説明

カール予測方法およびカール矯正度合予測方法、液滴吐出装置ならびにそのプログラム

【課題】記録媒体に対し画像を形成するインク等の液体を吐出する液滴吐出装置に関し、記録媒体に液体が吐出されることにより発生する記録媒体のカール度合を、より正確に予測する。
【解決手段】記録媒体上に定められた評価領域ごとに、液滴吐出装置が評価領域に吐出する液体量および液滴数を算出し、記録媒体上における評価領域の位置と当該評価領域に吐出される液体量および液滴数とに基づいて、記録媒体に液体が吐出されることにより発生する記録媒体のカール度合を予測する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録媒体に対し画像を形成するインク等の液体を吐出する液滴吐出装置に関し、より詳細には、記録媒体のカールの度合および/またはカールの矯正度合を予測する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
液滴吐出装置の1つとして、紙や布、フィルムなどの各種記録媒体へ向けてインクを吐出して記録媒体上に画像を形成するインクジェットプリンタが知られている。インクジェットプリンタには、水溶性のインクが使用されることがあり、水溶性のインクは溶媒としての水を多く含んでいる。このインクに含まれる水分によって、画像形成後のインクが付着した記録媒体にカールが発生することがある。カールの状態や程度は、記録媒体に付着しているインクの状況により異なる。一般に、記録媒体にインクが付着することによって、記録媒体の表裏で水分量の差が大きくなると、カールが発生し易い。記録媒体にカールが発生すると、排紙された記録媒体は整然と積層されず、記録媒体が折れたり飛散したりするなどの不具合が発生する。このため、記録媒体のカールを的確に予測して、適切にカールを抑制することが望ましい。そこで、特許文献1では、記録媒体上に定められた領域ごとに、液滴吐出装置が前記領域に吐出する液体量を算出し、前記領域の位置と前記領域に吐出される液体量とに基づいて記録媒体のカール状態を予測する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−143010号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1には、記録媒体に同量のインクを塗布したとしても、インクが記録媒体の全体に亘って塗布された場合と局所的に塗布された場合とでは記録媒体にカールが発生する仕組みが異なることから、記録媒体に或領域を設定し当該領域の記録媒体上の位置と当該領域に吐出される液体量とに基づいて記録媒体のカール状態を予測することが記載されている。これに対し、本願の発明者は、記録媒体に或領域を設定した場合に、記録媒体のカール度合は、当該領域の記録媒体上の位置および当該領域に吐出される液体量に加えて当該領域に吐出される液滴数に影響を受けるという新たな知見を得た。しかも、或領域に吐出される液滴数は、記録媒体のカール度合に相当に大きな影響を与えることがわかった。これは、液滴の大きさにより階調表現を行う形式の液滴吐出装置においては、記録媒体の単位面積当たりの液滴数と液体量とは必ずしも対応しないためであると想定される。したがって、上記特許文献1に記載された手法では記録媒体のカール度合を必ずしも正確に予測できるとは限らない。予測された記録媒体のカール度合が正確でなければ、これに基づいてカールを矯正したときに、矯正が不十分であったり、矯正に必要以上の時間やエネルギーを要したりするといった事態が生じる。
【0005】
そこで、本発明は、上記新たな知見に基づいて、液滴吐出装置により画像が形成される記録媒体の画像形成後のカール度合をより正確に予測することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るカール予測方法は、記録媒体上に定められた評価領域ごとに、液滴吐出装置が前記評価領域に吐出する液体量および液滴数を算出するステップと、前記評価領域の位置と当該評価領域に吐出される液体量および液滴数とに基づいて、前記記録媒体に液体が吐出されることにより発生する前記記録媒体のカール度合を予測するステップとを備えるものである。
【0007】
また、本発明に係る液滴吐出装置は、記録媒体に向けて液体を吐出する1以上の液体吐出ヘッドと、前記記録媒体に形成される画像に対応して液体を吐出させるための液体吐出データを記憶する液体吐出データ記憶部と、前記液体吐出データに基づいて前記1以上の液体吐出ヘッドの動作を制御する液体吐出ヘッド制御部と、前記記録媒体上に定められた評価領域と対応する前記液体吐出データに基づいて、前記評価領域へ吐出される液体量および液滴数を算出する液体カウント部と、前記評価領域の位置と当該評価領域に吐出される液体量および液滴数とに基づいて、前記記録媒体に液体が吐出されることにより発生する前記記録媒体のカール度合を予測するカール予測部とを備えるものである。
【0008】
また、本発明に係るプログラムは、液滴吐出装置で実行されるプログラムであって、記録媒体上に定められた評価領域ごとに、前記液滴吐出装置が前記評価領域に吐出する液体量および液滴数を算出する処理と、前記評価領域の位置と当該評価領域に吐出される液体量および液滴数とに基づいて、前記記録媒体に液体が吐出されることにより発生する前記記録媒体のカール度合を予測する処理とを、前記液滴吐出装置に実行させるものである。
【0009】
上記カール予測方法および液滴吐出装置ならびにそのプログラムによれば、記録媒体上に定められた評価領域ごとに、液滴吐出装置が前記評価領域に吐出する液体量および液滴数を算出し、これに基づいて記録媒体に生じるカール度合を予測するので、予測される記録媒体のカール度合はより正確なものとなる。このように、より正確に予測された記録媒体のカール度合に基づいて記録媒体のカールを抑制するための対策を採ることができるので、より効率的にカールを抑制することができる。
【0010】
前記カール予測方法において、前記評価領域に吐出される液体量と液滴数と前記記録媒体のカール度合との関係を示す相関情報を前記評価領域の位置毎に作成し、前記相関情報を利用して前記記録媒体のカール度合を予測すると、簡易且つ迅速に前記評価領域に吐出される液体量と液滴数から記録媒体のカール度合を予測することができる。同様に、前記液滴吐出装置において、前記カール予測部は、前記評価領域に吐出される液体量と液滴数と前記記録媒体のカール度合との関係を示す相関情報を利用して前記記録媒体のカール度合を予測すると、簡易且つ迅速に前記評価領域に吐出される液体量と液滴数から記録媒体のカール度合を予測することができる。
