説明

ガラスブランクの製造方法、磁気記録媒体基板の製造方法および磁気記録媒体の製造方法

【課題】溶融ガラスをプレス成形して、板厚偏差が小さく、高い平坦度を有する磁気記録媒体基板用のガラスブランクを安定して量産することができるガラスブランクの製造方法を提供する。
【解決手段】一対の薄板状のプレス成形型5−1,5−2間に、溶融ガラス塊4を落下させ、落下中の溶融ガラス塊4をプレス成形して薄板ガラス4−Aを作製すること、および、溶融ガラス塊4をプレスする際の圧力によりプレス成形型5−1,5−2のプレス成形面とは反対側の面を剛性体6−1,6−2に押し当て、プレス成形型5−1,5−2を弾性変形させてプレス成形面を平坦化するとともに、プレス成形型5−1,5−2のプレス成形面同士を平行にした状態で、プレス成形面の形状を溶融ガラス塊4に転写して薄板ガラス4−Aの主表面を成形すること、を特徴とするガラスブランクの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラスブランクの製造方法、磁気記録媒体基板の製造方法および磁気記録媒体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、プレス成形工程を経て磁気記録媒体用基板(磁気ディスク基板)を製造するには、特許文献1に記載されているように、プレス成形によって得た円盤状のガラスブランクの主表面をラッピング工程で研削し、基板として要求されるレベルにまで平坦度を高めるとともに板厚偏差を減少させ、さらに、ポリッシング工程により主表面を仕上げる方法(従来法1)がとられている。ポリッシング工程は主表面を平滑かつ欠陥のない面に仕上げるための工程であって、ディスク主表面の平坦度や、板厚の均一性を高めることはできない。
【0003】
磁気ディスク基板の製法には、特許文献2に記載されているように、フロート法、ダウンドロー法などによってシートガラスを成形し、このシートガラスから円盤状のガラスをくりぬき、中心穴あけ加工、内外周加工、主表面のポリッシング加工を施す方法(従来法2)がある。この方法では、一定の板厚を有するとともに、平坦度の高いシートガラスが得られるので、平坦度、板厚の均一性を高めるためのラッピング工程は不要である。
【0004】
従来法1は、ガラスの利用率などの面で従来法2より優れているものの、ラッピング工程が不可欠である。そのため、ラッピング装置が必要、工数が多くなる、加工時間が長くなる、加工コストがかさむなどの問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−54965号公報
【特許文献2】特開2003−36528号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来法1によりラッピング工程省略可能なガラスブランクを得るには、ガラスブランクの板厚偏差を小さくするとともに、平坦度を高めることが必要である。従来法1では、ガラス流出口から溶融ガラス流を下型プレス成形面上に流出し、下端部をプレス成形面で受けた状態で溶融ガラス流を切断する。溶融ガラス流から分離された溶融ガラス塊は下型と対向する上型とによりプレスされ、薄板状に成形される。
【0007】
下型の温度は、高温のガラスが融着しないよう溶融ガラスの流出温度よりも十分低く維持されている。そのため、溶融ガラスが下型上に流出してからプレス成形を開始するまでの間、ガラス塊は下型に接している面から熱を奪われ、ガラス塊の下面の粘度が局所的に上昇する。その結果、大きな粘度分布が生じたガラス塊をプレス成形することになり、プレスによって伸びにくい部分が生じる。その結果、ガラスブランクの板厚偏差が増大したり、平坦度が低下してしまう。
【0008】
こうした状況を回避するには、プレス開始直前における溶融ガラス塊内の粘度分布を均一にすればよい。そのためには、ガラス流出口から流出する溶融ガラス流を下型などガラスよりも低温の部材で保持せずに切断し、溶融ガラス流から溶融ガラス塊を分離、落下させ、落下中の溶融ガラス塊をプレス成形すればよい。
【0009】
しかし、溶融ガラスからガラスブランクを量産する場合、量産開始時には板厚偏差が小さく、平坦度も優れたガラスブランクが得られるものの、時間の経過とともに板厚偏差が増加し、平坦度も低下するという問題があった。
【0010】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであって、溶融ガラスをプレス成形して、板厚偏差が小さく、高い平坦度を有する磁気記録媒体基板用のガラスブランクを安定して量産することができるガラスブランクの製造方法を提供すること、および、前記方法で作製したガラスブランクをラッピング工程を行わずに磁気記録媒体基板に加工する磁気記録媒体基板の製造方法、ならびに、前記方法で作製した基板を用いて磁気記録媒体を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、溶融ガラスからガラスブランクを量産する場合、量産開始時には板厚偏差が小さく、平坦度も優れたガラスブランクが得られるものの、時間の経過とともに板厚偏差が増加し、平坦度も低下する原因を考察した結果、次のような知見を得た。
【0012】
(1)板厚偏差が増加し、平坦度が低下したガラスブランクの主表面は、両面とも中央部が周辺部よりも窪んでおり、周辺部と比較すると中央部が僅かに肉薄になっている。
(2)板厚偏差の増加の度合は、時間の経過とともに減少し、一定値に収斂する傾向を示す。
(3)ガラスブランクの板厚は、プレス成形時における対向するプレス成形面、すなわち、薄板状のガラスブランクの主表面を転写成形する面同士の間隔により決まるから、当初は平坦であったプレス成形面が、時間の経過とともに中央部が盛り上がり、その形状がガラスブランクの主表面に転写されて板厚偏差が増加する。プレス成形面中央部の盛り上がりの増加は、時間の経過とともに減少し、一定となる。この状態を定常状態と呼ぶことにする。
