説明

ガスクロマトグラフ及びガスクロマトグラフ分析方法

【課題】有害物質を洗浄した後の洗浄液中に存在する極微量の有害物質等を検出することができるガスクロマトグラフ及びガスクロマトグラフによる分析方法を提供する。
【解決手段】試料注入部10が、試料注入部本体21と、該試料注入部本体21内に配設され、キャリアガス22を導入するキャリアガス導入管23を備えると共に、前記分離カラム11と連通し、内部に注入された試料13を貯留する試料インサート管24と、前記試料注入部本体21を加熱する加熱装置5と、前記試料インサート管24に形成され、前記加熱装置25の加熱により気化した気化ガス26を試料インサート管24から排出する気化ガス排出部27と、試料注入部本体21に設けられ、前記気化ガス26を外部へ排出する排出管28とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は例えばPCB等の有害物質を処理した洗浄液中に存在する極微量の有害物質を精度良く検出することができるガスクロマトグラフ及びガスクロマトグラフ分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年では、PCB(Polychlorinated biphenyl, ポリ塩化ビフェニル:ビフェニルの塩素化異性体の総称)が強い毒性を有することから、その製造および輸入が禁止されている。このPCBは、1954年頃から国内で製造開始されたものの、カネミ油症事件をきっかけに生体・環境への悪影響が明らかになり、1972年に行政指導により製造中止、回収の指示(保管の義務)が出された経緯がある。PCBは、ビフェニル骨格に塩素が1〜10個置換したものであり、置換塩素の数や位置によって理論的に209種類の異性体が存在し、現在、市販のPCB製品において約100種類以上の異性体が確認されている。また、この異性体間の物理・化学的性質や生体内安定性および環境動体が多様であるため、PCBの化学分析や環境汚染の様式を複雑にしているのが現状である。さらに、PCBは、残留性有機汚染物質のひとつであって、環境中で分解されにくく、脂溶性で生物濃縮率が高く、さらに半揮発性で大気経由の移動が可能であるという性質を持つ。また、水や生物等環境中に広く残留することが報告されている。このPCBは平成4(1997)年に廃PCB、PCBを含む廃油、PCB汚染物が廃棄物の処理及び清掃に関する法律に基づく特別管理廃棄物に指定され、さらに、平成9(1997)年にはPCB汚染物として木くず、繊維くずが、追加指定された。PCB処理物となる電気機器としては、高圧トランス、高圧コンデンサ、低圧トランス・コンデンサ、柱上トランス等があり、廃PCB等としては、熱媒体に用いたものは絶縁油として用いたもの、また、これらの洗浄に用いた灯油等があり、廃感圧紙としては、ノーカーボン紙に使用されたカプセルオイルがあり、さらに、これらのPCBの使用又は熱媒の交換、絶縁油の再生、漏洩の浄化、PCB含有物の処理等の際に用いられた活性炭や、廃白土、廃ウェス類、作業衣等のPCB汚染物がある。現在これらは厳重に保管がなされているが、早急なPCBの処理が望まれている。
【0003】
このようなPCB汚染物を無害化するために、例えばアルコール系溶剤や炭化水素系溶剤等の洗浄液を用いて洗浄する方法が提案されている。
【0004】
また、PCBの無害化処理においても、無害化処理を行うたびに処理基準値の遵守を確認することが望まれる。
【0005】
環境省が公示する公定排水基準計測用の手法では、採取試料を溶媒としてn−ヘキサンを用いて分離し、その後、濃縮し、濃縮液をアルカリ分解し、抽出・洗浄した後、この分解液からPCBをn−ヘキサンで抽出し,その後、脱水・濃縮をした後に、シリカゲルカラム分離し、その後試料を濃縮して、ガスクロマトグラフ分析する、という工程によって分析を行っている。この工程には時間を要し、その分析結果を得るまでには、約2日間を要している。よって、PCB汚染物を大量に処理するPCB処理設備において、多量の発生する検体を分析するような迅速分析には対応できないという、問題がある。
