説明

ガスセンサおよびNOxセンサ

【課題】測定精度の向上が実現されたガスセンサを提供する。
【解決手段】被測定ガス中の所定ガス成分の濃度を、所定ガス成分が分解することにより酸素イオン伝導性固体電解質内を流れる電流に基づいて特定するガスセンサを、外部空間から被測定ガスを導入する内部空所と、基準ガスを導入する基準ガス空間と、内部空所の表面に形成した第一の電極と内部空所とは異なる空間に形成した第二の電極との間に所定電圧を印加することで、内部空所中の酸素を汲み出し可能に設けられたポンピングセルと、内部空所の表面に形成された測定電極と基準ガスと接触するように設けられた基準電極との間に電圧を印加して、測定電極と基準電極との間を流れる電流を測定可能に設けられた測定セルと、を備え、第一の電極が、貴金属と酸素イオン伝導性固体電解質とからなる多孔質サーメットによって形成されてなり、かつ、第一の電極の気孔率が10%以上50%以下であるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素イオン伝導性固体電解質を用いて構成されるガスセンサ、特にNOxセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、被測定ガス中の所望のガス成分の濃度を知るために、各種の測定装置が用いられている。例えば、燃焼ガス等の被測定ガス中のNOx濃度を測定する装置として、ジルコニア(ZrO2)等の酸素イオン伝導性固体電解質を用いて形成したNOxセンサが公知である(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に開示されているNOxセンサでは、まず、外部から取り入れた被測定ガス中のO2を第1の内部空所においてポンピングによりあらかじめ除去して、被測定ガスを低酸素分圧状態(NOxの測定に被測定ガス中に元々存在しているO2が影響しない程度に酸素分圧が低められた状態)とした上で、第2の内部空所に導入する。そして、第2の内部空所に設けられたPtやRhなどからなる測定電極と大気中に設けられた基準電極との間に定電圧を印加することで、測定電極においてNOxを還元させる。その際に測定電極と基準電極との間を流れる電流の電流値がNOx濃度に比例することに基づいて、NOx濃度を検出するようになっている。
【0004】
【特許文献1】特開平8−271476号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のような原理でNOx濃度を測定するセンサにおいて測定精度を向上させるためには、第2の内部空所におけるO2濃度を精密に制御することが必要となる。詳細にいえば、第2の内部空所に導入された被測定ガス中にNOxが存在しない場合、理想的には測定電極と基準電極との間には電流が流れないことが望ましい。しかし、実際にはわずかな酸素分圧でO2が存在するため、測定電極と基準電極との間に電圧を印加するとこのO2が分解することに起因した電流(オフセット電流、ゼロ点電流)が流れる。NOx濃度を測定する際に流れる電流にも、このオフセット電流が重畳していることになる。従って、上述の原理で算出されるNOx濃度は、わずかではあるがこのオフセット電流に由来する誤差を含んでいるので、被測定ガス中のNOx濃度が小さい場合、算出されたNOx濃度の精度が、必ずしも十分ではないという問題があった。
【0006】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、従来よりも測定精度の向上が実現されたガスセンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、請求項1の発明は、酸素イオン伝導性の固体電解質を用いて構成され、被測定ガス中の所定ガス成分の濃度を、前記所定ガス成分が分解することにより前記固体電解質内を流れる電流に基づいて特定するガスセンサであって、外部空間から被測定ガスを導入する内部空所と、基準ガスを導入する基準ガス空間と、前記内部空所の表面に形成した第一の電極と前記内部空所とは異なる空間に形成した第二の電極との間に所定電圧を印加することで、前記内部空所中の酸素を汲み出し可能に設けられたポンピングセルと、前記内部空所の表面に形成された第三の電極と前記内部空所とは異なる部位に形成した第四の電極との間に電圧を印加して、前記第三の電極と前記第四の電極との間を流れる電流を測定可能に設けられた測定セルと、を備え、前記第一の電極を、貴金属と酸素イオン伝導性固体電解質とからなる多孔質サーメットによって形成してなり、かつ、前記第一の電極の気孔率が10%以上50%以下である、ことを特徴とする。
