ガス分析ユニット、ガス分析計、及びガス分析方法。
【課題】マイクロ化技術を利用しながら実用的な寿命も備えたポテンショメトリックセンサ方式のガス分析ユニット、ガス分析計、及びガス分析方法を提供する。
【解決手段】集合部12を有する反応液流路10と集合部22を有する試料ガス流路20とを備え、集合部12、22において、反応液が試料ガスと接触して反応するようにされており、集合部12の上流側と下流側において、各々反応液と接触するように、反応液の性状に応じた電位を発生する検知電極31及び検知電極41が配置されている。
【解決手段】集合部12を有する反応液流路10と集合部22を有する試料ガス流路20とを備え、集合部12、22において、反応液が試料ガスと接触して反応するようにされており、集合部12の上流側と下流側において、各々反応液と接触するように、反応液の性状に応じた電位を発生する検知電極31及び検知電極41が配置されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス分析ユニット、ガス分析計、及びガス分析方法に関する。さらに詳しくは、マイクロ化技術を利用しながら実用的な寿命も備えたポテンショメトリックセンサ方式のガス分析ユニット、ガス分析計、及びガス分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
試料ガスを反応液に吸収させ、反応液の変化を観ることによるガス分析は、古くから行われている。この場合、反応液の変化を、反応液の性状に応じた電位を測定するポテンショメトリックセンサを用いて観察することが広く行われている。
ポテンショメトリックセンサは、反応液の性状に応じた電位を発生する検知電極と電位基準となる参照電極とから構成され、反応液流の試料ガス吸収箇所の下流側に配置されるのが通常である。参照電極としては、銀/塩化銀電極が用いられるのが一般的である。
【0003】
ただし、測定対象ガスの種類によっては、銀/塩化銀電極の使用を回避する必要が有り、参照電極を用いない方法が工夫されている。例えば、特許文献1では、塩化水素濃度計において、反応液流の試料ガス吸収箇所の上流側と下流側の双方に検知電極を配置し、両検知極の間に液絡部を介して基準電極を内蔵したセル室を設けることにより、参照電極を用いずに両検知極間の電位差を求めることが行われている(特許文献1)。
【0004】
一方、マイクロ化された分析計(μ−TAS;Micro Total Analytical System,あるいはLab on a chipなどと呼ばれている。)が、近年種々の分析分野に波及している。
ガス分析をμ−TASで行う場合、試料ガスを吸収した後の反応液を、熱レンズ顕微鏡を検出器として観察することが行われている(非特許文献1)。
【0005】
しかし、熱レンズ顕微鏡を検出器として用いると、分析装置全体が大型化し、コストも大きい。そのため、小型で安価な製品を得るために、μ−TASに利用可能な微小なポテンショメトリックセンサが求められている。ポテンショメトリックセンサの微小化にあたり特に難しいのは、参照電極の微小化である。
μ−TASに適用可能な参照電極としては、筑波大学の鈴木博章らが、ガラス基板上に、金骨格パターン、銀薄膜パターン、塩化銀を形成するためのスリットを有するポリイミド層、ENT層、電解質層、シリコーンゴムを順次積層した銀/塩化銀電極を試作している(非特許文献2)。
【特許文献1】特開平3−148059号公報
【非特許文献1】「1.気液反応を利用したマイクロ化学分析チップの基礎検討」、ケミカルセンサーズ(Chemical Sensors)、2003年、第19巻付録(Supplement)B、p1-3
【非特許文献2】筑波大学 数理物質科学研究科 鈴木博章研究室、”液絡付き銀/塩化銀参照電極の微小化とその長寿命化”、[平成18年5月16日検索]、インターネット<URL:http://www.ims.tsukuba.ac.jp/~hsuzuki_lab/research/agcl/agcl.html>
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、非特許文献2の参照電極は、微小化した結果、塩化銀層が非常に薄く、反応液中への塩化銀の溶出によって、塩化銀膜が短時間で失われてしまい、実用化に耐える寿命が得られない。すなわち、溶解度積の大きい塩化銀を使用する限り、参照電極の微小化と長寿命化との両立は困難であった。
なお、銀/塩化銀電極の使用を回避するだけであれば、特許文献1のような測定系を組むことも考えられる。しかし、この場合、液絡部で隔てられたセル室を設けなければならず、微小化することは困難であった。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、マイクロ化技術を利用しながら実用的な寿命も備えたポテンショメトリックセンサ方式のガス分析ユニット、ガス分析計、及びガス分析方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を達成するために、本発明者らが鋭意検討した結果、分析ユニットをマイクロ化すれば、その間の電位差を、間に基準電極を内蔵したセル室等を介在させることなく、直接に検知できることを見いだして、以下の本発明に想到した。
【0008】
すなわち、本発明は以下の構成を採用した。
[1]反応液が流れる反応液流路と、
該反応液流路の反応液と接触するように、上流側から順次設けられた第1検知電極及び第2検知電極を備え
前記反応液流路は、前記第1検知電極と第2検知電極との間に、反応液が試料ガスと反応する反応部を有し、
前記第1検知電極は、前記反応部の上流側における反応液の性状に応じた電位を発生し、
前記第2検知電極は、前記反応部の下流側における反応液の性状に応じた電位を発生することを特徴とするガス分析ユニット。
【0009】
[2]さらに、試料ガスが流れる試料ガス流路を備え、
前記反応液流路の反応部が、該試料ガス流路と互いに内部の流体が接触可能な状態で隣接している[1]に記載のガス分析ユニット。
[3]さらに、気液分離体を備え、
前記反応液流路の反応部が、該気液分離体を介して、試料ガスと接触する[1]に記載のガス分析ユニット。
[4]前記反応液流路の前記第1検知電極と第2検知電極が設けられた部分の最大深さが1〜500μmである[1]から[3]の何れかに記載のガス分析ユニット。
[5][1]から[4]の何れかに記載のガス分析ユニットと、前記第1検知電極と第2検知電極との間の電位差を検知する分析計本体を備えるガス分析計。
[6][1]から[4]の何れかに記載のガス分析ユニットの前記第1検知電極と第2検知電極との間の電位差を測定して前記試料ガスの分析を行うガス分析方法であって、前記反応液流路の反応液流量が0.01〜1000μL/分であることを特徴とするガス分析方法。
[7]前記反応液のイオン強度が10−7〜100である[6]に記載のガス分析方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、マイクロ化技術を利用しながら実用的な寿命も備えたポテンショメトリックセンサ方式のガス分析ユニット、ガス分析計、及びガス分析方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
