説明

ガソリン基材の製造方法、環境対応ガソリン、およびその製造方法

【課題】環境への影響を低減した超低硫黄分の環境対応ガソリンとその製造方法を提供する。また、該環境対応ガソリンの調製に好適なガソリン基材の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明による硫黄分が10質量ppm以下、チオフェン類による硫黄分が全硫黄分の30質量%以上、かつリサーチオクタン価が85以上であるガソリン基材の製造方法は、流動接触分解ナフサを分留して5%留出温度が50〜120℃、95%留出温度が150〜220℃である接触分解重質ナフサ留分を得る第1工程、及び第1工程で得られた接触分解重質ナフサ留分の硫黄分が50〜150質量ppm、オレフィン分が25容量%以下であり、この接触分解重質ナフサ留分をオレフィン含有量の低減率が40%以下の条件で水素化脱硫して脱硫接触分解重質ナフサ留分を得る第2工程を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環境への影響を低減するために硫黄分を10質量ppm以下に低減した環境対応ガソリンとその製造方法、および該環境対応ガソリンの調製に好適なガソリン基材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の高性能化に伴って、高い運転性能をもつ高性能ガソリンの需要が増加している。一方、自動車燃料やその燃焼排ガスによる環境汚染が社会問題になってきている。したがって、高い運転性能を維持するとともに、環境負荷の少ない自動車燃料が望まれている。特に、排ガス浄化と燃費改善の観点から、硫黄分の一層の低減が切望されている。
【0003】
JIS K 2202には、リサーチ法オクタン価(RON)が96以上の1号自動車ガソリンと89以上の2号自動車ガソリンが規定されており、前者は高性能なプレミアムガソリンとして、後者はレギュラーガソリンとして市販されている。従来、レギュラーガソリンは、接触改質ガソリン基材、アルキレートガソリン基材、ライトナフサ基材、接触分解ガソリン基材(接触分解ナフサ留分)のような基材を中心に、各種の基材を配合して製造されている。
【0004】
重質な石油留分を接触分解することによって製造される接触分解ガソリン基材は、他のレギュラーガソリン基材に比べ、経済的に製造できるという利点がある一方、硫黄分を多く含んでいた。その結果、上述のようにして製造されるレギュラーガソリン中の硫黄分の大部分は、接触分解ガソリン基材に由来していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−183676号公報
【特許文献2】特開平9−40972号公報
【特許文献3】特開平8−209154号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
接触分解ガソリン基材の硫黄分の低減は、高圧水素と触媒の共存下で水素化精製するという公知技術で容易に可能である。その場合は、接触分解ガソリン基材中に多く含まれ、高いRONをもつオレフィン分が水素化されて基材のRONが低下してしまう。そこで、硫黄分の多い重質な接触分解ガソリン基材のみを水素化精製することで全体としてのオレフィン分の低下を防ぐことが行われる。
【0007】
本発明者は、このような重質な接触分解ガソリン基材の水素化精製を検討したところ、原料油中に含まれていない有機硫黄化合物が精製後の基材に含まれ、この成分が臭気や腐食性に大きな影響を与えていることを見出した。本発明はこのような水素化精製後に発生する有機硫黄化合物による問題を解決して、環境への影響を低減した超低硫黄分の環境対応ガソリンとその製造方法を提供することを目的とするものである。また、本発明は、該環境対応ガソリンの調製に好適なガソリン基材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、水素化精製で発生する硫化水素と原料油中のオレフィンが反応することで、新たに有機硫黄化合物が発生しているとの着想を持ち、水素化精製の原料油中に含まれるオレフィン分を限定することで、水素化精製した接触分解ガソリン基材による問題を防止できることを見出した。これらの知見からこの発明に至った。
【0009】
