説明

ガスバリア性積層フィルムの製造方法及びガスバリア性積層フィルム

【課題】優れたガスバリア性を有するガスバリア性積層フィルム及びその製造方法の提供。
【解決手段】高分子基材フィルム上に、少なくとも一種類のアルコキシシランと酸触媒と親水性樹脂を含む混合液を塗布してコーティング層を形成する工程を含むガスバリア性積層フィルムの製造方法において、前記アルコキシシランの加水分解に用いる前記酸触媒の添加量を前記アルコキシシランの1当量に対して0.3〜5.0モル当量とする。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ガスバリア性積層フィルムの製造方法及びその方法により得られるガスバリア性積層フィルムに関する。本発明は、特にフレキシブルな支持体を用いた有機エレクトロルミネッセンス素子(以下「有機EL素子」という)や液晶表示素子などの画像表示素子に好適に用いられるガスバリア性積層フィルムの製造方法及びその方法により得られるガスバリア性積層フィルムに関する。
【0002】
【従来の技術】
パソコンや携帯用情報端末の普及に伴い、軽くて薄い電子ディスプレイの需要が急増している。現在、最も普及している液晶表示素子、及び自己発色性による視認性の高さから最近注目されている有機EL素子の基板は、主としてガラス基板が用いられている。素子の軽量化、衝撃への耐久性、柔軟性などの観点からは、液晶表素子や有機EL素子の基板は、フレキシブルなプラスチック基板を用いることが好ましい。
しかしながら、プラスチック基板は、ガラス基板と比べて耐熱性やガスバリア性が劣るため、高精細なパターンを作製する場合には不向きであり、また耐久性に欠けるといった欠点もあった。
【0003】
このようなプラスチック基板における欠点を改善するため、これまで多くの研究が報告されている。例えば、プラスチック基板に層状化合物を含ませることでガスバリア性を向上させたガスバリア性積層フィルムが知られている(例えば、特許文献1参照)。しかし、特許文献1に記載されたガスバリア性積層フィルムであってもガスバリア性は充分なものとはいえず、更なる改良が必要とされた。
【0004】
一方、プラスチック基板上に、金属アルコキシシランを酸又は塩基性触媒で加水分解した後、脱水縮合して金属酸化物を得る、いわゆるゾル−ゲル法を用いて有機−無機ハイブリッド膜を塗設してガスバリア性を向上させたガスバリア性積層フィルムも報告されている(例えば、特許文献2〜4参照)。これらの特許文献2〜4に記載のガスバリア性積層フィルムのハイブリッド膜形成時の加水分解に用いられる酸触媒量は、明確な記載がないか、又はアルコキシシランの添加量に対して0.05モル当量以下と少量のものである。
【0005】
上記ゾル−ゲル法において酸触媒を用いる場合、酸触媒量は、一般に、アルコキシシランの添加量に対して0.0001〜0.01モル当量の範囲とされている(例えば、非特許文献1参照)。その理由は、同書にも記載されているとおり、酸触媒量を多くすると、大きなサイズの金属酸化物粒子が生じやすく、その結果、大きな細孔寸法を有する試料となってしまうため、良好なガスバリア性積層フィルムの作製には不向きであることによる。このため、上記特許文献2〜4のガスバリア性積層フィルムに添加される酸触媒量は、いずれも上記範囲内である。しかるに、上記特許文献2〜4のガスバリア性積層フィルムにおける有機−無機ハイブリッド膜自体のガスバリア性は、いずれも充分なものとはいえないという問題があった。
【0006】
他方、加水分解触媒として酸性の陽イオン交換樹脂を用いた例も報告されている(例えば、特許文献5参照)。特許文献5のように、酸性の陽イオン交換樹脂を使用すると、局所的に高濃度の酸触媒を使用したのと同様の反応が起こり得る。しかしながら、固液間の反応時間が長くなり、さらに不均一反応系であるため、充分均一なガスバリアの高いフィルムを得ることができないという欠点があった。
【0007】
【特許文献1】
特開2001−205743号公報(請求項1〜5、第3頁段落[0013]〜第4頁段落[0022])
【特許文献2】
特開2000−323273号公報(第6頁段落[0059]〜第7頁段落[0061])
【特許文献3】
特開2001−277443号公報(第2頁段落[0012]〜第6頁段落[0056])
【特許文献4】
特開2000−71396号公報(第3頁段落[0011]〜第6頁段落[0037])
【特許文献5】
特開2002−60525号公報(第3頁段落[0020]、第4頁段落[0025]〜段落[0035])
【非特許文献1】
「ゾル−ゲル法の科学」アグネ承風社、作花済夫著 2001年8月20日発行 P17−53
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、優れたガスバリア性を有する透明なガスバリア性積層フィルムの製造方法を提供することにある。さらに本発明のもう一つの目的は、前記方法により得られるガスバリア性積層フィルム、該ガスバリア性積層フィルムを含む基板、及びフレキシブルな支持体を用いた高精細かつ高耐久性の画像表示素子を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、優れたガスバリア性を得るためには緻密な薄膜を作製することが不可欠であり、ゾル−ゲル法を用いて緻密な薄膜を得る手段につき鋭意検討した。その結果、本発明者は、これまでのゾル−ゲル法では緻密な膜を形成するために、酸触媒量を0.01モル当量以下とすることが好ましいとされてきたが、それは金属アルコキシドを単独で使用する場合に該当し、ポリマーが共存する場合には必ずしも酸触媒量を0.01モル当量以下にする必要はないことを見出した。そして、このような酸触媒量を用いて作製された緻密な薄膜は、所定のシリコン密度を有することを見出した。
【0010】
本発明は、本発明者の上記検討結果に基づいて完成されたものであり、本発明の目的は以下の手段により達成される。
(1)高分子基材フィルム上に、少なくとも一種類のアルコキシシランと酸触媒と親水性樹脂とを含む混合液を塗布してコーティング層を形成する工程を含むガスバリア性積層フィルムの製造方法であって、前記酸触媒が、前記混合液中において前記アルコキシシランの1モル当量に対して0.3〜5.0モル当量含まれることを特徴とする前記ガスバリア性積層フィルムの製造方法。
(2)前記親水性樹脂がポリビニルアルコール系樹脂であることを特徴とする(1)に記載のガスバリア性積層フィルムの製造方法。
(3)前記親水性樹脂が、前記混合液中において前記アルコキシシランを等モル換算したSiOの質量に対して0.1倍以上含まれることを特徴とする(1)又は(2)に記載のガスバリア性積層フィルムの製造方法。
(4)高分子基材フィルム上に、親水性樹脂とポリシリケートとを含むコーティング層を塗設したガスバリア性積層フィルムの製造方法であって、前記コーティング層が、該コーティング層に含まれるシリコンの質量に対して0.23倍以上の親水性樹脂を含むことを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載のガスバリア性積層フィルムの製造方法。
(5)25℃におけるコーティング層のシリコン密度が0.65g/cm以上となることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載のガスバリア性積層フィルムの製造方法。
(6)25℃におけるコーティング層のシリコン密度が0.75g/cm以上となることを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載のガスバリア性積層フィルムの製造方法。
(7)無機層状化合物を混練したフィルム素材樹脂を用いて高分子基材フィルムを調製することを特徴とする(1)〜(6)のいずれかに記載のガスバリア性積層フィルムの製造方法。
