説明

カーボンナノチューブ分散液およびその製造方法、並びにその利用

【課題】本発明は、CNTが安定に分散しており、簡便に、かつ短時間で製造可能で、さらには、カーボンナノチューブの薄膜形成も可能なCNT分散液およびその製造方法、並びにその利用を提供する。
【解決手段】可溶化剤として、金属イオンに平面構造を有する分子が配位してなる金属錯体を含有する可溶化剤を用いる。該可溶化剤と、カーボンナノチューブとを粉砕した粉砕混合物に、有機溶媒を添加する。こうして得られる有機溶媒溶液中では、上記金属錯体は、上記カーボンナノチューブと相互作用し、有機溶媒中に、カーボンナノチューブを安定に分散させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブ分散液およびその製造方法、並びにその利用に関するものであって、特に、金属錯体を用いてカーボンナノチューブを可溶化したカーボンナノチューブ分散液およびその製造方法、並びにその利用に関するものである。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブ(以下、「CNT」ともいう)は、大きなπ共役系をもつ比較的剛直で1次元に伸びた、非常に興味深い構造を有する化合物である。CNTに関して、具体的には、グラフェンシートが一枚だけ円筒状に巻かれた構造を有する単層CNTと、グラフェンシートが同心円状に略等間隔に何重にも重なった構造を有する多層CNTとの2種類のCNTが知られている。また、CNTは、上記構造に起因して、特異な性質を有している。そのため、上記特性を活かして、ナノテクノロジーの分野をはじめ、様々な分野へのCNTの応用が期待されている。例えば、単層カーボンナノチューブは、その比表面積が比較的大きいことから、水素等などのガスの吸蔵材または電極部材等の用途に適すると考えられている。
【0003】
このように、CNTは、ナノ材料として注目されているが、分散性(溶解性)が低いため、取り扱いが非常に困難であるという問題を抱えている。具体的には、例えば、CNTの精製では、一般的に酸性溶液中でCNTを超音波処理した後(非特許文献1を参照)、中和して希釈することによって混合物を得る。しかし、その混合物は、CNTを安定的に含んでいない。すなわち、上記混合物では、溶媒に対してCNTが時間的に安定して分散しておらず、時間の経過に伴ってCNTが凝集および/または沈殿してしまう。それゆえ、上記混合物を溶液として扱うことが困難であり、その結果、CNTの応用範囲が必然的に制限されてしまうことになる。
【0004】
このようなCNT分散液の安定性にかかる問題を解決すべく、これまでに、CNTを可溶化するための技術の開発が進められている。具体的には、例えば、CNTを非共有結合的に可溶化剤と混合することによって、長期間安定なCNT分散液が得られることが報告されている。また、単層CNTのアルコール分散液を得るために、可溶化剤としてビニルピリジンを用いる方法(非特許文献2を参照)、および可溶化剤として非イオン性界面活性剤及びポリビニルピロリドンを用いて、単層CNTのアミド系極性有機溶媒分散液を製造する方法(特許文献1を参照)が開示されている。
【0005】
また、本発明者らは、高速振動粉砕法により、可溶化剤とCNTとを固体のまま混合することによって、簡便に、かつ、短時間で、CNTのバンドルを少なくとも部分的に解離させ、CNTを溶媒に分散させることができることをすでに見出している(特許文献2、非特許文献2〜4を参照)。具体的には、特許文献2および非特許文献3に開示される方法では、まず、バンドル状のCNTを含む混合物を凍結乾燥に付して、乾燥したCNTを得る。次に、該乾燥したCNT、可溶化剤および硬球を容器内に供した後、該容器を振動させる。そして、振動に付された後のCNTに水を加える。これにより、CNTを安定的に含む水溶液が得られる。また、特許文献2および非特許文献2には、上記可溶化剤として、シクロデキストリン、水溶性の生体高分子および水溶性の合成高分子が例示されている。
【0006】
また、非特許文献3には、上記特許文献2および非特許文献2に開示される方法において、上記可溶化剤として、プリン環を有するヌクレオチドを用いる方法が開示されている。
【0007】
さらに、非特許文献4には、上記特許文献2および非特許文献2に開示される方法において、上記可溶化剤として、共役ポリマーであるポリチオフェン誘導体を用いることにより、有機溶媒にCNTを分散させることができることが開示されている。
【特許文献1】特開2005−154630号公報(平成17(2005)年6月16日公開)
【特許文献2】特開2005−213108号公報(平成17(2005)年8月11日公開)
【非特許文献1】Jie Liu, Andrew G. Rinzler, et al., Science, 280, 1253 (1998)
【非特許文献2】A. Ikeda, K. Hayashi, T. Konishi, J. Kikuchi, Chem. Commun., 1334 (2004)
【非特許文献3】A. Ikeda, T. Hamano, K. Hayashi, J. Kikuchi, Org. Lett., 8, 1153 (2006)
【非特許文献4】A. Ikeda, Nobusawa, T. Hamano, J. Kikuchi, Org. Lett., 8, 5489 (2006)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のように、CNT分散液を製造する方法については、様々な研究がなされているものの、実用レベルで考えた場合、安定にCNTが分散したCNT分散液を高い生産性でかつ安価に製造するという観点からは、いまだ十分とはいえない。例えば、上記特許文献2に開示される方法では、6時間にも及ぶ超音波処理が必要であるため、CNT分散液の生産効率が非常に悪く、実用的ではないという問題がある。また、上記特許文献1に開示される方法では、非イオン性界面活性剤の添加が必須であるため、CNT分散液の用途によっては、非イオン性界面活性剤が悪影響を及ぼす可能性がある。また、上記特許文献1に開示される方法でも、1時間の超音波処理が必要であるため、CNT分散液の生産効率が非常に悪く、実用的ではないという問題がある。
【0009】
また、上記の従来技術を用いて製造されたCNT分散液を用いては、カーボンナノチューブの100nm以下の薄膜を形成できていない。
【0010】
本発明は、上記問題点に鑑みなされたものであって、その目的は、CNTが安定に分散しており、簡便に、かつ短時間で製造可能で、さらには、カーボンナノチューブの薄膜形成も可能なCNT分散液およびその製造方法、並びにその利用を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、金属イオンに平面構造を有する分子が配位してなる金属錯体を含有する可溶化剤を用いることによって、カーボンナノチューブを有機溶媒中に可溶化できることを独自に見出し、本発明を完成させるに至った。すなわち、本発明は、産業上有用な以下の発明を包含する。
【0012】
(1)金属イオンに平面構造を有する分子が配位してなる金属錯体を含有する可溶化剤を用いて、カーボンナノチューブを、有機溶媒に分散させることを特徴とするカーボンナノチューブ分散液の製造方法。
【0013】
(2)上記金属錯体は、平面構造を有することを特徴とする(1)に記載のカーボンナノチューブ分散液の製造方法。
【0014】
(3)上記平面構造を有する分子は、8−キノリノール、ピリジン、フェナントロリン、サレン、アセチルアセトン、およびベンゼン−1,2−ジチオール、並びにそれらの誘導体からなる群より選択されることを特徴とする(1)に記載のカーボンナノチューブ分散液の製造方法。
【0015】
(4)上記平面構造を有する分子は、下記一般式(1)〜(6)
【0016】
【化1】

【0017】
(式中、R〜R10は、それぞれ、独立して、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アルキルシリル基、アルキルアミノ基、アリール基、アリールアルキル基、アリールアルコキシ基、アリールアルキニル基、アリールアミノ基、複素環化合物基、シアノ基、ニトロ基、水酸基、エステル基またはハロゲン原子である。また、R〜R10は、隣り合う置換基間で、環状構造を形成していてもよい。)
で表される分子からなる群より選択されることを特徴とする(1)に記載のカーボンナノチューブ分散液の製造方法。
【0018】
(5)上記金属イオンは、Cu2+、Ni2+、Co2+、Pt2+、およびPd2+からなる群より選択されることを特徴とする(1)に記載のカーボンナノチューブ分散液の製造方法。
【0019】
(6)上記金属錯体は、下記一般式(7)〜(12)
【0020】
【化2】

