説明

ガスハイドレートペレットの成形装置および成形方法

【課題】 ガスハイドレート(GH)生成プラントで成形されるGHペレット(GHP)の付着水を分離させるためヘキサン等の封液に浸漬すると、封液室に供給する際の減圧で封液を吸収し、脱圧工程でガス層が形成され、GHPの分解を促進するため、封液を吸収させないようにするGHPの成形装置を提供する。
【解決手段】 GHPを形成する圧搾装置21の出口22aに液体プロパンや液体ヘキサン等の封液Lを充填した封液室30の上部を接続する。開閉プランジャ33で出口22aを閉塞した状態で圧搾プランジャ21eを圧搾装置21内で前進させ、圧搾室22に供給されたGHスラリーを圧搾して搾水し、GHPを形成する。GHPの形成後、圧搾プランジャ21eを僅かに後退させてGHPを減圧し水を滲入させて吸収させた後、出口22aを開放してGHPを封液室30に供給する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば、海底下等に存在している天然ガスハイドレートを輸送や貯蔵等に適した状態に生成する天然ガスハイドレート生成プラントに設置されているペレット成形装置によってガスハイドレートスラリーからガスハイドレートペレットを成形した際に、分解が極力抑制されて貯蔵や輸送の際に安定した状態を維持するガスハイドレートペレットを成形するためのガスハイドレートペレットの成形装置に関する。
【背景技術】
【0002】
シベリアやカナダ、アラスカ等の凍土地帯や大陸周辺部における水深500m以下の海底下には、主成分がメタンである天然ガスハイドレート(NGH)が存在している。このNGHは、メタン等のガス分子と水分子とから構成される低温高圧下で安定した水状固体物質あるいは包接水和物であり、二酸化炭素や大気汚染物質の排出量が少ないクリーンエネルギとして着目されている。
【0003】
天然ガスは液化された後、貯蔵されてエネルギとして利用されているが、その製造や貯蔵は−162℃の極低温において行われている。これに対して天然ガスハイドレートは、−20℃でほとんど分解せずに安定した性質を示し、固体として扱うことができる等の利点を備えている。このような性質から、世界中に存在している採算面等の理由から未開発の中小ガス田におけるガス資源を有効に利用することができる手段として、あるいは大ガス田からの近距離、小口輸送の場合等に天然ガスをハイドレート化して輸送、貯蔵し、さらに再ガス化して利用する天然ガスハイドレート方式(NGH方式)が期待されている。
【0004】
NGH方式では、中小ガス田等のNGH出荷基地において、輸送や貯蔵に適したNGHを生成し、輸送船や車両等によって所望のNGH受入基地まで輸送され、NGH受入基地では輸送されたNGHを貯蔵し、必要に応じてNGHガス化装置によってエネルギ源として利用することになる。図8は、前記NGH出荷基地に利用されるガスハイドレートの生成プラントの構成の一例を説明する概略のブロック図である。採掘された原料ガスGは高圧反応容器である生成器1において水Wと十分に混合され、ハイドレート化されて低濃度のガスハイドレートスラリーが生成される。生成されたガスハイドレートスラリーは供給ポンプ2によって脱水器3に供給されて、脱水された高濃度のガスハイドレートスラリーを生成する。このとき、脱水器3へは該脱水器3の最下部に供給される。供給されたガスハイドレートスラリーは脱水器3を上昇する際に、脱水器3の途中に設けた水切り部(微細孔やスリット等によりハイドレート粒子と水を分離する部分)で脱水されて、脱水器3の上端部から取り出される。取り出されたガスハイドレートは、パウダー状となったガスハイドレートパウダーとして取り出される。このガスハイドレートパウダーがペレット成形器4に供給されて造粒され、輸送や貯蔵等にとって適宜な大きさのガスハイドレートペレットが成形される。次いで、常圧下においても分解しない温度まで冷却器5により冷却された後、脱圧装置6に供給される。すなわち、前記生成器1からペレット成形器4に至るまでは、高圧下(温度はガスハイドレート種によって異なり、NGHの場合、2〜10℃)において処理がなされ、冷却器5と脱圧装置6とにより、常圧下でもほとんど分解しない温度(例えばNGHの場合、概ね−20℃)に処理される。その後、成形されたガスハイドレートペレットは貯蔵槽に給送されて貯蔵される。
