説明

ガス吸着剤及びガス吸着素材

【課題】 酢酸等の酸性系の悪臭ガス及びアルデヒド系の悪臭ガスの吸着性能に優れ、しかも、熱によるガス吸着性能の低下が十分小さいガス吸着剤、及び、かかるガス吸着剤を用いたガス吸着素材を提供すること。
【解決手段】 本発明のガス吸着剤は、アミノ基及び/又はイミノ基を有する有機ケイ素化合物を担体に担持した担持体と水膨潤性層状鉱物とを水性媒体中に分散させて得られる、上記担持体及び上記水膨潤性層状鉱物を含んでなるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス吸着剤及びガス吸着素材に関し、より詳細には、気相中の酸性系の悪臭成分やアルデヒド系の悪臭成分を吸着し、消臭することができるガス吸着剤及びガス吸着素材に関する。
【背景技術】
【0002】
室内や自動車内等の一般の生活空間において、生活臭や煙草臭等が感じられることがある。悪臭の原因となる悪臭成分としては、例えば、酢酸等の酸性系の悪臭ガスや、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド等のアルデヒド系の悪臭ガスなど、種々のものがある。
【0003】
従来、このような各種の悪臭ガスを吸着して消臭することができるガス吸着剤の材料として、多孔性で比表面積が大きく、安価であることから活性炭が多用されてきた。また、活性炭の他に、シリカ、アルミナ等の多孔性材料もガス吸着剤として用いられている。しかし、これらの材料は、悪臭ガスの吸着が主に多数の微細孔への物理的な吸着作用によるものであることから、悪臭ガスの種類によっては十分な吸着量が得られず、消臭効果が不十分となることがある。また、物理的な吸着は、悪臭ガスが容易に吸着される一方で、吸着した悪臭ガスが熱などにより容易に脱離する傾向にある。そのため、上記の材料には、ガス吸着剤としてのさらなる性能の向上が要求されている。
【0004】
このような課題に対して、活性炭やシリカ等の多孔性材料の表面を化学的に処理することによって改変し、物理的吸着作用に加えて化学的吸着作用を発現させ、吸着性能を向上させる試みがなされている。例えば、下記特許文献1〜3には、多孔性材料にアミノ基を有する有機ケイ素化合物を担持させたガス吸着剤が提案されている。そして、このようなアミノ基による修飾は、酢酸等の酸性系の悪臭ガスやアルデヒド系の悪臭ガスに対する吸着性能の向上に有効であると考えられている。
【0005】
【特許文献1】特開平8−257346号公報
【特許文献2】特開2000−218159号公報
【特許文献3】特開2006−312164号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ガス吸着剤は、そのままの形態でも用いられるが、例えば、空気清浄器用フィルターやガス吸着シートなどのように、ガス吸着素材の材料として利用される場合もある。ガス吸着素材の多くは、通常、所定の基材にガス吸着剤を付与することにより製造される。
【0007】
ところが、上記特許文献1〜3に記載のガス吸着剤を用いてガス吸着素材を製造すると、その使用量に見合うガス吸着性能が得られず、消臭効果が不十分となる場合があった。本発明者らの検討によると、ガス吸着素材を製造する際の熱処理や経時での熱履歴により、ガス吸着剤の吸着性能が著しく低下することが判明している。
【0008】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、酢酸等の酸性系の悪臭ガス及びアルデヒド系の悪臭ガスの吸着性能に優れ、しかも、熱によるガス吸着性能の低下が十分小さいガス吸着剤、及び、かかるガス吸着剤を用いたガス吸着素材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、前述のような従来のガス吸着剤の熱によるガス吸着性能の低下が、担体に担持させたアミノ基含有ケイ素化合物由来のアミノ基の熱による変性に大きく起因しているとの知見を得た。更に、かかる知見に基づいて、本発明者らが検討を行ったところ、特定の鉱物を併用することによってガス吸着剤の熱によるガス吸着性能の低下を十分防止できる、つまり耐熱性を向上し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明のガス吸収剤は、アミノ基及び/又はイミノ基を有する有機ケイ素化合物を担体に担持した担持体と水膨潤性層状鉱物とを水性媒体中に分散させて得られる、上記担持体及び上記水膨潤性層状鉱物を含んでなるものであることを特徴とする。
【0011】
