説明

ガスクロマトグラフ用キュリーポイント型熱分解試料導入装置

【課題】加熱機構部を小型化が可能な構成とし、試料を短時間でガスクロマトグラフへ導入可能な温度へ到達させ、熱分解した試料をガスクロマトグラフへ安定導入することを可能にするガスクロマトグラフ用キュリーポイント型熱分解試料導入装置を提供する。
【解決手段】筒状に形成され、試料を包んだパイロホイル101を誘導加熱して試料を熱分解させる高周波を発生する高周波コイルと、高周波コイルへ高周波電源電力を供給して高周波を発生させる高周波電源201と、試料管102内で熱分解した試料と混合されたキャリアガスをガスクロマトグラフへ導入させるニードル104とを備え、前記高周波コイルは、試料管102内のパイロホイル101を誘導加熱する高周波コイル103と、ニードル104を誘導加熱する高周波コイル107とをキャリアガスの経路に沿って配置させたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスクロマトグラフへ試料を導入するガスクロマトグラフ用キュリーポイント型熱分解試料導入装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のガスクロマトグラフへ試料を誘導するキュリーポイント型熱分解試料導入装置は、強磁性体ホイル(以下、パイロホイルと記載する)にセットされた試料に高周波エネルギーを付与することによって誘導加熱を行う試料加熱装置を備えている。
例えば、特開2006−177900号公報に記載されたヘッドスペース・ガスサンプラ装置は、試料ガス供給ラインを介してガスクロマトグラフへ試料ガスを供給するように構成されており、液体試料のガス化を図る恒温槽を備えている。この恒温槽は、自身の内部を加熱して液体試料を気化させる第1ヒータを備えている。またさらに、この装置は、気化させた試料ガスを引き出し管を介して恒温槽からガスクロマトグラフへ供給した後、試料ガスの成分濃度測定中に引き出し管を加熱して凝縮した残留物を除去する第2ヒータを備えている。
【0003】
また、ガスクロマトグラフ用キュリーポイント型熱分解試料導入装置には、高周波コイルを用いた誘導加熱によってガス化した試料をガスクロマトグラフへ導入する際に、当該ガス化された試料の移動経路を加熱する試料導入路用加熱装置を備えたものがある。
図3は、従来のガスクロマトグラフ用キュリーポイント型熱分解試料導入装置の一例を示す概略構成図である。
図示した装置は、試料を加熱して熱分解する熱分解室Aと、熱分解室Aにキャリアガスを供給するキャリアガス供給部Bと、熱分解室Aから図示を省略したガスクロマトグラフへ熱分解された試料を供給する試料導入部Eとから構成されている。
【0004】
熱分解室Aは、試料を包むパイロホイル1を収納する試料管2、試料管2の外側に配置される高周波コイル4、熱分解室Aの全体を加熱する熱分解室用加熱装置5、熱分解室Aの内部温度を維持する断熱材6、試料管2を熱分解室Aの内部に固定する試料管ホルダ10、高周波コイル4に高周波電力を供給する高周波電源15、熱分解室加熱装置5の加熱動作を制御する熱分解室加熱制御装置16等によって構成されている。
上記の高周波コイル4は、筒状のボビン3に巻線が巻回されており、ボビン3の内部に試料管2が収納されるように構成されている。
【0005】
キャリアガス供給部Bは、フローコントローラ11、流量計12、圧力ゲージ13、圧力調整弁14、および、これらを接続してキャリアガスを熱分解室Aへ供給するキャリアガスライン18等によって構成されている
試料導入部Eは、熱分解室Aの内部で熱分解された試料を図示を省略したガスクロマトグラフに導入する試料導入流路7、ニードル8、試料導入流路7とニードル8とを加熱する試料導入用流路加熱装置9、および、試料導入流路加熱装置9の加熱動作を制御する試料導入用流路加熱制御装置17によって構成されている。
【0006】
次に、従来のガスクロマトグラフ用キュリーポイント型熱分解試料導入装置の動作を説明する。
先ず、試料をパイロホイル1に包み込んで試料管2の内部へ収納する。この試料管2を熱分解室Aの内部、詳しくはボビン3の内部へ収納し、試料管ホルダ10を用いて固定し、熱分解室Aを密封する。次に前述のガスクロマトグラフの所定の部位へニードル8を接続する。あるいは、予め熱分解室Aをガスクロマトグラフに接続しておき、試料管2に試料を包んだパイロホイル1を熱分解室Aに収納する。
