説明

ガス分離用のポリイミド膜を有するベーマイトボンドコートを用いるシステム及び方法

【課題】ガス分離用のポリイミド膜を有するベーマイトボンドコートを用いるためのシステム及び方法を提供すること。
【解決手段】本明細書で開示される主題は、ガス分離膜に関し、より具体的にはポリイミドガス分離膜に関する。一実施形態では、ガス分離膜(10)は、多孔質基材(32、34)と、実質的に連続したポリイミドメンブラン層(38)と、多孔質基材とポリイミドメンブラン層との間に配置されてボンドコート層(36)を形成するベーマイトナノ粒子の1以上の層とを含む。ボンドコート層(36)は、多孔質基材(32、34)へのポリイミドメンブラン層(38)の接着を改善するように構成され、ポリイミドメンブラン層(38)は、約100nm以下の厚さ(48)を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書で開示される主題は、ガス分離膜に関し、より具体的にはポリイミドガス分離膜に関する。
【背景技術】
【0002】
混合ガスの1つの精製方法は、ガス分離膜を使用することである。一般に、ガス分離膜は、膜を通してガス分子を選択的に通過させるために多孔質膜材料の両側での分圧差に依存する。ガス分離膜を有効なものとするため、膜は十分に高い透過性と高い選択性を有している必要がある。透過性は、特定のガスが膜を通してどの程度容易に流れるかの尺度であり、選択性は、混合ガスの第1の成分(例えば、水素)が混合ガスの第2の成分(例えば、二酸化炭素)に比べてどれだけ多く膜を通過するかの尺度である。一般に、膜の透過性が増すと、膜の選択性は下がり、処理量(スループット)の高い選択性膜を達成するのは困難である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Park, H.B., et al., "Polymeric Membrane Materials and Potential Use in Gas Separation,"in Advanced Membrane Technology and Applications., 2008, ch. 24, pp. 633-634.
【発明の概要】
【0004】
一実施形態では、ガス分離膜は、多孔質基材と、実質的に連続したポリイミドメンブラン層と、多孔質基材とポリイミドメンブラン層との間に配置されてボンドコート層を形成するベーマイトナノ粒子の1以上の層とを含む。ボンドコート層は、ポリイミドメンブラン層と多孔質基材との接着性を高めるように構成され、ポリイミドメンブラン層は約100nm以下の厚さを有する。
【0005】
別の実施形態では、ガス分離膜の製造方法は、多孔質支持構造体上にベーマイトナノ粒子の1以上の層を堆積させてボンドコート層を形成する段階と、ボンドコート層上にポリイミド前駆体を堆積する段階とを含む。本方法はさらに、ボンドコート層及びポリイミド前駆体の熱処理を300℃以下で実施して、厚さ約150nm以下のポリイミドメンブラン層を形成する段階を含む。
【0006】
別の実施形態では、ガス分離用の膜は支持層を含む。この膜は、支持層の上に配置された中間層であって、細孔径40nm未満で厚さ約50〜400nmの表面を与える。本膜は、中間層の上に配置された、ベーマイトナノ粒子を含む厚さ約50nm〜400nmのボンドコート層を含む。膜はさらに、ボンドコート層の上に配置された厚さ20〜100nmのポリイミド膜を含む。
【0007】
本発明の上記その他の特徴、態様及び利点については、図面と併せて以下の詳細な説明を参照することによって理解を深めることができるであろう。図面を通して、同様の部材には同様の符号を付した。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】ガス分離膜の一実施形態の図。
【図2】ガス分離膜の一実施形態の種々の層を示す側面図。
【図3】ガス分離膜を製造するプロセスの一実施形態を示すフロー図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
