説明

ガラスの原料溶解方法および溶解装置ならびにガラス製造装置

【課題】短時間の溶解で未溶解珪砂および不均質組成などの欠陥の極めて少ない高品質のガラスを得ることができ、かつ、消費エネルギーの削減と製造設備の小型化を実現することができる。
【解決手段】複数の成分から成るガラスを製造するためのガラス原料をガラス融液部において溶解する際に、ガラス原料から成る微細混合粒子を、最終製品であるガラスの組成に対応した成分比率に近い構成比率で調製する工程;該ガラス原料から成る微細混合粒子を気相雰囲気中で加熱して液相体を形成する工程;ならびに形成された液相体をガラス融液部に滞留するガラス融液上に降下させて供給する工程;を含むことを特徴とするガラス原料の溶解方法、および溶解装置ならびにガラス製造装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、板ガラス、びんガラス、繊維ガラス、電気ガラス等のガラス製品を、工業的に製造するためのガラス原料溶解方法および溶解装置、ならびにガラス製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ガラス原料を溶解するガラス溶解窯(以下、「シーメンス窯」という)は、100年以上前にF.シーメンスにより発明され、基本的設計思想は現在でも踏襲され使用されている(例えば、非特許文献1参照)。現行の一部のシーメンス窯には、蓄熱室または換熱室と呼ばれる熱交換装置が設けられ、燃焼用空気の予熱に使用される。そして、加熱用エネルギー源としては、主として重油または天然ガスなどの化石燃料が使用されている。化石燃料は、予熱された燃焼用空気とともに、シーメンス窯内に滞留しているガラス融液の上部空間で燃焼させられ、その輻射熱によってガラス原料やガラス融液が加熱される。このガラス融液は、最高1600℃程度まで加熱される。
【0003】
所定の組成を有するガラス製品を得るため、粉末状ガラス原料の混合物(以下、「バッチ」と呼ぶ)がシーメンス窯に供給され、バッチはガラス融液上に堆積して厚い原料層を形成し、長時間をかけて少しずつ溶解される。このとき、融液上のバッチは、反応あるいは溶融し易い物質から順次溶け出るため、融点あるいは粘性の高い珪砂あるいは珪砂分を多く含む粒子が取り残され、また、それらが相互に結合するなどして原料層内に難溶融性物質が形成され易い。さらに、同様の理由で、融液形成の初期状態においては、局所的に見るとバッチと組成が異なったガラス融液が生じ、融液の不均質化が生じ易い。
【0004】
このような難溶融性物質の形成や融液の不均質化は、得られるガラス製品に未溶解欠点(ブツなど)、不均質欠点(ムラ、スジなど)などの欠陥をもたらす原因となる。さらに、このような欠陥を低減させるために、従来は、例えば、板ガラス等の製造においては3〜5日間に及ぶ極めて長期間にわたる溶融状態の保持を必要とし、窯の大規模化と膨大なエネルギー消費が避けられない。また、従来は、ガラス原料の溶解と気泡の除去(清澄)は同一窯内で行うように設計されているため、清澄過程を経た融液と未清澄の融液とが窯の内部で混ざり合うなど、効率的な清澄が行われないおそれがある。さらに、シーメンス窯は熱容量が大きいため、一定の品種のガラス製品を大量に生産する大規模大量生産には向いているが、少量多品種製品の機動的な生産には対応できない問題がある。
【0005】
また、高融点物質の加熱方法として、熱プラズマを利用して溶解する技術が開発されている。具体的には、移送式プラズマ溶融によって石英ガラスを製造しようとするものである。逆の極性を持つ一対の電極(アノードとカソード)が形成するプラズマアークの間に生じる熱プラズマにより原料を溶解する方法である(例えば特許文献1参照)。しかし複数成分からなるガラスの溶解に用いられた例はない。
【0006】
