説明

ガスクロマトグラフ用カラム及びその製造方法

【課題】クロマトグラフィの分離ピークの広がりを低減でき、分離の再現性を向上でき、流路閉塞の防止が出来るガスクロマトグラフ用カラム及びその製造方法を実現すること。
【解決手段】 ガスクロマトグラフィの被検体であるガスの吸着を行なう微小流路を具備するガスクロマトグラフ用カラムにおいて、前記微小流路の内壁面の一部または全部に均一な大きさで形成される複数の細孔を具備することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスクロマトグラフィの被検体であるガスの吸着を行なう微小流路を具備するガスクロマトグラフ用カラム及びその製造方法に関し、特にクロマトグラフィの分離ピークの広がりの低減、分離の再現性向上、流路閉塞の防止に関する。
【0002】
例えば、ガスクロマトグラフィ装置で使用される吸着型カラムに関する技術であって、ガスクロマトグラフィに使用されている吸着型パックドカラム(充填カラム)や吸着型キャピラリーカラム(PLOT、Porous Layer Open Tubular)の高性能化に関するものである。
【背景技術】
【0003】
従来、ガスクロマトグラフィ装置は、気体の成分の測定装置であり、混合物中に存在する様々な物質と、カラム内に存在する固定相物質との吸収の度合いによって、混合物から個々の物質に分析を行う装置であり、化学分析の分野では必要不可欠な装置である。
【0004】
このガスクロマトグラフィ装置は、恒温槽に上述のカラムを設け、このカラムにガスボンベからヘリウムなどの気体を減圧弁で調整しながら導入するとともに試料導入口から試料を導入し、カラムを通過する時間の違いから物質を同定するために、カラムを通過してきた試料を検出器で分析するものである。
【0005】
ここで、ガスクロマトグラフィ装置で用いられているガスクロマトグラフ用カラムには、大別すると微小流路(管)の中に吸着剤を詰めて使用する充填カラムと、中空の微小流路(管)の内壁に吸着剤を塗布して使用するキャピラリーカラムがある。
また、一般的なカラムのサイズは、充填カラムが内径3mm、長さ2mであり、キャピラリーカラムが内径0.25mm、長さ30m〜60mである。
【0006】
図4は上述のような従来の充填カラムの構成図であり、図4において従来の充填カラムは、微小流路(管)FPの中に吸着剤50が詰められて(充填されて)構成されている。
具体的には、従来の充填カラムは、担体に揮発性の少ない液体(固定相液体や液相と称する)を含浸させたものや、活性炭、アルミナ、シリカゲルなどの吸着剤がガラス管や金属管により形成される微小流路に充填される。
【0007】
図5は、上述のような従来のキャピラリーカラムの構成図であり、図5において、従来のキャピラリーカラムは、中空の微小流路(管)FPの内壁に吸着剤50が塗布されて(コートされて)構成される。
具体的には、従来のキャピラリーカラムは、内径0.1〜1mm程度の微小流路FPの内壁に液相を塗布したWCOT型(Wall Coated Open Tubular)、管壁に直径数μmの微粒子のポーラスポリマーやアルミナなどを約5〜20μm程度の層状に担持させたPLOT型(Porous Layer Open Tubular)、粒径数10μmの珪藻土担体に液相を含浸させたものを内壁に数100μmの層状に担持させたSCOT型(Support Coated Open Tubular)がある。
【0008】
キャピラリ構造にすると、流路抵抗が小さく、カラムを通り抜ける時間が短くて済むので、高速なクロマトグラフィ分析が可能になる点で有効であった。
【0009】
以下、上述の構成から成る充填カラムまたはキャピラリーカラムを用いて混合ガスの分離を行うガスクロマトグラフィ装置の動作を例にとって説明する。
たとえば、ヘリウム等の不活性ガス(移動相)を定常的に充填カラムまたはキャピラリーカラムの微小流路に流し、ガスクロマトグラフィの被検体である混合ガスを充填カラムまたはキャピラリーカラムの微小流路に流入させる。
【0010】
ガスクロマトグラフィの被検体である混合ガスは、充填カラムまたはキャピラリーカラムの微小流路に図示しない流入口100を介して流入すると、混合ガスはそれぞれの性質により、微小流路内に詰められたまたは内壁に塗布された吸着剤(固定相)と不活性ガス(移動相)との間で吸着/脱着を繰り返しながら充填カラムの微小流路内を流れる。
【0011】
混合ガス中の各種ガスごとの吸着、脱着のしやすさによって、カラム内を混合ガスが移動する際、吸着性の良いガスは移動速度が遅く、吸着性の良くないガスは移動速度が速くなるので、固有のガスにおける速度差が生じ、カラムの流出口200において吸着性の悪いガスから順に排出される。
