説明

ガスセンサ制御装置、及び窒素酸化物濃度検出方法

【課題】窒素酸化物濃度を算出する際に用いる第1酸素ポンプセルに流れる電流値が、センサ素子の劣化により、適切に測定されなくなることを回避したガスセンサ制御装置、及び窒素酸化物濃度検出方法を提供すること。
【解決手段】第1測定室内に導入された被測定ガスに含まれる酸素濃度が一定となるように通電制御した際の第1酸素ポンプ電流を検出する(S15)。また、第2測定室に導入された被測定ガス中の解離した酸素に起因する第2酸素ポンプ電流を検出する(S10)。被測定ガスの酸素濃度が既知である濃度既知期間であるときの、第1酸素ポンプ検出値と予め記憶された基準値とを比較して、第1酸素ポンプ電流の補正係数を算出する(S20)。第2酸素ポンプ電流、及びS20で算出した補正係数を用いて補正された第1酸素ポンプ電流に基づき、被測定ガス中の窒素酸化物濃度を算出する(S25)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒素酸化物を検出するセンサ素子を制御するガスセンサ制御装置、及び窒素酸化物濃度検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、第1測定室、第1酸素ポンプセル、第2測定室、第2酸素ポンプセル、基準酸素室、酸素濃度検出セルを備えるセンサ素子が知られている(例えば、特許文献1参照)。従来のセンサ素子では、酸素イオン伝導性の固体電解質層を多孔質の電極で挟んでなる第1酸素ポンプセル及び酸素濃度検出セルを有している。また、第1拡散律速層を介して被測定ガス側に連通された第1測定室と、酸素イオン伝導性の固体電解質層を多孔質の電極で挟んでなる第2酸素ポンプセルを有している。そして、上記各セルと、第2拡散律速層を介して前記第1測定室と連通された第2測定室とを備えたセンサ本体を用いて、被測定ガス中の窒素酸化物濃度を検出するようになっている。
【0003】
具体的には、ポンプ電流制御手段が、酸素濃度検出セルの出力電圧が一定値となるように第1酸素ポンプセルにて前記第1測定室から酸素を汲み出し、第1測定室から第2測定室に流入する被測定ガスの酸素濃度を一定に制御する。そして、定電圧印加手段が、第2酸素ポンプセルに前記第2測定室から酸素を汲み出す方向に一定電圧を印加し、濃度検出手段が、この一定電圧の印加によって第2酸素ポンプセルに流れる電流値に基づき、被測定ガス中の窒素酸化物濃度を検出する。このとき、第2酸素ポンプセルに流れる電流は、窒素酸化物由来の電流の他、残留酸素由来の電流が含まれる。よって、濃度検出手段は、第1酸素ポンプセルに流れる電流値を用いて、第2酸素ポンプセルに流れる電流値を補正して、被測定ガス中の窒素酸化物濃度を算出する。
【0004】
このようなセンサにおいては、電極表面上の触媒作用によりNOxの分解を制御あるいは抑制しているため、長期間の使用により触媒活性が変化し、所定成分の濃度が実質的にゼロであることを示すセンサ素子の出力であるゼロ点がシフトするという問題を抱えている。これに対し、ゼロ点を校正する機能を備えた、排出ガス濃度検出方法及びその装置が提案されている(例えば、特許文献2及び3を参照)。排出ガス濃度検出方法及びその装置によれば、ゼロ点がシフトすることを考慮して、長期間に渡って精度の高い測定を行うことができる。
【特許文献1】特開平10−288595号公報
【特許文献2】特許第3589872号公報
【特許文献3】特開2001−133429号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、被測定ガス中の窒素酸化物濃度を算出するにあたっては、第2酸素ポンプセルのみならず、第1酸素ポンプセルに流れる電流値をも用いて算出している。しかしながら、ガスセンサの長期間の使用等に伴うセンサ素子の劣化により、第1酸素ポンプセルに流れる電流が適切に測定されなくなることがあり、ひいては窒素酸化物濃度の算出精度(検出精度)が低下するおそれがあった。一方、上記従来の排出ガス濃度検出方法及びその装置では、このような、第1酸素ポンプセルに流れる電流値が、センサ素子の劣化により、適切に測定されなくなる場合を想定した校正を行っておらず、上記課題の解決には至っていなかった。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、窒素酸化物濃度を算出する際に用いる第1酸素ポンプセルに流れる電流値が、センサ素子の劣化により、適切に測定されなくなることを回避したガスセンサ制御装置、及び窒素酸化物濃度検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、請求項1に係る発明のガスセンサ制御装置は、被測定ガスの流通を制限する第1拡散抵抗を介して前記被測定ガスが導入される第1測定室と、前記第1測定室の内側と外側とに設けられた一対の電極を備える第1酸素ポンプセルと、前記第1測定室からの前記被測定ガスの流通を制限する第2拡散抵抗を介して前記被測定ガスが導入される第2測定室と、前記第2測定室の内側と外側とに設けられた一対の電極を備える第2酸素ポンプセルとを備えるセンサ素子を制御するガスセンサ制御装置であって、前記第1酸素ポンプセルに対する通電制御を行うことにより、前記第1測定室における前記被測定ガスの酸素の汲み出し又は汲み入れを行い、前記第1測定室内の酸素濃度を一定に制御する第1酸素ポンプセル制御手段と、前記第1酸素ポンプセル制御手段の前記通電制御により前記第1酸素ポンプセルの一対の電極間に流れる、第1酸素ポンプ電流を検出する第1酸素ポンプ電流検出手段と、前記第2酸素ポンプセルに電圧を印加することにより、前記第2測定室内で前記被測定ガス中の窒素酸化物の分解、及び、解離した酸素の前記第2測定室からの汲み出しを制御する第2酸素ポンプセル制御手段と、前記第2酸素ポンプセルの一対の電極間に流れる第2酸素ポンプ電流を検出する第2酸素ポンプ電流検出手段と、前記被測定ガスの酸素濃度が既知である濃度既知期間であるときに、前記第1酸素ポンプ電流検出手段が検出した前記第1酸素ポンプ電流の検出値を取得し、当該検出値と予め記憶された基準値とを比較して、前記第1酸素ポンプ電流の補正係数を算出する補正係数算出手段と、前記補正係数算出手段が算出した前記補正係数を用いて、前記第1酸素ポンプ電流検出手段が検出した前記第1酸素ポンプ電流を補正する第1酸素ポンプ電流補正手段と、前記第2酸素ポンプ電流検出手段が検出した前記第2酸素ポンプ電流、及び、前記第1酸素ポンプ電流補正手段により補正された前記第1酸素ポンプ電流に基づき、前記被測定ガス中の窒素酸化物濃度を算出する濃度算出手段とを備えている。
