説明

ガスハイドレートの製造方法及び製造装置

【課題】 ガスハイドレートを低コストで、かつ、効率的に製造することができるガスハイドレートの製造方法及び製造装置を提供する。
【解決手段】 製氷塔1で精製した微細な氷4を、氷の融点よりわずかに高温に保持された生成容器7内で原料ガス15と反応させることにより、ガスハイドレート13の反応熱の一部を微細な氷8の融解熱で除去できるため、低コストでかつ効率的にガスハイドレートを製造することができる。また、冷却手段5、11に液化天然ガスの冷熱を利用することにより、更なるコスト削減が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細な固体状のガスハイドレートを、低コストで製造することができるガスハイドレートの製造方法及び製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、天然ガス等(以下、原料ガスという。)の安全かつ経済的な輸送・貯蔵手段として、この原料ガスを水和させて固体状態の水和物としたもの(以下、ガスハイドレートという。)を用いる方法が注目されており、そのためガスハイドレートの生成方法が鋭意研究されている。
【0003】
そのうちの代表的なものとして、水と原料ガスを低温・高圧下で反応させてガスハイドレートを生成させるという湿式の生成方法があるが、この方法により生成されたガスハイドレートは多量の水を含むスラリー状となるため、輸送・貯蔵するためには脱水機等により水分を分離する必要があった。(例えば、特許文献1を参照。)
そこで、水の代わりに氷を用いて、原料ガスと低温・低圧下で反応させて、固体状のガスハイドレートを直接生成するという、乾式の生成方法が開発された。(例えば、特許文献2を参照。)
この乾式の生成方法を用いたガスハイドレート製造装置の系統図を図5に示す。
【0004】
縦型の反応槽60の上部に下向けに設置された噴霧ノズル61から、反応槽60内に噴霧された水62は、適当な冷却手段67により冷却された反応槽60内で瞬時に凍結して、大きさが数十μmの微細な氷63となり、反応槽60の下部に向けて落下する。
【0005】
反応槽60の下部には原料ガス72を上向きに噴射するノズル64が設けられており、噴射された原料ガス65は落下してくる微細な氷63と反応して、ガスハイドレート70を生成する。
【0006】
この反応槽60内で生成したガスハイドレート70は、分離器69に送られて、未反応の原料ガス71と分離されてから回収されるが、細かい粉状であるため適当な大きさに造粒されてから輸送や貯蔵に供せられる。
【特許文献1】特開2003−73679号公報
【特許文献2】特開2004−99831号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上述の乾式の生成方法においては、原料ガスが固体である氷の中を拡散することによりガスハイドレートが生成されるため、氷中における原料ガスの速度が、水中でのそれに比べて著しく遅いことから、湿式の生成方法よりもガスハイドレートの生成に時間がかかるという欠点があった。
【0008】
また、原料ガスの種類や反応時の圧力にもよるが、一般にガスハイドレートが生成される温度は約1℃〜10℃の温度域であることが分かっているが、ガスハイドレートの生成反応は発熱を伴うため、そのまま放置しておくと、生成容器内の温度がこの生成温度を超えてしまい、ガスハイドレートが生成されなくなってしまうことになる。
【0009】
従って、上記の生成温度を保持するように、生成容器を常に冷却する必要があるため、ガスハイドレートの製造コストの上昇を招いていた。
【0010】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであり、製氷塔で生成された微細な氷と原料ガスを、生成容器内で所定の条件下で効率的に反応させることより、低コストでガスハイドレートを製造することができるガスハイドレート製造方法及びその製造装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するための本発明に係るガスハイドレートの製造方法は、ガスハイドレート生成容器内で氷と原料ガスとを反応させてガスハイドレートを製造する方法において、前記氷は大きさが1000μm以下の微細な氷として前記ガスハイドレート生成容器内に供給され、前記ガスハイドレート生成容器内の温度を1℃〜5℃に保持することにより前記微細な氷の表面を融解させて水膜を形成させ、前記原料ガスと前記水膜とを反応させてガスハイドレートを生成することを特徴とするガスハイドレート製造方法である。
【0012】
このように、生成容器内の温度を氷の融点より僅かに高温に保持することにより、微細な氷の表面に水の膜を形成させて、この水と原料ガスとを反応させてガスハイドレートを生成することにより、反応速度の上昇を図ることができる。
【0013】
また、同時に上記の生成反応の過程において、ガスハイドレートの生成に伴い生じる反応熱の大部分を、氷が融解する際に必要とされる融解熱を利用して除去することにより、生成容器内の温度上昇を防ぐことができ、その分の生成容器の冷却にかかるエネルギーを減らすことができるため、低コストでのガスハイドレートの製造が可能となる。