(8)(1)〜(7)のいずれかに記載の製造方法で得られることを特徴とするガスバリア性積層フィルム。
(9)前記高分子基材フィルムの光線透過率が80%以上であることを特徴とする(8)に記載のカスバリア性積層フィルム。
(10)(8)〜(9)のいずれかに記載のガスバリア性積層フィルムからなることを特徴とする基板。
(11)(8)〜(9)のいずれかに記載のガスバリア性積層フィルム又は(10)に記載の基板を有することを特徴とする画像表示素子。
(12)(8)〜(9)のいずれかに記載のガスバリア性積層フィルム又は(10)に記載の基板を有することを特徴とする液晶表示素子。
(13)(8)〜(9)のいずれかに記載のガスバリア性積層フィルム又は(10)に記載の基板を有することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下に本発明のガスバリア性積層フィルムの製造方法及びその方法により得られるガスバリア性積層フィルムについて詳細に説明する。
【0012】
[ガスバリア性積層フィルムの製造方法及びガスバリア性積層フィルム]
<高分子基材フィルム>
本発明の製造方法により得られるガスバリア性積層フィルムは、後述する有機EL素子等の画像表示素子として利用される。このため、本発明で用いられる高分子基材フィルムは、透明な基材フィルム、すなわち、光線透過率が80%以上、好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上の基材フィルムであることが好ましい。光線透過率が80%以上あれば、後述する有機EL素子の基材フィルムとして好適に用いることができる。
なお、本明細書において透明の尺度として用いられる光線透過率は、JIS−K7105に記載された方法、すなわち積分球式光線透過率測定装置を用いて全光線透過率及び散乱光量を測定し、全光線透過率から拡散透過率を引いて算出することができる。
【0013】
上記高分子基材フィルムで用いられる素材樹脂(以下、「フィルム素材樹脂」という)は、ガラス転移温度(Tg)が100℃以上、線膨張係数が40ppm/deg以下の透明なフィルムになり得る素材であることが好ましい。そのようなフィルム素材樹脂としては、例えば、ポリエチレンナフタレート(Tg:115℃)、ポリカーボネート(Tg:160℃)、シクロオレフィンポリマー(例えばTg:163℃)、ポリアリレート(Tg:193℃)、ポリエーテルスルホン(Tg:225℃)などを挙げることができる。
【0014】
上記フィルム素材樹脂において、ポリエチレンナフタレートを除き、線熱膨張係数はやや大きい値を示す。そこで、線熱膨張係数を減少させるために、上記フィルム素材樹脂に無機層状化合物を劈開状態で含有させることが好ましい。
無機層状化合物は、一種類のみを用いてもよく、適宜二種類以上を混合しもよい。無機層状化合物としては、膨潤性及び/又は劈開性を有する粘土鉱物やハイドロタルサイト類化合物及びその類似化合物が特に好ましく用いられる。
【0015】
上記粘土鉱物としては、より具体的には、カオリナイト、ディッカイト、ナクライト、ハロイサイト、アンチゴライト、クリソタイル、パイロフィライト、モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ソーコナイト、スチブンサイト、ヘクトライト、テトラシリリックマイカ、ナトリウムテニオライト、白雲母、マーガライト、タルク、バーミキュライト、金雲母、ザンソフィライト、緑泥石等が挙げられる。
また、天然の粘土鉱物だけではなく、合成により作成された粘土鉱物も好ましく用いることができる。特に、膨潤性雲母として知られている、合成のフッ素4珪素雲母は、膨潤・劈開後のアスペクト比が大で、かつ効果が大きいので、好ましい。
【0016】
本発明においては、無機層状化合物(例えば層状珪酸塩)の層間に担持されている陽イオン(ナトリウム、カリウム、リチウムなど)を有機カチオンで置き換えたもの(以下、親有機化という)も好ましく用いることができる。
【0017】
無機層状化合物のカチオン交換容量(CEC)は、特に限定されるものではないが、25〜200meq/100gであることが好ましく、50〜150meq/100gであることがさらに好ましい。無機層状化合物のカチオン交換容量が25meq/100g未満であると、イオン交換により無機層状化合物の層間に挿入(インターカレート)されるカチオン性物質の量が少なくなるために、層間が充分に親有機化されないことがある。一方、カチオン交換容量が200meq/100gを超えると、無機層状化合物の層間の結合力が強固になりすぎて、結晶薄片が剥離しにくくなり、分散性が悪くなることがある。
【0018】
用いられる有機カチオンとしては、長鎖のアルキル基を含むアルキルアンモニウムイオンが好ましい。その例としては、テトラブチルアンモニウムイオン、テトラヘキシルアンモニウムイオン、ジヘキシルジメチルアンモニウムイオン、ジオクチルジメチルアンモニウムイオン、ヘキサトリメチルアンモニウムイオン、オクタトリメチルアンモニウムイオン、ドデシルトリメチルアンモニウムイオン、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムイオン、オクタデシルトリメチルアンモニウムイオン、ジオクタデシルジメチルアンモニウムイオン、ドコセニルトリメチルアンモニウムイオン、ヘキサデシルアンモニウムイオン、テトラデシルジメチルベンジルアンモニウムイオン、オクタデシルジメチルベンジルアンモニウムイオン、ジオレイルジメチルアンモニウムイオン、ポリオキシエチレンドデシルモノメチルアンモニウムイオン等が挙げられる。
【0019】
無機層状化合物を親有機化する方法としては、一般に湿式法が用いられる。すなわち、無機層状化合物を水やアルコール等で充分溶媒和させた後、有機カチオンを加え、撹拌し、無機層状化合物の層間の金属イオンを有機カチオンに置換させる。その後、未置換の有機カチオンを十分に洗浄し、ろ過、乾燥する。その他、有機溶剤中で無機層状化合物と有機カチオンを直接反応させたり、樹脂などの存在下、無機層状化合物と有機カチオンを押出機中で加熱混練し反応させたりすることも可能である。
【0020】
本発明では、以上のようにして得られた有機化層状化合物を目的とするフィルム素材樹脂と溶融混練又は溶液中で混合することにより、無機層状化合物を劈開した状態で樹脂中に分散したフィルム組成物(本発明の高分子基材フィルム成形前の高分子組成物)を得ることができる。中でも溶融混練による方法が、プロセスやコストの面から好ましい。また、溶融混練機としては、熱可塑性樹脂について一般に実用されている混練機が適用できる。例えば、一軸又は多軸混練押出機、ロール、バンバリーミキサー等であってもよい。
【0021】
高分子基材フィルムに無機層状化合物又は有機化層状化合物を含有させる場合、無機層状化合物又は有機化層状化合物とフィルム素材樹脂との含有量比率は、質量比で1/100〜100/20であることが好ましく、5/100〜100/50であることがさらに好ましい。無機層状化合物及び有機化層状化合物の含有量がフィルム素材の質量100質量部に対して1質量部未満であると、耐熱性を発現しない場合がある。一方、無機層状化合物及び有機層状化合物の含有量がフィルム素材の質量100質量部に対して20質量部未満であると、透明性や機械的特性(可撓性)が悪化する場合がある。
【0022】
上記フィルム組成物は、通常の溶融押し出し法、カレンダー法、溶液流延法などによって高分子基材フィルムを形成することができる。また、これを一軸延伸、又は二軸延伸することも可能である。また、フィルムの表面は、塗布層との密着を良化するため、コロナ処理、グロー処理、UV処理、プラズマ処理などを施してもよい。また、アンカー層を設けてもよい。
【0023】
<アルコキシシラン、酸触媒及び親水性樹脂を含む混合液>
本発明の製造方法では、前記高分子基材フィルム上に、少なくとも一種類のアルコキシシランと酸触媒と親水性樹脂とを含む混合液を塗布してコーティング層を形成する。
