説明

ガス拡散層用撥水ペースト及びその製造方法

【課題】ガス拡散層用撥水ペースト及びその製造方法において、十分な塗膜強度が得られるとともにガス拡散性を低下させず、凝集体も発生させず、手間を掛けることなく製造できること。
【解決手段】導電性粉末分散工程として、導電性粉末2としてのカーボンブラック粉末を、イオン交換水を分散媒として、自転公転ミキサーを用いて、導電性粉末の三次元構造を維持したまま分散させる(ステップS1)。これによって、分散液3としてのカーボンスラリーが得られる。続いて、冷却工程として、カーボンスラリー3を自転公転ミキサー用の容器に入れたまま、10℃〜15℃に冷却する(ステップS2)。そして、混合工程として、この容器に、撥水性樹脂4としてのPTFEエマルジョンを添加し、再び自転公転ミキサーを用いて混合を実施することによって(ステップS3)、ガス拡散層用撥水ペースト1が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体高分子型燃料電池に用いられる電極のガス拡散層を形成するためのガス拡散層用撥水ペースト及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
固体高分子型燃料電池においては、高分子電解質膜の両面にカソード側電極及びアノード側電極を形成しており、通常、これらのカソード側電極及びアノード側電極は、白金等の触媒を担持したカーボンブラックとイオン交換樹脂からなる電極触媒層と、カーボンクロスやカーボンペーパー等のカーボン基材に、導電性を付与するためのカーボンブラック粉末等と撥水性を付与するためのポリテトラフルオロエチレン(以下、「PTFE」とも略する。)エマルジョン等を混練した撥水ペーストを塗工してなるガス拡散層によって構成されている。
【0003】
なお、エマルジョン(emulsion;「エマルション」ともいう。)とは、乳濁液ともいい、液体中に液体粒子がコロイド粒子或いはそれより粗大な粒子として乳状をなすもの(分散系)が本来の意味であるが(長倉三郎他編「岩波理化学辞典(第5版)」152頁,1998年2月20日株式会社岩波書店発行)、本明細書及び特許請求の範囲においては、より広い意味で一般的に用いられている「液体中に固体または液体の粒子が分散しているもの」として、「エマルジョン」という用語を用いるものとする。
【0004】
ここで、ガス拡散層を形成するための撥水ペーストは、塗工後のタレ及びカーボン基材への染み込みを防止するために、高分子型増粘剤を添加して適度な粘性に調整して使用されており、塗工後のタレ及びカーボン基材への染み込みを防止するためには降伏値をある程度高くする必要がある。しかし、そのような高い降伏値を有する撥水ペーストは容器、塗工ヘッド等への充填時に気泡を巻き込み易く、塗工面のピンホールやひび割れ等の発生の原因となる。
また、撥水ペースト調整時に掛かる高い剪断応力のため撥水性樹脂エマルジョン中の樹脂分が凝集してブツブツ(凝集物)を生じ、フィルターの目詰まりや塗膜の欠落等が発生する恐れがあった。
【0005】
そこで、このような気泡の巻き込みや樹脂分の凝集を防止することを目的として、特許文献1においては、カーボンブラック粉末等の導電材粉末のみを強い剪断力で混合処理した後に、撥水性樹脂を添加して樹脂の凝集が発生しない程度の弱い剪断力で混合して撥水ペーストを製造し、更に、撥水ペーストを減圧脱泡処理することを特徴とするガス拡散層用撥水ペーストの製造方法の発明について開示している。
【0006】
これによって、ブツブツを生じることがなくなり、塗布工程中に凝集物が詰まってフィルター圧力が増加したり、塗工スジが発生したりすることがなくなるとともに、撥水ペーストを塗布して乾燥した塗膜にピンホールが発生したり、ひび割れが発生したりする事態を防止することができるガス拡散層用撥水ペーストの製造方法となるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−100305号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献1に記載された技術においては、カーボンブラック粉末混合液のみに強い剪断力を掛けて分散させているため、カーボンブラック粉末の三次元構造が破壊され、ポリテトラフルオロエチレン微粒子とカーボンブラック微粒子との強固な三次元構造が形成されず、十分な塗膜強度を得ることができない。
また、流動性が良く降服値の低い撥水ペーストとなるため、基材内に浸透してしまって、ガス拡散性を低下させることになる。
更に、攪拌混合装置として構造の複雑なプラネタリーミキサーを複数台使用しているため、撥水ペーストの製造と攪拌混合装置の洗浄に手間が掛かり、製造コストが増大してしまうという問題点があった。
【0009】
