説明

カーネルを使用した動的ネットワーク選択

複数のネットワークの間で垂直ハンドオフを実行するかどうかを判定する方法を開示する。本方法は、各々のネットワークに対する複数の選択指標を取得するステップと、他の通信ネットワークの各々について予測効用価値を、可変カーネル回帰関数を使用して少なくとも対応する複数の選択指標から計算するステップと、現在の通信ネットワークについて第2の複数の選択指標を取得するステップと、現在の通信ネットワークに対する第2の予測効用価値を、第2の可変カーネル回帰関数を使用して少なくとも対応する第2の複数の選択指標から計算するステップと、複数の他の通信ネットワークの各々に対する予測効用価値の各々を第2の予測効用価値と比較するステップと、最高予測効用価値が第2の予測効用価値よりも大きい場合、他の通信ネットワークのうち最高予測効用価値をもつネットワークに切り替えるステップとを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モバイル通信デバイス、モバイルネットワーク管理および複数のネットワーク間のハンドオフに関する。さらに具体的には、本発明は、異なるネットワークに切り替えるかどうかを判定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
モバイル通信デバイスは、今日の社会では普通に使用されている。これらのデバイスの大部分は、少なくとも1つのネットワークを使用して遠隔通信する能力がある。最新のモバイルデバイスの多くは、現在では、複数のネットワークを使用して遠隔通信する能力がある。効率的な方法で複数のネットワークを切り替える能力は、これらの最新デバイスでは不可欠である。将来の複数のネットワークは、第3世代携帯電話(3G cellular)、無線LAN(WLAN)、およびワイマックス(WiMax)など、いくつかの異なる無線アクセス技術を組み合わせる予定である。このようなアクセスオプションの多様性により、マルチインタフェースデバイスを使用するユーザーは、異種のネットワーク技術間の「垂直」ハンドオフを使用して、「常に最良に接続されている」可能性が与えられる。
【0003】
垂直ハンドオフとは、モバイルデバイスが2つの異なるネットワークを切り替えるときのプロセスである。
【0004】
従来のハンドオーバーアルゴリズムは、単一属性の信号強度に基づいており、ハンドオーバーポリシーは閾値を基礎としている。これらの閾値は、ヒステリシスを防止するための適切なマージンを含む、物理的パラメータに基づいて容易に判定される。
【0005】
しかし、従来の方法は、複数の基準、動的なユーザー選択(dynamic user preference)、および変化するネットワーク可用性に適応することができない。
【0006】
複数の基準を扱うための方法がいくつか提案されてきたが、これらは、適切なコスト関数の定義、効用関数、または異なる指標(metrics)の重み付けに依存している。関係する異なるパラメータの数は多い場合があり、これらのパラメータを、前もって専門家が完全に指定しなければならないことがよくある。さらに、これらの異なるパラメータは所与のネットワークに利用できるとは限らないことがよくある。さらに、選択が変化したとき、アルゴリズムは変化しない。
【0007】
従って、ネットワークの動的に変化する選択および環境条件に適応することができるネットワーク選択および垂直ハンドオーバーが必要とされている。
【発明の概要】
【0008】
以上に応じて、現在の通信ネットワークから複数の他の通信ネットワークの1つに垂直ハンドオフを行なうかどうかを判定するための方法が開示されている。本方法は、複数の他の通信ネットワークの各々について複数の選択指標を取得するステップと、複数の他の通信ネットワークの各々について可変カーネル回帰関数(variable kernel regression function)を使用して少なくとも対応する複数の選択指標から予測効用価値を計算するステップと、現在の通信ネットワークについて第2の複数の選択指標を取得するステップと、現在の通信ネットワークに対する第2の予測効用価値を、第2の可変カーネル回帰関数を使用して少なくとも対応する第2の複数の選択指標から計算するステップと、複数の他の通信ネットワークの各々に対する予測効用価値の各々を第2の予測効用価値と比較するステップと、最高予測効用価値が第2の予測効用価値よりも大きい場合、複数の他の通信ネットワークのうち最高予測効用価値をもつネットワークに切り替えるステップとを含む。将来の期間は各々の通信ネットワークによって異なり、ネットワーク特有のハンドオフ待ち時間(network specific handoff latency)の関数になっている。通信ネットワークは、第3世代携帯電話、WLANおよびWiMaxから選択することができる。
