説明

ガスタービン

【課題】ガスタービンにおいて回り止め部材による局所的な面圧の増加を抑えたシール構造を提供する。
【解決手段】タービン4のロータディスク11に形成された張出部100の外周側リング状部130にディスク係合穴131を形成し、外周側シール板片230と内周側シール板片220から成るシール板組物210を周方向に沿って複数配列して環状に構成されたシール部材200の外周側シール板片230に外周側シール係合突起231と外周側シール係合穴232を形成し、内周側シール板片220に内周側シール係合突起221を形成する。ディスク係合穴131と外周側シール係合突起231、外周側シール係合穴232と内周側シール係合突起221がそれぞれ係合することによって、外周側リング状部130と外周側シール板片230、外周側シール板片230と内周側シール板片220がそれぞれ周方向に移動を拘束されてなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロータディスク間における冷却媒体の漏洩を防止するシール構造を備えたガスタービンに関する。
【背景技術】
【0002】
ガスタービンは、圧縮機で圧縮した気体を燃焼器で燃料と共に燃焼し、そこで生じた高温高圧の燃焼ガスをタービンで膨張させることによって、外部へ出力を取り出す気体原動機である。たとえば、ガスタービンと発電機を組み合わせることで、ガスタービンから取り出した動力は発電機によって電気エネルギーに変換される。
【0003】
ガスタービンの性能は、タービンへ送られる燃焼ガスの温度が高いほど向上する。よって、より高温の燃焼ガスをタービンへ送るため、タービンは耐熱性の優れた材料で形成される。また、タービンを構成する部材を冷却することによって、部材の使用温度よりも高温の燃焼ガスを採用することが可能となる。このように、高温の燃焼ガスは熱効率の向上および比出力の上昇に不可欠であり、そのための材料および冷却方法の開発はガスタービン技術の中核を成す。
【0004】
タービンは、静翼とそれを保持するケーシング、動翼とそれを保持するロータディスクなどから成る。これらタービンを構成する部品の多くには、上記の理由により様々な冷却技術が駆使されており、燃焼ガスを直接吹き付けられる静翼や動翼だけでなく、ロータディスクも冷却されている。
【0005】
ロータディスクの冷却として、隣接するロータディスク間に設けた空間およびロータディスク内に設けた冷却孔に冷却空気等の冷却媒体を流す方法がある。冷却媒体の漏洩を防ぐため、ロータディスク間にシール部材を設ける。
【0006】
このシール部材は、二枚重ねたシール板片を周方向に沿って複数配列して環状に構成されている。つまり、周方向に複数分割される構造である。このような構造としているのは、環境変化によるシール部材の変形やズレ等の対策、シール性能の安定化、取付け・取外し作業の効率化などの理由による。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006‐214401号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
シール部材の一例として、特許文献1のようなものがある。特許文献1では、回り止め部材によって、シール部材を構成する複数のシール板片が結合され、シール部材のロータディスクに対する周方向の移動が拘束されている。よって、ロータディスクが回転すると、シール部材も回り止め部材と共に回転し、シール部材および回り止め部材には遠心力が働く。この回り止め部材に発生する遠心力は、回り止め部材付近のシール板片およびロータディスクに掛かる面圧を局所的に増大させ、シール部材の摩耗に繋がる虞となる。
【0009】
本発明は、上記のような問題を鑑みなされたもので、ガスタービンにおいて回り止め部材による局所的な面圧の増加を抑えたシール構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決する第一の発明に係るガスタービンは、タービンの動翼を保持する軸方向に並んだ複数のロータディスクと、隣接する前記ロータディスクに軸方向へ向き合うように突出して形成された環状の張出部と、対向する前記張出部の向かい合う面に周方向へ沿って形成された環状溝と、対向する前記環状溝に挿入された環状のシール部材とを備えたガスタービンにおいて、前記シール部材は、弧状の外周側シール板片と当該外周側シール板片の内周面に外周面が接し且つ周方向に位相がずれた弧状の内周側シール板片とから成るシール板組物を周方向に沿って複数配列して環状に構成され、前記外周側シール板片の外周面に外周側シール係合突起が形成され、前記張出部のうち前記環状溝より外周側である外周側リング状部の内周面にディスク係合穴が形成され、前記外周側シール係合突起が前記ディスク係合穴に係合されることにより、前記外周側シール板片の前記ロータディスクに対する周方向の移動が拘束されることを特徴とする。
