説明

ガスエンジン用レギュレータ及びガス燃料供給装置

【課題】レギュレータについて、コストの高騰を伴うことなくエアクリーナ目詰まり時と高負荷運転時の両方で空燃比の変動を最小限に抑えられるようにする。
【解決手段】背圧室がエアクリーナ8下流側にインナーベント管6で接続されたインナーベントタイプのガスエンジン用レギュレータであって、その背圧室が吸気負圧と大気圧の差圧で作動するインナーベント用ダイヤフラム32でインナーベント管6が接続した調圧用ダイヤフラム30側の負圧導入部3cと大気孔39が開口した大気圧部3dとに区画されており、インナーベント用ダイヤフラム32には中央部から突出し先端側を調圧用ダイヤフラム30の中央部に当接して閉弁方向の変位を制限する変位制限ロッド36が設けられて、インナーベント管6を介し負圧導入部3cに吸気負圧を導入することで、インナーベント用ダイヤフラム32が変位しながら変位制限ロッド36で調圧用ダイヤフラム30を押圧してそのストローク減少を軽減する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスエンジン用レギュレータ及びガス燃料供給装置に関し、殊に、エアクリーナにおける目詰まり等のような吸気負圧の変動要因が生じても空燃比の変動を最小限に抑える機能を備えたガスエンジン用レギュレータ及びガス燃料供給装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、図3(A)に示すLPG等の液化ガス燃料を所定圧力の気体燃料に調整してガスエンジンに供給する3Bのように、背圧室3bに大気孔39を備えたアウターベントタイプのものでは、エアクリーナが詰まることでその調圧室(二次室)3aにかかる負圧が増大してガス流量が増加するため(図4上のグラフ参照)、供給燃料の空燃比が過濃となってリッチエンストを引き起こすことがある。
【0003】
これに対し、図3(B)に示すレギュレータ3Cのように、その大気孔39とエアクリーナ下流側とをインナーベント管6で連結したインナーベントタイプのものも周知であり、このようなレギュレータ3Cでは、吸気負圧を導入した背圧室3bと調圧室3aの圧力が釣り合うことで、エアクリーナ目詰まり時にガス流量が過剰になる事態を回避することができる(図4下のグラフ参照)。
【0004】
しかし、このようなインナーベントタイプのレギュレータ3Cでは、高負荷運転時に背圧室3b側の負圧が過剰に増大することでガス流量が低下して、リーンエンストを引き起こしやすくなるという問題がある。このように、ガス流量が低下するのは、調圧室3aにかかるベンチュリ負圧とインナーベント管6側の差圧が少なくなり、調圧室3aと背圧室3bとを区画するダイヤフラム31のストロークが減少することによるものである。
【0005】
上記のような問題に対し、特開平9−21355号公報には、排ガス中のO2濃度についての検出データ及びエンジンのアイドル状態についての検出データを検知している空燃比制御装置が、O2センサの検出値が所定範囲から外れた場合にガス燃料の供給圧力を供給圧調整手段で調整するものとして、エアクリーナの目詰まりを含む様々なエンジン運転条件の変化が生じた場合に、空燃比の変動を最小限に抑えるものとした技術が提案されている。
【0006】
しかしながら、この技術を実施するには、制御プログラムを備えた電子制御ユニットである空燃比制御装置を用意することに加え、O2センサを含む複数のセンサ手段及び供給圧調整手段を要するために、構成が複雑になるとともに製造コストが嵩んでしまうことが難点となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−21355号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記のような問題を解決しようとするものであり、ガスエンジンに気体燃料を供給するレギュレータについて、コストの高騰を伴うことなく、エアクリーナ目詰まり時と高負荷運転時の両方で空燃比の変動を最小限に抑えられるようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで、本発明は、調圧用ダイヤフラムで調圧室と背圧室に区画され、その調圧室が調圧用ダイヤフラムの往復変位で開閉する燃料導入弁を有しているとともに燃料供給管で吸気通路に接続され、その背圧室が吸気通路のエアクリーナ下流側にインナーベント管で接続されており、その背圧室に吸気負圧を導入しながら所定圧力に調整した気体燃料を送出するインナーベントタイプのガスエンジン用レギュレータにおいて、その背圧室は、吸気負圧と大気圧の差圧で作動するインナーベント用ダイヤフラムでインナーベント管が接続した調圧用ダイヤフラム側の負圧導入部と調圧用ダイヤフラムとは反対側の大気孔が開口した大気圧部とにさらに区画されており、且つ、このインナーベント用ダイヤフラムにはその中央部から突出し先端側を調圧用ダイヤフラムの中央部に当接して閉弁方向の変位を制限する変位制限ロッドが設けられており、インナーベント管を介し負圧導入部に吸気負圧を導入することにより、インナーベント用ダイヤフラムが調圧用ダイヤフラム側に変位しながら変位制限ロッドで調圧用ダイヤフラムを押圧し、調圧用ダイヤフラムの開弁方向のストローク減少を軽減する、ことを特徴とする。
