説明

ガラス、特にガラスセラミックの製造方法

【課題】ガラス製造のための成形プロセスを、高いスズ含分を有するガラス溶融物、特にリチウムアルミノシリケートガラスセラミックについて許容される範囲の粘度を保証しつつ、可能にする
【解決手段】ガラス溶融物を生成する段階、ガラス溶融物を造形する段階、冷却し、且つ応力を緩和する段階、および、後処理する段階を含む製造方法において、成形プロセスについて還元条件を生じさせるために、ガラスの境界面にて、ガラスを収容し、ガラスを導き、またはガラス内に導入される物体にて、および/または必要とされる媒体内で、支配的な酸素分圧(pO2)を局所的に調整して、ガラスからのスズ含有成分の離溶を回避することを特徴とする、製造方法によって解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はSn含有ガラスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原則的に、産業において広く使用されるガラスの製造は、その組成およびその使用目的に関して、一般に公知である。過去数10年間、これに関連して、ガラスセラミック、従ってガラスとセラミックとの間をつなぐ材料を製造することに特定の注意が払われてきた。ガラス溶融物を製造し且つ成形することの他に、ガラスセラミックの場合は、適した熱処理を用いてガラス溶融物中での制御された核生成によって、少なくとも部分的な結晶化が実現される。
【0003】
この際、とりわけ貴金属および酸化物並びにホスフェートを含む、特別な成核剤が使用される。リチウムアルミノシリケートガラスセラミック(LAS−GC)について、二酸化チタン(TiO2)および二酸化ジルコニウム(ZrO2)が、実際に成核剤として好ましく使用される。LAS−GCを製造する場合、技術的な原材料が、それが酸化第二鉄(Fe23)によるLAS−GCの汚染を不可避にすることは別として、経済的な理由のため、好ましく使用される。典型的なFe23含分は少なくとも150ppmであり、しばしば200ppmより上でもある。それらのFe23含分の際、LAS−GC中で、酸化第二鉄と、核生成のために添加された二酸化チタンとの不可避の相互作用が起きる。その結果は、明確に可視の茶色の染みである。従って、同一のFe含分で茶色の染み(およびそれに関連する原材料のコスト)を抑制したいのであれば、完全にまたは部分的に、ガラスのTi含分を減少しなければならない。等モル量のSnO2は、理想的には、成核剤としてのTiO2を置き換えるために向いており、なぜなら、SnO2は、染みとして観察される、鉄との相互作用を引き起こすことなく、成核剤としても作用するからである。
【0004】
従って、成核剤として添加された酸化第二スズ(SnO2)を有するガラス溶融物は、極めてわずかな固有の色しか有さないガラスまたはガラスセラミックをもたらす。従って、SnO2系は、高い透明度が必要とされる際のガラスセラミックを使用する場合において、特に重要である。さらには、SnO2は、ガラスを製造する場合の清澄剤としても、即ち、仕上げられた溶融ガラスから泡を追い出すために、使用される。
【0005】
この場合、0.1mol%で始まる濃度が通常、清澄剤としてのSnO2のために使用される。成核剤としてSnO2を使用する場合、その濃度は、清澄作業のみを確実にするためよりも一般に高く、少なくとも0.5mol%、および0.7mol%より上である。スズ(Sn)含有ガラスについて、0.2mol%の範囲の濃度を超える場合、特にPt材料との接触において、高すぎる失透上限(UDL)の形成における困難が生じることがある。
【0006】
スズはガラス内で、スズ酸化物(SnO)および酸化第二スズ(SnO2)として、同時に2つの異なるレドックス状態で溶解され得るので、スズ(Sn)含有ガラスの結晶化傾向は、全体的な含分および温度の他に、ガラスのレドックス状態に依存する。
【0007】
臨界温度範囲はガラスと成形材料との接触温度に起因し、且つ、通常は、成形プロセスのために必要なガラスの粘度範囲が保持されるように調整される(ガラス温度=VA)。そこから得られる成形プロセスウィンドウを保持するための条件は、高い方の失透温度とガラス温度との間の温度差が、ゼロ未満: UDL−VA<0であることである。
【0008】
白金またはモリブデンを含む製造システムにおけるガラスの製造方法は、US5785726号から、並びにWO98/018731号から公知である。そこでは、水素分圧は、ガラス中の水素分圧に対して、製造容器外、または製造容器内で、それぞれ調節される。この場合、表面の泡の数をそれぞれ、調整、または、減少できる。これは、水素が白金製の製造容器の壁を通じてガラスを流し出さないように、容器外で高い水素分圧を予め設定することによって達成される。従って、ガラスと白金との間の境界面領域における酸素の富化が回避される。境界面での酸素富化を回避することによって、泡の形成が可能な限り抑制される。水素蒸気分圧のかかる調整を、清澄剤、特にヒ素酸化物(As23)の通常の保護効果を、完全または部分的に置き換える程度に行うことができる。しかしながらこのガス処理は、結晶化を回避することに関しては充分に研究されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】US5785726号
