説明

ガスタービンのシール構造

【課題】ガスタービンの効率を低下させることなく、キャビティへの燃焼ガスの巻き込みを抑制するガスタービンのシール構造を提供する。
【解決手段】静翼1の内側シュラウド3の内壁面3aから軸方向下流側に分岐した分岐部11を設けると共に、内壁面3aと分岐部11との間の空間に、動翼2のプラットホーム6から軸方向上流側に延設した延設部12を設け、更に、延設部12の先端に、内壁面3aと向かって突設され、内壁面3aと平行な平坦部を有する平坦凸部12aを設けると共に、平坦凸部12aの近傍に、内壁面3aに対向する凹部12bを設けたガスタービンのシール構造。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスタービンのシール構造に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスタービンは、上流側から下流側に向かって、燃焼器に送る燃焼用空気を圧縮する圧縮機と、圧縮機から送られた燃焼用空気に燃料を噴射して燃焼させて、高温の燃焼ガスを発生させる燃焼器と、燃焼器から供給された高温の燃焼ガスにより駆動されるタービン部とを有するものである。
【0003】
タービン部は、静翼と動翼が、この順に上流側から交互に複数配置された構成であり、上流側の静翼により膨張、減圧された高温の燃焼ガスが、最適な角度で下流側の動翼に流入し、動翼を回転させることにより、タービンロータに回転動力を与えている。
【0004】
【特許文献1】米国特許第4820116号明細書
【特許文献2】米国特許第6077035号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2005/0271504号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように、静翼、動翼の部分には、高温(例えば、1500℃程度)の燃焼ガスが流れる一方、静翼を軸側から支持する内側シュラウド、動翼を軸側から支持するプラットホームの内側のキャビティには、冷却用(例えば、200℃程度)のシールエアを流している。
【0006】
しかしながら、燃焼ガスの圧力変動により、燃焼ガスがキャビティ内に巻き込まれることがあった。燃焼ガスは、シールエアよりかなり温度が高いため、少量巻き込まれた場合でもキャビティ内の温度が高温となり、キャビティ内部の部材、例えば、ハニカムシールプレートや固定ボルトが損傷するおそれがあった。この現象を防止するためには、シールエアの空気量を増やせばよいが、増やせば、燃焼ガス流へ低温のシールエアが多く混入し、ガスタービンの効率が低下するおそれがあった。
【0007】
このような現象を防止するため、特許文献1〜3では、キャビティ部分をシールするシール構造が提案されているが、これらのシール構造においても、燃焼ガスの圧力変動の影響を十分に防止することはできず、燃焼ガスがキャビティ内に巻き込まれることがあった。
【0008】
本発明は上記課題に鑑みなされたもので、ガスタービンの効率を低下させることなく、キャビティへの燃焼ガスの巻き込みを抑制するガスタービンのシール構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する第1の発明に係るガスタービンのシール構造は、
軸方向に交互に多段に配置された静翼と動翼の内側のキャビティをシールするガスタービンのシール構造であって、
前記静翼の内側シュラウドの内壁面から軸方向下流側に分岐した分岐部を設けると共に、前記内壁面と前記分岐部との間の空間に、前記動翼のプラットホームから軸方向上流側に延設した延設部を設けて、ダブルオーバーラップ構造とし、
更に、前記延設部の先端に、前記内壁面に向かって突設され、前記内壁面と平行な平坦部を有する平坦凸部を設けると共に、前記延設部の前記平坦凸部の近傍に、前記内壁面に対向する凹部を設けて、ラビリンス構造としたことを特徴とする。
【0010】
上記課題を解決する第2の発明に係るガスタービンのシール構造は、
軸方向に交互に多段に配置された静翼と動翼の内側のキャビティをシールするガスタービンのシール構造であって、
前記静翼の内側シュラウドの垂直壁面に取り付けられ、軸方向下流側に延設された第1分岐部と、前記第1分岐部から分岐して、軸方向下流側に延設された第2分岐部とを有する分岐部材と、前記第1分岐部と前記第2分岐部との間の空間に、前記動翼のプラットホームから軸方向上流側に延設した延設部を設けて、ダブルオーバーラップ構造とし、
