説明

ガス分離フィルタ及びその製造方法

【課題】容易に薄膜状に形成可能であるとともに、細孔の大きさのバラツキが小さく、ガスの選択性及び透過性の良好なガス分離フィルタ及びその製造方法を提供する。
【解決手段】ガス分離フィルタは、T構造の籠型シルセスキオキサンがシロキサン結合により重合したポリシロキサンからなり、混合ガスから特定のガスを分離するガス分離膜を有する。ガス分離膜の細孔の大きさのバラツキが小さいので、分子径の近いガスが混合した混合ガスから分子径の小さいガスを透過させて分離することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス分離フィルタ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
混合ガスから特定ガスの分離に用いられるガス分離フィルタには、目的とするガスを透過させる選択性及び透過性のほか、熱安定性や化学的安定性が要求される。
【0003】
ゼオライト等からなる無機膜は結晶構造であることから、ガスを透過させる細孔の均一性が高く、ガスの選択性及び透過性に優れる。また、熱安定性及び化学的安定性にも優れるので、これまでゼオライト等、種々の無機材料を用いたガス分離フィルタが提案されている。
【0004】
一方で、ゼオライト等よりも、より簡易に薄膜形成が可能なTEOS膜等のアモルファス構造のガス分離フィルタも提案されている(例えば、特許文献1乃至4)。また、籠状のシルセスキオキサンを重合したポリシロキサンについて開示されている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−233540号公報
【特許文献2】特開2000−279773号公報
【特許文献3】特開2000−157853号公報
【特許文献4】特開平7−116485号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】SYNTHESIS OF NOVEL POLYSILOXANES CONTAINING POLYHEDRAL OCTASILSESQUIOXANES AND THEIR PROPERTIES;Takashi Kajiwara,Takahiro Shinoda,Yoshimoto Abe,and Takahiro Gunji;World Journal of Engineering 6,451−452(2009)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
TEOS膜等では、特定ガスを選択的に透過させる細孔の大きさのバラツキが大きいという課題を有する。
【0008】
非特許文献1では、ポリシロキサンの形成について開示されているだけであり、ガス分離フィルタについて何ら記載されていない。
【0009】
本発明は上記事項に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、容易に薄膜状に形成可能であるとともに、細孔の大きさのバラツキが小さく、ガスの選択性及び透過性の良好なガス分離フィルタ及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1の態様に係るガス分離フィルタは、
構造の籠型シルセスキオキサンがシロキサン結合により重合したポリシロキサンからなり、混合ガスから特定のガスを分離するガス分離膜を有する、
ことを特徴とする。
【0011】
また、前記籠型シルセスキオキサンがSi−O−Si、Si−OSiPhO−Si、又は、Si−O(SiPhO)−Siで結合していることが好ましい。
【0012】
また、多孔質基材上に前記ガス分離膜を備えることが好ましい。
【0013】
また、多孔質基材と前記ガス分離膜の間に、前記多孔質基材の細孔より小さく前記ガス分離膜の細孔よりも大きい細孔を有する中間層を備えることが好ましい。
【0014】
また、表面が均質化された前記多孔質基材上に前記中間層を備えることが好ましい。
【0015】
本発明の第2の態様に係るガス分離フィルタの製造方法は、
構造の籠型シルセスキオキサンと水、PhSi(OH)又は[PhSi(OH)]Oとを反応させシロキサン結合により重合したポリシロキサンを得る工程と、
前記ポリシロキサンを溶媒に融解して多孔質基材上に塗布し、乾燥して膜状のガス分離膜を形成する工程と、を備える、