【0008】
また、請求項2に係る発明のガスセンサ制御装置は、請求項1に記載の発明の構成に加え、前記センサ素子は、内燃機関の排気ガスが排出される排出経路に配置され、前記濃度既知期間は、前記内燃機関への燃料供給が停止されている期間であることを特徴とする。
【0009】
また、請求項3に係る発明の窒素酸化物濃度検出方法は、被測定ガスの流通を制限する第1拡散抵抗を介して前記被測定ガスが導入される第1測定室と、前記第1測定室の内側と外側とに設けられた一対の電極を備える第1酸素ポンプセルと、前記第1測定室からの前記被測定ガスの流通を制限する第2拡散抵抗を介して前記被測定ガスが導入される第2測定室と、前記第2測定室の内側と外側とに設けられた一対の電極を備える第2酸素ポンプセルとを備えるセンサ素子を用いた前記被測定ガス中の窒素酸化物濃度検出方法であって、前記第1酸素ポンプセルに対する通電制御を行うことにより、前記第1測定室における前記被測定ガスの酸素の汲み出し又は汲み入れを行い、前記第1測定室内の酸素濃度を一定に制御する第1酸素ポンプセル制御工程と、前記第1酸素ポンプセル制御工程における前記通電制御により前記第1酸素ポンプセルの一対の電極間に流れる、第1酸素ポンプ電流を検出する第1酸素ポンプ電流検出工程と、前記第2酸素ポンプセルに電圧を印加することにより、前記第2測定室内で前記被測定ガス中の窒素酸化物の分解、及び、解離した酸素の第2測定室からの汲み出しを制御する第2酸素ポンプセル制御工程と、前記第2酸素ポンプセルの一対の電極間に流れる第2酸素ポンプ電流を検出する第2酸素ポンプ電流検出工程と、前記被測定ガスの酸素濃度が既知である濃度既知期間であるときに、前記第1酸素ポンプ電流検出工程において検出された前記第1酸素ポンプ電流の検出値を取得し、当該検出値と予め記憶された基準値とを比較して、前記第1酸素ポンプ電流の補正係数を算出する補正係数算出工程と、前記補正係数算出工程において算出した前記補正係数を用いて、前記第1酸素ポンプ電流検出工程において検出された前記第1酸素ポンプ電流を補正する第1酸素ポンプ電流補正工程と、前記第2酸素ポンプ電流検出工程において検出された前記第2酸素ポンプ電流、及び、前記第1酸素ポンプ電流補正工程において補正された前記第1酸素ポンプ電流に基づき、前記被測定ガス中の窒素酸化物濃度を算出する濃度算出工程とを備えている。
【0010】
また、請求項4に係る発明の窒素酸化物濃度検出方法は、請求項3に記載の発明の構成に加え、前記センサ素子は、内燃機関の排気ガスが排出される排出経路に配置され、前記濃度既知期間は、前記内燃機関への燃料供給が停止されている期間であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に係る発明のガスセンサ制御装置によれば、被測定ガスの酸素濃度が既知である濃度既知期間であるときの第1酸素ポンプ電流の検出値と、予め記憶された基準値とを用いて、補正係数を算出する。この補正係数は、第1酸素ポンプ電流の検出値から、センサ素子の劣化分を考慮した電流値を得るのに用いられる。よって、センサ素子の劣化により、第1酸素ポンプセルに流れる検出値が適切な値を示さなくなった場合でも、その劣化分を計算により補正することができる。そして、被測定ガス中の窒素酸化物濃度は、第2酸素ポンプ電流、及び補正係数を用いて補正した第1酸素ポンプ電流を用いて算出される。このため、センサ素子の劣化した場合でも、第2酸素ポンプセルに流れる電流に含まれる、残留酸素由来の電流分を的確に補正することができる。
【0012】
請求項2に係る発明のガスセンサ制御装置によれば、請求項1に記載の発明の効果に加え、内燃機関への燃料供給が停止されている期間(即ち、フューエルカット期間)内に、酸素濃度既知の大気を被測定ガスとした場合の第1酸素ポンプ電流の検出値を用いて、補正係数を算出することができる。
【0013】
請求項3に係る発明の窒素酸化物濃度検出方法によれば、請求項1に記載のガスセンサ制御装置と同様な作用効果が得られる。
【0014】
請求項4に係る発明の窒素酸化物濃度検出方法によれば、請求項3に記載の発明の効果に加え、請求項2に記載のガスセンサ制御装置と同様な作用効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を具体化したガスセンサ制御装置及び窒素酸化物濃度検出方法の一実施の形態について、図面を参照して説明する。まず、図1を参照し、本発明に係るセンサ素子の一例としてセンサ素子10を備えた、ガスセンサ1を説明する。図1は、ガスセンサ制御装置5に接続されたガスセンサ1の概略的な構成を示す図である。尚、図1において、ガスセンサ1のセンサ素子10は、先端側部分における内部構造を示す断面図をもって図示しており、図中左側がセンサ素子10の先端側となっている。
【0016】
図1に示す、ガスセンサ1は、内燃機関の排気ガスが排出される排出経路(図示外)に配置される。ガスセンサ1は、内燃機関の排出ガスを被測定ガスとし、特定ガスとして窒素酸化物(以下、単に「NOx」と言う。)の濃度を検出するために用いられる。ガスセンサ1は、細長で長尺な板状体の形状を有するセンサ素子10と、ガスセンサ1を排出経路に取り付けるためのハウジング(図示外)とを備える。センサ素子10は、ハウジング内に保持されている。ガスセンサ1からは、センサ素子10の出力する信号を取り出すための信号線が引き出されており、ガスセンサ1とは離れた位置に取り付けられるガスセンサ制御装置5に電気的に接続されている。