【0013】
(4)プレス成形型の温度は、溶融ガラスの融着を防ぐため、溶融ガラスの温度よりも十分低い温度であって、プレス時のガラスの伸びを阻害しない温度に設定されている。プレス成形では、最初にプレス成形面の中央部が溶融ガラス塊に触れるため、プレス成形型内の温度分布は、プレス成形面の中央部に近いほど高温になり、深さ方向にはプレス成形面に近いほど高温になる。
(5)その結果、プレス成形型のプレス成形面中心部の浅い部分の膨張量が局所的に大きくなり、プレス成形面の中央部が盛り上がったり、反ったりする。
(6)時間の経過とともに、プレス成形型に流入する熱量と流出する熱量とがバランスして、プレス成形面の変形量が一定になるので、ガラスブランクの板厚偏差も大きい状態で安定化する。
【0014】
(7)プレス成形型の構造は、プレス圧力によって変形しないよう剛性を高めるための工夫がなされている。例えば、プレス成形面に垂直な方向の厚みを大きくし、剛性を高める。しかし、上記厚みを増加させるほど、プレス成形面の熱膨張量も増加し、プレス成形面中央の盛り上がり量も大きくなり、ガラスブランクの板厚偏差が大きくなってしまう。
(8)プレス成形型のプレス成形面に垂直な方向の寸法を小さくする、すなわち、プレス成形型を薄板化すると、高温側(プレス成形面側)と低温側(プレス成形面の反対側(背面))の熱膨張量差によりプレス成形型に反りが生じる。薄板状のプレス成形型の場合、プレス成形面の変形は上記反りが支配的となる。
【0015】
(9)プレス時のプレス成形面の形状を平坦化するには、プレス時の圧力を利用してプレス成形型のプレス成形面とは反対側の背面を剛性体に押し当て、プレス成形型を弾性変形させて、プレス成形面を平坦化すればよい。ただし、プレス成形型にはガラスを介して圧力が加わるため、プレス成形面の平坦化に要する圧力が高すぎると、プレス成形面を平坦化することが困難になる。したがって、プレス成形型の弾性を、プレス初期の圧力でプレス成形面が平坦化する程度にすることが望まれる。プレス成形型にこうした弾性を付与するには、プレス成形型の薄板化は有利には働く。
(10)さらに、プレス成形型を介して高温のガラスから剛性体に熱が流入し、剛性体が熱膨張によって変形しないようにするため、プレス時の圧力が解除された時点で、プレス成形型と剛性体とを離間し、相互に断熱することが望まれる。
【0016】
本発明は、上記課題を解決するために上述した知見に基づきなされたものである。すなわち、
本発明のガラスブランクの製造方法は、ガラス流出口から流出する溶融ガラス流から一定量の溶融ガラス塊を分離し、プレス成形型を用いて薄板ガラスをプレス成形し、薄板ガラスをプレス成形型から取り出す工程を繰り返し、磁気記録媒体基板に加工するためのガラスブランクを生産するガラスブランクの製造方法において、一対の薄板状のプレス成形型を用意し、溶融ガラス流から分離した溶融ガラス塊を落下させ、落下中の溶融ガラス塊をプレス成形して薄板ガラスを作製すること、および、溶融ガラス塊をプレスする際の圧力によりプレス成形型のプレス成形面とは反対側の面を剛性体に押し当て、プレス成形型を弾性変形させてプレス成形面を平坦化するとともに、プレス成形型のプレス成形面同士を平行にした状態で、プレス成形面の形状を溶融ガラス塊に転写して薄板ガラスの主表面を成形すること、を特徴とする。
【0017】
本発明のガラスブランクの製造方法の一実施形態は、プレス成形型が、プレス成形面とは反対側の面を、平坦かつプレス成形面に対して平行に加工されたものであり、前記プレス成形面とは反対側の面を剛性体の平坦に加工した面に押し当ててプレス成形面を平坦化することが好ましい。
【0018】
本発明のガラスブランクの製造方法の他の実施形態は、ガラス流出口に垂下する溶融ガラス流を切断し、溶融ガラス塊を分離、落下させることが好ましい。
【0019】
本発明の磁気記録媒体基板の製造方法は、本発明のガラスブランクの製造方法により作製されたガラスブランクを、少なくとも研磨する工程を少なくとも経て、磁気記録媒体基板を作製することを特徴とする。
【0020】
本発明の磁気記録媒体の製造方法は、本発明の磁気記録媒体基板の製造方法により作製された前記磁気記録媒体上に、少なくとも磁気記録層を形成する磁気記録層形成工程を少なくとも経て、磁気記録媒体を作製することを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、溶融ガラスをプレス成形して、板厚偏差が小さく、高い平坦度を有する磁気記録媒体基板用のガラスブランクを安定して量産することができる。また、上記方法で作製したガラスブランクを、ラッピング工程を経ずに磁気記録媒体基板に加工することができる。さらに、上記方法で作製した基板を用いて磁気記録媒体を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】実施例において、溶融ガラス塊をプレス成形し、成形した薄板ガラスを取り出す様子を示した概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
[ガラスブランクの製造方法]
本実施形態のガラスブランクの製造方法は、ガラス流出口から流出する溶融ガラス流から一定量の溶融ガラス塊を分離し、プレス成形型を用いて薄板ガラスをプレス成形し、薄板ガラスをプレス成形型から取り出す工程を繰り返し、磁気記録媒体基板に加工するためのガラスブランクを生産するガラスブランクの製造方法において、一対の薄板状のプレス成形型を用意し、溶融ガラス流から分離した溶融ガラス塊を落下させ、落下中の溶融ガラス塊をプレス成形して薄板ガラスを作製すること、
および、溶融ガラス塊をプレスする際の圧力によりプレス成形型のプレス成形面とは反対側の面を剛性体に押し当て、プレス成形型を弾性変形させてプレス成形面を平坦化するとともに、プレス成形型のプレス成形面同士を平行にした状態で、プレス成形面の形状を溶融ガラス塊(ガラス)に転写して薄板ガラスの主表面を成形すること、を特徴とする。
【0024】