【0011】
上記課題を解決する第二の発明に係るガスタービンは、第一の発明に係るガスタービンにおいて、前記内周側シール板片の外周面に内周側シール係合突起が形成され、前記外周側シール板片に外周側シール係合穴が形成され、前記内周側シール係合突起が前記外周側シール係合穴に係合されることによって、前記内周側シール板片の前記外周側シール板片に対する周方向の移動が拘束されることを特徴とする。
【0012】
上記課題を解決する第三の発明に係るガスタービンは、第一の発明に係るガスタービンにおいて、前記内周側シール板片の外周面に内周側シール係合突起が形成され、前記外周側シール板片に前記内周側シール係合突起よりも周方向に長い形状の外周側シール係合穴が形成され、前記内周側シール係合突起が前記外周側シール係合穴に係合されることによって、前記内周側シール板片の前記外周側シール板片に対する周方向の移動が調整可能であることを特徴とする。
【0013】
上記課題を解決する第四の発明に係るガスタービンは、第一の発明に係るガスタービンにおいて、前記内周側シール板片に内周側シールねじ係合穴が形成され、前記外周側シール板片に外周側シールねじ係合穴が形成され、前記張出部の前記外周側リング状部にディスクねじ係合穴が形成され、前記内周側シール板片と前記外周側シール板片および前記外周側リング状部が、前記内周側シールねじ係合穴と前記外周側シールねじ係合穴および前記ディスクねじ係合穴に通した機械的締着部品により固定されることを特徴とする。
【0014】
上記課題を解決する第五の発明に係るガスタービンは、第一乃至第四のいずれかの発明に係るガスタービンにおいて、前記シール部材が四組以上八組以下のシール板組物から成ることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
第一の発明に係るガスタービンによれば、外周側シール係合突起がディスク係合穴に係合されることによって、外周側シール板片のロータディスクに対する周方向の移動が拘束されるので、ロータ回転時のシール部材およびロータディスクには、各々の自重以外の余分な遠心力がかからず、シール部材およびロータディスクの張出部に局所的な面圧が掛かることを抑えることができる。また、部品点数を削減できるので、製造コストの削減に繋がる。
【0016】
第二の発明に係るガスタービンによれば、内周側シール係合突起が外周側シール係合穴に係合されることによって、内周側シール板片の外周側シール板片に対する周方向の移動が拘束されるので、ロータ回転時のシール部材およびロータディスクには、各々の自重以外の余分な遠心力がかからず、シール部材およびロータディスクの張出部に局所的な面圧が掛かることを抑えることができる。また、部品点数を削減できるので、製造コストの削減に繋がる。
【0017】
第三の発明に係るガスタービンによれば、内周側シール係合突起が外周側シール係合穴に係合されることによって、内周側のシール板片の外周側のシール板片に対する周方向の移動が拘束されるので、回転時のシール部材およびロータディスクには、各々の自重以外の余分な遠心力がかからず、シール部材およびロータディスクの張出部に局所的な面圧が掛かることを抑えることができる。また、内周側シール板片の外周側シール板片に対する周方向の移動が調整可能であるので、内周側シール板片の一端が組立用切欠き部ではなく、環状溝の内周側リング状部に掛かる状態にすることができる。よって、内周側シール板片220の内周側へ変形・湾曲する虞がなくなり、シール性能を安定化できる。また、部品点数を削減できるので、製造コストの削減に繋がる。
【0018】
第四の発明に係るガスタービンによれば、内周側シール板片と外周側シール板片および外周側リング状部が、内周側シールねじ係合穴と外周側シールねじ係合穴およびディスクねじ係合穴に通した機械的締着部品により固定されるので、遠心力などによる摩耗の虞がなく、ロータの低回転時においてもシール効果が低減することがない。また、部品点数を削減できるので、製造コストの削減に繋がる。
【0019】
