説明

ガスクロマトグラフ及びガスクロマトグラフの使用方法

【課題】検出器である半導体ガスセンサの検知感度の経時的な低下が抑制されるガスクロマトグラフを提供する。
【解決手段】ガスクロマトグラフ1は、分離カラム2と、半導体ガスセンサ3と、前記分離カラム2と半導体ガスセンサ3との間を接続する第一の流路4と、前記第一の流路4における前記分離カラム2と前記半導体ガスセンサ3との間のガスの流通を開閉する第一の弁5とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検出器として半導体ガスセンサを備えるガスクロマトグラフ及びこのガスクロマトグラフの使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスクロマトグラフィは、ガス中の成分の定性・定量分析に広く利用されている。ガスクロマトグラフィでは、測定対象である試料ガスがキャリアガスと共に分離カラムに導入され、試料ガス中に含まれる成分が分離カラム中の充填材との相互作用によるリテンションタイム(保持時間)の差により分離され、この分離された成分が分離カラムから導出される。このように分離された成分が熱伝導度検出器(TCD)や水素炎イオン化検出器(FID)等の検出器で順次検出されることにより、クロマトグラムが得られる。
【0003】
近年、ガスクロマトグラフにおける検出器として、TCDやFIDに代わり、更に高感度の半導体ガスセンサも用いられるようになってきている(特許文献1参照)。検出器として半導体ガスセンサを備えるガスクロマトグラフは、医療分野における呼気中の成分の分析や、環境分野における建築物内や大気中の成分の分析などへの利用が期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−213780号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、このような検出器として半導体ガスセンサを備えるガスクロマトグラフがある程度の期間使用されないままでいると、その後にガスクロマトグラフでガスが測定される場合に、半導体ガスセンサの検知感度が低下してしまうことがある。このような場合には、正確な分析ができなくなってしまう。
【0006】
本発明はかかる事由に鑑みてなされたものであり、検出器である半導体ガスセンサの検知感度の経時的な低下が抑制されるガスクロマトグラフ及びこのガスクロマトグラフの使用方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第一の発明に係るガスクロマトグラフは、分離カラムと、半導体ガスセンサと、前記分離カラムと半導体ガスセンサとの間を接続する第一の流路と、前記第一の流路における前記分離カラムと前記半導体ガスセンサとの間のガスの流通を開閉する第一の弁とを備える。
【0008】
第一の発明に係るガスクロマトグラフは、更に前記第一の流路から分岐して外気に通じる第二の流路を備え、前記第一の弁が、前記第一の流路における前記分離カラムと前記半導体ガスセンサとの間のガスの流通が開いていると共に前記分離カラム及び前記半導体ガスセンサと前記第二の流路との間のガスの流通が閉じている状態と、前記第一の流路における前記分離カラムと前記第二の流路とのガスの流通が開いていると共に前記分離カラム及び前記第二の流路と前記半導体ガスセンサとの間のガスの流通が閉じている状態とを切り替える三方弁であってもよい。
【0009】
第一の発明に係るガスクロマトグラフは、更に前記半導体ガスセンサと外気との間の接続する第三の流路と、前記第三の流路における前記半導体ガスセンサと外気との間のガスの流通を開閉する第二の弁とを備えてもよい。
【0010】
第一の発明に係るガスクロマトグラフは、更に、ガス測定時には、前記第一の弁による前記第一の流路における前記分離カラムと前記半導体ガスセンサとの間のガスの流通を開いて、キャリアガスと試料ガスとを前記分離カラム、前記第一の流路、前記半導体ガスセンサに順次通過させ、ガス測定終了後に前記第一の弁による前記第一の流路における前記分離カラムと前記半導体ガスセンサとの間のガスの流通を閉じるように第一の弁を動作させる制御装置を備えてもよい。
【0011】
第一の発明に係るガスクロマトグラフは、ガス測定時には、前記第一の弁により前記第一の流路における前記分離カラムと前記半導体ガスセンサとの間のガスの流通を開くと共に、前記第二の弁により前記第三の流路における前記半導体ガスセンサと外気との間のガスの流通を開き、ガス測定終了後に前記第一の弁により前記第一の流路における前記分離カラムと前記半導体ガスセンサとの間のガスの流通を閉じると共に、前記第二の弁により前記第三の流路における前記半導体ガスセンサと外気との間のガスの流通を閉じるように、第一の弁及び第二の弁を動作させる制御装置を備えてもよい。
【0012】
第二の発明に係るガスクロマトグラフの使用方法は、前記ガスクロマトグラフを使用する方法であって、測定対象のガスの測定時には、前記第一の弁により前記第一の流路における前記分離カラムと前記半導体ガスセンサとの間のガスの流通を開いて、キャリアガスと試料ガスとを前記分離カラム、前記第一の流路、前記半導体ガスセンサに順次通過させ、測定対象のガスの測定終了後に前記第一の弁により前記第一の流路における前記分離カラムと前記半導体ガスセンサとの間のガスの流通を閉じる。
【0013】
第三の発明に係るガスクロマトグラフの使用方法は、前記ガスクロマトグラフを使用する方法であって、ガス測定時には、前記第一の弁により前記第一の流路における前記分離カラムと前記半導体ガスセンサとの間のガスの流通を開いて、キャリアガスと試料ガスとを前記分離カラム、前記第一の流路、前記半導体ガスセンサに順次通過させると共に、前記第二の弁により前記第三の流路における前記半導体ガスセンサと外気との間のガスの流通を開き、ガス測定終了後に前記第一の弁により前記第一の流路における前記分離カラムと前記半導体ガスセンサとの間のガスの流通を閉じると共に、前記第二の弁により前記第三の流路における前記半導体ガスセンサと外気との間のガスの流通を閉じる。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、ガスクロマトグラフにおける検出器である半導体ガスセンサの感ガス体が半導体ガスセンサの性能を劣化させる成分に曝される機会を低減し、これにより半導体ガスセンサの検知感度の経時的な低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の第一の実施形態を示す概略図である。