そこで、ガラス融液上にバッチが厚く堆積しないように、バッチを直径3〜8mm程度のペレット状に加工し、これを連続的に燃焼バーナーから射出することにより高温に加熱してからガラス融液上に供給する技術が開発されている(例えば、特許文献2参照)。また、ガラス融液室上部に設けられた燃焼室上部から微粉状のバッチを連続供給し、燃焼炎で加熱すると共に燃焼炎の流れによりバッチを融液表面に強く打ち込む技術も開発されている(例えば、特許文献3参照)。しかし、これらいずれの方法でもガラス融液上の原料層の形成は避けられず顕著な効果を得ることは難しい。
【0007】
【特許文献1】特開2002−356337号公報(請求項1、図1および図5
【特許文献2】米国特許第 4,183,725号明細書(請求項1、図1、本文)
【特許文献3】米国特許第 5,672,190号明細書(請求項1、図1)
【非特許文献1】山根正之ほか編「ガラス工学ハンドブック」朝倉書店(1999) 第303頁〜第308頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、前記ガラス製品に未溶解欠点、不均質欠点などの欠陥をもたらす、従来のガラス原料の溶解方法および溶解装置における問題を解消することにある。
【0009】
また、本発明の目的は、窯の大規模化と膨大なエネルギー消費を大幅に抑制し、小規模かつ小さいエネルギー消費量で効率的にガラス原料を溶解させることができるガラス原料の溶解方法および溶解装置を提供することにある。
【0010】
また、本発明の目的は、ガラス融液の効率的な清澄が可能なガラス製造装置を提供することにある。
【0011】
また、本発明の目的は、少量多品種製品の機動的な生産に対応できるガラス製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決するため、本発明は以下の発明を提供する。
(1)複数の成分から成るガラスを製造するためのガラス原料をガラス融液部において溶解する際に、ガラス原料から成る微細混合粒子を、最終製品であるガラスの組成に対応した成分比率に近い構成比率で調製する工程;該ガラス原料から成る微細混合粒子を気相雰囲気中で加熱して液相体を形成する工程;ならびに形成された液相体をガラス融液部に滞留するガラス融液上に降下させて供給する工程;を含むことを特徴とするガラス原料の溶解方法;
(2)加熱気相雰囲気が熱プラズマアークおよび/または酸素燃焼炎によって形成されている(1)に記載のガラス原料の溶解方法;
(3)ガラス融液は、微細混合粒子から形成された液相体が降下する位置およびその近傍を熱プラズマアークおよび/または酸素燃焼炎によって加熱される(1)または(2)に記載のガラス原料の溶解方法;
(4)熱プラズマが形成するプラズマの周囲から中心に向けて、微細混合粒子を供給する(2)または(3)に記載のガラス原料の溶解方法;
(5)酸素燃焼炎を形成する燃焼炎ノズルの中央部に微細混合粒子を供給する(2)に記載のガラス原料の溶解方法;
(6)加熱気相雰囲気の温度が1600℃以上である(1)〜(5)のいずれかに記載のガラス原料の溶解方法;
(7)ガラス原料の一部を構成するガラスカレットの一部あるいは全部を、加熱気相雰囲気中を通過させずに、直接、ガラス融液上に供給する(1)〜(6)のいずれかに記載のガラス原料の溶解方法;
(8)複数の成分から成るガラスを製造するためのガラス原料の溶解装置であって、該ガラス原料から成る微細混合粒子を加熱して液相体を形成するための加熱気相雰囲気を形成する原料加熱部;ならびに形成された液相体が上部に供給されるガラス融液を滞留させるガラス融液部、を含むことを特徴とするガラス原料の溶解装置;
(9)加熱気相雰囲気を形成する原料加熱部が熱プラズマ発生装置および/または酸素燃焼炎ノズルによりなる(8)に記載のガラス原料の溶解装置;