【特許文献2】WO98/018731号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、本発明の課題は、ガラス製造のための成形プロセスを、特にリチウムアルミノシリケートガラスセラミックの、高いスズ含分を有するガラス溶融物について許容される範囲の粘度を保証しつつ、可能にすることである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この課題は、特許請求項1の内容によって解決される。
【0012】
従って、ガラスまたはガラスセラミック、特にスズ含有ガラス、および/またはスズ含有リチウムアルミノシリケートガラスセラミック(LAS−GC)を製造する方法であって、ガラス溶融物を生成する段階、該ガラス溶融物を造形する段階、冷却する段階、および応力を緩和する段階、並びに後処理する段階(セラミック化(ceramizing)を含む)を含む方法が提供される。該方法は、成形プロセスについて、還元性条件を生じさせるために、ガラスの境界面にて、ガラスを収容し、ガラスを導き、またはガラス内に導入される物体にて、および/または必要とされる媒体内で、支配的な酸素分圧(pO2)を、局所的に調整して、ガラスからのスズ含有成分の離溶を回避することを特徴とする。
【0013】
従って、本発明によれば、レドックス状態を、ガラス溶融物内で調整できる。
【0014】
本発明によれば、還元性条件を予め設定することによって、高い方の失透温度を選択的に調整、特に低下できる。充分に離溶のないガラスまたはLASガラスセラミックを製造することができる。本発明によれば、高い方の失透温度とガラス温度との間の臨界温度差(UDL−VA)は、組成に基づいて材料特異的なだけでなく、レドックス条件に基づいてプロセス特異的であるとしてもみなされる。
【0015】
本発明によれば、スズの溶解度は、還元性条件をもたらすことによって調整されて、ガラスからのスズの凝塊またはスズ含有成分の離溶、特に酸化第二スズまたは金属スズの離溶が、通常の条件と比較して、減少され、特に可能な限り回避されるか、または抑制される。
【0016】
本発明により、白金部品を用いた、リチウムアルミノシリケートガラスセラミックの成形、特に引き出しおよび回転を有利に実施でき、その際、ガラスおよびガラスセラミック中での望ましくない結晶化現象が回避される。
【0017】
本発明によれば、局所酸素分圧とは、少なくとも装置周辺、例えば白金接触部、またはガラスおよび/またはガラスセラミックと接触している引き出しノズル、または溶融形態でも存在しているそれらの前製品において、ガラスおよび/またはガラスセラミックの製造プロセス、並びに次の加工の場合に、支配的な酸素分圧として理解されなければならない。
【0018】
本発明の1つの実施態様によれば、酸素分圧を調整して、酸化第二スズ(SnO2)および/またはスズ(Sn)の凝塊の堆積を減少させる。酸素分圧を好ましくは、液体の金属スズ(Sn)の凝塊が減少されるように調整してよい。この場合、プロセスパラメータ、好ましくは温度の関数としての酸素分圧も調整して、ガラス表面での液体のスズの離溶を回避できる。
【0019】
本発明による方法の好ましい実施態様において、酸素分圧(pO2)を調整して、液体の白金スズ合金の形成を回避する。
【0020】
本発明による方法により、核生成および/または結晶化の段階が成形段階後に行われた場合、高いスズ含分を有するガラスセラミックを、有利にも、特に減少されたチタン含分を有して、且つ、製造起因の鉄含分を有して、製造することもできる。
【0021】
本発明による方法の実施態様において、ガラスと貴金属との接触部での局所酸素分圧(pO2)は、それによって引き起こされる溶解度の上昇のために、ガラスまたはガラス溶融物に添加されるスズ(Sn)の析出がそれぞれ回避される程度まで、化学的なプロセスを用いて減少される。
【0022】
好ましくは、これは、本発明によれば、低い局所酸素分圧の設定により還元性条件を予め設定することによって、達成される。
【0023】
本発明の実施態様によれば、貴金属壁(例えば白金製)のガス処理を、含水または水素含有ガスを用いて実施する。この実施態様をさらに発展させて、純粋な水蒸気でのガス処理が特に提案される。しかしながら、加湿された窒素または加湿された空気を供給することによって還元性条件を化学的に調整することも考えられる。
【0024】
