説明

ガスセンサ用のセンサ素子の製造方法、電気的特性検査方法、および前処理方法

【課題】製品歩留まりを向上させることができ、かつ、信頼性の高いガスセンサを実現することが出来るセンサ素子の製造方法を提供する。
【解決手段】電気化学的ポンプセルと電気化学的センサセルとを備える、ガスセンサ用のセンサ素子の製造方法が、酸素イオン伝導性固体電解質であるセラミックスを主成分とするグリーンシートに導電性ペーストからなる配線パターンを印刷形成する印刷工程と、印刷工程を経た複数のグリーンシートを積層し一体化する積層工程と、積層工程によって得られた積層体から複数の素子体を切り出す切断工程と、切断工程によって切り出された素子体を焼成する焼成工程と、焼成工程を経た素子体を還元雰囲気で加熱するエージング工程と、エージング工程を経た素子体を検査用のガス雰囲気下で所定時間駆動させる前処理工程と、前処理工程を経た素子体の電気的特性を検査する検査工程と、を含むようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスセンサ用のセンサ素子の製造方法に関し、特に電極の状態を安定させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、被測定ガス中の所望のガス成分の濃度を知るために、各種のガスセンサが用いられている。例えば、燃焼ガス等の被測定ガス中のNOx濃度を測定する装置として、ジルコニア(ZrO2)等の酸素イオン伝導性固体電解質を用いて形成したセンサ素子を備えるNOxセンサが公知である(例えば、特許文献1および特許文献2参照)。
【0003】
特許文献1および特許文献2に開示されているNOxセンサをはじめとするガスセンサのセンサ素子は、測定電極において測定対象ガス成分(対象成分)を分解させると、その際に発生する酸素イオンの量が測定電極と基準電極とを流れる電流に比例することを利用して、該測定対象ガス成分の濃度を求めるようになっている。具体的には、対象成分の濃度が既知の混合ガスを用いて個々のセンサ素子における濃度値と電流値(出力信号値)との関係(感度特性、濃度プロファイル)をあらかじめ求めておき、実際の使用時には、測定される電流値を感度特性に基づいて濃度値に換算することで、対象成分の濃度値を知るようになっている。
【0004】
それゆえ、理想的には、被測定ガス中に対象成分が存在しない状態においては電流値はゼロになるべきであるが、実際には、被測定ガス中にもともと存在しており、対象ガス成分の分解に先立ち除去されるもののわずかに残存している酸素の分解が生じるなどして、わずかに電流が流れる。よって、通常は、使用に先立って、対象成分が存在しない状況での電流値(残存酸素などに由来する)をオフセット値として特定しておき、対象成分が存在する状態において得られる電流値から該オフセット値を差し引いた値を、ガス濃度に比例する電流値として用いるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−284223号公報
【特許文献2】特許第3537983号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した感度特性は、それぞれのガスセンサの使用開始前(例えば出荷前)に決定され、通常は、その後のガスセンサの使用において変更されることなく固定的なものとして取り扱われる。このことは、ガスセンサを使用している間に実際の感度特性が変動しないことが前提となっている。係る実際の感度特性が経時的に変化してしまうと、ガスセンサの使用を継続するにつれて出荷時に決定した感度特性に基づいて算出される濃度値の信頼性がなくなり、やがては、ガスセンサが仕様として定められた測定精度を有しないことになってしまう。
【0007】
係る測定精度の確保のため、センサ素子の製造工程においては、センサ素子の電気的特性を評価する素子特性検査を行い、感度特性が所定の仕様(管理幅)をみたさないセンサ素子や感度特性が変動するセンサ素子を不良品として判定するようにしている。
【0008】
製品歩留まり向上のためには、係る不良品の発生を減少させる必要がある。本発明の発明者は、鋭意検討の結果、センサ素子内部に設けられた種々の電極における酸化還元状態の不安定性、つまりは、素子焼成時の酸化度合とその後のリッチ雰囲気でのエージングによる還元度合が一定でないことや、エージング後のセンサ素子内部に残留していたリッチ成分が突発的に分解することなどの理由で、エージング処理後のセンサ素子における電極の状態が不安定であること、および、従来は、係る不安定な状態のもとで素子特性検査あるいはさらに感度特性の決定を行ってしまっていたことを見出した。
【0009】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、製品歩留まりを向上させることができ、かつ、信頼性の高いガスセンサを実現することが出来るセンサ素子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、請求項1の発明は、電気化学的ポンプセルと電気化学的センサセルとを備える、ガスセンサ用のセンサ素子の製造方法であって、酸素イオン伝導性固体電解質であるセラミックスを主成分とするグリーンシートに導電性ペーストからなる配線パターンを印刷形成する印刷工程と、前記印刷工程を経た複数のグリーンシートを積層し一体化する積層工程と、前記積層工程によって得られた積層体から複数の素子体を切り出す切断工程と、前記切断工程によって切り出された素子体を焼成する焼成工程と、前記焼成工程を経た素子体を還元雰囲気で加熱するエージング工程と、前記エージング工程を経た素子体を検査用のガス雰囲気下で所定時間駆動させる前処理工程と、前記前処理工程を経た素子体の電気的特性を検査する検査工程と、を含むことを特徴とする。