【0011】
また、前記カール予測方法において、前記評価領域を複数定め、前記複数の評価領域の各々について前記記録媒体のカール度合を予測し、そのうち最も大きな値を前記記録媒体のカール度合とすることがよい。ここで、前記複数の評価領域は、前記記録媒体を複数の異なるパターンで分割することにより得られた複数パターンの評価領域を含むことが好ましい。同様に、前記液滴吐出装置において、前記液体カウント部は、前記記録媒体上に定められた複数の評価領域の各々について該評価領域に吐出される液体量および液滴数を算出し、前記カール予測部は、前記複数の評価領域の各々について前記記録媒体のカール度合を予測し、そのうち最も大きな値を前記記録媒体のカール度合とすることがよい。ここで、前記複数の評価領域は、前記記録媒体を複数の異なるパターンで分割することにより得られた複数パターンの評価領域を含むことが好ましい。かかる方法および装置によれば、記録媒体に局所的なカールが発生するような条件下であっても、この局所的なカールを予測することができる。
【0012】
前記カール予測方法において、予測された前記記録媒体のカール度合に基づいて、当該記録媒体のカールを抑制するために必要な矯正度合を求めるステップを更に含むことがよい。同様に、前記液滴吐出装置において、予測された前記記録媒体のカール度合に基づいて、当該記録媒体のカールを抑制するために必要な矯正度合を求めるカール抑制部を更に備えることがよい。かかる方法および装置によれば、より正確に予測された記録媒体のカール度合に基づいて、記録媒体のカールを抑制するために必要な矯正度合を定めるので、必要十分な時間およびエネルギーで、より効率的且つ十分にカールを抑制することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係るカール予測方法および液滴吐出装置によれば、記録媒体上または液体吐出データに定められた評価領域ごとに液滴吐出装置が前記評価領域に吐出する液体量および液滴数を算出し、これに基づいて記録媒体に生じるカール度合を予測するので、予測される記録媒体のカール度合はより正確なものとなる。そして、このように正確に予測された記録媒体のカール度合に基づいて記録媒体のカールを抑制するための対策を採ることができるので、より効率的にカールを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態に係るインクジェットプリンタの全体的な構成を示す概略側面図である。
【図2】制御装置の機能ブロック図である。
【図3】或領域のインク吐出データを示す図であり、(a)はブラックのインク吐出データ、(b)はシアンのインク吐出データ、(c)はマゼンタのインク吐出データ、(d)はイエローのインク吐出データである。
【図4】図3に示すインク吐出データに対応する或領域の処理液吐出データを示す図である。
【図5】カール予測方法の流れを説明するフローチャートである。
【図6】用紙に定められたブロックと単位領域との関係を示す図である。
【図7】用紙に定められた評価領域とブロックとの関係を示す図である。
【図8】第1の評価領域の液体−カール相関情報の一例を示す図である。
【図9】第4の評価領域の液体−カール相関情報の一例を示す図である。
【図10】カール抑制処置の一例として搬出路で用紙の搬送を停止させる様子を示す図である。
【図11】カール予測方法の流れの変形例を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明を実施するための形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。ここでは、本発明に係る液滴吐出装置を、液滴吐出装置の一例であるインクジェットプリンタに適用させて説明する。なお、以下では全ての図を通じて同一又は相当する要素には同一の参照符号を付して、その重複する説明を省略する。
【0016】
図1に示すように、本実施形態に係るインクジェットプリンタ101は、略直方体形状の筐体102を備えている。筐体102内には、5つのヘッド1から成るヘッドユニット10、用紙Pをヘッド1の下方において搬送方向99(図1中左から右に向かう方向)へ搬送する搬送ユニット16、用紙Pを給紙する給紙ユニット103、およびインク等を貯留するタンクユニット104の各機能ユニットが上方から下方へ順に設けられている。また、筐体102内の上記機能ユニットと干渉しない位置には、各機能ユニットの動作を司る制御装置100が設けられている。さらに、筐体102の上面には、印刷を終えた用紙Pが排出される排紙部15が設けられている。
【0017】
ヘッドユニット1が具備する5つのヘッド1のうち4つは、インクを吐出する記録ヘッド1aである。本実施形態では、ブラック、シアン、マゼンタおよびイエローの各記録ヘッド1aが設けられている。残りの1つのヘッド1は、処理液を吐出する処理液ヘッド1bである。ここで、顔料インクに対しては顔料色素を凝集させる処理液が使用される。また、染料インクに対しては染料色素を析出させる処理液が使用される。処理液の主材料は、カチオン性化合物、とりわけ、カチオン系高分子、カチオン性界面活性剤、カルシウム塩およびマグネシウム塩等の多価金属塩を含有する液体等のなかからインクの性質に応じて適宜選択される。このような処理液が塗布された用紙Pの領域にインクが着弾すると、処理液中の多価金属塩等がインクの成分(すなわち、着色剤である染料又は顔料)に作用して、不溶性又は難溶性の金属複合体等が凝集又は析出する。その結果、付着したインクの用紙P内への浸透度が低下して、インクが用紙Pの表面に近い領域に定着しやすく(残存しやすく)なる。
【0018】
処理液ヘッド1bは、5つのヘッド1のうち搬送方向99の最も上流側に配置されている。4つの記録ヘッド1aは、処理液ヘッド1bよりも搬送方向99下流側において、吐出するインクの明度が小さい順に、すなわち、ブラック、シアン、マゼンタ、イエローの順に上流側から下流側へ向けて配置されている。
【0019】
