説明

カーボンナノチューブ成長方法

本発明は、熱フィラメント化学的気相成長法による基板(1)上へのカーボンナノチューブ(5)の成長方法に関する。本発明の方法は、チタン層の厚さが0.5乃至5nmであり、かつコバルト層の厚さが0.25乃至10nmであって、コバルト層の厚さがチタン層の厚さの半分から2倍となるように、最初基板上にチタン(12)とコバルト(13)との二重層を積層する手順を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はカーボンナノチューブの分野に関する。カーボンナノチューブは単一の壁(単層ナノチューブ)または同心円状の複数の壁(複層ナノチューブ)を有し、それぞれの壁は湾曲したグラファイト面で形成されている。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブを基板上に成長させるために、様々な方法が開発されてきた。これらの方法のうち殆どは、カーボンナノチューブの成長の開始点として、ナノチューブの直径に近い寸法の触媒粒を用いている。
【0003】
本発明の発明者のうち2人は、熱フィラメント化学的気相成長法によりカーボンナノチューブを得る方法を論文公開している(Microelectronic Engineering,2002,vol.61−62,p.485,Elsevier Science B.V.)。熱フィラメントは1900度乃至2100度の温度であり、成長は700乃至900度の温度範囲で起こる。前記論文中で、著者らは、50nmの厚さのチタン層であって、薄いコバルト層がこれを覆う該チタン層を含むパッドを酸化ケイ素で覆われた基板上に積層すると、カーボンナノチューブの成長が見られることを明らかにしている。図は、成長が主としてパッドの側部表面から始まっていることを示している。
【0004】
引き続く実験で、発明者は、ナノチューブの直径と構造(単層か複層か)とが、本質的にコバルト層の厚さに依存することを示した。
【0005】
側部表面から成長した多くのナノチューブは限られた密度しか示さなかった。さらに、比較的大きな直径(5nmより大きい)のナノチューブが得られたことは、略同一の厚さのコバルト層が積層していることを示唆していた。
【特許文献1】特開2002−146534号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、適した基板を選択してカーボンナノチューブの成長を最適化することにある。
【0007】
本発明の他の目的は、薄層の上部表面にカーボンナノチューブを生成するのに適した方法を提供することにある。
【0008】
本発明の他の目的は、突起上でのカーボンナノチューブの成長を最適化することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
これらの目的を達成するために、本発明は、チタン層の厚さが0.5乃至5nmであり、かつコバルト層の厚さが0.25乃至10nmであって、該コバルト層の厚さを該チタン層の厚さの半分から2倍と成すように予め基板上にチタンとコバルトとの二重層を積層させる手順を含む、熱フィラメント化学的気相成長法による基板上へのカーボンナノチューブ成長方法を提供する。
【0010】
本発明の1つの実施形態によれば、チタン層はコバルト層の上に形成される。
【0011】
本発明の1つの実施形態によれば、基板は酸化物で覆われたシリコンで製造されている。
【0012】
本発明の1つの実施形態によれば、基板は少なくとも1つの突起を有し、それによって、個々の突起の先端からは一本のナノチューブが基板を離れるように成長し、かつ他のナノチューブは基板上に広がって成長する。
【0013】
本発明の1つの実施形態によれば、前記方法は、ナノチューブに求められる直径と構造とに従ってチタンとコバルトの厚さの和を選択する手順を有する。
【0014】
本発明の1つの実施形態によれば、二重層はコバルト層がチタン層の上に設けられ型のものであり、かつ二重層は厚いチタン層の上に形成されている。
【0015】
本発明の1つの実施形態によれば、二重層はチタン層がコバルト層の上に設けられる型のものであり、かつ二重層は20nmより厚いチタン層で覆われ、それによって、ナノチューブが二重層の側部表面のみから成長する。
【0016】
本発明は、チタン層の厚さが0.5乃至5nmであり、かつコバルト層の厚さが0.25乃至10nmであって、該コバルト層の厚さが該チタン層の厚さの半分から2倍であるチタンとコバルトとの二重層で覆われて成る、カーボンナノチューブを支持する基板をもまた提供する。
【0017】
以下の、添付した図面に関連した特定の実施形態の限定されることのない記述の中で、本発明の前述およびその他の目的、特徴並びに利点を詳細に述べる。
【0018】
