説明

ガラスびん

【課題】ウォータハンマ強度を上げるために裾部の曲率半径を大きくしても、転倒角度が小さくならないようにする。
【解決手段】びん底の外周縁に沿って複数個の放射状ナーリングが周方向に沿って並列して施され、ナーリングの最下部が載置面に対して実質的に点接触となるように曲面で構成されているガラスびんにおいて、該最下部を、ナーリングが形成されていない部分のびん底最下部よりも半径方向外側に位置せしめることで前記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、びん底の外周縁に沿って複数個のナーリング(突条)が周方向に並列して施されているガラスびんに関する。
【背景技術】
【0002】
ガラスびんの底面には通常ナーリングと呼ばれる突条が形成されている。これは、主に、成形直後のガラスびんがコンベア上に置かれるときのサーマルショックやその後の工程での機械的衝撃によって発生する欠点(微小なクラック)を少なくするためである。すなわち、コンベア面にはナーリングが接触し、接触面積が小さくなるので、欠点の発生が少なくなる。したがって、ナーリングの外面最下部(いわゆる接地部)が載置面と接触する面積はなるべく小さいほうがよいので、接地部は載置面に対して実質的に点接触となるように曲面で構成されることが望ましい。
ナーリングには種々の形状があるが、ほとんどは底面の外周部に所定間隔で放射状(半径方向又は半径方向からやや傾いた方向)に並列して形成したものである(図4,5)。
このようなナーリングは、例えば下記特許文献1に記載されている。
【0003】
また、ガラスびんは、液体の内容物(飲料、調味料など)を充填して流通する場合、ウォータハンマ現象により破壊するおそれがある。これは、例えばガラスびんを詰めたカートンの移動に際してカートンを下方に降ろすとき、ガラスびんが急激に下降すると内溶液は慣性で留まるからびん底部が負圧になって真空泡が発生し、その後内溶液が急激に落下して底部に衝突し、その衝撃でびんが破壊するものである。
このようなウォータハンマの衝撃に強いびん形状が下記特許文献2に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−264715号公報
【特許文献2】特許第3644215号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ウォータハンマに対する強度は、一般的に、びん裾部曲面の縦断面における曲率半径を大きくすることで大きくすることができる。
図5の破線は、裾部の曲率半径R2のびん2本体(ナーリング以外の部分)形状とナーリング21形状(いずれも半径方向縦断面における外郭線)を重ね合わせたもの、実線は裾部の曲率半径をR1に大きくした場合のびん3本体形状とナーリング31形状である。
裾部の曲率半径R2の場合、A2はびん本体の最下部、B2はナーリングの最下部であり、A2及びB2からびん中心までの距離(半径)aは等しくなっている。
裾部の曲率半径R1の場合、A1はびん本体の最下部、B3はナーリングの最下部であり、A1及びB3からびん中心までの距離(半径)bは等しくなっている。
このように、従前は、ナーリング最下部とびん本体最下部の半径方向の位置は等しくなるように設計されていた。
図5に明らかなように、裾部の曲率半径を大きくすると、ナーリング最下部位置の半径(接地半径)が小さくなる(b<a)。
【0006】
図4は、左側に外径に対して比較的背の高い(縦横比の大きな)びん、右側に比較的背の低いびんを示している。転倒角度は、びんを徐々に傾けていって転倒し始めるときの垂直線に対するびん軸線の角度である。
背の高いびんは倒れやすいので、裾部の曲率半径は比較的小さくして、接地半径がなるべく大きくなり、転倒角度がなるべく大きくなるようにしている。
背の高いびんとして、外径52mm、高さ約151mmの或るびん、背の低いびんとして外径58mm、高さ120mmの或るびんを例にとる。
背の高いびんは、裾部の曲率半径が5mmで転倒角度は17°である。
背の低いびんは、裾部の曲率半径が7mmで転倒角度は21°である。