【0021】
(式中、R〜R10は、それぞれ、独立して、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アルキルシリル基、アルキルアミノ基、アリール基、アリールアルキル基、アリールアルコキシ基、アリールアルキニル基、アリールアミノ基、複素環化合物基、シアノ基、ニトロ基、水酸基、エステル基またはハロゲン原子であり、MはCu、Ni、Co、Pt、またはPdであり、Xは対アニオンであり、Yは対カチオンである。また、R〜R12は、隣り合う置換基間で、環状構造を形成していてもよい。)
で表される金属錯体からなる群より選択されることを特徴とする(1)に記載のカーボンナノチューブ分散液の製造方法。
【0022】
(7)高速振動粉砕法を用いて、上記カーボンナノチューブと上記可溶化剤とを混合して粉砕することにより、カーボンナノチューブ混合物を取得し、
該カーボンナノチューブ混合物に、上記有機溶媒を加えて、上記カーボンナノチューブを該有機溶媒に分散させることを特徴とする(1)に記載のカーボンナノチューブ分散液の製造方法。
【0023】
(8)カーボンナノチューブと、金属イオンに平面構造を有する分子が配位してなる金属錯体を含有する可溶化剤と、有機溶媒とを含むことを特徴とするカーボンナノチューブ分散液。
【0024】
(9)(8)に記載のカーボンナノチューブ分散液を、基材の表面に塗布して乾燥させることを特徴とするカーボンナノチューブ膜の製造方法。
【0025】
(10)上記基材は、マイカまたは高配向性熱分解グラファイトであることを特徴とする(9)に記載のカーボンナノチューブ膜の製造方法。
【0026】
(11)(9)または(10)に記載のカーボンナノチューブの製造方法を用いて製造されたことを特徴とするカーボンナノチューブ膜。
【0027】
(12)カーボンナノチューブを配列してなり、厚みが100nm以下であることを特徴とするカーボンナノチューブ膜。
【0028】
(13)(11)または(12)に記載のカーボンナノチューブ膜を備えることを特徴とする部材。
【0029】
(14)(8)に記載のカーボンナノチューブ分散液を用いて、カーボンナノチューブを製造する方法であって、上記金属錯体を電気化学的もしくは化学的に酸化または還元し、上記金属錯体の3次構造を変化させることにより、上記カーボンナノチューブを沈殿させることを特徴とするカーボンナノチューブの精製方法。
【発明の効果】
【0030】
本発明にかかるカーボンナノチューブ分散液の製造方法は、以上のように、金属イオンに平面構造を有する分子が配位してなる金属錯体を含有する可溶化剤を用いるため、カーボンナノチューブを有機溶媒中に安定して分散させることができる。それゆえ、カーボンナノチューブが安定に分散したカーボンナノチューブ分散液を、簡便に、かつ短時間で製造することができるという効果を奏する。さらには、該カーボンナノチューブ分散液によれば、カーボンナノチューブが配列されており、厚みが100nm以下のカーボンナノチューブの薄膜を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
本発明にかかる実施形態について、説明すると以下の通りであるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0032】
<I.カーボンナノチューブ分散液>
本発明にかかるカーボンナノチューブ分散液は、カーボンナノチューブ(以下、「CNT」ともいう)と、可溶化剤と、有機溶媒とを含み、該CNTが有機溶媒中に分散しているものである。上記CNT分散液中では、CNTは、束(バンドル)が少なくとも部分的に解離した状態で存在している。上記CNT分散液に分散しているCNTは、単層CNTでもよいし、多層CNTでもよい。上記可溶化剤は、金属イオンに平面構造を有する分子が配位してなる金属錯体を含有する。なお、本明細書では、上記平面構造を有する分子を、以下、「平面状分子」ともいう。
【0033】
上記可溶化剤の組成、および平面状分子の構造の詳細は、後述の<II.カーボンナノチューブ分散液の製造方法>において説明するので、ここでは説明を省略する。
【0034】
上記有機溶媒は、上記可溶化剤を用いて、束状のCNTを束が解離したCNTにする、すなわち、CNTを可溶化することを可能にする有機溶媒であればよい。このような有機溶媒は、上記可溶化剤の組成、より詳しくは上記可溶化剤に含有される金属錯体に応じて、適宜変更されるものである。一般的には、上記有機溶媒として、極性有機溶媒を用いることが好ましい。具体的には、例えば、クロロホルム、テトラヒドロフラン(THF)、ベンゼン、トルエン、キシレン、ピリジン、アルコール、およびアミド系有機溶媒等を挙げることができる。なお、本明細書において、「CNTを可溶化する」とは、CNTを分散可能な状態にすることを意図するものであり、また、CNTを溶解可能な状態にすることを包含するものである。
【0035】
本発明にかかるCNT分散液は、上記構成を備えているため、CNTが有機溶媒中で時間的に安定して分散している。そのため、長期保存性に優れている。つまり、本発明にかかるCNT分散液は、長期保存しても、CNTの凝集/沈殿が生じない分散液である。本発明にかかるCNT分散液において、CNTが安定して分散している時間は、特に限定されるものでないが、少なくとも1週間、安定して分散していることが好ましく、少なくとも2週間、安定して分散していることがより好ましく、少なくとも3週間、安定して分散していることがさらに好ましい。このようなCNT分散液では、CNTが溶媒に分散していると表現することもできるし、CNTが溶媒に溶解していると表現することもできる。つまり、本明細書において、「分散」なる用語は、「溶解」と置き換え可能に用いられるものである。
【0036】
また、本発明にかかるCNT分散液は、長期保存安定性を有するため、溶液として取り扱うことができ、様々な用途に好適に用いることができる。なお、本発明にかかるCNT分散液の利用については、後述の<III.カーボンナノチューブ分散液の利用>で説明するので、ここでは詳細は省略する。
【0037】
<II.カーボンナノチューブ分散液の製造方法>
本発明にかかるCNT分散液の製造方法は、金属イオンに平面構造を有する分子が配位してなる金属錯体を含有する可溶化剤を用いて、カーボンナノチューブを、有機溶媒に分散させることによって、CNT分散液を製造する方法である。上記構成によれば、上記金属錯体は、CNTを安定に有機溶媒中に分散させることができる。また、本発明にかかるCNT分散液の製造方法では、上記金属錯体の構造を変化させることによって、該平面状分子を含有する可溶化剤のCNTに対する可溶化能を制御することができる。したがって、本発明にかかるCNT分散液の製造方法は、様々な用途のCNT分散液を製造するのに、幅広く用いることができる。
【0038】
ここで、本発明にかかるCNT分散液の製造方法の一実施形態について、具体的に説明する。
【0039】
本発明にかかるCNT分散液の製造方法は、CNTと可溶化剤とを混合して粉砕することにより、CNT混合物を取得する工程(以下、「粉砕工程」ともいう)と、該CNT混合物に有機溶媒を加えて、上記CNTを該有機溶媒に分散させる工程(以下、「分散工程」ともいう)とを含むことが好ましい。また、上記粉砕工程および分散工程に加えて、上記分散工程において得られた溶液から、不溶成分を取り除く工程(以下、「不溶成分除去工程」ともいう)を含んでいてもよい。
【0040】
上記粉砕工程、分散工程、および不溶成分除去工程について、詳細に説明する。なお、以下、不溶成分除去工程についても説明するが、本発明にかかるCNT分散液の製造方法では、これらの工程を含む構成に限定されるものではない。
【0041】
(A)粉砕工程
上記粉砕工程では、CNTと可溶化剤とを混合して粉砕することにより、CNT混合物を取得する。
【0042】
上記CNTは、特に限定されるものではなく、単層CNTでもよいし、多層CNTでもよい。また、その形状も特に限定されるものではなく、例えば、束(バンドル)状のCNTを用いることができる。このようなCNTは、従来公知の方法、例えば、HiPco法、CoMoCAT法、アーク放電法、レーザー蒸発法、レーザーアプレーション法、およびCVD(Chemical Vapor Deposition)法等によって製造することができる。また、本発明では、上記CNTとして、上記束(バンドル)状のCNTを精製したもの、またはその精製したものをさらに凍結乾燥処理したものを用いてもよい。
【0043】
上記可溶化剤は、金属イオンに平面状分子が配位した金属錯体を含有していればよく、その他の具体的な構成は特に限定されるものではない。なお、本実施形態では、上記粉砕工程に、金属錯体を含有する可溶化剤を用いる場合について説明するが、本発明はこれに限定されない。すなわち、上記金属錯体が上記粉砕工程において形成される構成や、後述する分散工程において形成される構成とすることもできる。さらに、可溶化剤には、少なくとも上記金属錯体が含有されていればよく、金属錯体を形成していない金属イオンおよび/または平面状分子が含まれていてもよい。
【0044】
上記金属錯体は、金属イオンに平面状分子が配位したものであればよいが、該金属錯体自体が平面構造を有することが好ましい。ただし、上記金属錯体は、CNTを可溶化する過程およびCNT分散液中において、平面を形成している必要はなく、上記平面構造が曲がって、曲面をなしたり、円筒状のような形状を形成したりしていてもよい。
【0045】
上記金属イオンは、上記金属錯体において中心金属になりうるものであればよいが、平面4配位をとる金属イオンであることが好ましい。このような具体的な金属イオンとしては、具体的には、例えば、Cu2+、Ni2+、Co2+、Pt2+、およびPd2+を挙げることができるが、本発明はこれらの金属イオンに限定されるものではない。
【0046】
上記平面状分子は、上記金属錯体における配位子である。上記平面状分子は、平面構造を有し、上記金属イオンに配位できるものであればよいが、できるだけ低分子量の分子であることが好ましい。このような平面状分子は、合成が容易であり、安価に取得することができる。したがって、本発明によれば、低コストで、安定にCNTが分散したCNT分散液を製造することができる。従来、このような低分子量の分子を用いて、CNTを可溶化することは困難であった(Y. Tomonari, H. Murakami and N. Nakashima, Chem. Eur. J. 12, 4027 (2006)を参照)。これに対し、本発明者らは、鋭意検討し、低分子量の分子であっても、金属イオンに配位させ、金属錯体を形成させることにより、CNTを可溶化できることを独自に見出したのである。つまり、本発明に用いる平面状分子は、該平面状分子単独ではCNTを可溶化できなくてもよい。
【0047】
上記平面状分子の具体的な構造は特に限定されるものではなく、金属イオンと配位結合が可能な基を有していればよい。また、上記平面状分子は、上記金属錯体の親油性を向上させる置換基(換言すれば、有機溶媒への溶解性を向上させる置換基)を有することが好ましい。このような置換基を有することにより、上記金属錯体の有機溶媒に対する溶解性が向上する。その結果、CNTの有機溶媒に対する可溶化能を向上させることができる。このような置換基としては、具体的には、例えば、アルキル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アルキルシリル基、アルキルアミノ基、アリール基、アリールアルキル基、アリールアルコキシ基、アリールアルキニル基、アリールアミノ基、複素環化合物基、シアノ基、ニトロ基、水酸基、およびエステル基等を挙げることができる。また、上記平面状分子がアルキル基を有する場合、該アルキル基の炭素鎖を長くするほど、上記金属錯体の有機溶媒に対する溶解性を向上させ、結果として、CNTの該有機溶媒に対する可溶化能をより向上させることができる。したがって、上記平面状分子は、長鎖アルキル基、より具体的には、炭素数1〜24のアルキル基、好ましくは炭素数3〜20のアルキル基、より好ましくは炭素数6〜18のアルキル基を有することが好ましい。また、上記平面状分子が有することが好ましい置換基としては、ポリエチレングリコール基、具体的には、分子量44〜5000のポリエチレングリコール基、好ましくは、分子量88〜4000のポリエチレングリコール基、より好ましくは分子量88〜3000のポリエチレングリコール基を挙げることができる。これらポリエチレングリコール基によっても、上記金属錯体の有機溶媒に対する溶解性を向上させることができる。このように、アルキル基やポリエチレングリコール基の鎖長を変更することにより、可溶化剤の可溶化能を所望に制御することができる。ただし、上述したように、上記平面状分子は、低分子であるほど合成が容易になることから、上記金属錯体の有機溶媒に対する溶解性を考慮した上で、上記平面状分子を設計することが好ましい。
【0048】
また、上記平面状分子は、金属イオンと配位結合が可能な基および上記金属錯体の親油性を向上させる置換基以外の置換基を有していてもよい。具体的には、例えば、本発明にかかるCNT分散液を用いて基材の表面上にCNT膜を形成させたときに、該基材への密着性を向上させる置換基等を有していてもよい。上記基材への密着性を向上させる置換基としては、例えば、シロキサン構造、およびチオール基を挙げることができる。このような置換基を上記平面状分子に付与することにより、得られるCNT分散液から形成されるCNT膜の基材への密着性を向上させることができる。これにより、本発明にかかるCNT分散液の用途の幅を広げることができる。
【0049】
上記平面状分子は、金属イオンに配位することが可能な基や、必要に応じて上記その他の置換基を所望に配置させた分子を設計することにより得ることができる。本発明における平面状分子の具体的な構造の一実施形態については、以下に説明するが、本発明は、後述する平面状分子に限定されるものではない。つまり、上記金属錯体を形成できるように設計された平面状分子であれば、いかなる構造の平面状分子でも用いることができる。このような平面状分子を設計することは、当業者にとって容易になしうるものである。
【0050】
ここで、本発明における平面状分子の具体的な構造の一実施形態について説明する。上記平面状分子としては、例えば、8−キノリノール、ピリジン、フェナントロリン、サレン、アセチルアセトン、およびベンゼン−1,2−ジチオール、並びにそれらの誘導体を挙げることができる。具体的には、下記一般式(1)〜(6)
【0051】
【化3】

