説明

ガス吹き込み用プラグの設置構造

【課題】ガス吹き込み用プラグにガスを供給するガス供給管を通じて溶融金属が外部に漏出することを防止でき、メンテナンス性に優れたガス吹き込み用プラグの設置構造を提供すること。
【解決手段】
ガス吹き込み用プラグ1にガスを供給するガス供給管1dの下端部分を支持する上プレート5の下面に接するように下プレート12を配置する共に、上プレート5の下面と下プレート12の上面とにより、ガス供給管1dに連通する空間14を形成し、この空間にガス導入経路16を連通させた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶鋼用取鍋等の溶融金属容器内にガスを吹き込むガス吹き込み用プラグを溶融金属容器の底部に設置するためのガス吹き込み用プラグの設置構造に関する。
【背景技術】
【0002】
溶鋼用取鍋等の溶融金属容器の底部には、溶融金属容器内の溶融金属を撹拌してスラグを浮上させたり、溶融金属の温度や成分を均一化するためにガス吹き込み用プラグを設置して、溶融金属容器内の溶融金属にガスを吹き込むようにしている。
【0003】
従来、ガス吹き込み用プラグを溶融金属容器の底部に設置する構造としては、ガス吹き込み用プラグを支持する鉄板をコッターやボルトで溶融金属容器の底部に固定する構造、溶融金属容器の底部にバイヨネット受け金物を固定し、バイヨネットで締め込む構造等が知られている。
【0004】
しかし、このような設置構造では、ガス吹き込み用プラグが使用により消耗して長さが短くなり、そのガス吹き込み用プラグにガスを供給するガス供給管に溶融金属が流れ込んだ場合、溶融金属の流れを止めることができず、最終的には溶融金属が外部に漏出してしまう。このため、従来は、溶融金属の漏出に至らないように、早期にガス吹き込み用プラグを交換する対応が一般的に行われており、結果としてコストアップの要因になっている。
【0005】
これに対して、特許文献1には、ガス吹き込み用プラグにガスを供給するガス供給管の途中をうず巻き状の巻き導管とし、この巻き導管を耐火物中に成形した設置構造が提案されている。すなわち、特許文献1の設置構造は、溶融金属がガス供給管に流れ込んだ場合に、耐火物に保護されたうず巻き状の巻き導管部分で溶融金属を冷却して凝固させることによって、溶融金属の外部への漏出を防止しようとするものである。
【0006】
しかし、特許文献1の設置構造では、ガス供給管をうず巻き状に形成しているだけのため、巻き導管内に溶融金属が流れ込んだ時に、その周辺の耐火物の温度が上昇していれば、溶融金属が巻き導管内で凝固するほど冷却されず、巻き導管の末端まで溶融金属が容易に流れ込むことが予想される。
【0007】
また、巻き導管を鋼質のパイプで製造することは困難なため、銅質のパイプで製造することが現実的である。銅は、鋼よりも熱伝導率が高く、流れ込んできた溶融金属の熱を奪う点では好ましいが、融点が低く、抜熱量(熱容量)も低い。このため、熱伝導度の低い耐火物で巻き導管の周囲を覆う特許文献1の設置構造では、耐火物が断熱材の役割を果たし、銅管の温度が上がって溶ける恐れがある。銅管の壁面を厚くして、十分な熱容量を持たせる方法もあるが、銅は、材料として非常に高価であり、また、それに伴って増加する重量に耐える構造とする必要があるなどの問題がある。
【0008】
加えて、特許文献1の設置構造では、巻き導管が耐火物中に形成されており、ガス吹き込み用プラグの交換作業は、取鍋の内側からの作業となる。このため、交換作業を行うには、取鍋が冷えるのを待たなければならないなど、メンテナンス性の点でも問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭57−161038号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明が解決しようとする課題は、ガス吹き込み用プラグにガスを供給するガス供給管を通じて溶融金属が外部に漏出することを防止でき、メンテナンス性に優れたガス吹き込み用プラグの設置構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、溶融金属容