【0017】
次に、センサ素子10の構造について、図1を参照して説明する。センサ素子10は、3枚の板状の固体電解質体111,121,131を、間にアルミナ等からなる絶縁体140,145をそれぞれ挟んで層状に形成した構造を有する。固体電解質体131側の外層(図1における下側)には、アルミナを主体とするシート状の絶縁層162,163を積層し、その間にPtを主体とするヒータパターン164を埋設したヒータ素子161が設けられている。以下、センサ素子10が備える構成について、詳述する。
【0018】
固体電解質体111,121,131は、固体電解質であるジルコニアからなり、酸素イオン伝導性を有する。センサ素子10の積層方向において固体電解質体111の両面には、固体電解質体111を挟むように多孔質性の電極112,113がそれぞれ設けられている。電極112,113は、Pt又はPt合金あるいはPtとセラミックスとを含むサーメット等から形成されている。また、電極112,113の表面上には、セラミックスからなる多孔質性の保護層114が設けられている。保護層114は、電極112,113が排気ガスに含まれる被毒性ガス(還元雰囲気)に晒されることにより電極が劣化しないように保護している。
【0019】
固体電解質体111は、両電極112,113間に電流を流すことで、電極112の接する雰囲気(センサ素子10の外部の雰囲気)と電極113の接する雰囲気(後述する第1測定室150内の雰囲気)との間で酸素の汲み出し及び汲み入れ(いわゆる酸素ポンピング)を行うことができる。本実施の形態では、固体電解質体111及び電極112,113を、Ip1セル110と称することとする。尚、Ip1セル100が、本発明における「第1酸素ポンプセル」に相当し、電極112,113が、本発明における「第1測定室の内側と外側とに設けられた一対の電極」に相当する。
【0020】
固体電解質体121は、絶縁体140を挟んで固体電解質体111と対向するように配置されている。固体電解質体111と同様に、センサ素子10の積層方向における固体電解質体121の両面には、固体電解質体121を挟むように多孔質性の電極122,123がそれぞれ設けられている。電極122,123は、第1測定室150の固体電解質体121側において、第1測定室150の内側と外側とに設けられている。電極122,123は、Pt又はPt合金あるいはPtとセラミックスを含むサーメット等から形成されている。電極122は、固体電解質体111と向き合う側の面に形成されている。
【0021】
固体電解質体111と固体電解質体121との間には、小空間としての第1測定室150が形成されている。第1測定室150は、排気経路内を流通する排気ガスが、センサ素子10内に最初に導入される小空間である。第1測定室150内には、前述の固体電解質体111側の電極113と、固体電解質体121側の電極122とが配置されている。また、第1測定室150のセンサ素子10における先端側には、第1測定室150内外の仕切りとして、第1測定室150内への排気ガスの単位時間あたりの流通量を制限する多孔質性の第1拡散抵抗部151が設けられている。同様に、第1測定室150のセンサ素子10における後端側には、後述する第2測定室160につながる開口部141と第1測定室150との仕切りとして、排気ガスの単位時間あたりの流通量を制限する第2拡散抵抗部152が設けられている。
【0022】
両電極122,123は、主として、固体電解質体121により隔てられた雰囲気(電極122の接する第1測定室150内の雰囲気と、電極123の接する後述する基準酸素室170内の雰囲気)間の酸素分圧差に応じて起電力を発生することができる。本実施の形態では、固体電解質体121及び両電極122,123を酸素分圧(濃度)検知セル(以下、単に「Vsセル」と言う。)120と言う。即ち、Vsセル120は、第1測定室150の内側と外側とに設けられた電極122,123を備える。
【0023】
固体電解質体131は、絶縁体145を挟んで固体電解質体121と対向するように配置されている。固体電解質体131のうちで固体電解質体121側に面する側の表面には、多孔質性の電極132,133が離間して設けられている。多孔質性の電極132,133は、Pt又はPt合金あるいはPtとセラミックスを含むサーメット等から形成されている。
【0024】
また、固体電解質体131と固体電解質体121との間には、絶縁体145が配置されておらず、独立した小空間としての基準酸素室170が形成されている。基準酸素室170内には、電極132と、Vsセル120の電極123とが配置されている。尚、電極132と120の電極123とに挟まれた基準酸素室170の空間には、セラミック製の多孔質体が充填されている。
【0025】
さらに、固体電解質体131と固体電解質体111との間には、絶縁体145が配置されておらず、独立した小空間としての第2測定室160が形成されている。第2測定室160は、絶縁体145により、基準酸素室170と隔てられている。そして、第2測定室160に連通するように、固体電解質体121及び絶縁体140のそれぞれに開口部125,141が設けられており、前述したように、第1測定室150と開口部141とが、間に第2拡散抵抗部152を挟んで接続されている。
【0026】