すなわち、本発明による硫黄分が10質量ppm以下、チオフェン類による硫黄分が全硫黄分の30質量%以上、かつリサーチオクタン価が85以上であるガソリン基材の製造方法は、流動接触分解ナフサを分留して5%留出温度が50〜120℃、95%留出温度が150〜220℃である接触分解重質ナフサ留分を得る第1工程、及び第1工程で得られた接触分解重質ナフサ留分の硫黄分が50〜150質量ppm、オレフィン分が25容量%以下であり、この接触分解重質ナフサ留分をオレフィン含有量の低減率が40%以下の条件で水素化脱硫して脱硫接触分解重質ナフサ留分を得る第2工程を含む。
好ましくは、上記ガソリン基材の硫黄分は5質量ppm以下であり、また、脱硫接触分解重質ナフサ留分をアルカリ性物質と接触させ、含まれる硫黄分を3質量ppm以下かつチオール類の含有量を1質量ppm以下にする。
【0010】
さらに、本発明は、上記の製造方法によるガソリン基材と、硫黄分10質量ppm以下の他のガソリン基材とを混合する配合工程を含む、硫黄分が10質量ppm以下、かつリサーチオクタン価が89以上である環境対応ガソリンの製造方法である。
【0011】
また、本発明による環境対応ガソリンは、全硫黄分が10質量ppm以下、チオール類による硫黄分とチオフェン類による硫黄分の合計が50質量%以上を占め、かつリサーチ法オクタン価が89〜96である。また、チオフェン類による硫黄分が全硫黄分の30質量%以上を占めることが好ましく、オレフィン含有量が10〜30容量%であることがさらに好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、流動接触分解ナフサから炭素数5以下のオレフィンのほとんどを含まず、炭素数7以上のオレフィン分のほとんどを含む重質ナフサ留分と、炭素数5以下のオレフィン分のほとんどを含み炭素数7以上のオレフィンをほとんど含まない軽質ナフサ留分に分け、重質ナフサ留分のみを水素化脱硫するので、精製された脱硫重質ナフサ留分には、炭素数5以下の脂肪族チオールはほとんど含まれることなく、このような硫黄化合物による臭気や腐食性の問題を回避できる。
また、本発明によれば、水素化脱硫にかける原料中のオレフィン分を25容量%以下とすることで、オレフィンと脱硫によって生成する硫化水素によるメルカプタン再生成反応を抑制し、オクタン価ロスを最小限しながら、生成油中の硫黄分を10質量ppm以下、さらには5ppm質量以下にもすることが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
〔水素化精製によって生成するチオール類の形態〕
接触分解ナフサを水素化精製によって脱硫処理すると硫化水素が発生する。接触分解ナフサにはオレフィンが含まれているため、オレフィンと硫化水素が反応しチオールが生成する。接触分解ナフサには元々チオールが含まれるが、チオールは非常に反応性が高く水素化精製による脱硫処理によって容易に脱硫されるため、脱硫接触分解ナフサに含まれるチオールは、水素化精製中に硫化水素とオレフィンとが反応して生成したものがほとんどである。接触分解ナフサには通常炭素数4〜12のオレフィンが含まれているため、接触分解ナフサを水素化精製処理すると炭素数4〜12のチオールが生成する。チオール類は、ガソリン中の悪臭物質の1つであり、チオール類の沸点が低いほど悪臭が強い。チオール類は炭素数が小さいほど沸点が低いため、炭素数5以下のチオールは特に悪臭が強い。チオール類は、オレフィンと硫化水素が反応して容易に生成するため、接触分解ナフサを水素化脱硫処理する前に、炭素数5以下のオレフィンを軽質ナフサ留分として分留して除去することによって、脱硫接触分解ナフサ中の炭素数5以下のチオール生成を抑制することができる。
【0014】
チオール類を大別すると、鎖状パラフィンにSH基が付加した鎖状チオール類、環状パラフィンにSH基が付加した脂環式チオール類、芳香環に直接SH基が付加した芳香族チオール類に分けられる。このうち、水素化精製処理によって生成するのは、鎖状チオール類と脂環式チオール類であり、ここではこれらを合わせて脂肪族チオール類と呼ぶ。
【0015】
〔接触分解プロセス〕