【0024】
本発明の製造方法では、少なくとも一種のアルコキシシランと酸触媒と親水性樹脂とを含む混合液中又は塗膜中において、好ましくはゾル−ゲル法によりアルコキシシランを加水分解、縮重合させてアルコキシシランの加水分解重縮合物(ポリシリケート)を得ることにより緻密な薄膜としてコーティング層が形成される。
【0025】
(アルコキシシラン)
本発明の製造方法で用いられるアルコキシシラン類としては、例えば、以下の一般式で表されるアルコキシシラン類であることが好ましい。
【0026】
【化1】
Si(OR(R4−X
【0027】
上式中のRは、炭素数1〜5のアルキル基又は炭素数1〜4のアシル基であることが好ましく、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、アセチル基などが挙げられる。また、Rは、炭素数1〜10の有機基であることが好ましく、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、tert−ブチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基、n−オクチル基、tert−オクチル基、n−デシル基、フェニル、ビニル基、アリル基などの無置換の炭化水素基、γ−クロロプロピル基、CFCH−、CFCHCH−、CCHCH−、CCHCHCH−、CFOCHCHCH−、COCHCHCH−、COCHCHCH−、(CFCHOCHCHCH−、CCHOCHCHCH−、3−(パーフルオロシクロヘキシルオキシ)プロピル、(CFCHOCHCHCH−、H(CFCHCHCH−、γ−グリシドキシプロピル基、γ−メルカプトプロピル基、3,4−エポキシシクロヘキシルエチル基、γ−メタクリロイルオキシプロピル基などの置換炭化水素基が挙げられる。xは2〜4の整数であることが好ましい。
【0028】
これらのアルコキシシランの具体例を以下に示す。
x=4のものとしては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラn−プロポキシシラン、テトラ−iso−プロポキシシラン、テトラ−n−ブトキシシラン、テトラ−アセトキシシランなどを挙げることができる。
【0029】
x=3のものとしては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、n−プロピルトリエトキシシラン、i−プロピルトリメトキシシラン、iso−プロピルトリエトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3,4−エポキシシクロヘキシルエチルトリメトキシシラン、3,4−エポキシシクロヘキシルエチルトリエトキシシラン、CFCHCHSi(OCH、CCHCHSi(OCH、COCHCHCHSi(OCH、COCHCHCHSi(OC、(CFCHOCHCHCHSi(OCH、CCHOCHCHCHSi(OCH、H(CFCHOCHCHCHSi(OCH、3−(パーフルオロシクロヘキシルオキシ)プロピルトリメトキシシラン等を挙げることができる。
【0030】
x=2のものとしては、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、メチルフェニルジメトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジ−n−プロピルジメトキシシラン、ジ−n−プロピルジエトキシシラン、ジ−iso−プロピルジメトキシシラン、ジ−iso−プロピルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジビニルジエトキシシラン、(CFCHCHSi(OCH、(COCHCHCHSi(OCH、〔H(CFCHOCHCHCHSi(OCH、(CCHCHSi(OCHなどを挙げることができる。
【0031】
本発明の製造方法では、上記アルコキシシランと共に他の金属アルコキシドを併用してもよい。他の金属アルコキシドは、例えば、ジルコニウムアルコキシド、チタンアルコキシド、アルミニウムアルコキシド等を好適に用いることができる。
【0032】
(酸触媒)
上記アルコキシシランの加水分解に用いられる酸触媒は、無機酸又は有機酸であることが適当である。無機酸としては、例えば、塩酸、臭化水素、ヨウ化水素、硫酸、亜硫酸、硝酸、亜硝酸、燐酸、亜燐酸など、有機酸としてはカルボン酸類(蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、コハク酸、シクロヘキサンカルボン酸、オクタン酸、マレイン酸、2−クロロプロピオン酸、シアノ酢酸、トリフルオロ酢酸、パーフルオロオクタン酸、安息香酸、ペンタフルオロ安息香酸、フタル酸、シュウ酸など)、スルホン酸類(メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸)、p−トルエンスルホン酸、ペンタフルオロベンゼンスルホン酸など)、燐酸・ホスホン酸類(燐酸ジメチルエステル、フェニルホスホン酸など)、ルイス酸類(三フッ化ホウ素エーテラート、スカンジウムトリフレート、アルキルチタン酸、アルミン酸など)、ヘテロポリ酸(燐モリブデン酸、燐タングステン酸など)などを挙げることができる。形成されたコーティング層中に塩が残ることはガスバリア性にとって好ましくないため、塩酸、硝酸などの揮発性の酸や、蟻酸、酢酸、シュウ酸などのアルコキシシランと反応して揮発性のエステル化合物を形成するような酸が好ましい。
【0033】
本発明の製造方法では、上記混合液中における酸触媒の添加量は、アルコキシシラン(但し、他の金属アルコキシドを含有する場合には、アルコキシシラン+他の金属アルコキシド)の1モル当量に対して、0.3〜5.0モル当量であり、0.5〜2.5モル当量であることが好ましい。酸触媒の添加量がアルコキシシランの1モル当量に対して0.3モル当量以上であれば、比較的短時間で全てのアルコキシ基を加水分解することができる。一方、酸触媒の添加量が5モル当量以下であれば、コーティング層中にシラノール基の残留量が増えてガスバリア性が低下することもない。
【0034】
非特許文献1に記載されているように、従来の方法では、酸触媒の添加量をアルコキシシランの1モル当量に対して0.01モル当量よりも多くすると、コーティング層中の金属酸化物の粒子サイズが大きくなり、その結果、大きな細孔寸法を有するフィルムとなっていたため、良好なガスバリア性が得られなかった。
これに対し、本発明の製造方法では、アルコキシシランを後述する親水性樹脂と共存させることにより従来よりも多くの酸触媒を添加しても金属酸化物の粒子サイズが大きくなることはない。さらに、酸触媒を多く用いることで反応時間を短縮することができるという利点もある。
【0035】
また、本発明の製造方法では、上記酸触媒のほか、ゾル−ゲル触媒も併用できる。そのような触媒としては、例えば、以下のものが挙げられる。
(1)金属キレート化合物
一般式ROH(式中、Rは炭素数1〜6のアルキル基を示す)で表されるアルコールと、RCOCHCOR(式中、Rは炭素数1〜6のアルキル基、Rは炭素数1〜5のアルキル基又は炭素数1〜16のアルコキシ基を示す)で表されるジケトンとを配位子とした、金属を中心金属とするものであれば特に制限なく好適に用いることができる。この範疇であれば、2種以上の金属キレート化合物を併用してもよい。本発明の金属キレート化合物として特に好ましいものは中心金属にAl、Ti、Zrを有するものであり、一般式 Zr(ORp1(RCOCHCORp2、Ti(ORq1(RCOCHCORq2及び Al(ORr1(RCOCHCORr2で表される化合物群から選ばれるものが好ましく、縮合反応を促進する作用をなす。
【0036】