【0006】
また、一方、既に絶縁油中PCB分析においては、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いた順相カラム-GC/MS(非特許文献1、特許文献1)、GPCカラム−GC−ECD法(非特許文献2)、GC−MS/NCIを用いた直接希釈注入法(非特許文献3)等が報告されている。
【0007】
しかし、これらは絶縁油そのものを対象としており、絶縁油汚染部材の分解・洗浄過程における溶剤中のPCBを直接分析する分析例は少ない。
【0008】
そこで、本出願人は、有害物質に汚染された有害物質汚染品を有害物質除染処理手段で処理した後に、該処理品が有害物質の残留処理基準に適合していることを判定する有害物質汚染物の処理卒業判定システムを先に提案した(特許文献2)。
【0009】
この判定方法は、処理終了後の処理品に残留している有害物質を判定液中に溶解させる判定槽と、上記判定液中の有害物質の濃度を計測する分析手段とを備え、判定液中に溶解された有害物質の濃度が基準値以下であるか否かを判定するものである。
【0010】
【非特許文献1】「PCBの簡易分析法の開発-妨害成分の分離手法の簡便化」電力中央研究所報告:T00038(2001)
【非特許文献2】絶縁油中のPCBs分析におけるゲルクロマトグラフィーを用いた前処理方法、環境化学、Vol13,1033−1040(2003)
【非特許文献3】ガスクロマトグラフィー/負化学イオン化質量分析による絶縁油中PCBの迅速分析、環境化学、Vol13,959−971(2003)
【特許文献1】特開2003−114222号公報
【特許文献2】特開2003−279542号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところで、従来の判定は、有害物質として例えばPCBを分析する場合、0.5mg/kgを基準値として判断するものであるが、それ以下の濃度を判定するには不純物等の影響があり、正確な測定が困難であるという問題がある。
特に、従来におけるガスクロマトグラフの試料注入部は、通常1〜2μl程度しか試料を注入することができず、例えば極低濃度のPCB量を計測することが困難であるという問題がある。
【0012】
また、洗浄処理する場合には、洗浄液や水等の共雑物の混入があり、これらを効率良く除去して、例えば極微量のPCB量を検出することができる手法が切望されている。
【0013】
本発明は、前記課題に鑑み、例えばPCB等の有害物質を洗浄した後の洗浄液中に存在する極微量の有害物質等を検出することができるガスクロマトグラフ及びガスクロマトグラフ分析方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上述した課題を解決するための本発明の第1の発明は、試料注入部と、分離カラムと、検出器とを備え、注入された試料を気化し、ガスクロマトグラフ分析するガスクロマトグラフであって、前記試料注入部が、試料注入部本体と、該試料注入部本体内に配設され、キャリアガスを導入するキャリアガス導入管を備えると共に、前記分離カラムと連通し、内部に注入された試料を貯留する試料インサート管と、前記試料注入部本体を加熱する加熱装置と、前記試料インサート管に形成され、加熱装置の加熱により気化した気化ガスを試料インサート管から排出する気化ガス排出部と、試料注入部本体に設けられ、前記気化ガスを外部へ排出する排出管と、を具備することを特徴とするガスクロマトグラフにある。
【0015】
第2の発明は、第1の発明において、前記加熱装置が80℃/分以上で急速加熱する急速昇温加熱装置であることを特徴とするガスクロマトグラフにある。
【0016】
第3の発明は、第1又は2の発明において、試料インサート管に注入する試料量が5μl以上であることを特徴とするガスクロマトグラフにある。
【0017】
第4の発明は、第1乃至3のいずれか一つの発明において、試料インサート管に注入する試料中の不純物を除去する前処理する前処理装置を備えたことを特徴とするガスクロマトグラフにある。
