説明

ガスホルダーの変形矯正方法

【課題】ガスホルダーの側板に超音波等を利用した打撃処理を施すことにより、側板に発生した変形の矯正を行う方法を提供することを目的とする。
【解決手段】ピストンの昇降動等によって生じるガスホルダーの側板の変形を矯正する方法であって、前記側板における変形部の表面に超音波を用いた打撃処理を施して、従来の矯正方法のような特殊技能を必要とせず、作業者が容易に実施することができ、母材(側板)の品質劣化のない変形矯正を容易に施すことが可能となる、ガスホルダーの変形矯正方法が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば製鐵所などに設置されているガスホルダーの側板に生じた変形を矯正する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、製鐵工場や各種生産工場等においては、各種ガスを貯留するピストン昇降式のガスホルダーが設置されている。かかるガスホルダーは、複数枚の側板で構成された円筒状のホルダー本体と、ホルダー本体の内部においてガス容量に応じて昇降動するピストンを備えている。このピストンはガイドローラーを側板の内面に接触させた状態でガス圧力を一定にさせるために昇降動し、ピストンと一緒に昇降動するシール機構により、ホルダー本体の内部に入れられたガスの漏洩を防止する構造となっており、ガイドローラーからは、側板に対して外側に向かう荷重がかけられた状態となっている。
【0003】
通常、ガイドローラーから側板に対して荷重がかかる部分に一致するように、側板の外側に支柱が配置されており、ガイドローラーからの荷重が側板を介して、支柱に直接かかるようになっている。しかしながら、ガスホルダーの長期間の使用により、ガイドローラーと支柱の位置関係にずれが生じ、支柱で支持されていない箇所において、ガイドローラーから側板に対して荷重がかかることがある。かかる場合、ガイドローラーから受けた荷重によって側板が変形し、その結果、ガス漏洩が発生したり、ピストンの円滑な昇降動ができなくなる恐れがある。
【0004】
そこで従来は、ホルダー本体の側板が基準以上に変形した場合は、専門業者により側板の張替え交換を施工していた。また、変形が基準以内の場合でも、点状加熱および冷却による変形矯正処理を側板に対して実施していた(特許文献1)。しかし、側板の張替え交換には長期の工事日数を要し、また、工事費用も莫大なものとなるといった問題点がある。また、点状加熱および冷却による側板の変形矯正処理を行うためには、加熱温度や加熱時間の制御等の特殊技能が必要とされ、また、側版に対する加熱および冷却を施すことによる品質劣化という問題点があった。
【0005】
一方、ホルダー本体の溶接部における曲がりを矯正する方法としては、溶接金属部・溶接止端部・熱影響部の表面に超音波による打撃処理を施して、曲がりを矯正する方法が提案されていた(特許文献2)。しかし、構造物母材そのものの変形矯正のために母材表面に打撃処理を行う方法は従来知られていなかった。
【特許文献1】特開2003−192090号公報
【特許文献2】特開2006−175511号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記のような従来の問題点に鑑み、ガスホルダーの側板に超音波等を利用した打撃処理を施すことにより、側板に発生した変形の矯正を行う方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明によれば、ガスホルダーの側板に生じた変形を矯正する方法であって、前記側板における変形部の表面に打撃処理を施して、変形を矯正することを特徴とする、ガスホルダーの変形矯正方法が提供される。
【0008】
この変形矯正方法により、例えば、ピストンの昇降動によって側版に生じた変形を矯正しても良い。また、前記打撃処理は、例えば超音波を用いた打撃処理である。この場合、例えば超音波打撃装置を用いて打撃処理を行うことができる。
【発明の効果】
【0009】
