説明

カーボンナノチューブ配置方法

【課題】CNTを基板上の所望の位置に配置する方法を提供すること。
【解決手段】基板108は、表面にフェリチン107が配置された複数の領域を備え、前記フェリチン107は配列番号1に記載のペプチド鎖を備え、前記基板108にCNT分散液110を接触させることにより、前記フェリチン107に前記分散液110に分散されたCNT109の一部が配置して固定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はタンパク質を利用して基板上にカーボンナノチューブを配置する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブ(以下、CNTと称することがある)は各種電子デバイスの構成材料として期待されている。またフェリチンは球状のタンパク質であり、内部には酸化鉄に代表される金属化合物を内包することができる。内部に金属化合物を内包せず、当該内部が空洞になっている場合には、「アポフェリチン」と呼ぶこともある。本明細書ではアポフェリチンと内部にコアを有するフェリチンを特に区別せず、両者を含めてフェリチンと称する。
【0003】
特許文献1、2、3には、フェリチンを基板上に配置させる従来技術として、基板表面の一部にアミノシラン分子修飾膜を形成し、フェリチン溶液に接触させることにより、アミノシラン分子修飾膜上にフェリチンを配置させる技術が開示されている。
【0004】
特許文献4には、フェリチンを基板上に配置させる従来技術として、基板表面の一部にチタンあるいは窒化シリコンからなる部分を形成し、フェリチン溶液に接触させることにより、チタンあるいは窒化シリコンからなる部分の上にフェリチンを配置させる技術が開示されている。
【0005】
特許文献5には、カーボンナノホーンと親和性を有するペプチド配列および前記ペプチドを提示させたフェリチン(図3)について開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−187844号公報
【特許文献2】特開2006−187845号公報
【特許文献3】国際公開第2008/155872号
【特許文献4】国際公開第2006/064640号
【特許文献5】国際公開第2006/068250号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
CNTを基板上に形成する技術としては、基板上に配置あるいは形成した金属酸化物触媒から、基板上でCNTを成長させる手法が知られている。しかし、基板上の所望の位置および方向に、所望の形状および長さのCNTを成長させることは容易ではなかった。また作製されるCNTは、その構造やカイラリティ、直径等により、電子的な性質が異なり、例えば、金属的な特性と半導体的な特性のCNTとが混在することになる。したがって、目的の物性を有するCNTのみを成長させることは著しく困難である。
【0008】
他方、予め作製した遊離CNTを分離・精製することで、形状や特性の揃ったCNTを収集する技術は進展している。金属的なCNTだけ、あるいは半導体的なCNTだけを分離して精製することも可能となっている。しかし、精製したCNTを電子デバイスとして利用するには、溶媒中等に遊離したCNTを、基板上の所望の位置および方向に配置・固定する必要があり、これを実現することが困難であった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する本発明に係るCNT配置方法は、基板上にカーボンナノチューブを配置する方法であって、前記基板は表面にフェリチンが配置された複数の領域を備え、前記フェリチンは、配列番号1のアミノ酸配列からなるペプチド鎖を備えた改変体フェリチンであって、前記方法は、前記カーボンナノチューブを含有する分散液を前記基板に接触させることにより、前記フェリチンに前記カーボンナノチューブを固定することでカーボンナノチューブを配置する配置工程を有する。
【0010】
前記分散液は、界面活性剤分子を含むことが好ましい。
【0011】
前記基板は複数の電極を備え、前記フェリチンが配置された領域が、前記各電極上に設けられていることが好ましい。
【0012】
前記配置工程の前に、前記フェリチンが配置された複数の領域を形成する工程として、
表面にアミノ基を有する複数の分子膜スポットを備えた前記基板に、前記フェリチンを含有する溶液を接触させることにより、前記各分子膜スポットに前記フェリチンを配置させる配置工程をさらに有することが好ましい。
【0013】
前記分子膜スポットはアミノシラン分子膜からなることが好ましい。