(10)ガラス融液部がガラス融液の補助加熱手段を有する(8)または(9)に記載のガラス原料の溶解装置;
(11)(8)〜(10)のいずれかに記載のガラス原料の溶解装置と、該ガラス原料の溶解装置のガラス融液排出口に連設された気泡除去槽とを備えることを特徴とするガラス製造装置;
(12)ガラス原料の溶解装置のガラス融液排出口から、気泡除去が不完全な状態でガラス融液を排出し、排出されたガラス融液を気泡除去槽に導入するようにした(11)に記載のガラス製造装置;
(13)ガラス融液部がガラス融液の撹拌手段を有する(8)または(9)に記載のガラス原料の溶解装置;ならびに
(14)(8)〜(13)のいずれかに記載のガラス原料の溶解装置と、該ガラス原料の溶解装置の気体排出経路に連設されたガラス原料噴霧乾燥装置とを備えることを特徴とするガラス製造装置、
である。
【発明の効果】
【0013】
本発明のガラス原料の溶解方法およびガラス製造装置においては、たとえば粒径0.001〜0.5mmの微細粒子状の小さい単位で混合されたガラス原料が溶解されるために、未溶解欠点の発生やガラス融液の不均質性が抑制されるとともに、ガラス原料の溶解の飛躍的な時間短縮が可能となり、比較的小規模かつ少ないエネルギー消費量で従来の大規模なガラス溶解窯と同等のガラス溶解能力を発揮することができる。
【0014】
また、本発明においては、ガラス原料溶解の飛躍的な時間短縮と、ガラス製造装置の大幅な小型化が可能になるため、建設費の削減と、ガラス製造装置が寿命を迎えたときの廃棄物の低減が可能となる。
【0015】
さらに、本発明においては、未溶解欠点の発生や融液の不均質化が抑制されるため、ガラス製造歩留まりの向上、ガラス製品品質の向上、さらには、ガラス製造コストの低減が可能となる。
【0016】
また、本発明においては、ガラス製造装置の大幅な小型化が可能になるために、ガラス製品の少量多品種化において、組成変更に伴う原料と消費エネルギーの無駄が大幅に低減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明のガラス原料の溶解方法および溶解装置、ならびにガラス製造装置について詳細に説明する。
【0018】
本発明のガラス原料の溶解方法は、複数(通常3成分以上)の成分から成るガラスを製造するためのガラス原料を溶解してガラス融液を製造する方法である。用いられるガラス原料は、主原料として珪砂、無水硼酸、メタ燐酸カルシウム、硝酸カルシウム、硝酸バリウム、酸化アルミニウム、酸化ネオジウム、長石などの微粉原料、および水溶性の硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硫酸ナトリウムなどを含む微細混合粒子が使用される。微粉のガラスカレットも微細混合粒子に混合しうる。微細混合粒子の成分組成は、ガラス製品に求められる熱膨張係数、成形温度、化学的耐久性等の特性に応じて、適宜決定されうる。本発明においては、シリカ成分を主体としないガラス原料にも好適に適用し得、シリカの含量が50モル%未満、たとえば0〜20モル%であってもよい。微細混合粒子は、短時間で加熱でき発生ガスの放散が容易である点から、粒径が0.5mm(重量平均)以下、原料の微粉化によるコスト上昇と、粒子間の組成変動の低減の点からは、粒径が0.01mm(重量平均)以上であるのが好ましい。
【0019】
微細混合粒子を構成する微粉原料の粒径は、通常0.001〜0.05mm(1〜50μm)(重量平均)であり、形成される混合粒子毎の組成の変動が少なく、均一な組成の粒子が得られることから、水溶性ではない成分については0.05mm以下であることが好ましい。特に、微細混合粒子の粒径が小さいほど短時間で加熱でき発生ガスの放散が容易である点からは、0.001〜0.03mmの範囲が好ましいが、原料の微粉化によるコスト上昇と、粒子間の組成変動の低減の点からは、粒径が0.005mm以上のものが好ましい。
