説明

ガスタービン動翼の補修方法

【課題】
本発明は、タービン動翼に発生する熱疲労クラックの補修回数を抑えることが可能で、経済性・信頼性を向上させることができる補修方法を提供することを目的とする。
【解決手段】
圧縮機から吐出された圧縮空気を冷却空気として翼内部に導入する構造を有するガスタービン動翼の翼部1に発生する熱疲労クラックを補修するガスタービン動翼の補修方法であって、今回の補修後の運用下で翼部1に熱疲労クラックが発生する可能性のある範囲を予測し、熱疲労クラックが発生した箇所を含む熱疲労クラックが発生する可能性のある範囲の部位を除去し、除去した箇所に翼部1と同形状及び同材質のクーポン材10を嵌め込み、クーポン材と翼部をレーザ溶接する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスタービン動翼の補修方法に係り、特に、圧縮機から吐出された圧縮空気を冷却空気として翼内部に導入する構造を有するガスタービン動翼の翼部に発生する熱疲労クラックを補修するガスタービン動翼の補修方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスタービン動翼は、1300℃程度の燃焼ガスに曝されるので、圧縮機より吐出された圧縮空気を冷却用として翼内部に導く冷却孔を有している。これにより、翼部に熱応力が生じる。タービン動翼では、一般にクラックは許容されず、クラック部の補修が必要となる。この場合、クラック部をTIG等により溶接補修している。
【0003】
尚、ガスタービン等の高温部品のクーポン補修方法として特許文献1に記載のものがあり、また、ガスタービンエンジンの羽根組立体の修理方法として特許文献2に記載のものがある。
【0004】
【特許文献1】特開2003−343280号公報
【特許文献2】特開昭56−154106号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
クラック部を溶接補修しても、高熱応力発生範囲は、局部的なものではなく、比較的複数箇所にクラックが発生する場合もある。定期検査(定検)時にクラックの溶接補修を実施しても、次回定検時には、別の部位から新たな熱疲労クラックが発生する場合もある。
また、一般に動翼母材は、Ni基の超合金が用いられ、高強度を保つ為、AlやTiを多く含んだ難溶接材である。この為、溶接補修部から再度熱疲労クラックが発生する可能性もある。この場合、再度、これらの熱疲労クラックを溶接補修することになるが、翼部の表面には、耐酸化・耐腐食のコーティングが施工されていることが多く、溶接補修時には、これらコーティングを剥がして、再コーティング補修するプロセスも加わり、大規模な補修となる。したがって、動翼に発生する熱疲労クラックを複数回補修することは、信頼性及び経済性の両方から非常に困難となっている。
【0006】
尚、特許文献1や特許文献2では、広範囲部位をクーポンや交換部品により補修するようにしているが、熱疲労クラックが局所的ではなく翼部の複数箇所に発生することへの対応については考慮されていない。
【0007】
本発明は、タービン動翼に発生する熱疲労クラックの補修回数を抑えることが可能な補修方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、圧縮機から吐出された圧縮空気を冷却空気として翼内部に導入する構造を有するガスタービン動翼の翼部に発生する熱疲労クラックを補修するガスタービン動翼の補修方法であって、今回の補修後の運用下で翼部に熱疲労クラックが発生する可能性のある範囲を予測し、熱疲労クラックが発生した箇所を含む熱疲労クラックが発生する可能性のある範囲の部位を除去し、除去した箇所に翼部と同形状及び同材質のクーポン材を嵌め込み、クーポン材と翼部を連結(接合)するようにしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明のように、熱疲労クラック発生が懸念される部位まで包含して部分新替えすれば、従来のように溶接補修した以外の部位に新たなクラックが発生して再補修する頻度が減少し経済性の向上が図れる。また、クーポン材と翼部との境界は低応力部となるので、クーポン材と翼部の連結部(接合部)の信頼性向上が図れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図面を用いて本発明の実施例を詳細に説明する。