【0014】
前記基板は複数の電極を備え、前記分子膜スポットが、前記各電極上に設けられていることが好ましい。
【0015】
前記配置工程の前に、前記フェリチンが配置された複数の領域を形成する工程として、
表面にチタン膜スポットを備えた前記基板に、前記フェリチンを含有する溶液を接触させることにより、前記各チタン膜スポットに前記フェリチンを配置させる配置工程をさらに有することが好ましい。
【0016】
前記基板は複数の電極を備え、前記チタン膜スポットが、前記各電極上に設けられていることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、CNTを基板上の所望の位置に配置する方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】CNTの配置法の工程を示す図
【図2】CNTの配置法の工程における基板状態を示す斜視図
【図3】特許文献5に開示される、フェリチンの結晶構造とDYFSSPYYEQLF(配列番号1)の提示部位を示す図
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明で用いる改変体フェリチンは、24個のタンパク質サブユニットにより構成されており、各サブユニットはそのN末端の位置に、配列番号1のアミノ酸配列からなるペプチド鎖を有している。
【0020】
本発明において用いられるフェリチンは、外周面にDYFSSPYYEQLF(以下、配列番号1)で示されるアミノ酸配列を有している。このアミノ酸配列は特許文献5において配列番号1として開示されている。一例として、本発明において用いられるフェリチンは、配列番号2に示されるタンパク質である。このタンパク質は、187残基を有し、174残基のウマ由来フェリチンのアミノ酸配列のアミノ末端に、開始コドンに対応するメチオニンと配列番号1のアミノ酸配列とからなる13残基のアミノ酸配列が付加されたものである。
【0021】
本発明の改変体フェリチンは、内部にコアを有しないアポフェリチンの状態でよい。ただし内部に鉄酸化物粒子をコアとして内包することもできる。鉄酸化物粒子は、走査型電子顕微鏡により容易に観察できるので、基板上のフェリチンの配置状態を確認する際に有用である。
【0022】
本発明のCNTを含む分散液は、界面活性剤分子を含む水溶液であることが望ましい。界面活性剤分子としては、非イオン性界面活性剤を用いることができ、非イオン性界面活性剤として、例えばTween20やTween80を用いることができる。Tween20及びTween80は、ポリオキシエチレンソルビタン(Polyoxyethylene sorbitan alkyl ester)類で、特に低温で溶解しやすく、水溶液中でイオンに解離する基を持たず、親水性を調整できる特徴を持つ物質である。これらの界面活性剤分子を用いることで、CNTを水溶液中に均一に分散でき、またCNTとフェリチン表面のペプチドとの結合を妨げることなく良好な配置ができる。
【0023】
本発明の基板が複数の電極を備え、フェリチンが配置された領域が、前記各電極上に設けられていることにより、電極間に橋渡しするようにCNTを配置することができるので、例えばCNTにより構成されたFET素子を構成することができ好ましい。
【0024】
CNT配置の後、基板を加熱してタンパク質を分解する分解工程、あるいは基板に紫外線を照射しつつオゾン雰囲気に暴露させる分解工程により、フェリチンのタンパク質部分を除去しつつ、CNTを配置された状態で基板上に残すことができる。フェリチンが分子膜上に配置されている場合は、前記の分解工程で、同時に分子膜を除去することができる。
【0025】
本発明において、表面にアミノ酸を有する複数の分子膜スポットを備えた基板に、フェリチンを含有する溶液を接触させることにより、各分子膜スポットにフェリチンを配置させることができる。
【0026】
本発明のアミノ基を有する分子膜としては、アミノシラン分子を用いることにより、均質で微細な薄膜スポットを形成することができるので好ましい。アミノシラン分子としては、例えば3−アミノプロピルトリエトキシシラン(以下、「APTES」と略することがある)を用いることができる。
【0027】
本発明の基板が複数の電極を備え、分子膜スポットが、前記各電極上に設けられていることにより、電極間に橋渡しするようにCNTを配置することができ好ましい。
【0028】
本発明において、複数のチタン膜スポットを備えた基板に、フェリチンを含有する溶液を接触させることにより、各チタン膜スポットにフェリチンを配置させることができる。
