説明

カーボンナノチューブ分散液およびカーボンナノチューブ構造体の製造方法、並びにカーボンナノチューブ構造体

【課題】カーボンナノチューブの膜を形成するのに適したカーボンナノチューブ分散液であって、分散剤を用いること無く、あるいは、分散剤の添加量が少なくてもカーボンナノチューブが均一に分散したカーボンナノチューブ分散液、これを用いたカーボンナノチューブ構造体の製造方法、およびカーボンナノチューブ構造体を提供する。
【解決手段】少なくとも下記構造式Aで表されるカーボンナノチューブ化合物と、これが分散乃至溶解される分散媒とを含むカーボンナノチューブ分散液、これを用いたカーボンナノチューブ構造体の製造方法、およびカーボンナノチューブ構造体である。


二重線はカーボンナノチューブ。R1は水素、置換又は未置換の炭素数1又は2のアルキル基、置換又は未置換のアリール基、若しくは、置換又は未置換のカルボジイミド基。R2は置換又は未置換の炭素数1〜4のアルキル基。mおよびnはそれぞれ独立に1以上の整数。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
カーボンナノチューブの膜を形成するのに適したカーボンナノチューブ分散液およびこれを用いたカーボンナノチューブ構造体の製造方法、並びにこれらにより得られるカーボンナノチューブ構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、フラットパネルディスプレイの応用を目指し透明電極、透明TFTの開発が盛んに行われており、その有力な材料の一つとしてカーボンナノチューブが注目されている。このカーボンナノチューブを透明電極、透明TFTに応用しようとした場合、ある基板に対して均一な薄膜を形成するすることが望まれる。
【0003】
現在あるカーボンナノチューブの薄膜作製方法としては、基板上に触媒金属を直接撒きカーボンナノチューブを合成する方法(CVD法、非特許文献1参照)、ラングミュアー−ブロジェット(LB)法を用いて基板上に製膜させる方法(特許文献1参照)、溶液に分散させ吸引ろ過することで膜にする方法(非特許文献2参照)が報告されている。
【0004】
【特許文献1】特開2002−226209号公報
【特許文献2】特表2002−503204号公報
【非特許文献1】Applied Physics Letters誌 2003年 第82号 2145頁
【非特許文献2】Science誌 2004年 第305号 1273頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、カーボンナノチューブの膜を形成するのに適したカーボンナノチューブ分散液であって、分散剤を用いること無く、あるいは、分散剤の添加量が少なくてもカーボンナノチューブが良好に分散したカーボンナノチューブ分散液、これを用いたカーボンナノチューブ構造体の製造方法、およびカーボンナノチューブ構造体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題は、以下の<1>〜<15>に示す本発明により達成される。
<1> 少なくとも下記構造式Aで表されるカーボンナノチューブ化合物と、
該カーボンナノチューブ化合物が分散乃至溶解される分散媒と、
を含むことを特徴とするカーボンナノチューブ分散液。
【0007】
(構造式A)
【化1】

【0008】
上記式中、二重線で表されるのはカーボンナノチューブであり、R1は水素、置換または未置換の炭素数1または2のアルキル基、置換または未置換のアリール基、若しくは、置換または未置換のカルボジイミド基であり、R2は置換または未置換の炭素数1〜4のアルキル基であり、mおよびnはそれぞれ独立に1以上の整数である。
【0009】
<2> さらに、前記構造式AにおけるR1を含む官能基同士を化学結合させる架橋剤を含むことを特徴とする<1>に記載のカーボンナノチューブ分散液。
【0010】
<3> 前記構造式AにおけるR1が、置換または未置換の炭素数1または2のアルキル基であることを特徴とする<2>に記載のカーボンナノチューブ分散液。
【0011】
<4> 前記分散媒が、前記架橋剤を兼ねることを特徴とする<2>に記載のカーボンナノチューブ分散液。
【0012】
<5> 前記構造式Aにおけるカーボンナノチューブが、単層カーボンナノチューブであることを特徴とする<1>に記載のカーボンナノチューブ分散液。
【0013】
<6> 少なくとも下記構造式Aで表されるカーボンナノチューブ化合物を分散媒に分散乃至溶解してなるカーボンナノチューブ分散液を調製する調製工程と、
得られたカーボンナノチューブ分散液を基体表面に供給する供給工程と、
を含むことを特徴とするカーボンナノチューブ構造体の製造方法。
【0014】
(構造式A)
【化2】

【0015】
上記式中、二重線で表されるのはカーボンナノチューブであり、R1は水素、置換または未置換の炭素数1または2のアルキル基、置換または未置換のアリール基、若しくは、置換または未置換のカルボジイミド基であり、R2は置換または未置換の炭素数1〜4のアルキル基であり、mおよびnはそれぞれ独立に1以上の整数である。
【0016】
<7> 調製工程において調製するカーボンナノチューブ分散液に、前記構造式AにおけるR1を含む官能基同士を化学結合させる架橋剤を含有させることを特徴とする<6>に記載のカーボンナノチューブ構造体の製造方法。
【0017】
<8> 調製工程において分散させるカーボンナノチューブ化合物の前記構造式AにおけるR1が、置換または未置換の炭素数1または2のアルキル基であることを特徴とする<7>に記載のカーボンナノチューブ構造体の製造方法。
【0018】
<9> 前記分散媒が、前記架橋剤を兼ねることを特徴とする<7>に記載のカーボンナノチューブ構造体の製造方法。
【0019】
<10> 調製工程において分散させるカーボンナノチューブ化合物の前記構造式Aにおけるカーボンナノチューブが、単層カーボンナノチューブであることを特徴とする<6>に記載のカーボンナノチューブ構造体の製造方法。
【0020】
<11> 供給工程に引き続いて、前記構造式AにおけるR1を含む官能基同士を化学結合させて架橋する架橋工程を含むことを特徴とする<6>に記載のカーボンナノチューブ構造体の製造方法。
【0021】
<12> 調製工程において用いる分散媒が、水および/または水溶性溶媒を含み、
供給工程において、前記基体として、その表面が親水性の基体、またはその表面が親水化処理された基体を用いることを特徴とする<6>に記載のカーボンナノチューブ構造体の製造方法。
【0022】
<13> 少なくとも下記構造式Bで表されるカーボンナノチューブ化合物からなることを特徴とするカーボンナノチューブ構造体。
【0023】
(構造式B)
【化3】

【0024】
上記式中、二重線で表されるのはカーボンナノチューブであり、XはOR1、または構造式Bで表される他のカーボンナノチューブ化合物のカルボニル基と架橋する架橋部位であり、R1は水素、置換または未置換の炭素数1または2のアルキル基、置換または未置換のアリール基、若しくは、置換または未置換のカルボジイミド基であり、R2は置換または未置換の炭素数1〜4のアルキル基であり、mおよびnはそれぞれ独立に1以上の整数である。
【0025】
<14> 上記構造式BにおけるXが、他の構造式Bで表されるカーボンナノチューブ化合物のカルボニル基と架橋する架橋部位であり、かつ該架橋部位が、−O−、−O(CH22O−、−OCH2CHOHCH2O−、−OCH2CH(CH2OH)O−および下記構造式
【0026】
【化4】