このため、ガスクロマトグラフィ装置にて、カラムから流出されたガスを検出手段で分析すれば、混合ガスをそれぞれ混合ガス中の各種ガス(混合ガス中のガス成分)を分析することができる。
【0012】
この結果、従来の充填カラムまたはキャピラリーカラムを用いたガスクロマトグラフィ装置は、混合ガスの分離を行って、ガス成分を分析することができる。
【0013】
このような従来のガスクロマトグラフ用カラムに関連する先行技術文献として下記の特許文献がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】井原 俊英、他14名「キャピラリーガスクロマトグラフィー」、朝倉書店、1997年7月20日、p.1−53
【非特許文献2】Sho Nishiyama、Four another names、”Parylene Stationary Phase for Micro Gas Chromatography Columns”、THE 25TH SENSOR SYMPOSUIUM、2008、p.154〜157
【非特許文献3】T.Nakai、Four another names、”Micro Fabricated Semi-Packed Gas Chromatography Column with Functionalized Parylene as the Stationary Phase''、Twelfth International Conference on Miniaturized Systems for Chemistry and Life Sciences、2008、p.1790〜1792
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、従来の充填カラムは、充填された吸収剤によって形成されるガスが流れていく流路長が複数存在するので、ある一つのガス成分に注目しても早く出てくる部分と、遅く出てくる部分とがあり、クロマトグラフィの分離ピークが広がってしまう(これを多流路拡散)という問題点があった。
このため、クロマトグラフィの分離ピークが広がってしまうと、正確なガス分析が行なえない点で問題であった。
【0016】
また従来のキャピラリーカラムは、吸着剤と微小流路の内壁の密着性が低く、温度サイクルにより吸着剤が剥離することがあるという問題点があった。このように吸着剤が剥離すると分離の再現性が低下したり、微小流路や検出器が閉塞してしまうといった問題点があった。
【0017】
また、従来のカラムは、活性炭などの吸着剤を用いているが、被検体たるガスを吸着させるポア(細孔)のサイズが分散分布しており、分離ピークが広がる原因となるという問題点があった。
【0018】
図6は、この従来のカラムにおける吸着剤のポアサイズの説明図であり、図6に示すように、活性炭などの吸着剤では、ガスを吸着させるポア(細孔)のサイズ・ポアの深さ・ポアの径等が異なる大きさで分布して形成される。
このため、被検体のガスのうち一つのガス成分に注目したとしても、そのガスが吸着剤により吸着する際の吸着性、吸着する時間にバラツキが出てくるので、クロマトグラフィの分離ピークが広がってしまうという問題点があった。
【0019】
本発明は上述の問題点を解決するものであり、その目的は、クロマトグラフィの分離ピークの広がりを低減でき、分離の再現性を向上でき、流路閉塞の防止が出来るガスクロマトグラフ用カラム及びその製造方法を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
このような課題を達成するために、本発明のうち請求項1記載の発明は、
ガスクロマトグラフィの被検体であるガスの吸着を行なう微小流路を具備するガスクロマトグラフ用カラムにおいて
前記微小流路の内壁面の一部または全部に均一な大きさで形成される複数の細孔を具備することを特徴とするガスクロマトグラフ用カラムである。
【0021】
請求項2記載の発明は、請求項1記載のガスクロマトグラフ用カラムにおいて、
前記微小流路を形成するための微細な溝を形成したシリコンからなる第1の基板と、
前記溝の表面を陽極酸化またはポーラス化することで前記細孔が均一な大きさで形成された多孔質層と、
前記溝を密封して前記微小流路が形成されるように前記第1の基板と接合された第2の基板とを具備することを特徴とする。
【0022】
請求項3記載の発明は、請求項1または2記載のガスクロマトグラフ用カラムにおいて、
