説明

カーボンナノホーンの分散方法

【課題】本発明は、カーボンナノホーンを溶媒に分散させる方法を提供することを課題とする。
【解決手段】リン脂質−ポリエチレングリコール−分子認識素子コンジュゲートとカーボンナノホーンを溶媒中で混合することを特徴とする、カーボンナノホーンを溶媒中に分散させる方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノホーンの分散方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、機能性のナノ粒子として、フラーレン、カーボンナノチューブ(CNT)、カーボンナノホーン(CNH)等のカーボンナノ粒子への関心が高まっている。カーボンナノホーンは、カーボンナノチューブのようにチューブ径が一定ではなく、例えばその直径が約80nmで、大半が円錐キャップ(ホーン)のついたチューブ状のナノ炭素材料が球状に凝集した極めて特徴のある物質である。カーボンナノホーンが有する特徴的な構造が注目され、電子材料、触媒、薬物担持体等への応用が期待されている。
【0003】
カーボンナノホーンは本来疎水性であるため、水性溶媒中での分散が難しく、水溶液系での利用が難しいという問題点を有しているが、この様な問題点の解決したものとして、例えば、カーボンナノホーンを構成する炭素構造に官能基を付加した親水性カーボンナノホーンが報告されている(特許文献1)。
【0004】
また、ポリエチレングリコール−ドキソルビシン複合体によりカーボンナノホーン構造体の水性溶媒中での分散性を高めた報告もなされている(非特許文献1)。
【0005】
さらに、薬物送達システムにおける薬物担体として、酸化開孔されたカーボンナノホーンにステロイド系薬物または金属含有の薬物が吸着もしくは内包されている薬物カーボンナノホーン複合体も報告されている(特許文献2)。
【0006】
一方、現在、MRSA(Methicillin Resistant Staphylococcus Aureus; メチシリン耐性黄色ブドウ状球菌)、VRSA(Vancomycin Resistant Staphylococcus Aureus;バンコマイシン耐性黄色ブドウ状球菌)、VRE(Vancomycin Resistant Enterococci; バンコマイシン耐性腸球菌)といった、抗生物質が全く効かない多剤耐性菌の出現が、大きな社会問題となっており、新規な抗菌剤の開発が望まれている。
【0007】
また、現在使用される主な抗生物質は、抗菌スペクトルが広すぎるために、人体に有害な細菌のみならず、有用な細菌をも死滅させる不具合がある。
さらに、ウイルスによる様々な感染症が出現している現在、有効な治療法の確立が強く求められている。これまで開発されてきた抗ウイルス剤は、基本的にはウイルスの増殖過程(酵素反応群)を阻害することによって薬効を示すが、ウイルスは進化が早いため効果が無くなるのは時間の問題である。また、抗ウイルス剤自体に選択性が無いため正常な細胞や組織を傷つけ、強い副作用を生じるのが現状である。
【特許文献1】特開2003−95624号公報
【特許文献2】特開2005−343885号公報
【非特許文献1】Murakami, T. et al. Mol. Pharmaceutics 3, 407-414 (2006)
【非特許文献2】Murakami, T. et al. Mol. Pharmaceutics 1, 399-405 (2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、カーボンナノホーンの分散方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、本発明者らが初めて合成した新規カーボンナノホーン複合体が、水性溶液中での分散安定性に優れていることを見出した。
【0010】
本発明は、下記項1〜項4に示すカーボンナノホーンの分散方法を提供する。
項1. リン脂質−ポリエチレングリコール−分子認識素子コンジュゲートとカーボンナノホーンを溶媒中で混合することを特徴とする、カーボンナノホーンを溶媒中に分散させる方法。
項2. 溶媒が水である請求項1に記載の方法。
項3. 分子認識素子が、レクチンまたは抗体である請求項1または2に記載の方法。
項4. リン脂質がモノアシルまたはジアシルのホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、ジアシルホスファチジルエタノールアミン、スフィンゴミエリンからなる群から選ばれる請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、分子認識素子が結合する特定の微生物(細菌、真菌、ウイルス等)のみを死滅させることができ、有用微生物は影響を受けないので、微生物のバランスを破壊することがない。