図1に示すように、上述の方法では、SiO層1で覆われた基板上のカーボンナノチューブ成長の開始点として、薄いコバルト層3で覆われたおよそ50nmの厚さのチタン層部分から成るパッドが用いられる。
【0019】
パッドの概念は限定的ではなく、選択された輪郭線で区切られた層の、どのような厚さの不連続部分をも指すものとして解釈されるべきである。
【0020】
前述の成長条件下、図に略示するように、コバルト層の高さに略一致する側部パッド壁面から成長したカーボンナノチューブ5が得られる。
【0021】
本発明では、厚い前記チタン層(ここで「厚い」層は10乃至20nmより大きい厚さを有する)を、5nm未満の厚さのかなり薄い層で置き換えてある。
【0022】
より特定すると、チタン層の厚さは0.5乃至5nmであり、コバルト層の厚さは0.25乃至10nmであって、コバルト層の厚さはチタン層の厚さの半分から2倍である。
【0023】
図2Aに示すように、かなり薄いチタン層12はコバルト層13の下に設けられてよく、又は、図2に示すように、チタン層12はコバルト層13の上に設けられてよい。両者の場合、先行技術の場合に前述したような同様の熱フィラメント化学的気相成長法条件下で、二重層の上部表面と二重層の側部表面との両方にカーボンナノチューブ5の成長が見られる。これらのナノチューブは、成長の始まる場所を示すためにかなり略示されていることと、これらのナノチューブは、長さが等しくなく、かつ図に示されているよりずっと高い密度を有しているであろうこととは、当業者には明らかなはずである。
【0024】
本発明の利点に関して、これらのナノチューブの直径及び構造(単層か複層か)は略均質である。
【0025】
本発明の特徴に関して、発明者は、ナノチューブの直径と構造とが、先行技術のように単独のコバルト層の厚さにだけではなく、チタン層とコバルト層の両方を合わせた厚さにも依存することを実験的に見出した。更に、発明者は、ある直径のナノチューブを得るためには、二重層の全厚が、同じ結果を与えるコバルト単一層の全厚よりずっと薄くても十分であることを見出した。例えば、4nm程度のある厚さの二重層に対して、2倍の厚さのコバルト単一層で得られるものと略同一の直径のカーボンナノチューブが得られる。
【0026】
特に、その端部は丸くならずに起伏形状を保ちつつ、比較的歪んだ起伏上に積層を行い得る場合、より薄い積層からより大きな直径のナノチューブが得られることの有利性に当業者は注目すべきである。
【0027】
この特徴の利点は図3に示された構造に現れており、そこでは、錘形の突起21を備えたシリコン基板20が、本発明に係るチタン−コバルト二重層12,13で覆われている。そこでナノチューブ成長が行われると、単層ナノチューブまたは単一のナノチューブバンドル25が突起から基板を離れて成長する一方で、残りの表面からはナノチューブ5が成長するが、基板上の二重層に積み重なったままとなる。
【0028】
本発明の他の利点に関して、得られたカーボンナノチューブの密度は、二重層と同じ厚さのコバルト単一層から得られるそれよりずっと大きい。
【0029】
一方で、図4Aおよび図4Bに示すように、本発明によれば、カーボンナノチューブが成長する領域を選択することができる。
【0030】
例えば、図4Aに示すように、本発明に係るチタン−コバルト二重層を(10乃至20nmよりも大きな厚さの)厚いチタン層で覆い、かつ層がパッドを形成するように成した場合、ナノチューブ5の側面からの成長のみが見られる。
【0031】
しかし、図4Bに示すように、本発明に係るコバルト−チタン二重層を厚いチタン層の上に積層した場合、二重層の上面とより低い面とからのナノチューブ5の成長が見られる。
【0032】
図5は単なる1つの例として、例えば、パッドの間の接続を形成するために、カーボンナノチューブの成長の最適化を可能とするパッドの集合体を示している。4つの厚い(10乃至20nmよりも厚い)チタンのパッド30,40,50,60がシリコン上に形成されている。パッド30は、薄いコバルト層32で覆われている。パッド40は、薄いコバルト層42で覆われており、該コバルト層は部分的に、薄いチタン層43で覆われている。パッド50は、薄いコバルト層52で均一に覆われており、該コバルト層の一部分は薄いチタン層53で覆われ、前記コバルト層の他の部分は厚いチタン層54で覆われている。パッド60は、薄いコバルト層62で覆われており、該コバルト層は厚いチタン層63で覆われている。そして、図に略示されるようにナノチューブの成長が得られる。パッド30に関しては、ナノチューブは横方向のみに伸長する。パッド40に関しては、ナノチューブは横方向に伸長し、チタン層43部分の表面上にも伸長する。パッド50に関しては、ナノチューブは横方向に伸長し、薄いチタン層53部分の表面上にも伸長する。パッド60に関しては、ナノチューブは横方向にコバルト層62領域のみから伸長する。上方から見て1μm未満の寸法のパッドから成長を開始すると、生成したナノチューブは凝集し絡み合った(組み紐)形になる。
