説明

ガス検出装置

【課題】 監視区域の水素ガスを早期に検知すること。
【構成】 監視区域にある水素関連施設から空気をサンプリングするサンプリング管10を設け、そのサンプリング管10の基端側にドライポンプ12を設ける。そして、サンプリングされた空気をイオン化して質量分析する質量分析計MSも管10の基端側に備える。こうして、この質量分析計により、空気中に漏洩した水素ガスを検知する。
サンプリング管の先端部又は途中にメンブレンフィルタ13,15を設けて、防滴効果を持たせると共に、水素の選択透過性を高める。また、そのメンブレンフィルタは、水素ガスの消炎距離よりも小さい孔径のフィルタで構成してある。
質量分析計はヒータで加熱され、また差動排気システムにより、サンプリング管と質量分析計を接続している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はガス検出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、燃料電池の開発に伴い、水素を扱う水素ステーション(水素スタンド)と呼ばれる施設が建てられている。水素は爆発の危険性があることから、水素ステーションなどの施設において、水素ガスの漏洩を早期に検出できる防災システムの確立が望まれている。しかし、水素ガスは、空気より軽く、分子が小さいためため、配管などから漏洩すると、空気中に拡散してしまい、水素ガスの検知は非常に困難である。また爆発に備えて防爆用のガス検知器を使用した場合、ガスの検知により時間がかかってしまうという問題があった。
【0003】
ガスを検知する手段としては、半導体式や接触燃焼式といった汎用のガスセンサの他に、質量分析計がある。質量分析計は、検知対象であるガスを一分子から100%までの範囲で検出できる優れた機器であるが、主に室内で使用する精密な分析用の機器であるため、屋外でのガスの漏洩の検出には適していない。特許文献1には、この質量分析計を使用して、機器類の気密性をテストする質量分析型ガス漏れ検知器が開示されている。
【特許文献1】特開平6−137986号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、このガス漏れ検知器には、屋外におけるガスの検出にあたって、ノイズを除去する手段が講じられていなかった。つまり、屋外でガスをサンプリングすると、対象となるガスだけでなく、空気中の水分をも検出することになる。質量分析計は、その非常に高感度の特性のため、わずかな水分をも検出してしまうと、得られるマススペクトルのピークがぼやけ、何のガスを検出したか識別できなくなってしまうという問題があった。そこで、本発明は、質量分析計を使用して、監視区域の水素ガスを早期に検知することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は以上の課題を解決するためになされたもので、監視区域から空気をサンプリングするサンプリング管と、該サンプリング管の基端側に設けられ、サンプリングされた空気をイオン化して質量分析する質量分析計とを備えたガス検出装置において、前記質量分析計により、前記空気中の水素ガスを検知することを特徴とするものである。
【0006】
また、サンプリング管の先端部又は途中にメンブレンフィルタを設け、そのメンブレンフィルタを、水素ガスの消炎距離よりも小さい孔径のフィルタで構成することを特徴とするものである。また、質量分析計をヒータで加熱することを特徴とするものである。更に、質量分析計の圧力を高い真空状態に保ち、サンプリング管内を大気圧状態に保ち、該質量分析計と前記サンプリング管をガス導入管を介して接続したことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0007】
質量分析計により、空気中に漏洩した水素ガスを検知するようにしたので、通常のガスセンサに比べ、著しく早くガスを検知でき、ガスを低濃度から高濃度まで検知することが可能となる。またサンプリング管を使用することで、監視区域において漏洩したガスを質量分析計に導入することができる。
【0008】