提案されたガス処理は、Sn含有ガラスに還元効果を有する水素についての白金の透過率に基づいている。白金は、製造、溶融、および供給システムのために用いられる材料として好ましく使用されるので、従って、工業的な生産において通例の設備で、高い技術的な再構成をすることなく、本発明による方法の使用を可能にする。
【0025】
本発明によれば、化学的な手段は、例えばLASガラスセラミックのガス処理のために、適した、耐火性の、好ましくは多孔質の材料系が提供されて実施される。本発明によれば、ガス処理は連続的なガス供給源によって容易化される。
【0026】
本発明のさらなる実施態様においては、ガラスと、貴金属製の製造システム、溶融システムまたは供給システム、または容器との接触点での酸素分圧を調整するための電気化学的な方法として、カソード保護電流の印加が行われる。
【0027】
この場合、さらに、本発明の範囲内では、それぞれ、保護電流、またはそれらの印加のために、適した対向電極が使用され、前記対向電極はローラーを含むか、または撹拌槽内に配置されてもよく、且つ、電圧源および電流測定装置が準備される。
【0028】
本発明によれば、低下した酸素分圧を印加することによって達成される変化をモニターすること、または相応する電気化学的なオーバーライド(override)をモニターすることは、好ましくは接地のない白金部品での電気化学ポテンシャル測定によって提供されなければならない。
【0029】
本発明による方法のさらなる態様において、酸素分圧を、少なくとも局所的に、温度の関数として調整して、閾値温度より上、且つ閾値圧力より上で、温度の上昇に伴って上昇する酸素分圧が、ガラス中のスズ溶解度範囲を保証して、該温度は、一定の酸素分圧の際、少なくとも400度の範囲で可変である。
【0030】
該方法を、酸素分圧および/または温度を予め設定することにより、スズの溶解度範囲を維持することによって、酸化第二スズの離溶またはスズの流動化が回避されるように実施してよい。
【0031】
本発明による方法について、ガラスおよび/またはガラスセラミックは、少なくとも0.015質量パーセントの鉄含分、好ましくは0.01質量パーセントの酸化第二鉄(Fe23)を有してよい。さらには、ガラスおよび/またはガラスセラミックは、1.0質量パーセント未満、好ましくは0.05質量パーセント未満の二酸化チタン(TiO2)を有してよい。本発明による方法の好ましい態様により、少なくとも0.01質量パーセントの酸化第二鉄(Fe23)および0.05質量パーセント未満の二酸化チタン(TiO2)を有するガラスおよび/またはガラスセラミックが製造される。
【0032】
ガラスまたはガラスセラミックの製造のための本発明による方法は、材料組成に依存して、圧力および温度に関して適当なプロセスウィンドウを提供する。本発明による成形のプロセスウィンドウは、1mol%およびそれより高いスズ含分を可能にする。
【0033】
以下に、本発明をより詳細に、例示的な実施態様を用いて、添付の図面を参照しながら説明する。この場合、説明される例示的な実施態様は、本発明の概念を限定しないものとして理解されなければならない。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】図1はスズの溶解度を温度に対してプロットしたグラフである。
【図2】図2は、本発明によるリチウムアルミノシリケートガラスセラミック系の計算されたスズの溶解度を示す。
【図3】図3は、酸化第二スズを有するLAS溶融物の相図である。
【図4】図4は、スズのモル溶解度を、局所酸素分圧の関数として示す。
【図5】図5は、スズのモル溶解度を、局所電気化学ポテンシャルの関数として示す。
【図6】図6は、種々のスズ種のモル溶解度を、ガス処理状態の関数として図示している。
【図7】図7は、準二元系相図Pt−Sn−Oを示す。
【図8】図8は、SnO2を有するLAS系についての、酸素分圧の温度依存性を示す。
【図9】図9は、フロートプロセスによって製造されたLAS系についての図6に相応する図である。
【実施例】
【0035】
図1は、本発明を理解するために重要な、リチウムアルミノシリケートガラスセラミック(LAS)における種々のスズ種のモル溶解度の説明を示す。そこでは、スズの全含分(全Sn)のモル溶解度、スズ酸化物(SnO)のモル溶解度、および酸化第二スズ(SnO2)のモル溶解度が、1100〜1600℃の範囲で、温度の関数として示される。スズの還元状態は、SnOおよびSnO2に相応して、LASガラス中で異なる溶解度特性を有する。二価の形態が、10mol%未満の範囲で非限定的に可溶である一方で、化合物SnO2に相応する形態である、四価の形態のスズは、数ppm(百万分の一)から1mol%の最大値までの範囲の溶解度を有する。ガラスセラミックの製造において支配的な通常の成形条件下で、SnO2の溶解度は、本発明によれば、高溶融ガラスについて0.5mol%未満である。
【0036】
