが、本発明のカードの用途によって不具合が生じることの無いように、0.48mm以下であることが好ましい。
【0136】
本発明のカードは少なくとも1層に本発明のカード用シートを用いて作製されるものであって、耐熱性、耐候性、剛性、打ち抜き加工性、エンボス適性の全てに優れており、環境負荷も低減可能であることから、大量に使用されるカード、特に磁気テープを用いて作製された磁気ストライプカードや、ICチップを用いて作製されたICカード等に好適に使用することができる。
【実施例1】
【0137】
以下に、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明がこれらの例に限定されるものではない。
【0138】
[第一態様の実施例]
各種測定値・評価についての測定方法・評価方法は、以下の通りである。
【0139】
(1)耐熱性(ガラス転移温度)
各製造例におけるカード用シートをサンプルとして、粘弾性スペクトロメーターDVA−200(アイティー計測制御株式会社製)を用い、歪み0.1%、周波数10Hz、昇温速度3℃/分にて動的粘弾性の温度分散測定(JIS−K7198A法(1991年)の動的粘弾性測定)を行った。そして損失正接(tanδ)の主分散のピークを示す温度をガラス転移温度とした。
【0140】
(2)耐候性(色差ΔYI)
試験機としてアイスーパUVテスターSUV−W151(岩崎電気製)を用いて、UV照射強度:75mW/cm 照射温度:63℃、照射湿度:50%の条件により各製造例におけるカード用シートをサンプルとしてUVを照射した。UV照射前と照射50時間後のサンプルのYI値(黄色度)をJIS−K7103(1977年)に基づいて分光測色計(「SC−T」、スガ試験機株式会社製)を用いて測定し、測定前後の差である色差ΔYIを算出し、ΔYIが0以上1.0未満のものを「○」、ΔYIが1.0以上のものを「×」として評価した。
【0141】
(3)剛性(曲げ弾性率)
各実施例及び比較例におけるカード用シートを38mm×38mmのサイズに切り出して試験片とした。テーバー式ステフネステスター(テーバー社製)を用いて、JIS−P8125(2000年)に準拠して曲げ角度15°における曲げこわさF(単位:g・cm)を測定した。これを下記の計算式(I)に代入して、曲げ弾性率(単位:Pa)を算出した。但し、試験片の厚みをd(cm)とする
曲げ弾性率(Pa)=2×0.01×F/(d×9.8) (I)
【0142】
(4)10点平均粗さ
カード用シートの表面について、JIS−B0601(1994年)に基づいて、表面粗さ計「サーフコーダーSE−40D」(株式会社小坂研究所製)を用い、送り速さが0.5mm/sec、基準長さが8mm、カットオフ値が0.8mmの条件下で測定し、カード用シートの10点平均粗さ(単位:μm)を求めた。
【0143】
(製造例1)
イソソルビドに由来する構造単位:1,4−シクロヘキサンジメタノールに由来する構造単位=40:60(モル%)の比率で構成されるポリカーボネート樹脂を、40mmφ同方向二軸押出機を用いて220℃で混練した後、Tダイより押出し、次いで80℃のキャスティングロールにて急冷しながら、キャストロールに接触する面の対面をマットロールに接触させてマット加工し、厚み100μmのカード用オーバーシート(A−1)を作製した。マット加工面の10点平均粗さは15μmであった。
【0144】
(製造例2)
イソソルビドに由来する構造単位:1,4−シクロヘキサンジメタノールに由来する構造単位=50:50(モル%)の比率で構成されるポリカーボネート樹脂を、40mmφ同方向二軸押出機を用いて220℃で混練した後、Tダイより押出し、次いで80℃のキャスティングロールにて急冷しながら、キャストロールに接触する面の対面をマットロールに接触させてマット加工し、厚み100μmのカード用オーバーシート(A−2)を作製した。マット加工面の10点平均粗さは14μmであった。
【0145】
(製造例3)
芳香族ポリカーボネート樹脂(三菱エンジニアリングプラスチックス社製、商品名「ユーピロンS3000」)を、40mmφ同方向二軸押出機を用いて260℃で混練した後、Tダイより押出し、次いで130℃のキャスティングロールにて急冷しながら、キャストロールに接触する面の対面をマットロールに接触させてマット加工し、厚み100μmのカード用オーバーシート(PC)を作製した。マット加工面の10点平均粗さは16μmであった。
【0146】
(製造例4)