【図2】第一の実施形態における分離カラムを示す斜視図である。
【図3】第一の実施形態における半導体ガスセンサを示す一部破断した斜視図である。
【図4】第一の実施形態における回路構成図である。
【図5】本発明の第二の実施形態を示す概略図である。
【図6】実施例3の試験結果を示すグラフである。
【図7】実施例4の試験結果を示すグラフである。
【図8】比較例3の試験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は本実施形態に係るガスクロマトグラフ1の流路構成を示す。本実施形態では、検出器として半導体ガスセンサ3が使用されている。
【0017】
本発明者らは、ガスクロマトグラフ1によるガスの測定がされていない間に半導体ガスセンサ3の感ガス体31がキャリアガスに曝されると、半導体ガスセンサ3の検知感度が低下してしまうことを見出した。これは、キャリアガス中に半導体ガスセンサ3の性能を劣化させる成分が含まれているためであり、この成分は主として分離カラム2から発生する。このような成分が半導体ガスセンサ3の感ガス体31に付着したり堆積することで、半導体ガスセンサ3の検知感度が低下してしまう。
【0018】
分離カラム2から揮発して半導体ガスセンサ3の性能を劣化させる成分としては、例えばシロキサン、有機ケイ素化合物、ケイ素樹脂などといったケイ素化合物や、トリグリセリド、その他各種の高沸点化合物が挙げられる。ケイ素化合物は感ガス体31を被毒することで半導体ガスセンサ3の検知感度を低下させる。トリグリセリドや各種の高沸点化合物などは感ガス体31に堆積することで多孔質の感ガス体31に目詰りを生じさせ、これにより半導体ガスセンサ3の検知感度を低下させる。
【0019】
ガスクロマトグラフ1によるガスの測定がされている間は、半導体ガスセンサ3の感ガス体31は加熱されており、このために感ガス体31には半導体ガスセンサ3の性能を劣化させる成分が付着したり堆積したりしにくい。これに対して、ガスクロマトグラフ1によるガスの測定がされていない間は感ガス体31は加熱されておらず、このため感ガス体31には半導体ガスセンサ3の性能を劣化させる成分が付着したり堆積したりしやすくなる。
【0020】
そこで、本実施形態に係るガスクロマトグラフ1は、このガスクロマトグラフ1によるガスの測定がされていない間に、感ガス体31と分離カラム2とが遮断されることで、半導体ガスセンサ3の感ガス体31が半導体ガスセンサ3の性能を劣化させる成分に曝されないように構成されている。
【0021】
また、外気中に半導体ガスセンサ3の性能を劣化させる成分が存在していることもある。例えば感ガス体31が加熱されていない状態では、外気中のVOC(揮発性有機化合物)が感ガス体31を被毒することがある。そこで、本実施形態は、ガスクロマトグラフ1によるガスの測定がされていない間に、感ガス体31と外気とが遮断されることで、半導体ガスセンサ3の感ガス体31が、外気中の半導体ガスセンサ3の性能を劣化させる成分に曝されないように構成されている。
【0022】
以下、本実施形態の構成について詳しく説明する。
【0023】
バッファタンク10はガスを貯留する中空の容器である。このバッファタンク10には吸気口11、排気口12、及び帰還口13が形成されている。バッファタンク10の内部は吸気口11を介して外気に通じている。
【0024】
エアポンプ14はガス流路15を通じてバッファタンク10の排気口12に接続されていると共に、帰還用ガス流路16を通じてバッファタンク10の帰還口13に接続されている。エアポンプ14はガス流路15から吸気して帰還用ガス流路16へ排気するように動作する。
【0025】
帰還用ガス流路16からはガス流路17が分岐している。帰還用ガス流路16には、ガス流路17との分岐位置19よりもバッファタンク10側に流量調整弁18が設けられている。
【0026】
ガス流路17には、前記分岐位置19側から順に、ガス浄化装置20、流量調整弁21、流量センサ22が設けられている。ガス浄化装置20は例えば活性炭やシリカゲルなどのガス吸着剤、酸化触媒などのガス分解触媒などを備え、ガス流路17を通過するキャリアガスがガス浄化装置20によって浄化される。流量センサ22は、ガス流路17におけるガス流量を検出する。
【0027】
ガス流路17の終端(分岐位置19とは反対側の端部)は、分離カラム2の始端に接続されている。分離カラム2の始端にはガス注入流路23も接続されている。測定対象である試料ガスはガス注入流路23を通じて分離カラム2へ供給される。
【0028】
バッファタンク10は、エアポンプ14により分離カラム2に供給されるキャリアガスの流量に比して充分に大きい容量を有することが好ましく、例えばキャリアガスの流量が10cm/min程度である場合に、バッファタンク10の容量が1000cc程度であることが好ましい。この場合、大気から取り入れられた空気がバッファタンク10内の空気で希釈された後、キャリアガスとして分離カラム2へ供給されることで、半導体ガスセンサ3での検出出力のベースラインの変動が抑制される。
【0029】
図2に示すように、分離カラム2は、ステンレス、銅等の熱伝導性の高い金属にて形成された外筒24と、外筒24内に内挿された例えばテフロン(登録商標)などからなる内筒25との2重筒構造を有する。内筒25内に固定相となる充填材が充填される。この充填材は試料ガス中の検出対象成分やキャリアガスの種類などに応じた適宜の物質であればよいが、例えば揮発性有機化合物の検出用途に用いられる充填材として株式会社島津ジーエルシー製の品番B−19が挙げられ、トリハロメタンの検出用途に用いられる充填材として株式会社島津ジーエルシー製の品番S−201が挙げられ、ホルムアルデヒドの検出用途に用いられる充填材としてジーエルサイエンス株式会社製の品番APS−201が挙げられる。