【0005】
しかしながら、従来の工程では、脱水器3とペレット成形器4とのそれぞれの装置を必要としており、ガスハイドレート生成プラントを大型化させてしまうと共に、生成工程を煩雑にするおそれがある。
【0006】
一方、本願出願人は、脱水器とペレット成形器とを単独の装置により行うことができ、しかも、ガスハイドレート生成プラントの連続処理を損なうことがないガスハイドレートペレット成形装置を提案している(特許文献1参照)。
【0007】
この特許文献1に開示されたガスハイドレートペレット成形装置は、前記生成器で生成したガスハイドレートスラリーを充填して圧搾する圧搾室と、前記圧搾室に連通し、該圧搾室で圧搾されたガスハイドレートペレットを受け入れて冷却する冷却室と、前記冷却室に連通し、冷却されたガスハイドレートペレットを脱圧する脱圧工程に連通する供給路と、前記圧搾室に設けた圧搾手段と、前記圧搾室と前記冷却室との間を開閉する弁手段と、前記冷却室と前記供給路との間を移動すると共に、ガスハイドレートペレットを受容する保持室を備えたペレット保持手段とからなり、前記圧搾手段でガスハイドレートを圧搾後、前記弁手段を開放し、該圧搾手段の圧搾動作を継続してガスハイドレートペレットを前記冷却室に供給することにより、ガスハイドレートペレットを順次冷却室から前記ペレット保持手段の保持室に給送し、該ペレット保持手段の移動動作によって、前記冷却室を遮断した状態でガスハイドレートペレットを前記供給路へ供給するようにしたものである。
【0008】
ところで、前述したように、ガスハイドレートスラリーを圧搾して水分を除去する際に、例えば、90重量%まで搾水することになるが、この搾水工程は高圧下で行われて、成形されたガスハイドレートペレットには水分が残存しており、一部はガスハイドレートペレットの表面に付着した付着水として存在する。また、ガスハイドレートペレットに成形する際には、水の飛沫等が発生する。一方、ガスハイドレートペレットを常圧下で安定させた状態に維持するためには、約−20℃に冷却されるから、前記付着水や飛散した水が凍結する。この氷が成形されたガスハイドレートペレット同士を接着させ、冷却装置の内部でペレットの塊を形成するおそれがある。しかも、形成されたペレットの塊が冷却装置内で成長してさらに大きな塊となり、冷却装置を閉塞するおそれが生じる。さらに、冷却装置の伝熱面に堆積して、伝熱効率を低下させてしまい、ガスハイドレートを十分に冷却できなくなってしまうおそれがある。
【0009】
このため、成形されたガスハイドレートペレットに同伴される付着水や飛沫水等を確実に分離するようにしたガスハイドレートの付着水分離装置を、本願出願人は提案している(特許文献2参照)。
【0010】
前記ガスハイドレートの付着水分離装置は、原料ガスと水とを生成器に供給して高圧下で反応させてガスハイドレートスラリーを生成し、ガスハイドレートスラリーから水分を除去した後、所望の大きさのペレットに成形して冷却した後、常圧まで減圧するガスハイドレート生成プラントにおいて、前記ガスハイドレートスラリーを充填して該ガスハイドレートスラリーを圧搾してガスハイドレートペレットを形成する圧搾装置と、前記圧搾装置に連通させて、該圧搾装置で形成したガスハイドレートペレットを供給し、密度が水よりも小さい液体であって、ガスハイドレートスラリーの生成のための圧力のもとで液化した状態を維持し、ガスハイドレートペレットの状態を安定させる温度環境にあって凍結しない液体による封液を充填した封液室と、前記封液室の下部に配して、該封液室を沈降するガスハイドレートペレットを受け容れて次工程へ移送するペレット移送装置と、前記ペレット移送装置の下方であって、封液室を沈降したガスハイドレートを受け止める共に、封液室を降下する水を通過させる水分離板とから構成されたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特願2009−087565
【特許文献2】特願2010−143348
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
