説明

ガス透過度測定装置

【課題】フィルム状試料に面内全方向に張力を課した状態で、ガスバリアフィルムの酸素や水蒸気などのガスの透過度を容易かつ確実に測定できるガス透過度測定装置を提供する。
【解決手段】容器1と、容器1の試料載置部4上に開口5を覆うように載置されたフィルム状試料2を試料載置部4上に密着させて容器1内を気密に封止する封止手段と、フィルム状試料2が外表面に気体または水蒸気を供給するガス供給手段と、フィルム状試料2を透過して容器1内に侵入してくる気体または水蒸気の量を測定する測定手段とを備えるガス透過度測定装置において、フィルム状試料2に、平面視した場合に容器1の中心から外側に向けて引っ張られる張力を与える張力付与手段を備える構成にした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、プラスチィックフィルムやシート状試料の水蒸気および気体などのガス透過度測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチック表面に、酸化ケイ素、酸化アルミまたはアルミなどのバリア薄膜を形成することにより、酸素や水蒸気の透過を遮断するガスバリアフィルムが、食品や薬品、電子材料などの包装材料として注目されている。さらに近年では、プラスチック基材を用いたフレキシブルな液晶表示素子やEL表示素子などでも、ガスバリアフィルムが用いられるようになってきている。
【0003】
従来から行なわれているガス透過性の評価としては、カップ法(非特許文献1参照)や、モコン法(非特許文献2参照)などがある。また、最近では、高い水蒸気バリア性の透過度を測定する方法として、カルシウムの腐食を利用するものも提案されてきている(例えば、特許文献1参照)。いずれの方法も、試料フィルムに出来るだけ張力をかけないよう、注意深く試料セルにセットして、透過度測定が行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−181300号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】JIS Z 0208
【非特許文献2】JIS K 7129 B法
【非特許文献3】J. T. Felts, “Transparent Barrier Coatings Update: Flexible Substrates”, Society of Vacuum Coaters 36th Annual Thechnical Conference Proceedings, 25-30, 1993.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上述したように、ガスバリアフィルムは、様々な製品の包装材として使われており、使用される状況では、引っ張りや曲げなどの張力が頻繁にバリアフィルムに働いている。また、フレキシブルな表示素子では、変形した状態で表示させるため、張力が生じた状態でガスバリア性能を保持することが必要である。
【0007】
ガスバリアフィルムに働く張力がバリア薄膜の強度値以上の場合、膜にクラックが発生しバリア性能は大きく劣化してしまうため、バリア性能を保持できる張力限界値を知ることは非常に重要である。また、実際のバリア膜内にはキズが潜在しており、例え限界値以内の張力であっても、張力によりキズが開口し、バリア性を低下させることも考えられる。従って、無負荷な状態での透過度だけではなく、張力が働いている状態でのガスバリア性能を測定・評価することが実際の使用上のバリア性を調べる上で重要である。
【0008】
ガスバリアフィルムに、張力を与えながら酸素透過度を測定する方法として、ガス測定セルの外側に、フィルム状試料を一軸方向に引っ張る大型の引張りステージを設け、予め所定の引張り率まで試料を引っ張った後、ガスセルにセットする方式が報告されている(例えば、非特許文献3参照)。しかし、この方式は、一軸方向の張力しか課すことができない上、装置が大掛かりとなる問題がある。ガスバリアフィルムに働く張力は様々な方向であるため、面内全方向に張力を課した状態で透過度を測定することが重要である。
【0009】