従って、スズ全体の溶解度は、それぞれ、還元状態またはガラス中で支配的な酸素分圧pO2に依存する。ガラス内での酸素分圧は、温度Tに依存する。しかしながら、示された溶解度の測定結果は、ガラスと、例えば白金(Pt)壁との接触によって、外的に影響されることがある。白金壁が接触する際、ガラス中に溶解された水が分解するので、その還元状態は局所的に酸化種の方に変化する。溶解度値に相応する測定の場合、これは、該測定が、薄すぎない壁を有する白金容器内で実施されるべきであることを示唆する。壁で起きる結晶化は、高い離溶温度をみちびくことがあるので、それは溶解度値をゆがめることがある。
【0037】
示された測定の場合、還元状態は純粋な酸素による濯ぎプロセスによって規定された。白金壁との接触が付加的に回避されたので、スズの正しいモル溶解度をT=1300℃より高い温度で測定でき、その溶解度は、LASガラス系について以下の式を用いて表すことができる:
Sn[mol%]=0.216+1.143・106・exp(−24773/T[℃])
この関数関係は、図1に示される「全Sn」のグラフに相応し、その際、1200℃未満では外挿が行われた。以下の反応式を使用して、
SnO2=SnO+1/2O2
二価および四価の種の温度に依存する濃度を測定できる。二価の種Snは、さらに、
SnO=Sn0+1/2O2
に従って純粋な金属スズに還元され得る。
【0038】
中性のスズはガラス中で可溶性ではなく、且つ、SN液滴として表面に、またはコロイド形態でガラス中に堆積する金属相の堆積をもたらす。従って、適切に用いられた場合、還元性条件はより高いSnO含分をみちびき、且つ、それによってより高いスズの全溶解度もみちびく。
【0039】
図2に、生じる酸素分圧pO2(T)を考慮して、冷却プロセスの間の、2つの上述のスズ種の含分並びにスズの全含分を、図1の範囲内の温度の関数として説明する。図1とは対照的に、ここでは実際に支配的な酸素分圧pO2を考慮に入れた。高温で清澄された溶融物のガラス中の酸素分圧pO2は、温度の低下に伴い連続的に低下する。従って、この温度依存性を考慮に入れることで、図2に示される溶解度の特性がもたらされる。図1のデータが基づく一定の圧力と比べた酸素分圧の低下は、還元性条件に相応するので、比較的より高い溶解度が達成される。Snの溶解度は、より還元性の条件に伴って、即ち、図1による測定の間に支配的な圧力にと比べてより低い酸素分圧(1350℃で0.06bar〜1bar)に伴って、上昇する。
【0040】
溶融温度および酸素分圧が、独立した熱化学量であると仮定して、ガラス溶融物の相図の離溶のない領域を、図3に示される通り、一定の総濃度のスズについて、例えば0.7mol%のSnO2について、実現できる。低温および高圧では、ガラスおよびSnO2が形成されるのに対して、高温および低酸素分圧では、液体形態でのSnの離溶が起きる。2つの固体および液体の離溶範囲の間の圧力および温度の範囲が、均質且つ離溶のない、0.7mol%のスズを有するLASガラスの存在範囲を規定する。金属の液相としての過剰なスズの離溶は、ガラス、またはガラスセラミックの製造のために重要な成形プロセスであるフロートプロセスの場合において、著しく目立つ。その際、スズ浴におけるホットゾーンからコールドゾーンまでの移動の間にガラス溶融物が固化される。
【0041】
図4に示される通り、わずかに還元性の条件は、一定の温度で、スズの溶解度の上昇をみちびく。白金接触部で支配的な、0.001barの酸素分圧pO2で、2mol%のSn溶解度が達成されることがある。本発明によれば、溶解度の増加をみちびく酸素分圧のこの低下を、本発明の範疇では、化学的および/または電気化学的方法を用いて調整できる。
【0042】
しかしながら、本発明によれば、SnO2の形態でのスズが成核剤として作用するのに対し、二価の種のSnOは常に残留ガラス相の一部を形成するに過ぎないことに注意しなければならない。従って、高い方の失透温度を調節する場合、ガラス体積全体におけるSnO2部分とSnO部分との間の全体的なずれは有益ではないことを考慮しなければならない。従って、本発明による対象は、特に、例えば製造システム、溶融システムまたは供給システムまたは容器のPt壁でのもっぱら還元性条件の局所的な調整である。
【0043】
図4による酸素分圧の関数としてのスズ濃度の説明を、図5に示され且つ電位Eにおいてネルンストの式を使用した、スズ濃度の説明に変換することができる。その場合、ガラスと白金との全ての接触の可能性が、保護電流条件によって防護され、且つ、例えばローラーなどの適切に選択されたアノード、または攪拌容器内で、相応する電位を印加することによって、局所的な分極が起きることを考慮しなければならない。しかしながら、成形装置が複雑な幾何学的配置である場合、それらの保護電流は限定的な効果なので、所望の保護効果は非常に限定的に調整され得るだけである。
【0044】