例えば、この後フローコントローラ11を稼働させ、あるいは試料管2にパイロホイル1を収納する前に予めフローコントローラ11を稼働させておき、キャリアガスライン18を介して熱分解室Aにキャリアガスを供給可能な状態にしておく。なお、図示を省略したガスクロマトグラフのフローコントローラからキャリアガスラインを分岐して、熱分解室Aにキャリアガスを供給するようにしてもよい。
【0007】
前述のように熱分解室Aをガスクロマトグラフへ接続した後、熱分解室加熱制御装置16の制御によって熱分解室用加熱装置5を稼働させ、熱分解室Aに収納されている試料管2を加熱する。また、適宜、試料導入用流路加熱装置17の制御により試料導入用流路加熱装置9を稼働させ、試料導入用流路7ならびにニードル8が適当な温度となるように加熱する。
このように熱分解室Aが加熱された後、高周波電源15を稼働させて高周波コイル4から試料管2へ高周波が照射され、誘導加熱によってパイロホイル1に包まれた試料の熱分解が行われると、フローコントローラ11の制御により適当な流量のキャリアガスが熱分解室Aへ供給される。試料管2の内部で熱分解された試料は、キャリアガスライン18から試料管2の内部へ流入してきたキャリアガスとともに試料導入用流路7、ニードル8を介してガスクロマトグラフへ流れ込む。
【0008】
試料管2の内部で熱分解された試料がキャリアガスとともにガスクロマトグラフへ導入されるとき、前述のように試料導入用流路7およびニードル8に加熱が行われ、適当な温度になっていることから、熱分解された試料の温度が低下することを防ぐことができる。そのため、分析処理に適した安定状態の試料がガスクロマトグラフへ導入され、精度の良い分析結果が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2006−177900号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ガスクロマトグラフ用キュリーポイント型熱分解試料導入装置は、熱分解した試料を安定させるために、熱分解室や試料導入流路を所定の温度に保つ必要があり、従来の装置は、高周波コイル、高周波電源、熱分解室加熱制御装置、さらに試料導入用流路加熱装置、試料導入用流路加熱制御装置等を備えている。そのため、装置全体の構成において加熱機構部分が大きな割合を占めており、装置の小型化を困難にしているという問題点があった。
【0011】
また、ガスクロマトグラフへ導入する試料の温度を安定させるためには、熱分解室全体、即ち、熱分解室に備えられる加熱装置や高周波コイル、さらに熱分解試料導入流路およびニードルなどの温度も安定させる必要がある。そのため、試料を適当な温度に安定させてガスクロマトグラフへ導入するまでの所要時間が長くなり、例えば熱分解試料導入装置を起動させてからガスクロマトグラフにて分析処理を開始するまで1時間程度を要するという問題点があった。
【0012】
この発明は、上記のような問題点を解決するためになされたものであり、加熱機構部を小型化が可能な構成とし、試料を短時間でガスクロマトグラフへ導入可能な温度へ到達させ、熱分解した試料をガスクロマトグラフへ安定導入することを可能にするガスクロマトグラフ用キュリーポイント型熱分解試料導入装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、この発明に係るガスクロマトグラフ用キュリーポイント型熱分解試料導入装置は、キャリアガス供給部と、試料を包んだ強磁性体からなるパイロホイルを収納し、前記キャリアガス供給部からキャリアガスが供給される試料管と、筒状に形成され、前記パイロホイルを誘導加熱して前記試料を熱分解させる高周波を発生する高周波コイルと、前記高周波コイルへ高周波電源電力を供給して前記高周波を発生させる高周波電源と、前記試料管内で熱分解した試料と混合された前記キャリアガスをガスクロマトグラフへ導入させる試料導入部と、を備え、前記高周波コイルは、自らの筒状空洞部に挿入されている前記試料管内のパイロホイルを誘導加熱する第1の高周波コイルと、自らの筒状空洞部に挿通されている前記試料導入部を誘導加熱する第2の高周波コイルと、を前記キャリアガスの経路に沿って配置してなる、ことを特徴とする。
【0014】
また、前記第1の高周波コイルは、断熱性を有するセラミックを用いて前記パイロホイルが発した熱を前記試料管の中にためておくように形成されたボビンを有することを特徴とする。