【0027】
からなる群より選ばれるいずれかの化学構造であり、カーボンナノチューブの網目構造が形成されてなることを特徴とする<13>に記載のカーボンナノチューブ構造体。
<15> 上記構造式Bにおけるカーボンナノチューブが、単層カーボンナノチューブであることを特徴とする<13>に記載のカーボンナノチューブ構造体。
【発明の効果】
【0028】
<1>にかかる発明は、カーボンナノチューブにカルボキシル基を導入とともに導入される水酸基の水素を適切なアルキル基に置換したものを、分散するカーボンナノチューブとして用いているため、本発明の構成を具備していない場合に比較して、分散剤を用いること無く、あるいはその添加量が少なくても分散性の良好なカーボンナノチューブ分散液を提供することができる。
【0029】
<2>にかかる発明は、カーボンナノチューブが有するCOOR1と架橋反応して相互に化学結合させる架橋剤を含むので、当該分散液を用いてカーボンナノチューブ構造体を形成するとカーボンナノチューブ相互間が架橋された網目構造となり、本発明の構成を具備していない場合に比較して強固な構造体を形成することができる。
【0030】
<3>にかかる発明は、反応性に優れるアルキル置換カルボキシル基をカーボンナノチューブが有しているので、当該分散液を用いてカーボンナノチューブ構造体を形成する場合に、本発明の構成を具備していない場合に比較して架橋反応が進行し易く、より強固な構造体を形成することができる。
【0031】
<4>にかかる発明は、前記架橋剤が前記分散媒を兼ねるため、別途架橋剤を添加しないで済み、材料の無駄が少ない。
【0032】
<5>にかかる発明は、半導体特性を示す単層カーボンナノチューブの分散性の良好な分散液を得ることができる。
【0033】
<6>にかかる発明は、分散剤を用いること無く、あるいはその添加量が少ない分散性の良好なカーボンナノチューブ分散液を基板表面に供給しているため、塗布等の簡便な操作によりカーボンナノチューブ分散液を基板表面に供給するだけで、本発明の構成を具備していない場合に比較して余分な分散剤成分が残存しないカーボンナノチューブ構造体を製造することができる。
【0034】
<7>にかかる発明は、基板表面に供給するカーボンナノチューブ分散液が架橋硬化する組成となっているため、得られるカーボンナノチューブ構造体においてカーボンナノチューブ相互間が架橋された網目構造を構成し、本発明の構成を具備していない場合に比較して屈強な構造体となる。また、架橋により個々のカーボンナノチューブが位置決めされる状態となるため、本発明の構成を具備していない場合に比較して、カーボンナノチューブ構造体形成時にカーボンナノチューブが凝集しにくく、特に膜状の構造体を得ようとする場合であっても、均質なカーボンナノチューブ構造体を製造することができる。
【0035】
<8>にかかる発明は、基板表面に供給するカーボンナノチューブ分散液中のカーボンナノチューブが、反応性に優れるアルキル置換カルボキシル基を有しているので、本発明の構成を具備していない場合に比較して架橋反応が進行し易く、より強固な構造体を形成することができる。
【0036】
<9>にかかる発明は、前記架橋剤が前記分散媒を兼ねるため、架橋硬化時に前記架橋剤が分散媒として揮発し、本発明の構成を具備していない場合に比較して、得られるカーボンナノチューブ構造体に余分な架橋剤成分が残存しない。
【0037】
<10>にかかる発明は、半導体特性を示す単層カーボンナノチューブからなるカーボンナノチューブ構造体を得ることができ、特に電気特性上の有用性が期待できる。
【0038】
<11>にかかる発明は、独立した架橋工程を含むため、架橋反応に適した条件でカーボンナノチューブ構造体を架橋硬化することができる。また、その反応機構によっては、その機構による架橋反応に適した条件で架橋工程の操作を施すことにより、架橋剤を含まなくてもカーボンナノチューブの官能基同士を直接化学結合させることができる。
【0039】
<12>にかかる発明は、供給工程において、カーボンナノチューブ分散液とそれが供給される基体表面との馴染みが良好であるため、特にカーボンナノチューブ分散液を塗布により供給する場合に、カーボンナノチューブ分散液が基体表面に均一に広がり、本発明の構成を具備していない場合に比較して、均質なカーボンナノチューブ構造体を製造することができる。
【0040】
<13>にかかる発明は、分散剤を用いること無く、あるいはその添加量が少なくても分散性が良好となるカーボンナノチューブ化合物を含むカーボンナノチューブ分散液を用いて形成されてなるカーボンナノチューブ構造体なので、本発明の構成を具備していない場合に比較して、余分な分散剤成分が含まれない。
【0041】
<14>にかかる発明は、カーボンナノチューブ相互間が架橋された網目構造を構成し、本発明の構成を具備していない場合に比較して、強固なカーボンナノチューブ構造体となる。また、架橋により個々のカーボンナノチューブが位置決めされた状態となるため、本発明の構成を具備していない場合に比較して、カーボンナノチューブ構造体形成時にカーボンナノチューブが凝集しにくく、特に膜状の場合であっても均質なカーボンナノチューブ構造体となる。
【0042】
<15>にかかる発明は、骨格を成すカーボンナノチューブが半導体特性を示す単層カーボンナノチューブであるため、特に電気特性上の有用性を期待し得るカーボンナノチューブ構造体を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0043】
以下、本発明のカーボンナノチューブ分散液およびカーボンナノチューブ構造体の製造方法、並びにカーボンナノチューブ構造体について順次詳細に説明する。
【0044】
[カーボンナノチューブ分散液]
本発明のカーボンナノチューブ分散液は、
少なくとも下記構造式Aで表されるカーボンナノチューブ化合物と、
該カーボンナノチューブ化合物が分散乃至溶解される分散媒と、
を含むことを特徴とするものである。
【0045】
(構造式A)
【化5】