【0009】
本方法は、現在の通信ネットワークと複数の他の通信ネットワークの各々との間で切り替える切替コストを判定するステップと、第2の予測効用価値と、現在のネットワークと最高予測効用価値をもつ通信ネットワークとの間で切り替える切替コストとの和よりも最高予測効用価値が大きい場合、複数の他の通信ネットワークのうち最高予測効用価値をもつネットワークに切り替えるステップとをさらに含む。
【0010】
本方法は、現在の通信ネットワークに対する実際の効用価値を計算するステップをさらに含む。実際の効用価値を計算するステップは、第2の複数の指標の各々を、属性選択値(attribute preference value)にマッピングするサブステップと、属性選択値に可変重み付け係数を掛けるサブステップと、係数を掛けた属性選択値の各々を線形的に加算するサブステップとを含む。
【0011】
あるいは、現在の通信ネットワークに対する実際の効用価値を計算するステップは、現在のネットワークのカーネル回帰関数を、複数の選択指標の各々について取得した現在値で評価するステップを含む。
【0012】
本方法は、カーネル学習(kernel learning)のステップを含む。このカーネル学習プロセスは、実際の効用価値を第2の予測効用価値と比較するステップと、実際の効用価値と第2の予測効用価値との差分を前記比較に基づいて計算するステップと、前記差分が損失許容値(loss tolerance value)よりも大きい場合、第2の可変カーネル回帰関数を更新するステップとをさらに含む。さらに、損失許容値は前記差分に基づいて更新される。
【0013】
可変カーネル回帰関数は各々の通信ネットワークによって異なる。
【0014】
本方法は、n個の以前の期間に対する複数の選択指標を格納するステップをさらに含む。
【0015】
本方法は、さらに、回帰係数にエージング係数(aging coefficient)を掛けることによって以前の複数の選択指標をエージングするステップを含み、ここでエージング係数は可変である。
【0016】
選択指標としては、通信ネットワークの可用性、サービスの質、およびコストを含めることができる。サービスの質は、パケット遅延に依存する。コストは、金銭上のコストおよびエネルギーのコストに依存する。選択指標は、指標を計算するか、または指標を事前に受け取るかによって定期的に更新され、ネットワークマネージャまたは管理するエンティティによって受け取ることができる。代替的に、デフォルトの選択指標を使用することができる。さらに、選択指標として、少なくともネットワークポリシーに関する情報を含めることができる。ネットワークポリシー情報としては、ユーザーの分類、ユーザーの優先度、緊急ニーズおよびネットワーク条件を含めることができる。
【0017】
現在の通信ネットワークから複数の他の通信ネットワークの1つに垂直ハンドオフを行なうかどうかを判定する別の方法も開示されている。この方法は、複数の他の通信ネットワークの各々について複数の選択指標を選択するステップと、複数の他の通信ネットワークの各々について可変カーネル回帰関数を使用して少なくとも対応する複数の選択指標から予測効用価値を計算するステップと、現在の通信ネットワークについて第2の複数の選択指標を取得するステップと、現在の通信ネットワークに対する第2の予測効用価値を、第2の可変カーネル回帰関数を使用して少なくとも対応する第2の複数の選択指標から計算するステップと、デバイスで実行されているすべての保留中のアプリケーション(pending application)を判定するステップと、各々の保留中のアプリケーションに対するアプリケーション閾値を取得するステップと、取得したアプリケーション閾値からアプリケーション閾値を選択するステップと、第2の予測効用価値と予測効用価値の各々との差分を計算するステップと、計算した差分の各々を選択したアプリケーション閾値と比較するステップと、最高予測効用価値をもち、選択したアプリケーション閾値より大きい予測効用価値をもつネットワークに切り替えるステップとを含む。第1の予測効用価値および第2の予測効用価値は、あらかじめ決められた将来の期間について判定される。
【0018】
各々のアプリケーション閾値は、特定のアプリケーションに基づく各々の他のアプリケーション閾値と異なる場合がある。
【0019】
本発明の上記およびその他の特徴、利益および利点は以下の図面を参照することによって明らかになるが、図面全体を通して同等の参照符号は同等の構造を示している。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施形態によるハンドオフを判定する方法を示すフロー図である。