溶融ガラス流から分離した溶融ガラス塊を落下させ、落下中の溶融ガラス塊をプレス成形して薄板ガラスを作製することにより、プレス開始直前における溶融ガラス塊の粘度分布を均一化し、プレスによってガラスを均一に薄く伸ばすことができる。前述のように、プレス成形面を平坦に加工したプレス成形型を使用しても、高温のガラスを繰り返しプレスすると、プレス成形型内に大きな温度分布が生じ、プレス成形面の中央部が盛り上がることに生じる。
【0025】
プレス時にプレス成形型が変形しないようにするため、プレス成形型の剛性を高めるという従来の考え方を180°転換し、繰り返し高温のガラスをプレスすることにより膨張、変形するプレス成形型を薄板化し、プレス時の圧力によりプレス成形面とは反対側の面を剛性体に押し当て、プレス成形型を弾性変形させてプレス成形面を平坦化し、平坦化したプレス成形面の形状をガラスに転写することにした。このとき対向するプレス成形面を互いに平行にする。こうした手法をとることにより、板厚偏差が小さく、平坦度の高いガラスブランクを成形することができる。
【0026】
プレス成形時の圧力を解除すると、プレス成形型と剛性体との密着状態が解除され、プレス成形型と剛性体の間に隙間ができ、プレス成形型から剛性体へ流入する熱量が減少して、剛性体の温度が上昇を抑制することができる。剛性体の温度上昇を抑制するには、剛性体のプレス成形型と密着する面を熱伝導度の小さい材料で構成してもよい。あるいは、加圧を解除するとともにプレス成形型と剛性体を離間し、断熱するようにしてもよい。剛性体の温度上昇を防ぐため、剛性体を冷却してもよい。
【0027】
本実施形態のガラスブランクの製造方法において利用するプレス成形型は、プレス成形面とは反対側の面を、平坦かつプレス成形面に対して平行に加工したものが好ましい。以下、プレス成形型のプレス成形面側を前面、プレス成形面とは反対側を背面と呼ぶ。剛性体のプレス成形型の背面が押し当てられる面(以下、平坦化基準面という)は、予め平坦に加工しておくことが好ましい。その上で、プレス時にプレス成形型の背面の全域を平坦化基準面に押し当てて密着させ、プレス成形面を平坦化する、すなわち、平坦化基準面を平坦性の基準面とし、プレス成形型を平坦化基準面に押し当てることにより、プレス成形面が平坦になるようにプレス成形型の形状を矯正する。
【0028】
薄板化したプレス成形型の厚さ、すなわち、プレス成形面に対して垂直方向の寸法は、ガラスブランクを次々に生産するときの条件と同様の条件でガラスブランクの試作を行い、試作品の板厚偏差、平坦度を測定し、板厚偏差および平坦度が所要の範囲内になるように決めればよい。
【0029】
プレス成形型を構成する材料としては、耐熱性、加工性、耐久性を考慮すると金属または合金が好ましい。中でもプレス成形型として使用する際の耐熱温度が1000℃以上、好ましくは1100℃以上の金属または合金がより好ましい。具体的には、球状黒鉛鋳鉄(FCD)、合金工具鋼(SKD61など)、高速鋼(SKH)、超硬合金、コルモノイ、ステライトなどが好ましい。こうした型材料は、薄板化することによりガラスをプレスする際の圧力で平坦化する。例えば、直径75mmのガラスブランクを成形する場合、厚さ5mmのプレス成形型を平坦化するには440KPa程度の圧力を加えればよく、厚さ3mmのプレス成形型を平坦化するには110KPa程度の圧力を加えればよい。このようにガラスのプレス成形に適した圧力でプレス成形面が平坦になるようにプレス成形型の厚さを調整すればよい。
【0030】
ただし、プレス成形型の厚さを薄くしすぎるとプレス成形型の強度が低下するとともに、プレス成形型の温度だけでなく剛性体の温度も上昇しやすくなり、平坦化基準面が熱膨張により変形してプレス成形面の平坦化に支障をきたすおそれが生じる。前述のように、試作品の板厚偏差、平坦度を測定し、板厚偏差および平坦度が所要の範囲内になるようにプレス成形型の厚さを決めれば、剛性体の支持面の変形も回避することができる。なお、上記型材を使用する場合、プレス成形型の厚さを1mm以上にすることが好ましく、2mm以上にすることがより好ましく、2.5mm以上にすることがさらに好ましい。
【0031】
プレス成形面をガラスに転写してガラスブランクの主表面を成形するため、プレス成形面の表面粗さとガラスブランク主表面の表面粗さとはほぼ同等になる。ガラスブランク主表面の表面粗さは、後述するスクライブ加工とダイアモンドシートを用いた研削加工を行う上で、0.01〜10μmの範囲とすることが望ましいため、プレス成形面の表面粗さも0.01〜10μmの範囲とすることが好ましい。
【0032】
プレス直前の溶融ガラス塊の落下速度は、秒速数メートルに達するため、プレス成形毎にプレス開始時における溶融ガラス塊の位置がばらつくことがある。そのため、プレス成形面の大きさを成形しようとするガラスブランクの主表面よりも大きくすることにより、プレス開始時の溶融ガラス塊の位置がずれても所要形状のガラスブランクを安定して製造できるようにすることが望ましい。こうしたことから、プレス成形面を全面にわたり平坦とし、突起や凹みを設けないことが望ましい。同様の理由から、ガラスブランクの外周面を転写成形する面をプレス成形型に設けることは好ましくない。
【0033】
剛性体を構成する材料としては、耐熱性、加工性、耐久性を考慮すると金属または合金が好ましい。合金工具鋼(SKD61など)などプレス成形型材として好適な材料を剛性体にも使用することができる。剛性体の平坦化基準面はプレス成形型を介してガラスブランクの主表面に転写させるため、平坦に加工することが望ましく、その平坦度を1μm以下とすることが好ましい。
【0034】
溶融ガラス塊を薄板状に成形するには、プレス開始からガラスをプレスして薄板状に伸ばすまでの時間を0.1秒以内とすることが望ましい。プレス時の圧力は、プレス成形面の平坦化に必要な圧力以上であって、所要の板厚の薄板ガラスが得られるように調整すればよい。
【0035】