[第1実施形態]
図1は、本発明の第1実施形態を示す平面図で、図1(a)が全体図、図1(b)〜(d)が要部拡大図である。
本実施形態のガス分析ユニットは、図1に示すように、基板1に設けられた反応液流路10と試料ガス流路20、及び反応液流路10に接して設けられた検出器30、40とを備えている。
【0012】
基板1の材質としては、例えば、シリコン、樹脂、硝子、石英等が使用できる。これらの材質中、硝子は透明性が高く、このガス分析ユニットを利用して光分析を行う場合に好適である。特に、パイレックス(登録商標)ガラスは、耐熱性、耐薬品性が高く好ましい。
基板1は、単一の材質から構成されていてもよく、複数の材質を組み合わせてもよい。たとえば、エッチング等により反応液流路10と試料ガス流路20を形成したシリコン板に、硝子板を貼り合わせて基板とすることもできる。基板1は平板状とされているが、形状に特に限定はない。
【0013】
反応液流路10は、上流側(図示左側)から、導入部11、集合部12、流出部13とからなり、試料ガス流路20は、上流側(図示左側)から、導入部21、集合部22、流出部23とからなっている。
反応液流路10の集合部12は、試料ガス流路20の集合部22と、互いに内部の流体が接触可能な状態で隣接しており、試料ガスを反応液中に吸収できるようになっている。すなわち、本実施形態では、集合部12が、反応液が試料ガスと反応する反応部となっている。
【0014】
反応液流路10の導入部11の上流端には、基板1の外部と連通しており反応液が導入される反応液導入口10aが設けられている。また、反応液流路10の流出部13の下流端には、基板1の外部と連通しており反応液が流出する反応液流出口10bが設けられている
同様に、試料ガス流路20の導入部21の上流端には、基板1の外部と連通しており試料ガスが導入される試料ガス導入口20aが設けられている。また、試料ガス流路20の流出部23の下流端には、基板1の外部と連通しており試料ガスが流出する試料ガス流出口20bが設けられている。
【0015】
反応液流路10の集合部12と試料ガス流路20の集合部22について、図1(b)〜(d)、図2を用いて、さらに詳細に説明する。
図1(b)は反応液流路10の導入部11と集合部12との境界(試料ガス流路20の導入部21と集合部22との境界)近傍の部分拡大平面図である。また、図1(c)は反応液流路10と試料ガス流路20の各々の集合部12、集合部22の部分拡大平面図である。また、図1(d)は反応液流路10の集合部12と流出部13との境界(試料ガス流路20の集合部22と流出部23との境界)近傍の部分拡大平面図である。
また、図2は、図1(c)のII-II断面図(反応液流路10と試料ガス流路20の各々の集合部12、集合部22における拡大断面図)である。
【0016】
反応液流路10の集合部12の深さd2は試料ガス流路20の集合部22の深さd1よりも浅く(小さく)なっている。また、集合部12の幅w2は集合部22の幅w1よりも狭く(小さく)なっている。その結果、反応液流路10の集合部12の断面積は試料ガス流路20の集合部22の断面積よりも狭く(小さく)なっている。
深さd1は50μm超であることが好ましく、幅w1は(d1×2+10)μm前後であることが好ましい。深さd2は50μm以下であることが好ましく、幅w2は(d2×2+10)μm前後であることが好ましい。また、深さd1と深さd2との比は、3:1前後であることが好ましい。
なお、ここでいう深さとは図示のように断面における最大深さ、幅とは断面における最大幅のことであり、以下も同様である。
【0017】
本実施形態では、集合部12と集合部22の間で、液体である反応液と気体である試料ガスとが層流状態で直接接触し、この気液界面において試料ガス中の成分が反応液中に移行する。そのため、隔膜を用いずに試料ガス中の成分と反応液中の成分との反応が可能とされている。
【0018】
基板1の反応液流路10の内面の一部又は全部は、親液性とされていることが好ましい。特に、集合部12の部分が親液性とされていることが好ましい。ここで親液性とは、反応液流路10の導入部11から導入される反応液に対して親液性であることを意味し、当該反応液が水性である場合には親水性であることを、当該反応液が油性である場合は親油性であることを意味する。
これに対して、基板1の試料ガス流路20の内面の一部又は全部は、親液性が低い方が好ましい。特に、集合部22の部分が低い親液性とされていることが好ましい。
親水性、親油性とする手段としては、薬液処理、プラズマ処理、粗面化処理等、公知の手段を適宜使用することができる。
【0019】
本実施形態では、集合部12と集合部22において反応液と試料ガスが接触した後、反応液は反応液流路10の流出部13に、試料ガスは試料ガス流路20の流出部23に各々分離するようになっている。このように、2つの流体が再度分離するためには、集合部12と集合部22の間で気液の界面がある程度保たれた状態、すなわち、層流状態を維持する必要がある。
この層流状態を達成するためには、反応液導入口10aから導入する反応液および試料ガス導入口20aから導入する試料ガスの双方がある程度以上の圧力を有する必要がある。そして、この圧力を確保するためには、双方の流量を一定以上とする必要がある。
層流状態を達成するために必要な流量は、流路の断面積にもよるが、例えば、深さd1が90μm、幅w1が190μm、深さd2が60μm、幅w2が60μmの場合について、フェノールフタレイン溶液と空気を用いて実験したところ、以下の条件で良好な界面状態が得られることが確認できた。
すなわち、反応液(フェノールフタレイン溶液)の流量を1μL/分とし、試料ガス(空気)の流量を0.5〜2.5mL/分とした場合、および試料ガスの流量を1mL/分とし、反応液の流量を0.1〜5μL/分とした場合、各々良好な界面状態が得られた。
【0020】
検出器30は、反応液の性状に応じた電位を発生する検知電極31と、検知電極31と接続された端子32とを有している。また、検出器40は、反応液の性状に応じた電位を発生する検知電極41と、検知電極41と接続された端子42とを有している。
検知電極31、検知電極41としては、例えば、酸化イリジウム膜、ISFET(イオン感応性電解効果型トランジスター)等のpHセンサや、その他のイオン選択性電極等を用いることができる。
【0021】
検知電極31は導入部11を流れる反応液と接触するように、検知電極41は流出部13を流れる反応液と接触するように、各々配置されている。
図3は、図1のIII−III線に沿った検知電極41付近の断面図である。図3に示すように、検知電極41は流出部13上面を覆うように配置され、これにより、流出部13を流れる反応液と接触できるようになっている。検知電極31も、同様に導入部11上面を覆うように配置され、これにより、導入部11を流れる反応液と接触できるようになっている。
【0022】