一般に、混合ガス流の特定の成分を迅速かつ選択的に分離できる膜を得るには、ガス分離膜の透過性及び選択性を共に最大限にするのが望まれる。ガス分離膜は、透過性の高い膜を得るため、メンブラン層を1以上の多孔質支持層の表面に成膜してもよい。しかし、ガス分離膜においてメンブラン層とその下の多孔質支持層との接着性に限界があることがあり、製造及び使用時に膜に不具合を生じかねない。
【0010】
そこで、開示される実施形態は、製造プロセスの際に、ベーマイトナノ粒子ボンドコート層を組み込んで、表面のメンブラン層前駆体溶液とその下の支持層との接着性を向上させることによって上記の問題に対処する。すなわち、ベーマイトボンドコートにより、前駆体溶液とその下の支持層との共有結合及び/又は非共有結合による相互作用を高めることができ、層間の接着性が改善される。こうして本ボンドコートの使用によって、本発明のガス膜実施形態は、従来のものよりも薄いメンブラン層を合成及び使用でき、膜の透過性をさらに高めることができる。
【0011】
以上を念頭に置いて、図1は、混合ガスの分離に使用されるガス分離膜の一実施形態を示す。例えば、ガス分離膜10を用いて、水性ガスシフト反応器から生成混合ガスを分離することができる。図示の実施形態では、膜10の両側で分圧差が存在する。すなわち、図示の実施形態における膜の上側12の圧力は、膜の底側の圧力よりも有意に高くなる。この圧力差は、膜を通してのガス分子の流れ16を引き起こす可能性がある。
【0012】
例えば、膜10の上側12に存在する混合ガスが、水素18及び二酸化炭素20成分を含んでいるとき、膜10の両側での圧力差によって混合ガスの一部が膜10に入る。さらに、分圧差によって、ガス分離膜に入り込んだ混合ガスの一部が膜10を完全に通過できるようになる。例えば、図1の実施形態は、水素18及び二酸化炭素20ガスの両方の一部がガス分離膜10に入り込むことができるが、膜10を完全に横断して反対側14に到達するものとして水素18ガスのみが例示されている。
【0013】
従って、図1は、二酸化炭素20の存在下で水素18に対する完全な選択性を有する理想的なガス分離膜10を示す。一般に、ガス分離膜は、透過性を向上させるため選択性が下がることがある。例えば、比較的厚いガス分離膜は、高い選択性を有することができるが、透過性が下がる(つまり、混合ガス中の1種しか実質的に膜を通過しないが、その通過速度が遅い)。従って、ガス分離膜の透過性は、一般に、膜の薄肉化によって改善することができる。しかし、一定の厚さを下回ると膜欠陥が多くなりすぎて、高透過性を有するが、選択性が皆無かそれに近い膜をもたらすことになる(すなわち、高流速ではあるが全ての化学種が比較的容易に膜を通過する)。
【0014】
従って、ポリマーメンブラン層を多孔質支持構造体の上に堆積させると、メンブラン層単独で機械的に安定化させる場合よりもメンブラン層を薄肉化することができる。すなわち、多孔質支持構造体は、それ自体では薄すぎて(例えば、数十乃至数百ナノメートル)支持することができないメンブランを機械的に支持することができる。支持構造体はどのような種類の多孔質材料でもよく、例えばセラミック(例えば、アルミナ又はシリカ)又は金属基材とすることができる。特定の実施形態では、支持構造体は約40nm未満の細孔径を有する。
【0015】
しかし、ガス分離膜のメンブラン層は、ガス分離膜を適切に機能させるために、多孔質支持構造体に堅固に接着させる必要がある。すなわち、メンブラン層とその下の支持構造体との間に有意な量の結合(例えば、共有結合又は非共有結合による相互作用)が存在して膜が実質的に固定化されるのが望ましい。例えば、メンブラン層が多孔質支持構造体の表面に適切に接着されていないと、、以下で詳しく説明するように、膜堆積プロセス中にメンブラン層が剥がれてしまうおそれがある。別の実施例では、メンブラン層が多孔質支持構造体の表面に適切に接着されていないと、、ガス分離プロセス中にガス分離膜に加わる圧力差及びガス流によってメンブラン層が完全に又は部分的に除去されてしまう(例えば、吹き飛ばされてしまう)おそれがある。
【0016】
