説明

ガス検知器性能試験装置およびガス検知器の性能試験方法

【課題】 試料ガスが不要であり、ガスセンサのガス検知能力を犠牲にすることがなく、種々の試験条件でガス検知器の性能試験を行うことのできる装置および方法の提供。
【解決手段】 ガス検知器性能試験装置は、各々、互いに検知対象ガスの種類または濃度検出レベルの異なるガスセンサを具えたガス検知ユニットの複数が選択的に交換可能に装着されるガス検知ユニット装着部およびすべてのガス検知ユニットに共通の信号処理システムを有するメイン基板を有するガス検知器本体を具えたガス検知器の性能を試験するものであって、指定された検知対象ガスに係るガス検知ユニットが指定された濃度値のガスを検出したときに得られる出力信号に相当する試験用出力信号を生成し、前記ガス検知ユニット装着部に装着される試験用センサユニットを介して、ガス検知器本体におけるメイン基板に供給する機能を有するガス検知器性能試験装置本体を具えてなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス検知器性能試験装置およびガス検知器の性能試験方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、例えば半導体装置あるいは液晶装置の製造工場、または各種の化学工場などにおいては、環境雰囲気中に特定の危険性ガスが高濃度で含有されて例えば作業員に危険な状態となった場合に、そのことを警告報知するためにガス検知器が用いられているが、ガス検知器においては、その動作状態が正常であることを確認する動作状態検査を、設置時のみならず、その後周期的に行う必要がある。この動作状態検査においては、例えば、ガスセンサに対して意図的に検知対象の試料ガスを試供させる、いわゆる「ガス入れ」を行い、当該ガスセンサから発せられる警報信号に基づいた、所期の警告情報の表示などの動作状況が正常であるか否かが確認される動作テストが行われる。
【0003】
しかしながら、このような検査方法では、試験対象となるガス検知器の数、あるいは、検知対象ガスの種類が少ない場合には有用であるとしても、例えば、生産設備のガス漏れを監視するために、例えば検知対象ガスの種類が同一または異なる複数台のガス検知器による大規模なガス監視システムなどにおいては、検査に長時間の時間を要するばかりでなく多くの人手を要するという問題がある。
【0004】
一方、例えば、光の透過量に基づいて試料ガス中の所定物質の濃度を測定するたとえばオゾン濃度計などのガス濃度計の検査方法において、試料ガスを用いずに、光源の発光量を制御することによって、濃度が既知のガスに対して濃度測定を行った状態を擬似的に作りだし、その結果に基づいて、ガス濃度計の検査を行う技術が知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−128955号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来におけるガス検知器の動作状態検査においては、実際のガスセンサを装着した通常の使用状態で性能試験が行われるため、必然的に、ガスセンサのガス検知能力が消耗してしまうという問題があり、特に、過酷状況試験の実施などにおいては、ガスセンサへのダメージや悪影響が大きくなる。
【0007】
本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであって、試料ガスが不要であり、しかも、ガスセンサのガス検知能力を犠牲にすることがなく、種々の試験条件でガス検知器の性能を試験することのできるガス検知器性能試験装置およびガス検知器の性能試験方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のガス検知器性能試験装置は、各々、互いに検知対象ガスの種類または濃度検出レベルの異なるガスセンサを具えたガス検知ユニットの複数が選択的に交換可能に装着されるガス検知ユニット装着部を有すると共に、すべてのガス検知ユニットに共通の信号処理システムを有するメイン基板を具えたガス検知器本体と、前記ガス検知ユニットとよりなるガス検知器の性能を試験するための装置であって、
ガス検知器性能試験装置本体と、前記ガス検知器本体のガス検知ユニット装着部に装着される試験用センサユニットとよりなり、
