説明

ガスバリア性成形物の製造方法及びそれから得たガスバリア性成形物

【課題】本発明は、廉価で、かつ、ガスバリア層が剥離することのないガスバリア性成形物の製造方法及び、それを用いたガスバリア性成形物を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明に係るガスバリア性成形物の製造方法は、樹脂からなる成形物に放射線を照射する照射工程と、前記成形物の表面のうちガスバリア性付与予定面をアクリル酸及び/又はメタクリル酸の水溶液に接触させ、前記ガスバリア性付与予定面の外方向及び内方向に向けてアクリル酸及び/又はメタクリル酸をグラフト重合させることによって、前記ガスバリア性付与予定面にグラフト重合層を固定し、ガスバリア層を形成する重合工程と、を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材樹脂の表面にグラフト重合層を形成して、ガスバリア性を付与した成形物の製造方法及び上記構成のガスバリア性成形物に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂材料にガスバリア性を付与する方法には、基材樹脂にガスバリア性を有する成分を複合させるコンパウンド技術、基材樹脂の表面にガスバリア性のある成分の層を形成させるコーティング技術、及び、基材樹脂にガスバリア性のある樹脂を積層させる積層技術がある。このうち、コーティング技術によるガスバリア性付与の例としては、ポリエチレンテレフタレート樹脂(以下、PETともいう。)やポリアミドからなる基材フィルムにポリアクリル酸をコーティングし、その後、ポリアクリル酸を亜鉛イオン架橋してフィルム表面に緻密なガスバリア層を形成することによって、酸素バリア性及び水蒸気バリア性に優れるガスバリアフィルムを作成し、食品用包装材料として使用されている(例えば、特許文献1を参照。)。
【0003】
また、積層技術による例としては、樹脂性燃料タンクのガソリンバリア性の向上が挙げられる。近年、自動車用の樹脂製燃料タンクは、金属性燃料タンクに比べて、軽量性、耐蝕性、耐衝撃性、形状の自由度等の利点を有しているため、高密度ポリエチレン(以下、HDPEともいう。)等の樹脂を基材として成形した樹脂製燃料タンクの使用が増えている。ポリオレフィン系樹脂は、廉価であり、耐薬品性及び耐衝撃性が優れ、かつ、成形性もよいことから、樹脂製燃料タンクの基材樹脂として広く使用されている。しかし、HDPE等のポリオレフィン系樹脂はガスバリア性が低いため、ガソリンの透過性が大きいという問題があり、ガソリン透過を防ぐポリアミド、エチレン・ビニルアルコール共重合樹脂等のガスバリア性の高い樹脂を使用したガスバリア層をポリオレフィン系樹脂に積層させて、ガソリンバリア性を高めた樹脂性燃料タンクが使用されている(例えば、特許文献2を参照。)。
【0004】
一方、近年、樹脂材料に機能性を付与する方法として、放射線グラフト重合法の利用が進められている(例えば、非特許文献1を参照。)。放射線グラフト重合法とは、樹脂材料に放射線を照射し、そのエネルギーによって樹脂の高分子鎖にある共有結合を切断してラジカルを生成させ、このラジカルを活性種として、二重結合を有するモノマーと反応させることによって、所望の構造と量を有するグラフト鎖を基材樹脂の高分子主鎖上に形成する方法である。放射線グラフト重合法は、種々の材質の樹脂材料を基材として利用できる利点があり、また、種々の形状の樹脂成形物を基材として利用できる。例えば、フィルム、シート、ペレット、不織布、カップ、中空容器等の成形物に適用できる。放射線グラフト重合法には、基材樹脂とモノマーとを同時に放射線照射し、重合反応させる同時照射グラフト重合法と、基材樹脂にのみ放射線照射した後、モノマーと反応させる前照射グラフト重合法がある。このうち前照射グラフト重合法は、基材樹脂とグラフト重合しないでモノマーのみが重合するホモポリマーの生成が少ない利点を有するため、機能性材料の開発が進められている。
【0005】
前照射グラフト重合法の利用例としては、ポリエチレンフィルムにアクリル酸をグラフト重合させて電解基を導入しイオン交換膜を作成する方法(例えば、特許文献3を参照。)、ポリエチレン製燃料タンクの外表面にアクリロニトリルをグラフト重合し、燃料タンクの耐熱性を改善する方法(例えば、特許文献4を参照。)が開示されている。
【0006】
【特許文献1】特開2004−51146号公報
【特許文献2】特開2003−1770号公報
【特許文献3】特公昭58−463号公報
【特許文献4】特開平5−339403号公報
【非特許文献1】斉藤恭一、須藤高信著「猫とグラフト重合」 丸善、1996年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
自動車用の燃料タンク等の成形物にガスバリア性を付与する場合、特許文献1に開示されたコーティングによる方法では、基材樹脂の表面にガスバリア層をコーティングしているのみで、ガスバリア層と基材樹脂が共有結合で固定されていないため、ガスバリア層が剥がれてしまう場合(以下、「delamination」又は通称「デラミ」ともいう。)がある。また、親水性ポリマーであるポリアクリル酸をガスバリア層としてコーティングしているため、ポリオレフィン系樹脂等の疎水性樹脂には接着性が悪く、デラミを生じ易いため、経済性、耐薬品性、強度及び成形性に優れるポリオレフィン系樹脂には使用できない。さらに、タンクのような複雑な形状をもつ成形物の場合には、コーティングによってガスバリア層を直接付与することが困難である。