そこで、本発明は、かかる課題を解決すべくなされたものであって、カーボンブラック粉末等の導電性粉末の三次元構造を破壊することなく、PTFE等の撥水性樹脂との強固な三次元結合を形成することができ、十分な塗膜強度を得ることができるとともにガス拡散性を低下させることがなく、凝集体を発生させることもなく、手間を掛けることなく製造することができ、更に、塗工ヘッド等に充填する際にエアーを巻き込むことがないガス拡散層用撥水ペースト及びその製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1の発明に係るガス拡散層用撥水ペーストは、導電性粉末と撥水性樹脂とを含有する撥水ペーストであって、前記導電性粉末の三次元構造を維持したまま前記導電性粉末を分散させた後に前記撥水性樹脂を添加してなるものである。
【0011】
ここで、上記導電性粉末としては、カーボンブラック粉末、グラファイト粉末、気相成長炭素粉末等を用いることができる。
また、上記撥水性樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を始めとして、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体(FEP)、ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂(PFA)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレン・四フッ化エチレン共重合体(ETFE)、エチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)等のフッ素樹脂等を用いることができる。
【0012】
請求項2の発明に係るガス拡散層用撥水ペーストは、請求項1の構成において、前記導電性粉末を分散させた状態で前記導電性粉末を冷却してなるものである。
【0013】
請求項3の発明に係るガス拡散層用撥水ペーストは、請求項1または請求項2の構成において、前記導電性粉末の三次元構造を破壊することのない分散容器中において製造されるものである。
ここで、上記導電性粉末の三次元構造を破壊することのない分散容器としては、攪拌用羽根等によるせん断力を用いることなく、流体のままで導電性粉末同士等の接触や容器の内壁への衝突によって分散するものであり、例えば、自転公転ミキサー等を用いることができる。
【0014】
請求項4の発明に係るガス拡散層用撥水ペーストの製造方法は、導電性粉末と撥水性樹脂とを含有する撥水ペーストの製造方法であって、前記導電性粉末の三次元構造を維持したまま前記導電性粉末を分散させる導電性粉末分散工程と、前記導電性粉末を分散させた分散液に撥水性樹脂を添加して混合する混合工程とを具備するものである。
ここで、上記導電性粉末としては、カーボンブラック粉末、グラファイト粉末、気相成長炭素粉末等を用いることができる。
また、上記撥水性樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレンを始めとして、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体、ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂、ポリクロロトリフルオロエチレン、エチレン・四フッ化エチレン共重合体、エチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体、ポリフッ化ビニリデン等のフッ素樹脂等を用いることができる。
【0015】
請求項5の発明に係るガス拡散層用撥水ペーストの製造方法は、請求項4の構成において、前記導電性粉末分散工程と前記混合工程との間に、更に、前記導電性粉末を分散させた分散液を冷却する冷却工程を具備するものである。
【発明の効果】
【0016】
請求項1のガス拡散層用撥水ペーストは、導電性粉末と撥水性樹脂とを含有する撥水ペーストであって、導電性粉末の三次元構造を維持したまま導電性粉末を分散させてなることから、導電性粉末が分散した分散液に撥水性樹脂を添加して混合することによって、導電性粉末と撥水性樹脂とが強固な三次元構造を形成し、大きな構造粘性を有する撥水ペーストとなる。
【0017】
したがって、カーボン基材に塗布した場合でもカーボン基材に染み込むことなく成膜することができ、ガス拡散性を阻害することがない。また、導電性粉末と撥水性樹脂とが強固な三次元構造を持った塗膜となるため、塗膜とカーボン基材との密着力及び塗膜の破壊強度に優れたガス拡散層となる。
また、導電性粉末を十分に分散させていることから、凝集体を発生することもない。