前記ガスハイドレートの付着水分離装置は、ガスハイドレートスラリーを所望の濃度まで圧搾したならば、前記封液室に給送することになるが、その際、前記圧搾装置と封液室との間を連通させることになる。例えば、圧搾装置と封液室との間を閉止していた扉体を開放することになる。このとき、圧搾のために加圧された状態で形成されたガスハイドレートペレットが圧搾前の圧力まで減圧されるため、僅かに膨張し、封液室内の液体、例えばヘキサンやプロパン等の封液がガスハイドレートペレットに吸収される。この封液が吸収された状態は、ガスハイドレートが生成する高圧の雰囲気であるが、この状態から後続する脱圧工程に供されると、大気圧程度の雰囲気となるため、吸収した封液が気化してガスハイドレートペレット中に微細なガス層が形成されることになる。さらに、この微細なガス層によりガスハイドレートペレットの比表面積が増大し、その結果として分解し易い状態となるおそれがある。
【0013】
そこで、この発明は成形されたガスハイドレートペレットにヘキサン等の封液が吸収されることを阻止して、脱圧時にガス層が形成されることを抑制し、さらにはガスハイドレートペレットの分解を抑制することができるガスハイドレートペレットの成形装置および成形方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記目的を達成するための技術的手段として、この発明に係るガスハイドレートペレットの成形装置は、原料ガスと水とを生成器に供給して高圧下で反応させてガスハイドレートスラリーを生成し、ガスハイドレートスラリーから水分を除去しつつ、所望の大きさのペレットに成形するガスハイドレート生成プラントにおいて、前記ガスハイドレートスラリーを充填して該ガスハイドレートスラリーを圧搾してガスハイドレートペレットを形成する圧搾装置と、前記圧搾装置に連通させて、該圧搾装置で形成したガスハイドレートペレットを供給し、密度が水よりも小さい液体であって、ガスハイドレートスラリーの生成のための圧力のもとで液化した状態を維持し、ガスハイドレートペレットの状態を安定させる温度環境にあって凍結しない液体を封液として充填した封液室とからなり、前記圧搾装置で形成したガスハイドレートペレットを減圧させた後、該ガスハイドレートペレットを前記封液室に供給することを特徴としている。
【0015】
形成されたガスハイドレートペレットが、圧搾後の圧力から、例えば圧搾前の圧力まで減圧されると、ガスハイドレートペレットが僅かに膨張し、その際、ガスハイドレートペレットの周囲にある圧搾されていた水が該ガスハイドレートペレットに吸引(吸収)されてガスハイドレートペレットに滲入する。そのため、該ガスハイドレートペレットが封液室に供給されても、ヘキサン等の封液はガスハイドレートペレットに吸収されない。従って、脱圧された状態で封液が気化することによるガス層は形成されず、ガスハイドレートペレットの分解は促進されない。
【0016】
また、請求項2の発明に係るガスハイドレートペレットの成形装置は、前記圧搾装置と封液室との間の連通状態と遮断状態とを、進退動作によって切り替える開閉プランジャと、前記圧搾装置に前記封液室に対して進退する圧搾プランジャとを備え、前記開閉プランジャで圧搾装置と封液室とを遮断した状態で前記圧搾プランジャを前進させて、前記ガスハイドレートスラリーを圧搾してガスハイドレートペレットを成形し、前記圧搾プランジャを後退させてガスハイドレートペレットを減圧すると共にガスハイドレートペレットに搾水を吸収させ、前記開閉プランジャを移動させて前記圧搾装置と封液室とを連通させて、前記ガスハイドレートペレットを封液室に供給することを特徴としている。
【0017】
ガスハイドレートペレットが形成されたならば、前記開閉プランジャで遮断状態を維持させて前記圧搾プランジャを後退させて、ガスハイドレートペレットを、圧搾後の圧力から、例えば圧搾前の圧力まで減圧する。これにより、それまで圧搾された水が吸引(吸収)されてガスハイドレートペレットに滲入する。なお、このときの後退量は僅かであって、形成されたガスハイドレートペレットの膨張が安定する状態となる位置まで後退させるものであり、ガスハイドレートペレットを形成する際の圧搾圧力や形成されたガスハイドレートペレットの寸法、圧搾装置の形状や寸法、圧搾プランジャのヘッド部の面積、吸引される水が通過する通路寸法等の条件に応じて設定される。