【0010】
このように、インナーベントタイプのガスエンジン用レギュレータにおいて、その背圧室をインナーベント用ダイヤフラムでさらに区画し、調圧用ダイヤフラム側の空間を吸気通路に接続して負圧導入部としながら他方の空間を大気側に開放した大気圧部として、インナーベント用ダイヤフラムから調圧用ダイヤフラムに変位制限ロッドを突設しただけの簡易な構成により、吸気負圧を背圧室側に導入してエアクリーナ目詰まり時の空燃比過濃を回避することに加え、高負荷運転時にはインナーベント用ダイヤフラムから突設した変位制限ロッドで調圧用ダイヤフラムを押してその閉弁方向の変位を制限することにより、必要なガス燃料流量を確保しやすくなる。
【0011】
またこの場合、その負圧導入部は、調圧用ダイヤフラムに対し略平行に設けられ連通孔を有する隔壁でさらに2つに区画され、この隔壁とインナーベント用ダイヤフラムとの間に調圧バネが挟装されてアイドル流量調整スクリューでバネ圧が調整可能とされていることを特徴としたものとすれば、調圧用ダイヤフラムの閉弁方向の変位に対する制限レベルを容易に調整することができる。
【0012】
さらに、上述したガスエンジン用レギュレータと、このガスエンジン用レギュレータが燃料供給管でベンチュリ部に接続されているとともにこのベンチュリ部の上流側にインナーベント管で接続されているミキサーとからなり、そのミキサーのインナーベント管が接続している部分の吸気通路側に動圧ベントが設けられている、ことを特徴としたガス燃料供給装置とすれば、これをガスエンジンの燃料供給システムに配設するだけで、上述した効果を発揮する。
【発明の効果】
【0013】
インナーベントタイプとしたレギュレータの背圧室をインナーベント用ダイヤフラムで区画しその中央部から変位制限ロッドを調圧用ダイヤフラム中央部に突設しただけの簡易な構成の本発明によると、コストの高騰を伴うことなくエアクリーナ目詰まり時と高負荷運転時の両方で空燃比の変動を最小限に抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明における実施の形態のガスエンジン用レギュレータとミキサーからなるガス燃料供給装置の配置を示す縦断面図である。
【図2】図1のガスエンジン用レギュレータの拡大した部分縦断面図である。
【図3】(A)は従来のアウターベントタイプのガスエンジン用レギュレータの部分縦断面図、(B)は従来のインナーベントタイプのガスエンジン用レギュレータの部分縦断面図。
【図4】上は従来例による吸入空気量とダイヤフラムのストロークの関係を示すグラフ、下は従来例による吸入空気量と燃料流量の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、図面を参照しながら本発明を実施するための形態を説明する。
【0016】
図1は、本実施の形態であるレギュレータ1Aとミキサー2からなるガス燃料供給装置1の配置を示す縦断面図である。このガス燃料供給装置1は、LPG等の液化ガス燃料を減圧・気化しながら所定圧力の気体燃料に調整してガスエンジンに供給するためのものである。
【0017】
基端側にエアクリーナ8を備えたガスエンジンの吸気通路には、ベンチュリ部20から突設された燃料ノズル22から所定圧力に調整された気体燃料を噴出して吸入空気と混合するミキサー2が設けられており、このミキサー2に燃料供給管7及びベンチュリ管6で接続され、図示しない燃料タンクからガス燃料を導入して所定圧力の気体燃料にして図示しないガスエンジンに送出するレギュレータ3Aが配設されている。
【0018】
このレギュレータ3Aは、調圧用ダイヤフラム30で調圧室3a及び背圧室(後述する負圧導入部3c及び大気圧部3dからなる)に区画されており、その調圧室3aは調圧用ダイヤフラム30から突設された弁ロッド37が当接した弁レバー35先端側に燃料導入弁34を有しているとともに、燃料供給管7でミキサー2のベンチュリ部20に突設された燃料ノズル22に接続されている。
【0019】
また、その背圧室は、ミキサー2のベンチュリ部20上流側にインナーベント管6で接続されており、そのミキサー2に接続した部分の吸気通路側には上流側に開口した動圧ベント6aが形成されており、吸気通路におけるエアクリーナ8下流側の吸気負圧を導入するようになっている。
【0020】
そして、この背圧室が、前述したインナーベント管6が接続する調圧用ダイヤフラム30側の負圧導入部3cと調圧用ダイヤフラム30とは反対側の大気孔39が開口した大気圧部3dとに、吸気負圧と大気圧の差圧で作動する調圧用ダイヤフラム30と平行なインナーベント用ダイヤフラム32でさらに区画されており、且つ、このインナーベント用ダイヤフラム32にはその中央部から突出して先端側を調圧用ダイヤフラム30の中央部に当接してその閉弁方向の変位を制限する変位制限ロッド36が設けられている。
【0021】