【0011】
図1には本発明が適用されるガスタービンの概要が示されている。ガスタービンは、タービンケーシング56の内部に、中心に回転軸(ロータ)55と、回転軸の周囲に設置されるタービン動翼51とタービンケーシング側に支持されるタービン静翼50を有するタービン部52を備える。通常、タービン動翼51とタービン静翼50は周方向に複数枚設けられている。また、ガスタービンは、このタービン部52に連結され、大気57を吸込み、燃焼用及び冷却媒体用の圧縮空気58を得る圧縮機53と、圧縮機53からの圧縮空気と図示しない燃料が供給されて燃焼させ高温高圧燃焼ガスを発生する燃焼装置54を備えている。圧縮機53は、圧縮機ケーシング59の内部に、中心に回転軸(タービン部52の回転軸55と同心をなす)と、回転軸の周囲に設置される圧縮機動翼60と圧縮機ケーシングに支持される圧縮機静翼61を備える。通常、圧縮機動翼60と圧縮機静翼61は周方向に複数枚設けられている。燃焼装置54で発生した1300℃程度の燃焼ガスHがタービン部52に供給される。圧縮機53より吐出された圧縮空気の一部が燃焼装置54,タービン静翼50,タービン動翼51の冷却空気として用いられるように冷却空気通路が設けられている(図示省略)。
【0012】
燃焼装置54にて発生した高温高圧の燃焼ガスHは、タービン静翼50を経てタービン動翼51に噴射されてタービン部52を駆動する。そして図示はしていないが、一般的には回転軸55に結合されている発電機により発電するよう構成されている。
【0013】
タービン動翼51の立体図を図2に示す。タービン動翼51は、翼部1とシャンク部2,ダブテイル部3から構成される。タービン動翼51は、1300℃程度の燃焼ガスHに曝されるので、圧縮機53より吐出された圧縮空気58を冷却用媒体として翼内部に導く冷却孔4を有している。
【0014】
タービン動翼51は、燃焼ガスHと圧縮空気(冷却空気)58により、翼部1に温度ムラが生じ、熱応力が発生する。この熱応力がガスタービンの起動停止毎に繰り返されて、熱疲労損傷により、目標寿命到達前にクラックが発生する場合がある。一般的に、熱応力は、翼前縁部5において高くなり、熱疲労クラック6は、翼前縁部5に発生する場合が多い。定検時に熱疲労クラック6が検出された場合には、その大きさにより判定され、継続使用される場合もあるが、通常は、タービン動翼51のクラックは許容されず、クラック部の補修が必要となる。この場合、従来は、熱疲労クラック6は、TIG等により溶接金属を介して溶接補修されている。
【0015】
しかしながら、翼前縁部の高熱応力発生範囲は、局部的なものではなく、比較的複数箇所にクラックが発生する場合もある。図3にクラック溶接補修から実機運用後の状況を示す。定検時に熱疲労クラックを溶接金属7で溶接補修を実施しても、次回定検時には、別の部位から新たな熱疲労クラック8が発生する場合もある。また、一般にタービン動翼51の母材は、Ni基の超合金が用いられ、高強度を保つため、AlやTiを多く含んだ難溶接材である。このため、溶接補修部からの熱疲労クラック9が再度発生する可能性もある。
【0016】
この場合、再度、これらの熱疲労クラックを溶接補修することになるが、翼部1の表面には、耐酸化・耐腐食のコーティングが施工されていることが多く、溶接補修時には、これらコーティングを剥がして、再コーティング補修するプロセスも加わり、大規模な補修となる。したがって、タービン動翼51に発生する熱疲労クラック6を複数回補修することは、信頼性及び経済性の両方から解決が困難な問題となっている。
【0017】
本発明は、このように翼部1に発生する熱疲労クラック6の補修回数を最小限に抑える補修方法を提供するものである。図5を用いて本発明の第一実施例を説明する。
【0018】