前記多孔質層の表面にカーボン、アルミまたはアルミナをスパッタリングする、または前記多孔質層の表面を酸化する、または前記多孔質層の表面にガラス質を形成可能な溶液をコーティングすることにより吸着性能向上層を形成することを特徴とする。
【0023】
請求項4記載の発明は、
ガスクロマトグラフィの被検体であるガスの吸着を行なう微小流路を具備するガスクロマトグラフ用カラムの製造方法であって、
シリコンからなる第1の基板に前記微小流路を形成するための微細な溝を形成する第1の工程と、
前記溝の表面を陽極酸化またはポーラス化して前記溝の壁面に細孔が均一な大きさで形成され多孔質状に形成された多孔質層を形成する第2の工程と、
前記溝を密封して前記微小流路が形成されるように第2の基板を前記第1の基板と接合する第3の工程とから成ることを特徴とするガスクロマトグラフ用カラムの製造方法である。
【0024】
請求項5記載の発明は、請求項4記載のガスクロマトグラフ用カラムの製造方法であって、
前記多孔質層の表面にカーボン、アルミまたはアルミナをスパッタリングする、または前記多孔質層の表面を酸化する、または前記多孔質層の表面にガラス質を形成可能な溶液をコーティングすることにより吸着性能向上層を形成する第4の工程からも成ることを特徴とする。
【0025】
請求項6記載の発明は、
ガスクロマトグラフィの被検体であるガスの吸着を行なう微小流路を具備するガスクロマトグラフ用カラムの製造方法であって、
シリコンからなる第1の基板に前記微小流路を形成するための微細な溝を形成する第1の工程と、
前記溝にアルミ薄膜を成膜する第2の工程と、
前記溝の表面に成膜された前記アルミ薄膜を陽極酸化またはポーラス化して前アルミ薄膜の一部または全部に細孔が均一な大きさで形成され多孔質状に形成された多孔質層を形成する第3の工程と、
前記溝を密封して前記微小流路が形成されるように第2の基板を前記第1の基板と接合する第4の工程とから成ることを特徴とするガスクロマトグラフ用カラムの製造方法である。
【0026】
請求項7記載の発明は、請求項6記載のガスクロマトグラフ用カラムの製造方法であって、
前記多孔質層の表面にカーボン、アルミまたはアルミナをスパッタリングする、または前記多孔質層の表面を酸化する、または前記多孔質層の表面にガラス質を形成可能な溶液をコーティングすることにより吸着性能向上層を形成する第5の工程からも成ることを特徴とする。
【発明の効果】
【0027】
このように、本発明によれば、ガスクロマトグラフィの被検体であるガスの吸着を行なう微小流路を具備するガスクロマトグラフ用カラムにおいて、微小流路を形成するための微細な溝を形成したシリコンからなる第1の基板と、溝の表面を陽極酸化またはポーラス化して細孔が均一な大きさで形成されて多孔質状に形成された多孔質層とを具備することにより、吸着する際の吸着性、吸着する時間が一定(ほぼ一定)またはバラツキが小さくなるため、クロマトグラフィの分離ピークの広がりを低減できる。
いいかえれば、本発明に係るガスクロマトグラフ用カラムは、微小流路FPの内壁面の一部または全部に均一の大きさで複数のポア(細孔)が形成されることにより、吸着する際の吸着性、吸着する時間が一定(ほぼ一定)またはバラツキが小さいため、クロマトグラフィの分離ピークの広がりを低減できる点で有効である。
【0028】
また、本発明によれば、ガスクロマトグラフィの被検体であるガスの吸着を行なう微小流路を具備するガスクロマトグラフ用カラムにおいて、微小流路を形成するための微細な溝を形成したシリコンからなる第1の基板と、溝の表面を陽極酸化またはポーラス化して細孔が均一な大きさで形成されて多孔質状に形成された多孔質層とを具備することにより、従来のように微小流路の内壁に吸着剤を塗布する構成ではないため、分離の再現性を向上できる点で有効である。
また、本発明によれば、微小流路を形成するための微細な溝を形成したシリコンからなる第1の基板と、溝の表面を陽極酸化またはポーラス化して細孔が均一な大きさで形成されて多孔質状に形成された多孔質層とを具備することにより、流路閉塞を防止出来る点でも有効である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明に係るガスクロマトグラフ用カラムの一実施例を示す構成図である。
【図2】本発明に係るガスクロマトグラフ用カラムの一実施例の製造方法の説明図(断面図)である。
【図3】本発明に係るガスクロマトグラフ用カラムの他の実施例の製造方法の説明図(断面図)である。
【図4】従来の充填カラムの構成図である。