【図2】ネットワークの効用を計算する方法を示すフロー図である。
【図3】本発明の一実施形態による学習プロセスを示す図である。
【図4】本発明の第2の実施形態によるハンドオフ判定方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1は、本発明の一実施形態によるハンドオフ判定の方法を示すフロー図である。本方法では、モバイルデバイスが通信のために使用できる各々のネットワークに対して複数の属性および指標を考慮している。また、本方法では、選択の動的な変化も考慮する。ネットワークは、第3世代携帯電話、WLAN、およびWiMaxなど、利用可能などんな通信ネットワークであってもよいが、これらに限定されない。
【0022】
ステップ100において、各々のネットワークに対する属性または指標を取得する。指標は計算することができるが、事前に既知である場合もある。ネットワーク属性の各々に対する実効値は、すべてのネットワークについて既知であるとは限らない。例えば、現在のネットワーク以外の他のネットワークの属性は既知でない場合がある。しかし、一実施形態では、属性および指標のいくつかはデフォルト値をもつ。例えば、ネットワークに対するデフォルトパケット遅延は、実際のパケット遅延が既知でない場合に使用される。さらに、デフォルトカバレージ範囲(coverage range)も、実際のカバレージ範囲が既知でない場合に使用される。
【0023】
一実施形態では、属性は3つの主要カテゴリー、すなわち、可用性、サービスの質、およびコストに分類される。「可用性」は、基本的接続性要件(basic connectivity requirement)を満たしていることを意味する。別の実施形態では、可用性は信号強度に基づいて判定され、信号強度RSSi>最小閾値Δiである。別の実施形態では、信号強度に関する入力、観測されたパケット遅延、安定期間(stability period)、ユーザーのスピードなどの、他の入力情報、および公称カバレージエリア(nominal coverage area)、またはカバレージマップ(利用可能な場合)などの追加情報も使用可能である。「質」は、一般的に、ネットワークが提供できる(利用可能な)帯域幅で測定される。ネットワークの公称帯域幅は事前に既知である場合があるが、利用可能な帯域幅は測定が困難であるか、または測定に時間がかかる。好適な実施形態では、ネットワークに対するパケット遅延が使用される。別の実施形態では、平均遅延および遅延変動(delay variance)が、最大許容量と同様に使用されている。「コスト」には2つの要素、すなわち、金銭上のコストおよびエネルギーのコストがある。ネットワークインタフェースに対するエネルギーのコストは、2つの量、すなわち、(インタフェースを作動させるだけのための)固定エネルギー(stationary energy)および送信/受信エネルギーによって判定される。金銭上のエネルギーは、料金プラン、および1ヶ月あたり、1分あたりまたは転送される1KBあたりのコストによって判定される。
【0024】
別の実施形態では、もう1つの指標のカテゴリー、すなわち、ネットワークポリシーが使用される。ネットワークポリシーには、ユーザーの分類、ユーザーの優先度、緊急サービスのニーズおよびネットワーク条件などの、短期および/または長期ポリシーがある。
【0025】
ステップ110において、実際のネットワークの効用を計算する。図2に、実際の効用を、多属性効用関数(multiple attribute utility function)を使用して計算する1つの方法を示す。この効用関数は属性および指標の値を選択値にマッピングする。具体的には、指標を、ステップ200において、多属性効用関数を構築するようにマッピングする。
【0026】
一実施形態では、可用性効用関数UA(t)は、次のように定義される。RSSi(t+ΔTi)>Δiならば、UA,i(t)=1、そうでなければ、UA(t)=0。品質効用関数UQ(t)は、次のように定義される。Di(t+ΔTi)<diならば、UQ,i(t)=1、そうでなければUQi(t)=0。コスト効用関数は、次のように定義される。UC(t)=αUM(t)+(1−α)UE(t)。ステップ205において、各々の選択値に重みを掛ける。重みは各々の属性に対する階層が異なることを説明するために可変である。重みはc1、c2、およびc3である。ステップ210において、重み付けした値のすべてを一緒に加算する。垂直ハンドオーバーに対する全体の効用関数は、次式のように一次結合によって与えられる。
【0027】
【数1】