【0020】
また、これらのガラス原料混合物は、必要に応じて、副原料として清澄剤、着色剤、溶融助剤、乳白剤等を含むことができる。また、これらのガラス原料中の無水硼酸などは、高温時の蒸気圧が比較的高いため加熱により蒸発しやすいことから、最終製品であるガラスの組成よりも余分に混合しておくことが好ましい。
【0021】
前記ガラス原料を粒子状に成形して微細混合粒子を調製する方法としては、スプレードライ法などの方法が使用でき、ガラス原料を分散溶解させた水溶液を高温雰囲気中に噴霧させて瞬間的に乾燥固化させる方法が好ましい。また、この成形体は最終ガラス製品の成分組成に対応する混合比の原料のみで構成してもよいが、その混合体に更に同一組成のガラスカレット微粉を混合して、これをガラス原料として用いることもできる。
【0022】
また、本発明においては、前記微細混合粒子は加熱気相雰囲気中で加熱される。混合粒子を加熱するための加熱気相雰囲気としては、気相雰囲気で加熱しうるものであれば特に制限されず、各種の加熱炉を使用できるが、好適には移送式直流プラズマ、非移送式直流プラズマ、多相プラズマ、高周波誘導プラズマ等の熱プラズマアーク、酸水素炎、天然ガス−酸素燃焼炎等の酸素燃焼炎、などが使用できる。これらの中でも、効率が高く、大出力が得やすく、設備費が比較的安価で、大気圧下での加熱を行なうことができ、技術的に確立されていて、長時間安定的に使用できるという理由で、特に、多相プラズマ、酸水素炎あるいは天然ガス−酸素燃焼炎を使用することが好ましい。
【0023】
本発明で使用される熱プラズマの作動ガスとしては、アルゴン、酸素、空気、水蒸気などを単独あるいは混合して使用することが好ましい。
【0024】
本発明で使用される加熱気相雰囲気への微細混合粒子の供給方法は、熱プラズマノズルの周囲から中心に向けて混合粒子を供給する方法が好ましい。また、加熱気相雰囲気として酸素燃焼炎を用いる場合には、その中央部が最も温度が高いので、酸素燃焼炎を形成する燃焼炎ノズルの中央部に前記混合ガラス原料を供給する。また、加熱気相雰囲気中への混合粒子の供給速度は、通常、1〜200kg/分程度であり、多品種少量生産用の小規模の溶解装置の場合には、0.1〜5kg/分が好ましい。
【0025】
また、加熱気相雰囲気の温度は、水分、結晶水、硝酸塩(硝酸ナトリウム、硝酸カルシウム等)などの形で混合粒子に含まれる気体成分を迅速にガス化散逸させ、ガラス化反応を相当程度進行させるために、珪砂の溶融温度以上に設定することが好ましく、通常、1600℃以上に設定される。
【0026】
本発明において、加熱気相雰囲気中で、たとえば加熱気相雰囲気を通過して、加熱された微細混合粒子は液相を形成する。形成された液相体はガラス融液部に滞留するガラス融液上に降下して供給され、引き続き加熱される。微細混合粒子から形成された液相体のガラス融液上への到達位置は、ガラス融液部の一定位置であってもよく、また、微細混合粒子を加熱気相雰囲気に供給する原料供給ノズルの揺動により一カ所に定まらないように分散させてもよい。また、一定位置に到達した微細混合粒子を拡散させるために、定期的にガラス融液の表面を撹拌してもよい。また、ガラス融液全体を撹拌するためのスターラー、バブラーなどの撹拌装置を当該溶解装置内に設け、ガラス化したガラス融液の均質化を促進させることもできる。小型の液中燃焼バーナーを当該溶解装置内に設け、ガラス融液を撹拌してもよい。
【0027】