【0018】
第5の発明は、第4の発明において、前処理装置が、試料中の分析対象物を吸着する吸着カラムと、第1の溶媒に溶解させた試料を前記吸着カラムに送給する第1のポンプと、前記分析対象物を吸着した吸着カラムに前記第1の溶媒よりも溶出力が大きな第2の溶媒を送給する第2のポンプと、第1の溶媒と第2の溶媒の通路を切替える切換え部と、を具備してなり、第1の溶媒に溶解させた試料中の分析対象物を吸着カラムで吸着させ、その後第2の溶媒により分析対象物を溶出することを特徴とするガスクロマトグラフにある。
【0019】
第6の発明は、第5の発明において、前記第2の溶媒により溶出された分析対象物を精製するゲル濾過カラムを具備することを特徴とするガスクロマトグラフにある。
【0020】
第7の発明は、第5又は6の発明において、前記吸着カラムの前段側に逆相クロマトグラフ用カラムを介装してなることを特徴とするガスクロマトグラフにある。
【0021】
第8の発明は、第1乃至7のガスクロマトグラフを用いて分析するガスクロマトグラフ分析方法であって、試料を5μl以上注入する試料注入工程と、40〜80℃で所定時間加熱保持し、気化した溶媒を外部へ排出し、試料を濃縮する試料濃縮工程と、80〜120℃/分で急速に昇温する急速昇温工程と、溶媒排出管を閉塞し、分離カラム内に試料を導入し、試料を分析する試料分析工程と、300℃以上で所定時間加熱を維持し、残留不純物を気化・除去する残留物除去工程とを含むことを特徴とするガスクロマトグラフ分析方法にある。
【0022】
第9の発明は、第8の発明において、試料インサート管に注入する試料中の不純物を除去することを特徴とするガスクロマトグラフ分析方法にある。
【0023】
第10の発明は、第9の発明において、前記不純物の除去が、試料中の分析対象物を吸着カラムで吸着させる工程と、前記分析対象物を吸着した吸着カラムから前記第1の溶媒よりも溶出力が大きな第2の溶媒で分析対象物を溶出する工程とを含むことを特徴とするガスクロマトグラフ分析方法にある。
【0024】
第11の発明は、第10の発明において、前記第2の溶媒により溶出された分析対象物をゲル濾過カラムにより精製することを特徴とするガスクロマトグラフ分析方法にある。
【0025】
第12の発明は、第10又は11の発明において、前記吸着カラムの前段側において、逆相クロマトグラフ用カラムを用いて不純物を除去することを特徴とするガスクロマトグラフ分析方法にある。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、ガスクロマトグラフの試料インサート管に試料を大量注入し、不要な溶媒を除去し、目的の分析対象物のみを迅速に且つ精度良く検出することができる。
また、前処理することにより、試料中に存在する水、洗浄液、絶縁油等の共雑物を効率良く除去し、さらに、高精度な分析を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、この発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施の形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。
【0028】
[実施の形態]
本発明による実施の形態に係るガスクロマトグラフの概略について、図面を参照して説明する。
図1は、本実施の形態に係るガスクロマトグラフの一例を示す概略図である。
図1に示すように、本実施の形態にかかるガスクロマトグラフ100は、試料13を大量注入する試料注入部10と、分離カラム11と、検出器12とを備え、注入された試料13を気化し、ガスクロマトグラフ分析するガスクロマトグラフであって、前記試料注入部10が、試料注入部本体21と、該試料注入部本体21内に配設され、キャリアガス22を導入するキャリアガス導入管23を備えると共に、前記分離カラム11と連通し、内部に注入された試料13を貯留する試料インサート管24と、前記試料注入部本体21を加熱する加熱装置25と、前記試料インサート管24に形成され、前記加熱装置25の加熱により気化した気化ガス26を試料インサート管24から排出する気化ガス排出部27と、試料注入部本体21に設けられ、前記気化ガス26を外部へ排出する排出管28と、を具備するものである。