上記金属キレート化合物中のR及びRは、同一又は異なってもよく、炭素数1〜6のアルキル基、具体的にはエチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、フェニル基などである。また、Rは、前記と同様の炭素数1〜6のアルキル基のほか、炭素数1〜16のアルコキシ基、例えばメトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、iso−プロポキシ基、n−ブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、ラウリル基、ステアリル基などである。また、金属キレート化合物中のp1、p2、q1、q2、r1、r2 は4又は6座配位となるように決定される整数を表す。
【0037】
これらの金属キレート化合物の具体例としては、トリ−n−ブトキシエチルアセトアセテートジルコニウム、ジ−n−ブトキシビス(エチルアセトアセテート)ジルコニウム、n−ブトキシトリス(エチルアセトアセテート)ジルコニウム、テトラキス(n−プロピルアセトアセテート)ジルコニウム、テトラキス(アセチルアセトアセテート)ジルコニウム、テトラキス(エチルアセトアセテート)ジルコニウムなどのジルコニウムキレート化合物;ジイソプロポキシビス(エチルアセトアセテート)チタニウム、ジイソプロポキシビス(アセチルアセテート)チタニウム、ジイソプロポキシビス(アセチルアセトン)チタニウムなどのチタニウムキレート化合物;ジイソプロポキシエチルアセトアセテートアルミニウム、ジイソプロポキシアセチルアセトナートアルミニウム、イソプロポキシビス(エチルアセトアセテート)アルミニウム、イソプロポキシビス(アセチルアセトナート)アルミニウム、トリス(エチルアセトアセテート)アルミニウム、トリス(アセチルアセトナート)アルミニウム、モノアセチルアセトナート・ビス(エチルアセトアセテート)アルミニウムなどのアルミニウムキレート化合物などが挙げられる。これらの金属キレート化合物のうち好ましいものは、トリ−n−ブトキシエチルアセトアセテートジルコニウム、ジイソプロポキシビス(アセチルアセトナート)チタニウム、ジイソプロポキシエチルアセトアセテートアルミニウム、トリス(エチルアセトアセテート)アルミニウムである。これらの金属キレート化合物は、一種単独で、あるいは2種以上を混合して使用することができる。また、これらの金属キレート化合物の部分加水分解物を使用することもできる。
【0038】
(2)有機金属化合物
好ましい有機金属化合物としては特に制限はないが、有機遷移金属は活性が高いため好ましい。中でもスズの化合物は安定性及び活性がよく、特に好ましい。これらの具体的化合物例としては、(CSn(OCOC1123、(CSn(OCOCH=CHCOOC、(C17Sn(OCOC1123、(C17Sn(OCOCH=CHCOOC、Sn(OCOCCなどのカルボン酸型有機スズ化合物;(CSn(SCHCOOC17、(CSn(SCHCOOC17、(C17Sn(SCHCHCOOC17、(C17Sn(SCHCOOC1225
【0039】
【化2】



【0040】
などのメルカプチド型やスルフィド型の有機スズ化合物、(CSnO、(C17SnO、又は(CSnO、(C17SnOなどの有機スズオキサイドとエチルシリケートマレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、フタル酸ジオクチルなどのエステル化合物との反応生成物などの有機スズ化合物などが挙げられる。
【0041】
(3)金属塩類
金属塩類としては有機酸のアルカリ金属塩(例えばナフテン酸ナトリウム、ナフテン酸カリウム、オクタン酸ナトリウム、2−エチルヘキサン酸ナトリウム、ラウリル酸カリウムなど)が好ましく用いられる。
【0042】
上記ゾル−ゲル触媒の本発明の混合液中における含有量は、アルコキシシランの含有量に対し、0.01〜50質量%、好ましくは0.1〜50質量%、さらに好ましくは0.5〜10質量%である。
【0043】
本発明の製造方法では、さらにアルコキシシランの加水分解後に無機塩基やアミンなどの塩基性化合物を添加して溶液のpHを中性付近にし、縮重合を促進してもよい。但し、塩を形成してコーティング層内に残留し、コーティング層のガスバリア性を低下させるのを防止するために、揮発性の酸や揮発性のエステル化合物を形成し得る酸触媒と組み合わせて使用するか、あるいはこれらを揮発させた後にオーバーコート又は浸漬させて縮重合を促進させて使用する方法が望ましい。
【0044】
上記の無機塩基としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、アンモニアなどが挙げられる。また有機塩基化合物としては、アミン類(エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、トリエチルアミン、ジブチルアミン、N、N−ジメチルベンジルアミン、テトラメチルエチレンジアミン、ピペリジン、ピペラジン、モルホリン、エタノールアミン、ジアザビシクロウンデセン、キヌクリジン、アニリン、ピリジンなど)、ホスフィン類(トリフェニルホスフィン、トリメチルホスフィンなど)を挙げることができる。
【0045】
また、酸触媒による加水分解後、下記一般式のアミンを用いることも好ましい。
【0046】
【化3】



【0047】
上式中、R、Rは水素原子、脂肪族基、アシル基、脂肪族オキシカルボニル基、芳香族オキシカルボニル基、脂肪族スルホニル基、芳香族スルホニル基を表し、Rは、芳香族オキシ基、脂肪族チオ基、芳香族チオ基、アシルオキシ基、脂肪族オキシカルボニルオキシ基、芳香族オキシカルボニルオキシ基、置換アミノ基、複素環基、ヒドロキシ基を表す。但し、Rが芳香族基でない場合には、RとRのいずれか一方、あるいは両方が水素原子である。
【0048】
この場合、アミンの添加量としては、添加時におけるコーティング層中の残留酸量と等モル〜2倍モル、好ましくは等モル〜1.2倍モルが適当である。なお、残留酸量は、コーティング層を切削・剥離したものを凍結粉砕した一定量の試料を水に分散させた分散液をpH滴定することにより求めることができる。
【0049】
次に、ゾル−ゲル反応に用いられる溶媒について述べる。溶媒はゾル液中の各成分を均一に混合させ、形成されるコーティング層の固形分調製をすると同時に、種々の塗布方法に適用できるようにし、形成されるコーティング層における分散安定性と保存安定性とを向上させるものである。これらの溶媒は、上記目的を果たせるものであれば特に限定されない。これらの溶媒の好ましい例として、例えば、水及び水と混和性の高い有機溶媒が挙げられる。
【0050】
その例としては、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン、蟻酸、酢酸、酢酸メチル、アルコール類(メタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、iso−プロピルアルコール、tert−ブチルアルコール)、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、エチレングリコールモノブチルエーテル、酢酸エチレングリコールモノエチルエーテル、アセトン、N、N−ジメチルホルムアミド、N、N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシドなどを挙げることができる。
【0051】
さらに、本発明の製造方法では、ゾル−ゲル反応の反応速度を調節する目的で、多座配位可能な有機化合物を添加して金属アルコキシドを安定化してもよい。その例としては、β−ジケトン及び/又はβ−ケトエステル類、及びアルカノールアミンが挙げられる。
