説明

ガス濃度推定装置及び燃料電池システム

【課題】燃料電池の燃料極側に滞留するガス濃度を正確に推定するガス濃度推定技術を提供する。
【解決手段】電解質膜、酸化剤極及び燃料極を含むセルを有する燃料電池の燃料極側のガス濃度を推定するガス濃度推定装置に関し、電解質膜の劣化度合を決定する決定手段と、燃料電池の運転停止時間を計測する計測手段と、燃料電池の運転停止時間と燃料極側の不純物濃度又は燃料ガス濃度との関係特性のうち上記決定手段により決定された電解質膜の劣化度合に応じた関係特性を選択し、この選択された関係特性に基づいて上記計測手段により計測された運転停止時間に対応する燃料極側の不純物濃度又は燃料ガス濃度を燃料電池起動直後のガス濃度として推定する濃度推定手段と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池システムに関し、特に、燃料極の不純物濃度を検出する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池システムでは、運転停止時等に、窒素等の不純物がカソードからアノードへ電解質膜を透過しアノード側の燃料電池内流路や配管内等で滞留する現象が生ずる。アノード側の不純物濃度が上昇すると、アノードの水素濃度が低下し燃料電池における発電効率の低下に繋がる可能性がある。
【0003】
そこで、従来の燃料電池システムでは、アノード側に滞留する不純物濃度を検出又は推定しこの不純物濃度に応じて、燃料電池へ供給される燃料ガスの供給量や供給圧力、或いは燃料電池から送出されるオフガスのパージ量が制御される。燃料電池システムにおいて、アノード側に滞留する不純物濃度又は燃料ガス濃度を正確に検出することは重要である。
【0004】
このため、アノード側に滞留する不純物濃度又は燃料ガス濃度の推定手法が様々提案されている(下記特許文献1から5参照)。例えば、下記特許文献4では、アノード側に滞留する窒素濃度は燃料電池の運転終了時からの経過時間に応じて推定される。他の文献では、この運転停止時間の他、アノードにおけるガスの圧力、外気温度とスタック温度との温度差等を用いて当該窒素濃度が推定される。
【特許文献1】特開2007−48575号公報
【特許文献2】特開2006−209996号公報
【特許文献3】特開2007−165018号公報
【特許文献4】特開2007−165103号公報
【特許文献5】特開2004−172026号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述のような従来の不純物濃度の推定手法では、推定された濃度と実際の濃度とが乖離する場合がある。燃料電池の特性は、実機毎に変わるだけでなく劣化によって大きく変化するからである。窒素のリーク量は拡散係数によって決定されるが、この拡散係数の変化は、温度変化による影響よりも劣化による影響のほうが大きくなる。例えば、スタック内温度が25度から80度に変化した際の拡散係数の変化量は3割程度であるのに対し、劣化により電解質膜に穴が空いた場合の変化量は初期の6倍程度となる。
【0006】
これにより、従来の不純物濃度の推定手法では、推定された滞留燃料ガス濃度が実際の濃度よりも高い場合や逆に実際の濃度よりも低い場合が生ずる。このような推定値を用いて制御すれば、燃料ガス濃度の高いオフガスの排出や、燃料電池の発電効率の低下や、燃料電池内のセル劣化等を生じる恐れがある。
【0007】
本発明の課題は、このような問題点に鑑み、燃料電池の燃料極側に滞留するガス濃度を正確に推定するガス濃度推定技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上述した課題を解決するために以下の手段を採用する。即ち、本発明の第1態様は、電解質膜、酸化剤極及び燃料極を含むセルを有する燃料電池の燃料極側のガス濃
度を推定するガス濃度推定装置に関し、電解質膜の劣化度合を決定する決定手段と、燃料電池の運転停止時間を計測する計測手段と、燃料電池の運転停止時間と燃料極側の不純物濃度又は燃料ガス濃度との関係特性のうち上記決定手段により決定された電解質膜の劣化度合に応じた関係特性を選択し、この選択された関係特性に基づいて上記計測手段により計測された運転停止時間に対応する燃料極側の不純物濃度又は燃料ガス濃度を燃料電池ガス濃度として推定する濃度推定手段と、を備えるというものである。
【0009】
ここで、燃料電池の運転停止時間とは、燃料電池の発電が停止されてからこの燃料電池から正常に出力を取り出せるまで(燃料電池の発電が開始されるまで)の間の時間を意味する。燃料電池の発電の停止は、この燃料電池への燃料ガスや酸化剤ガスの供給が停止されることで検知されてもよい。
【0010】
また、燃料極側の不純物濃度又は燃料ガス濃度とは、燃料電池における燃料ガス入口から各セルのガス供給路を経由して燃料オフガス出口までの間のガスが流れる空間(流路)に滞留する不純物ガスの濃度又はその逆となる燃料オフガス(燃料ガス)の濃度を意味する。当該燃料ガス入口へ燃料ガスを供給する配管内又は燃料オフガス出口につながる排出配管内に滞留するガスの濃度を含んでいてもよい。
【0011】
本発明の第1態様では、電解質膜の劣化度合が考慮された燃料電池の運転停止時間と燃料極側の不純物濃度又は燃料ガス濃度との関係特性に基づいて、燃料電池の燃料極側の不純物濃度又は燃料ガス濃度が推定される。すなわち、第1態様では、運転停止時間のみでなく、電解質膜の劣化度合が反映された関係特性に基づいて燃料電池ガス濃度が推定される。
【0012】
従って、本発明の第1態様によれば、燃料電池の燃料極側のガス濃度を従来手法よりも正確に推定することができる。
【0013】