【0012】
本発明の新規カーボンナノホーン複合体は、従来の抗生物質、抗ウイルス剤とは全く異なる機構によって、有害な細菌、真菌、ウイルスなどの微生物を選択的に死滅させることが可能であり、医薬及び食品用等の抗菌剤、抗ウイルス剤の有効成分として有用である。
近赤外レーザーを該複合体に照射すると発熱反応を引き起こすことを本発明者は発見した。
【0013】
レーザー照射により、該複合体の粒径が経時的に増大するため、ヒトなどの動物(特に哺乳動物)に投与されたとき、レーザー照射により複合体の粒径を大きくして体外への排出を促進することが可能である。
【0014】
また、本発明の複合体と近赤外レーザーを適用することで細菌、真菌、ウイルスなどの微生物の選択的な死滅をリアルタイムで観察することに成功した。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明のカーボンナノホーン複合体の原料であるカーボンナノホーン(以下、CNHと略すことがある)は、直径が約80nmで、大半が円錐キャップのついたチューブ状のナノ炭素材料が球状に凝集した構造を有する。
【0016】
本発明において、分子認識素子により認識される微生物としては、大腸菌(O-157などの病原性大腸菌を含む)、サルモネラ、カンピロバクター、黄色ブドウ球菌、ウェルシュ菌、セレウス菌、腸炎ビブリオ、エルシニア菌などの食中毒菌、MRSA、VRSA、VREなどの多剤耐性菌、スピロヘータ、淋菌、結核菌、リケッチア、クラミジア、マイコプラズマ、炭疽菌、コレラ菌、ジフテリア菌、破傷風菌、ペスト菌、赤痢菌、レンサ球菌(A群β溶連菌、肺炎球菌など)、黄色ブドウ球菌(MSSA)、表皮ブドウ球菌、腸球菌、リステリア、髄膜炎球菌、クレブシエラ(肺炎桿菌)、プロテウス、百日咳菌、緑膿菌、セラチア菌、シトロバクター、アシネトバクター、エンテロバクター、クロストリジウム、猩紅熱菌、トラコーマ、レジオネラ、カンジダ、クリプトコッカス症、白癬菌、ヒストプラズマ、ニューモシスチス肺炎菌などの感染症の原因となる菌が挙げられる。また、分子認識素子により認識される微生物としては、アデノウイルス、コロナウイルス、ヘルペスウイルス、インフルエンザウイルス(A型、B型)、麻疹ウイルス、ワクシニアウイルス、HIV、デングウイルスなどが挙げられ、具体的には、下記の表1〜3に示されるウイルスが挙げられる。
【0017】
カルボキシル基を付加したCNH(以下、CNH−COOHと略すことがある)は、従来公知の方法に従って、例えば硝酸水溶液を用いて炭素原子をCOOHに酸化することによって製造すればよい(特許文献1)。具体的なCNH−COOHの製造例を、後記参考例1に示す。CNHは、室温で炭素にレーザー光を照射するなどの常法により製造することができる。
【0018】
本発明のCNH複合体を構成するリン脂質(以下、「PL」と略すことがある)としては、例えば、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、ジホスファチジルグリセロール(カルジオリピン)等のグリセロリン脂質、スフィンゴミエリン等のスフィンゴリン脂質等が挙げられ、これらの中でも、ホスファチジルエタノールアミンが好ましい。
【0019】
本発明のCNH複合体を構成する分子認識素子は、細菌、真菌等の細胞壁を認識できるものであればよく、例えば、レクチン、抗体、ペプチド、ウイルス受容体等が挙げられる。
【0020】
レクチンとしては、例えば、L-フコース結合レクチン、D-ガラクトースないしN-アセチル-D-ガラクトサミン結合レクチン、D-マンノース結合レクチン(コンカナバリンA、インゲンマメないしソラマメ由来のレクチンなど)、ジ-N-アセチルキトビオース結合レクチン(WGA、PWM,DSAなど由来のレクチン)、シアル酸結合レクチン(カブトガニ由来レクチンなど)等が挙げられる。
【0021】
抗体としては、例えば、MRSAを選択的に認識する抗体、大腸菌、サルモネラ菌などのLPS(リポポリサッカライド)を認識する抗体等が挙げられる。
【0022】
ペプチドとしては、例えば、大腸菌などのLPS、リピドAを認識するペプチド等が挙げられる(Nagaoka, I et al. J. Immunol. 167, 3329-3338 (2001)及び特開2002−311029号公報)。