【0018】
また、この発明に係るガスハイドレートペレットの成形方法は、原料ガスと水とを生成器に供給して高圧下で反応させてガスハイドレートスラリーを生成し、ガスハイドレートスラリーから水分を除去しつつ、所望の大きさのペレットに成形するガスハイドレート生成プラントにおいて、前記ガスハイドレートスラリーを充填して該ガスハイドレートスラリーを圧搾し、搾水してガスハイドレートペレットを形成し、前記搾水して形成したガスハイドレートペレットを減圧して、該ガスハイドレートペレットに、適宜量の前記搾水を吸収させ、前記搾水を吸収したガスハイドレートペレットを、密度が水よりも小さい液体であって、ガスハイドレートスラリーの生成のための圧力のもとで液化した状態を維持し、ガスハイドレートペレットの状態を安定させる温度環境にあって凍結しない液体を封液中に供給することを特徴としている。
【0019】
ガスハイドレートスラリーを圧搾して水分を搾りだして、ガスハイドレートを固めたガスハイドレートペレットを形成する。形成されたガスハイドレートペレットを減圧すると、該ガスハイドレートペレットが僅かに膨張し、圧搾された水が吸引されて吸収される。次いで、前記封液中に供給されても封液が吸収されることが抑制される。したがって、後続する行程で脱圧された場合でもガス層が形成されることがない。
【0020】
なお、吸収させる搾水の「適宜量」とは、減圧された際のガスハイドレートペレットの膨張量に対応した量であり、該ガスハイドレートペレットが封液中に供給された際に、封液が吸収される余地がほとんどない状態までガスハイドレートペレットにおける割合を占める程度である。
【発明の効果】
【0021】
この発明に係るガスハイドレートペレットの成形装置、または請求項3の発明に係るガスハイドレートの成形方法によれば、形成されたガスハイドレートペレットをヘキサン等の封液中に浸漬させた場合に、封液がガスハイドレートペレットに吸引(吸収)されることがない。このため、後続の脱圧工程において気化した封液によるガス層が形成されることがなく、輸送や貯蔵時等におけるガスハイドレートペレットを安定させて分解を抑制することができる。したがって、ガスハイドレートペレットの輸送・貯蔵上の効率が向上して、ガスハイドレートの利便性が高まる。
【0022】
また、請求項2の発明に係るガスハイドレートペレットの成形装置によれば、ガスハイドレートペレットの成形圧や成形速度を任意に選定できると共に、形成されたガスハイドレートペレットの減圧を確実に行うことができる。しかも、それまでに搾水された水を滲入させるため、排出径路中にある搾水を吸引することができ、滲入させるための水の通路等を別に確保する必要がなく、簡便な構造でガスハイドレートペレットの安定性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】この発明に係るガスハイドレートペレットの成形装置を説明するための模式図である。
【図2】この発明に係るガスハイドレートペレットの成形装置の動作を説明する図で、ガスハイドレートスラリーを充填する状態を示している。
【図3】充填されたガスハイドレートスラリーを圧搾して、ガスハイドレートペレットを形成した状態を示している。
【図4】ガスハイドレートペレットを形成した後に該ガスハイドレートペレットを圧搾後の圧力から圧搾前の圧力まで減圧した状態を示している。
【図5】形成されたガスハイドレートペレットを封液室に供給する状態を示している。
【図6】形成されたNGHペレットの時間の経過により分解される状況を示すグラフであり、NGHペレットの減圧処理を行った場合を示している。
【図7】形成されたNGHペレットの時間の経過により分解される状況を示すグラフであり、NGHペレットの減圧処理(圧搾後の圧力から圧搾前の圧力まで)を行っていない場合を示している。