当該ガス検知器性能試験装置本体は、指定された、検知対象ガスの種類またはガスセンサの種類およびガス濃度値を含む試験条件に係る動作指令信号を受けて、当該指定された検知対象ガスを検知するためのガス検知ユニットが指定された濃度値の検知対象ガスを検出したときに当該ガス検知ユニットから発せられる出力信号に相当する、電気的信号による試験用出力信号を生成し、前記試験用センサユニットを介して、ガス検知器本体におけるメイン基板に供給する機能を有することを特徴とする。
【0009】
本発明のガス検知器性能試験装置においては、ガス検知器本体は、ガス検知ユニットに被検ガスを供給するポンプ装置をさらに具えており、
ガス検知器性能試験装置本体は、ガス検知器本体に接続されるガス流路を具えており、当該ガス流路における配管負荷を制御することによって、ガス検知器におけるポンプ装置の異常状態または故障状態を人為的に作り出す機能をさらに有する構成とされていることが好ましい。
【0010】
本発明のガス検知器の性能試験方法は、上記ガス検知器性能試験装置を用い、
試験対象となるガス検知器本体のガス検知ユニット装着部に試験用センサユニットを装着し、
当該ガス検知器本体が検知すべき検知対象ガスの種類およびガス濃度値を含む試験条件を指定することにより、ガス検知器性能試験装置本体から当該試験用センサユニットを介してガス検知器に対し、当該指定された検知対象ガスを検知するためのガス検知ユニットが指定された濃度値の検知対象ガスを検出したときに当該ガス検知ユニットから発せられる出力信号に相当する、電気的信号による試験用出力信号を供給し、
この試験用出力信号が供給されたことによるガス検知器本体の反応の状態をガス検知器性能試験装置本体において検査することを特徴とする。
【0011】
また、本発明のガス検知器の性能試験方法は、上記ガス検知器性能試験装置を用い、
試験対象となるガス検知器本体のガス検知ユニット装着部に試験用センサユニットを装着すると共に、ガス検知器性能試験装置本体内におけるガス流路とガス検知器におけるガス導入部とを配管接続し、
ガス検知器性能試験装置本体内におけるガス流路の配管負荷を制御することによって、ガス検知器におけるポンプ装置の故障状態または異常状態を人為的に作り出し、
ガス検知器本体に導入されるガス流量が制限されることによる当該ガス検知器本体の反応の状態をガス検知器性能試験装置本体において検査することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明のガス検知器性能試験装置によれば、電気的信号によるいわば擬似的出力信号である試験用出力信号を試験用センサユニットを介してガス検知器本体に供給することによって、所定濃度のガス検知がガス検知ユニットによって行われる実際の状況、あるいは、ポンプ装置等の故障によってガス流量が低下するなどの故障状態(異常状態)を、人為的に(意図的に)作りだしてガス検知器の性能試験を行う構成とされているので、試料ガスが不要であり、また、試験対象ガス検知器においては実際のガスセンサを具えたガス検知ユニットが装着されている必要がないので、性能試験の実施によってガスセンサのガス検知能力が犠牲となること(消耗または劣化すること)がない。
また、ガス検知器の性能試験を行うに際しては、試験用センサユニットをガス検知器本体におけるガス検知ユニット装着部に対して装着し、ガスの種類およびガス濃度値を含む試験条件を指定しさえすればよいので、一の試験用センサユニットによって、すべてのガス検知ユニット(ガスの種類)についてのガス検知器本体の性能試験を行うことができる。
【0013】
本発明のガス検知器の性能試験方法によれば、試験用センサユニットを介して供給される電気的信号による擬似的信号が、ガスの種類およびガス濃度値を含む試験条件が任意に指定されることによって生成されるものであるので、ガス検知器の性能試験を種々の条件で行うことができ、また、試験条件の切り替えを極めて容易に行うことができて性能試験自体を容易にかつ効率よく確実に行うことができる。
また、実際のガス検知ユニットを使用しないので、いわゆる「過酷状況試験」や「加速度試験」を行うことができ、さらに、試料ガスを使用しないので、例えば有害ガスについての性能試験を行う場合であっても、危険が全くなく安全である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明のガス検知器性能試験装置の試験対象となるガス検知器の一構成例を示す斜視図である。