【0014】
一方、本発明に係るガスハイドレートの製造装置は、原料水から氷を生成する製氷塔と、前記製氷塔により生成された氷と原料ガスとを反応させてガスハイドレートを生成する生成容器から構成されるガスハイドレート製造装置であって、前記製氷塔は、その内部を冷却する第一の冷却手段と、前記第一の冷却手段により冷却された製氷塔内に原料水を噴霧して1000μm以下の大きさの氷を生成する噴霧ノズルと、前記生成された氷を前記生成容器へ移送する移送手段を備えており、前記生成容器は、その内部を冷却する第二の冷却手段と、前記生成容器内に前記原料ガスを噴射する噴射装置と、生成したガスハイドレートと未反応の原料ガスとを分離して回収する分離器を備えたガスハイドレート製造装置である。
【0015】
このようなガスハイドレート製造装置によれば、微細な氷と原料ガスとを直接反応させてガスハイドレートを生成する場合に比較して、効率よく低コストでガスハイドレートを製造することができる。
【0016】
そして、上記第一及び第二の冷却手段として、液化天然ガスの冷熱を利用することにより、更なる製造コストの低減を図ることが可能となる。
【0017】
更に、上記第二の冷却手段を生成容器内の温度に基づいて制御する制御装置を設けることにより、生成容器内の温度を正確に保持することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明により、ガスハイドレートの生成容器の冷却に係るコストを大幅に削減できるとともに、乾式の生成方法に比較して効率よくガスハイドレートを製造することができるため、ガスハイドレートを低コストで製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の実施の形態を図面を用いて説明する。
【0020】
図1は、本発明に係るガスハイドレート製造装置の系統図である。
【0021】
縦型の製氷塔1の上部には、1000μm以下、好ましくは100μm以下の水滴3を噴射することができる液体噴霧ノズル2が設置されており、製氷塔1内に原料水を霧状に噴霧する。
【0022】
ここで、製氷塔1内は氷が急速に生成する温度、例えば−100℃〜−20℃程度に冷却手段5により冷却されている。
【0023】
ここで、製氷塔1においては、原料水と冷却手段5の温度差が大きくすることができる(例えば、原料水の温度が10℃である場合には、その温度差は30℃〜110℃になる。)ため、製氷塔1内部の伝熱が容易となる。
【0024】
従って、製氷塔1内に噴霧された原料水は、即座に微細な大きさの氷4となり、製氷塔1内を下部に向かって落下する。
【0025】
このようにして生成された微細な氷3は、製氷塔1下部に設けられた移送手段6により、生成容器7内へ供給される。この移送手段6については、通常はスクリューコンベアなどの機械式の手段が用いられるが、製造装置の簡略化とコスト低減化の観点からは、重力を利用するものが好ましい。
【0026】
上記の移送手段6により供給された微細な氷8は、生成容器7の下部に設けられたガス噴射ノズル9から噴射される原料ガス10と対抗して、生成容器7内を下方へ落下する。
【0027】
なお、原料ガス16としては、通常は天然ガスが用いられるが、その他にはメタン、エタン、プロパン、ブタン、キセノン、及び二酸化炭素等でもよい。
【0028】
生成容器7内部の温度は、冷却手段11により、氷の融点よりもわずかに高温、具体的には約1℃〜7℃程度、好ましくは2℃〜4℃になるように保持されている。
【0029】
この生成容器7においては、製氷塔1の場合とは異なり、氷と冷却手段11の温度差は小さくならざるを得ない(例えば、氷の温度を0℃とした場合には、その温度は1℃〜7℃程度である。)ため、生成容器7内部の伝熱が困難となる。
【0030】
従って、生成容器7内に供給された微細な氷8はゆっくりと融解し、その表面には図2に示すように薄い水膜30が形成される。
【0031】
生成容器7内の原料ガス10は、この水膜30と反応するため、氷と直接反応する場合に比べて、きわめて短時間のうちにガスハイドレート13が生成される。このとき生成されるガスハイドレート13は、湿った粉状になるため、微細の氷8の表面に強固な一次生成層を形成することなく、その表面から容易に剥離するので、ガスハイドレート13の生成反応は効率的に継続されることになる。
【0032】
ここで、上記の生成反応は発熱反応であるため、そのままでは生成容器7内の温度を上昇させてしまうことになるが、微細な氷8が融解して水膜30を形成する際に吸熱反応が起こるため、それによりガスハイドレートの生成熱を容易に除去することができる。
【0033】
例えば、1kgのガスハイドレートを生成する際には約100kcalの発熱を生じるが、その原料となる氷の1kg当たりの融解熱は約80kcalであるため、冷却手段11が負担する除熱量は約20kcalで済むこととなり、従来の技術と比べて生成容器7の冷却にかかるコストを約5分の1に低減することができる。
【0034】
更に、製氷塔1内で生成する氷の温度を−40℃にすれば、融解熱の80kcalの他に、顕熱が20kcal(氷の温度を40℃上昇させるのに必要な熱量:40×氷の比熱(0.5kcal/kg))となるため、吸熱量の合計が100kcalとなり、冷却手段11の負担をゼロとすることが可能となる。