接触分解ナフサを製造するプロセスは、接触分解装置、運転条件および用いる触媒を特に限定するものでなく、公知の任意の製造プロセスを採用できる。接触分解装置は、無定形シリカアルミナ、ゼオライトなどの触媒を使用して、軽油から減圧軽油までの石油留分の他、重油間接脱硫装置から得られる間脱軽油、重油直接脱硫装置から得られる直脱重油、常圧残さ油などを接触分解して高オクタン価ガソリン基材を得る装置である。例えば石油学会編「新石油精製プロセス」に記載のあるUOP接触分解法、フレキシクラッキング法、ウルトラ・オルソフロー法、テキサコ流動接触分解法などの流動接触分解法、RCC法、HOC法などの残油流動接触分解法などがある。また、21st JPI Petroleum Refining Conference “Recent Progress in PetroleumProcess Technology”, p.113-158 (2002)、Sulphur, 268, 35, (2000)、“Production of Low Sulfur Gasoline and Diesel Fuels: Tier 2 andBeyond”, Petroleum Refining Technology Seminar, p.4-24 (August 2001)、特開平6−277519に開示されているような、脱硫効果の高い接触分解触媒や脱硫効果をもった添加剤を接触分解触媒に添加して用いることもできる。
【0016】
〔接触分解原料油〕
原油を常圧蒸留して得られる常圧蒸留残油、常圧蒸留残油を減圧蒸留して得られる留出油留分である減圧軽油、原油を常圧蒸留して得られる留出油留分のうちの直留軽油留分、常圧蒸留残渣油を減圧蒸留して得られる減圧蒸留残渣油を熱分解して得られる熱分解重質軽油留分等を硫黄分4000質量ppm以下、特には2000質量ppm以下、窒素分1000質量ppm以下、特には500質量ppm以下となるように水素化精製処理したものが好ましく用いられる。また、接触分解プロセスで得られるガソリン留分より沸点の高いライトサイクルオイルや水素化分解プロセスで得られる減圧蒸留残油留分、またはそれらを水素化精製処理したものも好ましく用いられる。硫黄分、窒素分、バナジウム分、ニッケル分の含有量が比較的低い原油の場合は、直留軽油、減圧軽油、常圧蒸留残油、減圧残油を水素化精製せずに、接触分解原料油としてまたはその一部として用いることもできる。
【0017】
〔第1工程〕
接触分解装置で処理した後に得られる生成物は、軽質ガス、流動接触分解ナフサ、ライトサイクルオイル、ヘビーサイクルオイル、コークである。これら生成物のうち、コーク以外は蒸留塔で蒸留し、各留分が得られる。本発明の第1工程では、流動接触分解ナフサから炭素数5以下のオレフィンのほとんどを含む軽質ナフサ留分と、炭素数5以下のオレフィンを実質的に含まない重質ナフサ留分を分取する。接触分解装置の生成物から軽質ナフサ留分と重質ナフサ留分を直接に分留してもよいし、一旦、これらを含む留分を分留した後、さらに分留して軽質ナフサ留分と重質ナフサ留分に分けてもよい。
【0018】
接触分解重質ナフサ留分には必然的にオレフィン分が含まれるが、水素化脱硫におけるオクタン価ロスを抑制するため含まれるオレフィン分を25容量%以下、好ましくは20容量%以下とする必要がある。
さらに、重質ナフサ留分には、流動接触分解ナフサに含まれる炭素数5以下のオレフィンの0〜10容量%、特には0〜5容量%が含まれることが好ましく、また、炭素数7以上のオレフィンは50〜100容量%、特には75〜100容量%含まれることが好ましい。軽質ナフサ留分には、流動接触分解ナフサに含まれる炭素数5以下のオレフィンの90〜100容量%以上、特には95〜100容量%以上が含まれることが好ましく、炭素数7以上のオレフィンは0〜50容量%、特には0〜25容量%含まれることが好ましい。
通常、軽質ナフサ留分は、5%留出温度が25〜50℃、95%留出温度が60〜120℃、特には75〜100℃であり、重質ナフサ留分は、5%留出温度が50〜120℃、特には80〜120℃、95%留出温度が150〜220℃、特には170〜220℃であることが好ましい。重質ナフサ留分に炭素数5以下のオレフィンが多く含まれると、第2工程で得られる重質ナフサ留分中に炭素数5以下のチオール類が多く含まれてしまう。炭素数5以下のチオール類は沸点が比較的低く、揮発性が高い上、悪臭が強いため、炭素数5以下のチオール類がガソリン中に含まれないよう、炭素数5以下のオレフィンが重質ナフサ留分に入らないよう分留するのが好ましく、重質ナフサ留分中の炭素数5以下のオレフィンは1.4容量%以下、特には1.0容量%以下、さらには0.5容量%以下であるのが好ましい。
【0019】
炭素数7以上のオレフィンは軽質ナフサ留分にあまり含まれない方が好ましい。炭素数7以上のオレフィンが軽質ナフサ留分に多く含まれると、軽質ナフサ留分の硫黄濃度が高くなり、軽質ナフサ留分の脱硫が必要となるが、このとき軽質ナフサ留分に含まれる硫黄化合物は多くが脱硫されにくいチオフェン類硫黄化合物であるため、オクタン価ロスを伴わずに脱硫するのが困難になる。軽質ナフサ留分中の炭素数7以上のオレフィンは10容量%以下、特には5容量%以下、さらには3容量%以下であるのが好ましい。