このように、本発明に係るガス拡散層用撥水ペーストを基材上に塗布して製造されたガス拡散層を用いることで、発電性能・耐久性ともに優れた燃料電池を製造することができる。
【0018】
このようにして、導電性粉末の三次元構造を破壊することなく撥水性樹脂との強固な三次元結合を形成することができ、十分な塗膜強度を得ることができるとともにガス拡散性を低下させることがなく、凝集体を発生させることもなく、手間を掛けることなく製造することができ、更に塗工ヘッド等に充填する際にエアーを巻き込むことがないガス拡散層用撥水ペーストとなる。
【0019】
請求項2のガス拡散層用撥水ペーストにおいては、導電性粉末を分散させた後に、その分散液を冷却している。
本発明者らは、ガス拡散層用撥水ペーストの製造条件について鋭意実験研究を積み重ねた結果、カーボンブラック等の導電性粉末を分散させた後に冷却することによって、より確実に、基材への染み込みもなく高い塗膜強度を有するガス拡散層用撥水ペーストが得られることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成させたものである。
【0020】
ここで、分散液の冷却温度は5℃〜20℃の範囲内が好ましく、10℃〜15℃の範囲内がより好ましい。
このようにして、請求項1に記載の効果に加えて、より確実に、十分な塗膜強度を得ることができるとともにガス拡散性を低下させることがなく、凝集体を発生させることもなく、手間を掛けることなく製造することができ、更に塗工ヘッド等に充填する際にエアーを巻き込むことがないガス拡散層用撥水ペーストとなる。
【0021】
請求項3のガス拡散層用撥水ペーストにおいては、導電性粉末の三次元構造を破壊することのない分散容器中において製造されることから、請求項1または請求項2に記載の効果に加えて、かかる分散容器は攪拌用の羽根等を有しないため、洗浄に手間が掛かることがなく、歩留まりも向上することから、低コストで製造することができる。
また、かかる分散容器を用いることによって、分散容器に入れたまま冷却等の操作をすることも可能となる。
【0022】
請求項4の発明に係るガス拡散層用撥水ペーストの製造方法は、導電性粉末と撥水性樹脂とを含有する撥水ペーストの製造方法であって、導電性粉末の三次元構造を維持したまま導電性粉末を分散させる導電性粉末分散工程と、導電性粉末を分散させた分散液に撥水性樹脂を添加して混合する混合工程とを具備する。
【0023】
このように、導電性粉末の三次元構造を維持したまま導電性粉末を分散させてなることから、導電性粉末が分散した分散液に撥水性樹脂を添加して混合することによって、導電性粉末と撥水性樹脂とが強固な三次元構造を形成し、大きな構造粘性を有する撥水ペーストとなる。
【0024】
したがって、カーボン基材に塗布した場合でもカーボン基材に染み込むことなく成膜することができ、ガス拡散性を阻害することがない。また、導電性粉末と撥水性樹脂とが強固な三次元構造を持った塗膜となるため、塗膜とカーボン基材との密着力及び塗膜の破壊強度に優れたガス拡散層となる。
また、導電性粉末を十分に分散させていることから、凝集体を発生することもない。
結果、本発明に係る製造方法で製造されたガス拡散層用撥水ペーストを基材上に塗布して製造されたガス拡散層を用いることで、発電性能・耐久性ともに優れた燃料電池を製造することができる。
【0025】
このようにして、導電性粉末の三次元構造を破壊することなく撥水性樹脂との強固な三次元結合を形成することができ、十分な塗膜強度を得ることができるとともにガス拡散性を低下させることがなく、凝集体を発生させることもなく、手間を掛けることなく製造することができ、更に塗工ヘッド等に充填する際にエアーを巻き込むことがないガス拡散層用撥水ペーストの製造方法となる。
【0026】
請求項5の発明に係るガス拡散層用撥水ペーストの製造方法においては、導電性粉末分散工程と混合工程との間に、更に導電性粉末を分散させた分散液を冷却する冷却工程を具備する。
本発明者らは、ガス拡散層用撥水ペーストの製造方法について鋭意実験研究を積み重ねた結果、カーボンブラック等の導電性粉末を分散させる工程の後に冷却工程を付加することによって、より確実に、基材への染み込みもなく高い塗膜強度を有するガス拡散層用撥水ペーストが得られることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成させたものである。
【0027】
ここで、分散液の冷却温度は5℃〜20℃の範囲内が好ましく、10℃〜15℃の範囲内がより好ましい。