非晶性ポリ乳酸樹脂(Nature Works社製、商品名「Ingeo 4060D」、ガラス転移温度:55℃)40質量%と、結晶性ポリ乳酸樹脂(Nature Works社製、商品名「Ingeo 4032D」、ガラス転移温度:55℃)60質量%とをドライブレンドし、40mmφ同方向二軸押出機を用いて200℃で混練した後、Tダイより押出し、次いで50℃のキャスティングロールにて急冷しながら、キャストロールに接触する面の対面をマットロールに接触させてマット加工し、厚み100μmのカード用オーバーシート(PLA)を作製した。マット加工面の10点平均粗さは15μmであった。
【0147】
(製造例5)
製造例1に用いた樹脂100質量%と、着色剤としてルチル型酸化チタン(KRONOS社製、商品名「KRONOS2230」)10質量%とをドライブレンドし、40mmφ同方向二軸押出機を用いて220℃で混練した後、Tダイより押出し、次いで80℃のキャスティングロールにて急冷し、厚み150μmのカード用コアシート(A−コア)を作製した。
【0148】
(製造例6)
非晶性ポリ乳酸樹脂(Nature Works社製、商品名「Ingeo 4060D」、ガラス転移温度:55℃)40質量%と、結晶性ポリ乳酸樹脂(Nature W
orks社製、商品名「Ingeo 4032D」、ガラス転移温度:55℃)60質量%と、着色剤としてルチル型酸化チタン(KRONOS社製、商品名「KRONOS2230」)10質量%とをドライブレンドし、40mmφ同方向二軸押出機を用いて200℃で混練した後、Tダイより押出し、次いで50℃のキャスティングロールにて急冷し、厚み150μmのカード用コアシート(PLA−コア)を作製した。
【0149】
【表1】

【0150】
次に、製造例で作製したカード用コアシートの片面に、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体系のインキを用いて、スクリーン印刷により隠蔽印刷層を形成した。そして、隠蔽印刷層が外側に向くように2枚のコアシートを重ね合わせた。さらに、下記表2の組み合わせとなるように、前記の重ね合わせたコアシートの上下を、製造例で作製したカード用オーバーシートを2枚用いて、該オーバーシートのマット加工面が外側に向くように挟み、これら4枚のシートを2枚のクロムメッキ板の間に挟み込んで130℃で10分間、シートの面圧9.8×10Paでプレスした後、室温まで冷却して取り出し、これをカード基材サンプルとした。
【0151】
(5)打ち抜き加工性
カード基材サンプルからJIS−K6251(2004年)に準拠してダンベル1号試験片を打ち抜き、試験片の加工断面が荒れたりクラックが入ったりする不具合が10回試行中8回以上あるものを「×」、前記不具合が3回以上7回以下あるものを「△」、前記不具合が2回以下あるか又は前記不具合が1回もなかったものを「○」として評価した。
【0152】
(6)エンボスカール
カード基材サンプルをカード形状に打ち抜いてから、23℃においてエンボスエンコーダーDC9000(日本データカード株式会社製)を用いて7Bフォントの文字を3行、各行19文字エンボスを施した。エンボス文字のパターンは「123・・・90123・・・789」とした。エンボス後のカードを定盤上に置き、定盤面からカードの非エンボス面の最も高い位置までの高さを測定し、これをエンボスカールの値とした。JIS−X6301(1998年)に基づきエンボスカールが2.5mm以下のものを「○」、2.5mmを超えるものを「×」として評価した。
【0153】
(7)エンボス適性(エンボス高さ)
(6)でエンボスを施したカードを定盤上に置き、非エンボス部分からエンボス文字の頂部までのエンボス高さを測定した。JIS−X6302(1998年)に基づき、エンボス高さが0.4mm〜0.48mmの範囲のものを「○」、0.4mm未満のものを「×」として評価した。
【0154】
(8)層間接着性
前記カード基材サンプルを作製する際に、あらかじめプレスにより熱融着しない部分を残しておき、熱融着された部分と熱融着しない部分を共に含んだ試験片を作製した。この
試験片を用いて、JIS−K6854−2(1999年)に基づきオーバーシートとコアシートの180°剥離試験を行なった。全く剥離しなかったものや、剥離しようとしてカード基材が破壊されたものを「○」、カード基材が破壊されずに剥離したものを「×」として評価した。
【0155】
(9)植物化度
作製したカードにおいてオーバー層・コア層ともに植物由来原料を使用しているものを「○」、一方のみに使用しているものを「△」とした。
【0156】
【表2】

【0157】