第五の発明に係るガスタービンによれば、周方向に三以下の少数分割構造としたシール部材に比べ一部品が小さくなるので、環境変化などによる一部品当たりの変形量が少なくなり、シール不良の虞がなくなる、つまり、シール性能を安定化できる。また、周方向に九以上の多数分割構造としたシール部材に比べ部品数が少ないので、取付け・取外し作業が減り、ガスタービンの製作および補修コストを削減できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1(a)は本発明の実施例1に係るガスタービンにおけるシール部材付近の軸方向部分横断面図であり、図1(b)は図1(a)のA方向矢視図であり、図1(c)は図1(a)のB方向矢視図である。
【図2】ガスタービンの一例の概念図である。
【図3】ガスタービンのロータディスク周りの構造図である。
【図4】本発明の実施例1に係るガスタービンにおけるシール部材をロータディスクの環状溝に取付ける取付図である。
【図5】本発明の実施例1に係るガスタービンにおけるシール部材をロータディスクの環状溝に取付けた状態の周方向部分横断面図である。
【図6】本発明の実施例1に係るガスタービンにおけるシール部材の斜視図である。
【図7】図7(a)は本発明の実施例1に係るガスタービンにおけるシール板組物の斜視図であり、図7(b)は内周側シール板片の斜視図であり、図7(c)は外周側シール板片の斜視図である。
【図8】本発明の実施例1に係るガスタービンにおけるシール部材をロータディスクの環状溝に取付けた状態の軸方向横断面図である。
【図9】図9(a)は本発明の実施例1に係るガスタービンにおけるシール板組物を取外す際の軸方向部分横断面図であり、図9(b)はシール板組物を環状溝から取外す際の軸方向部分横断面図である。
【図10】図10(a)は本発明の実施例2に係るガスタービンにおけるシール部材付近の軸方向部分横断面図であり、図10(b)は図10(a)のA方向矢視図である。
【図11】図11(a)は本発明の実施例3に係るガスタービンにおけるシール部材付近の軸方向部分横断面図であり、図11(b)は図11(a)のA方向矢視図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、本発明の実施例について、添付図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下の実施例は、ガスタービンを発電機と組み合わせたものである。また、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。もちろん、本発明は以下の実施例に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、各種変更が可能であることは言うまでもない。
【実施例1】
【0022】
本発明の実施例1について、図1から図9を参照して説明する。
【0023】
ガスタービン1の一例の概念図である図2に示すように、ガスタービン1は圧縮機2と燃焼器3およびタービン4から成り、発電機5と組み合わせることで電気エネルギーを得ることができる。
【0024】
タービン4のロータディスク11周りの構造図である図3に示すように、タービン4は、図示しない静翼とそれを保持する図示しないケーシング、動翼13とそれを保持するロータディスク11などから成る。複数のロータディスク11は軸方向に間隔を空けて配置され、周方向に一定間隔で設置された複数のスピンドルボルト12によって、ロータディスク11同士が結合されている。また、各ロータディスク11の外周には周方向に沿って複数の動翼13が一定間隔で設置されている。燃焼器3から排出された燃焼ガス20はガスパス21を流れ、その圧力は動翼13によって周方向の力に変換され、ロータディスク11を回転させる。
【0025】
図4に示すように、ロータディスク11には軸方向に突出した張出部100が設けられており、ロータディスク11と同軸心の環状を成している。隣接するロータディスク11の張出部100は同径であり、互いに向き合っている。また、隣接するロータディスク11の対向する張出部100における向き合う面には、それぞれ周方向に沿った環状溝110が形成されている。
【0026】
図5に示すように、隣接するロータディスク11の対向する環状溝110に、環状のシール部材200(図6)が収納されている。シール部材200によって、隣接するロータディスク11間の空間は、シール部材200より内周側にある内周側空間32とシール部材より外周側にある外周側空間33に分けられている(図3)。内周側空間32と外周側空間33は、それぞれ温度および圧力の異なった第一の冷却媒体30と図示しない第二の冷却媒体で満たされている。また、ロータディスク11には冷却孔31が形成されており、第一の冷却媒体30が冷却孔31を流れることでロータディスク11内部からの冷却を行っている。