5つのヘッド1はほぼ同様の構成を有しており、いずれも印字幅方向98に長尺な略直方体形状を有するライン型インクジェットヘッドである。ここで「印字幅方向98」とは水平面に沿って搬送方向99と直交する方向である。各ヘッド1は、複数の吐出口(不図示)が開口している吐出面2aを有するヘッド本体2を備えている。吐出面2aは、搬送ユニット16により搬送方向99へ搬送される用紙Pと所定間隔を介して上下に対向している。各ヘッド本体2は、後述するヘッド制御部51により制御される複数のアクチュエータ(不図示)を備えている。これらのアクチュエータは、選択的に複数の吐出口から処理液又はインクが吐出されるように、処理液又はインクに吐出エネルギーを付与する。なお、本実施形態においては、印字幅方向98(主走査方向)及び搬送方向99(副走査方向)の解像度はいずれも600dpiとなるよう構成又は設定されており、用紙Pの表面に印字幅方向98および搬送方向99にそれぞれ1/600インチ間隔の格子状に区画された複数の単位領域(画素領域)が仮想的に定められている。
【0020】
タンクユニット104は、4つのインクタンク17aおよび1つの処理液タンク17bを備えている。インクタンク17aおよび処理液タンク17bは、筐体102に対して着脱可能に装着されている。各インクタンク17aは、ブラック、シアン、マゼンタまたはイエローのインクを貯留している。各インクタンク17aから対応する記録ヘッド1aへチューブ(不図示)を介してインクが供給される。同様に、処理液タンク17bは処理液を貯溜しており、処理液タンク17bから処理液ヘッド1bへチューブを介して処理液が供給される。
【0021】
給紙ユニット103は、筐体102に対して着脱可能に設けられた給紙トレイ11と、給紙ローラ12とを有している。給紙トレイ11は、上面解放の箱形状をなし、複数枚の用紙Pが積層された状態で収容されている。給紙ローラ12は、給紙トレイ11に収容されている最も上の用紙Pと接触している。そして、給紙ローラ12が制御装置100の制御を受けて動作する給紙モータ31(図2参照)により回転駆動されると、給紙トレイ11にある用紙Pが後述する搬送経路5へ送り出される。
【0022】
筐体102の内部には、図1に黒矢印で示されるように、給紙トレイ11から排紙部15までの用紙Pの搬送経路5が形成されている。搬送経路5は、複数の搬入ガイド14、搬送ユニット16および複数の搬出ガイド29により、全体として左右が反転したS字形状となるように形成されている。給紙ローラ12により給紙トレイ11から送り出された用紙Pは、複数の送給ローラ対13により搬入ガイド14を通じて搬送ユニット16へと送られる。搬送ユニット16の搬送経路5上流側には、レジストレーションローラ対4が設けられている。用紙Pは、このレジストレーションローラ対4により姿勢が整えられたのち、搬送ユニット16へ突入する。搬送ユニット16は、用紙Pを画像形成可能な位置へ送り込み、画像形成時には搬送方向99に所定の搬送速度で用紙Pを搬送させる。用紙Pが各ヘッド1の下方を通過する際に、用紙Pへ向けて処理液およびインクが吐出され、用紙Pの印刷面(上面)に所望のカラー画像が形成される。画像が形成された用紙Pは、搬送ユニット16から更に搬送経路5の下流側へ送り出され、複数の搬出ローラ対28により搬出ガイド29により形成された搬出路60を通じて上方に搬送され、筐体102の上部に設けられた排出口22から排紙部15へ排出される。
【0023】
搬送ユニット16は、図1に示すように、用紙Pの搬送方向に沿って配置された複数の搬送ローラ対8を備えている。搬送ローラ対8は、全ヘッド1の搬送方向99の下流側及び上流側と、各ヘッド1の間にそれぞれ配置されている。各搬送ローラ対8は、搬送ローラ8bと歯付ローラ8aとの、上下一対のローラで構成されている。搬送ローラ8bは、その周面と用紙Pの下面とが接触するように配置されている。歯付ローラ8aは、搬送ローラ8bの周面と用紙Pを挟んで対向するように配置されている。歯付ローラ8aは、印字幅方向98に延びる支軸と、支軸上に間隔を開けて設けられた複数の歯付ディスクとを備えている。歯付ディスクは、周面に複数の歯が形成された薄い板状のものであって、この歯の先端で用紙Pと接触することができる。歯付ローラ8aは図示しない付勢手段により搬送ローラ8bへ向けて付勢されており、歯付ローラ8aの周面は搬送ローラ8bの周面に圧接している。そして、搬送ユニット16に含まれる複数の搬送ローラ8bが、搬送モータ33(図2参照)により同期して回転駆動されることにより、用紙Pが歯付ローラ8aと搬送ローラ8bとの間に挟まれて搬送方向99下流側へ搬送される。
【0024】
次に、図2を参照しつつ、制御装置100について説明する。制御装置100は、ヘッド制御部51、搬送制御部59、画像データ記憶部52、インク吐出データ生成部53、インク吐出データ記憶部54、処理液吐出データ生成部56、処理液吐出データ記憶部57の各機能部を有している。制御装置100は、さらに、液体カウント部61、カール予測部62およびカール抑制部63の各機能部、ならびに、液体−カール相関情報64およびカール−矯正相関情報65の各データを有している。制御装置100は、CPU(Central Processing Unit)と、CPUが実行する制御プログラムおよびこれらプログラムに使用されるデータを書き替え可能に記憶する不揮発メモリと、プログラム実行時にデータを一時的に記憶するRAM(Random Access Memory)とを備えている。本発明の制御プログラムは、フレキシブルディスク、CD−ROM、メモリカード等の各種記録媒体に保存されており、これらの記録媒体から不揮発メモリにインストールされる。そして、この制御プログラムがCPUで実行されることにより、図2に示す制御装置100の各機能部が実現される。
【0025】
また、制御装置100には、レジストレーションローラ対4の搬送経路5上流側に設けられたレジセンサ41、レジストレーションローラ対4と処理液ヘッド1bの間に設けられた印刷開始センサ47、処理液ヘッド1bと記録ヘッド1aの間に設けられた湿度センサ43、および搬送経路5の終端部分に設けられた排紙センサ44が接続されている。印刷開始センサ47および排紙センサ44は、用紙Pの先端および後端が検出位置を通過したことを検出することができる。印刷開始センサ47の検出信号は、ヘッド制御部51が各ヘッド1からの処理液又はインクの吐出タイミングを決定するために利用される。湿度センサ43の検出信号は、ヘッド1のノズルの詰まりを検出するために利用される。排紙センサ44の検出信号は、搬出ローラ対28の駆動を停止するタイミングを決定するために利用される。レジセンサ41は用紙Pの先端が検出位置を通過したことを検出することができる。レジセンサ41の検出信号は、レジストレーションローラ対4のローラ間隔を狭めて用紙Pを搬送するタイミングと用紙Pの姿勢を整えるタイミングとを決定するために利用される。なお、レジセンサ41に上記印刷開始センサ47としての機能を併せ備えてもよい。
【0026】