本発明のガス吸着剤は、上記構成を有することにより、酢酸等の酸性系の悪臭ガス及びアルデヒド系の悪臭ガスの吸着性能に優れ、且つ、熱によるガス吸着性能の低下が十分小さい優れた耐熱性を有することができる。
【0012】
また、本発明のガス吸着剤によれば、ガス吸着素材の製造時に熱処理を行っても十分なガス吸着性を維持できることから、優れたガス吸着性、ひいては優れた消臭効果を有するガス吸着素材を効率よく製造することが可能となる。
【0013】
本発明のガス吸着剤が上記の効果を奏する理由は定かではないが、上記の担持体が、膨潤した水膨潤性層状鉱物の層間に挿入される或いは水膨潤性層状鉱物により被覆されることによって、アミノ基やイミノ基の熱による変性が抑制されたためと本発明者らは推察する。
【0014】
本発明のガス吸着剤において、上記水膨潤性層状鉱物が、雲母群に属する鉱物、カオリナイト−蛇紋石群に属する鉱物及びスメクタイト群に属する鉱物のうちから選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0015】
また、上記水膨潤性層状鉱物の平均粒径が0.05μm〜15μmであることが好ましい。なお、本発明における水膨潤性層状鉱物及び担体の平均粒径は、レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置LA−920(堀場製作所)にて測定した、累積50%のメジアン径をいう。
【0016】
また、本発明のガス吸着剤において、上記担体が、活性炭、又はヒドロキシル基を有する金属酸化物であることが好ましい。
【0017】
更に、上記担体はヒドロキシル基を有するシリカであることが好ましい。この場合、アミノ基及び/又はイミノ基を有する有機ケイ素化合物の担持量を十分に確保することが容易となり、より高水準のガス吸着性が得られやすくなる。
【0018】
本発明はまた、基材に、本発明のガス吸着剤を付与してなるガス吸着素材を提供する。本発明のガス吸着素材によれば、本発明のガス吸着剤が付与されていることにより、酢酸等の酸性系の悪臭ガス及びアルデヒド系の悪臭ガスを効率よく吸着することができる。本発明のガス吸着素材は、素材の製造時や加工時における熱処理や経時での熱履歴によるガス吸着性の低下が十分抑制され得るものであることから、生産性或いは加工性と、ガス吸着性能とを従来よりも高水準で両立することが可能となる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、酢酸や酪酸等の有機酸に代表される酸性の悪臭ガスや、ホルムアルデヒドやアセトアルデヒド等のアルデヒド系の悪臭ガスの吸着性能に十分優れるとともに、熱によるガス吸着性能の低下を従来よりも小さくできる、耐熱性に優れるガス吸着剤を提供することができる。また、本発明によれば、熱処理や経時での熱履歴を受けた場合であっても、上記悪臭ガスに対する吸着性能を従来よりも高く維持することが可能なガス吸着素材を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明のガス吸着剤は、アミノ基及び/又はイミノ基を有する有機ケイ素化合物を担体に担持した担持体と水膨潤性層状鉱物とを水性媒体中に分散させて得られる、上記担持体及び上記水膨潤性層状鉱物を含んでなるものである。
【0021】
アミノ基及び/又はイミノ基を有する有機ケイ素化合物を担体に担持した担持体は、例えば、担体及び有機ケイ素化合物として、互いに反応して結合可能なものを選び、それらを反応させたものを用いることができる。有機ケイ素化合物は、担体との反応後、アミノ基及び/又はイミノ基を担体上に十分存在させることができるものが好ましい。
【0022】
担体としては、アミノ基及び/又はイミノ基を有する有機ケイ素化合物との反応性が良好であるという観点から、ヒドロキシル基を有する化合物を用いることができ、活性炭又はヒドロキシル基を有する金属酸化物を用いることが好ましい。
【0023】
金属酸化物としては、例えば、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、亜鉛酸化物等を挙げることができる。
【0024】
活性炭及びヒドロキシル基を有する金属酸化物は、その表面が、アルカリ金属或いはアルカリ土類金属の水酸化物、カルボン酸塩、アンモニア、脂肪族若しくは芳香族アミン、アミノ基含有高分子等のアルカリに浸漬する等の方法によりアルカリ処理されているものであってもよい。
【0025】