【0020】
〔軽質ナフサ留分からチオール類を減じる処理〕
軽質ナフサ留分については、硫黄分が10質量ppm未満かつチオールによる硫黄分が1.5質量ppm未満であれば特に何らかの処理を行う必要はない。チオールによる硫黄分が1.5質量ppm以上の場合は、チオールによる硫黄分が1.5質量ppm未満となるよう、チオールを減ずる処理をするのが好ましい。チオールを減ずる処理については、チオールによる硫黄分を除去する方法と、チオールをチオールではない別の物質に重質化する方法がある。
チオールによる硫黄分を除去する方法としてはペトロテック17 (11), 974 (1994) や講談社サイエンティフィク社「石油精製プロセス」(1998) 記載の抽出型のスイートニングプロセス、抽出酸化型のスイートニングプロセス、あるいは、硫黄化合物の吸着または収着機能をもった脱硫剤と接触分解軽質ナフサ留分を接触させる方法があげられる。チオールをチオールではない別の物質に重質化する方法としては、ペトロテック17 (11), 974 (1994) や講談社サイエンティフィク社「石油精製プロセス」(1998) 記載の酸化型のスイートニングプロセスや、チオール類を接触分解ナフサ中のジオレフィンやオレフィンと反応させて重質化させる方法が好ましい方法としてあげられる。チオール類を減ずる処理は分留する前でも後でもどちらでもよいが、重質化によってチオール類を減じる場合には分留する前の方が、軽質ナフサ留分中の硫黄分を減じることができるため、なお一層好ましい。
軽質ナフサ留分の硫黄分が10質量ppm以上の場合は、脱硫重質ナフサ留分と混合した後の脱硫接触分解ナフサの硫黄分が20質量ppm以下、好ましくは10質量ppm以下となるよう任意の方法で脱硫処理をするのが好ましい。脱硫処理としては、特に限定はしないが、硫黄化合物の吸着または収着機能をもった脱硫剤と軽質ナフサ留分を接触させる方法や抽出によって軽質ナフサ留分から硫黄化合物を選択的に除去する方法が好ましい方法として挙げられる。触媒と水素の存在下で、軽質ナフサ留分を水素化精製処理する方法も挙げられるが、高圧の水素の存在下では、オレフィンが水素化されやすく、得られるガソリン基材のRONが低下しやすい。そのため、脱硫処理は、水素が実質的に存在しない状態、または水素分圧1MPa未満で行うことが好ましい。
【0021】
〔第2工程〕
本発明の第2工程では第1工程で得られた重質ナフサ留分を水素化脱硫処理して、第三工程に供する脱硫重質ナフサ留分を得る。水素化脱硫処理は、重質ナフサ留分と水素化脱硫触媒を高圧水素の存在下で接触させるものであるが、オレフィン含有量の低減率を40%以下とする条件で行う。水素化脱硫触媒は、アルミナなどの無機多孔質担体にモリブデン、ニッケル、コバルト、リンのうち少なくとも1種を担持した触媒が好ましく用いられる。好ましい反応条件は、反応温度150〜350℃、反応圧力0.1〜4.0MPa、LHSV1.0〜10h−1、H2/OIL=50〜1000NL/Lである。特に好ましい反応条件は、反応温度200〜300℃、反応圧力1.0〜2.5MPa、LHSV2.0〜6.0h−1、H2/OIL=100〜500NL/Lである。
【0022】
重質ナフサ留分の硫黄分は50〜150質量ppm、特には50〜100質量ppmが好ましい。重質ナフサ留分の硫黄分が多いと、シビアーな水素化精製を強いられてオクタン価ロスが大きくなり好ましくない。
【0023】
水素化脱硫処理に用いる原料油として、接触分解ナフサ以外に硫黄分を高濃度に含む他のガソリン相当留分の油も選択することができる。具体的には、常圧蒸留装置から留出する直留ナフサ、熱分解装置から留出する熱分解ナフサ、脱ろう装置から留出する脱ろうナフサ、直接脱硫装置から留出する直脱ナフサ、間接脱硫装置から留出する間脱ナフサなどがあげられる。これらは分留する前の接触分解ナフサに混合してもよいし、分留後の重質ナフサ留分に混合してもよいが、重質ナフサ留分の硫黄分が200質量ppm以下、さらには150質量ppm以下になるよう混合するのが好ましい。分留する前にチオール類を減じる処理を行う場合は、その前に混合するのが好ましい。
【0024】
脱硫重質ナフサ留分の硫黄分は10質量ppm以下にする。硫黄化合物別には、チオール類は10質量ppm以下、特には3質量ppm以下、さらには1.5質量ppm以下であることが好ましい。炭素数7以上の脂肪族チオールは0.1〜10質量ppm、特には0.1〜2.5質量ppmが好ましい。炭素数6以下の脂肪族チオールは0.1〜10質量ppm、特には0.1〜2質量ppmが好ましい。脱硫重質ナフサ留分中の脂肪族チオールを0.1質量ppm未満にすると、水素化精製処理におけるRONが著しく低下し好ましくない。