表1及び表2から、本発明のカード用シートを用いた実施例1〜3のカード構成は、何れも耐熱性、耐候性、剛性、打ち抜き加工性、エンボス適性の全てに優れており、しかも植物化度も高くなっていることがわかる。
【0158】
一方、比較例1のカード構成は打抜き加工性とエンボスカールが劣っている上に、オーバー層に関しては耐候性が劣っており、しかも植物由来原料ではない。また、比較例2のカード構成は打抜き加工性が劣っている上に、エンボス加工が著しく困難であり、耐熱性も十分ではない。
【0159】
[第二態様の実施例]
本発明におけるカード用オーバーシートとして、以下の材料を用いた。
(C−1)イソソルビド:ポリエチレングリコール(分子量400)=97:3のモル比率で共重合されてなる、ポリカーボネート樹脂(ガラス転移温度:127℃)を溶融押出法で厚さ100μmに製膜したもの。
【0160】
(C−2)イソソルビド:ポリエチレングリコール(分子量400)=93:7のモル比率で共重合されてなる、ポリカーボネート樹脂(ガラス転移温度:106℃)を溶融押出法で厚さ100μmに製膜したもの。
【0161】
(C−3)非晶性ポリ乳酸樹脂(Nature Works社製、商品名「Ingeo 4060D」、ガラス転移温度:55℃)40質量%と、結晶性ポリ乳酸樹脂(Nature Works社製、商品名「Ingeo 4032D」、ガラス転移温度:55℃)60質量%とをドライブレンドし、溶融押出法で厚さ100μmに製膜したもの。
【0162】
(C−4)芳香族ポリカーボネート樹脂(三菱エンジニアリングプラスチックス社製「ノバレックス7022」)を溶融押出法で厚さ100μmに製膜したもの。
【0163】
本発明におけるカード用コアシートとして、以下の材料を用いた。
(D−1)イソソルビド:1,4−シクロヘキサンジメタノール=50:50のモル比率で共重合されてなる、ポリカーボネート樹脂(ガラス転移温度101℃)100質量%と、ルチル型酸化チタン(KRONOS社製「KRONOS2230」)10質量%とをドライブレンドし、溶融押出法で厚さ150μmに製膜したもの。
【0164】
(D−2)C−3に用いた樹脂100質量%と、D−1に用いた酸化チタン10質量%とをドライブレンドし、溶融押出法で厚さ150μmに製膜したもの。
【0165】
各コアシートの片面に塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体系のインキを用いて、スクリーン印刷により隠蔽印刷層を形成した。そして、隠蔽印刷層が外側に向くように2枚のコアシートを重ね合わせた。更に表3記載のとおりに、前記重ね合わせたコアシートの両面をオーバーシート2枚で挟み、クロムメッキ板で全体を挟み、130℃で10分間、シートの面圧9.8×10Paでプレスした後、室温まで冷却して取り出し、これをカード基材サンプルとした。
【0166】
(試験及び評価)
1)耐熱性
磁気ストライプ付きクレジットカード規格JIS−X6310(1996年)に準拠して、60℃の温水中に5分間浸漬した時の、カード表面の変化と収縮性を観察した。合わせて80℃でも同様の試験を行った。何れの温度でも表面変化と収縮が認められなかったものを「○」、何れかの温度で表面変化または収縮が認められたものを「×」と判定した。
【0167】
2)耐衝撃性
磁気ストライプ付きクレジットカード規格JIS−X6310(1996年)に準拠して、衝撃強さを測定した。即ちカードを堅固な水平板上に置き、500gの鋼球を30cmの高さから自由落下させた時の、カードの割れとひびを観察した。割れとひびが認められなかったものを「○」、割れまたはひびが認められたものを「×」と判定した。
【0168】
3)エンボスカール
カード基材サンプルをカード形状に打ち抜いてから、23℃においてエンボスエンコーダーDC9000(日本データカード株式会社製)を用いて7Bフォントの文字を3行、各行19文字エンボスを施した。エンボス文字のパターンは「123・・・90123・・・789」とした。エンボス後のカードを定盤上に置き、定盤面からカードの非エンボス面の最も高い位置までの高さを測定し、これをエンボスカールの値とした。JIS−X6301(1998年)に基づきエンボスカールが2.5mm以下のものを合格とした。
【0169】
4)エンボス適性(エンボス高さ)
エンボスを施したカードを定盤上に置き、非エンボス部分からエンボス文字の頂部までのエンボス高さを測定した。JIS−X6302(1998年)に基づき、エンボス高さが0.4mm〜0.48mmの範囲のものを合格とした。
【0170】
5)層間密着性