【0008】
また、特許文献2に開示されたガスバリア性の高い樹脂を基材樹脂に積層させる方法は、高価なガスバリア性樹脂を必要とし、かつ、樹脂を積層した成形物の成形方法が複雑であるため成形コストが高くなる問題があった。
【0009】
一方、放射線グラフト重合法は、種々の樹脂材料を基材として利用でき、かつ、フィルム、シート、中空容器等の各種形状の樹脂成形物を基材として利用できる利点を有するが、グラフト鎖を利用して樹脂からなる成形物にガスバリア性を付与する試みはなされていなかった。
【0010】
そこで、本発明の目的は、樹脂からなる成形物の耐化学性、機械的強度、成形性を損なうことなく、廉価で、かつ、ガスバリア層が剥離することのない、高いガスバリア性を有するガスバリア性成形物の製造方法及び、それを用いたガスバリア性成形物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、前照射放射線グラフト重合法を利用することによって、樹脂からなる成形物の表面にアクリル酸のグラフト重合鎖を形成させるときに、グラフト重合鎖を基材樹脂のガスバリア性付与予定面の内方向と外方向の両方に成長させると、高いガスバリア性を有し、かつ、基材樹脂表面と密着して剥離しないグラフト重合鎖からなるガスバリア層を形成されることを見出し、鋭意、開発を進めて、本発明を完成した。すなわち、本発明に係るガスバリア性成形物の製造方法は、樹脂からなる成形物に放射線を照射する照射工程と、前記成形物の表面のうちガスバリア性付与予定面をアクリル酸及び/又はメタクリル酸の水溶液に接触させ、前記ガスバリア性付与予定面の外方向及び内方向に向けてアクリル酸及び/又はメタクリル酸をグラフト重合させることによって、前記ガスバリア性付与予定面にグラフト重合層を固定し、ガスバリア層を形成する重合工程と、を有することを特徴とする。
【0012】
本発明に係るガスバリア性成形物の製造方法は、樹脂からなる成形物が透過物質を入れるためのタンク形状を有し、かつ、2以上の部材から構成されてなり、前記部材を接合する前に、前記照射工程において、前記成形物の内表面となる面に放射線を照射し、かつ、前記重合工程において、透過物質と接触することとなる前記成形物の内表面側に前記ガスバリア層を形成し、前記重合工程の後に、前記部材を組み合わせて接合し、前記タンク形状を完成させる接合工程をさらに設ける場合が含まれる。樹脂性タンクの内面にガスバリア層を形成させると、樹脂性タンクの基材樹脂が透過物質とタンク内面で直接接触しないので、透過物質による膨潤等の化学変化を防止できる利点がある。また、部材の段階で樹脂性タンクの内表面となる面に直接放射線源から放射線照射できるので、タンクの内面に容易に、かつ、均一にラジカルを生成させ、ガスバリア層を形成できる。
【0013】
本発明に係るガスバリア性成形物の製造方法は、前記成形物は、透過物質を入れるためのタンク形状を有し、前記照射工程において、前記タンクの外表面に電子線を照射し、主として前記成形物の内表面側にラジカルを生成させ、かつ、前記重合工程において、透過物質に接触することとなる前記成形物の内表面側に前記ガスバリア層を形成する場合が含まれる。樹脂性タンクの内面にガスバリア層を形成する際に、樹脂製タンクの外側より、加速電圧を調整した電子線を照射することによって、電子線がタンクの壁の厚みを透過して、主としてタンクの内表面側にラジカルを生成させることができる。タンクに成形された段階で、ガスバリア層を形成できるので、工程が複雑にならない利点がある。
【0014】
本発明に係るガスバリア性成形物の製造方法は、前記重合工程の後に、多価金属イオンによって前記グラフト重合したグラフト鎖同士を架橋する架橋工程を有することが好ましい。グラフト鎖同士を架橋させることによって、透過物質によるグラフト鎖の膨潤が抑制されてガスバリア性が向上する。
【0015】
本発明に係るガスバリア性成形物の製造方法は、前記アクリル酸及び/又はメタクリル酸の水溶液が、第一鉄塩、第二鉄塩又は第二銅塩を含まないか、あるいは、0質量%を超えて0.5質量%以下の濃度であることが好ましい。第一鉄塩、第二鉄塩又は第二銅塩が上記の範囲であると、重合工程において基材樹脂の外表面に存在するラジカルの消失が少ないため、グラフト鎖が基材樹脂のガスバリア付与予定面の外方向により成長しやすくなり、ガスバリア付与予定面の内方向と外方向にバランスよくグラフト重合させやすい。
【0016】
本発明に係るガスバリア性成形物は、基材樹脂からなる成形物の表面に、アクリル酸及び/又はメタクリル酸のグラフト鎖が成長した二層のグラフト重合層が設けられてガスバリア層が形成されたガスバリア性成形物であって、前記グラフト重合層のうち、内側グラフト重合層は、前記グラフト鎖が前記基材樹脂の内方向に成長し、前記基材樹脂と並存している層であり、前記グラフト重合層のうち、外側グラフト重合層は、前記グラフト鎖が前記基材樹脂の外方向に成長し、前記グラフト鎖のみからなる層であり、前記内側グラフト重合層の厚みが10〜100μmで、前記外側グラフト重合層の厚みが10〜100μmであることを特徴とする。