【0052】
で表される平面状分子を挙げることができる。上記一般式(1)〜(6)において、R〜R10はそれぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アルキルシリル基、アルキルアミノ基、アリール基、アリールアルキル基、アリールアルコキシ基、アリールアルキニル基、アリールアミノ基、複素環化合物基、シアノ基、ニトロ基、水酸基、エステル基またはハロゲン原子である。また、R〜R10は、隣り合う置換基間で、環状構造を形成していてもよい。つまり、例えば、上記一般式(1)において、RとRとが環状構造を形成したり、RとRとが環状構造を形成したり、RとRとが環状構造を形成したり、RとRとが環状構造を形成したり、RとRとが環状構造を形成したりしていてもよい。
【0053】
上記一般式(1)〜(6)で表される平面状分子によれば、該平面状分子の2分子が、上記金属イオンに配位して、下記一般式(7)〜(12)
【0054】
【化4】

【0055】
(式中、R〜R10は、それぞれ、独立して、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アルキルシリル基、アルキルアミノ基、アリール基、アリールアルキル基、アリールアルコキシ基、アリールアルキニル基、アリールアミノ基、複素環化合物基、シアノ基、ニトロ基、水酸基、エステル基またはハロゲン原子であり、MはCu、Ni、Co、Pt、またはPdであり、Xは対アニオンであり、Yは対カチオンである。また、R〜R12は、隣り合う置換基間で、環状構造を形成していてもよい。)
で表される金属錯体を形成することができる。このような金属錯体は、平面構造を有するため、CNTとの相互作用が強い。それゆえ、CNTを有機溶媒に対して効果的に分散させることができる。
【0056】
上記一般式(1)で表される平面状分子としては、より具体的には、下記一般式(13)
【0057】
【化5】

【0058】
(式中、Rは、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アルキルシリル基、アルキルアミノ基、アリール基、アリールアルキル基、アリールアルコキシ基、アリールアルキニル基、アリールアミノ基、複素環化合物基、シアノ基、ニトロ基、水酸基、エステル基またはハロゲン原子である。)
で表される平面状分子を挙げることができる。上記一般式(13)で表される平面状分子によれば、下記一般式(14)
【0059】
【化6】

【0060】
(式中、RおよびRは、それぞれ、独立して、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アルキルシリル基、アルキルアミノ基、アリール基、アリールアルキル基、アリールアルコキシ基、アリールアルキニル基、アリールアミノ基、複素環化合物基、シアノ基、ニトロ基、水酸基、エステル基またはハロゲン原子であり、MはCu、Ni、Co、Pt、またはPdである。)
で表される金属錯体を形成することができる。上記一般式(14)で表される金属錯体としては、より具体的には、下記化学式(15)および(16)
【0061】
【化7】