本発明は、上記の問題を解決し、フィルム状試料に面内全方向に張力を課した状態で、ガスバリアフィルムの酸素や水蒸気などのガスの透過度を容易かつ確実に測定できるガス透過度測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために請求項1記載の本発明は、上端が開口されているとともに前記開口の周囲全周に外方へ環状で平板状に延在して設けられた試料載置部を有する容器と、前記開口を覆うように前記試料載置部の上面に載置されたフィルム状試料を前記試料載置部の上面に密着させて前記容器の内部を気密に封止する封止手段と、前記容器の内部とは反対側の前記フィルム状試料の外表面に気体または水蒸気を供給するガス供給手段と、前記容器内に設けられ前記フィルム状試料を透過して前記容器内に侵入してくる前記気体または水蒸気の量を測定する測定手段とを備えるガス透過度測定装置において、前記フィルム状試料に、平面視した場合に前記容器の中心から外側に向けて引っ張られる張力を与える張力付与手段が設けられていることを特徴とする。
【0011】
請求項2記載の発明は、請求項1記載のガス透過度測定装置において、前記張力付与手段は、前記試料載置部の上面に前記開口を囲むように環状に延在形成された張力付与用溝と、前記張力付与用溝上に位置する前記フィルム状試料の箇所を前記張力付与用溝内に押し込んで前記フィルム状試料に前記張力を与える張力付与用部材と、前記張力付与用部材を前記張力付与用溝に押し込む押し込み機構を含んで構成されていることを特徴とする。
【0012】
請求項3記載の発明は、請求項2記載のガス透過度測定装置において、前記張力付与用溝の延在方向と直交する平面で切った断面形状は凹状の半円形を呈し、前記張力付与用部材は環状を呈し、前記張力付与用部材が前記張力付与用溝に係合する部分は、延在方向と直交する平面で切った断面形状が凸状の半円形を呈する凸条部として形成されていることを特徴とする。
請求項4記載の発明は、請求項2記載のガス透過度測定装置において、前記押し込み機構は、前記試料載置部に着脱可能に設けられた支持部材と、前記支持部材に設けられ前記張力付与用溝に対する前記張力付与用部材の押圧力を調整する調整部材を含んで構成されていることを特徴とする。
請求項5記載の発明は、請求項2または3記載のガス透過度測定装置において、前記張力付与用溝内に、前記張力付与用部材との気密性を保持する弾接可能なシール材が配置されていることを特徴とする。
【0013】
請求項6記載の発明は、請求項1乃至5に何れか1項記載のガス透過度測定装置において、前記封止手段は、前記試料載置部上に載置された前記フィルム状試料の箇所の上に重ね合わされる封止部材と、前記封止部材を前記箇所を介して前記試料載置部に押圧して固定する固定機構を含んで構成されていることを特徴とする。
請求項7記載の発明は、請求項6記載のガス透過度測定装置において、前記封止手段は、前記試料載置部の上面に配設され前記封止部材に弾接可能なシール材を含んで構成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明のガス透過度測定装置によれば、容易かつ確実に、ガスバリアフィルムに面内全方向の張力を与えた状態で酸素や水蒸気などの透過度が測定可能になる。その結果、バリアフィルムが利用される際に課される、実際に近い張力状態でのガスバリア性能の試験が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】(a)は本発明のガス透過度測定装置に適用される容器の模式的に示した縦断側面図であり、(b)は本発明のガス透過度測定装置に適用される容器の平面図である。
【図2】(a)は本発明のガス透過度測定装置における容器にフィルム状試料及びその封止手段を組み込んだ状態を模式的に示した縦断側面図であり、(b)はその平面図である。
【図3】(a)は本発明のガス透過度測定装置における容器にフィルム状試料及びその封止手段に加えて張力付与手段の一部を組み込んだ状態を模式的に示した縦断側面図であり、(b)はその平面図である。
【図4】(a)は本発明のガス透過度測定装置における張力付与用部材の平面図であり、(b)は張力付与用部材の側面図である。
【図5】(a)は本発明のガス透過度測定装置における容器にフィルム状試料及びその封止手段に加えて張力付与手段を組み込んだ状態を模式的に示した縦断側面図であり、(b)はその平面図である。
【図6】本発明のガス透過度測定装置における張力付与の動作説明図である。
【図7】本発明におけるガス透過度測定装置の動作説明図である。
【図8】本発明と従来におけるガス透過度測定装置の試験結果を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(実施の形態1)
次に、本発明の実施の形態について図1乃至図6を参照して説明する。