【0025】
〔脱硫重質ナフサ留分からチオール類を減じる処理〕
脱硫重質ナフサ留分からチオール類を減じる方法は、特に限定はしないが、水素化脱硫以外の方法であり、チオール類を選択的に減じることが好ましい。具体的には、アルカリ性物質と接触させて脱硫重質ナフサ留分中のチオール類をスイートニングする方法や硫黄化合物の吸着または収着機能をもった脱硫剤と脱硫重質ナフサ留分を接触させる方法によってチオール類を選択的に除去する方法が好ましい方法として挙げられる。
【0026】
従来から石油精製においては、チオール類を処理して製品を無臭化するためのスイートニングが行われており、ペトロテック17 (11), 974 (1994) や講談社サイエンティフィク社「石油精製プロセス」(1998) 記載のマーロックス法などが好ましく用いられる。スイートニングにおいては、オレフィン類はそのまま保持されるのでRONは減少しない。ただし、脱硫重質ナフサ留分には炭素数が7以上の重質なチオールが多く含まれているが、このようなチオールは従来のマーロックス法などでは反応性が低く、十分に転化できない可能性がある。その場合には、重質なチオールが除去できるスイートニングプロセスを選択する必要がある。具体的には、NPRA 2000 Annual Meeting AM-00-54記載のMERICAT−IIプロセスなどが挙げられる。
【0027】
チオール類は苛性ソーダやアンモニア等のアルカリ性物質の存在によってジスルフィド類に転化する。このとき、添加剤や触媒を用いることによって転化効率を向上させることができる。また、抽出型のスイートニングプロセスはチオール類をアルカリ性物質と反応させ、油分から分離できるため、油中の硫黄分を減ずることができる。
なお、脱硫重質ナフサ留分からチオール類を減じる処理を行った場合、チオール低減処理後の脱硫重質ナフサ留分に含まれる硫黄分は、10質量ppm以下、さらには5質量ppm以下、特には3質量ppm以下が好ましい。また、チオール類の含有量は、3質量ppm以下、さらには2質量ppm以下、特には1質量ppm以下が好ましい。
【0028】
〔多孔質脱硫剤による処理〕
吸着または収着機能をもった脱硫剤と脱硫重質ナフサ留分を接触させる方法を用いる場合の脱硫剤としては、硫黄化合物に対する吸着または収着機能を有するものであれば特に限定はない。銅、亜鉛、ニッケルおよび鉄から選ばれる少なくとも1種を含む多孔質脱硫剤が好ましく用いられる。好ましい脱硫剤は、銅などの金属成分を0.5〜85重量%、特には1〜80重量%含有する。脱硫剤の製造方法は特に限定されないが、アルミナのような多孔質担体に銅などの金属成分を含浸、担持して、焼成する製造方法や共沈法によって銅などの金属成分とアルミニウムなどの成分とを沈殿させて成形、焼成等の工程を経る製造方法が、好ましい方法として挙げられる。また、成形、焼成された脱硫剤にさらに金属成分を含浸、担持して、焼成してもよい。脱硫剤は、焼成されたものをそのまま用いてもよいし、水素雰囲気下で処理して用いてもよい。脱硫剤の比表面積は、50m/g以上、特には200〜600m/gが好ましい。脱硫剤の組成や製造方法は特に限定されないが、特許第3324746号公報、特許第3230864号公報、および特開平11−61154号公報に開示されているような脱硫剤が好ましいものとして挙げられる。
【0029】
脱硫処理は、バッチ式で行っても、流通式で行っても構わないが、脱硫剤を充填した固定床脱硫塔に脱硫重質ナフサ留分を流通させて行うことが、脱硫剤と得られる脱硫重質ナフサ留分の分離が簡便にできるので好ましい。脱硫処理する温度は、15〜400℃の範囲から選ぶことができ、好ましくは80〜380℃の範囲から選ぶとよい。水素を共存させて脱硫処理を行ってもよい。ただし、オレフィンが水素化され、得られるガソリン基材のRONが低下することを避けるため、水素分圧は1MPa未満とすることが好ましく、さらには0.6MPa未満とすることが好ましい。固定床流通式で脱硫剤と軽質ナフサ留分を接触させて脱硫処理を行う場合、LHSVは、0.01〜10000h−1の範囲から選ぶことが好ましい。
【0030】
〔第三工程に用いる他のガソリン基材〕