このβ−ジケトン類及び/又はβ−ケトエステル類の具体例としては、アセチルアセトン、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、アセト酢酸−n−プロピル、アセト酢酸−iso−プロピル、アセト酢酸−n−ブチル、アセト酢酸−sec−ブチル、アセト酢酸−tert−ブチル、2,4−ヘキサン−ジオン、2,4−ヘプタン−ジオン、3,5−ヘプタン−ジオン、2,4−オクタン−ジオン、2,4−ノナン−ジオン、5−メチル−ヘキサン−ジオンなどを挙げることができる。これらのうち、アセト酢酸エチル及びアセチルアセトンが好ましく、特にアセチルアセトンが好ましい。これらのβ−ジケトン類及び/又はβ−ケトエステル類は、一種単独で又は2種以上を混合して使用することもできる。
これらの多座配位可能な化合物は、ゾル−ゲル触媒として前記の金属キレート化合物を用いた場合、その反応速度を調節する目的にも用いることができる。
【0052】
(親水性樹脂)
次に、本発明の製造方法で用いられる親水性樹脂について説明する。ゾル−ゲル反応時に前記アルコキシシランと併用される親水性樹脂は、ゾル−ゲル反応に用いられる溶媒(水及び水との混合溶媒)に溶解するものであれば特に限定はされない。親水性樹脂としては、例えば、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリ(2−メチル−2−オキサゾリン)樹脂、ポリ(N−ビニルピロリドン)樹脂、ポリ(N,N−ジメチルアクリルアミド)樹脂、ゼラチン等が挙げられ、ポリビニルアルコール系樹脂を用いることが好ましい。
【0053】
上記ポリビニルアルコール系樹脂は、ポリビニルアルコール単独でもよいが、水素結合形成基を有するポリマーとの共重合体とのブレンドであってもよい。水素結合形成基を有する樹脂の例としては、例えば、ヒドロキシル基を有する樹脂とその誘導体(ポリビニルアセタール、フェノール樹脂、メチロールメラミン等とその誘導体);カルボキシル基を有する樹脂とその誘導体(ポリ(メタ)アクリル酸、無水マレイン酸、イタコン酸等の重合性不飽和酸の単位を含む単独又は共重合体と、これらの樹脂のエステル化物(酢酸ビニル等のビニルエステル、メタクリル酸メチル等の(メタ)アクリル酸エステル等の単位を含む単独又は共重合体)等);エーテル結合を有するポリマー(ポリアルキレンオキサイド、ポリオキシアルキレングリコール、ポリビニルエーテル、珪素樹脂等);アミド結合を有するポリマー(>N(COR)−結合(式中、Rは水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基を示す)を有するポリオキサゾリンやポリアルキレンイミンのN−アシル化物);>NC(O)−結合を有するポリビニルピロリドンとその誘導体;ウレタン結合を有するポリウレタン;尿素結合を有する樹脂等を挙げることができる。
【0054】
また、上記ポリビニルアルコール系樹脂は、シリル基含有ポリマーを併用してもよい。シリル基含有ポリマーは、主鎖重合体からなり、末端あるいは側鎖に加水分解性基及び/又は水酸基と結合したケイ素原子を有するシリル基を重合体1分子中に少なくとも1個、好ましくは2個以上含有するものであり、該シリル基の好ましい構造としては、下記一般式
【0055】
【化4】
−Si(R3−a(X)
【0056】
式中、Xはハロゲン原子、アルコキシ基、アシロキシ基、アミノキシ基、フェノキシ基、チオアルコキシ基、アミノ基などの加水分解性基及び/又は水酸基、Rは水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、又は炭素数7〜10のアラルキル基、aは1〜3の整数である)で表されるものである。
【0057】
シリル基含有ポリマーとして特に好ましいのは主鎖がビニルポリマーからなるシリル基含有ビニルポリマーである。これらは一般に下記の方法で容易に合成することができる。その製造方法はこれらの方法に限定されるものではない。
【0058】
(イ)ヒドロシラン化合物を炭素−炭素二重結合を有するビニルポリマーと反応させる。
(ロ)下記一般式で表されるシラン化合物と、各種ビニル系化合物とを重合する。
【化5】
10−Si(R3−a(X)
【0059】
式中のX、R、aは前記と同様であり、R10は重合性二重結合を有する有機基である。
【0060】
ここで、前記(イ)で示される製造方法で使用されるヒドロシラン化合物としては、例えば、メチルジクロルシラン、トリクロルシラン、フェニルジクロルシランなどのハロゲン化シラン類;メチルジエトキシシラン、メチルジメトキシシラン、フェニルジメトキシシラン、トリメトキシシラン、トリエトキシシランなどのアルコキシシラン類;メチルジアセトキシシラン、フェニルジアセトキシシラン、トリアセトキシシランなどのアシロキシシラン類;メチルジアミノキシシラン、トリアミノキシシラン、ジメチルアミノキシシラン、トリアミノシランなどのアミノシラン類が挙げられる。
【0061】
また、(イ)で示される製造方法で使用されるビニルポリマーとしては、水酸基を含むビニルポリマーを除く以外に特に限定はなく、例えば(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、ベンジル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリル酸、イタコン酸、フマル酸などのカルボン酸および無水マレイン酸などの酸無水物;グリシジル(メタ)アクリレートなどのエポキシ化合物;ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、アミノエチルビニルエーテルなどのアミノ化合物;(メタ)アクリルアミド、N−tert−ブチル(メタ)アクリルアミド、イタコン酸ジアミド、α−エチルアクリルアミド、クロトンアミド、フマル酸ジアミド、マレイン酸ジアミド、N−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミドなどのアミド化合物;アクリロニトリル、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、塩化ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、N−ビニルピロリドン、などから選ばれるビニル系化合物をアリルメタクリレートのような側鎖に二重結合を有するモノマーと共重合したビニルポリマーが好ましい。
【0062】
一方、上記(ロ)で示される製造方法で使用されるシラン化合物としては、例えば、特開2001−42102号公報に記載された[化5]が挙げられる。
【0063】
また、(ロ)で示される製造方法で使用されるビニル系化合物としては、前記(イ)の製造方法でビニルポリマーの重合時に用いられるビニル系化合物を使用することが可能であるが、かかる(イ)の製造方法に記載された以外に、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシビニルエーテル、N−メチロールアクリルアミドなどの水酸基を含むビニル系化合物を挙げることもできる。
【0064】
以上のようなシリル基含有ビニルポリマーの好ましい具体例としては、例えば、下記の一般式で表されるトリアルコキシシリル基含有アクリル重合体を挙げることができる。
【0065】
【化6】



【0066】
上式中、R11、R13は水素原子、フッ素原子又はメチル基、R12は水素原子、炭素数1〜12のアルキル基(例えば、メチル、エチル、n−プロピル、アリル、n−ブチル、iso−ブチル、n−ペンテル、n−ヘキシル、ベンジル、(CFCH−、CFCH−、C15CH−、CCHCH−等の(a)成分で説明したフッ素原子を含むアルキル基を表し、R14はメチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基などの炭素数1〜4のアルキレン基、R15は前述のRと同義であり、n/(m+n)=0.01〜0.4、好ましくは0.02〜0.2である。
【0067】