各種ガスを貯留するガスホルダーにおいて、ガイドローラーと接触する側板に変形が発生すると、シール機能が喪失され、ガス漏れ等の重大事故につながる恐れがある。本発明によれば、従来の点状加熱および冷却による変形処理方法のような特殊技能を必要とせず、また、母材に対する加熱および冷却による品質劣化をもたらすことなく、ガスホルダーの側板の変形矯正を容易に行うことが可能となる。これにより、前述のような重大事故等の危険を回避することができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照にして説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0011】
図1は、ピストン昇降式のガスホルダー1を斜め上方から見た斜視図である。ガスホルダー1は、略円筒状に組み上げられた複数枚の側板2の外側を、垂直に配置された複数本の支柱3で支持することによって構成された、略円筒状をなすホルダー本体4と、ホルダー本体4の内部に設けられたピストン5を備えている。ピストン5は、ホルダー本体4の内部においてガス容量に応じて昇降動できる大きさを有しており、ホルダー本体4の内部空間が、ピストン5によって、ピストン5よりも下方の領域と、ピストン5よりも上方の領域とに仕切られている。
【0012】
ホルダー本体4の内部において、ピストン5よりも下方の領域は、ガスの貯留部となっている。ホルダー本体4の下部には、ガスの流通路6が接続されており、この流通路6を通じて導入されたガスが、ホルダー本体4の内部において、ピストン5よりも下方の領域に貯留されるようになっている。
【0013】
図2はピストン5と側板2および支柱3の関係を示す概略図である。ピストン5の周囲には、ホルダー本体4の内面(側板2の内面)に接触する回転自在なガイドローラー10が支持部材11および連結部12により複数個所に装着されている。上述のように、流通路6を通じて導入されたガスが、ホルダー本体4の内部において、ピストン5よりも下方の領域に貯留されるが、その際、ガス容量に応じてピストン5が昇降動する。そして、このようにピストン5が昇降動する際に、ガイドローラー10が回転することにより、ホルダー本体4内においてピストン5が円滑に昇降動し、また、ガイドローラー10及び連結部12によりピストン5が傾斜することを防止するようになっている。
【0014】
また、図示はしないが、このようにピストン5が昇降動する際に、ピストン5よりも下方の領域と、ピストン5よりも上方の領域とを封止するためのシール機構が、ピストン5の周囲に設けられている。
【0015】
以上のように構成されたガスホルダー1にあっては、ピストン5の周囲に取り付けられているガイドローラー10からホルダー本体4の内面(側板2の内面)に対して、外側に向かう荷重がかけられた状態となっている。このため、通常は、図2に示すように、ガイドローラー10と支柱3の位置を一致させ、ガイドローラー10からの荷重が側板2を介して支柱3に直接かかるようになっている。
【0016】
しかしながら、ガスホルダー1の長期間の使用により、図3(a)に示すように、ガイドローラー10と支柱3の位置関係にずれが生じ、支柱3で支持されていない箇所において、ガイドローラー10から側板2に対して荷重がかかる場合がある。かかる場合、図3(b)に示すように、ガイドローラー10から受けた荷重によって側板2が外側に変形し、その結果、シール性能が劣化してガス漏洩が発生したり、ピストン5の円滑な昇降動ができなくなる恐れがある。
【0017】
このように側板2が変形した場合、従来は側板2の張替えや点状加熱および冷却による変形矯正方法により対処してきた。しかしながら、これら従来の変形矯正方法には、工事の長期化、工事費用の増大、特殊技能の必要性や品質劣化という問題点があったことは上述した通りである。そこで、本発明者は、このようにガスホルダー1の側板2に生じた変形を簡単に矯正できる方法を種々検討した。その結果、側板2における変形部2’の表面に超音波を用いた打撃処理を施して、変形を矯正する方法を案出した。
【0018】
図4は、本発明の実施の形態にかかる変形矯正方法に用いる超音波打撃装置20の説明図である。この超音波打撃装置20は、超音波発振部21、導波部22および複数の打撃ピン23で構成され、超音波発振部21には、電源・制御装置25および冷却ユニット26が付随している。超音波発振部21では、例えば20kHz〜60kHzの振動数、振幅が20〜50μm程度の超音波が発振され、その超音波が、導波部22を介して打撃ピン23に伝播される。導波22の材質は、超音波の減衰の少ないことからチタンが望ましい。また、打撃ピン23は、直径Dが3mm、長さLが30mm程度の円柱形状のものを4本用いるか、あるいは直径Dが5mm、長さLが30mm程度のものを3本用いるのが望ましい。なお、打撃ピン23の先端の曲率半径Rは、例えば10mmとするのが望ましい。