また、ガラス原料の一部を構成するガラスカレットは、その一部あるいは全部を、前記加熱気相雰囲気中を通過させずに、直接、ガラス融液上に供給してもよい。この場合、ガラスカレットは、他の原料とともに、粒子状に成形してそれを高温の加熱気相雰囲気中に通過させることにより加熱する方法、他の場所で予備的に加熱した後に溶解槽のガラス融液に直接投入することにより加熱する方法などがあるが、微粒のカレットは前者の方法で、粗大なカレットは後者の方法で加熱することが好ましい。また、後者の場合、カレットと加熱気相雰囲気中を通過したガラスとの組成の相違による均質性の低下を回避するため、撹拌装置を当該溶解装置内に設置することが好ましい。
【0028】
次に、図1に基づいて、本発明のガラス原料の溶解装置について説明する。図1は、本発明に係るガラス原料の溶解装置の基本的構成例を示す模式断面図である。図1に構成を示すガラス原料の溶解装置1は、矩形の炉体1aを有し、ガラス原料が粒子状に成形された微細混合粒子を、炉体内に供給するための原料供給口2と、炉体内を降下する混合粒子を加熱する原料加熱部と、ガラス融液4が滞留するガラス融液部と、ガラス融液部からガラス融液4を排出させるためのガラス融液排出口5とを備える。
【0029】
原料加熱部は、炉体1aの天井を貫通して炉体1a内に突設された1本の酸素燃焼炎ノズル6を備えることができる。このノズルが形成する燃焼炎によって、炉体1aの中心部に加熱気相雰囲気3が形成される。
【0030】
原料加熱部は、炉体1aの側壁を貫通して炉体1a内に突設された複数本のアーク電極7を備えることができる。この電極が形成する熱プラズマによって、炉体1aの中心部に加熱気相雰囲気3が形成される。
【0031】
この加熱気相雰囲気3の中心部の温度は、水素酸素燃焼炎の場合、約2,800℃、熱プラズマの場合、5,000〜20,000℃である。
【0032】
原料供給口2は、炉体1aの上部に配置され、ガラス原料が粒子状に成形された微細混合粒子を炉外から導入して、炉体内に所定の供給速度で供給する役割を有する。この原料供給口2は、たとえば、微細混合粒子を、原料加熱部に形成される加熱気相雰囲気3に応じて微細混合粒子の供給位置を調整可能なノズルで構成することができる。例えば、熱プラズが形成する加熱気相雰囲気3の周囲から中心に向けて微細混合粒子を供給する原料供給口2、また、酸素燃焼炎が加熱気相雰囲気3を形成する場合には、高温度を得やすい中央部からの供給が可能であることから、酸素燃焼炎を形成する燃焼炎ノズル6の中央部に前記混合粒子を供給する原料供給口2を配置することが好ましい。さらに、この原料供給口2を揺動させることにより、ガラス融液4上に降下する混合ガラス原料液相体の位置を一箇所に集中させずに、分散して供給するようにしてもよい。
【0033】
ガラス融液部は、炉体1aの下部にあり、加熱気相雰囲気3を通過して加熱された微細混合粒子から形成された液相体が堆積してガラス融液部にガラス融液4が形成される。このガラス融液部には、ガラス融液部に滞留するガラス融液4を加熱する補助加熱手段が配設されていてもよい。この補助加熱手段によってガラス融液4の保温を図ることができる。補助加熱手段としては、通電発熱してガラス融液を加熱するためにガラス融液4中に挿入された電気抵抗体、ガラス融液4中に直接電流を流すことによりガラス融液4を加熱する一対の電極などで構成することが好ましい。
【0034】
このガラス原料の溶解装置1において、原料供給口2から供給される微細混合粒子は、図1に示すように、原料加熱部によって形成された加熱気相雰囲気3中を通過して加熱され液相を形成し、ガラス融液部に滞留するガラス融液4上に降下する。なお、ガラス原料の溶解の開始時には、ガラス融液部にガラス融液4が滞留していないが、ガラス融液部は予め加熱気相雰囲気3によって所定温度まで加熱され、加熱気相雰囲気3を通過して降下する液相体は、ガラス融液部に堆積した後も、加熱気相雰囲気3および炉体1aからの輻射熱によって加熱され、さらに必要に応じてガラス融液部に設けられた補助加熱手段によって加熱されて溶融し、ガラス融液4を形成する。以後、ガラス融液4上に降下する加熱された液相体は、溶融してガラス融液4を形成する。そして、所定の速度でガラス融液排出口5から排出し、必要に応じて気泡除去槽等に導入され、所要の成形工程を経てガラス製品が製造される。