【0023】
本発明のCNH複合体を構成するポリエチレングリコール(PEG)は、例えば、分子量300〜10000程度のものを使用でき、好ましくは分子量500〜8000程度、より好ましくは分子量1000〜4000程度のものがよい。
【0024】
本発明のPL−PEG−(分子認識素子)コンジュゲートは、例えば、PL−PEG−(N-ヒドロキシスクシンイミド)、PL−PEG−(マレイミド)などの、一端に連結基を有するPL−PEG誘導体を分子認識素子と反応させることで製造することができる。或いは、PL−PEG−ビオチンまたはPL−PEG−アビジン系物質(アビジン、ストレプトアビジン、ニュートラアビジンなど)を利用し、ビオチン-アビジン系物質の結合を介して分子認識素子を連結することができる。分子認識素子がシアル酸、グリコサアミノグリカン、糖類(carbohydrate)などの糖鎖を有する場合には、糖転移酵素などを用いてもよく、これら糖鎖をビオチン化ないし(ストレプト)アビジン化し、ビオチン/アビジン結合を利用してCNHに結合させてもよい。
本発明のCNH複合体は、CNHあるいはカルボキシル化されたCNH(CNH−COOH)などのCNH誘導体とPL−PEG−(分子認識素子)コンジュゲートを水、アルコールなどの適当な溶媒中で、超音波、攪拌、振盪などにより混合して、得ることができる。
【0025】
CNH誘導体としては、カルボキシル基の他に、カルボニル基、水酸基、エーテル基、イミノ基、ニトロ基及びスルホン基等がCNHに結合したCNH誘導体を用いても良い。
【0026】
本発明のCNH複合体は、図1に示すように、CNHを構成する炭素構造に、多数のリン脂質(PL)−ポリエチレングリコール(PEG)−分子認識素子コンジュゲートが吸着した構造を有している。CNH−COOHの表面にPLのアルキル鎖が、疎水性相互作用により吸着していると考えられる。PEGは、CNH−COOHの水性溶媒への分散性を高め、分子認識素子は、選択的に細胞、真菌等の細胞壁に結合する。
【0027】
図1が細菌、真菌等の吸着を例示しているのに対し、図7は、ウイルスが本発明のCNH複合体に吸着し、光により死滅する様子を模式的に示している。なお、図7は、抗体を用いてウイルスの表面蛋白質を認識する場合を示しているが、ウイルスが細胞/感染対象を認識する部位と結合する分子認識素子をコンジュゲートすれば、ウイルスの変異が起こっても、感染力のあるウイルスを確実に死滅させることができるため、好ましい。ウイルスが細胞/感染対象を認識する部位と結合する分子認識素子を、以下の表1〜3に示す。なお、表1〜3は、以下の文献に記載されているものである:Principles of Virology 2nd Ed: Molecular Biology, Pathogenesis, and Control, L. W. Enquist, R. M. Krug, V. R. Racaniello, A. M. Skalka, S. J. Flint, S. Jane Flint, S.J. Flint, ASM press.
【0028】
表1〜3には、各標的ウイルス(Virus)に対する分子認識素子が、レセプター(Receptor)とコレセプター(Coreceptor)として例示されている。また、“Type of molecule”は、ウイルスに対する分子認識素子の分子の種類を示す。
【0029】
【表1】

【0030】
【表2】

【0031】
【表3】

【0032】
PL−PEG−分子認識素子コンジュゲートは、CNH又はその誘導体が水性溶液中で適度に分散する程度に吸着している。
【0033】
本発明のCNH複合体は、例えば以下の工程により製造される。後記の製造例1に、具体的な製造例を示す。
【0034】
CNH−COOH及び3-(N-スクシンイミジルオキシグルタリル)アミノプロピル(NHS)−PEG−PLコンジュゲートをPBS緩衝液に添加し、氷浴中で1時間超音波処理を施す。限外ろ過により未反応物を除去し、PBS緩衝液で洗浄することにより、NHS−PEG−PL−CNH−COOHが得られる。得られたNHS−PEG−PL−CNH−COOHの水溶液に、分子認識素子を加え、数時間攪拌する。未反応の分子認識素子を吸引ろ過により除去し、蒸留水で洗浄する。最後に、得られた黒色溶液を液体窒素で予備凍結し、48時間凍結乾燥を施すことにより、本発明のCNH複合体([分子認識素子−PEG−PL]・CNH又はその誘導体)が得られる。
【0035】
本発明のCNH複合体は、後記分散安定性試験の結果から明らかなように、水性溶液中での分散安定性に優れている(図3、8)。