【図5】従来のキャピラリーカラムの構成図である。
【図6】従来のカラムにおける吸着剤のポアサイズの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明のガスクロマトグラフ用カラム及びその製造方法の主な特徴は、ガスクロマトグラフ用カラムが微小流路を形成するための微細な溝を形成したシリコンからなる第1の基板と、溝の表面を陽極酸化またはポーラス化して細孔が均一に形成されて多孔質状に形成された多孔質層と、溝を密封して微小流路が形成されるように接合された第2の基板とを具備する点、このようなガスクロマトグラフ用カラムが製造できる点等である。
以下、図面を用いて本発明のガスクロマトグラフ用カラム及びその製造方法を説明する。
【0031】
<実施例1>
図1は、本発明に係るガスクロマトグラフ用カラムの一実施例を示す構成図であり、図1の(A)は上面図であり、(B)はカラムのA−A断面図である。
【0032】
(主な構成の説明)
図1において、ガスクロマトグラフ用カラムは、主に、被検体であるガスが流れる微小流路を構成する微細な溝を有する第1の基板の一例であるシリコン基板1と、流入口100および流出口200を有しシリコン基板1と貼り合わされて被検体であるガスが流れる微小流路FPを形成する、パイレックス(登録商標)ガラス等により構成された第2の基板の一例である基板2と、微細な溝の表面を陽極酸化またはポーラス化してポア(細孔)31が均一の大きさで形成されて多孔質状に形成された多孔質層3と、から構成される。
【0033】
シリコン基板1の中央部分には、たとえば、RIE(反応性イオンエッチング(Reactive Ion Etching)加工、超音波加工、レーザ加工、サンドブラスト加工、ウエットエッチングなどによって蛇行状またはスパイラル状に微細な溝が形成される。
RIE法は、比較的低圧においてイオン化したエッチングガスを被加工物質に垂直に衝突させる効果を利用した方法である。
また、この微細な溝は、たとえば、幅50μm、深さ200μm、長さ10mなどで形成される。なおシリコン基板1の溝は、長手方向に沿うように長方形に形成されるものでもよい。
【0034】
多孔質層3は、シリコン基板1の微細な溝の表面をフッ酸水溶液中で陽極酸化/ポーラス化して形成される。
この多孔質層3の表面には、均一な大きさ(サイズ)、径、または、深さのポア(細孔)31が形成される。
多孔質層3の表面には条件によりポア径が数nmから数十nm程度の、均一サイズのポア31が形成される。図1(B)に示すように、シリコン基板1の微細な溝の表面をフッ酸水溶液中で陽極酸化/ポーラス化することにより、均一なサイズのポア(細孔)31が形成される。
【0035】
多孔質層3を形成する陽極酸化/ポーラス化としては、たとえば、溝が形成されるシリコン基板1を、フッ酸5%、IPA(イソプロピルアルコール))10%からなるフッ酸混合液中に浸漬し、溝の底部に5mA/cm2で10分間電流を印加することにより陽極酸化/ポーラス化するものがある。
【0036】
なお多孔質層3は、たとえば、シリコン基板1の微細な溝の表面を陽極酸化/ポーラス化したポーラスシリコンや、シリコン基板1の微細な溝の表面に成膜されているアルミ薄膜をフッ酸水溶液中で陽極酸化/ポーラス化するポーラスアルミなどから構成されるものである。
【0037】
微小流路FPは、シリコン基板1に形成された溝の両端に基板2に形成された流入口100および流出口200が位置するようにシリコン基板1と基板2を接着や熱圧着などで貼り合わせ、シリコン基板1に形成された溝を基板2で覆うことにより構成される。
【0038】
(製造方法の説明)
以下、本発明に係るガスクロマトグラフ用カラムの一実施例の製造方法について説明する。図2は、本発明に係るガスクロマトグラフ用カラムの一実施例の製造方法の説明図(断面図)であり、図1と共通する部分には同一の符号を付けて適宜説明を省略する。
また図2の(A)、(B)、(C)、(D)は、それぞれガスクロマトグラフ用カラムの製造工程の説明図(断面図)である。
【0039】
まず、図2(A)に示すように、微小流路FPを構成する微細な溝の上面からみた形状(蛇行状、スパイラル状、または、シリコン基板1の長手方向に沿って長方形)で穴があけられている第1のマスク材(保護膜)51が、シリコン基板1の上に形成される(マスク材のパターニング)。
なお、この第1のマスク材51は、耐フッ酸性のあるフォトレジストやシリコン窒化膜などから構成される。
【0040】
次に、図2(B)に示すように、第1のマスク材(保護膜)51により覆われたシリコン基板1にRIE(反応性イオンエッチング(Reactive Ion Etching)加工を施す。