【0011】
請求項2の発明は、請求項1に記載のガスセンサ用のセンサ素子の製造方法であって、前記前処理工程と、前記検査工程との間に、前記前処理工程を経た素子体を大気中で放置する放置工程、をさらに含むことを特徴とする。
【0012】
請求項3の発明は、電気化学的ポンプセルと電気化学的センサセルとを備える、ガスセンサ用のセンサ素子の電気的特性を検査する方法であって、センサ素子を検査用のガス雰囲気下で所定時間駆動させた後に電気的特性を検査することを特徴とする。
【0013】
請求項4の発明は、請求項3に記載のガスセンサ用のセンサ素子の電気的特性検査方法であって、前記センサ素子を検査用のガス雰囲気下で所定時間駆動させた後であって、前記電気的特性を検査する前に、前記センサ素子を大気中で放置する、ことを特徴とする。
【0014】
請求項5の発明は、電気化学的ポンプセルと電気化学的センサセルとを備える、ガスセンサ用のセンサ素子の、電気的特性の検査に先立って行う前処理方法であって、センサ素子を検査用のガス雰囲気下で所定時間駆動させることを特徴とする。
【0015】
請求項6の発明は、請求項5に記載のガスセンサ用のセンサ素子の前処理方法であって、前記センサ素子を検査用のガス雰囲気下で所定時間駆動させた後に、前記センサ素子を大気中で放置する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
請求項1ないし請求項6の発明によれば、センサ素子の電気的特性の検査である素子特性検査を行うに先立って、所定の時間センサ素子を駆動することで、電極の状態を安定させたうえで、素子特性検査を行うことができる。これにより、素子特性検査において本来であれば良品のセンサ素子を不良品と判定してしまう誤判定が防止されるとともに、信頼性のある感度特性を確実に決定することができる。すなわち、製品歩留まりを向上させることができるとともに、信頼性の高いガスセンサを実現することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】NOxセンサ100が備えるセンサ素子101の構造を模式的に示す断面図である。
【図2】NOx電流Ip2とNOx濃度との関数関係を示すグラフを例示している。
【図3】センサ素子101を作製する際の処理の流れを示す図である。
【図4】素子特性検査に用いる検査装置1000を例示する模式図である。
【図5】素子特性検査に関する処理の流れを示す図である。
【図6】前処理としてセンサ素子101の駆動を行った後に素子特性検査を行った場合のNOx電流Ip2の様子を例示する図である。
【図7】前処理を行うことなく素子特性検査を行った場合のNOx電流Ip2の様子を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<センサ素子の概略構成>
図1は、NOxセンサ100が備えるセンサ素子101の構造を模式的に示す断面図である。図1に示すセンサ素子101は、酸素イオン伝導性固体電解質であるジルコニアを主成分とするセラミックスを構造材料として構成されてなる。
【0019】
具体的には、センサ素子101は、それぞれが酸素イオン伝導性固体電解質からなる第1基板層1と、第2基板層2と、第3基板層3と、第1固体電解質層4と、スペーサ層5と、第2固体電解質層6との6つの層が、図面視で下側からこの順に積層された構造を有する。
【0020】
センサ素子101の一先端部側であって、第2固体電解質層6の下面と第1固体電解質層4の上面との間には、ガス導入口10と、第1拡散律速部11と、緩衝空間12と、第2拡散律速部13と第1内部空所20と、第3拡散律速部30と、第2内部空所40とが、この順に連通する態様にて隣接形成されてなる。ガス導入口10と、緩衝空間12と第1内部空所20と第2内部空所40とは、スペーサ層5をくり抜いた態様にて設けられた上部を第2固体電解質層6の下面で、下部を第1固体電解質層4の上面で、側部をスペーサ層5の側面で区画された内部空間である。第1拡散律速部11と第2拡散律速部13と、第3拡散律速部30とはいずれも、2本の横長の(図面に垂直な方向に開口が長手方向を有する)スリットとして設けられる。ガス導入口10から第2内部空所40に至る部位を、ガス流通部とも称する。
【0021】
また、第3基板層3の上面と、スペーサ層5の下面との間であって、ガス流通部よりも先端側から遠い位置には、基準ガス導入空間43が設けられてなる。基準ガス導入空間43は、上部をスペーサ層5の下面で、下部を第3基板層3の上面で、側部を第1固体電解質層4の側面で区画された内部空間である。基準ガス導入空間43には、基準ガスとして、例えば大気が導入される。
【0022】
ガス導入口10は、外部空間に対して開口してなる部位であり、該ガス導入口10を通じて外部空間からセンサ素子101内に被測定ガスが取り込まれる。
【0023】
第1拡散律速部11は、ガス導入口10から取り込まれた被測定ガスに対して、所定の拡散抵抗を付与する部位である。
【0024】
緩衝空間12は、外部空間における被測定ガスの圧力変動(被測定ガスが自動車の排気ガスの場合であれば排気圧の脈動)によって生じる被測定ガスの濃度変動を、打ち消すことを目的として設けられてなる。
【0025】
第2拡散律速部13は、緩衝空間12から第1内部空所20に導入される被測定ガスに、所定の拡散抵抗を付与する部位である。
【0026】