【0030】
ヒータ26は、抵抗体27と、この抵抗体27を外部から絶縁するシリコーンラバーシート等の絶縁性ラバーとを備える、フレキシブルなヒータである。抵抗体27は分離カラム2の外周面上に螺旋状に巻かれることで、分離カラム2の外面に密着している。この分離カラム2にはサーミスタ(熱電対)などからなる温度センサ28が設けられている。温度センサ28はポリフッ化エチレン樹脂(テフロン(登録商標)等)やガラスウール等の絶縁材で絶縁被覆されている。この温度センサ28は分離カラム2の外面に配設され、この温度センサ28により分離カラム2の温度が検出される。
【0031】
分離カラム2の終端には、半導体ガスセンサ3が接続されている。この分離カラム2の終端と半導体ガスセンサ3とは、第一の流路4を通じて接続されている。第一の流路4からは、第二の流路6が分岐している。この第二の流路6は外気に通じている。半導体ガスセンサ3には第三の流路7も接続されている。この第三の流路7も外気に通じている。
【0032】
図3に示すように、半導体ガスセンサ3は、中空のセンサ室29に取り付けられている。センサ室29は例えば管状に形成される。このセンサ室29の内部は第一の流路4と第三の流路7に通じている。
【0033】
センサ室29内には金属酸化物半導体型のセンサ素子30が配置される。このセンサ素子30は、気体中に曝露された際にこの気体中の検出対象成分の濃度を電気信号に変換する機能を有する。センサ素子30は、酸化スズ等の金属酸化物半導体を含有する感ガス体31と、この感ガス体31に埋設された検出用電極と備える。感ガス体31は金属酸化物半導体粉末を含む材料が成形、焼成されることにより形成される。感ガス体31は、例えば球体状、楕円体状等に形成される。この感ガス体31に、検出用電極としてコイル状のヒータ兼用電極32と芯線状電極33が埋め込まれている。芯線状電極33はコイル状のヒータ兼用電極32の内側を貫通するように設けられている。この検出用電極は例えば白金や白金合金から形成される。
【0034】
感ガス体31は、試料ガス中の検出対象成分の種類等に応じた適宜の金属酸化物半導体を含む。例えば揮発性有機化合物の検出用途に用いられる金属酸化物半導体として酸化インジウムが挙げられ、トリハロメタンの検出用途に用いられる金属酸化物半導体として酸化タングステンが挙げられ、ホルムアルデヒドの検出用途に用いられる金属酸化物半導体としては酸化スズが挙げられる。
【0035】
リード線34,35,36がセンサ素子30を支持すると共に、このリード線34,35,36がセンサ素子30に電気的に接続されている。このリード線34,35,36は例えば白金や白金合金から形成される。二本のリード線34,35は、ヒータ兼用電極32の両端から感ガス体31の外方へ突出している。すなわち、リード線34,35及びヒータ兼用電極32は一本の線材が成形されることにより形成され、このリード線34,35の間にヒータ兼用電極32が形成される。残りのリード線36は芯線状電極33の端部から感ガス体31の外方へ突出している。すなわち、リード線36及び芯線状電極33は一本の線材から構成され、この線材の片側の端部が芯線状電極33、この芯線状電極33以外の部分がリード線36となっている。
【0036】
このリード線34,35,36の各端部が、3本の端子37,38,39にそれぞれ固定され、各端子37,38,39に電気的に接続されている。この端子37,38,39は、ベース40を貫通しており、これにより各端子37,38,39がベース40で支持されている。
【0037】
ベース40は、センサ室29の外壁に形成されている嵌合凹部41に嵌合することで、センサ室29の外壁の一部となっている。3本の端子37,38,39はセンサ室29の外壁を貫通し、センサ素子30はセンサ室29内に配置される。
【0038】
第一の流路4には、第二の流路6との分岐位置に、第一の弁5が設けられている。第一の弁5は三方弁である。この第一の弁5は、第一の流路4における分離カラム2と半導体ガスセンサ3との間のガスの流通が開いていると共に分離カラム2及び半導体ガスセンサ3と第二の流路6との間のガスの流通が閉じている状態(イ矢印参照)と、第一の流路4における分離カラム2と第二の流路6とのガスの流通が開いていると共に分離カラム2及び第二の流路6と半導体ガスセンサ3との間のガスの流通が閉じている状態(ロ矢印参照)とに切り替わる。
【0039】
更に、第三の流路7には、この第三の流路7における半導体ガスセンサ3と外気との間のガスの流通を開閉する第二の弁8が設けられている。
【0040】
更に、ガスクロマトグラフ1は、エアポンプ14、第一の弁5、第二の弁8、半導体ガスセンサ3、流量センサ等を制御する制御装置9を備える。
【0041】
制御装置9の構成を図4に示す。この制御装置9は、電源回路42と、カラムヒータ制御部43と、マイクロコンピュータからなる演算処理部44と、表示部45と、流量計測部46と、測定部47と、弁駆動部48と、メモリ49とを備える。
【0042】
電源回路42は、エアポンプ14や前記各部42〜49を動作させるための電源電圧+Vを生成する。
【0043】
カラムヒータ制御部43は、サーミスタからなる温度センサ28による分離カラム2のヒータ26の温度の検出結果に基づき、PID制御部によるPID制御及び位相制御部による位相制御によりヒータ26への通電電力を制御して、分離カラム2の温度を予め設定されている所定温度に保つ。
【0044】
流量計測部46は、流量センサから出力される信号をA/D変換してから演算処理部44へ送る回路である。
【0045】