固体電解質体131及び両電極132,133は、上記のIp1セル110と同様に、絶縁体145により隔てられた雰囲気(電極132の接する基準酸素室170内の雰囲気と、電極133の接する第2測定室160内の雰囲気)間にて酸素の汲み出しを行うことができるものであり、本実施の形態ではIp2セル130と称することとする。尚、Ip2セル130が、本発明における「第2酸素ポンプセル」に相当し、電極132,133が、本発明における「第2測定室の内側と外側とに設けられた一対の電極」に相当する。また、図1に示すように、Ip1セル110の第1測定室150側の電極113、Vsセル120の第1測定室150側の電極122、Ip2セル130の第2測定室160側の電極133は、基準電位に接続されている。
【0027】
次に、ガスセンサ制御装置5の構成について、図1を参照して説明する。ガスセンサ制御装置5は、ガスセンサ1のセンサ素子10と電気的に接続されている。図1に示すように、ガスセンサ制御装置5は、マイクロコンピュータ60と、電気回路部58を構成主体としている。以下、ガスセンサ制御装置5が備える各構成について詳述する。
【0028】
マイクロコンピュータ60は、公知の構成のCPU61,RAM62,ROM63,信号入出力部64,A/Dコンバータ65及び図示外のタイマクロックを備えている。CPU61は、RAM62及びROM63と通信するとともに、信号入出力部64を介してECU90と通信し、信号入出力部64及びA/Dコンバータ65を介して電気回路部58と通信する。ECU90からマイクロコンピュータ60には、例えば、内燃機関への燃料供給に関する情報が入力される。
【0029】
電気回路部58は、基準電圧比較回路51,Ip1ドライブ回路52,Vs検出回路53,Icp供給回路54,Ip2検出回路55,Vp2印加回路56,及びヒータ駆動回路57を備える。電気回路部58は、マイクロコンピュータ60による制御を受けて、ガスセンサ1のセンサ素子10を用いた排気ガス中のNOx濃度の検出を行う。以下、電気回路部58が備える各構成について詳述する。
【0030】
Icp供給回路54は、Vsセル120の電極122,123間に電流Icpを供給し、第1測定室150内から基準酸素室170内への酸素の汲み出しを行う。Vs検出回路53は、電極122,123間の電圧Vsを検出するための回路であり、その検出結果を基準電圧比較回路51に対し出力する。基準電圧比較回路51は、Vs検出回路53により検出された電圧Vsを、基準となる基準電圧(例えば425mV)と比較するための回路であり、その比較結果をIp1ドライブ回路52に対し出力している。
【0031】
Ip1ドライブ回路52は、Ip1セル110の電極112,113間にIp1電流を供給するための回路である。Ip1ドライブ回路52は、基準電圧比較回路51によるVsセル120の電極122,123間の電圧Vsの比較結果に基づいて、電圧Vsが予め設定された基準電圧と略一致するように、Ip1電流の大きさや向きを調整する。その結果、Ip1セル110では、第1測定室150内からセンサ素子10外部への酸素の汲み出し、あるいはセンサ素子10外部から第1測定室150内への酸素の汲み入れが行われる。換言すると、Ip1セル110では、Ip1ドライブ回路52による通電制御に基づき、Vsセル120の電極122,123間の電圧が一定値(基準電圧の値)に保たれるように、第1測定室150内における酸素濃度の調整が行われる。
【0032】
Vp2印加回路56は、Ip2セル130の電極132,133間へ電圧Vp2(例えば450mV)を印加するための回路であり、第2測定室160内から基準酸素室170への酸素の汲み出しを制御する。Ip2検出回路55は、Ip2セル130の電極133から電極132に流れた電流Ip2の値の検出を行う回路である。
【0033】
ヒータ駆動回路57は、固体電解質体111,121,131の温度を所定の温度に保たせるための回路である。ヒータ駆動回路57は、CPU61により制御され、ヒータ素子161のヒータパターン164へ電流を流し、固体電解質体111,121,131(換言すると、Ip1セル110,Vsセル120,Ip2セル130)の加熱を行う。ヒータパターン164は、ヒータ素子161内で繋がる一本の電極パターンであり、一方の端部が接地され、他方の端部がヒータ駆動回路57に接続されている。ヒータ駆動回路57は、固体電解質体111,121,131が狙いとする温度になるように、ヒータパターン164をPWM通電制御して当該ヒータパターン164に電流を流す制御を行うことができる。
【0034】
上記構成のガスセンサ制御装置5によって、ガスセンサ1のセンサ素子10を用いた排気ガス中のNOx濃度の検出が行われる。次に、ガスセンサ1を用いたNOx濃度の検出の際の動作について、図1を参照して説明する。
【0035】
前述のように、図1に示す、ガスセンサ1のセンサ素子10を構成する固体電解質体111,121,131は、ヒータ駆動回路57から駆動電流が流されたヒータパターン164の昇温に伴い加熱され、活性化する。加熱により狙いとする温度となったIp1セル110,Vsセル120及びIp2セル130は、以下のように動作する状態になる。
【0036】
排気経路(図示外)内を流通する排気ガスは、第1拡散抵抗部151による流通量の制限を受けつつ第1測定室150内に導入される。ここで、Vsセル120には、Icp供給回路54により電極123側から電極122側へ微弱な電流Icpが流される。このため排気ガス中の酸素は、負極側となる第1測定室150内の電極122から電子を受け取ることができ、電子を受け取った酸素は酸素イオンとなって固体電解質体121内を流れ、基準酸素室170内に移動する。つまり、電極122,123間で電流Icpが流されることによって、第1測定室150内の酸素が基準酸素室170内に送り込まれる。
【0037】
Vs検出回路53では、電極122,123間の電圧Vsが検出される。検出された電圧Vsは、基準電圧比較回路51により基準電圧(例えば、425mV)と比較されて、その比較結果がIp1ドライブ回路52に対し出力される。ここで、電極122,123間の電位差が基準電圧425mV付近で一定となるように、第1測定室150内の酸素濃度を調整すれば、第1測定室150内の排気ガス中の酸素濃度は所定値(例えば、10−8〜10−9atm)に近づくこととなる。