【0029】
チタン膜スポットにフェリチンを含有する溶液を接触する工程において、前記フェリチンを含有する溶液が、界面活性剤分子を含む水溶液であることが望ましい。界面活性剤分子としては、非イオン性界面活性剤を用いることができ、非イオン性界面活性剤として、例えばTween20やTween80を用いることができる。これらの界面活性剤分子を用いることで、高い選択性でフェリチンのチタン膜スポット上への配置ができる。
【0030】
本発明の基板が複数の電極を備え、チタン膜スポットが、前記各電極上に設けられていることにより、電極間に橋渡しするようにCNTを配置することができ好ましい。
【0031】
(実施の形態1)
以下、本発明の実施の形態である基板表面へCNT配置の工程を、図1および図2を用いてさらに詳細に説明する。
【0032】
まずp型シリコン基板101を酸化して表面に厚さ100nmのシリコン酸化膜102を形成した(図示してない)。次にフォトリソグラフィーあるいは電子ビームリソグラフィーを用いてレジストパターンを形成し、チタン(Ti、下層)および金(Au、上層)の積層膜からなる金属膜を蒸着した後、リフトオフ工程を行うことで、Au/Ti金属電極パターンを作製した(図1(a)および図2(b))。
【0033】
さらに上記と同様にフォトリソグラフィーあるいは電子ビームリソグラフィーを用いてレジストパターンを形成し、チタン(Ti)薄膜を蒸着してリフトオフを行うことで、直径50nmのTi膜スポット104を作製した(図1(b)および図2(b))。Tiスポットのサイズは、直径12nmから500nmの範囲とすることでフェリチンを固定でき、かつCNTの複数吸着を抑制できるので好ましい。
【0034】
上記の基板上に、フェリチン溶液106を滴下し、室温にて10分間静置する。この間に、溶液中のフェリチン105の一部が基板上のTi膜スポット104上に吸着した(図1(c))。ここで用いたフェリチン溶液106は、配列番号2に示されるアミノ酸配列に対応するフェリチン105と、非イオン性界面活性剤であるTween20を含む。本実施の形態では、内部にFeコアを有するフェリチンを利用したが、内部にコアを持たないアポフェリチン、あるいは別のコアを有するフェリチンを利用することも可能である。
【0035】
上記の後、基板を純水の流水中で5分間洗浄することにより、吸着していない余剰のフェリチンを除去した。洗浄後の基板を乾燥し、110℃で3分間ベーキングして吸着したフェリチン107を基板上に固定し、分子膜スポット104上にフェリチン107が吸着固定された基板108を得た(図1(d)および図2(c))。
【0036】
作製した基板上108に、CNT分散液110を滴下し、室温にて5分間静置する。この間に、溶液中のCNT109の一部が基板上のフェリチン107上に吸着した(図1(e))。ここで用いたCNT分散液110は、精製したCNT109と、非イオン性界面活性剤であるTween20を含む。
【0037】
上記の後、基板を純水の流水中で5分間洗浄することにより、吸着していない余剰のCNTを除去した。洗浄後の基板を乾燥し、110℃で3分間ベーキングして吸着したCNT111を基板上に固定し、CNT111が固定された基板112を得た(図1(f)および図2(d))。
【0038】
作製した基板112には、電極を橋渡しする状態でCNT111が固定されているので、各種の電子デバイスへの応用が可能である。例えば、この上部に絶縁層を作製してゲート電極を設けることで、そのままFET素子とすることができ、また複数のゲート電極を形成して演算回路を構成することもできる。あるいは予め基板の下部に埋め込まれたゲート電極を形成しておくことも可能である。
【0039】
(実施の形態2)
実施の形態1では、Ti膜スポットを利用してフェリチンを配置したが、本実施の形態2ではアミノシラン分子であるAPTESを利用した配置方法について述べる。
【0040】
実施の形態2でも、図1(b)および図2(b)までの工程は、実施の形態1と同じである。しかし、本実施の形態2においては、この後、電極以外の領域(SiO表面が露出した領域)をレジストにより被覆し、基板をAPTES蒸気中に保持することで、Tiスポットの表面にAPTES分子を吸着させた。なお、電極のTiスポット以外の表面はAuが露出しているが、Au面にはAPTES分子は吸着せず、Ti表面はAPTES分子で覆われた。これにより、実施の形態2においては、Tiスポットの表面がAPTES分子膜により覆われた状態となった。以下、本実施の形態2では、この状態のスポット104を分子膜スポットと呼称する。
【0041】