測定部47は、端子37,38及びリード線34,35を介して、センサ素子30のヒータ兼用電極32に電圧を印加してこのヒータ兼用電極32を通電加熱する回路である。更にこの測定部47は、感ガス体31に生じる電気抵抗値の変化に基づいて、検出対象成分の濃度信号を出力し、演算処理部44へと送る回路でもある。すなわち、例えば測定部47はヒータ兼用電極32への電圧の印加を間欠的に休止し、その間にヒータ兼用電極32、芯線状電極33、及び適宜の抵抗が直列に接続された回路に一定電圧を印加し、このときにヒータ兼用電極32と芯線状電極33との間で発生する電圧降下を測定し、この測定値をA/D変換して演算処理部44へ送る。この電圧降下は、感ガス体31の電気抵抗値の変化に応じて変動するため、検出対象成分の濃度と相関する。
【0046】
弁駆動部48は、電力の供給を受けている状態で演算処理部44から送られる制御用の信号に基づいて、第一の弁5を、第一の流路4における分離カラム2と第二の流路6とのガスの流通が開いていると共に分離カラム2及び第二の流路6と半導体ガスセンサ3との間のガスの流通が閉じている状態から、第一の流路4における分離カラム2と半導体ガスセンサ3との間のガスの流通が開いていると共に分離カラム2及び半導体ガスセンサ3と第二の流路6との間のガスの流通が閉じている状態へと切り替える。これと同時に弁駆動部48は、第二の弁8を、第三の流路7における半導体ガスセンサ3と外気との間のガスの流通を閉じている状態から、このガスの流通を開く状態へと切り替える装置である。更に弁駆動部48は、電力の供給が停止されると、第一の弁5及び第二の弁8を元の状態へと戻すように動作する。
【0047】
表示部45としては、例えば液晶表示装置等の各種表示装置が挙げられる。
【0048】
メモリ49は、RAM等や適宜の記憶媒体から構成される。
【0049】
このガスクロマトグラフ1の動作について説明する。
【0050】
ガスクロマトグラフ1が停止している状態では、エアポンプ14は停止しており、半導体ガスセンサ3のヒータ兼用電極32には電圧は印加されていない。また、第一の弁5は、第一の流路4における分離カラム2と第二の流路6とのガスの流通が開いていると共に分離カラム2及び第二の流路6と半導体ガスセンサ3との間のガスの流通が閉じている状態となっている。第二の弁8は、第三の流路7における半導体ガスセンサ3と外気との間のガスの流通を閉じる状態となっている。
【0051】
このように第一の弁5が第一の流路4における分離カラム2と半導体ガスセンサ3との間のガスの流通を閉じているため、分離カラム2から半導体ガスセンサ3への、半導体ガスセンサ3の性能を劣化させる成分の移動が阻止されている。また、第二の弁8が、第三の流路7における半導体ガスセンサ3と外気との間のガスの流通を閉じているため、外気から半導体ガスセンサ3への、半導体ガスセンサ3の性能を劣化させる成分の移動も阻止されている。
【0052】
この状態で、電源スイッチSWがオンされて電源回路42が作動すると、まずエアポンプ14、測定部47及びカラムヒータ制御部43が作動する。
【0053】
エアポンプ14はバッファタンク10を介して大気中から空気を吸気して、この空気を帰還用ガス流路16へ圧送する。この空気のうちの一部は分岐位置19からガス流路17へキャリアガスとして供給され、剰余の空気は帰還用ガス流路16を通じてバッファタンク10へ返送される。ガス流路17へのキャリアガスの供給量は、二つの流量調整弁21、18により調整される。ガス流路17に供給されたキャリアガスは、ガス浄化装置20を通過することでキャリアガスから雑ガス成分が除去された後、分離カラム2へ送られ、更に第一の流路4及び第二の流路6を経て外気へ送られる。このため、たとえば分離カラム2に半導体ガスセンサ3の性能を劣化させる成分が滞留していても、このような成分は半導体ガスセンサ3に送られることなく、第二の流路6から外気へ放出される。
【0054】
また、カラムヒータ制御部43が作動することで分離カラム2が所定温度まで加熱される。
【0055】
また、測定部47が作動することで、半導体ガスセンサ3のヒータ兼用電極32に端子37,38及びリード線34,35を介して、電圧が印加される。これにより、ヒータ兼用電極32が通電加熱され、感ガス体31の温度が検出対象成分の検出に適した温度まで加熱される。
【0056】
エアポンプ14が作動開始してから一定時間経過したら、演算処理部44が制御信号を生成して弁駆動部48へ送り、この弁駆動部48が、第一の弁5及び第二の弁8を作動させる。これにより第一の弁5は、第一の流路4における分離カラム2と半導体ガスセンサ3との間のガスの流通が開いていると共に分離カラム2及び半導体ガスセンサ3と第二の流路6との間のガスの流通が閉じている状態となる。第二の弁8は第三の流路7における半導体ガスセンサ3と外気との間のガスの流通を開く状態となる。これにより、キャリアガスは分離カラム2から第一の流路4を通じて半導体ガスセンサ3へ送られ、更に第三の流路7を通じて外気へ放出される。
【0057】
また、演算処理部44は流量計測部46から取り込んだ信号に基づいて、キャリアガスの流量を表示部45に表示させると共に、この信号に基づいてキャリアガスの流量の変動を監視する。
【0058】
このような状態で、試料ガスがガス注入流路23を通じて分離カラム2へ供給される。この試料ガスの注入時にはガス流路17内のキャリアガスの流量が一時的に減少する。キャリアガスの流量の変動を監視している演算処理部44が前記キャリアガスの流量の減少を検知すると、この検知されたタイミングで試料ガスが注入されたと判断し、このタイミングに基づいて、半導体ガスセンサ3で検出されるガス成分のリテンションタイムを計測する。これにより、試料ガスの注入が自動的に検出され、ガスの測定が開示される。
【0059】
試料ガスはキャリアガスと共に分離カラム2へ送られ、この試料ガス中に含まれる成分が分離カラム2中の充填材との相互作用により分離され、この分離された成分が分離カラム2から第一の流路4を通じて半導体ガスセンサ3へ送られる。これにより半導体ガスセンサ3にガスが供給されると、感ガス体31の電気抵抗値が半導体ガスセンサ3の検出対象成分の濃度に応じて変動し、この感ガス体31の電気抵抗値に応じた検出対象成分の濃度信号が測定部47から演算処理部44へ送られる。