上記第1態様において好ましくは、上記決定手段が、起動回数及び負荷運転履歴の少なくとも1方を含む燃料電池の運転履歴を取得し、この運転履歴に基づいて電解質膜の劣化度合を決定するように構成する。更に、この負荷運転履歴として、所定出力密度以上を出力している累積時間、該所定出力密度以上を出力するまでの単位時間当たりの変化幅が所定幅を超えた回数の少なくとも1方を利用するように構成してもよい。
【0014】
電解質膜は、燃料電池の発電(化学反応)の履歴に応じてその劣化が進行する。よって、このような構成によれば、電解質膜の劣化度合を正しく決定することが可能となり、ひいては、当該ガス濃度の正確な推定に繋がる。
【0015】
上記第1態様において好ましくは、上記濃度推定手段により推定される燃料電池ガス濃度は、燃料電池の起動直後における燃料極側の不純物濃度又は燃料ガス濃度ガス濃度であるように構成する。
【0016】
また、上記第1態様において好ましくは、燃料電池の起動後所定時間経過後に検出器により検出された燃料極側のガス濃度情報を取得する第1情報取得手段と、燃料電池の起動時から上記所定時間経過後までの間の燃料ガスの供給圧力及び排気バルブの開度を逐次取得する第2情報取得手段と、これら第1情報取得手段及び第2情報取得手段により取得された各情報に基づいて燃料電池の起動直後のガス濃度を再推定する濃度再推定手段と、を更に備えるようにし、上記濃度推定手段が、前回起動時に推定されたガス濃度と上記濃度再推定手段により再推定されたガス濃度との比較結果に基づいて、今回の起動直後のガス濃度を推定するために選択される上記関係特性を補正するように構成する。
【0017】
この構成では、検出器により実際に検出されたガス濃度と、起動後その検出器により検出されるまで(所定時間経過するまで)の間の実際の制御データ(燃料ガスの供給圧力及び排気バルブの開度)とに基づき起動直後のガス濃度が遡って再推定される。この推定には、例えば、起動直後のガス濃度と起動直後から所定時間経過するまでの間の所定時間における燃料ガスの供給圧力及び排気バルブの開度との関係からその所定時間におけるガス濃度を導く推移モデル(推移関数)が利用される。この推定によって得られる推定値は実際のデータを用いていることから濃度推定手段により推定されるガス濃度よりも正確なはずである。この構成では、この再推定された値と先に濃度推定手段により推定された値との比較結果が次の起動直後のガス濃度推定の際に利用される。すなわち、この比較結果に基づいて補正された関係特性が利用されることにより当該ガス濃度が推定される。
【0018】
従って、この構成によれば、運転停止時間及び電解質膜の劣化度合で推定されるガス濃度値が更に実際に計測された濃度値及び制御データに基づいて補正されるので、より正確なガス濃度を推定することができる。
【0019】
本発明の別の態様としては、このようなガス濃度推定装置や燃料電池やガス濃度推定装置により推定されたガス濃度を利用して他の機器を制御する制御装置を備える燃料電池システムであってもよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、燃料電池の燃料極側に滞留するガス濃度を正確に推定するガス濃度推定技術を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態としての燃料電池システムについて具体例を挙げ説明する。本実施形態としての燃料電池システムは、船舶、車両等の動力源に適用されるのが一般的ではあるが、これら以外の電力供給が必要な物に適用されてもよい。以下に挙げた各実施例はそれぞれ例示であり、本発明は以下の各実施例の構成に限定されない。
【実施例1】
【0022】
以下、本発明の実施形態としての燃料電池システムの実施例1について説明する。
【0023】
〔システム構成〕
図1は、実施例1における燃料電池システムのシステム構成例の1部を示すブロック図である。図1に示すように、実施例1における燃料電池システム1は、燃料電池10、圧力センサ12、圧力調整弁13、遮断弁14、燃料ガスタンク15、排気弁21、希釈器23、ECU(Electric Control Unit)25等を備える。以下、本発明に関連する燃料
電池システムの燃料極(アノード)側の構成のみ説明するものとし、それ以外の構成については説明を省略する。本発明は、この説明を省略した部分の構成を限定するものではない。
【0024】
燃料ガスタンク15は、燃料ガスとして例えば高圧の水素ガス、水素混合ガス等を供給する。第1実施例では燃料ガスとして水素ガスが供給される場合を例に挙げる。燃料ガスタンク15から供給される水素ガスは、遮断弁14により供給の遮断又は許容が制御され、ガス供給配管31へ送り出される。
【0025】
このガス供給配管31には、更に、水素ガスの供給圧力を調整する圧力調整弁13、燃料電池10の水素ガス入口付近の水素ガスの圧力を検出する圧力センサ12等が設けられる。圧力調整弁13には、例えば、ステップモータにより供給圧力の目標値を変更することができる可変調圧式のレギュレータが用いられる。
【0026】
燃料電池10は、電解質膜の両面をガス拡散電極(燃料ガス電極(アノード)及び酸化剤ガス電極(カソード))で挟み更にその両側をガス供給路の設けられたセパレータで挟むようにしてそれぞれ形成されるセルが複数積層されることにより構成されている。燃料電池10は、各セルにおいてこのように供給される水素ガスと圧縮空気のような酸化剤ガスとを電解質膜を介してそれぞれ反応させることにより発電を行う。ここで発電に供されなかった水素ガス(アノードオフガスと表記する)はアノードオフガス出口から、発電に供されなかった酸化剤ガス(カソードオフガスと表記する)はカソードオフガス出口からそれぞれ排出される。以降、燃料電池10内における水素ガス入口から各セルのセパレータのガス供給路を経由してアノードオフガス出口までの間のガスが流れる空間(流路)を燃料電池10のアノード側流路と表記する。但し、この燃料電池10のアノード側流路に、ガス供給配管31内流路及びオフガス排出配管32内流路を含めるようにしてもよい。