【0017】
本発明に係るガスバリア性成形物は、本発明に係るガスバリア性成形物の製造方法によって製造され、燃料を入れるためのタンクである場合が含まれる。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係るガスバリア性成形物の製造方法は、樹脂からなる成形物の耐薬品性及び機械的強度を損なわず、かつ、成形性に影響がなく、廉価に、高いガスバリア性が付与された樹脂成形物を得ることができる。また、HDPE等の極性基を有さない樹脂に対しても剥離することがなく、高いガソリンバリア性を有するガスバリア層を形成できる。この結果、廉価で、強度が高く、かつ、ガソリンバリア性の高い、自動車用の樹脂性燃料タンクに適したガスバリア性成形物を製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明について実施形態を示して詳細に説明する。以下に説明する実施の形態は本発明の構成の例であり、本発明は、以下の実施の形態に制限されるものではない。
【0020】
本実施形態に係るガスバリア性成形物の製造方法では、樹脂からなる成形物に放射線を照射する照射工程と、前記成形物の表面のうちガスバリア性付与予定面をアクリル酸の水溶液に接触させ、前記ガスバリア性付与予定面の外方向及び内方向に向けてアクリル酸をグラフト重合させることによって、前記ガスバリア性付与予定面にグラフト重合層を固定し、ガスバリア層を形成する重合工程と、を有する。
【0021】
樹脂からなる成形物において、基材樹脂の種類は特に限定されないが、具体的には、熱硬化樹脂としては、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、ポリウレタン樹脂等を使用することができる。熱可塑性樹脂としては、低密度ポリエチレン(LDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、ポリプロピレン(PP)、ポリ4‐メチルペンテン、ポリブテン等のポリオレフィン若しくはその共重合体、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12、ポリメタキシリレンアジパミド(MXD6)等のポリアミド若しくはその共重合体、ポリ酢酸ビニル、エチレン‐酢酸ビニル共重合体、ポリビニルアルコール等の酢酸ビニル系重合体、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等の芳香族ポリエステル若しくはその共重合体、ポリカプロラクトン系ポリエステル(ε‐カプロラクトン‐ラクチド共重合体など)、ポリヒドロキシブチレート、ポリヒドロキシバリレート等の脂肪族ポリエステル若しくはその共重合体、ポリ塩化ビニル、塩化ビニリデン系共重合体、ポリテトラフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン等の塩素系重合体若しくはフッ素系重合体又はその共重合体、ポリメチルアクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリアクリロニトリル等のアクリル系重合体若しくはその共重合体、その他、ポリエーテル系重合体、イミド系重合体若しくはその共重合体、さらに、セルロース、澱粉、プルラン、キチン、キトサン、ゼラチン等の天然高分子化合物等の樹脂を使用することができる。これらのうち、LDPE、HDPE、PP、ポリアミド又はPETが成形性、機械的強度、経済性の面から好ましく、なかでも、HDPEは、耐薬品性、耐衝撃性に優れ、廉価であるため、特に好ましい。成形物における基材樹脂の構成は、単層又は複数の樹脂を積層した多層構造であってもよいが、成形の容易さ及び経済性の面から単層であることが好ましい。
【0022】
成形物の形状は特に限定されないが、具体的には、フィルム、シート、チューブ、カップ、ボトル、中空容器等の形状が挙げられる。例えば、自動車用樹脂製燃料タンクとして使用される複雑な外形を有する中空容器にも好適に使用できる。
【0023】
最初の工程である照射工程を以下に説明する。放射線とは、電離性を有する高いエネルギーを持った粒子線又は電磁波として定義される。粒子線のうちでは電子線、電磁波のうちではγ線が、本発明で利用する前照射放射線グラフト重合法の照射線源として好ましい。電子線は、γ線に比べて、設備投資額が比較的小さな装置として導入可能であり、加速電圧を調整することによって基材樹脂中のラジカルの生成部位を制御することができ、また線量率が高く、照射時間を短縮できるため、照射線源として特に好ましい。一方、γ線は、一定のエネルギーの電磁波であるため透過性は高いが、ラジカルの生成部位を制御しにくく、また、Co60等の放射性物質を用いるため、特殊な設備や法的な手続きが必要であり、照射線源の設置に手間がかかるとともに、線量率が低いため生産性が低くなるおそれがある。なお、放射性核種のCo60は、1.17MeV及び1.33MeVのγ線を放出する。
【0024】