第1内部空所20は、第2拡散律速部13を通じて導入された被測定ガス中の酸素分圧を調整するための空間として設けられる。係る酸素分圧は、主ポンプセル21が作動することによって調整される。
【0027】
主ポンプセル21は、第1内部空所20に面する第2固体電解質層6の下面およびスペーサ層5の上面のほぼ全面に設けられた内側ポンプ電極22と、第2固体電解質層6の上面の内側ポンプ電極22と対応する領域に外部空間に露出する態様にて設けられた外側ポンプ電極23と、これらの電極に挟まれた酸素イオン伝導性固体電解質とを含んで構成される電気化学的ポンプセルである。内側ポンプ電極22と外側ポンプ電極23とは、平面視矩形状の多孔質サーメット電極(例えば、0.01wt%〜0.95wt%のAuを含む貴金属とZrO2とのサーメット電極)として形成される。なお、内側ポンプ電極22は、被測定ガス中のNO成分に対する還元能力を弱めた、あるいは、還元能力のない材料を用いて形成される。すなわち、内側ポンプ電極22は、NO成分に対する還元性が抑制された低NO還元性ポンプ電極として設けられる。
【0028】
主ポンプセル21においては、センサ素子101外部に備わる可変電源24によりポンプ電圧Vp0を印加して、外側ポンプ電極23と内側ポンプ電極22との間に正方向あるいは負方向にポンプ電流Ip0を流すことにより第1内部空所20内の酸素を外部空間に汲み出し、あるいは、外部空間の酸素を第1内部空所20内に汲み入れることが可能となっている。
【0029】
また、センサ素子101においては、内側ポンプ電極22と、第3基板層3の上面と第1固体電解質層4とに挟まれる基準電極42と、これらの電極に挟まれた酸素イオン伝導性固体電解質とによって、電気化学的センサセルである第1酸素分圧検出センサセル60が構成されている。基準電極42は、平面視ほぼ矩形状の多孔質サーメット電極である。また、基準電極42の周囲には、多孔質アルミナからなり、基準ガス導入空間につながる大気導入層48が設けられてなり、基準電極42の表面に基準ガス導入空間43の基準ガス(大気)が導入されるようになっている。第1酸素分圧検出センサセル60においては、第1内部空所20内の雰囲気と基準ガス導入空間43の基準ガスとの間の酸素濃度差に起因して内側ポンプ電極22と基準電極42との間に起電力V0が発生する。
【0030】
センサ素子101においては、第1酸素分圧検出センサセル60において生じる起電力V0が、主ポンプセル21の可変電源24をフィードバック制御するために使用される。これにより、可変電源24が主ポンプセル21に印加するポンプ電圧Vp0を、第1内部空所20の雰囲気の酸素分圧に応じて制御することができる。本実施の形態に係るセンサ素子101においては、第1内部空所20の雰囲気の酸素分圧が、第2内部空所40において酸素分圧制御が行え得る程度に十分低い所定の値となるように、可変電源24が主ポンプセル21に印加するポンプ電圧Vp0が制御される。
【0031】
第3拡散律速部30は、第1内部空所20から第2内部空所40に導入される被測定ガスに、所定の拡散抵抗を付与する部位である。
【0032】
第2内部空所40は、第3拡散律速部30を通じて導入された該被測定ガス中の窒素酸化物(NOx)濃度の測定に係る処理を行うための空間として設けられる。
【0033】
また、第2内部空所40では、あらかじめ第1内部空所20において酸素分圧が調整された後、第3拡散律速部30を通じて導入された被測定ガスに対して、さらに、補助ポンプセル50による酸素分圧の調整が行われるようになっている。これにより、NOxセンサ100においては、高精度でのNOx濃度測定が実現される。
【0034】
補助ポンプセル50は、第2内部空所40に面する第2固体電解質層6の下面の略全面およびスペーサ層5の一部に設けられた補助ポンプ電極51と、外側ポンプ電極23と、これらの電極に挟まれた酸素イオン伝導性固体電解質とを含んで構成される、補助的な電気化学的ポンプセルである。補助ポンプ電極51は、内側ポンプ電極22と同様に、被測定ガス中のNO成分に対する還元能力を弱めた、あるいは、還元能力のない材料を用いて形成される。すなわち、補助ポンプ電極51も、NO成分に対する還元性が抑制された低NO還元性ポンプ電極として設けられる。
【0035】
補助ポンプセル50においては、センサ素子101外部に備わる可変電源52によりポンプ電圧Vp1を印加して、外側ポンプ電極23と補助ポンプ電極51との間に正方向にポンプ電流Ip1が流れるようにすることにより第2内部空所40内の酸素を外部空間に汲み出すことが可能となっている。
【0036】
また、センサ素子101においては、補助ポンプ電極51と、基準電極42と、これらの電極に挟まれた酸素イオン伝導性固体電解質とによって、電気化学的センサセルである第2酸素分圧検出センサセル61が構成されている。第2酸素分圧検出センサセル61においては、第2内部空所40内の雰囲気と基準ガス導入空間43の基準ガス(大気)との間の酸素濃度差に起因して補助ポンプ電極51と基準電極42との間に起電力V1が発生する。
【0037】
センサ素子101においては、第2酸素分圧検出センサセル61において生じる起電力V1が、補助ポンプセル50の可変電源52をフィードバック制御するために使用される。これにより、可変電源52が補助ポンプセル50に印加するポンプ電圧Vp1を、第2内部空所40の雰囲気の酸素分圧に応じて制御することができる。本実施の形態に係るセンサ素子101においては、第2内部空所40の雰囲気の酸素分圧が、NOx濃度の測定に実質的に影響のない程度の十分低い所定の値となるように、可変電源52が補助ポンプセル50に印加するポンプ電圧Vp1が制御される。
【0038】