更に、前記延設部の先端に、前記第1分岐部の内壁面に向かって突設され、前記内壁面と平行な平坦部を有する平坦凸部を設けると共に、前記延設部の前記平坦凸部の近傍に、前記内壁面に対向する凹部を設けて、ラビリンス構造としたことを特徴とする。
【0011】
上記課題を解決する第3の発明に係るガスタービンのシール構造は、
上記第1又は第2の発明に記載のガスタービンのシール構造において、
前記平坦凸部に対向する前記内壁面に凹部を設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
第1、第2の発明によれば、ダブルオーバーラップ構造にラビリンス構造を設けたので、キャビティ側への高温の燃焼ガスの流入を防ぐと共に、静翼、動翼側へのシールエアの流出を防ぐこともでき、ガスタービンの効率を低下させることなく、キャビティへの燃焼ガスの巻き込みを抑制することができる。又、動翼側からは、1つの突出部分(延設部)があるだけであるので、回転する動翼を軽量にすることができ、その遠心力を小さくすることができ、構造の強度上有利になり、その体格を小さくすることができる。その結果、動翼を設計する際の自由度も向上する。
【0013】
第2の発明によれば、分岐部材は独立したものであるので、交換可能であり、又、その取り付け位置を調整可能である。又、分岐部材自体の母材は、耐熱温度が低い、安価な材料で形成してもよく、その場合、高温に晒される部分にのみ耐熱コーティングを施せば、十分に使用することができ、製造コストを低減することができる。
【0014】
第3の発明によれば、ラビリンス構造を更に複雑にして、そのシール性を更に向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明に係るガスタービンのシール構造の実施形態例を図1、図2を用いて説明する。
【実施例1】
【0016】
図1(a)は、本発明に係るガスタービンのシール構造の実施形態の一例を示す軸方向の概略図であり、図1(b)は、そのシール部分の拡大図である。なお、図1(a)には、ガスタービンのタービン部のみを図示しているが、その上流側には、燃焼器、圧縮機が配置されている。又、燃焼器、圧縮機としては、公知の構成であれば、適宜に適用可能である。
【0017】
図1(a)に示すように、本実施例におけるガスタービンのタービン部は、内周側の内側シュラウド3と外周側の外側シュラウド4との間に放射状に支持された複数の静翼ブレード1aから構成される静翼1と、タービンロータ(図示省略)側のプラットホーム6に放射状に取り付けられた複数の動翼ブレード2aから構成される動翼2とを有しており、静翼1、動翼2が軸方向に交互に多段に配置されたものである。
【0018】
上流の燃焼器からは、高温の燃焼ガスGがタービン部へ供給され、上流側の静翼1により膨張、減圧された高温の燃焼ガスGが、最適な角度で下流側の動翼2に流入し、動翼2を回転させることにより、タービンロータに回転動力を与えている。
【0019】
高温の燃焼ガスGに直接晒される静翼1や動翼2は、耐熱性の高い材料により形成したり、その内部を冷却したりすることにより、高温の燃焼ガスGに耐えられるようになっている。一方、内側シュラウド3やプラットホーム6の内側のキャビティ5には、冷却用のシールエアAが供給されており、キャビティ5周囲の部材に静翼1、動翼2程度の耐熱性が無くても、シールエアAによる冷却により、損傷を受けないようにしている。
【0020】
ところが、燃焼ガスGの圧力は、常に一定とは限らず、場合によっては変動してしまう。高圧側へ変動した場合、高温の燃焼ガスGがキャビティ5側へ流入し、キャビティ5周囲の部材を損傷してしまうおそれがあった。このような事態を防ぐためには、シールエアAの圧力を高くすればよいが、その場合、逆に、シールエアAが静翼1、動翼2側へ流れ出してしまい、燃焼ガスGの流れや温度を変動させて、損失を発生させるおそれがあった。
【0021】
そこで、本発明においては、内側シュラウド3の軸方向下流側とプラットホーム6の軸方向上流側との近接部分のシール構造を、ダブルオーバーラップ構造とすると共に複雑なラビリンス構造を設けることにより、キャビティ5側への高温の燃焼ガスGの流入を防ぐと共に、静翼1、動翼2側へのシールエアAの流出を防ぐようにしている。
【0022】