好適なセラミック支持構造体の一例はアルミナである。アルミナは、各種の用途で多孔質支持体として使用される酸化アルミニウムの一形態である。αアルミナ層などの特定のタイプのアルミナ層は、支持層の一実施形態の製造に関して以下で説明するように、アルミナ粉体と共に結合剤及び可塑剤を用いて形成することができる。γアルミナ層のような他のタイプのアルミナ層は、中間層の1つの特定の実施形態の製造に関して以下で説明するように、ベーマイトナノ粒子の層を焼結することによって形成できる。一般的に言えば、ベーマイトナノ粒子は、水酸化アルミニウム材料のナノ粒子であり、従って、ベーマイトナノ粒子の表面は、幾つかの水酸基を含む。ベーマイトナノ粒子の堆積層を焼結(固相焼結)すると、ベーマイトナノ粒子は、水を放出して融合しγアルミナ層を形成すること。一般に、αアルミナ層及びγアルミナ層は、物理的特性(例えば、表面粗さ又はポロシティ)の点で僅かな差があり、ガス分離膜の別々の層で異なる役割を果たすことができる。
【0017】
上記のことを念頭に置いて、図2は、ガス分離膜30の一実施形態の側面図を示す。図示のガス分離膜30の実施形態は、支持層32、中間層34、ボンドコート層36、及びメンブラン層38を含む。なお、本明細書では、「支持層」という用語は、特定の支持層32を区別するために用いられ、「支持構造体」という用語は、メンブラン層38の直ぐ下に位置する層全て(例えば、支持層32、中間層34及びボンドコート層36)をいうのに用いられる。同様に、本明細書で用いる「ガス分離膜」という用語は、支持構造体及びメンブラン層38を含む構造全体(例えば、ガス分離膜30)をいうのに対して、「メンブラン層」という用語は、特にガス分離膜30のメンブラン層38をいう。
【0018】
図示のガス分離膜30の底層は支持層32である。一般に、支持層32は、その上の層に安定したプラットフォームを与えるために膜の機械的強度をもたらす役割を担う。幾つかの実施形態では、支持層32は、約30nm超の細孔径を有する多孔質セラミック又は金属基材とすることができる。なお、本明細書で用いる細孔径とは、基材の細孔の平均直径をいう。幾つかの実施形態では、支持層32は、アルミナ(例えば、αアルミナ)支持材料を含むことができ、以下で詳細に説明するようにアルミナスラリーから製造することができる。多孔質支持層32は、膜30の全厚40の大部分を占めることができる。幾つかの実施形態では、支持層32は、0.1mm超の厚さ42を有する。幾つかの実施形態では、支持層32は、約0.01mm〜1mm、0.05mm〜5mm又は0.1mm〜0.3mmの厚さ42を有するる。一実施形態では、支持層32の厚さ42は約0.2mmである。
【0019】
ガス分離膜30の支持層32の上に中間層34を設けてもよい。一般に、中間層34は、さらに小さなポロシティをもたらし、その下の支持層32の表面の欠陥を満たして後で堆積するためにより滑らかな表面を形成する。従って、幾つかの実施形態(例えば、比較的滑らかで欠陥のない支持層32を与える材料を利用した膜30)では、中間層34はガス分離膜の表面に存在しなくてもよい。幾つかの実施形態では、中間層34は、多孔質アルミナ(例えば、γアルミナ)材料を含むことができる。中間層34は、以下で詳細に説明するように、ベーマイトナノ粒子の焼結層を用いて製造することができる。幾つかの実施形態では、中間層34は、約40nm未満の細孔径を有する表面をもたらすことができる。幾つかの実施形態では、中間層34は、約50nm〜500nm、100nm〜400nm又は150nm〜250nmの厚さ44を有する。一実施形態では、中間層34は約200nmの厚さ44を有する。
【0020】
ガス分離膜30における次の層はボンドコート層36である。ボンドコート層36は、実質的にベーマイトナノ粒子の層からなることができる。一般に、ボンドコート層36は、支持構造体の残りの部分へのポリマーメンブラン層38の接着を改善する役割を果たす。すなわち、ベーマイトナノ粒子の表面上の前述の水酸基が支持構造体の残りの部分及びポリマーメンブラン層38と(例えば、共有結合、非共有結合又はそれらの組合せ)で相互作用し、以下で詳細に検討するように、支持構造体の残りの部分へのポリマーメンブラン層38の接着を改善することができる。ボンドコート層36は、以下で詳細に説明するように、ベーマイトナノ粒子の溶液を堆積することによって製造することができる。幾つかの実施形態では、ボンドコート層36は、約50nm〜200nm、70nm〜150nm又は60nm〜100nmの厚さ46を有する。一実施形態では、ボンドコート層36は約80nmの厚さ46を有する。