これにより、シリコン基板1の第1のマスク材(保護膜)51で覆われていない領域、いいかれば、第1のマスク材(保護膜)51の微小流路FPを形成する微細な溝の上面からみた形状であけられた穴の領域に相当するシリコン基板1の領域に、微小流路FPを形成するための微細な溝が形成される。
【0041】
さらに、図2(C)に示すように、シリコン基板1の微細な溝の表面をフッ酸水溶液中で陽極酸化/ポーラス化することにより、均一な大きさ(サイズ)、径、または、深さのポア(細孔)31が形成された多孔質層3を形成する。
多孔質層3を形成する陽極酸化/ポーラス化としては、たとえば、溝が形成されるシリコン基板1を、フッ酸5%、IPA(イソプロピルアルコール))10%からなるフッ酸混合液中に浸漬し、溝の底部に5mA/cm2で10分間電流を印加することにより陽極酸化/ポーラス化するものがある。
このとき、シリコン基板1を陽極とし、白金電極などを陰極としてフッ酸水溶液中で陽極酸化するものでもよい。
【0042】
そして、図2(D)に示すように、シリコン基板1に形成された溝の両端に基板2に形成された流入口100および流出口200が位置するようにシリコン基板1と基板2を接着や熱圧着などで貼り合わせ、シリコン基板1に形成された溝を基板2で覆う。これにより流路FPが形成される。
なお、必要があれば第1のマスク材(保護膜)51を除去してから、シリコン基板1に形成された溝を基板2で覆うものでもよい。
【0043】
これらの図2(A)〜(D)の製造工程を介して、本発明に係るガスクロマトグラフ用カラムは、シリコン基板1に形成された微細な溝の最表面がポーラスシリコンである多孔質層3が形成されることになる。
いいかえれば、本発明に係るガスクロマトグラフ用カラムは、微小流路の内壁面の一部または全部がポーラスシリコンにより形成される。
【0044】
この結果、微小流路を形成するための微細な溝を形成したシリコンからなる第1の基板と、溝の表面を陽極酸化またはポーラス化して細孔が均一な大きさで形成されて多孔質状に形成された多孔質層とを具備するような本発明のガスクロマトグラフ用カラムが製造でき、本発明によれば、微小流路FPの内壁面の一部または全部に均一の大きさで複数のポア(細孔)が形成されることにより、吸着する際の吸着性、吸着する時間が一定(ほぼ一定)またはバラツキが小さいため、クロマトグラフィの分離ピークの広がりを低減できる点で有効である。
また、従来のように微小流路の内壁に吸着剤を塗布する構成ではないため、分離の再現性を向上できる点で有効である。
また、本発明に係るガスクロマトグラフ用カラムは、上述の構成とすることにより流路閉塞を防止出来る点でも有効である。
【0045】
(作用・効果)
このような構成で、本発明に係るガスクロマトグラフ用カラムは、たとえば以下のようにガスクロマトグラフィ装置により用いられてガスの分離を行うことによりガス成分分析に貢献する。
【0046】
ヘリウム等の不活性ガス(移動相)を定常的に本発明に係るガスクロマトグラフ用カラムの微小流路に流入させる。この状況下で、ガスクロマトグラフィの被検体である混合ガスが本発明に係るガスクロマトグラフ用カラムの微小流路に流入させる。
【0047】
ガスクロマトグラフィの被検体である混合ガスは、本発明に係るガスクロマトグラフ用カラムの微小流路FPに図示しない流入口100を介して流入すると、混合ガスはそれぞれの性質により、吸着/脱着を繰り返しながらガスクロマトグラフ用カラムの微小流路FP内を流れる。
【0048】
混合ガス中の各種ガスごとの吸着、脱着のしやすさによって、カラム内を混合ガスが移動する際、吸着性の良いガスは移動速度が遅く、吸着性の良くないガスは移動速度が速くなるので、固有のガスにおける速度差が生じ、カラムの流出口200において吸着性の悪いガスから順に排出される。
【0049】
ここで、混合ガスは、微小流路FP内を移動する際に、微小流路FPを形成する微細な溝上に設けられている細孔が均一な大きさで形成された多孔質層3により、吸着/脱着を繰り返しながら微小流路FP内を流れるため、吸着する際の吸着性や吸着する時間が一定(ほぼ一定)またはバラツキが小さくなり、クロマトグラフィの分離ピークの広がりが低減することになる。
【0050】
このため、本発明のガスクロマトグラフ用カラムを用いたガスクロマトグラフィ装置では、カラムから流出されたガスを検出手段で分析すれば、混合ガスをそれぞれ混合ガス中の各種ガス(混合ガス中のガス成分)をより正確に分析することができる。
【0051】