【0060】
演算処理部44は、測定部47から受け取った検出対象成分の濃度信号と、リテンションタイムの計測結果とに基づいて、クロマトグラムを作成する。制御装置9は更にこのクロマトグラムを、液晶表示装置などの表示装置に表示させ、或いはメモリ49に記憶させてもよい。また、演算処理部44は、検出対象成分の濃度信号とリテンションタイムの計測結果とを、外部の機器へと出力してもよい。
【0061】
測定終了後、スイッチがオフにされると、エアポンプ14、測定部47、カラムヒータ制御部43、弁駆動部48などへの電力の供給が停止されて、これらの動作が停止する。
【0062】
これにより、第一の弁5は、第一の流路4における分離カラム2と第二の流路6とのガスの流通が開いていると共に分離カラム2及び第二の流路6と半導体ガスセンサ3との間のガスの流通が閉じている状態に戻り、また第二の弁8は、第三の流路7における半導体ガスセンサ3と外気との間のガスの流通を閉じる状態に戻る。また、半導体ガスセンサ3のヒータ兼用電極32への電圧の印加が停止される。
【0063】
このように、再び第一の弁5が第一の流路4における分離カラム2と半導体ガスセンサ3との間のガスの流通を閉じるため、分離カラム2から半導体ガスセンサ3への、半導体ガスセンサ3の性能を劣化させる成分の移動が阻止される。また、第二の弁8が、第三の流路7における半導体ガスセンサ3と外気との間のガスの流通を閉じるため、外気から半導体ガスセンサ3への、半導体ガスセンサ3の性能を劣化させる成分の移動も阻止されている。
【0064】
エアポンプ14の動作が停止しても、キャリアガスの流通は瞬時には止まらないが、このキャリアガスは第二の流路6を通じて外気へと排出されるため、ガス流路や分離カラム2の内圧が過剰に大きくなることがなく、このような内圧の上昇による破損等の発生が抑制される。
【0065】
電源スイッチSWがオンされている状態で試料ガスの測定が複数回繰り返しおこなわれる場合において、測定終了後、次の測定の開始までの間の期間が長くなる場合には、この期間に、第一の弁5が第一の流路4における分離カラム2と第二の流路6とのガスの流通が開いていると共に分離カラム2及び第二の流路6と半導体ガスセンサ3との間のガスの流通が閉じている状態に切り替えられると共に、第二の弁8が、第三の流路7における半導体ガスセンサ3と外気との間のガスの流通を閉じる状態に切り替えられてもよい。このようにすると、感ガス体31が半導体ガスセンサ3の性能を劣化させる成分に曝される機会が更に低減される。この場合、次回の測定開始時より20〜30分前には、再び第一の弁5及び第二の弁8を切り替えてキャリアガスが半導体ガスセンサ3へ供給されるようにすることが好ましい。これは、次回の測定開始前に半導体ガスセンサ3の出力を安定化させるためである。
【0066】
尚、本実施形態では第二の流路6を備え、第一の弁5は三方弁であるが、第二の流路6が設けられずに、第一の弁5は第二の流路6へのガスの流通を開閉する機能が省かれた二方弁であってもよい。
【0067】
(第二の実施形態)
図5に示す第二の実施形態では、キャリアガスは外気から供給されず、ガスクロマトグラフ1はキャリアガスを貯留するガスボンベ50を備えている。
【0068】
このガスクロマトグラフ1には、第一の実施形態におけるエアポンプ14、バッファタンク10、ガス流路15及び帰還用ガス流路16は設けられていない。これらに代えて、ガス流路17の始端にガスボンベ50が接続されている。
【0069】
ガス流路17には、ガスボンベ50側から順に、逆止弁51、定圧弁52、流量調整弁21、流量センサ22が設けられている。
【0070】
他の構成は、第一の実施形態と同じである。
【0071】
このガスクロマトグラフ1は、第一の実施形態と同様の制御装置9を備える。但し、エアポンプ14が存在しないため、エアポンプ14への電力供給はなされない。
【0072】
このガスクロマトグラフ1の動作について説明する。
【0073】
ガスクロマトグラフ1が停止しているときは定圧弁52が閉じられていて、半導体ガスセンサ3のヒータ兼用電極32には電圧は印加されていない。また、第一の弁5は、第一の流路4における分離カラム2と第二の流路6とのガスの流通が開いていると共に分離カラム2及び第二の流路6と半導体ガスセンサ3との間のガスの流通が閉じている状態となっている。第二の弁8は、第三の流路7における半導体ガスセンサ3と外気との間のガスの流通を閉じる状態となっている。
【0074】
このように第一の弁5が第一の流路4における分離カラム2と半導体ガスセンサ3との間のガスの流通を閉じているため、分離カラム2から半導体ガスセンサ3への、半導体ガスセンサ3の性能を劣化させる成分の移動が阻止されている。また、第二の弁8が、第三の流路7における半導体ガスセンサ3と外気との間のガスの流通を閉じているため、外気から半導体ガスセンサ3への、半導体ガスセンサ3の性能を劣化させる成分の移動も阻止されている。
【0075】
この状態で、ガスボンベ50からガスが供給されると定圧弁52が開き、一定量のキャリアガスがガス流路17へ供給される。このキャリアガスの供給量は、流量調整弁21により調整される。ガス流路17に供給されたキャリアガスは、分離カラム2へ送られ、更に第二の流路6を経て外気へ送られる。このため、たとえば分離カラム2に半導体ガスセンサ3の性能を劣化させる成分が滞留していても、このような成分は半導体ガスセンサ3に送られることなく、第二の流路6から外気へ放出される。
【0076】
続いて、電源スイッチSWがオンされて電源回路42が作動すると測定部47及びカラムヒータ制御部43が作動する。その後は、第一の実施形態の場合と同様に試料ガスの測定がされる。
【0077】
測定終了後、電源スイッチSWがオフにされると、測定部47、カラムヒータ制御部43、弁駆動部48などへの電力の供給が停止されて、これらの動作が停止する。
【0078】