ことを特徴とする。
【0016】
本発明の第3の態様に係るガス分離フィルタの製造方法は、
構造の籠型シルセスキオキサンと水、PhSi(OH)又は[PhSi(OH)]Oとを反応させシロキサン結合により重合したポリシロキサンを得る工程と、
多孔質基材上に前記多孔質基材の細孔よりも小さい細孔を有する中間層を形成する工程と、
前記ポリシロキサンを溶媒に融解して前記中間層上に塗布し、焼成して前記ポリシロキサンからなるガス分離膜を形成する工程と、を備える、
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係るガス分離フィルタは、T構造の籠型シルセスキオキサンがシロキサン結合により重合したポリシロキサンからなり、混合ガスから特定のガスを分離するガス分離膜を有する。ガス分離膜の細孔の大きさのバラツキが小さいので、分子径の近いガスが混合した混合ガスから分子径の小さいガスを透過させて分離することができる。ガス分離フィルタは、細孔の大きさのバラツキが小さく、結晶構造で細孔径が均一な無機膜のゼオライトとほぼ同様のガス選択性、ガス透過性を示す。また、ガス分離フィルタは、長時間高温条件下に維持された場合でも、ほぼ一定のガス透過性を示し、熱安定性が高く工業的使用にも耐え得る。
【0018】
本発明に係るガス分離フィルタの製造方法では、適切な温度で焼成すること、水、DPS及びTPDDから適切な素材を選択することにより、容易に様々な細孔径のガス分離膜を有するガス分離フィルタを得ることができる。したがって、分離するガスの分子径に応じたガス分離フィルタを得ることができる。また、一定の性能を示すガス分離膜を再現よく得ることができるとともに、ゼオライト等の無機膜では製造困難な薄膜のガス分離膜を製造することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】ガス分離膜の化学構造を示す図である。
【図2】実施例において550℃HOMO−POSSフィルタの断面構造を示すSEM写真である。
【図3】実施例において550℃HOMO−POSSフィルタの熱安定性を示すグラフである。
【図4】実施例において550℃HOMO−POSSフィルタ及び300℃HOMO−POSSフィルタの気体透過特性を示すグラフである。
【図5】実施例において550℃HOMO−POSSフィルタ、TEOS膜及びDDR型ゼオライト膜の気体透過特性を示すグラフである。
【図6】実施例において550℃HOMO−POSSフィルタの気体透過特性(温度依存性)を示すグラフである。
【図7】実施例において550℃HOMO−POSSフィルタの気体透過特性(温度依存性)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本実施の形態に係るガス分離フィルタは、図1に示す、H[Si12]の化学式で表されるT構造の籠型シルセスキオキサンがシロキサン結合により重合したポリシロキサンからなるガス分離膜を有する。図1中に示すXは、−O−、−OSiPhO−、又は、−O(SiPhO)−であり、いずれか一種で構成される。
【0021】
図1中に示すIntracubic poreは、T構造の籠型シルセスキオキサンの籠構造であるが、ここは水素の分子径よりも小さいので、ほとんどの種類のガスを透過させることはない。
【0022】
一方、図1中に示すIntercubic poreは、重合によって形成された細孔であり、上記Intracubic poreよりも大きい。このIntercubic poreの大きさは、後述のようにガス分離膜の製造工程にて、焼成温度を異ならせること、或いはスペーサーの選択によって、さまざまな大きさを有する。本明細書中、ガス分離膜において、このIntercubic poreを細孔と呼ぶ。この細孔が混合ガスから分子径の小さなガスを透過させると考えられる。
【0023】
ガス分離膜の細孔の大きさは後述の実施例に示すように、バラツキが小さくほぼ均一である。したがって、ガス分離膜は混合ガスから分子径の小さい特定成分のガスを透過させる選択性が高いとともに、透過性にも優れる。例えば、後述の実施例に示すように、T構造の籠型シルセスキオキサンがSi−O−Siで結合したガス分離フィルタ(550℃で焼成して調製)では、分子径が近いメタン(分子径:0.38nm)と二酸化炭素(分子径:0.33nm)の混合ガスから、分子径の小さい成分である二酸化炭素を選択的に透過させることが可能である。