【0027】
発電停止中の燃料電池10のアノード側流路には、上述したように、カソードからアノードへ透過してくる窒素や当該アノード側流路に滞留する水素と置換された空気中の窒素等が不純物ガスとして滞留する場合がある。このような不純物ガスは、アノードオフガスと共にアノード側流路に滞留する。
【0028】
このような不純物ガスを含むアノードオフガスは、燃料電池10のアノードオフガス出口からオフガス排出配管32へ送り出される。オフガス排出配管32には排気弁21が設けられている。排気弁21は、燃料電池10のアノードオフガス出口から送出されるガスの遮断及び開放を切り替える。排気弁21が遮断された場合には燃料電池10のアノード側流路にアノードオフガス及び不純物ガスは滞留する。排気弁21が開放された場合には当該アノードオフガス及び不純物ガスはオフガス排出配管32を通り希釈器23へ送られる。
【0029】
希釈器23は、上記オフガス排出配管32と、燃料電池10のカソードオフガス出口と繋がりカソードオフガス等を排出するオフガス排出配管35との合流部に設けられる。希釈器23は、オフガス排出配管32からのアノードオフガス等と、オフガス排出配管35からのカソードオフガス等とを混合希釈する。希釈器23は、希釈されたガスを排出路37方向へ送出する。これにより、オフガス排出配管32からのアノードオフガス等は、水素ガス濃度及び不純物濃度が一層低減され、排出路37方向へ送出される。
【0030】
ECU25は、CPU(Central Processing Unit)、メモリ、入出力インタフェース等
により構成される。ECU25は、メモリに格納された制御プログラムをCPUに実行させることにより上述の各機器の制御をそれぞれ行う。第1実施例におけるECU25は、燃料電池10のアノード側流路に滞留する水素ガス濃度を推定し、この推定された水素ガス濃度に応じて圧力調整弁13及び排気弁21の開閉状態を制御する。以降、アノード側流路に滞留する水素ガス濃度を滞留水素ガス濃度とも表記する。
【0031】
なお、第1実施例では、ECU25が、滞留水素ガス濃度を推定しこの滞留水素ガス濃度に応じた制御を行う例を挙げるが、この制御は不純物ガス濃度を推定しこの不純物ガス濃度に応じた制御を行うのと等価である。ECU25は、この滞留水素ガス濃度に応じてアノード側流路に滞留する不純物ガス濃度を推定するようにしてもよい。この推定手法は、単純に100(%)からこの滞留水素ガス濃度を減算した値を不純物ガス濃度としてもよいし、その値に更に所定の重み値を掛け合わせ値を不純物ガス濃度としてもよい。
【0032】
具体的には、ECU25は、燃料電池システム1の起動時において推定された滞留水素ガス濃度が所定閾値RX(%)より低い場合に、圧力センサ12で検出される水素ガスの供給圧力値が第1目標値P1になるように圧力調整弁13を制御することにより水素ガス
の供給圧力を上昇させる。一方で、ECU25は、滞留水素ガス濃度が所定閾値RX(%)以上となる場合に、圧力センサ12で検出される水素ガスの供給圧力値が第2目標値P2になるように圧力調整弁13を制御することにより水素ガスの供給圧力を上昇させる。第1目標値P1には第2目標値P2よりも大きい値が設定される。すなわち、ECU25は、このような第1目標値P1及び第2目標値P2を用いることにより、滞留水素ガス濃度が低い即ち不純物ガス濃度が高い場合に起動直後の水素ガスの供給圧力上昇度が高くなるように制御する。
【0033】
更に、ECU25は、水素ガスの供給圧力の目標値が第1目標値P1である場合に、ガス排出量が第1目標量Q1となるように排気弁21の開度を設定し、水素ガスの供給圧力の目標値が第2目標値P2である場合に、ガス排出量が第2目標量Q2となるように排気弁21の開度を設定する。第1目標量Q1には第2目標量Q2より大きい値が設定される。これにより、ECU25は、起動時における水素ガスの供給圧力上昇度が大きい程、オフガス排出配管32へ送り出されるガス量(以降、ガス排出量と表記する)が増大するように排気弁21の開閉動作を制御する。
【0034】
結果として、滞留水素ガス濃度が低い場合には滞留する不純物ガス濃度が高いため、水素ガスの供給圧力を高めつつ当該不純物ガスを大量に排出することで、燃料電池10内の水素ガス濃度が高くなるように制御される。ECU25は、上述した、閾値RX、第1目標値P1、第2目標値P2、第1目標量Q1及び第2目標量Q2を予め調整可能に保持する。
【0035】
ECU25は、このような制御を行うために、燃料電池10のアノード側流路に滞留する水素ガス濃度又は不純物ガス濃度を正確に推定する必要がある。ECU25は、水素ガスの濃度又は窒素等の不純物の濃度を検知するセンサ等を用いることなく、以下に述べる手法により当該滞留水素ガス濃度を推定する。センサにおいてガス濃度が正確に検知されるためには、一般的には、内部素子が或る程度加熱される必要がある。よって、センサを用いて水素ガス又は不純物ガスの濃度を検知する手法は、燃料電池システム1の起動前にセンサを暖気運転させなければ、当該燃料電池システム1の起動直後の制御には利用できない。しかし、この予め当該センサを暖気運転させる手法ではそれを実現するための機器を新たに備える必要がありコスト上困難である。
【0036】