本発明においては、これらの担体のなかでも、ヒドロキシル基を有する金属酸化物を用いることが好ましい。この場合、ガス吸着剤を基材に付与してガス吸着素材を得るときに、基材への色相への影響をより小さくすることが可能になる。更に、シリカが表面のヒドロキシル基に富み、アミノ基及び/又はイミノ基を有する有機ケイ素化合物の担持量を多くすることができることから、特に好適である。
【0026】
また、本発明において用いられる担体の平均粒径は、2nm〜1μmの範囲であることが好ましい。担体の平均粒径が2nm未満であると、アミノ基及び/又はイミノ基を有する有機ケイ酸化合物を担持させる能力が乏しくなり、ガス吸着性が低下する傾向にある。平均粒径が1μmを超えると、担体の表面積が小さくなるため、ガス吸着性が低下する傾向にある。さらに、担体の平均粒径が上記の範囲内であれば、基材の色相への影響を十分小さく(特に、白化減少を抑制)しながらガス吸着素材を製造することが可能となる。本発明においては、より耐熱性に優れるガス吸着性を得る観点から、担体の平均粒径が2nm〜100nmの範囲であることが好ましく、2nm〜10nmの範囲であることがより好ましい。なお、本発明における担体の平均粒径は、レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置LA−920(堀場製作所)にて測定した、累積50%のメジアン径をいう。
【0027】
担体の平均粒径が2nm〜10nmの範囲である場合に、より耐熱性に優れるガス吸着性が得られる理由を本発明者らは以下のとおり推察する。すなわち、後述する水膨潤性層状鉱物の膨潤時の層間距離は10nm程度であり、層間の結合はファンデルワールス結合やゆるやかなイオン結合であってその結合力は弱いため、水性媒体中で担持体が水膨潤性層状鉱物の層間に挿入され得ると考えられる。そして、担体の平均粒径が上記範囲であると、この挿入が容易となり、水膨潤性層状鉱物によってアミノ基やイミノ基が熱から十分に保護される構造がより多く形成されることが上記効果の得られる理由であると本発明者らは推察する。なお、担持体が水膨潤性層状鉱物層間に挿入された場合においても、ガス吸着性そのものには影響がないものと本発明者らは考えている。また、担体の平均粒径が水膨潤性層状鉱物の膨潤時の層間距離よりも大きい場合は、担持体の水膨潤性層状鉱物の層間への挿入は困難になると考えられるが、水膨潤性層状鉱物が担持体を被覆することによりアミノ基やイミノ基が熱から十分に保護されて良好なガス吸着性及び耐熱性が得られるものと本発明者らは考えている。
【0028】
本発明において用いられるアミノ基及び/又はイミノ基を有する有機ケイ素化合物としては、アミノ基及び/又はイミノ基を1個以上と、担体が有する官能基と反応して結合し得る官能基とを有する化合物が好ましい。担体がヒドロキシル基を有するものである場合、このヒドロキシル基と反応して結合し得る官能基としては、例えば、−SiOH基や−SiOR基(ここで、Rは炭化水素基を示し、好ましくは炭素数1〜3のアルキル基である)が挙げられる。
【0029】
このような官能基を有する有機ケイ素化合物としては、例えば、3−アミノプロピルトリヒドロキシシラン、メトキシ(3−アミノプロピル)ジヒドロキシシラン、エトキシ(3−アミノプロピル)ジヒドロキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、γ−アミノプロピルジメチルエトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジエトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルジメチルメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルジメチルエトキシシラン、γ−(2−アミノエチルアミノ)プロピル(イソプロポキシ)ジメトキシシラン、2−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン等のシランカップリング剤が挙げられる。
【0030】
担体に、アミノ基及び/又はイミノ基を有する有機ケイ素化合物を担持させるには、例えば、上記有機ケイ素化合物の水溶液(通常、5〜40質量%程度)に上記担体を加え、室温で10分〜5時間程度撹拌する方法が挙げられる。有機ケイ素化合物の使用量は、担体1質量部に対して0.1〜5質量部とするのが好ましく、0.5〜2質量部とするのがより好ましい。なお、撹拌後に得られる担持体の水分散物に、必要に応じて、分散剤、増粘剤、防腐剤、低級アルコールやグリコール等の水混和性溶媒等の従来公知の成分を添加してもよい。また、撹拌後に水を除去して、粉末状の担持体を得ることもできる。