【0062】
で表される金属錯体を挙げることができる。
【0063】
また、上記一般式(2)で表される平面状分子としては、より具体的には、下記一般式(17)
【0064】
【化8】

【0065】
(式中、RおよびRは、それぞれ、独立して、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アルキルシリル基、アルキルアミノ基、アリール基、アリールアルキル基、アリールアルコキシ基、アリールアルキニル基、アリールアミノ基、複素環化合物基、シアノ基、ニトロ基、水酸基、エステル基またはハロゲン原子である。)
で表される平面状分子を挙げることができる。上記一般式(17)中のRおよびRについて、好ましい置換基としては、例えば、下記化学式(18)
【0066】
【化9】

【0067】
で表される置換基を挙げることができる。上記一般式(17)で表される平面状分子によれば、下記一般式(19)
【0068】
【化10】

【0069】
(式中、R〜Rは、それぞれ、独立して、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アルキルシリル基、アルキルアミノ基、アリール基、アリールアルキル基、アリールアルコキシ基、アリールアルキニル基、アリールアミノ基、複素環化合物基、シアノ基、ニトロ基、水酸基、エステル基またはハロゲン原子であり、MはCu、Ni、Co、Pt、またはPdである。)
で表される金属錯体を形成することができる。上記一般式(19)で表される金属錯体としては、より具体的には、例えば、上記一般式(19)中、R〜Rは上記化学式(18)で表される置換基であり、Mは、Cuである金属錯体(以下、「Cu(II)(bpy)2」ともいう)を挙げることができる。
【0070】
本発明では、上記金属錯体において、上記金属イオンには、単一種の平面状分子が配位していてもよいし、複数種の平面状分子が組み合わされて配位していてもよい。また、本発明において、上記可溶化剤は、単一種の金属錯体を含有していてもよいし、複数種の金属錯体を含有していてもよい。また、上記可溶化剤が、複数種の金属錯体を組み合わせて含有する場合、各金属錯体の含有量は特に限定されるものではない。
【0071】
本発明にかかるCNT分散液の製造方法において用いるCNTおよび可溶化剤は、以上説示したとおりであるが、上記粉砕工程では、上記CNTおよび可溶化剤を容器に入れ、粉砕してCNT混合物を取得する。
【0072】
上記粉砕工程において、上記容器に入れるCNTと可溶化剤との比率は、特に限定されるものではなく、用いるCNTおよび可溶化剤の種類および量によって、適宜変更すればよい。一般的には、例えば、上記可溶化剤を10mg用いる場合、上記容器に入れる可溶化剤とCNTとの質量比は、10:1〜1:200とすることが好ましく、5:1〜1:100とすることがより好ましく、1:1〜1:50とすることがさらに好ましい。このように、本発明によれば、従来よりも少ない添加量の可溶化剤により、CNTを可溶化することができる。
【0073】
上記粉砕工程において、CNTおよび可溶化剤を混合して粉砕する方法は、特に限定されるものではなく、従来公知の粉砕方法を用いればよい。具体的には、例えば、高速振動粉砕法、および超音波照射法を挙げることができる。中でも、高速振動粉砕法を用いることが好ましい。高速振動粉砕法によれば、CNTおよび可溶化剤を、迅速に粉砕することができるため、CNT分散液の生産効率をより向上させることができる。なお、本明細書において、「高速振動粉砕法」とは、「高速振動粉砕装置を用いて固体のCNTと可溶化剤を混合し、各種溶媒により抽出を行なう可溶化方法」が意図される。なお、高速振動粉砕装置としては振動タイプに限らず回転型の遊星型ボールミルを用いてもよい。
【0074】
上記粉砕工程において、高速振動粉砕法を用いて、CNTおよび可溶化剤を混合して粉砕する場合、その粉砕条件は、特に限定されるものではないが、例えば、以下に記載する条件で粉砕することができる。
【0075】
まず、CNTおよび可溶化剤を、硬球と共に容器内に入れ、該容器を振動させる。上記容器は、特に限定されるものではないが、CNTおよび可溶化剤と、硬球とを外界雰囲気から遮断して密閉できる容器であることが好ましい。また、その密閉状態は、該容器を振動させている間も維持されることが好ましい。さらに、密閉状態を生み出すために、容器、より詳細には容器本体と蓋とを、外部からホルダーで固定してもよい。また、上記容器の材料は、振動により生じる衝撃、例えば、容器内で往復運動する硬球が容器内壁と衝突することによって生じる衝撃に耐えうるものであればよく、特に限定されるものではない。具体的には、例えば、ステンレス等の硬い材料から製造される容器を挙げることができる。
【0076】
さらに、上記容器は、振動中に、上記硬球が往復運動できる形状およびサイズの中空部
を備えるが、該中空部の形状およびサイズについては、特に限定されるものではない。上記形状については、具体的には、例えば、円筒形状で、該容器の振動中に、上記硬球が、該円筒形状の一方の端と、もう一方の端との間を、長手方向に往復運動できる形状を挙げることができる。このような形状の中空部を備える容器は、上記CNTおよび可溶化剤の高速振動粉砕法による粉砕に好適に用いることができる。また、上記サイズについては、該容器の振動に用いる装置や、CNT分散液の生産規模に応じて、適宜選択すればよい。
【0077】
上記硬球の形状は、特に限定されるものではなく、上記容器の中空部内において、往復運動するのに適した形状であればよい。例えば、球形を挙げることができる。また、上記硬球の大きさは、上記容器の中空部のサイズに合わせて、適宜選択すればよい。例えば、上記中空部のサイズが底面直径12mm、長手方向長さ50mmである容器と、球形の硬球とを用いる場合、該硬球の直径は、2mm〜10mmであることが好ましく、4mm〜6mmであることがより好ましく、5mmであることが特に好ましい。上記条件によれば、CNTおよび可溶化剤を、高速振動粉砕法により、効率よく粉砕することができる。
【0078】
また、上記硬球は、上記容器の振動中に、該容器の中空部において、該硬球が往復運動し、その結果、CNTが粉砕されるような硬さを有することが好ましい。なお、CNTは、上記硬球と上記容器の中空部の壁部との間で粉砕されることが好ましい。このような硬さを有する硬球としては、例えば、メノウ、スレンレス、アルミナ、ジルコニア、タングステンカーバイド、クロム鋼およびテフロン(登録商標)からなる群より選択される材料から形成される硬球を挙げることができる。
【0079】
上記粉砕工程において、上記容器には、少なくとも1個の上記硬球を入れればよく、該容器に入れる硬球の数は、特に限定されるものではないが、複数個の硬球を上記容器に入れることが好ましい。これにより、往復運動する硬球間においても、CNTおよび可溶化剤が粉砕されるため、上記粉砕工程における粉砕効率を向上させることができる。具体的には、上記溶液内に入れる硬球の数は、上記容器の振動中に、該容器の中空部にて硬球が往復運動し、CNTおよび可溶化剤を混合し、粉砕するのに適した数となるように、適宜設定されるものである。一般的には、1個〜6個であることが好ましく、1個〜4個であることがより好ましく、2個であることがさらに好ましい。
【0080】
上記粉砕工程において、上記容器を振動させる振動数は、特に限定されるものではなく、上記容器の振動中に、該容器の中空部において、該硬球が往復運動し、その結果、CNTおよび可溶化剤が混合され、粉砕される振動数であればよい。具体的には、上記容器の振動中に、該容器の中空部にて硬球が往復運動し、CNTおよび可溶化剤を混合し、粉砕するのに適した振動数で、上記容器を振動させればよい。一般的には、上記容器を振動させる振動数は、3s−1〜120s−1であることが好ましく、10s−1〜60s−1であることがより好ましく、20s−1〜50s−1であることがさらに好ましい。
【0081】
また、上記容器を振動させる方向は、特に限定されるものではなく、上記硬球が上記容器の中空部で往復運動する方向に振動すればよい。具体的には、上記容器および/またはその中空部の形態、または容器の振動機への設置の仕方等に応じて振動させる方向を適宜変更すればよい。一般的に、上記容器の振動方向は、容器中空部の長手方向であり、上記容器の中空部の長手方向が水平方向となるように上記容器を振動機に設置する場合には、その水平方向にて上記容器を左右に往復するように振動させることが好ましい。
【0082】
上記容器を振動させる振幅もまた、特に限定されるものではなく、上記容器の振動中に、該容器の中空部において、該硬球が往復運動し、その結果、CNTおよび可溶化剤が混合され、粉砕される振幅であればよい。具体的には、上記容器の振動中に、該容器の中空部にて硬球が往復運動し、CNTおよび可溶化剤を混合し、粉砕するのに適した振幅で、上記容器を振動させればよい。例えば、底面直径20mm、長手方向長さ65mmの容器(中空部の底面直径12mm、中空部の長手方向長さ50mm)を用い、該容器を中空部長手方向に振動させる場合、振幅は、5mm〜100mmとすることが好ましく、10mm〜80mmとすることがより好ましく、20mm〜50mmとすることがさらに好ましい。なお、ここでいう「振幅」とは、振動に付される容器が振動の中心点を基準にして最大に変位した場合において、中心点から最大変位点までの長さをいう。
【0083】
さらに、上記粉砕工程において、上記容器を振動させる時間もまた、特に限定されるものではないが、振動時間が短すぎると、CNTおよび可溶化剤の混合および/または粉砕が十分に行えない傾向がある。一方、振動時間が長すぎると、得られるCNT分散液中のCNT濃度が低下する傾向がある。したがって、上記振動時間は、そのような不都合が生じないように、上記振動数および振幅等、上述したその他の粉砕条件に応じて、適宜設定することが好ましい。一般的には、上記振動時間は、5分間〜60分間とすることが好ましく、10分間〜30分間とすることが好ましい。
【0084】
上記例示したような条件で、粉砕工程を行うことにより、粉砕されたCNTおよび可溶化剤を含有するCNT混合物を、簡便な方法で、かつ短時間で、取得することができる。
【0085】
(B)分散工程
上記分散工程では、上記粉砕工程において取得されたCNT混合物に有機溶媒を加えて、CNTを該有機溶媒に分散させ、CNTの抽出を行う。これにより、CNT分散液が得られる。
【0086】
上記有機溶媒は、特に限定されるものではなく、用いる可溶化剤に応じて、適宜選択して用いればよい。上記分散工程において好適に用いることが可能な有機溶媒としては、極性溶媒を挙げることができる。具体的には、例えば、クロロホルム、およびアミド系有機溶媒を挙げることができる。上記アミド系有機溶媒としては、1−メチル−2−ピロリドン(以下、「NMP」ともいう)、およびN,N−ジメチルホルムアミド(以下、「DMF」ともいう)を例示できる。上記例示した有機溶媒は、いずれも極性が高い有機溶媒である。また、上記有機溶媒は、単独で用いてもよいし、複数を組み合わせて用いてもよい。
【0087】
また、上記分散工程では、上記CNT混合物に上記有機溶媒を加えた後、超音波処理を行ってもよい。これにより、CNTの上記有機溶媒への分散効率を向上させることができる。上記超音波処理を行う場合、その超音波強度は、特に限定されるものではないが、5W〜100Wとすることが好ましく、10W〜50Wとすることがより好ましい。また、超音波処理時間は、上記超音波強度や、CNTの上記有機溶媒への分散の程度により適宜設定すればよいが、一般的には、1分間〜60分間とすることが好ましく、10分間〜30分間とすることがより好ましい。