そこで、第1実施例におけるECU25は、燃料電池システム1の運転停止時間及び運転履歴を用いて、当該滞留水素ガス又は不純物ガス濃度を推定する。なお、第1実施例では、滞留水素ガス濃度を推定する場合を例示する。
【0037】
ECU25は、燃料電池システム1の運転停止時からの経過時間をタイマで計測し、この経過時間を運転停止時間として保持する。燃料電池システム1の運転停止時とは、燃料電池10の発電が停止された時、又、燃料電池10への燃料ガスの供給が停止された時を意味する。燃料電池システム1の運転停止時には、ECU25は、他の機器からの停止指示信号を受け、この信号に応じて各機器に対し停止制御を行う。例えば、ECU25は、この停止信号受信時を運転停止時とみなしこの時点から次に運転指示信号を受信するまでの経過時間をタイマによりカウントすることにより当該運転停止時間を計測する。
【0038】
燃料電池システムにおいて、システム起動直後に燃料電池10のアノード側流路に滞留する不純物は、発電停止中にカソードからアノードへ透過する窒素やアノード側に滞留する水素と置換された空気中の窒素等を主に含む。このような不純物の量は燃料電池システムの運転停止時間が長くなる程多くなる傾向にあることが知られている(上記特許文献3及び5参照)。アノード側流路に滞留する不純物の量が増えればアノード側流路に滞留する水素ガス濃度は低下する。そこで、第1実施例におけるECU25は、図2に示すよう
な、運転停止時間と燃料電池10のアノード側流路に滞留する水素ガス濃度との関係特性情報を予め作成して保持する。なお、不純物ガス濃度に応じた制御を行う場合には、予め不純物ガス濃度と運転停止時間との関係特性情報を保持するようにしてもよい。
【0039】
図2は、燃料電池のアノード側流路に滞留する水素ガス濃度の運転停止時間に応じた推移の推定例(関係特性例)を示すグラフである。この関係特性情報は、例えば、所定サンプル数分の運転停止時間と水素ガス濃度との配列データとして、又は、その関係特性を示す関数データとして保持される。以降、この運転停止時間と燃料電池10のアノード側流路に滞留する水素ガス濃度との関係特性情報を濃度マップと表記する。図2の例では、運転停止時間がT1(分)である場合には、その燃料電池システム起動直後の滞留水素ガス濃度はR1(%)であると推定される。
【0040】
ところで、上述したように、窒素等の不純物のリーク量を決める拡散係数は、燃料電池10内のセルの劣化により大きく影響を受ける。よって、第1実施例のECU25は、滞留水素ガス濃度を推定するにあたり、まず、運転停止時間と滞留水素ガス濃度との関係特性(濃度マップ)を燃料電池10の劣化度合を考慮して選択する。燃料電池10の劣化度合は、燃料電池システム1の運転履歴により推定することができる。燃料電池システム1の運転履歴、即ち燃料電池10における発電履歴に応じて、各セルを構成する電解質膜の膜痩せ、穴開き等の劣化が進行するからである。
【0041】
これにより、第1実施例では、燃料電池システム1の運転履歴の各状態についてそれぞれセルの劣化度合と対応付け、このセルの各劣化度合に対応する濃度マップを予めそれぞれ生成する。ECU25は、燃料電池システム1の運転履歴の各状態に対応付けられて各濃度マップをそれぞれ予め保持する。結果として、ECU25は、各時点での運転履歴に基づいて適切な濃度マップを選択することができる。このような運転履歴の各状態とセルの劣化度合との対応付け及びセルの劣化度合と濃度マップとの対応付けは、予めシミュレーション等により決定すればよい。また、これら対応関係の情報は、実際の運用に応じてシステム毎に更新されるようにしてもよい。
【0042】
基本的には、各セルの劣化が進行すればする程、運転停止時間に応じた滞留水素ガス濃度の減少量が大きくなるような濃度マップを保持する。例えば、図2をセルの劣化が最も少ない状態(最良状態)の濃度マップであるとすると、図3の実線のような、最良状態の次にセルの劣化が少ない状態(第2段状態)の濃度マップが保持される。図3は、燃料電池のアノード側流路に滞留する水素ガス濃度の運転停止時間に応じた推移の推定例(関係特性例)を示すグラフである。
【0043】
ECU25は、燃料電池システム1の運転履歴を管理し、その時点での運転履歴の状態に応じた濃度マップを選択する。ECU25は、このように選択された濃度マップから上述のように計測された運転停止時間に対応する滞留水素ガス濃度を推定する。図2の濃度マップが選択された場合で、運転停止時間がT1(分)と計測された場合には、その燃料電池システム起動直後の当該滞留水素ガス濃度はR1(%)であると推定される。燃料電池システム1の運転履歴がそれより進むことにより図3の濃度マップが選択された場合で、上記運転停止時間がT1(分)と計測された場合には、その燃料電池システム起動直後の当該滞留水素ガス濃度はR1’(%)であると推定される。これにより、同じ運転停止時間であっても運転履歴が多くセルの劣化度合が大きい場合に推定される滞留水素ガス濃度は小さくなる(R1'<R1)。
【0044】
第1実施例では、上記運転履歴として起動回数や負荷履歴が利用される。負荷履歴としては高出力密度総持続時間やステップ変化回数が利用される。
【0045】
起動回数とは、燃料電池システム1が運転停止状態から運転開始状態へ移行された回数であり、燃料電池10が発電停止状態から発電状態へ移行された回数である。ECU25は、上述のように例えば、運転停止時間を計測するトリガとなる信号に基づいてこの起動回数を計測する。
【0046】