【0024】
また、ガス分離膜は、熱安定性が高いので、500℃の高温下でも長時間連続的に安定して混合ガスから特定のガスを分離できる。
【0025】
また、ガス分離膜は、多孔質基材上に形成されていることが好ましい。そして、多孔質基材とガス分離膜との間に中間層が設けられた3層構造であることが好ましい。
【0026】
多孔質基材は無機多孔体、有機多孔体いずれであってもよく、工業的な使用に耐え得る強度を有することが好ましい。また、ガス分離膜の透過性を高めるため、多孔質基材の細孔径及び空隙率は大きい方が好ましい。多孔質基材の平均細孔径は、0.05μm〜10μm程度が好ましい。細孔径が大きすぎるとガス分離膜の細孔径との差が大きくなりすぎ、細孔径が小さすぎると透過性が低下する。より好ましくは0.1μm〜5μmであり、0.5μm〜3μmが特に好ましい。
【0027】
多孔質基材として、例えばアルミナ(α−Al(α−アルミナ)、γ−Al(γ−アルミナ))、ムライト、ジルコニア、チタニア、或いはこれらの複合物からなるセラミクスが挙げられる。なかでも安価で入手が容易であり、化学的耐性、耐熱性、強度に優れるα−アルミナを主成分とするセラミクスが好ましい。
【0028】
中間層の細孔径は、多孔質基材の細孔径よりも小さく、ガス分離膜の細孔径よりも大きいことが好ましい。中間層を構成する物質は限定されないが、一例としてシリカ−ジルコニアが挙げられる。
【0029】
上記のガス分離フィルタは、以下のようにして製造することができる。
【0030】
まず、T構造の籠型シルセスキオキサンと水、PhSi(OH)(以下、DPSと記す)又は[PhSi(OH)]O(以下、TPDDと記す)とを反応させ、脱水素縮合反応により、Si−O−Si、Si−OSiPhO−Si、又は、Si−O(SiPhO)−Si結合で重合したポリシロキサンを得る。
【0031】
具体的には、T構造の籠型シルセスキオキサンに水、DPS又はTPDDOを加え、ベンゼンとテトラヒドロフラン(THF)の混合溶媒等の有機溶媒に溶解し、EtNOH等の脱水素触媒を添加し、攪拌して混合する。
【0032】
その後、MeSiCl等のシリル化剤を加えてシリル化し、さらにETN等の脱塩剤を加える。
【0033】
生成した塩を濾別する。上記の例ではトリエチルアミン塩酸塩が生成するので、このトリエチルアミン塩酸塩を濾別する。そして、メタノール等の貧溶媒を用いて再沈殿することで、ポリシロキサンが得られる。
【0034】
水を用いた場合、籠型シルセスキオキサンの頂点のSiと他の籠型シルセスキオキサンの頂点のSiとが、Si−O−Si結合により重合したポリシロキサン(以下、HOMO−POSS)が得られる。また、DPSを用いた場合、籠型シルセスキオキサンの頂点のSiと他の籠型シルセスキオキサンの頂点のSiとが、Si−OSiPhO−Si結合により重合したポリシロキサン(以下、DPS−POSS)が得られる。また、TPDDを用いた場合、籠型シルセスキオキサンの頂点のSiと他の籠型シルセスキオキサンの頂点のSiとが、Si−O(SiPhO)−Si結合により重合したポリシロキサン(以下、TPDD−POSS)が得られる。
【0035】
得られたHOMO−POSS、DPS−POSS又はTPDD−POSSをTHF等の溶媒に溶解し、基板に塗布して乾燥することで膜状のガス分離膜を得ることができる。このガス分離膜を基板から剥離してガス分離フィルタとして用いることができる。
【0036】
また、上述の多孔質基材、中間層、ガス分離膜を備える3層構造のガス分離フィルタは、以下のようにして得ることができる。
【0037】
まず、多孔質基材上に中間層を形成する。多孔質基材の表面の均質化を行った上で、中間層を形成することが好ましい。均質化に用いる素材には、多孔質基材と同素材の微粒子を用いるとよく、例えば、多孔質基材としてアルミナを用いる場合、これと同素材のアルミナ微粒子を多孔質基材表面に担持させて均質化するとよい。多孔質基材上へのアルミナ微粒子の担持は、バインダーとして中間層の形成に用いる素材と同素材のゾル(例えば、シリカージルコニアコロイドゾル)を用い、バインダーにアルミナ微粒子を分散させて多孔質基材表面に塗布し、乾燥、焼成することにより行えばよい。また、上記の工程を複数回行って多孔質基材の表面を均質化することが好ましく、この場合、バインダーに分散させるアルミナ微粒子の大きさを徐々に小さくして行うとよい。
【0038】