【0088】
(C)不溶成分除去工程
上記不溶成分除去工程では、上記分散工程で得られたCNT分散液から、沈殿物を除去する。これにより、沈殿物を含有しないCNT分散液を得ることができる。なお、上述したように、本発明にかかるCNT分散液の製造方法において、上記不溶成分除去工程は、必ずしも行わなくてもよい。上記沈殿物とは、上記有機溶媒に可溶化しなかったCNT、および上記有機溶媒に分散しないCNT以外の成分を意味するものである。
【0089】
上記不溶成分除去工程において、上記CNT分散液から沈殿物を除去する方法は、特に限定されるものではなく、溶液または分散液から、不溶成分を除去することが可能な従来公知の方法を用いればよい。そのような方法としては、例えば、遠心分離法を挙げることができる。また、遠心分離法を用いる場合、その条件は、特に限定されるものではない。除去する沈殿物の種類等に応じて、回転数、遠心分離時間、および温度を適宜設定すればよい。
【0090】
本発明にかかるCNT分散液の製造方法は、以上のような構成を備えているため、CNTが安定に分散するCNT分散液を、簡便に、かつ短時間で製造することができる。また、本発明にかかるCNT分散液の製造方法では、平面状分子を金属イオンに配位させた金属錯体を可溶化剤として用いるため、上記平面状分子としては、比較的低分子量の分子を用いることができる。そのため、可溶化剤の取得にあたり、高分子合成をしたり、複雑な構造を有する化合物を合成したりする必要がない。それゆえ、低コストで、簡便にCNTが安定に分散するCNT分散液を製造することができる。このようなCNT分散液の製造方法は、本発明にかかるCNT分散液を製造するために、好適に用いることができる。
【0091】
<III.カーボンナノチューブ分散液の利用>
本発明にかかるCNT分散液では、少なくとも部分的に束が解離したCNTがほぼ均一に有機溶媒中に存在している。その結果、本発明にかかるCNT分散液を基材の表面に塗布して乾燥することによりCNT膜を得ることができる。このようにして得られたCNT膜は、少なくとも部分的に束が解離したCNTをほぼ一様に含んだ膜となる。このように、本発明にかかるCNT分散液は、CNT膜を製造するために用いることができる。したがって、本発明には、本発明にかかるCNT分散液を用いて形成されたCNT膜、および該CNT膜の製造方法も含まれる。ここで、本発明にかかるCNT膜の製造方法、および本発明にかかるCNT膜について説明する。
【0092】
本発明にかかるCNT膜の製造方法では、本発明にかかるCNT分散液を、基材の表面に塗布して乾燥させる。上記基材は、特に限定されるものではないが、マイカ、および高配向性熱分解グラファイト(HOPG)を好適に用いることができる。また、上記CNT分散液におけるCNT濃度は特に限定されるものではなく、製造するCNT膜の構造に応じて、適宜選択すればよい。
【0093】
また、本発明にかかるCNT膜の製造方法では、CNT分散液として、所望の長さのCNTのみを含有するCNT分散液を用いてもよい。このようなCNT分散液は、本発明にかかるCNT分散液を用いて容易に調製することができる。なお、このような所望の長さのCNTのみを含有するCNT分散液もまた、本発明にかかるCNT分散液に含まれることはいうまでもない。
【0094】
本発明にかかるCNT膜の製造方法において、上記CNT分散液を上記基材の表面に塗布する方法は特に限定されるものではない。例えば、上記CNT分散液を上記基材の表面に、滴下することにより、上記CNT分散液を上記基材の表面に塗布することができる。また、上記基材の表面に上記CNT分散液を塗布した後、乾燥させる方法も特に限定されるものではなく、上記CNT分散液に含まれる有機溶媒を揮発させることが可能な方法であれば、いかなる方法であってもよい。
【0095】
本発明にかかるCNT膜の製造方法は、上記構成を備えているため、少なくとも部分的に束が解離したCNTが配列してなり、厚みが100nm以下のCNT膜を製造することができる。また、上記CNT分散液におけるCNTの濃度を調整することにより、厚みが100nm以下のCNT膜、厚みが10nm以下のCNT膜、厚みが5nm以下のCNT膜、および厚みが1nm以下のCNT膜といった所望の厚みのCNT膜を製造することができる。つまり、本発明にかかるCNT膜の製造方法によれば、上記CNT分散液におけるCNTの濃度を調整することにより、束状が解離した1本のCNTの直径と同等の厚み〜複数本のCNTが重なり合った厚みまで、製造するCNT膜の厚みを所望に制御することができる。
【0096】
本発明にかかるCNT膜は、カーボンナノチューブが配列してなり、厚みが100nm以下、好ましくは10nm以下、より好ましくは5nm以下、さらに好ましくは1nmのCNT膜である。従来のCNT膜は、束状のCNTによって形成されているため、厚みが数μm以上と厚い。これに対して、本発明にかかるCNT膜は、従来のCNT膜と比較して非常に薄い薄膜である。このようなCNT膜は、上述した本発明にかかるCNT膜の製造方法により効率よく製造することができる。本発明にかかるCNT膜は、少なくとも部分的に束が解離したCNTが配列してなる。CNTは溶媒中で束であるよりも、束が解離しているほうが比表面積が増大する。このCNTの比表面積は、束が解離される程度に比例して増大するものと考えられる。つまり、本発明にかかるCNT膜は、少なくとも部分的に束が解離したCNTを含むため、束状のCNTを用いて形成されるCNT膜よりも多い比表面積を有する。また、本発明にかかるCNT膜は、後述の実施例に示すように、CNTが規則的に配列された規則構造を有する。具体的には、一実施形態として、CNTが互いに繋がりあって、約120°の角度で配向されている。
【0097】
このように、本発明にかかるCNT膜は、従来にはない特性を有するため、様々な部材に好適に用いることができる。本発明には、このような本発明にかかるCNT膜を備える部材、並びに該部材を備えるデバイスおよび装置も含まれる。ここで、本発明にかかる部材について説明する。
【0098】
本発明にかかる部材としては、具体的には、例えば、本発明にかかるCNT膜を備えるガス吸蔵品、電極、回路等を挙げることができる。上述したように、本発明にかかるCNT膜は、束状のCNTを用いて形成されるCNT膜よりも比表面積が大きい。それゆえ、本発明にかかるCNT膜をガス吸蔵品に用いる場合、ガス吸蔵量が増加し、より理論値に近いガス吸蔵量を有するガス吸蔵品を製造することができる。こうして得られたガス吸蔵品は、例えば、車、船舶等の水素ガス燃料を保存するために用いることができる。
【0099】
また、本発明にかかるCNT膜を電極に用いる場合、束状のCNTを用いるよりも、電極表面との接触面積を増加させることができる。それゆえ、電極の効率が向上し、より理論値に近い効率を有する電極を製造することができる。こうして得られた電極は、例えば、リチウム二次電池などの負極等として用いることができる。なお、ここでいう「理論値」とは、該部材に含まれる全てのCNTについて、束が解離しているとの仮定に基づく理想状態の水素吸蔵量または電極効率をいう。
【0100】
また、本発明にかかるCNT膜は、回路の配線に用いることができる。本発明にかかるCNT膜は、束状のCNTが解離して、1本ずつにばらばらになったCNTが規則的に配向することによって形成されている。そのため、回路の配線に用いた場合、微細な回路を形成することができる。
【0101】
このような本発明にかかる部材は、本発明にかかるCNT膜の製造方法により製造し、上記基材から剥離したCNT膜を用いて製造することができる。また、該部材の基板、例えば、ガス吸蔵品、電極、または回路形成等に用いる基板または支持板基材の表面に、本発明にかかるCNT分散液を塗布し、乾燥させることにより、該部材の基板上に、直接CNT膜を形成させて、該部材を製造してもよい。つまり、本発明にかかるCNT膜の製造方法において、上記基材として、ガス吸蔵品、電極、または回路形成等に用いる基板または支持板基材を用いてCNT膜を形成することにより、本発明にかかる部材を形成してもよい。
【0102】
また、本発明にかかるCNT分散液は、上記のように、CNT膜に成形して用いる以外の用途に用いることもできる。例えば、従来公知のメンブランフィルターを用いて、本発明にかかるCNT分散液を濾別することによって、そのCNT分散液中に含まれるCNTのみを単独に取り出すことができる。このように取り出されたCNTは、電界放出ディスプレイ(Field Emission Display、「FED」ともいう)用エミッター、光電変換素子、複合材料(プラスティック、ゴムもしくは樹脂等を補強するために混ぜられる材料)または化粧品等の用途に用いることができる。つまり、本発明にかかるCNT分散液は、CNTを用いる部材や組成物に用いるCNTの原料として用いることができる。
【0103】
さらに、本発明にかかるCNT分散液は、CNTを含有する有機高分子材料を製造するために用いることができる。具体的には、例えば、本発明にかかるCNT分散液を、有機高分子材料と混合することによって、CNTの特性を生かした有機高分子材料を製造することができる。上記有機分子材料としては、プラスチックやゴム等の各種高分子樹脂を挙げることができるが、本発明はこれらに限定されるものではない。このようなCNTを含有する有機高分子材料は、コーティング剤や帯電防止剤など、様々な用途に用いることができる。また、本発明にかかるCNT分散液を有機高分子と混合し、従来公知の各種方法を用いて、該混合物を成型し、CNTを含有する部材を製造することができる。このような部材は、導電性が向上した電極など、様々な用途に用いることができる。本発明には、このように、本発明にかかるCNT分散液に含まれるCNTを含有する部材も含まれる。
【0104】
さらに、本発明にかかるCNT分散液は、該CNT分散液から、所望の特性を有するCNTを精製するために用いることができる。CNTは、その製造過程において、特性の異なるCNTが複数混合した混合物として得られる。そのため、CNTの用途によっては、所望の特性を有するCNTのみ精製する必要がある。本発明にかかるCNT分散液によれば、このような所望の特性を有するCNTのみを選択的に取り出すことができる。つまり、本発明には、本発明にかかるCNT分散液を用いてCNTを精製する方法(以下、「本発明にかかるCNT精製方法」ともいう)が含まれる。
【0105】
本発明にかかるCNT精製方法は、具体的には、CNT分散液に含有される金属錯体を電気化学的もしくは化学的に酸化または還元し、CNT分散液中の金属錯体の3次構造を変化させることにより、上記カーボンナノチューブを沈殿させてCNTを精製する方法である。上記3次構造の変化とは、平面構造の金属錯体が非平面構造の金属錯体に変化することが意図される。つまり、上記金属錯体としては、電気化学的もしくは化学的酸化、または電気化学的もしくは化学的還元によって、3次構造が変化する金属錯体を用いる。上述したように、本発明の一実施形態として、上記可溶化剤に含有される金属錯体は平面構造を有する。このような平面構造を有する金属錯体であって、電気化学的もしくは化学的酸化、または電気化学的もしくは化学的還元によって、非平面構造に変化する金属錯体を含有する可溶化剤を用いる。このような金属錯体としては、具体的には、例えば、Cu(II)(bpy)2を挙げることができるが、本発明は該金属錯体に限定されるものではない。Cu(II)(bpy)2は、例えば、アスコルビン酸のような還元剤と反応させることにより、下記反応式(20)
【0106】
【化11】