【0036】
また、構造解析試験の結果から、本発明のCNH複合体一つの大きさは、約80nmの球状のナノ粒子であることが分かる(図3)。
【0037】
本発明のCNH複合体は、2〜数個程度凝集させて使用することもできる。
【0038】
凝集させて用いる場合には、グルタルアルデヒド等の適当な分子を用いて分子認識素子を架橋させればよい。或いは、本発明の複合体にレーザー光を照射することで凝集体を形成することもできる。なお、このような凝集体であっても軽いため水への分散性は良好である。
【0039】
本発明のCNH複合体は、細菌等の細胞壁に結合する分子認識素子を細胞壁の種類に応じて適宜選択することにより、特定の細胞壁に結合することが可能である。
【0040】
本発明のCNH複合体は、光照射により発熱する性質を有する。分子認識素子の選択により、特定の細菌の細胞壁に結合したCNHは、外部からレーザー光を照射することにより、発熱し、細菌を殺すことができる。
【0041】
該CNH複合体は、400〜1100nm程度(可視〜近赤外領域)の広い波長範囲の光を吸収して発熱する(図4)。さらに、該CNH複合体は、1100nm以上の波長の光も吸収して発熱する。
【0042】
従って、使用する光の波長は、その用途等によって適宜選択すればよい。例えば、人体中のCNH複合体を発熱させるには、人体を透過する650〜2500nm程度、好ましくは700nm〜1200nm程度(近赤外領域)の光を照射すればよい。なお、照射される光は近赤外(700〜2500nm程度)が好ましいが、600nm以上、好ましくは650nm以上の赤色の可視光も生体の透過性に優れている。
【0043】
レーザーの出力は、使用する光の波長、その用途等によって適宜選択すればよいが、近赤外領域の光を用いる場合には、例えば、3W以上、好ましくは5W以上にするのがよい(図4)。
【0044】
本発明のCNH複合体は、後記の試験例に示す通り、優れた抗菌作用を有するので、抗菌剤して有用であり、ブドウ状球菌、腸球菌、大腸菌等の細菌、白癬菌等の真菌、ウイルスによる病気の予防薬及び治療薬として好適に使用でき、これらの細菌、ウイルス等の検出剤及び食品用抗菌剤、抗ウイルス剤としても好適に使用できる。
【0045】
本発明は、CNH複合体を有効成分とする医療用及び食品用抗菌剤、抗ウイルス剤を提供する。
【0046】
本発明の抗菌剤は、カーボンナノホーン複合体だけからなるものであってもよいし、任意の担体や添加剤と組み合わせて、従来公知の方法で所望の用途に適した形態に調製した組成物であってもよい。
【0047】
本発明の医療用抗菌剤の形態は、特に制限されないが、例えば錠剤、粉末剤、顆粒剤、丸剤、粉末シロップ剤およびカプセル剤(硬カプセルおよび軟カプセル)などの固体状の製剤;クリーム、軟膏およびジェルなどのペースト状またはゲル状の製剤;液剤、懸濁剤、乳液剤、シロップ、エリキシル剤などの液体状の製剤等とすることができる。
【0048】
本発明の抗菌剤の配合量は、抗菌効果を発揮する割合で含むものであれば特に制限されず、製剤100重量%中、0.001〜50重量%、好ましくは0.01〜10重量%、より好ましくは0.1〜5重量%の範囲で適宜設定調製することができる。
【0049】
当該抗菌剤、抗ウイルス剤は、CNH複合体が効果を発揮する割合で含むものであればよく、この効果を妨げない範囲で他成分を配合することもできる。かかる他成分としては、薬理学的及び製剤学的に許容されるものであれば制限されないが、例えば賦形剤、結合剤、分散剤、増粘剤、滑沢剤、pH調整剤、可溶化剤などの一般に製剤の製造に使用される担体のほか、抗生物質、他の抗菌剤、殺菌剤、防腐剤、酵素、キレート剤、着色料(染料、顔料など)、保湿剤、界面活性剤、酸化防止剤、香料、矯味剤、矯臭剤、溶媒などが含まれる。
【0050】
当該抗菌剤の使用方法は、本製剤を経口投与、塗布、点滴、注射等により体内に摂取させる方法や、患部への局所的な施用等とすることができる。
【0051】
使用量は、剤形や投与(使用)方法等によって異なるため、一概に規定することはできないが、例えば、適当な1日の投与量は、上記本発明のCNH複合体の投与量に換算して、通常、成人1Kg当たり1ng〜100mg、好ましくは10ng〜50mg程度の範囲で、患者の年齢、症状に応じて適宜設定することができ、これらの製剤は、1日1〜数回に分けてするのがよい。
【0052】
本発明の抗菌剤は、食品用抗菌剤としても好適に使用できる。
【実施例】
【0053】