溶融ガラス塊を薄板状に成形した後、プレス圧力をプレス成形面の平坦化に必要な圧力以上に保ちつつ減少させ、プレス成形面とガラスとが密着した状態を数秒程度継続し、その後、プレス圧力をゼロにしてプレス成形型の剛性体への押し当て状態を解除し、さらに、プレス成形面に密着しているガラスブランクに外周方向から力を加えて密着状態を解除し、ガラスブランクを取り出す。ガラスブランクの取り出しは、ガラスが外力によって変形しない温度にまで冷却してから行うことが好ましい。
【0036】
ガラスブランクの板厚偏差、平坦度をより良化するには、プレスによってガラスがより均一に薄く伸びるように、プレス開始時の溶融ガラス塊の粘度分布をより一層小さくすることが望ましく、そのためには、ガラス流出口に垂下する溶融ガラス流を切断し、溶融ガラス塊を分離、落下させることが好ましい。このようにすることで、プレス開始まで溶融ガラスは断熱性の高い気体、例えば大気に囲まれるため、一部の温度が局所的に低下して粘度分布が増大することを防ぐことができる。
【0037】
なお、本実施形態のガラスブランクの製造方法においては流出する溶融ガラスの粘度を50dPa・s〜1050dPa・sの範囲とすることが好ましいが、上記のように溶融ガラス流をガラス流出口に垂下させた状態で切断し、溶融ガラス塊を分離する場合は、溶融ガラスの流出時の粘度を500dPa・s〜1050dPa・sの範囲とすることが好ましい。上記粘度が500dPa・s未満になると溶融ガラス流を空中に垂下した状態で必要量の溶融ガラス塊を分離することが難しくなる。流出時の粘度が500dPa・s未満の溶融ガラスについては、ガラス流出口下方に溶融ガラス流の下端を支持し、溶融ガラス塊を得るのに必要な量の溶融ガラスを蓄積してから溶融ガラス塊を分離し、落下させてプレス成形すればよい。
【0038】
溶融ガラス流の切断は、対向するシアブレードの先端部を突き当ててガラスを剪断する方法、あるいは、対向するシアブレードを交差させてガラスを剪断する方法などを用いればよい。
【0039】
溶融ガラス塊を分離する位置とプレスする位置の高低差、すなわち、溶融ガラス塊の落下距離が長いと、ガラスの粘度が上昇し、プレスに適した粘度範囲を逸脱するおそれがあること、溶融ガラス塊の落下速度が増加し、プレスに適した位置で溶融ガラス塊をプレスすることが難しくなる。よって、溶融ガラス塊の落下距離を1000mm以内にすることが好ましい。落下距離の好ましい範囲は500mm以内、より好ましい範囲は300mm以内、さらに好ましい範囲は200mm以内である。落下距離の下限は空中にある溶融ガラス塊(溶融ガラス流から分離されている状態)をプレスすることができ、かつ、溶融ガラス流の切断動作とプレス成形動作とが相互に妨げとならない距離の下限である。
【0040】
プレス成形型から取り出したガラスブランクはアニールにより歪を低減、除去して後工程へと送られる。
【0041】
以上の方法によれば、板厚偏差が10μm以下、平坦度が10μm以下のガラスブランクを安定して生産することができる。ガラスブランクの平坦度の好ましい範囲は8μm以下、より好ましい範囲は6μm以下、さらに好ましい範囲は4μm以下である。
【0042】
本実施形態のガラスブランクの製造方法は、板厚に対する直径の比(直径/板厚)が50〜150のガラスブランクの製造に好適である。ここで、直径とはガラスブランクの長径と短径の相加平均である。
【0043】
前述のように、プレス成形型によってガラスブランクの外周面を規制しないので、前記外周面は自由表面となるが、成形されるガラスブランクの真円度は±0.5mm以内となる。
【0044】
ガラスブランクの直径については特に制限はないが、前記直径の設定は、後述するようにガラスブランクから磁気記録媒体基板を加工する際に行うスクライブ加工や外周加工時の除去量を基板の直径に加えた値を目処に行うことが好ましい。
【0045】
ガラスブランクの板厚は0.75〜1.1mmの範囲、好ましくは0.75〜1.0mmの範囲、より好ましくは0.90〜0.92mmの範囲である。
【0046】
ガラスブランクの板厚、板厚偏差、平坦度、直径、真円度の測定は、三次元測定器、マイクロメータを用いて行えばよい。
【0047】
使用するガラスの組成は、磁気記録媒体基板に求められる性質に応じて適宜選択すればよく、例えば、アルミノシリケートガラス、ソーダライムガラス、ソーダアルミノケイ酸ガラス、アルミノボロシリケートガラス、ボロシリケートガラス、などを挙げることができる。また、これらのガラスは加熱処理により結晶化する結晶化ガラスであってもよく、加熱処理により結晶化した後に加工して基板に仕上げることもできる。
【0048】
磁気ディスク等の磁気記録媒体の基板に使用されるガラスには、化学的耐久性があり、剛性が大きく、高い熱膨張係数を有することが望まれる。さらに、抗折強度を高めることを重視する場合は、化学強化可能な組成であることが求められ、また、磁気記録媒体の製造過程で高温熱処理を行う場合は、耐熱性の高い組成であることが望まれる。
【0049】
化学的耐久性があり、剛性が大きく、高い熱膨張係数を有するガラスとして、
酸化物基準に換算し、モル%表示にて、
SiOを50〜75%、
Alを0〜15%、
LiO、NaO及びKOを合計で5〜35%、
MgO、CaO、SrO、BaO及びZnOを合計で0〜35%、及び
ZrO、TiO、La、Y、Ta、Nb及びHfOを合計で0〜15%含むガラスを例示することができる。
【0050】
なお、清澄時の泡切れを改善するため、Sn酸化物及びCe酸化物を外割り合計含有量で0.1〜3.5質量%添加することが望ましい。この場合、Sn酸化物とCe酸化物の合計含有量に対するSn酸化物の含有量の質量比(Sn酸化物の質量/(Sn酸化物の質量+Ce酸化物の質量))は0.01〜0.99である。以下、特記しない限り、ガラス成分の含有量、合計含有量はモル%にて表示するが、Sn酸化物、Ce酸化物の含有量は質量%にて表示するものとする。
【0051】