制御装置100の搬送制御部59は、搬送経路5に沿って用紙Pが搬送されるように、給紙ユニット103、各送給ローラ対13、各送りローラ対27、各搬出ローラ対28、レジストレーションローラ対4および搬送ユニット16を制御する。具体的には、搬送制御部59は、給紙ユニット103の給紙ローラ12を駆動する給紙モータ31のモータドライバ131、各送給ローラ対13およびレジストレーションローラ対4を駆動する送給モータ32のモータドライバ132、各搬出ローラ対28を駆動する搬出モータ34のモータドライバ134、ならびに搬送ユニット16の搬送ローラ対8を駆動する搬送モータ33のモータドライバ133の駆動を制御する。
【0027】
ヘッド制御部51は、記録ヘッド1aのアクチュエータを制御する記録ヘッド制御部51aと、処理液ヘッド1bのアクチュエータを制御する処理液ヘッド制御部51bとを有している。記録ヘッド制御部51aは、後で詳述するインク吐出データ記憶部54に記憶されたインク吐出データに基づいて、搬送される用紙Pへ向けてインクを吐出するように、ヘッド駆動回路30を介して記録ヘッド1aのインクの吐出動作を制御する。処理液ヘッド制御部51bは、後で詳述する処理液吐出データ記憶部57に記憶された処理液吐出データに基づいて、用紙Pにおけるインクの着弾位置と処理液の着弾位置とが対応するように、ヘッド駆動回路30を介して処理液ヘッド1bの処理液の吐出動作を制御する。なお、本実施形態においては、ヘッド1から吐出するインク又は処理液の量をゼロ,小滴,中滴,大滴の4段階で変化させることができる。
【0028】
画像データ記憶部52は、用紙P上に記録される画像に係る画像データを記憶する。画像データは、インクジェットプリンタ101と接続されているPC(Personal Computer)50や、プリンタドライバ等から制御装置100へ転送されてくる。インク吐出データ生成部53は、画像データ記憶部52に記憶された画像データに基づいて、インク吐出データを生成する。インク吐出データ記憶部54は、生成されたインク吐出データを記憶する。インク吐出データは、用紙P上に仮想的に定められた単位領域(画素領域)に形成するドットのドットサイズ(ドットの大きさ)を示すデータである。インク吐出データに示されたドットサイズは、すなわち、記録ヘッド1aが用紙P上の単位領域へ吐出するインクの量(ゼロ,小滴,中滴,大滴の4段階のいずれか)を示している。以下では、インク吐出データの一つの単位領域のドットサイズ、すなわち、その単位領域に対応する用紙P上の単位領域へ吐出されるインクの量をインクの「液滴量」という。
【0029】
図3は或領域のインク吐出データを示す図であり、(a)はブラックのインク吐出データ、(b)はシアンのインク吐出データ、(c)はマゼンタのインク吐出データ、(d)はイエローのインク吐出データである。例えば、図3に示すように、インク吐出データ記憶部54は、4つの記録ヘッド1aに関する4つのインク吐出データを記憶している。なお、図3に示す4つのインク吐出データは、用紙P上の同一領域(1〜6までの6行分およびa〜fまでの6列分の計36個分の単位領域)に形成する画像に対応している。また、図4のS,M,Lとの記載は、用紙P上に仮想的に定められたその単位領域に形成するドットのドットサイズを示しており、S,M,Lのいずれの記載もない単位領域にはドットを形成しないことを示している。なお、ドットサイズS,M,Lは、記録ヘッド1aから吐出される小滴,中滴,大滴の液滴と対応している。
【0030】
処理液吐出データ生成部56は、インク吐出データ記憶部54に記憶されたインク吐出データに基づいて、処理液吐出データを生成する。ただし、処理液吐出データ生成部56は、画像データ記憶部52に記憶された画像データに基づいて処理液吐出データを生成するように構成されていてもよい。処理液吐出データ記憶部57は、生成された処理液吐出データを記憶する。処理液吐出データは、用紙P上に仮想的に定められた単位領域(画素領域)に形成する処理液のドットサイズを示すデータである。処理液吐出データに示されたドットサイズは、すなわち、処理液ヘッド1bが用紙P上の単位領域へ吐出する処理液の液滴量(ゼロ,小滴,中滴,大滴の4段階のいずれか)を示している。
【0031】
図4は、処理液吐出データの一例として、図3に示すインク吐出データに基づいて生成された処理液吐出データを示している。なお、図4においてSの記載は、用紙P上に仮想的に定められたその単位領域に形成するドットのドットサイズを示しており、記載のない単位領域にはドットを形成しないことを示している。なお、処理液吐出データのドットの大きさのSは、処理液ヘッド1bから吐出される小滴の液滴と対応している。処理液吐出データは、原則として、インク吐出データのドットが形成される各単位領域に対し選択的にドットサイズSのドットを形成するように生成される。この結果、処理液吐出データに基づいて処理液の吐出を行う処理液ヘッド1bは、用紙Pのインクの着弾位置と処理液の塗布範囲とが一致するように、用紙P上のインクが吐出される各単位領域に対し選択的に小滴の処理液を吐出する。
【0032】
本実施形態に係るラインヘッドプリンタは、搬送される用紙Pに処理液およびインクが吐出されるため、シリアルヘッドプリンタと比較して印刷が高速となる。その反面、搬送経路5を用紙Pが搬送される間にインクが十分に乾燥する時間がないため、用紙Pにカールが発生し易い。カールした用紙Pは、排紙部15へ排紙されたときに整然と積層されず、折れたり飛散したりするなどの不具合が発生する。そこで、本実施形態に係るインクジェットプリンタ101は、制御装置100の液体カウント部61およびカール予測部62により用紙Pに発生するカール度合を予測し、カール抑制部63により予測されたカール度合に応じてカールを抑制するための対策を採る。ここで「カール度合」とは、用紙Pに発生するカールの量を直接的又は間接的に表し、カールの大きさの指標となるものである。以下では、本実施形態に係る用紙Pのカール予測方法について、図5に示すフローチャートを参照しながら説明する。
【0033】
まず、液体カウント部61は、用紙Pに定められた各ブロックの液滴数および液体量を算出する(ステップS1)。図6は、用紙Pに定められたブロックBと単位領域Dとの関係を示す図である。図6に示すように、1枚(1ページ)の用紙Pおよびこれに相当するインク吐出データを所定の中領域に分割する。この所定の中領域を「ブロックB」と呼ぶ。例えば、1枚の用紙Pを搬送方向99に8行×印字幅方向98に8列に分割すると、1枚の用紙Pは合計64個のブロックBに分かれる。1個のブロックBは、複数の単位領域D(画素領域)が集められた大きさの領域である。