【0008】
請求項2の発明は、請求項1に記載のガスセンサであって、前記第一の電極の気孔率が15%以上40%以下である、ことを特徴とする。
【0009】
請求項3の発明は、請求項1または請求項2に記載のガスセンサであって、前記内部空所として、前記外部空間から前記被測定ガスを導入する第一の内部空所と前記第一の内部空所に所定の拡散抵抗の下で連通してなる第2の内部空所とを備え、前記ポンピングセルとして、前記第一の内部空所に前記第一の電極を備える主ポンピングセルと、前記第二の内部空所に前記第一の電極を備える補助ポンピングセルとを備え、前記第三の電極が前記第二の内部空所に設けられてなり、前記第四の電極が、前記主ポンプセルおよび前記補助ポンプセルに対して共通化されてなるとともに、前記第四の電極を兼ねる、ことを特徴とする。
【0010】
請求項4の発明は、NOxセンサが、前記ポンピングセルに印加する電圧を制御することで前記内部空所内の酸素分圧を一定に保った状態で、前記測定セルにおいて前記第三の電極と前記第四の電極との間を流れる電流を測定することにより、NOx濃度を求めるようにしたことを特徴とする、請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のガスセンサである。
【発明の効果】
【0011】
請求項1ないし請求項4の発明によれば、被測定ガス中のO2ガスに由来する誤差要因が低減されるとともに、電極におけるO2の拡散抵抗が好適に低減され、O2の濃度勾配の発生が好適に抑制されてなる、測定精度の優れたガスセンサあるいはNOxセンサが実現される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
<ガスセンサの概略構成>
図1は、本実施の形態に係るガスセンサ100の構成を概略的に示す断面模式図である。ガスセンサ100は、測定対象とするガス(被測定ガス)中の所定のガス成分を検出し、さらにはその濃度を測定するためのものである。本実施の形態においては、ガスセンサ100が窒素酸化物(NOx)を検出対象成分とするNOxセンサである場合を例として説明を行う。係るガスセンサ100は、ジルコニア(ZrO2)等の酸素イオン伝導性固体電解質からなるセンサ素子101を有する。
【0013】
具体的には、センサ素子101は、それぞれが酸素イオン伝導性固体電解質からなる第1基板層1と、第2基板層2と、第3基板層3と、第1固体電解質層4と、スペーサ層5と、第2固体電解質層6との6つの層が、図面視で下側からこの順に積層され、一体化された構造を有する。
【0014】
係るセンサ素子101は、ジルコニアなどの酸素イオン伝導性固体電解質をセラミックス成分として含むグリーンシートからなる積層体を形成し、該積層体を切断・焼成することによって作製することができる。積層体の形成は、概略的に言えば、それぞれがセンサ素子の各層に対応してなる複数枚のグリーンシートに、内部空間を形成するための貫通部を打ち抜き等で形成し、積層位置に応じた所定のパターンを印刷形成し、さらに接着剤として接着用ペーストを印刷塗布した上で、それらを順次に積層することによってなされる。パターンや接着剤の印刷には、公知のスクリーン印刷技術を利用可能である。また、印刷後の乾燥処理についても、公知の乾燥手段を利用可能である。
【0015】
センサ素子101の一先端部であって、第2固体電解質層6の下面と第1固体電解質層4の上面との間には、ガス導入口10と、第1拡散律速部11と、緩衝空間12と、第2拡散律速部13と第1内部空所20と、第3拡散律速部30と、第2内部空所40とが、この順に連通する態様にて隣接形成されてなる。ガス導入口10と、緩衝空間12と第1内部空所20と第2内部空所40とは、スペーサ層5をくり抜いた態様にて設けられた上部を第2固体電解質層6の下面で、下部を第1固体電解質層4の上面で、側部をスペーサ層5の側面で区画された内部空間である。第1拡散律速部11と第2拡散律速部13と、第3拡散律速部30とはいずれも、2本の横長の(図面に垂直な方向に開口が長手方向を有する)スリットとして設けられる。ガス導入口10から第2内部空所40に至る部位を、ガス流通部とも称する。
【0016】