以下に、本発明のカーボンナノホーン複合体の製造例、製剤例及び試験例を挙げて、本発明を一層明らかにするが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0054】
製造例1
カルボキシル化カーボンナノホーンの合成
カーボンナノホーン(50 mg)を70%硝酸水溶液(200 mL)に添加し、加熱還流を行った(130℃、15分間)。氷浴下、得られた溶液に蒸留水(600 mL)を徐々に添加した。次に、蒸留水を用いて溶液が中性になるまで吸引ろ過を行った(PTFE膜、孔径=100 nm)。得られたカルボキシル化カーボンナノホーン(CNH−COOH)が堆積したPTFE膜を蒸留水(50 mL)に入れ、数分間、超音波処理を行った。得られた黒色のCNH−COOH水溶液を液体窒素で予備凍結し、48時間凍結乾燥を施した。FT-IRにより、得られたCNH−COOHに−COOH基(1724 cm-1)および-COO-基(1571 cm-1)が表示されていることを確認した(図2)。
【0055】
製剤例1
分子認識素子-カーボンナノホーン複合体の合成
CNH−COOH(1 mg)、[3-(N-スクシンイミジルオキシグルタリル)アミノプロピル(NHS)]−[ポリエチレングリコール−カルバミル(PEG鎖の分子量=2,000)]−[ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン]コンジュゲート(NHS-PEG-PL)をPBS緩衝液(pH 7.3、10 mL)に添加し、氷浴中(< 8℃)で1時間超音波処理を施した。限外ろ過(分画分子量=100,000、遠心条件:6,000 rpm、15 min、4℃)により未反応物を除去し、PBS緩衝液(5 mL)で3回洗浄した。次に、得られたNHS-PEG-PL-CNH-COOH水溶液(10 mL)に小麦胚芽由来レクチン(WGA)(1 mg)を加え、3時間攪拌した。
未反応のWGAを吸引ろ過(ポリカーボネート膜、孔径=50 nm)により除去し、蒸留水(100 mL)により洗浄した。最後に、得られた黒色溶液を液体窒素で予備凍結し、48時間凍結乾燥を施した。
【0056】
WGA-PEG-PLコンジュゲートの化学式を、以下に示す。
【0057】
【化1】

【0058】
蛍光分子ラベル化WGA−CNH複合体(Alexa633-WGA-PEG-PL-CNH-COOH)及びLPSコア抗体-CNH複合体(anti LPS core-PEG-PL-CNH-COOH)は、上記WGA-PEG-PL-CNH-COOHの合成法と同様の手法により合成した。
【0059】
一方、(アミノプロピルポリエチレングリコール−カルバミル ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン(NH2-PEG-PL)-CNH-COOH(以下、NH2-PEG-PL-CNH-COOHという)は、NHS-PEG-PL-CNH-COOHと同様の手法により得た。
【0060】
全てのCNH複合体は4℃で3ヶ月以上、PBS緩衝液中で分散安定性があることを確認した(図3a)。
【0061】
解析例1(CNH複合体のナノ構造解析)
CNH複合体の構造解析は走査型電子顕微鏡(SEM)(加速電圧: 10 keV), 透過型電子顕微鏡(TEM)(加速電圧: 200あるいは300 keV)、原子間力顕微鏡(AFM)(カンチレバー:タッピングモード)により行った(図3)。
【0062】
試験例1(CNHの光吸収特性)
CNH、CNH-COOH及びWGA-PEG-PL-CNH-COOHの光吸収特性は、室温条件下で紫外-可視-近赤外(UV-Vis-NIR)スペクトル解析(JASCO、V-630)により評価した。
次に、各種CNHサンプル(CNH及びCNH-COOH=50 μg/mL、WGA-PEG-PL-CNH-COOH=150 μg/mL)をPBS緩衝液に分散させ、石英セル(光路長=1 cm)中で吸光度モニタリングした(図4b)。吸光度モニタリングは、生体に無害な波長領域な赤外領域のレーザー光(NIR(1064 nm)を用いて試験を行った(図4a及びb)。
【0063】
その結果、本発明のCNH複合体(WGA-PEG-PL-CNH-COOH)は、Vis-NIR(400〜1100 nm)の広い光吸収特性を有することが分かった。図4には示されていないが、本発明のCNH複合体は、1100nm以上の波長の光も吸収して発熱する。
図4aは、本発明のCNH複合体のUV-Vis-近赤外スペクトル解析である。
図4bは、各濃度のWGA−PEG−PL−CNH−COOHにおける光吸収特性(近赤外領域(1,064 nm))である。
【0064】
試験例2(CNH温度変化測定)