反応液流路10の検知電極31、41が設けられた部分の深さd3は1〜500μmが好ましい。深さd3の上限値は、200μm以下がより好ましく、50μm以下であることがさらに好ましく、30μm以下であることが特に好ましい。深さd3が大きすぎると、検知電極から発生する電位が不安定となりやすい。また、検知電極31、41が設けられた部分の幅w3は(d3×2+10)〜(d3×2+20)μmであることが好ましい。
なお、反応液流路10の検知電極31、41が設けられた部分以外の深さと幅は、検知電極から発生する電位の安定性には直接影響しないが、反応液流路10全体の深さと幅は略均一であることが好ましい。これにより、反応液の流れが均一となり、流路の途中での液溜まりの問題を回避できる。
【0023】
検知電極31と検知電極41との間の反応液流路長は、0.1〜100cmであることが好ましい。反応液流路長とは、流路の流れ方向に沿った距離のことで、流路が曲線の場合には、当該曲線に沿った距離である。
反応液流路長が1cm未満の場合、集合部12(反応部)の長さを充分にとれず、反応液と試料ガスとの反応が不充分となる場合がある。反応液流路長が10cmを越える場合は、検知電極31と検知電極41との間の電気的導通が不充分となり、電位差を安定して検出することが困難となる場合がある。
検知電極間の反応液流路長は、1〜10cmであることがより好ましい。
【0024】
反応液の流量は、0.01〜1000μL/分であることが好ましく、0.1〜100μL/分であることがより好ましく、0.1〜10μL/分であることがさらに好ましい。反応液の流量が小さすぎると、反応時間が長くなるなどの問題がある。反応液の流量が大きすぎると、反応液消費量が多くなる、低濃度ガスを分析しにくいなどの問題がある。
本実施形態では、反応液流量を集合部12における層流状態を達成するための反応液流量の制限があり、層流状態を達成できていれば、通常反応液の流量は0.01〜1000μL/分の範囲となる。
【0025】
反応液のイオン強度は10−7〜100であることが好ましく、10−5〜10−1がより好ましく、10−3〜10−1がさらに好ましい。反応液のイオン強度が小さすぎると、S/N比が大きくなり、ノイズの影響が重大となる問題がある。反応液のイオン強度が大きすぎると、活量と濃度が大きく乖離し、しかるべき分析結果が得られないなどの問題がある。
【0026】
本実施形態に係るガス分析ユニットは、図示を省略する分析計本体に、検出器30の端子32と、検出器40の端子42とをつなぎ、検知電極31と検知電極41との間の電位差を測定する。これによって、試料ガスとの反応による集合部12前後の反応液の性状の変化を測定し、その結果、試料ガス中の反応液と反応する成分の濃度等を求めることができる。
【0027】
なお、本実施形態では、反応液と試料ガスが同一の方向に流れ、集合部12、22において層流状態で反応する構成としたが、試料ガス導入口20aと試料ガス流出口20bとを逆にして、反応ガス反応液と試料ガスが反対の方向に流れ、集合部12、22において向流状態で反応する構成としてもよい。また、特開平2005−329364号のように、反応ガスと試料ガスの流れが交叉するようにして交叉部において反応するようにしてもよい。
【0028】
[第2実施形態]
図4は本発明の第2実施形態のガス分析ユニットとガス分析計を示す斜視図、図5は図4のV−V断面図、図6は図5のVI−VI部分断面図、図7は図5のVII−VII部分断面図である。本実施形態のガス分析ユニットは、図4に示すように、基板50に設けられた反応液流路51と、反応液流路51と基板50の外部とを隔てる気液分離体60、及び反応液流路51に接して設けられた検出器70、80とを備えている。また、このガス分析ユニットに分析計本体90が接続されて、本実施形態のガス分析計が構成されている。
【0029】
基板50の材質としては、第1実施形態の基板1と同等の材質を用いることができる。また、基板50は平板状とされているが、形状に特に限定はない。
気液分離体60は、図5、図6に示すように、反応液流路51の略中央部に接して設けられており、この気液分離体60を介して、基板50外部に存在する試料ガスを反応液中に吸収できるようになっている。
すなわち、本実施形態では、反応液流路51の気液分離体60と接している部分が、反応液が試料ガスと反応する反応部となっている。
反応液流路51の気液分離体60と接している部分の深さd4は1〜500μmが好ましい。深さd4の上限値は、100μm以下がより好ましく、50μm以下であることがさらに好ましく、30μm以下であることが特に好ましい。深さd4が大きすぎると、試料ガスを反応液中に均一に吸収することが困難となりやすい。また、反応液流路51の気液分離体60と接している部分の幅w4は(d4×2+10)〜(d4×2+20)μmであることが好ましい。
【0030】
図4、5に示すように、反応液流路51の上流端には、基板50の外部と連通しており反応液が導入される反応液導入口51aが設けられている。また、反応液流路51の下流端には、基板50の外部と連通しており反応液が流出する反応液流出口51bが設けられている。
【0031】
検出器70は、反応液の性状に応じた電位を発生する検知電極71と、検知電極71と接続された端子72とを有している。また、検出器80は、反応液の性状に応じた電位を発生する検知電極81と、検知電極81と接続された端子82とを有している。
検知電極71、検知電極81としては、第1実施形態の検知電極31、検知電極41と同様のものを用いることができる。
【0032】
気液分離体60としては、フッ素系多孔性ポリマーシート、ポーラスシリコン、ポリジメチルシロキサンポリマーの薄板、多孔質ガラス等の多孔性構造体、非多孔性の基材に微細スリットや微細孔等が設けられた気液分離可能な構造体、等を用いることができる。
【0033】
検知電極71は、気液分離体60の上流側において反応液流路51を流れる反応液と接触するように、検知電極81は気液分離体60の下流側において反応液流路51を流れる反応液と接触するように、各々配置されている。
図7に示すように、検知電極81は反応液流路51上面を覆うように配置され、これにより、反応液流路51を流れる反応液と接触できるようになっている。検知電極71も、同様に反応液流路51上面を覆うように配置され、これにより、反応液流路51を流れる反応液と接触できるようになっている。
【0034】
反応液流路51の検知電極71、81が設けられた部分の深さd5は1〜500μmが好ましい。深さd5の上限値は、200μm以下がより好ましく、50μm以下であることがさらに好ましく、30μm以下であることが特に好ましい。深さd5が大きすぎると、検知電極から発生する電位が不安定となりやすい。また、反応液流路51の検知電極71、81が設けられた部分の幅w5は(d5×2+10)〜(d5×2+20)μmであることが好ましい。
なお、反応液流路51の検知電極71、81が設けられた部分の以外の深さと幅は、検知電極から発生する電位の安定性には直接影響しないが、反応液流路51全体の深さと幅は略均一であることが好ましい。これにより、反応液の流れが均一となり、流路の途中での液溜まりの問題を回避できる。
【0035】