具体的には、本実施例のシール構造は、内側シュラウド3の内壁面3aから軸中心方向に分岐すると共に、その先端部が軸方向下流側に湾曲して延設された分岐部11と、プラットホーム6から軸方向上流側に延設されて、内壁面3aと分岐部11との間の空間に配置された延設部12とを有している。つまり、延設部12を、内壁面3aと分岐部11との間に配置することにより、シール構造をダブルオーバーラップ構造としている。又、静翼1側からは、実質的に2つの突出部分(内壁面3a及び分岐部11)があるのに対して、動翼2側からは、1つの突出部分(延設部12)があるだけであるので、回転する動翼2を軽量にすることができ、その遠心力を小さくすることができ、構造の強度上有利になり、その体格を小さくすることができる。その結果、動翼2を設計する際の自由度も向上する。
【0023】
更に、延設部12は、その先端部に設けられた平坦凸部12aと、平坦凸部12aの近傍に設けられた凹部12bとを有しており、平坦凸部12aは、内壁面3aに向かって突設されると共に、その平坦部は内壁面3aに平行に形成されている。又、凹部12bは、内壁面3aに向けて形成されている。このような構造とすることにより、シール構造に複雑なラビリンス構造を追加している。更に、平坦凸部12aに対向する内壁面3aに溝部13を設けて、より複雑なラビリンス構造としてもよく、更にシール性を向上させることができる。
【0024】
延設部12の先端部に設けられた平坦凸部12aは、ラビリンス構造を形成するものであるが、延設部12の先端部を内壁面3aに向かって突設して形成することにより、もし、延設部12と内壁面3aと接触することがあっても、平坦凸部12aの平坦部のみが内壁面3aに接触するので、損傷を平坦凸部12aの平坦部の範囲内に抑えることができる。
【0025】
上記構造のシール構造とすることにより、燃焼ガスGの圧力変動が、キャビティ5まで伝わり難くなるので、キャビティ5へのシール効率が向上し、燃焼ガスGのキャビティ5への巻き込みを抑制することができ、シールエアAを増やすことなく、キャビティ5の温度の上昇を抑制することができる。同様に、静翼1、動翼2側へのシールエアAの流出も防ぐことができる。
【実施例2】
【0026】
図2(a)は、本発明に係るガスタービンのシール構造の実施形態の他の一例を示す軸方向の概略図であり、図2(b)は、そのシール部分の拡大図である。なお、図2(a)でも、ガスタービンのタービン部のみを図示しているが、その上流側には、燃焼器、圧縮機が配置されており、又、燃焼器、圧縮機としては、公知の構成であれば、適宜に適用可能である。加えて、実施例1の図1に示したシール構造と同等の構成部材には、同じ符号を付し、その重複する説明は省略する。
【0027】
図2(a)に示すように、本実施例のシール構造においても、ダブルオーバーラップ構造とすると共に複雑なラビリンス構造を設けることにより、キャビティ5側への高温の燃焼ガスGの流入を防ぐと共に、静翼1、動翼2側へのシールエアAの流出を防ぐようにしているものであるが、実施例1とは異なり、静翼1側のシール構造を、内側シュラウド3とは別体のものとしている。
【0028】
具体的には、本実施例のシール構造は、内側シュラウド3の垂直壁面3bに取り付けられ分岐部材21を有し、分岐部材21は、垂直壁面3bにボルト22により取り付けられる取付部21aと、取付部21aから軸方向下流側に延設された第1分岐部21bと、第1分岐部21bから軸中心方向に分岐すると共に、その先端部が軸方向下流側に屈曲して延設された第2分岐部21cとを有している。又、プラットホーム6からは、軸方向上流側に延設されて、第1分岐部21bと第2分岐部21cとの間の空間に配置された延設部12を有している。つまり、延設部12を、第1分岐部21bと第2分岐部21cとの間に配置することにより、シール構造をダブルオーバーラップ構造としている。又、静翼1側からは、実質的に2つの突出部分(第1分岐部21b及び第2分岐部21c)があるのに対して、動翼2側からは、1つの突出部分(延設部12)があるだけであるので、回転する動翼2を軽量にすることができ、その遠心力を小さくすることができ、構造の強度上有利になり、その体格を小さくすることができる。その結果、動翼2を設計する際の自由度も向上する。
【0029】