本発明では、熱疲労クラック6を個々に溶接補修するのではなく、今後の運用下(今後のガスタービンの起動停止)でクラックが発生する可能性のある部位(高応力部)を除去し、ここに、別途製作したクーポン材10を嵌めこんで、部分新替えするものである。即ち、今回の補修後の運用下で翼部に熱疲労クラックが発生する可能性のある範囲を予め予測し、熱疲労クラックが発生した箇所を含む熱疲労クラックが発生する可能性のある範囲の部位を除去し、除去した箇所に翼部1と同形状及び同材質のクーポン材10を嵌め込み、クーポン材10と翼部1を接合する。クーポン材は冷却孔4も有している。
【0019】
クーポン材10の形状・寸法、及び、翼部1の除去部分、即ち、今回の補修後の運用下で翼部に熱疲労クラックが発生する可能性のある範囲は、次のようにして定める(予測する)。
【0020】
図5は、ある定検時にタービン動翼51全数(約90本)の翼前縁部5で検出された熱疲労クラック6の長さaの翼長方向の分布を示したものである。ここで、翼長方向のクラック発生範囲をAで記した。このクラック発生範囲(損傷実績範囲)Aが、過去に実機における熱疲労クラックが発生した範囲と定義される。ガスタービンが複数軸あるプラントでは、各軸における同じ段落のタービン動翼のクラック発生範囲も含めてクラック発生範囲Aとすることにより予測精度が向上する。
【0021】
図6は、翼母材の熱疲労寿命曲線を示す。熱疲労寿命曲線は、翼構造とは無関係に翼の素材によって定まる材料特性データであり、横軸はガスタービンの起動停止回数によって表される疲労寿命Nf(回)を示し、縦軸はクラックが発生する全ひずみ範囲(圧縮ひずみと引張ひずみの合計)Δεを示す。タービン動翼51の使用目標寿命NfL内にクラックが発生する全ひずみ範囲をΔεL 以上の部位と定める。タービン動翼のある部位の全ひずみ範囲Δεが、ΔεL より小さいときには使用目標寿命NfL内にはクラックが発生せず、ΔεL 以上のときには使用目標寿命NfLを経過する前にクラックが発生することになる。タービン動翼51の各部位について、ガスタービンの起動停止に基づく温度変化と熱ひずみ(熱応力)との関係を、有限要素法により熱解析し、全ひずみ範囲Δεを求める。求めた全ひずみ範囲ΔεがΔεL 以上となる翼長方向部位、即ち、使用目標寿命内にクラックが発生する可能性のある部位を図5中にBで記した。
【0022】
これら、実機の損傷実績範囲Aと構造解析によるクラック発生懸念範囲Bの両方を包含する範囲をC(C1〜C2間)とする。本実施例では、クーポン材10を嵌め込む、翼長方向範囲を、C1より翼根元側〜C2より翼先端側とし、クーポン材10の長さlをC1〜C2間寸法、即ち、l>Cとする。クーポン材10の深さmは、翼個々のクラック長さに応じて決定しても良いが、均一性と作業標準化の観点から、タービン動翼51の中で最も深いクラックに合せm>Dとする。
【0023】
また、クーポン材10と翼部1は、図7に示すように、溶接金属11を介して固定する。クーポン材10と翼部1の境界は、図5に示したように、クラックの発生が予想されない箇所、即ち、低応力部となっているので、溶接部からのクラック発生はなく、信頼性の向上が図れる。なお、本実施例では、クーポン材10と翼部1の境界は、溶接長さが大きくなるので、入熱量の小さいレーザ溶接により実施し、接合時の翼熱変形の問題を回避している。
【0024】
本実施例によれば、クラック発生部位を含み、今後の運用下で熱疲労クラック発生が懸念される部位まで包含して部分新替えしているので、従来のように、溶接補修した以外の部位に新たなクラックが発生して再補修する頻度が減少し、経済性の向上が図れる。また、動翼補修期間中は、実機に代替翼を組込む必要があるが、補修回数減少により、代替翼の準備に要する費用も低減できる。また、従来は、クラック発生部そのものを溶接補修していたので、溶接部は最高応力部と一致しており、信頼性に問題があったが、本発明では、クーポン材と翼部との境界は低応力部となるので、溶接部の信頼性向上が図れる。また、従来のクーポン補修では、予め定められた範囲での補修となり、実機でこの範囲を超えて損傷が発生した場合には対応できないが、本実施例では、補修の際に、補修後の運用下でターン動翼の翼部に熱疲労クラックが発生する可能性がある範囲を予測して(特に、実機の損傷実績範囲を反映して)補修範囲を決めているので、より適切な補修が可能となる。