本実施の形態では、本発明のガス透過度測定装置を、水蒸気透過度を測定するカップ法に適用した場合について説明する。なお、図に示す各部位の縮尺または比率は実際とは一致しない。また、本発明にかかるガス透過度測定装置は、図示する構造のものに限定されるものではない。
本実施の形態におけるガス透過度測定装置は、図1乃至図5に示すように、上端が開口され下端が閉塞された円筒状の容器1、容器1の開口5側端面にセットされたフィルム状試料2を密着させて容器1の内部を気密に封止する封止手段(符号7、9、10及び11等で示す部品による構成される)、フィルム状試料2を透過する気体または水蒸気などのガスを供給するガス供給手段(図示省略)、フィルム状試料2を透過したガスの重量を測定する測定手段(本実施の形態では、容器1内に投入された塩化カルシウム吸収剤3に相当する)、及びフィルム状試料2に、平面視した場合に容器1の中心から外側に向けて引っ張られる張力を与える張力付与手段(符号8、12、15及び17等で示す部品による構成される)を備える。
【0017】
容器1の上端には、開口5から外周方へドーナツ板状に延在する試料載置部4が設けられている。この試料載置部4は、開口5を覆うように容器1の上端面にセットされるフィルム状試料2を載置するものである。
開口5寄りの試料載置部4の上面には、張力付与手段を構成する張力付与用溝8が開口5を囲むように開口5と同心円状に環状に延在形成されている。この張力付与用溝8は、張力付与用溝8の延在方向と直交する平面で切った断面形状が凹状の半円形を呈している。
また、張力付与用溝8内の底部には、張力付与用溝8との気密性を保持させるOリングなどの弾接可能なリング状のシール材6が張力付与用溝8の全長に亘り配設されている。さらに、試料載置部4の上面の周縁部寄りには、同様にして、開口5を覆うように載置されたフィルム状試料2との気密性を保持させるOリングなどの弾接可能なリング状のシール材7が開口5と同心円状に配設されている。
【0018】
上記封止手段は、図2乃至図5に示すように、試料載置部4上に載置されるフィルム状試料2の箇所2a上に重ね合わされたドーナツ板状の封止部材9と、この封止部材9を前記箇所2aを介して試料載置部4に押圧するとともにフィルム状試料2を試料載置部4に固定する固定機構及び上述のシール材7を含んで構成される。
固定機構は、試料載置部4上にシール材7及びフィルム状試料2の箇所2aを挟んで重ね合わされた封止部材9と試料載置部4との積層方向の上下両面から挟持するコの字状の複数の固定具10と、この各固定具10の封止部材9に当接する固定片10aに螺合された固定ネジ11とから構成され、固定ネジ11を固定片10aに螺入して封止部材9を試料載置部4側へ押圧することにより、フィルム状試料2を試料載置部4に複数箇所(三箇所)で固定し、かつフィルム状試料2を試料載置部4の上面に密着させて容器1の内部を気密に封止するようになっている。
【0019】
張力付与手段は、図2乃至図5に示すように、上述した張力付与用溝8と、試料載置部4上に位置するフィルム状試料2の箇所2aを張力付与用溝8内に押し込んでフィルム状試料4に上記張力を与える円盤状の張力付与用部材12と、この張力付与用部材12を張力付与用溝8に押し込む押し込み機構(符号15、16及び17等で示す部品による構成される)を含んで構成される。そして、試料載置部4の上面と対向する張力付与用部材12の下面には、張力付与用溝8の延在方向と直交する平面で切った断面形状が凸状の半円形を呈する凸条部13が開口5と同心円に、かつリング状に形成されている。
上記押し込み機構は、図4に示すように、開口5を中心に120°の角度で放射方向に延在する3つの支持片15aを有するY字状の支持部材15と、この支持部材15の中心部に螺合され張力付与用溝8に対する張力付与用部材12の押圧力を調整する調整ネジ17を含んで構成される。そして、3つの支持片15aの延在先端にそれぞれ直角に折り曲げて設けられた取付片15bは固定ネジ16によって試料載置部4に着脱可能に固定されている。
【0020】
次に、本実施の形態におけるガス透過度測定装置を、水蒸気透過度を測定するカップ法に適用した場合の動作について説明する。なお、本試料固定手順は、室温かつ低湿度の環境中で行なう。
まず、図1(a)に示すように、容器1中には、試料フィルム2を透過した水蒸気を吸収し一定時間後の重量増加を測定するための塩化カルシウム吸収剤3を投入しておく。次いで、それぞれのリング状シール材6、7を図1(a)に示すように所定の場所にセットする。
【0021】