【図2】図1に示すガス検知器において、前面カバー蓋が開状態とされた状態をガス検知ユニットおよびガス検知器性能試験装置と共に示す斜視図である。
【図3】本発明のガス検知器性能試験装置の一例における構成の概略を示すブロック図である。
【図4】ガス検知器性能試験装置本体内に構成されたガス流路の一例を概略的に示す配管図である。
【図5】ガス検知器本体のガス検知ユニット装着部に試験用センサユニットが装着された状態を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明するが、先ず、本発明のガス検知器性能試験装置の試験対象となるガス検知器について説明する。
【0016】
<ガス検知器>
図1は、本発明のガス検知器性能試験装置の試験対象となるガス検知器の一構成例を示す斜視図、図2は、図1に示すガス検知器において、前面カバー蓋が開状態とされた状態をガス検知ユニットおよびガス検知器性能試験装置と共に示す斜視図である。
このガス検知器10は、正面に表示部26,操作部27および警報用発光部28を有すると共に下面にガス導入部13A,ガス排出部13Bおよび電源ケーブル接続部14を有するガス検知器本体10Aと、ガス検知ユニット30とにより構成されており、後背面が、例えば工場およびその他の建物のガス検知対象空間を画成する壁面など垂直な被取り付け面に固定されて設置されるものである。
【0017】
ガス検知器本体10Aは、扁平な(縦長の)直方体形状の外匣11を具え、この外匣11内における一方の側壁の近傍位置において、側壁に沿って前後方向に伸びるよう配設されたメイン基板15と、外匣11内において形成される前方に開口する凹所よりなるガス検知ユニット装着部18を開閉する前面カバー蓋20と、被検査ガスをガス導入部13Aよりバッファ47(図4参照)を介して吸引してガス検知ユニット30に供給する電磁駆動式のポンプ装置45(図4参照)と、ガスセンサに導入される被検ガスの流量を監視する流量センサ46(図4参照)とを備えており、ガス検知ユニット30がガス検知ユニット装着部18に対して気密に接続されて着脱自在に装着される構成とされている。
【0018】
外匣11における天板の前縁側部分には、前面カバー蓋20を閉状態に固定するロック機構によるロックを解除するロック解除部12が形成されている。ロック解除部12は、上方から押圧されることにより弾性的に変形されるよう、天板の一部分が片状に切り出されてなるボタン部12Aの2つが幅方向に並んで形成されて構成されている。
【0019】
メイン基板15は、互いに検知対象ガスの種類または濃度検出レベルが異なる複数種のガスセンサのすべてのものに共通の信号処理システムを有し、各々のガス検知ユニット30から供給される統一された規格の出力信号を処理して、例えば表示用データとして表示部26に伝送する機能を有すると共に、検知対象ガスについて設定された警報点を越えたときに警報信号を例えば警報用発光部28に出力する機能を有する。
【0020】
このガス検知器10においては、ガス検知ユニット装着部18に装着されたガス検知ユニット30についての固有の情報が記録されるメモリ40(図3参照)を具えている。
メモリ40に記録されるガス検知ユニット30についての固有の情報としては、例えばセンサ型式,ガス名,フルスケール,警報点(第1警報点,第2警報点),警報タイプ,ゼロサプレス値,単位,1デジット値,流量設定値,警報遅延時間,小数点位置,校正前濃度,校正後濃度,校正日時,校正濃度,ゼロ追尾設定,Wレンジデータ,切り替え濃度などを例示することができる。
【0021】
前面カバー蓋20は、前面カバー蓋ロック機構によって閉状態に固定される閉位置と開状態とされる開位置との間で回動自在に設けられており、例えばフラットケーブル(図示せず)により、ガス検知器本体10Aにおけるメイン基板15と電気的に接続された、表示用素子および操作用ボタンを含む電子部品が実装された表示用/操作用回路基板(図示せず)を具えている。
また、前面カバー蓋20には、閉状態とされた状態において、装着されたガス検知ユニット30に係るガスセンサの種類等の情報を示す銘板32を、外部から視認するための視認用開口部21が形成されている。