このようにして、請求項4に記載の効果に加えて、より確実に、十分な塗膜強度を得ることができるとともにガス拡散性を低下させることがなく、凝集体を発生させることもなく、手間を掛けることなく製造することができ、更に塗工ヘッド等に充填する際にエアーを巻き込むことがないガス拡散層用撥水ペーストの製造方法となる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】図1は本発明の実施の形態に係るガス拡散層用撥水ペーストの製造方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明に係るガス拡散層用撥水ペースト及びその製造方法を実施するためには、導電性粉末、分散媒、撥水性樹脂、導電性粉末の分散装置が必要となる。
【0030】
導電性粉末としては、基材として用いられるカーボン基材との相性の点からも、カーボンブラックを用いることが好ましく、特にアセチレンブラックを用いることが好ましい。
また、分散媒としては、イオン交換水を用いることが好ましく、分散性を向上させるために非イオン系界面活性剤を添加することが好ましい。
【0031】
更に、撥水性樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体(FEP)、ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂(PFA)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレン・四フッ化エチレン共重合体(ETFE)、エチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)等のフッ素樹脂のエマルジョン、特にPTFEのエマルジョンを用いることが好ましい。
また、導電性粉末の分散装置としては、せん断力によらず導電性粉末同士の衝突(衝撃)によって導電性粉末を分散させる自転公転ミキサーを用いることが好ましい。
【0032】
以下、本発明の実施の形態に係る固体高分子型燃料電池電極に使用されるガス拡散層用撥水ペーストについて、図面を参照しつつ説明する。
【0033】
最初に、本発明の実施の形態に係るガス拡散層用撥水ペーストの製造方法について、図1を参照して説明する。
図1に示されるように、まず、導電性粉末分散工程として、導電性粉末2としてのカーボンブラック粉末を、イオン交換水を分散媒として、自転公転ミキサーを用いて、導電性粉末の三次元構造を維持したまま分散させる(ステップS1)。これによって、分散液3としてのカーボンスラリーが得られる。
【0034】
続いて、冷却工程として、カーボンスラリー3を自転公転ミキサー用の容器に入れたまま、10℃〜15℃に冷却する(ステップS2)。
そして、混合工程として、この容器に、撥水性樹脂4としてのPTFEエマルジョンを添加し、再び自転公転ミキサーを用いて混合を実施することによって(ステップS3)、本実施の形態に係るガス拡散層用撥水ペースト1が得られる。
【0035】
次に、各成分の配合量を具体的に示して、実施の形態に係るガス拡散層用撥水ペースト1の各実施例の製造手順について説明する。
まず、実施例1として、カーボンブラック2としてのアセチレンブラック(電気化学工業(株)製の商品名「デンカブラック」)を64g、非イオン系界面活性剤を6.4g、分散媒としてのイオン交換水282.1gを、近畿容器(株)製ナンコー容器BHN−55に計量し、シンキー(株)製の自転公転ミキサーAR500を用いて、攪拌モードにおいて回転数1000rpmで2分間、第一混合(図1のステップS1)を実施した。
【0036】
続いて、ナンコー容器BHN−55ごと、混合物(分散液)3を10℃まで冷却し(図1のステップS2)、PTFEエマルジョン(ダイキン工業(株)製 D−1E、樹脂分61%)を26.2g、イオン交換水を21.3g配合して、攪拌モードにおいて回転数1000rpmで3分間、第二混合(図1のステップS3)を実施した。
このようにして、実施例1に係るガス拡散層用撥水ペースト1を製造した。
【0037】
次に、実施例2として、カーボンブラック2としてのアセチレンブラックを64g、非イオン系界面活性剤を6.4g、分散媒としてのイオン交換水282.1gを、近畿容器(株)製ナンコー容器BHN−55に計量し、シンキー(株)製の自転公転ミキサーAR500を用いて、攪拌モードにおいて回転数1000rpmで2分間、第一混合(図1のステップS1)を実施した。
【0038】
続いて、ナンコー容器BHN−55ごと、混合物(分散液)3を15℃まで冷却し(図1のステップS2)、PTFEエマルジョン(ダイキン工業(株)製 D−1E、樹脂分61%)を26.2g、イオン交換水を21.3g配合して、攪拌モードにおいて回転数1000rpmで3分間、第二混合(図1のステップS3)を実施した。
即ち、実施例2が実施例1と異なる点は、冷却温度を10℃から15℃に変えた点のみである。
このようにして、実施例2に係るガス拡散層用撥水ペースト1を製造した。
【0039】
