説明

ガソリン組成物、ガソリン基材の製造方法及びガソリン組成物の製造方法

【課題】 重質留分が少なくて、オクタン価を高めたガソリン組成物を提供する。
【解決手段】 蒸気圧が65kPa以下、15℃における密度が0.70〜0.78g/cm3及び50%留出温度が75〜100℃であり、硫黄分を10質量ppm以下、ベンゼン分を1容量%以下及び2,2,4−トリメチルペンタンを1〜10容量%含み、2,2,4−トリメチルペンタン/2,2,3−トリメチルペンタンの容積比が30以上、2,2,4−トリメチルペンタン/2,3,4−トリメチルペンタンの容積比が30以上からなり、好ましくは銀板腐食が1以下からなるリサーチ法オクタン価が92〜96のガソリン組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガソリン組成物、ガソリン基材の製造方法及び当該ガソリン基材を配合するガソリン組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化対策が世界的な課題になっており、二酸化炭素の削減方法として、自動車の燃費改善のためガソリンのオクタン価を上げることが要望されている。
このオクタン価を上げる方法として、トルエン等の芳香族分やオレフィン分、その他重質留分の配合割合を増やすことが一般的であるが、芳香族分や重質留分はオクタン価は高いが、燃焼性が悪く、エンジン内のデポジットの原因になることが知られている。また、オレフィン分もオクタン価が高いが、安定性が悪く、ガム状物質を増加させ、インジェクターを詰まらせる等の不具合が発生する可能性があると指摘されている。
【0003】
一方、エタノールやその誘導体であるエチルターシャリーブチルエーテル(ETBE)、或いはメチルターシャリーブチルエーテル(MTBE)の含酸素化合物を配合することにより、重質留分をある程度低減させてもオクタン価を維持できるとしたガソリンが提案されている(例えば、特許文献1〜3参照)。したがって、重質留分をある程度含有させたまま含酸素化合物を配合することによってオクタン価の高いガソリンを得ることはできる。
【特許文献1】特開2004−244532公報
【特許文献2】特開2004−292510公報
【特許文献3】特開2004−292511公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、含酸素化合物を添加するためには、タンクや混合設備等、これに対応する新たな設備を設ける必要であるし、また、含酸素化合物は燃料基材としては価格が高い等の問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、2,2,4−トリメチルペンタンを特定量含有させることにより高オクタン価ガソリンが得られること、また重質化を防ぐためにアルキレートの重質部分をカットした軽質アルキレートがガソリン基材として好適で、これを配合することにより、比較的安いコストで、重質留分を含まなくて高オクタン価ガソリンが製造できるという知見を得、本発明に想到した。
【0006】
本発明の第1の態様によるガソリン組成物は、蒸気圧が65kPa以下、15℃における密度が0.70〜0.78g/cm3及び50%留出温度が75〜100℃であり、硫黄分を10質量ppm以下、ベンゼン分を1容量%以下及び2,2,4−トリメチルペンタンを1〜10容量%含み、2,2,4−トリメチルペンタン/2,2,3−トリメチルペンタンの容積比が30以上、2,2,4−トリメチルペンタン/2,3,4−トリメチルペンタンの容積比が30以上のリサーチ法オクタン価が92〜96からなるもので、好ましくは銀板腐食が1以下のものである。
【0007】
本発明の第2の態様によるガソリン基材の製造方法は、初留点が25℃以上、終点が220℃以下及び15℃における密度が0.72g/cm3以下のアルキレートから、初留点が25℃以上、終点が120℃以下、15℃における密度が0.68g/cm3以下で、かつ2,2,4−トリメチルペンタンを40容量%以上、2,2,3−トリメチルペンタンが3容量%以下、2,3,4−トリメチルペンタンが3容量%以下含有する軽質アルキレートを得ることからなるものである。
【0008】
本発明の第3の態様のガソリン組成物の製造方法は、上記第2の態様の方法で得られたガソリン基材を配合して上記第1の態様のガソリン組成物を得ることからなる。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、現在市販のレギュラーグレードガソリンよりリサーチオクタン価(RON)を高くできるので、燃費が向上でき、二酸化炭素の削減に有効であり、かつ芳香族分、オレフィン分、その他の重質留分の含有量を低減できるので、燃焼性が良好となり、エンジン内でのデポジットの生成を抑制できるとともに、安定性も良好となり、ガム状物質の生成によるインジェクター閉塞等の不具合発生の可能性がなくなる等、格別の効果を奏する。また、エタノールやETBEといった含酸素化合物を含有させることがないので、新たな設備を設ける必要がなく、安価にガソリン組成物を製造できるという格別の効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明によるガソリン組成物は、リサーチ法オクタン価(以下、単に「RON」ともいう)が92〜96、好ましくは94〜96、特に好ましくは95〜96のものである。このリサーチ法オクタン価は、JIS K 2280に規定される方法により測定されるものである。RONをこの範囲にすることにより、自動車の燃費をより向上させ、二酸化炭素の排出を削減できる。
【0011】
本発明のガソリン組成物は、低温始動性やベーパーロックなどによる運転性の不具合防止の点から、蒸気圧が37.8℃の蒸気圧が65kPa以下、好ましくは44〜60kPaのものである。この蒸気圧は、JIS K 2258に規定された方法で測定されるものである。
【0012】
また、15℃における密度が0.70〜0.78g/cm3、好ましくは0.71〜0.76g/cm3、特に好ましくは0.72〜0.75g/cm3のものである。この密度が0.70g/cm3以上であると燃費が良く、また0.78g/cm3以下にすると加速性能が良く、プラグのくすぶりを生じることがない。
この密度は、JIS K 2249で規定された方法により測定されるものである。
【0013】
さらに、良好な始動性及び加速性を得るためには50%留出温度が75〜100℃、好ましくは87〜98℃のものである。留出温度はJIS K 2254に規定された方法により測定されるものである。
【0014】
本発明によるガソリン組成物は、排ガス浄化触媒への影響の抑制及び環境汚染防止の観点から、硫黄分を10質量ppm以下、好ましくは5質量ppm以下、より好ましくは2質量ppm以下含むものである。この硫黄分は、JIS K 2541に規定された方法により測定されるものである。
【0015】
また、大気中へのベンゼン排出量を抑制するために、ガソリン組成物中のベンゼン量は1容量%、好ましくは0.5容量%以下とする。このベンゼン含有量は、JIS K 2536に規定された方法により測定されるものである。