【0031】
本発明において用いられる水膨潤性層状鉱物とは、層状の結晶構造を有し、更に層間に陽イオンが介在しており、この陽イオンに水が水和することで層間方法に膨潤する性質を備えた鉱物のことをいう。このような水膨潤性層状鉱物としては、白雲母、加水白雲母、金雲母、黒雲母、リシア雲母、パイロフィライト、タルク等の雲母群;カオリナイト、ハロイサイト、アンチゴライト、クリソタイル等のカオリナイト−蛇紋石群;モンモリロナイト、バーミキュル、ぶどう石、魚眼石等のスメクタイト類(ベントナイトを含む)等が挙げられる。
【0032】
水膨潤性層状鉱物の平均粒径は、0.05μm〜15μmであることが好ましい。水膨潤性層状鉱物の平均粒径が0.05μm未満であると、得られるガス吸着剤の耐熱性が不十分となる場合があり、15μmを超えると、ガス吸着剤の基材への保持性が低下する傾向にあり、得られるガス吸着素材のガス吸着性が不十分となる場合がある。なお、本発明における水膨潤性層状鉱物の平均粒径は、レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置LA−920(堀場製作所)にて測定した、累積50%のメジアン径をいう。
【0033】
本発明のガス吸着剤は、アミノ基及び/又はイミノ基を有する有機ケイ素化合物を担体に担持した担持体と水膨潤性層状鉱物とを水性媒体中に分散させて得られるものであればよく、例えば、前述のようにして得られる担持体の水分散物と上記の水膨潤性層状鉱物とを混合したガス吸着剤組成物、或いは、前述のようにして得られる粉末状の担持体と上記の水膨潤性層状鉱物とを水性媒体中に分散させたガス吸着剤組成物から得ることができる。本発明のガス吸着剤は、上記のガス吸着剤組成物から水性媒体を除去して粉末状のガス吸着剤として得てもよいが、上記の組成物を基材に塗布する或いは上記の組成物に基材を浸漬するなどした後、水性媒体を除去するなどの方法によって所定の基材上に付与された状態で得ることもできる。
【0034】
水性媒体としては、水、及び、低級アルコールやグリコール等の水混和性溶媒と水との混合溶媒が挙げられる。
【0035】
上記組成物における担持体と水膨潤性層状鉱物との配合割合は、水膨潤性層状鉱物1質量部に対して、担持体を1〜10質量部とすることが好ましく、1.25〜5質量部とすることがより好ましく、2〜3.5質量部とすることがさらにより好ましい。担持体と水膨潤性層状鉱物との配合割合を上記範囲内とすることにより、範囲外の場合に比べて、耐熱性に優れたガス吸着剤が得られやすくなる。
【0036】
本発明のガス吸着剤は、熱処理或いは経時の熱履歴を受けた場合であっても、酢酸等の酸性系のガス及びアルデヒド系のガスに対するガス吸着性が十分維持されるという優れた耐熱性を有する。具体的には、熱処理でいうと180℃で20分程度まで、また、経時の熱履歴でいうと100℃で100時間程度まで、ガス吸着性を十分維持することができる。
【0037】
次に、本発明のガス吸着素材について説明する。
【0038】
本発明のガス吸着素材は、基材に上記本発明のガス吸着剤を付与してなるものであり、ガス吸着剤の付与後、適宜、風乾或いは熱処理されていてもよい。
【0039】
基材としては、例えば、繊維、プラスチック、紙、ガラス、活性炭、セラミックス等が挙げられる。繊維の素材としては、特に制限はなく、綿、麻、羊毛、絹等の天然繊維、ポリエステル、ナイロン、アクリル、ポリオレフィン等の合成繊維、アセテート等の半合成繊維、レーヨン等の再生繊維及びこれらの複合繊維が挙げられる。
【0040】
基材の形状は特に制限されず、使用形態に合わせて適宜選択することができる。また、ガス吸着素材を製造した後に必要に応じて適宜成形加工することもできる。
【0041】
基材にガス吸着剤を付与する方法としては、本発明のガス吸着剤を得るときに作製される上述のガス吸着剤組成物をそのまま、又は、ガス吸着剤組成物を水やアルコール等の溶媒で適宜希釈又は濃縮した分散液を用いて、スプレーやコーティング等の公知の方法により塗布する方法や、浸漬する方法等が挙げられる。このとき、ガス吸着剤組成物又はその分散液には適宜バインダーを添加してもよい。バインダーとしては、従来公知のものを特に制限なく用いることができ、例えば、ポリビニルアルコール、アクリルエマルジョン、酢酸ビニルエマルジョン、エチレン−酢酸ビニル共重合体エマルジョン、メチルセルロース、アクリル−エチレン共重合体エマルジョン、ウレタン系エマルジョン、シリコーンエマルジョン等が挙げられる。
【0042】