【0015】
また、前記試料導入部は、前記試料管内と連通するとともに前記ガスクロマトグラフへ挿入されるニードルと、前記ニードルを挿通させた熱伝導性の高いセラミックからなるニードル支持部材と、を備え、前記第2の高周波コイルは、自らの筒状空洞部に前記ニードル支持部材が挿入されて前記ニードルを支持固定することを特徴とする。
【0016】
また、前記第2の高周波コイルは、断熱性を有するセラミックを用いて前記ニードル支持部材およびニードルの温度を保つように形成されたボビンを有することを特徴とする。
【0017】
また、本発明に係るガスクロマトグラフ用キュリーポイント型熱分解試料導入装置は、キャリアガス供給部と、試料を包んだ強磁性体からなるパイロホイルを収納し、前記キャリアガス供給部からキャリアガスが供給される試料管と、筒状に形成され、前記パイロホイルを誘導加熱して前記試料を熱分解させる高周波を発生する高周波コイルと、前記高周波コイルへ高周波電源電力を供給して前記高周波を発生させる高周波電源と、前記試料管内で熱分解した試料と混合された前記キャリアガスをガスクロマトグラフへ導入させる試料導入部と、を備え、前記高周波コイルは、自らの筒状空洞部に挿入されている前記試料管内のパイロホイルおよび該試料管に連通する試料導入部を誘導加熱するように形成される、ことを特徴とする。
【0018】
また、前記試料導入部は、前記試料管内と連通するとともに前記ガスクロマトグラフへ挿入されるニードルと、前記ニードルを挿通させた熱伝導率の高いセラミックからなるニードル支持部材と、を備え、前記高周波コイルは、自らの筒状空洞部に前記ニードル支持部材が挿入されて前記ニードルを指示固定することを特徴とする。
【0019】
また、前記高周波コイルは、断熱性を有するセラミックを用いて前記ニードル支持部材およびニードルの温度を保つように形成されたボビンを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
この発明によれば、試料を含むキャリアガスの移動経路を加熱する加熱機構部の小型化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施例1によるガスクロマトグラフ用キュリーポイント型熱分解試料導入装置の概略構成図である。
【図2】本発明の実施例2によるガスクロマトグラフ用キュリーポイント型熱分解試料導入装置の概略構成図である。
【図3】従来のガスクロマトグラフ用キュリーポイント型熱分解試料導入装置の一例を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
【実施例1】
【0023】
図1は、本発明の実施例1によるガスクロマトグラフ用キュリーポイント型熱分解試料導入装置の概略構成図である。図1に示した熱分解試料導入装置100は、試料を加熱して熱分解する熱分解室Cと、熱分解室Cにアルゴン、ヘリウム、窒素などのキャリアガスを供給するキャリアガス供給部Dによって構成されている。
【0024】
熱分解室Cは、試料を包んだパイロホイル101を収納する試料管102、試料管102の外周を包囲する高周波コイル103、試料管102に連設されたニードル104、ニードル104の外周部分を包囲する高周波コイル107を備えている。上記の試料管102、高周波コイル103、ニードル104、高周波コイル107は、例えば断熱性を有する熱分解室Cの本体301の内部に収納されている。本体301は、上端部にキャリアガス供給部Dが接続されており、下端部からニードル104が突出している。
【0025】
試料管102は、高周波が比較的透過し易く誘電体損失の小さい材質からなり、例えば耐熱性の高いガラス等を用いて形成されている。また、試料管102は、図中上端の部位が開口し、パイロホイル101を管内へ収納するように構成されている。この試料管102の開口部は、栓材102aによって封鎖される。栓材102aは、試料管102の管内へキャリアガスを注入する導入管が接続されている。試料管102の底端部にはニードル104が接続され、試料管102の管内とニードル104の孔部が連通するように構成されている。
【0026】
高周波コイル103は、後述するセラミックによって形成された筒状のボビン105に巻線106を巻回させたもので、高周波電源201が接続されている。高周波コイル103の上端は、当該高周波コイル103の筒状空洞部へ挿入された試料管102の上端部とともに本体301の上端部材302によって支持されている。また高周波コイル103の下端は、本体301の下端部材303によって支持されている。