【0035】
本発明のガラス原料の溶解装置は、図1に示す実施形態に限定されず、各種の変形例が可能である。例えば、図1に示すガラス原料の溶解装置では、原料加熱部として、熱プラズマを発生するアーク電極7と燃焼炎ノズル6とを備える例を例示したが、例えば、燃焼炎ノズル6のみで加熱気相雰囲気を形成してもよい。
【0036】
さらに、本発明のガラス製造装置は、図1に示すガラス原料の溶解装置1のガラス融液排出口5に連設された気泡除去槽(清澄槽)を備えることができる。気泡除去槽で気泡が除去されたガラス融液は、フロートバス、フュージョン成形機、ガラス瓶成形機、ロール成形機、プレス成形機等の各種成形装置に供給されて所要の形態に成形された後、徐冷炉にて所定温度になるまで徐冷されて、ガラス製品が製造される。
【0037】
このとき、本発明のガラス製造装置においては、前記ガラス原料の溶解装置1のガラス融液排出口5から排出されるガラス融液は気泡がほぼ除去された状態であるが、さらに完全な気泡除去を行なうために、排出されたガラス融液を気泡除去槽に導入して気泡除去を行うことによって、初期溶解と気泡除去の2つの機能が分離され、全体として装置の小型化が可能となる利点がある。
【0038】
本発明で使用される気泡除去槽としては、深さが従来の溶融槽の半分以下で対流が生じにくく気泡が浮上しやすい浅型の一方向流の槽、減圧清澄槽などを使用することが好ましい。例えば、ジルコニアあるいは白金合金の耐蝕耐熱材料により形成され、ガラス融液の流れ方向に長手方向を有する略直方体の槽であって、前記ガラス融液排出口5に連結されるガラス融液導入口と、このガラス融液導入口に対向する側壁にガラス融液導出口を有し、ガラス融液がショートパスを形成せず、例えば、1400℃程度の温度を保って、所定の時間、槽内に滞留してガラス融液内の大小の気泡が放出されるように構成される。そして、ガラス融液中から放出された気泡は、気泡除去槽の天井部等に設けられたガス抜き口から外部に放出される。
【0039】
また、気泡除去槽は、槽内に邪魔板等を設けて、槽内を流通するガラス融液が、ショートパスを形成しないで、ガラス融液導入口からガラス融液導出口まで所定の時間をかけて流通するように構成されていてもよい。気泡除去槽で気泡が除去されたガラス融液は、フロートバス、フュージョン成形機、ガラス瓶成形機、ロール成形機、プレス成形機、短繊維・長繊維紡糸機等の各種成形装置(図示せず)に供給され、所要のガラス製品が製造される。
【0040】
さらに、本発明で使用されるガラス融液部と気泡除去槽との間に、ガラス融液の均質化を向上させる目的で撹拌槽を設けることもでき、カレットがガラス融液部のガラス融液に直接投入される場合は、カレット片間あるいはカレットとガラス原料粒子との間における組成の差により均質性が低下する場合が多いことから、撹拌槽を設けることが特に好ましい。また、ガラス融液部に攪拌機あるいは小型の液中燃焼バーナー等の撹拌手段を設置してもよい。
【実施例】
【0041】
以下、本発明の実施例を挙げて、本発明についてさらに具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0042】
実施例1
粒径5μm以内の珪砂(SiO2)53mol%、無水硼酸30.5mol%、アルミナ5.9mol%、硝酸バリウム10.2mol%、および酸化アンチモン0.4mol%の割合で合計800kg秤量し、さらに粒径5μm以内に粉砕したカレット200kgを加えて撹拌混合し、これに水を容量比で3倍量供給して微粒子が分散したスラリー液にした。得られた液状の混合物を、200〜300℃に加熱されたスプレードライ装置内に噴射することにより、直径約0.05mmの顆粒状の原料粒子からなる微細混合粒子を得た。