さらに、センサ素子101には、測定センサセル41と測定ポンプセル47とが備わっている。測定センサセル41は、測定電極44と、基準電極42と、これらの電極に挟まれた酸素イオン伝導性固体電解質とによって構成される電気化学的センサセルである。測定ポンプセル47は、外側ポンプ電極23と、測定電極44と、これらの電極に挟まれた酸素イオン伝導性固体電解質とを含んで構成される電気化学的ポンプセルである。
【0039】
測定電極44は、いずれも平面視ほぼ矩形状の多孔質サーメット電極である。測定電極44は、被測定ガス成分たるNOxを還元し得る金属と、ジルコニアからなる多孔質サーメットにて構成される。例えば、金属成分としては、主成分であるPtに、Rhを添加したものを用いることができる。これによって、測定電極44は、第2内部空所40内の雰囲気中に存在するNOxを還元するNOx還元触媒としても機能する。
【0040】
なお、測定電極44は、電極保護層45によって被覆されてなる。電極保護層45は、多孔質のアルミナ層であり、電極保護層45は、測定電極44に流入するNOxの量を制限することで、測定電極44に触媒活性を有効に保持させることを目的として設けられるものである。換言すれば、電極保護層45は、測定電極44に導入される被測定ガスに、所定の拡散抵抗を付与する部位であるともいえる。電極保護層45の詳細については後述する。
【0041】
測定電極44においては、その触媒活性作用によって被測定ガス中のNOxが還元あるいは分解されることによって酸素が生じる。これにより、測定センサセル41においては、測定電極44と基準電極42との間に起電力V2が生じる。係る起電力V2に基づいて、センサ素子101の外部に設けられた測定ポンプセル47の可変電源46をフィードバック制御することにより、可変電源46が測定ポンプセル47に印加するポンプ電圧Vp2を、測定電極44において発生した酸素の酸素分圧に応じて制御することができる。本実施の形態に係るセンサ素子101においては、このとき測定ポンプセル47を流れる電流(NOx電流)Ip2を検出し、係る電流Ip2が被測定ガス中のNOx濃度に略比例する(NOx電流Ip2とNOx濃度とが線型関係にある)ことに基づいて、被測定ガス中のNOx濃度を求めるようになっている。
【0042】
図2は、係るNOx電流Ip2とNOx濃度との関数関係を示すグラフ(感度特性)を例示している。理想的には、NOxが存在しない状態においてはIp2の値は0となるはずであるが、実際には、被測定ガスから酸素は完全には除去されず、測定電極にまで達した被測定ガス中にも酸素はわずかに残存するので、NOxが存在しない状態においても係る酸素が分解されて生じた酸素イオンによって、電流が流れることになる。係るNOx濃度がゼロのときのNOx電流Ip2を特にオフセット電流Ip2ofsと称する。
【0043】
図2に示したような感度特性(具体的にはオフセット電流Ip2ofsとグラフの傾き)は、個々のセンサ素子101ごとに使用に先立ってあらかじめ特定される。実際のNOxの検出に際しては、Ip2の値が絶えず測定され、先に特定されていた感度特性をもとに、個々の測定値に対応するNOx濃度が求められることになる。
【0044】
なお、センサ素子101においては、外側ポンプ電極23と基準電極42との間に生じる起電力Vrefを測定することにより、センサ素子101外部の酸素分圧を知ることもできるようになっている。
【0045】
さらに、センサ素子101においては、第2基板層2と第3基板層3とに上下から挟まれた態様にて、ヒータ70が形成されてなる。ヒータ70は、第1基板層1の下面に設けられた図示しないヒータ電極を通して外部から給電されることより発熱する。ヒータ70が発熱することによって、センサ素子101を構成する固体電解質の酸素イオン伝導性が高められる。ヒータ70は、第1内部空所20から第2内部空所40の全域に渡って埋設されており、センサ素子101の所定の場所を所定の温度に加熱、保温することができるようになっている。なお、ヒータ70の上下面には、第2基板層2および第3基板層3との電気的絶縁性を得る目的で、アルミナ等からなるヒータ絶縁層72が形成されている(以下、ヒータ70、ヒータ電極、ヒータ絶縁層72をまとめてヒータ部とも称する)。
【0046】
以上のように、本実施の形態に係るNOxセンサ100においては、主ポンプセル21と補助ポンプセル50とを作動させることによって酸素分圧が常に一定の低い値(NOxの測定に実質的に影響がない値)に保たれた被測定ガスが測定電極44に与えられる。そして、測定電極44においてNOxの還元或いは分解によって酸素が発生することにより測定センサセル41に生じる起電力に応じて測定ポンプセル47を流れるポンプ電流が、被測定ガス中のNOx濃度との間に線型関係を有している。このことに基づいて、被測定ガス中のNOx濃度を知ることができるようになっている。
【0047】
<センサ素子の製造方法>
次に、上述のような構造を有するセンサ素子101を製造するプロセスについて説明する。概略的にいえば、本実施の形態においては、ジルコニアなどの酸素イオン伝導性固体電解質をセラミックス成分として含む複数枚のグリーンシートに所定のパターンを形成した上でそれらの積層体を形成し、該積層体を切断・焼成することによってセンサ素子101を作製する。
【0048】
以下においては、図1に示した6つの層からなるセンサ素子101を作製する場合を例として説明する。係る場合、第1基板層1と、第2基板層2と、第3基板層3と、第1固体電解質層4と、スペーサ層5と、第2固体電解質層6とに対応する6枚のグリーンシートが用意されることになる。
【0049】
