説明

ガスクロマトグラフ装置

【課題】 高価な差圧センサを用いず、キャリアガスの流量を制御するとともに、試料導入部内の圧力を制御することができるガスクロマトグラフ装置の提供。
【解決手段】 試料導入部20とキャリアガス供給流路10とカラム3とスプリット流路40と制御部50とを備えるガスクロマトグラフ装置1であって、キャリアガス供給流路10中に配置された流路抵抗11と、流路抵抗11の上流側に設けられた開度調節可能な制御弁14と、流路抵抗11の上流側の圧力を検出する第一圧力検出部12と、流路抵抗11の下流側の圧力を検出する第二圧力検出部13と、スプリット流路40中に設けられた開度調節可能な排出弁41とを備え、制御部50は、第一圧力検出部12及び第二圧力検出部13からの信号に基づいて演算を行い、演算結果により制御弁14の開度及び排出弁41の開度を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスクロマトグラフ装置に関し、特に制御弁の開度を調節することによりキャリアガスの流量を任意の設定値に制御するととともに、排出弁の開度を調節することにより試料導入部内の圧力を任意の設定値に制御するガスクロマトグラフ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスクロマトグラフ装置では、試料気化室内に液体試料を注入し、気化した試料をキャリアガスに乗せてカラムに導入している。このとき、試料導入部に供給されるキャリアガスの流量は、分析の定量、定性を正確にするために精密に制御される必要がある。そのため、差圧センサと圧力センサとを用いてキャリアガス供給流路中のキャリアガスの流量を測定しながら、キャリアガス供給流路中の制御プロポーショナルバルブ(制御弁)の開度を調節することにより制御している(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
図2は、従来のガスクロマトグラフ装置の一例を示す概略構成図である。ガスクロマトグラフ装置101は、試料が注入され試料を気化する試料導入室20と、キャリアガス供給流路110と、カラム3と、検出器4と、スプリット流路40と、パージ流路30と、制御部150とを備える。
【0004】
試料気化室20の頭部開口には、シリコンゴム製のセプタム(図示せず)が嵌挿されており、試料気化室20の内部は、キャリアガスを導入するためのキャリアガス供給流路110の出口端と、シリコンゴム製のセプタム(図示せず)が発生する不所望の成分を外部へ排出するためのパージ流路30の入口端と、キャリアガスとともに余分な気化試料を外部へ排出するためのスプリット流路40の入口端と、カラム3の入口端と接続されている。このような試料気化室20において、分析する際には分析者は、液体試料が収容されたマイクロシリンジ5の針をセプタムに突き刺すことにより、試料気化室20の内部に液体試料を滴下することができるようになっている。そして、セプタムは弾力性を有するので、針が挿入されたときに開いた孔は、針が抜去されると即座に閉塞する。
【0005】
キャリアガス供給流路110には、上流側から順に、キャリアガスが封入されたボンベ2と、キャリアガスに適度な圧力降下を生ぜしめる層流管(流路抵抗)11と、キャリアガスの流量を調節するための開度調節可能な制御プロポーショナルバルブ114とが配置されている。そして、層流管(流路抵抗)11の上流側の圧力と下流側の圧力との差圧ΔPを検出する差圧センサ113と、層流管(流路抵抗)11の上流側の圧力Pを検出する圧力センサ112とが設けられている。
【0006】
ここで、キャリアガス供給流路110を流通するキャリアガスの流量Fは下記のナビエストークス式(1)で計算できる。
F=(P−P)/R ・・・(1)
は、流路抵抗の上流側の圧力、
は、流路抵抗の下流側の圧力、
Rは、流路抵抗である。
【0007】
また、流路抵抗は下記式(2)で表される。
R=((256×L)/(60π×d4))×((T×μ)/(T0/P0)) ・・・(2)
Lは、層流管の長さ、
dは、層流管の内径、
Tは、流体温度(=層流管の温度)、
μは、温度Tでの流体の粘性係数、
T0は、標準温度(通常298K)、
P0は、標準圧力(通常101.35kPa)である。
【0008】
また、分析する際に、試料気化室20内に液体試料を注入すると、注入された試料は気化することによって急激に体積が膨張することになる。そのため、試料気化室20内の圧力Pは急激に上昇する。よって、パージ流路30には、パージ流路30の圧力Pを検出する圧力センサ131が設けられるとともに、スプリット流路40には、開閉可能な排出弁141が配置されている。これにより、試料気化室20内の圧力Pが急激に上昇したときには、排出弁141を開放することにより、試料気化室20内の一定割合のキャリアガスや試料をスプリット流路40を介して外部へ逃がしている。
【0009】
制御部150は、パーソナルコンピュータにより具現化され、CPU151とメモリ54とを備え、さらにキーボードやマウス等を有する入力装置52と、設定内容(所望する流量FSETや所望するカラム線速度や所望する試料気化室圧力P3SET等)の表示や分析結果の表示等を行う表示装置53とが連結されている。CPU151によって、入力装置52で入力された設定内容と差圧センサ113からの信号ΔPと圧力センサ112からの信号Pとに基づいて、制御プロポーショナルバルブ114の動作と、圧力センサ131からの信号Pに基づいて、排出弁141の動作とが統括的に制御されるようになっている。なお、メモリ54には、式(1)が記憶されている。