照射線源として電子線を用いた場合の加速電圧は、その単位をeV(エレクトロンボルト:1eV=1.6×10−19J)として、成形物の照射される面に主としてラジカルを生成させて、グラフト重合層を形成させる場合には、25keV〜5MeVが好ましく、50keV〜300keVがより好ましい。電子線の加速電圧が25keVより小さいと、電子線の透過深さが小さく、基材樹脂の所定の深さまでのラジカル生成量が足りなくなるおそれがあり、5MeVより大きいと、放射線照射装置が大型化して、高価となり場所も占有するので好ましくない。また、中空容器形状の成形物の外表面に電子線を照射して、主として照射した面の裏面にあたる内表面にラジカルを生成させる場合には、電子線の加速電圧を成形物の壁の厚みに合わせて調整し、電子線のエネルギーの吸収ピークを主として内表面近傍に生じさせることが好ましい。照射するときの雰囲気は、酸素分率が0.1%以下の低酸素空気が好ましく、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気がより好ましい。また、照射線量は、1〜200kGy、好ましくは10〜100kGyが適当な量である。ここで、1Gy=1J/kgのエネルギー吸収に相当する。1kGyより小さいとラジカルの生成が少なく、グラフト重合層が充分に形成されないおそれがあり、200kGyより大きいと、基材樹脂の脆性化が進んで、成形物の機械的強度が小さくなると同時に、黒褐色を呈して商品の品質を損なう。
【0025】
照射工程においては、ガスバリア性を付与する面に均一に放射線が照射されるように、照射線源を複数設けるか移動させる手段の他に、照射線源が固定されている場合には成形物を移動若しくは回転させることが好ましい。また、照射後は生成したラジカルが失活していくので、照射後直ちに、−30℃〜+5℃で保管することにより、成形物にトラップされたラジカルの失活を抑えることができる。室温〜40℃では、30分以内、好ましくは5分以内に、次の重合工程に移ることが好ましい。−30℃保管の簡易手段としては、ドライアイスを、氷と等重量のエタノールに混合することにより、この温度を得ることができる。なお、照射中の基材樹脂の温度は室温〜40℃であることが好ましく、照射中の基材樹脂の温度上昇を防止するために、ドライアイス、冷却装置等の冷却手段を基材樹脂の照射面の裏面に設けることが好ましい。電子線照射装置の冷却装置としては、5℃に冷却された乾燥空気又は窒素ガスを成形物に吹き付けることが好ましい。
【0026】
次に重合工程について説明する。本実施形態では、照射工程後の成形物の表面のうちガスバリア性を付与することを予定している面をアクリル酸水溶液に接触させているが、アクリル酸水溶液の代わりにメタクリル酸水溶液であってもよく、また、アクリル酸とメタクリル酸の混合水溶液であってもよい。アクリル酸及び/又はメタクリル酸水溶液の濃度は1〜80容量%が好ましく、10〜50容量%がより好ましい。アクリル酸及び/又はメタクリル酸水溶液の温度は25〜60℃が好ましく、25〜40℃がより好ましい。また、接触時間は1〜30分が好ましく、1〜5分がより好ましい。
【0027】
次に、モノマーとしてアクリル酸を使用した場合を例として、放射線照射後の成形物のガスバリア性付与予定面の外方向及び内方向に向けてアクリル酸をグラフト重合する機構について説明する。アクリル酸の代わりにメタクリル酸又は、アクリル酸とメタクリル酸の混合水溶液を使用した場合も同様である。重合工程の前後の成形物の断面模式図を図1に示す。図1において、図1の左側の断面1はグラフト重合によってガスバリア層が形成される前の基材樹脂の断面であり、図1の右側の断面2は重合工程後にガスバリア性付与予定面の内方向に向けて内側グラフト重合層4が形成された状態の基材樹脂の断面を示し、重合工程によって外側グラフト重合層3が基材樹脂の表面6の外方向に形成されている。照射工程後の成形物のガスバリア性付与予定面(以下、当初表面5ともいう。)にアクリル酸水溶液を接触させると、アクリル酸水溶液に接している基材樹脂の当初表面5に存在するラジカルを開始点として、モノマーであるアクリル酸が基材樹脂にグラフト化して重合し、当初表面5の外方向に向けてグラフト鎖が成長する。当初表面5及び表層部に存在するラジカルが基材樹脂の表面近傍のアクリル酸水溶液中に拡散移動するため、グラフト鎖はより外方向に向かって成長し、反応時間の経過とともに基材樹脂の当初表面5の外方向に向けて成長が進み、この結果、重合工程後の基材樹脂の表面6の外側にアクリル酸重合体のみからなる外側グラフト重合層3が形成される。
【0028】