また、上述したようにガス吸着剤組成物から水性媒体を除去して得られる粉末状のガス吸着剤を用いる場合、この粉末状のガス吸着剤と、上記バインダーとを混合し、この混合物を基材に塗布することができる。
【0043】
バインダーの使用量については、バインダーが多すぎるとガス吸着性が低下する場合がある。そのため、バインダーの使用量は、基材へのガス吸着剤の保持性とガス吸着性とをバランスさせる点から、ガス吸着剤1質量部に対して0.1質量部まで、好ましくは0.02〜0.5質量部とするのがよい。
【0044】
基材にガス吸着剤を付与した後は、基材の種類や付与量に応じて、適当な条件により熱処理を施すことができる。なお、基材へのガス吸着剤の付与量は、基材の種類により適宜調整することができ、例えば、基材100質量部に対して担持体の付着量が0.05〜5質量部となる範囲とすることが好ましい。
【0045】
更に、本発明のガス吸着素材の製造方法について具体例を示しながら説明する。例えば、基材が繊維製品である場合、特に、織物、編物や不織布等の布帛である場合、例えば、上記ガス吸着剤組成物などの処理液を用意し、この処理液を基材に塗布する、又は処理液に基材を浸漬する方法により、基材にガス吸着剤を付与することができる。この後、基材を加熱乾燥することで、ガス吸着素材が得られる。処理液におけるガス吸着剤の分散媒としては、環境や安全性の点で、水、メタノールやエタノール等の低級アルコールが好ましい。
【0046】
処理液中の担持体や水膨潤性層状鉱物の濃度は、製造されるガス吸着素材の目的や用途によって適宜設定されるが、ガス吸着性や風合、外観などを考慮すると、処理液中の担持体の含有割合が0.001〜3質量%であることが好ましい。
【0047】
また、上記の処理液には、本発明のガス吸着剤を構成する本発明に係る担持体及び水膨潤性層状鉱物の他に、繊維加工に用いられる従来公知の成分、例えば、抗菌剤、難燃剤、帯電防止剤、柔軟剤、防皺剤等を適宜含有させることができる。
【0048】
加熱乾燥の条件は、通常の繊維製品における熱処理条件を適用できる。本発明においては、180℃で20分程度までの熱処理条件で加熱乾燥を行った場合であっても、優れたガス吸着性を達成することができる。
【0049】
本発明のガス吸着素材は、例えば、空気清浄器用フィルター、ガス吸着シート、壁紙、カーテン、カーペット等の内装材、カーシート、天井材等の自動車用内装材等のガス吸着用装飾材等の各種部材として、ガス吸着が必要な空間で利用することができる。本発明のガス吸着素材から構成されるこれらの部材は、熱処理や経時での熱履歴を受けた場合であっても、酸性系の悪臭ガスやアルデヒド系の悪臭ガスの除去能を従来よりも高く維持することが可能である。また、上記の部材は、その製造工程において熱処理が施される場合であっても、従来よりもガス吸着性を高水準に維持することが可能であることから、生産性や加工性に優れたものとなり得る。
【実施例】
【0050】
以下に実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら制限されるものではない。
【0051】
<ガス吸着剤及びガス吸着素材の製造>
(実施例1)
コロイダルシリカ((株)ADEKA、商品名「アデライトAT300S」、平均粒径8.5nm、シリカ含有量30質量%)109gに、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン17gを添加し、これを室温で約2時間攪拌して、コロイダルシリカにγ−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシランが担持された担持体の水分散物を得た。
【0052】
次に、予め調製した、天然ベントナイト((株)ホージュン、商品名「ベンゲル」、平均粒径1.6μm)の5質量%水分散液348g中に、上記で得られた水分散物を添加し、室温で約2時間攪拌した後に、水526gを更に加えてガス吸着剤組成物を得た。なお、このガス吸着剤組成物における上記担持体の濃度は5質量%であり、ベントナイトの濃度は1.7質量%であった。なお、本明細書の実施例及び比較例のガス吸着剤組成物における担持体の濃度はシラン化合物及びシリカの配合量から換算値である。
【0053】
次に、上記で得られたガス吸着剤組成物を水により質量基準で10倍に希釈して、処理液を調整し、これにポリエステル100%白布(ツヤトモ(株)社)を、ピックアップ50質量%となる条件(実施例1の場合、白布質量に対して担持体が0.25質量%及びベントナイトが0.085質量となる量で付与される条件)で浸漬処理した。そして、浸漬処理後の布を160℃で2分間乾燥することにより、ガス吸着素材を得た。