従って、化学的な圧力調整法は、本発明の範囲内でより重要である。このために、白金/ガラスの接触部は、本発明によれば、背面から水素を用いてガス処理され、それにより接触部の局所的な還元が達成される。酸素分圧pO2の値が、図6に説明される比H2/H2Oのプロセスに特異的な値として表されなければならないことは明らかである。この場合、熱化学的関係
Log(pH2O+pH2)=logK+1/2・log(pO2) [pの単位はbar]
(式中、logK=−2.971+12000/T [Tの単位はK])
が考慮に入れられる。
【0045】
本発明の選択的な実施態様において、ガス処理を、加湿された窒素を用いて、または純粋な水蒸気を用いて、例えば液滴の適用と同様に実施する。本発明のこの実施態様では、非常に弱い還元性条件のみが支配的なので、望ましくない副反応のこの影響は有利にも低減される。
【0046】
高い方の失透温度(UDL)の、本発明の範囲内で提案される電気化学的な低下の際、並びに化学的な低下の際、白金容器の内壁、または白金壁の内壁での妨害的な水の分解反応を考慮に入れなければならない。通常の水の分解のために、酸素分圧pO2の上昇がここで観察されることがある。しかしながらこれは、酸素の泡の形成のために充分ではなく、なぜなら、該ガラスは既に低すぎる温度を有しているからである。
【0047】
As23がLASガラスセラミック中で清澄剤として使用され、その濃度0.3%が、0.7mol%より多くのSnO2を考慮して無視できない場合、ヒ素はAs23として大部分が存在し、且つ、冷却プロセスの間にスズ種と反応する。このようにSnO2の還元が起き、且つ、離溶温度は有利に低下される。しかしながら、全体的に、ヒ素の使用、従ってアンチモンの使用は、本発明による方法で回避可能であるべきであり、なぜなら、ここで、Asのない溶融物においては、白金にて観察される水の分解の効果並びに失透上限(UDL)を、低下できるからである。
【0048】
本発明による方法により、またはこの方法を実施するために提供される装置を使用して、白金とスズとの相互作用がさらに考慮に入れられなければならない。この場合、面心立方構造(fcc)を有するスズ白金の固溶体、およびその2つの液体合金を考慮しなければならない。fcc相の安定性は、温度に依存し、並びに、スズの総含分に依存する。これは、レドックス状態または支配的なpO2によってそれぞれ決定される。
【0049】
白金−スズ(Pt−Sn)の相図に酸素を含める場合、図7に示される通り、一定の酸素分圧についての、準二元系の相図Pt−Sn−Oが得られる。その中で、fcc構造での白金−スズの固相は、液化(合金化および溶融)、並びにSnO2離溶(冷却および内部酸化)によって限定される。LASガラス溶融物中でのSnO2およびO2の特異的な溶解度を考慮する場合、ガラス製造において使用される引き出しノズルでの、1300℃(この温度は、本発明による作業点である)で示されたプロセスウィンドウを有する図8に示される相図を導出できる。これは、適度に還元性のガス処理によって、または同一の化学的作用を引き起こす直流電流を印加することによって、合金形成の危険が過度になることなく、達成できる。図8に示される通り、Pt3Snの形成を考慮に入れるのであれば、該プロセスウィンドウは相応して、図8にも示される通り、追加的に減少される。
【0050】
大規模なガラスまたはガラスセラミック製造のために使用されるフロートプロセスでは、ガラスは表面で強い還元性条件に晒される。圧力pO2<10-16barですら、溶解されたSnO2は、SnOへと変換され、そして後者は完全にではないが金属スズに変質する。その際、このスズは、ガラスリボンの下側および上側で放出される。本発明によれば、液体のスズのガラス表面での析出を回避するために、図9に例示的に示されるような、pO2および温度の狭いプロセスウィンドウに合わせなければならない。それに関して、700〜950℃の温度範囲において、本発明は、フロート浴中で支配的なプロセスウィンドウであって、より高い温度および液体のスズの析出の方で限定され、且つSnO2によってより低い圧力の側で限定されるプロセスウィンドウを提案する。図9のダイヤグラムにおいて、ゲートバルブ(またはツイール)を使用した作業ウィンドウを同時に示す。
【0051】
本発明を実行する場合、一般に、ガラス中で同一のスズ含分を保持しなければならないことを考慮しなければならない。さらには、局所的なプロセス温度は互いに固定されているべきであり、且つ、可能な限り小さい揺らぎを有するべきである。急峻な冷却は例えば、白金内でガラス中に溶解された還元剤Snの自発的な放出をもたらす。これは、激しいガス生成を引き起こすことがある。面心立方(fcc)のPt相の脆化の可能性も、周期的且つ急峻な変化によって助長される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スズ含有ガラスの製造方法であって、以下の段階:
ガラス溶融物を生成する段階、