一方、外方向に向けたグラフト重合層の形成と並行して、モノマーであるアクリル酸が基材樹脂の表層部に拡散移動し、その後、表層部に存在するラジカルを開始点としてアクリル酸が基材樹脂にグラフト化して重合し、グラフト鎖が基材樹脂のガスバリア性付与予定面(当初表面5)の内方向に向かって成長する。グラフト鎖が基材樹脂の内方向に向かって成長すると、基材樹脂が膨潤し、アクリル酸が基材樹脂のより内部に拡散移動し、より内部に存在するラジカルを開始点としてアクリル酸グラフト鎖が成長する。この反応が連続して起こり、反応時間の経過とともに基材樹脂の表面6の内方向に向けて内側グラフト重合層4が形成される。内側グラフト重合層4は、基材樹脂とアクリル酸グラフト鎖が混在しており、基材樹脂の表面に近いほどアクリル酸グラフト鎖の占める割合が高くなる。また、基材樹脂は、アクリル酸グラフト鎖の内方向への成長に伴って膨潤するため、重合工程前の基材樹脂の断面1の厚みAは、内側グラフト重合層4の成長に伴って増加し、重合工程後には、断面2の厚みBとなり、基材樹脂の当初表面5は、膨潤した厚みDの距離だけ外側に移動して表面6となる。内側グラフト重合層4は、当初表面5よりも内側に深さEだけもぐり込んでいる内側グラフト重合層のもぐり込み部10と、基材樹脂が膨潤して当初表面5より厚みDの分だけ増加した部分を占めている内側グラフト重合層の膨潤部11とからなり、内側グラフト重合層4の厚みFは、厚みDと厚みEの和である。したがって、グラフト重合される前の基材樹脂の当初表面5の位置を基準として、あたかも当初表面5の外方向に向けて内側グラフト重合層の膨潤部11が成長しているかのようにみえるが、実際には、当初表面5の位置から重合工程後の基材樹脂の表面6の位置まで、内側グラフト重合層の膨潤部11の厚みDだけ成形物の厚みが増していることになる。また、成形物の基材樹脂の表面の外方向及び内方向に向けて形成された二層のグラフト重合層3,4は、基材樹脂と共有結合によって固定されているため、基材樹脂の表面と密着して、剥離することがなく、安定したガスバリア層を形成する。
【0029】
なお、アクリル酸水溶液は、モール塩(硫酸アンモニウム第一鉄六水和物)等の第一鉄塩、第二鉄塩又は第二銅塩を含まないか、含む場合においても0.5質量%以下の濃度であることが好ましい。これらの塩の濃度が0.5質量%より高いと、基材樹脂の表面の生成したラジカルが過剰に消失してしまうため、成形物の表面の外方向に充分なグラフト鎖が形成されないおそれがあり、さらに、これらの塩が成形物の表層部に拡散移動して、表層部に存在するラジカルを消失させるため、成形物の内方向に形成されるグラフト鎖が表層部分では少なくなり、ガスバリア性が充分に発揮されないおそれがある。なお、これらの塩の濃度は0.1〜0.5質量%がより好ましい。ホモポリマーの生成を抑制できるとともに、外方向及び内方向に充分なグラフト重合層を形成され、ガスバリア性の高いガスバリア層を得ることができる。
【0030】
本実施形態に係るガスバリア性成形物の製造方法では、重合工程の後に、多価金属イオンによって、グラフト重合したグラフト鎖を架橋することが好ましい。グラフト鎖が架橋することによってガスバリア層がより緻密となり、かつ、透過物質による膨潤が抑制されるため、ガスバリア性をさらに向上させることができる。多価金属イオンとしては、金属イオンの価数が2以上であるベリリウム、マグネシウム、カルシウム等のアルカリ土類金属、チタン、ジルコニウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛等の遷移金属、アルミニウム等のイオンを挙げることができる。多価金属イオンによるグラフト鎖の架橋工程は、具体的には、重合工程の後に形成されたグラフト重合層を多価金属化合物の水溶液に浸漬させることによって行う。多価金属化合物は、前記、多価金属イオンが水溶液中で解離する化合物であり、多価金属の酸化物、水酸化物、炭酸塩、有機酸塩、無機酸塩等が挙げられる。有機酸塩としては、酢酸塩、シュウ酸塩、クエン酸塩、乳酸塩、リン酸塩、亜りん酸塩、次亜りん酸塩、ステアリン酸塩、モノエチレン不飽和カルボン酸塩等が挙げられる。無機酸塩としては塩化物、硫酸塩、硝酸塩等が挙げられる。また、アンモニウム錯体やアミン錯体とそれらの炭酸塩や有機酸塩等、並びにアルキルアルコキシド等を挙げることができる。
【0031】
前記の多価金属化合物を単独若しくは少なくとも2種を混合して水に溶解し、多価金属化合物の水溶液とすることができる。架橋工程では、重合工程によって形成されたグラフト重合層のグラフト鎖のカルボキシ基(‐COOH)を多価金属イオンによってイオン化して、カルボキシ基の多価金属塩(‐COO)とし、グラフト鎖同士のイオン架橋を形成させる。架橋工程後のグラフト鎖のイオン架橋の程度は、架橋工程の前後の成形物の重量変化から金属イオンモル数を算出し、(数1)によって、イオン化度として求めることができる。尚、アクリル酸モル数は、重合工程前後の成形物の重量変化から算出される。
(数1) イオン化度(%)=(金属イオンモル数)/(アクリル酸モル数)
【0032】
また、架橋工程後の成形物の壁面を透過法によって測定した赤外線吸収スペクトルから、カクボキシ基の多価金属塩(‐COO)の吸収ピークA1560(1560cm−1)とカルボキシ基(‐COOH)の吸収ピークA1710(1710cm−1)のピーク比(A1560/A1710)を求めて、(数2)によってイオン化度を算出することもできる。
(数2) イオン化度(%)=46×ピーク比/(1+0.27×ピーク比)
【0033】
架橋工程後のグラフト鎖のイオン化度は、25〜100%が好ましく、50〜100%がより好ましい。イオン化度が25%より低いとグラフト鎖のイオン架橋が充分に行なわれず、ガスバリア性をさらに向上させる効果が充分に発揮されないおそれがある。
【0034】