検知電極71と検知電極81との間の反応液流路長は、0.1〜100cmであることが好ましい。反応液流路長が1cm未満の場合、気液分離体60と接する反応液流路51(反応部)の長さを充分にとれず、反応液と試料ガスとの反応が不充分となる場合がある。反応液流路長が10cmを越える場合は、検知電極71と検知電極81との間の電気的導通が不充分となり、電位差を安定して検出することが困難となる場合がある。
検知電極間の反応液流路長は、1〜10cmであることがより好ましい。
【0036】
第1実施形態と同様に、反応液の流量は、0.01〜1000μL/分であることが好ましく、0.1〜100μL/分であることがより好ましく、0.1〜10μL/分であることがさらに好ましい。
また、反応液のイオン強度は10−7〜100であることが好ましく、10−5〜10−1がより好ましく、10−3〜10−1がさらに好ましい。
【0037】
本実施形態に係るガス分析ユニットは、分析計本体90に、検出器70の端子72と、検出器80の端子82とをつなぎ、検知電極71と検知電極81との間の電位差を測定する。これによって、基板50外部の試料ガスとの反応による反応液の性状の変化を測定し、その結果、試料ガス中の反応液と反応する成分の濃度等を求めることができる。
【実施例】
【0038】
[実施例1]
図1の実施形態のガス分析ユニットを用いて、以下の条件でアンモニアガスの測定を行った。
(ガス分析ユニットの仕様)
反応液流路10の導入部11及び流出部13:幅80μm、深さ30μm、
反応液流路10の集合部12:幅70μm、深さ30μm、
試料ガス流路20の導入部21及び流出部23:幅180μm、深さ80μm、
試料ガス流路20の集合部22:幅178μm、深さ80μm、
集合部12、22の長さ:10mm、
検知電極31と検知電極41との間の反応液流路長:15mm、
検知電極31と検知電極41の幅(流れ方向):0.5mm、
検知電極31と検知電極41の厚み:250nm、
検知電極31と検知電極41の材質(表面):酸化イリジウム
【0039】
(測定条件等)
反応液:塩化アンモニウム溶液(濃度:6×10−3mol/L)
反応液流量:1μL/分
試料ガス:0〜194ppmのアンモニアガス(窒素ガスベース)
試料ガス流量:2μL/分
測定温度:室温(22℃)
【0040】
表1、図8に、アンモニアガス濃度に応じた検知電極31と検知電極41の電位差を示す。なお、図8の横軸は対数目盛である。また、表2、図9に、アンモニアガス濃度を、0ppmから、194ppmに切り換えてからの検知電極31と検知電極41の電位差変化を示す。
【0041】
【表1】
【0042】
【表2】
【0043】
表1、図8に示すように、アンモニアガス濃度に応じた電位差が得られた。また、表2、図9に示すように、約2〜3分で、試料ガス濃度に追随した電位差が得られた。なお、試料ガス濃度に追随した電位差が得られるまでの時間は、主として反応液の移動に係る時間、すなわち、反応液流量に依存しているものと考えられる。
【0044】
[実施例2]
図1の実施形態のガス分析ユニットを用いて、以下の条件で二酸化炭素ガスの測定を行った。
(ガス分析ユニットの仕様)
実施例1と同じ
【0045】
(測定条件等)
反応液:炭酸水素イオン溶液(濃度:0.02mol/L)
反応液流量:1μL/分
試料ガス:0〜9997ppmの二酸化炭素ガス(窒素ガスベース)
試料ガス流量:2μL/分
測定温度:室温(22℃)
【0046】
表3、図10に、二酸化炭素ガス濃度に応じた検知電極31と検知電極41の電位差を示す。なお、図10の横軸は対数目盛である。また、表4、図11に、二酸化炭素ガス濃度を、0mg/Lから、9997mg/Lに切り換えてからの検知電極31と検知電極41の電位差変化を示す。
【0047】
【表3】
【0048】
【表4】
【0049】
表3、図10に示すように、二酸化炭素ガス濃度に応じた電位差が得られた。また、表4、図11に示すように、約120分で、試料ガス濃度に追随した電位差が得られた。なお、試料ガス濃度に追随した電位差が得られるまでの時間は、主として反応液の移動にかかる時間、すなわち、反応液流量に依存しているものと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】第1実施形態を示す平面図で、図1(a)が全体図、図1(b)〜(d)が要部拡大図である。
【図2】図1(c)のII-II断面図である。
【図3】図1(a)のIII-III部分断面図である。
【図4】第2実施形態を示す斜視図である。
【図5】図4のV-V断面図である。
【図6】図5のVI-VI断面図である。
【図7】図5のVII-VII断面図である。
【図8】アンモニアガス濃度に応じた電位差を示すグラフである。
【図9】アンモニアガス濃度を切り換えてからの電位差変化を示すグラフである。
【図10】二酸化炭素ガス濃度に応じた電位差を示すグラフである。
【図11】二酸化炭素ガス濃度を切り換えてからの電位差変化を示すグラフである。
【符号の説明】
【0051】
1、50…基板、10、51…反応液流路、20…試料ガス流路、
30、40、70、80…検出器、60…気液分離体、90…分析計本体
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス分析ユニット、ガス分析計、及びガス分析方法に関する。さらに詳しくは、マイクロ化技術を利用しながら実用的な寿命も備えたポテンショメトリックセンサ方式のガス分析ユニット、ガス分析計、及びガス分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
試料ガスを反応液に吸収させ、反応液の変化を観ることによるガス分析は、古くから行われている。この場合、反応液の変化を、反応液の性状に応じた電位を測定するポテンショメトリックセンサを用いて観察することが広く行われている。
ポテンショメトリックセンサは、反応液の性状に応じた電位を発生する検知電極と電位基準となる参照電極とから構成され、反応液流の試料ガス吸収箇所の下流側に配置されるのが通常である。参照電極としては、銀/塩化銀電極が用いられるのが一般的である。
【0003】
ただし、測定対象ガスの種類によっては、銀/塩化銀電極の使用を回避する必要が有り、参照電極を用いない方法が工夫されている。例えば、特許文献1では、塩化水素濃度計において、反応液流の試料ガス吸収箇所の上流側と下流側の双方に検知電極を配置し、両検知極の間に液絡部を介して基準電極を内蔵したセル室を設けることにより、参照電極を用いずに両検知極間の電位差を求めることが行われている(特許文献1)。
【0004】
一方、マイクロ化された分析計(μ−TAS;Micro Total Analytical System,あるいはLab on a chipなどと呼ばれている。)が、近年種々の分析分野に波及している。
ガス分析をμ−TASで行う場合、試料ガスを吸収した後の反応液を、熱レンズ顕微鏡を検出器として観察することが行われている(非特許文献1)。
【0005】