【0054】
(実施例2)
実施例1と同様にして得られたガス吸着素材を、更に180℃で15分間加熱処理してガス吸着素材を得た。
【0055】
(実施例3)
コロイダルシリカ(日産化学(株)、商品名「スノーテックス20L」、平均粒径50nm、シリカ含有量20質量%)164gに、γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン17gを添加し、これを室温で約2時間攪拌して、コロイダルシリカにγ−アミノプロピルメチルジメトキシシランが担持された担持体の水分散物を得た。
【0056】
次に、予め調製した、天然ベントナイト((株)ホージュン、商品名「ベンゲル」、平均粒径1.6μm)の5質量%水分散液348g中に、上記で得られた水分散物を添加し、室温で約2時間攪拌した後に、水471gを更に加えてガス吸着剤組成物を得た。なお、このガス吸着剤組成物における上記担持体の濃度は5質量%であり、ベントナイトの濃度は1.7質量%であった。
【0057】
次に、上記で得られたガス吸着剤組成物を用いたこと以外は実施例2と同様にして、ガス吸着素材を得た。
【0058】
(実施例4)
コロイダルシリカ((株)ADEKA、商品名「アデライトAT300S」、平均粒径8.5nm、シリカ含有量30質量%)109gに、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン17gを添加し、これを室温で約2時間攪拌して、コロイダルシリカにγ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシランが担持された担持体の水分散物を得た。
【0059】
次に、予め調製した、合成スメクタイト((株)コープケミカル、商品名「ルーセンタイトSWN」、平均粒径0.05μm)の5質量%水分散液348g中に、上記で得られた水分散物を添加し、室温で約2時間攪拌した後に、水526gを更に加えてガス吸着剤組成物を得た。なお、このガス吸着剤組成物における上記担持体の濃度は5質量%であり、スメクタイトの濃度は1.7質量%であった。
【0060】
次に、上記で得られたガス吸着剤組成物を用いたこと以外は実施例2と同様にして、ガス吸着素材を得た。
【0061】
(実施例5)
コロイダルシリカ(日産化学(株)製、商品名「スノーテックス30」、平均粒子径10〜20nm、シリカ含有量30質量%)109gに、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン17gを添加し、これを室温で約2時間攪拌して、コロイダルシリカにγ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシランが担持された担持体の水分散物を得た。
【0062】
次に、予め調製した、天然ベントナイト((株)ホージュン、商品名「ベンゲル」、平均粒径1.6μm)の5質量%水分散液302g中に、上記で得られた水分散物を添加し、室温で約2時間攪拌した後に、水572gを更に加えてガス吸着剤組成物を得た。なお、このガス吸着剤組成物における上記担持体の濃度は5質量%であり、ベントナイトの濃度は1.5質量%であった。
【0063】
次に、上記で得られたガス吸着剤組成物を用いたこと以外は実施例2と同様にして、ガス吸着素材を得た。
【0064】
(実施例6)
コロイダルシリカ(日産化学(株)製、商品名「スノーテックス30」、平均粒子径10〜20nm、シリカ含有量30質量%)109gに、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン34gを添加し、これを室温で約2時間攪拌して、コロイダルシリカにγ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシランが担持された担持体の水分散物を得た。
【0065】
次に、予め調製した、天然ベントナイト((株)ホージュン、商品名「ベンゲル」、平均粒径1.6μm)の5質量%水分散液302g中に、上記で得られた水分散物を添加し、室温で約2時間攪拌した後に、水555gを更に加えてガス吸着剤組成物を得た。なお、このガス吸着剤組成物における上記担持体の濃度は6.7質量%であり、ベントナイトの濃度は1.5質量%であった。
【0066】
次に、上記で得られたガス吸着剤組成物を用いたこと以外は実施例2と同様にして、ガス吸着素材を得た。
【0067】
(実施例7)