【0043】
次に、図1に示す構造を有し、内のりで底面80×80cm、高さ2mの寸法を有する耐火煉瓦製のガラス原料の溶解装置1のガラス融液部の上部に下方を向けて取り付けられた酸水素燃焼炎ノズル6のノズル中心付近より、この微細混合粒子を3kg/分の供給速度で供給した。微細混合粒子は、ガラス融液部の底部(またはガラス融液面)に達するまでに1200℃以上に加熱されて液相体を形成し、原料中の水分、NO、有機物などはほぼ完全に放出された。ガラス融液部は、予め酸水素燃焼炎により1400℃前後に加熱されていたため、加熱された液相体はガラス融液部の底部に着地後、酸水素燃焼炎とガラス融液部および炉壁からの輻射熱によりさらに加熱され相互に溶け合って融液状態で一体化して堆積してガラス融液4を形成し、原料供給開始から2時間後に、ガラス融液部の底部付近の側面に設けられたガラス融液排出口5から平均約2.7kg/分の速度で流出した。このときの酸水素燃焼炎の供給ガス量は、水素600L/分、酸素300L/分であった。このガラス融液4を、約1400℃に電気的に加熱された幅50cm、長さ2m、高さ30cmの樋状の気泡除去槽に導き、滞留させた。約3時間後に平均約3.1kg/分の速度でガラス融液4を他端から連続的に流出させてブロック状の型(10cm×20cm×5cm)に導き、一旦、200〜300℃まで放冷した後、型から固化したガラス成形体を取り出して加熱徐冷処理を行った。このガラス成形体の表面を研磨して欠陥等の検査を行ったところ、すべてのガラスについて、直径0.1mm以上の未溶解珪砂および気泡は認められず、屈折率の局所的なムラも認められなかった。
【0044】
実施例2
実施例1と同様のガラス溶解装置において、加熱気相雰囲気を六相プラズマアーク電極により形成し、実施例1と同様な微細混合粒子を使用して、炉体1aの天井に設けられた原料供給口2から原料粒子を1.5kg/分の供給速度で供給し、ガラス融液部の底部に二対の加熱用電極を挿入し、白金製の攪拌機を備えた撹拌槽を気泡除去槽との間に設けた装置を用い、ガラス融液部の下部より40cm上方の側面に設けられた開口部より、約700℃に予熱されたカレット粒を毎分2kgの速度で供給するとともに、約1400℃付近まで加熱を行った。ここで使用したカレット粒は、予め外径5mm程度に粉砕し、十分混合してから組成分析し、原料粒子とほぼ同一の組成であることを確認してから使用した。その結果、実施例1と同様の結果を得ることができた。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明は、従来技術における未溶解欠点、不均質欠点などの欠陥の発生を大幅に抑制し、効率的な気泡除去を可能にし、溶融窯の大規模化と膨大なエネルギー消費を回避することができ、少量多品種製品の機動的な生産にも対応できるため、板ガラス、びんガラス、繊維ガラス、電気ガラス等のあらゆるガラス製品の工業的製造に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の実施形態に係るガラス原料の溶解装置の模式縦断面図。
【符号の説明】
【0047】
1 溶解装置
1a 炉体
2 原料供給口
3 加熱気相雰囲気
4 ガラス融液
5 ガラス融液排出口
6 燃焼炎ノズル
7 アーク電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の成分から成るガラスを製造するためのガラス原料をガラス融液部において溶解する際に、ガラス原料から成る微細混合粒子を、最終製品であるガラスの組成に対応した成分比率に近い構成比率で調製する工程;該ガラス原料から成る微細混合粒子を気相雰囲気中で加熱して液相体を形成する工程;ならびに形成された液相体をガラス融液部に滞留するガラス融液上に降下させて供給する工程;を含むことを特徴とするガラス原料の溶解方法。