【0027】
図1(a)に示すように、張出部100のうち環状溝110より内周側である内周側リング状部120には、シール部材200を取付けるための組立用切欠き部121が周方向に沿う複数個所に形成されている。なお、シール部材200の取付け・取外しを容易にするために、組立用切欠き部121のある内周側リング状部120には、一端部の内周側を面取り加工した内周側ガイド面122および他端部の外周側を面取り加工した外周側ガイド面123が形成されている。また、張出部100のうち環状溝110より外周側である外周側リング状部130の内周面側には、シール部材200を周方向に拘束するための四角形状に切欠いたディスク係合穴131が形成されている。
【0028】
組立用切欠き部121およびディスク係合穴131は、図1(a)(b)(c)に示したものに限定されない。内周側ガイド面122および外周側ガイド面123が形成されていない組立用切欠き部121、あるいは内周側ガイド面122および外周側ガイド面123が両端に形成された組立用切欠き部121でも良く、周方向だけでなく軸方向の移動や回転が拘束されるような長丸形状の浅孔をディスク係合穴131としても良い。
【0029】
なお、組立用切欠き部121とディスク係合穴131の相対位置に制限はないが、ディスク係合穴131の加工やシール部材200の取付け作業を容易にするため、ディスク係合穴131は組立用切欠き部121に対応した位置とすることが好ましい。
【0030】
図6に示すように、本実施例のシール部材200は、四組のシール板組物210を周方向に沿って配列して環状に構成されている。つまり、周方向に四分割される構造である。もちろん、シール部材200の分割数は本実施例に限定されるものではなく、複数のシール板組物210から構成されていれば良い。
【0031】
なお、シール部材200の周方向の分割数が少ない場合には、使用環境の変化に伴うシール板組物210の一組当たりの変形量が増大し、シール性能に影響が出る虞がある。また、シール部材200の周方向の分割数が多い場合には、シール部材200の取付け・取外し作業に掛かる時間が増大する。よって、シール性能の安定化およびシール部材200の取付け・取外し作業の簡易化を考慮すると、シール部材200は四組以上八組以下のシール板組物210に分割されることが好ましい。
【0032】
図7(a)に示すように、シール板組物210は、弧状の外周側シール板片230と当該外周側シール板片230の内周面に外周面が接し且つ周方向に位相がずれた弧状の内周側シール板片220とから成る。つまり、シール板組物210は、内周側シール板片220と外周側シール板片230から成り、外周側シール板片230の内周面に内周側シール板片220の外周面が接して構成され、内周側シール板片220は外周側シール板片230に対して周方向にずれて配置されている。
【0033】
図7(b)に示すように、内周側シール板片220は、弧状に湾曲した板材から成る。内周側シール板片220の外周面には、長丸形状の内周側シール係合突起221が形成されている。
【0034】
図7(c)に示すように、外周側シール板片230は、弧状に湾曲した板材から成る。外周側シール板片230の外周面には、四角形状の外周側シール係合突起231が形成されている。そして、外周側シール係合突起231とは異なる箇所に、長丸形状の外周側シール係合穴232が形成されている。
【0035】
図1(a)および図1(c)に示すように、内周側シール係合突起221が外周側シール係合穴232に係合されることにより、内周側シール板片220の外周側シール板片230に対する周方向の移動が拘束され、シール板組物210が構成される。
【0036】
また、図1(a)および図1(b)に示すように、外周側シール係合突起231がディスク係合穴131に係合されることにより、外周側シール板片230の外周側リング状部130に対する周方向の移動が拘束される。つまり、シール部材200を構成している複数の外周側シール板片230の外周側シール係合突起231がロータディスク11の外周側リング状部130の複数のディスク係合穴131にそれぞれ係合されることで、シール部材200のロータディスク11に対する周方向の移動が拘束される。
【0037】
もちろん、内周側シール係合突起221と外周側シール係合穴232および外周側シール係合突起231とディスク係合穴131の形状は本実施例に限定されず、長丸や四角以外の形状で形成されても良い。また、周方向の移動を拘束することができれば、互いに異なる形状で形成されても良く、周方向だけでなく軸方向の移動や回転が拘束されるような形状で形成されても良い。