【0021】
ガス分離膜30の最後の層は、ポリマーメンブラン層38である。一般に、ポリマーメンブラン層38は、ガス分離膜の透過性に対する制限要因であると共に、ガス分離膜30の選択性の全部ではないにしても大半をもたらす。すなわち、ポリマーメンブラン層38が存在しなければ、残りの支持構造体の透過性は高まるが、選択性は皆無かそれに近くなる。従って、ポリマーメンブラン層38は、ガス分離用途で使用できるポリイミドポリマーとすることができる。さらに、ポリマー膜38は、その下の中間層34の細孔径(例えば、40nm)と同程度又はそれ以上の大きさの領域で実質的に連続及び/又は無欠陥のものとすることができる。以下で詳細に検討するように、ポリマーメンブラン層38は、1種以上のポリイミド前駆体(例えば、ポリアミド酸)を含有する溶液を支持構造体の表面上に堆積させ、1種以上の前駆体を熱的に活性化させて結合してポリマーメンブラン層38を得ることによって支持構造体の表面上に形成することができる。幾つかの実施形態では、ポリマーメンブラン層38は、約10nm〜200nm、15nm〜150nm又は20nm〜125nmの厚さ48を有する。一実施形態では、ポリマーメンブラン層38は約30nmの厚さ48を有する。
【0022】
図3は、ガス分離膜30の一実施形態を製造できるプロセス50の一例を示す。プロセス50は、アルミナスラリーを堆積させてスラリーを乾燥させ、支持層32を形成するステップから始めることができる(ブロック52)。例えば、500mLのNalgene(商標)ボトルに、240gのアルミナ粉末(例えば、TM−DAR(商標)(Taimei(商標)から市販の純度99.99%のアルミナ粉末))、及び1:4エタノール:キシレン混合溶媒120gを仕込む。また、2.43gの分散剤(例えば、Akzo Nobelから市販の分散剤であるPS−236Phospholan(商標))及びジルコニア粉砕媒体(例えば、5mm)をボトルに加える。これらの材料をボトルに入れた後、混合物を約14.5時間粉砕する。第2の容器に、17gのバインダー(例えば、Solutia(商標)から市販のButvar(登録商標)B−76(商標))、及びエタノール:キシレン混合溶媒83gを加えて、内容物を約2時間粉砕する。次いで、第2の容器の内容物86.4gを、500mLボトルの内容物に、24.0gの可塑剤(例えばHall−Star(商標)から市販の可塑剤Paraplex(登録商標)G−50(商標))と共に加える。その後、混合した内容物をさらに3時間粉砕した後、スラリーを濾過し、真空下でスラリーを脱気する。得られた脱気スラリーを、Mylar(商標)コートガラス板上に、高さ25ミルのドクターブレードを用いて約4ft/分の塗工速度でテープキャストする。次いで、Mylar(商標)コートガラス板を、乾燥キャビネットに移して乾燥させる。乾燥したら、Mylar(商標)コートガラス板からテープキャストした支持層32を取り外し、適切な寸法にカットする。次いで、カットしたフィルムを300℃で2時間熱処理して有機物を除去し、1200℃で1時間熱処理してアルミナ粒子を焼結する。
【0023】
ベーマイトナノ粒子の溶液は、プロセス50(例えば、中間層34及び/又はボンドコート層36の形成)の以下のステップ(例えば、ブロック54及び56)で用いることができる。ベーマイトナノ粒子溶液は、一例として、以下の手順を用いて製造する。2L三首丸底フラスコに630mLの水(例えば、18MΩの脱イオン水)を加える。滴下漏斗に不活性雰囲気下で82mLのアルミニウムsec−ブトキシドを加え、滴下漏斗をフラスコに取り付ける。次いで、滴下漏斗の内容物を、攪拌下(例えば、約400rpm)で約30分にわたって室温でフラスコの内容物に滴下する。次に、滴下漏斗を取り外し、フラスコに凝縮器を取り付け、さらにフラスコを加熱浴(例えば、油浴又はエチレングリコール浴)に入れる。次いで、加熱浴を約83〜86℃まで加温し、真空下でフラスコから約75mLのブタノールを蒸留する。加熱を止めた後、15mLの2N硝酸溶液(例えば、Fisher Scientific(商標)から市販のACS Plus(商標)15.8N硝酸から調製したもの)を加える。溶液を約90〜105℃で約20時間放置してから、約2300rpmで約2時間遠心分離し、次いで上清を450nmフィルターで濾過した。生成物は、粒径約40nm〜60nmのベーマイトナノ粒子を含むベーマイトナノ粒子溶液である。