図1において、二層のグラフト重合層3,4のうち、内側グラフト重合層4は、グラフト重合に伴って膨潤した基材樹脂とグラフト鎖が混在している層であり、外側グラフト重合層3は、アクリル酸及び/又はメタクリル酸のグラフト鎖のみからなる層である。外側グラフト重合層3の厚みCと内側グラフト重合層4の厚みFは、グラフト鎖の密度を以下の方法で観察することによって、測定することができる。すなわち、得られたガスバリア性成形物を多価金属化合物水溶液に室温(23℃)で1週間浸漬して、グラフト重合層のグラフト鎖を多価金属イオンによって、イオン化度100%で架橋した後、浸漬したガスバリア性成形物の切片の断面をエネルギー分散型X線検出器付き走査型電子顕微鏡(SEM−EDX)によって観察し、グラフト重合層に対応する金属原子の濃度分布のスペクトルを得る。この濃度分布から金属原子の濃度が最高値を示すグラフト鎖のみからなる外側グラフト重合層3の厚みCと、グラフト鎖が基材樹脂と混在するため金属原子の濃度が低くなる内側グラフト重合層4の厚みFを測定することができる。図2に、成形物の切片の断面の金属原子の濃度分布のスペクトルの参考写真を示す。図2は、亜鉛イオンによって架橋したアクリル酸のグラフト重合層を有するHDPEシートの断面の走査型電子顕微鏡(SEM)画像とエネルギー分散型X線検出器(EDX)による亜鉛イオンの濃度分布波形の例である。また、基材樹脂がポリオレフィン等の酸素原子を含まない樹脂である場合は、イオン架橋する必要なしに、グラフト鎖中のカルボン酸に由来する酸素を指標として、酸素原子の濃度分布から外側グラフト重合層4の厚みCと、内側グラフト重合層4の厚みFを測定することもできる。なお、内側グラフト重合層のもぐりこみ部10の厚みEは、重合工程前に基材樹脂の当初表面5にモノマーとの接触を絶つ包埋剤(例えば、日進EM社、エポキシ樹脂、商品名称Quetol‐812)を塗布する部分と塗布しない部分を設け、重合工程後に、包埋剤によってグラフト重合層が形成されなかった当初表面5を基準として、グラフト重合層が当初表面5よりも内側にもぐり込んでいる層の厚みを測定することによって求めることができる。外側グラフト重合層3の厚みCは10〜100μmが好ましく、25〜50μmがより好ましい。また、内側グラフト重合層4の厚みFは10〜100μmが好ましく、15〜25μmがより好ましい。なお、内側グラフト重合層のもぐり込み部10の厚みEは0を超えて100μmであり、主として基材樹脂の膨潤のしやすさによって変動する。外側グラフト重合層3の厚みC又は内側グラフト重合層3の厚みFが10μmより薄いとガスバリア層のガスバリア性が充分に得られないおそれがあり、かつ、ガスバリア層の成形物への密着性が充分に得られないで剥離を生じるおそれがある。一方、外側グラフト重合層3の厚みC又は内側グラフト重合層4の厚みFが100μmより厚いと、ガスバリア層が脆くなり、亀裂や剥離を生じるおそれがある。
【0035】
ガスバリア層が形成される前の基材樹脂の質量に対するグラフト鎖の質量(ガスバリア層の形成によって増加した質量)の比率(%)をグラフト率と定義する。本実施形態に係るガスバリア性成形物では、グラフト率が50%以下であることが好ましい。グラフト率が50%より高いと、成形物が脆くなり、充分な強度が得られないおそれがある。
【0036】
本実施形態に係るガスバリア性成形物では、樹脂製の成形物の表面に、アクリル酸及び/又はメタクリル酸のグラフト鎖が成長した二層のグラフト重合層が設けられて、ガスバリア層を形成している。ガスバリア層は成形物の内表面又は外表面若しくはその両方に設けることができるが、特に、燃料タンク等透過物質を内部に貯蔵する中空容器では、内表面にガスバリア層を設けることによって、透過物質による容器の化学変化や、外部衝撃によるガスバリア層の損傷を防ぐことができる。以下に、ガスバリア性の高い樹脂製燃料タンクの製造方法例として二つの例を説明する。
【0037】
第一の製造方法例は、タンクを2以上の部材に分けて成形し、各部材を接合してタンク形状にする前に、各部材のガソリンと接触するタンクの内面となる面に、アクリル酸及び/又はメタクリル酸のグラフト重合層を形成する方法である。この場合は、放射線として、例えば電子線を各部材のタンクの内面となる予定の面に照射する照射工程の後に、アクリル酸水溶液に各部材を浸漬する重合工程によって、タンクの内表面側となる予定の各部材の表面にガスバリア層を形成することができる。ガスバリア層が形成された各部材は、互いに接合されてタンクが完成する。タンクを接合する場合、タンクの内面の接合部を重ね合わせてガスバリア層のみで透過物質と接するように接合することが好ましい。また接合は、例えば超音波溶着等の溶着又は接着によって行うことができる。完成したタンクは内面にアクリル酸及び/又はメタクリル酸のグラフト重合層を有するガスバリア層が形成されている。ガスバリア層がタンクに貯蔵されるガソリン等の透過物質に直接接触するため、透過物質によって基材物質に膨潤等の化学変化を生じて強度が低下する等の物性の低下を防止することができる。例えば、HDPEを基材樹脂とした自動車用の燃料タンクでは、ガソリンによってHDPEが膨潤し、強度が低下することを防止できる。第一の製造方法例では、部材の段階で樹脂性タンクの内表面となる面に直接放射線源から放射線照射できるので、ガスバリア性付与予定面に均一にラジカルを生成させることが容易である。