【0029】
前記加熱装置25は、図2に示すように、昇温速度を急速に行うことができるものが好ましい。この加熱装置25は、図2に示すように、赤外線ランプ25aと、試料注入部本体21とを取り囲むような楕円ミラー25bとから構成されており、楕円の放物反射面により、赤外線ランプ25aのエネルギーが試料注入部本体21に集中することになり、試料注入部本体21内の試料インサート管24内を急速加熱することができる。
【0030】
この急速加熱は80〜150℃/分の昇温速度で急速加熱することが好ましい。この急速加熱により、例えばPCB等の分析対象物が急速に加熱されて気化されることになる。
この急速加熱装置としては、例えば赤外線加熱炉を例示することができる。
【0031】
なお、この急速加熱を行う前において、試料13中の溶媒を除去するために、所定の低い温度で所定時間加熱するようにする必要がある。
【0032】
また、前記試料インサート管21内には、試料を大量注入するが、その注入量は数〜数10μl、好ましくは5〜60μl程度を注入する。この試料大量注入を行い、その後述する濃縮操作を行うことで、分離カラム11内に分析対象物を大量導入することができ、分析感度の向上を図ることができる。
【0033】
以下、この濃縮操作について説明する。図3は濃縮操作の手順を示す工程図である。
図3に示すように、試料13には溶剤(図中丸印)と分析対象物(図中星印)と不純物(四角印)とが混入しているとする。
(1)先ず、例えば40μlの試料13を試料インサート管21内に注入する。
(2)次に、加熱装置25で温度を50℃前後の低温に保持する。この際、排出管28に介装されたバルブ28aは開放しておく。この低温加熱により、試料13中の溶媒成分等と低沸点成分の一部が気化し、低沸点成分の気化ガス26aとして外部へ排出される。この結果、溶媒等の低沸点成分が除去され、試料インサート管24内で試料濃縮がなされる。
(3)次に、バルブ28aを閉じ、加熱装置25により100℃/分の条件で急速加熱する。この際における加熱到達温度は300℃とした。この急速加熱により試料インサート管21内の圧力が膨張し、PCBの気化ガス26bが分離カラム11内に押込まれる。これによりガスクロマトグラフィー分析がなされ、検出器12で検出される。
(4)その後、300℃を保持したまま、排出管28のバルブ28aを開放することで、高温沸点成分の不純物の気化ガス26cを外部へ除去し、試料インサート管21内をクリーンナップする。
【0034】
この結果、試料の大量注入が効率良く行われ、目的の分析対象物を濃縮して分離カラムに送り込むことができ、ガスクロマトグラフ質量分析装置(GC/MS)200における分析感度が向上する。
【0035】
ここで、有害物質が例えばPCBの場合には、PCBと同じような挙動をする絶縁油の問題がある。この絶縁油は洗浄操作により、除去されるので、洗浄液中に存在する。この絶縁油濃度が高いような場合において、試料を多量注入する場合に、図8に示すように、絶縁油が保持時間の前半においてブロードなピークとして現れることになる。この結果低塩素化PCBの定量が不可能になる。
【0036】
そこで、本発明においては、ガスクロマトグラフの前処理として、前処理装置を用いてこの絶縁油を除去するようにしている。
【0037】
この前処理装置について以下説明する。