【0007】
背の高いびんは、裾部の曲率半径が小さいので、ウォータハンマ現象が起きたときに大きな内部応力が発生し、破壊されやすくなる。
仮に、背の高いびんの裾部の曲率半径を5mmから6mmに大きくすると、裾部ないし底部のガラス肉厚が0.3mm厚くなり、強度が大きくなる。
ウォータハンマ現象で、内溶液の動圧2MPaがかかったときの最大発生応力を計算すると、裾部の曲率半径5mmの場合114.4MPaで、裾部の曲率半径6mmの場合92.1MPaとなる。最大発生応力は100MPaよりも大きいとウォータハンマ破壊の危険性が大きいとされているので、裾部の曲率半径5mmの場合はウォータハンマ破壊の危険性が高く、6mmの場合は危険性が低い。
【0008】
ところが、図5のようにして、裾部の曲率半径を大きくすると、ナーリング最下部位置の半径bが小さくなるので、転倒角度が17°から15.5°に小さくなってしまい、生産ライン上でのびんの転倒が多くなり、実用的ではないという問題がある。
【0009】
本発明は、ウォータハンマ強度を上げるために裾部の曲率半径を大きくしても、転倒角度が小さくならないようにして、比較的背の高いびんのウォータハンマ強度の向上を実現することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、びん底の外周縁に沿って複数個の放射状ナーリングが周方向に沿って並列して施されており、該ナーリングの外面最下部が載置面に対して実質的に点接触となるように曲面で構成され、該最下部が、前記ナーリングが形成されていない部分のびん底外面最下部よりも半径方向外側に位置していることを特徴とするガラスびんである。(請求項1)
【0011】
ナーリングの最下部がびん本体の最下部よりも外側にあるので、裾部の曲率半径を大きくしてびん本体最下部が内側に移動しても、ナーリングの最下部は従前のままとし、転倒角度が小さくなるのを防ぐことができる。
【0012】
ナーリングの最下部位置の半径と、びん本体の最下部位置の半径の差(図2のa−b)は、0.75〜1.5mm程度が適当である。
【0013】
本発明では、ナーリングの長手方向に沿った中央縦断面において、その外郭線の曲率半径が、外側部分よりも内側部分が大きくなるように構成することができる。(請求項2)
【0014】
ナーリングの最下部がびん本体の最下部よりも外側になるようにすると、ナーリングの最下部の位置が、ナーリングの長手方向の内側寄りに大きく寄ってしまい、衝撃により欠点(欠け、クラック)が生じやすくなる。ナーリングの外郭線の曲率半径を外側部分よりも内側部分が大きくなるようにすると、最下部の位置がナーリングの中央付近に近づき、衝撃による欠点の発生が少なくなる。
【0015】
ナーリングの長手方向はガラスびんの半径方向を向いている場合(請求項3)のみならず、半径方向に対して傾いていてもよい。(請求項4)
この場合、ナーリングの半径方向に対する傾きは、45°以内程度である。
【発明の効果】
【0016】
本発明のガラスびんは、ナーリングの外面最下部が、ナーリングが形成されていないびん本体外面最下部よりも半径方向外側に位置しているので、ウォータハンマ強度を上げるためにびん裾部の曲率半径を大きくしても、転倒角度が小さくならないようにできる。したがって、比較的背の高いびんのウォータハンマ強度の向上を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施例のガラスびん1の底面図及びその部分拡大図である。
【図2】図1におけるA−A線断面説明図である。
【図3】実施例のガラスびん1’の底面図及びその部分拡大図である。
【図4】ガラスびんの側面図である。
【図5】従来のガラスびんのナーリングの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0018】
図1に示すように、実施例のガラスびん1のナーリング11は、その長手方向がガラスびんの半径方向を向いて設けられている。なお、図1においては、上側にガラスびんの底面全体、下側にその一部を拡大して示している。