本実施の形態でも、上記の基板上に、フェリチン溶液106を滴下し、室温にて1分間静置する。この間に、溶液中のフェリチン105の一部が基板上の分子膜スポット104上に吸着した(図1(c))。なお、本実施の形態2で用いたフェリチン溶液106は、配列番号2に示されるアミノ酸配列に対応するフェリチン105を含み、非イオン性界面活性剤は含まない。本実施の形態2では、内部にFeコアを有するフェリチンを利用したが、内部にコアを持たないアポフェリチン、あるいは別のコアを有するフェリチンを利用することも可能である。
【0042】
上記の後、基板を純水の流水中で5分間洗浄することにより、吸着していない余剰のフェリチンを除去した。洗浄後の基板を乾燥し、110℃で3分間ベーキングして吸着したフェリチン107を基板上に固定し、分子膜スポット104上にフェリチン107が吸着固定された基板108を得た(図1(d)および図2(c))。
【0043】
以降の工程は、実施の形態1と同じである。
【0044】
本実施の形態2でも実施の形態1と同様、CNT111が固定された基板112を得た(図1(f)および図2(d))。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明にかかる配置方法は、CNTの基板上への配置法として有用である。特に特定位置への選択的なCNT配置が要求される、例えば電子デバイス等の用途に特に有用できる。
【符号の説明】
【0046】
101 シリコン基板
102 シリコン酸化膜
103 電極
104 スポット
105 フェリチン
106 フェリチン溶液
107 スポット上に固定されたフェリチン
108 フェリチンが配置された基板
109 CNT
110 CNT分散液
111 フェリチンに吸着したCNT
112 CNTが配置された基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上にカーボンナノチューブを配置する方法であって、
前記基板は表面にフェリチンが配置された複数の領域を有し、
前記フェリチンは、配列番号1のアミノ酸配列からなるペプチド鎖を備えた改変体フェリチンであって、
前記方法は、
前記カーボンナノチューブを含有する分散液を前記基板に接触させることにより、前記フェリチンに前記カーボンナノチューブを固定することでカーボンナノチューブを配置する配置工程を有する、方法。
【請求項2】
前記分散液が、界面活性剤分子を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記基板が複数の電極を備え、前記フェリチンが配置された領域が、前記各電極上に設けられている、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記配置工程の前に、前記フェリチンが配置された複数の領域を形成する工程として、
表面にアミノ基を有する複数の分子膜スポットを備えた前記基板に、前記フェリチンを含有する溶液を接触させることにより、前記各分子膜スポットに前記フェリチンを配置させる配置工程をさらに有する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記分子膜スポットがアミノシラン分子膜からなる、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記基板が複数の電極を備え、前記分子膜スポットが、前記各電極上に設けられている、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記配置工程の前に、前記フェリチンが配置された複数の領域を形成する工程として、
表面にチタン膜スポットを備えた前記基板に、前記フェリチンを含有する溶液を接触させることにより、前記各チタン膜スポットに前記フェリチンを配置させる配置工程をさらに有する、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記基板が複数の電極を備え、前記チタン膜スポットが、前記各電極上に設けられている、請求項7に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−240794(P2010−240794A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−93808(P2009−93808)
【出願日】平成21年4月8日(2009.4.8)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】