【0024】
ベーマイト溶液を製造したら、これを用いてガス分離膜の中間層34を形成することができる。ベーマイトナノ粒子溶液は、湿式処理法(例えば、スピンコーティング又はディップコーティング)法を用いて支持層32の表面に堆積することができ(ブロック54)、堆積したナノ粒子を焼結して連続層を形成することができる。例えば、支持層32を、スピンコーティング装置に配置して、ベーマイトナノ粒子溶液を表面が完全に覆われるまで滴下する。スピンコーティング装置は、最大4000rpmで40秒間回転させることができる。堆積プロセスで得られるボンドコート層の厚さは、ベーマイトナノ粒子溶液の濃度を調整することによって制御することができる。次いで、堆積したナノ粒子層は、最大600℃で1℃/分の温度勾配を用いて焼結又は熱処理することができ、温度を約3時間維持してから、冷却すればよい。ベーマイトナノ粒子の堆積及び焼結プロセスを1回以上(例えば、2〜5回)繰返して、γアルミナ中間層34を形成することができ、この層は支持層32の表面の欠陥を滑らかにする役割を果たすことができる。上述のように、幾つかの実施形態では、中間層34は存在しなくてもよく、かかる実施形態ではこのステップ(例えば、ブロック54)をスキップしてもよい。
【0025】
次に、ボンドコート層36を支持構造体(例えば、中間層34又は支持層32)に加える。ベーマイトナノ粒子溶液は、湿式処理法(例えば、スピンコーティング又はディップコーティング)を用いて支持構造体の表面上に堆積することができる(ブロック56)。例えば、支持構造体を、スピンコーティング装置に配置して、ベーマイトナノ粒子溶液を表面が完全に覆われるまで滴下する。スピンコーティング装置は、最大4000rpmで40秒間回転させることができる。中間層34のナノ粒子堆積と同様に、得られるボンドコート層の厚さは、ベーマイトナノ粒子溶液の濃度を調整することによって制御することができる。ただし、中間層34の形成とは異なり、堆積したベーマイトナノ粒子は、堆積後にナノ粒子をγアルミナに転化するための焼結は行われない。対照的に、ベーマイトナノ粒子は、ボンドコート層36全体でナノ粒子表面に相当な数の水酸基を提示し続ける。
【0026】
次いで、ポリイミド前駆体溶液(例えば、ポリ(アミド酸)溶液)をボンドコート層36の上に堆積させ(ブロック58)、これを熱処理してポリマーメンブラン層58を形成することができる。例えば、1〜2重量%のポリアミド酸を含有する溶液(例えば、RBI(商標)から市販のVTEC(商標)080 051ポリイミド前駆体を、N−メチルピロリドン(NMP)のような溶媒に溶解したもの)を湿式処理法(例えば、スピンコーティング又はディップコーティング)を用いてボンドコート層36の表面に堆積させる。例えば、ボンドコート層36を有する支持構造体をスピンコーティング装置に入れ、ポリアミド酸溶液を表面が完全に覆われるまで滴下する。次に、試料を最大6000rpmで4分間回転させる。一般に、得られるポリイミドメンブラン層38の厚さは、ポリイミド前駆体溶液の濃度を調整することによって制御することができる。
【0027】
ポリイミド前駆体を表面に堆積させる際に、ボンドコート層36が存在するとは有益である。すなわち、ベーマイトナノ粒子の表面に存在する上述の水酸基は、ポリアミド酸分子との化学的相互作用(例えば、共有結合及び/又は非共有結合)を形成し、表面に多数のポリアミド酸分子を固定する。例えば、ベーマイトナノ粒子の表面の水酸基は、水素結合網目構造を形成することができ、表面に相当な量のポリイミド前駆体を固定し、スピンコーティング装置の遠心力では除去できなくなる。ベーマイトナノ粒子のボンドコート層36が存在しないと、試料の回転時に大量のポリアミド酸が除去されかねず、後段の熱処理プロセスで連続ポリイミド薄膜を形成する可能性が減る。従って、ベーマイトナノ粒子のボンドコート層36が存在すると、ポリアミド酸分子が表面に固定されるため、他の方法では実現できないほど薄いポリイミドメンブラン層38を形成することができる。
【0028】