また、第3基板層3の上面と、スペーサ層5の下面との間であって、ガス流通部よりも先端側から遠い位置には、基準ガス導入空間43が設けられてなる。基準ガス導入空間43は、上部をスペーサ層の下面で、下部を第3基板層3の上面で、側部を第1固体電解質層4の側面で区画された内部空間である。基準ガス導入空間43には、基準ガスとして、例えば大気が導入される。
【0017】
ガス導入口10は、外部空間に対して開口してなる部位であり、該ガス導入口10を通じて外部空間からセンサ素子101内に被測定ガスが取り込まれる。
【0018】
第1拡散律速部11は、ガス導入口10から取り込まれた被測定ガスに対して、所定の拡散抵抗を付与する部位である。
【0019】
緩衝空間12は、外部空間における被測定ガスの圧力変動(被測定ガスが自動車の排気ガスの場合であれば排気圧の脈動)によって生じる被測定ガスの濃度変動を、打ち消すことを目的として設けられてなる。
【0020】
第2拡散律速部13は、緩衝空間12から第2拡散律速部13に導入される被測定ガスに、所定の拡散抵抗を付与する部位である。
【0021】
第1内部空所20は、第2拡散律速部13を通じて導入された被測定ガス中の酸素分圧を調整するための空間として設けられる。係る酸素分圧は、主ポンプセル21が作動することによって調整される。
【0022】
主ポンプセル21は、第1内部空所20に面する第2固体電解質層6の下面のほぼ全面に設けられた内側ポンプ電極22と、第2固体電解質層6の上面の内側ポンプ電極22と対応する領域に外部空間に露出する態様にて設けられた外側ポンプ電極23と、これらの電極に挟まれた第2固体電解質層6とによって構成される電気化学的ポンプセルである。内側ポンプ電極22と外側ポンプ電極23とは、平面視矩形状の多孔質サーメット電極(例えば、PtやRhなどの貴金属とZrO2のサーメットからなる多孔質電極)として形成される。なお、内側ポンプ電極22は、被測定ガス中のNO成分に対する還元能力を弱めた、あるいは、還元能力のない材料を用いて形成される。内側ポンプ電極22の詳細については後述する。
【0023】
主ポンプセル21においては、内側ポンプ電極22と外側ポンプ電極23との間にセンサ素子101外部に備わる可変電源24により所望のポンプ電圧Vp1を印加して、内側ポンプ電極22と外側ポンプ電極23との間に正方向あるいは負方向にポンプ電流Ip1を流すことにより第1内部空所20内の酸素を外部空間に汲み出し、あるいは、外部空間の酸素を第1内部空所20内に汲み入れることが可能となっている。
【0024】
第3拡散律速部30は、第1内部空所20から第2内部空所に導入される被測定ガスに、所定の拡散抵抗を付与する部位である。
【0025】
第2内部空所40は、第3拡散律速部30を通じて導入された該被測定ガス中の窒素酸化物(NOx)濃度の測定に係る処理を行うための空間として設けられる。
【0026】
NOx濃度の測定は、測定ポンプセル41が作動することによって可能となる。測定ポンプセル41は、第3基板層3の上面と第1固体電解質層4とに挟まれる基準電極42と、第2内部空所40に面する第1固体電解質層4の上面であって、第3拡散律速部30から離間した位置に設けられた測定電極44と、第1固体電解質層4とによって構成され電気化学的ポンプセルである。基準電極42と測定電極44は、いずれも平面視ほぼ矩形状の多孔質サーメット電極である。なお、基準電極42の周囲には、多孔質アルミナからなり、基準ガス導入空間につながる大気導入層48が設けられてなる。測定電極44は、被測定ガス成分たるNOxを還元し得る金属と、ジルコニアからなる多孔質サーメットにて構成される。これによって、測定電極44は、第2内部空所40内の雰囲気中に存在するNOxを還元するNOx還元触媒としても機能する。
【0027】
さらに、測定電極44は、第4拡散律速部45によって被覆されてなる。第4拡散律速部45は、アルミナによって構成される膜であり、測定電極44に流入するNOxの量を制限する役割を担う。
【0028】
測定ポンプセル41においては、測定電極44と基準電極42との間に、直流電源46を通じて一定電圧であるポンプ電圧Vp2が印加されることによって、NOxを還元し、これによって発生した第2内部空所40内の雰囲気中の酸素を基準ガス導入空間43に汲み出せるようになっている。この測定ポンプセル41の動作によって流れるポンプ電流Ip2は、電流計47によって検出されるようになっている。ガスセンサ100では、第2内部空所40内の酸素分圧を一定に保った状態において、ポンプ電流Ip2が被測定ガス中に存在するNOx濃度に略比例することを利用して、NOx濃度が算出される。