均質化した多孔質基材上に、中間層を形成する。中間層の形成は、以下のようにホットコーティング法で形成するとよい。多孔質基材を予め170℃〜180℃程度に加熱しておき、シリカージルコニアコロイドゾルの希薄溶液を多孔質基材の表面に塗布し、焼成することにより中間層を形成できる。シリカージルコニアコロイドゾルの塗布は不織布等を用いて行うことができる。なお、所望の厚みの中間層を得るため、上記の工程を複数回繰り返し行ってもよい。
【0039】
そして、中間層の表面に、HOMO−POSS、DPS−POSS又はTPDD−POSSをTHF等の溶媒に溶解して得られる溶液を塗布する。溶液の塗布は、スピンコート法のほか、溶液に浸した不織布を用いて塗布する等、種々の方法によって行うことができる。
【0040】
そして電気炉等で焼成することにより、3層構造のガス分離フィルタを得ることができる。この焼成温度を変えることで、ガス分離膜の細孔径を制御することができる。すなわち、高い温度で焼成するほど、脱水素縮合反応が進行するので、より小さな細孔を有するガス分離膜を有するガス分離フィルタを得ることができる。
【0041】
また、水、DPS又はTPDDを選択することで、得られるガス分離膜の細孔の大きさを異ならせることができる。結合長さは、Si−O−Si<Si−OSiPhO−Si<Si−O(SiPhO)−Siであるので、それぞれ同条件で得られるガス分離膜の細孔の大きさは、HOMO−POSS<DPS−POSS<TPDD−POSSになる。
【0042】
このように、適切な温度で焼成すること、水、DPS及びTPDDから適切な素材を選択することにより、容易に様々な細孔径のガス分離膜を有するガス分離フィルタを得ることができる。したがって、分離するガスの分子径に応じたガス分離フィルタを得ることができる。
【0043】
後述の実施例でも示すように、T構造の籠型シルセスキオキサンと水を反応させて重合したポリシロキサンを用い、550℃で焼成して得られたガス分離層を有するガス分離フィルタでは、500℃の条件下に維持した状態でも、ガスの透過率はほぼ一定であるので、熱による構造変化がほぼなく、工業的使用に対する耐性を有する。また、結晶構造で細孔径が均一であるDDR型ゼオライトとほぼ同等のガスの選択性及び透過性を備えている。また、同一条件で調製した場合、それぞれのガス分離フィルタのガス選択性及び透過性がほぼ同等であり、一定のガス分離能を発揮するガス分離フィルタを再現よく得ることができる。また、ゼオライト等の無機材料を用いる場合に比べ、薄膜状のガス分離フィルタを容易に製造することができる。
【実施例】
【0044】
(HOMO−POSS(Highest Occupied Molecular Orbital−Polyhedral Octasilsesquioxane)の合成)
構造の籠型シルセスキオキサン(以下、POSS(Polyhedral Octasilsesquioxane)と記す)(0.30g(0.71mmol))及び水(1.42mmol)をTHF(Tetrahydrofuran)(30mL)及びベンゼン(40mL)の混合溶媒に添加して溶解した。これにEtNOH(1μL(9.9mmol))を添加し、室温で攪拌した。
【0045】
その後、MeSiCl(0.92g(8.4mmol))を加え、室温でシリル化した。
【0046】
これに、EtN(0.86gmmol)を加え、未反応の物質と反応させて生成したトリエチルアミン塩酸塩を濾別した。その後、メタノールを用いて再沈殿し、HOMO−POSSを得た。
【0047】
(ガス分離フィルタの作製)
まず、分離膜支持体として多孔性α−アルミナ管(平均細孔径:1μm,空効率:50%)を準備し、多孔性α−アルミナ管の外表面の均質化を行った。
【0048】
シリカ−ジルコニアコロイドゾルをバインダーとして約10wt%程度に希釈したアルミナ微粒子(平均粒径1.9μm)(住友化学工業(株))を、不織布(ベンコット(登録商標),旭化成(株))を用いてアルミナ管の外表面に塗布した。そして、20分間の室温乾燥、10分間180℃で乾燥した後、電気管状炉(EKR−29K,いすゞ製作所(株))で550°C,空気中で15分間焼成した。この操作を計2回行った。
【0049】