【請求項2】
加熱気相雰囲気が熱プラズマアークおよび/または酸素燃焼炎によって形成されている請求項1に記載のガラス原料の溶解方法。
【請求項3】
ガラス融液は、微細混合粒子から形成された液相体が降下する位置およびその近傍を熱プラズマアークおよび/または酸素燃焼炎によって加熱される請求項1または2に記載のガラス原料の溶解方法。
【請求項4】
熱プラズマが形成するプラズマの周囲から中心に向けて、微細混合粒子を供給する請求項2または3に記載のガラス原料の溶解方法。
【請求項5】
酸素燃焼炎を形成する燃焼炎ノズルの中央部に微細混合粒子を供給する請求項2に記載のガラス原料の溶解方法。
【請求項6】
加熱気相雰囲気の温度が1600℃以上である請求項1〜5のいずれかに記載のガラス原料の溶解方法。
【請求項7】
ガラス原料の一部を構成するガラスカレットの一部あるいは全部を、加熱気相雰囲気中を通過させずに、直接、ガラス融液上に供給する請求項1〜6のいずれかに記載のガラス原料の溶解方法。
【請求項8】
複数の成分から成るガラスを製造するためのガラス原料の溶解装置であって、該ガラス原料から成る微細混合粒子を加熱して液相体を形成するための加熱気相雰囲気を形成する原料加熱部;ならびに形成された液相体が上部に供給されるガラス融液を滞留させるガラス融液部、を含むことを特徴とするガラス原料の溶解装置。
【請求項9】
加熱気相雰囲気を形成する原料加熱部が熱プラズマ発生装置および/または酸素燃焼炎ノズルによりなる請求項8に記載のガラス原料の溶解装置。
【請求項10】
ガラス融液部がガラス融液の補助加熱手段を有する請求項8または9に記載のガラス原料の溶解装置。
【請求項11】
請求項8〜10のいずれかに記載のガラス原料の溶解装置と、該ガラス原料の溶解装置のガラス融液排出口に連設された気泡除去槽とを備えることを特徴とするガラス製造装置。
【請求項12】
ガラス原料の溶解装置のガラス融液排出口から、気泡除去が不完全な状態でガラス融液を排出し、排出されたガラス融液を気泡除去槽に導入するようにした請求項11に記載のガラス製造装置。
【請求項13】
ガラス融液部がガラス融液の撹拌手段を有する請求項8または9に記載のガラス原料の溶解装置。
【請求項14】
請求項8〜13のいずれかに記載のガラス原料の溶解装置と、該ガラス原料の溶解装置の気体排出経路に連設されたガラス原料噴霧乾燥装置とを備えることを特徴とするガラス製造装置。

【図1】
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【公開番号】特開2007−297239(P2007−297239A)
【公開日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−126539(P2006−126539)
【出願日】平成18年4月28日(2006.4.28)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2005年12月1日 社団法人ニューガラスフォーラム発行の「NEW GLASS Vol.20 No.4 2005(Serial No.79」に発表
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成17年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「エネルギー使用合理化技術戦略的開発/エネルギー有効利用基盤技術先導研究開発/直接ガラス化による革新的省エネルギーガラス溶解技術の研究開発」受託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】