【0019】
以上のように構成された超音波打撃装置20を用いて打撃処理を行う場合、図5(a)に示すように、側板2における変形部2’の表面に超音波打撃装置20先端の打撃ピン23を当接させる。この場合、変形部2’の凹面側、即ち、ホルダー本体4の外側に向って凸に変形した変形部2’の内面側において、側板2の表面に超音波打撃装置20先端の打撃ピン23を当接させる。この状態で、超音波発振部21で発振させた例えば20kHz〜60kHzの振動数の超音波を打撃ピン23に伝播させることにより、変形部2’に超音波振動による打撃処理を施す。このとき、超音波打撃装置20によって、瞬間的でかつ、変位量が20〜50μm程度と微細ながら、極めて大きな応力が発生すると考えられる。こうして、変形部2’の凹面側に圧縮残留応力を付与することで、図5(b)に示すように、変形部2’を解消して、側板2を原型に戻すように矯正が行われる。
【0020】
この場合、変形部2’の凹面側全体に圧縮残留応力を付与して変形部2’を効果的に解消するためには、図6に示すように、超音波打撃装置20先端の打撃ピン23から側板2の表面に与える多数の打痕30を互いにラップさせながら設けていくことが好ましい。但し、打痕30はラップしていれば良く、隣接する互いの打痕30同士の間隔は任意である。
【0021】
また、このように変形部2’に打撃処理を施す場合、側板2の表面に対して、超音波打撃装置20先端の打撃ピン23を1〜3kg程度の加圧力で押し付けながら打撃することが望ましい。また、側板2の表面に局所的な溝が形成されないように、打撃ピン23の打撃位置は、5秒以上同じ場所に固定しないよう操作することが望ましい。
【0022】
このように超音波打撃装置20を用いて打撃処理を行うことにより、ガスホルダー1の側板2に生じた変形部2’を効果的に矯正できるようになる。また、超音波打撃装置20を用いた打撃処理は、従来の矯正方法のような特殊技能を必要とせず、作業者が容易に実施することができ、母材(側板2)の品質劣化のない変形矯正を容易に施すことが可能となる。その結果、側板2の変形によるシール機能の低下、ガス漏洩の危険を回避し、また、ピストン5の円滑な昇降動が可能となり、ガスホルダーの保守、管理の信頼性向上を図ることができる。
【0023】
また、超音波打撃装置20を用いた変形矯正を施すことにより、従来の点状加熱および冷却による変形矯正方法では矯正できなかった微妙な変形も矯正することができ、さらに、圧縮残留応力を付与することで、従来のような品質劣化を伴わずに母材(側板2)の強度向上を図ることが可能となる。
【0024】
以上、本発明の好ましい実施の形態の一例を説明したが、本発明は上記の形態に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に相到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0025】
例えば、本発明の変形矯正方法は、ガイドローラーによって生じた変形を矯正する場合に限らず、他の要因によってガスホルダーの側板に生じた変形の矯正にも適用できる。また、本発明の変形矯正方法は、ピストン昇降式のガスホルダーの他、例えば水槽式のガスホルダーにも適用できる。
【実施例1】
【0026】
鋼製平板の超音波打撃処理による変形矯正として以下の実験を行った。
まず、鋼種がSS400であり、幅240mm、長さ210mm、厚み5mmである鋼製平板を用意した。そして、図7に示されるように、縁を20mm程度残して、鋼製平板の上方より、片面のみを打撃位置を停止させないように移動させながら、なるべく一様になるよう打撃処理を施した。打撃処理に際しては、超音波振動数27kHz、超音波発振装置の容量1kWの超音波打撃装置を用いた。また、その際の先端部の打撃ピンの形状は、棒状ピンで、直径5mm、長さ25mm、先端曲率R10mmの物を使用し、ピンの材質は工具鋼とした。打撃処理の結果、図8に示すように、鋼製平板は上方に凸の形状に変形し、横方向及び縦方向の中央部が最も大きく変形した。