【0029】
また、第2内部空所40では、あらかじめ第1内部空所20において酸素分圧が調整された後、第3拡散律速部30を通じて導入された被測定ガスに対して、さらに、補助ポンプセル50による酸素分圧の調整が行われるようになっている。これにより、ガスセンサ100においては、高精度でのNOx濃度測定が実現される。
【0030】
補助ポンプセル50は、第2内部空所40に面する第2固体電解質層6の下面の略全面に設けられた補助ポンプ電極51と、第2固体電解質層6と、スペーサ層5と、第1固体電解質層4と、基準電極42とによって構成される、補助的な電気化学的ポンプセルである。
【0031】
補助ポンプ電極51は、内側ポンプ電極22と同様に、被測定ガス中のNO成分に対する還元能力を弱めた、あるいは、還元能力のない材料を用いて形成される。補助ポンプ電極51の詳細については後述する。
【0032】
補助ポンプセル50においては、補助ポンプ電極51と基準電極42との間にセンサ素子101外部に備わる直流電源52を通じて一定電圧Vp3を印加することにより、第2内部空所40内の雰囲気中の酸素を基準ガス導入空間43に汲み出せるようになっている。
【0033】
また、センサ素子101においては、内側ポンプ電極22と基準電極42と、第2固体電解質層6と、スペーサ層5と、第1固体電解質層4とによって電気化学的センサセルである制御用酸素分圧検出センサセル60が構成されている。
【0034】
制御用酸素分圧検出センサセル60は、第1内部空所20内の雰囲気と基準ガス導入空間43の基準ガス(大気)との間の酸素濃度差に起因して生じる内側ポンプ電極22と基準電極42との間に発生する起電力V1に基づいて、第1内部空所20内の雰囲気中の酸素分圧を検出できるようになっている。検出された酸素分圧は可変電源24をフィードバック制御するために使用される。具体的には、第1内部空所20の雰囲気の酸素分圧が、第2内部空所40において酸素分圧制御が行え得る程度に十分低い所定の値となるように、主ポンプセル21に印加されるポンプ電圧が制御される。
【0035】
さらに、センサ素子101においては、第2基板層2と第3基板層とに上下から挟まれた態様にて、ヒータ70が形成されてなる。ヒータ70は、第1基板層1の下面に設けられたヒータ電極71を通して外部から給電されることより発熱する。ヒータが発熱することによって、センサ素子101を構成する固体電解質の酸素イオン伝導性が高められる。ヒータ70は、第1内部空所20から第2内部空所40の全域に渡って埋設されており、センサ素子101の所定の場所を所定の温度に加熱、保温することができるようになっている。なお、ヒータ70の上下面には、第2基板層2および第3基板層3との電気的絶縁性を得る目的で、アルミナ等からなるヒータ絶縁層72が形成されている(以下、ヒータ70、ヒータ電極71、ヒータ絶縁層72をまとめてヒータ部とも称する)。
【0036】
このような構成を有するガスセンサ100においては、主ポンプセル21と補助ポンプセル50とを作動させることによって酸素分圧が常に一定の低い値(NOxの測定に実質的に影響がない値)に保たれた被測定ガスが測定ポンプセル41に与えられる。従って、NOxの還元によって発生する酸素が汲み出されることによって測定ポンプセル41を流れるポンプ電流は、還元されるNOx濃度に略比例することになる。これに基づいて、被測定ガス中のNOx濃度を知ることができるようになっている。
【0037】
<オフセット電流の低減>
上述したように、ガスセンサ100においては、第2内部空所40内の酸素分圧を一定に保った状態において、ポンプ電流Ip2が被測定ガス中に存在するNOx濃度に略比例することを利用して、NOx濃度が算出される。ただし、ポンプ電流Ip2には、被測定ガス中にわずかに存在するO2が分解することによって流れるオフセット電流Ip2ofsが重畳している。オフセット電流Ip2ofsは、NOx濃度が0の場合(被測定ガス中にNOxが存在しない場合)に流れる電流に相当する。よって、オフセット電流Ip2ofsの値が小さいほど、ガスセンサ100は良好な測定精度を有しているといえる。
【0038】