【図8】NGHの出荷基地に利用される、NGHの生成プラントの構成の一例を説明する概略のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図示した好ましい実施の形態に基づいて、この発明に係るガスハイドレートペレットの成形装置を具体的に説明する。
【0025】
図1はこの発明に係るガスハイドレートペレットの成形装置を説明する図であり、図8に示すガスハイドレート生成プラントの場合と同様に、ガスハイドレートは生成器1に原料ガスGと水Wが、それぞれ原料ガス供給管11と反応水供給管12とから供給されている。生成器1では、これら原料ガスGと水Wとが反応してガスハイドレートスラリーを生成し、スラリー供給管13によりペレット成形装置20の圧搾装置21に給送されている。また、生成器1からは未反応水再循環ポンプ1aを介して返戻管1bから未反応水が回収されている。この未反応水再循環ポンプ1aの吐出側は前記反応水供給管12に接続されている。また、反応水供給管12には調整弁12aが設けられており、生成器1の内圧を測定している圧力計11cの測定値に基づいて該調整弁12aの開度が調整されている。
【0026】
前記圧搾装置21は筒状の内筒21aとこの内筒21aを収容した外筒21bとにより構成されており、内筒21aには該内筒21aの軸Oの方向に摺動して進退可能な圧搾プランジャ21eが収容されている。なお、この圧搾プランジャ21eは、駆動源として油圧シリンダ21fの作動により進退動作を行うようにしてある。内筒21aの一部には適宜な大きさの透孔が形成されたスクリーン部21cが設けられている。
【0027】
前記圧搾装置21の下部には、スラリー循環ポンプ11aの吸込側に接続されたスラリー回収管21dが接続されており、このスラリー循環ポンプ11aの吐出側に前記原料ガス供給管11が接続されている。また、スラリー循環ポンプ11aの吸込側には原料ガス供給ポンプ11bの吐出側が接続されている。すなわち、後述するように圧搾装置21でガスハイドレートスラリーが生成される際に発生する搾水は、原料ガス供給ポンプ11bから供給される原料と合流して、スラリー循環ポンプ11aにより生成器1に返戻されている。また、前記スラリー供給管13の途中と前記スラリー回収管21dとが戻し管13aにより接続されており、この戻し管13aの途中に戻し弁13bが設けられている。前記圧搾プランジャ21eの後方側となる背圧室21gにはガス・水バッファ21hが背圧管21iを介して接続されている。このガス・水バッファ21hは、前記スラリー回収管21dに調整弁21jを介して接続されている。
【0028】
前記圧搾装置21の圧搾プランジャ21eの前方側となる圧搾室22の前端はペレット出口22aとされており、このペレット出口22aには、上下方向を長手方向とした筒状の封液室30の上部が接続させてあり、これら圧搾室22と封液室30とが連通させてある。この封液室30は密度が水よりも小さい液体である封液Lで充満されている。また、ガスハイドレートの生成は、常温で、約5.4MPaの高圧下で行われ、前記圧搾装置21の外筒21bはいわゆる高圧容器で形成されており、封液室30も高圧容器で形成されている。このため、前記封液Lは約5.4MPaの高圧下で液体の状態を維持するものとしてあり、例えば、液体プロパンや液体ヘキサンが用いられている。この封液室30にはクッションタンク31が設けられており、封液室30に封液Lを供給することにより、封液室30に封液Lが常に充満されるようにしてある。封液室30の前記圧搾室22のペレット出口22aを臨んだ部分には、駆動シリンダ32aの作動によって該該ペレット出口22aの出口面に沿って摺動可能な掻き板32が設けられている。
【0029】
また、前記圧搾室22のペレット出口22aに対して進退可能な開閉プランジャ33が配されている。この開閉プランジャ33が前進して前記ペレット出口22aに押圧されることにより該ペレット出口22aが閉じられて、圧搾室22と封液室30とが遮断され、後退することによりペレット出口22aが開放されるようにしてある。この開閉プランジャ33は、例えば閉塞シリンダ33aの作動により進退するようにしてある。
【0030】