しかし、熱レンズ顕微鏡を検出器として用いると、分析装置全体が大型化し、コストも大きい。そのため、小型で安価な製品を得るために、μ−TASに利用可能な微小なポテンショメトリックセンサが求められている。ポテンショメトリックセンサの微小化にあたり特に難しいのは、参照電極の微小化である。
μ−TASに適用可能な参照電極としては、筑波大学の鈴木博章らが、ガラス基板上に、金骨格パターン、銀薄膜パターン、塩化銀を形成するためのスリットを有するポリイミド層、ENT層、電解質層、シリコーンゴムを順次積層した銀/塩化銀電極を試作している(非特許文献2)。
【特許文献1】特開平3−148059号公報
【非特許文献1】「1.気液反応を利用したマイクロ化学分析チップの基礎検討」、ケミカルセンサーズ(Chemical Sensors)、2003年、第19巻付録(Supplement)B、p1-3
【非特許文献2】筑波大学 数理物質科学研究科 鈴木博章研究室、”液絡付き銀/塩化銀参照電極の微小化とその長寿命化”、[平成18年5月16日検索]、インターネット<URL:http://www.ims.tsukuba.ac.jp/~hsuzuki_lab/research/agcl/agcl.html>
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、非特許文献2の参照電極は、微小化した結果、塩化銀層が非常に薄く、反応液中への塩化銀の溶出によって、塩化銀膜が短時間で失われてしまい、実用化に耐える寿命が得られない。すなわち、溶解度積の大きい塩化銀を使用する限り、参照電極の微小化と長寿命化との両立は困難であった。
なお、銀/塩化銀電極の使用を回避するだけであれば、特許文献1のような測定系を組むことも考えられる。しかし、この場合、液絡部で隔てられたセル室を設けなければならず、微小化することは困難であった。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、マイクロ化技術を利用しながら実用的な寿命も備えたポテンショメトリックセンサ方式のガス分析ユニット、ガス分析計、及びガス分析方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を達成するために、本発明者らが鋭意検討した結果、分析ユニットをマイクロ化すれば、その間の電位差を、間に基準電極を内蔵したセル室等を介在させることなく、直接に検知できることを見いだして、以下の本発明に想到した。
【0008】
すなわち、本発明は以下の構成を採用した。
[1]反応液が流れる反応液流路と、
該反応液流路の反応液と接触するように、上流側から順次設けられた第1検知電極及び第2検知電極を備え
前記反応液流路は、前記第1検知電極と第2検知電極との間に、反応液が試料ガスと反応する反応部を有し、
前記第1検知電極は、前記反応部の上流側における反応液の性状に応じた電位を発生し、
前記第2検知電極は、前記反応部の下流側における反応液の性状に応じた電位を発生することを特徴とするガス分析ユニット。
【0009】
[2]さらに、試料ガスが流れる試料ガス流路を備え、
前記反応液流路の反応部が、該試料ガス流路と互いに内部の流体が接触可能な状態で隣接している[1]に記載のガス分析ユニット。
[3]さらに、気液分離体を備え、
前記反応液流路の反応部が、該気液分離体を介して、試料ガスと接触する[1]に記載のガス分析ユニット。
[4]前記反応液流路の前記第1検知電極と第2検知電極が設けられた部分の最大深さが1〜500μmである[1]から[3]の何れかに記載のガス分析ユニット。
[5][1]から[4]の何れかに記載のガス分析ユニットと、前記第1検知電極と第2検知電極との間の電位差を検知する分析計本体を備えるガス分析計。
[6][1]から[4]の何れかに記載のガス分析ユニットの前記第1検知電極と第2検知電極との間の電位差を測定して前記試料ガスの分析を行うガス分析方法であって、前記反応液流路の反応液流量が0.01〜1000μL/分であることを特徴とするガス分析方法。
[7]前記反応液のイオン強度が10−7〜100である[6]に記載のガス分析方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、マイクロ化技術を利用しながら実用的な寿命も備えたポテンショメトリックセンサ方式のガス分析ユニット、ガス分析計、及びガス分析方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
[第1実施形態]
図1は、本発明の第1実施形態を示す平面図で、図1(a)が全体図、図1(b)〜(d)が要部拡大図である。
本実施形態のガス分析ユニットは、図1に示すように、基板1に設けられた反応液流路10と試料ガス流路20、及び反応液流路10に接して設けられた検出器30、40とを備えている。
【0012】
基板1の材質としては、例えば、シリコン、樹脂、硝子、石英等が使用できる。これらの材質中、硝子は透明性が高く、このガス分析ユニットを利用して光分析を行う場合に好適である。特に、パイレックス(登録商標)ガラスは、耐熱性、耐薬品性が高く好ましい。
基板1は、単一の材質から構成されていてもよく、複数の材質を組み合わせてもよい。たとえば、エッチング等により反応液流路10と試料ガス流路20を形成したシリコン板に、硝子板を貼り合わせて基板とすることもできる。基板1は平板状とされているが、形状に特に限定はない。
【0013】
反応液流路10は、上流側(図示左側)から、導入部11、集合部12、流出部13とからなり、試料ガス流路20は、上流側(図示左側)から、導入部21、集合部22、流出部23とからなっている。
反応液流路10の集合部12は、試料ガス流路20の集合部22と、互いに内部の流体が接触可能な状態で隣接しており、試料ガスを反応液中に吸収できるようになっている。すなわち、本実施形態では、集合部12が、反応液が試料ガスと反応する反応部となっている。
【0014】
反応液流路10の導入部11の上流端には、基板1の外部と連通しており反応液が導入される反応液導入口10aが設けられている。また、反応液流路10の流出部13の下流端には、基板1の外部と連通しており反応液が流出する反応液流出口10bが設けられている
同様に、試料ガス流路20の導入部21の上流端には、基板1の外部と連通しており試料ガスが導入される試料ガス導入口20aが設けられている。また、試料ガス流路20の流出部23の下流端には、基板1の外部と連通しており試料ガスが流出する試料ガス流出口20bが設けられている。
【0015】
反応液流路10の集合部12と試料ガス流路20の集合部22について、図1(b)〜(d)、図2を用いて、さらに詳細に説明する。
図1(b)は反応液流路10の導入部11と集合部12との境界(試料ガス流路20の導入部21と集合部22との境界)近傍の部分拡大平面図である。また、図1(c)は反応液流路10と試料ガス流路20の各々の集合部12、集合部22の部分拡大平面図である。また、図1(d)は反応液流路10の集合部12と流出部13との境界(試料ガス流路20の集合部22と流出部23との境界)近傍の部分拡大平面図である。
また、図2は、図1(c)のII-II断面図(反応液流路10と試料ガス流路20の各々の集合部12、集合部22における拡大断面図)である。