図3は、センサ素子101を作製する際の処理の流れを示す図である。センサ素子101を作製する場合、まず、パターンが形成されていないグリーンシートであるブランクシート(図示せず)を複数枚用意する(ステップS1)。ブランクシートは、印刷時や積層時の位置決めに用いる複数のシート穴が設けられている。係るシート穴は、パターン形成に先立つブランクシートの段階で、パンチング装置による打ち抜き処理などで、あらかじめ形成されている。なお、対応する層が内部空間を構成するグリーンシートの場合、該内部空間に対応する貫通部も、同様の打ち抜き処理などによってあらかじめ設けられる。また、センサ素子101の各層に対応するそれぞれのブランクシートの厚みは、全て同じである必要はない。
【0050】
各層に対応したブランクシートが用意できると、それぞれのブランクシートに対して種々のパターンを形成するパターン印刷・乾燥処理を行う(ステップS2)。具体的には、外側ポンプ電極23、内側ポンプ電極22、補助ポンプ電極51、測定電極44、基準電極42などの電極パターンや、電極保護層45や、大気導入層48や、図示を省略している内部配線などが形成される。なお、センサ素子101の最表面である第2固体電解質層6を構成することになるグリーンシートに対しては、後工程において積層体を切断するときに切断位置の基準とされるカットマークも印刷される。
【0051】
各々のパターンの印刷は、それぞれの形成対象に要求される特性に応じて用意したパターン形成用ペーストを、公知のスクリーン印刷技術を利用してブランクシートに塗布することにより行う。印刷後の乾燥処理についても、公知の乾燥手段を利用可能である。乾燥処理は、例えば75℃〜90℃の温度で大気雰囲気にて行うのが好適な一例である。
【0052】
パターン印刷が終わると、各層に対応するグリーンシート同士を積層・接着するための接着用ペーストの印刷・乾燥処理を行う(ステップS3)。接着用ペーストの印刷には、公知のスクリーン印刷技術を利用可能であり、印刷後の乾燥処理についても、公知の乾燥手段を利用可能である。係る乾燥処理についても、例えば75℃〜90℃の温度で大気雰囲気にて行うのが好適である。
【0053】
続いて、接着用ペーストが塗布されたグリーンシートを所定の順序に積み重ねて、所定の温度・圧力条件を与えることで圧着させ、一の積層体とする圧着処理を行う(ステップS4)。具体的には、図示しない所定の積層治具に積層対象となるグリーンシートをシート穴により位置決めしつつ積み重ねて保持し、公知の油圧プレス機などの積層機によって積層治具ごと加熱・加圧することによって行う。加熱・加圧を行う圧力・温度・時間については、用いる積層機にも依存するものであるが、良好な積層が実現できるよう、適宜の条件が定められればよい。
【0054】
上述のようにして積層体が得られると、続いて、係る積層体の複数個所を切断してセンサ素子101個々の単位(素子体と称する)に切り出す(ステップS5)。切り出された素子体を、所定の条件下で焼成することにより、素子体中の有機物成分の蒸発やセラミックス成分の焼結さらには電極金属の焼結などが進行する(ステップS6)。焼成は、例えば1350℃〜1400℃の焼成温度で大気雰囲気下にて行うのが好適な一例である。
【0055】
焼成後の素子体に対しては、焼成によって酸化された電極の還元を目的として、リッチ雰囲気下でのエージング処理(ステップS7)が施される。リッチ雰囲気の形成には、例えば、COや、CH4、C26、あるいはC38などを含むガスが用いられる。
【0056】
そして、エージング処理を経た後の素子体を対象に、外観検査や素子特性検査などの種々の検査がなされる(ステップS8)。全ての検査に合格した素子体が、センサ素子101として所定のハウジングに収容され、NOxセンサ100の本体(図示せず)に組み込まれる。
【0057】
<素子特性検査>
次に、上述したセンサ素子101の製造プロセスに含まれる検査工程のうち、素子特性検査について説明する。素子特性検査は、エージング処理後の素子体をセンサ素子101としてNOxセンサ100の本体部に組み込むに先立ち、各ポンプセルや各センサセルがあらかじめ規格として定められた範囲内の特性を有することを確認するために行う、電気的特性の検査である。なお、以降においては、説明の簡単のため、エージング処理後の素子体を検査における合否に関わらず単にセンサ素子101と表記する。
【0058】
図4は、素子特性検査に用いる検査装置1000を例示する模式図である。検査装置1000は、混合ガスを所望の混合比にて供給する混合ガス供給装置102と、混合ガス供給装置102から混合ガスが導入される測定チャンバ103と、測定チャンバ103に配置したセンサ素子101の所定位置にプローブ104を接続することにより、所定の電気的測定を行える測定装置105と、を備える。測定装置105としては、検査内容に見合った測定が行える測定器等が適宜に用いられればよい。
【0059】
図4においては図示の単純化のために混合ガス供給装置102に対して1つの測定チャンバ103が接続される場合を例示しているが、混合ガス供給装置102からの供給配管を分岐させることにより、複数の測定チャンバ103が一の混合ガス供給装置102に接続される態様であってもよい。係る場合、複数のセンサ素子101に対する測定が同時並行的に行えるようになっていることが好ましい。
【0060】
また、図4においては図示の簡単のため、2つのプローブ104によってセンサ素子101の端部を挟む態様にてプローブ104がセンサ素子101に接続される場合を例示しているが、実際のプローブ104の個数や接続態様はこれに限られるものではない。センサ素子101の具体的構造および素子特性検査の検査内容に応じて適宜に用意された、電圧印加用、通電用、さらには電流検出用のプローブ104が、適宜の位置(それぞれの電極に対応する図示しない端子位置)に接続される。