【0038】
そこで、Ip1ドライブ回路52では、第1測定室150内に導入された排気ガスの酸素濃度が所定値より薄い場合、電極112側が負極となるようにIp1セル110にIp1電流を流す。その結果、Ip1セル110では、センサ素子10外部から第1測定室150内へ酸素の汲み入れが行われる。一方、第1測定室150内に導入された排気ガスの酸素濃度が所定値より濃い場合、Ip1ドライブ回路52は、電極113側が負極となるようにIp1セル110にIp1電流を流す。その結果、Ip1セル110では、第1測定室150内からセンサ素子10外部へ酸素の汲み出しが行われる。このときのIp1電流の大きさと、流れる向きとに基づき、排気ガス中の酸素濃度の検出が可能である。
【0039】
第1測定室150において酸素濃度が調整された排気ガスは、第2拡散抵抗部152を介し、第2測定室160内に導入される。第2測定室160内で電極133と接触した排気ガス中のNOxは、電極133を触媒としてNとOに分解(還元)される。そして分解された酸素は、電極133から電子を受け取り、酸素イオンとなって(解離して)固体電解質体131内を流れ、基準酸素室170内に移動する。このとき、第2測定室160内に導入された排気ガスに含まれる残留酸素も同様に、Ip2セル130によって基準酸素室170内に移動する。第2測定室160内に導入された排気ガスに含まれる残留酸素は、第1測定室で汲み残された酸素である。このため、Ip2セル130を流れるIp2電流は、NOx由来の電流及び残留酸素由来の電流となる。
【0040】
次に、ガスセンサ1を用いたNOx濃度の検出方法の概要を説明する。前述の通り、Ip2電流には、NOx由来の電流の他、残留酸素由来の電流が含まれる。よって、Ip2電流のみを用いてNOx濃度を算出した場合、その算出値には、残留酸素由来の電流の影響分が含まれることになる。そこで、式(1)に示すように、Ip1電流を用いて残留酸素由来の電流の影響分を補正して、NOx濃度を求める。
NOx濃度[ppm]=A×Ip2電流+B×Ip1電流 ・・・式(1)
ただし、式(1)において、A,Bはセンサ素子10毎に定められる定数。
しかしながら、ガスセンサ1の長期の使用に起因したセンサ素子10の劣化により、検出されるIp1電流が、第1測定室中の酸素濃度に応じた値を示さない場合、Ip1電流を用いてIp2電流に含まれる残留酸素由来の電流の影響分を補正することができない。
【0041】
よって、本実施形態では、被検出ガスの酸素濃度が既知である濃度既知期間であるときのIp1電流の検出値Ip1[signal]と、予めROM63に記憶された基準値Ip1[true]とを比較して求めた補正係数を用い、Ip1電流に含まれるセンサ素子10の劣化分を補正する。具体的には、図1に示すマイクロコンピュータ60は、ECU90から、所定時間毎に内燃機関において燃料供給中であるか否かを示す信号を受信する。そして、受信した信号に基づき、排気ガスが大気と置き換わったと想定される濃度既知期間を検出する。検出した濃度既知期間におけるIp1電流検出値Ip1[signal]と、基準値Ip1[true]とを用いて、式(2)により、補正係数Cを求める。NOx濃度は、式(3)を用いて算出する。式(3)では、Ip1電流に含まれるセンサ素子10の劣化分を、式(2)で求めた補正係数Cを用いて補正している。
補正係数C=Ip1[true]/Ip1[signal] ・・・式(2)
NOx濃度[ppm]=A×Ip2電流+B×C×Ip1電流 ・・・式(3)
ただし、式(3)において、A,Bはセンサ素子10毎に定められる定数。Cは、式(2)により求められる補正係数。
【0042】
次に、ガスセンサ制御装置5において実行されるメイン処理について、図2及び図3を参照して説明する。図2は、ガスセンサ制御装置5のメイン処理のフローチャートである。図3は、図2に示すメイン処理において実行される補正係数算出処理のフローチャートである。尚、図2及び図3に示す各処理を実行させるプログラムは、ROM63の(図1参照)に記憶されており、図1に示すCPU61が実行する。また、Vsセル120が備える一対の電極122,123間の電位差に基づいて、第1測定室150内における被測定ガス中の酸素分圧の検出する酸素分圧検出は、酸素分圧検出手段として機能するCPU61により、図2に示すメイン処理とは別途実行される。同様に、Ip1セル110に対する通電制御を行うことにより、第1測定室150における被測定ガスの酸素の汲み出し又は汲み入れを行い、第1測定室150内の酸素濃度を一定に制御する第1酸素ポンプセル制御工程は、Ip1ドライブ回路の制御のもと、別途実行される。本実施形態では、第1酸素ポンプセル制御工程では、CPU61により検出された酸素分圧に基づいて、所定の電圧を第1酸素ポンプセル(Ip1セル)110に印加して第1酸素ポンプ電流(Ip1電流)が制御される。また、Ip2セル130に電圧を印加することにより、第2測定室160内で被測定ガス中のNOxの分解、及び解離した酸素の第2測定室160からの汲み出しを制御する第2酸素ポンプセル制御工程は、Vp2印加回路56の制御のもと、別途実行される。
【0043】
図2に示すように、ガスセンサ制御装置5においてメイン処理が起動されると、まず、センサ素子10が活性化したか否かが判断される(S5)。センサ素子10が活性化したか否かは、例えば、ヒータパターン164に通電を開始してから所定時間経過したか否かに基づき判断される。また例えば、固体電解質体111,121,131のいずれかの温度(より詳細には、温度に相関のある内部抵抗)を検出する温度検出手段を設け、この手段により検出された温度(内部抵抗)が、所定温度(所定抵抗値)に達したか否かに基づき判断される。尚、固体電解質体111,121,131のいずれかの温度(内部抵抗)を検出する手段(手法)は公知であるため、これ以上の説明は省略する。そして、センサ素子10が活性化していないと判断される場合(S5:No)、センサ素子10が活性化したと判断されるまで待機する。