図4は前処理装置30の概略構成図である。図3に示すように、前処理装置30は、試料中の分析対象物(図中星印)31を吸着する吸着カラム32と、第1の溶媒33に溶解させた試料34を前記吸着カラム32に送給する第1のポンプ35bと、前記分析対象物31を吸着した吸着カラム32に前記第1の溶媒33よりも溶出力が大きな第2の溶媒36を送給する第2のポンプ37bと、第1の溶媒33と第2の溶媒36の通路を切替える第1の切換え部38と、溶出液の溶出路を切替える第2の切替え部39を具備してなるものである。そして、第1の溶媒33に溶解させた試料34中の分析対象物31を吸着カラム32で吸着させ、その後第2の溶媒36により分析対象物31を溶出し、ガスクロマトグラフ質量分析装置(GC/MS)200で分析するものである。本実施の形態では、洗浄液中に浮遊するSS成分及び非常に脂溶性の高い物質を除去するために、逆相カラム(ODSカラム)40を吸着カラム32の前段側に設けている。なお、図中符号41は試料導入部である。
【0038】
この前処理装置30において、第1の溶媒33としては、例えばメタノール、エタノール等のアルコール系溶媒を例示することができる。また、第2の溶媒36としては、前記第1の溶剤よりも溶出力が大きな例えばアセトン等を例示することができる。
【0039】
ここで、有害物質であるPCBを洗浄する洗浄溶剤としては、例えばn−ヘキサン、イソプロピルアルコール(IPA)、トリクロロエタン、パラフィン系炭化水素(「NS−100」(C11の脂肪族系有機溶剤)(商品名):日鉱石油化学株式会社製)を挙げることができる。これらの洗浄溶剤及び水は、吸着カラム32においては、吸着されずに、そのまま溶出され、廃棄槽42にて廃棄される。なお、絶縁油の一部も吸着されずに、廃棄される。
【0040】
ここで、前記吸着カラム32としては、例えば活性炭カラムを例示することができる。また、活性炭カラム以外としては、例えばシリカゲルカラム又はアルミナカラム等を例示することができる。
【0041】
前記逆相カラム40はSS成分及び非常に脂溶性の高い物質の除去を主体としているので、例えば1cm程度の短いカラムを用いることでその目的を達成することができる。
【0042】
この前処理の工程図を図5に示す。図5では、PCBが付着している容器等を処理した洗浄液を試料とする。図5に示すように、この前処理は分析対象物を吸着カラム32に吸着させるA操作と、吸着した分析対象物を吸着カラムから脱離させるB操作とから構成されている。
【0043】
先ず、A操作としては、試料導入部41から試料34を100μl注入する。この試料34中には不純物として、SS(浮遊物質)成分、水、洗浄液、絶縁油が共存している。導入された試料はODSカラム40にて、SS成分が除去され、次いで吸着カラム32において、目的の分析対象物31であるPCBが吸着される。この際、絶縁油の存在量が多い場合には、この吸着カラム32にて絶縁油も吸着される。このA操作のメタノール溶出液は第2の切替え部39により廃棄槽42に導入される。この廃棄槽42には水、洗浄液及び絶縁油の一部が導入される。
【0044】
次に、B操作に移行する。B操作としては、第1の切替え部38を操作して、第2の溶媒36を第2のポンプ37bにより吸着カラム32に送給し、吸着カラム32で吸着されている分析対象物31をその溶出力により離脱させる。この際、第2の切替え部39をGC/MS200側に切替えて、その溶出液を分析する。
【0045】
ここで、本実施の形態では、図5に示すように、第2の溶媒36であるアセトン溶出液をゲル浸透クロマトフラフィー(Gel Permeation Chromatography:GPCカラム)43を用いて、その分子篩効果及び吸着分配作用により、絶縁油とPCBとを分画するようにしている。分画はフラクションコレクタ44により行い、PCB溶出画分45をガスクロマトグラフ質量分析装置(GC/MS)200で分析するようにしている。
なお、絶縁油が少ないPCBの分析の場合にはGPCカラムは不要である。
【0046】
図5に示す前処理は、A操作であるメタノール溶出操作は0〜5分行い、次いで流路を切替えて、5分以降はB操作に移るようにしているが、本発明はこれに限定されるものではなく、移動相の流量及び種類により適宜変更することができる。
【0047】
また、図4に示す前処理装置では、第1の溶媒33と第2の溶媒36とを同一方向から送給しているが、本発明はこれに限定されるものではなく、第2の溶媒36を逆側から送給するようにしてもよい。この場合には、特にカラムの入口付近で吸着されるような場合には、押し出される溶出バンド幅が狭くなるので、分析精度が向上する。