上記シリル基含有ビニルポリマーの数平均分子量は、好ましくは2,000〜100,000であり、さらに好ましくは4,000〜50,000である。
【0068】
本発明に好ましく使用されるシリル基含有ビニルポリマーの具体例としては、鐘淵化学工業(株)製、カネカゼムラックや下記のポリマーを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0069】
P−1 メチルメタクリレート/γ−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン(80/20:質量比)
P−2 メチルメタクリレート/γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(85/15:質量比)
P−3 メチルメタクリレート/エチルアクリレート/γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(50/40/10:質量比)
P−4 M−1/γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(90/10:質量比)
P−5 M−2/γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(80/20:質量比)
P−6 M−1/M−3/γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(50/40/10:質量比)
P−7 メチルメタクリレート/メチルアクリレート/γ−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン(60/25/15:質量比)
P−8 M−1/メチルメタクリレート/γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(70/25/5:質量比)
【0070】
なお、M−1、M−2、M−3の構造式は以下のとおりである。
【0071】
【化7】



【0072】
シリル基含有ポリマーを使用する場合、ポリビニルアルコール系樹脂の質量に対して1〜30質量%、好ましくは3〜10質量%、さらに好ましくは5〜10質量%である。
また、ゾル−ゲル反応時にモノマーを併用し、ゾル−ゲル反応時、又はその後に重合させて有機−無機ハイブリッド材料を作製することもできる。
【0073】
前記混合液又は形成されたコーティング層中における親水性樹脂の含有量は、アルコキシシランを等モル換算したSiOの質量又はシリコンの質量を用いて表すことができる。すなわち、前記混合液中に含まれる親水性樹脂の含有量は、アルコキシシランを等モル換算したSiOの質量に対して0.1倍以上、好ましくは0.1〜0.4倍、さらに好ましくは0.1〜0.25倍である。また、形成されたコーティング層においては、コーティング層に含まれるシリコンの質量に対して0.23倍以上、好ましくは0.23〜0.92倍、さらに好ましくは0.23〜0.58倍であることが適当である。
【0074】
親水性樹脂の含有量が、前記混合液に含まれるアルコキシシランの等モル換算量の0.1倍以上、又はコーティング層に含まれるシリコンの質量の0.23倍以上であれば、形成されたコーティング層が脆弱になることはなく、かつクラックや欠陥も生じにくく、良好なガスバリア能を維持できる。一方、親水性樹脂の含有量が、前記混合液に含まれるアルコキシシランの等モル換算量の0.4倍以下、又はコーティング層に含まれるシリコン含有量の0.92倍以下であれば、乾燥雰囲気下におけるコーティング層のガスバリア能は良好である上、高湿下におけるガスバリア能も良好にすることができる。
【0075】
本発明の製造方法により形成されるコーティング層の25℃におけるシリコン密度は、0.65g/cm以上であることが適当であり、好ましくは0.65〜0.85g/cmであり、さらに好ましくは0.75〜0.80g/cmである。本発明者は、混合液又はコーティング層に含まれる親水性樹脂の含有量のほかに、さらにコーティング層におけるシリコン密度もガスバリア能にも相関があることを見出した。すなわち、コーティング層における上記親水性樹脂の含有量の条件下で、25℃におけるシリコン密度が0.65g/cm以上、好ましくは0.75g/cm以上である場合に、緻密かつ優れたガスバリア性が得られることを見出した。
【0076】
上記のシリコン密度は、下記の方法により求められる。
蛍光X線分析装置を用いて一定面積の薄膜におけるSi原子による信号強度を求め、Si塗布量を誘導結合高周波プラズマ分光分析(ICP)で測定した場合におけるSi塗布量の検量線からSi塗布量を定量する。一方、薄膜の厚みは、ミクロトームによる断面切片試料の走査型電子顕微鏡(SEM)観察により求め、厚み当たりのSi塗布量を計算してシリコン密度とする。
【0077】
本発明の製造方法では、上記混合液の塗布及び溶媒乾燥工程に要する時間を適宜調整することにより所望のシリコン密度を得ることができる。
例えば、アルコキシシランと酸触媒を混合してから塗布又は溶媒乾燥工程に供するまでのアルコキシシランと酸触媒との反応時間は、高いシリコン密度と高いガスバリア性が得られる観点から、30秒〜5分であることが好ましく、30秒〜2分であることがより好ましく、40秒〜1分であることが最も好ましい。反応時間が30秒以上であれば、コーティング層中にアルコキシ基が残留することもなく、良好なガスバリア能が得られる。一方、反応時間が5分以下であれば、コーティング層中にシラノール基残留量が増えることもなく、良好なガスバリア能を維持することができる。
【0078】
本発明者は、上記混合液を塗布してコーティング層を形成する際の酸触媒の中和又は乾燥までの時間を変化させた場合、得られるコーティング層のガスバリア性が変化するか否かを実測した。すなわち、本発明者は、本発明の方法により得られたガスバリア性積層フィルムのコーティング層における残存アルコキシ基率を13C−NMRを用いて求め、さらに酸触媒量と反応時間との関係を29Si−NMRを用いたアルコキシ基又はシラノール基の反応率から上記の関係を見出した。この関係は、一般に知られているアルコキシシランのゾル−ゲル反応に関する知見とは全く異なったものであり、驚くべき事実である。
【0079】
次に、本発明の製造方法における混合液の高分子基材フィルム上への塗布法について説明する。
調製された混合液は、カーテンフローコート、ディップコート、スピンコート、ロールコート等の塗布法によって、高分子基材フィルム上に薄膜を形成することができる。この場合、加水分解のタイミングは製造工程中の如何なる時期であっても構わない。例えば、予め必要な組成の液を加水分解部分縮合して目的のゾル液を調製し、それを塗布−乾燥する方法、必要な組成の液を調製し塗布と同時に加水分解部分縮合させながら乾燥する方法、塗布−一次乾燥後、加水分解に必要な水含有液を重ねて塗布し加水分解させる方法等を好適に採用できる。また、塗布方法としては、様々な形態をとることが可能であるが、生産性を重視する場合には多段の吐出口を有するスライドギーサー上で下層塗布液と上層塗布液のそれぞれが必要な塗布量になるように吐出流量を調整し、形成した多層流を連続的に支持体に乗せ、乾燥させる方法(同時重層法)が好適に用いられる。
【0080】
塗布後の乾燥温度は、支持体の変形を起こさない範囲であれば特に制限はないが、好ましくは150℃以下、より好ましくは30〜150℃、特に好ましくは50〜130℃である。
【0081】
塗布、乾燥後のフィルムをさらに緻密にするため、エネルギー線の照射を行ってもよい。その照射線種に特に制限はないが、支持体の変形や変性に対する影響を勘案し、紫外線、電子線あるいはマイクロ波の照射を特に好ましく用いることができる。照射強度は30〜500mJ/cm であり、特に好ましくは50〜400mJ/cm である。照射温度は室温から支持体の変形温度の間を制限無く採用することが可能であり、好ましくは30〜150℃、特に好ましくは50〜130℃である。