次に、堆積ポリアミド酸を熱処理してポリイミドポリマー膜38を形成する。例えば、ポリイミド酸をボンドコート層36上に堆積した後、試料を炉に入れて200〜300℃まで徐々に加熱すればよい。例えば、試料は、以下の温度プログラムに従って加熱することができる。10℃/分の温度勾配で室温(例えば、約25℃)から50℃まで加熱し、次いで3時間保持する。10℃/分の温度勾配で50℃から150℃まで加熱し、次いで6時間保持する。10℃/分の温度勾配で150℃から250℃まで加熱し、次いで12時間保持する。次に、−10℃/分の温度勾配で250℃から150℃まで冷却し、次いで3時間保持した後、室温まで冷却する。熱処理が完了すると、ポリアミド酸前駆体は、ほぼ連続したポリイミドメンブラン層38へと実質的に転化させることができる。
【0029】
ボンドコート層36上に堆積したポリアミド酸のポリイミド前駆体の熱処理は、得られるポリマーメンブラン層38とその下の支持構造体との間の追加の化学的相互作用を可能にする。すなわち、上述の水素結合相互作用以外に、ボンドコート層36のベーマイトナノ粒子の表面上の水酸基は、ポリイミド膜を形成する(例えば、1以上のエステル結合の形成による)熱イミド化反応時にポリアミド酸と反応することができる。いったん結合すると、これらのポリマー鎖は、ポリマーメンブラン38が形成される際もベーマイトナノ粒子の表面と結合(例えば、共有結合)したままである。従って、共有結合及び/又は非共有結合によって、ボンドコート層36の界面化学性質は、ボンドコート36が存在しない場合に比べて、得られるポリマーメンブラン層38とその下の支持構造体との接着性を実質的に改善する。
【0030】
開示されたガス分離膜の実施形態は、混合ガスの選択的及び効率的な分離を可能にする。例えば、一実施形態では、膜構造は、αアルミナ支持層、γアルミナ中間層、ベーマイトボンドコート層及びポリイミドメンブラン層からなる。かかるガス分離膜は、例えば、2つのガスケット(例えば、1/16インチ厚のシリコーンガスケット)間に装着され、使用時に締付継手(例えば、ステンレス鋼)に載置することができる。次いで、ガス分離膜のポリイミド膜側を、例えば、一定圧力及び温度(例えば、10psid及び250℃)でH2とCO2の50:50混合気に曝すことができる。かかる実施形態では、H2とCO2の透過性並びにH2/CO2の選択性は、膜を横断するガスの組成を分析することによって求めることができる。幾つかの実施形態では、ガス分離膜の水素透過性は、250GPU〜500GPU又は300GPU〜400GPUである(ここで、1GPUは3.347×10-10モル/Pa・m2・s)。幾つかの実施形態では、水素透過性は、約350GPU超である。加えて、幾つかの実施形態では、ガス分離膜のH2/CO2の選択性は4〜10である。幾つかの実施形態では、H2/CO2の選択性は約5超である。
【0031】
本発明の技術的作用は、選択的ガス分離膜の透過性を改善することである。ボンドコート層36を導入することによって、ポリアミド酸前駆体分子及び/又は得られるポリイミドポリマー膜38と支持構造体との接着性が実質的に向上する。接着性の向上によって、支持構造体の細孔径を少なくとも上回る領域で、比較的欠陥のない薄いポリイミド層を得ることができる。ガス分離膜の透過性はメンブラン層の厚さの影響を受けるので、ボンドコート層を含めることにより、比較的高い選択性を依然として維持しながら、比較的高い透過性を有するガス分離膜を製造することができる。すなわち、本発明の開示により、別のガス(例えば、二酸化炭素)に対する低い透過性を維持しながら、特定のガス(例えば、水素ガス)に対する高い透過性を有するガス分離膜の製造が可能になる。
【0032】
本明細書では、本発明を最良の形態を含めて開示するとともに、装置又はシステムの製造・使用及び方法の実施を始め、本発明を当業者が実施できるようにするため、例を用いて説明してきた。本発明の特許性を有する範囲は、特許請求の範囲によって規定され、当業者に自明な他の例も包含する。かかる他の例は、特許請求の範囲の文言上の差のない構成要素を有しているか、或いは特許請求の範囲の文言と実質的な差のない均等な構成要素を有していれば、特許請求の範囲に記載された技術的範囲に属する。
【符号の説明】
【0033】
10 ガス分離膜
12 上側