前記封液室30の中間部には、縮径された首部30aが形成されており、この首部30aの下方には、後述するように封液室30を沈降するガスハイドレートペレットPを封液室30の外部に排出しながら次工程へ移送するペレット移送装置34が設けられている。このペレット移送装置34の下方であって、封液室30の内部には水分離板35が設けられている。この水分離板35は、水が通過することを許容し、ガスハイドレートペレットPを通過することを阻止するものであり、例えば、水の通過を許容する透孔が形成されているものとされている。そして、この水分離板35の下方となる封液室30の底部が貯水部36とされている。
【0031】
前記貯水部36には水回収ポンプ37の吸込側が接続されており、この水回収ポンプ37の作動によって貯水部36内に滞留した水を排出するようにしてある。なお、排出された水は、前記生成器1に返戻させて原料ガスGを反応させる水Wに利用されるようにすることが好ましい。また、前記貯留部36に滞留した水位を検出する水位検出器37aが設けられており、前記水回収ポンプ37はこの水位検出器37aの出力信号に基づいて駆動されるようにしてある。
【0032】
以上により構成されたこの発明に係るガスハイドレートペレットの成形装置の作用、以下に説明する。
【0033】
図2は、前記生成器1によって生成されたガスハイドレートスラリーが供給される状態にある前記圧搾装置21を示している。このとき、前記圧搾プランジャ21eは、図2に示すように、内筒21a内を後部まで後退した位置にある。また、前記開閉プランジャ33は前進して圧搾装置21のペレット出口22aを閉じた位置にある。この状態で、前記スラリー供給管13からガスハイドレートスラリーが圧搾室22に供給される。供給されたガスハイドレートに同伴された未反応の水は、内筒21aのスクリーン部21cでろ過されて外筒21b内に流出し、前記スラリー循環ポンプ11aにより前記スラリー回収管21dを通って生成器1に回収される。内筒21a内にガスハイドレートスラリーが充填されると、前記圧搾プランジャ21eが、図3に示すように、前進してガスハイドレートスラリーを圧搾し、ガスハイドレートスラリーから搾水される。これにより、ガスハイドレートの塊となってガスハイドレートペレットPが形成される。図3に示すように、圧搾プランジャ21eは、内筒21aの前部まで前進する。このとき、例えば、約10重量%のガスハイドレートスラリーを充填した場合に、約90重量%まで搾水されて、ガスハイドレートペレットPが形成されるように圧搾手段の動作を調整する。
【0034】
所望の濃度まで搾水されてガスハイドレートペレットPが形成されたならば、前記圧搾プランジャ21eを、図3に示す位置から図4に示す位置まで、僅かに後退させる。この後退量は、図3に示す位置にある状態で後述の開閉プランジャ33を後退させてペレット出口22aを開放した際にガスハイドレートペレットPに生じる減圧状態と同様に減圧される程度としてある。また、この後退量は、ガスハイドレートペレットPを形成する際の圧搾圧力や形成されたガスハイドレートペレットPの寸法、圧搾装置21の形状や寸法、圧搾プランジャ21eのヘッド部の面積、吸引される水が通過する通路寸法等の条件に応じて設定され、形成されたガスハイドレートペレットPの膨張が安定する状態となる位置まで後退させるようにすることが好ましい。
【0035】
圧搾プランジャ21eが後退することによりガスハイドレートペレットPが減圧されると、それまで圧搾された水が逆方向に流れてガスハイドレートペレットPに吸収されることになる。なお、圧搾プランジャ21eの前進端の近傍では、搾水は圧搾プランジャ21eと外周面と圧搾室22の内周面との間隙を通って圧搾プランジャ21eのヘッド部の後方に流出することになり、圧搾プランジャ21eの後退時には前記間隙を通ってガスハイドレートペレットPに滲入することになる。
【0036】