図2は、いずれもセンサ素子101の内部から酸素を汲み出すべく設けられた主ポンプセル21と補助ポンプセル50の、内部空所に備わる側の電極である内側ポンプ電極22と補助ポンプ電極51の気孔率(これを、電極気孔率とも称する)を、種々に違えてセンサ素子を構成した場合の、気孔率と、該センサ素子におけるオフセット電流Ip2ofsとの関係を示す図である。貴金属成分とジルコニアとの重量比率は6:4としている。なお、本実施の形態において、気孔率は、電極が完全に密であると仮定した場合に占める領域の全体積に対する、実際の電極中の空隙部分の体積の比率として定義する。
【0039】
図2に示すように、内側ポンプ電極22と補助ポンプ電極51の気孔率と、オフセット電流Ip2ofsとの間には相関があり、気孔率が30%〜40%程度の場合に、オフセット電流Ip2ofsが最小となる。係る知見は、本発明の発明者によって初めて見出されたものである。
【0040】
なお、電極気孔率を10%以下とした場合、O2が両電極の表面側から酸素イオン伝導性固体電解質からなる層へと空隙内を拡散する際の拡散抵抗が大きくなる(O2が拡散しにくくなる)ため、両電極の表面における酸素分圧(すなわち第1および第2の内部空所における酸素分圧)がねらいの酸素分圧(濃度起電力)に対して高くなりすぎてしまう(ねらいの酸素分圧ほど実際の酸素分圧が減少しない)という問題がある。また、係る場合、両電極においては、表面側でO2濃度が高く内部に向かうほどO2濃度が低いというO2濃度勾配が顕著に生じるので、被測定ガス中のH2OやCO2の分解による酸素イオンの生成が促進されてしまい、NOx濃度の測定精度を劣化させてしまう場合があるという問題も生じる。
【0041】
一方、電極気孔率を50%以上とした場合、電極内における導通経路が少なくなるためO2の分解により生じた酸素イオンの両電極内における導電抵抗が高くなりすぎてしまい、結果的に、主ポンプセル21および補助ポンプセル50が果たすべき、ねらいの酸素分圧まで第1および第2空所から酸素を汲み出すという機能が十分に得られなくなる、という不具合が生じることが確認されている。
【0042】
以上を鑑み、本実施の形態に係るセンサ素子101においては、内側ポンプ電極22と補助ポンプ電極51とを、それぞれの気孔率が10%以上50%以下であるように形成する。これにより、オフセット電流Ip2ofsに多少のばらつきが生じるとしても、実質的に問題のない精度でNOx濃度を測定することができる。例えば、係る場合のオフセット電流Ip2ofsは、濃度が500ppmのNOxに対応して流れるポンプ電流Ip2の5%以下の値という微小なものとなっているので、濃度がより小さいNOxについても、数%程度の誤差で測定が可能となる。なお、図2に示す結果を鑑みれば、オフセット電流Ip2ofsをできるだけ低減するという観点からは、電極気孔率を15%以上40%以下とするのがより好ましいといえる。
【0043】
また、気孔率を上述の範囲内に定めることで、電極におけるO2の拡散抵抗が好適に低減され、O2の濃度勾配(濃度分布)の発生も好適に抑制される。
【0044】
なお、多孔質サーメット電極である内側ポンプ電極22と補助ポンプ電極51とが上述のような範囲の気孔率を有するようにする手法には、種々のものがある。例えば、上述したスクリーン印刷技術によって電極を形成する場合であれば、サーメット電極の材料となる貴金属成分とZrO2の原料粉末の形状、粒径、比表面積など適宜に調整したうえで作製した導電性ペーストや、あるいは、昇華性の造孔材を上述のような原料粉末にさらに混合したうえで作製した導電性ペーストなどによって、内側ポンプ電極22と補助ポンプ電極51との電極パターンを形成するのが好適な一例である。後者の場合、造孔材の添加量を20vol%とした場合には気孔率を30%とすることができ、添加量を40vol%とした場合には気孔率を35%とすることができる。
【0045】
以上、説明したように、本実施の形態によれば、ガスセンサのセンサ素子の内部から酸素を汲み出すべく設けられたポンプセルの、内部空所に備わる側の電極の気孔率を所定の範囲に定めることで、被測定ガス中のO2ガスに由来する誤差要因が低減されるとともに、電極におけるO2の拡散抵抗が好適に低減され、O2の濃度勾配の発生が好適に抑制されてなる、測定精度の優れたガスセンサが実現される。
【0046】
<変形例>
内側ポンプ電極22の気孔率と、補助ポンプ電極51の気孔率とは同じである必要はなく、上述のように規定した範囲の中で、異なっていてもよい。
【0047】