【0048】
図6に吸着カラム32に対し、第1の溶媒33の送給方向とは異なる方向から第2の溶媒36を送給する一例を示す。
【0049】
第1の溶媒槽35aと第2の溶媒槽37aにはそれぞれ第1の溶媒(メタノール)33と第2の溶媒(アセトン)36がそれぞれ用意されている。図6中、符号46は六方バルブであり、流路を切替えるようにしている。
先ず、A操作においては、六方バルブ46を第1の溶媒33が吸着カラム32を図中左から右に送給するようにしており、B操作においては、六方バルブ46を切換えて、第2の溶媒36が吸着カラム32を図中右から左に送給するようにしており、吸着カラム32に吸着された分析対象物31を逆側から押し出すようにしている。
【0050】
この溶出された試料はGPCカラム43により分画され、PCB画分45を前述した図1に示すガスクロマトグラフの試料インサート管24に連続して、又はシリンジ等により独立して大量注入する。また、SS成分や絶縁油等も除去されると共に、酸成分やアルカリ成分も除去されるので、GC/MSの分析やGC−ECDの分析にも対応することができる。
【0051】
前処理についてPCB含有模擬試料について回収試験を実施したところ、2−8塩素化PCBにおいて回収率90%以上、CV値3.6%と良好な結果を得た。よって、この前処理はPCBの損失がなく、しかも除去対象物質に対して良好な分離を行うことができた。
【0052】
図7にこの前処理装置30を有するGC/MS装置を用いた、洗浄設備における分析システムの一例を示す。
【0053】
図7に示すように、複数の洗浄装置50a〜50c・・・では、洗浄溶液によりPCB汚染物51a〜51c・・・の洗浄処理を行っている。前記洗浄装置には洗浄液の分取装置52a〜52c・・・が設けられており、洗浄処理が終了した洗浄液を分取管53a〜53c・・・に取り分ける。次いで、分取管53a〜53cは分析プール部201に送られ、ここで自動又は手動により前処理装置30に試料を注入する。
前処理装置30で前処理した後、GC/MS装置200で分析を行う。この分析のデータ60は演算装置61に送られ、ここで、分析結果を表示し、その後中央制御装置62に送られ、洗浄が的確になされているかを判断する。
【0054】
この分析は迅速に行うことができるので、判定待ち時間が低減される。また、洗浄溶液中の濃度を必要な時に迅速に分析することができるので、洗浄液中のPCB濃度を全ロットに亙って測定することができる。この結果、検査漏れがなく、安全操業が可能となる。
また、従来のようなロット毎の公定分析が不要となり、分析に要する人件費、設備費、ランニングコストの低減を図ることができる。
【0055】
以上、本発明について分析対象についてPCBを用いて説明したが、本発明は分析対象をPCBに限定されるものではなく、極微量の分析に適用することができ、例えば他の有害物質である残留農薬の分析等に用いることができる。
【実施例】
【0056】
以下、本発明にかかる好適な実施例について説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0057】
[試験方法]
模擬試料の調製としては、PCB汚染部材の洗浄溶剤として使用頻度の高いイソプロパノール中にPCBフリー電気絶縁油を5000mg/kg、PCB標準品(KC300:400:500:600=1:1:1:1 和光純薬工業社製)を0.3mg/kg、水およびNaOHを適量添加したものを模擬試料として調製した。
【0058】
[前処理操作]
絶縁油中PCBを対象とした報告例において一般的である順相カラム、GPCカラム)、活性炭カラムや逆相カラムなど複数のカラムについて検討を行った。PCB溶出位置の確認には209種全PCB異性体混合標準品(AccuStandard,Inc.)を用い、全PCB異性体の溶出挙動および回収率について確認した。HPLCには島津製作所製「LC−10Aシステム」(商品名)を用い、模擬試料をオートサンプラにて導入、分離・精製状況を確認した。また精製対象物質が複数のため、複合カラムをカラムスイッチングにより効率よく分画できるようシステムを構築し、前処理から濃度測定までの一連の作業を自動化した。