【0019】
図2は図1におけるA−A線断面(半径方向断面)説明図である。図2において、実線は、ガラスびん1の裾部付近の本体形状とナーリング形状の外郭線(半径方向断面)を示している。太い破線は、従来のガラスびん2の本体形状を示している。
従来のガラスびん2は、外径52mm、高さ約151mmの丸びんで、裾部の曲率半径R2は5mmである。びん本体(ナーリング以外の部分)の最下部A2、及びナーリング21の最下部B2(図5)は、いずれも裾部の円弧曲線の中心O2の真下に位置し、これはびんの軸心からa=20.85mm外側である。したがって、びんの接地半径は20.85mmであり、転倒角度は約17°である。
【0020】
実施例のガラスびん1は、従来のガラスびん2の裾部の曲率半径R2=5mmをR1=6mmに大きくしたものである。びん本体の最下部A1は、裾部の円弧曲線の中心O1の真下に位置し、これはびんの軸心からb=19.9mm外側である。これは、従来のびん本体の最下部A2よりも0.95mm内側に移動している。
従前の考え方によれば、このようなガラスびん1に施すナーリングは、細い破線(符号31)に示すように、その最下部B3が裾部の円弧曲線の中心O1の真下に位置するように設けられる。B3はびんの軸心からb=19.9mm外側であるから、びんの接地半径は19.9mmとなり、従来のガラスびん2に比べて接地半径が0.95mm小さくなり、倒れやすくなる(転倒角度15.5°)。
【0021】
ところが、実施例のガラスびん1のナーリング11は、その最下部(接地部)B1が、従来ガラスびん2の裾部の曲率中心O2の真下(ガラスびん1本体の最下部A1よりも半径方向外側)に設けられているので、接地半径は従来びん2と同じa=20.85mmとなり、転倒角度は約17°で倒れやすくなっていない。
【0022】
ナーリング11の外面最下部は、載置面に対して実質的に点接触となるように曲面で構成されている。
また、ナーリング11の長手方向断面の外郭線において、最下部B1を境にした内側部分の曲率半径R4は、外側部分の曲率半径R3よりも2mm大きくなっている。このため、ナーリング11の最下部B1は、ナーリングの長手方向の中央付近に位置している。
【0023】
図5は、他の実施例のガラスびん1’の底面を示し、ナーリング11’はその長手方向がガラスびんの半径方向に対して傾いて設けられている。この場合も、前記実施例の場合と同様に、ナーリング11’の外面最下部が載置面に対して実質的に点接触となるように曲面で構成され、その最下部が、ナーリングが形成されていない部分のびん本体外面最下部よりも半径方向外側に位置している。また前記実施例と同様に、ナーリング11’の長手方向に沿った中央縦断面(B−B線断面)において、その外郭線の曲率半径が外側部分よりも内側部分が大きくなっている。
【符号の説明】
【0024】
1 ガラスびん
11 ナーリング
1’ ガラスびん
11’ ナーリング
2 ガラスびん
21ナーリング
3 ガラスびん
31 ナーリング


【特許請求の範囲】
【請求項1】
びん底の外周縁に沿って複数個の放射状ナーリングが周方向に沿って並列して施されており、
該ナーリングの外面最下部が載置面に対して実質的に点接触となるように曲面で構成され、
該最下部が、前記ナーリングが形成されていない部分のびん底外面最下部よりも半径方向外側に位置していることを特徴とするガラスびん。
【請求項2】
前記ナーリングの長手方向に沿った中央縦断面において、その外郭線の曲率半径が外側部分よりも内側部分が大きくなっている請求項1に記載のガラスびん。
【請求項3】
前記ナーリングの長手方向がガラスびんの半径方向を向いている請求項1又は2に記載のガラスびん。
【請求項4】
前記ナーリングの長手方向がガラスびんの半径方向に対して傾いている請求項1又は2に記載のガラスびん。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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