【0028】
一実施形態では、期待効用は属性の各々について、多属性期待効用関数を使用して判定される。期待効用および予測効用(後述する)は、将来のあらかじめ決められた期間T+ΔTiについて判定される。あらかじめ決められた期間はネットワーク特有であり、安定期間に依存する。安定期間は「メークアップ時間(make-up time)+ハンドオーバー待ち時間」、つまり、ΔT=Tmakeup+Lhandoverに等しい。メークアップ時間は、ハンドオフ待ち時間Lhandoverの間のネットワーク接続性の損失に起因する(効用の)損失を埋め合わせる時間である。
【0029】
メークアップ時間およびハンドオーバー待ち時間もネットワーク特有である。代替のネットワークが安定期間より長い期間について、現在のネットワークよりも十分に良好であることが予測される場合に限り、ハンドオフは価値がある。従って、期待効用は、安定期間のあとの期間について計算される。
【0030】
可用性についての期待効用は次の通りである。
【0031】
【数2】

【0032】
ここで、Pは確率である。確率は、カバレージマップ、ユーザーのスピード、および変化に基づいている。
【0033】
サービスの質に対する期待効用は式(2)または式(3)の通りである。
【0034】
【数3】

【0035】
または
【0036】
【数4】

【0037】
コストに対する期待効用は次の通りである。
【0038】
【数5】

【0039】
全体の期待効用は次式によって与えられる。
【0040】
【数6】

【0041】
将来の時間T+ΔTiにおける期待効用は、将来の効用を予測する手段として使用される。
【0042】
別の実施形態では、現在のネットワークの実際の効用を、カーネル回帰関数を使用して計算することができ、当該カーネル回帰関数の入力は現在のネットワークに対して取得した指標である。
【0043】
ステップ120において、各々のネットワークに対する将来の効用を予測する。一実施形態では、将来の効用または期待効用は、式5(多属性期待効用関数)を使用して予測される。別の実施形態では、この判定には、カーネル“K”とカーネル回帰関数“f”の選択と共にカーネル学習プロセスが使用される。カーネル学習プロセスにより、本方法および予測を環境またはネットワーク条件の変化に適応させることができる。カーネル学習プロセスを、後で詳しく説明する。
【0044】
ステップ130において、ネットワークを切り替えるコストを判定する。この切替コストは、安定期間に依存する。安定期間が長いほど、切替コストは高くなる。
【0045】
ステップ140において、各々の代替ネットワークiについて、ネットワークiの期待効用EUiを現在のネットワークの期待効用EUcurrentと比較する。期待効用は、多属性期待効用関数、またはカーネル回帰関数と共にカーネル学習プロセスを使用して計算することができる。切替コストは、ネットワークiについてγiで示される。EUi−γi>EUcurrentならば、つまり、等価的にf(xti)=EUi>EUcurrent+γi=f(xicurrent)+γiならば、ステップ145においてネットワークiへのハンドオフが行なわれ、そうでなければ、デバイスはステップ150において現在のネットワークに接続されたままである。
【0046】
上述したように、属性および指標の値および重みは、時間と共に変化する場合がある。従って、予測効用は動的であって、以前の効用への入力のマッピングに基づいて学習されなければならない。
【0047】
効用を予測するカーネル回帰関数は可変であり、各々のネットワークについて異なるとすることが可能である。さらに、効用を予測するカーネル回帰関数は、実際の効用と推定効用との間の判定された差分に基づいて変化させることもできる。カーネル回帰関数がネットワークの効用を予測するために使用されるのは、指標、係数、損失許容値(loss tolerance)、および期待値のすべてが完全に既知ではないからである。
【0048】
カーネル学習プロセスは、Xが入力の集合、例えば、ネットワークについて収集された指標のベクトルとして定義され、Yがその結果(期待効用)の値として定義されて動作する。ここで、Y=Rであり、Rは実数である。マッピングf:X→Rを判定する。l(f(x),y)によって与えられた損失関数l:R×Y→Rを使用して、観測された結果ラベル(outcome label)yからの推定の偏差を明らかにし、ペナルティを科す。このアルゴリズムの出力fは仮説である。すべての起り得る仮説の集合はHで示される。Hは、半正値カーネル(positive semi-definite kernel)k(.,.):X×X→Rによって誘導された再生核ヒルベルト空間(RKHS:Reproducing Kernel Hilbert Space)である。これは、カーネルk:x×x→Rおよび内積<.,.>Hが存在し、(1)kは再生性<f,k(x,・)>H=f(x),∀x∈Xをもち、(2)Hはすべてのk((x,・),x∈Xの範囲の閉鎖(closure of the span)であることを意味する。
【0049】
言い換えれば、仮説空間Hである再生核ヒルベルト空間(RKHS)は、各々のf∈Hについてカーネル関数の一次結合として書くことができるすべての関数fを含んでいる。さらに、カーネル回帰は次のように書くことができる。
【0050】
【数7】