【0022】
前面カバー蓋ロック機構は、前面カバー蓋20の上縁部において互いに幅方向に離間して設けられた2つの係合用爪部22,22により構成されており、当該係合用爪部22,22が外匣11に係合されることにより前面カバー蓋20が閉状態に固定される二重のロック機構であって、ガス検知ユニット30が装着された状態においてロック機構が作動されると共に、外匣11に形成された2つのボタン部12A,12Aによって前面カバー蓋20の係合用爪部22,22の外匣11に対する係合が共に解除されることにより前面カバー蓋20が回動可能な状態とされる。
【0023】
而して、このガス検知器10においては、前面カバー蓋20が開状態とされた状態において、前方に開口する凹所よりなるガス検知ユニット装着部18が形成されており、ガスセンサが当該ガスセンサの出力信号を処理するセンサ基板と共に当該ガスセンサの種類に応じたセンサケース31内に収容されることによりガス検知ユニット30としてユニット化されてガス検知ユニット装着部18に着脱自在に装着される。
【0024】
ガスセンサとしては、例えば定電位電解式センサ、熱粒子化式センサ、ガルバニ電池式センサ、接触燃焼式センサ、半導体式センサなどを例示することができる。
【0025】
センサ基板は、ガスセンサからのセンサ出力信号を処理して、例えばガス濃度データおよびガスセンサの故障状態および測定単位などのステータスデータを含む、メイン基板15の信号処理システムによって処理可能な統一された規格の測定データとしての電気的信号による出力信号を作成すると共に、当該出力信号をガス検知器本体10Aにおけるメイン基板15に送信する機能を有する。
【0026】
ガス検知ユニット30を構成するセンサケース31は、ガスセンサの種類(検知対象ガスの種類または濃度検出レベルの異なるもの)に応じたものが用いられているが、外形形状が互いに実質的に同一のもの、すなわち、ガス検知ユニット装着部18と適合する外形形状を有するものとされており、従って、このガス検知器10においては、互いに検知対象ガスの種類または検知レベルの異なるガスセンサを具えた複数のガス検知ユニットのうちから目的に応じて選択されたいずれか一のガス検知ユニット30が、当該ガス検知ユニット30に係るガスセンサと異なる種類のガスセンサを具えた他のガス検知ユニットと選択的に交換可能に装着できるよう構成されている。
センサケース31の背面には、ガス検知器本体10Aにおけるガス検知ユニット接続用コネクタ部15Aに接続される接続用コネクタ部(図示せず)が設けられている。
【0027】
ガス検知ユニット30は、前面カバー蓋20が開状態とされた状態において、ガス検知ユニット装着部18に対して正面側(前面側)から挿入され、接続用コネクタ部がガス検知ユニット接続用コネクタ部15Aと電気的に接続された状態で、ガス検知ユニット装着部18に収容されて配置される。そして、前面カバー蓋20が閉状態とされることにより、ガス検知ユニット装着部18にセットされた状態、すなわち、ガス検知器本体10Aのメモリ40に記録されている情報の、装着されたガス検知ユニット30についての固有の情報への更新記録(設定変更)動作が行われてガス検知動作が可能な状態とされる。
一方、ガス検知ユニット30を取り外す場合には、ガス検知ユニット30はガス検知器本体10Aに対して機械的に固定されていないことから、前面カバー蓋20の外匣11に対する係合を解除することによりロック状態を解除して前面カバー蓋20を開状態にした状態において、ガス検知ユニット30を単に引き出すことによって取り外すことができる。
【0028】
このガス検知器10においては、目的とする検知対象ガスを検知するためのガスセンサを具えたガス検知ユニット30がセットされた状態において、ポンプ装置45が動作されることにより、被検ガスがガス導入部13Aを介して導入されてガス検知ユニット30におけるガスセンサに供給され、検知対象ガスのガス検知(監視)が行われる。すなわち、ガスセンサからのセンサ出力信号は、ガス検知器本体10Aのメイン基板15における信号処理システムと同一または異なる、センサ基板における信号処理システムによって処理され、これにより、検知対象ガスのガス濃度データおよびステータスデータを含む、統一されたデータ通信の規格による出力信号(検知対象ガスについての電気的信号による測定データ)が作成され、ガス検知器本体10Aにおけるメイン基板15に伝送される。ガス検知ユニット30からの出力信号は、メイン基板15によって処理されて表示用信号(表示用データ)として表示機構に伝送されて表示部26に表示される。