【0046】
上記式中、二重線で表されるのはカーボンナノチューブであり、R1は水素、置換または未置換の炭素数1または2のアルキル基、置換または未置換のアリール基、若しくは、置換または未置換のカルボジイミド基であり、R2は置換または未置換の炭素数1〜4のアルキル基であり、mおよびnはそれぞれ独立に1以上の整数である。
【0047】
なお、本発明のカーボンナノチューブ分散液中において、カーボンナノチューブは基本的に分散状態となるが、官能基を有するカーボンナノチューブを親和性の高い分散媒と混合した場合等においては、分散と表現するよりも溶解したと表現した方が妥当ともいえる程に均一性が高まった状態となる場合がある。本発明においては、これらのいずれの状態であっても構わないので、分散乃至溶解してなる、と表した。ただし、以降の説明においては、この分散と溶解とを明確に区別せず、単に「分散」と表現することにする。
【0048】
<カーボンナノチューブ>
本発明において、主要な構成要素であるカーボンナノチューブ(上記構造式Aにおいて骨格を成すカーボンナノチューブCNT)は、単層カーボンナノチューブでも、二層以上の多層カーボンナノチューブでも構わない。いずれのカーボンナノチューブを用いるか、あるいは双方を混合するかは、目的に応じて適宜、選択すればよい。たとえば、カーボンナノチューブ分散液からカーボンナノチューブ構造体を得て、その電気特性を活かそうとする場合には、半導体特性を有する単層カーボンナノチューブを用いることが望まれる場合がある。
【0049】
また、単層カーボンナノチューブの変種であるカーボンナノホーン(一方の端部から他方の端部まで連続的に拡径しているホーン型のもの)、カーボンナノコイル(全体としてスパイラル状をしているコイル型のもの)、カーボンナノビーズ(中心にチューブを有し、これがアモルファスカーボン等からなる球状のビーズを貫通した形状のもの)、カップスタック型カーボンナノチューブ、カーボンナノホーンやアモルファスカーボンで外周を覆われたカーボンナノチューブ等、厳密にチューブ形状をしていないものも、本発明においてカーボンナノチューブとして用いることができる。
【0050】
さらに、カーボンナノチューブ中に金属等が内包されている金属内包カーボンナノチューブ、フラーレンまたは金属内包フラーレンがカーボンナノチューブ中に内包されるピーポッドカーボンナノチューブ等、何らかの物質をカーボンナノチューブ中に内包したカーボンナノチューブも、本発明においてカーボンナノチューブとして用いることができる。
【0051】
以上のように、本発明においては、一般的なカーボンナノチューブのほか、その変種や、種々の修飾が為されたカーボンナノチューブ等、いずれの形態のカーボンナノチューブでも、その反応性から見て問題なく使用することができる。したがって、本発明における「カーボンナノチューブ」には、これらのものが全て、その概念に含まれる。
【0052】
これらカーボンナノチューブの合成は、従来から公知のアーク放電法、レーザーアブレーション法、CVD法のいずれの方法によっても行うことができ、本発明においては制限されない。これらのうち、高純度なカーボンナノチューブが合成できるとの観点からは、磁場中でのアーク放電法が好ましい。
【0053】
用いられるカーボンナノチューブの直径としては、0.3nm以上100nm以下であることが好ましい。カーボンナノチューブの直径が、当該範囲を超えると、合成が困難でありコストの点で好ましくないが、その他の観点からは特に問題は無い。カーボンナノチューブの直径のより好ましい上限としては、30nm以下である。
【0054】
一方、一般的にカーボンナノチューブの直径の下限としては、その構造から見て、0.3nm程度であるが、あまりに細すぎると合成時の収率が低くなる点で好ましくない場合もあるため、その観点から考慮すると1nm以上とすることがより好ましく、10nm以上とすることがさらに好ましい。ただし、その他の観点からは、特にカーボンナノチューブの直径の下限を考慮する必要は無い。
【0055】
用いられるカーボンナノチューブの長さとしては、0.1μm以上100μm以下であることが好ましい。カーボンナノチューブの長さが、当該範囲を超えると、合成が困難、もしくは、合成に特殊な方法が必要となりコストの点で好ましくなく、当該範囲未満であると、一本のカーボンナノチューブにおける官能基(COOR1,OR2)の付加し得る個数が少なくなってしまう点で好ましくない。これらの観点からは、カーボンナノチューブの長さの上限としては、10μm以下であることがより好ましく、下限としては、1μm以上であることがより好ましい。ただし、その他の観点からは、特にカーボンナノチューブの長さの上下限を考慮する必要は無い。
【0056】
使用しようとするカーボンナノチューブの純度が高く無い場合には、カーボンナノチューブ化合物の合成前に、予め精製して、純度を高めておくことが望ましい。本発明においてこの純度は、高ければ高いほど好ましいが、具体的には90%以上であることが好ましく、95%以上であることがより好ましい。純度が低いと、不純物であるアモルファスカーボンやタール等の炭素生成物が混入した分散液となり、所望の特性を得られない場合があるためである。カーボンナノチューブの精製方法に特に制限はなく、従来公知の方法をいずれも採用することができる。
【0057】
<官能基>
上記構造式AにおけるR1は水素、置換または未置換の炭素数1または2のアルキル基、置換または未置換のアリール基、若しくは、置換または未置換のカルボジイミド基である。これらの中でも、合成の容易さや収率等の観点からは、R1は水素、置換または未置換の炭素数1または2のアルキル基が好ましく、カーボンナノチューブ分散液をカーボンナノチューブ構造体製造に用いる場合には、対応する架橋剤が容易に入手可能で反応性に優れる点で、R1は水素、置換または未置換の炭素数1または2のアルキル基が好ましく、特には未置換の炭素数1または2のアルキル基が好ましい。上記観点以外では特にいずれであっても構わないし、置換/未置換についても特に制限は無く、用途によっては適当な置換基で置換されていることが好ましい場合もある。
一方、上記構造式AにおけるR2は置換または未置換の炭素数1〜4のアルキル基である。これらの中でも、合成の容易さや分散性の良好さからは、置換または未置換の炭素数1または2のアルキル基が好ましく、特に未置換のものが好ましい。
【0058】
1つのカーボンナノチューブあたりの官能基(COOR1およびOR2)の個数(mおよびn)としては、それぞれ独立に1個以上であれば特に制限は無く、カーボンナノチューブの長さやカーボンナノチューブ分散液(さらには、それにより製造されるカーボンナノチューブ構造体)の用途等により一概に言えないが、COOR1の個数mとしては、製造されるカーボンナノチューブ構造体を架橋構造とし網目構造を形成しようとする場合には2個以上が好ましく、3個以上がより好ましい。
一方、OR2の個数nとしては、やはりカーボンナノチューブ自体の長さにもよるが、ある程度多い方がカーボンナノチューブ分散液の分散性が良好であるため、2個以上であることが好ましく、3個以上がより好ましい。
【0059】
<カーボンナノチューブ化合物>
既述のカーボンナノチューブには、上記説明した所定の官能基が付加されてカーボンナノチューブ化合物が合成され、本発明のカーボンナノチューブ分散液の調製に供される。このとき付加される官能基は、具体的には、COOR1およびOR2である。換言すれば、上記構造式Aで表されるものが、本発明におけるカーボンナノチューブ化合物である。
【0060】
実際には、カーボンナノチューブにカルボキシル基COOHを導入すると、同時に水酸基OHも自動的に導入されることが知られている。したがって、カーボンナノチューブにCOOR1およびOR2を導入するには、まずカルボキシル基COOHを導入し(同時に水酸基OHも導入され)、付加したCOOHおよびOHの水素を所望のものに置換させるべく反応させればよい。
【0061】
勿論、カルボキシル基COOHを有するカーボンナノチューブを出発原料とすれば、かかるCOOHおよび併せて付加しているOHについて、これらの水素を所望のものに置換させるべく反応させればよい。その他、直接カーボンナノチューブにCOOR1を導入し、その後OHの水素を所望のものに置換させるべく反応させても構わない。
【0062】
カルボキシル基COOHの導入方法(以下、かかる表現においては、同時に水酸基OHも導入されることが省略されている。)としては、特に制限は無く、従来公知の方法をそのまま採用することができる。また、カーボンナノチューブにメカノケミカルな力を与えて、カーボンナノチューブ表面のグラフェンシートをごく一部破壊ないし変性させて、そこにカルボキシル基COOH(または直接COOR1)を導入する方法もある。さらに、製造時点から表面に欠陥を多く有する、カップスタック型のカーボンナノチューブや気相成長法により生成されるカーボンナノチューブを用いると、官能基を比較的容易に導入できる。
【0063】
その他、特許文献2に各種方法が記載されており、目的に応じて、本発明においても利用することができる。なお、カルボキシル基COOHが付加した状態のカーボンナノチューブは、近年では既に上市されており、市場から容易に入手することができるので、本発明においてかかる市販品を用いても勿論構わない。
以下に、前記構造式Aで表されるカーボンナノチューブ化合物の合成方法の一例を説明する。
【0064】
カーボンナノチューブに−COOR1およびOR2を導入するには、一旦、カーボンナノチューブにカルボキシル基COOHを付加し(i)、付随的に付加した水酸基OHの水素をアルキル化(ii)し、さらにカルボキシル基COOHをエステル化(iii)すればよい。勿論、R1=Hの場合には、エステル化すること無しにカルボキシル基COOHを付加(i)するだけで構わない。
【0065】
(i)カルボキシル基の付加
カーボンナノチューブにカルボキシル基を導入するには、酸化作用を有する酸とともに還流すればよい。この操作は比較的容易であり、しかも反応性に富むカルボキシル基を付加することができるため、好ましい。当該操作について、簡単に説明する。
【0066】
酸化作用を有する酸としては、濃硝酸、過酸化水素水、硫酸と硝酸の混合液、王水等が挙げられる。特に濃硝酸を用いる場合には、その濃度としては、5質量%以上が好ましく、60質量%以上がより好ましい。
【0067】
還流は、常法にて行えばよいが、その温度としては使用する酸の沸点付近が好ましい。例えば、濃硝酸では120〜130℃の範囲が好ましい。また、還流の時間としては、30分〜20時間の範囲が好ましく、1時間〜8時間の範囲がより好ましい。
【0068】
還流の後の反応液には、カルボキシル基COOH(および水酸基OH)が付加したカーボンナノチューブ(カーボンナノチューブカルボン酸)が生成しており、室温まで冷却し、必要に応じて分離操作ないし洗浄を行うことで、目的のカーボンナノチューブカルボン酸が得られる。
【0069】
(ii)水酸基のアルコキシ化
水酸基が付加されているカーボンナノチューブカルボン酸にアルコキシ剤を添加することで、目的の官能基−OR2を導入することができる。
用いるアルコキシ剤としては、目的の官能基におけるR2に応じて選択すればよい。例えば、R2がCH3のものであればハロゲン化メチル、硫酸ジメチル等を用いることができる。。
【0070】
(iii)カルボキシル基のエステル化
水酸基がアルコキシ化されたカーボンナノチューブカルボン酸に、アルコールを添加し脱水してエステル化することで、目的の官能基−COOR1を導入することができる。
【0071】
前記エステル化に用いるアルコールは、上記官能基の式中におけるR1に応じて決まる。すなわち、RがCH3であればメタノールであるし、RがC25であればエタノールである。
一般にエステル化には触媒が用いられるが、本発明においても従来公知の触媒、例えば、硫酸、塩酸、トルエンスルホン酸等を用いることができる。本発明では、副反応を起こさないという観点から触媒として硫酸を用いることが好ましい。
【0072】
前記エステル化は、水酸基がアルコキシ化されたカーボンナノチューブカルボン酸に、アルコールと触媒とを添加し、適当な温度で適当な時間還流すればよい。このときの温度条件および時間条件は、触媒の種類、アルコールの種類等により異なり一概には言えないが、還流温度としては、使用するアルコールの沸点付近が好ましい。例えば、メタノールでは60〜70℃の範囲が好ましい。また、還流の時間としては、1〜20時間の範囲が好ましく、4〜6時間の範囲がより好ましい。
エステル化の後の反応液から反応物を分離し、必要に応じて洗浄することで、官能基−COOR1および水酸基OR2が付加したカーボンナノチューブ化合物を得ることができる。
【0073】
本発明のカーボンナノチューブ分散液におけるカーボンナノチューブ化合物の含有量としては、カーボンナノチューブ分散液の用途、カーボンナノチューブの長さ・太さ、単層か多層か、有する官能基の種類・量、架橋剤の有無・種類・量、分散媒やその他添加剤の有無・種類・量、等により一概には言えない。
【0074】
カーボンナノチューブ構造体を製造する用途であれば、カーボンナノチューブ構造体の形成後に適度にカーボンナノチューブが分散状態となっている程度に高濃度であることが望まれ、さらにカーボンナノチューブを相互に架橋硬化させる場合には、硬化後良好な構造体が形成される程度に高濃度であることが望まれるが、塗布適性が低下するので、あまり高くし過ぎないことが望ましい。
【0075】
また、具体的なカーボンナノチューブ化合物の割合としては、既述の如く一概には言えないが、官能基の質量は含めないで、カーボンナノチューブ分散液全量に対し0.01〜10g/l程度の範囲から選択され、0.1〜5g/l程度の範囲が好ましく、0.5〜1.5g/l程度の範囲がより好ましい。
【0076】
<架橋剤>
本発明のカーボンナノチューブ分散液には、必要に応じて架橋剤が含まれる。該架橋剤としては、カーボンナノチューブの有する前記官能基−COOR1と架橋反応を起こすものであればいずれも用いることができる。また、これらの組み合わせにより、その架橋反応による硬化条件(加熱、紫外線照射、可視光照射、自然硬化等)も、自ずと定まってくる。
【0077】
具体的に好ましい前記架橋剤としては、ポリオール、ポリアミン、ポリカルボジイミド、アンモニウム錯体およびポリイソシアネートを挙げることができ、これらからなる群より選ばれる少なくとも1つの架橋剤を選択することが好ましい。下記表1に、カーボンナノチューブの有する官能基と、それに対応する架橋反応可能な架橋剤との組み合わせを、その硬化条件とともに列挙する。
【0078】
【表1】