カードシート間に切り込みを入れ、シート同士を剥離させた。切り込み部以外剥離しないか、切り込み部が千切れたものを「○」、脆性剥離したものを「△」、密着面が容易に剥離したものを「×」と判定した。
【0171】
6)耐候性(色差)
試験機として岩崎電気製アイスーパUVテスターSUV−W151を用いて、UV照射
強度:75mW/cm、照射温度:63℃、照射湿度:50%の条件により、各オーバーシートをサンプルとしてUVを照射した。UV照射前と照射50時間後のサンプルのYI値(黄色度)をJIS−K7103(1977年)に基づいて分光測色計(「SC−T」、スガ試験機(株)製)を用いて測定し、測定前後の差であるΔYIを算出した。ΔYIが0以上1.0未満のものを「○」、ΔYIが1.0以上のものを「×」と判定した。
【0172】
7)植物化度
作製したカードにおいて、植物原料樹脂を使用した層を記入した。
【0173】
【表3】

【0174】
表3から明らかである通り、実施例4〜6のカードは、植物原料樹脂比率が高く、耐熱性、耐衝撃性、エンボス特性、層間密着性、オーバーシートの耐候性について、何れも満足している。一方、比較例3、4のカードは、耐熱性、耐衝撃性、エンボス特性、層間密着性、オーバーシートの耐候性の何れかが実施例に比べて劣っていた。
【0175】
本発明を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位(a)を含有し、ガラス転移温度が130℃未満であるポリカーボネート樹脂(A)を主成分とする樹脂組成物(X)からなる層を有するカード用シート。
【化1】

【請求項2】
前記ポリカーボネート樹脂(A)がさらに、シクロヘキサンジメタノールに由来する構造単位(b)を含有する、請求項1に記載のカード用シート。
【請求項3】
前記ポリカーボネート樹脂(A)が、前記構造単位(b)を全ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位中45モル%以上、65モル%以下の比率で含有する、請求項2に記載のカード用シート。
【請求項4】
前記ポリカーボネート樹脂(A)が、前記構造単位(a)を全ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位中80モル%以上、99モル%以下の比率で含有し、ガラス転移温度が90℃以上、130℃未満である、請求項1に記載のカード用シート。
【請求項5】
前記ポリカーボネート樹脂(A)が、質量平均分子量が1000以下のポリアルキレングリコールに由来する構造単位(c)を、全ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位中1モル%以上、20モル%以下の比率で含有する、請求項4に記載のカード用シート。
【請求項6】
前記樹脂組成物(X)がさらに紫外線吸収剤を含有する、請求項1から5のいずれか1項に記載のカード用シート。
【請求項7】
前記樹脂組成物(X)がさらに無機充填剤を含有する、請求項1から6のいずれか1項に記載のカード用シート。
【請求項8】
カード用オーバーシートであって、少なくとも一方の表面に10点平均粗さが3μm以上、30μm以下であるマット加工が施されている、請求項1から7のいずれか1項に記載のカード用シート。
【請求項9】
カード用コアシートであって、前記樹脂組成物(X)が着色剤を含有する、請求項1から7のいずれか1項に記載のカード用シート。
【請求項10】
曲げ弾性率が2200MPa以上、3000MPa以下である、請求項1から9のいずれか1項に記載のカード用シート。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか1項に記載のカード用シートを用いて作製されるカード。
【請求項12】
さらに磁気テープを用いて作製される磁気ストライプカードである、請求項11に記載のカード。
【請求項13】
さらにICチップを用いて作製されるICカードである、請求項11に記載のカード。
【請求項14】
前記カードに23℃にてエンボス加工を施した際に生じるエンボスカールが2.5mm以下である、請求項11から13のいずれか1項に記載のカード。

【公開番号】特開2012−30574(P2012−30574A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−111616(P2011−111616)
【出願日】平成23年5月18日(2011.5.18)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】