負荷履歴としての高出力密度総持続時間とは、所定閾値(例えば、1A/cm2)を越える出力密度となった時間の累積である。ECU25は、燃料電池10の出力電流に関する情報を電流計等から取得し、この出力電流をセルの面積で除算した値を出力密度として算出する。本発明は、この出力密度の具体的算出手法を限定するものではないため、各セルの出力密度をそれぞれ算出しこれらの平均値を出力密度として算出するようにしてもよい。ECU25は、この出力密度が予め調整可能に保持される所定閾値を超えると判断すると、その出力密度が当該所定閾値以下となるまでの時間を累積し、この累積時間を保持する。以降、この高出力密度か否かを判断するための所定閾値を第1閾値と表記する。
【0047】
負荷履歴としてのステップ変化回数とは、上記出力密度が所定時間内に第2閾値から上記第1閾値を超えるまで変化した回数の累積である。例えば、第1閾値が1A/cm2と設定された場合には第2閾値は0.4A/cm2と設定される。
【0048】
ECU25は、上述のような起動回数、高出力密度総持続時間、ステップ変化回数のいずれか1つ、又はいずれか複数を当該運転履歴として用いる。従って、ECU25は、運転履歴として用いる情報毎又はその組み合わせ毎に濃度マップをそれぞれ保持する。例えば、運転履歴として起動回数が用いられる場合には、起動回数が50回までの場合には図2に示す最良状態の濃度マップが選択され、起動回数が50回から200回までの場合には図3に示す第2段状態の濃度マップが選択される。例えば、運転履歴として高出力密度総持続時間が利用される場合には、この時間が100時間までの場合には図2に示す最良状態の濃度マップが選択され、この時間が100時間から500時間までの場合には図3に示す第2段状態の濃度マップが選択される。また、例えば、起動回数、高出力密度総持続時間、ステップ変化回数のいずれか複数の組み合わせが運転履歴として利用される場合には、各値の組み合わせにつきそれぞれ当該濃度マップが選択される。この場合、組み合わせの数を次元数とするデータ配列を用意しこのデータ配列の各要素がそれぞれ各濃度マップと関連付けられたデータ配列を用いるようにしてもよい。
【0049】
ECU25は、このように選択された濃度マップを用いて運転停止時間に対応する滞留水素ガス濃度を推定し、この推定された滞留水素ガス濃度を上記所定閾値RXと比較することにより圧力調整弁13及び排気弁21を制御する。これは、当該選択された濃度マップを用いて滞留水素ガス濃度が所定閾値RXとなると推定される運転停止時間(図2のTX(分)、図3のTX'(分))を取得し、運転停止時間がこの閾値RXに対応する運転
停止時間を越えるか否かで圧力調整弁13及び排気弁21を制御することと等価である。
【0050】
〔動作例〕
以下、実施例1における燃料電池システム1の動作例について図4を用いて説明する。図4は、実施例1における燃料電池システムの動作例を示すフローチャートである。
【0051】
ECU25は、燃料電池10への燃料ガスの供給が停止され、燃料電池10の発電が停止された時点を燃料電池システム1が停止された時点として検知し、燃料電池10への燃料ガスの供給が最開され、燃料電池10の発電が開始された時点を燃料電池システム1が起動された時点として検知する。ECU25は、他の機器から運転停止を示す指示信号を受信した時点を燃料電池システム1の停止時点と判断し、他の機器から運転開始を示す指示信号を受信した時点を燃料電池システム1の起動時点と判断しても良い。ECU25は、燃料電池システム1が停止された時点から燃料電池システム1が起動された時点までの
経過時間を運転停止時間として計測している。
【0052】
更に、ECU25は、燃料電池システム1の運転履歴として、起動回数、高出力密度総持続時間、ステップ変化回数の少なくとも1つを管理(計測)している。ECU25は、管理される運転履歴の各状態に対応付けられた各濃度マップをそれぞれ予め保持している。この保持される濃度マップは、運転履歴の状態に対応するセル劣化度合が考慮された、運転停止時間に応じた滞留水素ガス濃度の推移を示す特性情報である。
【0053】
このような状態において、ECU25は、他の機器(図示せず)から運転指示信号を受信すると(S401)、今回起動されるまでの間に計測されていた上記運転停止時間及び上記運転履歴を取得する(S402、S403)。
【0054】
ECU25は、保持される複数の濃度マップのうち、当該運転履歴データに対応する濃度マップを選択する(S404)。この選択では、運転履歴データとして利用される起動回数、高出力密度総持続時間、ステップ変化回数のいずれか1つ又はいずれか複数のデータに関連付けられて保持されている濃度マップが選択される。
【0055】
ECU25は、この選択された濃度マップから、上記取得された運転停止時間に対応する滞留水素ガス濃度を取得するか、又は、滞留水素ガス濃度が閾値RXとなると推定される運転停止時間を取得する(S405)
ECU25は、前者を取得した場合には、取得された滞留水素ガス濃度が閾値RXより低いか否かを判定する(S406)。ECU25は、後者を取得した場合には、(S402)で取得された運転停止時間が(S405)で取得された閾値RXに対応する運転停止時間よりも長いか否かを判定する(S406)。この判定は、アノード側流路に滞留する不純物ガス濃度が所定の閾値よりも高いか否かの判定と等価である。
【0056】
ECU25は、取得された滞留水素ガス濃度が閾値RXより低いと判定する(S406;YES)か、又は(S402)で取得された運転停止時間が(S405)で取得された閾値RXに対応する運転停止時間よりも長いと判定すると(S406;YES)、滞留する不純物ガス濃度が高いため、この不純物ガスを大量排出する方向へ制御する。一方で、ECU25は、取得された滞留水素ガス濃度が閾値RX以上と判定する(S406;NO)か、又は(S402)で取得された運転停止時間が(S405)で取得された閾値RXに対応する運転停止時間よりも短いと判定すると(S406;NO)、滞留する不純物ガス濃度が低く滞留水素ガス濃度が高いため、排出ガスの量を少なくする方向へ制御する。