【0051】
ここで、(xi,yi),...,(xn,yn)xi∈X,yi∈Yは観測された(入力、結果)のペア、例えば、(指標、効用)のペアである。
【0052】
式(6)における関数fおよびその係数αiは、正規化したリスク(regularized risk)を最小限にするように選択される。
【0053】
【数8】

【0054】
ここで、損失関数は次式の通りである。
【0055】
【数9】

【0056】
この損失関数は「ε不感損失(insensitive loss)」と呼ばれる。εは損失許容値である。
【0057】
ε不感損失関数は小さな誤差を無視する。すなわち、予測値と実効値との差分が許容値に満たない場合、その差分を無視することができる。この損失関数を使用する利点は、よりスパース(sparse)なカーネル回帰関数fが作られ、その結果、この関数を評価するのにあまり計算集中的でないことである。例えば、より多くの係数がゼロになっている。一実施形態では、εを学習プロセスの間、適応させることができる。
【0058】
カーネルkは、期待効用関数EU(t)とそのコンポーネントA(t)、Q(t)およびC(t)とを用いて定義され、これらは上記の式(1)−(5)に与えられている。一実施形態では、カーネルの出発点は、観測xi=(信号強度、カバレージ、遅延、損失、ジッター、エネルギー使用状況)から次式へのマッピングΦ:x→R3である。
【0059】
【数10】

【0060】
全体の(期待)効用EU(t)は、これらのベクトル成分の一次結合として与えられる。
【0061】
【数11】

【0062】
ここで、c=(c1,c2,c3)およびΦ(xi)は上記のように定義され、現在のネットワークに対する観測およびマッピング値はベースラインとして定義される。
【0063】
マッピングf:x→Rは期待効用を表し、c=(c1,c2,c3)およびΦ(xi)を用いて次式のように定義することができる。
【0064】
【数12】

【0065】
カーネルは次のように定義される。
【0066】
【数13】

【0067】
言い換えれば、カーネル回帰関数“f”は、多属性期待効用関数と等しい。
【0068】
tiは時間tにおけるネットワークiの状態を表し、f(xti)=<c,Φ(xti)>=Ui(t)である。
【0069】
さらに、この等値は次のように書くことができる。
【0070】
【数14】

【0071】
従って、予測効用または期待効用を表すカーネル回帰関数“f”は、コンポーネントA(t)、Q(t)およびC(t)を直接参照することなく、カーネルkを用いた展開として書くことができる。カーネル法の利点は、カーネルkが元のマッピング、Φ(xi)=(A(i),Q(i),C(i))またはそのコンポーネントよりもコンパクト化され、多くの場合、格納が容易になっていることである。
【0072】
図3に、各々のネットワークについての効用を予測する適応学習プロセス(adaptive learning process)を示す。この効用は逐次近似式f=(f1,...,fm+1)によって更新される。ここで、f1はなんらかの任意の初期仮説である。例えば、f1はf1=0(すべてのx∈Xについてf1(x)=0)によって与えられ、ft,t>1はt‐1観測のあと推定された「仮説」であり、l(ft(xt),yt)はxtおよび前例((x1,y1),...,((xt-1,yt-1))に基づいてytを予測しようとしたとき学習アルゴリズムによって生じた損失である。
【0073】
ステップ300において、現在のネットワークに対する予測値を、ステップ110において判定される実際の効用価値と比較する。これらの2つの値の差分を計算する。この差分をステップ310において、可変損失許容値と比較する。差分が損失許容値以下である場合、回帰関数はステップ315において更新されない。
【0074】
他方、差分が損失許容値より大きい場合、回帰関数はステップ320および325において更新される。ステップ320では、以下に定義されるように係数が変化する。ステップ325では、以下に定義されるように損失許容値が変化する。
【0075】
回帰関数は次のように定義される。
【0076】
【数15】

【0077】
ただし、
【0078】
【数16】

【0079】
時間tにおけるft+1の展開に対する係数は次のように計算される。
【0080】
【数17】

【0081】
ηi<1/λは学習パラメータ(learning parameter)である。ここで、λ>0はカーネル回帰関数“f”のノルム(norm)にペナルティを科すことによって、リスクを正規化するペナルティパラメータ(penalty parameter)である。λ>0が大きい場合、学習パラメータηi<1/λは、その結果の係数αiと同様に小さくなる。パラメータλは、カーネル展開に必要なストレージ要求を制御するために使用される。
【0082】
上述したように、損失許容値、すなわち、ε不感損失、
l(f(x),y)=max(0,|y−f(x)|−ε)は可変とすることができる。従って、損失関数は次のように書かれる。何らかのν(0<ν<1)について、
【0083】
【数18】