【0038】
第二の製造方法例は、既に成形されたタンクの外表面に電子線を照射し、主としてタンクの内表面側にラジカルを生成させる方法である。放射線源として電子線を使用すると、加速電圧を調整することによって、電子線がタンクの壁を構成する基材樹脂によって吸収されるピークの深さを調整することができる。電子線をタンクの外側から照射したときに、丁度タンクの内表面の表層部において照射エネルギーの吸収ピークが生じるように電子線の加速電圧を調整し、タンクを移動及び回転をさせながら電子線を照射することによって、主としてタンクの内表面側にラジカルを発生させることができる。電子線照射の後に、アクリル酸及び/又はメタクリル酸水溶液をタンクに充填してグラフト重合を行い、タンクの内表面にガスバリア層を形成することができる。第二の製造方法例では、ガスバリア性付与のためにタンクを部材に分けて成形する工程が必要なく、一体成形等で既に成形されたタンクを対象にして、ガスバリア性を付与したタンクを製造することができる。
【0039】
本実施形態に係るガスバリア性成形物は、自動車用の樹脂性燃料タンクとして好適である。本実施形態に係るガスバリア性成形物の製造方法によって、LDPE,HDPE又はPP等の非極性の基材樹脂の単層構成からなる成形物に、密着性のあるガスバリア層を付与できるため、ガソリン等の燃料の透過性が小さく、高いガスバリア性を有し、かつ、耐衝撃性等の強度が高い、廉価な樹脂性燃料タンクを製造することができる。
【実施例】
【0040】
次に実施例を示して、本発明を更に詳細に説明する。
【0041】
(シートの成形)
HDPE(日本ポリエチレン社製、商品名称ノバテック、銘柄記号HDHB111R)のペレットを200℃、10MPaの条件で1分間プレスし、厚み250μmのHDPEシートを得た。ガスバリア層を形成する前のHDPEシートを比較例1とした。
【0042】
(照射工程)
得られたHDPEシートを窒素雰囲気下で、電子線を加速電圧2.0MeV、電流20.0mAにて50kGy照射した。照射時のシート温度は28℃、照射時間は0.4秒間であった。
【0043】
(重合工程)
電子線を照射したHDPEシートを、窒素バブリングした2.5質量%のモール塩を含む25容量%のアクリル酸水溶液に浸漬した。浸漬条件は、40℃とし、反応時間である浸漬時間を1.0分間、2.5分間、5分間及び10分間の4条件として、ガスバリア層の厚みが異なる実施例1〜4のガスバリア性HDPEシートを得た。所定の反応時間経過後、HDPEシートを取り出して、イオン交換水で洗浄し、乾燥させた。ガスバリア層は、HDPEシートの表裏両面に形成された。
【0044】
(架橋工程)
重合工程後のHDPEシートを、濃度0.5モル/リットルの酸亜鉛水溶液に40℃で2時間浸漬させ、アクリル酸グラフト重合鎖を亜鉛イオンで架橋させた。
【0045】
(グラフト率の測定)
重合工程前後の実施例1〜4のHDPEシートにつき、化学天秤によってガスバリア層が形成される前のHDPEシートの質量(基材樹脂の質量)と重合工程後のグラフト鎖の質量(ガスバリア層の形成によって増加した質量)を測定し、(グラフト鎖の質量/基材樹脂の質量)の百分率をグラフト率として算出した。
【0046】
(イオン化度の測定)
架橋工程後の実施例1〜4のHDPEシートにつき、フーリエ変換赤外分光光度計(堀場製作所社製、商品名称FT‐700型)を用いて、透過法によって赤外線吸収スペクトルを測定し、(数2)によって、イオン化度(%)を求めた。
【0047】
(グラフト重合層の厚みの測定)
架橋工程後の実施例1〜4のHDPEシートの切片を、エネルギー分散型X線検出器付き走査型電子顕微鏡(日立製作所製、商品名称S‐800)によって、各切片の断面を観察し、その位置に対応する亜鉛原子の濃度分布のスペクトルを得た。この濃度分布から外側グラフト重合層と内側グラフト重合層の厚みを測定した。外側グラフト重合層と内側グラフト重合層の厚みは、HDPEシートの表裏両面について測定し、各面の厚みをそれぞれ合計した。
【0048】
(酸素透過係数の測定)
比較例1及び架橋工程前後の実施例1〜4のHDPEシートにつき、酸素透過度測定装置(Modern Control社製、商品名称Oxtran)を用いて、酸素透過度(cm/m・day・atm)を測定した。測定条件は23℃、相対湿度90%であった。得られた酸素透過度にガスバリア層の厚さを含むHDPEシートの厚みを乗じて、厚み1mm当たりの酸素透過度を示す酸素透過係数(cm・mm/m・day・atm)を算出した。
【0049】
(モデルガソリンの透過係数の測定)
モデルガソリンとして、イソオクタン:トルエン:エタノール=45:45:10溶液(容量比)(以下、CE10ともいう。)を使用し、比較例1及び実施例1〜4のHDPEシートにつき、JIS:K7126‐1:2006(プラスチック‐フィルム及びシート―ガス透過度試験方法‐第1部:差圧法)に準じる差圧式ガス蒸気透過率測定装置(GTRテック社製、型式GTR‐30XAKC、ガスクロマトグラフ付き)によって、CE10の透過度(cm/m・day・atm)(以下、CE10透過度ともいう。)を測定した。測定条件は65℃であった。得られたCE10透過度にガスバリア層の厚さを含むHDPEシートの厚みを乗じて、厚み1mm当たりのCE10透過度を示すCE10透過係数(cm・mm/m・day・atm)を算出した。