【0107】
(式中、Rは、上記化学式(18)で表される置換基であり、Mは、Cuである。)
で表されるように、非平面構造であるテトラヘドラル構造のCu(I)(bpy)2に変化する。
【0108】
また、例えば、上記金属錯体の金属イオンが2価であるときには、該金属錯体は平面構造であり、該金属イオンが3価であるときには、該金属錯体が非平面構造である場合には、平面構造である金属錯体を電気化学的もしくは化学的酸化することにより、平面構造の金属錯体を非平面構造の金属錯体に変換することができる。
【0109】
このように、CNT分散液中の金属錯体を、電気化学的もしくは化学的に酸化または還元し、該金属錯体を平面構造から非平面構造に変化させることにより、CNT分散液中のCNTを沈殿(凝集)させ、CNTを精製することができる。また、このように沈殿したCNTは、上記金属錯体をCNTを沈殿させたときとは逆の反応(電気化学的もしくは化学的酸化、または電気化学的もしくは化学的還元)を行うことにより、上記有機溶媒に再分散させることができる。例えば、上記反応式(20)により沈殿させたCNTを、上記反応式(20)とは逆向きの反応を行うことにより、再分散させることができる。
【0110】
本発明にかかるCNT精製方法において、CNT分散液を電気化学的もしくは化学的に還元または酸化する方法は、特に限定されるものではなく、従来公知の方法を用いればよい。また、化学的に還元または酸化する場合に用いる還元剤または酸化剤は特に限定されるものではなく、従来公知の還元剤または酸化剤を用いればよい。上記還元剤としては、例えば、アスコルビン酸、アスコルビン酸誘導体、トコフェロール、およびホルムアルデヒド等を好適に用いることができる。上記金属錯体として、Cu(II)(bpy)2を用いる場合、還元剤として、アスコルビン酸を用いることが好ましい。また、上記酸化剤としては、NOBF等を好適に用いることができる。
【0111】
本発明にかかるCNTの精製方法は、上記構成を備えているため、上記CNT分散液中に含まれるCNTを再沈殿させることにより、精製されたCNTを得ることができる。
【0112】
なお本発明は、以上説示した各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0113】
本発明について、実施例および比較例、並びに図1〜図6に基づいてより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。当業者は本発明の範囲を逸脱することなく、種々の変更、修正、および改変を行うことができる。なお、実施例および比較例において、CNT分散液の可視−近赤外吸収スペクトル測定、ラマンスペクトル測定、および透過型電子顕微鏡(TEM)観察、並びに、CNT膜の原子間力顕微鏡(AFM)観察は以下の方法により行った。
【0114】
〔CNT分散液の可視−近赤外吸収スペクトル測定〕
CNT分散液の400nm〜1600nmまでの紫外−近赤外吸収スペクトルを、Vis−nIR分光光度計を用いて25℃で測定した。
【0115】
〔CNT分散液のラマンスペクトル測定〕
CNT分散液の100cm−1〜1800cm−1の周波数領域のラマンスペクトルを測定した。なお、100cm−1〜200cm−1の低周波数領域は、周波数がチューブ半径に依存するラジアルブリージングモード(radial breathing mode)で測定した。一方、それより高周波数領域では、グラファイトの接線モードで測定した。
【0116】
〔CNT分散液のTEM観察〕
CNT分散液をマイクログリット(日本電子、Cu200)上に数μl滴下し風乾させた後、CNT分散液の分散溶媒を用いて数回洗浄したものを減圧乾燥させた。こうして調製したサンプルをTEMにより観察した。
【0117】
〔CNT膜のAFM観察〕
CNT分散液の10倍希釈溶液を約1cm四方のマイカ基板上に数μl滴下し、風乾させた後、減圧乾燥したものをタッピングモードで観察した。
【0118】
〔実施例1:カーボンナノチューブ分散液の製造〕
1mgの単層CNT、3.33μmolの2Cu(上記化学式(15)においてMがCuの金属錯体)、および2個のメノウボール(球直径5mm)を20mmの底面直径、65mmの長手方向長さを有する円筒形状の密閉容器(該容器に形成される円筒形中空部:底面直径12mm、長手方向長さ50mm)に仕込んだ。
【0119】
その後、該密閉容器を、振動機(レッチェ(Retsch)製、MM200)において、密閉容器中空部の長手方向をほぼ水平にした状態で、約30mmの振幅、約30s−1の振動数で該密閉容器を水平方向に振動させた。
【0120】
約20分間振動させた後、該密閉容器中空部から黒色粉末を取り出した。こうして得られた黒色粉末、約1.6mgに約10mlのクロロホルムを加え、40Wの超音波処理を20分間行った。その後、遠心分離機(ベックマン・コールター(Bechman Coulter)社製、マイクロフュージ22アール(Microfuge 22R)により、回転数14000rpm、20℃で20分間遠心分離を行った。その後、上清を分取して単層CNTを安定に含むCNT分散液を得た。
【0121】
得られたCNT分散液を用いて、紫外−近赤外吸収スペクトルを、上記の方法に従い測定した。その結果を図1に示す。図1において、2Cuのグラフに示すように、(6,5)ナノチューブのE22およびE11に対応する576nmおよび993nmでの明確な吸収帯が観察された。これらのシャープなファンホッフピークは、束が解離して分散している単層CNTを含むことを示す指標である。つまり、図1から、上記CNT分散液では、CNTの束がクロロホルム中で解離していることが確認できた。特徴的な吸収帯は、550nm〜1200nmの間ではっきりと観察され、この特徴的な吸収帯は、これまでに報告されているCNT分散液のスペクトルの吸収帯と同一であった。
【0122】
さらに、上記CNT分散液について、ラマンスペクトルを、上記の方法に従い測定した。その結果を図2に示す。図2のグラフにおいて、実線で示すように、1583cm−1の高周波数付近にショルダーをもつシャープなピークが観察された。なお、図2中、破線は、上記単層CNTのラマンスペクトルを表す。
【0123】
さらに、透過型電子顕微鏡を用いて、上記CNT分散液中のCNTを観察した。その結果を図3に示す。図3に示すように、上記CNT分散液中では、CNTの束が解離して、CNTが1本ずつばらばらになった状態であることが観察された。
【0124】
以上の結果、上記CNT分散液中には、CNTの束が解離して、CNTがクロロホルムに分散した状態で存在していることが確認できた。また、上記CNT分散液を室温で放置したところ、少なくとも2週間までは、単層CNTの凝集および沈殿は見られなかった。
【0125】
〔実施例2〜3:カーボンナノチューブ分散液の製造〕
3.33μmolの2Cuの代わりに、3.33μmolの2Pd(実施例2)または3.33μmolの3Cu(実施例3)を用いたことを除いて、実施例1と同様の方法により、CNT分散液を製造した。なお、2Pdは、上記化学式(15)において、MがPdの金属錯体である。また、3Cuは、上記化学式(16)で表される金属錯体である。
【0126】
得られたCNT分散液について、上記の方法に従い、可視−近赤外吸収スペクトルを測定した。その結果を図1に示す。図1において、2Pdのグラフで示すように、実施例2のCNT分散液は、(6,5)ナノチューブのE22およびE11に対応する576nmおよび993nmでの明確な吸収帯が観察された。つまり、実施例2のCNT分散液では、CNTの束がクロロホルム中で解離し、CNTが分散していることが確認できた。また、図1において、3Cuのグラフに示すように、実施例3のCNT分散液は、(6,5)ナノチューブのE22およびE11に対応する576nmおよび993nmでの吸収帯がわずかに観察された。つまり、実施例3のCNT分散液では、CNTの束がクロロホルム中でわずかに解離し、CNTが分散していることが確認できた。また、実施例2および3のCNT分散液を室温で放置したところ、いずれのCNT分散液とも、少なくとも2週間までは、単層CNTの凝集および沈殿は見られなかった。
【0127】
以上の実施例1〜3の結果から、2Cu、2Pd、3Cuの中では、2Pdが最もCNTを可溶化する能力が高く、3Cuが最もCNTを可溶化する能力が低いことが分かった。
【0128】
〔実施例4:カーボンナノチューブ分散液の製造〕
(1)Cu(II)(bpy)2錯体の調製
ビピリジン誘導体(bpy)11.21mgとCu(OTf)1.757mgをTHF 1mlに溶解した。一度溶媒を留去し、減圧乾燥して、Cu(II)(bpy)2錯体を得た。
【0129】
(2)Cu(II)(bpy)2によるナノチューブ分散
Cu(II)(bpy)2 7.90mg(3.33μmol)と単層CNT(SWNTs(CoMoCAT))1mgを高速振動粉砕(30s−1、20min)した後、得られた粉体をCHCl 10mlで抽出した。抽出溶液に超音波処理(バス型、20min)を行い、遠心分離(14000rpm、20min)により不溶成分を除去して、CNT分散液を得た。得られたCNT分散液を図5の左端パネルに示す。
【0130】
図5の左端パネルに示すように、単層CNTは、Cu(II)(bpy)2錯体によって、クロロホルム中に分散させることができた。
【0131】
〔実施例5:カーボンナノチューブ膜の製造〕
実施例1で製造したCNT分散液を、クロロホルムで10倍に希釈した後、該一滴マイカの表面に滴下し、乾燥させることによって、CNT膜を製造した。得られたCNT膜について、上記の方法に従い、AFM観察を行った。その結果を図4(b)および(c)に示す。図4(b)に示すように、上記CNT膜において、CNTは互いに繋がりながら120°の角度で配向し、規則構造を形成していた。また、図4(b)中の線分区間について、高さプロファイル(膜厚)を測定したところ、いずれの点においても1nm以下であり、CNT1本の太さとほぼ一致した。このことから、上記CNT膜においては、CNTの束は解離しており、1本ずつばらばらになったCNTによってCNT膜が形成されていることが確認できた。
【0132】
〔実施例6:カーボンナノチューブの精製〕
実施例4で製造したCNT分散液3mlを分取し、Cu(II)(bpy)2錯体に対して1.6当量のアスコルビン酸を添加した(153.6mMアスコルビン酸メタノール溶液を10μl添加)。そして、軽く撹拌を行ったところ、図5の中央パネルに示すように、呈色の変化と凝集が生じた。さらに、アスコルビン酸添加により、凝集が生じたCNT分散液を遠心分離を行ったところ、図5の右端パネルに示すように、CNTの沈殿が生じた。
【0133】
また、呈色の変化は、目視に加え、可視−紫外吸収スペクトル測定によっても確認した。その結果を図6に示す。なお、図6において、実線は、アスコルビン酸添加前のCNT分散液の可視−紫外吸収スペクトルを、破線は、アスコルビン酸添加、遠心分離後の上清の可視−紫外吸収スペクトルを表す。
【0134】
以上の結果、実施例4で製造したCNT分散液をアスコルビン酸で処理することにより、該CNT分散液中のCNTを精製できることが分かった。
【0135】
〔比較例1〕
3.33μmolの2Cuの代わりに、6.66μmolの下記化学式(21)
【0136】
【化12】