【0084】
値νを変化させると、損失許容値が変化する。具体的には、νは、損失許容値εを超える損失をもつポイントf(xi)の端数(fraction)を制御する。
【0085】
t+1における新規係数αtαi,i=1,..,t−1および新規損失許容値εは、次の更新方程式によって与えられる。
【0086】
【数19】

【0087】
一実施形態では、古い入力値、例えば、属性は古い値が新しい属性よりも現在の推定に及ぼす影響が少なくなるようにエージングされる。例えば、時間tにおいて、αt係数は非ゼロ値に初期化される場合があり、より以前のt−1期間に対する係数はηtに依存する係数で減衰する。
【0088】
別の実施形態では、ネットワークを切り替える判定、すなわち、ハンドオフはアプリケーションに基づいている。例えば、アプリケーションを長時間使用することが予想される場合は、現在のネットワークから新ネットワークへの予測効用の増加は小さくなり、一方、アプリケーションを短時間使用する場合は、現在のネットワークから新ネットワークへの予測効用の増加は、切替を行なうだけの価値があるように非常に大きくなる場合がある。この実施形態によれば、複数の異なる利用閾値がネットワークを切り替えるかどうかの判定に使用される。この閾値は、ネットワーク間の「増加割合」で表すことができる。例えば、アプリケーションが動画に対するストリーミングビデオである場合は、閾値は(切替コストを表す)ネットワーク間の5%増加とすることができる。アプリケーションがテキストメッセージである場合は、閾値は(切替コストを表す)ネットワーク間の30%またはそれ以上の増加とすることができる。
【0089】
一実施形態では、アプリケーションが異なるごとに、指標に対する重みは異なる。
【0090】
図4に、本発明の第2の実施形態によるハンドオフ判定方法を示すフローチャートを示す。図示のように、ステップ100−130は本発明の第1の実施形態と同じであるので、再び説明することは省略する。
【0091】
将来の効用のすべてが予測されると、現在保留中および実行中のアプリケーションのすべての判定がステップ400において行なわれる。アプリケーション閾値がすべての保留中のアプリケーションについて取り出される。ステップ410において、現在のネットワークに対する予測効用価値を他のネットワークに対する予測効用価値と比較し、現在のネットワークおよび各ネットワーク間の効用差分が計算される。ステップ420において、各々の効用差分をアプリケーション閾値と比較する。一実施形態では、保留中のアプリケーションに対するアプリケーション閾値の中で最小の閾値を、比較のために選択する。別の実施形態では、保留中のアプリケーションに対するアプリケーション閾値の中で最大の閾値を、比較のために選択する。別の実施形態では、保留中のアプリケーションに対するアプリケーション閾値の平均値を、比較のために選択する。
【0092】
ステップ420において、効用差分が選択したアプリケーション閾値よりも大きい場合、他のネットワークはハンドオフの候補のままである。残りの候補の間で最高の効用差分を有するネットワークをハンドオフのために選択し、ハンドオフがステップ425において起こる。ステップ420において、選択したアプリケーション閾値より大きい効用差分が1つもない場合、ステップ430においてハンドオフは起こらない。
【0093】
以上、特定の例示的な実施形態に関連して本発明を説明してきた。本発明の範囲を逸脱することなく、ある種の変更および改良が可能であることは、当業者には明らかであろう。例示的な実施形態は例示的であることを意図しており、添付の特許請求の範囲に定義されている本発明の範囲を限定するものではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
現在の通信ネットワークから複数の他の通信ネットワークの1つへの垂直ハンドオフを実行するかどうかを判定する方法であって、本方法は、
前記複数の他の通信ネットワークの各々について複数の選択指標を取得するステップと、
前記複数の他の通信ネットワークの各々について、第1の可変カーネル回帰関数を使用して少なくとも対応する第1の複数の選択指標から第1の予測効用価値を計算するステップであって、前記第1の予測効用価値は、将来のあらかじめ決められた期間について判定されるステップと、
前記現在の通信ネットワークについて第2の複数の選択指標を取得するステップと、
前記現在の通信ネットワークに対する第2の予測効用価値を、第2の可変カーネル回帰関数を使用して少なくとも対応する第2の複数の選択指標から計算するステップであって、前記第2の予測効用価値は、将来のあらかじめ決められた期間について判定されるステップと、
前記複数の他の通信ネットワークの各々に対する前記第1の予測効用価値の各々を、前記第2の予測効用価値と比較するステップと、