ボビン105は、当該ボビン105の筒状空洞部に配置されている試料管102に収納されたパイロホイル101を高周波によって誘導加熱するため、誘電体損失の小さなセラミック等からなり、例えば、ジルコニア、アルミナ、マシナブルセラミック等を用いて形成されている。また、ボビン103は、例えば試料管102にパイロホイル101を収納したとき、試料管102内部のパイロホイル101を全て包囲する筒長を少なくとも有している。また、例えば試料管102内のパイロホイル101を全て包囲するように巻線106を巻回させている。
【0027】
高周波コイル103を用いてパイロホイル101に包まれた試料の高周波誘導加熱を行い、このとき発生した熱を、本体301を構成する他の部分に伝えたい場合には、比較的熱伝導率の高いアルミナやマシナブルセラミックなどがボビン105に用いられる。
また、例えば試料管102などのキャリアガスの通路、もしくは当該通路内の熱分解した試料を含むキャリアガスの温度を保温したい場合には、断熱性を有する比較的熱伝導率の低いジルコニアや、これに相当する熱伝導率を有するマシナブルセラミックなどがボビン105に用いられる。なお、上記の断熱性を有するセラミックは、例えば熱伝導率が約16〜26[W/m・K]のステンレス鋼よりも小さいものであり、これよりも大きな熱伝導率を有するものを、ここでは熱伝導性の高いものとする。
【0028】
ニードル104は、熱分解された試料やキャリアガスに対して耐腐食性を有し、例えば、高周波誘導加熱によって発熱するステンレス鋼から成る。ニードル104は、本体301の下端に配置され、下端部材303を貫通して、当該下端部材303の下端側に配置された筒状の高周波コイル107の筒状空洞部に挿通されている。
高周波コイル107は、本体301を成すキャップ状の下端収納部材304に収納され、当該高周波コイル107の下端部が下端収納部材304の内部で固定される。
また、高周波コイル107の上端部は下端収納部材304が下端部材303へ固定されることにより、当該下端部材303の下端面に固定される。
キャップ状の下端収納部材304は、図中上側の開口部が下端部材303へ固定され、底端部の中央にニードル支持部材110の下端部が挿入される孔部が設けられている。この孔部は、封止部材305によって封止されており、ニードル104が封止部材305を貫通して本体301の外部へ突出している。
【0029】
高周波コイル107は、セラミックによって形成された筒状のボビン108に巻線109を巻回させたもので、高周波電源202が接続されている。
高周波コイル107を成すボビン108の筒状空洞部にはニードル支持部材110が挿入されている。ニードル支持部材110の上端部は、高周波コイル107の上端部とともに、下端部材303に固定されている。筒状のニードル支持部材110の中央空洞部にはニードル104が挿通されている。
ボビン108は、誘電体損失の小さなセラミックによって形成されており、比較的熱伝導率が小さく、例えばステンレス鋼よりも熱伝導率の小さい、前述の断熱性を有するセラミックが用いられる。
【0030】
ニードル支持部材110は、ニードル104などとともに試料導入部を成すものであり、セラミックを筒状に形成し、その筒状空洞部に挿入されたニードル104の外周部分を保持してこれを本体301に固定するように構成されている。
また、ニードル支持部材110は、誘電体損失が小さく熱伝導率の高い、例えばステンレス鋼と同等、もしくはそれよりも熱伝導率が大きいセラミックから成り、筒状のボビン108よりも長尺に形成され、高周波コイル107の高周波誘導加熱によるニードル104の発熱部分の熱量を他の部分へ伝導させ、好ましくはニードル104全体を高温にするように構成されている。
換言すると、ニードル支持部材110は、ニードル104のガスクロマトグラフへ挿入される部分を露出させており、また、ニードル104の他の部分を包み込んで当該ニードル104を高温に保ち、ニードル104の内部を通過する熱分解された試料を含むキャリアガスを、分析試験に適した高温状態に維持するように構成されている。
なお、ニードル支持部材110を、高周波誘導加熱によって発熱する材料によって形成し、高温になったニードル支持部材110によってニードル104を加熱するように構成してもよい。
【0031】