【0137】
で表される平面状分子を、実施例1と同様の方法により、CNT分散液の製造を試みた。なお、上記化学式(21)で表される平面状分子は、上記化学式(15)で表される金属錯体を構成する平面状分子である。
【0138】
得られた溶液について、紫外−近赤外吸収スペクトルを、上記の方法に従い測定した。その結果、図1において、1のグラフに示すように、2Cuおよび2Pdに比べ約半分の吸光度であることがわかった。
【0139】
その結果、上記化学式(15)で表される金属錯体を構成する平面状分子(換言すれば、上記化学式(21)で表される平面状分子)は、それ単独ではCNTを可溶化する能力が低いことがわかった。なお、これは、上記化学式(15)で表される金属錯体がπ共役が伸びてπ系が大きいのに対して、モノマーである化学式(21)で表される平面状分子では、π系が小さいためと考えられる。
【0140】
〔比較例2〕
2Cuを一滴マイカの表面に滴下し、乾燥させた。その後、上記の方法に従い、AFM観察を行った。その結果、図4(a)に示すように、実施例5で観察されたような規則構造は観察されなかった。このことから、実施例5の規則構造は、CNTによって形成されたものであることが確認できた。
【0141】
なお本発明は、以上説示した各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態や実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態や実施例についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。
【産業上の利用可能性】
【0142】
以上のように、本発明は、金属イオンに平面構造を有する分子が配位してなる金属錯体を含有する可溶化剤を用いるため、有機溶媒中に、該カーボンナノチューブを安定に分散させることができる。また、本発明にかかるCNT分散液によれば、CNTが配列されたCNT膜を製造することができる。このように、CNT膜において配列されたCNT(言い換えれば、CNTの配列構造)は、配線として用いることができる。したがって、本発明は、電極などの導電性材料や、帯電防止剤、コーティング剤、ガス吸蔵品、電界放出ディスプレイ用エミッタ、光電変換素子、プラスティック、ゴム、または樹脂などに混合される複合材料、化粧品等の部材や製品およびそれらの製造分野に用いることができる。また、溶液状のカーボンナノチューブを用いる様々な部品や製品、およびその製造分野に幅広く利用することができる。さらに、上記部品や製品を用いて構成される装置や機器およびそれら製造にかかる産業分野、並びにそれら装置、機器を使用する産業分野にも広く応用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0143】
【図1】図1は、実施例および比較例のCNT分散液の可視−近赤外スペクトルを示す図である。
【図2】図2は、実施例および比較例のCNT分散液のラマンスペクトルを示す図である。
【図3】図3は、実施例のCNT分散液のTEM観察像を示す図である。
【図4】図4(a)および(b)は、それぞれ、比較例および実施例のCNT分散液をマイカ上に滴下、乾燥させたときに形成される膜のAFM観察像を示す図であり、図4(c)は図4(b)の膜の高さプロファイルを示す図である。
【図5】図5は、実施例のCNT分散液にアスコルビン酸を添加したときのCNT分散液の変化を示す図である。
【図6】図6は、実施例のCNT分散液にアスコルビン酸を添加する前後の可視−紫外吸収スペクトルを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属イオンに平面構造を有する分子が配位してなる金属錯体を含有する可溶化剤を用いて、カーボンナノチューブを、有機溶媒に分散させることを特徴とするカーボンナノチューブ分散液の製造方法。
【請求項2】
上記金属錯体は、平面構造を有することを特徴とする請求項1に記載のカーボンナノチューブ分散液の製造方法。
【請求項3】
上記平面構造を有する分子は、8−キノリノール、ピリジン、フェナントロリン、サレン、アセチルアセトン、およびベンゼン−1,2−ジチオール、並びにそれらの誘導体からなる群より選択されることを特徴とする請求項1に記載のカーボンナノチューブ分散液の製造方法。
【請求項4】
上記平面構造を有する分子は、下記一般式(1)〜(6)
【化1】