【0016】
反応液流路10の集合部12の深さd2は試料ガス流路20の集合部22の深さd1よりも浅く(小さく)なっている。また、集合部12の幅w2は集合部22の幅w1よりも狭く(小さく)なっている。その結果、反応液流路10の集合部12の断面積は試料ガス流路20の集合部22の断面積よりも狭く(小さく)なっている。
深さd1は50μm超であることが好ましく、幅w1は(d1×2+10)μm前後であることが好ましい。深さd2は50μm以下であることが好ましく、幅w2は(d2×2+10)μm前後であることが好ましい。また、深さd1と深さd2との比は、3:1前後であることが好ましい。
なお、ここでいう深さとは図示のように断面における最大深さ、幅とは断面における最大幅のことであり、以下も同様である。
【0017】
本実施形態では、集合部12と集合部22の間で、液体である反応液と気体である試料ガスとが層流状態で直接接触し、この気液界面において試料ガス中の成分が反応液中に移行する。そのため、隔膜を用いずに試料ガス中の成分と反応液中の成分との反応が可能とされている。
【0018】
基板1の反応液流路10の内面の一部又は全部は、親液性とされていることが好ましい。特に、集合部12の部分が親液性とされていることが好ましい。ここで親液性とは、反応液流路10の導入部11から導入される反応液に対して親液性であることを意味し、当該反応液が水性である場合には親水性であることを、当該反応液が油性である場合は親油性であることを意味する。
これに対して、基板1の試料ガス流路20の内面の一部又は全部は、親液性が低い方が好ましい。特に、集合部22の部分が低い親液性とされていることが好ましい。
親水性、親油性とする手段としては、薬液処理、プラズマ処理、粗面化処理等、公知の手段を適宜使用することができる。
【0019】
本実施形態では、集合部12と集合部22において反応液と試料ガスが接触した後、反応液は反応液流路10の流出部13に、試料ガスは試料ガス流路20の流出部23に各々分離するようになっている。このように、2つの流体が再度分離するためには、集合部12と集合部22の間で気液の界面がある程度保たれた状態、すなわち、層流状態を維持する必要がある。
この層流状態を達成するためには、反応液導入口10aから導入する反応液および試料ガス導入口20aから導入する試料ガスの双方がある程度以上の圧力を有する必要がある。そして、この圧力を確保するためには、双方の流量を一定以上とする必要がある。
層流状態を達成するために必要な流量は、流路の断面積にもよるが、例えば、深さd1が90μm、幅w1が190μm、深さd2が60μm、幅w2が60μmの場合について、フェノールフタレイン溶液と空気を用いて実験したところ、以下の条件で良好な界面状態が得られることが確認できた。
すなわち、反応液(フェノールフタレイン溶液)の流量を1μL/分とし、試料ガス(空気)の流量を0.5〜2.5mL/分とした場合、および試料ガスの流量を1mL/分とし、反応液の流量を0.1〜5μL/分とした場合、各々良好な界面状態が得られた。
【0020】
検出器30は、反応液の性状に応じた電位を発生する検知電極31と、検知電極31と接続された端子32とを有している。また、検出器40は、反応液の性状に応じた電位を発生する検知電極41と、検知電極41と接続された端子42とを有している。
検知電極31、検知電極41としては、例えば、酸化イリジウム膜、ISFET(イオン感応性電解効果型トランジスター)等のpHセンサや、その他のイオン選択性電極等を用いることができる。
【0021】
検知電極31は導入部11を流れる反応液と接触するように、検知電極41は流出部13を流れる反応液と接触するように、各々配置されている。
図3は、図1のIII−III線に沿った検知電極41付近の断面図である。図3に示すように、検知電極41は流出部13上面を覆うように配置され、これにより、流出部13を流れる反応液と接触できるようになっている。検知電極31も、同様に導入部11上面を覆うように配置され、これにより、導入部11を流れる反応液と接触できるようになっている。
【0022】
反応液流路10の検知電極31、41が設けられた部分の深さd3は1〜500μmが好ましい。深さd3の上限値は、200μm以下がより好ましく、50μm以下であることがさらに好ましく、30μm以下であることが特に好ましい。深さd3が大きすぎると、検知電極から発生する電位が不安定となりやすい。また、検知電極31、41が設けられた部分の幅w3は(d3×2+10)〜(d3×2+20)μmであることが好ましい。
なお、反応液流路10の検知電極31、41が設けられた部分以外の深さと幅は、検知電極から発生する電位の安定性には直接影響しないが、反応液流路10全体の深さと幅は略均一であることが好ましい。これにより、反応液の流れが均一となり、流路の途中での液溜まりの問題を回避できる。
【0023】
検知電極31と検知電極41との間の反応液流路長は、0.1〜100cmであることが好ましい。反応液流路長とは、流路の流れ方向に沿った距離のことで、流路が曲線の場合には、当該曲線に沿った距離である。
反応液流路長が1cm未満の場合、集合部12(反応部)の長さを充分にとれず、反応液と試料ガスとの反応が不充分となる場合がある。反応液流路長が10cmを越える場合は、検知電極31と検知電極41との間の電気的導通が不充分となり、電位差を安定して検出することが困難となる場合がある。
検知電極間の反応液流路長は、1〜10cmであることがより好ましい。
【0024】
反応液の流量は、0.01〜1000μL/分であることが好ましく、0.1〜100μL/分であることがより好ましく、0.1〜10μL/分であることがさらに好ましい。反応液の流量が小さすぎると、反応時間が長くなるなどの問題がある。反応液の流量が大きすぎると、反応液消費量が多くなる、低濃度ガスを分析しにくいなどの問題がある。
本実施形態では、反応液流量を集合部12における層流状態を達成するための反応液流量の制限があり、層流状態を達成できていれば、通常反応液の流量は0.01〜1000μL/分の範囲となる。
【0025】
反応液のイオン強度は10−7〜100であることが好ましく、10−5〜10−1がより好ましく、10−3〜10−1がさらに好ましい。反応液のイオン強度が小さすぎると、S/N比が大きくなり、ノイズの影響が重大となる問題がある。反応液のイオン強度が大きすぎると、活量と濃度が大きく乖離し、しかるべき分析結果が得られないなどの問題がある。
【0026】
本実施形態に係るガス分析ユニットは、図示を省略する分析計本体に、検出器30の端子32と、検出器40の端子42とをつなぎ、検知電極31と検知電極41との間の電位差を測定する。これによって、試料ガスとの反応による集合部12前後の反応液の性状の変化を測定し、その結果、試料ガス中の反応液と反応する成分の濃度等を求めることができる。
【0027】
なお、本実施形態では、反応液と試料ガスが同一の方向に流れ、集合部12、22において層流状態で反応する構成としたが、試料ガス導入口20aと試料ガス流出口20bとを逆にして、反応ガス反応液と試料ガスが反対の方向に流れ、集合部12、22において向流状態で反応する構成としてもよい。また、特開平2005−329364号のように、反応ガスと試料ガスの流れが交叉するようにして交叉部において反応するようにしてもよい。