【0034】
ブロックの液滴数は、用紙P上に仮想的に定められた当該ブロックへ吐出される液滴の数である。したがって、或ブロックの液滴数は、当該ブロックに相当するインク吐出データのドット数に等しい。本実施の形態において、或ブロックの液滴数は、ブラック、シアン、マゼンタおよびイエローの各インク吐出データにおいて当該ブロックのドット数をそれぞれカウントし、これを総計することにより求められる。例えば、図3(a)〜(d)に示す6×6の単位領域が或1つのブロックのインク吐出データであるとすれば、このブロックの液滴数は26滴(=ブラック6滴+シアン3滴+マゼンタ6滴+イエロー11滴)である。また、同じ単位領域に異なるインクが吐出された場合は、その単位領域の液滴数を1滴としてもよい(この場合、図3のブロックにおける液滴数は20滴となる。)。なお、用紙P上の単位領域に吐出される液滴量を変化させる場合には、液滴量に応じた大きさの1滴の液滴を吐出する場合や、液滴量に応じて複数の等しい大きさの微小液滴を連続的に吐出する場合などがある。後者の場合に、実際は微小液滴の液滴数は多数であるが、これらを合わせて液滴数は1として数える。
【0035】
ブロックの液体量は、用紙P上に仮想的に定められた当該ブロックへ吐出されるインクの液滴量の総量である。したがって、或ブロックの液体量は、当該ブロックに相当する全色のインク吐出データの、ドットサイズごとのドット数にそのドットサイズに対応する液滴量を乗じたものを総計することにより求められる。例えば、図3(a)〜(d)に示す6×6の単位領域が或1つのブロックのインク吐出データであるとすれば、このブロックのSサイズのドット数は10個であり、Mサイズのドット数は12個であり、Lサイズのドット数は4個である。そして、Sサイズの液滴量を7pl、Mサイズの液滴量を14pl、Lサイズの液滴量を21plとすると、このブロックの液体量は322pl(=10×7pl+12×14pl+4×21pl)である。
【0036】
液体カウント部61は、上述のようにして算出した各ブロックの液滴数および液体量を一時的に記憶する(ステップS2)。さらに、液体カウント部61は、記憶された各ブロックの液滴数および液体量を利用して、評価領域の液滴数および液体量を算出する(ステップS3)。図7は、用紙Pに定められた評価領域とブロックとの関係を示す図である。ここで「評価領域」は、1枚(1ページ)の用紙Pおよびこれに相当するインク吐出データを、ブロックよりも大きな領域に分割したものである。評価領域の液滴数は当該評価領域に含まれる1以上のブロックの液滴数の総和であり、評価領域の液体量は当該評価領域に含まれる1以上のブロックの液体量の総和である。評価領域の液滴数および液体量は、カール度合の予測に利用される。
【0037】
図7は、第1〜6の複数パターンの評価領域を例示している。図7の表の一列目に示された第1の評価領域は、1枚の用紙Pの全ブロックである。図7の表の二列目に示された第2の評価領域は、1枚の用紙Pの四隅に位置している。第2の評価領域は4つあり、各第2の評価領域は、用紙Pの四隅のいずれかに位置する2行3列の6つのブロックから成る。図7の表の三列目に示された第3の評価領域は、1枚の用紙Pの印字幅方向98両端において搬送方向99に延びる領域である。第3の評価領域は2つあり、各第3の評価領域は、用紙Pの印字幅方向98両端の一方又は他方の2列(すなわち、印字幅方向98の1/4)に含まれるブロックである。図7の表の四列目に示された第4の評価領域は、1枚の用紙Pの印字幅方向98中央部において搬送方向99に延びる領域である。第4の評価領域は2つあり、各第4の評価領域は、用紙Pの印字幅方向98中央から印字幅方向98一方又は他方へ2列(すなわち、印字幅方向98の1/4)に含まれるブロックである。図7の表の五列目に示された第5の評価領域は、1枚の用紙Pの搬送方向99両端において印字幅方向98に延びる領域である。第5の評価領域は2つあり、各第5の評価領域は、用紙Pの搬送方向99両端の一方又は他方の2行(すなわち、搬送方向99の1/4)に含まれるブロックである。図7の表の六列目に示された第6の評価領域は、1枚の用紙Pの搬送方向99中央部において印字幅方向98に延びる領域である。第6の評価領域は2つあり、各第6の評価領域は、用紙Pの搬送方向99中央から搬送方向99一方又は他方へ2行(すなわち、搬送方向99の1/4)に含まれるブロックである。
【0038】
液体カウント部61は、上述のようにして算出した第1〜6の評価領域の液滴数および液体量を一時的に記憶する(ステップS4)。続いて、カール予測部62は、算出された評価領域の液滴数および液体量を利用して、カール度合を予測する。ここで、カール予測部62は制御装置100に予め記憶された液体−カール相関情報64を利用する。液体−カール相関情報64は、評価領域の液体量および液滴数と用紙Pのカール度合との相関関係を示す情報である。この液体−カール相関情報64は、実験的または理論的に作成されたマップ又は式であって、評価領域の位置ごと、すなわち、評価領域ごとに作成されている。本実施形態では、例えば、2つの第3の評価領域は印字幅方向98に対称であるから、2つの第3の評価領域に対して共通の液体−カール相関情報64を利用することができる。同様に第1〜6の評価領域ごとに共通する液体−カール相関情報64を利用することができる。よって、本実施例においては合計6個の液体−カール相関情報64が制御装置100に記憶されている。
【0039】
図8は、第1の評価領域の液体−カール相関情報の一例を示す図である。図8に示された液体−カール相関情報64は、図7に示す第1の評価領域の液体量および液滴数に対応付けられた用紙Pの最大カール量(カール度合の一例)を示すマップである。このマップにおいて、縦軸は評価領域の液滴数の割合を表している。評価領域の液滴数の割合(百分率)は、その評価領域の総ドット数を100%としている。図8に示す例では、単位領域を600dpiとし、A4の用紙の全域を塗り潰したときの液滴数を100%としている。また、上記マップにおいて、横軸は評価領域の液体量の割合を表している。評価領域の液体量の割合(百分率)は、その評価領域を最大液滴量の一色のインクで塗り潰したときの液体量を100%としている。図8に示す例では、単位領域を600dpiとし、液滴量21plのブラックインクでA4の用紙の全域を塗り潰したときの液体量を100%としている。そして、縦軸と横軸とで規定される座標に示された値が用紙の最大カール量である。更に、このマップには、後述する矯正時間も、評価領域の液滴数と液体量(すなわち、最大カール量)に対応付けられて示されている。