【0059】
次に、前処理後の溶剤試料について、四重極型GC/MSのイオン化法として一般的なEI法、ハロゲン元素に高選択性を持ち絶縁油に対して影響の少ないNCl法、洗浄液の公定法で使用されるGC-ECD法を用いて定量を行い、高分解能二重収束型GC/MSで得られた測定結果との比較から各定量法の妥当性評価を行った。
【0060】
模擬試料について複数回連続注入後の溶出画分について濃度測定を行い、本法の前処理法の耐久性に関して確認を行った。
【0061】
[結果と考察]
洗浄液中のPCB測定において、昭和電工社製の「Shodex CLN Pak PAE−800カラム(300mm×8.0mm)」(商品名)(又は、PAE−2000カラム(300mm×20mm))を2本連結して吸着カラム32とした。試料100μl注入時においてPCBの定量に影響する絶縁油成分を99%以上除去できることが明らかとなった。
【0062】
試料に最も多く存在する洗浄液成分(IPA)、洗浄過程における酸・アルカリ成分については、第1の溶媒33を用いて、吸着カラム32によりPCBのみを吸着させ、それ以外の不純物を除去させるようにした。この結果、洗浄液や水成分を完全に精製し除去されることが確認された。また、試料中にSS成分が存在した場合、逆相カラム40によりこれを除去することができた。
【0063】
その後、第2の溶媒36であるアセトンを用いて、逆方向から吸着したPCBを吸着カラム32より溶出させ、その後GPCカラム43により絶縁油を分画除去することで、目的のPCBをGC/MS200にて検出することができた。
【0064】
この検出結果を図9に示す。
図9に示すように、絶縁油の妨害がなく、低塩素のPCBも良好に計測することができた。
【0065】
以上、洗浄溶剤中のPCBの測定において、前処理装置30を用い、分析機器に汎用タイプのGC/MSを用いた本法は、データの算出まで約2時間と公定法と比較して極めて短時間で、現在の洗浄溶剤中PCB判定基準値の0.5mg/kg以下の濃度の0.3mg/kgに調製された低濃度試料においても高精度な測定結果が得られた。
【0066】
また、これまで定量困難であった低塩素である3塩素化PCBや4塩素化PCBにおいても濃度の把握が可能であり、0.5mg/kg以下の極微量のPCB濃度の測定に応用できることが判明した。
よって、洗浄溶液中のPCBの濃度測定のみならず、PCB分解過程にて発生する様々な低塩素化PCB廃棄物の定量にも適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0067】
以上のように、本発明にかかるクロマトグラフ及びクロマトグラフによる分析方法によれば、試料を大量に注入して精度よい分析が可能となり、例えばPCBの洗浄設備における洗浄液の判定に用いることができ、PCB処理設備の分析装置に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本実施の形態にかかるガスクロマトグラフの概略図である。
【図2】加熱装置の概略図である。
【図3】濃縮操作の工程図である。
【図4】前処理装置の概略構成図である。
【図5】前処理の工程図である。
【図6】前処理の他の構成図である。
【図7】洗浄監視設備の概略図である。
【図8】絶縁油を含む洗浄液の分析結果図である。
【図9】絶縁油を除去した分析結果図である。
【符号の説明】
【0069】
100 ガスクロマトグラフ
10 試料注入部
11 分離カラム
12 検出器
13 試料
21 試料注入部本体
22 キャリアガス
23 キャリアガス導入管
24 試料インサート管
25 加熱装置
26 気化ガス
27 気化ガス排出部
28 排出管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料注入部と、分離カラムと、検出器とを備え、注入された試料を気化し、ガスクロマトグラフ分析するガスクロマトグラフであって、