【0033】
種々の様式の接続及び/又は接点、例えば電気的接続、を形成するためのこの種の構造の利点が期待できる。チタン層が存在することによりナノチューブとの接点の電気抵抗が低くなることは注目すべきである。
【0034】
本発明は、最適化されたカーボンナノチューブ成長方法とそれに適した基板を目的として成されている。これらのナノチューブは、既知の技術への応用、および技術の進歩に関与する当業者が考案する種々の応用が様々に可能である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】従来技術におけるカーボンナノチューブの成長構造を示す。
【図2A】本発明におけるカーボンナノチューブの成長構造を示す。
【図2B】本発明におけるカーボンナノチューブの成長構造を示す。
【図3】本発明における突起上でのカーボンナノチューブの成長構造を示す。
【図4A】本発明における種々のカーボンナノチューブの成長構造を示す。
【図4B】本発明における種々のカーボンナノチューブの成長構造を示す。
【図5】本発明において配列された層がカーボンナノチューブ成長の開始点として用いられる例を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンナノチューブ成長方法において、チタン層の厚さが0.5乃至5nmであり、かつコバルト層の厚さが0.25乃至10nmであって、該コバルト層の厚さを該チタン層の厚さの半分から2倍と成すように予め基板上にチタン(12)とコバルト(13)との二重層を積層させる手順を含む、熱フィラメント化学的気相成長法による基板(1)上へのカーボンナノチューブ(5)成長方法。
【請求項2】
チタン層はコバルト層の上に形成されてなることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
基板は酸化物で覆われたシリコンで製造されていることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
基板は少なくとも1つの突起(21)を有し、それによって、個々の突起の先端からは一本のナノチューブ(25)が基板を離れるように成長し、かつ他のナノチューブは基板上に広がって成長することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項5】
ナノチューブに求められる直径と構造とに従ってチタンとコバルトの厚さの和を選択する手順を含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項6】
二重層はコバルト層がチタン層の上に設けられる型のものであり、かつ二重層は厚いチタン層の上に形成されてなることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項7】
二重層はチタン層がコバルト層の上に設けられる型のものであり、かつ二重層は20nmより厚いチタン層で覆われ、それによって、ナノチューブが二重層の側部表面のみから成長することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項8】
カーボンナノチューブを支持する基板において、チタン層の厚さが0.5乃至5nmであり、かつコバルト層の厚さが0.25乃至10nmであって、該コバルト層の厚さが該チタン層の厚さの半分から2倍であるチタン(12)とコバルト(13)との二重層で覆われてなる、カーボンナノチューブ(5)を支持する基板。
【請求項9】
微小の突起(21)を備え、それにより、単層カーボンナノチューブまたは単一のナノチューブバンドルがそれぞれの微小の突起の先端から成長し、かつ他のナノチューブは基板上に広がって成長することを特徴とする請求項8の基板。

【図1】
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【図3】
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【図5】
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【公表番号】特表2006−524625(P2006−524625A)
【公表日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−505876(P2006−505876)
【出願日】平成16年4月14日(2004.4.14)
【国際出願番号】PCT/FR2004/050160
【国際公開番号】WO2004/094690
【国際公開日】平成16年11月4日(2004.11.4)
【出願人】(500531141)セントレ・ナショナル・デ・ラ・レシェルシェ・サイエンティフィーク (84)
【Fターム(参考)】