【0035】
上記のようにして製造されたガスハイドレート13は、分離器12に導かれた後に、未反応の原料ガス14から分離されて回収される。また、未反応の原料ガス14は、原料ガスの供給ライン17に戻されて再び生成容器7内に供給される。
【0036】
ここで、製氷塔1の冷却手段5、及び生成容器7の冷却手段11については、通常は冷凍機等によるが、原料ガス15に天然ガスを用いる場合には、ガスハイドレート製造装置の近傍に、液化天然ガスの再ガス化プラントがあることが期待されることから、図3に示すように、液化天然ガスの冷熱を利用することができる。
【0037】
これにより、装置の冷却に必要とされるエネルギーを大幅に削減できるため、ガスハイドレートの製造コストの更なる低減を図ることができる。
【0038】
また、上記で説明したように、ガスハイドレートを効率的に生成するために、生成容器7内の温度は2℃〜4℃という狭い温度域で保持する必要があり、極めて困難であるが、生成容器内部の温度を基にして、冷却手段11を制御する制御手段を付加することにより容易に行うことができる。
【0039】
この制御装置を付加した系統図の一例を図4に示す。
【0040】
制御装置22は、生成容器7内部に設けられた熱電対などの温度計23による測定温度を基に、冷却手段11内を流れる冷媒の流量を調節する流量弁24の開度を制御することにより、生成容器7内のわずかな温度の変化に対しても、適切に冷却をおこなうことができる。
【0041】
これにより、ガスハイドレートの更なる効率的な製造が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明に係るガスハイドレート製造装置の系統図である。
【図2】微細な氷の表面に形成された水膜を示したものである。
【図3】冷却手段に天然ガスの冷熱を利用する場合の系統図である。
【図4】生成容器内の温度を制御する制御手段を付加した場合の系統図である。
【図5】従来の技術に係るガスハイドレート製造装置の系統図である。
【符号の説明】
【0043】
1 製氷塔
2 液体噴射ノズル
3 噴霧された水滴
4 微細な氷
5 製氷塔の冷却手段
6 移送手段
7 生成容器
8 微細な氷
9 ガス噴射ノズル
10 原料ガス流
11 生成容器の冷却手段
12 分離器
13 ガスハイドレート
14 未反応原料ガス回収ライン
15 原料ガス
16 ポンプ
17 原料ガス供給ライン
20 熱交換器
21 熱交換器
22 制御装置
23 温度計
24 流量弁
60 反応槽
61 噴霧ノズル
62 噴霧水
63 微細な氷
63a 一次生成層
63b 未反応部分
64 原料ガスノズル
65 原料ガス流
66 ボールミル
67 冷却手段
68 熱交換機
69 分離器
70 ガスハイドレート
71 原料ガス回収ライン
72 原料ガスタンク
73 ボールミル駆動装置


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスハイドレート生成容器内で氷と原料ガスとを反応させてガスハイドレートを製造する方法において、
前記氷は大きさが1000μm以下の微細な氷として前記ガスハイドレート生成容器内に供給され、
前記ガスハイドレート生成容器内の温度を1℃〜5℃に保持することにより前記微細な氷の表面を融解させて水膜を形成させ、
前記水膜を形成した微細な氷を前記原料ガスの気流中で撹拌することにより、前記原料ガスと前記水膜とを反応させてガスハイドレートを生成することを特徴とするガスハイドレート製造方法。
【請求項2】
原料水から氷を生成する製氷塔と、
前記製氷塔により生成された氷と原料ガスとを反応させてガスハイドレートを生成する生成容器と、
から構成されるガスハイドレート製造装置であって、
前記製氷塔は、
その内部を冷却する第一の冷却手段と、
前記第一の冷却手段により冷却された製氷塔内に原料水を噴霧して1000μm以下の大きさの氷を生成する噴霧ノズルと、
前記生成された氷を前記生成容器へ移送する移送手段と、を備え、
前記生成容器は、
その内部を冷却する第二の冷却手段と、
前記生成容器内に前記原料ガスを噴射する噴射装置と、
生成したガスハイドレートと未反応の原料ガスとを分離して回収する分離器と、
を備えた、ガスハイドレート製造装置。
【請求項3】
前記第一の冷却手段と前記第二の冷却手段の少なくとも1つを、液化天然ガスの冷熱を利用して行うことを特徴とする請求項2に記載のガスハイドレート製造装置。
【請求項4】
前記生成容器内の温度に基づき前記第二の冷却手段を制御する制御装置を備えたことを特徴とする請求項2又は請求項3に記載のガスハイドレート製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−274140(P2006−274140A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−97777(P2005−97777)
【出願日】平成17年3月30日(2005.3.30)
【出願人】(000211307)中国電力株式会社 (6,505)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)
【Fターム(参考)】