【0040】
図9は、第4の評価領域の液体−カール相関情報の一例を示す図である。図9に示された液体−カール相関情報64は、図7に示す第4の評価領域の液体量および液滴数に対応付けられた用紙Pの最大カール量(カール度合の一例)を示すマップである。このマップの見方は、上記第1の評価領域の液体−カール相関情報のときと同様である。但し、図9に示す例において、縦軸は、単位領域を600dpiとしてA4の用紙の横方向中央部の1/4領域を塗り潰したときの液滴数を100%としている。また、横軸は、単位領域を600dpiとし、液滴量21plのブラックインクでA4の用紙の横方向中央部の1/4領域を塗り潰したときの液体量を100%としている。図8と図9に示された各液体−カール相関情報64を比較すれば、液滴数の割合が同一且つ液体量の割合が同一であっても、評価領域の位置またはパターンによって予測される用紙のカール度合が異なることがわかる。また、評価領域の位置やパターンによって、用紙のカール度合に与える影響が異なることがわかる。
【0041】
カール予測部62は、上記の通り、液体カウント部61で算出された各評価領域の液滴数および液体量を利用して各評価領域につきカール度合を算出する(ステップS5)。本実施例において、カール予測部62は図7に示された合計13個の評価領域について各々カール度合を算出する。算出された13個のカール度合は相互に異なることがあるが、カール予測部62は全評価領域のカール度合を比較し(ステップS6)、そのうち最大の値を用紙Pのカール度合として予測する(ステップS7)。
【0042】
続いて、カールしようとする用紙を矯正することによって、用紙Pのカールの発生を抑制するための処置をとる。このために、まず、カール抑制部63は、用紙に必要な矯正度合を算出する(ステップS8)。本実施の形態では、図10に示すように、カールしようとする用紙を矯正するために、搬出ガイド29により形成された搬出路60において用紙Pの搬送を所定の矯正時間だけ停止させる。ここでは矯正時間が、矯正度合となる。矯正度合は、カール予測部62で予測された用紙Pのカール度合に応じて決定される。カール抑制部63は、用紙Pのカール度合と矯正度合との相関関係を示すカール−矯正相関情報65を利用して、予測された用紙Pのカール度合から矯正度合を算出する。このカール−矯正相関情報65は、実験的または理論的に作成されたマップ又は式であって、用紙Pのカール度合が大きくなるほど矯正度合が大きくなる傾向を有する。る。例えば、図8および図9に示されたマップには、評価領域の液滴数と液体量(すなわち、最大カール量)に対応付けられて矯正時間(矯正度合の一例)も示されている。このようなマップを利用する場合には、カール抑制部63に代わってカール予測部62が、カール度合と矯正度合とを共に算出するように構成されていてもよい。ここで、上記ステップS5〜S7を省略し、液体カウント部61で算出された各評価領域の液滴数および液体量を利用して用紙に必要な矯正度合を直接算出してもよい。
【0043】
上述の通り、カール抑制部63により矯正度合が算出されるが、この矯正度合は調整係数aにより修正されてもよい。用紙Pの種類が普通紙より密度の小さい用紙であるときはカールが発生する傾向が高い。また、湿度センサ43で検出された湿度が所定の湿度より低い湿度であるときはカールが発生する傾向が高い。そこで、調整係数aを上記のような1つ以上の因子の影響を受ける変数とし、算出された矯正度合と調整係数aとを掛け合わせたものを真の矯正度合としてもよい。例えば、用紙Pの種類が普通紙であるときには調整係数a=1とし、用紙Pの種類が普通紙より密度の小さい用紙であるときには調整係数aを1より大きい値(例えば、1.5〜2.0の範囲の値)とすることができる。また、例えば、湿度センサ43で検出された湿度が所定の湿度の範囲内であるときは調整係数a=1とし、湿度センサ43で検出された湿度が所定の湿度の範囲を下回って低湿度であるときは調整係数aを1より大きい値(例えば、1.1〜1.5の範囲の値)とすることができる。
【0044】
カール抑制部63は、算出した矯正度合を評価し、カールを抑制するための処置の要否を決定する(ステップS9)。本実施形態において、矯正度合は矯正時間であり、矯正時間が0(閾値)以下であるときは(ステップS9でNO)、カールを抑制するために特別な処置を行わない。一方、矯正時間が0(閾値)より大きいときは(ステップS9でYES)、カールを抑制するための処置をとる(ステップS10)。具体的には、カール抑制部63は、搬送制御部59にカールを抑制するための処置をさせる指令と矯正度合とを送る。搬送制御部59は、排紙センサ44または搬出路60に設けられた他の検出センサを用いて、用紙Pが搬送ユニット16から搬出路60へ送り出されたことを検出し、矯正時間だけ搬出ローラ対28の回転を停止させる。これにより、用紙Pが搬出ローラ対28で挟まれて矯正された状態で所定の矯正時間だけ維持され、ここで用紙Pに塗布されたインクが乾燥するので用紙Pのカールの発生が抑制される。また、矯正時間が或閾値より大きい時は、インク又は処理液のドットサイズ、液滴数を減らして矯正時間が短くなるようインク吐出データ又は処理液吐出データを変更してもよい。
【0045】
以上のように、本実施形態に係るカール予測方法は、用紙P(記録媒体)上に定められた評価領域ごとに、インクジェットプリンタ101(液滴吐出装置)が評価領域に吐出する液体量および液滴数を算出するステップと、用紙P上における評価領域の位置と当該評価領域に吐出される液体量および液滴数とに基づいて用紙Pにインク(液体)が吐出されることにより生じる用紙Pのカール度合を予測するステップとを含んでいる。上記カール予測方法では、或評価領域に吐出される液体量および液滴数に基づいて用紙Pのカール度合を予測するので、予測されるカール度合はより正確なものとなる。そして、このようにより正確に予測された用紙Pのカール度合に基づいてカールを抑制するための処置を実行するので、必要十分な時間およびエネルギーをかけて、効率的且つ十分にカールを抑制することができる。
【0046】
また、本実施形態に係るカール予測方法では、複数の評価領域について用紙Pのカール度合を算出し、そのうち最大の値を予測された用紙Pのカール度合としている。これにより、用紙に局所的なカールが発生するような条件下でも、用紙Pに発生するカール度合をより正確に予測することができる。例えば、インクが用紙Pの一部分に集中して吐出される場合は、用紙Pに局所的なカールが発生することがある。このような場合には、インクが集中して吐出される評価領域において算出される用紙Pのカール度合は、他の評価領域で算出される用紙Pのカール度合よりも大きい。よって、算出されたカール度合のうち最大値を用紙Pのカール度合とすることで、局所的なカールであってもそのカール度合を予測することができる。