器内にガスを吹き込むガス吹き込み用プラグを溶融金属容器の底部に設置するためのガス吹き込み用プラグの設置構造において、ガス吹き込み用プラグにガスを供給するガス供給管の下端部分を支持する上プレートの下面に接するように下プレートを配置すると共に、上プレートの下面と下プレートの上面とにより、前記ガス供給管に連通する空間を形成し、この空間にガス導入経路を連通させたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の設置構造では、溶融金属がガス供給管に流れ込んだ場合、その溶融金属は、上プレートと下プレートとにより形成された空間で受け止められ、冷却されて凝固する。したがって、ガス供給管を通じて溶融金属が外部に漏出することを防止できる。また、前記空間は、上プレートと下プレートとにより形成されるので、例えば直方体状の単純な形状とすることができ、耐火物をセットするときに使用するモルタルの滓や配管のねじセットに使用するシールテープの切れ端などの異物が混入したとしても詰まりにくい。仮に異物が詰まったとしても、上プレートと下プレートとを分離することによって、異物を容易に除去することができる。しかも上プレートと下プレートの交換作業は、溶融金属容器の外側から容易に行うことができ、メンテナンス性に優れる。
【0013】
さらに、前記空間を、上プレートと下プレートとにより形成するようにしたことで、溶融金属を冷却して凝固させるのに必要な大きさを容易に確保することができ、溶融金属の外部への漏出を確実に防止できる。とくに、上プレート及び下プレートを金属製とすれば、熱伝導によって前記空間内の溶融金属を効率的に冷却し凝固させることができるので、溶融金属の外部への漏出をより確実に防止できると共に、前記空間をコンパクトに設計できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の設置構造の一実施例を示す底面図である。
【図2】図1のA−A矢視図である。
【図3】図1のB−B矢視図である。
【図4】図3のa部詳細図である。
【図5】図1のC−C矢視図である。
【図6】本発明の設置構造の他の実施例を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面に示す実施例に基づき本発明の実施の形態を説明する。
【実施例1】
【0016】
図1〜5に本発明の一実施例を示す。
【0017】
ガス吹き込み用プラグ(以下単に「プラグ」という。)1が、溶融金属容器である溶鋼用取鍋(以下単に「取鍋」という。)Tの底部に配置された耐火れんが製の羽口2に装着されている。
【0018】
プラグ1は、通気性のある多孔質耐火物1aの外周を、上面を除いて通気性の低い緻密質耐火物1bで覆い、多孔質耐火物1aの下面にガスプール1cを介してガス供給管1dを接続することによって構成され、ガス供給管1dから供給されるガスを多孔質耐火物1aの上面から取鍋T内の溶鋼中に吹き込む。
【0019】
プラグ1は、隙間調整部材3及び押さえれんが4を介して上プレート5によって下方から支持されている。上プレート5は金属製であり、取鍋T底部の鉄皮6に固定された金属板7に取り付けられている。具体的には、金属板7は、頭部が鉄皮6に固定されたボルト8aとナット8bによって鉄皮6に固定されている。また、上プレート5は、金属板7に固定された支持軸9周りに回転可能に支持されることによって、金属板7に対して開閉可能に取り付けられている。
【0020】
上プレート5は、プラグ1のガス供給管1dの下端部分を支持する。詳しくは図4に示すように、ガス供給管1dの下端部分にはねじ部1eが設けられており、このねじ部1eに支持具10をねじ込むことによって、ガス供給管1dの下端部分が上プレート5に支持されて固定されている。なお、支持具10と上プレート5との間にはシールパッキン11を介在させている。
【0021】
上プレート5の下面側には下プレート12が配置されている。下プレート12は金属製であり、上プレート5と同じく支持軸9周り回転可能に支持されている。使用時にはボルト13によって、その上面が上プレート5の下面に接するように固定される。ただし、ボルト13を取り外せば、上プレート5と下プレート12は分離できる。