【0079】
これらの組み合わせの中でも、官能基側の反応性が良好な−COOR(Rは、置換または未置換の炭素数1または2のアルキル基、置換または未置換のアリール基、若しくは、置換または未置換のカルボジイミド基)と、容易に強固な架橋体を形成するポリオール、ポリアミン、アンモニウム錯体、コンゴーレッドおよびcis−プラチンとの組み合わせが好適なものとして挙げられる。
【0080】
なお、本発明で言う「ポリオール」とは、OH基を2以上有する有機化合物の総称であり、これらの中でも炭素数2〜10(より好ましくは2〜5)、OH基数2〜22(より好ましくは2〜5)のものが、架橋性や過剰分投入した時の分散媒適性、生分解性による反応後の廃液の処理性(環境適性)、ポリオール合成の収率等の観点から好ましい。特に上記炭素数は、本発明のカーボンナノチューブ分散液によりカーボンナノチューブ構造体を製造した場合におけるカーボンナノチューブ相互間を狭め実質的な接触状態にする(近づける)ことができる点で、上記範囲内で少ない方が好ましい。具体的には、特にグリセリンやエチレングリコールが好ましく、これらの内の一方もしくは双方を架橋剤として用いることが好ましい。
【0081】
別の視点から見ると、前記架橋剤としては、非自己重合性の架橋剤であることが好ましい。上記ポリオールの例として挙げたグリセリンやエチレングリコールに加え、ブテンジオール、ヘキシンジオール、ヒドロキノンおよびナフタレンジオールは勿論、非自己重合性の架橋剤であり、より一般的に示せば、自身の中に相互に重合反応を生じ得るような官能基の組を有していないことが、非自己重合性の架橋剤の条件となる。逆に言えば、自己重合性の架橋剤とは、自身の中に相互に重合反応を生じ得るような官能基の組を有しているもの(例えば、アルコキシド)が挙げられる。
【0082】
<分散媒>
本発明のカーボンナノチューブ分散液において、既述のカーボンナノチューブ化合物が分散される分散液としては、特に制限は無いが、一般に水系溶剤と称される水や水溶性溶媒が用いられる。また、前記架橋剤を含む場合には、当該架橋剤が分散媒の機能を発現するのが一般的であり両者を兼ねることが好ましいため、分散媒として別途添加するには及ばない。ただし、前記架橋剤のみでは塗布適性が十分で無い場合等必要に応じてさらに添加することができる。
【0083】
使用可能な分散媒としては、特に制限は無く、用いる架橋剤の種類に応じて選択すればよい。具体的には、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−プロパノール、ブタノール、メチルエチルケトン、トルエン、ベンゼン、アセトン、クロロホルム、塩化メチレン、アセトニトリル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)等の水溶性溶媒や、水、酸水溶液、アルカリ水溶液等の水含有溶媒が挙げられる。水溶性溶媒および水(水含有溶媒中の水を含む)は、単独で使用しても両者を混合しても構わない。なお、既述の架橋剤として例示したものは、全て水溶性溶媒に該当する。
かかる溶剤の添加量としては、塗布適性を考慮して適宜設定すればよいが、特に制限は無い。
【0084】
<その他の添加剤>
本発明のカーボンナノチューブ分散液においては、粘度調整剤、分散剤、架橋促進剤等の各種添加剤が含まれていてもよい。ただし、不純物を含まないという本発明の効果に鑑みれば、あまり多量の添加剤を含ませるのは本末転倒であるし、また、本発明のカーボンナノチューブ分散液は分散性が良好であるため、分散剤などは敢えて添加しなくても目的の機能が達せられる可能性が高い。
【0085】
しかし、本発明のカーボンナノチューブ分散液に意図した機能を与えたい場合や、より一層の分散性を求める場合等、適宜各種添加剤を積極的に添加することができる。その他、本発明のカーボンナノチューブ分散液を用いてカーボンナノチューブ構造体を形成する際に、架橋剤による架橋ではなく、例えば縮合反応等による架橋を企図する場合には、官能基結合用の添加剤を添加することもできる。官能基結合用の添加剤については、後述の[カーボンナノチューブ構造体の製造方法]における<架橋工程>の項において詳細に説明する。
【0086】
粘度調整剤は、前記架橋剤もしくは官能基結合用の添加剤のみでは塗布適性が十分で無い場合に添加する。使用可能な粘度調整剤としては、特に制限は無く、用いる架橋剤や官能基結合用の添加剤の種類に応じて選択すればよい。具体的には、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−プロパノール、ブタノール、メチルエチルケトン、トルエン、ベンゼン、アセトン、クロロホルム、塩化メチレン、アセトニトリル、ジエチルエーテル、THF等が挙げられる。
【0087】
これら粘度調整剤の中には、その添加量によっては分散媒としての機能を有するものがあるが、両者を明確に区別することに意義は無い。かかる粘度調整剤の添加量としては、塗布適性を考慮して適宜設定すればよいが、特に制限は無い。
補助的に添加可能な分散剤としては、従来公知の各種界面活性剤、水溶性有機溶剤、水、酸水溶液やアルカリ水溶液等が使用できる。
【0088】
<カーボンナノチューブ分散液の調製>
本発明のカーボンナノチューブ分散液は、上記成分を混合し、溶解乃至分散することで得られる。具体的には、少なくとも前記カーボンナノチューブ化合物を前記分散媒(架橋剤を兼ねる場合を含む。)に溶解乃至分散するが、その他、別途架橋剤や<その他の添加剤>の項で既に説明したその他の添加剤を含める場合には、これらも混合する。そして、塗布適性を考慮して分散媒や粘度調整剤の添加量を調整することで、基体への供給(塗布)に適した本発明のカーボンナノチューブ分散液を調製することができる。
【0089】
混合に際しては、単にスパチュラで攪拌したり、攪拌羽式の攪拌機、マグネチックスターラーあるいは攪拌ポンプで攪拌するのみでも構わないが、より均一にカーボンナノチューブ化合物を分散させて、保存安定性を高めたり、カーボンナノチューブ構造体の製造に用いた場合にカーボンナノチューブの架橋による網目構造を全体にくまなく張り巡らせるには、超音波分散機やホモジナイザーなどで強力に分散させても構わない。ただし、ホモジナイザーなどのように、攪拌のせん断力の強い攪拌装置を用いる場合、含まれるカーボンナノチューブを切断してしまったり、傷付けてしまったりする虞があるので、極短い時間行えばよい。
【0090】
[カーボンナノチューブ構造体の製造方法]
本発明のカーボンナノチューブ構造体の製造方法は、少なくとも下記構造式Aで表されるカーボンナノチューブ化合物を分散媒に分散乃至溶解してなるカーボンナノチューブ分散液を調製する調製工程と、
得られたカーボンナノチューブ分散液を基板表面に供給する供給工程と、
を含むことを特徴とする。
【0091】
(構造式A)
【化6】