最高の第1の予測効用価値が前記第2の予測効用価値より大きい場合、前記複数の他の通信ネットワークのうち最高の第1の予測効用価値をもつネットワークに切り替えるステップと
を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記複数の他の通信ネットワークおよび前記現在の通信ネットワークは、第3世代携帯電話、WLAN、およびMaxから選択されることを特徴とする請求項1に記載の現在の通信ネットワークから複数の他の通信ネットワークの1つへの垂直ハンドオフを実行するかどうかを判定する方法。
【請求項3】
前記複数の選択指標は、通信ネットワークの可用性、サービスの質、およびコストを含むことを特徴とする請求項1に記載の現在の通信ネットワークから複数の他の通信ネットワークの1つへの垂直ハンドオフを実行するかどうかを判定する方法。
【請求項4】
前記サービスの質は、パケット遅延に依存することを特徴とする請求項3に記載の現在の通信ネットワークから複数の他の通信ネットワークの1つへの垂直ハンドオフを実行するかどうかを判定する方法。
【請求項5】
前記コストは、金銭上のコストおよびエネルギーのコストであることを特徴とする請求項3に記載の現在の通信ネットワークから複数の他の通信ネットワークの1つへの垂直ハンドオフを実行するかどうかを判定する方法。
【請求項6】
前記現在の通信ネットワークと前記複数の他の通信ネットワークの各々との間で切り替える切替コストを判定するステップと、
前記第2の予測効用価値と、現在の通信ネットワークと最高の第1の予測効用価値をもつ通信ネットワークとの間で切り替える前記切替コストとの和よりも、最高の第1の予測効用価値が大きい場合、前記複数の他の通信ネットワークのうち前記最高の第1の予測効用価値をもつ通信ネットワークに切り替えるステップと
をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の現在の通信ネットワークから複数の他の通信ネットワークの1つへの垂直ハンドオフを実行するかどうかを判定する方法。
【請求項7】
前記複数の選択指標は、定期的に計算されることを特徴とする請求項1に記載の現在の通信ネットワークから複数の他の通信ネットワークの1つへの垂直ハンドオフを実行するかどうかを判定する方法。
【請求項8】
前記複数の選択指標は、通信ネットワークマネージャから定期的に受信され、先験的であることを特徴とする請求項1に記載の現在の通信ネットワークから複数の他の通信ネットワークの1つへの垂直ハンドオフを実行するかどうかを判定する方法。
【請求項9】
現在の通信ネットワークに対する実際の効用価値を計算するステップをさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の現在の通信ネットワークから複数の他の通信ネットワークの1つへの垂直ハンドオフを実行するかどうかを判定する方法。
【請求項10】
実際の効用価値を計算する前記ステップは、
前記第2の複数の指標の各々を属性選考値にマッピングするサブステップと、
前記各々の属性選考値に可変重み付け係数を掛けるサブステップと、
前記係数を掛けた属性選考値の各々を線形的に加算するサブステップと
を含むことを特徴とする請求項9に記載の現在の通信ネットワークから複数の他の通信ネットワークの1つへの垂直ハンドオフを実行するかどうかを判定する方法。
【請求項11】
実際の効用価値を前記第2の予測効用価値と比較するステップと、
実際の効用価値と前記第2の予測効用価値との差分を前記比較に基づいて計算するステップと、
前記差分が損失許容値よりも大きい場合、前記第2の可変カーネル回帰関数を更新するステップと
をさらに含むことを特徴とする請求項9に記載の現在の通信ネットワークから複数の他の通信ネットワークの1つへの垂直ハンドオフを実行するかどうかを判定する方法。
【請求項12】
前記損失許容値を前記差分に基づいて更新するステップをさらに含むことを特徴とする請求項11に記載の現在の通信ネットワークから複数の他の通信ネットワークの1つへの垂直ハンドオフを実行するかどうかを判定する方法。
【請求項13】
前記第1の可変カーネル回帰関数は、前記複数の他の通信ネットワークの各々について異なることを特徴とする請求項1に記載の現在の通信ネットワークから複数の他の通信ネットワークの1つへの垂直ハンドオフを実行するかどうかを判定する方法。
【請求項14】
n個の以前の期間に対する前記第1の複数の選択指標を格納するステップをさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の現在の通信ネットワークから複数の他の通信ネットワークの1つへの垂直ハンドオフを実行するかどうかを判定する方法。
【請求項15】