SiOは、ガラスのネットワーク形成成分であり、ガラス安定性、化学的耐久性、特に耐酸性を向上させる働きをする必須成分である。SiOの含有量が50%未満だと上記働きを十分得ることができず、75%を超えるとガラス中に未溶解物が生じたり、清澄時のガラスの粘性が高くなりすぎて泡切れが不十分になる。したがって、SiOの含有量は50〜75%であることが好ましい。
【0052】
Alもガラスのネットワーク形成に寄与し、ガラス安定性、化学的耐久性を向上させる働きをするとともに、化学強化時のイオン交換速度を増加させる働きもする。Alの含有量が15%を超えるとガラスの溶融性が低下し、未溶解物が生じやすくなる。また、熱膨張係数が低下し、ヤング率も低下する。したがって、Alの含有量は0〜15%であることが好ましい。
【0053】
LiO、NaO及びKOは、ガラスの溶融性および成形性を向上させる働きをする。また、熱膨張係数を増加させる働きもする。LiO、NaO及びKOの含有量が5%未満であると上記働きを十分得ることができず、35%を超えると化学的耐久性、特に耐酸性が低下したり、ガラスの熱的安定性が低下する。また、ガラス転移温度が低下し、耐熱性も低下する。したがって、LiO、NaO及びKOの含有量は5〜35%であることが好ましい。なお、LiO、NaO及びKOのうち、ガラス転移温度を低下させる働きが最も大きいものはLiOである。
【0054】
MgO、CaO、SrO、BaO及びZnOは、ガラスの溶融性、成形性、ヤング率を向上させる働きをする。また、熱膨張係数、ヤング率を増加させる働きもする。しかし、MgO、CaO、SrO、BaO及びZnOの合計含有量が35%を超えると化学的耐久性やガラスの熱的安定性が低下する。したがって、MgO、CaO、SrO、BaO及びZnOの合計含有量は0〜35%であることが好ましい。
【0055】
ZrO、TiO、La、Y、Ta、Nb及びHfOは、化学的耐久性、特に耐アルカリ性を改善し、ガラス転移温度を高めて耐熱性を改善し、ヤング率や破壊靭性を高める働きをする。しかし、ZrO、TiO、La、Y、Ta、Nb及びHfOの合計含有量が15%を越えるとガラスの溶融性が低下し、ガラス中にガラス原料の未溶解物が残ってしまう。したがって、ZrO、TiO、La、Y、Ta、Nb及びHfOの合計含有量は、0〜15%であることが好ましい。
【0056】
上記の組成範囲に含まれる組成範囲を以下に例示する。なお、ガラス成分の含有量、合計含有量は、特記しない限りモル%にて表示するものとする。
【0057】
第1のガラスは、化学強化の効率を重視したものであり、その組成範囲は、
SiOの含有量:60〜75%、
Alの含有量:3〜12%、
LiO、NaO及びKOの合計含有量:23〜35%、
MgO、CaO、SrO、BaO及びZnOの合計含有量:0〜5%、
ZrO、TiO、La、Y、Yb、Ta、Nb及びHfOの合計含有量:0〜7%、
である。
【0058】
第2のガラスは、化学的耐久性を重視したものであり、その組成範囲は、
SiOの含有量:60〜75%、
Alの含有量:1〜15%、
LiO、NaO及びKOの合計含有量:15〜25%、
MgO、CaO、SrO、BaO及びZnOの合計含有量:1〜6%、
ZrO、TiO、La、Y、Yb、Ta、Nb及びHfOの合計含有量:1〜9%、
である。
【0059】
第3のガラスは、高剛性を重視したものであり、その組成範囲は、
SiOの含有量:50〜70%、
Alの含有量:1〜8%、
LiO、NaO及びKOの合計含有量:12〜22%、
MgO、CaO、SrO、BaO及びZnOの合計含有量:10〜20%、
ZrO、TiO、La、Y、Yb、Ta、Nb及びHfOの合計含有量:3〜10%、
である。
【0060】
第4のガラスは、高耐熱性を重視したものであり、その組成範囲は、
SiOの含有量:50〜70%、
Alの含有量:1〜10%、
LiO、NaO及びKOの合計含有量:5〜17%
(うちLiOの含有量:0〜1%)、
MgO、CaO、SrO、BaO及びZnOの合計含有量:10〜25%、
ZrO、TiO、La、Y、Yb、Ta、Nb及びHfOの合計含有量:1〜12%、
である。
【0061】
第5のガラスは、高耐熱性、高剛性、及び高熱膨張を重視したものであり、その組成範囲は、
SiOの含有量:50〜75%、
Alの含有量:0〜5%、
LiO、NaO及びKOの合計含有量:3〜15%
(うちLiOの含有量:0〜1%)、
MgO、CaO、SrO、BaO及びZnOの合計含有量:14〜35%、
ZrO、TiO、La、Y、Yb、Ta、Nb及びHfOの合計含有量:2〜9%、
である。
【0062】
[磁気記録媒体基板の製造方法]
本実施形態の磁気記録媒体基板の製造方法は、本実施形態のガラスブランクの製造方法により作製されたガラスブランクを、少なくとも研磨する工程を少なくとも経て、磁気記録媒体基板を作製することを特徴とする。
【0063】
まず、プレス成形して得られたガラスブランクに対してスクライブが行われる。スクライブとは、成形されたガラスブランクを所定のサイズのリング形状とするために、ガラスブランクの表面に超鋼合金製あるいはダイヤモンド粒子からなるスクライバにより2つの同心円(内側同心円および外側同心円)状の切断線(線状のキズ)を設けることをいう。2つの同心円の形状にスクライブされたガラスブランクは、部分的に加熱され、ガラスの熱膨張の差異により、外側同心円の外側部分が除去される。これにより、真円形状のディスク状ガラスとなる。
【0064】
ガラスブランクの主表面の粗さが1μm以下であるため、スクライバを用いて好適に切断線を設けることができる。なお、ガラスブランクの主表面の粗さが1μmを越える場合、スクライバが表面凹凸に追従せず、切断線を一様に設けることはできないので、主表面を平滑化してからスクライブを行う。
【0065】
次に、スクライブしたガラスの形状加工が行われる。形状加工は、チャンファリング(外周端部および内周端部の面取り)を含む。チャンファリングでは、リング形状のガラスの外周端部および内周端部に、ダイヤモンド砥石により面取りが施される。
【0066】