【0057】
不純物ガスを大量排出する方向への制御では、ECU25は、圧力センサ12で検出される水素ガスの供給圧力値が第1目標値P1になるように圧力調整弁13を制御し(S410)、ガス排出量が第1目標量Q1となるように排気弁21の開度を設定する(S411)。一方、排出ガスの量を少なくする方向への制御では、ECU25は、圧力センサ12で検出される水素ガスの供給圧力値が第2目標値P2になるように圧力調整弁13を制御し(S420)、ガス排出量が第1目標量Q2となるように排気弁21の開度を設定する(S421)。
【0058】
第1目標値P1には第2目標値P2よりも大きい値が設定されるため、前者の制御(S406;YES)のほうが水素ガスの供給圧力上昇度は高くなる。また、第1目標量Q1には第2目標量Q2より大きい値が設定されるため、起動時における水素ガスの供給圧力上昇度が大きい程、ガス排出量が増大するように制御される。
【0059】
このように制御された状態で、燃料電池10の発電が行われる(S431)。
【0060】
このように、実施例1における燃料電池システム1は、燃料電池10内のセル劣化の状態を燃料電池システム1の運転履歴の情報から判定し、このセル劣化状態に応じた濃度マップが選択され、その選択された濃度マップから運転停止時間に対応する滞留水素ガス濃度が推定される。
【0061】
従って、実施例1によれば、窒素などの不純物のリーク量に影響を与える運転停止時間及びセル劣化状態に基づいて滞留水素ガス濃度が推定されるため、起動直後におけるアノード側流路に滞留する水素ガス濃度又は不純物ガス濃度を正確に推定することが可能となる。
【0062】
そして、起動直後におけるアノード側流路に滞留する水素ガス濃度又は不純物ガス濃度を正確に検出し、このガス濃度に応じて燃料電池10への水素ガスの供給圧力及びガス排出量が制御される。
【0063】
従って、第1実施例における燃料電池システム1によれば、燃料電池システム1の起動直後において水素ガス濃度の高いオフガスを排出したり、燃料電池10の発電効率を低下させたりすることを防ぐことができる。
【実施例2】
【0064】
以下、本発明の実施形態としての燃料電池システムの実施例2について説明する。
【0065】
〔システム構成〕
図5は、実施例2における燃料電池システムのシステム構成例の1部を示すブロック図である。実施例2における燃料電池システム1は、実施例1の構成に加えて、水素センサ51を燃料電池10のアノードオフガス出口近辺のオフガス排出配管32に備える。以下、第1実施例と異なる構成としての水素センサ51とECU25の処理について説明する。
【0066】
水素センサ51は、燃料電池システム1の起動時のアノード側流路に滞留する水素ガスの濃度を測定するために設けられる。よって、水素センサ51の位置は図5に示される位置に限定されるものではない。本実施例では、燃料電池システム1の起動前に水素センサ51を暖気運転するための設備は設けられていない。従って、上述したように、水素センサ51は、燃料電池システム1が起動されてから所定の時間経過後でなければ水素濃度を検知することはできない。水素センサ51は、活性化されて検出された水素濃度をECU25へ送る。
【0067】
ECU25は、燃料電池システム1が起動されて所定の時間経過後に水素センサ51により検出された水素濃度(水素ガス濃度)を取得する。ECU25は、この起動後所定時間経過した水素ガス濃度に基づいてそのときの起動直後の滞留水素ガス濃度を遡る形で推定し、この遡って推定された滞留水素ガス濃度とその起動直後に上述の実施例1の手法により推定された滞留水素ガス濃度との相違に基づいて、次回の起動直後に実施例1の手法により選択される濃度マップを補正する。ECU25は、この補正された濃度マップを用いて実施例1と同様の制御を実行する。よって、濃度マップを補正する処理が新たに付加されることを除けば、ECU25におけるその他の処理は実施例1と同様である。
【0068】
実施例2特有のECU25の処理を、滞留水素ガス濃度の遡り推定処理と濃度マップの補正処理とに分けて以下にそれぞれ説明する。
【0069】
〈滞留水素ガス濃度の遡り推定処理〉
ECU25は、燃料電池システム1が起動されてから時間tまでの間の水素ガス濃度の
推移モデルを保持し、この推移モデルに水素センサ51から送られる水素ガス濃度、圧力センサ12から送られる水素ガス供給圧力、排気弁21の開度を当てはめることにより図6に示すようにして起動直後の滞留水素ガス濃度を遡って推定する。図6は、第2実施例における滞留水素ガス濃度の遡り推定処理の概念を示す図である。
【0070】
燃料電池システム1が起動された後Δt時間経過した後の水素ガス濃度H2は、起動直
後の滞留水素ガス濃度(H2(0)と表記)、水素ガス供給圧力(PH2(t)と表記)及
び排気弁21の開度(SV開度(t)と表記)を用いて以下の(式1)のように表すことができる。関数fは、燃料電池システム1が起動された後の水素ガス濃度の推移モデルを示す。
【0071】
【数1】

この(式1)のモデルを離散化すると、以下の(式2)で表すことができる。
【0072】
【数2】

この(式2)を用いて起動直後まで逆算すると、下記関係が成立する。
【0073】
【数3】

ここで、水素センサ51から送られる水素濃度は、センサ活性時間TS後に正確な値となる。図6及び上記関係式ではこのときの水素濃度がH2(k)と表記される。よって、