【0047】
さらに、本実施形態に係るカール予測方法では、複数パターンの評価領域を設定し、各評価領域について用紙Pのカール度合を算出し、そのうち最大の値を予測された用紙Pのカール度合としている。ここにおいても、上記と同様に用紙Pに発生するカールをより確実に予測することができる。
【0048】
また、本実施形態に係るカール予測方法では、カール予測部62で予測された用紙Pのカール度合に基づいて、カールを抑制するための矯正度合を算出している。さらには、予測された用紙Pのカール度合に基づいて、カールを抑制するための措置の要否を判断している。つまり、用紙Pにカールが発生しないようなインク吐出条件下ではカール矯正が行われないので、高速印刷は妨げられない。一方、用紙Pにカールが発生するようなインク吐出条件下では、予測された用紙Pのカール度合に応じて矯正度合(ここでは、矯正時間)が設定されるので、必要最低限の時間をかけて用紙Pのカールの矯正が行われることとなる。よって、印刷速度の低下を抑制することができる。
【0049】
以上、本発明の好適な一実施形態について説明したが、本発明は上述の実施の形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて、様々な設計変更を行うことが可能である。
【0050】
例えば、上述の実施形態において、用紙に定められる評価領域は、6パターン13個の評価領域が設定されているが、他のパターンの評価領域が設定されたり、評価領域の数が増減されたりしてもかまわない。また、演算の高速化のために比較的影響の大きい複数の評価領域のみについて評価領域の液滴数および液体量ならびに用紙Pのカール度合が算出されるようにしてもよい。
【0051】
また、例えば、上述の実施形態において、1枚の用紙に64個のブロックが定められているが、1枚の用紙がより大きな又は小さなブロックに分割されてもかまわない。或いは、ブロックという概念、すなわち、ブロックの液滴数と液体量の算出を省略して、評価領域の液滴数と液体量を直接的に算出してもよい。
【0052】
また、例えば、上述の実施形態において、矯正度合に基づいてカールを抑制するための処置の要否を判断しているが(図5のステップS9、参照)、用紙Pのカール度合に基づいてカールを抑制するための処置の要否を判断するようにしても構わない。図11はカール予測方法の流れの変形例を説明するフローチャートである。例えば、図11に示すように、用紙Pのカール度合を予測したのち(ステップS7)、予測された用紙Pのカール度合と所定の閾値αとを比較して、カールを抑制するための処置の要否を判断することもできる。この場合、カール度合が閾値α以下のときは(ステップS7’でNO)カールを抑制するための処置をとらず、カール度合が閾値αを上回るときは(ステップS7’でYES)、カールを抑制するための処置をとる(ステップS8,9)。なお、上述の実施形態において矯正度合に調整係数aが設けられたのと同様に、閾値αに調整係数bを設けることができる。この場合、調整係数bは、湿度センサ43で検出された筐体102内の湿度や用紙Pの密度等をパラメータとする変数である。例えば、用紙Pの種類が普通紙であるときは調整係数b=1とし、用紙Pの種類が普通紙より密度の小さい用紙であるときは調整係数bを1より小さい値(例えば、0.7〜0.9の範囲の値)とすることができる。また、例えば、湿度センサ43で検出された湿度が所定の湿度の範囲内であるときは調整係数b=1とし、湿度センサ43で検出された湿度が所定の湿度を下回って低湿度であるときは調整係数bを1より小さい値とすることができる。このようにして、筐体102内の湿度や用紙Pの密度によっては、閾値αの1倍よりも小さい値が実質的な閾値αとして用いられる。
【0053】
また、例えば、上述の実施形態において、用紙Pのカールを抑制する手法として、搬出路60で用紙Pの搬送を一時的に停止させる手法を採用しているが、用紙Pのカールを抑制する手法は上記に限定されない。例えば、上記手法に代えて、搬出路60の用紙Pの搬送速度を低下させる手法を採用することができる。この場合、矯正度合は、搬送速度の低下度とすることができる。また、例えば、上記手法に代えて、搬出路60にローラ対等の用紙Pを加熱および加圧手段を設けて、搬出路60を搬送される用紙Pを表裏両面から加圧するとともに加熱する手法を採用することもできる。この場合、矯正度合は、加圧程度や加圧時間とすることができる。
【0054】
また、上述の実施形態においては、カール抑制部63により算出された矯正度合が調整係数aにより修正される形態が説明されているが、矯正度合ではなく、液滴量又は液滴数に調整係数aを掛け合わせてもよい。例えば、普通紙ではa=1、厚紙ではa=0.5〜0.9、薄紙ではa=1.5〜2.0などとするとよい。また、横目紙の場合、図7の第3と第4の評価領域はa=0.5〜0.9、第5と第6の評価領域はa=1.5〜2.0などとするとよい。また、調整係数aではなく、それぞれの条件に対応した複数のマップ又は式により矯正度合を修正してもよい。
【0055】
また、上述したように、液体カウント部61で算出された各評価領域の液滴数および液体量を利用して用紙に必要な矯正度合を直接算出してもよい。その場合には、液体−矯正相関情報により矯正度合を算出してもよい。つまり、カール量は求めなくてもよい。
【0056】
なお、上述したように、同じ単位領域に吐出された液体に関しては液滴数に含めなくてもよい。つまり、評価領域における液滴量と評価領域の表面における液滴の付着面積に基づいてカール度合(カール矯正度合)が算出されてもよい。カール度合は記録媒体の表面における液滴の付着面積(特に連続する付着面積)またはその割合に影響を受けるので、これらに基づいてカール度合(カール矯正度合)が算出することが有効である。
【0057】
なお、本発明は、インク以外の液体を吐出する液滴吐出装置にも適用可能である。さらに、本発明はプリンタに限定されず、ファクシミリやコピー機などにも適用可能である。また、上述の実施形態では、ヘッド制御部51が処理液ヘッド1bのアクチュエータや各記録ヘッド1aのアクチュエータを駆動しているが、ヘッド1の駆動構成はこれに限定されない。例えば、処理液ヘッド1bおよび各記録ヘッド1aは発熱素子を備え、この発熱素子を駆動することでヘッドから処理液やインクを吐出する構成のヘッドであってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は、記録媒体に対し画像を形成するインク等の液体を吐出するように構成された液滴吐出装置において、画像形成後の記録媒体のカール度合を予測して、カールを抑制するために有用である。