電極気孔率の値を上述の範囲に定める態様は、上述のように2つの内部空所を有するガスセンサに限られるものではなく、内部空所が1つの場合でも適用可能である。さらにいえば、酸素イオン伝導性固体電解質を用い、O2もしくは酸化物気体の分解により生成した酸素イオンに由来する電流を測定するガスセンサ一般に広く適用可能である。
【0048】
また、各電極の配置位置は、上述の実施の形態のものに限られるものではなく、各セルの機能が確保される限り、他の配置形態が採用されていてもよい。
【0049】
あるいはさらに、上述の実施の形態においては、測定電極44と基準電極42との間で測定ポンプセル41が構成されるとともに、補助ポンプ電極51と基準電極42との間で補助ポンプセル41が構成されているが、これに代わり、測定電極44と外側ポンプ電極23との間で測定ポンプセル41が構成されるとともに、補助ポンプ電極51と外側ポンプ電極23との間で補助ポンプセル41が構成される態様であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本実施の形態に係るガスセンサ100の構成を概略的に示す断面模式図である。
【図2】内側ポンプ電極22と補助ポンプ電極51の気孔率を、種々に違えてセンサ素子を構成した場合の、気孔率と、該センサ素子におけるオフセット電流Ip2ofsとの関係を示す図である。
【符号の説明】
【0051】
10 ガス導入口
20 第1内部空所
21 主ポンプセル
22 内側ポンプ電極
23 外側ポンプ電極
40 第2内部空所
41 測定ポンプセル
42 基準電極
43 基準ガス導入空間
44 測定電極
50 補助ポンプセル
51 補助ポンプ電極
100 ガスセンサ
101 センサ素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素イオン伝導性の固体電解質を用いて構成され、被測定ガス中の所定ガス成分の濃度を、前記所定ガス成分が分解することにより前記固体電解質内を流れる電流に基づいて特定するガスセンサであって、
外部空間から被測定ガスを導入する内部空所と、
基準ガスを導入する基準ガス空間と、
前記内部空所の表面に形成した第一の電極と前記内部空所とは異なる空間に形成した第二の電極との間に所定電圧を印加することで、前記内部空所中の酸素を汲み出し可能に設けられたポンピングセルと、
前記内部空所の表面に形成された第三の電極と前記内部空所とは異なる部位に形成した第四の電極との間に電圧を印加して、前記第三の電極と前記第四の電極との間を流れる電流を測定可能に設けられた測定セルと、
を備え、
前記第一の電極を、貴金属と酸素イオン伝導性固体電解質とからなる多孔質サーメットによって形成してなり、かつ、前記第一の電極の気孔率が10%以上50%以下である、
ことを特徴とするガスセンサ。
【請求項2】
請求項1に記載のガスセンサであって、
前記第一の電極の気孔率が15%以上40%以下である、
ことを特徴とするガスセンサ。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のガスセンサであって、
前記内部空所として、前記外部空間から前記被測定ガスを導入する第一の内部空所と前記第一の内部空所に所定の拡散抵抗の下で連通してなる第2の内部空所とを備え、
前記ポンピングセルとして、前記第一の内部空所に前記第一の電極を備える主ポンピングセルと、前記第二の内部空所に前記第一の電極を備える補助ポンピングセルとを備え、
前記第三の電極が前記第二の内部空所に設けられてなり、
前記第二の電極が、前記主ポンプセルおよび前記補助ポンプセルに対して共通化されてなるとともに、前記第四の電極を兼ねる、ことを特徴とするガスセンサ。
【請求項4】
前記ポンピングセルに印加する電圧を制御することで前記内部空所内の酸素分圧を一定に保った状態で、前記測定セルにおいて前記第三の電極と前記第四の電極との間を流れる電流を測定することにより、NOx濃度を求めるようにしたことを特徴とする、請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のガスセンサであるNOxセンサ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−244117(P2009−244117A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−91262(P2008−91262)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)