キャリアガス供給部Dは、図示を省略したキャリアガスの供給元である例えばガスタンクに接続されている圧力調整弁401、圧力調整弁401を介して送られてきたキャリアガスを充てんするキャリアガスタンク402、キャリアガスタンク402に充填されたキャリアガスの圧力を計測・表示する圧力ゲージ403を備えている。
また、キャリアガス供給部Dは、上記の図示されないガスタンクから圧力調整弁401を介してキャリアガスタンク402へ送られるキャリアガスの流路と、キャリアガスタンク402から熱分解室Cへ送られるキャリアガスの流路とを、当該キャリアガスタンク402へ切り替え接続させるキャリアガス流路切替バルブ404を備えている。
【0032】
またさらに、キャリアガス供給部Dは、キャリアガス流路切替バルブ404を介してキャリアガスタンク402と熱分解室Cの本体301とを接続するキャリアガス配管405を備えている。
なお、図1のキャリアガス供給部Dは、熱分解試料導入装置100を成す一例を示したものであり、キャリアガスを本体301へ供給する構成は、図示したものに限定されない。
【0033】
次に動作について説明する。
キャリア流路切替バルブ404を、キャリアガスが外部からキャリアガスタンク402へ供給されるように切り替えておき、圧力調整弁401を調整してキャリアガスタンク402へキャリアガスを充填させる。
キャリアガスタンク402へ所定量のキャリアガスを充填した後、キャリアガスタンク402が熱分解室Cと接続されるように、適宜、キャリアガス流路切替バルブ404を切り替えておく。
試料管102の内部に試料を包んだパイロホイル101を収納し、栓材102aによって試料管102を密封する。このとき、キャリアガス管405が本体301に接続された状態としておく。
試料管102にパイロホイル101が収納され、この試料管102が本体301の内部に固定されると、高周波電源201を稼働させて高周波コイル103による誘導加熱を行う。また、適宜、高周波電源202を稼働させて高周波コイル107による誘導加熱を行う。
【0034】
図示を省略したガスクロマトグラフを、熱分解された試料を導入可能な状態としておき、適宜、本体301のニードル104を当該ガスクロマトグラフの接続部分へ挿入し、熱分解試料装置100とガスクロマトグラフを接続する。
高周波電源202からの電源電力により、高周波コイル103が高周波を発生すると、この高周波は、ボビン105を透過して試料管102の内部のパイロホイル101を誘導加熱する。この加熱によってパイロホイル101が高温になり、試料が熱分解を起こす。
なお、試料が熱分解を開始したときには、ニードル104が適当な高温となっているように、高周波コイル107に高周波を発生させてニードル104への加熱を行っておく。
【0035】
上記のように、ニードル104などの各部を適当な高温にしておき、キャリアガスタンク402から適当な流量のキャリアガスを、本体301の内部へ、詳しくは試料管102の内部へ導入する。このとき、パイロホイル101や試料などの発熱により、試料管102の内部へ流入したキャリアガスも高温になる。
【0036】
こうして試料管102の内部は高周波コイル103の高周波誘導加熱によって高温になり、さらにこの熱によってボビン105の筒状空洞部に配された試料管102などが高温になる。
前述のようにボビン105は熱伝導率の低い断熱性を有する材料から成るので、ボビン105の筒状空洞部内で発生した熱量は試料管102自身やその周囲に溜り、ボビン105の筒状空洞部内は高温状態に保持される。
上記のように、高温状態となっている試料管102の内部に収納されている試料は、熱分解後に試料管102内へ流入したキャリアガスと混合し、このキャリアガスとともにニードル104の孔へ流入する。さらに上記のキャリアガスに含まれた試料は、高温状態のニードル104を介して前述のガスクロマトグラフに導入され、分析試験にかけられる。
【0037】
実施例1に係る熱分解試料導入装置100によれば、試料管102において熱分解された試料を、当該試料管102から高温になっているニードル104等を通過させてガスクロマトグラフへ導入するようにしたので、ガスクロマトグラフの内部へ流入したキャリアガスに含まれる試料が分析試験に適した温度となっており、ガスクロマトグラフにおいて安定した試験結果を得ることができる。
また、高周波誘導加熱によりニードル104を発熱させ、また、ニードル支持部材110によって、この熱量をニードル104の先端部分へ伝導させているので、ニードル104の孔の中で試料が凝結することを確実に防ぐことができる。