【0061】
混合ガス供給装置102は、窒素供給系110と、水供給系120と、酸素供給系130と、NO供給系140とを備えている。それぞれの供給系には、それぞれの物質の供給源(ボンベもしくはタンクなど)として、窒素供給源111と、水供給源121と、酸素供給源131と、NO供給源141とを備えている。また、流量調整を行うためのマスフローコントローラー112、122、132、および142と、バルブ113、123、133、および143が、それぞれの供給路114、124、134、および144の途中に備わっている。
【0062】
これら4つの供給系のうち、窒素供給系110の供給路114と水供給系120の供給路124とは、気化器150に接続されている。気化器150においては、水供給系120から供給される水が気化され、水蒸気とされて、窒素供給系110から供給される窒素と混合される。なお、気化器150には、内部の雰囲気を加熱することができるヒータH1が付設されている。ヒータH1は図示しない温度コントローラによって制御される。
【0063】
気化器150における水蒸気と窒素との混合は、ヒータH1によって気化器150内の雰囲気を100℃から120℃程度の範囲で加熱した状態で行われる。これによって、水が気化することなく残留することが好適に防止される。混合された水蒸気と窒素の混合ガスは、気化器150から第1予備混合路160に流出される。
【0064】
一方、酸素供給系130とNO供給系140とは、合流点C1で合流し、両者から供給される酸素とNOとの混合ガスが、第2予備混合路170を流れるようになっている。
【0065】
そしてさらに、第2予備混合路170は合流点C2で第1予備混合路160に合流するようになっている。これにより、両者から供給されるガスの混合ガス、つまりは、4つの供給系からの全てのガスの混合ガスが、混合ガス供給路180を流れることになる。なお、混合ガス供給路180の合流点C2の近傍には、ガスミキサー181が設けられており、混合ガスは、ガスミキサー181による十分な混合を経た上で、混合ガス供給路180の端部の供給口183から測定チャンバ103へと供給されるようになっている。また、混合ガス供給路180にはバルブ182が設けられており、バルブ182によって、測定チャンバ103へと供給される混合ガスの流量が調整される。
【0066】
ガスミキサー181としては、いわゆるスタティックミキサー(静止型混合器)を用いるのが好適な一例であるが、ダイナミックミキサーを用いる態様であってもよい。
【0067】
また、混合ガス供給路180には、ヒータH2が付設されている。なお、好ましくは、測定チャンバ103にもヒータH3が設けられる。ヒータH2およびヒータH3は図示しない温度コントローラによって制御される。これらのヒータH2およびヒータH3によって、測定チャンバ103内の雰囲気は、100℃から120℃程度の範囲で保たれる。
【0068】
測定チャンバ103は、その一方端側は混合ガス供給装置102の供給口183に接続されているが、他方端側は外部と連通する開口部103aとなっており、この開口部103aからから測定チャンバ103の内部にセンサ素子101が挿入される。なお、測定装置105による測定に際し、センサ素子101は、ガス導入口10の備わる側を測定チャンバ103に挿入させ、端子電極151および152が備わる側を測定チャンバ103外に突出させる態様にて配置される。図4には、係る状態が例示されている。
【0069】
なお、図4においては、窒素供給源111から供給路114、第1予備混合路160さらには混合ガス供給路180の供給口183に至る供給経路がコの字型に図示されているが、これはあくまで便宜上のものであって、実際の混合ガス供給装置102における配管配置を示すものではない。
【0070】
本実施の形態においては、素子特性検査の際、窒素(N2)ガスを混合比(流量比)が最大の第1主成分とし、酸素(O2)ガスを次に混合比の大きな第2主成分として10%〜18%程度含み、微量成分として、水蒸気(H2O)を全体のおよそ数%程度含む混合ガス(第1混合ガス)、あるいは係る第1混合ガスにさらに数百ppm〜1000ppm程度(例えば500ppm程度)の一酸化窒素(NO)ガスを混合した混合ガス(第2混合ガス)を混合ガス供給装置102によって供給する。例えば、酸素(O2)ガスを18%、水蒸気(H2O)を3%、そして残余を窒素(N2)ガスとするのが第1混合ガスの好適な一例であり、酸素(O2)ガスを18%、水蒸気(H2O)を3%、一酸化窒素(NO)ガスを500ppm、そして残余を窒素(N2)ガスとするのが第2混合ガスの好適な一例である。係る第2混合ガスは、NOxセンサ100が検出対象とする内燃機関からの排ガス成分に類似している。
【0071】
図5は、本実施の形態における素子特性検査に関する処理の流れを示す図である。図5に示すように、本実施の形態においては、測定チャンバ103にセンサ素子101をセット(ステップS11)した後、前処理として、第2混合ガスを流した状態で、センサ素子101を駆動するようにする(ステップS12)。そしてその後に、第1あるいは第2混合ガス雰囲気を流した状態で素子特性検査を行う(ステップS14)ようにする。なお、好ましくは、前処理を行った後、直ちに素子特性検査を行うのではなく、前処理後のセンサ素子101を大気中に所定時間放置しておいた後、素子特性検査を行うようにしてもよい(ステップS13)。ここで、センサ素子101を駆動するとは、測定用のプローブ104にて実際にNOx電流Ip2を測定すれば第2混合ガス中のNO濃度に応じた電流値が得られる状態となるように、ヒータ部を含めたセンサ素子101の各部に対して、所定の電圧の印加および所定の電流量での通電を行うことを意味している。