次に、図2(a),(b)に示すように、開口5を覆うように試料載置部4の上面に、外側のリング状シール材7よりも大きく切り出したフィルム状試料2を、たるみが生じないように載置し、テープなどで貼り付ける。この場合、テープは、外側のリング状シール材7よりも外側の試料載置部4の上面や、試料載置部4の側面に貼り付ける(不図示)。
次いで、中心に穴を有する円盤状の封止部材9と固定具10及び固定ネジ11を用いてフィルム状試料2を試料載置部4に固定する。この場合、外側のリング状シール材7が充分変形するよう、確実に固定する。また、フィルム状試料2を外側のリング状シール材7上に均等に固定するために、3つの固定具10は120°の等間隔で取り付けることが望ましい。なお、この間隔で固定した場合、側面から見ると一つの固定具しか表れないが、図では、固定状態を模式的に示すため、便宜上、2つの固定具を表示している。
【0022】
次に、図3(a),(b)に示すように、封止部材9の内側に、フィルム状試料2への張力付与用の張力付与用部材12を置く。この場合、凸条部13を下側にして張力付与用部材12を封止部材9の内側にセットする。また、封止部材9の凸条部13より中心部には穴14があり、透過度測定時に、張力付与用部材12を通じて、高湿の雰囲気がフィルム状試料2の上面に充分供給されるようにしている。
次に、図5(a),(b)に示すように、張力付与用の支持部材15を試料載置部4の側面にネジ16で固定し、張力付与用部材12の凸条部13を支持部材15とネジ17により、試料載置部4の張力付与用溝8にフィルム状試料2ごと押し込み、固定する。この場合、内側のリング状シール材6が充分変形するよう、確実に固定する。これにより、フィルム状試料2には均等に張力が負荷される。
【0023】
本実施の形態に示すガス透過度測定装置では、総厚が10μm以上200μm以下のフィルム状試料の表面からのガス透過度を測定する際に有効である。総厚が200μmを超える場合、フィルム状試料自体の剛性があるため、実際に使用される状況でも、フィルム状試料の変形は僅かであり、バリア性の低下は小さいため、実用上、無負荷での透過度測定値で問題はない。
【0024】
容器1、封止部材9、固定具10、張力付与用部材12、支持部材15の材質としては、例えば、一般的な金属材料であるアルミや真鍮、ステンレスなどを使うことができるが、容器は水蒸気が不透過であればよく、また、試験の際の剛性が高ければ特に限定するものではない。固定するネジ11,16,17についても限定するものではないが、固定を容易にするため手締めが可能なローレットネジ、または蝶ネジが好ましい。
なお、本発明においては、リング状シール材6の内径から計算される透湿面積は、JIS Z 0208の規定値と同様に、25cm以上であればよく、従って、リング状シール材6の内径としては約20mm以上であればよい。
【0025】
フィルム状試料2の引っ張りは、図6に示すように、張力付与用溝8の部分において、張力付与用部材12の凸条部13を押し付ける前は、張力付与用溝8の開口長さLであったフィルム状試料の部分が、張力付与用溝8の内部に押え付けられ、L'に伸ばされることによって発生する。その結果、リング状シール材6より内側の、透過度の測定する領域の直径をDとすると、直径方向の引っ張り率を(L'−L)/Dとする張力が、フィルム状試料2の中心から外周方向に均等に働くことになる。
【0026】
上述した手順により、フィルム状試料2の外周方向に均等な張力を負荷した状態で固定した容器1を、JIS Z 0208に規定された40℃90%の環境下に一定時間放置し、その後、塩化カルシウム吸収剤3を取り出し、試験前後の重量変化から、次式(1)により求める。
透湿度(g/mday)=240×m/(t・s)・・・・・・・・・・・・・・・(1)
ここに、s:透湿面積、t:試験を行った時間の合計(h)、m:試験を行った前後の増加質量(mg)である。
【0027】
図7は、本発明のガス透過度測定装置を酸素透過度測定方法(JIS K 7126 B法)に適用した例を示す。大方は上記したカップ法の場合と同じであるが、透過セル18の上部蓋材19が、カップ法の場合の張力付与用部材12も兼ねており、この上部蓋材19には小さな穴20、21の2つのみが開いている。片方の穴20から酸素が供給され、もう1つの穴21から、排出されるようになっている点が異なる。また、開口5がフィルム状試料2で閉鎖された容器1には窒素ガスが供給されている。フィルム状試料2を透過し、容器1内に到達した酸素の量は酸素センサー(不図示)により測定され、透過度を計算するようになっている。