【0027】
そして、打撃処理の時間を3分、8分、13分の三段階とし、それぞれにおいて変形量の測定を行った。変形量の測定としては、鋼製平板を平らな台の上に載せ、最も変形量の大きい横方向及び縦方向の中央部にメジャーをあてて測定した。
【0028】
実験結果としては、打撃時間3分間の場合で変形量は縦方向・横方向共に2mm、打撃時間8分間の場合で変形量は縦方向・横方向共に3mm、打撃時間13分間の場合で変形量は縦方向・横方向共に5mmとなり、鋼製平板の打撃処理による変形が確認され、また、打撃時間と共に変形量が増加していることが確認された。
【0029】
平坦な鋼製平板に上方より超音波打撃処理を行った結果、凸型に変形した上記の実験結果から、例えば凹型に変形している鋼板の谷側から超音波打撃処理を行うと、凹型変形部が平坦に近い形に変形矯正されると考えられる。
【実施例2】
【0030】
BFG乾式ガスホルダーにおいて、10mm〜25mmの歪みの生じた側板母材表面に、超音波打撃処理による変形矯正を行った。BFGガスホルダーの容量は15万m、直径は51.2m、高さは87.4mであった。また、側板の鋼種はSS41であり、その一枚の大きさは、幅5026mm、長さ1516mmであった。
【0031】
側板一枚当り、幅約300mm、長さ約1500mmの範囲に上記実施例1と同条件の超音波打撃装置を用いて打撃処理を行った。その際、超音波打撃装置を、変形している部位の谷側に、加圧力1〜3kgで押し付けながら、局所的な溝が形成されないように5秒以上は同じ場所に静止させないよう操作した。
【0032】
その結果、側板1枚当り約30分の打撃処理によって、側板母材表面に発生していた10mm〜25mmの歪みが、ガスホルダーの機能を確保する上での許容範囲内である5mm〜15mmへと変形矯正された。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明は、長期間使用して変形を生じたガスホルダー側板母材表面の変形を矯正する方法として利用できる。具体的には、例えば、製鐵所で副生ガスを貯蔵するためのピストン昇降式ガスホルダーや、水槽式ガスホルダー等を含むガスホルダーの側板変形矯正に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】ガスホルダーを側上方から見た概観図である。
【図2】ピストンと側板および支柱の関係を示す概略図である。
【図3】変形発生時の側板および支柱とガイドローラーの関係を模式的に示した図である。
【図4】超音波打撃装置およびその先端部に取り付けられた打撃ピンの概略図である。
【図5】打撃処理変形矯正を模式的に示した概略図である。
【図6】打痕をラップさせる様子を示す概略図である。
【図7】実施例での打撃処理範囲を示した図である。
【図8】実施例における鋼製平板の変形の様子を示した図である。
【符号の説明】
【0035】
1…ガスホルダー
2…側板
2’…変形部
3…支柱
4…ホルダー本体
5…ピストン
6…ガス流通路
10…ガイドローラー
11…支持部材
12…連結部
20…超音波打撃装置
21…超音波発振部
22…導波部
23…打撃ピン
25…電源・制御装置
26…冷却ユニット
30…打痕
D…打撃ピンの直径
L…打撃ピンの長さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスホルダーの側板に生じた変形を矯正する方法であって、
前記側板における変形部の表面に打撃処理を施して、変形を矯正することを特徴とする、ガスホルダーの変形矯正方法。
【請求項2】
ピストンの昇降動によって側版に生じた変形を矯正することを特徴とする、請求項1に記載のガスホルダーの変形矯正方法。
【請求項3】
前記打撃処理が、超音波を用いた打撃処理であることを特徴とする、請求項1または2に記載のガスホルダーの変形矯正方法。
【請求項4】
超音波打撃装置を用いて打撃処理を行うことを特徴とする、請求項3に記載のガスホルダーの変形矯正方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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