この結果、本発明に係るガスクロマトグラフ用カラムは、微小流路を形成するための微細な溝を形成したシリコンからなる第1の基板と、溝の表面を陽極酸化またはポーラス化して細孔が均一な大きさで形成されて多孔質状に形成された多孔質層とを具備することにより、吸着する際の吸着性、吸着する時間が一定(ほぼ一定)またはバラツキが小さくなるため、クロマトグラフィの分離ピークの広がりを低減できる。
いいかえれば、本発明に係るガスクロマトグラフ用カラムは、微小流路FPの内壁面の一部または全部に均一の大きさで複数のポア(細孔)が形成されることにより、吸着する際の吸着性、吸着する時間が一定(ほぼ一定)またはバラツキが小さいため、クロマトグラフィの分離ピークの広がりを低減できる点で有効である。
【0052】
また、本発明に係るガスクロマトグラフ用カラムは、微小流路を形成するための微細な溝を形成したシリコンからなる第1の基板と、溝の表面を陽極酸化またはポーラス化して細孔が均一な大きさで形成されて多孔質状に形成された多孔質層とを具備することにより、従来のように微小流路の内壁に吸着剤を塗布する構成ではないため、分離の再現性を向上できる点で有効である。
また、本発明に係るガスクロマトグラフ用カラムは、上述の構成とすることにより流路閉塞を防止出来る点でも有効である。
(その他の実施形態の説明)
【0053】
なお、本実施例におけるガスクロマトグラフ用カラムは、多孔質層3の表面にカーボン、アルミまたはアルミナをスパッタリングする、または多孔質層3の表面を酸化する、または多孔質層3の表面にガラス質を形成可能な溶液をコーティングすることにより、「吸着性能向上層」を形成するものでもよい。
【0054】
たとえば、本実施例におけるガスクロマトグラフ用カラムは、ポーラスシリコンから成る多孔質層3、いいかえれば、微小流路を形成する微細な溝の表面にカーボンまたはアルミナをスパッタリングするものでもよい。
このように、ポーラスシリコンから成る多孔質層3表面にカーボンをスパッタリングして「吸着性能向上層」を形成すれば、一般的な吸着剤として周知である活性炭と同等の吸着性能を得ることが出来る点で有効で、より正確なガス成分分析に貢献できる。
【0055】
また、本実施例におけるガスクロマトグラフ用カラムは、ポーラスシリコンから成る多孔質層3(いいかえれば、微小流路を形成する微細な溝の表面)にアルミをスパッタした最表面を酸化するものでもよい。
このように、本実施例におけるガスクロマトグラフ用カラムは、ポーラスシリコンから成る多孔質層3(いいかえれば、微小流路を形成する微細な溝の表面)にアルミをスパッタした最表面を酸化して「吸着性能向上層」を形成すれば、一般的な吸着剤として周知であるアルミナと同等の吸着の性質を得ることが出来る点で有効で、より正確なガス成分分析に貢献できる。
【0056】
また、本実施例におけるガスクロマトグラフ用カラムでは、ポーラスシリコンから成る多孔質層3にアルミナをスパッタリングして吸着性能向上層を形成すれば、一般的な吸着剤として周知であるゼオライトと同等の吸着性能(例えば、NとOのガスの分離に適している性能、COを強固に吸着してCOが流出されない性能等)を得ることが出来る点で有効で、より正確なガス成分分析に貢献できる。
【0057】
また、本実施例におけるガスクロマトグラフ用カラムは、ポーラスシリコンから成る多孔質層3、いいかえれば、微小流路を形成する微細な溝の表面を酸化する、もしくは、ポリシラザンなどガラス質を形成出来る溶液をコーティングするものでもよい。
このように、本実施例におけるガスクロマトグラフ用カラムは、ポーラスシリコンから成る多孔質層3を酸化する、もしくは、ポリシラザンなどガラス質を形成出来る溶液をコーティングして「吸着性能向上層」を形成することにより、一般的な吸着剤として周知であるシリカゲルと同等の吸着の性質を得ることが出来る点で有効で、より正確なガス成分分析に貢献できる。
【0058】
また、本実施例におけるガスクロマトグラフ用カラムは、シリコン基板1の微細な溝の表面を陽極酸化/ポーラス化する場合、電流密度やフッ酸の濃度によりポアサイズを調整することが可能で、ガスに対する選択性を変えることができる。
【0059】
<実施例2>
本発明に係るガスクロマトグラフ用カラムは、微小流路の内壁面の一部または全部がポーラスアルミ(陽極酸化/ポーラス化されたアルミ)により形成されるものであってもよい。
【0060】
図3は、微小流路の内壁面の一部または全部がポーラスアルミにより形成される場合の本発明に係るガスクロマトグラフ用カラムの他の実施例の製造方法の説明図(断面図)であり、図1、2と共通する部分には同一の符号を付けて適宜説明を省略する。