【0028】
[第2実施形態]
図4は本発明の第2実施形態のガス分析ユニットとガス分析計を示す斜視図、図5は図4のV−V断面図、図6は図5のVI−VI部分断面図、図7は図5のVII−VII部分断面図である。本実施形態のガス分析ユニットは、図4に示すように、基板50に設けられた反応液流路51と、反応液流路51と基板50の外部とを隔てる気液分離体60、及び反応液流路51に接して設けられた検出器70、80とを備えている。また、このガス分析ユニットに分析計本体90が接続されて、本実施形態のガス分析計が構成されている。
【0029】
基板50の材質としては、第1実施形態の基板1と同等の材質を用いることができる。また、基板50は平板状とされているが、形状に特に限定はない。
気液分離体60は、図5、図6に示すように、反応液流路51の略中央部に接して設けられており、この気液分離体60を介して、基板50外部に存在する試料ガスを反応液中に吸収できるようになっている。
すなわち、本実施形態では、反応液流路51の気液分離体60と接している部分が、反応液が試料ガスと反応する反応部となっている。
反応液流路51の気液分離体60と接している部分の深さd4は1〜500μmが好ましい。深さd4の上限値は、100μm以下がより好ましく、50μm以下であることがさらに好ましく、30μm以下であることが特に好ましい。深さd4が大きすぎると、試料ガスを反応液中に均一に吸収することが困難となりやすい。また、反応液流路51の気液分離体60と接している部分の幅w4は(d4×2+10)〜(d4×2+20)μmであることが好ましい。
【0030】
図4、5に示すように、反応液流路51の上流端には、基板50の外部と連通しており反応液が導入される反応液導入口51aが設けられている。また、反応液流路51の下流端には、基板50の外部と連通しており反応液が流出する反応液流出口51bが設けられている。
【0031】
検出器70は、反応液の性状に応じた電位を発生する検知電極71と、検知電極71と接続された端子72とを有している。また、検出器80は、反応液の性状に応じた電位を発生する検知電極81と、検知電極81と接続された端子82とを有している。
検知電極71、検知電極81としては、第1実施形態の検知電極31、検知電極41と同様のものを用いることができる。
【0032】
気液分離体60としては、フッ素系多孔性ポリマーシート、ポーラスシリコン、ポリジメチルシロキサンポリマーの薄板、多孔質ガラス等の多孔性構造体、非多孔性の基材に微細スリットや微細孔等が設けられた気液分離可能な構造体、等を用いることができる。
【0033】
検知電極71は、気液分離体60の上流側において反応液流路51を流れる反応液と接触するように、検知電極81は気液分離体60の下流側において反応液流路51を流れる反応液と接触するように、各々配置されている。
図7に示すように、検知電極81は反応液流路51上面を覆うように配置され、これにより、反応液流路51を流れる反応液と接触できるようになっている。検知電極71も、同様に反応液流路51上面を覆うように配置され、これにより、反応液流路51を流れる反応液と接触できるようになっている。
【0034】
反応液流路51の検知電極71、81が設けられた部分の深さd5は1〜500μmが好ましい。深さd5の上限値は、200μm以下がより好ましく、50μm以下であることがさらに好ましく、30μm以下であることが特に好ましい。深さd5が大きすぎると、検知電極から発生する電位が不安定となりやすい。また、反応液流路51の検知電極71、81が設けられた部分の幅w5は(d5×2+10)〜(d5×2+20)μmであることが好ましい。
なお、反応液流路51の検知電極71、81が設けられた部分の以外の深さと幅は、検知電極から発生する電位の安定性には直接影響しないが、反応液流路51全体の深さと幅は略均一であることが好ましい。これにより、反応液の流れが均一となり、流路の途中での液溜まりの問題を回避できる。
【0035】
検知電極71と検知電極81との間の反応液流路長は、0.1〜100cmであることが好ましい。反応液流路長が1cm未満の場合、気液分離体60と接する反応液流路51(反応部)の長さを充分にとれず、反応液と試料ガスとの反応が不充分となる場合がある。反応液流路長が10cmを越える場合は、検知電極71と検知電極81との間の電気的導通が不充分となり、電位差を安定して検出することが困難となる場合がある。
検知電極間の反応液流路長は、1〜10cmであることがより好ましい。
【0036】
第1実施形態と同様に、反応液の流量は、0.01〜1000μL/分であることが好ましく、0.1〜100μL/分であることがより好ましく、0.1〜10μL/分であることがさらに好ましい。
また、反応液のイオン強度は10−7〜100であることが好ましく、10−5〜10−1がより好ましく、10−3〜10−1がさらに好ましい。
【0037】
本実施形態に係るガス分析ユニットは、分析計本体90に、検出器70の端子72と、検出器80の端子82とをつなぎ、検知電極71と検知電極81との間の電位差を測定する。これによって、基板50外部の試料ガスとの反応による反応液の性状の変化を測定し、その結果、試料ガス中の反応液と反応する成分の濃度等を求めることができる。
【実施例】
【0038】
[実施例1]
図1の実施形態のガス分析ユニットを用いて、以下の条件でアンモニアガスの測定を行った。
(ガス分析ユニットの仕様)
反応液流路10の導入部11及び流出部13:幅80μm、深さ30μm、
反応液流路10の集合部12:幅70μm、深さ30μm、
試料ガス流路20の導入部21及び流出部23:幅180μm、深さ80μm、
試料ガス流路20の集合部22:幅178μm、深さ80μm、
集合部12、22の長さ:10mm、
検知電極31と検知電極41との間の反応液流路長:15mm、
検知電極31と検知電極41の幅(流れ方向):0.5mm、
検知電極31と検知電極41の厚み:250nm、
検知電極31と検知電極41の材質(表面):酸化イリジウム
【0039】
(測定条件等)
反応液:塩化アンモニウム溶液(濃度:6×10−3mol/L)
反応液流量:1μL/分
試料ガス:0〜194ppmのアンモニアガス(窒素ガスベース)
試料ガス流量:2μL/分
測定温度:室温(22℃)
【0040】
表1、図8に、アンモニアガス濃度に応じた検知電極31と検知電極41の電位差を示す。なお、図8の横軸は対数目盛である。また、表2、図9に、アンモニアガス濃度を、0ppmから、194ppmに切り換えてからの検知電極31と検知電極41の電位差変化を示す。
【0041】
【表1】
【0042】
【表2】
【0043】
表1、図8に示すように、アンモニアガス濃度に応じた電位差が得られた。また、表2、図9に示すように、約2〜3分で、試料ガス濃度に追随した電位差が得られた。なお、試料ガス濃度に追随した電位差が得られるまでの時間は、主として反応液の移動に係る時間、すなわち、反応液流量に依存しているものと考えられる。