【0092】
上記式中、二重線で表されるのはカーボンナノチューブであり、R1は水素、置換または未置換の炭素数1または2のアルキル基、置換または未置換のアリール基、若しくは、置換または未置換のカルボジイミド基であり、R2は置換または未置換の炭素数1〜4のアルキル基であり、mおよびnはそれぞれ独立に1以上の整数である。
【0093】
また、架橋された網目構造のカーボンナノチューブ構造体を形成する場合には、供給工程に引き続いて、前記構造式AにおけるR1を含む官能基同士を化学結合させて架橋する架橋工程を含むことが好ましい。
以下、工程ごとに説明する。
【0094】
<調製工程>
本発明において、「調製工程」とは、少なくとも前記構造式Aで表されるカーボンナノチューブ化合物を分散媒に分散乃至溶解してなるカーボンナノチューブ分散液、すなわち前記本発明のカーボンナノチューブ分散液を調製する工程である。調製工程についての詳細は、[カーボンナノチューブ分散液]における<カーボンナノチューブ分散液の調製>の項において既に述べた通りである。
【0095】
<供給工程>
本発明において、「供給工程」とは、適当な基体の表面に、調製工程で得られたカーボンナノチューブ分散液を供給する工程である。なお、供給工程において前記カーボンナノチューブ分散液は、前記基体の表面の全面に供給しなければならないわけではない。
【0096】
本工程において供給は、簡便には、前記カーボンナノチューブ分散液を前記基体表面に塗布すればよい。塗布することにより、簡便で低コスト、かつ短時間で膜状のカーボンナノチューブ構造体(以下、膜状の物を特に「カーボンナノチューブ膜」という場合がある。)を形成するための層を供給することができる。
【0097】
当該塗布方法に制限はなく、単に液滴を垂らしたり、それをスキージで塗り広げたりする方法から、一般的な塗布方法まで、幅広くいずれの方法も採用することができる。一般的な塗布方法としては、スピンコート法、ワイヤーバーコート法、キャストコート法、ロールコート法、刷毛塗り法、浸漬塗布法、スプレー塗布法、カーテンコート法等が挙げられる。
【0098】
カーボンナノチューブ分散液の供給方法としては、以上説明した塗布によることが簡便ではあるが、基体表面にカーボンナノチューブ分散液を供給することが可能であれば如何なる方法であっても構わない。例えば、カーボンナノチューブ分散液を所望の形状の型に注入することも可能である。この場合、当該「型」が基体に相当し、「基体表面」とは型の内部のカーボンナノチューブ分散液が接する面を指す。型の形状を適宜設計することで、任意の形状のカーボンナノチューブ構造体を製造することができる。
【0099】
前記基体とは、カーボンナノチューブ構造体を形成しようとする対象を指し、その材質や形状に制限は無い。また、それ自身がカーボンナノチューブ構造体を形成する対象ではなく、形成後のカーボンナノチューブ構造体を剥離して用いる場合のいわゆる「剥離紙」としての機能を持たせたり、形成後のカーボンナノチューブ構造体を他の部材に転写して用いる場合のいわゆる「転写紙」としての機能を持たせたり等の場合も、本発明に言うカーボンナノチューブ形成対象としての「基体」となる。勿論、これらの場合に、基体の材質が「紙」であることは要求されない。
【0100】
前記基体は、一般的には板状乃至シート状の基板である。ただし、本発明において、基体は基板であることは要求されず、少なくともカーボンナノチューブ分散液の供給対象となる面が、ある程度の平面を有していればよく、当該表面が平滑であることが好ましい。
【0101】
具体的な基体の材料としては、例えば、シリコンウエファーや石英ガラス、サファイヤ、フッ素樹脂(例えば、テフロン(登録商標))等を挙げることができる。
調製工程において用いる分散媒が水および/または水溶性溶媒を含む場合には、前記基体として、その表面が親水性の基体、またはその表面が親水化処理された基体を用いることが望ましい。
【0102】
表面が親水性の基体としては、各種金属材料、石英ガラス、あるいはサファイヤからなる基体が挙げられる。
基体表面の親水化処理方法としては、特に制限は無く、従来公知の親水化処理方法を適宜採用することができる。具体的に好ましい親水化処理方法としては、例えば、紫外線(UV)アッシング処理、プラズマアッシング処理等が挙げられる。
望ましい親水性の程度としては、用いる分散媒の種類や所望とする均質さ等にもよるので特に制限は無いが、水に対する接触角として40°以下であることが好ましく、20°以下であることがより好ましい。
【0103】
<架橋工程>
本発明において、「架橋工程」とは、前記構造式AにおけるR1を含む官能基同士を化学結合させて架橋する工程である。架橋された網目構造のカーボンナノチューブ構造体を形成する場合に本工程の操作を独立して行うことが望ましいが、放置しておくだけで架橋反応が進む場合には、敢えて当該工程の操作を行わなくても構わない。
【0104】
前工程の供給工程がカーボンナノチューブ分散液を塗布する構成の場合には、塗布後の当該分散液を硬化して、前記複数のカーボンナノチューブが相互に架橋した網目構造を構成するカーボンナノチューブ膜を形成する工程である。なお、架橋工程で前記カーボンナノチューブ分散液を硬化して、カーボンナノチューブ構造体を形成すべき領域は所望の領域を全て含んでさえいればよく、前記基体の表面に供給された前記カーボンナノチューブ分散液を全て硬化しなければならないわけではない。
【0105】
既述の如く、架橋反応を促すための架橋剤をカーボンナノチューブ分散液に含める場合、架橋工程における操作は、官能基COOR1の種類と前記架橋剤との組み合わせに応じて、自ずと決まってくる。例えば、前掲の表1に示す通りである。熱硬化性の組み合わせであれば、各種ヒータ等により加熱すればよいし、紫外線硬化性の組み合わせであれば、紫外線ランプで照射したり、日光下に放置しておけばよい。勿論、自然硬化性の組み合わせであれば、そのまま放置しておけば十分である。
【0106】
官能基−COOR1のR1として、置換または未置換の炭素数1または2のアルキル基、置換または未置換のアリール基、若しくは、置換または未置換のカルボジイミド基が付加したカーボンナノチューブと、ポリオール(中でもグリセリンおよび/またはエチレングリコール)との組み合わせの場合には、加熱による硬化(エステル交換反応によるポリエステル化)が行われる。加熱により、エステル化したカーボンナノチューブカルボン酸の−COORと、ポリオールのR'−OH(R'は、置換または未置換の炭化水素基である。R'は、好ましくは−Cn2n-1、−Cn2nまたは−Cn2n+1から選ばれ、nは1〜10の整数であり、これらが置換されたものを含む。)とがエステル交換反応する。そして、かかる反応が複数多元的に進行し、カーボンナノチューブが架橋していき、最終的にカーボンナノチューブが相互に接続して網目構造となったカーボンナノチューブ構造体が形成される。
【0107】
上記の組み合わせの場合に好ましい条件について例示すると、加熱温度としては、具体的には50〜500℃の範囲が好ましく、120〜200℃の範囲がより好ましい。また、この組み合わせにおける加熱時間としては、具体的には1分〜10時間の範囲が好ましく、1〜2時間の範囲がより好ましい。
【0108】
架橋工程は、官能基−COOR1同士を、架橋剤によらずに直接化学結合させて架橋反応させる操作であっても構わない。官能基同士を化学結合させる反応としては、脱水縮合が挙げられる。
官能基同士を化学結合させるに際しては、前記官能基同士の化学結合を生じさせる添加剤(官能基結合用の添加剤)を用いることができる。かかる添加剤としては、カーボンナノチューブの有する前記官能基同士を反応させるものであればいずれも用いることができる。
【0109】
前記官能基同士を化学結合させる反応が脱水縮合である場合には、官能基結合用の添加剤として縮合剤を添加することが好ましい。具体的に好ましい縮合剤としては、酸触媒、脱水縮合剤、たとえば硫酸、N−エチル−N'−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド、ジシクロヘキシルカルボジイミドを挙げることができ、これらからなる群より選ばれる少なくとも1つの縮合剤を選択することが好ましい。
【0110】
脱水縮合で用いる前記官能基としては、−COOHを特に好適なものとして挙げることができる。カーボンナノチューブにカルボキシル基を導入することは、比較的容易であり、しかも得られる物質(カーボンナノチューブカルボン酸)は、反応性に富む。このため網目構造を形成するための官能基を、一本のカーボンナノチューブの複数箇所に導入しやすく、さらにこの官能基は脱水縮合しやすいことから、架橋した網目構造の形成に適している。脱水縮合で用いる前記官能基が−COOHである場合、特に好適な縮合剤としては、既述の硫酸、N−エチル−N'−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミドおよびジシクロヘキシルカルボジイミドである。
【0111】
[カーボンナノチューブ構造体]
本発明のカーボンナノチューブ構造体は、少なくとも下記構造式Bで表されるカーボンナノチューブ化合物からなることを特徴とするものである。
【0112】
(構造式B)
【化7】