また図3の(A)、(B)、(C)、(D)、(E)、(F)は、それぞれガスクロマトグラフ用カラムの製造工程の説明図(断面図)である。
【0061】
まず、図3(A)に示すように、微小流路FPを構成する微細な溝の上面からみた形状(蛇行状、スパイラル状、または、シリコン基板1の長手方向に沿って長方形)で穴があけられている第1のマスク材(保護膜)51が、シリコン基板1の上に形成される(第1のマスク材のパターニング)。
また微小流路FPを構成する微細な溝の上面からみた形状で穴があけられている第2のマスク材(保護膜)52が第1のマスク材(保護膜)51の上に形成される(第2のマスク材のパターニング)。
【0062】
次に、図3(B)に示すように、第1、第2のマスク材(保護膜)51、52により覆われたシリコン基板1にRIE加工を施す。
これにより、シリコン基板1の第1、第2のマスク材(保護膜)51、52で覆われていない領域、いいかれば、第1、第2のマスク材(保護膜)51、52の微小流路FPを形成する微細な溝の上面からみた形状であけられた穴の領域に相当するシリコン基板1の領域に、微小流路FPを形成するための微細な溝が形成される。
【0063】
また、図3(C)に示すように、第1のマスク材(保護膜)51の表面、第2のマスク材(保護膜)52の表面、シリコン基板1の微細な溝の表面にアルミ薄膜53が成膜される。
【0064】
次に、図3(D)に示すように、第2のマスク材(保護膜)52の表面上に成膜されたアルミ薄膜53と、第2のマスク材(保護膜)52を除去する。
すなわち、シリコン基板1の微細な溝の表面にのみアルミ薄膜53が成膜されている状態となる。
【0065】
さらに、図3(E)に示すように、シリコン基板1の微細な溝の表面に成膜されているアルミ薄膜53をフッ酸水溶液中で陽極酸化/ポーラス化することにより、均一なサイズのポア(細孔)31が形成された多孔質層3を生成する。
多孔質層3を形成する陽極酸化/ポーラス化としては、たとえば、シリコン基板1の溝の表面に成膜されているアルミ薄膜53を、フッ酸5%、IPA(イソプロピルアルコール))10%からなるフッ酸混合液中に浸漬し、アルミ薄膜53に5mA/cm2、10分などで電流を印加することにより陽極酸化/ポーラス化するものがある。
【0066】
そして、図3(F)に示すように、シリコン基板1に形成された溝の両端に基板2に形成された流入口100および流出口200が位置するようにシリコン基板1と基板2を接着や熱圧着などで貼り合わせ、シリコン基板1に形成された溝を基板2で覆う。これにより流路FPが形成される。
なお、必要があれば第1のマスク材(保護膜)51を除去してから、シリコン基板1に形成された溝を基板2で覆うものでもよい。
【0067】
これらの図3(A)〜(F)の製造工程を介して、本発明に係るガスクロマトグラフ用カラムは、シリコン基板1に形成された微細な溝の最表面がポーラスアルミである多孔質層3が形成されることになる。
いいかえれば、本発明に係るガスクロマトグラフ用カラムは、微小流路の内壁面の一部または全部がポーラスアルミにより形成される。
【0068】
また、本実施例2のガスクロマトグラフ用カラムの作用・効果は、図1に示した動作と同様の動作であるため説明を省略する。
【0069】
この結果、本発明に係るガスクロマトグラフ用カラムは、微小流路を形成するための微細な溝を形成したシリコンからなる第1の基板と、溝の表面を陽極酸化またはポーラス化して細孔が均一な大きさで形成されて多孔質状に形成された多孔質層とを具備することにより、吸着する際の吸着性、吸着する時間が一定(ほぼ一定)またはバラツキが小さくなるため、クロマトグラフィの分離ピークの広がりを低減できる。
いいかえれば、本発明に係るガスクロマトグラフ用カラムは、微小流路FPの内壁面の一部または全部に均一の大きさで複数のポア(細孔)が形成されることにより、吸着する際の吸着性、吸着する時間が一定(ほぼ一定)またはバラツキが小さいため、クロマトグラフィの分離ピークの広がりを低減できる点で有効である。
【0070】
また、本発明に係るガスクロマトグラフ用カラムは、微小流路を形成するための微細な溝を形成したシリコンからなる第1の基板と、溝の表面を陽極酸化またはポーラス化して細孔が均一な大きさで形成されて多孔質状に形成された多孔質層とを具備することにより、従来のように微小流路の内壁に吸着剤を塗布する構成ではないため、分離の再現性を向上できる点で有効である。
また、本発明に係るガスクロマトグラフ用カラムは、上述の構成とすることにより流路閉塞を防止出来る点でも有効である。