本発明のCNH複合体WGA-PEG-PL-CNH-COOH (25あるいは200 μg/mL)をPBS緩衝液に分散させ、1064 nmのレーザーを様々な出力(1〜5 W)で照射した。コントロール実験としてCNH複合体無しでの実験も行った。レーザー照射において1分置きに水銀温度計により溶液の温度を測定した。全てのCNHサンプルはレーザー照射前にフィルター(孔径=5 μm)にかけた(図4c及びd)。
【0065】
図4cは、WGA−PEG−PL−CNH−COOHに各出力(1〜5 W)のレーザー光(1,064 nm)を照射したときの温度変化である。
【0066】
その結果、CNHが系内に存在することで、レーザー光(1,064 nm)を照射すると発熱現象や突沸現象が見られた。
図4dは、WGA−PEG−PL−CNH−COOH (200 μg/mL) のレーザー光照射前(左のパネル)とレーザー光照射後(右のパネル)の写真である。上部パネルは縮小写真。下部パネルは拡大写真である。
【0067】
試験例3(蛍光ラベル化WGA-CNH複合体の細菌への吸着実験)
Alexa633-WGA-PEG-PL-CNH-COOHの細菌への選択的吸着実験は、倒立蛍光顕微鏡により評価した[対物レンズ:100×、EB-CCD高感度カメラ、光学フィルターセット(励起波長:510-560 nm、吸収波長: > 690 nm)](図5)。
図5a〜cは、S. cerevisiae(酵母)、d〜f;E. colij(大腸菌)を用いた。スケールバーは全て20 μm、倍率は全て×100である。
【0068】
図5a及びdは、位相差顕微鏡写真。図5b及びeは、Alexa 633−WGA−PEG−PL−CNH−COOHを細菌に吸着後の蛍光顕微鏡写真。図5c及びfは、コントロール実験の蛍光顕微鏡写真(Alexa 633−WGA−PEG−PL−CNH−COOH無し)である。
【0069】
吸着試験の結果、Alexa633-WGA-PEG-PL-CNH-COOHは、S. cerevisiaeに対して選択的に吸着し、輝いていることが分かった(図5b)。一方、E. coliに対しては、Alexa 633-WGA-PEG-PL-CNH-COOHの蛍光はほとんど観察されなかった(図5e)。
【0070】
試験例4(選択的殺菌試験)
・前処理
酵母(S. cerevisiae)はYPD培地、大腸菌(E. coli)はLB培地により24時間培養した。これらの細菌溶液(1 mL)を遠心分離(4,500 rpm、5 min、4 °C)により集菌し、PBS緩衝液(1 mL)により3回洗菌した。次に、PBS緩衝液に分散させた各種CAN複合体(100 μg/mL)を遠心分離(4,500 rpm、5 min、4 °C)にかけ、上澄み溶液(1 mL)を回収し、フィルター(孔径=5 μm)にかけた。得られた均一に分散した各種CAN複合体(0.5 mL)を上記洗浄した細菌溶液(0.5 mL)に添加し、1時間、4℃でインキュベートした後、PBS緩衝液(1 mL)で3回洗浄した(遠心条件:4,500 rpm、5 min、4 °C)。最後に、得られた本溶液(500 μL)に死菌を染色するためのヨウ化プロピジウム水溶液(43 μM、5 μL)を加え、15分間4℃でインキュベートした。
【0071】
・選択的殺菌試験
選択的殺菌試験は、単一レーザービーム(1,064 nm)を蛍光顕微鏡に取り付けた装置により行った。レーザービームはカバーガラス上で対物レンズ(×40)により焦点を合わせた。画像は、3バンドフィルターを搭載したカラーCCDカメラにより撮影した(図6)。スケールバーは全て25 μm。倍率は全て20倍。レーザー出力は1 W。波長は1,064 nm。上のパネルはS. cerevisiae(酵母)を用い、下のパネルはE. coli(大腸菌)を用いた。
図6a;WGA−PEG−PL−CNH−COOH。
図6b;コントロール (WGA−PEG−PL−CNH−COOH無し)。
図6c;NH−WGA−PEG−PL−CNH−COOH (分子認識素子無し)。
図6d;Anti LPS core−PEG−PL−CNH−COOH。
【0072】
選択的殺菌試験の結果、WGA−PEG−PL−CNH−COOHを使用した場合には、S. cerevisiaeのみを選択的に殺菌することができた(図6a)。コントロール実験(WGA−PEG−PL−CNH−COOH無し)では、いずれの細菌も死滅しなかった(図6b)。また、分子認識素子を持たないNH−WGA−PEG−PL−CNH−COOHを使用した場合にも、いずれの細菌も死滅しなかった(図6c)。
【0073】