【0072】
駆動時間は、10分程度とするのが好適である。さらに長い時間駆動させることでもよいが、あくまで検査の前処理としての駆動であるため、生産性向上の観点からは必要以上の駆動は好ましくない。
【0073】
このような前処理を行うのは、センサ素子101が備える各電極の状態を安定させるためである。具体的には、係る前処理を行うことによって、素子特性検査の間さらには実際にセンサ素子がNOxセンサ100の本体部に組み込まれて使用される際における、各電極の状態を安定させることができる。
【0074】
図6は、前処理としてセンサ素子101の駆動を行った後に素子特性検査を行った場合のNOx電流Ip2の様子を例示する図である。図7は、比較のために示す、前処理を行うことなく素子特性検査を行った場合のNOx電流Ip2の様子を例示する図である。
【0075】
図6および図7のいずれも、12個のセンサ素子101について、第2混合ガスの供給を断続的に行いつつ、NOx電流Ip2の値の変化を観測した結果を示している。具体的には、時間bのみ第2混合ガスを流し、その前後の時間aおよび時間cでは第2混合ガスを流さないようにしたときの結果である。
【0076】
上述したように、センサ素子101の各電極は、センサ素子101を製造する過程において行う焼成によって形成されるが、その際にそれぞれの電極はいくぶん酸化するので、係る酸化した電極を還元させるためにエージング処理が行われる。しかしながら、これら焼成の際の酸化度合とその後のエージング処理の際の還元度合は、個々のセンサ素子によって様々であり、同じ条件で焼成およびエージング処理を行ったとしても、必ずしも一定のものとはなっていない。また、エージング処理後の電極においては、COや、CH4、C26、あるいはC38などのリッチ成分が吸着して残留することがあり、その程度も個々のセンサ素子101ごとおよび電極ごとにまちまちである。
【0077】
前処理を行うことなく素子特性検査を行った場合、電極の状態にこのようなばらつきがあるために、電気化学的ポンプセルにおける酸素ポンピング能や測定電極におけるNOx還元能などが一定でない不安定な状態のままで、検査が進行することとなる。図7に示した結果は、そのような状況のもとで得られたものである。そのため、混合ガスが流れていないために本来ならば同程度であるべき時間aおよび時間cにおけるNOx電流Ip2の値には明確な差異が生じている。すなわち、混合ガスが流れない状況におけるNOx電流Ip2の値には再現性がない。
【0078】
これに対して、図6に示す、前処理を行った場合については、時間aおよび時間cにおけるNOx電流Ip2の値はほぼ同程度である。すなわち、混合ガスが流れない状況におけるNOx電流Ip2の値に再現性がある。なお、図6においては混合ガスが流れない場合を時間aと時間cの2度だけとしているが、その後さらに混合ガスの供給とその停止を繰り返した場合でも、同様の再現性が得られることが、本発明の発明者によって確認されている。
【0079】
このような図6と図7との結果の相違は、素子特性検査を行うに先立って前処理を行うことが、電極の安定化にとって有効であることを指し示している。電極が安定しないうちに素子特性検査を行ってしまうと、安定状態であれば良品と判定されるであろうセンサ素子101を不良品と判定してしまうことになるため、前処理の実施は、このような誤判定の防止に有効であるといえる。
【0080】
また、図7に示したような変動があるなかで感度特性を決定してしまうと、その後のNOxセンサ100の使用の際に係る感度特性が再現されない可能性があるため、係る感度特性に基づいて算出したNOx濃度は、必ずしも十分な信頼性を有しているとはいえないこととなるが、前処理を行った場合には、図7に示したような変動は見られないことから、信頼性のある感度特性を確実に決定することができる。
【0081】
なお、図7に示したような前処理を行わないセンサ素子101の場合も、素子特性検査の過程で長時間センサ素子101を駆動するようにすれば、やがては電極の状態が安定することが確認されているが、そのような安定状態に達するまでの時間は個々のセンサ素子101ごとにまちまちであることから、そのような対応は、できるだけ短時間でかつルーチン的に行うことが求められる素子特性検査にはなじまず、非効率である。
【0082】
また、電極の安定化を図るという点にのみ着目すれば、原理的には、上述のような前処理を行っていないセンサ素子101をガスセンサ100の本体部に組み込んだ後において、該ガスセンサ100を駆動させるという態様でも、同様の目的を達することは出来るが、係る場合、感度特性の安定性が必ずしも確保されないために好ましくない。また、不良品であって早期に除外されるべきセンサ素子101を後段の組み立て工程にまで流してしまうリスクが高くなるという問題も生じる。
【0083】
上述したように、前処理を行った後、センサ素子101に対して直ちに素子特性検査を行うのではなく、前処理後のセンサ素子101を大気中に所定時間放置しておいた後、素子特性検査を行うようにするのが好ましい。センサ素子101にピンホールなどの欠陥があり、該欠陥を通じて内部空所内に酸素が入り込んでしまうような場合、該センサ素子101においてはNOx電流Ip2の値が規格から大きく外れることとなる。素子特性検査に先立って大気中放置を行うことで、素子特性検査の際に、そうした欠陥のあるセンサ素子101についても不良品と判定することが容易となる。