上記関係式のうちH2(k)は、水素センサ51が活性化されることにより検出され、水
素ガス供給圧力(PH2(t))は圧力センサ12により検出され、排気弁21の開度(SV開度(t))は排気弁21の制御時に取得可能である。これにより、上記方程式からH2(0)を導くことができる。
【0074】
ECU25は、上記推移モデルfを予め保持し、この推移モデルfに、燃料電池システム1起動後の上記各制御値及び水素センサ51からの水素ガス濃度を適用することにより、起動直後の滞留水素ガス濃度(H2(0))を算出する。推移モデルfは、その燃料電
池10の実機に応じて予めシミュレーション等で決定されECU25により保持されればよい。
【0075】
〈濃度マップの補正処理〉
ECU25は、上述のように起動直後の滞留水素ガス濃度を算出すると、そのときに実施例1の手法で選択されていた濃度マップから推定される滞留水素ガス濃度とその算出値
との関係から修正率マップを図7に示すように決定する。図7は、実施例1の手法により推定される滞留水素ガス濃度と第2実施例における推移モデルから算出された滞留水素ガス濃度とに基づく修正率マップの例を示す図である。図7の例では、実施例1の手法により推定される滞留水素ガス濃度はR2(%)であり、第2実施例における推移モデルから算出された滞留水素ガス濃度はR2'(%)であり、このときの運転停止時間はT2(分
)である。
【0076】
ECU25は、R2'をR2で割った値を時間T2における修正率として決定する。E
CU25は、運転停止時間0(分)の修正率を1(修正なし)としてこの点から時間T2における修正率(R2'/R2)の点を通る修正直線を修正マップとして生成する。この
修正マップは、この修正直線を示す関数として保持されてもよいし、所定のサンプル数を次元とする配列データとして保持されてもよい。
【0077】
ECU25は、この修正マップを次回の起動時に実施例1の手法で選択された濃度マップに掛け合わせることで、図8のように当該濃度マップを補正する。図8は、濃度マップの補正の例を示す図である。つまり、ECU25は、実施例1の手法で選択された濃度マップがその運転停止時間で上記推移モデルにより算出された起動直後の滞留水素ガス濃度となるように補正する。
【0078】
〔動作例〕
以下、実施例2における燃料電池システム1の動作例について図9及び10を用いて説明する。図9は、実施例2における燃料電池システムの動作例のうち修正マップの生成処理を示すフローチャートである。図10は、実施例2における燃料電池システムの動作例のうち濃度マップの補正処理を示すフローチャートである。なお、図10において、実施例1と同じ処理については同一符号を付している。
【0079】
ECU25は、図10に示すように他の機器(図示せず)から運転指示信号を受信すると(S401)、図10に示す処理を実行すると共に、図9に示す処理も併せて行う。
【0080】
図9の処理としては、ECU25は、運転指示信号を受信した後、圧力センサ12から送られる水素ガス供給圧力及び排気弁21の開度に関する情報を逐次保持する(S901)。これらの情報はECU25で受信されたタイミングで保持されるようにしてもよいし、所定の周期で収集された情報が保持されるようにしてもよい。これらの情報は時間の経過に関連付けられて保持される。
【0081】
ECU25は、所定期間経過後、水素センサ51が活性化されて正確に検出された水素ガス濃度を取得する(S902)。この態様については、ECU25が、水素センサ51が活性化される時間を予め保持しており、この時間経過後に水素センサ51から得られる水素ガス濃度を正確に検出された値とみなすようにしてもよいし、水素センサ51が自身の状態を管理し自身で活性化されたと判断された後に濃度データを送出するようにしてもよい。
【0082】
ECU25は、水素センサ51から正確な水素ガス濃度を取得すると、起動直後からそのときまでに保持される水素ガス供給圧力及び排気弁の開度、並びにこの取得された水素ガス濃度を予め保持される推移モデルに適用することで、起動直後の滞留水素ガス濃度を算出する(S903)。なお、推移モデルはシミュレーション等で決定されECU25に予め設定されている。
【0083】
ECU25は、今回の起動直後に実施例1の手法により推定された滞留水素ガス濃度を取得し(S904)、上記算出された滞留水素ガス濃度をこの取得された濃度値で割るこ
とにより今回の制御で利用された運転停止時間における修正率を得る。ECU25は、この修正率を用いて修正マップを生成し(S905)、この生成された修正マップを保持する(S906)。この修正マップは、次に燃料電池システム1が停止され再起動される際の制御で利用される。
【0084】
図10の処理は、前回の制御後に上述のように保持される修正マップを利用した、今回の起動直後の制御の処理である。ここで、運転指示信号を受信してから濃度マップを選択するまでの処理は実施例1と同様である(S401からS404)。
【0085】
実施例2のECU25は、前回の制御後に生成された上記修正マップを取得し、この選択された濃度マップに掛け合わせることにより当該選択された濃度マップを補正する(S1001)。以降、この補正された濃度マップが利用されて今回の起動直後の滞留水素ガス濃度が推定され(S405)、この推定された滞留水素ガス濃度に基づいて、実施例1と同様の制御が実行される(S405、S410、S411、S420、S421、S431)。
【0086】