一方、Anti LPS core−PEG−PL−CNH−COOHを使用した場合には、E. coliのみを選択的に殺菌することができた(図6d)。
【0074】
製剤例2
ウイルス認識素子-カーボンナノホーン複合体の合成
CNH-COOH(1 mg)と3-(N-スクシンイミジルオシグルタリル)アミノプロピル ポリエチレングリコール カルバミル ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン(NHS-PEG-PL)(PEG鎖の分子量=2,000)をPBS緩衝液(pH 7.3、10 mL)に添加し、氷浴中(< 8℃)で1時間超音波処理を施した。限外ろ過(分画分子量=100,000、遠心条件:6,000 rpm、15 min、4℃)により未反応のNHS-PEG-PLを除去し、PBS緩衝液(5 mL)により3回洗浄した。次に、T7 tag抗体(T7 tag Ab)(50 μg)を洗浄したNHS-PEG-PL-CNA-COOH溶液(10 mL)に加え、3時間攪拌した。未反応のT7 tag抗体を吸引ろ過(ポリカーボネート膜、孔径=50 nm)により除去し、蒸留水(100 mL)により洗浄した。最後に、得られた黒色溶液を液体窒素で予備凍結し、48時間凍結乾燥を施した。
【0075】
試験例5(粒径測定)
T7 tag Ab-PEG-PL-CNH-COOH水溶液(300 μg/mL)をフィルトレーション(酢酸セルロース膜、孔径=200 nm)後、動的光散乱式粒径分布測定装置(HORIBA、LB-550)により粒径を解析した。測定は、製造した日(first date)と、5日後、20日後、30日後に行なった。結果を図8に示す。また、レーザー照射時間と粒径との関係を図9に示す。図9の結果、レーザーの照射時間が上がるにつれて粒径が増大することが明らかとなった。右の写真は、60min間NIRレーザーを照射した後の溶液の様子。全く沈殿物が生じていないことが分かる。おそらく、CNHが非常に軽いこととCNH表面には水溶性のカルボキシル(-COOH)基が存在するため、沈殿が生じない。粒子径が増大すれば、ナノリスクも低減するため、分散性(溶解性)が高く、沈殿物が生成しない本発明の複合体は、医薬、食品、化粧品などの素材として使用しやすいものである。
【0076】
試験例6(抗ウイルス活性試験)
PBS緩衝液に分散させた各種CAN複合体(0〜300 μg/mL)(0.25 mL)をT7ファージ溶液(4.8×1010 pfu/mL)(0.25 mL)に加えた。次に、死滅したT7ファージを染色するためにヨウ化プロピジウム水溶液(43 μM、5 μL)を加え、5分間4℃でインキュベートした。抗ウイルス活性試験は、単一レーザービーム(1,064 nm)を蛍光顕微鏡に取り付けた装置により行った。レーザービームはカバーガラス上で対物レンズ(×40)により焦点を合わせた。画像は3バンドフィルターを搭載したカラーCCDカメラにより撮影した。結果を図10に示す。図10の結果から以下のことが明らかになった:
(i)CNH濃度が高い場合は、ウイルス認識素子の有無に関わらず、T7ファージは殺傷可能である。
(ii)ウイルス認識素子の効果によって、より効果的にT7ファージを殺傷可能である。
(iii)CNH複合体の効果によりT7ファージを殺傷可能である。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】本発明のカーボンナノホーン複合体による細胞滅菌の概念図。
【図2】CNH−COOHのFT-IR解析結果
【図3】本発明のカーボンナノホーン複合体の分散安定性とナノ構造解析結果。a; CNH (100 μg/mL)、CNH-COOH (100 μg/mL)及びWGA-PEG-PL-CNH-COOH (300 μg/mL)をPBS緩衝液中、4oCで24時間インキュベートした後の写真。b;WGA−PEG−PL−CNH−COOHのSEM写真(スケールバー:100 nm)。 c;CNH−COOHのTEM写真(加速電圧=300 keV)(スケールバー:20 nm)。d;WGA−PEG−PL−CNH−COOHのTEM写真(加速電圧=200 keV)(スケールバー:20 nm)。表面の蛋白質やPEGを観察するために0.04% (w/v)のモリブデン酸アンモニウムを加えた。e;WGA−PEG−PL−CNH−COOHのAFM写真(スケールバー:500 nm)f;WGA−PEG−PL−CNH−COOHのAFM写真(高さプロファイリング)