続いて、シリカ−ジルコニアコロイドゾルをバインダーとして約10wt%程度に希釈したアルミナ微粒子(平均粒径1.9μm)(住友化学工業(株))を、不織布を用いてアルミナ管の外表面に塗布した。そして、20分間の室温乾燥、10分間180℃で乾燥した後、電気管状炉(EKR−29K,いすゞ製作所(株))で550°C,空気中で15分間焼成した。この操作を計3回行った。
【0050】
(中間層の形成)
次に、外表面を均質化した分離膜支持体を予め高温(170〜180°C)に加熱し、分離膜支持体の外表面に、シリカ−ジルコニアコロイドゾルの希薄溶液を、不織布を用いて塗布し(ホットコーティング法)、550°C,空気中で15min焼成した。この操作を数回繰り返し、分離膜支持体の外表面に数nm程度の厚みの中間層を形成した。
【0051】
(分離膜の形成)
続いて、中間層上に分離膜を形成した。HOMO−POSSをTHFに溶解し、0.5wt%溶液とした。室温にて、不織布(ベンコット(商品名),旭化成(株))を用いてこの溶液を中間層上に塗布(コールドコーティング)し、550℃で焼成した。この工程を5、6回繰り返して製膜し、ガス分離フィルタを作製した。以下、これを550℃HOMO−POSSフィルタと記す。
【0052】
また、上記コールドコーティング後の焼成温度を300℃とした以外、上記と同様の操作を行い、ガス分離フィルタを作製した。以下、これを300℃HOMO−POSSフィルタと記す。
【0053】
550℃HOMO−POSSフィルタの断面のSEM写真を図2に示す。α−アルミナ層の上に、平均細孔径2nm程度のSiO−ZrO中間層があり、中間層の上に膜厚1μm以下のHOMO−POSSからなるガス分離膜が形成されていることがわかる。
【0054】
上記のようにして得られた550℃HOMO−POSSフィルタ及び330℃HOMO−POSSフィルタを用い、種々の実験を行い、その性能を検証した。
【0055】
(熱安定性の検証)
550℃HOMO−POSSフィルタを500℃に維持した条件で、3種類の気体(水素(H)、ヘリウム(He)、窒素(N))を透過させて透過率を測定し、550℃HOMO−POSSフィルタの熱安定性を検証した。
【0056】
550℃HOMO−POSSフィルタを透過セルにセットして500℃に昇温し、9時間維持した。550℃HOMO−POSSフィルタを500℃に昇温した直後(0時間)、1時間後、1時間30分後、4時間30分後、及び、9時間後に、順次上記3種の気体を供給し透過させた。
【0057】
その結果を図3に示す。いずれの気体も9時間にわたり、ほぼ等しい透過率を維持していることがわかる。このことから、550℃HOMO−POSSフィルタは高温度条件化でも構造が変化することなく、500℃の温度条件下でも長時間に渡り安定であることがわかる。
【0058】
(焼成温度の違いによる気体透過特性)
300℃HOMO−POSSフィルタ及び550℃HOMO−POSSフィルタを200℃に維持した条件下で、上記と同様の手法で6種類の気体(ヘリウム(He)、水素(H)、二酸化炭素(CO)、窒素(N)、メタン(CH)、六フッ化硫黄(SF))を透過させ、それぞれの気体の透過率を測定した。
【0059】
また、参考例として、300℃及び550℃で焼成して得られたTEOS膜(以下、それぞれ300℃TEOS、550℃TEOSと記す。)を用い、上記と同様に各気体の透過率を測定した。なお、TEOS膜は、Experimental Studies of Gas Permeation Through Microporous Silica Membranes; T. Yoshioka, E. Nakanishi, T. Tsuru and M. Asaeda, AIChE Journal, 47, 2052-2063 (2001)に記載の手法により調製した。
【0060】
その結果を図4に示す。550℃HOMO−POSSフィルタでは、300℃HOMO−POSSフィルタで透過したSFが透過しておらず、その他の気体の透過率も全体的に低下している。TEOS膜と同様、高い温度で焼成して製膜することにより、脱水素縮合反応が進行してシロキサンネットワークが密になり、細孔径が小さくなっていることがわかる。
【0061】
一方で、300℃TEOS及び550℃TEOSでは、いずれもSFが透過していない。したがって、SFとそれよりも大きな分子径の気体との混合ガスからSFを分離することができない。すなわち、TEOS膜では、比較的大きな分子径を有する成分が混合した混合ガスから、その中でも分子径が小さい特定のガスを分離することはできない。