また、検知対象ガスについて設定された警報点を越えたことが検出された場合には、警報信号が発せられて警報用発光部28が点灯される。例えば、各々の検知対象ガスについて設定された第1警報点(第1濃度)以上、第2警報点(第2濃度)以下で警戒出力信号が発せられ、第2警報点(第2濃度)以上で危険出力信号が発せられる。
さらにまた、流量センサ46によってガス検知器10内に流通するガス流量が低下したことが検知されると、流量低下信号が発せられて警報表示がなされる。
【0029】
<ガス検知器の性能試験装置>
本発明のガス検知器性能試験装置は、上記構成のガス検知器10の性能、例えば所期の警告情報の表示などの動作状況が正常であるか否かなどを試験するために用いられるものである。
【0030】
図3は、本発明のガス検知器性能試験装置の一例における構成の概略を示すブロック図、図4は、ガス検知器性能試験装置本体内に構成されたガス流路の一例を概略的に示す配管図である。
このガス検知器性能試験装置50は、例えばPCなどの管理装置65との間で、設備された適宜のネットワークを介して相互にデータ通信可能に接続されたガス検知器性能試験装置本体51と、このガス検知器性能試験装置本体51と信号伝送用ケーブル53を介して電気的に接続される、試験対象となるガス検知器本体10Aのガス検知ユニット装着部18に装着される試験用センサユニット60とにより構成されており、実際のガス検知ユニット30の有する機能のすべてを有するものである。
【0031】
ガス検知器性能試験装置本体51は、正面にガス検知器固定用装着部材(図示せず)が設けられており、ガス検知器本体10Aがこのガス検知器固定用装着部材に対して着脱可能に装着される(図2参照)。
【0032】
ガス検知器性能試験装置本体51の内部には、管理装置65において指定された、ガスの種類(またはガスセンサの種類)およびガス濃度値を含む試験条件に係る動作指令信号Saを受けて、当該指定された検知対象ガスを検知するためのガス検知ユニットが指定された濃度値のガスを検出したときに当該ガス検知ユニットから発せられる出力信号に相当する擬似的な出力信号である、電気的信号による試験用出力信号Sbを生成し、試験用センサユニット60を介して、ガス検知器本体10Aにおけるメイン基板15に供給する機能を有する変換器55を具えていると共に、例えば、ガス検知器10に流通されるガス流量の擬似的な流量低下状態などの、ガス検知器本体10Aにおけるポンプ装置45の異常状態または故障状態を人為的に(意図的に)作りだして、ポンプ装置45の動作状態の試験(性能試験)を行うためのガス流路56が構成されている。図4において、57A,57BはAIR導入部、571はフィルター、NVはニードルバルブ(配管負荷調整用バルブ)、SV1およびSV2は、ニードルバルブNVによって配管負荷の大きさが調整される流路と、配管負荷の調整機能を有さない流路との切換え用バルブ、Jはジョイント、58は流量計(マスフロー)、59はAIR排出部である。
【0033】
変換器55によって生成される試験用出力信号Sbは、試験対象ガス検知器本体10Aにおけるメイン基板15の信号処理システムによって処理可能な統一された規格(測定データとしての電気的信号と同一種類)のものである。
【0034】
また、ガス検知器性能試験装置本体51は、試験対象ガス検知器本体10Aのメモリ40に記録されている情報(ガス種,警報点等)を、例えば指定される試験情報などに基づいて、新たに設定、変更する機能を有する。
【0035】
試験用センサユニット60は、図2を参照して説明すると、ガスセンサを具えた実際のガス検知ユニット30と同一の外形形状(ガス検知ユニット装着部18に適合する外形形状)を有しており、正面に信号伝送用ケーブル接続用コネクタ部61が形成されていると共に、裏面にガス検知器本体10Aにおけるガス検知ユニット接続用コネクタ部15Aに接続される接続用コネクタ部(図示せず)が形成されている。
【0036】
以下、上記ガス検知器性能試験装置50によるガス検知器の性能試験方法について説明する。