【0044】
一方、センサ素子10が活性化したと判断される場合、続いて、Ip2電流、及びIp1電流がそれぞれ検出され、RAM62に記憶される(S10,S15)。Ip2電流は、図1に示すIp2検出回路55からマイクロコンピュータ60に入力される出力信号に基づき検出される。同様に、Ip2電流は、図1に示すIp1ドライブ回路52からマイクロコンピュータ60に入力される出力信号に基づき検出される。S10の処理は本発明の「第2酸素ポンプ電流検出工程」に相当し、S15の処理は本発明の「第1酸素ポンプ電流検出工程」に相当する。
【0045】
続いて、補正係数算出処理が実行される(S20)。補正係数算出処理では、前述の補正係数Cが算出される。補正係数算出処理の詳細について、図3を参照して説明する。図3に示すように、補正係数算出処理では、まず、内燃機関において燃料供給停止中であることを示す信号(以下、「フューエルカット信号」と言う。)が受信されたか否かが判断される(S55)。前述のように、マイクロコンピュータ60は、ECU90から所定時間毎に内燃機関において燃料供給中であるか否かを示す信号を受信し、別途実行されるプログラムにより、受信した信号を随時RAM62に記憶させている。よって、S55では、フューエルカット信号が、ECU90から受信した最新の信号としてRAM62に記憶されているか否かに基づき、フューエルカット信号を受信したか否かが判断される。フューエルカット信号が受信されていない場合(S55:No)、後述するS95の処理が実行される。
【0046】
一方、フューエルカット信号が受信された場合(S55:Yes)、タイマ作動中か否かが判断される(S65)。タイマは、別途実行されるタイマ更新プログラムにより、フューエルカット信号を連続して受信している期間、所定期間毎に更新され、RAM62に記憶される。よって、タイマは、フューエルカット信号を連続して受信している期間の長さを示す。タイマ更新プログラムの起動/停止は、後述するように、図3のS70,S95において行われる。タイマ(タイマ更新プログラム)が作動中である場合には、RAM62に記憶されている期間は0より大きい時間となり、タイマが停止中である場合には、RAM62に記憶されている期間は初期値0に設定される。
【0047】
タイマが動作中である場合には(S65:Yes)、RAM62が参照され、待ち時間が経過したか否かが判断される(S80)。S80の処理は、センサ素子10の周囲の雰囲気が酸素濃度既知の大気となる酸素濃度既知期間となったか否かを判断するための処理である。S80の処理により、新たな構成を追加することなく、酸素濃度既知期間を的確に検出することができる。待ち時間は、予め定められROM63に記憶されている。タイマが示す期間が、待ち時間よりも短い場合、即ち、待ち時間が経過していない場合(S80:No)、補正係数算出処理が終了され、図2に示すメイン処理に戻る。
【0048】
一方、タイマが示す期間が、待ち時間以上である場合、即ち、待ち時間が経過している場合には(S80:Yes)、RAM62及びROM63が参照され、検出値Ip1[signal]と、基準値Ip1[true]とが一致するか否かが判断される(S85)。検出値Ip1[signal]は、図2のS15において検出され、RAM62に記憶されている。基準値Ip1[true]は、予め定められROM63に記憶されている。Ip1[signal]と、基準値Ip1[true]とが一致しない場合(S85:No)、補正係数Cが算出され、RAM62に記憶される(S90)。補正係数Cは、Ip1[signal]と、基準値Ip1[true]とを、前述の式(2)に代入して算出される。S90の処理は、本発明の「補正係数算出工程」に相当する。一方、Ip1[signal]と、基準値Ip1[true]とが一致する場合(S85:Yes)、及びS90に続いて、タイマの作動が停止される(S95)。具体的には、RAM62に記憶されているタイマに0がセットされ、別途実行されるタイマ更新プログラムが停止される。続いて、補正係数算出処理が終了され、図2に示すメイン処理に戻る。
【0049】
引き続き、図2を参照してメイン処理を説明する。S20に続いて、NOx濃度が算出され、RAM62に記憶される(S25)。NOx濃度は、前述の式(3)を用いて算出される。式(3)において、定数A,Bは、予め定められROM63に記憶されている。Ip2電流は、S10において検出され、RAM62に記憶されている。同様に、Ip1電流は、S15において検出され、RAM62に記憶されている。補正係数Cは、図3に示すS90において算出され、RAM62に記憶されている。尚、RAM62に補正係数Cが記憶されていない場合には、ROM62に記憶されている初期値1が用いられる。S25の処理は、本発明の「第1酸素ポンプ電流補正工程」及び「濃度算出工程」に相当する。
【0050】
続いて、S25において求めたNOx濃度が、出力される(S30)。S30の処理において、例えば、S25において求めたNOx濃度が、ECU90に対して出力される。続いて、S10に戻り、処理が繰り返される。以上のように、CPU61によりメイン処理が実行される。尚、メイン処理はガスセンサ制御装置5の電源がOFFにされるまで、繰り返し実行される。
【0051】