【0062】
300℃HOMO−POSSフィルタでは、SFが透過していることから、SFとそれよりも大きな分子径の気体との混合ガスからSFを分離することができる。すなわち、焼成の温度を異ならせることで、比較的大きな分子径を有する成分が混合した混合ガスから、その中でも分子径が小さい特定のガスを分離することが可能である。更には、ポリシロキサンの調製の際に、水に代え、DPS或いはTPDDを用いることで、より大きな細孔径を有するガス分離膜を形成できることから、より大きな分子径のガスを透過させることも可能である。
【0063】
このように、HOMO−POSSフィルタでは、膜製造時の焼成温度を変化させること、適切なスペーサーを選択してポリシロキサンを調製することで、様々な大きさの細孔径を有するガス分離膜を得ることができ、さまざまな混合ガスから特定のガスを分離させ得ることがわかる。
【0064】
(HOMO−POSSフィルタの再現性の検証)
550℃HOMO−POSSフィルタを用い、100℃の条件下で、上記の手法により分子径の近いCO(分子径:0.33nm)及びCH(分子径:0.38nm)をそれぞれ透過させた。そして、550℃HOMO−POSSフィルタを透過したCO及びCHそれぞれの透過率を測定し、CO/CH透過率比を算出した。なお、再現性を得るため、それぞれ別々に調製した複数の550℃HOMO−POSSフィルタを用い、それぞれの550℃HOMO−POSSフィルタについて同様に行った。
【0065】
また、参考例として、複数のTEOS膜についても25℃条件下で、上記同様の手法でCO及びCHをそれぞれ透過させた。
【0066】
その結果を図5に示す。図5では、CO/CH透過率比が高いほど、且つ、CO透過率が大きいほど、COを選択的に透過させるとともに、COの透過性も高く、良好なガス分離膜であることを示す。
【0067】
また、図5には、複数のDDR型ゼオライト膜についても25℃条件化、及び、100℃条件化におけるCO透過率及びCO/CH透過率比も示している。これら、DDR型ゼオライト膜のCO透過率及びCO/CH透過率比は、Synthesis and Permeation Properties of A DDR-Type Zeolite Membrane for Separation of CO2/CH4 Gaseous Mixtures; S. Himeno, T. Tomita, K. Suzuki, K. Nakayama, K. Yajima and S. Yoshida, Ind. Eng. Chem. Res. 46, 6989-6997 (2007)、High Temperature Permeation And Separation Characteristics of An All-Silica DDR Zeolite Membrane; J. van den Bergh, A. Tihaya and F. Kapteijn, Micropor. Mesopor. Mater. 132, 137-147 (2010)に記載されたデータを引用したものである。
【0068】
なお、図5中、550℃HOMO−POSSフィルタ(25℃)のプロットは、下記に示す気体透過特性(温度依存性)の実験結果から、外挿して算出した25℃における550℃HOMO−POSSフィルタのCO透過率、及び、CO/CH透過率比である。以下、550℃HOMO−POSSフィルタ(25℃)の算出根拠となる550℃HOMO−POSSフィルタの気体透過特性(温度依存性)の実験について述べる。
【0069】
図6は、550℃HOMO−POSSフィルタについて、異なる温度条件化でCO及びCHを含む6種類の気体をそれぞれ透過させ、測定した透過率を示している。COは温度の低下とともに透過率が増加する表面拡散的な傾向を示し、CHを含む他の5種の気体は温度の低下とともに透過率が減少する活性化拡散の傾向を示している。いずれの気体も一定の温度変化で一定の透過率の変化が生じていることがわかる。また、図7に図6のCO及びCHの透過率から、300℃〜100℃の温度変化に対するCO/CH透過率比の変化を示している。CO/CH透過率比についても、一定の温度変化で一定の変化をしていることがわかる。これらの結果を根拠として、図5に550℃HOMO−POSSフィルタ(25℃)のCO透過率、CO/CH透過率比をプロットした
【0070】