ガスハイドレートペレットPに適宜な量の水が吸収されたならば、図5に示すように、前記開閉プランジャ33を後退させて圧搾装置21のペレット出口22aを開放する。この状態で前記圧搾プランジャ21eが前進すると、形成されたガスハイドレートペレットPがペレット出口22aから前記封液室30に押し出されることになる。このとき、連続して押し出されたガスハイドレートペレットPが封液室30における処理にとって大きすぎる場合には、前記掻き板32が駆動シリンダ32aにより駆動され、出口面に沿って摺動することによりガスハイドレートペレットPが切断される。ガスハイドレートペレットPは封液室30に押し出されると、この封液室30に充満している封液Lに浸漬される。この封液Lの密度は水よりも小さいものとしてあるため、ガスハイドレートペレットPは封液Lを沈降することになる。また、ガスハイドレートペレットPの形成時に表面に付着した水も同様に沈降することになる。付着した水は、封液Lとの密度差により表面張力を受けてガスハイドレートペレットPの表面から離隔する。
【0037】
ガスハイドレートペレットPが沈降して前記ペレット移送装置34に到達すると該ペレット移送装置34に受け容れられて、封液室30から外部に排出される。このペレット移送装置34にも封液Lが充填されているから、封液LもガスハイドレートペレットPと共に排出されることになる。また、封液室30におけるペレット移送装置34の下方に設けられた水分離板35にガスハイドレートペレットPが到達すると、該水分離板35によって沈降が停止する。一方、ガスハイドレートペレットPから離隔した水は、この水分離板35を通過して、水分離板35の下方の貯水部36に滞留する。そして、滞留した水は前記水回収ポンプ37で前記生成器1に返戻される。
【0038】
前記ペレット移送装置34によって移送されるガスハイドレートペレットPは、次工程では冷却される。このとき、前記封液LもガスハイドレートペレットPに伴われて冷却工程に移送されるから、該封液Pも冷却されることとなる。冷却工程ではガスハイドレートペレットPが常圧下にあっても安定した状態を維持できるようにすることから、例えばNGHの場合では概ね−20℃で冷却される。このため、封液Lも−20℃の雰囲気中に晒されることになり、この雰囲気中でも凍結することがないものを用いることが好ましく、前述したように、液体プロパンや液体ヘキサン等を用いることが適している。
【0039】
冷却されたガスハイドレートペレットPは、常圧まで脱圧されて貯蔵するのに適した状態となり、貯蔵槽に給送される。このガスハイドレートペレットPには水が滲入していてヘキサン等の封液Lが吸収されていないため、この脱圧される際に、ヘキサン等のガス層が形成されことが抑制されて、ガスハイドレートペレットPの分解を促進させる原因が極力解消される。
【0040】
次に、形成されたガスハイドレートペレットPがNGHペレットのケースについて、前記圧搾プランジャ21eを後退させない場合のものと、後退させた場合のものとについて分解速度を比較した。すなわち、圧搾プランジャ21eを後退させることにより、形成されたNGHペレットPに水を滲入させて吸収させた後に封液Lに浸漬させて安定化させた場合(以下、「水含有NGHペレット」という。)と、圧搾プランジャ21eを後退させずに封液Lに浸漬させることにより、封液Lを吸収した後に安定化させた場合(以下、「封液含有NGHペレット」という。)とについて、それぞれ分解速度を測定した。なお、NGHペレットPの形成条件は、圧搾プランジャ21eによる圧搾圧を15.4(MPa)とし、それぞれ安定化させた後の2週間について次式で示すNGH率の変化を測定した。
NGH率(wt%) = {(ペレット中のNGH重量)÷(ペレットの重量)}×100 式1
ここで、分母の「ペレット中のNGH重量」は、実測したペレット重量と分解後の水の重量をもとにして次式より求めた。
ペレット中のNGH重量 = 天然ガス重量×
{1+((NGHの水和数×水の分子量)÷天然ガスの分子量)} 式2
なお、
天然ガス重量 = ペレット重量−分解後の水の重量
NGHの水和数(NGH内のガス分子と水分子の個数比) = 6.19
水の分子数 = 18g/mol
天然ガスの分子量(平均分子量) = 16.94g/mol
として求めた。
また、初期NGH率については、水含有NGHペレットが82(wt%)、封液含有NGHペレットが84(wt%)であり、サンプル重量は、水含有NGHペレットが42(g)、封液含有NGHペレットが49(g)であった。そして、2週間後のNGH率が、水含有NGHペレットでは72(wt%)に、封液含有NGHペレットでは44(wt%)になった。
【0041】