なお、手順もカップ法の場合と同じであるため、その説明は省略する。また、図7において、図5と同一の符号は図5と同一の部品を示している。
【0028】
以上のように、本実施の形態では、周縁部を封止手段により容器1の試料載置部4上に封止状態に固定したフィルム状試料2を、試料載置部4の上面に設けた張力付与用溝8に係合可能な凸条部13を有する張力付与用部材12を押し込み機構により押し込むことで、フィルム状試料2に負荷される張力をフィルム状試料2の全域に亘り均等に付与することができるとともにフィルム状試料を容器1の試料載置部に容易かつ確実に固定することができる。
また、本実施の形態に示した機構を、水蒸気透過度を測定するカップ法の容器や酸素透過度を測定する試料セルに適用することにより、実際の使用状態に近い、試料に張力が働いた状態での水蒸気や酸素に対するバリア性を試験することが可能になる。
【0029】
次に、本発明の実施例について説明する。
(実施例1)
本発明のカップ法として、開口直径を40mm、試料載置部の外周直径を110mm、高さ50mmのアルミ製の容器を作成した。試料載置部の上面には、内周径50mm,外周径70mmのリング状の張力付与用溝を設けた。張力付与用溝の断面形状は、直径20mmの半円形、深さを1.0mmとした。張力付与用溝の中心部に、直径60mm、断面直径3mmのOリングを張力付与用溝の表面に0.3mm露出するように設置した。また、張力付与用溝の外側に位置する試料載置部の上面に、直径90mm、断面直径3mmのOリングを張力付与用溝の表面に0.3mm露出するように設置した。次に、封止部材として、内周径が80mm、外周径が110mm、厚さが5mmのアルミ製の穴のあいた円盤を作成した。固定具としては、一つの面にネジ穴を開けたコの字型のものをアルミで作成した。張力付与用部材としては、直径が76mm、厚さが5mmの円盤形状の下面に、中心周径が60mmの半ドーナツ形の凸条部をアルミにより作成した。凸条部の断面形状は、直径が20mmの凸状の半円形を呈し、高さは2mmとした。さらに、この円盤に、中心から内半径が5mm、外半径が20mm、開口角が60度の扇型の窓穴を120度間隔で3つ形成した。張力付与用支持部材としては、幅が20mm、厚さが7mmの板が120度の等間隔で容器の外周方向に放射状に広がったY字型の部材を作成した。その先端部は、試料載置部の側面にネジにより固定できるように、90度曲げた形状とした。支持部材と、試料載置部の上面との間の間隔は6mmとした。張力付与用部材を押さえるには、ローレットネジを用いた。形成した張力付与用溝の形状、深さ、Oリングの直径より、試料の半径方向の引っ張り歪みは約0.8%とした。
【0030】
試料として、12μmのポリエチレンテレフタレート(PET)の上に、抵抗加熱蒸着法により、酸化ケイ素薄膜を100nm形成したものを用い、一辺の長さ120mmに切り出した。
そして、予め、引っ張りステージを用いて、フィルム状試料の引張試験を行い、酸化ケイ素膜の引張破壊歪みを測定したところ、破壊歪みは、約1%であった。従って、本実施例の引張破壊歪みに対する張力は、約80%である。
【0031】
この試料を、その膜面を上にして、塩化カルシウム吸収剤を内部に設置した容器の試料載置部の上面に置き、四隅をテープで軽く試料載置部の側面に貼り付け、試料を平坦な状態にした後、封止部材および固定具で固定し、続いて、張力付与用部材および張力付与用の支持部材により張力を課した。
次に、この容器を、40℃90%RHの恒温恒湿環境に24時間放置した。その後塩化カルシウム吸収剤を取り出して重量測定をし、放置前後の重量変化から、水蒸気透過度を上記式(1)により求めた。
3回試験を行い、試料の透過度を測定した結果を図7に示す。
【0032】
(実施例2)
本発明の実施例1のカップ法と比べ、張力付与用溝の断面形状を、直径14mmの円形、深さは2.0mmとし、また、張力付与用部材の下面に形成する半ドーナツ形の凸条部の断面形状を、直径14mmの半円形、高さ3.0mmと変更した以外は、実施例1と同じ構成のものを製作した。形成した張力付与用溝の形状、深さ、Oリングの直径より、試料の半径方向の引張歪みは約1.6%とした。実施例1と同手順により、水蒸気透過度を測定した。
実施例1と同様に、3回試験を行い、試料の水蒸気透過度を測定した結果を図8に示す。
【0033】
次に比較例について説明する。
(比較例1)
本発明のカップ法ではなく、張力を負荷しない、一般的なカップを使い、実施例1と同じ条件で水蒸気透過度を測定した。
【0034】
(評価)