【0113】
上記式中、二重線で表されるのはカーボンナノチューブであり、XはOR1、または構造式Bで表される他のカーボンナノチューブ化合物の官能基COと架橋する架橋部位であり、R1は水素、置換または未置換の炭素数1または2のアルキル基、置換または未置換のアリール基、若しくは、置換または未置換のカルボジイミド基であり、R2は置換または未置換の炭素数1〜4のアルキル基であり、mおよびnはそれぞれ独立に1以上の整数である。
【0114】
本発明のカーボンナノチューブ構造体は、既述の[カーボンナノチューブ構造体の製造方法]の項で説明した方法により製造することができる。また、本発明のカーボンナノチューブ構造体に含まれる上記構造式Bで表されるカーボンナノチューブ化合物の好ましい官能基COXおよびOR2については、Xが架橋部位である場合を除き、それぞれ官能基COOR1およびOR2の好ましいものとして、[カーボンナノチューブ分散液]における<カーボンナノチューブ化合物>の項において説明したとおりである。これら官能基の数mおよびnについても同項に示したとおりである。
【0115】
カーボンナノチューブ構造体の骨格を成すカーボンナノチューブ、すなわち前記構造式Bにおけるカーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブでも多層カーボンナノチューブでもよく、目的、用途、所望する機能等に応じて適宜選択すればよい。例えば、電気特性上の有用性を期待する場合には、半導体特性を示す単層カーボンナノチューブを用いればよい。
【0116】
本発明のカーボンナノチューブ構造体において、含まれるカーボンナノチューブ化合物の上記構造式B中のXが架橋部位である場合には、当該構造体は、カーボンナノチューブ同士が相互に架橋した網目構造となる(以下、単に「架橋カーボンナノチューブ構造体」という場合がある。)。
【0117】
架橋カーボンナノチューブ構造体は、カーボンナノチューブがネットワーク化された状態、マトリックス状に硬化した状態となり、カーボンナノチューブ同士が架橋部位を介して接続している。すなわち、当該架橋カーボンナノチューブ構造体は、カーボンナノチューブ相互が緊密に接続しており、しかも他の結着剤等を含まず、実質的(官能基や他の添加剤等は考慮せず。)にカーボンナノチューブのみからなる。
【0118】
当該架橋部位の構造は、カーボンナノチューブ分散液に架橋剤を用いた場合には当該架橋剤により決する。すなわち、前記カーボンナノチューブ化合物が有する前記官能基と前記架橋剤との架橋反応による架橋部位は、前記官能基の架橋反応後に残存する残基同士を、前記架橋剤の架橋反応後に残存する残基である連結基で連結した架橋構造となっている。
【0119】
この場合、カーボンナノチューブ構造体の製造に供するカーボンナノチューブ分散液においては、その構成要素である架橋剤が非自己重合性であることが好ましい。前記架橋剤が非自己重合性であれば、最終的に形成される架橋カーボンナノチューブ構造体における前記連結基については、前記架橋剤1つのみの残基により構成されることになり、架橋されるカーボンナノチューブ相互の間隔を、使用した架橋剤の残基のサイズに制御することができるため、所望のカーボンナノチューブのネットワーク構造を高い再現性で得られるようになる。また、カーボンナノチューブ間に架橋剤が多重に介在しないので、架橋カーボンナノチューブ構造体内のカーボンナノチューブの実質的な密度を高めることができる。さらに架橋剤の残基のサイズを小さくすれば、電気的にも物理的にも極めて近接した状態(カーボンナノチューブ相互が、実質的に直接接触した状態)に、カーボンナノチューブ相互の間隔を構成することができる。
【0120】
なお、架橋剤に単一の非自己重合性のものを選択したカーボンナノチューブ分散液により、架橋カーボンナノチューブ構造体を形成した場合、当該構造体における前記架橋部位は、同一の架橋構造となる(例示1)。また、架橋剤に複数種の非自己重合性の架橋剤を選択したカーボンナノチューブ分散液により、架橋カーボンナノチューブ構造体を形成した場合であっても、当該構造体における前記架橋部位は、主として用いた非自己重合性の架橋剤の架橋構造が主体的となる(例示2)。
【0121】
これに対して、架橋剤が単一であるか複数種であるかを問わず、架橋剤に自己重合性のものを選択したカーボンナノチューブ分散液により、架橋カーボンナノチューブ構造体を形成した場合、当該構造体におけるカーボンナノチューブ同士が架橋する架橋部位は、架橋剤同士の連結(重合)個数が異なる数多くの連結基が混在した状態となり、特定の架橋構造が主体的とはなり得ない。
【0122】
つまり、前記架橋剤として非自己重合性のものを選択すれば、カーボンナノチューブ構造体におけるカーボンナノチューブ同士が架橋する架橋部位が、架橋剤1つのみの残基で官能基と結合するため、主として同一の架橋構造となる。なお、ここで言う「主として同一」とは、上記(例示1)の如く、架橋部位の全てが同一の架橋構造となる場合は勿論のこと、上記(例示2)の如く、架橋部位全体に対して、主として用いた非自己重合性の架橋剤による架橋構造が主体的となる場合も含む概念とする。
【0123】
「主として同一」と言った場合に、全架橋部位における「同一である架橋部位の割合」としては、例えば架橋部位において、カーボンナノチューブのネットワーク形成とは目的を異にする機能性の官能基や架橋構造を付与する場合も想定されることから、一律に下限値を規定し得るわけではない。ただし、強固なネットワークでカーボンナノチューブ特有の高い電気的ないし物理的特性を実現するためには、全架橋部位における「同一である架橋部位の割合」としては、個数基準で50%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましく、90%以上であることがさらに好ましく、全て同一であることが最も好ましい。これらの個数割合は、赤外線スペクトルで架橋構造に対応した吸収スペクトルの強度比を計測する方法等により求めることができる。
【0124】
このように、カーボンナノチューブ同士が架橋する架橋部位が、主として同一の架橋構造の架橋カーボンナノチューブ構造体であれば、カーボンナノチューブの均一なネットワークを所望の状態に形成することができ、電気的ないし物理的特性を、均質で良好、さらには期待した特性もしくは高い再現性をもって構成することができる。
【0125】
また、前記連結基としては、炭化水素を骨格とするものが好ましい。ここで言う「炭化水素を骨格」とは、架橋されるカーボンナノチューブの官能基の架橋反応後に残存する残基同士を連結するのに資する、連結基の主鎖の部分が、炭化水素からなるものであることを言い、この部分の水素が他の置換基に置換された場合の側鎖の部分は考慮されない。勿論、連結基全体が炭化水素からなることが、より好ましい。
【0126】
前記炭化水素の炭素数としては2〜10個とすることが好ましく、2〜5個とすることがより好ましく、2〜3個とすることがさらに好ましい。なお、前記連結基としては、2価以上であれば特に制限は無い。
【0127】
一方、カーボンナノチューブ分散液に架橋剤を用いず官能基同士を直接化学結合させる場合、前記架橋部位の構造は、前記官能基の架橋反応後に残存する残基同士が連結した架橋構造となっている。この場合も、当該架橋カーボンナノチューブ構造体は、マトリックス状にカーボンナノチューブ同士が架橋部位を介して接続し、カーボンナノチューブ相互が緊密に接続しており、しかも他の結着剤等を含まないことから、実質的にカーボンナノチューブのみから構成されたものであると言うことができる。
【0128】
また官能基同士を直接反応させて架橋部位を形成しているため、架橋カーボンナノチューブ構造体中のカーボンナノチューブの実質的な密度を高めることができ、電気的にも物理的にも極めて近接した状態にカーボンナノチューブ相互の間隔を構成することができる。さらに、架橋部位が官能基同士の化学結合であり主として同一の架橋構造となるので、カーボンナノチューブの均一なネットワークを所望の状態に形成することができ、期待した特性もしくは高い再現性をもって構成することができる。
用いた架橋剤や架橋反応の種類と架橋部位(前記構造式BにおけるX)との組合せを下記表2に例示する。これらが特に好ましい架橋部位の例示である。
【0129】
【表2】