【0082】
次に、本発明のガスバリア性積層フィルムについて説明する。
本発明のガスバリア性積層フィルムは、上述した本発明の製造方法により得られ、高分子基材フィルム上にコーティング層が積層される層構成を有する。
本発明のガスバリア性積層フィルムにおける高分子基材フィルムの厚みは、5〜500μmであることが好ましく、5〜200μmであることがより好ましく、10〜100μmであることがさらに好ましい。高分子基材フィルムが薄いと強度不足や取扱いが困難になり、厚いと透明性の低下や可撓性が損なわれる傾向がある。
【0083】
本発明のガスバリア性積層フィルムにおけるコーティング層の厚みは、100〜1000nmであることが適当であり、300〜800nmであることが好ましい。コーティング層の厚みが薄すぎるとガスバリア性が低下し、厚いと透明性の低下や、クラックが発生して破損しやすくなる。
【0084】
本発明のガスバリア性積層フィルムは、前記コーティング層上にさらに無機薄膜層を有していてもよい。無機薄膜層は、無機蒸着層又はゾル−ゲル法による緻密な無機コーティング薄膜であることが好ましい。無機蒸着層は、シリカ、ジルコニア、アルミナ等の蒸着層であることが好ましい。無機蒸着層は、真空蒸着法、スパッタリング法等により形成することができる。
【0085】
[基板]
本発明の基板は、前記ガスバリア性積層フィルムからなる。本発明の基板は、例えばディスプレイ用基板や電子回路用基板として用いることができる。本発明の基板をディスプレイ用基板として用いる場合、前記ガスバリア性積層フィルム上に、電極、誘電体層、保護層、隔壁、蛍光体などを形成してディスプレイ用部材を得ることができ、さらにこれを用いてPDP、PALC、FED、VFD等のディスプレイを作製することができる。また、本発明の基板を電子回路用基板として用いる場合、前記ガスバリア性積層フィルム上に回路を形成し、各種の電子機器、半導体素子に用いられる電子回路を作製できる。その他、本発明のガスバリア性積層フィルムは封止部材としても用いることができる。
【0086】
[画像表示素子]
本発明の画像表示素子とは、本発明のガスバリア性積層フィルム又は基板を有する液晶素子及び有機EL素子などである。
本発明の有機EL素子は、例えば、特開平11−335661号公報、特開平11−335368号公報、特開2001−192651号公報、特開2001−192652号公報、特開2001−192653号公報、特開2001−335776号公報、特開2001−247859号公報、特開2001−181616号公報、特開2001−181617号公報、特願2001−58834号明細書、特願2001−58835号明細書、特願2001−89663号明細書、特願2001−334858号明細書に記載された態様で用いることが好ましい。
すなわち、本発明のガスバリア性積層フィルムを有する有機EL素子は、本発明のガスバリア性積層フィルムを基材フィルム及び/又は保護フィルムとして用いることができる。有機EL素子は、本発明のガスバリア性積層フィルムを用いる場合、コーティング層側が有機EL層側、すなわち外気と接しない側に向けて塗設することが好ましい。
【0087】
本発明のガスバリア性積層フィルム及び該ガスバリア性積層フィルムからなる基板は、液晶表示素子や有機EL素子などの画像表示素子の電極基板として特に有用である。そのほか、例えば、偏光板兼用の電極基板、位相板兼用の電極基板、タッチパネル用の透明電極付きフィルム、CRT用電磁波シールド板、プラズマディスプレーパネル(PDP)、バックライト、導光板、カラーフィルター、光ガード、光テープ、光ディスク、太陽電池のカバー、アクティブ素子などの用途にも応用可能である。さらには、医薬品、食料品などの包材として応用可能である。
【0088】
【実施例】
以下に本発明の実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。なお、以下の実施例に示される材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0089】
実施例1
(支持体の作成)
ゼオノアZF16−100(日本ゼオン(株)製シクロオレフィンポリマーフィルム)にコロナ処理を施したものを塗布用支持体Aとした。
また、ゼオノア1600R(日本ゼオン(株)製シクロオレフィンポリマー)樹脂100質量部当たりに10質量部のソマシフMTE(コープケミカル(株)製合成雲母)を混合し、二軸押出機(レオミックス600P/PTW25(独ハーケ社製))を用いて270℃で混練・押出することにより厚み100μmのフィルムを作製し、表面にコロナ処理を施して塗布用支持体Bを得た。
【0090】
(ゾル−ゲル法による有機−無機ハイブリッドコーティング層の形成)
テトラエトキシシラン4.17g、イソプロパノール3.7g、水0.52gの混合物に2mol/L塩酸1.7mlを加え、室温で1分間撹拌した。この反応液にあらかじめ用意したポリビニルアルコールの4質量%溶液((株)クラレ製PVA124Cを水:イソプロパノール=65:35(質量比)の混合溶媒に対して調製したもの)7.45gの中に全量を添加し1分間撹拌した。これを上記の塗布用支持体A及びBにワイヤレスバーを用いて塗布した。その直後に120℃で5分間乾燥することにより、厚み約100nmの有機−無機ハイブリッドコーティング層を形成し、サンプル1を得た。
【0091】
実施例2〜11
塗布用支持体の種類、酸触媒の添加量及び酸触媒を添加してから塗布工程に移すまでの時間を表1のように変えた以外は実施例1と同様の方法でサンプル2〜11を作製した。
【0092】
比較例1
(比較用のガスバリア性積層フィルムの製造)
酸触媒の添加量及び酸触媒を添加してから塗布工程に移すまでの時間を表1のように変えた以外は実施例1と同様の方法でサンプル比1〜比5を作製した。
【0093】
試験例1 シリコン密度測定試験
シリコン密度は、蛍光X線測定装置を用いて測定した。検量線は、予めデポジット量の分かっているSiOスパッタリングフィルムを用いて作製した。
なお、支持体単独の蛍光X線測定を行い、この値を差し引くことでコーティング層に含まれるシリコンのみの定量を行うことができた。結果を表1に示す。
【0094】
試験例2 ガスバリア性の測定試験
実施例1〜11及び比較例1〜5で製造した各ガスバリア性積層フィルムのガス透過率をMOCON法によって測定した。酸素透過率は23℃、相対湿度0%及び90%の条件下で測定した。また、水蒸気透過率は、23℃相対湿度90%の条件下で測定した。結果を表2に示す。
【0095】
【表1】



*1 塗布直前に濾別した。
【0096】
【表2】



【0097】
表1及び表2より、ガスバリア性積層フィルムの作製において、混合液中における塩酸(酸触媒)の添加量が、テトラエトキシシラン(アルコキシシラン)の1モル当量に対して0.3モル当量以上含まれる場合は、いずれも良好な酸素透過率(23℃90%RH:0.15 ml/m・day・atm以下)及び水蒸気透過率(0.12 g/m・day以下)を示した(実施例1〜11)。中でも25℃におけるコーティング層のシリコン密度が0.75g/cm以上のガスバリア性積層フィルムの場合に、良好な酸素透過率及び水蒸気透過率を示した。
これに対し、混合液中の塩酸(酸触媒)の添加量が、テトラエトキシシラン(アルコキシシラン)の1モル当量に対して0.3モル当量より少ない場合(比較例1〜4)は、得られたガスバリア性積層フィルムの酸素透過率及び水蒸気透過率は、本発明の実施例よりも大きくなった。一方、酸触媒量が大過剰である場合(比較例5)は、酸素透過率及び水蒸気透過率がかなり低下した。
これより、本発明の条件を満たす方法により得られたガスバリア性積層フィルムは、ガスバリア能、特に高湿度の環境下であっても優れたガスバリア能と優れた耐腐食性とを有し、緻密なコーティング層が形成されたことが分かる。