(その他の実施形態の説明)
【0071】
なお、本実施例におけるガスクロマトグラフ用カラムは、多孔質層3の表面を酸化することにより「吸着性能向上層」を形成するものでもよい。
【0072】
たとえば、本実施例2におけるガスクロマトグラフ用カラムは、ポーラスアルミから成る多孔質層3(いいかえれば、微小流路を形成する微細な溝の表面)の表面を酸化するものでもよい。
このように、本実施例におけるガスクロマトグラフ用カラムは、ポーラスアルミから成る多孔質層3(いいかえれば、微小流路を形成する微細な溝の表面)の表面を酸化して「吸着性能向上層」を形成すれば、一般的な吸着剤として周知であるアルミナと同等の吸着の性質を得ることが出来る点で有効で、より正確なガス成分分析に貢献できる。
【符号の説明】
【0073】
1 シリコン基板
2 基板
3 多孔質層
31 ポア(細孔)
53 アルミ薄膜
FP 微小流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスクロマトグラフィの被検体であるガスの吸着を行なう微小流路を具備するガスクロマトグラフ用カラムにおいて
前記微小流路の内壁面の一部または全部に均一な大きさで形成される複数の細孔を具備することを特徴とするガスクロマトグラフ用カラム。
【請求項2】
前記微小流路を形成するための微細な溝を形成したシリコンからなる第1の基板と、
前記溝の表面を陽極酸化またはポーラス化することで前記細孔が均一な大きさで形成された多孔質層と、
前記溝を密封して前記微小流路が形成されるように前記第1の基板と接合された第2の基板とを具備することを特徴とする請求項1記載のガスクロマトグラフ用カラム。
【請求項3】
前記多孔質層の表面にカーボン、アルミまたはアルミナをスパッタリングする、前記多孔質層の表面を酸化する、または前記多孔質層の表面にガラス質を形成可能な溶液をコーティングすることにより吸着性能向上層を形成することを特徴とする請求項2に記載のガスクロマトグラフ用カラム。
【請求項4】
ガスクロマトグラフィの被検体であるガスの吸着を行なう微小流路を具備するガスクロマトグラフ用カラムの製造方法であって、
シリコンからなる第1の基板に前記微小流路を形成するための微細な溝を形成する第1の工程と、
前記溝の表面を陽極酸化またはポーラス化して前記溝の壁面に細孔が均一な大きさで形成され多孔質状に形成された多孔質層を形成する第2の工程と、
前記溝を密封して前記微小流路が形成されるように第2の基板を前記第1の基板と接合する第3の工程とから成ることを特徴とするガスクロマトグラフ用カラムの製造方法。
【請求項5】
前記第1乃至第3の工程に加えて、前記多孔質層の表面にカーボン、アルミまたはアルミナをスパッタリングする、または前記多孔質層の表面を酸化する、または前記多孔質層の表面にガラス質を形成可能な溶液をコーティングすることにより吸着性能向上層を形成する第4の工程も有することを特徴とする請求項4記載のガスクロマトグラフ用カラムの製造方法。
【請求項6】
ガスクロマトグラフィの被検体であるガスの吸着を行なう微小流路を具備するガスクロマトグラフ用カラムの製造方法であって、
シリコンからなる第1の基板に前記微小流路を形成するための微細な溝を形成する第1の工程と、
前記溝にアルミ薄膜を成膜する第2の工程と、
前記溝の表面に成膜された前記アルミ薄膜を陽極酸化またはポーラス化して前アルミ薄膜の一部または全部に細孔が均一な大きさで形成され多孔質状に形成された多孔質層を形成する第3の工程と、
前記溝を密封して前記微小流路が形成されるように第2の基板を前記第1の基板と接合する第4の工程とから成ることを特徴とするガスクロマトグラフ用カラムの製造方法。
【請求項7】
前記第1乃至第4の工程に加えて、前記多孔質層の表面にカーボン、アルミまたはアルミナをスパッタリングする、または前記多孔質層の表面を酸化する、または前記多孔質層の表面にガラス質を形成可能な溶液をコーティングすることにより吸着性能向上層を形成する第5の工程からも有することを特徴とする請求項6記載のガスクロマトグラフ用カラムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−141271(P2011−141271A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−265132(P2010−265132)
【出願日】平成22年11月29日(2010.11.29)
【出願人】(000006507)横河電機株式会社 (4,443)