【0044】
[実施例2]
図1の実施形態のガス分析ユニットを用いて、以下の条件で二酸化炭素ガスの測定を行った。
(ガス分析ユニットの仕様)
実施例1と同じ
【0045】
(測定条件等)
反応液:炭酸水素イオン溶液(濃度:0.02mol/L)
反応液流量:1μL/分
試料ガス:0〜9997ppmの二酸化炭素ガス(窒素ガスベース)
試料ガス流量:2μL/分
測定温度:室温(22℃)
【0046】
表3、図10に、二酸化炭素ガス濃度に応じた検知電極31と検知電極41の電位差を示す。なお、図10の横軸は対数目盛である。また、表4、図11に、二酸化炭素ガス濃度を、0mg/Lから、9997mg/Lに切り換えてからの検知電極31と検知電極41の電位差変化を示す。
【0047】
【表3】
【0048】
【表4】
【0049】
表3、図10に示すように、二酸化炭素ガス濃度に応じた電位差が得られた。また、表4、図11に示すように、約120分で、試料ガス濃度に追随した電位差が得られた。なお、試料ガス濃度に追随した電位差が得られるまでの時間は、主として反応液の移動にかかる時間、すなわち、反応液流量に依存しているものと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】第1実施形態を示す平面図で、図1(a)が全体図、図1(b)〜(d)が要部拡大図である。
【図2】図1(c)のII-II断面図である。
【図3】図1(a)のIII-III部分断面図である。
【図4】第2実施形態を示す斜視図である。
【図5】図4のV-V断面図である。
【図6】図5のVI-VI断面図である。
【図7】図5のVII-VII断面図である。
【図8】アンモニアガス濃度に応じた電位差を示すグラフである。
【図9】アンモニアガス濃度を切り換えてからの電位差変化を示すグラフである。
【図10】二酸化炭素ガス濃度に応じた電位差を示すグラフである。
【図11】二酸化炭素ガス濃度を切り換えてからの電位差変化を示すグラフである。
【符号の説明】
【0051】
1、50…基板、10、51…反応液流路、20…試料ガス流路、
30、40、70、80…検出器、60…気液分離体、90…分析計本体
【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応液が流れる反応液流路と、
該反応液流路の反応液と接触するように、上流側から順次設けられた第1検知電極及び第2検知電極を備え
前記反応液流路は、前記第1検知電極と第2検知電極との間に、反応液が試料ガスと反応する反応部を有し、
前記第1検知電極は、前記反応部の上流側における反応液の性状に応じた電位を発生し、
前記第2検知電極は、前記反応部の下流側における反応液の性状に応じた電位を発生することを特徴とするガス分析ユニット。
【請求項2】
さらに、試料ガスが流れる試料ガス流路を備え、
前記反応液流路の反応部が、該試料ガス流路と互いに内部の流体が接触可能な状態で隣接している請求項1に記載のガス分析ユニット。
【請求項3】
さらに、気液分離体を備え、
前記反応液流路の反応部が、該気液分離体を介して、試料ガスと接触する請求項1に記載のガス分析ユニット。
【請求項4】
前記反応液流路の前記第1検知電極と第2検知電極が設けられた部分の最大深さが1〜500μmである請求項1から3の何れかに記載のガス分析ユニット。
【請求項5】
請求項1から4の何れかに記載のガス分析ユニットと、前記第1検知電極と第2検知電極との間の電位差を検知する分析計本体を備えるガス分析計。
【請求項6】
請求項1から4の何れかに記載のガス分析ユニットの前記第1検知電極と第2検知電極との間の電位差を測定して前記試料ガスの分析を行うガス分析方法であって、前記反応液流路の反応液流量が0.01〜1000μL/分であることを特徴とするガス分析方法。
【請求項7】
前記反応液のイオン強度が10−7〜100である請求項6に記載のガス分析方法。
【請求項1】
反応液が流れる反応液流路と、
該反応液流路の反応液と接触するように、上流側から順次設けられた第1検知電極及び第2検知電極を備え
前記反応液流路は、前記第1検知電極と第2検知電極との間に、反応液が試料ガスと反応する反応部を有し、
前記第1検知電極は、前記反応部の上流側における反応液の性状に応じた電位を発生し、
前記第2検知電極は、前記反応部の下流側における反応液の性状に応じた電位を発生することを特徴とするガス分析ユニット。
【請求項2】
さらに、試料ガスが流れる試料ガス流路を備え、
前記反応液流路の反応部が、該試料ガス流路と互いに内部の流体が接触可能な状態で隣接している請求項1に記載のガス分析ユニット。
【請求項3】
さらに、気液分離体を備え、
前記反応液流路の反応部が、該気液分離体を介して、試料ガスと接触する請求項1に記載のガス分析ユニット。
【請求項4】
前記反応液流路の前記第1検知電極と第2検知電極が設けられた部分の最大深さが1〜500μmである請求項1から3の何れかに記載のガス分析ユニット。
【請求項5】
請求項1から4の何れかに記載のガス分析ユニットと、前記第1検知電極と第2検知電極との間の電位差を検知する分析計本体を備えるガス分析計。
【請求項6】
請求項1から4の何れかに記載のガス分析ユニットの前記第1検知電極と第2検知電極との間の電位差を測定して前記試料ガスの分析を行うガス分析方法であって、前記反応液流路の反応液流量が0.01〜1000μL/分であることを特徴とするガス分析方法。
【請求項7】
前記反応液のイオン強度が10−7〜100である請求項6に記載のガス分析方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2007−333487(P2007−333487A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−164040(P2006−164040)
【出願日】平成18年6月13日(2006.6.13)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)新エネルギー・産業技術総合開発機構 「革新的部材産業創出プログラム マイクロ分析・生産システムプロジェクト」に係る委託研究
【出願人】(000219451)東亜ディーケーケー株式会社 (204)
【出願人】(591243103)財団法人神奈川科学技術アカデミー (271)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年6月13日(2006.6.13)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)新エネルギー・産業技術総合開発機構 「革新的部材産業創出プログラム マイクロ分析・生産システムプロジェクト」に係る委託研究
【出願人】(000219451)東亜ディーケーケー株式会社 (204)
【出願人】(591243103)財団法人神奈川科学技術アカデミー (271)
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