次にディスク状ガラスの端面研磨が行われる。端面研磨では、ガラスの内周側端面及び外周側端面をブラシ研磨により鏡面仕上げを行う。このとき、酸化セリウム等の微粒子を遊離砥粒として含むスラリーが用いられる。端面研磨を行うことにより、ガラスの端面での塵等が付着した汚染、ダメージあるいはキズ等の損傷の除去を行うことにより、ナトリウムやカリウム等のコロージョンの原因となるイオン析出の発生を防止することができる。
【0067】
次に、ディスク状ガラスの主表面に第1研磨が施される。第1研磨は、主表面に残留したキズ、歪みの除去を目的とする。
【0068】
第1研磨による取り代は、例えば数μm〜10μm程度である。取り代の大きい研削工程を行わずに済むため、ガラスには、研削工程に起因するキズ、歪み等は生じない。よって、第1研磨工程における取り代は少なくて済む。
【0069】
第1研磨工程、及び後述する第2研磨工程では、両面研磨装置が用いられる。両面研磨装置は、研磨パッドを用い、ディスク状ガラスと研磨パッドとを相対的に移動させて研磨を行う装置である。
【0070】
両面研磨装置はそれぞれ所定の回転比率で回転駆動されるインターナルギア及び太陽ギアを有する研磨用キャリア装着部と、この研磨用キャリア装着部を挟んで互いに逆回転駆動される上定盤及び下定盤とを有する。上定盤および下定盤のディスク状ガラスと対向する面には、それぞれ後述する研磨パッドが貼り付けられている。インターナルギアおよび太陽ギアに噛合するように装着した研磨用キャリアは遊星歯車運動をして、太陽ギアの周囲を自転しながら公転する。
【0071】
研磨用キャリアにはそれぞれ複数のディスク状ガラスが保持されている。上定盤は上下方向に移動可能であって、ディスク状ガラスの表裏の主表面に研磨パッドを加圧する。そして研磨砥粒(研磨材)を含有するスラリー(研磨液)を供給しつつ、研磨用キャリアの遊星歯車運動と、上定盤および下定盤が互いに逆回転することにより、ディスク状ガラスと研磨パッドとは相対的に移動して、ディスク状ガラスの表裏の主表面が研磨される。
【0072】
なお、第1研磨工程では、研磨パッドとして例えば硬質樹脂ポリッシャ、研磨材としては例えば酸化セリウム砥粒、が用いられる。
【0073】
次に、第1研磨後のディスク状ガラスは化学強化される。化学強化液として、例えば硝酸カリウム(60%)と硝酸ナトリウム(40%)の混合液等を用いることができる。化学強化では、化学強化液が、例えば300℃〜400℃に加熱され、洗浄したガラスが、例えば200℃〜300℃に予熱された後、ガラスが化学強化液中に、例えば3時間〜4時間浸漬される。この浸漬の際には、ガラスの両主表面全体が化学強化されるように、複数のガラスが端面で保持されるように、ホルダに収納した状態で行うことが好ましい。
【0074】
このように、ガラスを化学強化液に浸漬することによって、ガラスの表層のリチウムイオン及びナトリウムイオンが、化学強化液中のイオン半径が相対的に大きいナトリウムイオン及びカリウムイオンにそれぞれ置換され、約50〜200μmの厚さの圧縮応力層が形成される。これにより、ガラスが強化されて良好な耐衝撃性が備わるようになる。なお、化学強化処理されたガラスは洗浄される。例えば、硫酸で洗浄された後に、純水、IPA(イソプロピルアルコール)等で洗浄される。
【0075】
次に、化学強化されて十分に洗浄されたガラスに第2研磨が施される。第2研磨による取り代は、例えば1μm程度である。
【0076】
第2研磨は、主表面を鏡面状に仕上げることを目的とする。第2研磨工程では、第1研磨工程と同様に、両面研磨装置を用いてディスク状ガラスに対する研磨が行われるが、使用する研磨液(スラリー)に含有される研磨砥粒、および研磨パッドの組成が異なる。第2研磨工程では、第1研磨工程よりも、使用する研磨砥粒の粒径を小さくし、研磨パッドの硬さを柔らかくする。例えば、第2研磨工程では、研磨パッドとして例えば軟質発砲樹脂ポリッシャ、研磨材としては例えば、第1研磨工程で用いる酸化セリウム砥粒よりも微細な酸化セリウム砥粒、が用いられる。
【0077】
第2研磨工程で研磨されたディスク状ガラスは、再度洗浄される。洗浄では、中性洗剤、純水、IPAが用いられる。
【0078】
第2研磨により、主表面の平坦度が4μm以下であり、主表面の粗さが0.2nm以下の磁気ディスク用ガラス基板が得られる。
【0079】
ガラスブランクから磁気ディスク用ガラス基板を作製する過程で板厚偏差を低減し、平坦度を高めるラッピング工程は省略されている。それにもかかわらず、基板主表面の平坦度が4μm以下と優れている理由は、ガラスブランクの板厚偏差が小さく、平坦度が優れているからである。
【0080】
この後、磁気ディスク用ガラス基板に、磁性層等の各層が成膜されて、磁気ディスクが作製される。
【0081】
なお、化学強化工程は、第1研磨工程と第2研磨工程との間に行われるが、この順番に限定されない。第1研磨工程の後に第2研磨工程が行われる限り、化学強化工程は、適宜配置することができる。例えば、第1研磨工程→第2研磨工程→化学強化工程(以下、工程順序1)の順でもよい。但し、工程順序1では、化学強化工程により生じうる表面凹凸が除去されないことになるため、第1研磨工程→化学強化工程→第2研磨工程の工程順序が、より好ましい。
【0082】
[磁気記録媒体の製造方法]
本実施形態の磁気記録媒体の製造方法は、本実施形態の磁気記録媒体基板の製造方法により作製された磁気記録媒体基板上に、磁気記録層を形成する磁気記録層形成工程を少なくとも経て、磁気記録媒体を作製することを特徴とする。
【0083】
前述の方法で作製した磁気記録媒体基板(磁気ディスク用ガラス基板)の主表面上に、磁性層等の層を成膜して、磁気記録媒体基板(磁気ディスク)を作製する。例えば、基板主表面側から、付着層、軟磁性層、非磁性下地層、垂直磁気記録層、保護層および潤滑層を順次積層する。付着層には、例えばCr合金等が用いられ、ガラス基板との接着層として機能する。軟磁性層には、例えばCoTaZr合金等が用いられ、非磁性下地層には、例えばグラニュラー非磁性層等が用いられ、垂直磁気記録層には、例えばグラニュラー磁性層等が用いられる。また、保護層には、水素カーボンからなる材料が用いられ、潤滑層には、例えばフッ素系樹脂等が用いられる。