本発明で、軽質ナフサ留分、脱硫重質ナフサ留分に第三工程にて混合される他のガソリン基材としては、接触改質ガソリン基材、アルキレートガソリン基材、直留ナフサを脱硫処理した基材、およびメチルt−ブチルエーテル(MTBE)、エチルt−ブチルエーテル(ETBE)、t−アミルエチルエーテル(TAEE)、エタノール、メタノール等の含酸素ガソリン基材等、公知のガソリン基材を用いることができる。混合される他のガソリン基材は、硫黄分が10質量ppm以下であることが好ましく、さらには5質量ppm以下であることが好ましい。他のガソリン基材の硫黄分が10質量ppmを超えると、軽質ナフサ留分、脱硫重質ナフサ留分への配合量が制約され好ましくない。
【0031】
好ましい配合量は、軽質ナフサ留分を20〜60容量%特には30〜50容量%、脱硫重質ナフサ留分を25〜65容量%特には35〜55容量%、接触改質ガソリン基材を5〜50容量%特には10〜40容量%、脱硫処理した直留ナフサなどの他の基材50容量%以下、特には5〜35容量%である。
【0032】
〔他の成分〕
さらに、本発明のガソリン組成物には、当業界で公知の燃料油添加剤の1種又は2種以上を必要に応じて配合することができる。これらの配合量は適宜選べるが、通常は添加剤の合計配合量を0.1重量%以下に維持することが好ましい。本発明のガソリンで使用可能な燃料油添加剤を例示すれば、フェノール系、アミン系などの酸化防止剤、シッフ型化合物、チオアミド型化合物などの金属不活性化剤、有機リン系化合物などの表面着火防止剤、コハク酸イミド、ポリアルキルアミン、ポリエーテルアミンなどの清浄分散剤、多価アルコール又はそのエーテルなどの氷結防止剤、有機酸のアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩、高級アルコールの硫酸エステルなどの助燃剤、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、両性界面活性剤などの帯電防止剤、アゾ染料などの着色剤を挙げることができる。
【0033】
〔環境対応ガソリン〕
本発明による環境対応ガソリンは、全硫黄分が10質量ppm以下、好ましく5質量ppm以下であり、好ましくは、チオール類による硫黄分とチオフェン類による硫黄分の合計が全硫黄分の50質量%以上を占め、さらには、チオフェン類による硫黄分が全硫黄分の30質量%以上を占めることが好ましい。また、炭素数7以上の脂肪族チオールによる硫黄分がチオール類による硫黄分の50質量%以上を占め、かつリサーチ法オクタン価が89〜96である。好ましくは、ドクター試験が陰性であり、および/または、酸化防止剤を30質量ppm以上含み銅板腐食試験による評価が1以下である。
【0034】
好ましくは、50容量%留出温度が105℃以下、好ましくは80〜100℃であり、オレフィン分が10容量%以上、好ましくは10〜30容量%である。硫黄分は0.1〜10質量ppmが好ましい。硫黄化合物別には、チオール類は3.0質量ppm以下、特には1.5質量ppm以下であることが好ましい。炭素数7以上の脂肪族チオールは全チオール類のうち50質量%以上であるのが好ましい。炭素数7以上の脂肪族チオールを全チオール類中の50質量%未満とすることはRONを大幅に損ない好ましくない。炭素数6以下の脂肪族チオールは、1.5質量ppm以下、特には1.0質量ppm以下が好ましい。
【0035】
以下に、本発明を実施例に基づいてより詳細に説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。なお、本実施例では、密度はJIS K 2249に、蒸留性状はJIS K 2254に、また、蒸気圧はJIS K 2258に準拠して測定した。硫黄分はJIS K 2541の微量電量滴定式酸化法によって測定した。硫黄化合物の含有量(硫黄換算)は、化学発光によって硫黄化合物を選択的に検出、定量するANTEK製硫黄化学発光検出器を備えた島津製作所製ガスクロマトグラフ装置を用いて、ガスクロマトグラフ法で測定した。炭化水素成分組成およびRONは、ヒューレットパッカード社製PIONA装置を用いて、ガスクロマトグラフ法で測定した。ドクター試験はJIS K 2276に、銅板腐食はJIS K 2513に準拠して測定した。
【実施例】
【0036】
(実施例1)
中東系原油の減圧軽油留分を水素化精製処理したものと常圧蒸留残渣を水素化精製処理したものを主たる原料油とする流動接触分解で得られたナフサ留分Aを、酸化型のスイートニング装置によって処理してナフサ留分Bを得た。これらの留分の性状を表1、2に示す。ナフサ留分Bを分留し、軽質ナフサ留分Cと重質ナフサ留分Dを得た。これらの留分の性状を表3、4に示す。ここで、スイートニング処理は、UOP社のマーロックスプロセスによって行った。
【0037】
【表1】