【0016】
さらに、2,2,4−トリメチルペンタンを1〜10容量%、好ましくは3〜6容量%含むものである。この2,2,4−トリメチルペンタンは、沸点が低く、オクタン価が高いため、ガソリン組成物の成分として優れたものである。この成分が1容量%以下であれば、オクタン価を高めることはできない。また更に2,2,4−トリメチルペンタン/2,2,3−トリメチルペンタンの容積比が30以上、好ましくは40以上,更に好ましくは50以上、2,2,4−トリメチルペンタン/2,3,4−トリメチルペンタンの容積比が30以上、好ましくは40以上,更に好ましくは50以上とする。これらの範囲外であれば、蒸留性状を重質化させないでRONを上げることが難しくなる。
【0017】
なお、本発明のガソリン組成物は、活性硫黄による車両の燃料センターゲージの不具合を防ぐために、銀板腐食が1以下であることが好ましく、さらには0であることがより好ましい。この銀板腐食は、英国石油協会規格IP−227に規定された方法により測定されるものである。
【0018】
上記本発明のガソリン組成物は、流動接触分解ガソリン基材、接触改質ガソリン基材、直留ナフサを脱硫処理した基材などを配合して製造できるが、この場合、2,2,4-トリメチルペンタンを1〜10容量%含むように配合する。
この2,2,4-トリメチルペンタンは、イソブタンとブテンを、硫酸、フッ化水素、塩化アルミニウム等の酸触媒の存在下に反応させて得られるアルキレート中に多く含まれるので、このアルキレートを配合することにより調製できるが、このアルキレート中には、2,2,3−トリメチルペンタンや2,3,4−トリメチルペンタンも多く含まれている。したがって、アルキレートをこのまま配合するとガソリン組成物が重質化するため、この2,2,3−トリメチルペンタンや2,3,4−トリメチルペンタンを除いたものを配合する必要がある。
【0019】
ところで、2,2,4−トリメチルペンタンの沸点は99.4℃、2,2,3−トリメチルペンタンの沸点は110.0℃、2,3,4−トリメチルペンタンの沸点は113.8℃であるので、アルキレートを蒸留分離することにより、2,2,4-トリメチルペンタンに富む留分を得ることができる。この2,2,4-トリメチルペンタンに富む留分、すなわち、軽質アルキレートを上記で特定した量及び比率の範囲になるように配合することで、本発明のガソリン組成物を簡便に製造することができる。
【0020】
この軽質アルキレートを用いた場合の好ましい配合量は、流動接触分解ガソリン基材を30〜85容量%、特には50〜85容量%、接触改質ガソリン基材を0〜20容量%、特には0〜15容量%、軽質アルキレートを2〜20容量%、特には6〜15容量%である。
【0021】
上記の軽質アルキレートは、イソブタンとブテンを、硫酸、フッ化水素、塩化アルミニウム等の酸触媒の存在下に反応させて得られる、初留点が25℃以上、好ましくは30〜40℃、終点が220℃以下、好ましくは190〜210℃、及び15℃における密度が0.72g/cm3以下、好ましくは0.69〜0.71g/cm3のアルキレートを蒸留分離することにより、初留点が25℃以上、好ましくは30〜40℃終点が120℃以下、好ましくは100〜110℃、15℃における密度が0.68g/cm3以下、好ましくは0.66〜0.67g/cm3で、かつ2,2,4−トリメチルペンタンを40容量%以上、好ましくは45〜55容量%、2,2,3−トリメチルペンタンが3容量%以下、好ましくは1容量%以下、2,3,4−トリメチルペンタンが3容量%以下、好ましくは1容量%以下含有するようにすることにより、好適なガソリン基材を得ることができる。
【0022】
この蒸留分離においては、20段から40段のトレイ、好ましくは30段からなる蒸留塔で、環流比は2〜3、好ましくは2.4、運転圧力は0.05〜0.15MPa、好ましくは0.1MPaの条件により、比較的簡便に上記に記載した範囲の軽質成分(軽質アルキレート)を分留することができる。
【0023】
なお、上述の本発明のガソリン組成物には、当業界で公知の燃料油添加剤の1種又は2種以上を必要に応じて配合することができる。これらの配合量は適宜選べるが、通常は添加剤の合計配合量を0.1質量%以下にすることが好ましい。
本発明のガソリン組成物で使用可能な燃料油添加剤を例示すれば、フェノール系、アミン系などの酸化防止剤、シッフ型化合物、チオアミド型化合物などの金属不活性化剤、有機リン系化合物などの表面着火防止剤、コハク酸イミド、ポリアルキルアミン、ポリエーテルアミンなどの清浄分散剤、多価アルコール又はそのエーテルなどの氷結防止剤、有機酸のアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩、高級アルコールの硫酸エステルなどの助燃剤、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、両性界面活性剤などの帯電防止剤、アゾ染料などの着色剤を挙げることができる。
【実施例】
【0024】
以下に、本発明を実施例に基づいてより詳細に説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0025】
なお、本実施例では蒸留性状はJIS K 2254に規定された方法により測定した。
【0026】
表1に示すガソリン基材を用意した。各基材は、次の方法で用意した。
DS−LG:直留ガソリンであり、中東系原油のナフサ留分を水素化脱硫後、その軽質分を蒸留分離することにより得た。
【0027】
FCCG:接触分解ガソリンを分留して5%留出温度が25〜43℃であって、かつ95%留出温度が55〜80℃である軽質接触分解ガソリンを得る。また、5%留出温度が80.0〜120℃であって、かつ95%留出温度が170〜210℃である重質接触分解ガソリンを水素化脱硫によって硫黄分を低減した後、スイートニング処理でチオール低減処理を行い、前記の軽質接触分解ガソリンとを1:1の割合(容量比)で混合したものである。
【0028】
ALKG:アルキレートガソリンであり、ブチレンを主成分とする留分とイソブタンを主成分とする留分を硫酸触媒により反応させて、イソパラフィン分の高い炭化水素を得た。90%留出温度が130℃以下になる様に、蒸留分離により重質留分をカットした。
【0029】
L-ALKG:ALKGを30段のトレイで2,2,4−トリメチルペンタンを50%以上、2,3,4−トリメチルペンタンを1%以下になるように重質分をカットした。
【0030】
AC−7留分:軽質改質ガソリンであり、重質ナフサを固体触媒により移動床式反応装置を用いて反応させることにより、芳香族分の高い炭化水素に改質し、蒸留分離することにより得た炭素数7の炭化水素を95%以上含有する留分である。
AC−9留分:重質改質ガソリンであり、重質ナフサを固体触媒により移動床式反応装置を用いて反応させることにより、芳香族分の高い炭化水素に改質し、蒸留分離することにより得た炭素数9以上の炭化水素を95%以上含有する留分である。
【0031】
【表1】