【0025】
図8に本発明の第二の実施例を示す。本実施例では、翼母材より熱疲労強度の高い材質を有するクーポン材を用いている。
【0026】
一般に、動翼母材は、高回転の遠心力に耐えられるようにクリープ強度に優れた高強度低延性材が用いられている。このような高強度低延性材は、熱疲労特性に劣っており、本実施例では、翼母材より熱疲労強度の高い材質を有するクーポン材12を用い翼部1に嵌め込んでいる。図9に翼母材とクーポン材12の熱疲労寿命曲線を比較して示す。翼母材より熱疲労強度の高い材質を有するクーポン材12を用いれば、新品から母材クラック発生までの期間の数倍以上の期間までクラックが発生しないものと考えられ、信頼性が更に向上する。仮に、クラックが発生しても、使用目標寿命内にクラックが発生する全ひずみ範囲ΔεL は、翼母材に比べて大きくなり、今後の運用下でクーポン材にクラックが発生することが懸念される範囲、即ち、再度クーポン材の嵌め込む範囲が翼母材に比べて小さくて済み、経済性が更に向上する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明が適用されるガスタービンの構造を示す断面図である。
【図2】本発明が適用されるガスタービン動翼を示す立体図である。
【図3】従来のガスタービン動翼の補修方法の問題点を示すガスタービン動翼の立体図である。
【図4】本発明のタービン動翼の補修方法を示す立体図である。
【図5】本発明のタービン動翼の補修方法の説明図である。
【図6】本発明のタービン動翼の補修方法の説明図である。
【図7】本発明のタービン動翼の補修方法を示す立体図である。
【図8】本発明のタービン動翼の補修方法を示す立体図である。
【図9】本発明のタービン動翼の補修方法の説明図である。
【符号の説明】
【0028】
1 翼部
2 シャンク部
3 ダブテイル部
4 冷却孔
5 翼前縁部
6 熱疲労クラック
7 溶接金属
8 新たな熱疲労クラック
9 溶接補修部からの熱疲労クラック
10,12 クーポン材
11 溶接金属(溶接部)
50 タービン静翼
51 タービン動翼
52 タービン部
53 圧縮機
54 燃焼装置
55 回転軸
56 タービンケーシング
57 大気
58 圧縮空気
59 圧縮機ケーシング
60 圧縮機動翼
61 圧縮機静翼

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮機から吐出された圧縮空気を冷却空気として翼内部に導入する構造を有するガスタービン動翼の翼部に発生する熱疲労クラックを補修するガスタービン動翼の補修方法であって、
今回の補修後の運用下で前記ガスタービン動翼の翼部に熱疲労クラックが発生する可能性のある範囲を予測し、
熱疲労クラックが発生した箇所を含む前記熱疲労クラックが発生する可能性のある範囲の部位を除去し、
除去した箇所に翼部と同形状及び同材質のクーポン材を嵌め込み、
前記クーポン材と前記翼部を連結するようにしたことを特徴とするガスタービン動翼の補修方法。
【請求項2】
請求項1において、前記同材質のクーポン材に代えて、動翼母材よりも熱疲労強度に優れた材質で構成されたクーポン材を用いたことを特徴とするガスタービン動翼の補修方法。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記熱疲労クラックが発生する可能性のある範囲の予測は、過去に実機における熱疲労クラックが発生した範囲と、翼の使用目標寿命内に熱疲労クラックが発生する全ひずみ範囲をΔεL 以上の部位と定めたときに熱解析で求められた熱ひずみ範囲ΔεがΔεL 以上となる部位の範囲の両方を含むように行うことを特徴とするガスタービン動翼の補修方法。
【請求項4】
請求項1〜3の何れかにおいて、前記クーポン材と前記翼部との連結は、レーザ溶接にて行うようにしたことを特徴とするガスタービン動翼の補修方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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