また、サンプリング管の先端部に、メンブレンフィルタを設けたので、防滴効果が向上し、サンプリング管内に水が浸入するのを防止できる。また、サンプリング管に、水素ガスの消炎距離よりも小さい孔径のメンブレンフィルタを設けたので、サンプリング管の途中で爆発が生じることを防ぐことができる。
【0009】
また、質量分析計をヒータで加熱するようにしたので、質量分析計内のガス用の配管内に水滴が付着したりした際、水滴の凍結を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
図1は本発明のガス検出装置Gを説明するためのシステムブロック図である。本発明のガス検出装置Gは、質量分析計MSと、サンプリング管10とドライポンプなどを備えたサンプリング部分とから構成される。
【0011】
図において、MSは質量分析計である。質量分析計MSは、イオン化部2,質量分離部4(分析部ともいう),検出部6とで構成されており、サンプリング管10の基端側に設けられ、サンプリングされた空気をイオン化して質量分析する。
【0012】
質量分析計MSのイオン化部2としては、最も一般的な電子衝撃イオン化(EI)法が一例として使用される。これは、加速した電子を試料(中性)分子に衝突させ、イオン化させる方法である。
【0013】
質量分離部4については、例えば、最も普及している、四重極型を使用している。四重極型は4本のポール状電極の対角線各2本に同一極性の同一電圧をかけ、この極性を高速で切り換えるときにポール内を通過できるイオンの質量数がポールにかけた電圧に比例することを利用して、特定の質量電荷比(m/z)をもつイオン(本実施形態の場合は水素イオン)のみを通過させ分離を行うものである。なお、mは分子量、zは電荷数である。

検出部6は光電子増倍管などを備え、分離された1つのイオンを検出する。検出部6は、外部のデータ解析処理装置8と接続され、検出信号をデータ解析処理装置へ送るように構成されている。そして、イオンを質量ごとに分離して検出することにより、横軸(イオンの質量数)/縦軸(イオンの検出強度)からなるMSスペクトルを得るように構成されている。データ解析処理装置8は、質量分析計MSからのスペクトルデータを処理して必要なピーク値のみ選択してデータ解析する。
【0014】
質量分析計MSを構成するイオン化部2,質量分離部4,及び検出部6は、ガス分析するにあたって、高い真空度を必要とするので、真空ポンプとしてのターボ分子ポンプTMPとドライポンプ9を2台直結して、質量分析計MSの室内の圧力を10↑−5Torr程度の圧力にしている。この圧力は、10↑−4〜10↑−6Torrの範囲で調整され、その中で好ましい値が、10↑−5Torrである。なお、ポンプの台数を増やして、イオン化部2、質量分離部4,検出部6の室内の圧力を、順次低下させるような差動排気系のシステムを構成するようにしてもよい。
【0015】
以上で説明した質量分析計MSに関する部分は、既に知られている他の質量分析計MSに置き換えることが可能である。例えば、イオン化や質量分離の原理の異なる、ソフトイオン化法や、イオントラップ式や、磁場型、TOF式などの他の質量分析計を使用してもよい。
【0016】
続いて、サンプリング部分について説明する。10はサンプリング管で、その先端は監視区域に設置され、基端にはドライポンプ12が接続されて、監視区域から空気をサンプリングしている。ここで監視区域は、例えば水素ステーションなどの水素を貯蔵した施設などである。
【0017】
本実施形態では、真空ポンプとして、油動作液を使用する「ウェットポンプ」を使用せずに、油動作液を使用しない「ドライポンプ」を使用している。これは、「ウェットポンプ」を使用すると、排気動作を行わせるのに必要な動作液である油が原因となって、質量分析計MS内で油汚染となって、スペクトルに油成分による干渉ピークが生じるからである。また油中にサンプルガスが溶存して、いつまでも残存ピークとしてサンプルピークが消滅しないといった問題も生じる。
【0018】