このように実施例2における燃料電池システム1では、実際に水素センサ51で検知されたデータと起動直後からその検知されるまでの間の制御データとに基づいて起動直後の滞留水素ガス濃度が遡って推定される。この推定値は実施のデータを用いていることから、運転停止時間や運転履歴情報等から推定された値よりも正確性が高いはずである。当該燃料電池システム1は、運転停止時間や運転履歴情報等から推定された値をこの正確性の高い値に近づけるように濃度マップを補正して次回起動直後の滞留水素ガス濃度の推定を行う。
【0087】
従って、実施例2によれば、正確性の高いデータのフィードバックが利用されることにより、実施例1の手法よりも正確性の高い滞留水素ガス濃度を推定することができる。
【0088】
[変形例]
上述の実施例1及び2では、アノードオフガスが循環されない循環レスシステムの例を示したが、アノードオフガスが循環されて再度燃料電池10へ供給される循環システムでも同様に適用可能である。
【0089】
上述の実施例2では、実施例1の手法で選択された濃度マップを当該修正率マップで補正する例を示したが、従来手法で利用される運転停止時間のみに基づく濃度マップや他の制御データに基づく濃度マップをこの修正率マップで補正するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】実施例1における燃料電池システムのシステム構成例の1部を示すブロック図である。
【図2】燃料電池のアノード側流路に滞留する水素ガス濃度の運転停止時間に応じた推移の推定例(関係特性例)を示すグラフである。
【図3】燃料電池のアノード側流路に滞留する水素ガス濃度の運転停止時間に応じた推移の推定例(関係特性例)を示すグラフである。
【図4】実施例1における燃料電池システムの動作例を示すフローチャートである。
【図5】実施例2における燃料電池システムのシステム構成例の1部を示すブロック図である。
【図6】実施例2における滞留水素ガス濃度の遡り推定処理の概念を示す図である。
【図7】実施例1の手法により推定される滞留水素ガス濃度と第2実施例における推移モデルから算出された滞留水素ガス濃度とに基づく修正率マップの例を示す図である。
【図8】濃度マップの補正の例を示す図である。
【図9】実施例2における燃料電池システムの動作例のうち修正マップの生成処理を示すフローチャートである。
【図10】実施例2における燃料電池システムの動作例のうち濃度マップの補正処理を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0091】
1 燃料電池システム
10 燃料電池
12 圧力センサ
13 圧力調整弁
14 遮断弁
15 燃料ガスタンク
21 排気弁
23 希釈器
25 ECU(Electric Control Unit)
51 水素センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質膜、酸化剤極及び燃料極を含むセルを有する燃料電池の燃料極側のガス濃度を推定するガス濃度推定装置において、
前記電解質膜の劣化度合を決定する決定手段と、
前記燃料電池の運転停止時間を計測する計測手段と、
前記燃料電池の運転停止時間と前記燃料極側の不純物濃度又は燃料ガス濃度との関係特性のうち前記決定手段により決定された電解質膜の劣化度合に応じた関係特性を選択し、この選択された関係特性に基づいて前記計測手段により計測された運転停止時間に対応する前記燃料極側の不純物濃度又は燃料ガス濃度を燃料電池ガス濃度として推定する濃度推定手段と、
を備えることを特徴とするガス濃度推定装置。
【請求項2】
前記決定手段は、起動回数及び負荷運転履歴の少なくとも1方を含む前記燃料電池の運転履歴を取得し、該運転履歴に基づいて前記電解質膜の劣化度合を決定する、
ことを特徴とする請求項1に記載のガス濃度推定装置。
【請求項3】
前記決定手段は、前記負荷運転履歴として、所定出力密度以上を出力している累積時間、該所定出力密度以上を出力するまでの単位時間当たりの変化幅が所定幅を超えた回数の少なくとも1方を利用する、
ことを特徴とする請求項2に記載のガス濃度推定装置。
【請求項4】
前記濃度推定手段により推定される燃料電池ガス濃度は、前記燃料電池の起動直後における前記燃料極側の不純物濃度又は燃料ガス濃度ガス濃度である、
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のガス濃度推定装置。
【請求項5】
前記燃料電池の起動後所定時間経過後に検出器により検出された燃料極側のガス濃度情報を取得する第1情報取得手段と、
前記燃料電池の起動時から前記所定時間経過後までの間の燃料ガスの供給圧力及び排気バルブの開度を逐次取得する第2情報取得手段と、
前記第1情報取得手段及び第2情報取得手段により取得された各情報に基づいて前記燃料電池の起動直後のガス濃度を再推定する濃度再推定手段と、
を更に備え、
前記濃度推定手段は、
前回起動時に推定されたガス濃度と前記濃度再推定手段により再推定されたガス濃度との比較結果に基づいて、今回の起動直後のガス濃度を推定するために選択される前記関係特性を補正する、
ことを特徴とする請求項4に記載のガス濃度推定装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載のガス濃度推定装置と、
前記燃料電池と、
前記ガス濃度推定装置により推定された前記燃料電池の燃料極側のガス濃度に応じて、前記燃料電池への燃料ガスの供給圧力及び前記燃料電池から送出されるガスの排出量の少なくとも1方を制御する制御手段と、
を備える燃料電池システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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