ここで、比較のために、製造条件を変えて、比較例1のガス拡散層用撥水ペーストをも製造した。比較例1としては、冷却工程(図1のステップS2)を実施しない製造工程にしたがって、ガス拡散層用撥水ペーストを製造した。
【0040】
即ち、まず、カーボンブラック2としてのアセチレンブラックを64g、非イオン系界面活性剤を6.4g、分散媒としてのイオン交換水282.1gを、近畿容器(株)製ナンコー容器BHN−55で計量し、シンキー(株)製の自転公転ミキサーAR500を用いて、攪拌モードにおいて回転数1000rpmで2分間、第一混合(図1のステップS1)を実施した。
【0041】
続いて、冷却工程を省略して、PTFEエマルジョン(ダイキン工業(株)製 D−1E、樹脂分61%)を26.2g、イオン交換水を21.3g配合して、攪拌モードにおいて回転数1000rpmで3分間、第二混合(図1のステップS3)を実施した。
このようにして、比較例1のガス拡散層用撥水ペーストを製造した。
【0042】
以上説明した実施例1及び実施例2に係るガス拡散層用撥水ペースト1、並びに比較例1のガス拡散層用撥水ペーストの製造条件を、表1に纏めて示す。
【0043】
【表1】

【0044】
このようにして製造した6種類のガス拡散層用撥水ペーストについて、その諸特性を測定した。
【0045】
まず、実施例1に係るガス拡散層用撥水ペースト1の構造粘性を示す貯蔵弾性率を測定したところ、0.1%歪時で2300Paであった。
このガス拡散層用撥水ペースト1をダイコーターで基材としてのカーボンペーパー上に塗布し、焼成して拡散層を作製した。作製した拡散層の塗膜表面にペーストの凝集による塗料ブツ(塗膜に異物が付着した状態)は見られず、拡散層の断面観察を実施してカーボンペーパーへのペーストの染み込みを調べたところ、染み込みは一切見られなかった。
【0046】
続いて、塗膜表面に粘着テープを貼り付けてオートグラフを用いて剥離を行い、基材との密着性及び塗膜強度の測定を実施した。その結果、塗膜−基材間で剥離し、剥離強度は20N/mであった。
塗膜強度は剥離強度より大きい値であるため、実施例1に係るガス拡散層用撥水ペースト1によって、基材との接着力及び塗膜強度ともに優れたガス拡散層用塗膜を得ることができた。
【0047】
また、実施例2に係るガス拡散層用撥水ペースト1の構造粘性を示す貯蔵弾性率を測定したところ、0.1%歪時で2500Paであった。
このガス拡散層用撥水ペースト1をダイコーターで基材としてのカーボンペーパー上に塗布し、焼成して拡散層を作製した。作製した拡散層の塗膜表面にペーストの凝集による塗料ブツは見られず、拡散層の断面観察を実施してカーボンペーパーへのペーストの染み込みを調べたところ、染み込みは一切見られなかった。
【0048】
続いて、塗膜表面に粘着テープを貼り付けてオートグラフを用いて剥離を行い、基材との密着性及び塗膜強度の測定を実施した。その結果、塗膜−基材間で剥離し、剥離強度は20N/mであった。
塗膜強度は剥離強度より大きい値であるため、実施例2に係るガス拡散層用撥水ペースト1によって、基材との接着力及び塗膜強度ともに優れたガス拡散層用塗膜を得ることができた。
【0049】
これに対して、比較例1のガス拡散層用撥水ペーストの構造粘性を示す貯蔵弾性率を測定したところ、0.1%歪時で1200Paと小さい値であった。
このガス拡散層用撥水ペーストをダイコーターで基材としてのカーボンペーパー上に塗布し、焼成して拡散層を作製した。作製した拡散層の塗膜表面には、ペーストの凝集による塗料ブツが見られ、拡散層の断面観察を実施してカーボンペーパーへのペーストの染み込みを調べたところ、染み込みは見られなかった。
この比較例1については、塗膜表面に塗装ブツが発生したため、剥離試験は実施することができなかった。
【0050】
以上説明した実施例1及び実施例2に係るガス拡散層用撥水ペースト1、並びに比較例1のガス拡散層用撥水ペーストの諸特性を、表2に纏めて示す。
【0051】
【表2】

【0052】
以上説明したように、本実施の形態の実施例1及び実施例2に係るガス拡散層用撥水ペースト1においては、カーボンブラック粉末の三次元構造を破壊することなくPTFE樹脂との強固な三次元結合を形成することができる。
その結果、基材に塗布することによって十分な強度を有する塗膜を形成することができ、塗膜ブツも、基材への染み込みも発生しない。
【0053】
このようにして、本実施の形態に係るガス拡散層用撥水ペースト及びその製造方法は、十分な塗膜強度を得ることができるとともにガス拡散性を低下させることがなく、凝集体を発生させることもなく、手間を掛けることなく製造することができ、更に塗工ヘッド等に充填する際にエアーを巻き込むことがないガス拡散層用撥水ペースト及びその製造方法となる。
【0054】