コロイダルシリカ(日産化学(株)製、商品名「スノーテックス30」、平均粒子径10〜20nm、シリカ含有量30質量%)109gに、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン17gを添加し、これを室温で約2時間攪拌して、コロイダルシリカにγ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシランが担持された担持体の水分散物を得た。
【0068】
次に、予め調製した、天然ベントナイト((株)ホージュン、商品名「ベンゲル」、平均粒径1.6μm)の5質量%水分散液496g中に、上記で得られた水分散物を添加し、室温で約2時間攪拌した後に、水378gを更に加えてガス吸着剤組成物を得た。なお、このガス吸着剤組成物における上記担持体の濃度は5質量%であり、ベントナイトの濃度は2.5質量%であった。
【0069】
次に、上記で得られたガス吸着剤組成物を用いたこと以外は実施例2と同様にして、ガス吸着素材を得た。
【0070】
(実施例8)
コロイダルシリカ(日産化学(株)製、商品名「スノーテックス30」、平均粒子径10〜20nm、シリカ含有量30質量%)109gに、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン17gを添加し、これを室温で約2時間攪拌して、コロイダルシリカにγ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシランが担持された担持体の水分散物を得た。
【0071】
次に、予め調製した、膨潤性マイカ(トピー工業(株)、商品名「DMA350」、平均粒径15μm)の5質量%水分散液302g中に、上記で得られた水分散物を添加し、室温で約2時間攪拌した後に、水572gを更に加えてガス吸着剤組成物を得た。なお、このガス吸着剤組成物における上記担持体の濃度は5質量%であり、マイカの濃度は1.5質量%であった。
【0072】
次に、上記で得られたガス吸着剤組成物を用いたこと以外は実施例2と同様にして、ガス吸着素材を得た。
【0073】
(実施例9)
コロイダルシリカ(日産化学(株)製、商品名「スノーテックス30」、平均粒子径10〜20nm、シリカ含有量30質量%)109gに、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン17gを添加し、これを室温で約2時間攪拌して、コロイダルシリカにγ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシランが担持された担持体の水分散物を得た。
【0074】
次に、予め調製した、カオリン(林化成(株)、商品名「ASP−200」、平均粒径0.4μm)の5質量%水分散液302g中に、上記で得られた水分散物を添加し、室温で約2時間攪拌した後に、水572gを更に加えてガス吸着剤組成物を得た。なお、このガス吸着剤組成物における上記担持体の濃度は5質量%であり、カオリンの濃度は1.5質量%であった。
【0075】
次に、上記で得られたガス吸着剤組成物を用いたこと以外は実施例2と同様にして、ガス吸着素材を得た。
【0076】
(比較例1)
コロイダルシリカ((株)ADEKA、商品名「アデライトAT300S」、平均粒径8.5nm、シリカ含有量30質量%)109gに、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン17gを添加し、これを室温で約2時間攪拌して、コロイダルシリカにγ−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシランが担持された担持体の水分散物を得た。次に、この水分散物に、水874gを更に加えてガス吸着剤組成物を得た。なお、このガス吸着剤組成物における上記担持体の濃度は5質量%であった。
【0077】
次に、上記で得られたガス吸着剤組成物を用いたこと以外は実施例1と同様にして、ガス吸着素材を得た。
【0078】
(比較例2)
比較例1と同様にして得られたガス吸着素材を、更に180℃で15分間加熱処理してガス吸着素材を得た。
【0079】
[ガス吸着素材の評価]
上記の実施例及び比較例で得られたガス吸着素材について、ガス吸着性及び色相を以下の方法により評価した。結果を表1に示す。
【0080】
(ガス吸着性)
5Lのテドラーバックに、得られたガス吸着素材を10cm×10cm(100cm)の大きさに切ったものを入れて封をし、中の空気をアスピレーターで完全に除去した。この中に、酢酸の初発濃度50ppm、又はアセトアルデヒドの初発濃度20ppmを含む窒素ガス3Lを封入し、室温で2時間放置後の酢酸又はアセトアルデヒドの濃度を測定し、下記式によりその減少率を求めた。