【0038】
シール部材200は図6に示すように、対向する環状溝110に挿入され、隣接するロータディスク11の張出部100にシール部材200の両端が支持される。シール部材200のロータディスク11に対する周方向の移動が拘束されているので、ロータディスク11と共にシール部材200が回転する。そのとき、シール部材200は遠心力によって外周側リング状部130に押し当てられる。よって、隣接するロータディスク11間の内周側空間32と外周側空間33とがシールされる。
【0039】
シール部材200は周方向に分割する構造となっているので、隣接する外周側シール板片230および隣接する内周側シール板片220の間には、使用環境の変化に対応するためや取付けるための隙間ができる。外周側シール板片230の内周面と内周側シール板片220の外周面が接し、且つ外周側シール板片230と内周側シール板片220の取付け位相は周方向にずれているので、遠心力によって内周側シール板片220と外周側シール板片230が密着し、隣接する外周側シール板片230間の隙間は内周側シール板片220によってシールされ、隣接する内周側シール板片220間の隙間は外周側シール板片230によってシールされる。よって、シール部材200として内周側空間32と外周側空間33とのシール性能を損なうことはない。
【0040】
また、対向する環状溝110に収められた内周側シール板片220および外周側シール板片230には、弓状態から真直ぐに変形しようとするバネのような力が弧状の外周側へ働く。このバネ力によって、内周側シール係合突起221は外周側シール係合穴232に、外周側シール係合突起231はディスク係合穴131に押し付けられる。つまり、外周側シール板片230と内周側シール板片220、外周側リング状部130と外周側シール板片230はそれぞれ強固に係合される。よって、外周側シール板片230および内周側シール板片220は、環状溝110の環状径よりも僅かに大きい径の弧状で形成されることが好ましい。すなわち、シール部材200あるいはシール板組物210は、常態よりも周方向に収縮されて取付けられることが好ましい。
【0041】
なお、内周側シール板片220および外周側シール板片230は、一組のシール板組物210として一体で使用されるので、内周側シール係合突起221と外周側シール係合穴232との係合によって周方向の移動が拘束された状態で、溶接等により固定しても良い。
【0042】
次に、新規のガスタービン1を製作する際のシール部材200を取付ける手順について図3を参照して説明する。
【0043】
新規のガスタービン1の製作時、タービン4ではロータディスク11を複数のスピンドルボルト12に通して設置する。次に、設置した一方のロータディスク11に形成された張出部100の環状溝110に、環状に構成したシール部材200の一端側を挿し入れるように取付ける。次いで、一方のロータディスク11に取付けられているシール部材200の他端側に、他方のロータディスク11に形成された張出部100の環状溝110を被せるように取付ける。以後同様に、ロータディスク11とシール部材200を交互に設置していくことで、新規のガスタービン1が製作される。
【0044】
次に、既設のガスタービン1を補修する際のシール部材200を交換する手順について説明する。
【0045】
環状溝110にシール部材200が取付けられた状態を図8に示す。シール板組物210の内周側シール板片220の一端部を内周側空間32へ引っ張ることで、外周側シール係合突起231をディスク係合穴131から取外す(図9(a))。そして、内周側シール板片220の一端側を引っ張ることで、シール板組物210を対向する環状溝110から取外す(図9(b))。なお、第一のシール板組物210aは第一の組立用切欠き部121aから、第二のシール板組物210bは第二の組立用切欠き部121bから、第三のシール板組物210cは第三の組立用切欠き部121cから、第四のシール板組物210dは第四の組立用切欠き部121dから取外す。取外されたシール板組物210は一組ごとに対向する張出部100の間から外周側空間33へ取り除かれる。
【0046】