尚、第1酸素ポンプセル(Ip1セル)110に対する通電制御を行うことにより、第1測定室150内の酸素濃度を一定に制御する、図1に示すIp1ドライブ回路52は、本発明の第1酸素ポンプセル制御手段に相当する。また、図2のS15において、Ip1セル110の一対の電極112,113間に流れるIp1電流を検出するCPU61は、本発明の第1酸素ポンプ電流検出手段として機能する。Ip2セル130に電圧を印加することにより、第2測定室160内で排気ガス(被測定ガス)中のNOxの分解、及び解離した酸素の第2測定室160から汲み出しを制御するVp2印加回路56は、本発明の第2酸素ポンプセル制御手段に相当する。また、図2のS10において、Ip2セル130の一対の電極132,133間に流れるIp2電流を検出するCPU61は、本発明の第2酸素ポンプ電流検出手段として機能する。
【0052】
また、図3に示す補正係数算出処理において、排気ガス(被測定ガス)の酸素濃度が既知である濃度既知期間であるときに(S80:Yes)、図2のS15において取得したIp1電流検出値と、予め記憶された基準値とを式(2)に代入して補正係数Cを算出する(S90)CPU61は、本発明の補正係数算出手段として機能する。また、図2のS25において、図3のS90で算出した補正係数Cを用いてIp1電流を補正し、排気ガス(被測定ガス)中のNOx濃度を算出するCPU61は、本発明の第1酸素ポンプ電流補正手段及び濃度算出手段として機能する。
【0053】
以上詳述した、ガスセンサ制御装置5及び窒素酸化物検出方法によれば、図3に示すように、排出ガス(被測定ガス)の酸素濃度が既知である濃度既知期間であるときの第1酸素ポンプ電流(Ip1電流)の検出値と、予め記憶された基準値とを用いて、補正係数Cを算出する。補正係数Cは、第1酸素ポンプ電流(Ip1電流)の検出値から、センサ素子10の劣化分を考慮した電流値を得るのに用いられる。よって、センサ素子10の劣化により、Ip1セル110に流れる検出値が適切な値を示さなくなった場合でも、その劣化分を計算により補正することができる。本実施形態では、内燃機関への燃料供給が停止され、センサ素子10の周囲の雰囲気が酸素濃度既知の大気となったと想定される期間(フューエルカット期間)を濃度既知期間としている。このため、大気を被測定ガスとした場合のIp1電流の検出値を用いて、補正係数Cを容易に算出することができる。そして、図3のメイン処理では、被測定ガス中のNOx濃度は、Ip2電流、及び補正係数Cを用いて補正したIp1電流を用いて算出される(S25)。このため、センサ素子10の劣化した場合でも、Ip2セル130に流れる電流に含まれる、残留酸素由来の電流分を的確に補正することができる。
【0054】
尚、本発明は、以上詳述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加えてもよい。例えば、次の(a)〜(h)に示す変形を適宜加えてもよい。
【0055】
(a)ガスセンサ制御装置5が制御するガスセンサ1及びガスセンサ1が備えるセンサ素子10の構成は適宜変更可能である。例えば、本実施形態のガスセンサ1(センサ素子10)は、図1において、第1測定室150の下側にVsセル120を備えていたが、Vsセル120を備えないガスセンサ1を制御するガスセンサ制御装置に、本発明を適用してもよい。この場合には、Ip1セル110に流れるIp1電流に基づき、Ip1セル110の電極112,113間に印加する電圧を調整して、第1測定室150の酸素濃度が所定濃度となるように、Ip1セル110を駆動するようにすればよい。
【0056】
(b)上記実施形態では、内燃機関への燃料供給が停止され、センサ素子10の周囲の雰囲気が酸素濃度既知の大気となったと想定される期間を濃度既知期間としていたが、これに限定されない。例えば、ガスセンサ1が酸素濃度既知の補正用ガスをセンサ素子10の周囲の雰囲気に充填する装置を備える場合には、補正用ガスが充填される期間を濃度既知期間としてもよい。
【0057】
(c)上記実施形態では、図3のS80において、フューエルカット信号を所定期間連続して取得した場合に(S80:Yes)、センサ素子10の周囲の雰囲気が酸素濃度既知の大気となったと判断していたが、これに限定されない。例えば、フューエルカット信号を受信後、直ちにセンサ素子10の周囲の雰囲気が酸素濃度既知の大気となると想定される場合には、フューエルカット信号受信時に濃度既知期間中であると判断してもよい。
【0058】
(d)上記実施形態では、図3において、センサ素子10の周囲の雰囲気が酸素濃度既知の大気となったと判断される毎に(S80:Yes)、補正係数を算出する必要がある場合に(S85:No)、補正係数Cを算出していたが(S90)、これに限定されない。例えば、所定期間(例えば1ドライブ)毎に所定回数補正係数が算出された場合に、以後の補正係数算出処理を省略してもよい。また上記実施形態では、Ipc1電流を適切に検出されず、センサ素子10が劣化していると想定される場合(S85:No)に、補正係数算出工程(S90)を行っていたが、S85の処理を省略し、S80に続いてS90に処理を実行させてもよい。
【0059】
(e)上記実施形態では、図2のS25において、Ip1電流の補正と、NOx濃度の算出とを同時に行ったが、Ip1電流を補正した後、補正したIp1電流を用いてNOx濃度を算出してもよい。
【0060】
(f)上記実施形態では、Ip1ドライブ回路52の制御のもと第1酸素ポンプセル制御工程を実行し、Vp2印加回路56の制御のもと第2酸素ポンプセル制御工程を実行していたが、CPU61に実行させてもよい。同様に、CPU61が実行していた各種処理の一部又は全部を専用の回路に実行させてもよい。
【0061】
(g)上記実施形態では、補正係数Cを式(2)を用いて求め、NOx濃度を式(3)を用いて求めていたが、式(2)及び式(3)は、ガスセンサ1(センサ素子10)の特性に応じて適宜変更可能である。
【0062】
(h)上記実施形態の窒素濃度検出方法に、公知の残留酸素由来のオフセット電流の補正計算処理をさらに適用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】ガスセンサ制御装置5に接続されたガスセンサ1の概略構成を示す図である。