【符号の説明】
【0059】
P 用紙(記録媒体)
1a 記録ヘッド(液体吐出ヘッド)
1b 処理液ヘッド
8 搬送ローラ対
10 ヘッドユニット
16 搬送ユニット
51 ヘッド制御部
51a 記録ヘッド制御部(液体吐出ヘッド制御部)
51b 処理液ヘッド制御部
52 画像データ記憶部
53 インク吐出データ生成部
54 インク吐出データ記憶部(液体吐出データ記憶部)
56 処理液吐出データ生成部
57 処理液吐出データ記憶部
59 搬送制御部
61 液体カウント部
62 カール予測部
63 カール抑制部
64 液体−カール相関情報
65 カール−矯正相関情報
100 制御装置
101 インクジェットプリンタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録媒体上に定められた評価領域ごとに、液滴吐出装置が前記評価領域に吐出する液体量および液滴数を算出するステップと、
前記評価領域の位置と当該評価領域に吐出される液体量および液滴数とに基づいて、前記記録媒体に液体が吐出されることにより発生する前記記録媒体のカール度合を予測するステップとを含む、カール予測方法。
【請求項2】
前記評価領域に吐出される液体量と液滴数と前記記録媒体のカール度合との関係を示す相関情報を前記評価領域の位置毎に作成し、前記相関情報を利用して前記記録媒体のカール度合を予測する、請求項1に記載のカール予測方法。
【請求項3】
前記評価領域を複数定め、前記複数の評価領域の各々について前記記録媒体のカール度合を予測し、そのうち最も大きな値を前記記録媒体のカール度合とする、請求項1又は請求項2に記載のカール予測方法。
【請求項4】
前記複数の評価領域は、前記記録媒体を複数の異なるパターンで分割することにより得られた複数パターンの評価領域を含む、請求項3に記載のカール予測方法。
【請求項5】
予測された前記記録媒体のカール度合に基づいて、当該記録媒体のカールを抑制するために必要な矯正度合を求めるステップを更に含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載のカール予測方法。
【請求項6】
記録媒体に向けて液体を吐出する1以上の液体吐出ヘッドと、
前記記録媒体に形成される画像に対応して液体を吐出させるための液体吐出データを記憶する液体吐出データ記憶部と、
前記液体吐出データに基づいて前記1以上の液体吐出ヘッドの動作を制御する液体吐出ヘッド制御部と、
前記記録媒体上に定められた評価領域と対応する前記液体吐出データに基づいて、前記評価領域へ吐出される液体量および液滴数を算出する液体カウント部と、
前記評価領域の位置と当該評価領域に吐出される液体量および液滴数とに基づいて、前記記録媒体に液体が吐出されることにより発生する前記記録媒体のカール度合を予測するカール予測部とを備える、液滴吐出装置。
【請求項7】
前記カール予測部は、前記評価領域に吐出される液体量と液滴数と前記記録媒体のカール度合との関係を示す相関情報を利用して前記記録媒体のカール度合を予測する、請求項6に記載の液滴吐出装置。
【請求項8】
前記液体カウント部は、前記記録媒体上に定められた複数の評価領域の各々について該評価領域に吐出される液体量および液滴数を算出し、
前記カール予測部は、前記複数の評価領域の各々について前記記録媒体のカール度合を予測し、そのうち最も大きな値を前記記録媒体のカール度合とする、請求項6又は請求項7に記載の液滴吐出装置。
【請求項9】
前記複数の評価領域は、前記記録媒体を複数の異なるパターンで分割することにより得られた複数パターンの評価領域を含む、請求項8に記載の液滴吐出装置。
【請求項10】
予測された前記記録媒体のカール度合に基づいて、当該記録媒体のカールを抑制するために必要な矯正度合を求めるカール抑制部を更に備える、請求項6〜9のいずれか一項に記載の液滴吐出装置。
【請求項11】
記録媒体上に定められた評価領域ごとに、液滴吐出装置が前記評価領域に吐出する液体量および前記評価領域のうち液体が吐出される単位領域の面積又はその割合を算出するステップと、
前記評価領域の位置と当該評価領域に吐出される液体量および前記評価領域のうち液体が吐出される単位領域の面積又はその割合とに基づいて、前記記録媒体に液体が吐出されることにより発生する前記記録媒体のカール度合を予測するステップとを含む、カール予測方法。
【請求項12】
記録媒体上に定められた評価領域ごとに、液滴吐出装置が前記評価領域に吐出する液体量および液滴数を算出するステップと、
前記評価領域の位置と当該評価領域に吐出される液体量および液滴数とに基づいて、前記記録媒体に液体が吐出されることにより発生する前記記録媒体のカールを抑制するために必要な矯正度合を求めるステップとを含む、カール矯正度合予測方法。
【請求項13】
液滴吐出装置で実行されるプログラムであって、
記録媒体上に定められた評価領域ごとに、前記液滴吐出装置が前記評価領域に吐出する液体量および液滴数を算出する処理と、
前記評価領域の位置と当該評価領域に吐出される液体量および液滴数とに基づいて、前記記録媒体に液体が吐出されることにより発生する前記記録媒体のカール度合を予測する処理とを、前記液滴吐出装置に実行させる、プログラム。
【請求項14】
液滴吐出装置で実行されるプログラムであって、
記録媒体上に定められた評価領域ごとに、前記液滴吐出装置が前記評価領域に吐出する液体量および液滴数を算出する処理と、
前記評価領域の位置と当該評価領域に吐出される液体量および液滴数とに基づいて、前記記録媒体に液体が吐出されることにより発生する前記記録媒体のカールを抑制するために必要な矯正度合を求める処理とを、前記液滴吐出装置に実行させる、プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図10】
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【図11】
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【図9】
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