【0084】
より具体的には、ガラス基板に対して、インライン型スパッタリング装置を用いて、ガラス基板の両主表面に、CrTiの付着層、CoTaZr/Ru/CoTaZrの軟磁性層、CoCrSiO2の非磁性グラニュラー下地層、CoCrPt−SiO2・TiO2のグラニュラー磁性層、水素化カーボン保護膜を順次成膜する。さらに、成膜された最上層にディップ法によりパーフルオロポリエーテル潤滑層を成膜して磁気記録媒体(磁気ディスク)を得る。
【実施例】
【0085】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限られるものではない。
【0086】
(実施例1)
表1に示す組成のガラスが得られるように酸化物、炭酸塩、硝酸塩、水酸化物などの原料を秤量し、十分混合して調合原料とした。この原料をガラス溶解炉内の溶融槽内に投入し、加熱、溶融し、得られた溶融ガラスを溶融槽から清澄槽へと流して清澄槽内で脱泡を行い、さらに作業槽へと流して作業槽内で攪拌、均質化し、作業槽の底部に取り付けたガラス流出管から流出した。溶融槽、清澄槽、作業槽、ガラス流出パイプはそれぞれ温度制御され、各工程においてガラスの温度、粘度が最適状態に保たれる。
【0087】
ガラス流出管より流出する溶融ガラスを鋳型に鋳込み成形した。得られたガラスを試料として、ガラス転移温度、液相温度を測定した。ガラス転移温度と液相温度の測定方法を以下に示す。
【0088】
(1)ガラス転移温度Tg
各ガラスのガラス転移温度Tgを、熱機械分析装置(TMA)を用いて測定した。
(2)液相温度
白金ルツボにガラス試料を入れ、所定温度にて2時間保持し、炉から取り出し冷却後、結晶析出の有無を顕微鏡により観察し、結晶の認められない最低温度を液相温度(L.T.)とした。
各ガラスのガラス転移温度と液相温度を表1に示す。
【0089】
【表1】

【0090】
これらのガラスを使用して順次、ガラスブランクを作製した。まず、ガラス流出管の流出口下方に流出する溶融ガラス流を切断するための一対のシアブレードと、さらにその下方にシアブレードで切断、分離され、落下する溶融ガラス塊をプレス成形するプレス成形装置を配置する。
【0091】
図1は、流出管1から流出する溶融ガラス2からプレス成形によってガラスブランク4−Aを作製する様子を水平方向から示した概略図である。流出管1の中を流下し、ガラス流出口から流出した溶融ガラス流2は一対の対向するシアブレード3によって切断され、ガラスブランク1個分に相当する溶融ガラス塊4が溶融ガラス流2から分離され、鉛直下方に自由落下する。なお、溶融ガラスの流出粘度は500〜1050dPa・sの範囲で一定となるように調整した。
【0092】
溶融ガラス塊4の落下経路が対向する一対のプレス成形型5−1、プレス成形型5−2の間を通るようにプレス成形型の位置は調整されている。
【0093】
また、溶融ガラス塊が分離してからプレスされるまでの落下距離が200mm以内となるようにプレス成形型の高さを調整した。
【0094】
プレス成形型5−1およびプレス成形型5−2は、鋳鉄(FCD)によって作製され、プレス成形面および背面の平坦度はともに1μm以下、厚さは5mmとした。
【0095】
プレス成形型5−1、プレス成形型5−2の背面には、それぞれ合金工具鋼(SKD61)製の剛性体6−1、剛性体6−2を配置する。剛性体6−1、剛性体6−2ともにプレス成形型よりも十分肉厚となっており、高い剛性を有する。
【0096】
プレス成形型5−1と剛性体6−1、プレス成形型5−2と剛性体6−2は、それぞれ図示しない部材により保持され、プレス圧力が加わっていない状態では密着状態が解除され、プレス圧力が加わった状態ではプレス成形型の背面と剛性体の平坦化基準面とが密着するようになっている。
【0097】
図1の(a)は、ガラスブランクの成形を数十回以上繰り返して定常状態になってからのプレス成形で、プレス成形型間に溶融ガラス塊4が進入する様子を模式的に示したものである。
【0098】
落下中の溶融ガラス塊4をプレスするために、対向する2つのプレス成形型を図示しない駆動装置で駆動する。この状態では、2つのプレス成形型には圧力が加わっていないので、熱膨張によって2つのプレス成形型とも僅かに反り、当初、平坦であったプレス成形面が凸面になっている。プレス成形型の背面中央部と剛性体の平坦化基準面の間には隙間がある。
【0099】
図1の(b)はプレスが開始され、溶融ガラス塊がプレス成形型のプレス成形面によって押し広げられる過程を示している。この状態でガラス、プレス成形型5−1およびプレス成形型5−2には、6.7MPa程度の圧力が加わっている。この圧力によって、プレス成形型5−1は剛性体6−1の平坦な平坦化基準面に、プレス成形型5−2は剛性体6−2の平坦な平坦化基準面に押し当てられて反りが修正され、プレス成形面が平坦化されている。
【0100】
図1の(c)は図1の(b)よりもプレスが進行して所要の板厚までガラスを押し広げた様子を示したものである。2つのプレス成形面は、目的の板厚に相当するところまで平行な状態で近づけられ、図示しないプレス成形面間隔規制部材によってストップする。この状態でもプレス成形型には圧力が加わっているので2つのプレス成形面とも平坦性が維持され、それら形状がガラスに転写されて平坦かつ互いに平行なガラスブランクの主表面が成形される。プレス開始からガラスをガラスブランクの形状に成形するまでの時間を0.1秒以内とし、次いで圧力を440KPa程度まで下げて数秒程度、両プレス成形面をガラスに密着した状態を保ち、ガラスを冷却させる。この間にもプレス成形型の背面全体が平坦化基準面に当接した状態に維持され、プレス成形面は平坦になっている。
次にプレス圧力を解除し、プレス成形型と剛性体をともに後退させ、ガラスブランクを離型し、取り出す。