【0098】
実施例12
(有機EL素子の作製)
サンプル1を真空チャンバー内に導入し、IXOターゲットを用いて、DCマグネトロンスパッタリングにより、厚さ0.2μmのIXO薄膜からなる透明電極を形成した。透明電極(IXO)より、アルミニウムのリ−ド線を結線し、積層構造体を形成した。
透明電極の表面に、ポリエチレンジオキシチオフェン・ポリスチレンスルホン酸の水性分散液(BAYER社製、Baytron P:固形分1.3質量%)をスピンコートした後、150℃で2時間真空乾燥し、厚さ100nmのホール輸送性有機薄膜層を形成した。これを基板Xとする。
【0099】
一方、厚さ188μmのポリエーテルスルホン(住友ベークライト(株)製スミライトFS−1300)からなる仮支持体の片面上に、下記の組成を有する発光性有機薄膜層用塗布液をスピンコーターを用いて塗布し、室温で乾燥することにより、厚さ13nmの発光性有機薄膜層を仮支持体上に形成した。これを転写材料Yとした。
【0100】
ポリビニルカルバゾール 40質量部
(Mw=63000、アルドリッチ社製)
トリス(2−フェニルピリジン)イリジウム錯体 1質量部
(オルトメタル化錯体)
ジクロロエタン 3200質量部
【0101】
前記基板Xの有機薄膜層の上面に転写材料Yの発光性有機薄膜層側を重ね、一対の熱ローラーを用い160℃、0.3MPa、0.05m/minで加熱・加圧し、仮支持体を引き剥がすことにより、基板Xの上面に発光性有機薄膜層を形成した。これを基板XYとした。
【0102】
25mm角に裁断した厚さ50μmのポリイミドフイルム(UPILEX−50S、宇部興産製)の片面上に、パターニングした蒸着用のマスク(発光面積が5mm×5mmとなるマスク)を設置し、約0.1mPaの減圧雰囲気中でAlを蒸着し、膜厚0.3μmの電極を形成した。Alターゲットを用いて、DCマグネトロンスパッタリングにより、AlをAl層と同パターンで蒸着し、膜厚3nmとした。Al電極よりアルミニウムのリード線を結線し、積層構造体を形成した。得られた積層構造体の上に下記の組成を有する電子輸送性有機薄膜層用塗布液をスピンコーター塗布機を用いて塗布し、80℃で2時間真空乾燥することにより、厚さ15nmの電子輸送性有機薄膜層をLiF上に形成した。これを基板Zとした。
【0103】
ポリビニルブチラール2000L 10質量部
(Mw=2000、電気化学工業社製)
下記構造を有する電子輸送性化合物 20質量部
【0104】
【化8】



【0105】
1−ブタノール 3500質量部
【0106】
基板XYと基板Zを用い、電極どうしが発光性有機薄膜層を挟んで対面するように重ね合せ、一対の熱ローラーを用い160℃、0.3MPa、0.05m/minで加熱・加圧し、貼り合せて有機EL素子1を作製した。
【0107】
実施例13〜22
基板Xの作製において、支持体としてサンプル1を用いる代わりにサンプル2〜11を用いる以外は実施例12と同様の方法により有機EL素子2〜11を得た。
【0108】
比較例6〜10
比較用の有機EL素子として、基板Xの作成において、支持体としてサンプル1を用いる代わりにサンプル比1〜比5を用いる以外は同様にして、有機EL素子サンプル比1〜比5を得た。
【0109】
参考例3、4
基板Xにおいて、塗布用支持体A又はBを用いた以外は実施例12と同様の方法により有機EL素子サンプルA、Bを得た。
【0110】
試験例3 有機EL素子の作動試験
得られた有機EL素子サンプル1〜11、比1〜5及び支持体A、Bをソースメジャーユニット2400型(東洋テクニカ(株)製)を用いて、直流電圧を有機EL素子に印加し、発光状態を観察した。
さらに素子を40℃90%の環境下に保管し、1ヶ月経った後、同様にして発光状態を観察した。結果を表3に示す。
【0111】
【表3】



【0112】
表3より本発明のガスバリア性積層フィルムを有する有機EL素子は、高温多湿の環境下で1ヶ月保存しても保存状態が良好であった。これに対して、有機EL素子サンプル比1〜5では作製当初は良好な発光性を示したが、高温多湿の環境下で1ヵ月後保存した後は、良好な発光性が得らなかった。これより、本発明の有機EL素子は、高温多湿の環境下であっても高耐久性を有することが分かる。
【0113】
前述の実施例に対して、さらにポリビニルアルコールの代わりにポリ(2−メチル−2−オキサゾリン)樹脂、ポリ(N−ビニルピロリドン)樹脂、ポリ(N,N−ジメチルアクリルアミド)樹脂を用いて同様の実験を行った。その結果、いずれの樹脂においてもポリビニルアルコール樹脂と同様に良好な結果が見られた。
【0114】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明のガスバリア性積層フィルムの製造方法では、高分子基材フィルム上に、少なくとも一種類のアルコキシシランと、該アルコキシシランの1モル当量に対して0.3〜5.0モル当量の酸触媒と、親水性樹脂とを含む混合液を塗布して、コーティング層が形成される。このため本発明の製造方法は、ガスバリア能に優れた緻密かつ透明なガスバリア性積層フィルムを提供することができる。また、本発明のガスバリア性積層フィルムを用いれば、精細で耐久性に優れた基板、液晶素子、有機EL素子等を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子基材フィルム上に、少なくとも一種類のアルコキシシランと酸触媒と親水性樹脂とを含む混合液を塗布してコーティング層を形成する工程を含むガスバリア性積層フィルムの製造方法であって、
前記酸触媒が、前記混合液中において前記アルコキシシランの1モル当量に対して0.3〜5.0モル当量含まれることを特徴とする前記ガスバリア性積層フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記親水性樹脂がポリビニルアルコール系樹脂であることを特徴とする請求項1に記載のガスバリア性積層フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記親水性樹脂が、前記混合液中において前記アルコキシシランを等モル換算したSiOの質量に対して0.1倍以上含まれることを特徴とする請求項1又は2に記載のガスバリア性積層フィルムの製造方法。
【請求項4】
25℃における前記コーティング層のシリコン密度が0.65g/cm以上となることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のガスバリア性積層フィルムの製造方法。
【請求項5】
無機層状化合物を混練したフィルム素材樹脂を用いて前記高分子基材フィルムを調製することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のガスバリア性積層フィルムの製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の製造方法により得られることを特徴とするガスバリア性積層フィルム。
【請求項7】
請求項6に記載のガスバリア性積層フィルムからなることを特徴とする基板。
【請求項8】
請求項6に記載のガスバリア性積層フィルム、又は請求項7に記載の基板を有することを特徴とする画像表示素子。

【公開番号】特開2004−224815(P2004−224815A)
【公開日】平成16年8月12日(2004.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2003−10939(P2003−10939)
【出願日】平成15年1月20日(2003.1.20)
【出願人】(000005201)富士写真フイルム株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】