前記分解速度の比較を図6及び図7に示してあり、図6は水含有NGHペレットについてのNGH率の変化を、図7は封液含有NGHペレットについてのNGH率の変化を示している。これらのグラフのNGH率の変化から分解速度を求めると、水含有NGHペレットでは0.67(wt%/day)が、封液含有NGHペレットでは2.9(wt%/day)が、それぞれ得られた。すなわち、水含有NGHペレットの方が分解速度が小さく長い期間で安定していた。
【産業上の利用可能性】
【0042】
この発明に係るガスハイドレートペレットの成形装置によれば、分解が抑制されたガスハイドレートペレットを成形することができ、輸送や貯蔵時におけるガスハイドレートペレットの安定性を確保し、ガスハイドレートペレットの利用の促進に寄与する。
【符号の説明】
【0043】
G 原料ガス
W 水
L 封液
1 生成器
21 圧搾装置
21a 内筒
21b 外筒
21e 圧搾プランジャ
22 圧搾室
22a ペレット出口
30 封液室
32 掻き板
33 開閉プランジャ
34 ペレット移送装置
35 水分離板
36 貯水部
37 水回収ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料ガスと水とを生成器に供給して高圧下で反応させてガスハイドレートスラリーを生成し、ガスハイドレートスラリーから水分を除去しつつ、所望の大きさのペレットに成形するガスハイドレート生成プラントにおいて、
前記ガスハイドレートスラリーを充填して該ガスハイドレートスラリーを圧搾してガスハイドレートペレットを形成する圧搾装置と、
前記圧搾装置に連通させて、該圧搾装置で形成したガスハイドレートペレットを供給し、密度が水よりも小さい液体であって、ガスハイドレートスラリーの生成のための圧力のもとで液化した状態を維持し、ガスハイドレートペレットの状態を安定させる温度環境にあって凍結しない液体を封液として充填した封液室とからなり、
前記圧搾装置で形成したガスハイドレートペレットを減圧させた後、該ガスハイドレートペレットを前記封液室に供給することを特徴とするガスハイドレートペレットの成形装置。
【請求項2】
前記圧搾装置と封液室との間の連通状態と遮断状態とを、進退動作によって切り替える開閉プランジャと、
前記圧搾装置に前記封液室に対して進退する圧搾プランジャとを備え、
前記開閉プランジャで圧搾装置と封液室とを遮断した状態で前記圧搾プランジャを前進させて、前記ガスハイドレートスラリーを圧搾してガスハイドレートペレットを成形し、
前記圧搾プランジャを後退させてガスハイドレートペレットを減圧すると共にガスハイドレートペレットに搾水を吸収させ、
前記開閉プランジャを移動させて前記圧搾装置と封液室とを連通させて、前記ガスハイドレートペレットを封液室に供給することを特徴とする請求項1に記載のガスハイドレートペレットの成形装置。
【請求項3】
原料ガスと水とを生成器に供給して高圧下で反応させてガスハイドレートスラリーを生成し、ガスハイドレートスラリーから水分を除去しつつ、所望の大きさのペレットに成形するガスハイドレート生成プラントにおいて、
前記ガスハイドレートスラリーを充填して該ガスハイドレートスラリーを圧搾し、搾水してガスハイドレートペレットを形成し、
前記搾水して形成したガスハイドレートペレットを減圧して、該ガスハイドレートペレットに、適宜量の前記搾水を吸収させ、
前記搾水を吸収したガスハイドレートペレットを、密度が水よりも小さい液体であって、ガスハイドレートスラリーの生成のための圧力のもとで液化した状態を維持し、ガスハイドレートペレットの状態を安定させる温度環境にあって凍結しない液体を封液中に供給することを特徴とするガスハイドレートペレットの成形方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−115880(P2012−115880A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−268900(P2010−268900)
【出願日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)
【Fターム(参考)】