【図4】本発明のCNH複合体の光吸収特性とレーザー照射(1,064 nm)による発熱反応を示す。a;CNHのUV-Vis-近赤外スペクトル解析。b;各濃度のWGA−PEG−PL−CNH−COOHにおける光吸収特性(近赤外領域(1,064 nm))。c;WGA−PEG−PL−CNH−COOHに各出力(1〜5 W)のレーザー(1,064 nm)を照射したときの温度変化。d;WGA−PEG−PL−CNH−COOH (200 μg/mL) のレーザー照射前(左のパネル)とレーザー光照射後(右のパネル)の写真。上部パネルは縮小写真。下部パネルは拡大写真。
【図5】位相差顕微鏡及び蛍光顕微鏡による蛍光Alexa 633−WGA−PEG−PL−CNH−COOHの細菌への吸着特性評価(スケールバーは全て20 μm。倍率は全て×100)。a〜c;S. cerevisiae(酵母)d〜f;E. colij(大腸菌)a及びd;位相差顕微鏡。b及びe;Alexa 633−WGA−PEG−PL−CNH−COOHを細菌に吸着後の蛍光顕微鏡写真。c及びf;コントロール実験の蛍光顕微鏡写真(Alexa 633−WGA−PEG−PL−CNH−COOH無し)
【図6】リアルタイム殺菌試験結果(蛍光顕微鏡写真)(スケールバーは全て25 μm。倍率は全て20倍。レーザー出力1 W。波長: 1,064 nm。(上のパネル;S. cerevisiae(酵母)。下のパネル;E. coli(大腸菌)。)a;Alexa 633−WGA−PEG−PL−CNH−COOH。b;コントロール (Alexa 633−WGA−PEG−PL−CNH−COOH無し)。c;NH−WGA−PEG−PL−CNH−COOH (分子認識素子無し)。d;Anti LPS core−PEG−PL−CNH−COOH。
【図7】概念図[T7 tag Ab-CNH複合体とNIRレーザー(1064 nm)による殺菌]。T7 tag Abは選択的にウイルスの頭部(g10領域)に結合する。PEG鎖はCAN-COOHに水への分散性を高める。PLは疎水性相互作用によりCNH-COOHの壁面に吸着する。
【図8】T7 tag Ab-PEG-PL-CNH-COOHの分散安定性の評価。図8の結果から、動的光散乱式粒径分布測定によりT7 tag Ab-PEG-PL-CNH-COOHは少なくとも30日間は高い分散安定性があることが分かった。
【図9】NIRレーザーによるT7 tag Ab-PEG-PL-CNH-COOHの粒径変化
【図10】リアルタイム抗ウイルス活性試験。a, T7 tag Ab-PEG-PL-CNH-COOH (300 μg/mL)。b, NH2-PEG-PL-CNH-COOH (ウイルス認識素子無し) (300 μg/mL)。c, T7 tag Ab-PEG-PL-CNH-COOH (30 μg/mL)。 d, NH2-PEG-PL-CNA-COOH (ウイルス認識素子無し)(30 μg/mL)。e, コントロール実験 (ウイルス認識素子-CNH複合体無し)。スケールバーは全て25 μm。倍率は全て×20。レーザー出力: 1 W。波長: 1,064 nm。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン脂質−ポリエチレングリコール−分子認識素子コンジュゲートとカーボンナノホーンを溶媒中で混合することを特徴とする、カーボンナノホーンを溶媒中に分散させる方法。
【請求項2】
溶媒が水である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
分子認識素子が、レクチンまたは抗体である請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
リン脂質がモノアシルまたはジアシルのホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、ジアシルホスファチジルエタノールアミン、スフィンゴミエリンからなる群から選ばれる請求項1〜3のいずれかに記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−6484(P2011−6484A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−229229(P2010−229229)
【出願日】平成22年10月12日(2010.10.12)
【分割の表示】特願2007−112244(P2007−112244)の分割
【原出願日】平成19年4月20日(2007.4.20)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】