【0050】
以上の測定結果のまとめを表1に示す。
【表1】

【0051】
(結果)
表1に示す結果より、実施例1〜4は、比較例1に比べて、酸素透過係数及びCE10透過係数が顕著に低下し、ガスバリア性の向上が認められた。また、得られたガスバリア層は基材樹脂に強固に密着しており、剥離は認められなかった。内側グラフト重合層と外側グラフト重合層の厚みが、両方とも10μm以上になると、特にガスバリア性の向上が顕著であった。実施例1〜4とも、架橋工程後のイオン化度は100%であった。実施例1〜4とも、グラフト鎖をイオン架橋すると、イオン架橋しない場合に比べて、ガスバリア性が向上した。実施例4では、CE10透過係数は、架橋なしの場合に1/78に減少し、架橋した場合には1/375に減少し、ガソリンバリア性が顕著に高かった。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の実施形態に係るガスバリア性成形物の断面模式図である。
【図2】本発明の実施形態に係るガスバリア性成形物の断面の金属原子の濃度分布スペクトルの参考写真を示す。
【符号の説明】
【0053】
1 重合工程前の基材樹脂の断面
2 重合工程後の基材樹脂の断面
3 外側グラフト重合層
4 内側グラフト重合層
5 基材樹脂の当初表面
6 重合工程後の基材樹脂の表面
10 内側グラフト重合層のもぐり込み部
11 内側グラフト重合層の膨潤部
A 重合工程前の基材樹脂の断面の厚み
B 重合工程後の基材樹脂の断面の厚み
C 外側グラフト重合層の厚み
D 内側グラフト重合層の膨潤部の厚み
E 内側グラフト重合層のもぐり込み部の厚み
F 内側グラフト重合層の厚み


【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂からなる成形物に放射線を照射する照射工程と、
前記成形物の表面のうちガスバリア性付与予定面をアクリル酸及び/又はメタクリル酸の水溶液に接触させ、前記ガスバリア性付与予定面の外方向及び内方向に向けてアクリル酸及び/又はメタクリル酸をグラフト重合させることによって、前記ガスバリア性付与予定面にグラフト重合層を固定し、ガスバリア層を形成する重合工程と、を有することを特徴とするガスバリア性成形物の製造方法。
【請求項2】
前記成形物は、透過物質を入れるためのタンク形状を有し、かつ、2以上の部材から構成されてなり、
前記部材を接合する前に、前記照射工程において、前記成形物の内表面となる面に放射線を照射し、かつ、前記重合工程において、透過物質と接触することとなる前記成形物の内表面側に前記ガスバリア層を形成し、
前記重合工程の後に、前記部材を組み合わせて接合し、前記タンク形状を完成させる接合工程をさらに設けたことを特徴とする請求項1に記載のガスバリア性成形物の製造方法。
【請求項3】
前記成形物は、透過物質を入れるためのタンク形状を有し、
前記照射工程において、前記タンクの外表面に電子線を照射し、主として前記成形物の内表面側にラジカルを生成させ、かつ、前記重合工程において、透過物質に接触することとなる前記成形物の内表面側に前記ガスバリア層を形成することを特徴とする請求項1に記載のガスバリア性成形物の製造方法。
【請求項4】
前記重合工程の後に、多価金属イオンによって前記グラフト重合したグラフト鎖同士を架橋する架橋工程を有することを特徴とする請求項1、2又は3に記載のガスバリア性成形物の製造方法。
【請求項5】
前記アクリル酸及び/又はメタクリル酸の水溶液が、第一鉄塩、第二鉄塩又は第二銅塩を含まないか、あるいは、0質量%を超えて0.5質量%以下の濃度であることを特徴とする請求項1、2、3又は4に記載のガスバリア性成形物の製造方法。
【請求項6】
基材樹脂からなる成形物の表面に、アクリル酸及び/又はメタクリル酸のグラフト鎖が成長した二層のグラフト重合層が設けられてガスバリア層が形成されたガスバリア性成形物であって、
前記グラフト重合層のうち、内側グラフト重合層は、前記グラフト鎖が前記基材樹脂の内方向に成長し、前記基材樹脂と並存している層であり、前記グラフト重合層のうち、外側グラフト重合層は、前記グラフト鎖が前記基材樹脂の外方向に成長し、前記グラフト鎖のみからなる層であり、前記内側グラフト重合層の厚みが10〜100μmで、前記外側グラフト重合層の厚みが10〜100μmであることを特徴とするガスバリア性成形物。
【請求項7】
請求項1、2、3、4又は5に記載のガスバリア性成形物の製造方法によって製造され、燃料を入れるためのタンクであることを特徴とするガスバリア性成形物。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2010−6867(P2010−6867A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−164928(P2008−164928)
【出願日】平成20年6月24日(2008.6.24)
【出願人】(000001100)株式会社クレハ (477)
【Fターム(参考)】