これにより、第一の弁5は、第一の流路4における分離カラム2と第二の流路6とのガスの流通が開いていると共に分離カラム2及び第二の流路6と半導体ガスセンサ3との間のガスの流通が閉じている状態に戻り、また第二の弁8は、第三の流路7における半導体ガスセンサ3と外気との間のガスの流通を閉じる状態に戻る。また、半導体ガスセンサ3のヒータ兼用電極32への電圧の印加が停止される。
【0079】
このように、再び第一の弁5が第一の流路4における分離カラム2と半導体ガスセンサ3との間のガスの流通を閉じるため、分離カラム2から半導体ガスセンサ3への、半導体ガスセンサ3の性能を劣化させる成分の移動が阻止される。また、第二の弁8が、第三の流路7における半導体ガスセンサ3と外気との間のガスの流通を閉じるため、外気から半導体ガスセンサ3への、半導体ガスセンサ3の性能を劣化させる成分の移動も阻止されている。
【0080】
このように第一の弁5及び第二の弁8が切り替えられても、ガスボンベ50から分離カラム2へキャリアガスが供給される。しかし、このキャリアガスは第二の流路6を通じて外気へと排出されるため、ガス流路や分離カラム2の内圧が過剰に大きくなることがなく、このような内圧の上昇による破損等の発生が抑制される。たとえ測定終了後に長時間キャリアガスの供給が継続されたとしても前記のような破損等の発生が抑制される。
【0081】
電源スイッチSWがオンされている状態で試料ガスの測定が複数回繰り返しおこなわれる場合において、測定終了後、次の測定の開始までの間の期間が長くなる場合には、この期間に、第一の弁5が第一の流路4における分離カラム2と第二の流路6との間のガスの流通を開くと共に分離カラム2及び第二の流路6と半導体ガスセンサ3との間のガスの流通を閉じる状態に切り替えられると共に、第二の弁8が、第三の流路7における半導体ガスセンサ3と外気との間のガスの流通を閉じる状態に切り替えられてもよい。このようにすると、感ガス体31が半導体ガスセンサ3の性能を劣化させる成分に曝される機会が更に低減される。この場合、次回の測定開始時より20〜30分前には、再び第一の弁5及び第二の弁8を切り替えてキャリアガスが半導体ガスセンサ3へ供給されるようにすることが好ましい。これは、次回の測定開始前に半導体ガスセンサ3の出力を安定化させるためである。
【0082】
尚、本実施形態では第二の流路6を備え、第一の弁5は三方弁であるが、第二の流路6が設けられずに、第一の弁5は第二の流路6へのガスの流通を開閉する機能が省かれた二方弁であってもよい。但し、本実施形態においては、半導体ガスセンサ3が加熱されていない状態でもガスボンベ50からキャリアガスが分離カラム2へ供給されてしまうこと、並びに測定終了後にもガスボンベ50からキャリアガスが分離カラム2へ長時間供給される可能性があることから、第一の弁5が三方弁であることが特に好ましい。
【実施例】
【0083】
[実施例1]
第二の弁8を備えない以外は第二の実施形態と同じ構成を有するガスクロマトグラフ1を用いて、ガスの測定をおこなった。ガスボンベ50としては、エアーガスボンベを用いた。分離カラム2としては、内径5mm、長さ30cmのテフロン(登録商標)製チューブを用い、この中に充填材として株式会社島津ジーエルシー製の品番B−19を充填し、その外面をラバーヒータで覆った。
【0084】
半導体ガスセンサ3のセンサ素子30は、次のようにして作製した。まず、塩化インジウム水溶液にアンモニアを添加して得られる水酸化インジウムを500℃で1時間焼成した後に粉砕して、酸化インジウムの粉体を得た。この酸化インジウムの粉体に水を加えてペースト状とし、これを検知用電極に塗布した後、空気中で700℃で10分間焼成して焼結体を形成した。この焼結体に、塩化金酸水溶液(金含有量3mg/cm)を0.05μl塗布し、更に700℃で10分間焼成することにより、酸化インジウムに対する金含有量が0.5重量%の感ガス体31を形成した。
【0085】
このガスクロマトグラフ1の動作条件は、キャリアガスの流量を30cc/min、試料ガスの注入量を5cc、感ガス体31の加熱温度を400℃、分離カラム2の加熱温度を70℃とした。
【0086】
この条件での、試料ガスの注入前のキャリアガス流通時の半導体ガスセンサ3からの出力は2.13Vであり、試料ガスの注入により生じる出力の変化から導出されるトルエンの検出値は1.1ppmであった。
【0087】
続いて、第一の弁5を、第一の流路4における分離カラム2と第二の流路6とのガスの流通が開いていると共に分離カラム2及び第二の流路6と半導体ガスセンサ3との間のガスの流通が閉じている状態に切り替えた。感ガス体31の加熱と分離カラム2の加熱は停止した。ガスボンベ50からはキャリアガスを分離カラム2へ供給し続けた。この状態を70時間維持した後、再び試料ガスの測定をおこなったところ、試料ガスの注入前のキャリアガス流通時の半導体ガスセンサ3からの出力は2.10Vであり、試料ガスの注入により生じる出力の変化から導出されるトルエンの検出値は1.01ppmであった。
【0088】
このように一回目の出力と二回目の出力には、ほとんど変化はみられなかった。
【0089】
[実施例2]
第二の実施形態と同じ構成を有するガスクロマトグラフ1を用いて、まず実施例1の場合と同じ条件で、1回目の測定をおこなったところ、試料ガスの注入前のキャリアガス流通時の半導体ガスセンサ3からの出力は2.18Vであり、試料ガスの注入により生じる出力の変化から導出されるトルエンの検出値は1.15ppmであった。
【0090】
続いて、第一の弁5を、第一の流路4における分離カラム2と第二の流路6とのガスの流通が開いていると共に分離カラム2及び第二の流路6と半導体ガスセンサ3との間のガスの流通が閉じている状態に切り替えた。更に、第二の弁8を、第三の流路7における半導体ガスセンサ3と外気との間のガスの流通を閉じている状態に切り替えた。感ガス体31の加熱と分離カラム2の加熱は停止した。ガスボンベ50からはキャリアガスを分離カラム2へ供給し続けた。この状態を70時間維持した後、再び測定をおこなったところ、試料ガスの注入前のキャリアガス流通時の半導体ガスセンサ3からの出力は2.17Vであり、試料ガスの注入により生じる出力の変化から導出されるトルエンの検出値は1.12ppmであった。