【0101】
なお、上記一連の工程において、冷却媒体を用いて剛性体を冷却し、温度上昇を抑制するようにしてもよい。
【0102】
得られたガラスブランクの直径、真円度、板厚、板厚偏差、平坦度を三次元測定器、マイクロメータを用いて測定したところ、直径は75mm、真円度は±0.5mm以内、板厚は0.90mm、板厚偏差は10μm以下、平坦度は4μm以下であった。なお、上記測定結果から、直径/板厚比は83.3と求まる。
このようにして得られた試作品の形状、寸法が所要の範囲内のものであったので、上記工程を繰り返し、各種ガラスからなる円盤状のガラスブランクを量産し、量産品を何枚かサンプリングし、直径、真円度、板厚、板厚偏差、平坦度を測定した結果、試作品を同様の測定結果が得られた。
【0103】
次に、プレス成形型の厚さを5mmから3mmに減少させ、同様にして試作品を作製した。プレス成形型の厚さを2mm薄くしたことにより、プレス成形面の平坦性を維持するための圧力を110KPa程度にまで低減することができる。プレス成形面で挟んだ状態でガラスを冷却する際、高い圧力を加え過ぎるとガラスが破損することがある。プレス成形面の平坦性を維持するための圧力を低減することにより、こうした冷却過程におけるガラスの破損のリスクを軽減することができる。ガラスブランクはアニールされ歪が低減、除去される。
【0104】
(実施例2)
実施例1において作製したガラスブランクを用い、磁気ディスク基板の外周となる部分と中心孔になる部分にスクライブ加工を施した。こうした加工で、外側および外側に2つの同心円状の溝を形成する。次いで、スクライブ加工した部分を部分的に加熱して、ガラスの熱膨張の差異により、スクライブ加工した溝に沿ってクラックを発生させ、外側同心円の外側部分と内側部分とが除去される。これにより、真円形状のディスク状ガラスとなる。
【0105】
次に、ディスク状ガラスをチャンファリングなどにより形状加工を施し、さらに端面研磨を行った。
【0106】
次に、ディスク状ガラスの主表面に第1研磨を施した後、ガラスを化学強化液に浸漬して化学強化する。
【0107】
化学強化後、十分に洗浄したガラスに対し、第2研磨を施した。第2研磨工程後、ディスク状ガラスを再度洗浄して磁気ディスク用ガラス基板を作製した。基板の外径は65mm、中心孔径は20mm、厚さは0.8mmで、主表面の平坦度が4μm以下、主表面の粗さが0.2nm以下であり、ラッピング工程なしに所望形状の磁気記録媒体基板を得ることができた。
【0108】
(実施例3)
実施例2において作製した磁気記録媒体基板(磁気ディスク用ガラス基板)の両主表面上に、インライン型スパッタリング装置を用いて、順に、CrTiの付着層、CoTaZr/Ru/CoTaZrの軟磁性層、CoCrSiO2の非磁性グラニュラー下地層、CoCrPt−SiO2・TiO2のグラニュラー磁性層、水素化カーボン保護膜を成膜し、最上層にディップ法によりパーフルオロポリエーテル潤滑層を成膜して磁気記録媒体(磁気ディスク)を得た。
【0109】
このようにして得た磁気ディスクをハードディスクドライブに組み込み、動作確認をしたところ所期の性能を得ることができた。
【符号の説明】
【0110】
1 ガラス流出口
2 溶融ガラス流
3 シアブレード
4 溶融ガラス塊
4−A ガラスブランク
5−1、5−2 プレス成形型
6−1、6−2 剛性体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス流出口から流出する溶融ガラス流から一定量の溶融ガラス塊を分離し、プレス成形型を用いて薄板ガラスをプレス成形し、上記薄板ガラスを上記プレス成形型から取り出す工程を繰り返し、磁気記録媒体基板に加工するためのガラスブランクを生産するガラスブランクの製造方法において、
一対の薄板状の上記プレス成形型を用意し、上記溶融ガラス流から分離した上記溶融ガラス塊を落下させ、落下中の上記溶融ガラス塊をプレス成形して上記薄板ガラスを作製すること、
および、上記溶融ガラス塊をプレスする際の圧力により上記プレス成形型のプレス成形面とは反対側の面を剛性体に押し当て、上記プレス成形型を弾性変形させて上記プレス成形面を平坦化するとともに、上記プレス成形型の上記プレス成形面同士を平行にした状態で、上記プレス成形面の形状を上記溶融ガラス塊に転写して上記薄板ガラスの主表面を成形すること、
を特徴とするガラスブランクの製造方法。
【請求項2】
前記プレス成形型が、前記プレス成形面とは反対側の面を、平坦かつ前記プレス成形面に対して平行に加工されたものであり、
前記プレス成形面とは反対側の面を前記剛性体の平坦に加工した面に押し当てて前記プレス成形面を平坦化することを特徴とする請求項1に記載のガラスブランクの製造方法。
【請求項3】
前記ガラス流出口に垂下する前記溶融ガラス流を切断し、前記溶融ガラス塊を分離、落下させることを特徴とする請求項1または2に記載のガラスブランクの製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のガラスブランクの製造方法により作製されたガラスブランクを、少なくとも研磨する工程を少なくとも経て、磁気記録媒体基板を作製することを特徴とする磁気記録媒体基板の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の磁気記録媒体基板の製造方法により作製された前記磁気記録媒体上に、少なくとも磁気記録層を形成する磁気記録層形成工程を少なくとも経て、磁気記録媒体を作製することを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−213549(P2011−213549A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−83703(P2010−83703)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】