また、高周波コイル107による高周波誘導加熱でニードル104の加熱を行うようにしたので、発熱体を用いた場合に比べてニードル104の加熱機構部をコンパクトに構成することができ、熱分解試料導入装置の小型化を図ることができる。
【実施例2】
【0038】
図2は、本発明の実施例2によるガスクロマトグラフ用キュリーポイント型熱分解試料導入装置の概略構成図である。図1に示したものと同一あるいは相当する部分に同じ符号を使用し、その説明を省略する。
図2の熱分解試料導入装置100aは、キャリアガス供給部Dについては図1に示したものと同様に構成される。
熱分解試料導入装置100aの熱分解室Cは、試料を包んだパイロホイル101を収納する試料管102、試料管102の外周を包囲する高周波コイル503、試料管102に連設されたニードル104を備えている。上記の試料管102、高周波コイル503、ニードル104は、例えば断熱性を有する熱分解室Cの本体301aの内部に収納されている。本体301aは、上端部にキャリアガス供給部Dが接続されており、下端部からニードル104が突出している。
【0039】
高周波コイル503は、筒状のボビン505に巻線506を巻回させたもので、高周波電源601が接続されている。
高周波コイル503の上端は、当該高周波コイル503の筒状空洞部へ挿入された試料管102の上端部とともに本体301aの上端部材302によって支持されている。また高周波コイル503の下端は、本体301aの下端部材303aを貫通して、本体301aを成すキャップ状の下端収納部材304aに収納され、当該下端収納部材304aの内部で支持固定されている。
キャップ状の下端収納部材304aは、図中上側の開口部が下端部材303aの下端面に固定され、底端部の中央にニードル支持部材110aの下端部が挿入される孔部が設けられている。この孔部は、封止部材305によって封止されており、ニードル104が封止部材305を貫通して本体301aの外部へ突出している。
【0040】
ボビン505は、試料管102と、当該試料管102に連接されているニードル104とを筒状空洞部内に挿入させており、これら試料管102およびニードル104の外周を包囲するように構成されている。ボビン505の筒長は、例えば試料管102にパイロホイル101を収納したとき、試料管102内部のパイロホイル101を全て包囲し、さらに、ニードル104の、下端収納部材304aならびに封止部材305によって内包されている部分を包囲する長さを少なくとも有している。
また、ボビン505は、例えば試料管102内のパイロホイル101を全て包囲し、さらにニードル104の、下端収納部材304aの内部に配される部分を含めて包囲するように巻線506を巻回させている。
【0041】
また、ボビン505は、当該ボビン505の筒状空洞部に配置されている試料管102内部のパイロホイル101やニードル104を高周波によって誘導加熱するため、誘電体損失の小さなセラミック等から成る。また、例えば試料管102やニードル104などのキャリアガスの通路、もしくは当該通路内の熱分解した試料を含むキャリアガスの温度を保温するため、断熱性を有する比較的熱伝導率の低いジルコニアや、これに相当する熱伝導率を有するマシナブルセラミックなどを用いて形成されている。
【0042】
ニードル支持部材110aは、実施例1で説明したニードル支持部材110と同様にセラミックを筒状に形成したものであり、筒状の空洞部にニードル104を挿通させている。また、ニードル支持部材110aは、ボビン505の筒状空洞部へ挿入されて例えば嵌合され、本体301a、もしくは高周波コイル503に固定されるように構成されている。
また、ニードル支持部材110aは、誘電体損失が小さく熱伝導率の高いセラミックから成り、ボビン505の筒状空洞部に挿入されたとき、下端分を当該ボビン505から突出させてニードル104の外周部分を包むように形成され、高周波コイル503の高周波誘導加熱によるニードル104の発熱部分の温度を、好ましくはニードル104全体に伝導させるように構成されている。
【0043】