【0022】
上プレート5の下面と下プレート12の上面とにより、ガス供給管1dに連通する空間14が形成されている。具体的には図4に示すように、下プレート12の上面に凹部を設け、これを上プレート5の下面と合わせることで、空間14が形成されている。この空間14は、図1でハッチングを施した領域に形成されている。なお、下プレート12の上面に凹部を設ける代わりに、上プレート5の下面あるいは下プレート12の上面と上プレート5の下面の両方に凹部を設けることによっても空間14と同様の空間を形成できる。空間14の周りにはガスケット15が配置されており(図1〜3参照)、ガスが漏洩しないようにシールされている。
【0023】
空間14は、下プレート12に設けられたガス導入経路16の出側と連通している。ガス導入経路16の入側は、ガス導入管17に接続される。したがって、ガス導入管17から導入されたガスは、ガス導入経路16、空間14、ガス供給管1d、ガスプール1c、多孔質耐火物1aの順に流れ、多孔質耐火物1aの上面から取鍋T内の溶鋼中に吹き込まれる。
【0024】
一方、上プレート5は、図3に示すようにコイルバネ18(弾性体)によって上方に押圧されている。具体的には、ボルト体19の先端を金属板7に揺動可能に取り付け、ボルト体19の頭部と上プレート5との間にコイルバネ18を介在させている。ボルト体19は、これを軸周りに回転させると長さが変化するように構成されており、ボルト体19を回転させてその長さを短くすることでコイルバネ18が圧縮され、上プレート5が所定の押圧力で上方に押圧される。これによって、隙間調整部材3及び押さえれんが4を介してプラグ1が常に上方に押圧され、プラグ1が羽口2に強固に押さえ付けられるので、プラグ1と羽口2との間の目地部(通常はモルタルで施工される。)に溶鋼が進入し、プラグ1周りから漏出することを防止できる。また、本実施例のように弾性体によって押圧することで、熱膨張によるプラグ1等の長さ方向の変化に対して所定の押圧力の範囲内で追従できるので、安定的にプラグ1を上方に押圧できる。
【0025】
コイルバネ18による押圧を解除するには、ボルト体19を回転させてその長さを長くすればよい。その後、ボルト体19を金属板7側に向けて倒せば、コイルバネ18及びボルト体19は上プレート5と無関係になり、上プレート5は上述した支持軸9周りに回転可能となる。
【0026】
ここで、図5に示すように、支持軸9が挿入される上プレート5及び下プレート12側の挿入孔5a,12aは支持軸9に対して縦長に形成されて遊びがあるので、上プレート5及び下プレート12が支持軸9に支持されていても、上プレート5及び下プレート12は上下方向の移動が許容されている。したがって、上述のコイルバネ18による押圧力を隙間調整部材3及び押さえれんが4を介してプラグ1に伝えることができ、また、熱膨張によるプラグ1等の長さ方向の変化に対しても追従できる。
【0027】
ただし、上プレート5によってプラグ1を適切に押圧するには、押さえれんが4の下面の高さ位置を上プレート5の上面の高さ位置に一致させる必要がある。そこで、本実施例では、隙間調整部材3を介在させることによって、押さえれんが4の下面の高さ位置を上プレート5の上面の高さ位置に一致させるようにしている。隙間調整部材3は適正な固さを持った耐火性材料からなり、プラグ1と押さえれんが4との噛み合わせを良くすると共に、プラグ1からのガス漏れを防止する役割も担う。
【0028】
なお、押さえれんが4は、プラグ1と羽口2との間の目地部から溶鋼が進入してときに、その溶鋼の温度をできるだけ低下させるため、80mm以上の高さを有することが好ましい。
【0029】
以上の構成において、プラグ1が使用により消耗して長さが短くなると、ガス供給管1dに溶鋼が流れ込むことがあるが、本実施例では、その溶鋼は空間14で受け止められ、冷却されて凝固する。とくに本実施例では空間14を形成する上プレート5及び下プレート12を金属製としているので、熱伝導によって空間14内の溶鋼を効率的に冷却し凝固させることができる。したがって、ガス供給管1dを通じて溶鋼が外部に漏出することを確実に防止できる。
【0030】