【0038】
【表2】

【0039】
【表3】

【0040】
【表4】

【0041】
【表5】

【0042】
【表6】

【0043】
この重質ナフサ留分Dをコバルト、モリブデンおよびリンをアルミナに担持した触媒(コバルト含有量2.4質量%、モリブデン含有量9.4質量%、リン含有量2.0質量%)を用い、反応温度250℃、反応圧力1.0MPa、LHSV=5.0h−1、H/OIL=307NL/Lの条件下にて水素化脱硫を行い、脱硫重質ナフサ留分Gを得た。この留分の性状を表7、8に示す。
【0044】
【表7】

【0045】
【表8】

【0046】
この脱硫重質ナフサ留分G、軽質ナフサ留分Cと、さらに表9に性状を示す他のガソリン基材(脱硫ナフサL、接触改質中質油M、接触改質重質油N、アルキレートガソリンO)を表10の配合量で配合し、酸化防止剤10質量ppm、着色剤、清浄分散剤を加え無鉛ガソリン組成物Pを得た。酸化防止剤としては、ACTEL社製AO−550を用いた。無鉛ガソリン組成物Pの性状を表11および12に示す。
【0047】
【表9】

【0048】
【表10】

【0049】
(実施例2)
実施例1と同じ重質ナフサ留分Dを反応温度240℃とする以外は実施例1と同様に水素化脱硫を行い、脱硫重質ナフサ留分Hを得た。この脱硫重質ナフサ留分H、軽質ナフサ留分Cと、さらに実施例1と同じ他のガソリン基材を表10の配合量で配合し、酸化防止剤100質量ppm、着色剤、清浄分散剤を加え無鉛ガソリン組成物Qを得た。脱硫重質ナフサ留分H、および無鉛ガソリン組成物Qの性状を表7、8、11および12に示す。
【0050】
【表11】