【0010】
このようなガスクロマトグラフ装置101によれば、分析者は、分析する前に入力装置52を用いて所望する流量FSET等をCPU151に入力する。CPU151は、分析する際に常時、圧力センサ112からの信号Pを式(1)に代入することより、所望する流量FSETに対応する差圧△PSETを求め、差圧センサ113からの信号ΔPが差圧△PSETとなるように、制御プロポーショナルバルブ114の開度を調節する制御信号を制御プロポーショナルバルブ114に送る。これにより、CPU151によって流量Fが調整されたキャリアガスが、カラム3に導入され、その後検出器4に到達する。このとき、液体試料が試料気化室20内に注入されれば、気化した試料がキャリアガスに乗せられてカラム3に導入される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平10−300737号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、上述したようなガスクロマトグラフ装置101では、層流管(流路抵抗)11の上流側の圧力と下流側の圧力との差圧ΔPを検出する差圧センサ113と、層流管(流路抵抗)11の上流側の圧力Pを検出する圧力センサ112と、試料気化室20内の圧力Pを検出する圧力センサ131とが設けられており、3個のセンサを設ける上に1個のセンサは差圧センサであるので、非常にコストがかかっていた。
そこで、本発明は、高価な差圧センサを用いず、キャリアガスの流量を制御するとともに、試料導入部内の圧力を制御することができるガスクロマトグラフ装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するためになされた本発明のガスクロマトグラフ装置は、試料が注入され当該試料を気化する試料導入部と、前記試料導入部に接続されたキャリアガス供給流路と、前記試料導入部に接続されたカラムと、前記試料導入部に接続されたスプリット流路と、前記キャリアガス供給流路から試料導入部を経てカラムを流通するキャリアガスの流量を制御するとともに、前記試料導入部内の圧力を制御する制御部とを備えるガスクロマトグラフ装置であって、前記キャリアガス供給流路中に配置された流路抵抗と、前記流路抵抗の上流側に設けられた開度調節可能な制御弁と、前記流路抵抗の上流側の圧力を検出する第一圧力検出部と、前記流路抵抗の下流側の圧力を検出する第二圧力検出部と、前記スプリット流路中に設けられた開度調節可能な排出弁とを備え、前記制御部は、前記第一圧力検出部及び前記第二圧力検出部からの信号に基づいて演算を行い、演算結果により前記制御弁の開度及び前記排出弁の開度を制御するようにしている。
【0014】
本発明のガスクロマトグラフ装置によれば、流路抵抗は制御弁の下流側に設けられている。従来のガスクロマトグラフ装置と配置を入れ替えてあるが、制御弁と流路抵抗とは直列に接続され同一のキャリアガスが流れるので、式(1)が成立することになる。また、流路抵抗の上流側の圧力を検出する第一圧力検出部と、流路抵抗の下流側の圧力を検出する第二圧力検出部とが設けられている。これにより、制御部は、分析する際に常時、第二圧力検出部からの信号Pを式(1)に代入することより、所望する流量FSETに対応する圧力P1SETを求めることができる。その結果、第一圧力検出部からの信号Pが圧力P1SETとなるように、制御弁の開度を調節することで、キャリアガスの流量を任意の設定値FSETに制御することができる。
【0015】
また、流路抵抗の下流側は試料導入部に直結されている。つまり、流路抵抗と試料導入部との間に圧力降下が生じる要素はないので、流路抵抗の下流側の圧力Pは、試料導入部内の圧力に等しくなる。よって、制御部は、分析する際に常時、第二圧力検出部からの信号Pを取得することにより、排出弁の開度を調節することで、試料導入部内の圧力を任意の設定値P2SETに制御することができる。
【発明の効果】
【0016】
以上のように、本発明のガスクロマトグラフ装置によれば、高価な差圧センサを用いず、キャリアガスの流量Fを制御するとともに、試料導入部内の圧力Pを制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係るガスクロマトグラフ装置の一例を示す概略構成図。
【図2】従来のガスクロマトグラフ装置の一例を示す概略構成図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。なお、本発明は、以下に説明するような実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の態様が含まれることはいうまでもない。
【0019】
図1は、本発明に係るガスクロマトグラフ装置の一例を示す概略構成図である。なお、上述した従来のガスクロマトグラフ装置101と同様のものについては、同じ符号を付している。
ガスクロマトグラフ装置1は、試料が注入され試料を気化する試料導入室20と、キャリアガス供給流路10と、カラム3と、検出器4と、スプリット流路40と、パージ流路30と、制御部50とを備える。
【0020】