換言すると、ニードル支持部材110aは、ニードル104のガスクロマトグラフへ挿入される部分を露出させており、また、ニードル104の露出させる以外の部分を包み込んで当該ニードル104を高温に保ち、ニードル104の内部を通過する熱分解された試料を含むキャリアガスを、分析試験に適した高温状態として維持するように構成されている。ニードル支持部材110aの下端部は、下端収納部材304aの孔部の縁部分ならびに封止部材305に接して本体301a、もしくは下端収納部材304aに固定されている。
なお、ニードル支持部材110aを、高周波誘導加熱によって発熱する材料によって形成し、高温になったニードル支持部材110aによってニードル104を加熱するように構成してもよい。
【0044】
次に動作について説明する。
ここでは、実施例1と同様な動作について説明を省略し、実施例2の特徴となる部分の動作を説明する。
初めに、実施例1で説明したようにパイロホイル101を試料管102へ収納しておき、高周波電源601を稼働させ、高周波コイル503による誘導加熱を行う。高周波コイル503が高周波を発生すると、ボビン505を透過した高周波が試料管102の内部のパイロホイル101を誘導加熱する。この加熱によってパイロホイル101が高温になると、試料が熱分解を起こす。また、ボビン505を透過した高周波は、ニードル104の誘導加熱を行い、ニードル104自身を発熱させる。
また、上記の誘導加熱やニードル104等の発熱により、当該ニードル104の周辺に配置構成された各部材などの温度を上昇させる。
【0045】
高周波コイル503による誘導加熱を用いて、前述のように各部の温度を上昇させておき、試料管102へキャリアガスを導入させる。なお、このときには、ニードル104の先端部分を図示を省略したガスクロマトグラフへ挿入しておき、当該ガスクロマトグラフに本体301aを接続させておく。
上記の誘導加熱によって高温状態となっている試料管102へキャリアガスが導入されると、熱分解された試料がキャリアガスと混合し、このキャリアガスとともにニードル104の孔へ流入する。さらに上記のキャリアガスに含まれた試料は、高温状態のニードル104を介して前述のガスクロマトグラフに導入され、分析試験にかけられる。
【0046】
実施例2に係る熱分解試料導入装置100aによれば、試料管102において熱分解された試料を、試料管102から高温になっているニードル104等を通過させてガスクロマトグラフへ導入するようにしたので、ガスクロマトグラフの内部へ流入したキャリアガスに含まれる試料が分析試験に適した温度となっており、ガスクロマトグラフにおいて安定した試験結果を得ることができる。
また、高周波誘導加熱によりニードル104を発熱させ、また、ニードル支持部材110aによって、この熱量をニードル104の先端部分へ伝導させているので、ニードル104の孔の中で試料が凝結することを確実に防ぐことができる。
また、高周波コイル505による高周波誘導加熱で試料管102内部のパイロホイル101とニードル104の加熱を行うようにしたので、ヒータ等の発熱体を用いて加熱を行う場合に比べて、試料やニードル104などの加熱機構部をコンパクトに構成することができ、熱分解試料導入装置の小型化を図ることができる。
【0047】
図2に例示した熱分解試料導入装置100aは、ボビン505に単一の巻線506を巻回させ、この巻線506が発生させた高周波により、試料管102内の試料やニードル104を誘導加熱するように構成している。
熱分解試料導入装置100aの他の構成例として、図2に示したように構成されたボビン505に、試料管102内部の試料を誘導加熱する巻線と、ニードル104を誘導加熱する巻線とを備え、各々の加熱対象を適当な強度の高周波で発熱させるように、高周波コイル503を構成してもよい。なお、このように二つの巻線を備えた場合、各々の巻線に異なる高周波電源電力を供給するように構成してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明によるガスクロマトグラフ用キュリーポイント型熱分解試料導入装置は、熱分解した試料を含むキャリアガスの通路等を加熱する加熱機構部を備えながら装置の小型化を図ることに適している。
【符号の説明】
【0049】
1強磁性体ホイル(パイロホイル)
2試料管
3ボビン
4高周波コイル
5熱分解室用加熱装置
6断熱材
7試料導入用流路
8ニードル
9試料導入用流路加熱装置
10試料管ホルダ
11フローコントローラ
12流量計
13圧力ゲージ
14圧力調整弁
15高周波電源
16熱分解室加熱制御装置
17試料導入用流路加熱制御装置
18キャリアガスライン
100、100a熱分解試料導入装置