サンプリング管10の内径は、流速が低下しないように、できるだけ細くすることが望ましい。この内径は、監視区域からドライポンプ12までの距離によって調整され、例えばその距離が1m程度なら、内径が0.3mm程度以下のサンプリング管が使用される。また、その距離が10m程度なら、サンプリング管の内径を0.52mm程度に調整して、所定時間内に一定流量の空気をサンプリングできるように管径は調整される。
【0019】
サンプリング管10の先端部には、第1のメンブレンフィルタ13が設けられ、また、サンプリング管10の途中には、第2のメンブレンフィルタ15が設けられる。メンブレンフィルタとしては、ゴム等の高分子膜、セラミック多孔体、金属焼結体、液膜などが使用される。第1のメンブレンフィルタ13は例えば、高分子膜から形成され、孔径が0.01〜1μmのものが使用され、好ましくは0.05μmのものが使用される。また第2ののメンブレンフィルタ15の孔径は1μm〜0.3mmのものが使用され、好ましくは、0.5μm程度のものが使用される。この第2のメンブレンフィルタ15としては、特に金属焼結体又は金網が使用される。
【0020】
メンブレンフィルタ13,15には、その孔径によって、「防滴」、「水素の選択性」、「消炎(水素ガスによる爆発を防止)」という3つの機能(効果)がある。孔径が0.6mm未満であれば、消炎の効果があり、50μm以下であれば防滴の効果がある。そして、孔径が10μm以下であれば、酸素分子などをカットして、分子径の小さい水素分子だけを効率よく選択して透過させる膜(フィルタ)となる。
【0021】
サンプリング管10において、ドライポンプ12の一次側と質量分析計MSは、細い管径のガス導入管20によって接続されている。そして、ガス導入管20の途中には、流量制御用のニードルバルブ22が設けられ、ガス導入管20の流路を絞っている。なお、ニードルバルブ22に変えてオリフィスを使用してもよい。ここで、サンプリング管10のドライポンプ側12の圧力は、760torr(およそ10↑3torr)で、質量分析計MSの圧力は、10↑−5torrで、高い真空状態にあり、両者の圧力差は大きい。このため、サンプリング管10と質量分析計MSとを、ガス導入管20を介して接続し、ニードルバルブ22によってその流路を絞ってある。こうすることで、質量分析計MSの真空状態を保ち、かつガス成分も通過できるようにすることが可能となり、いわゆる差動排気系が構成されている。このような差動排気系のシステムを介して質量分析計MSにサンプリングした空気を導入するので、質量分析計MSに不純物が入りにくく、長期のモニタリングが可能となる。
【0022】
なお、図において、30は加熱手段としてのヒータである。ヒータ30は100℃で質量分析計MS全体とガス導入管20を加熱するものである。これは、質量分析計MS内部では圧力が低いことから、質量分析計MS内のガス用の配管(キャピラリ)内に水滴が付着したりすると、大気圧下に比べ凍結しやすいからで、この凍結を防止するためである。特に、ガス導入管20におけるニードルバルブ22で絞られ、細くなった部分は凍結の可能性が高いので、ヒータ30による加熱が望まれる。
【0023】
次に、屋外の監視区域にある図示しない水素ステーションなどの施設において、配管などの亀裂箇所から、水素が漏洩する場合について説明する。水素ガスは空気中へと拡散されるが、その一部は、サンプリング管10の先端部にあるメンブレンフィルタを通って、サンプリングされる。
【0024】
この時、サンプリング管10の先端部にはメンブレンフィルタ13が設けてあるので、雨粒がサンプリング管10に入ることはなく、サンプリング管10内部へは気体のみを通過させて、空気中の水分(液体)の浸入を阻止する事が可能となる。つまり、雨粒などの水滴の大きさは、20〜50μmの粒径でメンブレンフィルタ13より大きいので、メンブレンフィルタ13を設けることで防滴効果が向上し、屋外にガス検出装置Gを設置しても支障がない。
【0025】
またメンブレンフィルタ13に0.05μmという孔径の小さいものを使用することで、検知対象である分子径の小さい水素分子のみを透過させて酸素分子がサンプリング管10に流入するのを防止できる。このように水素分子だけを選択することで、サンプリング管10に入る水素ガスを濃縮することができる。
【0026】