【図2】ガスセンサ制御装置5のメイン処理のフローチャートである。
【図3】図2に示すメイン処理において実行される補正係数算出処理のフローチャートである。
【符号の説明】
【0064】
1 ガスセンサ
5 ガスセンサ制御装置
10 センサ素子
51 基準電圧比較回路
52 Ip1ドライブ回路
53 Vs検出回路
54 Icp供給回路
55 Ip2検出回路
56 Vp2印加回路
58 電気回路部
60 マイクロコンピュータ
61 CPU
62 RAM
63 ROM
64 信号入出力部
65 A/Dコンバータ
110 Ip1セル
111,131 固体電解質体
112,113,132,133 電極
130 Ip2セル
151 第1拡散抵抗部
152 第2拡散抵抗部
150 第1測定室
160 第2測定室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定ガスの流通を制限する第1拡散抵抗を介して前記被測定ガスが導入される第1測定室と、前記第1測定室の内側と外側とに設けられた一対の電極を備える第1酸素ポンプセルと、前記第1測定室からの前記被測定ガスの流通を制限する第2拡散抵抗を介して前記被測定ガスが導入される第2測定室と、前記第2測定室の内側と外側とに設けられた一対の電極を備える第2酸素ポンプセルとを備えるセンサ素子を制御するガスセンサ制御装置であって、
前記第1酸素ポンプセルに対する通電制御を行うことにより、前記第1測定室における前記被測定ガスの酸素の汲み出し又は汲み入れを行い、前記第1測定室内の酸素濃度を一定に制御する第1酸素ポンプセル制御手段と、
前記第1酸素ポンプセル制御手段の前記通電制御により前記第1酸素ポンプセルの一対の電極間に流れる、第1酸素ポンプ電流を検出する第1酸素ポンプ電流検出手段と、
前記第2酸素ポンプセルに電圧を印加することにより、前記第2測定室内で前記被測定ガス中の窒素酸化物の分解、及び、解離した酸素の前記第2測定室からの汲み出しを制御する第2酸素ポンプセル制御手段と、
前記第2酸素ポンプセルの一対の電極間に流れる第2酸素ポンプ電流を検出する第2酸素ポンプ電流検出手段と、
前記被測定ガスの酸素濃度が既知である濃度既知期間であるときに、前記第1酸素ポンプ電流検出手段が検出した前記第1酸素ポンプ電流の検出値を取得し、当該検出値と予め記憶された基準値とを比較して、前記第1酸素ポンプ電流の補正係数を算出する補正係数算出手段と、
前記補正係数算出手段が算出した前記補正係数を用いて、前記第1酸素ポンプ電流検出手段が検出した前記第1酸素ポンプ電流を補正する第1酸素ポンプ電流補正手段と、
前記第2酸素ポンプ電流検出手段が検出した前記第2酸素ポンプ電流、及び、前記第1酸素ポンプ電流補正手段により補正された前記第1酸素ポンプ電流に基づき、前記被測定ガス中の窒素酸化物濃度を算出する濃度算出手段と
を備えることを特徴とするガスセンサ制御装置。
【請求項2】
前記センサ素子は、内燃機関の排気ガスが排出される排出経路に配置され、
前記濃度既知期間は、前記内燃機関への燃料供給が停止されている期間であることを特徴とする請求項1に記載のガスセンサ制御装置。
【請求項3】
被測定ガスの流通を制限する第1拡散抵抗を介して前記被測定ガスが導入される第1測定室と、前記第1測定室の内側と外側とに設けられた一対の電極を備える第1酸素ポンプセルと、前記第1測定室からの前記被測定ガスの流通を制限する第2拡散抵抗を介して前記被測定ガスが導入される第2測定室と、前記第2測定室の内側と外側とに設けられた一対の電極を備える第2酸素ポンプセルとを備えるセンサ素子を用いた前記被測定ガス中の窒素酸化物濃度検出方法であって、
前記第1酸素ポンプセルに対する通電制御を行うことにより、前記第1測定室における前記被測定ガスの酸素の汲み出し又は汲み入れを行い、前記第1測定室内の酸素濃度を一定に制御する第1酸素ポンプセル制御工程と、
前記第1酸素ポンプセル制御工程における前記通電制御により前記第1酸素ポンプセルの一対の電極間に流れる、第1酸素ポンプ電流を検出する第1酸素ポンプ電流検出工程と、
前記第2酸素ポンプセルに電圧を印加することにより、前記第2測定室内で前記被測定ガス中の窒素酸化物の分解、及び、解離した酸素の第2測定室からの汲み出しを制御する第2酸素ポンプセル制御工程と、
前記第2酸素ポンプセルの一対の電極間に流れる第2酸素ポンプ電流を検出する第2酸素ポンプ電流検出工程と、
前記被測定ガスの酸素濃度が既知である濃度既知期間であるときに、前記第1酸素ポンプ電流検出工程において検出された前記第1酸素ポンプ電流の検出値を取得し、当該検出値と予め記憶された基準値とを比較して、前記第1酸素ポンプ電流の補正係数を算出する補正係数算出工程と、
前記補正係数算出工程において算出した前記補正係数を用いて、前記第1酸素ポンプ電流検出工程において検出された前記第1酸素ポンプ電流を補正する第1酸素ポンプ電流補正工程と、
前記第2酸素ポンプ電流検出工程において検出された前記第2酸素ポンプ電流、及び、前記第1酸素ポンプ電流補正工程において補正された前記第1酸素ポンプ電流に基づき、前記被測定ガス中の窒素酸化物濃度を算出する濃度算出工程と
を備えることを特徴とする窒素酸化物濃度検出方法。
【請求項4】
前記センサ素子は、内燃機関の排気ガスが排出される排出経路に配置され、
前記濃度既知期間は、前記内燃機関への燃料供給が停止されている期間であることを特徴とする請求項3に記載の窒素酸化物濃度検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−168798(P2009−168798A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−289892(P2008−289892)
【出願日】平成20年11月12日(2008.11.12)
【出願人】(000004547)日本特殊陶業株式会社 (2,912)