【0081】
【数1】



【0082】
(色相)
ガス吸着素材の色相を、目視にて下記基準に基づいて3段階で判定した。
○:未加工のポリエステル100%白布と同等の色調である。
△:素材表面が全体的にやや黄色く変色している。
×:素材表面に黄色い斑が見られる、又は、素材表面が全体的に黄色く変色している。
【0083】
【表1】



【0084】
表1に示されるように、シリカにアミノ基を含有する有機ケイ素化合物を担持させた担持体と、天然ベントナイトとを水に分散させたガス吸着剤組成物を用いて製造された実施例1のガス吸着素材は、その製造過程において熱処理が施されているにもかかわらず、酢酸及びアセトアルデヒドに対するガス吸着性が優れていることが確認された。また、実施例1のガス吸着素材を更に180℃で15分間も加熱した場合(実施例2)においても、ガス吸着性が高水準に維持されていることが確認された。
【0085】
実施例3〜9のガス吸着素材もまた、180℃で15分間という条件で熱処理が施されたものであるにもかかわらず、ガス吸着性が高水準に維持されており、耐熱性に優れていることが確認された。
【0086】
一方、シリカにアミノ基を含有する有機ケイ素化合物を担持させた担持体のみを含み、水膨潤性層状鉱物を含まないガス吸着剤組成物を用いて製造された比較例1のガス吸着素材は、ガス吸着性が低い。また、比較例1のガス吸着素材を更に180℃で15分間加熱した場合(比較例2)はガス吸着性が著しく低下し、比較例1のガス吸着素材は実施例1〜9のものに比べて耐熱性が低いことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明によれば、ホルムアルデヒドやアセトアルデヒド等のアルデヒド系の悪臭ガスや、酢酸や酪酸等の有機酸に代表される酸性の悪臭ガスの吸着性能に十分優れるとともに、熱によるガス吸着性能の低下を従来よりも小さくできるガス吸着剤を提供することができる。また、本発明によれば、熱処理や経時での熱履歴を受けた場合であっても、上記悪臭ガスに対する吸着性能を従来よりも高く維持することが可能なガス吸着素材を提供することができる。
【0088】
また、本発明のガス吸着素材によれば、素材の製造時或いは加工時に熱処理や経時での熱履歴を受けた場合であっても、ガス吸着性能の低下を十分抑制することができることから、生産性或いは加工性と、ガス吸着性能とを従来よりも高水準で両立することが可能となる。本発明のガス吸着素材は、家庭用又は車両用の空気清浄器用フィルターをはじめ、ガス吸着シート、壁紙、カーテン、カーペット等の内装材、カーシート、天井材等の自動車用内装材等へ利用することができ、酸性系の悪臭ガスやアルデヒド系の悪臭ガスの吸着除去や消臭を、従来よりも高い減少率で達成することができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミノ基及び/又はイミノ基を有する有機ケイ素化合物を担体に担持した担持体と、水膨潤性層状鉱物と、を水性媒体中に分散させて得られる、前記担持体及び前記水膨潤性層状鉱物を含んでなるガス吸着剤。
【請求項2】
前記水膨潤性層状鉱物が、雲母群に属する鉱物、カオリナイト−蛇紋石群に属する鉱物及びスメクタイト群に属する鉱物のうちから選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載のガス吸着剤。
【請求項3】
前記水膨潤性層状鉱物の平均粒径が0.05μm〜15μmである、請求項1又は2に記載のガス吸着剤。
【請求項4】
前記担体が、活性炭、又はヒドロキシル基を有する金属酸化物である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のガス吸着剤。
【請求項5】
前記担体が、ヒドロキシル基を有するシリカである、請求項1〜3のいずれか一項に記載のガス吸着剤。
【請求項6】
基材に、請求項1〜5のいずれか一項に記載のガス吸着剤を付与してなる、ガス吸着素材。


【公開番号】特開2010−22979(P2010−22979A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−189942(P2008−189942)
【出願日】平成20年7月23日(2008.7.23)
【出願人】(000226161)日華化学株式会社 (208)
【Fターム(参考)】