回帰係数にエージング係数を掛けることによって以前の第1の複数の選択指標の各々をエージングするステップをさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の現在の通信ネットワークから複数の他の通信ネットワークの1つへの垂直ハンドオフを実行するかどうかを判定する方法。
【請求項16】
前記エージング係数は、可変であることを特徴とする請求項15に記載の現在の通信ネットワークから複数の他の通信ネットワークの1つへの垂直ハンドオフを実行するかどうかを判定する方法。
【請求項17】
将来のあらかじめ決められた期間は、各々の通信ネットワークについて異なり、ネットワーク待ち時間に依存することを特徴とする請求項1に記載の現在の通信ネットワークから複数の他の通信ネットワークの1つへの垂直ハンドオフを実行するかどうかを判定する方法。
【請求項18】
前記第1の複数の選択指標についてデフォルトの指標が使用されることを特徴とする請求項1に記載の現在の通信ネットワークから複数の他の通信ネットワークの1つへの垂直ハンドオフを実行するかどうかを判定する方法。
【請求項19】
現在の通信ネットワークから複数の他の通信ネットワークの1つへの垂直ハンドオフを実行するかどうかを判定する方法であって、本方法は、
前記複数の他の通信ネットワークの各々について複数の選択指標を取得するステップと、
前記複数の他の通信ネットワークの各々について、第1の可変カーネル回帰関数を使用して少なくとも対応する第1の複数の選択指標から予測効用価値を計算するステップであって、前記第1の予測効用価値は、将来のあらかじめ決められた期間について判定される、ステップと、
前記現在の通信ネットワークについて第2の複数の選択指標を取得するステップと、
前記現在の通信ネットワークに対する第2の予測効用価値を、第2の可変カーネル回帰関数を使用して少なくとも対応する第2の複数の選択指標から計算するステップであって、前記第2の予測効用価値は、将来のあらかじめ決められた期間について判定される、ステップと、
デバイスで実行されるすべての保留中のアプリケーションを判定するステップと、
各々の保留中のアプリケーションに対するアプリケーション閾値を取得するステップと、
前記取得したアプリケーション閾値からアプリケーション閾値を選択するステップと、
前記第2の予測効用価値と前記第1の予測効用価値との差分を計算するステップと、
計算した差分の各々を前記選択したアプリケーション閾値と比較するステップと、
最高の第1の予測効用価値を有し、前記選択したアプリケーション閾値より大きい第1の予測効用価値をもつネットワークに切り替えるステップと
を含むことを特徴とする現在の通信ネットワークから複数の他の通信ネットワークの1つへの垂直ハンドオフを実行するかどうかを判定する方法。
【請求項20】
前記アプリケーション閾値の各々は、各々の保留中のアプリケーションについて異なることを特徴とする請求項19に記載の現在の通信ネットワークから複数の他の通信ネットワークの1つへの垂直ハンドオフを実行するかどうかを判定する方法。
【請求項21】
前記現在の通信ネットワークに対する実際の効用価値を計算する前記ステップは、
前記現在の通信ネットワークの前記第2の可変カーネル回帰関数を、前記第1の複数の選択指標の各々について取得した現在値で評価するステップを含むことを特徴とする請求項9に記載の現在の通信ネットワークから複数の他の通信ネットワークの1つへの垂直ハンドオフを実行するかどうかを判定する方法。
【請求項22】
前記第1の複数の選択指標は、少なくともネットワークポリシーに関する情報を含むことを特徴とする請求項1に記載の現在の通信ネットワークから複数の他の通信ネットワークの1つへの垂直ハンドオフを実行するかどうかを判定する方法。
【請求項23】
前記ネットワークポリシーに関する前記情報は、ユーザーの分類、ユーザーの優先度、緊急ニーズおよびネットワーク条件を含むことを特徴とする請求項22に記載の現在の通信ネットワークから複数の他の通信ネットワークの1つへの垂直ハンドオフを実行するかどうかを判定する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2010−508709(P2010−508709A)
【公表日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−534713(P2009−534713)
【出願日】平成19年10月31日(2007.10.31)
【国際出願番号】PCT/US2007/023038
【国際公開番号】WO2008/054800
【国際公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【出願人】(399047921)テルコーディア テクノロジーズ インコーポレイテッド (61)
【Fターム(参考)】