本実施の形態においては、「導電性粉末」としてアセチレンブラック(電気化学工業(株)製の商品名デンカブラック)を用いた場合について説明したが、アセチレンブラックとしては商品名デンカブラックに限られるものではなく、他のアセチレンブラックを用いることも可能であり、また、カーボンブラックとしてはアセチレンブラックに限られるものではなく、他のカーボンブラック粉末を用いることもできる。
更に、導電性粉末としては、カーボンブラック粉末に限られるものではなく、他の導電性粉末、例えばグラファイト粉末や気相成長炭素粉末等を用いても良い。
【0055】
また、本実施の形態においては、「撥水性樹脂」としてPTFEエマルジョン(ダイキン工業(株)製 D−1E)を用いた場合について説明したが、PTFEエマルジョンとしてはダイキン工業(株)製 D−1Eに限られるものではなく、その他の製品を用いることもできる。
更に、撥水性樹脂としてはPTFEに限られるものではなく、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体(FEP)、ペルフルオロアルコキシフッソ樹脂(PFA)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレン・四フッ化エチレン共重合体(ETFE)、エチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)等のフッ素樹脂を始めとして、その他の撥水性樹脂及びそのエマルジョンを用いることができる。
【0056】
更に、本実施の形態においては、導電性粉末の三次元構造を維持したまま導電性粉末を分散させる分散装置として、シンキー(株)製の自転公転ミキサーAR500を用いた場合について説明したが、自転公転ミキサーとしてはシンキー(株)製の自転公転ミキサーAR500に限られるものではない。また、導電性粉末にせん断力を与えることなく、導電性粉末に衝突エネルギー(衝撃エネルギー)を与えることによって分散させる分散装置としては自転公転ミキサーに限られるものではなく、せん断力を与えずに導電性粉末同士または導電性粉末との接触や導電性粉末の容器内壁への衝突によって分散させる装置であれば、どのような分散装置を用いても良い。なお、自転公転ミキサーの場合は導電性粉末同士の衝突(接触)及びミキサーの容器内壁への導電性粉末の衝突(接触)により発生する衝突エネルギーを利用して分散を行っている。
【0057】
本発明を実施するに際しては、ガス拡散層用撥水ペーストのその他の構成、成分、材料、配合、形状、大きさ、製造方法等についても、ガス拡散層用撥水ペーストの製造方法のその他の工程についても、本実施の形態に限定されるものではない。
【0058】
なお、本発明の実施の形態で上げている数値は、臨界値を示すものではなく、実施に好適な適正値を示すものであるから、上記数値を若干変更しても実施を否定するものではない。
【符号の説明】
【0059】
1 ガス拡散層用撥水ペースト
2 導電性粉末
4 撥水性樹脂

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性粉末と撥水性樹脂とを含有する撥水ペーストであって、前記導電性粉末の三次元構造を維持したまま前記導電性粉末を分散させた後に前記撥水性樹脂を添加してなることを特徴とするガス拡散層用撥水ペースト。
【請求項2】
前記導電性粉末を分散させた状態で前記導電性粉末の分散液を冷却してなることを特徴とする請求項1に記載のガス拡散層用撥水ペースト。
【請求項3】
前記導電性粉末の三次元構造を破壊することのない分散容器中において製造されることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のガス拡散層用撥水ペースト。
【請求項4】
導電性粉末と撥水性樹脂とを含有する撥水ペーストの製造方法であって、
前記導電性粉末の三次元構造を維持したまま前記導電性粉末を分散させる導電性粉末分散工程と、
前記導電性粉末を分散させた分散液に撥水性樹脂を添加して混合する混合工程と
を具備することを特徴とするガス拡散層用撥水ペーストの製造方法。
【請求項5】
前記導電性粉末分散工程と前記混合工程との間に、更に前記導電性粉末を分散させた分散液を冷却する冷却工程を具備することを特徴とする請求項4に記載のガス拡散層用撥水ペーストの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−9169(P2012−9169A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−141595(P2010−141595)
【出願日】平成22年6月22日(2010.6.22)
【出願人】(000100780)アイシン化工株式会社 (171)
【Fターム(参考)】