即ち、このガスエンジン用のレギュレータ3Aは、インナーベント管6を介して負圧導入部3cにエアクリーナ8下流側の吸気負圧を導入することで、大気側に連通した大気圧部3dとの差圧により、インナーベント用ダイヤフラム32が調圧用ダイヤフラム30側に変位しながら変位制限ロッド36で調圧用ダイヤフラム30の中央部を押圧して、その閉弁方向の動きを制限することにより調圧用ダイヤフラム30におけるストロークの減少を抑えるようになっている。
【0022】
そのため、エアクリーナ8の目詰まり時には、負圧導入部3cに吸気負圧を導入して調圧用ダイヤフラム30の開弁方向の過剰な変位を抑えながら空燃比過濃を回避できることに加え、高負荷運転時等には変位制限ロッド36で調圧用ダイヤフラム30を押すことによりそのストロークの減少を抑えて、ガス燃料の適切な流量を確保して空燃比過薄によるエンジンストール等の不都合を回避することができる。
【0023】
また、図2の拡大した部分縦断面図に示すように、本実施の形態におけるレギュレータ3Aの負圧導入部3cは、調圧用ダイヤフラム30と平行な隔壁38でさらに2つに区画されており、この隔壁38は連通孔38a,8aを有しているとともにインナーベント用ダイヤフラム32との間に調圧バネ(ダイヤフラムスプリング)33が挟装されている。
【0024】
そして、このインナーベント用ダイヤフラム32の変位制限ロッド36の反対側には大気圧部3bを貫通し先端を外部に露出して配置されたアイドル流量調整スクリュー40が設けられており、調圧バネ33のバネ圧が調整可能となっており、前述した調圧用ダイヤフラム30の閉弁方向の変位に対する制限レベルを調整・設定できるようになっている。
【0025】
尚、ミキサー2におけるインナーベント管6が接続している部分の吸気通路側には動圧ベント6が形成されているが、これによっても負圧導入部3への吸気負圧の導入レベルを調整することができ、前記同様に調圧用ダイヤフラム30の閉弁方向の変位に対する制限レベルを調整・設定することができる。
【0026】
以上、述べたように、ガスエンジンに気体燃料を供給するレギュレータについて、本発明により、コストの高騰を伴うことなく、エアクリーナ目詰まり時と高負荷運転時の両方で空燃比の変動を最小限に抑えられるようになった。
【符号の説明】
【0027】
1 ガス燃料供給装置、2 ミキサー、3A レギュレータ、3a 調圧室、3b 背圧室、3c 負圧導入部、3d 大気圧部、6 インナーベント管、7 燃料供給管、6a 動圧ベント、8 エアクリーナ、30 調圧用ダイヤフラム、32 インナーベント用ダイヤフラム、33 調圧バネ、34 燃料導入弁、35 弁レバー、36 変位制限ロッド、37 弁ロッド、38 隔壁、38a 連通孔、39 大気孔、40 アイドル流量調整スクリュー


【特許請求の範囲】
【請求項1】
調圧用ダイヤフラムで調圧室と背圧室に区画され、前記調圧室が前記調圧用ダイヤフラムの往復変位で開閉する燃料導入弁を有しているとともに燃料供給管で吸気通路に接続され、前記背圧室が前記吸気通路のエアクリーナ下流側にインナーベント管で接続されており、前記背圧室に吸気負圧を導入しながら所定圧力に調整した気体燃料を送出するインナーベントタイプのガスエンジン用レギュレータにおいて、前記背圧室は、吸気負圧と大気圧の差圧で作動するインナーベント用ダイヤフラムで前記インナーベント管が接続した前記調圧用ダイヤフラム側の負圧導入部と前記調圧用ダイヤフラムとは反対側の大気孔が開口した大気圧部とにさらに区画されており、且つ、前記インナーベント用ダイヤフラムには中央部から突出し先端側を前記調圧用ダイヤフラムの中央部に当接して閉弁方向の変位を制限する変位制限ロッドが設けられており、前記インナーベント管を介し前記負圧導入部に吸気負圧を導入することにより、前記インナーベント用ダイヤフラムが調圧用ダイヤフラム側に変位しながら前記変位制限ロッドで前記調圧用ダイヤフラムを押圧し、該調圧用ダイヤフラムの開弁方向のストローク減少を軽減することを特徴としたガスエンジン用レギュレータ。
【請求項2】
前記負圧導入部は、前記調圧用ダイヤフラムに対し略平行に設けられ連通孔を有する隔壁でさらに2つに区画され、該隔壁と前記インナーベント用ダイヤフラムとの間に調圧バネが挟装されてアイドル流量調整スクリューでバネ圧が調整可能とされていることを特徴とする請求項1に記載したガスエンジン用レギュレータ。
【請求項3】
請求項1または2に記載したガスエンジン用レギュレータと、該ガスエンジン用レギュレータが前記燃料供給管でベンチュリ部に接続されているとともに該ベンチュリ部の上流側に前記インナーベント管で接続されているミキサーとからなり、該ミキサーの前記インナーベント管が接続している部分の前記吸気通路側に動圧ベントが設けられている、ことを特徴としたガス燃料供給装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−255455(P2010−255455A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−103654(P2009−103654)
【出願日】平成21年4月22日(2009.4.22)
【出願人】(000153122)株式会社ニッキ (296)