先ず、試験対象となるガス検知器本体10A(ガス検知ユニット30が取り外された状態)を性能試験装置本体51の固定用装着部材に装着固定し(図2参照)、ガス検知器性能試験装置本体51における、図示しない電源ケーブルをガス検知器本体10Aにおける電源ケーブル接続部14に接続すると共にガス導入部13Aおよびガス排出部13Bを例えば適宜のチューブによりガス検知器性能試験装置本体51内部のガス流路56に配管接続する。
そして、図5に示すように、試験用センサユニット60をガス検知器本体10Aのガス検知ユニット装着部18に挿入して試験用センサユニット60の図示しない接続用コネクタ部をガス検知器本体10Aにおけるガス検知ユニット接続用コネクタ部15Aに電気的に接続した状態で、ガス検知ユニット装着部18に装着し、さらに、ガス検知器性能試験装置本体51における信号伝送用ケーブル53をガス検知器本体10Aの前面カバー蓋20における視認用開口部21を介して信号伝送用ケーブル接続用コネクタ部61に接続し、前面カバー蓋20を閉状態とすることにより、ガス検知ユニット装着部18にセットされた状態とされ、例えば、ガス検知ユニットからの出力信号に基づいた、所期の警告情報の表示などの動作状況が正常であるか否かを試験する動作テスト(以下、「正常動作確認試験」という。)が行われる。
【0037】
ガス検知器本体10Aの正常動作確認試験においては、管理装置65において、当該ガス検知器本体10Aにおいて検知されるべき検知対象ガスの種類またはガスセンサの種類、および、当該検知対象ガスについてのガス濃度値を含む試験条件が指定されることにより、当該試験条件に基づいた、指定された検知対象ガスを検知するためのガス検知ユニットによって指定された濃度値の検知対象ガスが検出されたときに当該ガス検知ユニットから発せられる出力信号に相当する擬似的な出力信号である、電気的信号による試験用出力信号Sbを生成させるための動作指令信号Saがガス検知器性能試験装置本体51の変換器55に供給される。
管理装置65よりの動作指令信号Saを受けたガス検知器性能試験装置本体51は、指定された検知対象ガスを検出するためのガス検知ユニットについての固有の情報Siを試験用センサユニット60を介してガス検知器本体10Aに供給し、ガス検知器本体10Aにおけるメモリ40に記録されている情報を必要に応じて更新記録する。
そして、ガス検知器性能試験装置本体51における変換器55においては、上記試験用出力信号Sbが生成され、当該試験用出力信号Sbは、試験用センサユニット60を介してガス検知器本体10Aにおけるメイン基板15に供給される。
【0038】
ガス検知器本体10Aの動作状態が正常である場合には、試験用出力信号Sbを受けて、メイン基板15によって表示用信号(表示用データ)Scが作成されてガス検知器本体10Aにおける表示部26に出力され、また、試験用出力信号Sbが、例えば第1警報点以上のガス濃度値が指定されたことによるものである場合には、警報信号Sdがガス検知器本体10Aの警報用発光部28に出力されると共にガス検知器性能試験装置本体51の警報表示部52に供給され、ガス検知器本体10Aおよび性能試験装置本体51の各々において発光による警報表示がなされる(第1警報点以上、第2警報点未満である場合にはAL1が点灯,第2警報点以上である場合にはAL2が点灯される)こととなるので、監視者(作業員)は、指定した試験条件(例えばガス濃度値)との関係において、ガス検知器本体10Aにおける表示部26および警報用発光部28、あるいは、ガス検知器性能試験装置本体51における警報表示部52の動作状態(試験用出力信号を受けたことによるガス検知器本体10Aの反応の状態)によってガス検知器本体10Aの動作状態が正常であるか否かを判断することができる。換言すれば、上記正常動作確認試験において、「正常動作」を確認することができないことによって、当該試験対象ガス検知器本体10Aの故障を発見することができる。ここに、このような正常動作確認試験において発見される、ガス検知器本体10Aの故障の種類としては、例えば、電気回路の断線、表示部の異常動作などが挙げられる。
【0039】