【0130】
上記表2に示すとおり、架橋剤としてグリセリンを用いた場合には、架橋部位が3種類の構造を取り得るが、これはグリセリンが3官能であるためであり、OH基2つが架橋に寄与すれば上2段の構造となり、OH基3つが架橋に寄与すれば最下段の構造となる。
【0131】
本発明のカーボンナノチューブ構造体がカーボンナノチューブ膜である場合に、その厚みとしては、用途に応じて、極薄いものから厚めのものまで、幅広く選択することができる。使用する前記カーボンナノチューブ分散液中のカーボンナノチューブの含有量を下げ(単純には、薄めることにより粘度を下げ)、これを薄膜状に塗布すれば極薄い膜となり、同様にカーボンナノチューブの含有量を上げれば厚めの膜となる。さらに、塗布を繰返せば、より一層厚膜のカーボンナノチューブ構造体を得ることもできる。極薄いカーボンナノチューブ構造体としては、1nm程度の厚みから十分に可能であり、重ね塗りにより上限無く厚い膜を形成することが可能である。一回の塗布で可能な厚膜としては、5μm程度である。
また、含有量などを調整したカーボンナノチューブ分散液を型に注入し、必要に応じて架橋させることで所望の形状にすることも可能である。
【0132】
なお、カーボンナノチューブ相互間を架橋しない、すなわち網目構造を形成していない状態の場合、カーボンナノチューブ同士が物理的に接触して形状を保持しているが、この場合も本発明において「構造体」の概念に含めるものとし、本発明の構成を具備する限りカーボンナノチューブ構造体の範疇に勿論含まれる。
【0133】
以上、本発明のカーボンナノチューブ構造体およびその製造方法について説明したが、本発明はこれら具体例に限定されるものではなく、従来公知の知見に従い種々の変更や改良を加えることができる。勿論、本発明の構成を具備する限り、各種変更や改良を加えても本発明の範疇に含まれることは言うまでもない。
【実施例】
【0134】
次に、実施例を挙げて、本発明をより具体的に説明する。勿論、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0135】
<実施例1>
(1.アルカリ洗浄)
カルボキシル基を有する単層カーボンナノチューブSWCNT−COOH(アルドリッチ製)500mgに0.1mol/l(0.1N)水酸化カリウム(KOH)水溶液200mlを加え、超音波分散器により3分間分散処理して分散させた後、50℃で2時間加熱撹拌した。
【0136】
この分散液からポリテトラフルオロエチレン(PTFE)フィルターを用いてSWCNT−COOHをろ取し、3リットルの0.1mol/l(0.1N)KOH水溶液および1リットルの純水で順次洗浄した。
さらに、0.2リットルの6mol/l(6N)塩酸を加えて2時間撹拌した後、PTFEフィルターを用いてSWCNT−COOHをろ取し、純水洗浄し乾燥させた。アルカリ洗浄後のSWCNT−COOHの収量は、322mgであった。
【0137】
(2.水酸基のメチル化)
上記工程で得られたSWCNT−COOH322mgに、ジオキサン200mlを加え、超音波分散器により3分間分散処理して分散させた後、70℃で30分間加熱撹拌した。その後、KOH0.89gおよび硫酸ジメチル0.5mlを加え、0.2℃で2時間加熱撹拌した。
【0138】
この分散液からPTFEフィルターを用いてろ取し、0.2リットルのジオキサンおよび1リットルの純水で順次洗浄し、乾燥させて、水酸基がメチル化されたSWCNT−COOHを得た。このとき、収量は220mgであった。
【0139】
(3.カルボキシル基のメチルエステル化)
上記工程で得られた、水酸基がメチル化されたSWCNT−COOH103mgに、メタノール200mlおよびトリエチルアミン10mlを加え、超音波分散器により3分間分散処理して分散させた。その後、DMT−MM(和光純薬製、4−(4,6−Dimethoxy−1,3,5−triazin−2−yl)− 4−methylmorpholinium chloride。)100mgを加え、2時間撹拌した。
【0140】
この分散液からPTFEフィルターを用いて分散物をろ取し、0.2リットルのメタノールおよび1リットルの純水で順次洗浄し、乾燥させて、水酸基がメチル化されたSWCNT−COOCH3を得た。このとき、収量は70mgであった。
【0141】
(4.カーボンナノチューブ分散液の調製)
分散媒として20%メタノール−グリセリン溶液(メタノール:グリセリン=1:4(体積比)の混合液)を用い、上記工程で得られた水酸基がメチル化されたSWCNT−COOCH3をその濃度が0.5mg/mlになるよう調整して添加し、実施例1のカーボンナノチューブ分散液を調製した。
得られた実施例1のカーボンナノチューブ分散液は、分散性が良好であり12時間静置しておいてもカーボンナノチューブ化合物が沈殿することは無かった。
【0142】
<比較例1>
(1.アルカリ洗浄)
実施例1における(1.アルカリ洗浄)と同様の処理を行って、SWCNT−COOHをアルカリ洗浄後した。アルカリ洗浄後のSWCNT−COOHの収量は、322mgであった。
【0143】
(3.カルボキシル基のメチルエステル化)
上記工程で得られたSWCNT−COOHを、実施例1における(2.水酸基のメチル化)の工程の操作を経ること無く、以下の操作を行った。
上記(1.アルカリ洗浄)の工程で得られたSWCNT−COOH100mgに、メタノール200mlおよびトリエチルアミン10mlを加え、超音波分散器により3分間分散処理して分散させた。その後、DMT−MM(和光純薬製、4−(4,6−Dimethoxy−1,3,5−triazin−2−yl)− 4−methylmorpholinium chloride。)100mgを加え、2時間撹拌した。
【0144】
この分散液からPTFEフィルターを用いて分散物をろ取し、0.2リットルのメタノールおよび1リットルの純水で順次洗浄し、乾燥させて、水酸基がメチル化されていないSWCNT−COOCH3を得た。このとき、収量は80mgであった。
【0145】
(4.カーボンナノチューブ分散液の調製)
分散媒として20%メタノール−グリセリン溶液(メタノール:グリセリン=1:4(体積比)の混合液)を用い、上記工程で得られた水酸基がメチル化されていないSWCNT−COOCH3をその濃度が0.5mg/mlになるよう調整して添加し、比較例1のカーボンナノチューブ分散液を調製した。
得られた比較例1のカーボンナノチューブ分散液はCOOCH3を有するためそれなりの分散性は示したが、12時間静置しておいたところカーボンナノチューブ化合物が僅かに沈殿することことが確認された。
【0146】
<実施例2>
実施例1において、(3.カルボキシル基のメチルエステル化)の工程の操作を経ること無く、(2.水酸基のメチル化)の工程の操作で得られた水酸基がメチル化されたSWCNT−COOHを用いて、(4.カーボンナノチューブ分散液の調製)の工程と同様の操作によって、実施例2のカーボンナノチューブ分散液を調製した。
得られた実施例2のカーボンナノチューブ分散液は分散性が良好であり、12時間静置しておいてもカーボンナノチューブ化合物が沈殿することは無かった。
【0147】
なお、本実施例のカーボンナノチューブ分散液においては、含まれるSWCNT−COOHがアルキルエステル化しておらずCOOHのままであり、グリセリン(ポリオール)では架橋反応が生じないため、20%メタノール−グリセリン溶液は単なる分散媒としてのみ作用する。
【0148】
<供試用の基板の準備>
(親水化処理)
塗布対象となる基板(膜厚1mm酸化膜付の76.2mm(3インチ)四方のシリコンウェハー)を、100℃で10分間UVアッシング処理し、基板表面を親水性にした基板(以下、「親水性基板」と称する。)を作製した。基板表面の水に対する接触角を測定すべく水滴を垂らしたところ、水滴が広がってしまい接触角を測定することができなかった。したがって、水に対する接触角は、0#に極めて近い値となる。
【0149】
(疎水化処理)
上記操作で得られた親水性基板を、飽和アミノシラン蒸気(温度27℃)中に4時間放置して基板表面にアミノシラン基を付加することで、基板表面を親水性にした基板(以下、「疎水性基板」と称する。)を作製した。基板表面の水に対する接触角を測定したところ、98#であった。
【0150】
<カーボンナノチューブ膜の形成>
各実施例および比較例のカーボンナノチューブ分散液2mlを、上記工程で得られた親水性基板表面に滴下し、スピンコート法(4000回転,10秒間)により塗布した。その後、150℃で5分間加熱して硬化させることで、カーボンナノチューブ膜を形成した。
また、実施例1および2のカーボンナノチューブ分散液については、上記工程で得られた疎水性基板表面に対しても親水性基板と同様に塗布および硬化させて、カーボンナノチューブ膜(カーボンナノチューブ構造体)を形成した。
【0151】
<カーボンナノチューブ膜の膜状態確認>
(表面拡大像観察)
各実施例および比較例のカーボンナノチューブ分散液によって形成された各カーボンナノチューブ膜について、AFMによって10000倍の拡大像を観察した。その際に、親水性基板表面に形成されたものついては任意の4箇所、疎水性基板表面に形成されたものついては代表的な状態の1箇所、それぞれ写真撮影した。それぞれのAFM像を図1〜図4に示す。
【0152】
(膜厚調査)
各実施例および比較例のカーボンナノチューブ分散液によって親水性基板表面に形成されたカーボンナノチューブ構造体について、AFMによって5μm四方の範囲を観察し、任意の6箇所について平均粗さ(JISで言う算術平均粗さRaに相当するもの)をAFMで測定した。
結果を下記表3に示す。
【0153】
【表3】