14 底側
16 流れ
18 水素
20 二酸化炭素
30 ガス分離膜
32 支持層
34 中間層
36 ボンドコート層
38 メンブラン層
40 全厚
42 支持層の厚さ
44 中間層の厚さ
46 ボンドコート層の厚さ
48 ポリマー膜の厚さ
50 膜を製造するプロセス
52 アルミナスラリーを堆積し焼結する
54 ベーマイトナノ粒子を堆積し焼結する
56 ベーマイトナノ粒子を堆積する
58 ポリイミド前駆体を堆積し熱処理する

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質基材(32、34)と、
実質的に連続したポリイミドメンブラン層(38)と、
前記多孔質基材(32、34)と前記ポリイミドメンブラン層(38)との間に配置されたベーマイトナノ粒子の1以上の層であって、ボンドコート層(36)を形成するベーマイトナノ粒子の1以上の層と
を備えるガス分離膜(10)であって、前記ポリイミドメンブラン層(38)が約100nm以下の厚さ(48)を有する、ガス分離膜(10)。
【請求項2】
前記ボンドコート層(36)が、前記ポリイミドメンブラン層(38)と前記多孔質基材(32、34)との接着性を向上させるように構成される、請求項1記載のガス分離膜(10)。
【請求項3】
前記ベーマイトナノ粒子が、実質的に約40nm〜60nmの粒径のものである、請求項1記載のガス分離膜(10)。
【請求項4】
前記ベーマイトナノ粒子の1以上の層が、前記多孔質基材(32、34)上に連続したボンドコート層(36)を形成する、請求項1記載のガス分離膜(10)。
【請求項5】
前記ポリイミドメンブラン層(38)が約20nm〜100nmの厚さ(48)を有する、請求項1記載のガス分離膜(10)。
【請求項6】
前記ガス分離膜(10)が、約4.7超の水素/二酸化炭素選択性及び約10GPU超の水素透過性を有する、請求項1記載のガス分離膜(10)。
【請求項7】
前記ガス分離膜(10)が、250℃で約350GPU超の水素透過性を有する、請求項1記載のガス分離膜(10)。
【請求項8】
前記ガス分離膜(10)が約5超の水素/二酸化炭素選択性を有する、請求項1記載のガス分離膜(10)。
【請求項9】
ガス分離膜(10)の製造方法(50)であって、
多孔質支持構造体上にベーマイトナノ粒子の1以上の層を堆積させてボンドコート層(36)を形成する段階(56)と、
前記ボンドコート層(36)上にポリイミド前駆体を堆積する段階(58)と、
前記ボンドコート層(36)及び前記ポリイミド前駆体の熱処理(58)を約300℃以下で実施して、約150nm以下の厚さ(48)を有するポリイミドメンブラン層(38)を形成する段階と
を含む、方法。
【請求項10】
前記支持構造体(32、34)が、約40nm未満の細孔径を有する多孔質セラミック又は金属基材を含む、請求項9記載の方法。
【請求項11】
ベーマイトナノ粒子の1以上の層が、スピンコーティング、ディップコーティング又はスプレーコーティングを含む湿式処理法を用いて前記多孔質支持構造体(32、34)上に堆積される、請求項9記載の方法。
【請求項12】
前記ボンドコート層(36)が約50nm〜400nmの厚さ(46)を有する、請求項9記載の方法。
【請求項13】
前記ボンドコート層(36)及び前記ポリイミド前駆体を熱処理してポリイミドメンブラン層(38)を形成する段階が、約200℃〜300℃で実施される、請求項9記載の方法。
【請求項14】
前記ポリイミドメンブラン層(38)が約20nm〜100nmの厚さ(48)を有する、請求項9記載の方法。
【請求項15】
前記ポリイミド前駆体がポリアミド酸溶液を含む、請求項9記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−49053(P2013−49053A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−187107(P2012−187107)
【出願日】平成24年8月28日(2012.8.28)
【出願人】(390041542)ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ (6,332)
【Fターム(参考)】