【0091】
このように一回目の出力と二回目の出力との変化は、実施例1の場合よりも小さかった。
【0092】
[比較例1]
第一の弁5、第二の弁8及び第二の流路6を備えない以外は第二の実施形態と同じ構成を有するガスクロマトグラフ1を用いて、実施例1の場合と同じ条件で一回目の測定をおこなった。この結果、試料ガスの注入前のキャリアガス流通時の半導体ガスセンサ3からの出力は2.2Vであり、試料ガスの注入により生じる出力の変化から導出されるトルエンの検出値は1.12ppmであった。
【0093】
続いて、ガスボンベ50からはキャリアガスを分離カラム2へ供給し続けた。感ガス体31の加熱は停止した。この状態を52時間維持した後、二回目の測定をおこなたところ、キャリアガス流通時の半導体ガスセンサ3からの出力は1.25Vであり、試料ガスの注入により生じる出力の変化から導出されるトルエンの検出値は0.58ppmであった。
【0094】
このように一回目と二回目とでは、出力が大きく変化した。
【0095】
[比較例2]
第一の弁5、第二の弁8及び第二の流路6を備えない以外は第二の実施形態と同じ構成を有するガスクロマトグラフ1を用いた。一回目の測定と二回目の測定との間において、分離カラム2へのキャリアガスの供給を停止し、それ以外は比較例1と同じ方法で測定をおこなった。
【0096】
その結果、一回目の測定では試料ガスの注入前のキャリアガス流通時の半導体ガスセンサ3からの出力は2.15Vであり、試料ガスの注入により生じる出力の変化から導出されるトルエンの検出値は1.05ppmであった。二回目の測定では試料ガスの注入前のキャリアガス流通時の半導体ガスセンサ3からの出力は1.59Vであり、試料ガスの注入により生じる出力の変化から導出されるトルエンの検出値は0.83ppmであった。このように比較例2では、比較例1ほどではないが、一回目と二回目とで出力が大きく変化した。
【0097】
[実施例3]
第二の弁8を備えない以外は第二の実施形態と同じ構成を有するガスクロマトグラフ1を用いて、ガスの測定をおこなった。ガスボンベ50としては、エアーガスボンベを用いた。分離カラム2としては、内径5mm、長さ30cmのテフロン(登録商標)製チューブを用い、この中に充填材としてジーエルサイエンス株式会社製の品番APS−201を充填し、その外面をラバーヒータで覆った。
【0098】
半導体ガスセンサ3のセンサ素子30は、次のようにして作製した。まず、SnClの水溶液をNHで加水分解してスズ酸ゾルを得た。このスズ酸ゾルを風乾し、更に空気中で500℃で1時間焼成することで、SnOを得た。このSnOに塩化パラジウムの塩酸溶液を含浸させ、500℃で空気中において1時間加熱することでSnOにPdを坦持させた。このPdを坦持するSnOと骨材として1000メッシュのアルミナとを、1:1の質量比で混合し、更に溶剤を加えてペースト状とし、これを検知用電極に塗布した後、700℃で2時間焼成することにより、SnOに対するPd含有量が0.3重量%である感ガス体31を形成した。
【0099】
このガスクロマトグラフ1の第一の弁5を第一の流路4における分離カラム2と半導体ガスセンサ3との間のガスの流通が開いていると共に分離カラム2及び半導体ガスセンサ3と第二の流路6との間のガスの流通が閉じている状態とした。更にキャリアガスの流量を14cc/min、感ガス体31の加熱温度を400℃、分離カラム2の加熱温度を75℃とした。この状態を午前8時から午後6時まで維持した。
【0100】
続いて、このガスクロマトグラフ1の第一の弁5を第一の流路4における分離カラム2と第二の流路6とのガスの流通が開いていると共に分離カラム2及び第二の流路6と半導体ガスセンサ3との間のガスの流通が閉じている状態に切り替えた。ガスボンベ50からはキャリアガスを分離カラム2へ供給し続けた。感ガス体31の加熱と分離カラム2の加熱は停止した。この状態を午後6時から翌日午前8時まで維持した。
【0101】
上記操作を繰り返し行うと共に、数日おきにこのガスクロマトグラフ1を用いた試料ガスの測定をおこなった。試料ガスとしては、ホルムアルデヒドを0.1ppmの割合で含むガスを使用した。
【0102】
試料ガス注入前のキャリアガス流通時の半導体ガスセンサ3からの出力と試料ガス測定時の半導体ガスセンサ3からの出力との変化量の経時変化を、図6のグラフに示す。尚、図6に示すグラフの縦軸の数値は、最初の試料ガス測定時における出力変化量を1として規格化した値である。
【0103】
この図6に示されるように、実施例3では出力変化量の経時変化は緩やかであった。
【0104】
[実施例4]
第二の実施形態と同じ構成を有するガスクロマトグラフ1を用いて、ガスの測定をおこなった。ガスボンベ50としては、エアーガスボンベを用いた。分離カラム2及びセンサ素子30の構成は実施例3と同じにした。
【0105】
このガスクロマトグラフ1の第一の弁5を第一の流路4における分離カラム2と半導体ガスセンサ3との間のガスの流通が開いていると共に分離カラム2及び半導体ガスセンサ3と第二の流路6との間のガスの流通が閉じている状態とし、第二の弁8を第三の流路7における半導体ガスセンサ3と外気との間のガスの流通が開いている状態とした。更にキャリアガスの流量を14cc/min、感ガス体31の加熱温度を400℃、分離カラム2の加熱温度を75℃とした。この状態を午前8時から午後6時まで維持した。
【0106】
続いて、このガスクロマトグラフ1の第一の弁5を第一の流路4における分離カラム2と第二の流路6とのガスの流通が開いていると共に分離カラム2及び第二の流路6と半導体ガスセンサ3との間のガスの流通が閉じている状態に切り替え、第二の弁8を第三の流路7における半導体ガスセンサ3と外気との間のガスの流通が閉じている状態に切り替えた。ガスボンベ50からはキャリアガスを分離カラム2へ供給し続けた。感ガス体31の加熱と分離カラム2の加熱は停止した。この状態を午後6時から翌日午前8時まで維持した。
【0107】
上記操作を繰り返し行うと共に、実施例3の場合と同様に試料ガスの測定をおこなった。
【0108】