また、上記ガス検知器性能試験装置50においては、例えばニードルバルブNVよりなる配管負荷調整用バルブの開閉状態を流量計(マスフロー)58による検出結果に基づいて調整することによって、例えば、ガス検知器本体10Aにおけるポンプ装置45による吸引によってAIR導入部57Aより導入されるガス(AIR)流量を調整してAIR排出部59よりガス検知器本体10Aに供給することなどによって、ガス流路56における配管負荷を調整すること、換言すれば、ポンプ装置45に対して負荷を加えることによって、ガス検知器10に流通されるガス流量の擬似的な流量低下状態などの、ガス検知器本体10Aにおけるポンプ装置45の異常状態または故障状態を人為的に(意図的に)作りだし、実際にポンプ装置45が故障したときと同一の動作、例えば、流量センサ46によって出力される流量低下信号Sf(図3参照)に基づいて、ポンプ装置45による流量調整機能が正常に動作するか否かの試験(ポンプ性能試験)、あるいは、故障表示動作、故障警報動作、故障記録動作などが行われるか否かの試験(ガス流量についての正常動作確認試験)を行うこともできる。
【0040】
以上のようなガス検知器の性能試験が行われた後においては、性能試験の実施の有無,試験結果などの情報が、ガス検知器本体10Aのメモリ40に記録されると共にガス検知器試験装置本体51において管理される。
【0041】
而して、上記構成のガス検知器性能試験装置50によれば、擬似的信号である電気的信号による試験用出力信号をガス検知器本体10Aに供給することによって、所定濃度のガス検知がガス検知ユニットによって行われる実際の状況を人為的に(意図的に)作りだし、あるいは、ポンプ装置45の故障によってガス流量が低下するなどの故障状態(異常状態)を人為的に作りだして、ガス検知器本体10Aの性能試験(正常動作確認試験)を行う構成とされているので、試料ガスが不要であり、また、ガス検知器本体10Aにおいては実際のガス検知ユニット30が装着されている必要がないので、性能試験の実施によってガスセンサのガス検知能力が犠牲となること(消耗または劣化すること)がなく、従って、「過酷状況試験」,「電源瞬断試験」,「流量低下警報動作確認試験」などのガスセンサに対するダメージの大きい性能試験を行うことができる。
また、各々のガス検知ユニット(ガスセンサ)についての固有の情報は互いに異なるものであるが、各々のガス検知ユニットについての固有の情報がガス検知器性能試験装置本体51によって一括して管理されており、性能試験が行われるに際して、試験用センサユニット60がガス検知器本体10Aにおけるガス検知ユニット装着部18に対して装着され、ガスの種類およびガス濃度値を含む試験条件が指定されさえすれば、ガス検知器本体10Aに記録されている情報が試験用センサユニット60を介して更新(設定変更)されるので、一の試験用センサユニット60によって、すべてのガス検知ユニット(ガスの種類)についてのガス検知器本体10Aの動作状態確認試験を行うことができる。
【0042】
そして、上記ガス検知器性能試験装置50において実行される性能試験方法によれば、試験用センサユニット60を介して供給される電気的信号による試験用出力信号が、ガスの種類およびガス濃度値を含む試験条件が任意に指定されることにより生成されるものであるので、試験対象となるガス検知器10の性能試験を種々の条件で行うことができる。また、例えば正常警報動作の確認においては、指定されたガスについての第1警報点(第1ガス濃度)と第2警報点(第2ガス濃度)との設定切り替えを極めて容易に行うことができ、従って、性能試験自体を容易にかつ効率よく確実に行うことができる。
また、実際のガスセンサ(ガス検知ユニット)を使用しないことにより、例えば、過大濃度状態に対応する出力信号、すなわち、超高濃度ガスが供給されたときに、実際のガス検知ユニットから発せられる出力信号に相当する擬似的な出力信号(試験用出力信号)を供給し、それにより、ガス検知器において、超高濃度ガスが供給された時の動作を確認すること、いわゆる「過酷状況試験」や「加速度試験」を行うことができる。
さらに、試料ガスを使用しないので、例えば有害ガスについての試験を行う場合であっても、危険が全くなく安全である。
【符号の説明】
【0043】
10 ガス検知器
10A ガス検知器本体
11 外匣
12 ロック解除部
12A ボタン部
13A ガス導入部
13B ガス排出部
14 電源ケーブル接続部
15 メイン基板
15A ガス検知ユニット接続用コネクタ部
18 ガス検知ユニット装着部
20 前面カバー蓋
21 視認用開口部
22 係合用爪部
26 表示部