キャリアガス供給流路10には、上流側から順に、キャリアガスが封入されたボンベ2と、キャリアガスの流量を調節するための開度調節可能な制御プロポーショナルバルブ(制御弁)14と、キャリアガスに適度な圧力降下を生ぜしめる層流管(流路抵抗)11とが配置されている。そして、層流管(流路抵抗)11の上流側の圧力Pを検出する第一圧力センサ12と、層流管(流路抵抗)11の下流側の圧力Pを検出する第二圧力センサ13とが設けられている。
【0021】
スプリット流路40には、開度調節可能な排出プロポーショナルバルブ(排出弁)41が配置されている。これにより、試料気化室20内の圧力Pが急激に上昇したときには、排出プロポーショナルバルブ41の開度を調整することで、試料気化室20内の一定割合のキャリアガスや試料をスプリット流路40を介して外部へ逃がすことができるようになっている。
なお、ガスクロマトグラフ装置1のパージ流路30には、パージ流路30の圧力Pを検出する圧力センサが設けられていない。
【0022】
制御部50は、パーソナルコンピュータにより具現化され、CPU51とメモリ54とを備え、さらにキーボードやマウス等を有する入力装置52と、設定内容(所望する流量FSETや所望するカラム線速度や所望する試料気化室圧力P2SET等)の表示や分析結果の表示等を行う表示装置53とが連結されている。CPU51によって、入力装置52で入力された設定内容と第一圧力センサ12からの信号Pと第二圧力センサ13からの信号Pとに基づいて、制御プロポーショナルバルブ14の動作と排出プロポーショナルバルブ41の動作とが統括的に制御されるようになっている。なお、メモリ54には、式(1)が記憶されている。
【0023】
このようなガスクロマトグラフ装置1によれば、分析者は、分析する前に入力装置52を用いて所望する流量FSET等をCPU51に入力する。CPU51は、分析する際に常時、第二圧力センサ13からの信号Pを式(1)に代入することより、所望する流量FSETに対応する圧力P1SETを求め、第一圧力センサ12からの信号Pが圧力P1SETとなるように、制御プロポーショナルバルブ14の開度を調節する制御信号を制御プロポーショナルバルブ14に送る。これにより、CPU51によって流量Fが調整されたキャリアガスが、カラム3に導入され、その後検出器4に到達する。このとき、液体試料が試料気化室20内に注入されれば、気化した試料がキャリアガスに乗せられてカラム3に導入される。
【0024】
また、CPU51は、分析する際に常時、第二圧力センサ13からの信号Pを取得することにより、第二圧力センサ13からの信号Pが圧力P2SETとなるように、排出プロポーショナルバルブ41の開度を調節する制御信号を排出プロポーショナルバルブ41に送る。これにより、試料気化室20内の圧力Pが急激に上昇したときには、試料気化室20内の一定割合のキャリアガスや試料をスプリット流路40を介して外部へ逃がすことができたり、試料気化室20内の圧力Pが低いときには、試料気化室20内のキャリアガスや試料をスプリット流路40を介して外部へ逃がす量を少なくしたりすることができる。
【0025】
以上のように、本発明のガスクロマトグラフ装置1によれば、高価な差圧センサを用いず、キャリアガスの流量Fを制御するとともに、試料導入室20内の圧力Pを制御することができる。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明は、ガスクロマトグラフ装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0027】
1: ガスクロマトグラフ装置
3: カラム
10: キャリアガス供給流路
11: 層流管(流路抵抗)
12: 第一圧力センサ(第一圧力検出部)
13: 第二圧力センサ(第二圧力検出部)
14: 制御プロポーショナルバルブ(制御弁)
20: 試料導入室
40: スプリット流路
41: 排出プロポーショナルバルブ(排出弁)
50: 制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料が注入され当該試料を気化する試料導入部と、
前記試料導入部に接続されたキャリアガス供給流路と、
前記試料導入部に接続されたカラムと、
前記試料導入部に接続されたスプリット流路と、
前記キャリアガス供給流路から試料導入部を経てカラムを流通するキャリアガスの流量を制御するとともに、前記試料導入部内の圧力を制御する制御部とを備えるガスクロマトグラフ装置であって、
前記キャリアガス供給流路中に配置された流路抵抗と、
前記流路抵抗の上流側に設けられた開度調節可能な制御弁と、
前記流路抵抗の上流側の圧力を検出する第一圧力検出部と、
前記流路抵抗の下流側の圧力を検出する第二圧力検出部と、
前記スプリット流路中に設けられた開度調節可能な排出弁とを備え、
前記制御部は、前記第一圧力検出部及び前記第二圧力検出部からの信号に基づいて演算を行い、演算結果により前記制御弁の開度及び前記排出弁の開度を制御することを特徴とするガスクロマトグラフ装置。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−237600(P2012−237600A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−105543(P2011−105543)
【出願日】平成23年5月10日(2011.5.10)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)