サンプリング管10によって吸い込まれた水素ガスは、大部分がドライポンプ12側へ導かれて、排気され大気中に放出されるが、その一部は、ガス導入管20及びニードルバルブ22を通って、質量分析計MSに導入される。
【0027】
ところで、「サンプリング管10の内径は、流速が低下しないように、できるだけ細くするとことが望ましい」と前述した。これは、一つは流速を低下させないことで、ガスの漏洩時は、早期にガスを検出するためであるが、もう一つ理由がある。それは、太い径の管を使用すると、水素ガスをサンプリングしている際に爆発を起こす危険があるからである。
【0028】
水素ガスの消炎距離、即ち、爆発によって炎が生じるのに必要な最低限の距離は、0.6mmである。つまり、サンプリング管10の内径を0.6mm未満にしておけば、サンプリング管10の距離を伸ばしても、その途中で爆発が生じることを防ぐことができる。本実施形態では、0.6mm未満の内径のサンプリング管10を使用しているので、特に爆発の問題は生じることはないが、水素ガスの消炎距離よりも小さい孔径の第2のメンブレンフィルタ(金属製フィルタ)15を設けることで、吸引した水素ガスによる爆発をより確実に防止することが可能となる。
【0029】
また管径が小さく、管内がより低い圧力下では、そのサンプリング管10を流れる気体分子の流れは、粘性流から分子流となり、分子が互いに衝突しない平均自由工程が大きくなるので、結果として水素ガスが濃縮された状態となる。
【0030】
サンプリングした水素ガスを含んだ空気が、質量分析計MSに導入されると、イオン化部2でイオン化され、質量分離部4で、特定の質量電荷比をもつ水素イオンのみを通過させ分離を行い、検出部6が、その分離されたイオンを検出する。そして、検出部6は、検出信号をデータ解析処理装置8へ送る。ここで、質量電荷比2にピークを有するマススペクトルが得られることから、そのピークを水素分子と認識して検出する。このようにして、質量分析計MSにより、屋外(監視区域)において空気中に漏洩した水素ガスを検知する。なお、データ解析処理装置8は、水素ガス(水素分子)を検知した際、火災が発生したと判断し、図示しない火災警報部を動作させるようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明のガス検出装置Gを説明するためのシステムブロック図である。
【符号の説明】
【0032】
2 イオン化部、 4 質量分離部、 6 検出部、
8 データ解析処理装置、 10 サンプリング管、 12 ドライポンプ、13 メンブレンフィルタ、 15 メンブレンフィルタ、 20 ガス導入管、
22 ニードルバルブ、 30 ヒータ、
MS 質量分析計、 TMP ターボ分子ポンプ、


【特許請求の範囲】
【請求項1】
監視区域から空気をサンプリングするサンプリング管と、該サンプリング管の基端側に設けられ、サンプリングされた空気をイオン化して質量分析する質量分析計とを備えたガス検出装置において、
前記質量分析計により、前記空気中の水素ガスを検知することを特徴とするガス検出装置。
【請求項2】
サンプリング管の先端部又は途中にメンブレンフィルタを設けたことを特徴とする請求項1記載のガス検出装置。
【請求項3】
前記メンブレンフィルタは、水素ガスの消炎距離よりも小さい孔径のフィルタであることを特徴とする請求項2記載のガス検出装置。
【請求項4】
前記質量分析計をヒータで加熱することを特徴とする請求項1記載のガス検出装置。
【請求項5】
前記質量分析計の圧力を高い真空状態に保ち、前記サンプリング管内を大気圧状態に保ち、該質量分析計と前記サンプリング管をガス導入管を介して接続したことを特徴とする請求項1記載のガス検出装置。



【図1】
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【公開番号】特開2006−38537(P2006−38537A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−216542(P2004−216542)
【出願日】平成16年7月23日(2004.7.23)
【出願人】(000233826)能美防災株式会社 (918)