27 操作部
28 警報用発光部
30 ガス検知ユニット
31 センサケース
32 銘板
40 メモリ
45 ポンプ装置
46 流量センサ
47 バッファ
50 ガス検知器性能試験装置
51 ガス検知器性能試験装置本体
52 警報表示部
53 信号伝送用ケーブル
55 変換器
56 ガス流路
57A,57B AIR導入部
571 フィルター
58 流量計(マスフロー)
59 AIR排出部
60 試験用センサユニット
61 信号伝送用ケーブル接続用コネクタ部
65 管理装置
Sa 動作指令信号
Sb 試験用出力信号
Sc 表示用信号
Sd 警報信号
Sf 流量低下信号
Si 指定されたガス検知ユニットについての固有の情報
NV ニードルバルブ
J ジョイント
SV1,SV2 切換え用バルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
各々、互いに検知対象ガスの種類または濃度検出レベルの異なるガスセンサを具えたガス検知ユニットの複数が選択的に交換可能に装着されるガス検知ユニット装着部を有すると共に、すべてのガス検知ユニットに共通の信号処理システムを有するメイン基板を具えたガス検知器本体と、前記ガス検知ユニットとよりなるガス検知器の性能を試験するための装置であって、
ガス検知器性能試験装置本体と、前記ガス検知器本体のガス検知ユニット装着部に装着される試験用センサユニットとよりなり、
当該ガス検知器性能試験装置本体は、指定された、検知対象ガスの種類またはガスセンサの種類およびガス濃度値を含む試験条件に係る動作指令信号を受けて、当該指定された検知対象ガスを検知するためのガス検知ユニットが指定された濃度値の検知対象ガスを検出したときに当該ガス検知ユニットから発せられる出力信号に相当する、電気的信号による試験用出力信号を生成し、前記試験用センサユニットを介して、ガス検知器本体におけるメイン基板に供給する機能を有することを特徴とするガス検知器性能試験装置。
【請求項2】
ガス検知器本体は、ガス検知ユニットに被検ガスを供給するポンプ装置をさらに具えており、
ガス検知器性能試験装置本体は、ガス検知器本体に接続されるガス流路を具えており、当該ガス流路における配管負荷を制御することによって、ガス検知器におけるポンプ装置の異常状態または故障状態を人為的に作り出す機能をさらに有することを特徴とする請求項1に記載のガス検知器性能試験装置。
【請求項3】
請求項1に記載のガス検知器性能試験装置を用い、
試験対象となるガス検知器本体のガス検知ユニット装着部に試験用センサユニットを装着し、
当該ガス検知器本体が検知すべき検知対象ガスの種類およびガス濃度値を含む試験条件を指定することにより、ガス検知器性能試験装置本体から当該試験用センサユニットを介してガス検知器に対し、当該指定された検知対象ガスを検知するためのガス検知ユニットが指定された濃度値の検知対象ガスを検出したときに当該ガス検知ユニットから発せられる出力信号に相当する、電気的信号による試験用出力信号を供給し、
この試験用出力信号が供給されたことによるガス検知器本体の反応の状態をガス検知器性能試験装置本体において検査することを特徴とするガス検知器の性能試験方法。
【請求項4】
請求項2に記載のガス検知器性能試験装置を用い、
試験対象となるガス検知器本体のガス検知ユニット装着部に試験用センサユニットを装着すると共に、ガス検知器性能試験装置本体内におけるガス流路とガス検知器におけるガス導入部とを配管接続し、
ガス検知器性能試験装置本体内におけるガス流路の配管負荷を制御することによって、ガス検知器におけるポンプ装置の故障状態または異常状態を人為的に作り出し、
ガス検知器本体に導入されるガス流量が制限されることによる当該ガス検知器本体の反応の状態をガス検知器性能試験装置本体において検査することを特徴とするガス検知器の性能試験方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−249562(P2010−249562A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−96795(P2009−96795)
【出願日】平成21年4月13日(2009.4.13)
【出願人】(000250421)理研計器株式会社 (216)
【Fターム(参考)】