試料ガス注入前のキャリアガス流通時の半導体ガスセンサ3からの出力と試料ガス測定時の半導体ガスセンサ3からの出力との変化量の経時変化を、図7のグラフに示す。尚、図7に示すグラフの縦軸の数値は、最初の試料ガス測定時における出力変化量を1として規格化した値である。
【0109】
この図7に示されるように、実施例4では出力変化量の経時変化は緩やかであった。
【0110】
[比較例3]
第一の弁5、第二の弁8、及び第二の流路6を備えない以外は第二の実施形態と同じ構成を有するガスクロマトグラフ1を用いて、ガスの測定をおこなった。ガスボンベ50としては、エアーガスボンベ50を用いた。分離カラム2及びセンサ素子30の構成は実施例3と同じにした。
【0111】
このガスクロマトグラフ1におけるキャリアガスの流量を14cc/min、感ガス体31の加熱温度を400℃、分離カラム2の加熱温度を75℃とした。この状態を午前8時から午後6時まで維持した。
【0112】
続いて、このガスクロマトグラフ1において、ガスボンベ50からはキャリアガスを分離カラム2へ供給し続け、感ガス体31の加熱と分離カラム2の加熱は停止した。この状態を午後6時から翌日午前8時まで維持した。
【0113】
上記操作を繰り返し行うと共に、実施例3の場合と同様に試料ガスの測定をおこなった。
【0114】
試料ガス注入前のキャリアガス流通時の半導体ガスセンサ3からの出力と試料ガス測定時の半導体ガスセンサ3からの出力との変化量の経時変化を、図8のグラフに示す。尚、図8に示すグラフの縦軸の数値は、最初の試料ガス測定時における出力変化量を1として規格化した値である。
【0115】
この図8に示されるように、比較例3では実施例3,4と較べ、出力変化量が経時的に大きく変化した。
【符号の説明】
【0116】
1 ガスクロマトグラフ
2 分離カラム
3 半導体ガスセンサ
4 第一の流路
5 第一の弁
6 第二の流路
7 第三の流路
8 第二の弁
9 制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分離カラムと、半導体ガスセンサと、前記分離カラムと半導体ガスセンサとの間を接続する第一の流路と、前記第一の流路における前記分離カラムと前記半導体ガスセンサとの間のガスの流通を開閉する第一の弁とを備えるガスクロマトグラフ。
【請求項2】
前記第一の流路から分岐して外気に通じる第二の流路を備え、前記第一の弁が、前記第一の流路における前記分離カラムと前記半導体ガスセンサとの間のガスの流通が開いていると共に前記分離カラム及び前記半導体ガスセンサと前記第二の流路との間のガスの流通が閉じている状態と、前記第一の流路における前記分離カラムと前記第二の流路とのガスの流通が開いていると共に前記分離カラム及び前記第二の流路と前記半導体ガスセンサとの間のガスの流通が閉じている状態とを切り替える三方弁である請求項1に記載のガスクロマトグラフ。
【請求項3】
前記半導体ガスセンサと外気との間の接続する第三の流路と、前記第三の流路における前記半導体ガスセンサと外気との間のガスの流通を開閉する第二の弁とを備える請求項1又は2に記載のガスクロマトグラフ。
【請求項4】
ガス測定時には、前記第一の弁による前記第一の流路における前記分離カラムと前記半導体ガスセンサとの間のガスの流通を開いて、キャリアガスと試料ガスとを前記分離カラム、前記第一の流路、前記半導体ガスセンサに順次通過させ、ガス測定終了後に前記第一の弁による前記第一の流路における前記分離カラムと前記半導体ガスセンサとの間のガスの流通を閉じるように前記第一の弁を動作させる制御装置を備える請求項1乃至3のいずれか一項に記載のガスクロマトグラフ。
【請求項5】
ガス測定時には、前記第一の弁により前記第一の流路における前記分離カラムと前記半導体ガスセンサとの間のガスの流通を開くと共に、前記第二の弁により前記第三の流路における前記半導体ガスセンサと外気との間のガスの流通を開き、ガス測定終了後に前記第一の弁により前記第一の流路における前記分離カラムと前記半導体ガスセンサとの間のガスの流通を閉じると共に、前記第二の弁により前記第三の流路における前記半導体ガスセンサと外気との間のガスの流通を閉じるように、第一の弁及び第二の弁を動作させる制御装置を備える請求項3に記載のガスクロマトグラフ。
【請求項6】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載のガスクロマトグラフを使用する方法であって、測定対象のガスの測定時には、前記第一の弁により前記第一の流路における前記分離カラムと前記半導体ガスセンサとの間のガスの流通を開いて、キャリアガスと試料ガスとを前記分離カラム、前記第一の流路、前記半導体ガスセンサに順次通過させ、測定対象のガスの測定終了後に前記第一の弁により前記第一の流路における前記分離カラムと前記半導体ガスセンサとの間のガスの流通を閉じるガスクロマトグラフの使用方法。
【請求項7】
請求項3に記載のガスクロマトグラフを使用する方法であって、ガス測定時には、前記第一の弁により前記第一の流路における前記分離カラムと前記半導体ガスセンサとの間のガスの流通を開いて、キャリアガスと試料ガスとを前記分離カラム、前記第一の流路、前記半導体ガスセンサに順次通過させると共に、前記第二の弁により前記第三の流路における前記半導体ガスセンサと外気との間のガスの流通を開き、ガス測定終了後に前記第一の弁により前記第一の流路における前記分離カラムと前記半導体ガスセンサとの間のガスの流通を閉じると共に、前記第二の弁により前記第三の流路における前記半導体ガスセンサと外気との間のガスの流通を閉じるガスクロマトグラフの使用方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−257246(P2011−257246A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−131473(P2010−131473)
【出願日】平成22年6月8日(2010.6.8)
【出願人】(593210961)エフアイエス株式会社 (39)