【0154】
実施例1の膜は比較例1の膜と比較して均質であった。また実施例2の膜は均質性では劣るが、上述のように溶液としての分散性が高いことから、比較例1と比べて部分的な均質領域が多く形成されることが観察された。
【図面の簡単な説明】
【0155】
【図1】実施例1のカーボンナノチューブ分散液によって親水性基板表面に形成されたカーボンナノチューブ膜のAFM像(10000倍)である。
【図2】比較例1のカーボンナノチューブ分散液によって親水性基板表面に形成されたカーボンナノチューブ膜のAFM像(10000倍)である。
【図3】実施例2のカーボンナノチューブ分散液によって親水性基板表面に形成されたカーボンナノチューブ膜のAFM像(10000倍)である。
【図4】実施例1および2のカーボンナノチューブ分散液によって疎水性基板表面に形成されたカーボンナノチューブ膜のAFM像(10000倍)である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも下記構造式Aで表されるカーボンナノチューブ化合物と、
該カーボンナノチューブ化合物が分散乃至溶解される分散媒と、
を含むことを特徴とするカーボンナノチューブ分散液。
(構造式A)
【化1】

上記式中、二重線で表されるのはカーボンナノチューブであり、R1は水素、置換または未置換の炭素数1または2のアルキル基、置換または未置換のアリール基、若しくは、置換または未置換のカルボジイミド基であり、R2は置換または未置換の炭素数1〜4のアルキル基であり、mおよびnはそれぞれ独立に1以上の整数である。
【請求項2】
さらに、前記構造式AにおけるR1を含む官能基同士を化学結合させる架橋剤を含むことを特徴とする請求項1に記載のカーボンナノチューブ分散液。
【請求項3】
前記構造式AにおけるR1が、置換または未置換の炭素数1または2のアルキル基であることを特徴とする請求項2に記載のカーボンナノチューブ分散液。
【請求項4】
前記分散媒が、前記架橋剤を兼ねることを特徴とする請求項2に記載のカーボンナノチューブ分散液。
【請求項5】
前記構造式Aにおけるカーボンナノチューブが、単層カーボンナノチューブであることを特徴とする請求項1に記載のカーボンナノチューブ分散液。
【請求項6】
少なくとも下記構造式Aで表されるカーボンナノチューブ化合物を分散媒に分散乃至溶解してなるカーボンナノチューブ分散液を調製する調製工程と、
得られたカーボンナノチューブ分散液を基体表面に供給する供給工程と、
を含むことを特徴とするカーボンナノチューブ構造体の製造方法。
(構造式A)
【化2】

上記式中、二重線で表されるのはカーボンナノチューブであり、R1は水素、置換または未置換の炭素数1または2のアルキル基、置換または未置換のアリール基、若しくは、置換または未置換のカルボジイミド基であり、R2は置換または未置換の炭素数1〜4のアルキル基であり、mおよびnはそれぞれ独立に1以上の整数である。
【請求項7】
調製工程において調製するカーボンナノチューブ分散液に、前記構造式AにおけるR1を含む官能基同士を化学結合させる架橋剤を含有させることを特徴とする請求項6に記載のカーボンナノチューブ構造体の製造方法。
【請求項8】
調製工程において分散させるカーボンナノチューブ化合物の前記構造式AにおけるR1が、置換または未置換の炭素数1または2のアルキル基であることを特徴とする請求項7に記載のカーボンナノチューブ構造体の製造方法。
【請求項9】
前記分散媒が、前記架橋剤を兼ねることを特徴とする請求項7に記載のカーボンナノチューブ構造体の製造方法。
【請求項10】
調製工程において分散させるカーボンナノチューブ化合物の前記構造式Aにおけるカーボンナノチューブが、単層カーボンナノチューブであることを特徴とする請求項6に記載のカーボンナノチューブ構造体の製造方法。
【請求項11】
供給工程に引き続いて、前記構造式AにおけるR1を含む官能基同士を化学結合させて架橋する架橋工程を含むことを特徴とする請求項6に記載のカーボンナノチューブ構造体の製造方法。
【請求項12】
調製工程において用いる分散媒が、水および/または水溶性溶媒を含み、
供給工程において、前記基体として、その表面が親水性の基体、またはその表面が親水化処理された基体を用いることを特徴とする請求項6に記載のカーボンナノチューブ構造体の製造方法。
【請求項13】
少なくとも下記構造式Bで表されるカーボンナノチューブ化合物からなることを特徴とするカーボンナノチューブ構造体。
(構造式B)
【化3】

上記式中、二重線で表されるのはカーボンナノチューブであり、XはOR1、または構造式Bで表される他のカーボンナノチューブ化合物のカルボニル基と架橋する架橋部位であり、R1は水素、置換または未置換の炭素数1または2のアルキル基、置換または未置換のアリール基、若しくは、置換または未置換のカルボジイミド基であり、R2は置換または未置換の炭素数1〜4のアルキル基であり、mおよびnはそれぞれ独立に1以上の整数である。
【請求項14】
上記構造式BにおけるXが、他の構造式Bで表されるカーボンナノチューブ化合物のカルボニル基と架橋する架橋部位であり、かつ該架橋部位が、−O−、−O(CH22O−、−OCH2CHOHCH2O−、−OCH2CH(CH2OH)O−および下記構造式
【化4】

からなる群より選ばれるいずれかの化学構造であり、カーボンナノチューブの網目構造が形成されてなることを特徴とする請求項13に記載のカーボンナノチューブ構造体。
【請求項15】
上記構造式Bにおけるカーボンナノチューブが、単層カーボンナノチューブであることを特徴とする請求項13に記載のカーボンナノチューブ構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−81384(P2008−81384A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−266747(P2006−266747)
【出願日】平成18年9月29日(2006.9.29)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】