図8から明らかなように、張力を負荷しない、従来のカップ法により測定した水蒸気透過度が最も小さい値となった。一方、実施例1では、従来法よりも10〜20%透過度が高い値を示した。これは、張力によるPETフィルム自体の透過度の変化、または、酸化ケイ素に潜在するキズの開口の影響などが考えられる。実施例2では、ほぼPET単体と同レベルの高い透過度となった。これは、張力レベルが酸化ケイ素膜の破壊歪みを超えたため、薄膜にクラックが発生し、バリア性を失ったためと考えられる。
以上にように、本発明の水蒸気透過度測定装置によれば、実際の使用時に想定される、試料に張力が作用した場合の透過度を、簡便かつ確実に測定する事が出来ることが確認された。
【産業上の利用の可能性】
【0035】
本発明の酸素および水蒸気透過度測定装置は、実際の使用時に想定される、試料に張力が作用した場合の透過度を、簡便かつ確実に測定する事が出来る。各種分野のバリアフィルム製品に広く利用することができる。
【符号の説明】
【0036】
1……容器、2……フィルム状試料、3……塩化カルシウム吸収剤、4……試料載置部、5……開口、6……リング状シール材、7……リング状シール材、8……張力付与用溝、9……封止部材、10……固定具、11……ネジ、12……張力付与用部材、13……凸条部、14……穴、15……張力付与用支持部材、16……ネジ、17……ネジ、18……透過セル、19……上部蓋材、20……穴(酸素供給用)、21……穴(酸素排出用)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上端が開口されているとともに前記開口の周囲全周に外方へ環状で平板状に延在して設けられた試料載置部を有する容器と、
前記開口を覆うように前記試料載置部の上面に載置されたフィルム状試料を前記試料載置部の上面に密着させて前記容器の内部を気密に封止する封止手段と、
前記容器の内部とは反対側の前記フィルム状試料の外表面に気体または水蒸気を供給するガス供給手段と、
前記容器内に設けられ前記フィルム状試料を透過して前記容器内に侵入してくる前記気体または水蒸気の量を測定する測定手段とを備えるガス透過度測定装置において、
前記フィルム状試料に、平面視した場合に前記容器の中心から外側に向けて引っ張られる張力を与える張力付与手段が設けられている、
ことを特徴とするガス透過度測定装置。
【請求項2】
前記張力付与手段は、前記試料載置部の上面に前記開口を囲むように環状に延在形成された張力付与用溝と、前記張力付与用溝上に位置する前記フィルム状試料の箇所を前記張力付与用溝内に押し込んで前記フィルム状試料に前記張力を与える張力付与用部材と、前記張力付与用部材を前記張力付与用溝に押し込む押し込み機構を含んで構成されていることを特徴とする請求項1記載のガス透過度測定装置。
【請求項3】
前記張力付与用溝の延在方向と直交する平面で切った断面形状は凹状の半円形を呈し、
前記張力付与用部材は環状を呈し、
前記張力付与用部材が前記張力付与用溝に係合する部分は、延在方向と直交する平面で切った断面形状が凸状の半円形を呈する凸条部として形成されていることを特徴とする請求項2記載のガス透過度測定装置。
【請求項4】
前記押し込み機構は、前記試料載置部に着脱可能に設けられた支持部材と、前記支持部材に設けられ前記張力付与用溝に対する前記張力付与用部材の押圧力を調整する調整部材を含んで構成されていることを特徴とする請求項2記載のガス透過度測定装置。
【請求項5】
前記張力付与用溝内に、前記張力付与用部材との気密性を保持する弾接可能なシール材が配置されていることを特徴とする請求項2または3記載のガス透過度測定装置。
【請求項6】
前記封止手段は、前記試料載置部上に載置された前記フィルム状試料の箇所の上に重ね合わされる封止部材と、前記封止部材を前記箇所を介して前記試料載置部に押圧して固定する固定機構を含んで構成されていることを特徴とする請求項1乃至5に何れか1項記載のガス透過度測定装置。
【請求項7】
前記封止手段は、前記試料載置部の上面に配設され前記封止部材に弾接可能なシール材を含んで構成されることを特徴とする請求項6記載のガス透過度測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−210323(P2010−210323A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−54959(P2009−54959)
【出願日】平成21年3月9日(2009.3.9)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】