また、空間14は、上プレート5と下プレート12とにより形成されるので、例えば本実施例のように直方体状の単純な形状とすることができ、耐火物をセットするときに使用するモルタルの滓や配管のねじセットに使用するシールテープの切れ端などの異物が混入したとしても詰まりにくい。仮に異物が詰まったとしても、上プレート5と下プレート12とを分離することによって、異物を容易に除去することができる。しかも上プレート5と下プレート12の交換作業は、取鍋Tの外側から容易に行うことができ、メンテナンス性に優れる。
【0031】
さらに、本実施例では、上プレート5及び下プレート12を金属製としているので、上プレート5及び下プレート12を保持するために別途に金枠を設ける必要がなく、上プレート5及び下プレート12を直接、取鍋T側に保持できる。したがって、構造を簡略化でき、コストを低減することができる。
【実施例2】
【0032】
図6に本発明の他の実施例を示す。本実施例では、上プレート5及び下プレート12を耐火物製としている。
【0033】
本実施例でも、上プレート5の下面と下プレート12の上面とにより、ガス供給管1dに連通する空間14を形成している。したがって、先の実施例と同様に、溶鋼がガス供給管1dに流れ込んだとしても、その溶鋼を空間14で受け止め、冷却して凝固させることができる。
【0034】
ただし、上プレート5及び下プレート12を金属製とした先の実施例に比べ、熱伝導性に劣るため、空間14で溶鋼が凝固しにくくなる。また、上プレート5及び下プレート12が耐火物製であると、図6に示すように、上プレート5及び下プレート12を保持するために金枠20を設ける必要があるので、構造が複雑になる。よって、上プレート5及び下プレート12は、先の実施例のように金属製とすることが好ましい。
【0035】
なお、図6において、空間14に連通するガス導入経路及びガス導入管は省略している。
【符号の説明】
【0036】
1 プラグ
1a 多孔質耐火物
1b 緻密質耐火物
1c ガスプール
1d ガス供給管
1e ねじ部
2 羽口
3 隙間調整部材
4 押さえれんが
5 上プレート
5a 挿入孔
6 鉄皮
7 金属板
8a ボルト
8b ナット
9 支持軸
10 支持具
11 シールパッキン
12 下プレート
12a 挿入孔
13 ボルト
14 空間
15 ガスケット
16 ガス導入経路
17 ガス導入管
18 コイルばね
19 ボルト体
20 金枠

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融金属容器内にガスを吹き込むガス吹き込み用プラグを溶融金属容器の底部に設置するためのガス吹き込み用プラグの設置構造において、
ガス吹き込み用プラグにガスを供給するガス供給管の下端部分を支持する上プレートの下面に接するように下プレートを配置すると共に、上プレートの下面と下プレートの上面とにより、前記ガス供給管に連通する空間を形成し、この空間にガス導入経路を連通させたことを特徴とするガス吹き込み用プラグの設置構造。
【請求項2】
前記空間が、上プレートの下面及び/又は下プレートの上面に設けた凹部によって形成されている請求項1に記載のガス吹き込み用プラグの設置構造。
【請求項3】
上プレートがガス吹き込み用プラグを下方から支持しており、この上プレートが弾性体によって上方に押圧されている請求項1又は2に記載のガス吹き込み用プラグの設置構造。
【請求項4】
上プレートが隙間調整部材を介してガス吹き込み用プラグを下方から支持している請求項3に記載のガス吹き込み用プラグの設置構造。
【請求項5】
上プレート及び下プレートが金属製である請求項1〜4のいずれかに記載のガス吹き込み用プラグの設置構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−194457(P2011−194457A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−66474(P2010−66474)
【出願日】平成22年3月23日(2010.3.23)
【出願人】(000170716)黒崎播磨株式会社 (314)
【Fターム(参考)】