【0051】
【表12】

【0052】
(実施例3)
実施例2と同様の方法によって得られた脱硫重質ナフサ留分H100ccを12規定の水酸化ナトリウム溶液100ccに加え、室温で30分撹拌しながら接触させた後、油分を抽出処理して脱硫重質ナフサ留分Iを得た。この脱硫重質ナフサ留分I、軽質ナフサ留分Cと、さらに実施例1と同じ他のガソリン基材を表10の配合量で配合し、実施例1と同様に酸化防止剤10質量ppm、着色剤、清浄分散剤を加え無鉛ガソリン組成物Rを得た。脱硫重質ナフサ留分I、および無鉛ガソリン組成物Rの性状を表7、8、11および12に示す。
【0053】
(実施例4)
実施例2と同様の方法によって得られた脱硫重質ナフサ留分H100ccを酸化銅−アルミナ系脱硫剤(銅を金属原子として7.6質量%含有)20gと、室温で、2時間、フラスコ中で攪拌混合処理した後、脱硫剤を濾別して脱硫重質ナフサ留分Jを得た。この脱硫重質ナフサ留分J、軽質ナフサ留分Cと、さらに実施例1と同じ他のガソリン基材を表10の配合量で配合し、実施例1と同様に酸化防止剤10質量ppm、着色剤、清浄分散剤を加え無鉛ガソリン組成物Sを得た。脱硫重質ナフサ留分J、および無鉛ガソリン組成物Sの性状を表7、8、11および12に示す。
【0054】
(比較例1)
実施例1と同じナフサ留分Bを分留し、軽質ナフサ留分Eと重質ナフサ留分Fを得た。軽質ナフサ留分Eと重質ナフサ留分Fの性状と成分組成を表5、6に示す。このうち、重質ナフサ留分Fを実施例2と同様に水素化脱硫を行い、脱硫重質ナフサ留分Kを得た。この脱硫重質ナフサ留分K、軽質ナフサ留分Eと、さらに実施例1と同じ他のガソリン基材を表10の配合量で配合し、酸化防止剤100質量ppm、着色剤、清浄分散剤を加え無鉛ガソリン組成物Tを得た。脱硫重質ナフサ留分K、および無鉛ガソリン組成物Tの性状を表7、8、11および12に示す。
【0055】
(実施例5)
実施例1と同じ重質ナフサ留分Dを実施例2と同様に水素化脱硫を行い、脱硫重質ナフサ留分Hを得た。この脱硫重質ナフサ留分H、軽質ナフサ留分Cと、さらに実施例1と同じ他のガソリン基材を表10の配合量で配合し、実施例1と同様に酸化防止剤10質量ppm、着色剤、清浄分散剤を加え無鉛ガソリン組成物Uを得た。脱硫重質ナフサ留分H、および無鉛ガソリン組成物Uの性状を表7、8、11および12に示す。
【0056】
(実施例6)
実施例1で用いた脱硫重質ナフサ留分Gを、さらに実施例3と同じ方法でスイートニングして、すなわち、脱硫重質ナフサ留分G100ccを12規定の水酸化ナトリウム溶液100ccに加え、室温で30分撹拌しながら接触させた後、油分を抽出処理して、硫黄分をさらに低減した脱硫重質ナフサ留分Xを得た。この脱硫重質ナフサ留分Xと、軽質ナフサ留分C、および表9の他のガソリン基材を表10の配合量で配合し、実施例1と同様に酸化防止剤10質量ppm、着色剤、清浄分散剤を加え無鉛ガソリン組成物Vを得た。脱硫重質ナフサ留分X及び無鉛ガソリン組成物Vの性状と成分組成を表7、8、11および12に示す。
【0057】
実施例と比較例を比べるとわかるように、接触分解ナフサ中のC5オレフィンの5%以下が重質ナフサ留分に含まれるように分留し、重質ナフサ留分のみを脱硫することによって、脱硫接触分解ナフサに含まれるチオール類は臭気が比較的弱い炭素数7以上の脂肪族チオール類が50%以上となる。したがって、これを混ぜたガソリンは、炭素数6以下の脂肪族チオール類を多く含むガソリンに比べて臭気が弱くなる。またドクター試験も陰性となることがわかる。たとえ実施例5のように陽性であっても、実施例2に示すように酸化防止剤の添加量を調節することによって容易に陰性にすることができ、本発明の環境への影響を低減した超低硫黄分の環境対応ガソリンの商品価値を向上することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
全硫黄分が10質量ppm以下、かつチオール類による硫黄分とチオフェン類による硫黄分の合計が全硫黄分の50質量%以上を占め、かつリサーチ法オクタン価が89〜96である環境対応ガソリン。
【請求項2】
チオフェン類による硫黄分が全硫黄分の30質量%以上を占める請求項1に記載の環境対応ガソリン。
【請求項3】
さらに、オレフィン含有量が10〜30容量%である請求項1または2に記載の環境対応ガソリン。

【公開番号】特開2010−59437(P2010−59437A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−283274(P2009−283274)
【出願日】平成21年12月14日(2009.12.14)
【分割の表示】特願2004−279115(P2004−279115)の分割
【原出願日】平成16年9月27日(2004.9.27)
【出願人】(304003860)株式会社ジャパンエナジー (344)