ガラス溶融物を造形する段階、
冷却し、且つ応力を緩和する段階、
および、後処理する段階
を含む製造方法において、成形プロセスについて還元条件を生じさせるために、ガラスの境界面にて、ガラスを収容し、ガラスを導き、またはガラス内に導入される物体にて、および/または必要とされる媒体内で、支配的な酸素分圧(pO2)を局所的に調整して、ガラスからのスズ含有成分の離溶を回避することを特徴とする、製造方法。
【請求項2】
酸素分圧(pO2)を調節して、酸化第二スズ(SnO2)の離溶を減少させることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
酸素分圧(pO2)を調節して、スズ(Sn)の凝塊を減少させることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
酸素分圧(pO2)を調節して、液体の金属スズ(Sn)の凝塊を減少させることを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
酸素分圧(pO2)を調節して、液体の白金スズ合金の形成を回避することを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
核生成および/または結晶化の段階を、成形の段階と、冷却および応力緩和の段階との間に実施することを特徴とする、請求項1から5までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
局所酸素分圧(pO2)を、化学的に調整することを特徴とする、請求項1から6までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
酸素分圧(pO2)の調整を、造形プロセスの間に使用される金属鋳型の、水素(H2)を用いた背面ガス処理によって達成することを特徴とする、請求項1から7までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
局所酸素分圧(pO2)を、加湿された窒素を供給することによって調整することを特徴とする、請求項1から8までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
局所酸素分圧(pO2)を、水蒸気を供給することによって調整することを特徴とする、請求項1から9までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
局所酸素分圧(pO2)を、電気化学的に調整することを特徴とする、請求項1から10までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
局所酸素分圧(pO2)を、電圧の印加によって調整することを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
保護電流を、製造の間に使用される白金の接触部にて印加することを特徴とする、請求項11または12に記載の方法。
【請求項14】
酸素分圧を少なくとも局所的に、温度の関数として調整して、臨界温度より上、且つ臨界圧力より上で、温度の上昇に伴って上昇する酸素分圧が、ガラス溶融物中でのスズの溶解度範囲を保証して、該温度は、一定の酸素分圧の際、少なくとも400度の範囲内で可変であることを特徴とする、請求項1から13までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
酸素分圧および/または温度を予め設定することにより、スズの溶解度範囲を維持することによって、酸化第二スズの離溶またはスズの流動化が回避されることを特徴とする、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
ガラスが、少なくとも0.01質量パーセントの酸化第二鉄(Fe23)を有することを特徴とする、請求項1から15までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
ガラスが、0.05質量パーセント未満の二酸化チタン(TiO2)を有することを特徴とする、請求項1から16までのいずれか1項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−121797(P2012−121797A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−270216(P2011−270216)
【出願日】平成23年12月9日(2011.12.9)
【出願人】(504299782)ショット アクチエンゲゼルシャフト (346)
【氏名又は名称原語表記】Schott AG
【住所又は居所原語表記】Hattenbergstr.10,D−55122 Mainz,Germany