前記試料注入部が、
試料注入部本体と、
該試料注入部本体内に配設され、キャリアガスを導入するキャリアガス導入管を備えると共に、前記分離カラムと連通し、内部に注入された試料を貯留する試料インサート管と、
前記試料注入部本体を加熱する加熱装置と、
前記試料インサート管に形成され、加熱装置の加熱により気化した気化ガスを試料インサート管から排出する気化ガス排出部と、
試料注入部本体に設けられ、前記気化ガスを外部へ排出する排出管と、
を具備することを特徴とするガスクロマトグラフ。
【請求項2】
請求項1において、
前記加熱装置が80℃/分以上で急速加熱する急速昇温加熱装置であることを特徴とするガスクロマトグラフ。
【請求項3】
請求項1又は2において、
試料インサート管に注入する試料量が5μl以上であることを特徴とするガスクロマトグラフ。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一つにおいて、
試料インサート管に注入する試料中の不純物を除去する前処理する前処理装置を備えたことを特徴とするガスクロマトグラフ。
【請求項5】
請求項4において、
前処理装置が、
試料中の分析対象物を吸着する吸着カラムと、
第1の溶媒に溶解させた試料を前記吸着カラムに送給する第1のポンプと、
前記分析対象物を吸着した吸着カラムに前記第1の溶媒よりも溶出力が大きな第2の溶媒を送給する第2のポンプと、
第1の溶媒と第2の溶媒の通路を切替える切換え部と、
を具備してなり、第1の溶媒に溶解させた試料中の分析対象物を吸着カラムで吸着させ、その後第2の溶媒により分析対象物を溶出することを特徴とするガスクロマトグラフ。
【請求項6】
請求項5において、
前記第2の溶媒により溶出された分析対象物を精製するゲル濾過カラムを具備することを特徴とするガスクロマトグラフ。
【請求項7】
請求項5又は6において、
前記吸着カラムの前段側に逆相クロマトグラフ用カラムを介装してなることを特徴とするガスクロマトグラフ。
【請求項8】
請求項1乃至7のガスクロマトグラフを用いて分析するガスクロマトグラフ分析方法であって、
試料を5μl以上注入する試料注入工程と、
40〜80℃で所定時間加熱保持し、気化した溶媒を外部へ排出し、試料を濃縮する試料濃縮工程と、
80〜120℃/分で急速に昇温する急速昇温工程と、
溶媒排出管を閉塞し、分離カラム内に試料を導入し、試料を分析する試料分析工程と、
300℃以上で所定時間加熱を維持し、残留不純物を気化・除去する残留物除去工程とを含むことを特徴とするガスクロマトグラフ分析方法。
【請求項9】
請求項8において、
試料インサート管に注入する試料中の不純物を除去することを特徴とするガスクロマトグラフ分析方法。
【請求項10】
請求項9において、
前記不純物の除去が、
試料中の分析対象物を吸着カラムで吸着させる工程と、
前記分析対象物を吸着した吸着カラムから前記第1の溶媒よりも溶出力が大きな第2の溶媒で分析対象物を溶出する工程とを含むことを特徴とするガスクロマトグラフ分析方法。
【請求項11】
請求項10において、
前記第2の溶媒により溶出された分析対象物をゲル濾過カラムにより精製することを特徴とするガスクロマトグラフ分析方法。
【請求項12】
請求項10又は11において、
前記吸着カラムの前段側において、逆相クロマトグラフ用カラムを用いて不純物を除去することを特徴とするガスクロマトグラフ分析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−126146(P2006−126146A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−318357(P2004−318357)
【出願日】平成16年11月1日(2004.11.1)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【出願人】(502235315)株式会社島津テクノリサーチ (2)