分岐部材21は、図2(b)に示すように、内側シュラウド3とは独立したものであり、分岐部材21自体は、交換可能である。又、ボルト22を用いて、内側シュラウド3に取り付ける際、分岐部材21の取り付け位置は調整可能であり、延設部12との軸方向距離、そして、延設部12と第1分岐部21b及び第2分岐部21cとの周方向距離を調整可能である。更に、分岐部材21自体の母材は、耐熱温度が低い、安価な材料で形成してもよく、その場合、高温に晒される部分にのみ耐熱コーティングを施せば、十分に使用することができ、製造コストを低減することができる。
【0030】
なお、延設部12は、図1(b)に示したように、平坦凸部12aと凹部12bとを有するものであり、シール構造に複雑なラビリンス構造を追加するものである。更に、平坦凸部12aに対向する第1分岐部21bの内壁面に溝部を設けて、より複雑なラビリンス構造としてもよく、更にシール性を向上させることができる。又、平坦凸部12aは、実施例1の場合と同様に、もし、延設部12と第1分岐部21bの内壁面と接触することがあっても、平坦凸部12aの平坦部のみが第1分岐部21bの内壁面に接触するので、損傷を平坦凸部12aの平坦部の範囲内に抑えることができる。
【0031】
上記構造のシール構造とすることにより、燃焼ガスGの圧力変動が、キャビティ5まで伝わり難くなるので、キャビティ5へのシール効率が向上し、燃焼ガスGのキャビティ5への巻き込みを抑制することができ、シールエアAを増やすことなく、キャビティ5の温度の上昇を抑制することができる。同様に、静翼1、動翼2側へのシールエアAの流出も防ぐことができる。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明は、ガスタービンのキャビティへのシール構造に適用して好適なものである。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】(a)は、本発明に係るガスタービンのシール構造の実施形態の一例を示す軸方向概略図であり、(b)は、そのシール部分の拡大図である。
【図2】(a)は、本発明に係るガスタービンのシール構造の実施形態の他の一例を示す軸方向概略図であり、(b)は、そのシール部分の拡大図である。
【符号の説明】
【0034】
1 静翼
2 動翼
3 内側シュラウド
4 外側シュラウド
5 キャビティ
6 プラットホーム
11 分岐部
12 延設部
13 溝部
21 分岐部材
22 ボルト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向に交互に多段に配置された静翼と動翼の内側のキャビティをシールするガスタービンのシール構造であって、
前記静翼の内側シュラウドの内壁面から軸方向下流側に分岐した分岐部を設けると共に、前記内壁面と前記分岐部との間の空間に、前記動翼のプラットホームから軸方向上流側に延設した延設部を設け、
更に、前記延設部の先端に、前記内壁面に向かって突設され、前記内壁面と平行な平坦部を有する平坦凸部を設けると共に、前記延設部の前記平坦凸部の近傍に、前記内壁面に対向する凹部を設けたことを特徴とするガスタービンのシール構造。
【請求項2】
軸方向に交互に多段に配置された静翼と動翼の内側のキャビティをシールするガスタービンのシール構造であって、
前記静翼の内側シュラウドの垂直壁面に取り付けられ、軸方向下流側に延設された第1分岐部と、前記第1分岐部から分岐して、軸方向下流側に延設された第2分岐部とを有する分岐部材と、前記第1分岐部と前記第2分岐部との間の空間に、前記動翼のプラットホームから軸方向上流側に延設した延設部を設け、
更に、前記延設部の先端に、前記第1分岐部の内壁面に向かって突設され、前記内壁面と平行な平坦部を有する平坦凸部を設けると共に、前記延設部の前記平坦凸部の近傍に、前記内壁面に対向する凹部を設けたことを特徴とするガスタービンのシール構造。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のガスタービンのシール構造において、
前記平坦凸部に対向する前記内壁面に凹部を設けたことを特徴とするガスタービンのシール構造。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−97396(P2009−97396A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−268629(P2007−268629)
【出願日】平成19年10月16日(2007.10.16)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】