(式中、R〜R10は、それぞれ、独立して、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アルキルシリル基、アルキルアミノ基、アリール基、アリールアルキル基、アリールアルコキシ基、アリールアルキニル基、アリールアミノ基、複素環化合物基、シアノ基、ニトロ基、水酸基、エステル基またはハロゲン原子である。また、R〜R10は、隣り合う置換基間で、環状構造を形成していてもよい。)
で表される分子からなる群より選択されることを特徴とする請求項1に記載のカーボンナノチューブ分散液の製造方法。
【請求項5】
上記金属イオンは、Cu2+、Ni2+、Co2+、Pt2+、およびPd2+からなる群より選択されることを特徴とする請求項1に記載のカーボンナノチューブ分散液の製造方法。
【請求項6】
上記金属錯体は、下記一般式(7)〜(12)
【化2】

(式中、R〜R10は、それぞれ、独立して、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アルキルシリル基、アルキルアミノ基、アリール基、アリールアルキル基、アリールアルコキシ基、アリールアルキニル基、アリールアミノ基、複素環化合物基、シアノ基、ニトロ基、水酸基、エステル基またはハロゲン原子であり、MはCu、Ni、Co、Pt、またはPdであり、Xは対アニオンであり、Yは対カチオンである。また、R〜R12は、隣り合う置換基間で、環状構造を形成していてもよい。)
で表される金属錯体からなる群より選択されることを特徴とする請求項1に記載のカーボンナノチューブ分散液の製造方法。
【請求項7】
高速振動粉砕法を用いて、上記カーボンナノチューブと上記可溶化剤とを混合して粉砕することにより、カーボンナノチューブ混合物を取得し、
該カーボンナノチューブ混合物に、上記有機溶媒を加えて、上記カーボンナノチューブを該有機溶媒に分散させることを特徴とする請求項1に記載のカーボンナノチューブ分散液の製造方法。
【請求項8】
カーボンナノチューブと、金属イオンに平面構造を有する分子が配位してなる金属錯体を含有する可溶化剤と、有機溶媒とを含むことを特徴とするカーボンナノチューブ分散液。
【請求項9】
請求項8に記載のカーボンナノチューブ分散液を、基材の表面に塗布して乾燥させることを特徴とするカーボンナノチューブ膜の製造方法。
【請求項10】
上記基材は、マイカまたは高配向性熱分解グラファイトであることを特徴とする請求項9に記載のカーボンナノチューブ膜の製造方法。
【請求項11】
請求項9または10に記載のカーボンナノチューブの製造方法を用いて製造されたことを特徴とするカーボンナノチューブ膜。
【請求項12】
カーボンナノチューブが配列してなり、厚みが100nm以下であることを特徴とするカーボンナノチューブ膜。
【請求項13】
請求項11または12に記載のカーボンナノチューブ膜を備えることを特徴とする部材。
【請求項14】
請求項8に記載のカーボンナノチューブ分散液を用いて、カーボンナノチューブを製造する方法であって、
上記金属錯体を電気化学的もしくは化学的に酸化または還元し、上記金属錯体の3次構造を変化させることにより、上記カーボンナノチューブを沈殿させることを特徴とするカーボンナノチューブの精製方法。

【図1】
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【図2】
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【図6】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−23886(P2009−23886A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−190159(P2007−190159)
【出願日】平成19年7月20日(2007.7.20)
【出願人】(504143441)国立大学法人 奈良先端科学技術大学院大学 (226)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【Fターム(参考)】