101パイロホイル
102試料管
102a栓材
103、107、503高周波コイル
104ニードル
105、108、505ボビン
110、110aニードル支持部材
201、202、601高周波電源
301、301a本体
302上端部材
303、303a下端部材
304、304a下端収納部材
305封止部材
401圧力調整弁
402キャリアガスタンク
403圧力ゲージ
404キャリアガス流路切替バルブ
405キャリアガス配管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャリアガス供給部と、
試料を包んだ強磁性体からなるパイロホイルを収納し、前記キャリアガス供給部からキャリアガスが供給される試料管と、
筒状に形成され、前記パイロホイルを誘導加熱して前記試料を熱分解させる高周波を発生する高周波コイルと、
前記高周波コイルへ高周波電源電力を供給して前記高周波を発生させる高周波電源と、
前記試料管内で熱分解した試料と混合された前記キャリアガスをガスクロマトグラフへ導入させる試料導入部と、
を備え、
前記高周波コイルは、
自らの筒状空洞部に挿入されている前記試料管内のパイロホイルを誘導加熱する第1の高周波コイルと、
自らの筒状空洞部に挿通されている前記試料導入部を誘導加熱する第2の高周波コイルと、を前記キャリアガスの経路に沿って配置してなる、
ことを特徴とするガスクロマトグラフ用キュリーポイント型熱分解試料導入装置。
【請求項2】
前記第1の高周波コイルは、
断熱性を有するセラミックを用いて前記パイロホイルが発した熱を前記試料管の中にためておくように形成されたボビンを有することを特徴とする請求項1に記載のガスクロマトグラフ用キュリーポイント型熱分解試料導入装置。
【請求項3】
前記試料導入部は、
前記試料管内と連通するとともに前記ガスクロマトグラフへ挿入されるニードルと、
前記ニードルを挿通させた熱伝導性の高いセラミックからなるニードル支持部材と、
を備え、
前記第2の高周波コイルは、
自らの筒状空洞部に前記ニードル支持部材が挿入されて前記ニードルを支持固定することを特徴とする請求項1または2に記載のガスクロマトグラフ用キュリーポイント型熱分解試料導入装置。
【請求項4】
前記第2の高周波コイルは、
断熱性を有するセラミックを用いて前記ニードル支持部材およびニードルの温度を保つように形成されたボビンを有することを特徴とする請求項3に記載のガスクロマトグラフ用キュリーポイント型熱分解試料導入装置。
【請求項5】
キャリアガス供給部と、
試料を包んだ強磁性体からなるパイロホイルを収納し、前記キャリアガス供給部からキャリアガスが供給される試料管と、
筒状に形成され、前記パイロホイルを誘導加熱して前記試料を熱分解させる高周波を発生する高周波コイルと、
前記高周波コイルへ高周波電源電力を供給して前記高周波を発生させる高周波電源と、
前記試料管内で熱分解した試料と混合された前記キャリアガスをガスクロマトグラフへ導入させる試料導入部と、
を備え、
前記高周波コイルは、
自らの筒状空洞部に挿入されている前記試料管内のパイロホイルおよび該試料管に連通する試料導入部を誘導加熱するように形成される、
ことを特徴とするガスクロマトグラフ用キュリーポイント型熱分解試料導入装置。
【請求項6】
前記試料導入部は、
前記試料管内と連通するとともに前記ガスクロマトグラフへ挿入されるニードルと、
前記ニードルを挿通させた熱伝導率の高いセラミックからなるニードル支持部材と、
を備え、
前記高周波コイルは、
自らの筒状空洞部に前記ニードル支持部材が挿入されて前記ニードルを指示固定することを特徴とする請求項5に記載のガスクロマトグラフ用キュリーポイント型熱分解試料導入装置。
【請求項7】
前記高周波コイルは、
断熱性を有するセラミックを用いて前記ニードル支持部材およびニードルの温度を保つように形成されたボビンを有することを特徴とする請求項6に記載のガスクロマトグラフ用キュリーポイント型熱分解試料導入装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2013−11452(P2013−11452A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−142809(P2011−142809)
【出願日】平成23年6月28日(2011.6.28)
【出願人】(591113275)日本分析工業株式会社 (3)