図5に戻り、TEOS膜では、膜ごとに値が分散しており、バラツキが大きいことがわかる。すなわち、COの選択性を有するもののCOの透過性が悪かったり、或いは、COの透過性は高いもののCOの選択性が低かったりと、TEOS膜を同条件で調整しても、選択性及び透過性はTEOS膜ごとに異なり再現性が低い。したがって、TEOS膜では一定の選択性及び透過性を有する膜を製造することは困難であり、分子径の近いCOとCHとの混合ガスからCOを選択的に透過させて分離することは難しい。
【0071】
また、DDR型ゼオライトはCO分離膜として有望視されている材質である。DDR型ゼオライトは結晶構造で細孔径が均一になり、そのチャンネルサイズが0.36nm×0.44nmあるため、いわゆる分子ふるい効果が生じるため、いずれの膜についても再現よく一定の分離能を発揮している。
【0072】
550℃HOMO−POSSフィルタでは、25℃及び100℃の条件下いずれについても、値のバラツキは小さい。550℃HOMO−POSSフィルタでは、一定の選択性及び透過性を有する膜を再現することが可能である。
【0073】
また、550℃HOMO−POSSフィルタは、DDR型ゼオライトとほぼ同等の結果を示している。DDR型ゼオライトとほぼ同等のガスの選択性及び透過性を有し、良好なガスの分離膜として有用であることを立証した。更には、HOMO−POSSフィルタは、ゼオライト膜よりも薄膜製膜が可能であるので様々な用途にも適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明に係るガス分離フィルタでは、細孔径の大きさにバラツキのないガス分離膜を備えるため、分子径の近いガスが混合した混合ガスから、分子径の小さい特定のガスを透過させて分離することができる。たとえば、メタンを燃焼した際に発生する二酸化炭素ガスを主成分とする燃焼ガスから、未燃焼分のメタンを分離回収する等、様々な混合ガスから特定成分のガスを分離する際に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造の籠型シルセスキオキサンがシロキサン結合により重合したポリシロキサンからなり、混合ガスから特定のガスを分離するガス分離膜を有する、
ことを特徴とするガス分離フィルタ。
【請求項2】
前記籠型シルセスキオキサンがSi−O−Si、Si−OSiPhO−Si、又は、Si−O(SiPhO)−Siで結合している、
ことを特徴とする請求項1に記載のガス分離フィルタ。
【請求項3】
多孔質基材上に前記ガス分離膜を備える、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のガス分離フィルタ。
【請求項4】
多孔質基材と前記ガス分離膜の間に、前記多孔質基材の細孔より小さく前記ガス分離膜の細孔よりも大きい細孔を有する中間層を備える、
ことを特徴とする請求項3に記載のガス分離フィルタ。
【請求項5】
表面が均質化された前記多孔質基材上に前記中間層を備える、
ことを特徴とする請求項4に記載のガス分離フィルタ。
【請求項6】
構造の籠型シルセスキオキサンと水、PhSi(OH)又は[PhSi(OH)]Oとを反応させシロキサン結合により重合したポリシロキサンを得る工程と、
前記ポリシロキサンを溶媒に融解して多孔質基材上に塗布し、乾燥して膜状のガス分離膜を形成する工程と、を備える、
ことを特徴とするガス分離フィルタの製造方法。
【請求項7】
構造の籠型シルセスキオキサンと水、PhSi(OH)又は[PhSi(OH)]Oとを反応させシロキサン結合により重合したポリシロキサンを得る工程と、
多孔質基材上に前記多孔質基材の細孔よりも小さい細孔を有する中間層を形成する工程と、
前記ポリシロキサンを溶媒に融解して前記中間層上に塗布し、焼成して前記ポリシロキサンからなるガス分離膜を形成する工程と、を備える、
ことを特徴とするガス分離フィルタの製造方法。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−187452(P2012−187452A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−50889(P2011−50889)
【出願日】平成23年3月8日(2011.3.8)
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【Fターム(参考)】