【0084】
ここで、センサ素子101を大気中に所定時間放置するとは、センサ素子101が大気とごくわずかな時間接触するという程度を想定したものではなく、少なくとも、欠陥のあるセンサ素子101において内部に酸素が入り込むに十分な時間、放置を行うことを意図している。具体的には、放置時間は、概ね30分以上24時間以下とするのが好適である。さらに長い時間放置することでもよいが、あくまで検査の前処理としての放置であるため、生産性向上の観点からは必要以上の放置は好ましくない。
【0085】
なお、本実施の形態の場合、混合ガス供給装置102からの混合ガスの供給が停止されると、測定チャンバ103の開口部103aから外部の大気が測定チャンバ103の内部へと入り込むので、前処理の後、測定チャンバ103にセンサ素子101を挿入したままで、混合ガスの供給さえ停止すれば、センサ素子101を大気中で放置することが出来る。すなわち、本実施の形態の場合、検査装置1000を用いることで、センサ素子101に対する前処理、大気中放置、および素子特性検査を、連続的に行うことが出来る。すなわち、素子特性検査のための一連の工程を、効率的に行えるようになっている。
【0086】
以上、説明したように、本実施の形態によれば、センサ素子の電気的特性の検査である素子特性検査を行うに先立って、所定の時間センサ素子を駆動することで、電極の状態を安定させたうえで、素子特性検査を行うことができる。これにより、素子特性検査において本来であれば良品のセンサ素子を不良品と判定してしまう誤判定が防止されるとともに、信頼性のある感度特性を確実に決定することができる。すなわち、本実施の形態によれば、製品歩留まりを向上させることができるとともに、信頼性の高いNOxセンサを実現することが出来る。
【符号の説明】
【0087】
1 第1基板層
2 第2基板層
3 第3基板層
4 第1固体電解質層
5 スペーサ層
6 第2固体電解質層
10 ガス導入口
11 第1拡散律速部
12 緩衝空間
13 第2拡散律速部
20 第1内部空所
22 内側ポンプ電極
23 外側ポンプ電極
24 可変電源
30 第3拡散律速部
40 第2内部空所
42 基準電極
43 基準ガス導入空間
44 測定電極
45 電極保護層
46 可変電源
48 大気導入層
51 補助ポンプ電極
52 可変電源
100 NOxセンサ
101 センサ素子
102 混合ガス供給装置
103 測定チャンバ
104 プローブ
105 測定装置
1000 検査装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気化学的ポンプセルと電気化学的センサセルとを備える、ガスセンサ用のセンサ素子の製造方法であって、
酸素イオン伝導性固体電解質であるセラミックスを主成分とするグリーンシートに導電性ペーストからなる配線パターンを印刷形成する印刷工程と、
前記印刷工程を経た複数のグリーンシートを積層し一体化する積層工程と、
前記積層工程によって得られた積層体から複数の素子体を切り出す切断工程と、
前記切断工程によって切り出された素子体を焼成する焼成工程と、
前記焼成工程を経た素子体を還元雰囲気で加熱するエージング工程と、
前記エージング工程を経た素子体を検査用のガス雰囲気下で所定時間駆動させる前処理工程と、
前記前処理工程を経た素子体の電気的特性を検査する検査工程と、
を含むことを特徴とするガスセンサ用のセンサ素子の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のガスセンサ用のセンサ素子の製造方法であって、
前記前処理工程と、前記検査工程との間に、
前記前処理工程を経た素子体を大気中で放置する放置工程、
をさらに含むことを特徴とするガスセンサ用のセンサ素子の製造方法。
【請求項3】
電気化学的ポンプセルと電気化学的センサセルとを備える、ガスセンサ用のセンサ素子の電気的特性を検査する方法であって、
センサ素子を検査用のガス雰囲気下で所定時間駆動させた後に電気的特性を検査することを特徴とするガスセンサ用のセンサ素子の電気的特性検査方法。
【請求項4】
請求項3に記載のガスセンサ用のセンサ素子の電気的特性検査方法であって、
前記センサ素子を検査用のガス雰囲気下で所定時間駆動させた後であって、前記電気的特性を検査する前に、前記センサ素子を大気中で放置する、
ことを特徴とするガスセンサ用のセンサ素子の電気的特性検査方法。
【請求項5】
電気化学的ポンプセルと電気化学的センサセルとを備える、ガスセンサ用のセンサ素子の、電気的特性の検査に先立って行う前処理方法であって、
センサ素子を検査用のガス雰囲気下で所定時間駆動させることを特徴とするガスセンサ用のセンサ素子の前処理方法。
【請求項6】
請求項5に記載のガスセンサ用のセンサ素子の前処理方法であって、
前記センサ素子を検査用のガス雰囲気下で所定時間駆動させた後に、前記センサ素子を大気中で放置する、
ことを特徴とするガスセンサ用のセンサ素子の前処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−145285(P2011−145285A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−271291(P2010−271291)
【出願日】平成22年12月6日(2010.12.6)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【出願人】(509302663)エヌジーケイ・セラミックデバイス株式会社 (20)