≦0.1は、0.1以下を示す。
【0032】
表1で示したガソリン基材を表2の比率で配合して、実施例1〜3となるガソリンを調製した。調整したガソリンの性状、特性を表2に併せて示す。
【0033】
【表2】

【0034】
この結果から明らかなように、本発明のガソリン組成物とすることにより、50%留出温度が低い、すなわち重質留分の含有量が少なくても、オクタン価を高くできることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明は、含酸素化合物を配合することなく、しかも蒸留性状を重質化させずにオクタン価の高いガソリン組成物とすることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸気圧が65kPa以下、15℃における密度が0.70〜0.78g/cm3及び50%留出温度が75〜100℃であり、硫黄分を10質量ppm以下、ベンゼン分を1容量%以下及び2,2,4−トリメチルペンタンを1〜10容量%含み、2,2,4−トリメチルペンタン/2,2,3−トリメチルペンタンの容積比が30以上、2,2,4−トリメチルペンタン/2,3,4−トリメチルペンタンの容積比が30以上からなるリサーチ法オクタン価が92〜96のガソリン組成物。
【請求項2】
銀板腐食1以下であることを特徴とする請求項1に記載のリサーチ法オクタン価が92〜96のガソリン組成物。
【請求項3】
初留点が25℃以上、終点が220℃以下及び15℃における密度が0.72g/cm3以下のアルキレートから、初留点が25℃以上、終点が120℃以下、15℃における密度が0.68g/cm3以下で、かつ2,2,4−トリメチルペンタンを40容量%以上、2,2,3−トリメチルペンタンが3容量%以下、2,3,4-トリメチルペンタンが3容量%以下含有する軽質アルキレートを得ることを特徴とするガソリン基材の製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載の方法で得られる軽質アルキレートを配合することを特徴とする請求項1又は2に記載のガソリン組成物の製造方法。

【公開番号】特開2006−160772(P2006−160772A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−349308(P2004−349308)
【出願日】平成16年12月2日(2004.12.2)
【出願人】(304003860)株式会社ジャパンエナジー (344)