次いで、新しいシール板組物210を一組ごとに対向する張出部100の間から内周側空間32へ挿入する。内周側空間32から組立用切欠き部121を通して対向する環状溝110に、第一のシール板組物210aを第一の組立用切欠き部121aから、第二のシール板組物210bを第二の組立用切欠き部121bから、第三のシール板組物210cを第三の組立用切欠き部121cから、第四のシール板組物210dを第四の組立用切欠き部121dから挿入していく。外周側シール係合突起231をディスク係合穴131に係合させるときは、取外し作業と同様に内周側シール板片220の一端を内周側空間32へ引っ張ることで取付けることができる。
【実施例2】
【0047】
本発明の実施例2について、図10を参照して説明する。
【0048】
なお、本実施例のガスタービン1は、シール部材200およびシール板組物210を構成する内周側シール板片220と外周側シール板片230の係合部の構造を除いて、実施例1と同様な構造を有するので、同様な構造に対する重複説明は省略する。
【0049】
内周側シール板片220は、弧状に湾曲した板材から成る。内周側シール板片220の外周面には長丸形状の内周側シール係合突起221が形成されている。
【0050】
外周側シール板片230は、弧状に湾曲した板材から成る。外周側シール板片230の外周面には四角形状の外周側シール係合突起231が形成されている。そして外周側シール係合突起231とは異なる箇所に、内周側シール係合突起221に比べ周方向に長い長丸形状の外周側シール係合穴232が形成されている。
【0051】
シール板組物210は、外周側シール板片230と当該外周側シール板片230の内周面に外周面が接し且つ周方向に位相がずれた内周側シール板片220とから成り、内周側シール係合突起221が外周側シール係合穴232に係合することによって、内周側シール板片220の外周側シール板片230に対する周方向の移動が調整可能である。つまり、内周側シール係合突起221と外周側シール係合穴232の形状における周方向の距離差分だけ、内周側シール板片220と外周側シール板片230は周方向にスライド可能に係合される。
【0052】
なお、シール板組物210を構成する内周側シール板片220と外周側シール板片230は周方向に可動であるので、シール板組物210の常態が定まり難い。よって、内周側シール係合突起221が外周側シール係合穴232に係合されることにより、内周側シール板片220の外周側シール板片230に対する軸方向の移動および回転が拘束されることが好ましい。
【0053】
図10(a)に示すように、シール部材200を取付けた後に内周側シール板片220を周方向へ移動することにより、内周側シール板片220の一端が組立用切欠き部121ではなく、環状溝110の内周側リング状部120に掛かる状態にすることができる。つまり、内周側リング状部120に設けられた組立用切欠き部121の両端によって内周側シール板片220が支持される状態にすることができる。よって、内周側シール板片220の内周側へ変形・湾曲する虞がなくなり、シール性能をより安定化することができる。
【実施例3】
【0054】
本発明の実施例3について、図11を参照して説明する。
【0055】
なお、本実施例のガスタービン1は、シール部材200およびシール板組物210を構成する内周側シール板片220と外周側シール板片230の係合部の構造を除いて、実施例1と同様な構造を有するので、同様な構造に対する重複説明は省略する。
【0056】
外周側リング状部130には、四角形状に切欠いたディスク係合穴131が形成されている。また、ねじ40の逃がし穴となるディスクねじ係合穴133が形成されている。
【0057】
内周側シール板片220は、弧状に湾曲した板材から成る。内周側シール板片220には、ねじ切りされた内周側シールねじ係合穴223が形成されている。
【0058】
外周側シール板片230は、弧状に湾曲した板材から成る。外周側シール板片230の外周面には四角形状の外周側シール係合突起231とねじ40の逃がし穴となる外周側シールねじ係合穴233が形成されている。
【0059】
内周側シール板片220と外周側シール板片230および外周側リング状部130が、内周側シールねじ係合穴223と外周側シールねじ係合穴233およびディスクねじ係合穴133に通したネジ40により固定されている。
【0060】
張出部100の環状溝110に外周側シール板片230を挿入し、外周側シール係合突起231がディスク係合穴131に係合されることによって、外周側シール板片230のロータディスク11に対する周方向の移動が拘束される。
【0061】
次に、外周側シール板片230の内周面に内周側シール板片220の外周面が接するように、張出部100の環状溝110に内周側シール板片230を挿入する。次いで、ディスクねじ係合穴133と外周側シールねじ係合穴233および内周側シールねじ係合穴223の位置を合わせ、外周側リング状部130の外周面側からネジ40をディスクねじ係合穴133に挿入し、外周側シールねじ係合穴233を通し、内周側シールねじ係合穴223にねじ込む。内周側シール板片220および外周側シール板片230は、共に外周側リング状部130に固着される。
【0062】
もちろん、内周側シール板片220と外周側シール板片230の機械的締着手段は本実施例に限定されない。たとえば、内周側シールねじ係合穴223をねじの逃がし穴とすることで、外周側リング状部130と外周側シール板片230と内周側シール板片220をボルトおよびナットによって固定させても良い。
【符号の説明】
【0063】
1 ガスタービン
2 圧縮機
3 燃焼器
4 タービン
5 発電機
11 ロータディスク
12 スピンドルボルト
13 動翼
20 燃焼ガス
21 ガスパス
30 第一の冷却媒体
31 冷却孔
32 内周側空間
33 外周側空間
40 ネジ
100 張出部
110 環状溝
120 内周側リング状部
121 組立用切欠き部
121a 第一の組立用切欠き部
121b 第二の組立用切欠き部
121c 第三の組立用切欠き部
121d 第四の組立用切欠き部
122 内周側ガイド面
123 外周側ガイド面
130 外周側リング状部
131 ディスク係合穴
133 ディスクねじ係合穴
200 シール部材
210 シール板組物
210a 第一のシール板組物
210b 第二のシール板組物
210c 第三のシール板組物
210d 第四のシール板組物
220 内周側シール板片
221 内周側シール係合突起
223 内周側シールねじ係合穴
230 外周側シール板片
231 外周側シール係合突起
232 外周側シール係合穴
233 外周側シールねじ係合穴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タービンの動翼を保持する軸方向に並んだ複数のロータディスクと、
隣接する前記ロータディスクに軸方向へ向き合うように突出して形成された環状の張出部と、
対向する前記張出部の向かい合う面に周方向へ沿って形成された環状溝と、
対向する前記環状溝に挿入された環状のシール部材と
を備えたガスタービンにおいて、
前記シール部材は、弧状の外周側シール板片と当該外周側シール板片の内周面に外周面が接し且つ周方向に位相がずれた弧状の内周側シール板片とから成るシール板組物を周方向に沿って複数配列して環状に構成され、
前記外周側シール板片の外周面に外周側シール係合突起が形成され、
前記張出部のうち前記環状溝より外周側である外周側リング状部の内周面にディスク係合穴が形成され、
前記外周側シール係合突起が前記ディスク係合穴に係合されることにより、前記外周側シール板片の前記ロータディスクに対する周方向の移動が拘束されることを特徴とするガスタービン。
【請求項2】
前記内周側シール板片の外周面に内周側シール係合突起が形成され、前記外周側シール板片に外周側シール係合穴が形成され、前記内周側シール係合突起が前記外周側シール係合穴に係合されることによって、前記内周側シール板片の前記外周側シール板片に対する周方向の移動が拘束されることを特徴とする請求項1に記載のガスタービン。
【請求項3】
前記内周側シール板片の外周面に内周側シール係合突起が形成され、前記外周側シール板片に前記内周側シール係合突起よりも周方向に長い形状の外周側シール係合穴が形成され、前記内周側シール係合突起が前記外周側シール係合穴に係合されることによって、前記内周側シール板片の前記外周側シール板片に対する周方向の移動が調整可能であることを特徴とする請求項1に記載のガスタービン。
【請求項4】
前記内周側シール板片に内周側シールねじ係合穴が形成され、前記外周側シール板片に外周側シールねじ係合穴が形成され、前記張出部の前記外周側リング状部にディスクねじ係合穴が形成され、前記内周側シール板片と前記外周側シール板片および前記外周側リング状部が、前記内周側シールねじ係合穴と前記外周側シールねじ係合穴および前記ディスクねじ係合穴に通した機械的締着部品により固定されることを特徴とする請求項1に記載のガスタービン。
【請求項5】
前記シール部材が四組以上八組以下のシール板組物から成ることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載のガスタービン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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